説明

複合糸

【課題】 風合と伸縮性に優れ,伸長回復の後でも風合が低下しない織編物に好適なポリエステル複合糸。
【解決手段】 極限粘度が0.8以上のポリプロピレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルからなる糸条を芯糸とし,周囲にポリプロピレンテレフタレート以外のポリマーからなる合成繊維および/または天然繊維からなる糸条を鞘糸として,芯成分と鞘成分とが重量比で2/8〜8/2となるように巻きつけることにより本発明の複合糸が得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,風合と伸縮性に優れた織編物に好適な複合糸に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より,ポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成繊維からなる長繊維を芯糸として,綿,羊毛等の天然繊維からなる短繊維を巻きつけた複合糸は,天然繊維のもつ風合と合成繊維のもつ強度等の機械特性を兼備しているため,織編物用として,靴下,ドレス,スーツ等を中心に衣料用全般に用いられている。
【0003】しかしながら,かかる複合糸は,伸縮性が十分でないため,ストレッチ素材が好適に用いられるスポーツ用途等には適当ではなかった。
【0004】そこで,織編物に伸縮性を付与すべく,ポリウレタンまたはポリエーテルエステルを構成成分とする繊維を芯糸とした複合糸が提案されているが,かかるポリマーを用いた場合,伸縮性に優れるものの,伸長時に発生する引張応力が低いため,繊維が伸びすぎ,織編物を構成する複合糸の芯糸と鞘糸が剥離したりして,伸長回復させた後,風合が悪くなったり,ひざ抜けが生じるという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,かかる問題点のない,風合に優れ,伸縮性が十分で,伸長回復させた後でも風合が悪化しない織編物に好適な複合糸を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は,上記目的を達成するもので,その要旨は次のとおりである。
【0007】すなわち本発明は,極限粘度が0.8以上のポリプロピレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルからなる糸条を芯糸とし,芯糸の周囲に鞘糸として化学繊維および/または天然繊維からなる糸条を配してなり,芯成分と鞘成分とが重量比で2/8〜8/2であることを特徴とする複合糸を要旨とするものである。
【0008】
【発明の実施の形態】以下,本発明について詳細に説明する。本発明の目標とする,風合に優れ,伸長回復させた後でも風合が悪化しない織編物を得るためには,複合糸を構成する芯糸は,弾性性能に優れた極限粘度が0.8以上のポリプロピレンテレフタレート(PPT)を主たる構成成分とするポリエステルからなる糸条を用いる。極限粘度が0.8未満であると,実用上十分な強度を有する繊維が得られなくなり,本発明の目標とする織編物に好適な複合糸が得られないため好ましくない。得られるPPTの特性および生産性等を考慮すると極限粘度が0.8〜1.3の範囲のものを用いるとよい。極限粘度が1.3を超えると,溶融紡糸において温度および圧力をかなり高くする必要があり,これにより,重合体の分解が生じたり,また得られる糸は均整度に劣る傾向にあるので好ましくない。
【0009】本発明の複合糸の芯糸の30%伸長時の引張応力は,3.0g/d以上であることが好ましい。30%伸長時の引張応力が3.0g/d未満であると,伸長させたときに繊維が伸びすぎてしまい,複合糸の芯糸と鞘糸との剥離が生じる傾向にあり好ましくない。
【0010】本発明におけるPPTには,必要に応じて,本発明の目的を損なわない範囲であれば,イソフタル酸,無水フタル酸,ドデカン二酸,アゼライン酸,セバシン酸,ビスフェノールA,ビスフェノールS,p,p'−ビスフェノール,1,4−ナフタレンジカルボン酸,2,4−ナフタレンジカルボン酸,4,4'−ジフェニルジカルボン酸,ジフェノキシエタンジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体等の他の副原料が共重合されていてもよいし,種々の添加剤が含まれていてもよい。
【0011】本発明の複合糸に供する極限粘度が0.8以上のPPTを得るための製造方法の一例を具体的に説明するが,これに限られるものではない。
【0012】まず,1,3−プロパンジオール(1,3−PD)とテレフタル酸(TPA)とをエステル化反応させ,エステル化反応率92〜98%の反応物を得る。次に,得られた反応物に触媒(テトラブチルチタネートまたはスルホサリチル酸が好ましい。)を加え,減圧下,240〜250℃以下の温度で3〜5時間重縮合反応を行うことにより,極限粘度が0.8以上のPPTを得ることができる。
【0013】なお,上記方法により得られたPPTを溶融紡糸する際に,安定剤,蛍光剤,顔料,強化剤といった添加剤を共存させてもよい。
【0014】本発明の複合糸は,目的とする風合に優れ,伸縮させた後でも風合が悪化しない織編物を得るためには,前記芯糸の周囲に化学繊維および/または天然繊維からなる糸条を鞘糸として巻きつけてなることが必要である。鞘糸としては,必ずしもPPTを用いる必要はなく,ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系,ナイロン6等のポリアミド系,レーヨン,アセテート等の化学繊維および/または綿,羊毛,麻等の天然繊維を適宜選択すればよい。鞘糸として用いる糸条の形態としては,例えば,ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系,ナイロン6等のポリアミド系の合成重合体よりなるスリット糸や長繊維の未加工糸,仮撚加工糸等が挙げられる。またはポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系,ナイロン6等のポリアミド系,レーヨン,アセテート,綿,羊毛,麻等の短繊維を混紡した紡績糸を用いることもできる。これらの鞘糸を構成する繊維素材および形態は,風合等の目的に応じて任意に選ばれる。
【0015】また,芯糸で構成される芯成分と鞘糸で構成される鞘成分とは,重量比で2/8〜8/2であることが必要であり,芯成分/鞘成分の重量比が2/8未満になると,十分な伸縮性が付与されず本発明の目的を満足するものが得られず好ましくなく,一方,8/2を超えて大きくなると,鞘成分を構成する繊維が十分に芯成分を包み込むことができなくなり,鞘成分を構成する繊維の風合を十分に発現しなくなる。
【0016】前記PPTを主成分とするポリエステルからなる芯糸の周囲に前記した鞘糸を配して本発明の複合糸を得る方法としては,■精紡機を用い,鞘糸の中心に芯糸を供給する方法,■仮撚機を用い,鞘糸をオーバーフィードする方法,■一般的なカバリング方法等が挙げられ,本発明の複合糸からなる織編物の用途に応じて適宜選択すればよい。
【0017】さらに,本発明の複合糸を構成する繊維群の断面形状は,丸断面をはじめ,三角断面等の異形でもよく,特に限定されない。
【0018】
【作用】本発明の複合糸は,複合糸を構成する芯糸の30%伸長時の回復率がポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレートに比べて高く,かつ伸長時に発生する引張応力が高いため,伸長させようとした場合,本発明の複合糸で構成される織編物が伸びすぎることはない。このため,芯糸と鞘糸が剥離することはなく,伸長回復させた後の風合が低下しないと推察される。
【0019】
【実施例】次に,実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお,特性値の測定法は,次のとおりである。
【0020】(1)極限粘度〔η〕:フェノールと四塩化エタンとの等重量混合液を溶媒とし,温度20℃で測定した。
【0021】(2)強伸度(g/d),30%伸長時の引張応力(g/d):複合糸を構成する芯糸をサンプルとし,オリエンティック社製テンシロンUTM−4−100型を用い,試料長10cm,引張速度10cm/min で測定した。なお,測定回数は10回とし,その平均値で表した。
【0022】(3)復元性(R):複合糸を構成する芯糸をサンプルとし,サンプルに100mg/dの荷重をかけて試料長L0 を測定した後,30%引き伸ばす。次に,試料を無荷重の状態で30分間放置する。この操作を10回繰り返した後,再び100mg/dの荷重をかけて試料長L1 を測定し,次式で算出する。Rが100に近いほど復元性は良好である。Rの値が95〜100の範囲であると合格とした。
R=(L1 /L0 )×100 。
【0023】(4)風合,伸長回復後の風合:複合糸を用いて織成した織物のふくらみ,ソフト感,ドレープ性,張りのそれぞれについて,官能評価により8段階で判定した。最もよい場合を8級とし,最も悪い場合を1級として評価し,すべてが5級以上のものを合格とした。
【0024】次に,10cm×30cmのサンプルに長片方向に5kgの荷重をかけ,引き伸ばした後,無荷重の状態で30分間放置したサンプルを,ふくらみ,ソフト感,ドレープ性,張りについて,官能評価により8段階で判定した。最もよい場合を8級とし,最も悪い場合を1級として評価し,すべてが5級以上のものを合格とした。
【0025】製造例エステル化反応器に1,3−プロパンジオール(1,3−PD)30.4kg,テレフタル酸(TPA)33.2kgを仕込み,3kg/cm2 Gの制圧下,240℃で4時間エステル化反応を行った。得られたエステル化反応物40kgを重合反応缶に移送し,酸成分1モルに対しテトラブチルチタネートを2×10-4モル加え,0.5Torrの減圧下,250℃で3時間重縮合反応を行い,常法によりチップ化することにより,極限粘度0.92を有するPPTを得た。
【0026】実施例1PPTを紡糸温度290℃,紡糸速度1400m/minで紡糸して巻き取った未延伸糸を,延伸速度700m/minで,加熱ローラー温度が80℃,熱板温度160℃の条件で3.5倍に延伸して巻き取り,円形断面の30d/12f,伸度42%,沸水収縮率10%の糸質を有する延伸糸を得た。通常のリング精紡機を用い,150番手の綿紡績糸の中央に芯糸として上記の延伸糸(30d/12f)を供給し,PPTの延伸糸(芯成分)と綿紡績糸(鞘成分)との重量比(芯成分/鞘成分)=50/50の複合糸を得た。この複合糸の伸縮特性について評価したところ,十分な伸縮性を有していた。さらに,この糸を糊付け(30℃),乾燥(85℃),整経後,製織し,97℃の熱水でリラックス精練,160℃で仕上げ熱固定し,綾織組織で経糸密度120本/インチ、緯糸密度90本/インチでツイル織物に織成した。このツイル織物の官能評価の結果,高度な風合を備えており,伸長回復後の風合も良好であった。
【0027】実施例2,3実施例1において芯成分/鞘成分の比率を表1記載のごとく変える以外は,実施例1と同様に実施したところ,伸縮性に優れ,高度な風合を備えており,伸長回復後の風合も良好であった。
【0028】実施例4〜7実施例1において鞘成分として紡績糸の代わりに表1記載の長繊維または短繊維を用いる以外は,実施例1と同様に実施したところ,伸縮性に優れ,高度な風合を備えており,伸長回復後の風合も良好であった。
【0029】実施例8実施例1において紡績糸の代わりに厚さ20μm,幅0.3mmのポリエチレンテレフタレートのスリット糸を用いる以外は,実施例1と同様に実施したところ,伸縮性に優れ,高度な風合を備えており,伸長回復後の風合も良好であった。
【0030】実施例9,10実施例1において極限粘度の異なるPPTを用いる以外は,実施例1と同様に実施したところ,伸縮性に優れ,高度な風合を備えており,伸長回復後の風合も良好であった。
【0031】比較例1,2実施例1において芯成分/鞘成分の比率を変える以外は,実施例1と同様に実施した。
【0032】比較例3実施例1において,芯成分としてPPTの延伸糸に代えて表1記載の30d/12fのポリエチレンテレフタレート(PET)からなる延伸糸を用いる以外は,実施例1と同様に実施した。
【0033】実施例1〜10,比較例1〜3の特性値および評価結果を表1に記載した。
【0034】
【表1】


【0035】表1より明らかなように,実施例1〜10の本発明の複合糸の芯糸であるPPTからなる糸条は,30%伸長時の引張応力が高く,復元性が良好であるため,本発明の複合糸からなる織物は,伸長回復後であっても良好な風合いを有するものであった。
【0036】一方,芯成分/鞘成分の重量比が2/8未満であった比較例1の複合糸からなる織物は,十分な伸縮性が付与されなかったため,織物を伸長回復させた後の風合が低下していた。
【0037】芯成分/鞘成分の重量比が8/2を超えた比較例2の複合糸からなる織物は,鞘成分を構成する繊維の風合を十分に発現できず,初期風合,伸長回復させた後の風合共に不良であった。
【0038】芯成分としてPETを用いた比較例3の複合糸からなる織物は,十分な伸縮性が付与されなかったため,織物を伸長回復させた後の風合が低下していた。
【0039】
【発明の効果】本発明のポリエステル複合糸は,従来の設備で容易に加工でき,しかも安価に製造できるため,経済性に優れ,かつ優れた伸縮性を有している。従って,本発明のポリエステル複合糸を用いれば,伸縮特性を活かして,伸長回復後に風合を損なわない織編物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 極限粘度が0.8以上のポリプロピレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルからなる糸条を芯糸とし,芯糸の周囲に鞘糸として化学繊維および/または天然繊維からなる糸条を配してなり,芯成分と鞘成分とが重量比で2/8〜8/2であることを特徴とする複合糸。