説明

複合分離膜及びその製造方法

【課題】耐熱性や耐久性に優れ、成膜が容易であり、膜が薄膜であり高い透過性能を有し、炭化水素を含む雰囲気中でも膨潤し難い複合分離膜を提供すること。
【解決手段】無機多孔質支持体と、その無機多孔質支持体の細孔内に配設された有機高分子膜と、を備え、その有機高分子膜の厚さが、0.1μm以上、10μm以下、であるとともに、表面に、無機多孔質支持体の少なくとも一部が露出している複合分離膜の提供による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料からなる支持体と有機材料からなる膜とを備える複合分離膜、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境改善や省エネルギーの観点から、各種ガス等の混合物から特定のガス等を瀘過分離する分離膜の開発が進められている。例えば、炭素膜や、ポリスルホン膜、シリコーン膜、ポリアミド膜、ポリイミド膜等の有機高分子膜が、分離膜として知られている。このような分離膜は、実用上、主たる分離性能を発揮する膜自体の部分(単に膜という)だけでは使用出来ず、一般に、それを支持する支持体(基材ともいう)ととともに、複合構造を形成し、複合膜(複合分離膜)として用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1、2には、膜及び支持体がともに有機高分子材料からなる、複合膜が開示されている。特許文献1の複合膜は、例えばポリジオルガノシロキサンからなる多孔質膜を支持体として、それにフッ素高分子を含むグラフト共重合体からなる膜を配設したものであり、アルコール分離可能な分離膜である。
【0004】
特許文献2の複合膜は、疎水性多孔質膜を支持体として、それに親水性の高分子ゲルからなる膜を配設したものであり、二酸化炭素(ガス)を分離可能な分離膜である。
【0005】
特許文献3には、無機材料からなる多孔質の基材(支持体)と、有機材料からなる分離膜(膜)と、からなる分離膜配設体(複合膜)が開示されている。この分離膜配設体における無機材料は例えばアルミナであり、好ましい有機材料は水溶性高分子である。この分離膜配設体は、アルコールを分離することが出来るものである。
【0006】
特許文献4には、有機材料(ニトロセルロース)からなる多孔質の基材(支持体)を、有機材料(ポリオルガノシロキサン)からなる重合体溶液中に浸漬して、気体分離膜を製造する方法が開示されている。この製造方法は、特別な装置を必要とせずに、基材の細孔内でも薄い非多孔質の膜を形成することが出来るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−277430号公報
【特許文献2】特開平7−275672号公報
【特許文献3】特開2009−22871号公報
【特許文献4】特開昭63−278525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2、4に開示された複合膜のように、膜及び支持体がともに有機高分子材料からなるものであると、複合膜としての耐熱性や耐久性が、支持体の有機材料によって制限されるおそれがある。そして、有機材料は、炭化水素を含む雰囲気中では膨潤し易く、支持体として使用することが困難である。
【0009】
又、特許文献3に開示された複合膜のように、支持体(基材)が無機多孔質であっても、膜(有機分離膜)を形成する位置によっては、耐熱性や耐久性が損なわれるおそれがある。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、耐熱性や耐久性に優れ、成膜が容易であり、膜が薄膜であり高い透過性能を有し、炭化水素を含む雰囲気中でも膨潤し難い複合分離膜を提供することである。
【0011】
研究が重ねられた結果、無機多孔質支持体の細孔内に有機高分子膜を配設させ、表面に無機多孔質支持体の少なくとも一部が露出している複合分離膜によって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、先ず、本発明によれば、無機多孔質支持体と、その無機多孔質支持体の細孔内に配設された有機高分子膜と、を備え、その有機高分子膜の厚さが、0.1μm以上、10μm以下、であるとともに、表面に、無機多孔質支持体の少なくとも一部が露出している複合分離膜が提供される。
【0013】
本発明に係る複合分離膜において、有機高分子膜を形成する高分子の平均分子量Mwと、無機多孔質支持体の表面の平均細孔径D[nm]とが、(Mw/2000)<D<5000、となる関係を満たすことが好ましい。
【0014】
上記関係は、Mw<2000D<10000000、と表現することも出来る。高分子とは、有機高分子化合物のことを指す。Mwと表現される通り、本発明にいう平均分子量は、重量平均分子量である。平均分子量は、よく知られた高分子であれば公知であり、又、例えば、光散乱法等によって測定することが出来る。
【0015】
有機高分子膜は無機多孔質支持体の細孔内に配設される。本発明は、有機高分子膜が、無機多孔質支持体の細孔内に確りと固定され、且つ、無機多孔質支持体の表面には殆ど露出していない複合分離膜であるが、有機高分子膜が、僅かに、無機多孔質支持体の表面に露出する態様を含む。無機多孔質支持体としては、その少なくとも一部が露出していればよいが、全て露出していてもよい。本発明における無機多孔質支持体の表面の平均細孔径は、パームポロメーターやナノパームポロメーターによって測定される値とする。
【0016】
無機多孔質支持体を形成する無機材料としては、セラミック又は金属を例示することが出来る。無機材料は、セラミックであることが、より好ましい。セラミックとしては、アルミナ、チタニア、シリカ、コージェライト、ジルコニア、ムライト等を挙げることが出来る。又、無機多孔質支持体の気孔率は、限定されるものではないが、20〜80%であることが好ましく、30〜70%であることが更に好ましい。
【0017】
無機多孔質支持体の表面の平均細孔径Dは、(Mw/2000)<D<5000、となる関係を満たす限りにおいて限定されない。この関係により、有機高分子膜を形成する高分子の平均分子量Mwから、自ずと一定の範囲に定まる平均細孔径Dは、0.01μm以上、5.0μm以下であることが好ましい。無機多孔質支持体は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。無機多孔質支持体が複層構造である場合には、無機多孔質支持体の表面の平均細孔径Dが、有機高分子膜を形成する高分子の平均分子量Mwと、(Mw/2000)<D<5000、となる関係を満たせばよく、有機高分子膜と接しない内部においては、上記関係を満たさなくともよい。
【0018】
本発明に係る複合分離膜において、有機高分子膜を形成する高分子の平均分子量Mwと、無機多孔質支持体の表面の平均細孔径D[nm]とは、(Mw/2000)であり、且つ、D<5000であることを条件として、(Mw/1500)<Dとなる関係を満たすことが好ましく、(Mw/1000)<Dとなる関係を満たすことが特に好ましい。
【0019】
無機多孔質支持体の全体形状(複合分離膜としての形状も同じ)は特に限定されず、円筒、角筒等の筒(チューブ)状、円柱、角柱等の柱状等、円板状、多角形板状等の板状等を例示することが出来る。無機多孔質支持体の形状は、複合分離膜の使用目的等に合致するよう、適宜、決定すればよい。容積に対する有機高分子膜の面積比率を大きく出来ることから、好ましい形状としてモノリス形状を挙げることが出来る。又、無機多孔質支持体の大きさ(複合分離膜としての大きさも同じ)は特に限定されず、必要な強度を満たすとともに、分離対象である流体の透過性を損なわない範囲で、使用目的等に合わせて、適宜、決定すればよい。
【0020】
本発明に係る複合分離膜においては、上記無機多孔質支持体が、親水性を有することが好ましい。
【0021】
換言すれば、無機多孔質支持体は、疎水性ではないことが好ましい。好ましい無機多孔質支持体は、セラミック製又は金属製のものであるが、多くの場合、セラミックや金属等からなる無機多孔質支持体は、親水性を備える。本発明における好ましい親水性の程度は、水の接触角が90°未満である。
【0022】
次に、本発明によれば、無機材料を用いて無機多孔質支持体を得て、その無機多孔質支持体の裏面から、圧力を印加しながら、その無機多孔質支持体の表面に、その無機多孔質支持体の表面の平均細孔径D[nm]に対し、10<(Mw/2000)<D<5000、となる関係を満たす平均分子量Mwの高分子を含有する有機高分子膜前駆体を配設し、その有機高分子膜前駆体を乾燥処理する過程を経て、無機多孔質支持体と、その無機多孔質支持体の細孔内に配設された有機高分子膜と、を備える複合分離膜を得る複合分離膜の製造方法が提供される。
【0023】
本発明に係る複合分離膜の製造方法において、上記圧力が、0.01MPa以上、1.00MPa以下であることが好ましい。この圧力は、窒素、ヘリウム等の不活性ガスの他、圧縮空気等によって印加することが出来る。
【0024】
本発明に係る複合分離膜の製造方法は、本発明に係る複合分離膜を製造する手段として好適なものである。有機高分子膜前駆体を配設し、の一例は、有機高分子溶液を塗布すること、である。
【0025】
本発明に係る複合分離膜の製造方法において、有機高分子膜前駆体に含有される高分子の平均分子量Mwと、無機多孔質支持体の表面の平均細孔径D[nm]とは、(Mw/2000)であり、且つ、D<5000であることを条件として、(Mw/1500)<Dとなる関係を満たすことが好ましく、(Mw/1000)<Dとなる関係を満たすことがより好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る複合分離膜は、有機高分子膜が無機多孔質支持体の細孔内に配設されているので、有機高分子膜の熱分解が抑制され、複合分離膜としての耐熱性が高い。又、有機高分子膜は無機多孔質支持体の細孔内で拘束されることになるため、炭化水素等による有機高分子膜の膨潤を抑制することが出来、複合分離膜としての耐久性に優れる。
【0027】
本発明に係る複合分離膜は、表面に、無機多孔質支持体の少なくとも一部が露出しているので、その無機多孔質支持体を、有機高分子膜への透過前のプレフィルタとして利用することが出来、有機高分子膜が保護される結果、膜のファウリングを防ぎ、耐久性に優れ、且つ、良好な分離性能を発揮するものとなる。
【0028】
本発明に係る複合分離膜は、その好ましい態様において、有機高分子膜を形成する高分子の平均分子量Mwと、無機多孔質支持体の表面の平均細孔径D[nm]とが、(Mw/2000)<D<5000、となる関係を満たすので、無機多孔質支持体の細孔内へ有機高分子膜が殆ど浸入しており、且つ、良好に成膜されていて、有機高分子膜が、欠陥のない薄膜になっている。そして、本発明に係る複合分離膜によって実現される有機高分子膜の厚さは0.1μm以上10μm以下である。よって、本発明に係る複合分離膜は、分離膜として用いたときに、流速が大きくとれ且つ圧力損失は小さく、透過性に優れ、且つ、良好な分離性能を発揮する。(Mw/2000)<D<5000、の関係を満たさない場合には、無機多孔質支持体の細孔内に有機高分子膜が浸入し難くなり、分離膜としての耐久性が低下し易い。又、(Mw/2000)<D<5000であるから、当然に(Mw/2000)<5000となるが、この関係を満たさない場合(Mw≧10000000の場合)には、材料(有機高分子化合物)の溶解性の悪さに起因して、欠陥を有する有機高分子膜となり易い。
【0029】
本発明に係る複合分離膜は、支持体がセラミックスや金属等の無機多孔質であるので、耐熱性や耐久性に優れている。複合膜としての耐熱性や耐久性が、支持体によって制限されることがない。又、炭化水素を含む雰囲気中でも、支持体が膨潤することはなく、使用可能である。
【0030】
本発明に係る複合分離膜は、有機高分子膜が、水溶性を示す高分子、又は、水溶性を示さない高分子、で形成することが出来るが、水溶性を示す高分子で形成されることがより好ましい。水溶性を示す高分子は、有機溶媒を用いずに使用することが出来るので、水溶性を示す高分子を使用すれば、複合分離膜の製造過程において環境負荷軽減に寄与するとともに、複合分離膜を製造し易くなる。このような水溶性を示す高分子の例として、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、ポリスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、ポリアミド、ポリエーテル、多糖類系ポリマーからなる高分子群から選ばれる何れかの高分子、又はその高分子の誘導体若しくは変性体である高分子、若しくはその高分子を少なくとも1種類以上含む共重合体である高分子を示すことができる。又、水溶性を示さない高分子の例として、ポリシロキサン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、セルロース系ポリマーからなる高分子群から選ばれる何れかの高分子、又はその高分子の誘導体若しくは変性体である高分子、若しくはその高分子を少なくとも1種類以上含む共重合体である高分子を示すことができる。
【0031】
本発明に係る複合分離膜の製造方法は、上記の本発明に係る複合分離膜を得ることが出来る点に、その効果が認められる。即ち、本発明に係る複合分離膜の製造方法は、無機多孔質支持体の裏面から、好ましくは0.01MPa以上、1.00MPa以下の圧力を印加しながら、その無機多孔質支持体の表面に、その無機多孔質支持体の表面の平均細孔径D[nm]に対し、(Mw/2000)<D<5000、となる関係を満たす平均分子量Mwの高分子を含有する有機高分子膜前駆体を配設し、その有機高分子膜前駆体を乾燥処理する過程を経て、複合分離膜を得るので、無機多孔質支持体の表面から細孔内へ有機高分子膜前駆体は浸入し易いが、一方、裏面側からは浸入が抑制されており、有機高分子膜を、無機多孔質支持体の細孔内に、透過性に優れるように薄く、ピンホール等の欠陥なく良好に、成膜することが出来る。(Mw/2000)<Dの関係を満たさない場合には、無機多孔質支持体の表面から細孔内へ有機高分子膜前駆体が浸入し難くなり、表面に配設されてしまう。(Mw/2000)<D<5000であるから、当然に(Mw/2000)<5000となるが、この関係を満たさない場合(Mw≧10000000の場合)には、有機高分子膜前駆体の溶解性が悪く、それに起因して成膜し難く、その結果、有機高分子膜に欠陥が生じ易い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る複合分離膜の一実施形態を示す断面図である。
【図2】従来の複合分離膜の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、適宜、図面を参酌しながら説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は以下に記述される手段である。
【0034】
先ず、本発明に係る複合分離膜について説明する。図1に示される複合分離膜10は、無機多孔質支持体12と、その無機多孔質支持体12の細孔内に配設された有機高分子膜11と、を備える。有機高分子膜11は薄膜であり、無機多孔質支持体12の表面には殆ど露出せず、且つ、無機多孔質支持体12の内部深くにも殆ど入り込んでいない。換言すれば、有機高分子膜11は、無機多孔質支持体12の表面近傍の細孔内に配設されている。
【0035】
これに対し、図2に示される従来の複合分離膜20は、無機多孔質支持体22と、その無機多孔質支持体22の表面に配設された有機高分子膜21と、を備えるものであり、有機高分子膜21は、無機多孔質支持体22の内部にも入り込み、全体として厚い有機高分子膜21となっている。
【0036】
又、複合分離膜20では、無機多孔質支持体22の内部深くにも、膜化していない有機高分子が分散して存在する。これに対し、複合分離膜10では、膜化していない有機高分子は、無機多孔質支持体12の内部深くの細孔にはほとんど存在しない。
【0037】
複合分離膜10の無機多孔質支持体12は、その表面が(例えば)アルミナ粒子からなり、(例えば)気孔率が40%であり、(例えば)平均細孔径Dが0.1μm(100nm)の、構造体である。有機高分子膜11は、(例えば)平均分子量Mwが50000のポリエチレングリコールで形成されたものであり、その厚さは(例えば)3μmである。この場合に、D=100、(Mw/2000)=25、であるから、10<(Mw/2000)<D<5000、の関係が成立する。有機高分子膜11がポリエチレングリコールで形成された複合分離膜10は、(例えば)水−アルコールの分離膜として用いることが出来る。
【0038】
次に、本発明に係る複合分離膜の製造方法について、上記の複合分離膜10を製造する場合を例にとって、説明する。本発明に係る複合分離膜の製造方法では、先ず、公知の手段に基づき、無機材料を用いて無機多孔質支持体12を得る。(例えば)アルミナ粒子を用いて所望の形状に成形した後、乾燥し、焼成すれば、無機多孔質支持体12が得られる。具体的には、(例えば)平均粒子径1μmのアルミナ粒子に、分散媒である水及び有機バインダと、必要ならば界面活性剤や可塑剤等を、添加し、混練して、成形原料を得て、それを所望の形状に成形し、乾燥し、焼成することによって、(例えば)平均細孔径Dが0.1μm(100nm)の無機多孔質支持体12を得ることが出来る。
【0039】
次に、得られた無機多孔質支持体12の平均細孔径D(=100)に対し、(Mw/2000)<D<5000となる関係を満たす、平均分子量Mwが50000の、ポリエチレングリコールを含有する有機高分子水溶液を作製し、これを、(例えば)窒素ガスを吹き込んで、無機多孔質支持体12の裏面から0.1MPaの圧力を印加しながら、無機多孔質支持体12の表面に、無機多孔質支持体12の細孔が閉塞するように塗布する。その後、乾燥処理すれば、無機多孔質支持体12の細孔内に有機高分子膜11が配設された複合分離膜を得ることが出来る。
【0040】
塗布する手段としては、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法等を例示することが出来る。無機多孔質支持体12の細孔を閉塞させるには、繰り返し塗布すればよい。有機高分子水溶液における、ポリエチレングリコールの濃度は、1〜15質量%であることが好ましく、5〜10質量%程度であることが特に好ましい。有機高分子水溶液の粘度は、好ましくは1〜10000mPa・s、特に好ましくは5〜1000mPa・sである。乾燥処理は、(例えば)0〜150℃、好ましくは25〜100℃の温度で、(例えば)0.1〜24時間、好ましくは0.5〜5時間、行えばよい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)アルミナ粒子を用いて、外径10mm、長さ100mmの、円筒状の無機多孔質支持体(アルミナ多孔質支持体)を得た。その無機多孔質支持体の平均細孔径Dは0.1μm(100nm)であった。そして、平均分子量Mwが100000のポリビニルアルコール(PVA)水溶液を、濃度を5質量%として用意し、窒素ガスを無機多孔質支持体の裏面から吹き込み、0.1MPaの圧力を印加しながら、無機多孔質支持体の表面にPVA水溶液を塗布し、80℃で乾燥させることによって、無機多孔質支持体の細孔内に有機高分子膜(PVA膜)を成膜して、無機多孔質支持体の細孔内に配設された有機高分子膜を備える複合分離膜を得た。D=100、(Mw/2000)=50であるから、(Mw/2000)<D<5000、となる関係を満たす。
【0043】
尚、PVA膜の成膜は、無機多孔質支持体の表面の細孔が閉塞されるまで、塗布と乾燥を繰り返し行った。成膜後の膜表面(PVA水溶液を乾燥させた膜の表面)に、窒素ガスで0.8MPaの圧力を印加し、その状態で、膜裏面にリークする窒素ガスの量が100ml/min・m以下となった段階で、無機多孔質支持体の細孔が閉塞された、と判断した。実施例1においては、最後の塗布と乾燥の後の、窒素ガスのリーク量は、84ml/min・mであった。
【0044】
得られた複合分離膜について、電子顕微鏡を用いて微構造観察を行ったところ、無機多孔質支持体の細孔内に、膜厚が約5μmの有機高分子膜が成膜された構造となっていることが確認出来た。又、成膜の前後の重量を測定し、その変化から高分子の付着量を求めたところ、0.23mg/cmであった。この高分子の付着量に基づけば、全ての高分子(PVA)が無機多孔質支持体の細孔内に存在していると考えられた。
【0045】
(実施例2)PVA水溶液の代わりに、平均分子量Mwが50000のポリエチレングリコール(PEG)水溶液を、濃度を10質量%として用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、複合分離膜を作製した。D=100、(Mw/2000)=25であるから、10<(Mw/2000)<D<5000、となる関係を満たす。実施例2においては、最後の塗布と乾燥の後の、窒素ガスのリーク量は、91ml/min・mであった。
【0046】
得られた複合分離膜について、電子顕微鏡を用いて微構造観察を行ったところ、無機多孔質支持体の細孔内に、膜厚が約5μmの有機高分子膜が成膜された構造となっていることが確認出来た。又、成膜の前後の重量を測定し、その変化から高分子の付着量を求めたところ、0.19mg/cmであった。この高分子の付着量に基づけば、全ての高分子(PEG)が無機多孔質支持体の細孔内に存在していると考えられた。
【0047】
(実施例3)無機多孔質支持体の平均細孔径Dを3.0μm(3000nm)とした。そして、平均分子量Mwが2000000のPEG水溶液を、濃度を1質量%として用い、塗布時に印加する圧力を0.05MPaとした。これら以外は、実施例1と同様にして、複合分離膜を作製した。D=3000、(Mw/2000)=1000であるから、10<(Mw/2000)<D<5000、となる関係を満たす。実施例3においては、最後の塗布と乾燥の後の、窒素ガスのリーク量は、85ml/min・mであった。
【0048】
得られた複合分離膜について、電子顕微鏡を用いて微構造観察を行ったところ、無機多孔質支持体の細孔内に、膜厚が約9μmの有機高分子膜が成膜された構造となっていることが確認出来た。又、成膜の前後の重量を測定し、その変化から高分子の付着量を求めたところ、0.38mg/cmであった。この高分子の付着量に基づけば、全ての高分子(PEG)が無機多孔質支持体の細孔内に存在していると考えられた。
【0049】
(比較例1)無機多孔質支持体の表面にPVA水溶液を塗布するに際し、無機多孔質支持体の裏面から圧力を印加しなかった。それ以外は、実施例1と同様にして、複合分離膜を作製した。比較例1においては、最後の塗布と乾燥の後の、窒素ガスのリーク量は、79ml/min・mであった。
【0050】
得られた複合分離膜について、電子顕微鏡を用いて微構造観察を行ったところ、無機多孔質支持体の表面上に、膜厚が約2μmの有機高分子膜が成膜されていた。又、それだけでなく、無機多孔質支持体の内部にも奥深くまで、多量の高分子(PVA)が堆積していることが判明した。又、成膜の前後の重量を測定し、その変化から高分子の付着量を求めたところ、2.50mg/cmであった。この高分子の付着量に基づけば、9割程度の高分子が、成膜せずに、分散して、無機多孔質支持体の内部の奥深くまで、浸入していると考えられた。
【0051】
(比較例2)無機多孔質支持体の表面にPEG水溶液を塗布するに際し、無機多孔質支持体の裏面から圧力を印加しなかった。それ以外は、実施例3と同様にして、複合分離膜を作製した。比較例2においては、成膜を10回繰り返しても、窒素ガスのリーク量が100ml/min・m以下とならなかったため、それ以上の成膜を中止した。
【0052】
得られた複合分離膜について、電子顕微鏡を用いて微構造観察を行ったところ、無機多孔質支持体の表面上には、有機高分子膜が確認されず、全ての高分子(PEG)が成膜せずに、分散して、無機多孔質支持体の内部の奥深くまで、浸入していると考えられた。
【0053】
(考察)高分子の付着量の差から、比較例1と比べて、実施例1、2においては、1/5程度の高分子の付着量によって、無機多孔質支持体の細孔が閉塞されることがわかった。即ち、実施例1、2では、比較例1と比べて、大幅な薄膜化が可能となった。又、実施例3と比較例2との比較により、無機多孔質支持体の裏面から圧力を印加して、無機多孔質支持体の内部の奥深くへの高分子の浸入を抑制することにより、無機多孔質支持体の細孔閉塞が可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る複合分離膜及びその製造方法は、複数の物質(気体、液体等)の混合物から特定の物質(気体、液体等)を選択的に分離する分離用フィルタ及びそれを製造する手段として、好適に利用される。
【符号の説明】
【0055】
10 複合分離膜
11 有機高分子膜
12 無機多孔質支持体
20 複合分離膜
21 有機高分子膜
22 無機多孔質支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機多孔質支持体と、その無機多孔質支持体の細孔内に配設された有機高分子膜と、を備え、
その有機高分子膜の厚さが、0.1μm以上、10μm以下、であるとともに、
表面に、前記無機多孔質支持体の少なくとも一部が露出している複合分離膜。
【請求項2】
前記有機高分子膜を形成する高分子の平均分子量Mwと、前記無機多孔質支持体の表面の平均細孔径D[nm]とが、
(Mw/2000)<D<5000、となる関係を満たす請求項1に記載の複合分離膜。
【請求項3】
前記無機多孔質支持体が、親水性を有する請求項1又は2に記載の複合分離膜。
【請求項4】
無機材料を用いて無機多孔質支持体を得て、
その無機多孔質支持体の裏面から、圧力を印加しながら、その無機多孔質支持体の表面に、その無機多孔質支持体の表面の平均細孔径D[nm]に対し、(Mw/2000)<D<5000、となる関係を満たす平均分子量Mwの高分子を含有する有機高分子膜前駆体を配設し、
その有機高分子膜前駆体を乾燥処理する過程を経て、
無機多孔質支持体と、その無機多孔質支持体の細孔内に配設された有機高分子膜と、を備える複合分離膜を得る複合分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記圧力が、0.01以上、1.00MPa以下である請求項4に記載の複合分離膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−83729(P2011−83729A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239648(P2009−239648)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】