被測定物質測定方法及び免疫測定用試薬
【課題】 本発明の目的は、検体中の被測定物質以外の物質による非特異的な反応を抑制し、且つ自動分析装置においてアルカリ性の洗浄液を使用する場合であっても装置内の詰まりを防止できる被測定物質測定方法及び免疫測定用試薬を提供する。
【解決手段】 本発明は、洗浄液を用いる自動分析装置において検体に含まれる被測定物質を測定する被測定物質測定方法であって、亜鉛イオン存在下で被測定物質と被測定物質に対応する抗体又は抗原との抗原抗体反応を生じさせ、その抗原抗体反応によって生じる濁度変化又は散乱光変化に基づいて被測定物質を測定する被測定物質測定方法を提供する。また、洗浄液による洗浄を実施可能な自動分析装置用の免疫測定用試薬であって、被測定物質に対応する抗体又は抗原及と亜鉛イオンとを含有する免疫測定用試薬を提供する。
【解決手段】 本発明は、洗浄液を用いる自動分析装置において検体に含まれる被測定物質を測定する被測定物質測定方法であって、亜鉛イオン存在下で被測定物質と被測定物質に対応する抗体又は抗原との抗原抗体反応を生じさせ、その抗原抗体反応によって生じる濁度変化又は散乱光変化に基づいて被測定物質を測定する被測定物質測定方法を提供する。また、洗浄液による洗浄を実施可能な自動分析装置用の免疫測定用試薬であって、被測定物質に対応する抗体又は抗原及と亜鉛イオンとを含有する免疫測定用試薬を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液を用いる自動分析装置において検体に含まれる被測定物質を測定する被測定物質測定方法及び免疫測定用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査などの分野では、検体に含まれる被測定物質を測定する方法として、被測定物質に対応する抗体又は抗原と被測定物質との抗原抗体反応により生じる濁度変化又は散乱光変化を検出することにより、検体に含まれる被測定物質を測定する免疫測定法が知られている。このような免疫測定法としては、免疫比濁法や免疫比ろう法が挙げられる。
【0003】
前記のような免疫測定法においては、測定用試料中に含まれる被測定物質以外の物質により非特異的な反応が起こる場合がある。そして、この非特異的な反応により、測定用試料の濁りが生じ、被測定物質の正確な測定が妨げられる。
【0004】
非特異的な反応を抑制して被測定物質を測定する方法として、2価の金属イオンを含有する試薬を用いる方法が知られている。
【0005】
特許文献1には、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン、カドミウムイオンなどの2価金属イオンの1つ又は2つ以上を0.0001〜1.0Mの濃度で含有する試薬を用いることで、非特異的な反応を抑制して被測定物質を測定する方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、マグネシウムイオンを含有する試薬を用いることで、非特異的な反応を抑制して被測定物質を測定する方法が記載されている。
【0007】
ところで、従来、前記のような免疫測定法を実施する自動分析装置が知られている。このような自動分析装置には、検体や試薬を送液する流路や検体と試薬が混合される反応容器が設けられており、これら流路や反応容器などの洗浄にアルカリ性の洗浄液が使用される場合がある。そして、アルカリ性の洗浄液が使用される自動分析装置において、例えば、マグネシウムイオンを含む試薬を用いると、洗浄後の洗浄液や測定終了後の各種試料や試薬といった廃液が流れる部分においてマグネシウムイオンによる析出物が生成され、装置内に詰まりが生じるという問題が発生する場合がある。
【0008】
【特許文献1】特開昭56−2555
【0009】
【特許文献2】特開平08−211057
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、検体中の被測定物質以外の物質による非特異的な反応を抑制し、且つ自動分析装置においてアルカリ性の洗浄液を使用する場合であっても装置内の詰まりを防止できる被測定物質測定方法及び免疫測定用試薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題に鑑み本発明は、洗浄液を用いる自動分析装置において検体に含まれる被測定物質を測定する被測定物質測定方法であって、亜鉛イオン存在下で被測定物質と被測定物質に対応する抗体又は抗原との抗原抗体反応を生じさせ、その抗原抗体反応によって生じる濁度変化又は散乱光変化に基づいて被測定物質を測定する被測定物質測定方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、洗浄液による洗浄を実施可能な自動分析装置用の免疫測定用試薬であって、被測定物質に対応する抗体又は抗原及と亜鉛イオンとを含有する免疫測定用試薬を提供する。
【発明の効果】
【0013】
免疫測定において本発明の被測定物質測定方法又は免疫測定用試薬を用いることにより、検体中の被測定物質以外の物質による非特異的な反応を抑制し、且つ自動分析装置においてアルカリ性の洗浄液が用いられた場合でも装置内の詰まりを防止することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本実施形態の免疫測定用試薬は、被測定物質に対応する抗体又は抗原と被測定物質との抗原抗体反応により生じる濁度変化又は散乱光変化に基づいて検体に含まれる被測定物質を測定する免疫測定方法を実施する自動分析装置に用いられる免疫測定用試薬である。前記のような免疫測定方法としては、免疫比濁法や免疫比ろう法が挙げられる。さらに、被測定物質に対応する抗体又は抗原を感作した担体粒子を用いる免疫比濁法や免疫比ろう法が挙げられる。
【0015】
図1は、自動分析装置の構成を示した図である。自動分析装置1には、検体をセットする検体セット部2、試薬をセットする試薬セット部3、洗浄液をセットする洗浄液セット部4、洗浄液を用いて洗浄する洗浄機構5、検体や試薬を分注する分注機構6、検体と試薬が混合される反応容器7、反応容器7がセットされる反応部8、測定機構9、全体を制御するコンピューター10等が設けられており、さらに、検体、試薬や廃液などの各種液体が流れる流路が設けられている。ここで、反応容器7とは、検体や試薬が分注されたり、それぞれが混合されたり、測定用試料が調製されたりするところである。そして、前記反応容器7や流路などの洗浄には、アルカリ性の洗浄液が使用される場合が多い。アルカリ性の洗浄液としては、一般的にpH8以上の洗浄液が用いられており、例えば、日立株式会社製 ハイアルカリ-DやHITERGENT、東芝株式社製 Bianch 14がある。
【0016】
免疫測定用試薬は、非特異的な反応を抑制し、且つ自動分析装置においてアルカリ性の洗浄液が用いられた場合でも装置内の詰まりを防止するために、亜鉛イオンを含有する。ここで、非特異的な反応とは、抗原抗体反応以外の反応のことであり、測定用試料中に含まれる被測定物質以外の物質に起因することが知られている。このような非特異的な反応が起こると、測定用試料に濁りが生じ、被測定物質の正確な測定が妨げられる。本実施形態の免疫測定用試薬により影響が抑制される非特異的な反応の原因物質としては、特に限定されないが、例えば、フィブリノーゲンなどの凝固因子が挙げられる。フィブリノーゲンなどの凝固因子は、血清には含まれず、血漿に含まれるので、血漿に特有の非特異的な反応の原因物質となる。この血漿に特有の非特異的な反応の原因物質により、血清を用いた場合の測定値と血漿を用いた場合の測定値との間に乖離が生じるという問題がある。そのような場合、本実施形態の免疫測定用試薬を用いることにより、前記の問題を解決することができる。また、血清を調製する際に凝固因子を完全に排除することができず、凝固因子の一部が血清中に残る場合がある。そのような場合であっても、本実施形態の免疫測定用試薬を用いることにより、血清中に残った凝固因子の影響を排除し、正確な測定を行うことができる。
【0017】
免疫測定用試薬に含まれる亜鉛イオンとしては、特に限定されるものではないが、例えば塩化亜鉛や硫酸亜鉛等の化合物由来の亜鉛イオンが挙げられる。なお、免疫測定用試薬は、前記化合物を水や緩衝液など適当な液体に溶解させたものであってもよい。前記緩衝液としては、特に限定されず、例えばヘペス緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液などが挙げられる。また、免疫測定用試薬のpHとしては、抗原抗体反応を抑制しない範囲であれば特に限定されないが、pH 4〜10が好ましく、pH 6〜8がより好ましい。
【0018】
免疫測定用試薬は、さらに被測定物質に対応する抗体又は抗原を含有する。ここで、被測定物質に対応する抗体又は抗原とは、被測定物質がタンパク質、酵素、ホルモンの場合はこれらに対する抗体を表し、被測定物質が抗体であればその抗原を表す。被測定物質に対する抗体又は抗原は天然のものを用いてもよいし、被測定物質から公知の方法により得られるものを用いてもよい。該抗体又は抗原は、複数の抗体又は抗原からなるものでのよく、抗体又は抗原を限定分解したものあるいは蛋白修飾したものでもよい。さらに、該抗体又は抗原を担体粒子に感作してもよい。この場合、例えば測定項目がC反応性タンパク質(CRP)であれば、抗CRP抗体を担体粒子に感作する。
【0019】
免疫測定用試薬は、より高い感度を得るために増感剤を含有してもよい。増感剤としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、デキストラン等の水溶性高分子が挙げられる。また、増感剤として用いるポリエチレングリコールの分子量としては、1000〜70000が好ましく、5000〜30000がより好ましい。
【0020】
免疫測定用試薬は、亜鉛イオン以外の非特異的な反応を抑制する物質を、亜鉛イオンと共に含有してもよい。例えば、脂質タンパク質による非特異的な反応を抑制する物質として非イオン性界面活性剤が挙げられる。このような非イオン性界面活性剤の中でもポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤が好ましく、このようなものとしては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリプロピレンラウリルエーテル、オクチルフェニルエーテル、ノニルフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0021】
また、リウマチ因子による非特異的な反応を抑制する物質としては還元剤が挙げられる。還元剤としては、例えば、チオール化合物、チオール尿素誘導体、ホスフィン誘導体などが挙げられる。具体的には、α−チオグリセロール、2−メルカプトエチルアミン塩酸塩、臭化2−アミノエチルイソチオウロニウム臭化水素酸塩、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィンなどが挙げられる。
【0022】
さらに、免疫測定用試薬は、安定化剤、防腐剤、その他この分野で用いられるものは、試薬などの安定性を阻害したり、抗原抗体反応を阻害したりしないものであれば特に限定されることなく含有してもよい。
【0023】
免疫測定用試薬は、亜鉛イオンを含む第一試薬と被測定物質に対応する抗体又は抗原を含む第二試薬とから構成されるものでもよい。なお、非特異的な反応の影響を効果的に低減する観点から、まず検体と亜鉛イオンを含む第一試薬とを混合して非特異的な反応を抑制し、その混合液に抗体又は抗原を含む第二試薬を混合して測定用試料を調製すること望ましい。
【0024】
また、前記非イオン性界面活性剤や還元剤といった亜鉛イオン以外の非特異的な反応を抑制する物質については、非特異的な反応の影響を効果的に低減する観点から、亜鉛イオンを含む第一試薬に共に含有されることが望ましい。
【0025】
さらに、前記増感剤については、第一試薬及び第二試薬いずれに含有させてもよい。また、前記安定化剤や防腐剤などについては、各物質の作用効果などに応じて第一試薬又は第二試薬に含有させればよい。
【0026】
また、免疫測定用試薬が前記第一試薬と前記第二試薬とから構成され、検体15μL、第一試薬250μL、第二試薬50μLを混合して測定用試料を調製する場合、免疫測定用試薬に含まれる亜鉛イオンの濃度は、好ましくは0.2〜50mMであり、より好ましくは1〜10mMである。
【0027】
なお、上記亜鉛イオンの濃度は、免疫測定用試薬が前記第一試薬と前記第二試薬とからなり、検体15μL、第一試薬250μL、第二試薬50μLを混合して測定用試料を調製する場合の濃度を記載したが、これに限定されない。検体と各試薬の混合割合が異なる場合、免疫測定用試薬に含まれる亜鉛イオンの濃度は、試薬と検体とを混合した後の亜鉛イオンの最終濃度が上記の場合と同様の範囲となるようにすればよい。
【0028】
さらに、免疫測定用試薬は、一つの試薬に亜鉛イオン及び被測定物質に対応する抗体又は抗原が共に含有されるものでもよい。この場合、免疫測定用試薬に含まれる亜鉛イオンの濃度は、試薬と検体とを混合した後の亜鉛イオンの最終濃度が上記の場合と同様の範囲となるようにすればよい。
【0029】
検体としては、例えば血漿、血清、尿などの体液が挙げられる。また、免疫測定用試薬によって測定可能な検体中の被測定物質としては、上記のような免疫測定法において測定可能な被測定物質であれば、特に限定されず、例えば、免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)、補体(C3、C4、C5、C1q)、C反応性タンパク質(CRP)、α1-アンチトリプシン、α1-マイクログロブリン、β2-マイクログロブリン、ハプトグロブリン、トランスフェリン、セルロプラスミン、フェリチン、アルブミン、ヘモグロビンA1、ヘモグロビンA1C、ミオグロビン、ミオシン、デュパン-2、α-フェトプロテイン(AFP)、組織ポリペプチド抗原(TPA)、アポリポ蛋白A1、アポリポ蛋白E、リウマチ因子、抗ストレプトリジンO(ASO)、アンチトロンビン-III(AT-III)等が挙げられる。
【0030】
(実施例1)
検体として血漿を使用し、亜鉛イオンの濃度が異なる6種類の免疫測定用試薬を用いて、亜鉛イオンの添加による非特異的な反応の抑制効果を検証した。
【0031】
免疫測定用試薬は、R1試薬とR2試薬より構成される。R1試薬としては、塩化亜鉛の濃度が0mM(R1試薬A)、2mM(R1試薬B)、4mM(R1試薬C)、6mM(R1試薬D)、8mM(R1試薬E)又は10mM(R1試薬F)と異なる6種類の緩衝液を用いた。以下にR1試薬Aの組成を示す。なお、R1試薬B〜Fは、R1試薬Aに、それぞれ前記した濃度となるように塩化亜鉛を添加したものである。
【0032】
試薬組成(R1試薬A)
ヘペス緩衝液 50mM
塩化ナトリウム 100mM
ポリエチレングリコール(分子量20000) 2.3%(v/v)
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル 1.0%(v/v)
1−チオグリセロール 40mM
EDTA・2Na 1mM
水酸化ナトリウム pHが7.95になる量
【0033】
また、R2試薬としては、以下の組成の緩衝液を用いた。
【0034】
試薬組成(R2試薬)
ヘペス緩衝液 25mM
塩化ナトリウム 500mM
水酸化ナトリウム pHが7.95になる量
【0035】
まず、検体15μLに、R1試薬250μL加え、5分間予備加温した。その後、その混合液にさらにR2試薬50μLを加えた。なお、R1試薬及びR2試薬には、被測定物質に対応する抗体又は抗原が含有されておらず、これら試薬と検体とを混合しても抗原抗体反応は起こらない。ゆえに、被測定物質に対応する抗体又は抗原を含有しない免疫測定用試薬を用いることにより、非特異的な反応を検出することができる。なお、測定は、R1試薬添加直後からR2試薬添加後5分間までの計10分間行った。測定装置は株式会社日立製作所製 日立7170形自動分析装置を使用し、測定波長は、主波長340nm、副波長700nmであり、37℃で測定を実施した。
【0036】
図2は塩化亜鉛の濃度が0mMのR1試薬Aを、図3は塩化亜鉛の濃度が2mMのR1試薬Bを、図4は塩化亜鉛の濃度が4mMのR1試薬Cを、図5は塩化亜鉛の濃度が6mMのR1試薬Dを、図6は塩化亜鉛の濃度が8mMのR1試薬Eを、図7は塩化亜鉛の濃度が10mMのR1試薬Fを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示したものである。なお、日立7170形自動分析装置は、10分間を0〜34のポイントに等分して、各ポイントで吸光度を測定する。各図の横軸は測定ポイントを示し、縦軸は吸光度を示した。
【0037】
図2では、R1試薬を添加してからR2試薬を添加するまで、及び、R2試薬の添加後以降において、時間経過に伴って吸光度が上昇していることが確認された。この吸光度の上昇は、抗原抗体反応以外の反応、つまり非特異的な反応によるものである。一方、図3〜図7では、R1試薬を添加してからR2試薬を添加するまで、及び、R2試薬の添加後以降において、吸光度の上昇は見られず、時間経過に伴って一定の値を示すことが確認された。以上のことから、免疫測定用試薬に塩化亜鉛を添加することにより、非特異的な反応が抑制されることが分かった。なお、検体として用いた血漿中には、フィブリノーゲンなどの凝固因子が含有されている。ゆえに、免疫測定用試薬に塩化亜鉛を添加することにより、フィブリノーゲンなどの凝固因子に起因する非特異的な反応が抑制されると考えられる。
【0038】
(実施例2)
10名の被検者より採取した各血液a〜jから調製した血清a〜j及び血漿a〜jをそれぞれ検体として用いた。また、CRPを被測定物質として、各検体に含まれるCRPを測定した。
【0039】
免疫測定用試薬は、R1試薬とR2試薬より構成される。R1試薬としては、実施例1で用いたR1試薬A(塩化亜鉛 0Mm)又は塩化亜鉛の濃度が5mMのR1試薬Gを用いた。なお、R1試薬Gは、R1試薬Aに5mMの塩化亜鉛を含有させたものである。
【0040】
また、R2試薬としては、CRP抗体を含む以下の組成の試薬を用いた。
【0041】
試薬組成(R2試薬)
ヘペス緩衝液 25mM
塩化ナトリウム 500mM
抗ヒトCRPヤギ血清 1.95mg/mL
水酸化ナトリウム pHが7.95になる量
【0042】
まず、検体15μLに、R1試薬250μL加え、5分間予備加温した。その後、その混合液にさらにR2試薬50μLを加えて、抗原抗体反応を開始させた。測定は、R1試薬添加直後からR2試薬添加後5分間までの計10分間行い、その測定結果に基づいてCRPの濃度を求めた。なお、測定装置は株式会社日立製作所製 日立7170形自動分析装置を使用し、測定波長は、主波長340nm、副波長700nmであり、37℃で測定を実施した。
【0043】
図8は、血清a〜j及び血漿a〜jを検体とし、塩化亜鉛の濃度が0mMのR1試薬Aを用いて測定を行い、得られたCRPの濃度について血清と血漿の相関を示した散布図である。図9は、血清a〜j及び血漿a〜jを検体とし、塩化亜鉛の濃度が5mMのR1試薬Gを用いて測定を行い、得られたCRPの濃度について血清と血漿の相関を示した散布図である。図8及び図9の横軸は血清検体を測定して得られたCRPの濃度(mg/dL)を示し、縦軸は血漿検体を測定して得られたCRPの濃度(mg/dL)を示した。また、各図には、血清検体を測定して得られたCRPの濃度と血漿検体を測定して得られたCRPの濃度の相関の程度を示す相関係数(R2)を示した。
【0044】
図8と図9を比較すると、図9の方が図8の方よりもデータのばらつきが低いことが分かる。また、それぞれの相関係数(R2)を比較すると、図9の方が図8の方よりもR2の値が大きいことが分かる。これより、免疫測定用試薬に塩化亜鉛を添加することにより、血清と血漿の相関性が向上することが分かった。
【0045】
また、図10は、血清c及び血漿cを検体とし、R1試薬Aを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示したものである。図11は、血清c及び血漿cを検体とし、R1試薬Gを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示したものである。図10及び図11において、横軸は測定ポイントを示し、縦軸は吸光度を示した。
【0046】
血清cと血漿cは、同一被検者から得られた血清及び血漿である。図10において、R1試薬に塩化亜鉛が含まれていない場合では、血清cの吸光度変化と血漿cの吸光度変化が大きく異なっている。一方、図11において、R1試薬に塩化亜鉛が含まれている場合では、血清cの吸光度変化と血漿cの吸光度変化がほぼ一致している。以上のことから、免疫測定用試薬に塩化亜鉛を添加することにより、血清と血漿との間に生じる測定値の乖離を解消することが可能であることが分かった。
【0047】
(実施例3)
金属イオンを含有しない免疫測定用試薬、金属イオンを含有する免疫測定用試薬のそれぞれと、アルカリ性の洗浄液とを混合し、沈殿物の生成の有無を検証した。
【0048】
金属イオンを含有しない免疫測定用試薬としては、実施例1で用いたR1試薬Aを用いた。金属イオンを含有する免疫測定用試薬としては、実施例1で用いたR1試薬F(塩化亜鉛 10mM)、実施例2で用いたR1試薬G(塩化亜鉛 5mM)及び5mMの塩化マグネシウムを含むR1試薬Hを用いた。そして、金属イオンを含有しない試薬を用いた場合に得られる吸光度と金属イオンを含有する試薬を用いた場合に得られる吸光度を比較することによって、沈殿物が生成されたか否かを確認した。なお、R1試薬Hは、R1試薬Aに5mMの塩化マグネシウムを含有させたものである。アルカリ性の洗浄液としては、株式会社日立製作所製の自動分析装置で洗浄液として用いられているハイアルカリ‐Dを用いた。
【0049】
免疫測定用試薬(R1試薬A、R1試薬F、R1試薬G又はR1試薬H)とアルカリ性の洗浄液とを10:1の割合で混合し、25℃で所定時間経過後(1時間後、72時間後又は1週間後)にその混合液の吸光度(660nm)を測定した。測定結果を表1に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1における各数値は、R1試薬A(金属イオンなし)、R1試薬F(Zn2+ 10mM)、R1試薬G(Zn2+ 5mM)、R1試薬H(Mg2+ 10mM)をそれぞれ試薬として用いた場合に得られた吸光度(660nm)の値である。
【0052】
表1より、R1試薬Hの場合、1時間後の測定により得られた吸光度は0.076である。さらに、この吸光度とR1試薬Aの場合の吸光度を比較すると、明らかにR1試薬Hの吸光度の方が高い。これより、塩化マグネシウムを含有する試薬とアルカリ性の洗浄液を混合すると沈殿物が生成されることが分かった。なお、R1試薬Hについて、1時間後の測定において沈殿物の生成が確認されたため72時間後及び1週間後の測定は実施しなかった。
【0053】
一方、R1試薬Fの場合の吸光度とR1試薬Aの場合の吸光度を比較すると、1時間後、72時間後、1週間後のいずれの測定においても、類似する結果となった。また、R1試薬Gの場合も同様に、この吸光度とR1試薬Aの場合の吸光度を比較すると、類似する結果となった。以上のことから、塩化亜鉛を含有する試薬とアルカリ性の洗浄液を混合しても沈殿物は生成されないことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】自動分析装置1の構成を示した図である。
【図2】実施例1において、R1試薬Aを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図3】実施例1において、R1試薬Bを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図4】実施例1において、R1試薬Cを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図5】実施例1において、R1試薬Dを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図6】実施例1において、R1試薬Eを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図7】実施例1において、R1試薬Fを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図8】実施例2において、R1試薬Aを用いて測定を行った場合の血清と血漿の相関を示すグラフである。
【図9】実施例2において、R1試薬Gを用いて測定を行った場合の血清と血漿の相関を示すグラフである。
【図10】実施例2において、R1試薬Aを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図11】実施例2において、R1試薬Gを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液を用いる自動分析装置において検体に含まれる被測定物質を測定する被測定物質測定方法及び免疫測定用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査などの分野では、検体に含まれる被測定物質を測定する方法として、被測定物質に対応する抗体又は抗原と被測定物質との抗原抗体反応により生じる濁度変化又は散乱光変化を検出することにより、検体に含まれる被測定物質を測定する免疫測定法が知られている。このような免疫測定法としては、免疫比濁法や免疫比ろう法が挙げられる。
【0003】
前記のような免疫測定法においては、測定用試料中に含まれる被測定物質以外の物質により非特異的な反応が起こる場合がある。そして、この非特異的な反応により、測定用試料の濁りが生じ、被測定物質の正確な測定が妨げられる。
【0004】
非特異的な反応を抑制して被測定物質を測定する方法として、2価の金属イオンを含有する試薬を用いる方法が知られている。
【0005】
特許文献1には、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン、カドミウムイオンなどの2価金属イオンの1つ又は2つ以上を0.0001〜1.0Mの濃度で含有する試薬を用いることで、非特異的な反応を抑制して被測定物質を測定する方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、マグネシウムイオンを含有する試薬を用いることで、非特異的な反応を抑制して被測定物質を測定する方法が記載されている。
【0007】
ところで、従来、前記のような免疫測定法を実施する自動分析装置が知られている。このような自動分析装置には、検体や試薬を送液する流路や検体と試薬が混合される反応容器が設けられており、これら流路や反応容器などの洗浄にアルカリ性の洗浄液が使用される場合がある。そして、アルカリ性の洗浄液が使用される自動分析装置において、例えば、マグネシウムイオンを含む試薬を用いると、洗浄後の洗浄液や測定終了後の各種試料や試薬といった廃液が流れる部分においてマグネシウムイオンによる析出物が生成され、装置内に詰まりが生じるという問題が発生する場合がある。
【0008】
【特許文献1】特開昭56−2555
【0009】
【特許文献2】特開平08−211057
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、検体中の被測定物質以外の物質による非特異的な反応を抑制し、且つ自動分析装置においてアルカリ性の洗浄液を使用する場合であっても装置内の詰まりを防止できる被測定物質測定方法及び免疫測定用試薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題に鑑み本発明は、洗浄液を用いる自動分析装置において検体に含まれる被測定物質を測定する被測定物質測定方法であって、亜鉛イオン存在下で被測定物質と被測定物質に対応する抗体又は抗原との抗原抗体反応を生じさせ、その抗原抗体反応によって生じる濁度変化又は散乱光変化に基づいて被測定物質を測定する被測定物質測定方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、洗浄液による洗浄を実施可能な自動分析装置用の免疫測定用試薬であって、被測定物質に対応する抗体又は抗原及と亜鉛イオンとを含有する免疫測定用試薬を提供する。
【発明の効果】
【0013】
免疫測定において本発明の被測定物質測定方法又は免疫測定用試薬を用いることにより、検体中の被測定物質以外の物質による非特異的な反応を抑制し、且つ自動分析装置においてアルカリ性の洗浄液が用いられた場合でも装置内の詰まりを防止することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本実施形態の免疫測定用試薬は、被測定物質に対応する抗体又は抗原と被測定物質との抗原抗体反応により生じる濁度変化又は散乱光変化に基づいて検体に含まれる被測定物質を測定する免疫測定方法を実施する自動分析装置に用いられる免疫測定用試薬である。前記のような免疫測定方法としては、免疫比濁法や免疫比ろう法が挙げられる。さらに、被測定物質に対応する抗体又は抗原を感作した担体粒子を用いる免疫比濁法や免疫比ろう法が挙げられる。
【0015】
図1は、自動分析装置の構成を示した図である。自動分析装置1には、検体をセットする検体セット部2、試薬をセットする試薬セット部3、洗浄液をセットする洗浄液セット部4、洗浄液を用いて洗浄する洗浄機構5、検体や試薬を分注する分注機構6、検体と試薬が混合される反応容器7、反応容器7がセットされる反応部8、測定機構9、全体を制御するコンピューター10等が設けられており、さらに、検体、試薬や廃液などの各種液体が流れる流路が設けられている。ここで、反応容器7とは、検体や試薬が分注されたり、それぞれが混合されたり、測定用試料が調製されたりするところである。そして、前記反応容器7や流路などの洗浄には、アルカリ性の洗浄液が使用される場合が多い。アルカリ性の洗浄液としては、一般的にpH8以上の洗浄液が用いられており、例えば、日立株式会社製 ハイアルカリ-DやHITERGENT、東芝株式社製 Bianch 14がある。
【0016】
免疫測定用試薬は、非特異的な反応を抑制し、且つ自動分析装置においてアルカリ性の洗浄液が用いられた場合でも装置内の詰まりを防止するために、亜鉛イオンを含有する。ここで、非特異的な反応とは、抗原抗体反応以外の反応のことであり、測定用試料中に含まれる被測定物質以外の物質に起因することが知られている。このような非特異的な反応が起こると、測定用試料に濁りが生じ、被測定物質の正確な測定が妨げられる。本実施形態の免疫測定用試薬により影響が抑制される非特異的な反応の原因物質としては、特に限定されないが、例えば、フィブリノーゲンなどの凝固因子が挙げられる。フィブリノーゲンなどの凝固因子は、血清には含まれず、血漿に含まれるので、血漿に特有の非特異的な反応の原因物質となる。この血漿に特有の非特異的な反応の原因物質により、血清を用いた場合の測定値と血漿を用いた場合の測定値との間に乖離が生じるという問題がある。そのような場合、本実施形態の免疫測定用試薬を用いることにより、前記の問題を解決することができる。また、血清を調製する際に凝固因子を完全に排除することができず、凝固因子の一部が血清中に残る場合がある。そのような場合であっても、本実施形態の免疫測定用試薬を用いることにより、血清中に残った凝固因子の影響を排除し、正確な測定を行うことができる。
【0017】
免疫測定用試薬に含まれる亜鉛イオンとしては、特に限定されるものではないが、例えば塩化亜鉛や硫酸亜鉛等の化合物由来の亜鉛イオンが挙げられる。なお、免疫測定用試薬は、前記化合物を水や緩衝液など適当な液体に溶解させたものであってもよい。前記緩衝液としては、特に限定されず、例えばヘペス緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液などが挙げられる。また、免疫測定用試薬のpHとしては、抗原抗体反応を抑制しない範囲であれば特に限定されないが、pH 4〜10が好ましく、pH 6〜8がより好ましい。
【0018】
免疫測定用試薬は、さらに被測定物質に対応する抗体又は抗原を含有する。ここで、被測定物質に対応する抗体又は抗原とは、被測定物質がタンパク質、酵素、ホルモンの場合はこれらに対する抗体を表し、被測定物質が抗体であればその抗原を表す。被測定物質に対する抗体又は抗原は天然のものを用いてもよいし、被測定物質から公知の方法により得られるものを用いてもよい。該抗体又は抗原は、複数の抗体又は抗原からなるものでのよく、抗体又は抗原を限定分解したものあるいは蛋白修飾したものでもよい。さらに、該抗体又は抗原を担体粒子に感作してもよい。この場合、例えば測定項目がC反応性タンパク質(CRP)であれば、抗CRP抗体を担体粒子に感作する。
【0019】
免疫測定用試薬は、より高い感度を得るために増感剤を含有してもよい。増感剤としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、デキストラン等の水溶性高分子が挙げられる。また、増感剤として用いるポリエチレングリコールの分子量としては、1000〜70000が好ましく、5000〜30000がより好ましい。
【0020】
免疫測定用試薬は、亜鉛イオン以外の非特異的な反応を抑制する物質を、亜鉛イオンと共に含有してもよい。例えば、脂質タンパク質による非特異的な反応を抑制する物質として非イオン性界面活性剤が挙げられる。このような非イオン性界面活性剤の中でもポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤が好ましく、このようなものとしては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリプロピレンラウリルエーテル、オクチルフェニルエーテル、ノニルフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0021】
また、リウマチ因子による非特異的な反応を抑制する物質としては還元剤が挙げられる。還元剤としては、例えば、チオール化合物、チオール尿素誘導体、ホスフィン誘導体などが挙げられる。具体的には、α−チオグリセロール、2−メルカプトエチルアミン塩酸塩、臭化2−アミノエチルイソチオウロニウム臭化水素酸塩、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィンなどが挙げられる。
【0022】
さらに、免疫測定用試薬は、安定化剤、防腐剤、その他この分野で用いられるものは、試薬などの安定性を阻害したり、抗原抗体反応を阻害したりしないものであれば特に限定されることなく含有してもよい。
【0023】
免疫測定用試薬は、亜鉛イオンを含む第一試薬と被測定物質に対応する抗体又は抗原を含む第二試薬とから構成されるものでもよい。なお、非特異的な反応の影響を効果的に低減する観点から、まず検体と亜鉛イオンを含む第一試薬とを混合して非特異的な反応を抑制し、その混合液に抗体又は抗原を含む第二試薬を混合して測定用試料を調製すること望ましい。
【0024】
また、前記非イオン性界面活性剤や還元剤といった亜鉛イオン以外の非特異的な反応を抑制する物質については、非特異的な反応の影響を効果的に低減する観点から、亜鉛イオンを含む第一試薬に共に含有されることが望ましい。
【0025】
さらに、前記増感剤については、第一試薬及び第二試薬いずれに含有させてもよい。また、前記安定化剤や防腐剤などについては、各物質の作用効果などに応じて第一試薬又は第二試薬に含有させればよい。
【0026】
また、免疫測定用試薬が前記第一試薬と前記第二試薬とから構成され、検体15μL、第一試薬250μL、第二試薬50μLを混合して測定用試料を調製する場合、免疫測定用試薬に含まれる亜鉛イオンの濃度は、好ましくは0.2〜50mMであり、より好ましくは1〜10mMである。
【0027】
なお、上記亜鉛イオンの濃度は、免疫測定用試薬が前記第一試薬と前記第二試薬とからなり、検体15μL、第一試薬250μL、第二試薬50μLを混合して測定用試料を調製する場合の濃度を記載したが、これに限定されない。検体と各試薬の混合割合が異なる場合、免疫測定用試薬に含まれる亜鉛イオンの濃度は、試薬と検体とを混合した後の亜鉛イオンの最終濃度が上記の場合と同様の範囲となるようにすればよい。
【0028】
さらに、免疫測定用試薬は、一つの試薬に亜鉛イオン及び被測定物質に対応する抗体又は抗原が共に含有されるものでもよい。この場合、免疫測定用試薬に含まれる亜鉛イオンの濃度は、試薬と検体とを混合した後の亜鉛イオンの最終濃度が上記の場合と同様の範囲となるようにすればよい。
【0029】
検体としては、例えば血漿、血清、尿などの体液が挙げられる。また、免疫測定用試薬によって測定可能な検体中の被測定物質としては、上記のような免疫測定法において測定可能な被測定物質であれば、特に限定されず、例えば、免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)、補体(C3、C4、C5、C1q)、C反応性タンパク質(CRP)、α1-アンチトリプシン、α1-マイクログロブリン、β2-マイクログロブリン、ハプトグロブリン、トランスフェリン、セルロプラスミン、フェリチン、アルブミン、ヘモグロビンA1、ヘモグロビンA1C、ミオグロビン、ミオシン、デュパン-2、α-フェトプロテイン(AFP)、組織ポリペプチド抗原(TPA)、アポリポ蛋白A1、アポリポ蛋白E、リウマチ因子、抗ストレプトリジンO(ASO)、アンチトロンビン-III(AT-III)等が挙げられる。
【0030】
(実施例1)
検体として血漿を使用し、亜鉛イオンの濃度が異なる6種類の免疫測定用試薬を用いて、亜鉛イオンの添加による非特異的な反応の抑制効果を検証した。
【0031】
免疫測定用試薬は、R1試薬とR2試薬より構成される。R1試薬としては、塩化亜鉛の濃度が0mM(R1試薬A)、2mM(R1試薬B)、4mM(R1試薬C)、6mM(R1試薬D)、8mM(R1試薬E)又は10mM(R1試薬F)と異なる6種類の緩衝液を用いた。以下にR1試薬Aの組成を示す。なお、R1試薬B〜Fは、R1試薬Aに、それぞれ前記した濃度となるように塩化亜鉛を添加したものである。
【0032】
試薬組成(R1試薬A)
ヘペス緩衝液 50mM
塩化ナトリウム 100mM
ポリエチレングリコール(分子量20000) 2.3%(v/v)
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル 1.0%(v/v)
1−チオグリセロール 40mM
EDTA・2Na 1mM
水酸化ナトリウム pHが7.95になる量
【0033】
また、R2試薬としては、以下の組成の緩衝液を用いた。
【0034】
試薬組成(R2試薬)
ヘペス緩衝液 25mM
塩化ナトリウム 500mM
水酸化ナトリウム pHが7.95になる量
【0035】
まず、検体15μLに、R1試薬250μL加え、5分間予備加温した。その後、その混合液にさらにR2試薬50μLを加えた。なお、R1試薬及びR2試薬には、被測定物質に対応する抗体又は抗原が含有されておらず、これら試薬と検体とを混合しても抗原抗体反応は起こらない。ゆえに、被測定物質に対応する抗体又は抗原を含有しない免疫測定用試薬を用いることにより、非特異的な反応を検出することができる。なお、測定は、R1試薬添加直後からR2試薬添加後5分間までの計10分間行った。測定装置は株式会社日立製作所製 日立7170形自動分析装置を使用し、測定波長は、主波長340nm、副波長700nmであり、37℃で測定を実施した。
【0036】
図2は塩化亜鉛の濃度が0mMのR1試薬Aを、図3は塩化亜鉛の濃度が2mMのR1試薬Bを、図4は塩化亜鉛の濃度が4mMのR1試薬Cを、図5は塩化亜鉛の濃度が6mMのR1試薬Dを、図6は塩化亜鉛の濃度が8mMのR1試薬Eを、図7は塩化亜鉛の濃度が10mMのR1試薬Fを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示したものである。なお、日立7170形自動分析装置は、10分間を0〜34のポイントに等分して、各ポイントで吸光度を測定する。各図の横軸は測定ポイントを示し、縦軸は吸光度を示した。
【0037】
図2では、R1試薬を添加してからR2試薬を添加するまで、及び、R2試薬の添加後以降において、時間経過に伴って吸光度が上昇していることが確認された。この吸光度の上昇は、抗原抗体反応以外の反応、つまり非特異的な反応によるものである。一方、図3〜図7では、R1試薬を添加してからR2試薬を添加するまで、及び、R2試薬の添加後以降において、吸光度の上昇は見られず、時間経過に伴って一定の値を示すことが確認された。以上のことから、免疫測定用試薬に塩化亜鉛を添加することにより、非特異的な反応が抑制されることが分かった。なお、検体として用いた血漿中には、フィブリノーゲンなどの凝固因子が含有されている。ゆえに、免疫測定用試薬に塩化亜鉛を添加することにより、フィブリノーゲンなどの凝固因子に起因する非特異的な反応が抑制されると考えられる。
【0038】
(実施例2)
10名の被検者より採取した各血液a〜jから調製した血清a〜j及び血漿a〜jをそれぞれ検体として用いた。また、CRPを被測定物質として、各検体に含まれるCRPを測定した。
【0039】
免疫測定用試薬は、R1試薬とR2試薬より構成される。R1試薬としては、実施例1で用いたR1試薬A(塩化亜鉛 0Mm)又は塩化亜鉛の濃度が5mMのR1試薬Gを用いた。なお、R1試薬Gは、R1試薬Aに5mMの塩化亜鉛を含有させたものである。
【0040】
また、R2試薬としては、CRP抗体を含む以下の組成の試薬を用いた。
【0041】
試薬組成(R2試薬)
ヘペス緩衝液 25mM
塩化ナトリウム 500mM
抗ヒトCRPヤギ血清 1.95mg/mL
水酸化ナトリウム pHが7.95になる量
【0042】
まず、検体15μLに、R1試薬250μL加え、5分間予備加温した。その後、その混合液にさらにR2試薬50μLを加えて、抗原抗体反応を開始させた。測定は、R1試薬添加直後からR2試薬添加後5分間までの計10分間行い、その測定結果に基づいてCRPの濃度を求めた。なお、測定装置は株式会社日立製作所製 日立7170形自動分析装置を使用し、測定波長は、主波長340nm、副波長700nmであり、37℃で測定を実施した。
【0043】
図8は、血清a〜j及び血漿a〜jを検体とし、塩化亜鉛の濃度が0mMのR1試薬Aを用いて測定を行い、得られたCRPの濃度について血清と血漿の相関を示した散布図である。図9は、血清a〜j及び血漿a〜jを検体とし、塩化亜鉛の濃度が5mMのR1試薬Gを用いて測定を行い、得られたCRPの濃度について血清と血漿の相関を示した散布図である。図8及び図9の横軸は血清検体を測定して得られたCRPの濃度(mg/dL)を示し、縦軸は血漿検体を測定して得られたCRPの濃度(mg/dL)を示した。また、各図には、血清検体を測定して得られたCRPの濃度と血漿検体を測定して得られたCRPの濃度の相関の程度を示す相関係数(R2)を示した。
【0044】
図8と図9を比較すると、図9の方が図8の方よりもデータのばらつきが低いことが分かる。また、それぞれの相関係数(R2)を比較すると、図9の方が図8の方よりもR2の値が大きいことが分かる。これより、免疫測定用試薬に塩化亜鉛を添加することにより、血清と血漿の相関性が向上することが分かった。
【0045】
また、図10は、血清c及び血漿cを検体とし、R1試薬Aを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示したものである。図11は、血清c及び血漿cを検体とし、R1試薬Gを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示したものである。図10及び図11において、横軸は測定ポイントを示し、縦軸は吸光度を示した。
【0046】
血清cと血漿cは、同一被検者から得られた血清及び血漿である。図10において、R1試薬に塩化亜鉛が含まれていない場合では、血清cの吸光度変化と血漿cの吸光度変化が大きく異なっている。一方、図11において、R1試薬に塩化亜鉛が含まれている場合では、血清cの吸光度変化と血漿cの吸光度変化がほぼ一致している。以上のことから、免疫測定用試薬に塩化亜鉛を添加することにより、血清と血漿との間に生じる測定値の乖離を解消することが可能であることが分かった。
【0047】
(実施例3)
金属イオンを含有しない免疫測定用試薬、金属イオンを含有する免疫測定用試薬のそれぞれと、アルカリ性の洗浄液とを混合し、沈殿物の生成の有無を検証した。
【0048】
金属イオンを含有しない免疫測定用試薬としては、実施例1で用いたR1試薬Aを用いた。金属イオンを含有する免疫測定用試薬としては、実施例1で用いたR1試薬F(塩化亜鉛 10mM)、実施例2で用いたR1試薬G(塩化亜鉛 5mM)及び5mMの塩化マグネシウムを含むR1試薬Hを用いた。そして、金属イオンを含有しない試薬を用いた場合に得られる吸光度と金属イオンを含有する試薬を用いた場合に得られる吸光度を比較することによって、沈殿物が生成されたか否かを確認した。なお、R1試薬Hは、R1試薬Aに5mMの塩化マグネシウムを含有させたものである。アルカリ性の洗浄液としては、株式会社日立製作所製の自動分析装置で洗浄液として用いられているハイアルカリ‐Dを用いた。
【0049】
免疫測定用試薬(R1試薬A、R1試薬F、R1試薬G又はR1試薬H)とアルカリ性の洗浄液とを10:1の割合で混合し、25℃で所定時間経過後(1時間後、72時間後又は1週間後)にその混合液の吸光度(660nm)を測定した。測定結果を表1に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1における各数値は、R1試薬A(金属イオンなし)、R1試薬F(Zn2+ 10mM)、R1試薬G(Zn2+ 5mM)、R1試薬H(Mg2+ 10mM)をそれぞれ試薬として用いた場合に得られた吸光度(660nm)の値である。
【0052】
表1より、R1試薬Hの場合、1時間後の測定により得られた吸光度は0.076である。さらに、この吸光度とR1試薬Aの場合の吸光度を比較すると、明らかにR1試薬Hの吸光度の方が高い。これより、塩化マグネシウムを含有する試薬とアルカリ性の洗浄液を混合すると沈殿物が生成されることが分かった。なお、R1試薬Hについて、1時間後の測定において沈殿物の生成が確認されたため72時間後及び1週間後の測定は実施しなかった。
【0053】
一方、R1試薬Fの場合の吸光度とR1試薬Aの場合の吸光度を比較すると、1時間後、72時間後、1週間後のいずれの測定においても、類似する結果となった。また、R1試薬Gの場合も同様に、この吸光度とR1試薬Aの場合の吸光度を比較すると、類似する結果となった。以上のことから、塩化亜鉛を含有する試薬とアルカリ性の洗浄液を混合しても沈殿物は生成されないことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】自動分析装置1の構成を示した図である。
【図2】実施例1において、R1試薬Aを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図3】実施例1において、R1試薬Bを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図4】実施例1において、R1試薬Cを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図5】実施例1において、R1試薬Dを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図6】実施例1において、R1試薬Eを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図7】実施例1において、R1試薬Fを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図8】実施例2において、R1試薬Aを用いて測定を行った場合の血清と血漿の相関を示すグラフである。
【図9】実施例2において、R1試薬Gを用いて測定を行った場合の血清と血漿の相関を示すグラフである。
【図10】実施例2において、R1試薬Aを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【図11】実施例2において、R1試薬Gを用いて測定を行った場合の吸光度の変化を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を用いる自動分析装置において検体に含まれる被測定物質を測定する被測定物質測定方法であって、亜鉛イオン存在下で被測定物質と被測定物質に対応する抗体又は抗原との抗原抗体反応を生じさせ、その抗原抗体反応によって生じる濁度変化又は散乱光変化に基づいて被測定物質を測定する被測定物質測定方法。
【請求項2】
前記自動分析装置が前記抗原抗体反応を行わせるための反応容器を備えており、前記洗浄液が反応容器を洗浄する請求項1に記載の被測定物質測定方法。
【請求項3】
前記洗浄液がアルカリ性である請求項1又は請求項2に記載の被測定物質測定方法。
【請求項4】
洗浄液による洗浄を実施可能な自動分析装置用の免疫測定用試薬であって、被測定物質に対応する抗体又は抗原及と亜鉛イオンとを含有する免疫測定用試薬。
【請求項5】
前記洗浄液がアルカリ性である請求項4に記載の免疫測定用試薬。
【請求項6】
前記免疫測定用試薬が第一試薬と第二試薬からなり、前記第一試薬が亜鉛イオンを含有し、前記第二試薬が被測定物質に対応する抗体又は抗原を含有する請求項4又は請求項5に記載の免疫測定用試薬。
【請求項7】
前記第一試薬が、さらに、増感剤を含有する請求項4〜6のいずれか一項に記載の免疫測定用試薬。
【請求項8】
前記第一試薬が、さらに、非イオン性界面活性剤を含有する請求項4〜7のいずれか一項に記載の免疫測定用試薬。
【請求項9】
前記第一試薬が、さらに、還元剤を含有する請求項4〜8のいずれか一項に記載の免疫測定用試薬。
【請求項10】
前記被測定物質がC反応性タンパク質(CRP)である請求項4〜9のいずれか一項に記載の免疫測定用試薬。
【請求項1】
洗浄液を用いる自動分析装置において検体に含まれる被測定物質を測定する被測定物質測定方法であって、亜鉛イオン存在下で被測定物質と被測定物質に対応する抗体又は抗原との抗原抗体反応を生じさせ、その抗原抗体反応によって生じる濁度変化又は散乱光変化に基づいて被測定物質を測定する被測定物質測定方法。
【請求項2】
前記自動分析装置が前記抗原抗体反応を行わせるための反応容器を備えており、前記洗浄液が反応容器を洗浄する請求項1に記載の被測定物質測定方法。
【請求項3】
前記洗浄液がアルカリ性である請求項1又は請求項2に記載の被測定物質測定方法。
【請求項4】
洗浄液による洗浄を実施可能な自動分析装置用の免疫測定用試薬であって、被測定物質に対応する抗体又は抗原及と亜鉛イオンとを含有する免疫測定用試薬。
【請求項5】
前記洗浄液がアルカリ性である請求項4に記載の免疫測定用試薬。
【請求項6】
前記免疫測定用試薬が第一試薬と第二試薬からなり、前記第一試薬が亜鉛イオンを含有し、前記第二試薬が被測定物質に対応する抗体又は抗原を含有する請求項4又は請求項5に記載の免疫測定用試薬。
【請求項7】
前記第一試薬が、さらに、増感剤を含有する請求項4〜6のいずれか一項に記載の免疫測定用試薬。
【請求項8】
前記第一試薬が、さらに、非イオン性界面活性剤を含有する請求項4〜7のいずれか一項に記載の免疫測定用試薬。
【請求項9】
前記第一試薬が、さらに、還元剤を含有する請求項4〜8のいずれか一項に記載の免疫測定用試薬。
【請求項10】
前記被測定物質がC反応性タンパク質(CRP)である請求項4〜9のいずれか一項に記載の免疫測定用試薬。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−194746(P2006−194746A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6889(P2005−6889)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
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