説明

表面処理装置及び表面処理方法

【課題】 オーバーフロー式表面処理装置におけるオーバーフロー高さのバラツキを低減し、長時間の運転においてもバラツキ増大の問題を発生させない表面処理装置を提供する。
【解決手段】 内槽3内の下方から上方へ向かって電解液を流通させ、上端3aから電解液をオーバーフローさせる表面処理装置において、内槽3に電解液を供給する電解液供給路10の上端で内槽3の底壁3bに接続し、電解液供給路10の上部10aを、上端から下端に向かうに従って、水平面方向の開口部断面積が徐々に減少する中空の角錐台状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象物を電解液に浸漬して電解することにより、処理対象物の表面を電解酸化処理する表面処理装置及び表面処理方法に関する。特に、処理対象物としては、炭素繊維が適する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を炭素繊維で補強する炭素繊維複合材料は、引張強度・引張弾性率が高く、耐熱性、疲労特性に優れるなどの特長を有しており、スポーツ・レジャー、航空・宇宙等の分野で幅広く用いられている。
【0003】
炭素繊維は、アクリル繊維等の原料繊維を空気中で200〜300℃に加熱することにより耐炎繊維とした後、これを不活性ガス雰囲気中1000℃以上で焼成することにより製造される。
【0004】
炭素繊維複合材料の強度・弾性率等の機械的特性は、炭素繊維とマトリックス樹脂との親和性や接着性により大きな影響を受ける。そのため、耐炎化工程、炭素化工程を経た後、マトリックス樹脂との親和性を高めることを目的として炭素繊維の表面に含酸素官能基を導入する酸化処理が一般に行われる。
【0005】
炭素繊維表面の酸化処理としては、液相における薬液酸化・電解酸化、気相酸化などの方法が知られている。これら表面処理のうち、生産性が高く、処理が均一に行える等の理由により、液相における電解酸化処理が広く採用されている。液相における電解酸化処理は、電解質水溶液中で二つの電極間に電圧を印加することにより、電解質水溶液中を走行する炭素繊維を電解酸化する処理方法である。
【0006】
炭素繊維は、その製造工程において1,000〜80,000本程度のストランド状にして製造される。炭素繊維の表面処理を行う電解槽としては、従来様々な構造のものが開発されている。例えば、電解槽から電解液をオーバーフローさせ、液面が電解槽の側壁の上端を乗り越えているオーバーフロー部に炭素繊維を通過させて電解することにより、表面処理を行うオーバーフロー型の電解槽が従来用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
この電解槽においては、炭素繊維を電解液に浸漬したり、電解液から炭素繊維を引き上げたりするためのガイドローラーを使用する必要がない。そのため、炭素繊維に毛羽を生じにくく、品位の高い製品が得られる利点を有している。
【0008】
本発明者は、多数の炭素繊維ストランド間で炭素繊維表面が均一に酸化処理される装置について検討を行った結果、電解槽内に電解液流入口からの距離に応じて開口率を変化させた多孔板を整流板として水平に挿入することにより、ストランドに供給される電解液の流量がストランド間で一定となり、ストランド間の表面処理状態のバラツキが抑制されることを見出し、先に特許出願を行った(特許文献2)。
【0009】
この装置は、内槽内部に多孔板を設置しているため、内槽の機幅方向における全ての測定点でオーバーフローのバラツキはかなり抑制された。しかし、まだ不充分であった。また、この装置では、長時間連続運転を行う際に、多孔板の孔に析出物が詰まることにより、オーバーフローのバラツキが大きくなるという新たな問題が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭58−115123号公報 (図1)
【特許文献2】特開2008−248411号公報 (特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、オーバーフロー式表面処理装置におけるオーバーフロー高さのバラツキを低減し、長時間の運転においてもバラツキ増大の問題を発生させない表面処理装置及び表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため検討を重ねているうちに、処理対象物、特に炭素繊維を表面処理する装置において、電解液をオーバーフローさせる内槽の底壁に、その上端で接続し、内槽に電解液を供給する電解液供給路の上部を、上端から下端に向かうに従って、水平面方向の開口部断面積が徐々に減少する中空の角錐台状に形成することにより、低コストで上記課題を解決出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
上記課題を解決する本発明は以下に記載するものである。
【0014】
〔1〕 その内部に電極を備えると共に内槽内の下方から上方へ向かって電解液を流通させて上端から電解液をオーバーフローさせる複数の内槽と、前記各内槽の底壁に連結され内槽内に電解液を供給する、各内槽に対して1以上の電解液供給路とを有する表面処理装置用内槽であって、前記電解液供給路が、上部供給路と下部供給路とからなり、上部供給路は、上端から下端に向かうに従って、水平面方向の開口部断面積が徐々に減少する中空の角錐台状に形成され、下部供給路は、水平面方向の開口部断面積が一定に保たれた管状に形成されてなる表面処理装置用内槽。
【0015】
〔2〕 その内部に電極を備えると共に内槽内の下方から上方へ向かって電解液を流通させて上端から電解液をオーバーフローさせる複数の内槽と、所定間隔離間して水平方向に直列に配列された複数の前記内槽を内部に備えると共に各内槽からオーバーフローする電解液を受け入れる外槽と、前記各内槽の底壁に連結され内槽内に電解液を供給する、各内槽に対して1以上の電解液供給路とを有する表面処理装置であって、前記電解液供給路が、上部供給路と下部供給路とからなり、上部供給路は、上端から下端に向かうに従って、水平面方向の開口部断面積が徐々に減少する中空の角錐台状に形成され、下部供給路は、水平面方向の開口部断面積が一定に保たれた管状に形成されてなる表面処理装置。
【0016】
上記〔2〕に記載の発明は、以下の〔3〕〜〔11〕に記載する発明も含む。
【0017】
〔3〕 内槽機幅方向に沿った個々の上部供給路における上端開口部の長さの合計値Lt3が、内槽機幅L1の75〜100%である〔2〕に記載の表面処理装置。
【0018】
〔4〕 内槽機幅方向に沿った個々の上部供給路における下端開口部の長さの合計値Lt5が、内槽機幅L1の1〜10%である〔2〕に記載の表面処理装置。
【0019】
〔5〕 上部供給路の高さHanが、内槽の高さH3の10〜25倍である〔2〕に記載の表面処理装置。
【0020】
〔6〕 下部供給路における開口部の内径Dnが、内槽機幅方向の直角方向に沿った内槽の長さL2の25〜100%である〔2〕に記載の表面処理装置。
【0021】
〔7〕 上部供給路における内槽機幅方向の向かい合った斜面同士がなす角度αnが、15〜150°である〔2〕に記載の表面処理装置。
【0022】
〔8〕 内槽機幅方向に沿った個々の上部供給路における上端開口部の長さの合計値Lt3と内槽機幅方向に沿った個々の上部供給路における下端開口部の長さの合計値Lt5との比Lt3/Lt5が10〜20、内槽機幅方向に沿った個々の上部供給路における上端開口部の長さの合計値Lt3と上部供給路の高さHanとの比Lt3/Hanが0.5〜5、且つ、内槽機幅方向に沿った個々の上部供給路における下端開口部の長さの合計値Lt5と下部供給路における開口部の内径Dnとの比Lt5/Dnが1〜1.5である〔2〕に記載の表面処理装置。
【0023】
〔9〕 外槽内に配設する内槽の数が2〜12、且つ内槽の合計容量が0.003〜0.5m3である〔2〕に記載の表面処理装置。
【0024】
〔10〕 外槽内の電解液を受け入れて貯留する電解液貯留タンクと、電解液貯留タンク内の電解液を各電解液供給路を経由して各内槽内に送出するポンプと、各下部供給路に介装された流量調整用の調整バルブとを有する〔2〕に記載の表面処理装置。
【0025】
〔11〕 〔2〕に記載の表面処理装置を用いる表面処理方法であって、電解液流量が0.2〜10m3/minである表面処理方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の表面処理装置は、電解液供給路が、上部供給路と下部供給路とからなり、上部供給路は、上端から下端に向かうに従って、水平面に沿った開口部断面積が徐々に減少する中空の角錐台状に形成されているので複雑な装置形状を有せず、比較的低コストであり、且つ、内槽内の下方から上方へ向かって電解液を流通させるに際し、機幅方向でオーバーフロー高さのバラツキが抑制される。また、長時間の運転によるオーバーフロー高さのバラツキ増大といった問題も解決され、多数の対象物を同時に均一に表面処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の表面処理装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の表面処理装置で使用する電解槽の内槽及びその周辺の一例を示す概略平面図である。
【図3】図2に示す電解槽の内槽及びその周辺の概略側面断面図である。
【図4】図2に示す電解槽の内槽及びその周辺の概略正面断面図である。
【図5】本発明の表面処理装置で使用する電解槽の他の例を示す概略正面断面図である。
【図6】本発明の表面処理装置で使用する電解槽の更に他の例を示す概略正面断面図である。
【図7】本発明の表面処理装置で使用する電解槽の更に他の例を示す概略正面断面図である。
【図8】本発明の表面処理装置で使用する電解槽の更に他の例を示す概略正面断面図である。
【図9】本発明の表面処理装置で使用する電解槽の更に他の例を示す概略正面断面図である。
【図10】実施例及び比較例における効果確認のためのオーバーフロー高さ測定位置を示す平面説明図である。
【図11】従来の表面処理装置で使用する電解槽の一例を示す概略正面断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明で使用する表面処理装置の一例の概略構成図を図1に示す。
【0029】
図1中、100は表面処理装置で、1は電解槽である。電解槽1は複数の箱形の内槽3と、前記内槽をその内部に収納する箱形の外槽13とからなる。
【0030】
内槽3及びその周辺の平面図を図2に、側面断面図を図3に、正面断面図を図4に示す。
【0031】
図3、4において、角筒状に形成された内槽3の上端3aは開放され、下端は下壁3bにより閉塞されている。下壁3bには、中心部に流入口9が形成されている。流入口9には、外槽13の底壁13bを貫通して外槽13内に挿入された電解液供給路10の一端が連結されている。
【0032】
この電解液供給路10は、上部(上部供給路)10aと下部(下部供給路)10bとからなり、上部供給路10aの下端と下部供給路10bの上端とにおいて接続されている。上部供給路10aは、上端から下端に向かうに従って、水平面方向の開口部断面積が徐々に減少する中空の角錐台状(いわゆる拡がり管)に形成されている。下部供給路10bは、水平面方向の開口部断面積が上端から下端まで一定に保たれた管状(いわゆる筒状管)に形成されている。即ち、電解液供給路10は、上部供給路10aと下部供給路10bとで、いわゆる漏斗形状に形成されている。
【0033】
各下部供給路10bには、バルブ27が介装されている。各バルブ27の開度を調節することにより、各電解液供給路10に供給される電解液の流量は調整される。
【0034】
内槽3内には、その下部側にL字状の平板状で形成された電極5が下壁3bに沿って挿入されている。電極5は、図4に示すように一端側が内槽3の側壁3cに沿って折り曲げられ、電解槽1の外部で不図示の保持部材により支持されると共に、外部電源に接続されている。
【0035】
図2〜4中、矢印Xは炭素繊維ストランド11の走行方向を、矢印Y(即ち、矢印Xの直角方向)は装置の機幅方向を示す。電極5のX方向の長さと、Y方向の長さは、それぞれ内槽3の内長L2、内幅L1より短く形成されている。電極5のX方向の長さは内槽3の内長L2の20〜90%であり、Y方向の長さは内槽3の内幅L1の60〜100%である。
【0036】
図1に示すように、外槽13内には、多数の内槽3が、炭素繊維ストランド11の走行方向Xに沿って直列に連設されている。隣り合う内槽3の中央間距離は、内槽の内長L2に対し115〜250%程度である。多数の内槽3内に備えられた電極5には、隣り合う内槽間で交互に陽極と陰極として作用するよう電圧が印加されている。
【0037】
内槽3は、その上端3aが外槽の上端13aと同じ高さ又は外槽の上端13aより高くなるように配設されている。外槽13の下壁13bには、排出口15が形成されている。
【0038】
図1中、17は電解液貯留タンク、19はポンプである。排出口15と電解液貯留タンク17の間は排出樋21により接続され、電解液貯留タンク17とポンプ19との間は配管23により接続されている。
【0039】
ポンプ19の送出口には、配管25が接続されている。配管25と各内槽3の下壁3bとの間は、配管25から分岐された上記各電解液供給路10により接続されている。
【0040】
電解液貯留タンク17に貯留される硫酸等の電解液は、ポンプ19により電解液供給路10を通過して流入口9から内槽3内に導入される。電解液供給路10を通過することにより電解液は均一な流れとなり、内槽3内を下方から上方へ流通する。内槽3の上端で内槽3からオーバーフローした電解液は、外槽13に受け入れられる。その後、外槽13に形成された排出口15から排出樋21に流出し、再び電解液貯留タンク17に貯留される。
【0041】
外槽13内に配設する内槽3の数は、2〜12であることが好ましい。これら内槽3の合計容量は0.003〜0.5m3であることが好ましい。
【0042】
この表面処理装置を用いる表面処理方法では、電解液流量は0.2〜10m3/minとすることが好ましい。
【0043】
図2〜4の例の場合、内槽機幅方向(Y方向)に沿った上部供給路10aの上端開口部の長さ[流入口9の機幅方向(Y方向)に沿った口径]L3は、内槽機幅L1の75〜100%であることが好ましい。
【0044】
内槽機幅方向(Y方向)に沿った上部供給路10aにおける下端開口部の長さL5は、内槽機幅L1の1〜10%であることが好ましい。
【0045】
上部供給路10aの高さHaは、内槽3の高さH3の10〜25倍であることが好ましい。
【0046】
下部供給路10bにおける開口部の内径Dは、内槽機幅L1の内槽機幅方向の直角方向(X方向)に沿った内槽の長さL2の25〜100%であることが好ましい。
【0047】
上部供給路10aにおける内槽機幅方向(Y方向)の向かい合った斜面同士がなす角度αは、15〜150°であることが好ましい。
【0048】
内槽機幅方向(Y方向)に沿った上部供給路10aの上端開口部の長さと、内槽機幅方向(Y方向)に沿った上部供給路10aにおける下端開口部の長さとの比L3/L5は、10〜20であることが好ましい。内槽機幅方向(Y方向)に沿った上部供給路10aの上端開口部の長さと、上部供給路10aの高さとの比L3/Haは、0.5〜5であることが好ましい。更には、内槽機幅方向(Y方向)に沿った上部供給路10aにおける下端開口部の長さと、下部供給路10bにおける開口部の内径との比L5/Dは、1〜1.5であることが好ましい。
【0049】
電解液供給路10は、図2〜4の例のように、各内槽3に対して1供給路を接続されたものであっても良く、図5に示す電解槽61の例のように、各内槽3に対して内槽機幅方向に沿って水平方向に直列に2供給路以上配列されたものであっても良い。
【0050】
各内槽3に対して2供給路以上の電解液供給路が配列される場合(以下、図5の例を、この場合の一例として記述する)、内槽機幅方向(Y方向)に沿った個々の上部供給路101a、102a、・・・、10na、・・・における上端開口部の長さ[流入口91の機幅方向の直角方向(X方向)に沿った口径]L31、[流入口92の機幅方向の直角方向(X方向)に沿った口径]L32、・・・、[流入口9nの機幅方向の直角方向(X方向)に沿った口径]L3n、・・・の合計値Lt3は、内槽機幅L1の75〜100%であることが好ましい。
【0051】
内槽機幅方向(Y方向)に沿った個々の上部供給路101a、102a、・・・、10na、・・・における下端開口部の長さL51、L52、・・・、L5n、・・・の合計値Lt5は、内槽機幅L1の1〜10%であることが好ましい。
【0052】
上部供給路101a、102a、・・・、10na、・・・の高さHa1、Ha2、・・・、Han、・・・は、内槽3の高さH3の10〜25倍であることが好ましい。
【0053】
下部供給路101b、102b、・・・、10nb、・・・における開口部の内径D1、D2、・・・、Dn、・・・は、内槽機幅L1の内槽機幅方向の直角方向(X方向)に沿った内槽の長さL2の25〜100%であることが好ましい。
【0054】
上部供給路101a、102a、・・・、10na、・・・における内槽機幅方向(Y方向)の向かい合った斜面同士がなす角度α1、α2、・・・、αn、・・・は、15〜150°であることが好ましい。
【0055】
内槽機幅方向(Y方向)に沿った個々の上部供給路101a、102a、・・・、10na、・・・における上端開口部の長さL31、L32、・・・、L3n、・・・の合計値Lt3と、内槽機幅方向(Y方向)に沿った個々の上部供給路101a、102a、・・・、10na、・・・における下端開口部の長さL51、L52、・・・、L5n、・・・の合計値Lt5との比Lt3/Lt5は、10〜20であることが好ましい。
【0056】
内槽機幅方向(Y方向)に沿った個々の上部供給路101a、102a、・・・、10na、・・・における上端開口部の長さL31、L32、・・・、L3n、・・・の合計値Lt3と、上部供給路101a、102a、・・・、10na、・・・の高さHa1、Ha2、・・・、Han、・・・との比Lt3/Hanは、0.5〜5であることが好ましい。
【0057】
更には、内槽機幅方向(Y方向)に沿った個々の上部供給路101a、102a、・・・、10na、・・・における下端開口部の長さL51、L52、・・・、L5n、・・・の合計値Lt5と、下部供給路101b、102b、・・・、10nb、・・・における開口部の内径D1、D2、・・・、Dn、・・・との比Lt5/Dnは、1〜1.5であることが好ましい。
【0058】
図1の例の表面処理装置100によれば、上記のように、内槽機幅方向(Y方向)に沿った電解液供給路の上端開口部の長さが長い電解液供給路10を設置してなるので、内槽3内に多孔板を設置しない場合でも、オーバーフロー高さを均一化することができる。
【0059】
図1中、内槽3の上部を通過する11は処理対象物の炭素繊維ストランドを示す。
【0060】
図1に示すように、内槽3は炭素繊維ストランド11に沿って直列に連設されている。
【0061】
炭素繊維ストランド11は、内槽3上方で内槽から外槽13へオーバーフローする電解液中を通過することにより電解液に浸漬される。炭素繊維は導電性が高いので、隣り合う内槽3の間で交互に陽極又は陰極として作用する電極5に電圧を印可することにより電解液中で炭素繊維の表面が電解酸化される。これにより、カルボキシル基、カルボニル基等の含酸素官能基が炭素繊維表面に導入される。炭素繊維ストランド11は、電解槽1上を通過することにより、内槽から外槽にオーバーフローする電解液に繰り返し浸漬され、表面が繰り返し電解酸化処理される。炭素繊維ストランド11は、電解槽通過終了と共に電解酸化処理が終了し、水洗、サイズ剤付与、乾燥等の後工程に送られる。その後、ワインダーに巻き取られて最終製品となる。
【0062】
本発明は、処理対象物を電解液に浸漬して電解することにより、処理対象物の表面を電解酸化処理する表面処理装置であり、処理対象物としては特に炭素繊維が適する。
【0063】
本発明の処理装置を用いて炭素繊維を処理する場合、電解液のオーバーフロー高さは3.5〜4.5mmにすることが好ましく、4.0〜4.5mmにすることがより好ましい。
【0064】
炭素繊維の電解酸化処理に用いる電解液としては、硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機水酸化物、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩類などの電解質水溶液を挙げることができる。
【0065】
本発明で電解酸化処理する炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維以外に、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系など、何れの炭素繊維も使用することができる。
【0066】
炭素繊維11は、通常、直径4〜12μmのフィラメントが1000〜80000本程度集合したストランド形状(炭素繊維ストランド)に製造される。本発明の処理装置では、上記繊維径、フィラメント数に限定されず、いかなる繊維径、フィラメント数のものでも処理することが可能である。
【0067】
炭素繊維ストランド11に通電する電気量は、電解液に使用する電解質の種類や炭素繊維ストランド11の弾性率等の条件に応じて適宜決定すればよい。例えば、電解液に硫酸アンモニウム水溶液を用いて弾性率235GPaの炭素繊維の電解酸化処理を行う場合には、炭素繊維に通電する電気量を3〜40C/gとすることが好ましく、4〜30C/gとすることがより好ましい。
【0068】
炭素繊維ストランド11の電解酸化処理温度は10〜80℃の範囲とするが、20〜60℃とすることが好ましい。
【0069】
炭素繊維ストランド11の表面処理を行う際の指標としては、X線光電子分光法(ESCA)を用いて測定できる炭素繊維の表面酸素濃度比(O/C)により管理するのが良い。炭素繊維を熱硬化性樹脂に配合して複合材料とする場合には、O/Cが、0.05〜0.4となるように電解酸化処理することが好ましい。
【0070】
尚、図6に示す電解槽62の例のように、内槽3内に整流板として多孔板7a、7bを設置する場合は、オーバーフロー高さをより均一化することができる。
【0071】
また、図1に示す電解槽1の例においては、電解液供給路10を外槽13の底壁13bを貫通して外槽13内に挿入したが、これに限られず、外槽13の上部開口を通して配管25を外槽13内に導き、この配管と、電解液供給路とを連結しても良い。
【0072】
更に、図1に示す電解槽1の例においては、外槽13の底壁13bの高さ位置を、下部供給路10bの位置にしたが、図7に示す電解槽63の例のように、外槽16の底壁16bの高さ位置を、上部供給路10aの位置にしても良く、図8に示す電解槽64の例のように、外槽18の底壁18bの高さ位置を、内槽3の下壁3bの高さ位置にしても良く、図9に示す電解槽65の例のように、外槽20の底壁20bの高さ位置を、内槽3の側壁3cの高さ位置にしても良い。
【実施例】
【0073】
実施例1
図2〜4に示す構造を備えた表面処理装置を用いた。この表面処理装置において、内槽3の数は4槽であり、循環ポンプ19及び循環タンク17は各1台である。各内槽は何れも、寸法が機幅方向2400mm×奥行50mm×高さ50mm(以下、寸法は内寸で示す)、容量が0.006m3である。電解液供給路10は各内槽に対して1本である。
【0074】
電解液供給路10は、上部供給路10aと下部供給路10bとからなり、上部供給路10aの下端と下部10bの上端とにおいて接続され、いわゆる漏斗形状に形成されている。
【0075】
上部供給路10aは、上端から下端に向かうに従って、水平面方向の開口部断面積が徐々に減少する中空の角錐台状に形成され、上端開口部が機幅方向2000mm×奥行40mmの長方形、下端開口部が機幅方向50mm×奥行40mmの長方形、高さが750mmである。
【0076】
下部10bは、開口部が上端から下端まで直径40mmの円形の管状に形成されている。
【0077】
この表面処理装置を用いて、電解液として10容量%硝酸水溶液を用い、循環ポンプの流量を0.6m3/minとして、炭素繊維ストランドの表面処理を施した。
【0078】
実施例2
図5に示す構造を備えた表面処理装置を用いた。この表面処理装置において、電解液供給路101、102は各内槽に対して2本である。これら2本の電解液供給路101、102の上部101a、102bは何れも、上端開口部が機幅方向1000mm×奥行40mmの長方形、下端開口部が機幅方向50mm×奥行40mmの長方形、高さが750mmである。以上の条件以外は実施例1と同一の条件において炭素繊維ストランドの表面処理を施した。
【0079】
実施例3
図6に示す構造を備えた表面処理装置を用いた。各内槽が何れも、電極5の上方に水平に取付けられた表1に示す2枚の多孔板7a、7bを整流板として有する構造であること以外は、実施例2と同一の条件において炭素繊維ストランドの表面処理を施した。
【0080】
【表1】

【0081】
以上の実施例1〜3において、処理中に4槽の内槽それぞれのオーバーフロー部(下流側)各5点(測定位置は図10に示すように、内槽両端を各200mm空けて、測定点間隔:500mm)、計20点においてオーバーフロー高さを測定した。その結果を表2に示す(測定値の単位は全てmm)。
【0082】
【表2】

【0083】
比較例1
図11に示す構造を備えた表面処理装置を用いた。この表面処理装置において、電解液供給路109における開口部が上端から下端まで直径40mmの円形の管状に形成されていること以外は、実施例1と同一の条件において炭素繊維ストランドの表面処理を施した。
【0084】
比較例1において、実施例1〜3と同様にオーバーフロー高さを測定した。その結果を表3に示す(測定値の単位は全てmm)。
【0085】
【表3】

【0086】
以上の実施例1〜3及び比較例1における測定結果より、本発明により表面処理装置のオーバーフロー高さのバラツキ抑制に大きな効果が認められた。また、実施例3の結果に示すように、本発明の電解液供給路を接続した内槽内部に多孔板を設置することにより、更に大きな効果が確認された。
【0087】
なお、実施例3の装置は、240時間連続運転を行ったところ、多孔板の孔に析出物が詰まることにより、オーバーフローのバラツキが大きくなった。これに対し、実施例1及び2の装置は、240時間連続運転を行っても、オーバーフローのバラツキは小さいままであった。
【符号の説明】
【0088】
1、61、62、63、64、65、66 電解槽
3 内槽
3a 内槽の上端
3b 内槽の下壁
3c 内槽の側壁
5 電極
7a、7b 整流板
9、91、92、99 流入口
10、101、102、109 電解液供給路
10a、101a、102a 上部供給路
10b、101b、102b 下部供給路
11 炭素繊維ストランド
13、14、16、18、20、22 外槽
13a、14a、16a、18a、20a、22a 外槽の上端
13b、14b、16b、18b、20b、22b 外槽の下壁
15 外槽の排出口
17 電解液貯留タンク
19 ポンプ
21 排出樋
23、25 配管
27 バルブ
100 表面処理装置
D、D1、D2 下部供給路における開口部の内径
3 内槽の高さ
3a、H3b 整流板の内槽底面からの距離
a、Ha1、Ha2 上部供給路の高さ
1 内槽の内幅
2 内槽の内長
3、L31、L32 内槽機幅方向に沿った上部供給路の上端開口部の長さ
4 内槽機幅方向の直角方向に沿った上部供給路の上端開口部の長さ
5、L51、L52 内槽機幅方向に沿った上部供給路における下端開口部の長さ
X 炭素繊維ストランドの走行方向
Y 表面処理装置の機幅方向
α、α1、α2 上部供給路における内槽機幅方向の向かい合った斜面同士がなす角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部に電極を備えると共に内槽内の下方から上方へ向かって電解液を流通させて上端から電解液をオーバーフローさせる複数の内槽と、前記各内槽の底壁に連結され内槽内に電解液を供給する、各内槽に対して1以上の電解液供給路とを有する表面処理装置用内槽であって、前記電解液供給路が、上部供給路と下部供給路とからなり、上部供給路は、上端から下端に向かうに従って、水平面方向の開口部断面積が徐々に減少する中空の角錐台状に形成され、下部供給路は、水平面方向の開口部断面積が一定に保たれた管状に形成されてなる表面処理装置用内槽。
【請求項2】
その内部に電極を備えると共に内槽内の下方から上方へ向かって電解液を流通させて上端から電解液をオーバーフローさせる複数の内槽と、所定間隔離間して水平方向に直列に配列された複数の前記内槽を内部に備えると共に各内槽からオーバーフローする電解液を受け入れる外槽と、前記各内槽の底壁に連結され内槽内に電解液を供給する、各内槽に対して1以上の電解液供給路とを有する表面処理装置であって、前記電解液供給路が、上部供給路と下部供給路とからなり、上部供給路は、上端から下端に向かうに従って、水平面方向の開口部断面積が徐々に減少する中空の角錐台状に形成され、下部供給路は、水平面方向の開口部断面積が一定に保たれた管状に形成されてなる表面処理装置。
【請求項3】
内槽機幅方向に沿った個々の上部供給路における上端開口部の長さの合計値Lt3が、内槽機幅L1の75〜100%である請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
内槽機幅方向に沿った個々の上部供給路における下端開口部の長さの合計値Lt5が、内槽機幅L1の1〜10%である請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項5】
上部供給路の高さHanが、内槽の高さH3の10〜25倍である請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項6】
下部供給路における開口部の内径Dnが、内槽機幅方向の直角方向に沿った内槽の長さL2の25〜100%である請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項7】
上部供給路における内槽機幅方向の向かい合った斜面同士がなす角度αnが、15〜150°である請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項8】
内槽機幅方向に沿った個々の上部供給路における上端開口部の長さの合計値Lt3と内槽機幅方向に沿った個々の上部供給路における下端開口部の長さの合計値Lt5との比Lt3/Lt5が10〜20、内槽機幅方向に沿った個々の上部供給路における上端開口部の長さの合計値Lt3と上部供給路の高さHanとの比Lt3/Hanが0.5〜5、且つ、内槽機幅方向に沿った個々の上部供給路における下端開口部の長さの合計値Lt5と下部供給路における開口部の内径Dnとの比Lt5/Dnが1〜1.5である請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項9】
外槽内に配設する内槽の数が2〜12、且つ内槽の合計容量が0.003〜0.5m3である請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項10】
外槽内の電解液を受け入れて貯留する電解液貯留タンクと、電解液貯留タンク内の電解液を各電解液供給路を経由して各内槽内に送出するポンプと、各下部供給路に介装された流量調整用の調整バルブとを有する請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項11】
請求項2に記載の表面処理装置を用いる表面処理方法であって、電解液流量が0.2〜10m3/minである表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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