説明

複数の被検出物を検出する簡易アッセイ法

【課題】 フロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ法を用いた検体の検査方法において、一つのアッセイ装置で複数の被検出物質種を同時に試験して陽性反応を示す被検出物質を簡便・迅速に特定でき、使い勝手のよい信頼性の高いアッセイ方法の提供。
【解決手段】 異なる被検出物に結合し得る複数の捕捉試薬が互いに離れた位置に結合したメンブラン、メンブラン上流部に位置する濾過フィルターおよび濾過フィルター上流部に位置する前記異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を含む装置を用いる。(i) 検体試料を酵素標識試薬部に添加し、その結果検体試料および酵素標識試薬混合物が形成され該混合物が濾過フィルターで濾過されてメンブラン上に添加され、被検出物が捕捉試薬に捕捉されて捕捉試薬−被検出物−酵素標識試薬からなる免疫複合体が形成され、次いで(ii) 前記酵素に対する基質液を前記メンブラン上に滴下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体試料中の被検出物を検出するための簡易フロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、抗原抗体反応や酵素反応を利用した、ウイルスや細菌等の病原体の感染の有無、妊娠の有無などの様々な検査を短時間のうちに行う簡易検査試薬やキットが開発されている。これらの試薬、キットにおいては、病原体構成成分、ヒト絨毛性ゴナドトロピン等が検出あるいは定量の対象である。簡易検査試薬の多くは、特別な設備を必要とせず操作も簡単で安価であるという特徴を有しており、例えば、妊娠診断のための簡易検査試薬は一般薬局で販売されている。また、病原体の感染を検査する簡易検査試薬は、他の検査試薬と異なり、大病院や医療検査センター以外にも一般の病院や診療所で広く使用されている。これらの施設は患者が最初に訪れる医療機関である場合が多く、患者から採取した検体についてその場で感染の有無が判明すれば、早い段階で治療措置を施すことができるため、簡易検査試薬の医療における重要性は益々高まってきている。
【0003】
現在、簡易検査方法として、メンブランアッセイ法、特にニトロセルロース等の膜やフィルター等のメンブランを用いたアッセイ法が一般に知られており、フロースルー式アッセイ法とラテラルフロー式アッセイ法に大別される。前者は被検出物を含む溶液を膜に対して垂直方向に通過させるものであり、後者は水平方向に展開させるものである。
【0004】
いずれの場合も被検出物に特異的に結合する捕捉物質、被検出物、被検出物に特異的に結合する標識物質の複合体をメンブラン上に形成させて、標識を検出あるいは定量することで、被検出物の検出を行うという点で共通している。
【0005】
また、メンブランアッセイ法による簡易検査方法では、患者から実際に採取された検体の分析において、被検出物が検体中に存在しないにもかかわらず陽性と判定してしまう、いわゆる偽陽性が生じることがある。病原体の感染を検査する際に偽陽性反応が発生すると、疾患に関して誤った情報を与えるため、原因の特定を遅らせるばかりでなく、不適切な措置を講じることになり病状がより重篤になる等の重大な結果をもたらすこともあり得る。従って、偽陽性を抑えることは簡易検査方法の主要な使用目的から見て、極めて重要な課題である。
【0006】
従来、この問題を解決するために検体を高希釈したり、検体を希釈する溶液に、ウシ血清アルブミン、界面活性剤、塩基性アミノ酸、無機塩などを含有する緩衝液を用いたり(特許文献1参照)、洗浄液として界面活性剤、塩基性アミノ酸、無機塩などを含有する緩衝液を用いたり(特許文献1参照)、また、試料を添加する際に濾過フィルターを通す(特許文献2参照)などの工夫がなされている。
【0007】
標識に酵素を用いるフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ法は、陽性シグナルが明瞭で判定し易く、高感度測定に向く優れた方法であるが、1試験項目毎に、検体試料、酵素標識試薬、洗浄液、基質液を滴下する必要があるために操作工程数が多く、簡易アッセイ法としては問題である。
【0008】
一般に、診療において急性気道感染症は、もっとも重要な位置を占める。咳を伴う有熱性気道感染症の原因病原体は、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、RSウイルス(RSV)、ライノウイルスなどであり、冬季を中心にこれらのウイルス感染が発生する。これらのウイルスを一つのアッセイ装置で同時に迅速簡便に高感度測定し、原因ウイルスの特定ができれば臨床医にとって貴重な情報となり、診療の質が飛躍的に向上すると云われている。
【0009】
また、小児の感染性胃腸炎の原因病原体は、夏季を除くと、ほとんどがウイルスであると云われ、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスなどが挙げられ、迅速な原因ウイルスの特定が急性気道感染症同様に望まれている。
【0010】
以下に、特許文献2中に記載されている酵素標識抗体を用いる一つのアッセイ装置で1項目測定を行うフロースルー式アッセイ法(フロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ法)の操作手順の一例を示す。
(1)患者から採取した検体を緩衝液に浮遊させて検体試料を調製し、濾過フィルターを用いて濾過し、アッセイ装置に滴下する。
(2)酵素標識抗体を滴下する。
(3)洗浄液を滴下する。
(4)基質液を滴下し、発色反応させる。
(5)反応停止液を滴下する。
(6)メンブラン上の発色の有無により判定する。
このように、従来法は被検出物の検出までに多くの工程を必要とし操作時間もかかる。
【0011】
【特許文献1】特開2003−279577号公報
【特許文献2】特開2004−28875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明は、検体試料に含まれる被検出物を検出するためのフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置において、検体試料中に存在する被検出物質が何であるかを特定するために、一つのアッセイ装置で複数の被検出物質種(測定項目)を同時に試験して陽性反応を示す被検出物質が何であるかを特定する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究の結果、緩衝液等で希釈して調製した検体試料を複数の被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部に添加し、さらに濾過フィルターを用いて濾過した後に、複数の被検出物を捕捉するための複数の捕捉試薬が互いに離れた位置に結合したメンブランを備えたアッセイ装置のメンブラン上に添加することにより上記目的を達成することができることを見出した。さらに、本発明者は、酵素標識試薬部と濾過フィルターの一方または両方を備えたアダプター(検体試料供給装置)または検体試料添加用デバイスを用い、緩衝液等で希釈して調製した検体試料を該アダプター(検体試料供給装置)または検体試料添加用デバイスに添加し濾過した後に、前記メンブラン上に添加することにより上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、酵素標識試薬部を備えたアダプター(検体試料供給装置)または検体試料添加用デバイスに検体試料を加えて、酵素標識試薬と検体試料を混合した後、アダプター(検体試料供給装置)または検体試料添加用デバイスを用いて濾過して、複数の被検出物を捕捉するための複数の捕捉試薬が離れた位置に結合したメンブランを備えたアッセイ装置のメンブラン上に滴下し、被検出物を捕捉試薬に捕捉させ、捕捉試薬−被検出物−酵素標識試薬からなる免疫複合体を形成させ、続いて、前記酵素に対する基質液を前記メンブラン上に滴下する工程からなる複数項目同時試験のためのフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ方法により、検体試料中の被検出物質が何であるかを特定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明の態様は以下の通りである。
[1] 異なる被検出物に結合し得る複数の捕捉試薬が互いに離れた位置に結合したメンブラン、メンブラン上流部に位置する濾過フィルターおよび濾過フィルター上流部に位置する前記異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を含むフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置を用いて複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法であって、
(i) 検体試料を酵素標識試薬部に添加し、その結果検体試料および酵素標識試薬混合物が形成され該混合物が濾過フィルターで濾過されてメンブラン上に添加され、被検出物が捕捉試薬に捕捉されることにより、捕捉試薬−被検出物−酵素標識試薬からなる免疫複合体が形成され、次いで
(ii) 前記酵素に対する基質液を前記メンブラン上に滴下する、
工程を含む複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法、
[2] フロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置が検体試料供給装置を一体として含み、該検体試料供給装置が濾過フィルターおよび/または酵素標識試薬部を含む、[1]の方法、
[3] 異なる被検出物に結合し得る複数の捕捉試薬が互いに離れた位置に結合したメンブランならびに濾過フィルターおよび/または前記異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を含む検体試料添加用デバイスを別体として含むフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置を用いて複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法であって、
(i) 検体試料を検体試料添加用デバイスに添加し、その結果検体試料添加用デバイスに含まれる酵素標識試薬部の酵素標識試薬および検体試料の混合物が形成され、
(ii) 検体試料添加用デバイスから検体試料および酵素標識試薬混合物をメンブラン上に添加し、次いで
(iii) 前記酵素に対する基質液を前記メンブラン上に添加する、
工程を含む複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法、
[4] 異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部が、複数の酵素標識試薬を含浸させ乾燥させた吸水性材料からなる[1]〜[3]のいずれかの複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法、
[5] 被検出物が抗原または抗体であり、該被検出物に結合し得る捕捉試薬が前記被検出物に結合する抗体または抗原であり、前記被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬が前記被検出物に結合する抗体または抗原を酵素で標識したものである、[1]〜[4]のいずれかの複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法、
[6] 検体試料を緩衝液または生理食塩水で希釈して用いる請求項[1]〜[5]のいずれかの複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法、
[7] 異なる被検出物に結合し得る複数の捕捉試薬が互いに離れた位置に結合したメンブランならびに濾過フィルターおよび/または前記異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を含む検体試料供給装置を一体として含む、複数の被検出物を1回のアッセイで検出するためのフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置、
[8] 異なる被検出物に結合し得る複数の捕捉試薬が互いに離れた位置に結合したメンブランならびに濾過フィルターおよび/または前記異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を含む検体試料添加用デバイスを別体として含む複数の被検出物を1回のアッセイで検出するためのフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置、
[9] 異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部が、複数の酵素標識試薬を含浸させ乾燥させた吸水性材料からなる[7]または[8]の複数の被検出物を1回のアッセイで検出するためのフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置、ならびに
[10] 被検出物が抗原または抗体であり、該被検出物に結合し得る捕捉試薬が前記被検出物に結合する抗体または抗原であり、前記被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬が前記被検出物に結合する抗体または抗原を酵素で標識したものである、[7]〜[9]のいずれかの複数の被検出物を1回のアッセイで検出するためのフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法は、異なる被検出物に結合し得る複数の捕捉試薬が互いに離れた位置に結合したメンブランおよび前記異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を用いるため、1回のアッセイで少ない工程数で、複数の被検出物を同時に検出することができる。複数の被検出物の同時検出が可能なため、一つのアッセイ装置を用いて、1回のアッセイで複数の被検出物種を同時に試験して、陽性反応を示す被検出物質が何であるかを簡便・迅速に特定でき、使い勝手のよい信頼性の高いアッセイ方法を提供することができる。さらに、本発明の方法において、濾過フィルターおよび前記異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を含むアダプター(検体試料供給装置)または検体試料添加用デバイスを用いることにより、被検出物と酵素標識試薬の混合および濾過がほぼ同時に効率よく行われ、高感度かつ簡便・迅速なアッセイを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0018】
本発明の方法は、一つのアッセイ装置で複数項目を1回のアッセイで同時に試験することにより検体試料中の被検出物質が何であるかを迅速・簡便に特定できることを特徴とする。
【0019】
本発明の方法において、異なる被検出物に結合し得る複数の捕捉試薬が互いに離れた位置に結合したメンブラン、メンブラン上流部に位置する濾過フィルターおよび濾過フィルター上流部に位置する前記異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を含むフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置を用いて複数の被検出物を1回のアッセイで検出する。さらに、異なる被検出物に結合し得る複数の捕捉試薬が互いに離れた位置に結合したメンブランならびに濾過フィルターおよび前記異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を含むアダプター(検体試料供給装置)または検体試料添加用デバイスを含むフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置を用いて複数の被検出物を1回のアッセイで検出する。
【0020】
本明細書にいうメンブランを含むアッセイ装置(メンブランアッセイ装置ともいう)とは、検出しようとする複数の被検出物質に特異的に結合する捕捉試薬がそれぞれ離れた位置に固相化されたメンブランを含むフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ法を利用するアッセイ装置であることが好ましい。
【0021】
フロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置は、具体的には、例えば図1及び2に示されるような装置である。図1および図2に示す装置は、後述の検体試料添加用デバイスを別体として含む装置である。
【0022】
図1は装置の平面図であり、図2は、図1のI−I'切断断面図である。図1及び2において、aは、調製した検体試料を酵素標識試薬部を備えた検体試料添加用デバイスを用いて濾過して滴下する開口部を有し、底面部に試料が通過するための穴(Aホール及びBホール)を備えたアダプターである。bは被検出物に特異的に結合する捕捉試薬が結合したメンブランであり、cは液体を吸収する部材(液体吸収部材)である。
【0023】
アダプターaの底面部の検体試料が通過するための穴の数を増やすことにより、更に多くの項目の同時試験に対応することができ、その数は1〜5項目程度、例えば2項目、3項目、4項目または5項目が好ましいが、これらに限定されない。
【0024】
メンブランアッセイ装置中のメンブランの材質としては、不織布、紙、ニトロセルロース、ガラス繊維、シリカ繊維、セルロースエステル、ナイロン6、6及びセルロースエステルとニトロセルロースの混合物からなる群が挙げられ、特に好ましくはニトロセルロースから作られた微多孔性物質があげられる。また、前記セルロースエステルとニトロセルロースの混合物も好適に用いることができる。上記メンブランの孔径あるいは保留粒子径は濾過フィルターの孔径または保留粒子径以上であり、かつ1〜12μmであることが好ましく、3〜5μmが特に好ましい。また、メンブランの厚さは特に限定されないが、通常、100〜200μm程度である。
【0025】
メンブランアッセイ装置のメンブラン表面には、捕捉試薬が固相化(結合)される。捕捉試薬としては、被検出物と抗原抗体反応により特異的に結合し抗原抗体複合体を形成することにより被検出物を捕捉する抗原または抗体が挙げられるが、抗原または抗体に限定されず、リガンド-レセプターの関係で互いに結合し得る物質の場合、一方を他方を捕捉するための捕捉試薬として用いることができる。従って、被検出物に応じて、それに結合し得る異なる捕捉抗原または抗体を使用すればよい。例えば、被検出物が細菌、ウイルス、ホルモン、その他臨床マーカー等の場合には、これらに対し特異的に反応して結合するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等が挙げられる。捕捉試薬は、メンブラン装置のアダプターaの底面部の穴部分に対応する部位のメンブラン表面に固相化すればよい。このように固相化することにより、アダプターaに添加した検体試料および/または酵素標識試薬は、アダプターa底面の穴を通りメンブラン上の捕捉試薬を固相化した部位に到達するので、該部位で効率的に結合反応が生じる。
【0026】
このような捕捉試薬を上述したメンブランに結合させる方法としては、物理的吸着であってもよく、または化学的な結合によるものであってもよい。捕捉試薬が結合したメンブランの調製は、例えば、捕捉試薬を緩衝液等で希釈した溶液をメンブランに塗布して、その後乾燥することにより行われる。
【0027】
本発明において、複数の被検出物を1回のアッセイで同時に検出し得る。このため、メンブラン上には、それぞれの被検出物に結合し得る複数の捕捉試薬が結合される。この際、それぞれの捕捉試薬は、メンブラン上で離れて結合される。ここで、「離れて結合」とは、メンブラン上のそれぞれの捕捉試薬が結合した部位同士が重なることも接触することもないことをいう。この場合、固相化された捕捉試薬部位に対応するメンブラン装置のアダプターaの底面部の穴部分もアダプターaの底面部において離れて設けられる。
【0028】
本発明のメンブランアッセイ装置は、その他メンブランを通過した液体を吸収する液体吸収部材等を含んでいてもよい。該液体吸収部材は、メンブランの下流に含まれる。
【0029】
本明細書にいう被検出物は、何ら限定されず、例えば、それに対応する抗体を作製することができるあらゆる抗原物質が挙げられる。例として、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、RSウイルス(RSV)、ライノウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、アストロウイルス、HAV、HBs、HCV、HIV、EBV等のウイルス抗原、クラミジア・トラコマティス、溶連菌、百日咳菌、ヘリコバクター・ピロリ、レプトスピラ、トレポネーマ・パリダム、トキソプラズマ・ゴンディ、ボレリア、レジオネラ属菌、炭疽菌、MRSA等の細菌抗原、細菌等が産生する毒素、マイコプラズマ脂質抗原、ヒト絨毛性ゴナドトロピン等のペプチドホルモン、ステロイドホルモン等のステロイド、エピネフリンやモルヒネ等の生理活性アミン類、ビタミンB類等のビタミン類、プロスタグランジン類、テトラサイクリン等の抗生物質、各種腫瘍マーカー、農薬、環境ホルモン等を挙げることができる。また、被検出物としてこれらに対する抗体も挙げられる。
【0030】
検体は、例えば患者の咽頭あるいは鼻腔等から滅菌綿棒等の検体採取器具を使用して採取した咽頭あるいは鼻腔ぬぐい液、咽頭あるいは鼻腔洗浄液、鼻腔吸引液、唾液、血清、便懸濁液、尿、培養液等を用いることができるが、このようにして得られた検体は、緩衝液等で希釈してアッセイを行う。検体の希釈に用いる緩衝液としては、エンザイムイムノアッセイ、免疫凝集法等の免疫学的手法による抗原検出または定量において通常使用される緩衝液を使用することができる。より具体的には、トリス緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられるが、これらに限定されない。また、生理的食塩水を用いてもよい。
【0031】
また、検体が患者の咽頭あるいは鼻腔等から滅菌綿棒等の検体採取器具を使用して採取した咽頭あるいは鼻腔ぬぐい液、咽頭あるいは鼻腔洗浄液等の粘性を有する場合、検体を希釈する緩衝液等中に検体が浮遊する。この場合、該緩衝液等を検体浮遊用緩衝液等という。
【0032】
検体を希釈する緩衝液には、界面活性剤0.2〜10(w/v)%、ウシ血清アルブミン(BSA)等の動物由来血清アルブミン1〜5(w/v)%、または適当な濃度の無機塩等を含有させることができ、これらの緩衝液を使用して希釈することにより、検体中に含まれる被検出物以外の成分の、メンブラン自体への結合やメンブラン上の捕捉試薬への非特異的な結合を低減させることができ好ましい。
【0033】
界面活性剤としては、Triton X−100(商品名):ポリエチレングリコールモノ−р−イソオクチルフェニルエーテル、Tween 20:ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、Tween 80:ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、Nonidet P−40:ノニデット P−40、ZWITTERGENT 3−14:n−テトラデシル−N,N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネ−ト、CHAPS:3−〔(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕プロパンスルホン酸、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等あるいはこれらを2種類以上混合したものを用いることができるが、これらに限定されない。
【0034】
酵素標識試薬は、被検出物に特異的に結合する物質を酵素で標識した試薬であり、被検出物に特異的に結合する物質は、例えば被検出物と特異的に結合する抗原または抗体である。例えば、被検出物がウイルス、細菌の抗原物質である場合には、そのウイルス抗原、細菌抗原に対する抗体であって、酵素で標識化されたものである。
【0035】
捕捉試薬と同様に被検出物に対し特異的に反応して結合するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等が使用される。なお、捕捉試薬と酵素標識試薬は、被検出物の異なる部分に結合するものが望ましいが、捕捉試薬および酵素標識試薬が被検出物の同じ部分に結合する場合であっても、被検出物に該結合部分が複数存在する場合は問題ない。例えば、被検出物が抗原であって、捕捉試薬と酵素標識試薬が該抗原に対する抗体である場合、両抗体は被検出物が有する異なるエピトープに結合する抗体が望ましいが、被検出物に同じエピトープが複数存在する場合(例えば、抗原が同じサブユニットを複数有する多量体の場合等)は、両抗体が同じエピトープに結合する抗体であっても用いることができる。
【0036】
このような酵素標識試薬は、該酵素により触媒される反応により、比色法、蛍光法により検出可能な物質を生成する該酵素の基質液を添加することにより、複合体の検出を行うことができる。
【0037】
酵素標識に使用される酵素としては、例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼが挙げられる。酵素の抗原または抗体への標識は公知の方法で行うことができる。
【0038】
酵素標識試薬は、酵素標識試薬部に含まれる。酵素標識試薬部は液体でも、固体でもよい。液体の場合、酵素標識試薬部に酵素標識試薬溶液を入れておけばよく、固体の場合、酵素標識試薬を含浸させた固体あるいは酵素標識試薬の凍結乾燥品等を入れておけばよい。酵素標識試薬部に検体試料を添加することにより、酵素標識試薬部に含まれる酵素標識試薬と検体試料が混ざり混合物を形成する。この際、酵素標識試薬部が固体の場合、固体中の酵素標識試薬が検体試料中に溶解し、酵素標識試薬と検体試料の混合物を形成する。酵素標識試薬部が固体に含浸されてなく、液体または凍結乾燥品等の場合、検体試料添加用デバイス中に添加された酵素標識試薬自体を酵素標識試薬部という。酵素標識試薬部は、メンブランおよび濾過フィルターの上流に設けられる。ここで、上流とは、フロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置において、液体検体試料等を装置に添加した後に液体が移動する際の、試料等の流れにおける上流を意味する。例えば、図1の装置において、アダプター内部の穴の上または下に濾過フィルターおよび固体状または液体状の酵素標識試薬部を設けてもよく、またアダプター内部の穴の下に濾過フィルターを設け、穴の上に酵素標識試薬部を設けてもよい。この場合、アダプター内部で、酵素標識試薬が検体試料と混合され、穴を通って濾過フィルターを通過した後に、メンブランに添加される。酵素標識試薬部が固体の場合、酵素標識試薬を吸水性の材質に含浸させておけばよい。例えば、スポンジ及びガラス繊維などでできた不織布等の材質が用いられ、酵素で標識した標識抗原または抗体が乾燥状態で含有されている。酵素標識試薬部は、上記の吸水性の材質に標識抗原または抗体を含浸させ、乾燥させればよい。酵素標識試薬部は、あらかじめあるいはアッセイ時にアダプターa部に入れて用いてもよい。
【0039】
また、濾過フィルターは、メンブランの上流であって、上記酵素標識試薬部の下流に設けられる。濾過フィルターはあらかじめ、あるいはアッセイ時にアダプターa部に入れて用いてもよい。酵素標識試薬と混合した検体試料は、濾過フィルターを通ることにより、濾過されメンブランに添加される。濾過フィルターは、例えば上記アッセイ装置の検体を滴下する開口部に設けることができる。患者から採取した検体を緩衝液で希釈して調製した検体試料は、酵素標識試薬部で酵素標識試薬と混ざり濾過フィルターにより濾過される。濾過フィルターの孔径(直径)または保留粒子径は、0.1〜0.6μmである。
【0040】
濾過フィルターの孔径あるいは保留粒子径は、非特異的反応を低減するうえで極めて重要である。孔径あるいは保留粒子径が大きすぎるとメンブラン上で非特異的結合が起こって偽陽性を示す場合がある。逆に小さすぎると検体試料中に存在する粘性物や凝集物のためにフィルター自身が詰まってしまい濾過が不可能であるか、あるいはフィルター面積をかなり広くしなければならず、簡易検査方法に用いるという目的からみて不適切である。
【0041】
濾過フィルターの材質は、特に限定されないが、好ましくはガラス繊維又はニトロセルロースである。
【0042】
上記のように、本発明のアッセイ装置において、アダプターは濾過フィルターと酵素標識試薬部の一方または両方を含むことができるとともに、検体試料をアッセイ装置に供給するための装置として機能する。この点、本発明のアダプターは検体試料供給装置ということもできる。本発明のアッセイ装置は、濾過フィルターと酵素標識試薬部の一方または両方を含むアダプター(検体試料供給装置)を一体として含む装置でもあるが、この場合の一体として含むとは、アッセイ時にアダプターがアッセイ装置に装着されることをいう。この点、濾過フィルターと酵素標識試薬部の一方または両方を含むアダプター(検体試料供給装置)が一体として使用される装置ともいえる。従って、アッセイを行う前は、アダプターはアッセイ装置と別体として存在していてもよい。
【0043】
また、本発明において、濾過フィルターと酵素標識試薬部の一方または両方を含む検体試料添加用デバイスを用いてもよい。濾過フィルターおよび酵素標識試薬部は、検体試料添加用デバイス、上記のアダプター(検体試料供給装置)のいずれかに含まれていればよい。濾過フィルターおよび酵素標識試薬部の両方がアダプター(検体試料供給装置)に含まれる場合は、本発明の装置において検体試料添加用デバイスは含まれている必要はない。
【0044】
検体試料添加用デバイスは、濾過フィルターを備えたイムノアッセイ装置に検体試料を添加するための容器状のデバイスであり、例えばチューブ状のデバイスである(検体試料添加用チューブ)。上記濾過フィルターは、本発明の簡易アッセイ法またはキットにおいて、検体試料添加用デバイスの先端に取り付けて使用されることが好ましい。すなわち例えば、検体試料添加用デバイス中に緩衝液で検体を希釈して調製した検体試料をいれて、該デバイスの先端に酵素標識試薬部を備えた濾過フィルターを取り付け、検体試料と酵素標識試薬部の酵素標識試薬を混合させた後、濾過フィルターを通して濾過し、濾液をアッセイ装置中のメンブランに滴下する方法が簡便であり、好ましい。
【0045】
チューブ状の検体試料添加用デバイス(検体試料添加用チューブ)の一実施態様の模式図を図3及び図4に示す。図3と図4の態様において、酵素標識試薬部gは、酵素標識試薬を含浸させた固体が用いられている。検体試料添加用チューブは例えば図3に記載されるように先端部dと本体部eからなる形状であり、先端部dの内部に図4に示されるように酵素標識試薬部gならびに濾過フィルターfが備えつけられている。本体部eの内部に緩衝液で検体を希釈して調製した検体試料を入れ、本体部eに酵素標識試薬部ならびに濾過フィルターfを備えた先端部dを取り付ける。検体試料で酵素標識試薬部の酵素標識試薬を溶解した後、濾過フィルターfを通して検体試料を濾過し、濾液をアッセイ装置のメンブレンに滴下する。本体部eがポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフレキシブルな材質からなると、濾過フィルターを取り付けた状態で、手などにより内部に圧力を加えることで、容易にかつ簡便に検体試料を濾過することができるため、好ましい。
【0046】
酵素標識試薬部gは、検体試料添加用チューブの先端部dに図4のように検体試料が酵素標識試薬部gに接触した後に、濾過フィルターを通るように装着されることが好ましい。
【0047】
以下に、本発明の方法についてより具体的な手順の一例を示し、本発明を説明する。
(1)患者から採取した検体を緩衝液等で希釈して検体試料を調製し、アッセイ装置の酵素標識試薬部に添加する。この際、検体試料により、酵素標識試薬部に含まれる酵素標識試薬が溶解し、検体試料中の被検出物と酵素標識試薬の混合物が酵素標識試薬部の下流の濾過フィルターを通って、メンブランに添加される。
(2)基質液を滴下し、発色反応させる。
(3)メンブラン上の発色の有無により判定する。
【0048】
さらに、濾過フィルター装置を用いた方法についての具体的な手順の一例を示し、本発明を説明する。
(1)患者から採取した検体を緩衝液等で希釈して検体試料を調製し、濾過フィルターおよび/または酵素標識試薬部を備えたアダプター(検体試料供給装置)または検体試料添加用デバイスを用いて濾過し、アッセイ装置に滴下する。
(2)基質液を滴下し、発色反応させる。
(3)メンブラン上の発色の有無により判定する。
【0049】
基質液は、酵素標識試薬の標識として用いた酵素に対する基質であって、該酵素により触媒される反応により、比色法、蛍光法により検出可能な物質を生成するものが使用される。具体例としては、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸/ニトロテトラゾリウムブルー、テトラメチルベンチジンがあげられる。
【0050】
また、補酵素NADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型)をアルカリホスファターゼの基質に用い、エチルアルコールとテトラゾリウム塩の存在下でアルコール脱水素酵素、ジアホラーゼにより酵素的にシグナルを増幅する、いわゆる酵素サイクリング反応試薬が市販(AmpliQ ダコ社)されているが、酵素サイクリング反応試薬も好適に使用できる。
【0051】
基質液は、メンブラン上に滴下したとき、基質液の大部分は短時間の内にメンブランを通過し液体吸収部材に吸収され、メンブランに残った基質液が標識酵素により発色反応する。従って、メンブランを通過する基質液は、洗浄作用を発揮していることになるので、一般的にエンザイムイムノアッセイに使用される界面活性剤を基質液に加えて、更に洗浄作用を上げて非特異的結合を低減することができる。
【0052】
界面活性剤の濃度は0.02〜1(w/v)%であることが好ましい。
所定の反応時間で判定を行う場合は、反応停止液を滴下する操作は必要ない。
所定の反応時間で判定できない場合は、反応停止液を滴下して反応を止めておき、後で判定してもよい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例
1.抗インフルエンザウイルスモノクローナル抗体の作製
(1)抗A型インフルエンザウイルスNP抗体
A型インフルエンザウイルス抗原をBALB/cマウスに免疫し、一定期間飼育したマウスから脾臓を摘出し、ケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol, 256, p495-497(1975))によりマウスミエローマ細胞(P3×63)と融合した。得られた融合細胞(ハイブリドーマ)を、37℃インキュベーター中で維持し、A型インフルエンザウイルスNP抗原を固相したプレートを用いたELISAにより上清の抗体活性を確認しながら細胞の純化(単クローン化)を行った。取得した該細胞2株をそれぞれプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。
得られた腹水からプロティンAカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィー法により、それぞれIgGを精製し、2種類の精製抗A型インフルエンザウイルスNP抗体を得た。
【0055】
(2)抗B型インフルエンザウイルスNP抗体
B型インフルエンザウイルス抗原を用い、(1)と同様の方法で、2種類の精製抗B型インフルエンザウイルスNP抗体を得た。
【0056】
(3)抗RSウイルスNP抗体
RSウイルス抗原を用い、(1)と同様の方法で、2種類の精製抗RSウイルスNP抗体を得た。
【0057】
2.酵素標識抗インフルエンザウイルス抗体の作製
(1)酵素標識抗A型インフルエンザウイルス抗体の作製
精製抗A型インフルエンザウイルスNP抗体のうち1種類について45mgを0.1Mクエン酸緩衝液(pH3.6)で透析後、ペプシン10mgを添加し、37℃で1時間、Fab'消化処理を行った。処理液をウルトロゲルAcA34カラムで分画して抗A型インフルエンザウイルスNP抗体F(ab')精製画分を得た。前記画分を約10mg/mLまで濃縮後、0.1Mメルカプトエチルアミンと10:1の体積比で混合し、37℃で90分間還元処理を行った。処理液をウルトロゲルAcA34カラムで分画して抗A型インフルエンザウイルスNP抗体Fab'精製画分を得た後、約1mLにまで濃縮した。
【0058】
10mg/mLのアルカリホスファターゼ1.5mLを1mM塩化マグネシウムならびに0.1mM塩化亜鉛を含む50mMホウ酸緩衝液(pH7.6)に透析後、N−(6−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド0.7mgを添加し、30℃で1時間処理した。処理後の溶液をセファデックスG−25カラムで分画し、最初のピークを回収してマレイミド−アルカリホスファターゼを得た後、約1mLにまで濃縮した。
【0059】
濃縮した抗A型インフルエンザウイルスNP抗体Fab'とマレイミド−アルカリホスファターゼを1:2.3の蛋白比で混合し、4℃で20時間穏やかに撹拌して反応させ、アルカリホスファターゼ標識抗A型インフルエンザウイルスNP抗体Fab'を得た。更に、反応液をウルトロゲルAcA34カラムで分画し、未反応物を除去して精製アルカリホスファターゼ標識抗A型インフルエンザウイルスNP抗体Fab'を得た。精製アルカリホスファターゼ標識抗A型インフルエンザウイルスNP抗体Fab'は、0.15M塩化ナトリウム、4%(W/V)ウシ血清アルブミン、1.5mM塩化マグネシウム、0.15mM塩化亜鉛、1%(W/V)Triton X−100、0.09%アジ化ナトリウムを含む25mMトリス緩衝液(pH8.0)の組成からなる標識抗体希釈液で希釈した後、0.22μm孔径の濾過フィルターで濾過し、酵素標識抗A型インフルエンザウイルス抗体を得た。
【0060】
(2)酵素標識抗B型インフルエンザウイルス抗体の作製
精製抗B型インフルエンザウイルスNP抗体のうち1種類について、(1)と同様の方法で、酵素標識抗B型インフルエンザウイルス抗体を得た。
【0061】
(3)酵素標識抗RSウイルス抗体の作製
精製抗RSウイルスNP抗体のうち1種類について、(1)と同様の方法で、酵素標識抗RSウイルス抗体を得た。
【0062】
A型、B型インフルエンザウイルス検出用アッセイ装置(2項目用)の作製
インフルエンザウイルス検出用アッセイ装置は、図1及び図2に示すものと同様の構成のものを用いた。メンブランは、孔径3μmを有するニトロセルロースメンブラン(サイズ2×3cm、厚さ125μm)を用いた。メンブランへの捕捉抗体の固相は、2種類の抗体溶液をニトロセルロースメンブランへスポットして行った。装置のAホールには精製抗A型インフルエンザウイルスNP抗体のうち標識に用いなかったものを1mg/mLに含まれるように精製水を用いて希釈して0.22μm孔径の濾過フィルターで濾過したものを3μL、Bホールには精製抗B型インフルエンザウイルスNP抗体のうち標識に用いなかったものを1mg/mLが含まれるように精製水を用いて希釈して0.22μm孔径の濾過フィルターで濾過したものを3μL、それぞれスポットした。スポット後、45℃の乾燥庫で40分間乾燥を行い、インフルエンザウイルス検出用アッセイ装置を作製した。次いで、酵素標識試薬部ならびに濾過フィルターを備えた検体試料添加用デバイスを図3及び図4に示すものと同様の構成で作製した。該酵素標識試薬部は、酵素標識抗A型インフルエンザウイルス抗体ならびに酵素標識抗B型インフルエンザウイルス抗体を至適濃度に混合して150μLを直径9mm、厚さ4mmのポリビニルスポンジに含浸させて乾燥し、検体試料添加用チューブ先端部に取り付けて作製した。
【0063】
A型、B型インフルエンザウイルスの検出
検体試料として、滅菌綿棒を用いて鼻腔から採取した検体を緩衝液(Triton X−100 1(w/v)%、ウシ血清アルブミン 4(w/v)%、塩化ナトリウム 0.15M、アジ化ナトリウム 0.09(w/v)%を含む50mMトリス緩衝液、pH8.0)で希釈して調製した、
PCR法でA型インフルエンザウイルス陽性と判定された鼻腔ぬぐい液:検体試料1
PCR法でB型インフルエンザウイルス陽性と判定された鼻腔ぬぐい液:検体試料2
PCR法でA型、B型インフルエンザウイルス陰性と判定された鼻腔ぬぐい液:検体試料3
を用いた。
これらの検体試料は、緩衝液が入った検体試料添加用チューブ本体部内で調製した。
【0064】
試験
調製した検体試料が入った検体試料添加用チューブ本体部に酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を備えた検体試料添加用チューブ先端部を取り付け、検体試料で酵素標識試薬を溶解した後、濾過フィルターで濾過し、アッセイ装置のアダプター開口部に150μL滴下し、ニトロセルロースメンブランの下部に備えられた液体吸収部材に試料が完全に吸収されるまで静置した。
【0065】
次にアダプターを取り除き、基質液(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸 0.15mg/mL、ニトロテトラゾリウムブルー 0.3 mg/mL、塩化マグネシウム 5mM、Triton X−100 0.1(w/v)%、アジ化ナトリウム 0.09(w/v)%を含む0.1M トリス緩衝液、pH9.5)を250μL滴下し、発色反応を開始させた。
【0066】
10分後に鉛直上方から観察し、Aホール部のメンブランにのみ発色が認められた場合にはA型インフルエンザウイルス陽性、Bホールのメンブランにのみ発色が認められた場合にはB型インフルエンザウイルス陽性、A、B両ホールのメンブランとも発色が認められない場合には陰性と判定した。
【0067】
結果
検体試料としてA型インフルエンザウイルス陽性の検体試料1を用いた時、Aホール部のメンブランは陽性となり、Bホール部のメンブランは陰性となり特異的にA型インフルエンザウイルスを検出できることが確かめられた。
【0068】
検体試料としてB型インフルエンザウイルス陽性の検体試料2を用いた時、Aホール部のメンブランは陰性となり、Bホールのメンブランは陽性となり特異的にB型インフルエンザウイルスを検出できることが確かめられた。
また、検体試料としてA型、B型インフルエンザウイルス陰性の検体試料3を用いた時、Aホール部、Bホールのメンブラン共に陰性であった。
得られた結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示すように、インフルエンザウイルス A型、B型を特異的に同時に検出できることがわかる。
【0071】
A型、B型インフルエンザウイルス、RSウイルス(RSV)検出用アッセイ装置(3項目用)の作製
アダプターに3ヶの穴(ホール)を設けて、A型、B型インフルエンザウイルス、RSウイルスの3項目(Aホール:A型インフルエンザウイルス、Bホール:B型インフルエンザウイルス、Cホール:RSウイルス)を検出するアッセイ装置を上記同様に作製した。次いで、酵素標識試薬部ならびに濾過フィルターを備えた検体試料添加用デバイスを上記同様の構成で作製した。該酵素標識試薬部は、酵素標識抗A型インフルエンザウイルス抗体、酵素標識抗B型インフルエンザウイルス抗体ならびに酵素標識抗RSウイルス抗体を至適濃度に混合して上記同様乾燥し、検体試料添加用チューブ先端部に取り付けて作製した。
【0072】
A型、B型インフルエンザウイルス、RSウイルスの検出
検体試料として、上記と同様に調製した、
PCR法でA型インフルエンザウイルス陽性と判定された鼻腔ぬぐい液:検体試料4
PCR法でB型インフルエンザウイルス陽性と判定された鼻腔ぬぐい液:検体試料5
PCR法でRSウイルス陽性と判定された鼻腔ぬぐい液:検体試料6
PCR法でA型、B型インフルエンザウイルス陰性、RSウイルス陰性と判定された鼻腔ぬぐい液:検体試料7
を用いた。
【0073】
試験
上記同様におこなった。
【0074】
結果
検体試料としてA型インフルエンザウイルス陽性の検体試料4を用いた時、Aホール部のメンブランは陽性となり、Bホール部、Cホール部のメンブランは陰性となり特異的にA型インフルエンザウイルスを検出できることが確かめられた。
【0075】
検体試料としてB型インフルエンザウイルス陽性の検体試料5を用いた時、Bホール部のメンブランは陽性となり、Aホール部、Cホール部のメンブランは陰性となり特異的にB型インフルエンザウイルスを検出できることが確かめられた。
【0076】
検体試料としてRSウイルス陽性の検体試料6を用いた時、Cホール部のメンブランは陽性となり、Aホール部、Bホール部のメンブランは陰性となり特異的にRSウイルスを検出できることが確かめられた。
【0077】
また、検体試料としてA型、B型インフルエンザウイルス陰性、RSウイルス陰性の検体試料7を用いた時、Aホール部、Bホール部、Cホール部のメンブラン共に陰性であった。
得られた結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
表2に示すように、インフルエンザウイルス A型、B型、RSウイルスを特異的に同時に検出できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の一実施態様であるフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置の平面図である。
【図2】図1のI−I’切断断面図である。
【図3】本発明において使用される検体試料添加用チューブの一実施態様を示す図である。
【図4】図3の検体試料添加用チューブ先端部の透視図である。
【符号の説明】
【0081】
A:穴
B:穴
a:アダプター
b:メンブラン
c:液体吸収部材
d:検体試料添加用チューブ先端部
e:検体試料添加用チューブ本体部
f:濾過フィルター
g:酵素標識試薬部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる被検出物に結合し得る複数の捕捉試薬が互いに離れた位置に結合したメンブラン、メンブラン上流部に位置する濾過フィルターおよび濾過フィルター上流部に位置する前記異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を含むフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置を用いて複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法であって、
(i) 検体試料を酵素標識試薬部に添加し、その結果検体試料および酵素標識試薬混合物が形成され該混合物が濾過フィルターで濾過されてメンブラン上に添加され、被検出物が捕捉試薬に捕捉されることにより、捕捉試薬−被検出物−酵素標識試薬からなる免疫複合体が形成され、次いで
(ii) 前記酵素に対する基質液を前記メンブラン上に滴下する、
工程を含む複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法。
【請求項2】
フロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置が検体試料供給装置を一体として含み、該検体試料供給装置が濾過フィルターおよび/または酵素標識試薬部を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
異なる被検出物に結合し得る複数の捕捉試薬が互いに離れた位置に結合したメンブランならびに濾過フィルターおよび/または前記異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を含む検体試料添加用デバイスを別体として含むフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置を用いて複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法であって、
(i) 検体試料を検体試料添加用デバイスに添加し、その結果検体試料添加用デバイスに含まれる酵素標識試薬部の酵素標識試薬および検体試料の混合物が形成され、
(ii) 検体試料添加用デバイスから検体試料および酵素標識試薬混合物をメンブラン上に添加し、次いで
(iii) 前記酵素に対する基質液を前記メンブラン上に添加する、
工程を含む複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法。
【請求項4】
異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部が、複数の酵素標識試薬を含浸させ乾燥させた吸水性材料からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法。
【請求項5】
被検出物が抗原または抗体であり、該被検出物に結合し得る捕捉試薬が前記被検出物に結合する抗体または抗原であり、前記被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬が前記被検出物に結合する抗体または抗原を酵素で標識したものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法。
【請求項6】
検体試料を緩衝液または生理食塩水で希釈して用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載の複数の被検出物を1回のアッセイで検出する方法。
【請求項7】
異なる被検出物に結合し得る複数の捕捉試薬が互いに離れた位置に結合したメンブランならびに濾過フィルターおよび/または前記異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を含む検体試料供給装置を一体として含む、複数の被検出物を1回のアッセイで検出するためのフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置。
【請求項8】
異なる被検出物に結合し得る複数の捕捉試薬が互いに離れた位置に結合したメンブランならびに濾過フィルターおよび/または前記異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部を含む検体試料添加用デバイスを別体として含む複数の被検出物を1回のアッセイで検出するためのフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置。
【請求項9】
異なる被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬を含む酵素標識試薬部が、複数の酵素標識試薬を含浸させ乾燥させた吸水性材料からなる請求項7または8に記載の複数の被検出物を1回のアッセイで検出するためのフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置。
【請求項10】
被検出物が抗原または抗体であり、該被検出物に結合し得る捕捉試薬が前記被検出物に結合する抗体または抗原であり、前記被検出物に結合し得る複数の酵素標識試薬が前記被検出物に結合する抗体または抗原を酵素で標識したものである、請求項7〜9のいずれか1項に記載の複数の被検出物を1回のアッセイで検出するためのフロースルー式メンブランエンザイムイムノアッセイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−189304(P2006−189304A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−856(P2005−856)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)