説明

複合紡績糸及び織編物

【課題】 強度や難燃性といった機能特性でなく、審美性や風合いといった感性特性をも織編物に付与しうる、新規な複合紡績糸と、それを用いてなる織編物とを提供する。
【解決手段】 芯成分がパラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維とからなり、鞘成分がセルロース繊維からなる複合紡績糸であって、芯成分/鞘成分の複合割合が25/75〜55/45の範囲にある複合紡績糸、及び該複合紡績糸を用いてなる織編物。本発明によれば、強度や難燃性といった機能特性だけでなく、審美性や風合いといった感性特性をも織編物に付与しうる、新規な複合紡績糸と、それを用いてなる織編物とを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度、難燃性に優れた複合紡績糸と、それを用いてなる織編物とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、機能性織編物には、芳香族ポリアミド繊維が広く用いられている。芳香族ポリアミド繊維は、大きくパラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維に大別され、種々の商品名で広く流通している。芳香族ポリアミド繊維は、強度、難燃性、耐熱性、耐薬品性などに優れるため、産業資材向けにフィラメント糸として用いられるのが従来一般的であったが、近年では防護服など危険から身を守ることを主目的とする衣料へ適用した例も多く見られ、その際、着用快適性を向上させる一手段として、紡績糸としての使用が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維及び難燃ポリエチレンテレフタレート短繊維を特定比率で含有する混紡糸が開示されている。
【0004】
パラ系アラミド繊維は、一般にその分子構造に起因して染色が困難であるという欠点がある。染色が困難であることは、衣料用途への適用を妨げる大きな要因となる。しかし、当該混紡糸では、押し込み捲縮などの手段によりパラ系アラミド繊維に座屈部を形成させており、この座屈部がノンキャリアーで染色されるため、混紡糸全体を発色性よく染色することができる。
【0005】
また、特許文献2には、芯成分としてポリエステル繊維を、鞘成分としてパラ系アラミド繊維を配した芯鞘型複合紡績糸が開示されている。この紡績糸では、ポリエステル繊維を芯成分に配することで、形態保持性に劣るアラミド繊維の欠点を補完し、さらに、パラ系アラミド繊維を鞘成分に配することで、耐切創性及び耐熱性に劣るポリエステル繊維の欠点を補完している。その結果、この紡績糸を使用すれば、高機能特性が要求される防護服用途やアウトドア衣料用途などに好適な織編物を提供することができる。
【特許文献1】特開2003−201643号公報(実施例1、段落〔0024〕)
【特許文献2】特許第3954231号公報(実施例1、段落〔0017〕、〔0048〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
芳香族ポリアミド繊維は様々な機能性を有することから、産業資材に限らず今や防護服などの衣料用途への適用も進んでいることは先に述べたが、衣料用途へ適用する以上、強度や難燃性といった機能特性だけでなく、審美性や風合いといった感性特性の向上も要求される。
【0007】
審美性を向上させる一手段として、織編物が発する色彩を鮮やかなものにすることが知られており、上記特許文献1にかかる混紡糸を用いれば、確かに発色性に優れる織編物を得ることはできる。しかしながら、かかる織編物は、あくまで染色によって鮮やかな色彩を付与することを対象としているから、単一色に限定される。しかるに、審美性の一層の向上、例えば、プリント柄などを付して織編物の審美性をより向上させることはできず、抜本的な改善が望まれるところである。
【0008】
また、特許文献2にかかる複合紡績糸は、その特異な構造により、織編物に様々な機能特性を付与することができる。しかしながら、当該紡績糸は、その表面にアラミド繊維が配されているために、同繊維の特性たる剛直性を織編物に強く反映させる傾向にあり、結果、織編物の風合いを著しく損ねてしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、強度や難燃性といった機能特性だけでなく、審美性や風合いといった感性特性をも織編物に付与しうる、新規な複合紡績糸と、それを用いてなる織編物とを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究の結果、芯成分にアラミド繊維を配し、鞘成分にセルロース繊維を配すれば、織編物に対し優れた機能、感性を付与しうる紡績糸が得られることを知見して本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、芯成分がパラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維とからなり、鞘成分がセルロース繊維からなる複合紡績糸であって、芯成分/鞘成分の複合割合が25/75〜55/45の範囲にあることを特徴とする複合紡績糸を要旨とし、また、それを用いてなる織編物を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、強度や難燃性といった機能特性だけでなく、審美性や風合いといった感性特性をも織編物に付与しうる、新規な複合紡績糸と、それを用いてなる織編物とを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明では、アラミド繊維として、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維とを用いる。両繊維とも市販のものが使用でき、例えば、パラ系アラミド繊維としては、帝人テクノプロダクツ(株)製「テクノーラ(商品名)」、「トワロン(商品名)」、東レ・デュポン(株)製「ケブラー(商品名)」などが、メタ系アラミド繊維としては、帝人テクノプロダクツ(株)製「コーネックス(商品名)」、デュポン社製「ノーメックス(商品名)」などが使用できる。
【0015】
パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維とを比較すると、両者には共通する特性も多く存在するものの、概して、前者は強度、弾性率に優れ、後者は難燃性、耐熱性に優れている。この点を考慮し、本発明では、アラミド繊維の有する特性を最大限活用するべく、両方のアラミド繊維を使用する必要がある。具体的には、パラ系アラミド繊維/メタ系アラミド繊維の複合割合として、25/75〜55/45の範囲が好ましい。アラミド繊維の使用において、かかる複合割合を外れると、いずれかのアラミド繊維のみが有する特性が織編物へ強く反映されることになり、好ましくない。
【0016】
両アラミド繊維の混合形態としては、特に限定はされないが、紡績糸の難燃性を考慮し、混紡、又は内側にパラ系アラミド繊維を外側にメタ系アラミド繊維を配して二層構造となした形態が好ましく採用できる。
【0017】
さらに、本発明では、アラミド繊維と共にセルロース繊維を用いる。セルロース繊維としては、例えば、綿、麻などの天然セルロース繊維、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維などの再生セルロース繊維を用いることができる。中でも、紡績糸の用途などを考慮し、難燃性を具備するセルロース繊維が好ましく用いうる。難燃性を具備するセルロース繊維としては、例えば、リン化合物を主成分とする難燃剤を繊維内部に含有する再生セルロース繊維があげられる。この再生セルロース繊維は、既存のビスコース法などを準用すれば容易に得ることができる。例えば、紡糸液にかかる難燃剤を添加するなどして公知の湿式紡糸を行えば、容易に所望の繊維を得ることができる。
【0018】
本発明の紡績糸は、上記のアラミド繊維とセルロース繊維とを用いてなるものである。
【0019】
本発明者らは、紡績糸内での上記繊維の配置について種々検討した結果、芯成分にアラミド繊維を配し、鞘成分にセルロース繊維を配すると、アラミド繊維が有する優れた機能特性と、セルロース繊維が有する優れた感性特性とを同時に織編物へ反映させやすいことを見出した。これは、紡績糸表面(鞘成分)に配された繊維は外部と接触する機会が多く、紡績糸の中心部(芯成分)に配された繊維は糸質に深く関わるとの理由によるものであり、特に芯成分/鞘成分の複合割合を特定範囲に設定することにより、かかる効果を飛躍的に向上させうることも併せて見出した。
【0020】
すなわち、本発明の紡績糸においては、芯成分/鞘成分の複合割合が25/75〜55/45の範囲にあることが必要である。芯成分に配されるべきアラミド繊維がこの範囲を下回って少なくなると、紡績糸及び織編物の強度、難燃性などの機能特性が低減し、一方、鞘成分に配されるべきセルロース繊維がこの範囲を超えて少なくなると、織編物の審美性や風合いといった感性特性の他、染色性も低減する。
【0021】
本発明の紡績糸は以上の構成を有することにより、強度や難燃性といった機能特性でなく、審美性や風合いといった感性特性をも織編物に付与しうる。この点、機能特性については、織編物に所望の特性を付するには、紡績糸自身が相応の特性を有していることが好ましい。したがって、紡績糸の強度としては、糸単糸番手強力積11000cN以上が好ましく、難燃性としては、LOI値28以上が好ましい。一方、感性特性については、審美性を向上させる観点から、織編物は染色可能であることは勿論、特に印捺可能であることが好ましい。印捺は織編物の審美性を向上させるだけでなく、審美性以外の新たな特性をも付与できる場合がある。例えば、織編物にIR迷彩プリントを付せば、織編物を偽装服用途に適用することができる。また、織編物の風合いついては、セルロース繊維によって奏されるソフトで張り腰ある風合いが基本的に好ましいが、剛直性あるアラミド繊維の特性を活用すれば、シャリ味ある清涼感にあふれた風合いにすることもでき、夏季衣料として用いる場合はむしろ好ましい風合いとなる。
【0022】
次に、本発明の紡績糸の製造方法を説明する。
【0023】
本発明の紡績糸は、公知の複合紡績法を準用することで作製することができる。例えば、アラミド繊維からなるスライバーと、セルロース繊維からなるスライバーとを用意し、前者が芯側に後者が鞘側に配されるように粗紡した後、精紡するか、又は、アラミド繊維からなる粗糸と、セルロース繊維からなる粗糸とを用意し、前者が芯側に後者が鞘側に配されるように精紡することにより、目的の紡績糸を得ることができる。
【0024】
精紡時の撚係数としては、2.5〜5.5が好ましく、撚係数がこの範囲を外れると、紡績糸の強度が低減する傾向にある。
【0025】
本発明の紡績糸は、単糸としては勿論、合糸として用いることもできる。具体的には、合撚糸、精紡交撚糸又はカバリング糸として用いることができ、合わせる糸の本数としては特に限定されないが、実用的には2又は3本が好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、合糸相手の糸として本発明の紡績糸以外の糸を採用してもよい。
【0026】
合糸の場合の撚数としては、合糸の形態を保ちうる範囲内であれば基本的に任意に設定してよいが、好ましくは上撚数を下撚数の0.65〜1.15倍程度に設定する。上撚数が下撚数の0.65倍を下回ると、織編物の風合いにつきシャリ味ある清涼感にあふれた風合いを具現し難い傾向にあり、好ましくない。一方、1.15倍を上回ると、紡績糸の強度が低減する傾向にあるだけでなく、撚り止めセットの温度を高く設定することに伴って、紡績糸中に含まれるセルロース繊維が黄変することがあり、好ましくない。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、各測定は下記方法に準じた。
【0028】
1.紡績糸の強度
正量番手と単糸引張強さとの積(糸単糸番手強力積)を算出することにより、紡績糸の強度を評価した。正量番手はJIS L1095 9.4.1に、単糸引張強さはJIS L1095 9.5.1(定速伸長形、つかみ間隔50cm)に準じて測定した。
【0029】
2.紡績糸の難燃性
JIS L1091 8.5E法(酸素指数法試験)に準じて限界酸素指数(LOI値)を測定することにより、紡績糸の難燃性を評価した。
【0030】
(実施例1)
単糸繊度1.7dtex、繊維長51mmのパラ系アラミド繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製「テクノーラFRL(商品名)」)からなるスライバーAと、単糸繊度1.7dtex、繊維長51mmのメタ系アラミド繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製「コーネックスT330(商品名)」)からなるスライバーBと、単糸繊度1.7dtex、繊維長40mmの再生セルロース繊維(レンチング社製「MATT(商品名)」)からなるスライバーCとを用意した。スライバーの質量比(A:B:C)は、20:30:50であった。
【0031】
次に、上記3本のスライバーを同時に粗紡機へ導入し、フロントローラーから紡出されるスライバーの量を調整することにより、スライバーAの周りにスライバーBを巻き付けると共にスライバーBの周りにスライバーCを巻き付け、太さ16.23gr/30yd、撚数0.9回/2.54cmの粗糸を得た。
【0032】
続いて、得られた粗糸を精紡機に導入して28.6倍でドラフトし、太さ27番手(英式綿番手)、撚係数4.3(撚方向Z撚、撚数22.3回/2.54cm)の複合紡績糸を得た。
【0033】
(実施例2)
実施例1で用いたパラ系アラミド繊維及びメタ系アラミド繊維を等質量混合してなる混紡スライバーDと、実施例1で用いた再生セルロース繊維からなるスライバーEとを用意した。スライバーの質量比(D:E)は、30:70であった。
【0034】
次に、上記2本のスライバーを同時に粗紡機へ導入し、フロントローラーからの紡出されるスライバーの量を調整することにより、スライバーDの周りにスライバーEを巻き付け、太さ16.23gr/30yd、撚数0.9回/2.54cmの粗糸を得た。
【0035】
続いて、得られた粗糸を実施例1と同条件で精紡し、太さ27番手(英式綿番手)、撚係数4.3(撚方向Z撚、撚数22.3回/2.54cm)の複合紡績糸を得た。
【0036】
(比較例1)
実施例1で用いたパラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維及び再生セルロース繊維を順に質量比20:30:50で混合して得たスライバーを、粗紡機へ導入し、太さ16.23gr/30yd、撚数0.9回/2.54cmの粗糸を得た。
【0037】
続いて、得られた粗糸を実施例1と同条件で精紡し、太さ27番手(英式綿番手)、撚係数4.3(撚方向Z撚、撚数22.3回/2.54cm)の紡績糸を得た。
【0038】
(比較例2)
実施例1で用いたパラ系アラミド繊維及びメタ系アラミド繊維を等質量混合してなる混紡スライバーFと、実施例1で用いた再生セルロース繊維からなるスライバーGとを用意した。スライバーの質量比(F:G)は、20:80であった。
【0039】
次に、上記2本のスライバーを同時に粗紡機へ導入し、フロントローラーから紡出されるスライバーの量を調整することにより、スライバーFの周りにスライバーGを巻き付け、太さ16.23gr/30yd、撚数0.9回/2.54cmの粗糸を得た。
【0040】
続いて、得られた粗糸を実施例1と同条件で精紡し、太さ27番手(英式綿番手)、撚係数4.3(撚方向Z撚、撚数22.3回/2.54cm)の複合紡績糸を得た。
【0041】
(比較例3)
実施例1で用いたパラ系アラミド繊維及びメタ系アラミド繊維を等質量混合してなる混紡スライバーHと、実施例1で用いた再生セルロース繊維からなるスライバーIとを用意した。スライバーの質量比(H:I)は、60:40であった。
【0042】
次に、上記2本のスライバーを同時に粗紡機へ導入し、フロントローラーから紡出されるスライバーの量を調整することにより、スライバーHの周りにスライバーIを巻き付け、太さ16.23gr/30yd、撚数0.9回/2.54cmの粗糸を得た。
【0043】
続いて、得られた粗糸を実施例1と同条件で精紡し、太さ27番手(英式綿番手)、撚係数4.3(撚方向Z撚、撚数22.3回/2.54cm)の複合紡績糸を得た。
【0044】
以上で得られた複合紡績糸及び混紡糸を、それぞれ単独で経緯糸に用いて綾織物を作製し、綾織物の一方の面に染料を用いて迷彩プリントを付した。迷彩プリントの加工条件は、各綾織物で同一のものとした。
【0045】
また、上記紡績糸の評価と併せ、綾織物の審美性、風合いについての評価結果を表1に示す。なお、綾織物の審美性は、迷彩プリントの鮮明さを基準に○(優)から×(劣)までの3段階で目視評価し、風合いは、手触り感を基準に同じく3段階で官能評価した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1から明らかなように、実施例1、2で得られた紡績糸は、強度及び難燃性に優れており、これらの糸を使用した織物は、審美性及び風合いにも優れていた。
【0048】
これに対し、比較例1で得られた紡績糸は、混紡して得られたものであるため、全てではないものの糸表面の至るところにアラミド繊維が観察された。その結果、綾織物へプリント柄を十分に固着させることができず、綾織物は審美性に劣る結果となった。また、綾織物の風合いについては、同様に紡績糸の表面にアラミド繊維が多く配された結果、ソフト感に欠けるものとなった。
【0049】
比較例2で得られた紡績糸では、紡績糸中に含まれるアラミド繊維の量が少ないため、強度、難燃性に劣るものとなったものの、セルロース繊維の使用量が多いため、綾織物の審美性、風合いは良好なものとなった。さらに、比較例3で得られた綾織物では、紡績糸中に含まれるセルロース繊維の量が少ないため、綾織物表面へのプリント柄の固着がやや不十分となった結果、柄の鮮明さにやや欠けるものとなった。風合いについては、同様にセルロース繊維の使用量が少ない結果、ソフト感に欠けるものとなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分がパラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維とからなり、鞘成分がセルロース繊維からなる複合紡績糸であって、芯成分/鞘成分の複合割合が25/75〜55/45の範囲にあることを特徴とする複合紡績糸。
【請求項2】
請求項1記載の複合紡績糸を用いてなる織編物。


【公開番号】特開2009−209488(P2009−209488A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54492(P2008−54492)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(599089332)ユニチカテキスタイル株式会社 (53)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】