説明

補償要素を伴うメカニカルシールアセンブリ

本発明は、高圧領域(21)と低圧領域(22)との間をシールするためのメカニカルシールアセンブリであって、固定部品(6)に接続される固定シールリング(4)と、回転部品(2)に接続される回転シールリング(3)と、回転部品(2)に配置される分割出力吸収リング(7)と、第1のリング(11)、第2のリング(12)、および第3のリング(13)を備える補償リングユニット(10)とを備え、第1のリング(11)および第2のリング(12)が第3のリング(13)よりも高い強度を有し、補償リングユニット(10)が高圧領域(21)と分割出力吸収リング(7)との間の出力流れ中に配置される、メカニカルシールアセンブリに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うねりに対する補償要素を備えるメカニカルシールアセンブリに関し、特に、高圧が課されるメカニカルシールアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば200×10Paを上回る圧力を伴う高圧ガスシールなどの高圧メカニカルシールアセンブリの場合には、非常に大きな軸力を吸収するために分割リングが回転シャフトに配置される。この分割リングは通常はシャフト溝内に配置されてL断面リングによって取り囲まれ、それにより、いわゆる「取り外し可能な軸肩」が形成される。この分割リングの分割に起因して、軸力が分割リングに作用するときには平坦性がもはやもたらされず、その結果、回転シールリングの後当接面またはシールリング自体に至るまで歪みが生じ得る。これがメカニカルシールアセンブリに漏れをもたらす場合がある。また、非常に大きい軸力の結果として、分割リングがその分割に起因して不均一に変形するといったことが起こる場合があり、それにより、この変形が固定シールリングの表面へと押し通る場合がある。これが摺動面に摩耗跡をもたらすとともに、それにより、漏れ気密性についての望ましくない問題が引き起こされる。摺動面に対する分割のそのような押し通しを防止するため、この問題は、今まで、摺動面間のシール隙間を広げることによって解決されてきた。しかしながら、これが望ましくない高い漏出率をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明に内在する目的は、簡単な構造を有して容易に低コストで製造されつつ、メカニカルシールアセンブリで漏れの問題を生じさせることなく分割出力吸収リングの使用を可能にするメカニカルシールアセンブリを提供することである。
【0004】
この目的は、請求項1の特徴を有するメカニカルシールアセンブリによって解決され、従属請求項は本発明の好ましい更なる実施形態を示している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の特徴を有する本発明のメカニカルシールアセンブリは、シールリングまたは他の部品で分割の歪みまたは窪みを発生させることなく回転部品で分割出力吸収リングを使用できるという利点を有する。本発明によれば、第1のリングと、第2のリングと、第3のリングとを備える補償リングユニットが設けられる。第3のリングは第1のリングと第2のリングとの間に配置され、また、第1および第2のリングは第3のリングよりも高い強度を有する。補償リングユニットの3つのリングの異なる強度に起因して、回転部品での分割出力吸収リングの使用に起因する歪みは、場合により生じる歪みを柔軟な第3のリング(中間リング)により補償することによって吸収される。このことは、非常に高い圧力時に大きな軸力が分割リングに作用する場合に第3のリングに対してその強度限界を超える荷重がかけられ、それにより、第3のリングが塑性変形を受け、したがって、第3のリングが歪みを補償することを意味する。その結果、非常に高い圧力の時であっても、容易に装着できる分割出力吸収リングを使用できる。これは、補償リングユニットが分割出力吸収リングと高圧領域との間の出力流れ中に配置されているからである。
【0006】
好ましくは、第1のリングが第1の表面を有し、第2のリングが第2の表面を有する。この場合、2つの表面が軸方向で互いに対向しており、また、2つの表面が第3のリングと直接に接触している。それに伴って、十分な表面圧力が第1または第2のリングと第3のリングとの間で得られる。
【0007】
補償リングユニットの第1および第2のリングの強度が等しいことが好ましい。第1および第2のリングが同じ材料から形成されるのが特に好ましい。この場合、強度における大きさを決定するための基準として3つのリングの引張強度を使用することが更に好ましいことに留意すべきである。
【0008】
第1のリングおよび第2のリングがそれぞれ段部を備えることが特に好ましく、その場合、第3のリングが第1および第2のリングの段部間に軸方向で配置される。それに伴って、特定のコンパクトな構造を実現できる。
【0009】
第1のリングの最小内径が第2のリングの最小内径に等しいことが好ましい。それに伴って、一方では、補償リングユニットの簡単なアセンブリが可能になり、他方では、簡単でコンパクトな構造が得られる。
【0010】
補償リングユニットは、第1のリングおよび第2のリングが軸方向で互いに対向する表面のみによって第3のリングを介して互いに接続されるように構成されるのが特に好ましい。それに伴って、互いに軸方向で対向する第1および第2のリングの表面のいずれも直接に接触せずに第3のリングを介してのみ接触するようにされてもよい。これにより、高い軸方向荷重の場合に第3のリングがその補償機能を最適に満たすことができる。
【0011】
異なる作動状態で場合により必要とされる第3のリングの変形を常に保証するため、第1のリングと第3のリングとの間および/または第2のリングと第3のリングとの間の表面圧力は第3のリングの降伏限界よりも高いことが好ましい。同時に、表面圧力は第1または第2のリングの降伏限界の半分以下でもある。この場合、表面圧力は、軸力が生じるときに、第3のリングと第1または第2のリングのそれぞれとの間に存在する。
【0012】
更に好ましくは、中間リングとして形成される第3のリングがアルミニウムまたはアルミニウム含有材料から形成されるのが好ましく、および/または、第1および第2のリングがスチールから形成されるのが好ましい。
【0013】
本発明に係るメカニカルシールアセンブリは、200×10Paを上回る圧力が生じる高圧ガス用途で使用されるのが好ましい。
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態について詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るメカニカルシールアセンブリの概略図を示している。
【図2】図1に示される補償リングユニットの拡大図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1および図2を参照して、本発明の第1の好ましい実施形態に係るメカニカルシールアセンブリ1について詳しく説明する。
【0017】
図1は、高圧領域21を低圧領域22に対してシールする本発明の好ましい実施形態に係るメカニカルシールアセンブリ1の概略構造を示している。メカニカルシールアセンブリ1は、回転シャフト2に配置されて、回転シールリング3と固定シールリング4とを備えており、これらのシールリング間にシール隙間5が形成される。固定シールリング4はハウジング6に接続される。参照符号19は、固定シールリング4に対して軸方向でプレテンションをかけるためのプレテンションユニットを示している。
【0018】
また、シャフト2のシャフト溝9内に配置される分割出力吸収リング7が設けられる。分割出力吸収リング7はL断面リング8によって取り囲まれる。ここで、分割出力吸収リング7はシャフト2の中心軸X−Xに対して径方向に分割され、それにより、結果として、L断面リング8によって取り囲まれる2つの半リング部が生じる。また、分割出力吸収リング7およびL断面リング8は、高圧領域21からメカニカルシールアセンブリを通じて伝えられる軸力Fを吸収するように構成される取り外し可能な軸肩を形成する。分割リングを含むこの配置によって吸収されるべき力を明確にするために、図1はシャフト径Dおよび液圧径Dを示している。この場合、シャフト径Dはメカニカルシールの領域のシャフト2の径であり、液圧径Dは、回転シールリング3および固定シールリング4によってメカニカルシールでシールされるべき径である。図1に示される実施形態ではプレテンションユニット19が配置されるチャンバ25も高圧領域21に接続されるため、液圧径Dは、シールリングの最大接触径ではなく、かなり小さい。その結果、分割出力吸収リング7は、高圧領域21から液圧径Dとシャフト径Dとの間の環状面を通じて作用する力Fを吸収できなければならない。
【0019】
分割出力吸収リング7の分割に起因して場合により生じる歪みを回避するため、第1のスリーブ16と回転シールリング3との間の金属シールエッジ17の領域、および/または、シールリング3および4の摺動面の領域には、本発明にしたがって補償リングユニット10が設けられる。第1のスリーブ16は複数のスタッドボルト20によって第2のスリーブ18に接続される。補償リングユニット10は、第1のリング11と、第2のリング12と、第3のリング13とを備える。第1のリング11および第2のリング12はそれぞれ少なくとも1つの段部を有するL断面リングとして形成され、第1のリング11は第1の段部11bと第2の段部11cとを備える(図2参照)。第2のリング12は単一の段部12bだけを備える。第3のリング13は第1のリング11と第2のリング12との間に配置される。ここで、第3のリング13は長方形断面を有する。特に図2から分かるように、軸方向X−Xに向けられる第1のリング11の表面11aは第3のリング13の第1の軸方向側と接触する表面内にあり、また、軸方向X−Xに向けられる第2のリング12の表面12aも第3のリング13の他の軸方向側と接触する表面内にある。つまり、図2に示されるように、2つのリング11および12は軸方向X−Xで第3のリング13を介してのみ接続される。
【0020】
また、第1のスリーブ16および第2のスリーブ18を介して第1のリング11に伝えられる力Fは専ら第3のリング13を介して第2のリング12に伝えられる。このとき、第2のリング12は分割リング7に二次元的に直接に当接している。
【0021】
また、高圧領域21と分割リング7との間での本発明の補償リングユニット10の使用は、メカニカルシールアセンブリ1の他の部品で生じる歪みの危険を伴うことなく分割リングの使用を可能にする。過度に高い力Fの発生時、第3のリング13が塑性変形する。この第3のリングは2つの他のリング11および12よりも強度が低い。第3のリング13の降伏により、分割リング7を通じてもたらされる望ましくないうねりを補償できる。第1のリング11と第2のリング12との間の周方向隙間14、15は0〜0.035mmの最小隙間幅しか有していないため、第3のリング13が降伏する場合に周方向隙間14、15を通じた押し出しを避けることができる。
【0022】
第3のリング13は、以下の方程式が満たされるように形成される。
【0023】
S3<Fl≦1/2×S1
この場合、S3は第3のリング13の降伏限界であり、Flは高圧領域21内の最大圧力時の既存の表面圧力であり、該表面圧力は、軸方向に向けられた表面11a、12aと第3のリング13の対応する環状面との間で生じ、また、S1は第1のリング11または第2のリング12の降伏限界である。降伏限界に関しては、同じ材料が選択される場合には第1のリング11および第2のリング12における降伏限界が等しく、異なる材料が選択される場合には第1のリング11または第2のリング12の小さい方の降伏限界が値S1に関して使用されることに留意すべきである。
【0024】
好ましくは、第3のリング13は例えばアルミニウム合金などの比較的柔軟な材料から形成され、また、第1のリング11および第2のリング12はスチール材料から形成される。また、本発明で使用される用語「降伏限界」とは、強度が決定されるときに材料の不可逆的な塑性変形が生じる点のことである。補償リングユニット10のリング11、12、および13の異なる強度は、引張試験によって引張強度を決定することにより設定されるのが好ましい。しかしながら、リング11、12、および13がそれらの圧縮強度を考慮して決定されることも想定し得る。
【0025】
本発明を単一のメカニカルシールアセンブリおよび二重メカニカルシールアセンブリで使用することができる。補償リングユニット10が分割リング7に直接に隣接して配置されるのが好ましい。この配置は、分割リング7に直接に隣接して配置されている部品の歪みを補償することができ、それにより、メカニカルシールアセンブリの更なる部品が変形されないという利点を有する。別の方法として、中間部品を使用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧領域(21)と低圧領域(22)との間をシールするためのメカニカルシールアセンブリであって、
固定部品(6)に接続される固定シールリング(4)と、
回転部品(2)に接続される回転シールリング(3)と、
前記回転部品(2)に配置される分割出力吸収リング(7)と、
第1のリング(11)と、第2のリング(12)と、第3のリング(13)とを備える補償リングユニット(10)と、
を備え、
前記第1のリング(11)および前記第2のリング(12)が前記第3のリング(13)よりも高い強度を有し、
前記補償リングユニット(10)が前記高圧領域(21)と前記分割出力吸収リング(7)との間の出力流れ中に配置される、メカニカルシールアセンブリ。
【請求項2】
前記第1および第2のリング(11、12)が互いに軸方向(X−X)で対向する第1および第2の表面(11a、12a)を有し、これらの表面が前記第3のリング(13)を介して接続されることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【請求項3】
前記第1のリング(11)の強度が前記第2のリング(12)の強度に等しいことを特徴とする請求項1または2に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【請求項4】
前記第1のリング(11)が第1の段部(11b)を備え、前記第2のリング(12)が第2の段部(12b)を備え、前記第3のリング(13)が前記第1の段部(11b)と前記第2の段部(12b)との間に軸方向(X−X)で配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【請求項5】
前記第1のリング(11)が少なくとも2つの段部(11b、11c)を有する多段L断面リングであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【請求項6】
前記第1のリング(11)の最小内径が前記第2のリング(12)のそれに等しいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【請求項7】
前記第1のリング(11)と前記第3のリング(13)との間の表面圧力および/または前記第2のリング(12)と前記第3のリング(13)との間の表面圧力は、前記第3のリング(13)の降伏限界よりも高く、前記第1のリング(11)または前記第2のリング(12)の降伏限界の半分以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【請求項8】
前記第3のリング(13)がアルミニウムまたはアルミニウム含有材料から形成されおよび/または前記第1および第2のリングがスチールから形成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【請求項9】
前記補償リングユニット(10)が前記分割リング(7)に直接に隣接して配置されて分割リングと接触することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のメカニカルシールアセンブリ。
【請求項10】
前記第1のリング(11)から前記第2のリング(12)への軸方向(X−X)に向けられる力(F)の伝達が専ら前記第3のリング(13)を介して行なわれることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のメカニカルシールアセンブリ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2012−533714(P2012−533714A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520947(P2012−520947)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004439
【国際公開番号】WO2011/009596
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(510151348)イーグルブルクマン ジャーマニー ゲセルシャフト ミト ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (6)
【Fターム(参考)】