説明

表面構造改質ポリイミドフィルム

【課題】 接着性を改善したポリイミドフィルムであり、常温、常圧、一定の湿度下で長期保存した後のみならず、高温多湿、高圧の過酷な環境下でも接着性の維持が可能なポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】 芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリイミドを主成分とするフィルムがイオンビーム処理されて表面構造が改質されたフィルムであって、該フィルムの表面積率が1.2以上、2.8以下であることを特徴とする表面構造改質ポリイミドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムに関し、詳しくは、接着剤に対する接着性が改善され、フレキシブルプリント配線板などの用途に好適な表面改質されたポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、機械的特性などが優れているが、接着剤を介しても金属に対する密着性が乏しいという問題があった。この問題を解決する手段として、種々のポリイミドフィルムの表面改質による接着性の改良が提案されている。例えば、密着性を改良するために、ポリイミドフィルムをアルカリ処理に供することで表面改質することが提案されている(特許文献1)。アルカリによる表面処理では、薬品に浸漬させるために、工程が複雑になることや、フィルムの強度が低下するなどという問題点がある。
【0003】
また、物理的にポリイミドフィルム表面を粗くするサンドブラスト処理が知られているが、この方法では、投錨効果などにより接着力が向上するが、ポリイミドフィルムの透明性が損なわれ、透明性が損なわれると、例えばCOF用のFPC基板においてICをボンディングする際の検査時に視認性が悪くなり問題となる。また、表面粗度が大きすぎると微細配線化には不利となるため、適度の表面粗さを与えたFPC配線基板用ポリイミドフィルムが提案されている(特許文献2参照)。これによりある程度の接着力向上は見られているが、十分な接着力は得られていない。
また、コスト面、環境保全面などの点からプラズマ処理が広く検討されており(例えば、特許文献3、4参照)、さらに、反応性ガスを吹き込みながらエネルギーを有するイオン粒子を表面に照射し、表面の接触角を低下させ、接着力を制御する方法(特許文献5参照)が知られているが、このような表面処理を施しても未だ十分な接着性を得るまでには至っていない。
【0004】
【特許文献1】特開平 07−003055号公報
【特許文献2】特開2002−057414号公報
【特許文献3】特開平 05−222219号公報
【特許文献4】特開平 08−143688号公報
【特許文献5】特表平 11−501696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものであり、本発明の目的は、接着剤に対する接着性を改善したポリイミドフィルムを提供することにあり、常温、常圧、一定の湿度のもと長期保存した後も、接着性が高く維持するだけでなく、高温、高圧、高湿度環境保存後も、同様に高い接着性を維持することができるポリイミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】

イオンビームをポリイミドフィルムに照射すると、特定の表面構造のポリイミドフィルムが得られ、その接着性が優れたものであることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は以下の構成になる。1. 芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリイミドを主成分とするフィルムがイオンビーム処理されて表面構造が改質されたポリイミドフィルムであって、該フィルムの表面積率が1.2以上、2.8以下であることを特徴とする表面構造改質ポリイミドフィルム。
2. イオンビーム処理に用いるガスが、酸素と窒素との混合ガスである前記1に記載の表面構造改質ポリイミドフィルム。
3. ポリイミドフィルムが、引張弾性率が4GPa以上10GPa以下、厚さが7μm以下1μm以上である前記1又は2に記載の表面構造改質ポリイミドフィルム。
4. イオンビーム処理が、イオンガンを備えたロールツウロールフィルム処理装置においてなされ、処理して得られたフィルムが幅250mm以上2m以下、長さ10m以上1000m以下である前記1〜3のいずれかに記載の表面構造改質ポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明の表面構造改質ポリイミドフィルムは、その特異な表面構造から表面処理後のみならず、常温、常圧、一定湿度のもと長期保存した後も、更にはPCT処理(121℃、2気圧)の96時間後のような高温高圧高湿度環境保存後も、高い接着性を維持することができ、接着剤を介して金属層との密着性が高いので、信頼性の高いプリント配線板(PWB)、FPC、TABテープ等の電子部品へ好適に用いることができる。しかも、ポリイミドフィルムは、表面改質未処理のポリイミドフィルムと同様のフィルム強伸度を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明におけるポリイミドフィルムは、芳香族テトラカルボン酸類(ここで類とは、無水物、酸、およびアミド結合性誘導体を総称していう)と芳香族ジアミン類(ここで類とは、アミン、およびアミド結合性誘導体を総称していう)とを反応させて得られるポリアミド酸溶液を流延、乾燥、熱処理(イミド化)してフィルムとなす方法で得られるポリイミドフィルムである。これらの溶液に用いられる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
本発明におけるポリイミドフィルムの製造方法は、特にポリイミド前駆体であるポリアミド酸のN−メチル−2−ピロリドン溶液、N,N−ジメチルアセトアミド溶液を使用する流延製膜方法による場合に最も好ましく適用し得る。
本発明におけるポリイミドフィルムは、特に限定されるものではないが、下記の芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸(無水物)類との組み合わせが好ましい例として挙げられる。
A.ジアミノジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミン類とピロメリット酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
B.フェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類とビフェニルテトラカルボン酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
C.上記のABの一種以上の組み合わせ。
【0009】
本発明におけるジアミノジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミン類としては、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)、3,3′−ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4′−ジアミノジフェニルエーテルおよびそれらの誘導体が挙げられ、本発明におけるフェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミンおよびそれらの誘導体が挙げられ、本発明におけるベンザオキサゾ−ル骨格を有するジアミンとしては、下記具体例で示すジアミンが挙げられるが、これらのジアミンは全ジアミンの70モル%以上より好ましくは80モル%以上使用することが好ましい。
また、上記以外の芳香族ジアミン類としては、下記の芳香族ジアミン類が本発明において全アミンの30モル%未満、より好ましくは20モル%未満であれば使用できる。
【0010】
4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン。
【0011】
3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン。
【0012】
4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス、[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル。
【0013】
4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン。
【0014】
1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリル、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類および上記芳香族ジアミン類の芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシ基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシ基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシ基で置換された芳香族ジアミン類等が挙げられる。該芳香族ジアミン類は、単独であっても二種以上を用いることも可能である。
【0015】
本発明において用いられる芳香族テトラカルボン酸類は、好ましくは芳香族テトラカルボン酸無水物類であり、下記化1およびまたは化2は、全酸成分の70モル%以上使用することが好ましく、80モル%以上使用することがさらに好ましい。これら以外に使用できるものは、具体的には、以下のものが挙げられるが、これらは全酸成分の30モル%未満、より好ましくは20モル%未満で使用する。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

これらの芳香族テトラカルボン酸無水物類は単独でも二種以上を用いることも可能である。
【0022】
本発明においては、全テトラカルボンの30モル%未満より好ましくは10モル%未満であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種または二種以上を併用しても構わない。用いられる非芳香族テトラカルボン酸二無水物類としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等である。これらの非芳香族テトラカルボン酸二無水物類は単独でも二種以上を用いることも可能である。
【0023】
ポリアミド酸を得るための反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌および/又は混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割するなどして、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の重量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10〜2000Pa・sであり、より好ましくは100〜1000Pa・sである。本発明におけるポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)は、特に限定するものではないが1.5以上が好ましく、2.0以上がさらに好ましく、なおさらに2.5以上が好ましい。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸の溶液を製造するのに有効である。さらに、以下述べるポリアミド酸の溶液を支持体上に流延・塗布するに際して予め減圧などの処理によって該溶液中の気泡や溶存気体を除去しておくことも、本発明のポリイミドフィルムを得るために有効な処理である。
【0024】
ポリアミド酸溶液を流延(塗布)する支持体は、ポリアミド酸溶液をフィルム状に成形するに足る程度の平滑性、剛性を有していればよく、表面が金属、プラスチック、ガラス、磁器などであるドラム又はベルト状回転体などが挙げられる。また、適度な剛性と高い平滑性を有するポリイミドフィルムを利用する方法も好ましい態様である。中でも、支持体の表面は好ましくは金属であり、より好ましくは錆びなくて耐腐食に優れるステンレスである。支持体の表面にはCr、Ni、Snなどの金属メッキを施してもよい。支持体表面は必要に応じて鏡面にしたり、あるいは梨地状に加工することができる。また支持体の差によって乾燥における風量や温度は適宜選択採用すればよく、支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、スキージコーティング、リバースコーティング、ダイコーティング、アプリケータコーティング、ワイヤーバーコーティング等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0025】
イミド化工程として、閉環(イミド化)触媒や脱水剤を含まないポリアミド酸溶液を用いて、熱処理に供することでイミド化反応を進行させる方法(所謂、熱閉環法)やポリアミド酸溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒および脱水剤の作用によってイミド化反応を行わせる、化学閉環法を挙げることができる。
熱閉環法の熱処理温度は、150〜500℃が好ましく、熱処理温度がこの範囲より低いと充分に閉環されづらくなり、またこの範囲より高いと劣化が進行し、フィルムが脆くなりやすくなる。より好ましい態様としては、150〜250℃で3〜20分間処理した後に350〜500℃で3〜20分間熱処理するところの初期段階熱処理と後段階熱処理とを有する2段階熱処理工程が挙げられる。
閉環触媒をポリアミド酸溶液に加えるタイミングは特に限定はなく、ポリアミド酸を得るための重合反応を行う前に予め加えておいてもよい。閉環触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどといった脂肪族第3級アミンや、イソキノリン、ピリジン、ベータピコリンなどといった複素環式第3級アミンなどが挙げられ、中でも、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも一種のアミンが好ましい。ポリアミド酸1モルに対する閉環触媒の使用量は特に限定はないが、好ましくは0.5〜8モルである。
脱水剤をポリアミド酸溶液に加えるタイミングも特に限定はなく、ポリアミド酸を得るための重合反応を行う前に予め加えておいてもよい。脱水剤の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などといった脂肪族カルボン酸無水物や、無水安息香酸などといった芳香族カルボン酸無水物などが挙げられ、中でも、無水酢酸、無水安息香酸あるいはそれらの混合物が好ましい。また、ポリアミド酸1モルに対する脱水剤の使用量は特に限定はないが、好ましくは0.1〜4モルである。脱水剤を用いる場合には、アセチルアセトンなどといったゲル化遅延剤を併用してもよい。熱閉環反応であっても、化学閉環法であっても、支持体に形成されたポリイミドフィルムの前駆体(グリーンシート、フィルム)を完全にイミド化する前に支持体から剥離してもよいし、イミド化後に剥離してもよい。
【0026】
本発明におけるポリイミドフィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、100μm以上では真空装置内での単位長さあたりのロール体積が大きく、処理効率が悪くなる。50μm以下では、この点問題はすくないが、その効果の発現の顕著さにおいて7μm以下が好ましい。7μm以下のフィルムは、取り扱い上皺の発生や、フィルム破断が起こり易く、困難があったが、例えば、ポリイミドフィルムの裏に粘着剤付きのPETフィルムを貼り付け補強した状態で取り扱うことで、この困難は克服できる。ただし、1μm以下のフィルムはこのような方策をもってしても取り扱いが難しい為、1μm以上、より容易に取り扱える厚さとして3μm以上が望ましい。
従来7μm以下、特に5μm以下のポリイミドフィルムの長尺フィルムを工業的に安定的に製造することが困難であり、また得られたこれらの極薄ポリイミドフィルムはその厚さ斑が極端に大きく、例えば市販の7.5μmのポリイミドフィルムの厚さ斑は25%程度のものであり、寸法精度の要求される電子部品などにおいては品質上問題があった、この点は本発明とは別の手法によって解決された極薄ポリイミドフィルムに、本発明の手法により、接着性を向上させることにより、様々の分野で、極薄ポリイミドフィルムが使用可能となる。
【0027】
本発明におけるポリイミドフィルムにおいて、これらの厚さ斑が20%以下である7μm以下1μm以上の厚さであるポリイミドフィルムを得る方法は、特に限定されるものではないが、好ましい方法として、(1)芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリアミド酸を流延・乾燥し前駆体フィルム(ポリアミド酸フィルム)を得て、該前駆体フィルムを、フィルムの幅方向の両側端部におけるフィルム端部把持が、多数のクリップで挟み込むことやピンシートに設けられた多数のピンで突き刺すことによってなされ、幅方向およびまたは搬送方向に張設した状態でフィルムを搬送するテンター方式でイミド化させる厚さが7μm以下のポリイミドフィルムを得るポリイミドフィルムの製造方法で、前駆体フィルムの幅方向の両側端部におけるフィルム把持が、イミド化される前駆体(ポリアミド酸)フィルムと細幅のポリイミドフィルムに接着剤層を設けた易接着性ポリイミドフィルムとを重ねて把持およびまたは突き刺すことで固定するポリイミドフィルムの製造方法、(2)前記の細幅のポリイミドフィルムが、芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリアミド酸を流延・乾燥して得られる前駆体フィルムのスリットした所謂前駆体フィルム(グリーンフィルム)である前記(1)の方法が挙げられる。
【0028】
ここで、別に用意された細幅のフィルムは、前駆体フィルムの場合も接着剤層を設けた易接着性ポリイミドフィルムの場合も特に限定されるものではないが、処理される前駆体フィルムと同ジアミンと同テトラカルボン酸からのものが好ましく、製造されるポリイミドフィルムとは別に、同じポリアミド酸溶液を流延・乾燥して別の前駆体フィルムを作成し予め細幅にスリットし用意した細幅ポリイミド前駆体フィルムであるか前駆体フィルムをイミド化させたポリイミドフィルムが好ましく、これらをそのままスリットするか、接着剤層を設けた易接着性ポリイミドフィルムとして後スリットして作製することができる。 その細幅フィルムの幅は20〜80mmが好ましい。またこの別に用意された細幅のフィルムの厚さは、特に限定されないが好ましくは処理される(ポリイミドフィルムとして製造される)前駆体フィルムと同程度の厚さが好ましく、5〜13μmであり、5μm未満の場合には重ね合わせの補強効果が低減しがちとなり、また13μmを超える場合には重ね合わせの補強効果が、ポリイミドフィルムとして製造されるべき前駆体フィルムにおよび難くなりがちとなる。
【0029】
また、ポリアミド酸溶液を支持体上に流延する際に真円度の高いバックアップロールを用いることで、塗工時の厚み斑を低減させ、特にMD方向の厚み斑を低減さすことができる、バックアップロールの真円度は下記するロールの偏心量をもって表すものであり、その偏心量(μm)は3以下が好ましく、特に2以下が好ましい。
前記ピン部分補強によるフィルムへの厚み斑低減効果は、TD方向の厚み斑抑制に効果が有る。
これらの方式においてはコーターのバックアップロールの偏心量を3(μm)以下好ましくは2(μm)以下に制御する方法が好ましい。バックアップロールの偏心量の測定は、バックアップロールの端面に、ダイヤルゲージを当接し、ゲージの変位量をバックアップロールの左端面、右端面、中心部を測定した値である。より詳しく述べれば、ダイヤルゲージは静電容量式ダイヤルゲージ(尾崎製作所社製、商品名PEACOCK、型式DG−205、測定範囲25mm、最小表示量0.001mm、精度0.003mm)を使用する。
ダイヤルゲージはマグネットチャックにてロールフレームに固定する。偏芯量測定は円周方向に8分割した箇所を、それぞれ繰り返し6回、測定する。測定時の環境は、温度、湿度が安定し、振動の無い環境で実施する。ロール駆動速度は、1m/分で実施する。
測定はフィルム無し、有りの両方で実施する。フィルム有りの場合、フィルムテンションは100N程度で実施する。
【0030】
バックアップロールの偏心量の制御は、偏心量の大きい場合はバックアップロールのメッキ剥がし、切削加工、研磨加工、の工程を少なくとも経て偏心量の制御を実施する、また偏心量の小さい場合はバックアップロール研磨加工を実施して偏心量の制御を実施する。
バックアップロールの材質は、機械構造用炭素鋼(STKM、S45C)が良い。
バックアップロールの表面処理は、硬質クロムメッキが良い。ロールの直径は、φ200〜400mm程度が望ましい。軸受は寸法精度及び回転精度がJISB1514に規定される精度等級の4級以上の軸受を使用することが好ましい。
このポリイミドフィルムの厚さはポリアミド酸溶液を支持体に塗布する際の塗布量や、ポリアミド酸溶液の濃度によって容易に制御し得る。
【0031】
本発明において7μm以下のポリイミドフィルムをロールツウロールでイオンビーム処理などを行う場合は、ポリイミドフィルムにポリエステルフィルムなどの剛性のあるフィルムを耐熱性粘着剤などを介して裏打ちして使用し、処理後にこの裏打ちフィルムを剥離除去する方法を採用することが好ましい。
【0032】
本発明においては、表面構造改質処理後の表面積率が1.2以上、2.8以下であることが必須である。本発明における表面積率とは、表面が理想平面に対し、何倍の表面積を持つかを示すものであり、表面物性評価機能付走査型プローブ顕微鏡によって好適に求めることができる。具体的には、例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のSPA300/SPI3800Nを使用することができる。
【0033】
かかる表面積率の範囲において、はじめてPCT処理(121℃、2気圧、飽和水蒸気圧)を96時間した後の接着性を示す剥離強度が4(N/cm)以上を維持するものとなる。この表面積率の範囲はより好ましくは1.3以上、2.6以下、さらに好ましくは1.5以上、2.5以下であり、表面積率が1.2に満たない場合はPCT処理(121℃、2気圧、飽和水蒸気圧)を96時間した後の接着性を示す剥離強度が4(N/cm)に満たないものとなり、表面積率が2.8を超える場合はPCT処理(121℃、2気圧)を96時間した後の接着性を示す剥離強度が4(N/cm)以上であっても処理後フィルムの強度が実用に耐えるものとならない。また表面構造改質処理後の表面積率が1.2以上、2.8以下であって、かつRaが1.2〜3.0(nm)であることが好ましく、その機構は明白ではないが、PCT処理(121℃、2気圧、飽和水蒸気圧)を96時間した後の接着性を示す剥離強度が十分実用に供することができないものとなる。
【0034】
本発明における接着剤とは、ガラス転移点温度(Tg)が100℃以上の接着剤をいう。Tgの高い接着剤では、高温高湿環境での接着力維持が一般に難しい。このような接着剤でも、本発明での表面改質では、高温高湿環境に晒した後でも接着力が維持される。特に、エポキシ及びエポキシ硬化剤を成分として含む接着剤でも、本発明での表面改質では、高温高湿環境に晒した後でも接着力が維持される。
【0035】
本発明において、イオンビームを照射するためのイオンガンとして、カウフマン型、クローズドドリフトイオンソース、などが利用でき、イオン源として、DC放電、RF放電やマイクロ波放電などを利用する事が出来る。特にロール処理においては、リニアイオンソースを用いる事が望ましい。
【0036】
イオンガンに使用されるガスとしては、イオン粒子を生成し得るものならいかなるガスでも使用することができるが、電子、水素、ヘリウム、酸素、窒素、空気、フッ素、ネオン、アルゴン、クリプトンまたはN2Oおよびこれらの混合化合物の中から適宜選択される。
ポリイミドフィルムに照射するイオンビームにおいて、イオン化粒子の種類、イオン粒子のエネルギー、イオン粒子の照射量などは、ポリイミドフィルム表面構造を前記の範囲に改質することができれば特に限定されない。通常、イオンガンの放電電圧、放電電流、放電電力、ビームガス流量、イオンガン室の圧力、フィルム送り速度などを適宜選択して、イオン粒子のエネルギーを、10-2〜100keV程度、照射量は1012〜1016ions/cm2程度に調節することが好ましい。
【0037】
本発明のイオンビーム照射されたポリイミドフィルムは、使用できる装置サイズにも依存するが、幅250mm以上2m以下、長さ10m以上1000m以下のロールにすることが望ましい。
更に望ましくは、幅250mm以上1m以下である。長さは、更に望ましくは30m以上300m以下である。幅の狭いものは、処理後のスリットでも作成でき、生産性から、ある程度の幅のものが望ましく。面内均一性、安定性を得るため、2m以下が望ましい。また、生産効率から10m以上が望ましく、長さ方向の安定性と、均一性、装置の構造を考えると1000m以下が望ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0039】
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドン(又は、N,N−ジメチルアセトアミド)に溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。
2.ポリイミドフィルムの厚さ
測定対象のポリイミドフィルムについて、マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定した。
3.表面積率、表面粗さ(Ra)測定法
表面形態の計測は表面物性評価機能付走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPA300/SPI3800N)を使用した。計測はDFMモードで行い、カンチレバーはエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製DF3又はDF20を使用した。スキャナーはFS−20Aを使用し、走査範囲は2mm四方、測定分解能は512×512ピクセルとした。計測像については二次傾き補正を行った後、装置付属のソフトウエアで表面積率、表面粗さ(Ra)を算出した。
4.引張弾性率測定法
測定対象の基材フィルムを、長手方向(MD方向)にそれぞれ100mm×10mmの短冊状に切り出したものを試験片とした。引張試験機(島津製作所社製、オートグラフ(R) 機種名AG−5000A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmの条件で、MD方向、TD方向それぞれについて、引張弾性率を測定した。
【0040】
5.剥離強度測定法
得られた、各ポリイミドフィルムの処理面同士を向かい合わせて接着した後に、PCT処理(121℃、2気圧)を96時間した後の接着強度を評価した。接着は、京セラケミカル社製TFA880−CAを用い、100℃にてロールラミ後に160℃にてプレス1時間で硬化させた。試料の剥離強度は下記条件でT字剥離試験を行うことで求めた。
装置名 ; 島津製作所社製 オートグラフAG−IS
測定温度 ; 室温
剥離速度 ; 50mm/min
雰囲気 ; 大気
測定サンプル幅 ; 1cm
【0041】
<重合例1>
テトラカルボン酸二無水物として3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物398質量部、パラフェニレンジアミン147質量部を4600質量部のN、N−ジメチルアセトアミドに溶解し、温度を20℃以下に保ちながら撹拌反応させてポリアミド酸溶液(A)を得た。得られた溶液のηsp/Cは3.0dl/gであった。
【0042】
<重合例2>
ピロメリット酸無水物545質量部、4,4'ジアミノジフェニルエーテル500質量部を8000質量部のN、N−ジメチルアセトアミドに溶解し、温度を20℃以下に保ちながら同様に反応させてポリアミド酸溶液(B)を得た。得られた溶液のηsp/Cは2.2でdl/gあった。
【0043】
<フィルム作成例1>
ポリアミド酸溶液(A)をステンレスベルトにスキージ/ベルト間のギャップを250μmとしてコーティングし、第一乾燥工程として3つの熱風式乾燥ゾーン(各ゾーンそれぞれ90℃×7分間)で乾燥した。乾燥後に自己支持性となった前駆体フィルムをステンレスベルトから剥離しポリイミド前駆体フィルムを得た。
この剥離した前駆体フィルムを、熱風式乾燥ゾーンにて雰囲気温度150℃で10分間、両面乾燥を行った。 またポリイミド前駆体フィルムの残留溶媒量は35.5質量%であった。
得られたポリイミド前駆体フィルムを、連続式の乾燥炉に通し、200℃にて3分間熱処理した後、450℃まで、約20秒間にて昇温し、450℃にて7分間熱処理し、5分間かけて室温まで冷却、褐色のポリイミドフィルム(A)を得た。フィルムの引張弾性率は7.4GPaであった。同様に、膜厚のみを変えて、褐色のポリイミドフィルム(A2)を得た。フィルムの引張弾性率は7.6GPaであった。なお、フィルムの厚さは、それぞれ、7.0μm、5.0μmであった。
【0044】
<フィルム作成例2>
ポリアミド酸溶液(B)を使う以外はフィルム作成例1と同様にして、褐色のポリイミドフィルム(B)を得た。フィルムの引張弾性率は4.4GPaであった。なお、フィルムの厚さは、それぞれ、7.0μmであった。
【0045】
<実施例1>(イオンビーム処理)
真空槽中でロール走行させながら、イオンガンにて酸素イオン照射を行い、ポリイミドフィルムの表面を処理した。イオンビーム処理装置はロールツウロール方式の装置であり、巻き出し室、イオンガン室、予備室、巻き取り室へとロールからフィルムが移動されながら、順次、表面処理が施され、その後に、ロールに巻き取られる。
各室の間は、スリットによって概略仕切られている。イオンガン室ではフィルムはチルロールに接しており、チルロールの温度(−5℃)によって冷やされ、ロール幅方向に均一な、イオン照射が出来るよう幅の広いイオンガンを用いた。イオンガンはAdvanced Energy Industries社の38CMLISを用いた。イオンガンに導入するガスとして酸素を用い、放電電圧520V、放電電流0.6A、放電電力300W、ビームガス流量45sccm、圧力3×10−1Paでフィルムから4cmの位置からイオンビームを照射した。フィルム(A)の250mm幅のものを用い、ロール送り速度は0.05m/minとした。酸素はイオンガン以外からの導入はしなかった。
イオンビーム処理後の表面構造改質ポリイミドフィルムの評価結果を表1にまとめた。
【0046】
<実施例2>(イオンビーム処理)
フィルムA2を使用し、イオンガンに導入するガスを、O(80Vol%)−N(20Vol%)に変えた以外は実施例1と同じで、表面処理を実施した。評価結果を表1にまとめた。
【0047】
<実施例3>(イオンビーム処理)
フィルムをポリイミドフィルム(B)と変えた以外は実施例2と同じで、表面処理を実施した。評価結果を表1にまとめた。
【0048】
<比較例1>
イオンビーム処理を行わないポリイミドフィルム(A)を用い評価を行い、評価結果を表2にまとめた。
【0049】
<比較例2>(イオンビーム処理、低パワー)
単位面積に加わるエネルギーを下げるため、フィルム送り速度を0.2m/minとした以外は実施例1と同じで、表面処理を実施した。評価結果を表2にまとめた。
【0050】
<比較例3>(プラズマ処理)
ポリイミドフィルム(A)の250mm幅のものを、酸素のグロー放電でポリイミドフィルムの表面を処理した。処理時の条件はOガス圧2×10−3Torr、流量50sccm、放電周波数13.56MHz、出力450W、処理時間は、フィルム送り速度0.1m/minで有効プラズマ照射幅が10cm程度のため、1箇所のプラズマ照射時間が1分間となる。評価結果を表2にまとめた。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の表面構造改質ポリイミドフィルムは、PCT処理後の接着性(剥離強度)を実用的な値に維持することができるため、フレキシブルプリント配線板などの電子部品における高温多湿の過酷な環境下でも使用可能となり、しかもその表面構造改質処理方法が非常に容易であることからも、産業界に大きく寄与することが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリイミドを主成分とするフィルムがイオンビーム処理されて表面構造が改質されたポリイミドフィルムであって、該フィルムの表面積率が1.2以上、2.8以下であることを特徴とする表面構造改質ポリイミドフィルム。
【請求項2】
イオンビーム処理に用いるガスが、酸素と窒素との混合ガスである請求項1記載の表面構造改質ポリイミドフィルム。
【請求項3】
ポリイミドフィルムが、引張弾性率が4GPa以上10GPa以下、厚さが7μm以下1μm以上である請求項1又は2に記載の表面構造改質ポリイミドフィルム。
【請求項4】
イオンビーム処理が、イオンガンを備えたロールツウロールフィルム処理装置においてなされ、処理して得られたフィルムが幅250mm以上2m以下、長さ10m以上1000m以下である請求項1〜3いずれかに記載の表面構造改質ポリイミドフィルム。

【公開番号】特開2009−167331(P2009−167331A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8779(P2008−8779)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】