説明

製剤用核粒子

【課題】核粒子として要求される特性を備えつつ、アルカリに対して不安定な薬剤(医薬有効成分)との反応性が抑制ないしは防止された製剤用核粒子を提供する。
【解決手段】医薬有効成分を含む皮膜を表面に形成するための核粒子であって、(1)前記核粒子は、薬学的に許容される無機材料を含み、(2)前記無機材料が、水に対して難溶性であり、(3)前記無機材料の液性pHが5未満である、ことを特徴とする製剤用核粒子に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分(医薬活性成分)を含む皮膜を表面に形成するための製剤用核粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
製剤の製造技術の一つとして、核粒子を流動状態とし、その状態において薬剤(有効成分)単独又はそれと賦形剤との混合物を投入し、核粒子表面にその薬剤又は混合物をコーティングする手法が採用されている。この場合、核粒子には、1)一般に粒径が均一で球状であること、2)コーティング工程において、核粒子が割れない(所定の機械的強度を有する)ことが要求される。
【0003】
有効成分として用いられる薬剤の中には、特にアルカリ雰囲気下で不安定又は酸性雰囲気下でより安定化するものがある。このような薬剤は、例えば安定化剤として各種の有機酸(クエン酸、酒石酸等)を配合した上で製剤化されているのが現状である(特許文献1〜6)。
【0004】
一方、従来から知られている核粒子としては、主に有機材料が使用されている。例えば、結晶セルロース単独の核粒子(特許文献7)、糖単独の核粒子(特許文献8)、糖と結晶セルロースからなる核粒子(特許文献9)、糖と澱粉からなる核粒子(特許文献10)、糖アルコール、ビタミンC及び塩化ナトリウムの群より選ばれた1種を用いる核粒子(特許文献11)等がある。
【0005】
しかしながら、特許文献7〜11の核粒子においては、いずれもアルカリ雰囲気下で不安定な薬剤を安定させるためには、特許文献1〜6のように有機酸等の安定化剤を含有させなければならない。このため、このような核粒子を用いて製剤化する場合、安定化剤の選定作業、安定化剤の添加工程等が別途に必要となる。
【0006】
また、特許文献7の結晶性セルロース単独の核粒子では、その撥水性により、経口投与後の消化管(特に胃)内での崩壊に長時間を要するため、その核粒子表面への薬剤のコーティングが不適当であると、薬剤が完全に溶解せず、消化管で所望の吸収が達成できなくなる。
【0007】
特許文献8〜11の核粒子では、糖又は塩化ナトリウムを用いることから、水分の浸透によって糖又は塩化ナトリウムが溶出して加工時の保形性が悪くなり、安定した徐放性が維持できなくなることがある。また、コーティングの際に水系溶液を用いると粒子どうしが凝集したり、造粒装置の器壁に付着しやすくなる。さらに、糖尿病患者へ投与する場合、その負荷が糖尿病の治療上問題となることがある。
【0008】
さらに、特許文献8の糖単独の核粒子は、硬度が低いために薬剤をコーティングする工程で粒子が割れ、粉体化することがある。
【0009】
特許文献10の糖と澱粉からなる核粒子では、硬度が十分でないことに加え、糖として針状結晶のショ糖を用いるために表面の凹凸が大きく、摩損度が大きい。また、特許文献10のように、糖として還元糖を用いる場合は、医薬有効成分としてアミノ化合物又は有機酸を用いると化学反応を起こし、褐変することが知られている。
【0010】
加えて、特許文献7〜11のように、有機物を核粒子の構成材料として用いる場合は、加工温度に制限があることから、加工(乾燥)に長時間を要することがある。
【特許文献1】特開2002−302443号公報
【特許文献2】特開平10−191927号公報
【特許文献3】特開平7−285867号公報
【特許文献4】特開平11−92369号公報
【特許文献5】特表2007−504098号公報
【特許文献6】特表2002−509210号公報
【特許文献7】特開平7−173050号公報
【特許文献8】特開平6−205959号公報
【特許文献9】特許第321978号
【特許文献10】特開平9−175999号公報
【特許文献11】特許第3447042号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の主な目的は、核粒子として要求される特性を備えつつ、アルカリに対して不安定な薬剤(医薬有効成分)との反応性が抑制ないしは防止された製剤用核粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の無機材料を核粒子として採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記の製剤用核粒子に係る。
【0014】
1. 医薬有効成分を含む皮膜を表面に形成するための核粒子であって、
(1)前記核粒子は、薬学的に許容される無機材料を含み、
(2)前記無機材料が、水に対して難溶性であり、
(3)前記無機材料の液性pHが5未満である、
ことを特徴とする製剤用核粒子。
2. 前記核粒子の粒子硬度が200g/mm以上である、前記項1に記載の製剤用核粒子。
3. 前記核粒子が、粒径50μm未満の粒子が5重量%以下、粒径50μm以上500μm未満の粒子が90重量%以上、粒径500μm以上の粒子が5重量%以下である粒度分布を有する、前記項1又は2に記載の製剤用核粒子。
4. 前記核粒子が、薬学的に許容される無機材料を90重量%以上処方してなる、前記項1〜3のいずれかに記載の製剤用核粒子。
5. 無機材料が、20℃における水に対する溶解度が1g/30mL以下である、前記項1〜4のいずれかに記載の製剤用核粒子。
6. 前記無機材料が、二酸化ケイ素及びケイ酸アルミニウムの少なくとも1種である、前記項1〜5のいずれかに記載の製剤用核粒子。
7. 前記無機材料が、二酸化ケイ素であって、当該二酸化ケイ素における比表面積(A)に対する内部比表面積(B)の割合B/Aが90%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の製剤用核粒子。
8. 前記無機材料を含む組成物を造粒して得られる、前記項1〜7のいずれかに記載の製剤用核粒子。
9. 平均粒径が50μm以上である、前記項1〜8のいずれかに記載の製剤用核粒子。
10. 前記項1〜9のいずれかに記載の製剤用核粒子の表面に、医薬有効成分を含む皮膜が形成されてなる薬物含有粒子。
11. 前記皮膜が医薬有効成分及び賦形剤を含む、前記項10に記載の薬物含有粒子。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製剤用核粒子は、所定の無機材料から構成されており、且つ核粒子として要求される特性(単分散性、流動性、粒子硬度、液性等)を有していることから、アルカリ雰囲気下で不安定な薬剤(医薬有効成分)との反応性を効果的に抑制ないしは防止することができる。また、アルカリ雰囲気下で比較的安定している薬剤においても、より安定化させることができる。このため、そのような医薬有効成分を含む皮膜を表面に形成するための核粒子として好適に用いることができる。特に、従来技術のように、酸性物質からなる安定化剤等を使用しなくても良いので、製剤を製造する上でコスト面、生産効率面等において非常に有利である。特に、無機材料としてpH5未満の二酸化ケイ素及びケイ酸アルミニウムの少なくとも1種を用いる場合は、前記反応性の抑制効果等がより確実に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の製剤用核粒子は、医薬有効成分を含む皮膜を表面に形成するための核粒子であって、
(1)前記核粒子は、薬学的に許容される無機材料を含み、
(2)前記無機材料が、水に対して難溶性であり、
(3)前記無機材料の液性pHが5未満である、
ことを特徴とする。
【0017】
1.製剤用核粒子
【0018】
本発明の製剤用核粒子は、当該粒子の表面に、医薬有効成分(医薬活性成分)を含む皮膜が形成される。すなわち、いわゆるコア・シェル構造を有する製剤に用いられる核粒子(以下「本発明核粒子」ともいう。)である。
【0019】
本発明核粒子は、薬学的(薬理的)に許容される無機材料を含む。この無機材料は、水に対して難溶性のものを用いる。特に、20℃における水に対する溶解度が1g/30mL以下、特に1g/100mL以下、さらには1g/1000mL以下である無機材料を好ましく用いることができる。水に溶解し得る材料では水の浸透によって保形性が低下することがあるのに対し、本発明では水に難溶性の無機材料を用いることによって、安定した保形性等を達成することができる。
【0020】
また、本発明核粒子の無機材料は、液性pHが5未満、好ましくは4.5以下であり、より好ましくは3〜4.5である。液性pHが5を上回る場合は、使用可能な医薬有効成分が限定されてしまい、適用の範囲が狭くなる。
【0021】
無機材料の種類としては、水に難溶性でかつpH5未満であれば特に限定されず、製剤用として使用されている公知又は市販の無機材料も使用することができる。例えば、水に難溶性でかつpH5未満のリン酸塩、ケイ酸塩、酸化物及び水酸化物の無水物あるいは水和物の少なくとも1種を例示することができる。より具体的には、二酸化ケイ素及びケイ酸アルミニウムの少なくとも1種を好ましく用いることができる。
【0022】
また、本発明では、二酸化ケイ素としては、比表面積(BET法)(A)が一般的に500〜900m/g(特に600〜700m/g)のものを好適に用いることができる。また、二酸化ケイ素の内部比表面積(B)は、通常200〜700m/g(特に200〜600m/g)であることが好ましい。さらに、二酸化ケイ素における前記の比表面積(A)に対する内部比表面積(B)の割合は、通常90%以下、特に30〜80%であることが好ましい。このような範囲内に設定することによって、特殊な造粒方式を採らなくても、攪拌造粒法、流動層造粒法、転動造粒法等の公知の造粒方法で、製剤用核粒子として適用可能な粒子硬度200g/mm以上という機能を容易に且つより確実に得ることができる。
【0023】
本発明核粒子中における無機材料の処方は特に制限されないが、通常80重量%以上、特に90重量%以上、さらに95〜100重量%とすることが望ましい。前記の範囲に設定することによって、優れた保形性等を発揮することができる。本発明核粒子中における無機材料の含有量が100重量%未満である場合、前記無機材料以外の成分として一般的な医薬品添加剤(例えば、賦形剤、崩壊剤、防湿剤、安定化剤、結合剤等)の添加剤が含まれていても良い。この場合、本発明核粒子中に医薬有効成分を含まない態様(すなわち、医薬有効成分を含まない製剤用核粒子)も包含される。
【0024】
本発明核粒子の形状は特に限定されず、例えば球状、筒状、板状、不定形状等のいずれであっても良いが、一般的には流動性等の見地より球状であることが望ましい。
【0025】
本発明核粒子の硬度は、制限されないが、通常は200g/mm以上であることが望ましい。粒子硬度を上記範囲に設定することによって、医薬有効成分を含む皮膜を本発明核粒子表面に形成するコーティング工程において、核粒子が割れたり、粉化することをより効果的に防止することができる。この場合、硬度の上限値は限定的ではないが、一般的には3000g/mm程度とすれば良い。
【0026】
本発明核粒子の平均粒径は、一般的には50μm以上の範囲で適宜設定できるが、特に50〜500μm、さらには50〜350μmであることが好ましい。
【0027】
また、粒度分布としては、粒径50μm未満の粒子が5重量%以下(好ましくは2重量%以下)、粒径50μm以上500μm未満の粒子が90重量%以上(好ましくは96重量%以上)、粒径500μm以上の粒子が5重量%以下(好ましくは2重量%以下)であることが望ましい。
【0028】
本発明核粒子の嵩密度は、一般的には0.2〜1.2g/mL程度、特に0.4〜1.0g/mLとすることが、コーティング加工のし易さ等の見地より望ましい。
【0029】
本発明核粒子(粉末)における安息角は、通常は40度以下、特に37度以下、さらには35度以下とすることが、装置への均一な投入/排出という点、均一なコーティング層の形成の点等で好ましい。
【0030】
本発明核粒子は、その表面に医薬有効成分を含む皮膜を形成することによって用いることができる。例えば、医薬有効成分を含む組成物を本発明核粒子表面にコーティングすることによって所定の薬物含有粒子(医薬品)を製造することができる。
【0031】
医薬有効成分としては限定的でなく、例えば高脂血症薬、抗潰瘍薬、降圧剤、抗うつ薬、抗喘息薬、抗てんかん薬、抗アレルギー薬、抗菌薬、抗ガン剤、鎮痛薬、抗炎症薬、糖尿病薬、代謝拮抗薬、骨粗しょう症薬、抗血小板薬等、制吐剤、ホルモン剤、麻酔剤等が挙げられる。この中でも、アルカリ雰囲気下で不安定な医薬有効成分を好適に用いることができる。例えば、前記の特許文献1〜6に示す製剤で用いられる医薬有効成分に対しても本発明核粒子を好適に用いることができる。
【0032】
また、前記組成物中には、必要に応じて賦形剤、崩壊剤、防湿剤、安定化剤、結合剤等の医薬品添加物が含まれていても良い。医薬品添加物の含有量は、その添加剤の種類、医薬有効成分の含有量等に応じて適宜設定することができる。
【0033】
医薬有効成分を含む組成物を本発明核粒子表面にコーティング方法は、限定的でなく、例えば攪拌造粒法、流動層造粒法、転動造粒法等の公知の造粒方法を採用することができる。この場合、公知又は市販の造粒装置を用いて造粒を実施すれば良い。この場合、医薬有効成分を含む皮膜の厚みは、通常1〜100μm程度の範囲内で調節することができる。
【0034】
2.製剤用核粒子の製造方法
【0035】
本発明核粒子は、前記無機材料を含む組成物を造粒することによって好適に製造することができる。例えば、目的とする核粒子を構成し得る無機材料の微粉末(原料粉末)を造粒することによって得ることができる。
【0036】
原料粉末は、薬学的に許容される無機材料であって、水に対して難溶性であり、かつ、液性pHが5未満、好ましくは4.5以下、より好ましくは3〜4.5であれば良く、前記で例示した各無機材料の微粉末を用いることができる。
【0037】
原料粉末の平均粒径は、本発明核粒子の所望の粒径等に応じて適宜決定できるが、通常は0.1〜40μm、特に0.1〜20μmとすれば良い。
【0038】
本発明において、無機材料として二酸化ケイ素又はケイ酸アルミニウムを用いる場合は、下記の方法により製造された原料粉末を用いることが好ましい。
【0039】
二酸化ケイ素の場合(製法1)
ケイ酸マグネシウムの水性スラリーを調製する第1工程、前記水性スラリーに酸を添加することによりpH1〜5に調整する第2工程、前記スラリーを固液分離して得られる固形分を水に懸濁して水性スラリーを調製する第3工程、第3工程で得られた水性スラリーに酸を添加することによりpH1〜5に調整する第4工程、前記水性スラリーを固液分離して固形分を得る第5工程を含む製造方法により二酸化ケイ素からなる原料粉末を好適に製造することができる。
【0040】
第1工程では、ケイ酸マグネシウムの水性スラリーを調製する。この場合の調製方法は特に限定されず、例えばマグネシウム塩の水溶液にケイ酸ナトリウムを添加することによって前記水性スラリーを得ることができる。マグネシウム塩としては、水溶性であれば良く、例えば硫酸マグネシウム等を好適に用いることができる。また、マグネシウム塩の水溶液の濃度は限定されないが、通常は10〜500g/L程度とすれば良い。水性スラリーの固形分量は、一般的には1〜20重量%程度の範囲内で適宜調節すれば良い。
【0041】
第2工程では、前記の水性スラリーに酸を添加することによりpH1〜5に調整する。酸としては、例えば硫酸、塩酸等の無機酸のほか、酢酸、シュウ酸等の有機酸を使用することもできる。これらの酸は、必要に応じて水溶液の形態で使用することもできる。
【0042】
第3工程では、前記スラリー(反応生成物)を固液分離して得られる固形分を水に懸濁して水性スラリーを調製する。固液分離方法は、公知の方法・装置を用いて実施することができ、例えばろ過、遠心分離等を採用すれば良い。固液分離により回収された固形分は、水洗することが望ましい。次いで、前記固形分を水に懸濁させることにより水性スラリーを調製する。この場合の固形分量は、通常1〜20重量%程度になるように調節すれば良い。
【0043】
第4工程では、第3工程で得られた水性スラリーに酸を添加することによりpH1〜5に調整する。酸としては、第1工程で使用したものと同様のものを使用することができる。
【0044】
第5工程では、前記水性スラリーを固液分離して固形分を得る。固液分離方法は、第3工程で用いた方法・装置と同様のものを挙げることができる。得られた固形分は、必要に応じて水洗、乾燥、粉砕、分級等の処理を実施しても良い。特に、水洗する場合は、ろ液(水洗に使用した後の水)のpHが2〜4の範囲、特に2.3〜3.3の範囲になるまで水洗することが望ましい。
【0045】
二酸化ケイ素の場合(製法2)
ケイ酸アルミニウムの水性スラリーを調製する第1工程、前記水性スラリーに酸を添加することによりpH1〜5に調整する第2工程、前記スラリーを固液分離して得られる固形分を水に懸濁して水性スラリーを調製する第3工程、前記水性スラリーに酸を添加することによりpH1〜5に調整する第4工程、前記水性スラリーを固液分離して固形分を得る第5工程を含む製造方法により二酸化ケイ素からなる原料粉末を好適に製造することができる。
【0046】
第1工程では、ケイ酸アルミニウムの水性スラリーを調製する。この場合の調製方法は特に限定されず、例えばアルミニウム塩の水溶液にケイ酸ナトリウムを添加することによって前記水性スラリーを得ることができる。アルミニウム塩としては、水溶性であれば良く、例えば硫酸アルミニウム等を好適に用いることができる。また、アルミニウム塩の水溶液の濃度は限定されないが、通常は10〜200g/L程度とすれば良い。水性スラリーの固形分量は、一般的には1〜20重量%程度の範囲内で適宜調節すれば良い。
【0047】
第2工程では、前記の水性スラリーに酸を添加することによりpH1〜5に調整する。酸としては、例えば硫酸、塩酸等の無機酸のほか、酢酸、シュウ酸等の有機酸を使用することもできる。これらの酸は、必要に応じて水溶液の形態で使用することもできる。
【0048】
第3工程では、前記スラリー(反応生成物)を固液分離して得られる固形分を水に懸濁して水性スラリーを調製する。固液分離方法は、公知の方法・装置を用いて実施することができ、例えばろ過、遠心分離等を採用すれば良い。固液分離により回収された固形分は、水洗することが望ましい。次いで、前記固形分を水に懸濁させることにより水性スラリーを調製する。この場合の固形分量は、通常1〜20重量%程度になるように調節すれば良い。
【0049】
第4工程では、第3工程で得られた水性スラリーに酸を添加することによりpH1〜5に調整する。酸としては、第1工程で使用したものと同様のものを使用することができる。
【0050】
第5工程では、前記水性スラリーを固液分離して固形分を得る。固液分離方法は、第3工程で用いた方法・装置と同様のものを挙げることができる。得られた固形分は、必要に応じて水洗、乾燥、粉砕、分級等の処理を実施しても良い。特に、水洗する場合は、ろ液(水洗に使用した後の水)のpHが2〜4の範囲、特に2.3〜3.3の範囲になるまで水洗することが望ましい。
【0051】
ケイ酸アルミニウムの場合
無機アルミニウム塩及びコロイダルシリカを混合して混合液を調製する第1工程、前記混合液とアルカリ水溶液とを混合することにより第2混合液を得る第2工程、前記第2混合液に酸を添加することによりpH3〜6に調整する第3工程、前記第2混合液を固液分離して固形分を得る第4工程を含む製造方法によりケイ酸アルミニウムからなる原料粉末を好適に製造することができる。
【0052】
第1工程では、無機アルミニウム塩及びコロイダルシリカを混合して混合液を調製する。無機アルミニウム塩としては、アルミニウムの無機酸塩であれば良く、例えば硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム及び硝酸アルミニウムの少なくとも1種を好適に用いることができる。また、コロイダルシリカとしては、特に酸性コロイダルシリカを好適に用いることができる。これら無機アルミニウム塩及びコロイダルシリカは、公知又は市販のものを使用することもできる。
【0053】
混合液の調製方法は特に限定されず、例えば無機アルミニウム塩又はコロイダルシリカの水溶液又は水分散液を調製した後、両者を混合する方法を採用することができる。両者の混合比は、モル比(固形分SiO:Al)で1:1〜5程度の範囲内で適宜設定すれば良い。
【0054】
第2工程では、前記混合液とアルカリ水溶液とを混合することにより第2混合液を得る。アルカリ水溶液としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液を用いることができる。アルカリ水溶液の濃度は特に限定されないが、一般的には10〜50重量%程度とすれば良い。両者の混合割合は、所定の反応生成物が形成されるように適宜調節すれば良い。
【0055】
第3工程では、前記第2混合液に酸を添加することによりpH3〜6に調整する。酸としては、例えば硫酸、塩酸等の無機酸のほか、酢酸、シュウ酸等の有機酸を使用することもできる。これらの酸は、必要に応じて水溶液の形態で使用することもできる。
【0056】
第4工程では、前記第2混合液(反応生成物)を固液分離して固形分を得る。固液分離方法は、公知の方法・装置を用いて実施することができ、例えばろ過、遠心分離等を採用すれば良い。得られた固形分は、必要に応じて水洗、乾燥、粉砕、分級等の処理を実施しても良い。
【0057】
以上のような方法で得られた粉末及び必要に応じて前記添加剤を用いて造粒を行う。造粒方法は特に制限されず、例えば転動造粒法、攪拌造粒法、流動層造粒法、圧縮成型法、成膜処理法、磁気特性処理法、表面改質法、焼結成型法、振動成型法、圧力スイング法、真空成型法等のいずれであっても良い。造粒に際しては、公知又は市販の造粒装置を用いて実施することができる。これらの造粒方法の中でも、本発明では、攪拌造粒法により好適に造粒することができる。
【0058】
また、造粒は、湿式法又は乾式法のいずれであっても良いが、本発明では特に湿式法により好適に造粒することができる。湿式法により造粒する場合、溶媒の種類は限定的ではなく、水又は水系溶媒を好適に用いることができる。水系溶媒としては、例えばエタノール−水の混合溶媒(体積比でエタノール:水=1:1〜5程度)を好適に用いることができる。溶媒の使用量は、原料粉末100重量部に対して通常30〜300重量部程度とすれば良い。
【0059】
好適な造粒方法の一例としては、例えば高速攪拌型混合造粒機を用い、原料粉末を前記造粒機に投入し、溶媒を噴射しながら攪拌機で攪拌して流動化することにより造粒することができる。前記の高速攪拌型混合造粒機において、攪拌機としてアジテータ及びチョッパーを用いる場合は、他の条件にもよるが、例えばアジテータ回転数:300〜1000rpm程度、チョッパー回転数:1000〜1500rpm程度に設定することにより好適に造粒することができる。形成された湿式造粒物は、造粒機(ホッパー)内で乾燥しても良いし、あるいは造粒機(ホッパー)から湿式造粒物を取り出して乾燥すれば良い。その後、目的とする粒度分布となるように分級することにより本発明核粒子を得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0061】
<実施例1>
500L容量タンクに水道水260Lを入れ、硫酸マグネシウムをMgO固形分換算で2.7kgになるように溶解した。溶解液に3号ケイ酸ナトリウム35L(SiO固形分:14.2kg)を滴下し、更に硫酸を滴下してpH2に調製し、反応生成物をろ過・水洗して、スラリーA1を得た。
【0062】
得られたスラリーA1を固形分が8%になるように再度水道水を入れ懸濁し、硫酸を加えてpH2に調製し、反応生成物をろ過・水洗して、スラリーA2を得た。なお、水洗終点は、ろ液pH2.3〜2.7とした。
【0063】
スラリーA2を棚式乾燥機にて24時間乾燥後、ハンマー式粉砕機にて粉砕することにより二酸化ケイ素粉末Aを得た。
【0064】
<実施例2>
300L容量タンクに水道水90Lを入れ、3号ケイ酸ナトリウム38L(SiO固形分:15kg)と硫酸アルミニウム液25L(AlO固形分:2.6kg)をpH3.5〜4.5にて同時滴下した。更に硫酸を滴下してpH2に調製し、反応生成物をろ過・水洗して、スラリーB1を得た。
【0065】
得られたスラリーB1を固形分が13%になるように再度水道水Lに入れ懸濁し、硫酸を加えてpH2に調製し、反応生成物をろ過・水洗して、スラリーB2を得た。なお、水洗終点は、ろ液pH2.3〜2.7とした。
【0066】
スラリーB2を棚式乾燥機にて24時間乾燥後、ハンマー式粉砕機にて粉砕することにより二酸化ケイ素粉末Bを得た。
【0067】
<実施例3>
硫酸アルミニウム液(AlO含量:8.0%)29Lと酸性コロイダルシリカ(日産化学社製:スノーテックスO)2.7kgを混合し、水道水で33Lとした液(調製液X)と12%苛性ソーダ液33L(調製液Y)を予め原料タンクに準備した。300L容量タンクに水道水150Lを入れ、調製液Xと調製液YをpH4.5〜5.5にて同時滴下した。反応生成物をろ過・水洗して、スラリーCを得た。
【0068】
得られたスラリーCを棚式乾燥機にて24時間乾燥後、ハンマー式粉砕機にて粉砕することによりケイ酸アルミニウム粉末Cを得た。
【0069】
<比較例1>
アドソリダー102(成分:二酸化ケイ素、フロイント産業社製)を入手した。(粉末D)
【0070】
各粉末サンプルの物性は表1に示す通りである。
【0071】
【表1】

なお、表1中の無機材料はいずれも、20℃における水に対する溶解度が1g/30mL以下である。
【0072】
<試験例1>
【0073】
(1)pH
試料2.0gを水50mL(25℃)に懸濁させた液のpHをpH計により測定した。
【0074】
(2)比表面積
測定方法は、以下の装置および解析条件で行った。
・装置:Quantachrome社製高速比表面積・細孔分布測定装置(型式NOVA4200e)
・前処理条件:試料0.05gを正確に測り、吸着管に封入し、105℃、5時間脱気
・比表面積の測定及び解析:液体窒素ガス温度下で窒素ガスの吸着等温線を求め、その吸着等温線を用いて多点BET法により算出
【0075】
(3)内部比表面積;細孔径2nm以下(ミクロ領域)の比表面積
前記(2)で求めた窒素ガス吸着等温線に基づいて、比表面積を測定した後、t‐プロット法により解析した。
【0076】
(4)平均細孔径
平均細孔径(Dave)は、全細孔容積とBET表面積から下式により算出した。
【0077】
Dave = (4 Vtotal / S)
【0078】
Daveは平均細孔直径 Vtotal は全細孔容積、SはBET表面積を表す。
【0079】
(5)見かけの嵩
試料20gを50mLメスシリンダーに入れ、そのメスシリンダーを粉体減少度測定器(筒井理化学器械製「TMP−7−P」)にセットし、測定条件としてタッピング回数100回、タッピング高さ4cm、タッピング速度36回/分で試験した後、容量F(mL)を目視で測定した。その後、F/20にて見かけの嵩(mL/10g)を算出した。
【0080】
(6)吸水量
試料10gを平滑なプラスチック板上に移し、精製水をビュレットから1mL単位で試料上に滴下し、分散させて混合物が均一になるように円形を描く操作で丁寧に練った。終点近くなったら1滴ずつ加えて、全体が最もまとまった状態になった時点を終点とし、その時の精製水滴下量を読み取り、下式により算出した。
【0081】
吸水量(mL/g)= 滴下量(mL)/10(g)
【0082】
<実施例5〜7、比較例2>
実施例1〜3、比較例1で得られた粉末(粉末A〜D)を高速撹拌型混合造粒機(深江パウテック製「LFS-GS-25J」)に投入し、水を添加して湿式造粒した後、80℃で24時間乾燥し、篩いにて分級した。各サンプルの調製条件は表2、物性は表3に示す通りである。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
<試験例2>
各実施例で得られた核粒子について、粒子の外観形状、pH、粒子硬度、嵩密度、安息角及び粒度分布を測定した。各物性の測定方法は、以下のとおりである。
【0086】
(1)外観形状
走査型電子顕微鏡により観察した。
【0087】
(2)pH
試料2.0gを水50mL(25℃)に懸濁させた液のpHをpH計により測定した。
【0088】
(3)粒子硬度
粒子硬度測定装置(岡田精工(株)製「グラノ」)を用い、1個の粒子の圧潰強度のピーク値(g)を測定し、粒子20個の平均値として求めた。
【0089】
(4)安息角
直径50mmの皿の上方の高さ100mmの位置にホッパーを配置し、このホッパーから試料を少量ずつ皿に落下させて円錐状の試料の山を作り、その山の試料がずり落ちずに安定した時の高さ(h)を測定し、皿と山の斜面がなす角度〔安息角α=tan−1(h/25mm)〕を算出した。
【0090】
(5)嵩密度
試料20gを50mLメスシリンダーに入れ、そのメスシリンダーを粉体減少度測定器(筒井理化学器械製「TMP−7−P」)にセットし、測定条件としてタッピング回数100回、タッピング高さ4cm、タッピング速度36回/分で試験した後、容量F(mL)を目視で測定した。その後、20/Fにて嵩密度(g/mL)を算出した。
【0091】
(6)粒度分布
試料10gを用いて、ロボットシフターにて測定した(使用篩:30M、60M、83M、142M)。測定装置として、(型式:RPS−105、セイシン社製)を用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬有効成分を含む皮膜を表面に形成するための核粒子であって、
(1)前記核粒子は、薬学的に許容される無機材料を含み、
(2)前記無機材料が、水に対して難溶性であり、
(3)前記無機材料の液性pHが5未満である、
ことを特徴とする製剤用核粒子。
【請求項2】
前記核粒子の粒子硬度が200g/mm以上である、請求項1に記載の製剤用核粒子。
【請求項3】
前記核粒子が、粒径50μm未満の粒子が5重量%以下、粒径50μm以上500μm未満の粒子が90重量%以上、粒径500μm以上の粒子が5重量%以下である粒度分布を有する、請求項1又は2に記載の製剤用核粒子。
【請求項4】
前記核粒子が、薬学的に許容される無機材料を90重量%以上処方してなる、請求項1〜3のいずれかに記載の製剤用核粒子。
【請求項5】
無機材料が、20℃における水に対する溶解度が1g/30mL以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の製剤用核粒子。
【請求項6】
前記無機材料が、二酸化ケイ素及びケイ酸アルミニウムの少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の製剤用核粒子。
【請求項7】
前記無機材料が、二酸化ケイ素であって、当該二酸化ケイ素における比表面積(A)に対する内部比表面積(B)の割合B/Aが90%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の製剤用核粒子。
【請求項8】
前記無機材料を含む組成物を造粒して得られる、請求項1〜7のいずれかに記載の製剤用核粒子。
【請求項9】
平均粒径が50μm以上である、請求項1〜8のいずれかに記載の製剤用核粒子。

【公開番号】特開2010−6769(P2010−6769A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169704(P2008−169704)
【出願日】平成20年6月28日(2008.6.28)
【出願人】(000237972)富田製薬株式会社 (30)
【Fターム(参考)】