説明

被験者健康状態見守り装置

【課題】
本発明の目的は、就寝中の被験者の生体データを利用した身体状態把握の信頼性を高めて正確な身体状態把握が行える被験者健康状態見守り装置を提供することにある。
【解決手段】
心拍フィルタ13,呼吸フィルタ14,イビキフィルタ15,体動フィルタ16は心拍信号,呼吸信号,イビキ信号及び体動信号を検出する生体信号検出装置を構成する。ピーク位置判定部17,18は心拍信号または呼吸信号を入力してから信号増加時の計測時間だけ単位時間毎に変化率を求めて、最大変化率の単位時間位置を心拍信号または呼吸信号のピーク位置と判定する。心拍信号あるいは呼吸信号の増加時における単位時間毎の変化率を求めて、最大変化率の単位時間位置を心拍信号あるいは呼吸信号のピーク位置と判定する。データ処理手段25は心拍信号あるいは呼吸信号のピーク間周期を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や介護を必要とする被介護者などの被験者の健康状態を管理する被験者健康状態見守り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者の人口が増大する傾向にあり、いわゆる高齢化社会に変わりつつある。このため、高齢者に対しての介護負担が増大し、特に在宅介護の場合には常に気を配る必要がある。このためには、被験者の健康状態つまり身体状態を常に把握することが要求される。
【0003】
被験者に身体的及び精神的負担を与えずに、被験者の健康状態を無侵襲、すなわち無拘束でかつ継続的に把握する方法として、被験者の身体の下にエアマットを敷いて、そのエアマットに加わる圧力変化を測定することによって被験者の心拍,呼吸,イビキ,体動
(寝返り)等の生体データを測定する技術が提案されている。このことは、例えば、下記の特許文献1に記載されている。
【0004】
被験者の心拍動,呼吸動,イビキはエアマットからエアチューブを介して伝達される微振動(微差圧)による空気振動をマイクロフォンなどの音波センサで電気信号に変換し、周波数弁別して検出している。また、体動は絶対圧力センサで検出するようにしている。
【0005】
ところで、心拍,呼吸は心拍数や呼吸数だけでなく、心拍信号あるいは呼吸信号のピーク間周期を測定することが血管の詰り状態を予防診断するために有効であると云われている。呼吸信号のピーク間周期を測定することは、例えば、下記の特許文献2に記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−218604号公報
【特許文献2】特開2001−46347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術は、心拍信号や呼吸信号をエアマットの微振動(微差圧)による空気振動を音波センサで検出している。ところが、被験者によって信号波形が歪んでピーク位置を検出できなくなる。このため、心拍信号あるいは呼吸信号のピーク間周期を精度良く測定できないという問題点を有する。生体データを利用した健康状態の誤判断事態が度々発生すると、信頼性を損ない、真に必要とした正しい対応ができなくなるという虞がある。
【0008】
本発明の目的は、就寝中の被験者の生体データを利用した身体状態把握の信頼性を高めて正確な身体状態把握が行える被験者健康状態見守り装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴とするところは、心拍信号あるいは呼吸信号の増加時における計測時間の単位時間毎の変化率を求めて、最大変化率の単位時間位置を心拍信号あるいは呼吸信号のピーク位置と判定して、心拍信号あるいは呼吸信号のピーク間周期を測定するようにしたことにある。
【0010】
具体的には、ピーク位置判定は心拍信号あるいは呼吸信号を入力してから信号増加時の計測時間だけ単位時間毎に変化率を求めて、最大変化率の単位時間位置を心拍信号あるいは呼吸信号のピーク位置と判定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は心拍信号あるいは呼吸信号の増加時における単位時間毎の変化率を求めて、最大変化率の単位時間位置を心拍信号あるいは呼吸信号のピーク位置と判定している。本発明者達が実測したところ、心拍信号あるいは呼吸信号の増加時における単位時間の最大変化率(最大速度)の単位時間位置が心拍信号あるいは呼吸信号のピーク位置となることが確認されている。したがって、心拍信号あるいは呼吸信号のピーク間周期を精度良く測定でき、就寝中の被験者の生体データを利用した身体状態把握の信頼性を高めて正確な身体状態把握が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態について図を参照して説明する。
【0013】
〔発明の実施の形態〕
図1〜図4に本発明の一実施例を示す。図1は全体構成図、図2は本発明の一実施例を示す構成図、図3は端末装置の一例構成図、図4は端末装置におけるピーク位置判定部の一例構成図である。
【0014】
図1,図2において、生体データを採るエアマット1をベッド5の上に設置し、エアチューブ2で圧力センサ装置3とエアマット1を接続している。エアマット1の圧力変化は圧力センサ装置3に伝達される。エアマット1としては、例えば、特開2002−52009号公報に記載されているように、上生地と下生地の間を部分的(メッシュ状交点)に接着したものが用いられる。
【0015】
被験者6は通常の状態でエアマット1の上で就寝する。被験者6の身体に起因する振動がエアマット1に伝達されるので、エアマット1の内部圧力が変化する。エアマット1の内部圧力はエアチューブ2を介して圧力センサ装置3に入力される。圧力センサ装置3はマイクロフォンなどの音波センサ3aと絶対圧力センサ3bから構成される。
【0016】
音波センサ3aは圧力変動による超低周波音を検出し、また、絶対圧力センサ3bはエアマット1の内部圧力の絶対圧力を検出する。絶対圧力センサ3bは被験者6の寝返りなどの体動と被験者6がエアマット1上にいるかを検出するために設けられている。
【0017】
音波センサ3aで検出された超低周波音は演算増幅器7を介してA/D変換器9に加えられデジィタル信号に変換され端末装置4に入力される。また、絶対圧力センサ3bで検出された絶対圧力は演算増幅器8を介してA/D変換器10に加えられデジィタル信号に変換され端末装置4に入力される。端末装置4は入力した生体データの各種の演算処理を行い、被験者6の就寝状態を監視して表示装置12に表示すると共に管理センタ(図示せず)に送信する。
【0018】
図3に端末装置4の一例構成図を示す。
【0019】
A/D変換器9でデジィタル信号に変換された超低周波音信号は心拍フィルタ13,呼吸フィルタ14およびイビキフィルタ15に入力される。心拍フィルタ13,呼吸フィルタ14およびイビキフィルタ15は周波数弁別装置を構成する。心拍フィルタ13は例えば5Hz以下の周波数信号を抽出して心拍信号として出力し、呼吸フィルタ14は0.2Hz〜0.4Hz の周波数帯域の周波数信号を抽出して呼吸信号として出力する。イビキフィルタ15は100Hz〜10kHzの広帯域通過周波数信号を抽出してイビキ信号として出力する。
【0020】
一方、A/D変換器10でデジィタル信号に変換された絶対圧力信号は体動フィルタ
16に入力される。体動フィルタ16は絶対圧力信号を体動信号として出力する。心拍フィルタ13,呼吸フィルタ14,イビキフィルタ15,体動フィルタ16は心拍信号,呼吸信号,イビキ信号及び体動信号を検出する生体信号検出装置を構成する。体動フィルタ16の体動信号とイビキフィルタ15のイビキ信号はデータ処理部25に入力される。
【0021】
心拍フィルタ13の心拍信号は第1のピーク位置判定部17を介してデータ処理部25に入力され、また、呼吸フィルタ14の呼吸信号は第2のピーク位置判定部18を介してデータ処理部25に入力される。
【0022】
図4にピーク位置判定部17あるいは18の一例構成図を示す。
【0023】
生体信号(心拍信号または呼吸信号)は信号入力部19に入力され、信号検出部20と微分演算部22に加えられる。信号検出部20は生体信号を入力すると時間設定部21に生体信号有り情報を与える。
【0024】
時間設定部21は生体信号有り情報を入力すると、微分演算部22と最大値判定部23に生体信号の増加時間に相当する計測時間を設定する。時間設定部21が設定する計測時間は生体信号を測定して予め設定される。計測時間は、例えば、300ms程度である。
【0025】
微分演算部22は計測時間において単位時間毎に生体信号を微分して生体信号の増加変化率を求める。微分演算部22が微分演算する単位時間は5ms程度である。最大値判定部23は計測時間内において微分演算部22で求めた最大変化率の単位時間位置を判定する。ピーク位置決定部24は生体信号の最大変化率の単位時間位置を生体信号のピーク位置と決定してデータ処理部25に加える。
【0026】
この構成において、被験者6の身体に起因する振動がエアマット1に伝達されるので、エアマット1の内部圧力が変化する。音波センサ3aは圧力変動分を検出し、また、絶対圧力センサ3bはエアマット1の内部圧力の絶対圧力を検出する。絶対圧力センサ3bは被験者6の寝返りなどの体動と被験者6がエアマット1上にいるかを検出する。
【0027】
音波センサ3aで検出された超低周波音信号はA/D変換器9によりデジィタル信号に変換され端末装置4の心拍フィルタ13,呼吸フィルタ14およびイビキフィルタ15に入力される。また、絶対圧力センサ3bで検出された絶対圧力はA/D変換器10でデジィタル信号に変換され端末装置4の体動フィルタ16に入力される。端末装置4は5msのサンプリング周期で演算する。
【0028】
被験者6が就寝している状態においては、被験者6の心電図波形は図5の心電図信号aのようにピーク値が明確な信号になる。このような心電図信号aを発生している場合であっても、被験者6によって心拍フィルタ13の心拍信号が図5に示す心拍信号b1または心拍信号b2のようになる。図5の心電図信号a,心拍信号b1,心拍信号b2は実測データに基づき模式的に示している。
【0029】
図6は図5に示す心拍信号b2を拡大して示したものである。心拍信号b2はピーク位置判定部17の信号入力部19に入力され、信号検出部20と微分演算部22に加えられる。信号検出部20は心拍信号b2を入力すると時間設定部21に生体信号有り情報を与える。時間設定部21は生体信号有り情報を入力すると、微分演算部22と最大値判定部23に生体信号の増加時間に相当する計測時間Tを設定する。
【0030】
微分演算部22は計測時間Tにおいて単位時間t毎に心拍信号b2を微分して単位時間tにおける心拍信号b2の微分値を求める。微分演算部22は単位時間t毎における心拍信号b2の増加変化率を表す図6に示すような微分信号cを出力する。微分演算部22が微分演算する単位時間は5ms程度であり、計測時間T内に60個程の微分信号cが出力される。
【0031】
最大値判定部23は計測時間T内において微分演算部22で求めた最大変化率の単位時間位置を判定する。図6では単位時間t3の位置を最大変化率と判定しピーク位置決定部24に与える。ピーク位置決定部24は最大変化率の単位時間t3位置を心拍信号b2のピーク位置と決定してデータ処理部25に加える。
【0032】
このようなピーク位置判定処理は心拍信号b2を入力する度に行われ、心拍信号b2のピーク位置がデータ処理部25に加えられる。また、図5に示す心拍信号b1の場合も同様に行われる。
【0033】
一方、呼吸フィルタ14から得られるの呼吸信号は第2のピーク位置判定部18によりピーク位置を判定されデータ処理部25に入力される。
【0034】
データ処理部25は被験者6がエアマット1上にいるので、心拍信号と呼吸信号のピーク間周期を測定し、また入力した生体データの各種の演算処理を行い、被験者6の就寝状態を監視する。生体データの各種の演算処理には、被験者6の平常時の生体データとのパターン比較などが含まれる。
【0035】
データ処理部25は、例えば、被験者6の健康状態を次のような判断基準に基づき判定する。
(a)心拍信号のピーク間周期変動が大きいと血管が詰まる傾向にある。
(b)心拍数,呼吸数が予め設定していた健康とされる数値範囲内であれば、健康である 。また、数値範囲以外にある時は、健康に注意する必要がある。
(c)呼吸数の最小値が既定値以下で、イビキの最大値が大きい値を示していると、無呼 吸の傾向がある。
(d)就寝中に占めるイビキまたは体動の割合が多いと、睡眠が十分とれていない。
【0036】
これらで把握した結果の健康状態を端末装置4の表示装置12に被験者6が起床した時に表示する。このような判定は図示しない管理センタにおいても同様に行われる。
【0037】
このようにして被験者の健康状態を見守りするのであるが、心拍信号あるいは呼吸信号の増加時における単位時間毎の変化率を求めて、最大変化率の単位時間位置を心拍信号あるいは呼吸信号のピーク位置と判定している。本発明者達が実測したところ、心拍信号あるいは呼吸信号の増加時における単位時間の最大変化率(最大速度)の単位時間位置が心拍信号あるいは呼吸信号のピーク位置となることが確認されている。したがって、心拍信号あるいは呼吸信号のピーク間周期を精度良く測定でき、就寝中の被験者の生体データを利用した身体状態把握の信頼性を高めて正確な身体状態把握が行える。
【0038】
なお、上述の実施例は被験者の心拍信号と呼吸信号の両者を本発明によってピーク値を判定しているが、心拍信号だけをピーク位置判定するようにしても良いことは勿論のことである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例を示す全体構成図である。
【図2】本発明の一実施例を示す構成図。
【図3】本発明における端末装置の一例構成図である。
【図4】本発明におけるピーク位置判定部の一例構成図である。
【図5】心拍信号の一例を示す波形図である。
【図6】心拍信号の一例を示す波形図である。
【符号の説明】
【0040】
1 エアマット
2 エアチューブ
3 センサ装置
3a 音波センサ
3b 絶対圧力センサ
4 端末装置
5 ベッド
6 被験者
7,8 演算増幅器
9,10 A/D変換器
12 表示装置
13 心拍フィルタ
14 呼吸フィルタ
15 イビキフィルタ
16 体動フィルタ
17,18 ピーク位置判定部
19 信号入力部
20 信号検出部(レベル判定部)
21 時間設定部
22 微分演算部
23 最大値判定部
24 ピーク位置決定部
25 データ処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者のベッドに設置したエアマットと、前記エアマットの内部圧力変化を検出する圧力センサ手段と、前記圧力センサ手段で検出した前記エアマットの内部圧力変化に基づき前記被験者の心拍信号を含む生体信号を検出する生体信号検出手段と、前記心拍信号の増加時における単位時間毎に前記心拍信号の変化率を求めて、最大変化率の単位時間位置を前記心拍信号のピーク位置と判定するピーク位置判定手段と、前記ピーク位置判定手段で求めた前記心拍信号のピーク間周期を測定し前記被験者の健康状態を計測するデータ処理手段とを具備することを特徴とする被験者健康状態見守り装置。
【請求項2】
被験者のベッドに設置したエアマットと、前記エアマットの内部圧力変化を検出する圧力センサ手段と、前記圧力センサ手段で検出した前記エアマットの内部圧力変化に基づき前記被験者の心拍信号と呼吸信号を含む生体信号を検出する生体信号検出手段と、前記心拍信号の増加時における単位時間毎に前記心拍信号の変化率を求めて、最大変化率の単位時間位置を前記心拍信号のピーク位置と判定する第1のピーク位置判定手段と、前記呼吸信号の増加時における単位時間毎に前記呼吸信号の変化率を求めて、最大変化率の単位時間位置を前記呼吸信号のピーク位置と判定する第2のピーク位置判定手段と、前記第1と第2のピーク位置判定手段で求めた前記心拍信号のピーク間周期と前記呼吸信号のピーク間周期を測定し前記被験者の健康状態を計測するデータ処理手段とを具備することを特徴とする被験者健康状態見守り装置。
【請求項3】
請求項1,2のいずれか1項において、前記ピーク位置判定手段は、前記心拍信号あるいは前記呼吸信号を入力してから信号増加時の計測時間だけ単位時間毎に変化率を求めるようにすることを特徴とする被験者健康状態見守り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−206882(P2008−206882A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48357(P2007−48357)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】