説明

被覆軟カプセル剤

【構成】 表面をショ糖脂肪酸エステルで被覆されている被覆軟カプセル剤およびその製造方法。ショ糖脂肪酸エステルの被覆量は、軟カプセル剤の全重量に対し、0.001%以上であることが好ましい。
【効果】 ショ糖脂肪酸エステルで被覆された軟カプセル剤は保存安定性に優れ、温度37℃で湿度75%の条件下でも結着せず、取り扱い容易である。しかも、被覆されていない物と比較して崩壊性に変化がなく、医薬および健康栄養食品のためのカプセル剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は保存安定性の優れた軟カプセル剤、並びにその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術と発明が解決すべき課題】軟カプセル剤は、ゼラチン、グリセリン、水を主成分とする皮膜で形成された殻内に油状、顆粒状、粉末状等の成分を充填した剤形であって、医薬および食品分野に広範囲に利用されている。ゼラチン、グリセリンおよび水の割合を変化させることで剤皮の硬さを調整することができる。特に、皮膜中に含まれる水分量(通常、5〜12%)により硬さは著しく変化する。水分が多いと軟化し、滑沢性および滑走性が悪くなり、瓶等の容器に小分けした場合に容器内壁に付着したり相互に結着し、時には離れなくなる。温度が37℃以上になるとゼラチン自体に粘性が生じて上記傾向が大きくなる。逆に水分が少ないと、皮膜が硬化して軟カプセル剤としての特性が生かされず、僅かな衝撃でひび割れ、時には内容物が出てしまう。このように、軟カプセル剤の製造管理並びに品質管理において皮膜中の水分を一定割合に保つことは極めて重要であり、そのために非常な労力が費やされている(一般に製造時の皮膜水分は7%〜11%の間で管理されている)。軟カプセル剤の皮膜の含水率の変化を防止するために、カルナウバロウで被覆する方法が提供された(特開昭56−156212号公報)。しかし、広範囲におよぶ軟カプセル剤の用途に鑑みて、保存安定性に優れた軟カプセル剤への需要はさらに高まっている。
【0003】
【課題を解決するための手段】本発明者らは軟カプセル剤をショ糖脂肪酸エステルで被覆すると、皮膜中の水分含有率が多少変化してもカプセル相互の結着が起きないことを見いだし、本発明を完成するに至った。即ち、本発明はショ糖脂肪酸エステルにより被覆されていることを特徴とする被覆軟カプセル剤を提供するものである。
【0004】本発明における軟カプセル剤とは、セラチンを主体として、グリセリン、ソルビトール、水等を用いて一般的に製造される軟カプセル剤であり、剤皮中に充填される内容物は医薬品または栄養補助食品等が配合された油性液、顆粒または粉末等である。
【0005】本発明で使用されるショ糖脂肪酸エステルは食品等に一般的に用いられている添加物であり、打錠製品における滑沢剤や可塑剤として使用されているが、軟カプセル剤の結着防止に利用された例はない。ショ糖脂肪酸エステルは市販品を利用することができ、第一工業製薬株式会社製造のDKエステルF20Wが特に好ましい。ショ糖脂肪酸エステルによる軟カプセル剤の表面処理は、類似の場合に用いられる当業者既知の方法で行うことができる。例えば、市販のショ脂肪酸エステルを100メッシュの篩で処理して微粒子状に整粒し、コーティングパン内に入れた軟カプセル剤に、転動させながらふりかける方法によって行うことができる。しかし、本発明は、特定の被覆手段に限定されるものでは決してなく、軟カプセル剤表面に微粒子状のショ糖脂肪酸エステルを均一にコーティングすることができる限り、任意の手段を用いて達成される。
【0006】コーティングに要するショ糖脂肪酸エステルの必要量はカプセル皮膜の含水率には大きく左右されない。即ち、軟カプセル剤の全重量に対し、約0.01%以上であれば、カプセル相互の結着を防止することができる。好ましくは軟カプセル剤に対して約0.001〜約0.01重量%の範囲である。これ以上であってもカプセルの品質自体には悪影響を及ぼさないが、軟カプセル剤皮膜の透明感が損なわれ、商品価値が低下する場合がある。ただし、透明感を問われないカプセル剤においては、上記の範囲以上の量のショ糖脂肪酸エステルを用いてもよいことは言うまでもない。
【0007】本発明のショ糖脂肪酸エステルで被覆された軟カプセル剤は、温度37℃、湿度75%の条件下で保存安定性に優れ、取り扱い容易である上、被覆されていないものと同様の崩壊性を示し、極めて有用性が高い。従って、本発明はまたショ糖脂肪酸エステルで軟カプセル剤の表面を処理することを特徴とする被覆軟カプセル剤の製造方法を提供するものである。以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。
【0008】
【実施例】
実施例11カプセル当たりd−α−トコフェロール100mgを含有するオバール5型軟カプセル剤1kg(約2,222カプセル)をコーティングパン(内径30cm)に入れて回転させる。あらかじめショ糖脂肪酸エステルを100メッシュの篩にかけておき、これを回転しているカプセルに少量づつふりかけて表面を被覆する。その後布引パンに移し、回転させ、より均一に被覆する。得られたカプセルはカプセル重量に対して0.001%の被覆量である。カプセル皮膜中の水分含有量は7.0%である。
【0009】実施例21カプセル当たりβ−カロチン6mgを含有するオバール5型軟カプセル剤1kg(約2,222カプセル)をコーティングパン(内径30cm)に入れて回転させる。あらかじめショ糖脂肪酸エステルを100メッシュの篩にかけておき、これを回転しているカプセルに少量づつふりかけて表面を被覆する。その後、布引パンに移し、回転させ、より均ーに被覆する。得られたカプセルはカプセル重量に対して0.01%の被覆量である。カプセル皮膜中の水分含有量は8.0%である。
【0010】実験例1実施例1と同様にして被覆量の異なる被覆軟カプセル剤を製造し、それらの結着傾向を以下の方法で試験した。
方法実験は従来のカプセル剤の結着が観察される条件、温度37℃、湿度75%で行う。120カプセルを密栓したガラス瓶に入れ、この条件下で最高90日間保存し、一定期間経過後のカプセル剤の結着性を以下の判定基準にて4段階評価した。
○:瓶を逆にしてかるく振るとすべてのカプセルが落下する。
△:瓶を逆にして振っても落ちないが、手等で軽く取ると落下する。
X:瓶を逆にして振ること、手で取ることのいずれでも落下しない。
結果を表1に示す。
【0011】
【表1】


表1の結果から、被覆量0.001%ではガラス瓶内面への粘着およびカプセル相互の結着が多少認められるが問題となる程度ではない。
【0012】実験例2実施例1と同様にして被覆量の異なる被覆軟カプセル剤を製造し、それらの崩壊性を第12改正日本薬局方崩壊試験の項に規定される第一試験液(37℃に保温)に試料を入れ、崩壊時間を測定した。また、同一の試料について、カプセルの透明度を以下に示す判定基準によって3段階評価した。
○:透明。
△:少し曇りがある。
X:曇りがある。
結果を表2に示す。
【0013】
【表2】


表2の結果から、ショ糖脂肪酸エステルによる被覆の崩壊時間への影響はまったく認められない。ただし被覆量0.007以上で透明度が少し低下するが、実施例2のカプセル剤のような着色したカプセルであれば問題とならない。
【0014】
【効果】本発明のショ糖脂肪酸エステルで被覆された軟カプセル剤は、温度変化に安定で保存安定性に優れ、取り扱い容易である上、被覆されていないものと比較して崩壊性に変化がなく有用性が高いために、治療医学および健康医学面で安心して用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ショ糖脂肪酸エステルにより被覆されていることを特徴とする被覆軟カプセル剤。
【請求項2】 ショ糖脂肪酸エステルの被覆量が軟カプセル剤の全重量に対し、0.001%以上である請求項1の被覆軟カプセル剤。
【請求項3】 ショ糖脂肪酸エステルで軟カプセル剤の表面を処理することを特徴とする被覆軟カプセル剤の製造法。
【請求項4】 ショ糖脂肪酸エステルが軟カプセル剤の全重量の0.001%以上である請求項3の被覆軟カプセル剤の製造法。