説明

装身具

【課題】 膜強度が強く、かつ陽極酸化発色が強く、長期に渡って装着された場合でも色落ちしない装身具を提供する。
【解決手段】 電解槽1の中には、水1リットルに対し体積比でリン酸3パーセント及び過酸化水素3パーセントが入れられている。そして、一方の電極2にはチタニウムが用いられ、他方の電極3には、ジルコニウムの指輪10が取り付けられている。この電極2と電極3の間には、交流電源4より交流電圧が印加されている。陽極酸化処理により生成された酸化ジルコニウムは、透明被膜であり、被膜自体は透明であるが、被膜に光が当たると光の干渉が起こり、特定の光の波長が増幅された形で外部に出てくる。このため、青色、黄色、緑色、ピンク色、オレンジ色、紫色等の色が、極めて高い彩度で認識されるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は装身具に係わり、特に膜強度が強く、かつ陽極酸化発色が強く、長期に渡って装着された場合でも色落ちしない装身具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、指輪に色を付るのにチタニウムを材料として陽極酸化発色されたり、塗装されたものが知られている。チタニウムは流通量も多く、よく知られた材料であり、金属発色を有する装身具に用いられている材料は従来チタニウムのみであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、塗装による場合には金属特有の光沢は出ない。また、チタニウムを材料とした陽極酸化発色の場合には、膜強度が弱く長年使っていると他の部材との接触等により削れる等して色がはがれ落ちてしまう。特に指輪等のジュエリーは、日常的に身につけられるため、生活の中で様々な種類の固い物質に接触する機会が多い。このため、製品品質の長期に渡る維持には問題があった。
【0004】
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、膜強度が強く、かつ陽極酸化発色が強く、長期に渡って装着された場合でも色落ちしない装身具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため本発明(請求項1)は、ジルコニウムを主原料として作製された装飾部材であって、該装飾部材が陽極酸化により生成された酸化被膜を有することを特徴とする。
【0006】
ジルコニウムは、ジルコニウムとして市場取引されている市販の製品を使用することが可能である。但し、ジルコニウムを主成分としていればよく、主成分として80パーセント以上を有するものが望ましい。
【0007】
ジルコニウムに対し陽極酸化することで生成された酸化被膜は、膜強度が強く、装身具として長期に渡って装着された場合でも傷が付きにくく色落ちしない。
このため、長期に渡り製品の品質を維持できる。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように本発明によれば、ジルコニウムを主原料として作製された装飾部材であって、この装飾部材が陽極酸化により生成された酸化被膜を有することで、装身具として長期に渡って装着された場合でも傷が付きにくく色落ちしない。
このため、長期に渡り製品の品質を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態である装身具の一例として指輪を用いた場合について以下、説明する。しかしながら、本発明は、指輪以外に、イヤリングや時計等のジュエリーにも適用可能である。図1には、指輪の加工方法を示し、また、図3には、この指輪に対し陽極酸化処理によって酸化皮膜を形成することで発色させる方法を示す。
【0010】
まず、指輪の加工方法について説明する。
図1において、ステップ1では、直径25.4mm(1インチ)のジルコニウムの丸棒を準備する。このジルコニウムの丸棒は、市販のものを利用している。ジルコニウムは、これまで原子炉の燃料の被覆管や医療関連等の限られた特殊分野でしか使用されていなかったものである。
【0011】
ステップ2では、旋盤により加工を施す。そして、ステップ3で内径、外径を所定の寸法にパイプ状のものを削りだす。この内径、外径は、指輪として利用されるときの径であり、その内径は指に装着されたときの必要径である。その後、ステップ4では、ヤスリ、フライス等で最終微調整としての切削加工を施す。その結果、ステップ5で図2に示すような指輪10の形状が完成する。
【0012】
次に、ジルコニウムの指輪10に対し陽極酸化処理によって発色させる方法について説明する。
図3において、電解槽1の中には、水1リットルに対し体積比でリン酸3パーセント及び過酸化水素3パーセントが入れられている。そして、一方の電極2にはチタニウムが用いられ、他方の電極3には、図1の工程により製造されたジルコニウムの指輪10が取り付けられている。
【0013】
この電極2と電極3の間には、交流電源4より交流電圧が印加されている。交流電圧は20〜240ボルト可変であるが、直流電圧が印加されるようにされてもよい。このとき、印加される電圧の大きさにより、ジルコニウムの発色の程度や色具合が変化する。電圧は好みの発色とするように調整される。陽極酸化処理は、次の化学反応式化1による。
【0014】
【化1】

【0015】
このように生成された酸化ジルコニウムは、透明被膜であり、被膜自体は透明であるが、被膜に光が当たると光の干渉が起こり、特定の光の波長が増幅された形で外部に出てくる。このため、青色、黄色、緑色、ピンク色、オレンジ色、紫色等の色が、極めて高い彩度で認識されるようになる。
【0016】
また、この酸化ジルコニウムの被膜の膜強度は強い。このため、発色の経年変化もほとんどない。この点を定量的に評価するため湿式バレル研磨を用いた実験を行った。
【0017】
評価方法は次の通りである。即ち、バレル研磨機の内部にはアルミナ(Al)及びレジンのブロック状研磨材を入れ、この中にジルコニウムの指輪10を入れた。その後バレル研磨機を稼働させ、ジルコニウムの指輪10をブロック状研磨材により研磨させる。そして、一定時間(5分)経過毎に指輪10を外部に取り出し、磨耗による色の変化をソフトウェア処理により検出した。これをチタニウムの指輪で同様に陽極酸化処理を行った場合と比較した。
【0018】
ジルコニウムの指輪10とチタニウムの指輪について、このように検出した研磨時間と色彩変化の関係を図4(正本は上申書にて提出)に示す。色彩分析は、撮影された画像から、指輪の特定範囲の色成分を検出し記録した。色成分はC(シアン)M(マゼンダ)Y(イエロー)K(ブラック)で表記した。なお、CMYKのうちK(ブラック)は検出されなかったため表記を省略した。CMYKの単位はすべてパーセント表記である。
【0019】
図4によれば、チタニウムの指輪については、研磨時間が15分程度で視覚認識ではっきりとした色落ちが見られる。色彩分析面でも15分経過時のジルコニウムの指輪10のM(マゼンダ)が66で研磨開始前から見て89パーセント(=66/74)維持されているのに対し、チタニウムの指輪のM(マゼンダ)は50で研磨開始前から見て66パーセント(=50/76)にまで落ちている。
【0020】
その後の研磨度合いもチタニウムの指輪については、30分程度の経過で視覚認識で完全に色落ちして見えるが、ジルコニウムの指輪10についてはまだ発色が残っている。このときの色落ち度を色彩分析すると、ジルコニウムの指輪10が研磨開始前から見て88パーセント(=65/74)なのに対し、チタニウムの指輪は51パーセント(=39/76)にまで色落ちしている。
【0021】
このように、ジルコニウムの酸化被膜は、チタニウムの酸化被膜より膜強度が強く、長期に渡って指輪として装着された場合でも色落ちしないことが分かる。
従って、製品品質は長期に渡って維持される。
また、陽極酸化処理による発色の程度もジルコニウムの指輪10がチタニウムの指輪よりも強く出る。この点は、図4における色彩分析の結果を見るとわずかの違いのように見えるが、現物を対比してみると明らかな違いがある。
【0022】
なお、発明者は、陽極酸化処理を、チタニウム、ジルコニウム以外に、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルについても同様の処理を施して調査したが、このすべての素材を実験した所、膜強度が際立って強いのがジルコニウムであった。ジルコニウムは市販の製品(ジルコニウムとして市場で取引されている原材料)を使用したが、ジルコニウムを主成分としていればよく、主成分として80パーセント以上を有するものが望ましい。
【0023】
また、酸化ジルコニウムはモース硬度が8.5であり、酸化チタニウムのモース硬度6.5〜7を凌いでおり、砂を形成している珪砂(SiO)の硬度が6.5〜7程度であることを考えると、日常生活的には傷が付くことも考えられず、指輪、時計等の装身具の他に筆記用具等の文房具にも適していると判断できる。
【0024】
更に、ジルコニウムの比重は6.5g/cmであり、チタニウムの比重4.5g/cmでは軽すぎて嫌だと言う人に対し持ったときの感触の違いを強調できる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の活用例として、指輪、時計等の装身具の他に筆記用具等の文房具、その他金属の発色を必要とするすべての分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】指輪の加工工程を示す図
【図2】切削加工で完成した指輪の外観図
【図3】陽極酸化処理の様子を示す図
【図4】研磨時間と色彩変化の関係を示す図
【符号の説明】
【0027】
1 電解槽
2、3 電極
4 交流電源
10 ジルコニウムの指輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウムを主原料として作製された装飾部材であって、
該装飾部材が陽極酸化により生成された酸化被膜を有することを特徴とする装身具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−190204(P2007−190204A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11552(P2006−11552)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(504014901)有限会社ソラ (10)
【Fターム(参考)】