説明

複写による偽造防止用の印刷基材

【課題】複写前には肉眼による潜像の識別をより困難とする一方、複写後は潜像がより判別しやすい複写による偽造防止印刷基材を提供する。
【解決手段】基材表面に印刷された網点からなる潜像パターン2と、潜像パターン2の周囲に印刷された網点からなる背景パターン3を有する複写による偽造防止用の印刷基材1において、背景パターン3を構成する網点はスクリーン線数を150線乃至175線、潜像パターン2を構成する網点はスクリーン線数を65線乃至85線の範囲内とし、また潜像パターン2の濃度を12%乃至14%の範囲内とし、潜像パターン2の濃度が背景パターン3の濃度より高くかつその濃度差を2%以内に設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複写による偽造防止用の印刷基材に関する
【背景技術】
【0002】
重要書類などの複写による偽造を防止するため用紙などの表面に肉眼での目視が困難な潜像を施す一方、複写をしたときに潜像が現出するようにした偽造防止用の印刷基材がある。印刷基材の表面に微細構成分子よりなる潜像と、その潜像より粗または密な微細構成分子よりなる背景を印刷した潜像入りの印刷物である。例えば、潜像および背景の微細構成分子を網点(ドット)により構成した場合、潜像として印刷された網点のみが判別可能に現出することにより複写による偽造を防止することができる。この場合、潜像と背景との対比において複写前は潜像の識別ができるだけ困難である一方、複写後は現出した潜像が明瞭に判別できるものとする必要がある。そこで複写前の潜像と背景との識別を困難にするという前者の要請上、両者の網点を同じ濃度となるように印刷することが一般に行われている。潜像および背景の網点を同じ濃度にすることは理論的には正しい。しかし潜像および背景の網点を同じ濃度に設定して印刷した場合、実際上は相対的にみて潜像がやや薄く印刷される、つまり肉眼でやや白くみえることがあり好ましくない。同じ濃度に設定したにもかかわらずこのような差異が生じるのは、潜像と背景における網点の線数の差や印刷上の微妙な調整の困難さがその原因の1つと思われるが、正確なところは不明である。このような状況の下、本発明者は背景パターンおよび潜像パターンのスクリーン線数とその濃度差との関係を綿密に調べたところ、一定の条件下においては潜像パターンの濃度を背景パターンの濃度より若干大きく設定して印刷すると、従来(つまり同じ濃度による印刷)のも比較して潜像の目視がより困難になる一方、複写後は潜像の識別がより判然となることを見出した。
【特許文献1】特許出願公告昭和55年45400号特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の偽造防止用の印刷基材は、線数の異なる同じ濃度のスクリーン(2種類)を用いて網点により構成された潜像と背景を印刷しているが、このような印刷基材では必ずしも十分とはいえなかった潜像の識別上の問題点を解決するものである。すなわち複写前には肉眼による潜像の識別をより困難とする一方、複写後は潜像がより判別しやすいものとなる複写による偽造防止用の印刷基材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題を解決するため、本発明にかかる偽造防止用の印刷基材は、基材表面に印刷された網点からなる潜像パターンと、潜像パターンの周囲に印刷された網点からなる背景パターンを有する複写による偽造防止用の印刷基材において、背景パターンを構成する網点はスクリーン線数を150線乃至175線、潜像パターンを構成する網点はスクリーン線数を65線乃至85線の範囲内とし、また潜像パターンの濃度を12%乃至14%の範囲内とし、潜像パターンの濃度が背景パターンの濃度より高くかつその濃度差を2%以内に設定した。そして特に、背景パターンを構成する網点はスクリーン線数を150線、潜像パターンを構成する網点はスクリーン線数を85線とし、かつ潜像パターンの濃度を12%、潜像パターンの濃度を14%に設定した。
【発明の効果】
【0005】
潜像パターンと背景パターンを対比したとき、潜像パターンの識別性あるいは判別性について複写の前後を通じて良好な結果が得られた。すなわち潜像パターンの濃度を同じにした従来の印刷物に比べ、印刷物の潜像パターン(つまり複写前)は肉眼による目視がさらに困難になる一方、複写後には潜像がより明瞭に判別でき、有用な複写による偽造防止用紙が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明を実施するための最良の形態について説明する。印刷用紙などの印刷基材1には、「COPY」などの文字、模様などの潜像パターン2が微細な網点で印刷され、またその周囲には背景パターン3が同じく微細な網点がして印刷されている。潜像パターン2と背景パターン3は異なる大きさの網点で構成され、複写によって網点の大小の差が濃淡の差となる。すなわち複写後は背景パターン3が再現されない一方、潜像パターン2の「COPY」の文字など潜像の存在が目視可能に再現され、これにより本物と複写による偽物が区別できるようになっている。
【0007】
印刷用紙などの印刷機材1における潜像パターン2の肉眼による識別性、判別性が複写前と複写後にどのように変わるかを潜像パターン2と背景パターン3のスクリーン線数およびスクリーン濃度との関係において詳細に調べた。その結果、潜像パターン2のスクリーン濃度が背景パターン3のスクリーン濃度より小さい場合、複写前では潜像パターンの文字などが肉眼で白く見える一方、複写後も潜像パターン2の文字などがやや薄く、鮮明さに欠けるものとなった。すなわち複写の前後を通じて潜像パターン2の識別性について問題があり、不適であることが確認できた。またこれを潜像パターンと背景パターンの印刷に使用された原版フィルムとの関係でみると、原版フィルムを肉眼で目視したとき原版フィルムの潜像パターンである文字などが白く見えた。
【0008】
逆に潜像パターンのスクリーン濃度が背景パターンのスクリーン濃度より一定以上に大きくなると、複写前では潜像パターン2の文字などが肉眼ではっきりと黒く見え、また複写後も潜像パターン2の文字などが鮮明に目視された。複写後に潜像パターン2の文字などが鮮明であるのは好ましいが、複写前に潜像パターン2の文字などが肉眼で黒く見えるため潜像パターン2の識別性について問題が残り、この点から不適であることが確認できた。またこれを潜像パターン、背景パターンの印刷に使用された原版フィルムとの関係でみると、原版フィルムを肉眼で目視したとき潜像パターンの文字など字が若干黒く見えた。
【0009】
上記の場合は潜像パターン2の識別性についていずれも問題がある。しかし一定の条件下においては、潜像パターン2の濃度を背景パターン3の濃度より若干大きく(つまり濃く)設定すると、潜像パターンの濃度と背景パターンの濃度を同じに設定した場合と比較して、複写前は潜像パターン2の文字などが肉眼で識別されにくい一方、複写後は潜像パターン2の文字などがはっきりと判別できることが判明した。ここで一定の条件とは、背景パターンを構成する網点はスクリーン線数150線乃至175線、潜像パターンを構成する網点はスクリーン線数65線乃至85線の範囲内とし、潜像パターンの濃度を12%乃至14%の範囲内とし、潜像パターンの濃度が背景パターンの濃度より高くかつその濃度差を2%以内に設定することである。
【0010】
次の表1、2は、異なる線数からなる背景パターン3と潜像パターン2において、潜像パターン2の濃度の変化により印刷用紙などの印刷基材1の潜像パターン2が複写前と複写後に肉眼でどのように識別、判別されるかを示すものである。この場合その識別性、判別性は潜像パターン2と背景パターン3とを対比した肉眼による相対的な判断である。なおスクリーン線とは1インチあたりに含まれる線の本数であり、スクリーン濃度とは単位面積当たりに占める網点面積の比率である。
【0011】
【表1】

【0012】
潜像パターンの濃度を背景パターンの濃度より若干大きく(つまり濃く)設定した印刷用紙(本発明にかかるAタイプ)と、潜像パターンの濃度と背景パターンの濃度を同じに設定した印刷用紙(Bタイプ)につき表1を参照して比較する。まず背景パターンの線数を150線、潜像パターンの線数を85線とし、背景パターンと潜像パターンの濃度をともに10%とした(Bタイプ)。この場合、複写後は潜像パターンの文字などが明瞭に判別されたが、複写前は潜像パターンの文字などが若干、白く見え、この点に問題があった。これを潜像パターン、背景パターンの印刷に使用された原版フィルムとの関係でみると、印刷前の原版フィルムで潜像パターンの文字などが若干、白く見えた。これに対して背景パターンの線数を150線、潜像パターンの線数を85線とし、背景パターンの濃度を10%m、潜像パターンの濃度を12%とした(本発明にかかるAタイプ)。この場合、複写前は潜像パターンの文字などがほとんど識別されなかったが、複写後は潜像パターンでの文字などがはっきりと判別された。これを潜像パターン、背景パターンの印刷に使用された原版フィルムとの関係でみると、原版フィルムにおいて潜像パターンの文字などが若干、黒く見えた。
【0013】
なお背景パターンの線数を150線、潜像パターンの線数を85線とし、背景パターンの濃度を10%にした場合、潜像パターンの濃度を背景パターンの濃度より低い8%としたとき、また前記Aタイプより高い14%としたとき、いずれの場合も複写前と複写後における潜像パターンの識別性、判別性に問題があり不適であった(表1参照)。
【0014】
次に背景パターンの線数を150線、潜像パターンの線数を85線とし、背景パターンと潜像パターンの濃度をともに12%にした(Bタイプ)。この場合、複写後は潜像パターンの文字などがはっきりと判別されたが、複写前は潜像パターンの文字などが若干白く見え、問題があった。これを潜像パターン、背景パターンの印刷に使用された原版フィルムとの関係でみると、印刷前の原版フィルムで潜像パターンの文字などが若干、白く見えた。一方、背景パターンの線数を150線、潜像パターンの線数を85線とし、背景パターンの濃度を12%m、潜像パターンの濃度を14%とした(本発明にかかるAタイプ)。この場合、複写前は潜像パターンの文字などがほとんど識別されなかったが、複写後は潜像パターンでの文字などがはっきりと判別された。これを潜像パターン、背景パターンの印刷に使用された原版フィルムとの関係でみると、印刷前の原版フィルムにおいて潜像パターンの文字などが若干、黒く見えた。
【0015】
なお背景パターンの線数を150線、潜像パターンの線数を85線とし、背景パターンの濃度を12%にした場合に、潜像パターンの濃度を前記Bタイプの場合よりさらに低い10%、8%としたとき、いずれの場合も複写前と複写後における潜像パターンの識別性、判別性に問題があり、不適であった(表1参照)。
【0016】
【表2】

【0017】
次に表2を参照して印刷用紙(本発明にかかるAタイプ)と印刷用紙(Bタイプ)について比較する。まず背景パターンの線数を175線、潜像パターンの線数を65線とし、背景パターンの濃度と潜像パターンの濃度をともに10%とした(Bタイプ)。この場合、複写後は潜像パターンの文字などがはっきりと判別されたが、複写前は潜像パターンの文字などが若干白く見え、この点に問題があった。これを潜像パターン、背景パターンの印刷に使用された原版フィルムを基準としてみると、原版フィルムで潜像パターンの文字などが若干、白く見えた。
一方、背景パターンの線数を175線、潜像パターンの線数を65線とし、背景パターンの濃度を10%m、潜像パターンの濃度を12%とした(本発明にかかるAタイプ)。この場合、複写前は潜像パターンの文字などがほとんど識別されなかったが、複写後は潜像パターンでの文字などがはっきりと判別された。これを潜像パターン、背景パターンの印刷に使用された原版フィルムとの関係でみると、印刷前の原版フィルムにおいて潜像パターンの文字などが若干、黒く見えた。
【0018】
なお背景パターンの線数を175線、潜像パターンの線数を65線とし、背景パターンの濃度を10%にした場合において、潜像パターンの濃度を前記Bタイプの場合よりさらに低い8%としたとき、また前記Aタイプの場合よりさらに高い14%としたとき、いずれの場合も複写前と複写後における潜像パターンの識別性、判別性に問題があり、不適であった(表2参照)。
【0019】
次に背景パターンの線数を175線、潜像パターンの線数を65線とし、背景パターンと潜像パターンの濃度をともに12%とした(Bタイプ)。この場合、複写後は潜像パターンの文字などがはっきりと判別されたが、複写前は潜像パターンの文字などが若干白く見え、この点に問題があった。これを潜像パターン、背景パターンの印刷に使用された原版フィルムとの関係でみたとき、原版フィルムにおいて潜像パターンの文字などが若干、白く見えた。一方、背景パターンの線数を175線、潜像パターンの線数を65線とし、背景パターンの濃度を12%m、潜像パターンの濃度を14%とした(本発明にかかるAタイプ)。この場合、複写前は潜像パターンの文字などがほとんど識別されなかったが、複写後は潜像パターンでの文字などがはっきりと判別された。これを潜像パターン、背景パターンの印刷に使用された原版フィルムとの関係でみると、印刷前の原版フィルムにおいて潜像パターンの文字などが若干、黒く見えた。
【0020】
なお背景パターン3の線数を175線、潜像パターン2の線数を65線とし、背景パターン3の濃度を12%にした場合において、潜像パターン3の濃度を前記Bタイプの場合よりさらに低い10%、8%としたとき、いずれの場合も複写前(印刷物)と複写後における潜像パターン3の識別性、判別性に問題があり、不適であった(表2参照)。
【0021】
このように本発明にかかるAタイプについては、複写の前後を通じて潜像パターンの識別性、判別性について良好な結果が得られた。そしてこのような調査をおこなった結果、潜像パターンを構成する網点はスクリーン線数が65線乃至85線、スクリーン濃度を10%乃至14%の範囲内とし、また背景パターンを構成する網点はスクリーン線数が150線乃至175、かつスクリーン濃度を8%乃至12%の範囲内とし、潜像パターンの濃度が背景パターンの濃度より高く、かつその濃度差を2%以内に設定したものは複写の前後を通じて潜像パターンの識別性、判別性が良好であった。特に好ましいのは、背景パターンを構成する網点はスクリーン線数を150線、潜像パターンを構成する網点はスクリーン線数を85線とし、潜像パターンの濃度を12%、潜像パターンの濃度を14%に設定したものである。
【0022】
潜像パターン2、背景パターン3を印刷する原版フィルムとの関係でいえば、潜像パターンと背景パターンの濃度を同じにした場合、原版フィルムの潜像パターンは若干白く見えるとともに、印刷用紙などの印刷基材における潜像パターンの文字なども若干白く見えた。しかしこれを超えて潜像パターンの濃度をさらに少し大きくすると、原版フィルムの潜像パターンの文字などがやや黒く見えるようになる。原版フィルムの潜像パターンがやや黒く見えるこの段階は、潜像パターンの濃度が背景ターンの濃度より若干高く、かつその濃度差が2%以内に設定された場合と基本的に一致していることが確認された。すなわちこのような原版フィルムによる印刷基材では複写前は潜像パターンの文字などがほとんど識別されない一方、複写後は潜像パターンの文字などが明瞭に判別され、複写の前後を通じて潜像パターンの識別性、判別性が良好であった。従って潜像パターンの識別性、判別性の良好な印刷基材1は、対応する原版フィルムにおけるよる潜像パターンがやや黒く見える状態であることを基準にしても判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかる印刷基材である複写前の印刷用紙の説明的な平面図である。
【図2】同印刷基材である複写後の印刷用紙の説明的な平面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 印刷用紙などの印刷基材
2 潜像パターン
3 背景パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に印刷された網点からなる潜像パターンと、潜像パターンの周囲に印刷された網点からなる背景パターンを有する複写による偽造防止用の印刷基材において、背景パターンを構成する網点はスクリーン線数を150線乃至175線、潜像パターンを構成する網点はスクリーン線数を65線乃至85線の範囲内とし、また潜像パターンの濃度を12%乃至14%の範囲内とし、潜像パターンの濃度が背景パターンの濃度より高くかつその濃度差を2%以内に設定したことを特徴とする複写による偽造防止用印刷基材。
【請求項2】
基材表面に印刷された網点からなる潜像パターンと、潜像パターンの周囲に印刷された網点からなる背景パターンを有する複写による偽造防止用の印刷基材において、背景パターンを構成する網点はスクリーン線数を150線、潜像パターンを構成する網点はスクリーン線数を85線とし、かつ潜像パターンの濃度を12%、潜像パターンの濃度を14%に設定したことを特徴とする複写による偽造防止用印刷基材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−264292(P2006−264292A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118876(P2005−118876)
【出願日】平成17年3月20日(2005.3.20)
【出願人】(392028011)株式会社オストリッチダイヤ (1)
【Fターム(参考)】