説明

複数種の官能基を持つ異方性高分子微粒子の製造方法

【課題】 エポキシ環及び水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせたラテックス微粒子の製造方法及びその製法により得られた微粒子を提供する。
【解決手段】
第1段目は、エポキシ環を有するビニルモノマーXとビニル架橋剤Zを用いてソープフリー乳化重合によるシードポリマー粒子を合成し、第2段目は、このシードポリマー粒子とビニルモノマーPを、水酸基を生じる化合物Sの存在下でソープフリーシード乳化重合を行い、ポリマーPに水酸基を導入することを特徴とするエポキシ環及び水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性高分子微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体・化学物質を共有結合によってラテックス微粒子へ固定化するに際して、生体・化学物質と段階的に反応する複数種の官能基を持つ異方性高分子微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、数十nm〜数mmまでの粒子径を持つ機能性高分子微粒子はラテックス診断薬、アフィニティー生体物質分離及びドラッグまたは酵素のキャリアーなど生化学へ幅広く応用されてきた。生体分子、例えばタンパク質は通常物理的吸着或いは共有結合によってラテックス微粒子へ固定化される。このような技術はナノバイオテクノロジーの基盤的要素技術のひとつとして重要である。
ラテックス微粒子の表面へ生体分子を共有結合するために、特有な官能基を持つラテックス微粒子が用いられる。これまでに、エポキシド、アセタール、カルボン酸、アルデヒド、クロロメチル、ヒドロキシなど官能基を持つラテックス微粒子が生体分子の共有結合による固定化のために開発された。
機能性ラテックス微粒子のサイズ(粒子径)は通常重合方法によって違ってくる。数μm以上のラテックス微粒子は懸濁重合法を用い、μm〜数μmまでの微粒子は分散重合によって製造され、乳化重合では100 nmからμmまでの微粒子が作られ、数十nmの微粒子はミニ及びマイクロ乳化重合により合成される。これまでに、懸濁重合及び分散重合法によって作られた微粒子はアフィニティークロマトグラフィー、ドラッグデリバリーシステム(DDS)などに応用されてきた。乳化重合法の中の一つの重合法、ソープフリー乳化重合(界面活性剤を用いない重合法)によって作られた微粒子は主として、ラテックス診断薬、アフィニティー生体物質分離に応用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、バイオテクノロジーへの応用を目指した従来のラテックス微粒子は主に均一組成、多孔質またはコアーシェルタイプ構造であり、微粒子表面は一種類の官能基しか持たない。従って、微粒子表面は均一、画一的であり、より高度な機能を制御することはできない。例えば、生体物質と微粒子を組み合わせたナノマシンを構築するためには、微粒子の両側に異なる官能基を持たせて方向性を付与する必要があり、このような微粒子はナノバイオテクノロジーにおける新たな要素技術として期待されるところである。
しかし、親水性の官能基を持つモノマーから微粒子を作ることは難しく(特にソープフリー乳化重合の場合)、高固形分(ラテックス中の含有量が高いポリマー成分)を持つ親水性微粒子の調製は未だに高分子微粒子研究の一つの重要な課題である。
また、官能基を有するモノマーは殆ど親水性であり、親水性ポリマー間の相分離も難しいので、2つ以上の官能基を持つ異方性高分子微粒子、すなわち、エポキシ環及び水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせたラテックス微粒子及びその製造方法についてはまだ報告されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明は、今回の発明で開発した二つの官能性を有する異方性複合高分子微粒子はソープフリー乳化重合によって合成され、約200 nmのサイズを持つ。また、本法では、種々の組み合わせの官能基を持つ微粒子の製造が可能である。
すなわち本発明は、第1段目は、エポキシ環を有するビニルモノマーXとビニル架橋剤Zを用いてソープフリー乳化重合によるシードポリマー粒子を合成し、第2段目は、このシードポリマー粒子とビニルモノマーPを、水酸基を生じる化合物Sの存在下でソープフリーシード乳化重合を行い、ポリマーPに水酸基を導入することを特徴とするエポキシ環及び水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性高分子微粒子の製造方法及びこの方法により得られるエポキシ環及び水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性高分子微粒子に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明において官能基Aとしては、エポキシ基が挙げられる。
本発明において官能基Bとしては、水酸基、カルボキシル基を挙げることができる。
本発明で用いるビニルモノマーXとしては、グリシジルメタクリレートがある。
本発明で用いるビニルモノマーYとしては、メチルメタクリレートが挙げられる。
本発明で用いるビニル架橋剤Zとしては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレートが挙げられる。
本発明で用いるビニルモノマーPとしては、スチレン、メチルスチレンやエチルスチレン等のアルキルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン等が挙げられる。
本発明で用いる官能基Bを生じる化合物Sとしては、2-メルカプトエタノール、3-メルカプトプロピロン酸が挙げられる。
本発明で用いる添加溶媒は、トルエン、酢酸エチル等が挙げられる。
【0006】
本発明の概要について説明する。
本発明で開発した種々の官能基を持つ異方性高分子微粒子はソープフリー乳化重合によって合成される。ソープフリー乳化重合法とは、モノマーと水の混合物に重合開始剤を導入し、ラテックス微粒子を作る方法であり、通常の乳化重合との違いは界面活性剤を使用しない。したがって、粒子表面の電荷が通常の乳化重合によって合成された微粒子の表面電荷よりも低く、また適度なサイズを持つので遠心分離で簡単に分離できる。ラテックス微粒子の特徴は、得られた微粒子の単分散性(サイズの均一性)が高いことである。
本発明で開発した微粒子は、2つの異なるドメインを持ち、各ドメインはそれぞれ異なるエポキシ環、Bを持ち、エポキシ環、Bそれぞれに異なる機能分子を結合させることができる。官能基数はモノマーの添加量によって制御できる。
その製造方法は2段階より成る。第1段目は、モノマーXあるいは2種類のモノマーX、Yと架橋剤Zを用いたソープフリー乳化重合によるシード粒子の合成であり、第2段目は、このシード粒子を用いたモノマーPあるいは2種類のモノマーP、Qのソープフリーシード乳化重合過程である。モノマーXは目的とするエポキシ環を有し、官能基Bは、微粒子製造中にポリマーPに導入することができた。
本発明のエポキシ環及び水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性高分子微粒子の典型的な製造方法を図1に示す。
【0007】
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)官能基Aがエポキシ環、水酸基が水酸基、モノマーXがグリシジルメタクリレート(GMA)、架橋剤Zがジビニルベンゼン(DVB)、モノマーPがスチレンの場合の実施例について示す。
(安定でより親水的なポリ(グリシジルメタクリレート−ジビニルベンゼン)シード粒子[P(GMA-DVB)]の調製)
グリシジルメタクリレート(GMA)モノマーは水よりも密度が高く(1.08 g/ml)、親水性も高いので、GMAの単独ソープフリー乳化重合では安定なラテックスを得ることは難しい。
安定なポリマーラテックスはジビニルベンゼン(DVB)の添加により合成できた。その方法は以下の通りである。
GMA 14 g/DVB 1 g/重合開始剤V-50 0.45 g/水約285gを用い、200 rpmの回転速度、70 ℃で15時間重合を行った。モノマー変化率、粒子径はそれぞれ100 wt%、約180 nmである。開始剤V-50の使用は重合中に反応液のpHを中性に保ち、GMAのエポキシド基の開環反応を防ぐために有効である。一方、過硫酸系の開始剤を用いると、重合反応に連れて反応液が酸性となり、70 ℃でエポキシドが開環してしまう。
【0008】
(ソープフリーシード乳化重合による半球型ポリ(グリシジルメタクリレートcジビニルベンゼン)とポリ(スチレン)複合微粒子[P(GMA-DVB)/P(St)]の調製)
上記で調製した親水性のポリ(グリシジルメタクリレート−ジビニルベンゼン)[P(GMA-DVB)]をシード粒子(seed particle)とし、スチレンモノマー、2-メルカプトエタノール、重合開始剤V-50、溶媒(トルエンあるいは酢酸エチル)及び水を添加し、ソープフリーシード乳化重合により二官能性のポリ(グリシジルメタクリレート−ジビニルベンゼン)とポリ(スチレン)複合微粒子[P(GMA-DVB)/P(St)]の調製を行った。P(GMA-DVB)シードは、使用する前にセルロース膜を用いて水道水及び純水でそれぞれ24時間の透析を行い、未反応のモノマーと開始剤、オリゴマーなどを除去した。P(GMA-DVB)/P(St)複合微粒子の調製方法を下表に示す。
【表1】

すべての重合反応は200 rpmの回転速度、70 ℃で24時間行った。
P(GMA-DVB)シード粒子(seed particle)に、スチレンモノマー2 g/2-メルカプトエタノール0.02 g/重合開始剤(V-50) 0.04 g/トルエン2 g/純水 約130 gを添加し、70 ℃、200 rpmで24時間重合を行うことにより、目的とする微粒子が得られた。得られた複合微粒子の形態は透過型電子顕微鏡により観察した。その結果を図2に示す。試料は四酸化ルテニウムにより染色した。明るい部分は親水性のポリ(グリシジルメタクリレート−ジビニルベンゼン)、暗い部分はポリスチレンを示す。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明は、二つの官能性を有する異方性複合高分子微粒子をソープフリー乳化重合によって合成され、約200 nmのサイズを持つ。また、本発明の方法を用いれば、エポキシ環及び水酸基について、種々の組み合わせの官能基を持つ微粒子の製造が可能である。
また、本発明のエポキシ環及び水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性高分子微粒子は、例えば、生体物質と微粒子を組み合わせたナノマシンを構築するためには、微粒子の両側に異なる官能基を持たせて方向性を付与する必要があり、本微粒子はナノバイオテクノロジーにおける新たな要素技術として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のエポキシ環及び水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性高分子微粒子の典型的な製造プロセス。
【図2】本発明のエポキシ環及び水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性高分子微粒子の透過型電子顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1段目は、エポキシ環を有するビニルモノマーXとビニル架橋剤Zを用いてソープフリー乳化重合によるシードポリマー粒子を合成し、第2段目は、このシードポリマー粒子とビニルモノマーPを、水酸基を生じる化合物Sの存在下でソープフリーシード乳化重合を行い、ポリマーPに水酸基を導入することを特徴とするエポキシ環及び水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性高分子微粒子の製造方法。
【請求項2】
ビニル架橋剤Zがジビニルベンゼン(DVB)であり、ビニルモノマーPがスチレンであり、化合物Sが2-メルカプトエタノールである請求項1に記載したエポキシ環及び水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性高分子微粒子の製造方法。
【請求項3】
ビニルモノマーPに、別のビニルモノマーQを配合する請求項1に記載したエポキシ環及び水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性高分子微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−169663(P2007−169663A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78279(P2007−78279)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【分割の表示】特願2003−135519(P2003−135519)の分割
【原出願日】平成15年5月14日(2003.5.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】