説明

被検物質の測定方法

【課題】 固相担体に固定化した標識被検物質に及ぼす影響をできるだけ少なくして、バックグラウンドを重点的に下げることで、標識被検物質に由来するシグナル量、シグナル割合を高めることができる被検物質の測定方法を提供する。
【解決手段】 溶液中でシグナル発生用物質と被検物質とを反応させる工程;150mM〜2.5Mの緩衝剤の存在下で、反応工程で得られた反応産物を含む溶液と固相担体とを接触させて、前記反応産物を前記固相担体に固定化する工程;及び前記固相担体に固定化された反応産物中のシグナル発生用物質に由来するシグナルを検出する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光物質等のシグナル発生用物質を用いて被検物質を測定する方法において、バックグラウンドを低減した測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光物質や標識用酵素等を用いて、タンパク質や核酸等を測定する方法として、ドットブロットやスロットブロット等の固相担体を用いるものが知られている。これらは、固相担体に蛍光物質等が結合した被検物質(標識被検物質)を固定化し、固定化された標識被検物質からのシグナルを用いて、被検物質を測定している。
【0003】
例えば、特許文献1には、生体試料中のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の活性を、固相担体を用いて測定する方法が記載されている。具体的には、CDKを含む試料に、CDKの基質及びアデノシン5’−O−(3−チオトリホスフェート)(ATPγS)を添加し、CDKのキナーゼ反応によって、チオリン酸基が導入された基質を得る。次に、チオリン酸基が導入された基質(リン酸化基質)を蛍光物質で標識し、標識化されたリン酸化基質(標識リン酸化基質)を調製する。この調製した標識リン酸化基質を固相担体に固定化する。固定化後、固相担体に励起光を照射して、固相担体に固定化された標識リン酸化基質の蛍光量を測定する。そして、得られた測定結果からCDKの活性を算出するという方法である。
【0004】
ここで、標識リン酸化基質を調製する工程において、リン酸化基質と蛍光物質との反応液中には、過剰に添加された蛍光物質のうち、リン酸化された基質と結合しなかった蛍光物質(未反応の蛍光物質)が残存している。従って、標識リン酸化基質を固相担体に固定化する際に、未反応の蛍光物質も固相担体に非特異的に吸着されてしまう。固相担体に吸着された未反応の蛍光物質は、標識リン酸化基質中の蛍光物質と同様に、励起光により蛍光を発するため、バックグラウンドとして検出されることになる。
【0005】
バックグラウンドを低減する検出方法としては、通常、TBS−T溶液等の界面活性剤を含有する洗浄液を用いて、固相担体を洗浄する方法が挙げられる。また、近年、界面活性剤を含有する洗浄液を用いることなく、バックグラウンドを低減する検出方法として、固相担体に被検物質を固定化した後に、固相担体にさらにブロッキング剤を固定化する方法が提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−335997
【特許文献2】特開2007−121261
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、固相担体に固定化した標識被検物質に及ぼす影響をできるだけ少なくして、バックグラウンドを重点的に下げることで、標識被検物質に由来するシグナル量、シグナル割合を高めることができる被検物質の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、シグナル発生用物質が結合した被検物質(標識被検物質)の固相担体への固定化工程について、種々の検討を行なった結果、標識被検物質を、高濃度の緩衝剤存在下で、固相担体に固定化することにより、バックグラウンドが低減することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の被検物質の測定方法は、溶液中でシグナル発生用物質と被検物質とを反応させる工程;150mM〜2.5Mの緩衝剤の存在下で、反応工程で得られた反応産物を含む溶液と固相担体とを接触させて、前記反応産物を前記固相担体に固定化する工程;及び前記固相担体に固定化された反応産物中のシグナル発生用物質に由来するシグナルを検出する工程を含む。
【0009】
前記緩衝剤は、トリス−塩酸緩衝剤、グッド緩衝剤、イミダゾール−酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、フタル酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、酢酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、及び炭酸緩衝剤からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、有機化合物含有緩衝剤であることがより好ましい。
【0010】
前記シグナル発生用物質は蛍光物質であることが好ましく、具体的には、フルオレセインイソチオシアネート、フルオレセイン、オレゴングリーン、クマリン、エオシン、フェナントロリン、ピレン、及びローダミンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
前記固相担体の材質は、ポリビニリデンフロライド、ニトロセルロース、セルロースアセテート、及びナイロンからなる群より選択されることが好ましい。
【0012】
本発明の被検物質の測定方法は、固定化工程の後、前記固相担体に、ブロッキング剤を固定する工程をさらに含んでもよい。また、前記被検物質は、酵素反応によって生成した産物であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の被検物質の測定方法は、シグナル発生用物質により標識化された被検物質(反応産物)だけでなく、被検物質に結合しなかった未反応のシグナル発生用物質も含む反応溶液を、高濃度緩衝剤の存在下で固相担体に接触させることにより、反応産物の固定化の際に、未反応のシグナル発生用物質が固相担体に非特異吸着することを防止できるので、バックグラウンドシグナルを低減することができ、ひいては被検物質の測定感度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の被検物質の測定方法は、溶液中でシグナル発生用物質と被検物質とを反応させる工程;150mM〜2.5Mの緩衝剤の存在下で、反応工程で得られた反応産物を含む溶液と固相担体とを接触させて、前記反応産物を前記固相担体に固定化する工程;及び前記固相担体に固定化された反応産物中のシグナル発生用物質に由来するシグナルを検出する工程を含む。
【0015】
被検物質としては、シグナル発生用物質が結合でき、固相担体に固定化されるものであれば、特に限定されない。例えば、タンパク質、核酸、ホルモン、毒物などが挙げられ、これらのうち、タンパク質が好ましい。タンパク質としては、アミノ酸が多数連結してできた高分子化合物を有するものであれば、特に限定されない。例えば、抗原、抗体、酵素、及び酵素反応によって生成した産物等が挙げられる。ここで、酵素反応によって生成した産物を被検物質とすることで、酵素活性を測定することもできる。例えば、生体試料中のCDKの活性を測定する場合、CDKとCDKの基質とを反応させ、その反応産物であるリン酸化基質を被検物質として測定すればよい。
【0016】
シグナル発生用物質は、被検物質と反応することで、被検物質と結合し、反応産物を得ることができるものであれば特に制限されるものではない。例えば、蛍光物質、標識用酵素、及び放射性物質等の標識物質や、標識抗体、標識抗原、及び標識アビジン等が挙げられる。これらのうち、シグナル発生用物質としては、蛍光物質、蛍光標識抗体、及び蛍光標識抗原が好ましく用いられる。
【0017】
溶液中でシグナル発生用物質と被検物質とを反応させることで得られる反応産物、具体的にはシグナル発生用物質が結合した被検物質を、以下、標識被検物質と呼ぶ。シグナル発生用物質と被検物質とが結合する反応の例としては、抗原及び抗体を用いた反応(抗原抗体反応)、アビジン及びビオチンを用いた反応、相補的なDNA鎖を用いた反応、及び化学反応等が挙げられる。反応条件は、シグナル発生用物質や被検物質の種類に応じて、適宜設定すればよい。通常、被検物質とシグナル発生用物質を反応させる場合、十分に被検物質に結合できるように、過剰量のシグナル発生用物質が使用される。従って、反応後、反応産物を含む溶液には、標識被検物質の他、被検物質に結合していない未反応のシグナル発生用物質が含まれている。
【0018】
抗原抗体反応を用いて、標識被検物質を得る方法としては、免疫染色法等が挙げられる。より具体的には、被検物質が抗原の場合、標識抗体をシグナル発生用物質として用い、抗原抗体反応により結合させることで、標識被検物質を得ることができる。
【0019】
また、アビジンとビオチンの反応を用いて、標識被検物質を得る方法としては、ビオチン−アビジン法等が挙げられる。より具体的には、被検物質がビオチン標識したタンパク質の場合、標識アビジンをシグナル発生用物質として用い、アビジンとビオチンの反応により結合(アビジン−ビオチン結合)させることで、標識被検物質を得ることができる。
【0020】
ここで、標識抗体や標識アビジン等は公知の手段によって作成することができる。例えば、抗体に蛍光色素であるフルオレセイン・イソチオシアネート(FITC)を標識化する場合、抗体溶液をpH8〜9に調製し、FITC粉末を添加し、4時間5℃で反応させ、その後ゲル濾過で未反応の蛍光色素を除いて、蛍光標識抗体を得ることができる。
【0021】
化学反応を用いて標識被検物質を得る方法としては、例えば、被検物質がアミノ基を有する場合、官能基としてN−ヒドロキシスクシンイミドやイソチオシアネート基、ニトロアリールハライド基、又は酸クロリド基を有するシグナル発生用物質を用いることで、化学反応に被検物質とシグナル発生用物質を結合させる方法がある。また、被検物質がチオール基を有する場合、官能基としてハロゲン化アルキル基、マレイミド基、又はアジリジン基を有するシグナル発生用物質を用いることで、化学反応により被検物質とシグナル発生用物質を結合させる方法がある。
【0022】
更に、シグナル発生用物質と被検物質を、架橋剤で架橋することにより、シグナル発生用物質と被検物質とを結合させることもできる。例えば、チオール基とアミノ基を架橋する架橋剤としては、N−サクシンイミジル−3−(2−ピリジルチオ)プロピオネート等が挙げられる。また、アミノ基とカルボキシル基を架橋する架橋剤としては、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等が挙げられる。
【0023】
また、被検物質がシグナル発生用物質と結合するための官能基を有していない場合、被検物質にシグナル発生用物質との結合が可能な官能基を導入することもできる。例えば、被検出物質がキナーゼのリン酸化基質の場合、ATPに代えて、アデノシン5’−O−(3−チオトリホスフェート)(以下、ATPγSとする)を用いることで、被検物質としてチオリン酸化基質を得ることができる。このチオリン酸基を有する被検物質に、チオール基と反応する官能基を有するシグナル発生用物質を反応させることで、被検物質のチオリン酸基の硫黄原子にシグナル発生用物質を結合させることができる。より具体的には、チオリン酸化基質0.1〜1mg/mlを含む、pH7.5〜9.0、好ましくは8.5の溶液を調製する。次に、調製した溶液に、チオリン酸化基質1当量に対して10〜100当量の、チオール基と反応する官能基を持つシグナル発生用物質を添加する。その後、10分〜2時間反応させることにより、標識被検物質を得ることができる。また、この反応は、チオール基を有する還元剤を用いることで、必要に応じて停止させることもできる。チオール基を有する還元剤としては、2−メルカプトエタノール、D型システイン、L型システイン、アセチルシステイン、2−メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、2−アミノエタンチオール、ジチオスレイトール、グルタチオン、ドデカンチオールなどが例示され、これらを単独又は混合して用いることができる。
【0024】
上記蛍光物質としては、フルオレセイン、クマリン、エオシン、フェナントロリン、ピレン、ローダミンなどが挙げられる。尚、化学反応を用いて蛍光物質を被検物質に結合させる場合、被検物質が有する官能基に応じて、蛍光物質を適宜選択すればよい。例えば、被検物質がチオール基を有する場合には、チオール基と反応する官能基をもつ蛍光物質、例えば、アルキルハライド、マレイミド、アジリジン部位を有する蛍光物質が好ましく用いられる。このような蛍光物質としては、例えば、5−ヨードアセトアミドフルオレセイン(5IAF)、オレゴングリーンヨードアセトアミド(OGI)、ヨードアセチル−フルオレセインイソチオシアネート、5−(ブロモメチル)フルオレセイン、フルオレセイン−5−マレイミド、6−ヨードアセトアミドフルオレセイン、4−ブロモメチル−7−メトキシクマリン、エオシン−5−ヨードアセトアミド、エオシン−5−マレイミド、エオシン−5−ヨードアセトアミド、N−(1,10−フェナントロリン−5−イル)ブロモアセトアミド、1−ピレンブチリルクロリド、N−(1−ピレンエチル)ヨードアセトアミド、N−(1−ピレンメチル)ヨードアセトアミド、(1−ピレンメチル)ヨードアセテート、ローダミンレッドC2マレイミドなどが例示される。
【0025】
蛍光物質をシグナル発生用物質として使用した場合、特定の波長を有する光(励起光)を照射することにより発する蛍光がシグナルとなるので、蛍光量(又は蛍光強度)を測定すればよい。
【0026】
標識用酵素としては、例えば、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼなどを用いることができる。例えば、被検物質が抗原の場合、シグナル発生用物質として標識用酵素で標識された抗体を用いることで、酵素標識された標識被検物質を得ることができる。また、被検物質がチオリン酸基を有する場合、被検物質のチオリン酸基の硫黄原子に標識用酵素を結合させることができる。より具体的には、ヨードアセチルビオチンを硫黄原子に導入し、その後、該ビオチン分子に親和性をもつアビジン分子に酵素が結合した分子を反応させることができる。
酵素標識された被検物質の測定は、標識用酵素との反応によって光学的に検出可能な物質が生じるような基質を作用させて、生じた生成物を光学的に測定する。
【0027】
放射性物質としては、32Pなどが挙げられる。例えば、検査対象がCDKのようなキナーゼの場合には、32P標識したATPを用いてリン酸化反応させることにより、32P標識されたリン酸化基質を被検物質として得ることができる。この場合、32Pがシグナルとなるので、リン酸化基質中の32P量を、オートラジオグラフィー又はシンチレーションカウンターなどで測定すればよい。
【0028】
固相担体に標識被検物質を固定化する際、150mM〜2.5Mの緩衝剤の存在下で、標識被検物質を含む溶液と固相担体とを接触させる。すなわち、緩衝剤の濃度が150mM〜2.5Mである標識被検物質を含む溶液(固定化用溶液)と固相担体を接触させればよい。ここで、緩衝剤の濃度としては、150mM〜2.5m、好ましくは200mM〜2.0M、より好ましくは400mM〜2.0M、特に好ましくは800mM〜1.7Mである。尚、2種以上の緩衝剤が固定化用溶液に含まれる場合、緩衝剤の濃度は、固定化用溶液に含まれる全ての緩衝剤を合計した最終濃度をいう。
【0029】
具体的には、別途容器で調製した標識被検物質を含む溶液に、緩衝剤の最終濃度が上記範囲となるように、緩衝剤を混合し、混合液を固相担体上にアプライする。あるいは固相担体に、標識被検物質を含む溶液及び緩衝剤を別々に添加し、固相担体と接触させる溶液における緩衝剤の最終濃度が上記範囲となるようにしてもよい。
【0030】
つまり、緩衝剤の存在下での固定化は、固相担体に、標識被検物質を含有する反応液と緩衝液とを添加することによって行なっても良い。また、予め標識被検物質を含有する反応液と緩衝剤とを混合して、標識被検物質の緩衝剤溶液(固定化用溶液)を調製し、この緩衝剤溶液(固定化用溶液)を固相担体と接触させることにより行なってもよい。好ましくは、まず標識被検物質と緩衝剤との混合液を調製し、これを固相担体と接触させる方法である。
【0031】
緩衝剤としては、固定化に使用される固相担体や、固相担体に固定化される標識被検物質等の種類に応じて、適宜選択することができる。特に、被検物質が安定化して存在できるpHを維持可能な緩衝剤を選択することが好ましい。緩衝剤の具体例としては、トリス−塩酸緩衝剤、HEPES緩衝剤やMOPS緩衝剤等のグッド緩衝剤、イミダゾール−酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、フタル酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、酢酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びリン酸緩衝剤などを用いることができる。なかでも、トリス−塩酸緩衝剤、HEPES緩衝剤やMOPS緩衝剤等のグッド緩衝剤、イミダゾール−酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、フタル酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、酢酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤等の有機化合物含有緩衝剤が好ましい。特に好ましい緩衝剤としては、トリス−塩酸緩衝剤及びグッド緩衝剤が挙げられる。また、グッド緩衝剤としては、HEPES緩衝剤及びMOPS緩衝剤が好ましい。なお、緩衝剤は、1種類を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
上記固定化用溶液には、緩衝剤の他、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩が含まれていても良い。これらの無機塩は、被検物質のタンパク質の立体構造の安定化などに寄与することができる。
【0033】
反応産物の固相担体への固定化は、固相担体及び標識被検物質等の種類に応じて、公知の方法を用いることができる。例えば、ドットブロットやスロットブロットが挙げられる。固相担体としては、反応産物を固定化することができるものであればよく、市販のブロッティング用メンブレンを用いることができる。メンブレンの材質としては、例えばポリビニリデンフロライド(PVDF)、ニトロセルロース、ナイロン(例えば、カルボキシル基やアルキル基を置換基として有してもよいアミノ基が導入された修飾ナイロン)、セルロースアセテートなどが挙げられる。
【0034】
固定化の際、固定化用溶液の緩衝剤濃度を150mM〜2.5Mとすることで、標識被検物質のシグナルに影響を殆ど与えることなく、バックグラウンドを小さくできる。すなわち、標識被検物質について測定したシグナルからバックグラウンドを控除した、標識被検物質からの特異的なシグナル値を大きくすることができる。明確な機構は明らかではないが、固相化溶液に含まれる、未反応のシグナル発生用物質と緩衝剤は、競合的に固相担体に吸着するため、高濃度緩衝剤共存下では、緩衝剤が多く固相担体に吸着し、未反応のシグナル発生用物質の固相担体への非特異吸着を低減したのではないかと考えられる。
【0035】
通常、固相担体へ標識被検物質の固定化に使用される緩衝剤濃度は、緩衝剤能を十分に発揮できる25〜100mM程度である。これに対し、本発明では、緩衝能として必要とされる緩衝剤濃度よりも高い濃度の緩衝剤存在下で固定化するところに特徴がある。
【0036】
固定化後、緩衝剤で固相担体を洗浄することが好ましい。洗浄に使用される緩衝剤としては、一般的に洗浄に用いられる150mM未満の緩衝剤が使用できる。また、上記固相担体への固定化で使用した高濃度(150mM〜2.5M)の緩衝剤を用いることもできる。洗浄液には、緩衝剤の他、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩が含まれていても良い。これらの無機塩は、被検物質のタンパク質の立体構造の安定化などに寄与することができる。但し、洗浄液中には、界面活性剤は使用しないことが好ましい。界面活性剤を含む洗浄液で洗浄すると、標識被検物質も洗い流してしまうおそれがあるためである。
【0037】
また、上述した固定化工程の後に、さらに固相担体にブロッキング処理を行なうことが好ましい。ブロッキング処理後にシグナルを検出することで、よりバックグラウンドを低減することができる。ブロッキング処理とは、固相担体にブロッキング剤を固定化する処理のことである。ブロッキング処理に用いられるブロッキング剤としては、アルブミン、カゼイン、グロブリン、ゼラチンなどが例示され、これらを単独又は混合して用いることができる。アルブミンを用いる場合、その由来とする動物は特に限定されず、例えばウシ、ヤギ、ウサギ、ヒトなどを由来とするアルブミンを用いることができる。アルブミンとしては、BSAを用いることが好ましい。また、市販品の各種ブロッキング剤を用いることも可能である。ブロッキング処理は1回でもよいし、複数回に分けて行ってもよい。
【0038】
ブロッキング処理により、さらにバックグラウンド低減効果が図ることができ、結果として、S/N比が向上する。
【0039】
ブロッキング処理には、ブロッキング剤を溶解したブロッキング溶液を用いることが好ましい。ブロッキング溶液は、ブロッキング剤の他に緩衝剤を含有させてもよい。
【0040】
被検物質の定量は、検出された反応産物中のシグナル発生用物質に由来するシグナルの強度に基づいて算出することにより行なうことができる。被検物質の定量に際しては、検量線を用いることが好ましい。検量線は、シグナル発生用物質を結合させた既知量のタンパク質を、上記と同様に固相担体に固定化し、このシグナル強度を測定することによって作成される。検量線に用いられるタンパク質は、例えば、グロブリン、アクチンなどを用いることができる。
【0041】
また、上述のブロッキング剤を固定化することによって、さらに検量線の傾きを大きくすることができる。つまり、被検物質の検出の際の測定値の分解能が向上することができる。即ち、緩衝剤存在下で固相担体に固定化した後、さらに、ブロッキング処理して作成された検量線を用いると、より正確に被検物質の定量を行うことができる。
【0042】
本発明の測定方法は、被検物質自体の定量だけでなく、酵素反応によって生成される産物を被検物質として定量することで、酵素の活性を測定することもできる。活性を測定する酵素としては、例えば、キナーゼ、ペプチダーゼ、ポリメラーゼなどが挙げられ、特にキナーゼが好ましい。酵素の活性の測定は、酵素とその基質とを反応させることで得られる、酵素反応生成物の量を測定し、その測定結果を酵素の活性値とすることができる。例えば、キナーゼの活性を測定する場合、リン酸化された基質の量を測定すればよい。また、キナーゼの活性を測定する際に、キナーゼと反応する基質に蛍光物質が結合できるような官能基を有していない場合、ATPに代えて、アデノシン5’−O−(3−チオアルカリホスフェート)(ATPγS)を使用して、リン酸基の代りにチオリン酸基を導入することができる。上述のように、このチオリン酸基にシグナル発生用物質が結合できる。
【0043】
活性測定の対象となり得るキナーゼとしては、具体的には、カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ(例えば、ミオシンL鎖キナーゼ、eEF2−キナーゼ、ホスホリラーゼキナーゼなど)、サイクリックヌクレオチドレギュレイテッドキナーゼ、CDK(例えば、CDK1,CDK2,CDK3,CDK4,CDK5,CDK6,CDK7、CDK8など)等が例示される。
【0044】
活性測定の対象となる酵素がCDK1又はCDK2である場合、被検物質として用いられる基質は、ヒストンH1又は網膜芽細胞腫タンパク質(Retinoblastoma Protein:以下、Rbとする)であることが好ましい。また、酵素がCDK4又はCDK6である場合は、基質としてRbを用いることが好ましい。CDK4又はCDK6の基質としては、硫黄原子を含まないアミノ酸(システイン及びメチオニン以外のアミノ酸)から構成されるタンパク質が好ましく用いられる。Rbのようなシステイン残基を含むタンパク質の場合、システイン残基をアラニンなどの硫黄原子を含まないアミノ酸に置換して用いればよい。基質中のシステインやメチオニンを、硫黄原子を含まないアミノ酸に置換する方法としては、PCR法や部分点突然変異法などの公知の方法を用いて行うことができる。
【0045】
検査対象酵素が分解酵素である場合は、酵素反応後の分解産物を被検物質としてもよいし、さらに分解産物に特異的に結合する抗体を被検物質としてもよい。
【0046】
なお、本実施形態の被検物質の測定方法及び酵素活性測定方法の各工程は、手動で実行されてもよいし、装置等を用いて自動的に実行されてもよい。
【実施例】
【0047】
〔被検物質の調製〕
CDK2の酵素活性を測定するために、基質としてヒストンH1を使用し、被検物質として、以下の方法により、キナーゼ酵素反応生成物であるチオリン酸化ヒストンH1を調製した。
【0048】
96穴フィルタープレート(親水性PVDFメンブレン、ミリポア社)に免疫沈降用緩衝液(0.1w/v%、NP40、及び50mM トリス塩酸(pH7.4)を含む)を80μl収容し、ここに、抗CDK2抗体(サンタクルズ社)2μg及びプロテインAをコートしたセファロースビーズ(GEヘルスケア社)を分散させた免疫沈降用緩衝液50v/v%を30μl加えた。
上記フィルタープレートの32ウェルずつに、測定用試料として、リコビナントCDK2(アップステート社)10ng/150μL、リコビナントCDK2(アップステート社)20ng/150μLを、添加した。
【0049】
測定用試料の添加後、4℃で2時間振盪し、CDK2と抗CDK2抗体とを反応させた。
反応後、ウェル内のビーズをビーズ洗浄液A(1w/v%、NP−40、及び50mMトリス塩酸(pH7.4)含む)で2回洗浄した後、ビーズ洗浄液B(300mM NaCl及び50mMトリス塩酸(pH7.4)含む)で1回洗浄し、ビーズ洗浄液C(50mM トリス塩酸(pH7.4)含む)で1回洗浄した。
次に、CDK2の基質溶液(10μgヒストンH1(カルビオケム社)、2mM ATP−γS(カルビオケム社)、54mM トリス塩酸(pH7.4)、20mM MgCl、及び0.1% TritonX−100)を添加した。基質溶液は、各ウェルに収容した混合液の総量が50μLとなるように調節して添加した。添加後、37℃で30分間振盪して、キナーゼ反応を行ない、ヒストンH1にチオリン酸基を導入した。
キナーゼ反応後、2000rpmで5分間、遠心分離を行ない、濾液を回収した。この濾液は、被検物質(チオリン酸化された基質(ヒストンH1))含有液である。
【0050】
〔被検物質の蛍光物質による標識〕
上記で調製した被検物質含有液に、シグナル発生用物質である5−IAF溶液(1.03mM 5−IAF、150mM トリス塩酸(pH7.4)、及び5mM EDTAを含む)を添加して、アルミホイルで遮光し、25℃で20分間振盪することにより、チオリン酸基を導入した基質(チオリン酸化基質)の硫黄原子に5−IAFを結合させた。尚、5−IAFとチオリン酸基との反応停止は、2−メルカプトエタノールの添加により行なった。
【0051】
〔固相担体への固定化における緩衝剤効果〕
実施例1:トリス緩衝生理食塩水(TBS)における濃度の検討
5−IAFが結合したチオリン酸化基質1.76μgを含む試料48μLを、トリス塩酸濃度の異なるTBS(25mM,50mM、200mM、1000mM、2000mM、3000mM、4000mM トリス塩酸(pH7.4)、150mM NaClを含む)180μLと混合し、固定化用溶液たるサンプル溶液を調製した。これにより、各サンプル溶液の、緩衝剤の最終濃度は、それぞれ33.9mM、53.7mM、172mM、804mM、1590mM、2380mM、3180mMとなる。
【0052】
この各サンプル溶液200μLを、固相担体となる96穴フィルタープレート(疎水性PVDFメンブレン、ミリポア社)に注入することで、各ウェルの固相担体(疎水性PVDFメンブレン)に、5−IAFが結合したチオリン酸化基質を固定化した。
チオリン酸化基質が固定化された各ウェルを、TBS(25mMトリス塩酸(pH7.4)、150mM NaClを含む)200μLで5回洗浄した。
その後、蛍光イメージングアナライザMolecular Imager FX(バイオラッド社)を用いてフィルタープレートの蛍光分析を行ない、蛍光強度を測定した。蛍光強度は蛍光カウント値(単位=CNT)として表示した。
【0053】
コントロールとして、リコビナントCDK2を添加しなかった以外は、上記被検物質調製法に従って濾液を回収し、この濾液に、シグナル発生用物質(5−IAF)を、同様に添加した溶液を用いた。得られたコントロール溶液を、上記と同様にして、緩衝剤存在下で固相担体と接触させ、洗浄した後、蛍光強度を測定し、得られた蛍光カウント値(CNT)をバックグラウンドとした。
【0054】
トリス塩酸の各最終濃度におけるチオリン酸化基質含有液について、控除値及びS/N比を算出した。算出の計算式を以下に示す。コントロールのCNTがバックグラウンドに該当し、控除値は被検物質からのシグナル(特異的シグナル)に該当する。
控除値=各サンプル液のCNT−コントロールのCNT
S/N比=各サンプル液のCNT/コントロールのCNT
【0055】
さらに、トリス塩酸の最終濃度が33.9mM(添加したTBSのトリス塩酸濃度25mM)のときの値を1として、トリス塩酸の各最終濃度における控除値及びS/N比の相対指数を求めた。これらの結果を表1に示す。また、トリス塩酸濃度の最終濃度と控除値の相対指数との関係を図1に、トリス塩酸濃度(最終濃度)とS/N比の相対指数との関係を図2に、それぞれ示す。尚、図1及び図2中、縦軸は、控除値又はS/N比の相対指数であり、横軸は、トリス塩酸の最終濃度である。また、各濃度における棒グラフの左側がCDK10ng/150μL、右側がCDK20ng/150μLを用いて調製した各サンプル溶液についての測定結果である。
【0056】
【表1】

【0057】
表1及び図1から明らかなように、サンプル溶液(固定化用溶液)のトリス塩酸の最終濃度が172mM〜1.59Mの場合に、控除値(標識被検物質由来の特異的シグナル)が顕著に高くなる。一方、一般的に固相担体への固定化に使用されるトリス塩酸の最終濃度である、33.9mM及び53.7mMでは控除値に変化はない。また、トリス塩酸の最終濃度が2.38M及び3.17Mのように、過剰に高濃度となると、逆に控除値は顕著に低下した。
【0058】
また、表1及び図2から明らかなように、サンプル溶液のトリス塩酸の最終濃度が、804mM〜2.38Mの場合に、S/N比が顕著に高くなる。また、控除値と同様に、一般的に固相担体への固定化に使用されるトリス塩酸の最終濃度である、33.9mM及び53.7mMではS/N比に変化はない。更に、トリス塩酸の最終濃度が3.17Mになると、S/N比は逆に低下した。
【0059】
このことから、トリス塩酸の最終濃度が、150mM〜2.5M程度の際に、顕著にバックグラウンド低減の効果を得ることができ、200mM〜2.0M、特に800mM〜1.7Mの場合に控除値(被検物質由来の特異的シグナル)及びS/N比ともに顕著に向上することが明らかとなった。
【0060】
実施例2:HEPESにおける濃度の検討
上記で調製した、5−IAFで標識したチオリン酸化基質(ヒストンH1)を用いて、緩衝剤HEPES−NaOHを用いた場合のバックグラウンドの低減効果を調べた。
すなわち、実施例1において使用した緩衝剤を、HEPES−NaOH(25mM,50mM、200mM、500mM、1000mM、2000mM HEPES−NaOH(pH7.4)、150mM NaClを含む)180μlに変更し、緩衝剤(トリス塩酸及びHEPES)の最終濃度が33.9mM、53.7mM、172mM、409mM、804mM、1590mMとなるサンプル溶液(固定化用溶液)を調製した。それ以外は実施例1と同様にして、標識チオリン酸化基質を固定化した。固定化後、実施例1と同様に、TBS(25mMトリス塩酸(pH7.4)、150mM NaClを含む)200μLで5回洗浄し、その後、蛍光強度を測定した。
【0061】
コントロール溶液(CNK0ng/150μL)についても同様にして、測定用サンプルを調製した。
【0062】
実施例1と同様に、控除値、S/N比の測定結果、及び25mM HEPESを混合したときの測定結果に対する相対指数を求めた結果を、表2に示す。また、緩衝剤の最終濃度と控除値の指数との関係を図3、緩衝剤の最終濃度とS/N比の指数との関係を図4に、それぞれ示す。尚、表2、図3及び図4において、最終濃度とあるのは、サンプル溶液(固定化用溶液)に含まれる緩衝剤(具体的には、トリス塩酸及びHEPES)の合計濃度(緩衝剤の最終濃度)である。すなわち、使用したHEPESと、標識被検物質含有液に含まれていたトリス塩酸(基質溶液、蛍光物質含有液の溶媒として用いられていたトリス塩酸)を含んだ最終濃度を示している。また、図3及び図4中、縦軸は、控除値又はS/N比の指数であり、横軸は、最終濃度である。各濃度における棒グラフの左側がCDK10ng/150μL、右側がCDK20ng/150μLを用いて調製した被検物質含有液についての測定結果である。
【0063】
【表2】

【0064】
表2及び図3からわかるように、バックグラウンドの値は、緩衝剤の最終濃度が409mM以上で顕著に減少し、控除値が向上した。そして、表2及び図4からわかるように、緩衝剤の最終濃度が409mM以上でS/N比が顕著に向上した。このことから、通常用いられる高濃度の緩衝剤を用いることにより、シグナルのカウント値及びS/N比が向上することがわかる。
【0065】
実施例3:MOPSにおける濃度の検討
上記で調製した、5−IAFで標識したチオリン酸化基質(ヒストンH1)を用いて、緩衝剤MOPS−NaOHを用いた場合のバックグラウンドの低減効果を調べた。
すなわち、実施例1において使用した緩衝剤を、MOPS−NaOH(25mM,50mM、200mM、500mM、1000mM、2000mM MOPS−NaOH(pH7.4)、150mM NaClを含む)180μlに変更し、緩衝剤(トリス塩酸及びMOPS)の最終濃度が33.9mM、53.7mM、172mM、409mM、804mM、1590mMとなるサンプル溶液(固定化用溶液)を調製した。それ以外は実施例1と同様にして、標識チオリン酸化基質を固定化した。固定化後、実施例1と同様に、TBS(25mMトリス塩酸(pH7.4)、150mM NaClを含む)200μLで5回洗浄し、その後、蛍光強度を測定した。
【0066】
コントロール溶液(CNK0ng/150μL)についても同様にして、測定用サンプルを調製した。
【0067】
実施例1と同様に、控除値、S/N比の測定結果、及び25mM MOPSを混合したときの測定結果に対する相対指数を求めた結果を、表3に示す。また、最終濃度と控除値の指数との関係を図5、最終濃度とS/N比の指数との関係を図6に、それぞれ示す。尚、表3、図5及び図6において、最終濃度とあるのは、実施例2と同様に、サンプル溶液(固定化用溶液)に含まれる全ての緩衝剤(具体的には、トリス塩酸及びMOPS)の合計濃度(最終濃度)である。すなわち、使用したMOPSと標識被検物質含有液に含まれていたトリス塩酸(基質溶液、蛍光物質含有液の溶媒として用いられていたトリス塩酸)を含んだ最終濃度を示している。図5及び図6中、縦軸は、控除値又はS/N比の指数であり、横軸は、最終濃度である。また、各濃度における棒グラフの左側がCDK10ng/150μL、右側がCDK20ng/150μLを用いて調製した被検物質含有液についての測定結果である。
【0068】
【表3】

【0069】
表3及び図5からわかるように、バックグラウンドの値が緩衝剤の最終濃度が409mM以上で顕著に減少し、控除値が向上した。そして、表3及び図6からわかるように、緩衝剤の最終濃度が409mM以上でS/N比が顕著に向上した。このことから、通常用いられるよりも高濃度の緩衝剤を用いることにより、シグナルのカウント値及びS/N比が向上することが分かる。
【0070】
〔ブロッキング剤によるブロッキング処理効果〕
実施例4:BSAによるブロッキング処理効果と緩衝剤濃度
実施例3と同様に、希釈用緩衝剤としてMOPS(25mM,50mM、200mM、500mM、1000mM、2000mM、MOPS−NaOH(pH7.4)、150mM NaClを含む)を使用し、緩衝剤(トリス塩酸及びMOPS)の最終濃度が33.9mM、53.7mM、172mM、409mM、1590mMとなるサンプル溶液を調製し、標識チオリン酸化基質を固相担体へ固定化した。
【0071】
固定化後、実施例3と同様に、TBS(25mMトリス塩酸(pH7.4)、150mM NaClを含む)200μLで5回洗浄し、次いで、4%BSA200μlで6回洗浄した(ブロッキング処理)。ブロッキング処理後、蛍光強度を測定した。コントロール溶液についても同様に固相担体へ固定化した後、ブロッキング処理を行なった後、蛍光強度を測定した。
【0072】
実施例3と同様に、控除値、S/N比を求めた結果を、表4に示す。参考のために、表4にブロッキング処理を行なわなかった実施例3の結果を併記する。また、最終濃度とS/N比(指数)の関係を図7に示す。図7中、横軸は最終濃度、縦軸はS/N比の指数(相対値)を示す。また、各濃度における棒グラフの左側がCDK10ng/150μL、右側がCDK20ng/150μLを用いて調製した被検物質含有液についての測定結果である。尚、ここで、最終濃度とは、実施例3と同様に、サンプル溶液に含まれる全ての緩衝剤(具体的には、トリス塩酸及びMOPS)の合計濃度(最終濃度)である。すなわち、MOPSと標識被検物質含有液に含まれていたトリス塩酸(基質溶液、蛍光物質含有液の溶媒として用いられていたトリス塩酸)とを含んだ最終濃度を示している。
【0073】
【表4】

【0074】
表4からわかるように、BSAによるブロッキング処理によりバックグラウンドが低減するが、緩衝剤の最終濃度が804mM以上でS/N比が顕著に向上した。このことから、ブロッキング処理を行なう場合においても、通常用いられるよりも高濃度の緩衝剤を用いることにより、バックグラウンドシグナルをさらに低減させ、S/N比が向上することがわかる。
【0075】
以上の結果から、高濃度の緩衝剤を用いて固定化することで、標識被検物質からの特異的シグナル及びS/N比を向上させることが明らかとなった。また、ブロッキング剤と併用することにより、更なるバックグラウンドの低減が可能となり、S/N比の向上を図ることができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の測定方法は、固相担体に標識被検物質を固定化するに際して、被検物質との結合に利用されなかった未反応のシグナル発生用物質が、固相担体に非特異的に吸着することによるバックグラウンドを低減することができる。本発明の測定方法は、S/N比が向上するので、被検物質の定量における測定感度を高くすることができる。さらに、本発明の測定方法は、被検物質として酵素反応生成物を用いることにより、正確な酵素活性の測定をすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例1における緩衝剤濃度と控除値の関係を示すグラフである。
【図2】実施例1における緩衝剤濃度とS/N比との関係を示すグラフである。
【図3】実施例2における緩衝剤濃度と控除値との関係を示すグラフである。
【図4】実施例2における緩衝剤濃度とS/N比との関係を示すグラフである。
【図5】実施例3における緩衝剤濃度と控除値との関係を示すグラフである。
【図6】実施例3における緩衝剤濃度とS/N比との関係を示すグラフである。
【図7】実施例4における緩衝剤濃度とS/N比との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中でシグナル発生用物質と被検物質とを反応させる工程;
150mM〜2.5Mの緩衝剤の存在下で、反応工程で得られた反応産物を含む溶液と固相担体とを接触させて、前記反応産物を前記固相担体に固定化する工程;及び
前記固相担体に固定化された反応産物中のシグナル発生用物質に由来するシグナルを検出する工程
を含む被検物質の測定方法。
【請求項2】
前記緩衝剤は、トリス−塩酸緩衝剤、グッド緩衝剤、イミダゾール−酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、フタル酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、酢酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、及び炭酸緩衝剤からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記緩衝剤は、有機化合物含有緩衝剤である請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記シグナル発生用物質は、蛍光物質である請求項1〜3のいずれかに記載の測定方法。
【請求項5】
前記蛍光物質は、フルオレセインイソチオシアネート、フルオレセイン、オレゴングリーン、クマリン、エオシン、フェナントロリン、ピレン、及びローダミンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
前記固相担体の材質は、ポリビニリデンフロライド、ニトロセルロース、セルロースアセテート、及びナイロンからなる群より選択される請求項1〜5のいずれかに記載の測定方法。
【請求項7】
固定化工程の後、前記固相担体に、ブロッキング剤を固定する工程をさらに含む請求項1〜6のいずれかに記載の測定方法。
【請求項8】
前記被検物質は、酵素反応によって生成した産物である請求項1〜7のいずれかに記載の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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