説明

製造方法

窒化ホウ素ナノチューブ及びナノチューブフィルムを製造する方法であって、ホウ素粒子及び金属化合物を含む液体組成物を加熱することを含み、加熱が、窒化ホウ素ナノチューブを成長させる窒素含有気体雰囲気中800〜1300℃の温度で実施され、ホウ素粒子が100nm未満の平均粒度を有し、金属化合物が、加熱中に窒化ホウ素ナノチューブの成長を促進するように選択されたものである方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば基材上に窒化ホウ素ナノチューブを製造する方法に関する。窒化ホウ素ナノチューブは、フィルムの形態で基材上に提供することができる。方法はホウ素粒子含有インクを使用し、本発明はこのインクにも関する。本発明はまた、本発明にしたがって製造された窒化ホウ素ナノチューブでコートされた基材及びそのような基材の実用化に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)は、数多くの興味深く実用的な性質を示すことが見いだされ、したがって、ますます多くの注目を集めている。そのような性質としては、
・優れた熱伝導性、
・優れた機械的性質、
・強力な耐酸化性及び高い温度安定性(高温で化学的に無害)、
・安定な広いバンドギャップ(6eVに近い)、
・優れた放射線遮蔽(同位体10Bの存在による)、
・優れた圧電性、及び
・オプトエレクトロニクス性
がある。
【0003】
そのような高品質で望ましい性質のおかげで、BNNTは広い範囲の潜在的用途を有する。しかし、その場合、一般的な必要条件は、BNNTを高純度かつ多量に、選択された位置に薄いフィルムとして(これは、機能装置に組み込む場合にきわめて重要である)適切に高い密度及び適切に高い純度で提供しなければならないことである。さらには、BNNTを工業生産規模で経済的に提供することができることが同じく重要である。本発明は、これら様々な必要条件を満たすBNNTを提供する方法を提供しようとする。本発明の実施態様において、BNNTは基材上に製造される。
【発明の概要】
【0004】
したがって、一つの実施態様において、本発明は、窒化ホウ素ナノチューブを製造する方法であって、ホウ素粒子及び金属化合物を含む液体組成物を加熱することを含み、加熱が、窒化ホウ素ナノチューブを成長させる窒素含有気体雰囲気中800〜1300℃の温度で実施され、ホウ素粒子が100nm未満の平均粒度を有し、金属化合物が、加熱中に窒化ホウ素ナノチューブの成長を促進するように選択されたものである方法を提供する。液体組成物は、ホウ素粒子が分散している媒体を含む。金属化合物は、媒体中に分散又は好ましくは溶解していることができる。
【0005】
本発明のこの実施態様において、BNNTは、インクを適当な容器/ボート中で加熱することにより、ばらの形態(クラスタ)として成長させることができる。インク中の媒体は加熱中に急速に気化する(エタノールが使用されるならば、約90℃で気化する)。固体B及び金属ナノ粒子が析出し、1100℃で窒素と反応する。その後、BNNTを採収し、必要に応じて使用することができる。
【0006】
本発明にしたがって、ホウ素粒子及び金属化合物を基材に施すことにより、基材上にBNNTを成長させることが可能であり、その際、少なくともホウ素粒子は液体調合物として提供される。本発明は、この実施態様を特に強調して説明するが、以下の説明の多くが、基材表面上ではなく液体組成物のバルク内からBNNTを成長させる実施態様にも当てはまるということが理解されよう。
【0007】
したがって、一つの実施態様において、本発明は、基材上に窒化ホウ素ナノチューブを製造する方法であって、以下の工程:
(a)金属化合物及び平均粒度100nm未満のホウ素粒子を基材に施す工程(ホウ素粒子は、媒体中に分散したホウ素粒子を含む液体組成物の形態で施される)、
(b)基材を、窒素含有気体雰囲気中800〜1300℃の温度で加熱して、それにより、基材上に窒化ホウ素ナノチューブを成長させる工程
を含み、金属化合物が、加熱工程(b)中に窒化ホウ素ナノチューブの成長を促進するように選択されたものである方法を提供する。
【0008】
もう一つの実施態様において、本発明は、基材上に窒化ホウ素ナノチューブを製造する方法であって、以下の工程:
(a)媒体中に溶解又は分散した金属化合物で基材をコートする工程、
(b)コートされた基材に、平均粒度100nm未満のホウ素粒子を含むインクを、インクジェット印刷、はけ塗装、吹き付け及び他の方法によって施す工程、
(c)基材を、回転/傾注管状炉中、窒素含有気体雰囲気中800〜1300℃の温度で加熱して、それにより、基材上に窒化ホウ素ナノチューブを成長させる工程
を含み、金属化合物が、工程(c)における加熱中に窒化ホウ素ナノチューブの成長を促進するように選択されたものである方法を提供する。
【0009】
本発明にしたがって、基材上に提供されたホウ素粒子からのBNNTの成長を促進することにおいて特定の金属化合物の使用が効果的であることがわかった。理論によって拘束されることを望まないが、加熱工程中、金属化合物が対応する金属に還元され、この金属こそが、基材表面上に提供されたホウ素粒子からのBNNTの形成及び成長を促進する触媒(又は核生成部位)として作用すると考えられる。
【0010】
本明細書において、語「液体組成物」は語「インク」とで互換可能に使用される。
【0011】
また、ホウ素粒子を含有するインクの使用が本発明の重要な態様である。インクの使用は、多様な技術(たとえばインクジェット印刷、はけ塗装/塗装、吹き付けなど)によってホウ素粒子(少なくとも)を基材に施すことを可能にし、また、所望の形状にしたがってコートすることを可能にする。また、インクの配合に使用される特定の媒体が、BNNTの製造及び成長に対して有益な効果を及ぼすことができることがわかった。
【0012】
本発明はまた、本発明の方法における使用に適したホウ素粒子を含むインクを提供する。
【0013】
本発明はまた、本発明にしたがって製造された窒化ホウ素ナノチューブを表面に含む基材を提供する。窒化ホウ素ナノチューブは、基材上のフィルムの形態をとることもできる。本発明はまた、そのようなコートされた基材の使用にも及ぶ。
【0014】
詳細な説明
本発明にしたがって、BNNTを成長させることが望まれる基材表面へのホウ素粒子の塗布を容易にするためにインクが使用される。インクは、特定の粒度特性を有するホウ素粒子及び媒体を含む。媒体は、ホウ素粒子の均一な分散を可能にし、必要に応じて粒子を所望の形状で基材に施しやすくするためのものである。インクの使用はまた、多様な従来の好都合な塗布技術によってホウ素粒子を基材に施すことを可能にする。インクの使用はまた、ホウ素粒子の配合に関して融通を利かせ、これが、製造されるBNNTの特性、たとえば濃密度に影響することができる。
【0015】
インクは、そのもっとも簡単な形態において、ホウ素粒子及び媒体のみを含む。しかし、本発明の実施態様においては、他の機能成分をインクに含めることが望ましいこともある。たとえば、増粘剤の添加によってインクの粘度を増すことが望まれることもある。また、金属化合物成分をインクに含めることが望ましいこともあるが、これに関しては、以下さらに詳細に説明する。
【0016】
一般に、インクは、構成成分を所要の割合で単にブレンドすることによって調製される。
【0017】
インク中に使用されるホウ素粒子は、特定の平均粒度特性、すなわち、100nm未満の平均粒度を有する。一般に、平均粒度は10nm〜100nmである。
【0018】
本発明における使用のためのインクへの配合に適したホウ素粒子は市販品であってもよい。しかし、本発明の好ましい実施態様にしたがって、粒子は、より大きな粒度のホウ素粒子のミル粉砕によって製造され、ミル粉砕ののちインクが配合される。この実施態様においては、より大きな粒度のホウ素粒子(平均粒度>500nm、たとえば約1mm以下)をボールミル中でミル粉砕することができる。ミル粉砕は、適切に乾燥した不活性ガス雰囲気、たとえば無水アンモニア、アルゴン、窒素などの中で実施しなければならない。好ましくは無水アンモニアが使用される。ミル粉砕は一般に、周囲温度及び高圧、たとえば200〜300kPaで実施される。
【0019】
アンモニアが使用される場合、圧力がはじめ低下したのち、徐々に増大することが観察されている。これは、ミル粉砕中にホウ素とアンモニアとの間で窒化反応が起こっていることを暗示する。初期の圧力低下は、ミル粉砕によって新たに創製された粒子の表面へのアンモニアガスの吸収によるものと考えられる。圧力の上昇は、アンモニアの解離及び水素ガスの放出ならびにホウ素と原子窒素との間の窒化反応によるものと考えられる。未反応窒素又は窒素含有種がミル粉砕される粒子に窒素を付与することができ、これもまた、本発明にしたがって、その後のBNNTの形成に関して有益となることもできる。ボールミル粉砕の結果は、ホウ素粒子が粒度において縮小され、表面に吸着した窒素を含む、化学的に活性化された構造であると考えられる。
【0020】
利点として、ミル粉砕は、硬化鋼ボールを使用して実施され、これが、ボールからホウ素粉末への微粒形態(一般に<100nm)の少量の鉄のいくらかの移送を生じさせることができることがわかった。鉄は、本発明の方法においてBNNTの形成及び成長を促進することがわかっている金属であり、したがって、この方法におけるホウ素粒子の製造は、方法全体の意義にとって有益である。また、これに関して、水素が鋼ボールを脆弱化して、それにより、ミル粉砕されるホウ素粒子への鉄の移送を増強するため、還元性雰囲気中でミル粉砕を実施することが好ましいこともある。使用される金属粒子の平均粒度は、製造されるBNNTの平均直径と相関することがわかった。
【0021】
必要な平均粒度を生み出すためのミル粉砕の期間は、使用される特定のボールミルの特性及び効率に依存して異なる。通常の品質管理法を適用して、ミル粉砕処理中に製造されるホウ素粒子の特性を評価することもできる。
【0022】
必要な平均粒度のホウ素粒子は、適当な媒体への分散によってインクに配合される。インクの配合は、インク成分の酸化を避けるために、窒素シュラウドのような不活性雰囲気中で実施されるべきである。この配合工程において他の成分を加えることもできる。一般に、インクは、かく拌又は好ましくは超音波振動の適用によって配合される。超音波振動が、他のやり方ならば存在することがあるホウ素粒子の凝集塊/クラスタをばらばらにし、そうしてホウ素粒子の均一な分散を有するインクの形成を支援することがわかった。使用されるかもしれない他のインク成分の溶解を支援するために必要ならば、インク配合工程において加熱(<60℃)を適用することもできる。
【0023】
インクは、使用の直前に配合されることもできるし、調製され、のちの使用に備えて貯蔵されることもできる。いずれにしても、インクは、不活性又は還元性雰囲気中に維持されるべきである。インクが調製され、貯蔵されたならば、使用の前に、ホウ素粒子の均一な分散を保証するために、たとえば超音波を使用して徹底的にかく拌する必要があるかもしれない。
【0024】
本発明のもう一つの重要な態様は、基材上のBNNTの成長を促進するための金属化合物の使用である。金属化合物は、たとえば上記ボールミル粉砕によってどのように粒子が調製されたかの結果としてホウ素粒子とともに存在することがある金属の他に、触媒的に活性な金属を工程に付与する。一般に、粒子が製造される工程の結果としてホウ素粒子とともに存在する金属は、適当な濃度のBNNTを効率よく生じさせる量では存在しない。粒子製造に起因する金属/金属化合物とは異なる金属化合物の使用がこれを救済し、BNNTの製造に関して高められた融通を提供する。
【0025】
好ましい実施態様において、金属化合物は、ホウ素粒子を含有するインクの成分として提供される。金属化合物は、インク中に微粒子として分散していることもできる。しかし、金属化合物はインク中に溶解していることが好ましい。この場合、インクを配合するために使用される媒体は、金属化合物を可溶化し、また、必要に応じてホウ素粒子を分散させることができなければならない。この実施態様において、本発明は、基材上に窒化ホウ素ナノチューブを製造する方法であって、以下の工程:
(a)媒体中に分散した平均粒度100nm未満のホウ素粒子及び媒体中に溶解又は分散した金属化合物を含むインクを基材に施す工程、
(b)基材を、窒素含有気体雰囲気中800〜1300℃の温度で加熱して、それにより、基材上に窒化ホウ素ナノチューブを成長させる工程
を含み、金属化合物が、工程(b)における加熱中に窒化ホウ素ナノチューブの成長を促進するように選択されたものである方法を提供する。
【0026】
多様な金属化合物を本発明の実施において使用することができ、有用な金属は、金属の活性及び効能を確かめるために実験的に決定することができる。一般に、金属は、Fe、Cr、Ni、Co、Mo及びWの一つ以上から選択される。
【0027】
記載される好ましい実施態様において、金属化合物は、インクを配合するために使用される媒体に易溶性である塩の形態で使用される。実際に、塩は、媒体に基づいて選択されることができ、媒体は、塩に基づいて選択されることができる。一般に、塩は硝酸塩であり、これはまた、反応系全体に窒素を付与するため、有益であるといえる。Fe(NO33及びCO(NO33の使用が特に有用であることがわかった。
【0028】
概して、媒体が塩を可溶化しなければならない場合、水又は極性有機溶媒、たとえばメタノールもしくはエタノールが使用される。以下に論じるように、エタノールの使用が特に有益であることもある。この実施態様において、インクは、適当な順序で配合することができる。一般に、まず金属化合物を媒体に溶解させ、次いでホウ素粒子を加え、適当に混合する。実例として、エタノール中0.01M〜0.05M Fe(NO33又はCo(NO33の溶液を使用することができる。一般に、インクは、ホウ素粒子10〜30重量%及び金属化合物5〜15重量%(溶液1〜2ml中B100〜300mg)を含む。金属化合物によってインクに付与される金属の量は、通常、B1〜5原子%である(最適な金属/B比は約2原子%である)。
【0029】
上記のように、もう一つの実施態様において、金属化合物は、媒体中に溶解ではなく分散していることもできる。金属化合物は媒体に可溶性であることを求められないため、これは、使用することができる金属化合物と媒体との組み合わせを増やすことができる。この実施態様において、金属化合物及びホウ素粒子は、任意の順序で媒体とブレンドすることができる。媒体、金属化合物、金属及びホウ素粒子の量は上記のとおりである。
【0030】
もう一つの実施態様において、金属化合物は、ホウ素粒子含有インクとは独立して、基材上に設けられ(コートされ)ることもできる。この場合、金属化合物は、インク配合に関して上述した記載にしたがって、適当な液体中に溶解又は分散していることができる。そして、金属化合物を含有する液体を基材にコートし、その後、ホウ素粒子含有インクを施して、インクが金属化合物のコーティングと接触するようにする。インクの塗布の前に金属化合物を含有する液体を乾燥させることもできるが、必ずしもその必要はない。
【0031】
本発明の実施態様において、インクの配合又は基材への塗布の際に成分の分離又は反応が起こらないよう、様々な成分は適当に相溶性である。好ましくは、インク(及び、別々に使用される場合、金属化合物を含有する液体)は難なく基材をコートする/湿潤させる。本発明の実施を妨げる相溶性の問題があるならば、湿潤を支援するために、インク中又は基材上に界面活性剤を使用する必要があるかもしれない。
【0032】
ホウ素粒子及び金属化合物が基材上に設けられる方法、すなわち別々に設けられるのか、一つのインク中でいっしょに設けられるのかにかかわらず、基材は、ひとたびコートされると、窒素含有雰囲気中でアニーリング(加熱)に付される。雰囲気は分子窒素(N2)を含むこともできるし、窒素がNH3のような化合物形態で存在することもできる。N2が使用される場合、N2及びH2を含む混合ガス、通常はN2−5%H2を使用することが好ましいこともある。水素の存在が有意であることがわかった。窒素含有ガスは、好ましくは、静止したままにするのではなく、コートされた基材の上に流す。これは、新鮮な反応体(窒素)がホウ素との反応のために利用可能になることを保証する。加熱は、所要寸法のBNNTが達成されるまで継続する。製造されたBNNTは、多様な分析技術によって、たとえば電子顕微鏡検査法を使用して評価し、特性決定することができる。
【0033】
アニーリング工程は、適当に適合された炉の中で実施することができる。しかし、好ましい実施態様においては、回転管状炉を使用すると、ナノチューブ製造の増大を達成することができる。このタイプの炉は、回転駆動システムを使用して粉末を加熱及びかく拌して、すべての粉末が反応ガスに暴露されて十分な窒化が達成されることを可能にする。管状炉は一般に、安定な温度の1200mmの長い加熱長を有する。回転速度を5〜15rpmで調節して、粉末が十分にガスに暴露されることを保証することができる。また、傾注炉を使用して同じ効果を達成することもできる。
【0034】
固定式の水平管状炉に比べて、回転炉は、BNナノチューブ合成において以下の利点を有する。
・B粉末が回転炉管に沿って転がり、反応ガスと十分に反応することができるため、不活性雰囲気下、一度により多くの材料を処理することができる。
・回転する加熱管がナノチューブの最小限の凝集及びより良好な分散を保証する。
・B粉末の十分な窒化による、より高いチューブ密度。
回転管状炉は主に、ばらのBNナノチューブを大量生産する場合に使用される。
【0035】
アニーリング工程に使用されるガスは、製造されるBNNTの特性に影響することもある。したがって、N2/H2の混合ガスがコートされた基材の上に流される場合、NH3を使用する場合と比べてBNNTがより急速に製造される傾向にある。その結果、同じアニーリング時間の場合、N2/H2の使用は、NH3の使用と比べて、より長いBNNTの形成を生じさせることができる。
【0036】
インク中のホウ素粒子の濃度及び/又は基材に施されるインクの厚さは、製造されるBNNTの濃密度に影響することもある。
【0037】
本発明の方法は、他のコーティング法に比べて数多くの利点を有する。第一に、より融通が利き、より制御可能である。第二に、初めて、複雑な表面を有する物体上にBNNTを容易に成長させることができる。第三に、プロセス変量の適当な操作により、ナノチューブサイズ、密度及びBNNTフィルムの延伸が制御可能である。第四に、ボールミル粉砕及びインクが多量のナノサイズB粒子を低コストで利用可能にするため、大きな面積の表面コーティングが達成可能である。
【0038】
BNNTコートされた基材は、新規なレーザ装置、機械加工部品固体潤滑剤、電界放出チップなどを含む、広い範囲の潜在的用途を有する。シリカ基材上にコートされた整列したBNNTは、DUV範囲(<300nm)の光放出のための新たな発光材料として使用することができ、高温下に高速で作動する機械加工部品の表面にコートされたBNNTは、固体潤滑剤効果を有し、基材表面に形成されたBNNTは、電界放出及び他の電子装置にすることが容易である。様々な基材にコートされたBNNTは、酸化及び他の化学的攻撃から基材を保護することができる。
【0039】
本発明の実施態様を非限定的な添付図面において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、本発明の方法を示す略図である。
【図2】図2a)は、基材へのBインクの印刷を示す写真である。この図は、はけ塗装によってステンレス鋼基材に施されるインクを示す。図2b)及び2c)は、基材上のBNNTコーティングの形成を示す、図2a)のようにして施されたインクの加熱後の写真である。図2b)は、アニーリング後のインクの光学顕微鏡写真である。インクは筆跡の形態にある。図2c)は、図2b)に示す筆跡の一部のSEM画像である。図2d)は、本発明にしたがって形成されたBNNTのEDSスペクトルである。図2e)〜f)は、本発明にしたがって製造されたBNNTを示すSEM画像である。
【図3】図3a)〜f)は、様々な表面(図3a)及び3b)では鋼メッシュ、図3c)及び3d)では鋼管、図3e)及び3f)では鋼スクリュー)における、本発明にしたがって製造されたBNNTを示すSEM画像である。
【図4】図4a)及びb)は、試料重量と温度との間の関係を示すTGA曲線である。
【図5】図5a)は、本発明にしたがってアルミナるつぼ(上部内寸68mm×19mm)中に形成された白いBNNT層の写真である。図5b)は、元素B及びNが試料の大部分を占め、いくらかのO及びFがあることを示す、図5a)のBNNTのEDSスペクトルである。
【図6】図6a)及びb)は、本発明にしたがって製造されたBNNTを示すSEM及びTEM画像である。BNNTは、NH3ガス中1300℃で製造されたものである。TEM画像はナノチューブの小さな直径及び円柱形構造を明らかにしている。
【図7】図7a)〜c)は、本発明にしたがって製造されたBNNTを示すSEM画像である。BNNTは高純度であり、N2−5%H2ガス中1100℃で製造されたものである。図7b)は、るつぼの縁の近くに見られた整列したBNNTを示す。図7c)は、これらのナノチューブの大部分が竹様構造を有し、先端に金属触媒を有することを示す。
【図8】図8a)及びb)は、様々な試料条件下の試料重量と温度との間の関係を示すTGA曲線である。図8a)のTGA曲線は、N2−5%H2ガス中1100℃までのアニーリング中にBインク重量が変化することを示す。図8b)の三つのTGA曲線は窒化反応速度を比較している。i:ボールミル粉砕された乾燥B粒子、ii:純エタノールを用いてボールミル粉砕されたB粒子、及びiii:エタノール溶液中Fe(NO33と混合したBインク又はボールミル粉砕されたB粒子。
【図9】図9a)は、N2−5%H2ガス中800℃でのアニーリング後のBインクのTEM画像である。図9b)は、温度上昇とともに生じるBN相形成過程を示すXRDグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
インクジェット印刷がBインクコーティング法と適合する。理由は、インクがナノサイズB粒子(直径約40nm)を含有し、それがプリンタのノズルを容易に通過することができるからである。
【0042】
図1は本発明の実施態様を概略的に示す。この図にしたがって、方法は、以下のような四つの基本的段階を含む。
【0043】
(1)ホウ素粉末のボールミル粉砕。この工程においては、非晶質B粉末(平均粒度>500nm)をボールミル粉砕に付す(鋼ボールを使用)。これは一般に、無水アンモニア(NH3)雰囲気中、高圧で実施される。適当なB平均粒度(500nm未満)が得られるまでミル粉砕を継続する。
【0044】
(2)Bインク調製。ミル粉砕されたB粉末を少量の金属触媒化合物、たとえば硝酸第二鉄(又は他の適当な金属)とともに媒体(たとえばエタノール)中に分散させてインクを形成する。通常、インクを超音波処理に付して、大きなBクラスタを分解し、(ナノサイズ)B粒子の分散を均一化する。
【0045】
(3)インクコーティング。BNNTを成長させることが期される基材表面にBインクをコートする(たとえば、はけ塗装、吹き付け又は印刷により)。コーティングのパターン及び厚さは、コーティング法によって容易に制御することができる。
【0046】
(4)加熱(熱アニーリング)。最終工程は、コートされた基材の適当な加熱により、BNNT薄膜の成長を生じさせる。これは、適当な炉、たとえば水平管状炉の中、制御された条件、たとえばN2−5%H2又はNH3のガス流中800〜1300℃で実施することができる。Bインクと窒素含有雰囲気との間の窒化反応がナノチューブ形態のBNの形成を生じさせる。インク中の金属触媒が、BNNT成長を促進するための触媒として作用すると考えられる。
【0047】
図2aは、塗装はけを使用してステンレス鋼板にはけ塗装されるBインク(B含量0.04M Fe(NO33エタノール中62.5mg/ml)を示す。複雑なパターン(この場合は伝統的な漢字)をはけによって基材上に創製して、大面積パターニングにおける十分な融通及び制御可能性を実証した(図2bを参照)。
【0048】
塗装された基材をN2−5%H2雰囲気中1100℃で30分間アニーリングすると、塗装面上だけに白い層が形成した。文字パターンの右下角(図2bの四角い区域)から撮影されたSEM画像がBNNT層を明らかにする(図2c)。図2eの拡大画像は50〜80nmの範囲の直径のナノチューブを示す。
【0049】
ナノチューブ薄膜の化学的性質は、EDS分析による測定によるとBNであり、得られたスペクトルが図2dに示されている。酸素は表面汚染からのものであり、Fe及びNiは、インクに含まれる触媒(ミル粉砕工程において使用されたステンレス鋼容器及び硬化鋼ボールに由来する)からのものである。図2fは、約30μmであるナノチューブ層の厚さを示し、大部分のナノチューブは、もう一つのSEM顕微鏡写真(図2g)によって示されるように、その一端が基材表面に付着しており、それが、BNNTフィルムが基材に堅く接着することを可能にする。至近距離での高圧気流への暴露の後でさえ、ナノチューブは基材上に残留したが、図2eに見られるように気流方向に整列した。BNNTのTEM分析は、一般的な多数の壁を有する円柱形構造を明らかにした。
【0050】
ナノチューブのサイズ及び密度は調節することができる。BNNTの直径は、温度、時間及び気体環境をはじめとする異なる加熱/アニーリング条件を使用することによって変えることができる。たとえば、NH3ガス中1300℃で30分間アニーリングすると、直径10nm未満のナノチューブが製造され、N2−5%H2ガス中1100℃で30分間アニーリングすると、50〜80nmの範囲の直径及び数百マイクロメートルまでの長さのナノチューブが製造される。これは、異なる窒化反応速度によるものと考えられる。
【0051】
一般に、加熱時間は、製造されるBNNTの量及び寸法に依存して異なる。一般に、基材上にBNNTの薄膜を製造する場合には相対的に短い加熱時間で十分であるが、インク(のバルク)からばらの形態でBNNTを製造する場合には相対的に長い時間を要することもある。
【0052】
BNNT層の厚さは、施されるインクの量に依存する。希釈Bインク(たとえば、0.02M Fe(NO33エタノール中30mg/ml)を吹き付け又は印刷すると、相対的に低いナノチューブ密度を有するBNNTフィルムを製造することができる。
【0053】
平坦な基材に対するコーティングに加えて、本発明の方法はまた、不規則な形状の物体のより複雑な表面にはけ塗装、吹き付け、浸漬又は他のコーティング技術によってBNNTを成長させるために使用することもできる。たとえば、図3aは、直径約150μmの鋼ワイヤのメッシュを示す。拡大SEM画像(図3b)に見てとれるように、各ワイヤの表面に高密度の高純度BNNTが成長している。BNNTコーティングは、メッシュをBインクで徹底的にはけ塗装したのち、N2−5%H2ガス中1100℃で30分間加熱することによって形成されたものである。
【0054】
図3cは、外径500μm、内径250μmの鋼管上のBNNTコーティングを示す。まず、管をBインクに浸漬して、内面及び外面がインク層によって被覆されるようにした。その後のアニーリング中、管状炉の中で鋼管をN2ガス流の方向に沿って配置して、ガスが管の中を通って流れるようにした。鋼管の内側及び外側で窒化反応が起こった。このようにして、図3dのSEM画像によって示すように管の外面及び内面にBNNTが形成された。BNNTは、鋼管のトンネルの中で立った状態にあることがわかった。
【0055】
図3eは、BNNTでコートされた小さな鋼スクリューのSEM顕微鏡写真である。スクリューは、0.9mmの直径及び200μmのねじ寸法を有する。図3fは、BNNTがスクリューの表面に均一に形成され、表面に垂直に立っていることを示す。BNNTは、スクリュー表面の耐酸化性及び耐摩耗性を改善することがわかった。
【0056】
以下の非限定的な実施例が本発明の実施態様を説明する。
【実施例1】
【0057】
TGAを使用して、加熱中の試料重量変化を追跡することによって窒化反応過程をモニタリングすることにより、BインクからBNNTを形成する方法を調査した。Bインク(0.1M Fe(NO33エタノール中B133.3mg/ml)の一般的なTGA曲線を図4aに示す。毎分50mlのN2−5%H2流中、毎分20℃の速度で1100℃まで加熱する間、TGA曲線は、Bインクの三つの重要な物理的及び化学的変化に対応する三つの異なる段階を示す。室温から約145℃までの第一段階においては、約48.7mgから5.6mgまでの試料重量の鋭い減少が観察されている。これはエタノール蒸発によるものと考えられる(エタノール沸点78.4℃)。約145℃から約400℃までの第二段階において、試料重量はわずか0.85mgだけ減少し、その後は安定したままである。この変化は、Fe(NO33の、Fe23ならびに気相NO2及びO2への分解に起因する。その後、Fe23は水素によってナノサイズ金属粒子に還元され、この粒子がBNNTの成長のための触媒/核生成部位として作用する。約800℃から約100℃までの第三段階において、BとNとの間の窒化反応のせいで、BN相の形成とともに試料重量は急速に増大する。X線回折分析及びSEM観察を使用して、三つのアニーリング段階における上記構造変化及び化学反応を確認した。さらなるTGA分析が、三つのインク成分すべて(B粒子、エタノール及び硝酸塩)が純粋な高密度BNNTの形成において決定的な役割を演じることを暗示する。
【0058】
本発明の実施態様においては、アンモニアのような適当な気体環境におけるB粉末の高エネルギーボールミル粉砕が、無秩序の準安定構造を有するナノサイズB粒子を生み出すため、第一の主要工程である。得られる粒子は化学的に非常に活性であるため、800〜1300℃の温度でBNに転化することができる。これらの相対的に低い温度においては、ナノサイズ管状構造の形成が大きな三次元結晶成長よりも好都合である。また、ミル粉砕工程中に鋼ミル粉砕媒体からの小さなFe粒子がB粉末に導入され、これらのFe粒子が、触媒/核生成部位として作用してBNNT成長を促進することに利用可能である。
【0059】
この実施態様においては、インク中の媒体、一般にはエタノールが方法において重要な役割を演じる。エタノールは、基材表面を、たとえ複雑な表面であろうと、B粉末で均一に被覆することを可能にするインクの形成を可能にする。また、特に、様々なコーティング技術(はけ塗装、吹き付け、浸漬及び印刷)の使用を可能にする。エタノールは、B窒化反応をわずかに増強するということがわかった。図4bのTGA曲線(曲線(ii))は、純エタノールを乾式ミル粉砕されたB粉末に加えた場合、BNが4.5%多く形成されることを示す。これは、エタノールがミル粉砕されたB粉末の酸化を防ぐことができるからであると考えられる。さらには、エタノールは、C及びO汚染物質を最終BNNT生成物中に残さない。エタノールは145℃未満で完全に蒸発し、その蒸気はガス流によって掃去される。EDS分析が、図2dに示すスペクトルにより、最終BNNT中のCの非存在を確認する。
【0060】
ミル粉砕工程からのFe粒子は一般にBNNTの高収率形成には不十分であるため、硝酸第二鉄(又は他の適当に活性の金属硝酸塩又は金属化合物)が触媒として必要である。硝酸塩の触媒効果は、図4bに示すTGA曲線から見ることができる。この図は、異なる硝酸塩含量を有する試料、すなわち、硝酸塩を有しないBインク(純エタノール中B133.3mg/ml)(曲線(ii))、0.04M Fe(NO33を有するBインク(0.04M Fe(NO33エタノール溶液中B133.3mg/ml)(曲線(iii))及び0.1M Fe(NO33を有するBインク(0.1M Fe(NO33エタノール中B133.3mg/ml)(曲線(iv))に関する三つの曲線を示す。曲線(i)は、乾式ボールミル粉砕されたB粉末の使用に関する。
【0061】
曲線(ii)は、わずか33.3%の重量増しか有さず、使用した加熱条件下での不完全な窒化反応を示している。硝酸第二鉄を加えた場合、ずっと高い重量増がBインク試料から検出されている。TGA曲線(iii)及び(iv)は、0.04M及び0.1MのFe(NO33含量のインクの場合にそれぞれ48.7%及び73.1%の重量増を示す。XRDパターンが、重量増がBN形成によって生じたものであることを示した。これらは、硝酸塩の強力な触媒的役割を明確に示した。実際、200℃で加熱した後のBインクに対するTEM分析は、硝酸塩からの多数のナノサイズ鉄及び酸化鉄粒子を見いだした。
【実施例2】
【0062】
垂直回転高エネルギーボールミルにおいてボールミル粉砕処理を実施した。実験用鋼ミル粉砕バイアル中、数グラムの非晶質B粉末(95%〜97%、Fluka 300〜500μm)を四つの硬化鋼ボール25mmとともに300kPaの無水アンモニア(NH3)雰囲気中に封入した。ボール:粉末比は132:1であった。ミル粉砕を周囲温度で100時間実施した。ミル粉砕された試料を取り出し、N2ガス充填グローブボックス中、硝酸第二鉄エタノール溶液(0.03M Fe(NO33エタノール)と混合した。次いで、超音波処理に備えてBインクをグローブボックス中で気密ガラス瓶に封入した。
【0063】
鋼メッシュを、メッシュの小さな穴をインク小滴で塞ぐことのないよう、Bインク(B濃度83.3mg/ml)で徹底的にはけ塗装した。メッシュの両側が反応ガスと接触し、したがってBNNTで完全に被覆されるよう、はけ塗装されたメッシュをアルミナボートの上方に吊し、N2−5%H2ガス中1100℃で30分間アニーリングした。
【0064】
それとは別に、鋼管をBインク(0.04M Co(NO33エタノール中B62.5mg/ml)に完全に浸漬して、インクが管の内面及び外面を被覆するようにした。
【0065】
Hitachi 4300SE/N及びHitachi 4500 FESEM走査型電子顕微鏡を3kVで使用して試料形態を検査し、4300SE/N計器中、15kVでEDSを実施した。Philips CM300(300kV)顕微鏡を使用してTEM調査を実施した。Philips 3020X線回折(XRD)機を使用して試料構造を調査した。Shimazu TGA-60分析装置を使用してTGAを実施した。すべての試料を、毎分50mlの流量のN2−5%H2ガス中、毎分20℃の加熱速度で1100℃まで加熱した。
【実施例3】
【0066】
インクの調製のために、まずB微粒子を製造した。非晶質B粉末(95%〜97%、Sigma-Aldrich 300〜500μm)2gを四つの硬化鋼ボール25mmとともに鋼回転ミル粉砕バイアル中に封入した。ボール:粉末重量比(BPR)は132:1であった。反応ガスとして無水アンモニア(NH3)をバイアルにパージし、ミル粉砕の前に300kPaの最終静圧を設定した。この実験構成においてボールミル粉砕を150時間実施して、準安定構造を有するナノサイズB粒子100nmの形成を保証した。
【0067】
ボールミル粉砕されたB粒子を、エタノール溶液中、1時間の超音波浴処理下、硝酸第二鉄(98%、Sigma-Aldrich)又は硝酸コバルト(98%、Sigma-Aldrich)と混合することにより、Bインクを調製した。超音波処理は、ナノサイズB粒子を溶液中に均一に分散させるのに役立つものであった。次いで、インク様溶液をるつぼに注入し、水平管状炉を使用して、異なる雰囲気、すなわち、窒素+5%水素(N2−5%H2)又はNH3中1050℃〜1300℃の温度で数時間、等温アニーリングした。アニーリング中、B粒子はN含有ガスと反応して、化学反応:
B+N→BN
を経てBNNTを製造した。
【0068】
Philips 3020X線回折(XRD)計を使用してBNNTを調査した。Hitachi 4300SE/N走査型電子顕微鏡(SEM)を3kVで作動させてナノチューブ形態を検査した。SEM機器に取り付けられたエネルギー分散型X線分光法(EDS)を使用してナノチューブの化学物質含量を検査した。Philips CM300(300kV)機器を使用して透過型電子顕微鏡(TEM)調査を実施した。Shimazu TGA-60機器を使用して熱重量分析(TGA)を実施した。
【実施例4】
【0069】
本発明のBインクアニーリング法を使用することにより、BNNTを大量かつ高純度で合成することができる。図5aは、るつぼ(サイズ68mm×19mm)の底を被覆する白いふわふわした材料の層を示す。EDSスペクトル(図5b)は、アニーリングされた試料の大部分が元素B及びNによって占められ、いくらかのO及びFe汚染があることを明らかにする。Feは、ボールミル粉砕工程及びBインクに加えられた硝酸塩に由来するものであった。より大きなるつぼを使用することによってより多量のBNNTを製造することができる。たとえば、100mm×40mmのサイズの長方形のステンレス鋼ボート中、BNNT0.5gを合成した。材料の形態及び構造を以下に論じる。
【0070】
BNNTのサイズ及び構造は、異なるアニーリング雰囲気及び温度を採用することによって調節することができる。NH3ガスをアニーリング工程に使用することにより、円柱形構造及び小さな直径を有するBNNTを合成した。CoがNH3分解及びBNNT成長の両方に効果的な触媒であるため、この方法においては、Bインクを調製するために0.034M Co(NO32エタノール溶液を選択した。窒化反応速度を相対的に高め、ナノチューブ収率を改善することができる。図6aのSEM画像は、NH3中1300℃で6時間のアニーリング後に得られた高密度の小さなチューブを示す。チューブ長さは主に3〜5μmである。TEM調査(図6b)によると、チューブは3〜10nmの範囲の小さな直径及び多数の壁を有する十分に結晶化した円柱形構造を有する。
【0071】
Bインク(0.02M Fe(NO33エタノール溶液との)を、N2−5%H2のような異なるガス中1050℃〜1100℃で3時間アニーリングすると、より大きな直径を有するより長いBNNTが製造された。図7aのSEM画像は、このアニーリングされた生成物もまた、長さ100〜200μmの高密度ナノチューブを含有することを示す。SEM下で見いだされた最長のBNNTは約400μmであった。直径は50〜80nmの範囲である。生成物は非常に高いナノチューブ純度を有し、粒子は認められなかった。ナノチューブの大多数はランダムな方向に成長したが(図7a)、るつぼの縁では、十分に整列したBNNTが多く見られ(図7b)、これは、ガス流によって生じたものと考えられる。TEM分析は、チューブの大部分が竹様構造を有し、通常、金属触媒を先端に含むことを明らかにする(図7c)。
【0072】
論考
乾燥B粒子のボールミル粉砕及びアニーリングの方法に比べ、液体インク法は、BNNTの密度及び純度を大きく改善する。TGAを使用して、アニーリング工程におけるエタノール及び硝酸塩の役割を調査した。図8aのTGA曲線は、N2−5%H2ガス中での加熱中のBインクの重量変化を示す。分析においては、0.02M Fe(NO33エタノール溶液を使用してBインク(溶液1ml中B100mg)を調製し、加熱速度は毎分20℃であった。アニーリング中のBインクの三つの異なる物理的及び化学的変化に関連する三つの異なる区分を曲線中に見ることができる。室温から145℃までの第一の区分にかけて、試料重量は34mgから4mgまで劇的に落ち込んだ。この急激な重量損失は、エタノール蒸発及びN2−5%H2ガスによる掃去によって生じたものである。145℃から400℃までの次の区分にかけて、試料重量は安定化した。しかし、この区分中、硝酸塩Fe(NO33が金属酸化物Fe23へと熱分解し、それがさらに還元されて、触媒として作用してナノチューブ成長を支援するナノサイズ金属粒子になった。最後の区分は400℃から1100℃までであり、ここでは、B粒子とN2ガスとの間の窒化反応のおかげで、BNの形成とともに試料重量が回復した。
【0073】
金属硝酸塩は、高密度BNNTの合成において不可欠な役割を演じる。ボールミル粉砕されるB粉末においては、ボールミル粉砕中のミル粉砕バイアルとボールとの間の高エネルギー衝突から小さな鋼粒子、すなわち約2.09原子%のFeが形成される。さらなる硝酸塩がボールミル粉砕される粒子に加えられないとしても、これらの金属粒子がBNNT成長中に触媒として作用することができる。しかし、それらは、すべてのB粒子をBNNTに転化させるのには量的に十分でもないし効率的でもない。以下の計測によって実証されるように、Bインクに添加された硝酸塩から分解したナノサイズ金属粒子がこれらの不足分を補うことができる。
【0074】
三つの試料、すなわち、硝酸塩又はエタノールのいずれも加えていないボールミル粉砕された乾燥B粒子(i)、純エタノールを添加されたB粒子(ii)、及び0.02M Fe(NO33エタノール溶液と混合したBインク(iii)の窒化反応速度をTGA曲線において比較した(図8b)。曲線において、重量増の割合は、アニーリング中の各試料の最低重量に基づく。Bインクの場合、1100℃までの加熱中に合計46.8%の重量増が得られた。対照的に、ボールミル粉砕された乾燥B粒子及び純エタノールとのボールミル粉砕されたB粒子を加熱した場合、それぞれ24.7%及び30.2%の重量増しか得られなかった。Bインクからのより高い重量増は、Bインクのより高い窒化反応速度及び最終生成物中に形成されたより多くのBN相を意味する。したがって、金属硝酸塩の存在がこの改善の主な理由である。N2−5%H2ガス中のFe(NO33の加熱工程の詳細なTGA調査が、Fe(NO33の大部分が350℃でFe23へと熱分解し、その後、約850℃でこれらの酸化物が概ねH2によってFe粒子へと還元されることを明らかにする。TEM画像分析(図9a)は、N2−5%H2中800℃でのアニーリングののちBインクから還元されたFe粒子(暗い対照部分)がわずか5nmの大きさであり、20nm粒子は、ボールミル粉砕からの鋼粒子又はFe(NO33から分解したFeの凝集塊であることを示す。そして、これらのFe粒子は、窒化のためのより多くの反応部位を創製し、ナノチューブ成長のための種結晶として作用する。ボールミル粉砕されるBに加えられるFe(NO33の最適量は、ボールミル粉砕されるB粉末1mgあたりFe(NO33・9H2O0.08〜0.2mgである。加えられるFe(NO33がより少ないならば、十分な触媒は得られない。多すぎる量が加えられるならば、大きなFe粒子が形成し、B粉末と反応することさえあり、触媒機能の損失が生じる。
【0075】
エタノールの大部分は145℃未満で蒸発するが、それでもBNNT成長をわずかに増強する。TGA(図8b)は、硝酸塩又はさらなるFeなしで純エタノールをB粒子に加えるだけでも、乾燥B粒子のアニーリングの場合よりも多くの重量増が生じることを示す。エタノールの役割は次のように説明することができる。第一に、エタノールは、超音波処理中にB粒子の凝集塊を分解するのに役立つことができる。通常、ミル粉砕工程中のボール衝突時、ナノサイズB粒子が大きな凝集塊を形成し、それが窒化反応を減速させ、ひいてはナノチューブ収率を低下させる。エタノール中の超音波処理は、これら大きな凝集塊を分解して、より反応ガスと接触しやすいばらのB粒子にし、ひいてはアニーリング中の窒化反応を増強することができる。第二に、エタノールは、準安定B粒子の酸化を阻止するのに役立つ。ボールミル粉砕工程は、空気中、室温でさえ非常に反応性である準安定無秩序B構造を生成する。これらの構造の酸化は、それらの化学反応性を失わせるおそれがある。エタノールは、これらのボールミル粉砕された粒子の表面を被覆して酸化を防止することができる。第三に、エタノールは、硝酸塩とナノサイズB粒子との均一な混合を支援する。他方、エタノールは、過度な量を控えるならば、BNNT生成物中にC汚染を残さない。TGA(図8a)は、低い温度(145℃未満)でエタノールを飛ばすことができ、したがって、高温での化学反応を伴わないことを示す。最終BNNT生成物からのEDS分析は有意なC残渣を示していない(図5b)。
【0076】
ボールミル粉砕処理によって製造された準安定無秩序B構造は、相対的に低い温度で窒素含有ガスと反応してBN相を形成することができる。図9bにおける、異なる温度でアニーリングされたBインクのXRDグラフは、温度上昇に伴うBN相の形成及び増加を明らかに示している。室温では無秩序B構造しか存在しなかった。600℃で(002)BN相が出現した。1100℃で、このピークが優勢になった。この方法において製造されるものは、三次元BN結晶ではなくBNNTである。理由は、金属触媒の存在下、低めの成長温度で一次元BNNTを成長させるためには、ボールミル粉砕されたB粒子が好ましいからである。XRD結果は、TGAにおいて400℃〜1100℃の間での相変化によって重量増が生じたことを確認させる。
【0077】
本明細書及び特許請求の範囲を通して、断りない限り、語「含む」及びその活用形などは、述べられた完全体もしくは工程又は完全体もしくは工程の群の包含を暗示するが、他の完全体もしくは工程又は完全体もしくは工程の群の除外を暗示するものではないことが理解されよう。
【図3a)−f)】

【図6a)andb)】

【図7a)−c)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素ナノチューブを製造する方法であって、ホウ素粒子及び金属化合物を含む液体組成物を加熱することを含み、加熱が、窒化ホウ素ナノチューブを成長させる窒素含有気体雰囲気中800〜1300℃の温度で実施され、ホウ素粒子が100nm未満の平均粒度を有し、金属化合物が、加熱中に窒化ホウ素ナノチューブの成長を促進するように選択されたものである方法。
【請求項2】
ホウ素粒子が10nm〜100nmの平均粒度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ホウ素粒子が、乾燥した不活性ガス雰囲気中でより大きな粒度のホウ素粒子をミル粉砕することによって製造される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ミル粉砕が無水アンモニア中で実施される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
ミル粉砕が硬化鋼ボールを使用して実施される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ミル粉砕が還元性雰囲気中で実施される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
金属化合物が、Fe、Cr、Ni、Co、Mo及びWの一つ以上から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
金属化合物が、インク組成物に可溶性である塩の形態で使用される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
金属化合物がFe(NO33及びCO(NO33から選択される、請求項7記載の方法。
【請求項10】
基材上に窒化ホウ素ナノチューブを製造する方法であって、以下の工程:
(a)媒体中に分散した平均粒度100nm未満のホウ素粒子及び媒体中に溶解又は分散した金属化合物を含むインクを基材に施す工程、
(b)基材を、窒素含有気体雰囲気中800〜1300℃の温度で加熱して、それにより、基材上に窒化ホウ素ナノチューブを成長させる工程
を含み、金属化合物が、工程(b)における加熱中に窒化ホウ素ナノチューブの成長を促進するように選択されたものである方法。
【請求項11】
基材上に窒化ホウ素ナノチューブを製造する方法であって、以下の工程:
(a)媒体中に溶解又は分散した金属化合物で基材をコートする工程、
(b)コートされた基材に、平均粒度100nm未満のホウ素粒子を含むインクを施す工程、
(c)基材を、窒素含有気体雰囲気中800〜1300℃の温度で加熱して、それにより、基材上に窒化ホウ素ナノチューブを成長させる工程
を含み、金属化合物が、工程(c)における加熱中に窒化ホウ素ナノチューブの成長を促進するように選択されたものである方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11記載の方法によって製造された窒化ホウ素ナノチューブでコートされた基材。
【請求項13】
レーザ装置、機械加工部品固体潤滑剤、電界放出装置又は他の電子装置における請求項12記載の基材の使用。
【請求項14】
基材を酸化又は化学的攻撃から保護する方法であって、請求項10又は請求項11記載の方法によって製造された窒化ホウ素ナノチューブで基材をコートすることを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−505194(P2013−505194A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530052(P2012−530052)
【出願日】平成22年9月20日(2010.9.20)
【国際出願番号】PCT/AU2010/001226
【国際公開番号】WO2011/032231
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(500200926)ディーキン ユニバーシティ (2)