説明

補間フィルタ

【目的】
n倍オーバーサンプリングはnが大きくなるほどLPFのタップ数が多く必要になり、回路規模が増大する。つまり、単位時間あたりのサンプリング数が増えるため、LPFでの積和演算が増加することになるが、回路規模や演算量を増加させない手法とする。
【構成】
入力信号のサンプリング周波数をf、出力信号のサンプリング周波数をnfに周波数変換するサンプリングレート変換装置において、nfで動作するカウンタの出力信号によりタップを更新し、fで遅延器を動作させるようにした低域通過フィルタ装置と、周波数nfで異なるタップ係数を低域通過フィルタに対して出力するタップ係数制御装置と、タップ係数制御装置を制御することを目的とするカウンタ装置を備えるサンプリングレート変換装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタル信号受信装置におけるサンプリングレート変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の通信システムは、各国における電波の利用状況や、周波数割当に関する規制に柔軟に対応できるように設計することが求められている。例として、WiMAXではチャネル帯域幅が1.25MHzから20MHzの間で可変となっている。
【0003】
受信信号を処理するためには、信号のサンプリングレートをシステム内部の処理系のレートに変換する必要がある。このために使われるのが補間フィルタ(インターポーレーションフィルタ)である。
【0004】
補間フィルタを用いたサンプリングレート変換装置の基本構造を図3に示す。サンプリング周波数f1の入力信号をnf1にオーバーサンプリングして出力する場合、まず、サンプリングレート増加回路301により、入力信号の各離散データ間に(n−1)個の0を挿入する。次に、動作周波数nf1で基本周波数以外を除去するLPF303に通すことで、サンプリングレートを変換することができる(例えば特許文献1参照)。
【0005】
前記の0挿入の様子を示した図が図4である。同図は元の周波数に対して401のそれぞれのサンプリング点の間に0点403を2個ずつ挿入したものであり、サンプリング周波数は3倍になる。しかしこのままだと0挿入点と元のサンプリング点との結線が不連続点になり高調波が発生してしまうので、LPFによって帯域を制限するのである。
【0006】
【特許文献1】特開2006−222824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記のような基本構造のフィルタをそのまま用いた場合、係数nが大きくなるほど、LPFのタップ数が多く必要になり、回路規模が増大する。つまり、単位時間あたりのサンプリング数が増えるため、LPFでの積和演算が増加することになる。
【0008】
また、入力信号のレートが一定でない場合、各レート毎にレート増幅回路及びLPFを用意する必要があるので、これも回路規模の増大につながる。つまり、ある同一の通信装置をA地域とB地域に設置する場合、それぞれの地域での使用周波数が違っていると、あらかじめ装置内のサンプリングレート変換装置を両地域に合わせたものにせねばならず、単一の周波数を対象にした装置よりも回路規模が増大することになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、入力信号のサンプリング周波数をfヘルツ、出力信号のサンプリング周波数をnfヘルツに周波数変換するサンプリングレート変換装置において、
nfヘルツで動作するカウンタの出力信号により遅延器が動作し、複数のサンプリング周波数に対応できるようにした低域通過フィルタ装置と、
異なるタップ係数を周波数nfで低域通過フィルタに対して出力するタップ制御装置と、
出力値によって前記タップ係数制御装置を制御することを目的とするカウンタ装置と、
を備えることを特徴とするサンプリングレート変換装置とする。
【0010】
また本発明は、前記タップ係数制御装置は、フィルタのタップ係数をサンプリングレート変換装置の出力信号のサンプリング周波数に同期して変化させることにより、任意のサンプリング値と次のサンプリング点におけるサンプリング値の間に0挿入をすることなく補間処理を行えることを特徴とするサンプリングレート変換装置とする。
【0011】
また本発明は、前記タップ係数制御装置は、サンプリングレート変換装置がn倍オーバーサンプリングを目的とするものであるならば、1つのタップに対してn個の値を保持することを特徴とするサンプリングレート変換装置とする。
【0012】
また本発明は、前記タップ係数制御装置は、前記カウンタ装置の出力に応じてタップ係数を変化させるため、サンプリング周波数を任意の倍率に変換する場合においても、タップ数を増減させることなく、一定のタップ数で複数のサンプリング周波数に対応できることを特徴とするサンプリングレート変換装置とする。
【0013】
また本発明は、前記タップ係数制御装置は、サンプリングレート変換装置が最大n倍オーバーサンプリングまで可能とするものならば、1つのタップに対してn個の値を保持し、そのタップ係数をその他の倍率のオーバーサンプリングでも利用することを特徴とするサンプリングレート変換装置とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フィルタ装置はカウンタ出力によって、LPF内のシフトレジスタ、つまり遅延器の動作を制御する。2倍オーバーサンプルの場合は2クロックに1回、4倍オーバーサンプルの場合は4クロックに1回遅延器が動作する。また、タップ係数はフィルタの動作クロックで可変である。このようにすることで0挿入を行っていないにも関わらず、その場合と同じ出力を得ることができ、またタップ数をレートにより変更する必要もなくなる。
【0015】
このように、本発明によれば、データ0の挿入が不必要になること、複数のレートに対して、1つのフィルタで対応可能なので、回路規模を減少できること、オーバーサンプリングの倍率が上がってもタップ数を増やすことなく対応でき、乗算器の増大を抑えることができるといった効果があらわれる。
【実施例】
【0016】
本発明に好適な実施例について、図を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の実施例を示す図である。本実施例のサンプリングレート変換装置は、フィルタ装置101、タップ係数制御装置102とnビットカウンタ103で構成される。また、図5はフィルタ装置101における一般的なFIRフィルタの構成であり、501が遅延器、503がタップである。
【0018】
例として、4倍オーバーサンプリングによるサンプリングレートの変換をするものであり、LPFのフィルタタップ数が8タップの場合に関して、この装置の動作を説明する。ここで、図1に示すように入力信号の周波数をf1、フィルタ装置101の出力信号の周波数をf2とした場合、この本サンプリングレート変換装置の動作クロックcはf2である。
【0019】
フィルタ装置101における遅延器501、すなわちシフトレジスタはnビットカウンタ103の出力の下位2bitが0の場合、つまり4クロックに1回だけデータを遅延させる。つまり、データの更新タイミングは入力信号の周波数f1となる。
【0020】
これに対し、タップ制御装置102は8個のタップ係数503をフィルタ101に出力する。各係数はクロックc、つまりf2に同期して4種類の値を繰り返す。このときのタップnの値をtapn0からtapn3とする(n=0から7)。つまり、例えばタップ0の値は、f2に同期して、tap00、tap01、tap02、tap03の4種類の値を繰り返す。
【0021】
周波数f1の入力信号に対して、値に0を3個挿入してレートを4倍の周波数f2にした場合、挿入された0データとタップ係数の乗算結果が0であるのは既知であるので、これは計算する必要がない。
【0022】
この装置のフィルタ101への入力データは、クロックcつまり周波数f2の4クロックに1回だけ遅延器501によってデータのシフトが行われるので、各タップ503において、データが前記のように1回更新されるまでに、tapn0からtapn3までの4種類のタップ係数とで4回の乗算が行われることになる。これは、0挿入してレートを上げたデータを周波数f2でサンプリングした図2のインパルス応答をもつフィルタを通したことと等価となる。
【0023】
さらに具体的に説明する。サンプリングレート変換装置への入力データ列を{a0,a1,a2,...,a7,...}とした場合、4倍オーバーサンプリングをするために、0を3個ずつ挿入するとデータ列は{a0,0,0,0,a1,0,0,0,....,a7,0,0,0,....}となる。
【0024】
前記例の場合、各タップが4種ずつの値を持ち、4クロックに1回だけFIRフィルタの遅延器を動作させるから、時刻0の時はフィルタの出力はa0*tap00である。また時刻1の時はフィルタの出力はa0*tap01である。
【0025】
本発明は前記の例の場合、8個のタップで32個のタップを持つフィルタと同等の処理をするものであり、例えば時刻0の時のtap01、tap02、tap03は0挿入した0が乗ざれているとして式にはあらわれない。同様に、時刻1の時はtap00、tap02、tap03には0が乗ざれているとして式にはあらわれない。
【0026】
時刻28の時は、a0*tap70+a1*tap60+,......,+a7*tap00、
時刻29の時は、a0*tap71+a1*tap61+,......,+a7*tap01、
時刻30の時は、a0*tap72+a1*tap62+,......,+a7*tap02、
時刻31の時は、a0*tap73+a1*tap63+,......,+a7*tap03、
となり、例えば時刻31の場合、0挿入された0とtap70、tap71、tap72の乗算は結果が0であるために省略できるため、式にはあらわれない。
【0027】
つまり、0挿入をしてオーバーサンプリングするということと同義の処理を0挿入をすることなく実現しているのである。これは、n倍オーバーサンプリングであれば、タップ制御装置102が1つのタップに対してn個の値を保持しており、n個の値のうち、0との乗算を行わない1つの値のみを本発明により使うことができるからである。
【0028】
このように、4倍オーバーサンプリングの場合、カウンタ103の下位2ビットに注目し、4クロックに1回のみ遅延器501によるデータシフトを行い、n番目のタップ係数としてtapn0、tapn1、tapn2、tapn3の4個をタップ制御装置102から順次フィルタ101に転送することによって、本発明による結果として、8個のタップで32タップのフィルタ演算を行ったことと等価の結果を得ることができる。
【0029】
例としては4倍オーバーサンプリングの場合を取り上げたが、2倍オーバーサンプリングの場合は、シフトレジスタのデータ更新の頻度を2クロックに1回、8倍オーバーサンプルの場合は8クロックに1回となるようにすれば良い。タップ係数の更新頻度は固定なので、2倍の場合は1つのデータに対して2回、8倍の場合は8回タップ係数の更新が行われる。
【0030】
これは例えば2倍オーバーサンプリングであれば、カウンタ103の下位1ビットに注目し、これが0の時にのみ遅延器501を動作させるということである。
【0031】
さらに、本発明によれば、前述したように、タップ制御装置102はカウンタ103の出力によりフィルタ101内のタップに入力するタップ係数を制御するが、その際、このフィルタ101により最大n倍までオーバーサンプリングが可能であるならば、1つのタップが保持するタップ係数の値は、前述のようにn個となる。
【0032】
ここで、オーバーサンプリングの倍率によって、このn個の値を持つタップ制御装置102内のタップ係数テーブルからどれを使用するかを制御することによって、倍率が変わってもタップ係数の再計算を不要にする手段も考えられる。
【0033】
つまり、n個のタップ係数の値は、例えば装置の出力信号の周波数をmとしたとき、m/nの帯域幅をもつフィルタのインパルス応答を示すものであるから、例えば、n倍オーバーサンプリングの場合はn個全てのタップ係数、n/2倍オーバーサンプリングの場合は0,2,4,・・・番目のタップ係数、n/4倍オーバーサンプリングの場合は0,4,8,・・・番目のタップ係数を使用する。
【0034】
例えば4個の値を持つタップ係数に関して、4倍オーバーサンプリングなら、タップ0、タップ1、タップ2、タップ3を、2倍オーバーサンプリングなら、タップ0、タップ2を、オーバーサンプリング無しならタップ0を用いるということである。
【0035】
このように、タップ係数テーブルからの値の参照の仕方によって、フィルタの帯域幅を倍率に合わせたものにすることができる。1度テーブルを定めておけば、倍率が変化してもタップ係数の再計算、再入力等が不要になる。
【0036】
図5をさらに詳細に説明する図が図6である。ここで示すように、入力信号をn倍オーバーサンプリングにて出力する場合に、出力周波数で動作するカウンタのビット値によって、用いるタップ係数を選択し、FIRフィルタの基本動作である積和演算を行うものである。例えば4倍オーバーサンプリングならば、2ビットカウンタを用い、カウンタの出力が00、01、10、11のそれぞれについて用いるタップ係数を変えていくことになる。
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、0挿入を行うことなく、また複数のレートに対して1つのフィルタでオーバーサンプリングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明にかかる構成図
【図2】フィルタのインパルス応答
【図3】一般的なサンプリングレート変換装置
【図4】0挿入の様子
【図5】FIRフィルタの構成
【図6】FIRフィルタの詳細な構成
【符号の説明】
【0039】
101…フィルタ、 102…タップ制御装置、 103…カウンタ、
301…サンプリングレート増加、 303…LPF、
401…サンプリング点、 403…0挿入点、
501…遅延器、 503…タップ。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号のサンプリング周波数をfヘルツ、出力信号のサンプリング周波数をnfヘルツに周波数変換するサンプリングレート変換装置において、
nfヘルツで動作するカウンタの出力信号により遅延器が動作し、複数のサンプリング周波数に対応できるようにした低域通過フィルタ装置と、
異なるタップ係数を周波数nfで低域通過フィルタに対して出力するタップ制御装置と、
出力値によって前記タップ係数制御装置を制御することを目的とするカウンタ装置と、
を備えることを特徴とするサンプリングレート変換装置。
【請求項2】
前記タップ係数制御装置は、フィルタのタップ係数をサンプリングレート変換装置の出力信号のサンプリング周波数に同期して変化させることにより、任意のサンプリング値と次のサンプリング点におけるサンプリング値の間に0挿入をすることなく補間処理を行えることを特徴とする、請求項1に記載のサンプリングレート変換装置。
【請求項3】
前記タップ係数制御装置は、サンプリングレート変換装置がn倍オーバーサンプリングを目的とするものであるならば、1つのタップに対してn個の値を保持することを特徴とする、請求項1に記載のサンプリングレート変換装置。
【請求項4】
前記タップ係数制御装置は、前記カウンタ装置の出力に応じてタップ係数を変化させるため、サンプリング周波数を任意の倍率に変換する場合においても、タップ数を増減させることなく、一定のタップ数で複数のサンプリング周波数に対応できることを特徴とする、請求項1に記載のサンプリングレート変換装置。
【請求項5】
前記タップ係数制御装置は、サンプリングレート変換装置が最大n倍オーバーサンプリングまで可能とするものならば、1つのタップに対してn個の値を保持し、そのタップ係数をその他の倍率のオーバーサンプリングでも利用することを特徴とする、請求項1に記載のサンプリングレート変換装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−232079(P2009−232079A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73994(P2008−73994)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)