複素誘電率測定用治具
【課題】従来の誘電体共振法(JIS−R1627)を用いて、実際に工業製品に用いられているTM01δモード誘電体共振器の誘電率を測定することはできないため、工業製品の誘電体共振器形状に対しても誘電率を求めることができる複素誘電率測定用治具を提供する。
【解決手段】TM01δモード誘電体共振器の複素誘電率を測定するための複素誘電率測定用治具は、略平行に配設された一対の平行導体と、一対の平行導体に接しないように測定試料である誘電体を載置する支持体とを備える。
【解決手段】TM01δモード誘電体共振器の複素誘電率を測定するための複素誘電率測定用治具は、略平行に配設された一対の平行導体と、一対の平行導体に接しないように測定試料である誘電体を載置する支持体とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複素誘電率測定用治具に関するものであり、特に基地局向けフィルタに用いられるTM01δモード誘電体共振器の複素誘電率を測定するための複素誘電率測定用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の誘電率測定方法としては、JIS規格に定められた誘電体共振器法(JIS−R1627)が代表的なものとしてよく用いられている。これは、2〜20GHz程度の周波数帯を対象とした誘電率測定方法である。
【0003】
誘電体共振器法では、測定対象の試料の形状を短円柱形状に限定(d/t:1.8〜2.3)しており、これにより誘電率を解析式に基づいて算出できるようにしている。解析式を用いることにより、有効数字4桁程度の高精度な誘電率を得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JIS R 1627:1996 「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法」、日本規格協会、1996年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
誘電体共振法(JIS−R1627)を用いて、実際に工業製品に用いられているTM01δモード誘電体共振器の誘電率を測定することはできない。誘電率を測定するためには工業製品の誘電体共振器と同じ材料で短円柱形状の試料を作成し、試料の誘電率を測定していた。または、工業製品の誘電体共振器から誘電体共振法(JIS−R1627)にあわせた試料を切り出し、試料の誘電率を測定していた。
【0006】
しかしながら、同じ材料であっても、誘電体部品の加工中に物性値が変化する可能性が高いため、誘電体部品を製品に用いられる形状のまま誘電率を測定するのが望ましい。JIS規格の方法では、誘電体部品の誘電率を製品形状のまま測定することができないため、これが実現できる誘電率測定方法の技術が強く望まれている。
【0007】
本発明は、工業製品の誘電体共振器形状に対しても誘電率を求めることができる複素誘電率測定用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の複素誘電率測定用治具は、略平行に配設された一対の平行導体と、一対の平行導体に接しないように測定試料である誘電体を載置する支持体とを備えることを特徴とする。
【0009】
このような複素誘電率測定用治具を用いることにより、工業製品の誘電体共振器形状に対しても誘電率を求めることができる。
【0010】
さらに、本発明の複素誘電率測定用治具では、前記支持体の長手方向の長さが前記誘電体の長手方向の長さに対して、等しい又は小さいことを特徴とする。このような複素誘電率測定用治具では、平行導体に挟まれた空間の共振電磁界の対称性の乱れが少なくでき、精度良く誘電率を求めることができる。
【0011】
さらに、本発明の複素誘電率測定用治具では、支持体と、該誘電体の長手方向の両端とが接触しないことを特徴とする。このような複素誘電率測定用治具では、共振電界の電界強度が弱い領域に支持体を備える事により、支持体が持つ誘電率による共振波長の短縮効果を最小とする事ができ、より精度良く誘電率を求めることができる。
【0012】
さらに、本発明の複素誘電率測定用治具では、前記支持体に前記誘電体を差し込むための挿通孔が設けられていることを特徴とする。このような測定治具では、支持体に挿通孔が設けられているため、誘電体の位置合わせが容易にできる。特に誘電体の平行度を保ったまま載置できるよう挿通孔を設けることが好ましい。さらに、平行導体間の共振電磁界が上下対称となるように予め支持体に挿通孔を設けることで、より精度良く誘電率を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例としての複素誘電率測定用治具の構成を示す図。
【図2】(a)誘電体と下部導体板との距離Hと上部導体板と誘電体との距離 Dを示す図。(b)距離Hごとの上部導体板の変位量Δd(Δd=D−H)とQu 値の関係を示す図。
【図3】(a)支持体の高さHと上部導体板と誘電体との距離 Dを示す図。(b)距離Hごとの上部導体板の変位量Δd(Δd=D−H)とQu 値の関係を示す図。
【図4】(a)誘電体がφ7.5mm、φ11.25mmの場合の、支持体高さHとQu値の関係を示す図。(b)誘電体がφ15.0mmの場合の、支持体高さHとQu値の関係を示す図。
【図5】(a) 平行度Δp を説明する図。(b)平行度Δpとfo,Quの関係を示す図。
【図6】φ7.5mm、φ11.25mm、φ15.0mmにおけるTM01δモード誘電体共振器の実測波形。
【図7】支持体高さを(a) H=2mm、(b)H=4mm、(c)H=6mmとして図1の複素誘電率測定用冶具を用いてεr≒80、φ7.5mm の誘電体を測定した周波数特性を示した図。
【図8】支持体高さを(a) H=2mm、(b)H=4mm、(c)H=6mmとして図1の複素誘電率測定用冶具を用いてεr≒80、φ11.25mm の誘電体を測定した周波数特性を示した図。
【図9】支持体高さを(a) H=2mm、(b)H=4mm、(c)H=6mmとして図1の複素誘電率測定用冶具を用いてεr≒80、φ15.0mm の誘電体を測定した周波数特性を示した図。
【図10】本発明の第2実施例としての複素誘電率測定用治具の構成を示す図
【図11】本発明の第3実施例としての複素誘電率測定用治具の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1(a)〜(c)は、電気的物性値測定に用いる本発明の複素誘電率測定用治具の構造を示すもので、図1では測定試料が円柱形状の誘電体1である。
【0015】
この実施の形態の複素誘電率測定用治具1は、略平行に配設された一対の平行導体3と、一対の平行導体3に接しないように測定試料である誘電体2を載置する支持体4とを備えている。図1ではTM 01δ モードを励振させるために、ループアンテナ5をx軸方向に設置している。図1(a)は複素誘電率測定用治具をy軸方向から見た図、図1(b)は複素誘電率測定用治具をx軸方向から見た図、図1(c)は上部導体板3(31)を外した状態で複素誘電率測定用治具をz軸方向から見た図である。
【0016】
(誘電体)
円柱形状の誘電体2は、その長手方向が平行導体3に沿うように、かつ、平行導体3に接しないように支持体4を介して配置されている。誘電体はセラミックス材料などからなり、平面形状は円形状、矩形状、三角形状等どのような形状であっても良い。
【0017】
(平行導体)
一対の平行導体3を構成する上部導体板31と下部導体板32は、無酸素銅製からなる。平行導体3としては導電率が高い材料であれば良く、銀、金属に銀メッキまたは銅メッキしたものも用いられる。平行導体3の面の形状は四角形などの多角形、円形等どのような形状であっても良い。平行導体の面の大きさは、z軸方向から見た時に、誘電体の占める割合や支持体の占める割合よりも十分に大きければ良い。なお、詳細は後述するが、平行導体3自体が傾いていると、共振電磁界の対称性が崩れ、電磁界の閉じ込めが弱くなり、f 0 ,Qu 値へ影響を与える。
【0018】
なお、一対の平行導体に加え、全体を取り囲む側面導体板で測定試料(誘電体)および支持体を取り囲む構成としても良い。このような構成の場合、共振電磁界の放射を抑制する事ができ好ましい。
【0019】
(支持体)
この実施の形態では、支持体4は、発泡スチロール(εr≒1.03)からなる。支持体4は、低誘電率である有機材料やセラミックスなどの誘電体材料が用いられ、特に限りなく空気に近い誘電率が好ましい。支持体に対し、誘電体は接合固定はされてなく、載置されている。ここで、支持体に対し接着剤等で誘電体を固定すると、接着剤の影響(誘電特性や形状)を正確に把握する事が難しく、電磁界シミュレータで解析を行うことが困難である。さらに、測定毎に測定試料を接合固定する形態では、工業製品として出荷する前の評価工程への適用ができない。また、誘電体を支持体に載置した際の転がりを防止するために、支持体に溝を設けても良い。
【0020】
なお、詳細は後述するが、この実施の形態では、誘電体2と平行導体3との間に支持体4が載置されているため一対の平行導体間間隔が長くなる。平行導体間間隔が長くなると、平行導体3の面が有限であるため電磁界の閉じ込めが弱くなり、放射が生じる事により Qu 値が低下してしまうことを考慮して支持体高さを決めるのが好ましい。
【0021】
図1ではTM 01δ モードを励振させるために、ループアンテナ5をx軸方向に設置しているが、TM 01δ モードを励振させることができればループアンテナに限らない。例えば、モノポールアンテナをy軸方向に設置しても良いし、モノポールアンテナとループアンテナを併用しても良い。
【実施例】
【0022】
(第1実施例)
本発明の測定治具1を用いたTM 01δ モード誘電体共振器の励振・検波は、先端に小さなループを構成した直径2.2mm の同軸励振線により磁界結合でx 軸方向より行った。ループアンテナ5はマイクロメータを用いて x,y,z 軸の調整が可能である。一対の平行導体のうち下部導体板はマイクロメータを用いて z 軸方向の調整が可能となっている。一対の平行導体3のうち上部導体板31は両端を z 軸方向に変位でき、平行導体の平行度が調整可能となっている。
【0023】
本実施例では、誘電体はεr≒80、支持体はεr=1.03であり、誘電体の長手方向の長さ<支持体の長手方向の長さを満たしている。
【0024】
この共振器の TM 01δ モードの共振周波数 f 0、無負荷 Q,Qu はネットワークアナライザ(8510C アジレント社)によって測定した。Qu および負荷 QLは次式で与えられる。 ここで、I.L は挿入損失、f 0 ,f h ,f lは共振周波数、fh−flは半値幅である。
【数1】
【数2】
【0025】
測定された f 0 ,Qu及びTM 01δ モード誘電体共振器の寸法から、有限要素法による電磁界シミュレータ HFSS(High-Frequency
Structure Simulator Release 12 ,Ansys 社製)を用いて複素誘電率(比誘電率εr)を次式を用い求めた。
εr∝(φ,L,H,D,f0)
ただし、φ:誘電体の直径、L:誘電体試料の長さ、H:支持体高さ、D:誘電体と平行導体との間隔
【0026】
(誘電体の位置のf0,Qu値への影響)
誘電体の位置により共振電磁界が乱れ、f0,Qu値への影響が予想される。εr ≒80、φ7.5mm の円柱形状の測定試料を用いて、上部導体板と測定試料との距離 D を変化させた検討を電磁界シミュレーションにて行った。図2(a)は誘電体と下部導体板との距離Hと上部導体板と誘電体との距離 Dを示す図である。誘電体と下部導体板の距離HをH=2mm、4mm、5mm、6mmとしたときに、それぞれ上部導体板と測定試料との距離 D を変化させ、上部導体板の変位量Δd(Δd=D−H)とQu 値の関係を図2(b)に示した。図2(b)よりどの H に対しても、Qu 値はΔd=0 の時に最大となることがわかる。Δd<0 の領域では誘電体と上部導体板の距離が近接するため、上部導体板での損失が増加し Qu 値が低下する。Δd>0 の領域では誘電体と上部導体板の距離が離れるため上部導体板での損失は減少するが、Δd≦0 の時と比較すると共振電磁界が平行導体間距離の増加により広がる。その場合、平行導体が有限の長さであるため放射により Qu 値が低下する。 このことから、測定試料(誘電体)位置は、損失・放射による誤差を抑制するため、電磁界分布が上下対称となる導体板間に設置することが好ましい。
【0027】
(支持体のQu値への影響)
上述したように支持体がなければQu値が最大となるΔd の値がΔd=0である。しかしながら、本実施例の支持体には発泡スチロールを用いるため、僅かな誘電率による共振電磁界の対称性の乱れが予想される。εr≒80、φ7.5mm の円柱形状の測定試料を用いて、電磁界シミュレーションにより図2(b)の電磁界シミュレーションと同様の検討を行った。支持体に用いた発泡スチロールのεrは以下の式で計算される。
発泡体の誘電率ε r =(1×(X-1)+ε r_m ×1)/X
ここで、X は発泡後の体積倍率(50)、ε r_m は材料の誘電率(ポリスチレンε r =2.3)
【0028】
図3(a)は支持体の高さHと上部導体板と誘電体との距離 Dを示す図である。下部導体板と測定試料(誘電体)との距離Hは支持体の高さにより決定される。支持体の高さHをH=2mm、4mm、6mmとしたときに、それぞれ上部導体板と測定試料との距離 D を変化させ、上部導体板の変位量Δd(Δd=D−H)とQu 値の関係を図3(b)に示した。Δd のシフト量は、支持体高さHに対し、線形的に変化する事がわかる。支持体高さHが大きくなるのに伴い、Qu 値が最大となるΔd の値がΔd=0よりもプラス方向へシフトする傾向がみられた。発泡スチロールの誘電率εr は 1.03 と空気より僅かに大きい値であるが、波長短縮効果がこの誘電率εrにおいても生じていると考えられる。支持体(発泡スチロール)中の電磁気的な距離は、空気中と比較し短縮される。そのため、測定試料(誘電体)の中央位置(上下の電磁界分布が上下に対象となる位置)は、空気よりも大きい誘電率ε r を持つ支持体(発泡スチロール)側へシフトする。このために、Qu 値はΔd がΔd>0 において最大値を取る。
【0029】
(平行導体間隔により生じる放射のQu値への影響)
図4(a)(b)は放射が生じない発泡スチロールの支持体高さHとQu値について、電磁界シミュレーション HFSS を用いた検討結果である。円柱形状の測定試料(誘電体)の直径φ7.5mm、φ11.25mm、φ15.0mm に対して支持体高さHを 2〜7mm と変更し、電磁界シミュレーションにより求めた Qu 値の変化を評価した。この時、上部導体板と誘電体との距離Dは、支持体高さHに等しい。図4(a)(b)の横軸は高さHを、縦軸は Qu 値を示しており、φ7.5mm、φ11.25mm の試料は H=7mm においてQu 値の低下はみられず、放射は生じていないと考えられる。φ15.0mmにおいては、図4(b)より H=6mm 以上で Qu 値が低下し、放射が生じていると考えられ、この 高さH が測定限界となる。この結果より、本測定では発泡スチロールの支持体高さを H≦6mm にて用いている。このように、一対の平行導体間隔の上限値は、Qu値の低下が見られない範囲で適宜設定すれば良い。
【0030】
(上部導体板の傾きΔpのf0、Qu値への影響)
図5(a)では一対の平行導体のうち上部導体板は両端が z 軸方向に変位可能で、平行導体の平行度が調整可能となっている。平行度Δp を以下に示す。
Δp=Δh÷k×100
ここで、Δh は下部導体板に対する上部導体板の端部高さと該端部に対向する端部高さとの差、kは下部導体板のy軸方向の長さを表し、k=200mmである。平行導体の平行度Δp が Q 値に与える影響について検討した結果を図5(b)に示す。f 0、Qu は平行導体の平行度に大きく影響されることがわかる。特に Qu 値はΔp=0.1%にて Δp=0%と比較して10%程度低下するため、平行導体の平行度が測定に重要である。この測定では平行導体を固定するステージ高さの平行度Δp を 0.05%以下に調整した。
【0031】
(アンテナの変位とf 0 、Qu 値の関係)
挿入損失(I.L)はアンテナと誘電体の x 軸方向の距離に依存している。測定試料近傍にアンテナが存在すると、挿入損失(I.L)は小さくなるが、共振電磁界にアンテナである金属が近接するため、f0 ,Qu が影響を受ける。挿入損失(I.L)が 35dB 以上では、f0、Qu 共に一定値に近づきアンテナの影響が減少していると考えられる。40dB 以上になると測定装置のバックグラウンドの影響を受け、f0,Qu 値共に正確な測定が難しくなるため、本測定では挿入損失(I.L)は 35dB 近辺にて行った。
【0032】
TM 01δ モードの共振磁界は測定試料を中心として円を描いているため、アンテナは測定試料のz軸方向(高さ方向)の中央とすることが望ましい。
【0033】
TM 01δ モードの共振電磁界より、アンテナは測定試料の長手の中央とすることが望ましい。先端部へ向かうほど電界強度が強くなり、f0,Qu 値に大きく影響を与える。本測定では、Qu 値が最大となる測定試料の長さ方向のアンテナ位置を測定毎に調整した。
【0034】
(測定結果)
支持体高さ、平行導体の平行度、上述のアンテナ位置を用い、εr ≒80、直径がそれぞれφ7.5mm、φ11.25mm、φ15.0mm、長手方向の長さが30mmの円柱形状の測定試料について実際に測定を行った。
【0035】
(実測による周波数応答)
発泡スチロールの支持体高さ H=4mm にて、直径の異なる各測定試料(φ7.5mm、φ11.25mm、φ15.0mm)の 2〜5GHz までの周波数応答を図6に示す。φ7.5mm の測定試料では共振ピークは1つであるが、直径がφ11.25mm、15.0mm の測定試料では複数の共振ピークがみられた。φ15.0mmは図中の「A」、φ11.25mmは図中の「B」が測定ピークである。
【0036】
(電磁界シミュレーションによる周波数応答)
図6において、TM モード以外も励振されている可能性があるため、各モードの電磁界分布を電磁界シミュレーションにて確認した。なお、周波数応答を得るためにループアンテナもモデル化して確認した。電磁界分布の解析結果よりφ11.25mm では高周波側の共振ピークが目的の
TM モードで、低周波側は TE モードであった。φ15.0mm では低周波側が目的の TM モードで、高周波側は TE モードであった。電磁界シミュレーションを用いることにより、複数の共振ピークが存在しても、所望の共振モードを探すことが可能である。
【0037】
(TMモード誘電体共振器法の測定結果)
これまでの検討結果より得られた測定条件に基づいて、εr≒80、直径がそれぞれφ7.5mm、φ11.25mm、φ15.0mm、長さが H=30mm の測定試料について、複素誘電率の評価に必要な f0 ,Qu の測定を行った。 各測定試料寸法に対し、支持体 Hを2mm,4mm,6mmとし、Δd を変えてf0、Qu 値の測定した結果を図7〜9に示す。図の横軸はΔd を示し、縦軸は f0、Qu 値を示している。
図よりどの測定試料においてもQ値の最大値は、支持体の波長短縮効果によりΔd=0.002〜0.70にて得られ、電磁界シミュレーションより得られた結果と一致した。
【0038】
従来のTM010モードの誘電特性を評価する方法として知られている摂動法は、高εr 低損失材料(εr>20、tanδ<10 -4 )の測定では、測定試料寸法はφ3mm 程度と小さく、生産品形状での評価には対応できなかった。しかし、本発明の複素誘電率測定用治具ではφ7.5mm、φ11.25mm、φ15.0mmと工業製品に対応した寸法にて誘電率の測定が可能である。
【0039】
さらに、金属キャビティの上下蓋の間に誘電体円柱を挟んで構成される誘電体共振器法も従来からTM010モードの誘電特性を評価する方法として知られている。この方法ではTM モードを用いるため、電気力線が共振器から導体板に垂直に入射し、導体板と共振器間の空隙の影響を強く受ける。この影響を取り除くため共振器の両端に電極を形成し、キャビティとハンダ付けを行う必要がある。対して、本発明の複素誘電率測定用治具では、支持体に長円柱状の測定試料の長手方向が沿うように載置するのみで誘電率の測定が可能であり、より簡便に工業製品に対応した寸法にて誘電率の測定が可能である。
【0040】
よって、本発明の複素誘電率測定用治具によれば、工業製品の誘電体共振器形状に対しても誘電率を求めることができる。
【0041】
(第2実施例)
図10は、第2実施例における測定治具200の構成を示している。支持体41と、誘電体2の長手方向の両端とが接触しない点において、第1実施例の測定治具100と異なり、他の構成は測定治具100と同じである。
【0042】
以上の構成を有する第2実施例の複素誘電率測定用治具では、共振電界の電界強度が弱い領域に支持体を備える事により、支持体が持つ誘電率による共振波長の短縮効果を最小とする事ができ、精度良く誘電率を求めることができる。第2実施例の複素誘電率測定用治具では、連続する支持体41の長手方向の長さが誘電体2の長手方向の長さに対して小さくすることで、支持体41と、誘電体2の長手方向の両端とが接触しない構成としている。他の具体的手段としては、支持体と、誘電体の長手方向の両端とが接触しない構成とするために、誘電体の長手方向に対して不連続である支持体を用いることもできる。
【0043】
(第3実施例)
図11は、第3実施例における測定治具300の構成を示している。支持体42に誘電体2を差し込むための挿通孔6が設けられている点において、第1実施例の測定治具100と異なり他の構成は測定治具100と同じである。
【0044】
以上の構成を有する第3実施例の複素誘電率測定用治具300では、支持体42に挿通孔6が設けられているため、誘電体2の位置合わせが容易にできる。特に誘電体2の平行度を保ったまま載置できるよう挿通孔6を設けることが好ましい。さらに、平行導体間の共振電磁界が上下対称となるように予め支持体42に挿通孔6を設けることで、より精度良く誘電率を求めることができる。なお、挿通孔6と誘電体2とは隙間無く接触していることが好ましい。挿通孔6と誘電体2との間に隙間があると電磁界シミュレーションを行う際に新たに隙間もモデル化する必要が生じる。
【0045】
第3実施例では、一対の平行導体間の間隔と、支持体全体の高さが等しい。これにより一対の平行導体位置を支持体高さにより決めることができ、平行導体の位置決めも容易となる。
【0046】
第3実施例においても、支持体42の両端と誘電体2の長手方向の両端とが接触しない構成とするのが更に好ましい。
【0047】
この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
100,200,300…複素誘電率測定用治具
2…誘電体
3…平行導体
4,41,42…支持体
【技術分野】
【0001】
本発明は複素誘電率測定用治具に関するものであり、特に基地局向けフィルタに用いられるTM01δモード誘電体共振器の複素誘電率を測定するための複素誘電率測定用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の誘電率測定方法としては、JIS規格に定められた誘電体共振器法(JIS−R1627)が代表的なものとしてよく用いられている。これは、2〜20GHz程度の周波数帯を対象とした誘電率測定方法である。
【0003】
誘電体共振器法では、測定対象の試料の形状を短円柱形状に限定(d/t:1.8〜2.3)しており、これにより誘電率を解析式に基づいて算出できるようにしている。解析式を用いることにより、有効数字4桁程度の高精度な誘電率を得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JIS R 1627:1996 「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法」、日本規格協会、1996年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
誘電体共振法(JIS−R1627)を用いて、実際に工業製品に用いられているTM01δモード誘電体共振器の誘電率を測定することはできない。誘電率を測定するためには工業製品の誘電体共振器と同じ材料で短円柱形状の試料を作成し、試料の誘電率を測定していた。または、工業製品の誘電体共振器から誘電体共振法(JIS−R1627)にあわせた試料を切り出し、試料の誘電率を測定していた。
【0006】
しかしながら、同じ材料であっても、誘電体部品の加工中に物性値が変化する可能性が高いため、誘電体部品を製品に用いられる形状のまま誘電率を測定するのが望ましい。JIS規格の方法では、誘電体部品の誘電率を製品形状のまま測定することができないため、これが実現できる誘電率測定方法の技術が強く望まれている。
【0007】
本発明は、工業製品の誘電体共振器形状に対しても誘電率を求めることができる複素誘電率測定用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の複素誘電率測定用治具は、略平行に配設された一対の平行導体と、一対の平行導体に接しないように測定試料である誘電体を載置する支持体とを備えることを特徴とする。
【0009】
このような複素誘電率測定用治具を用いることにより、工業製品の誘電体共振器形状に対しても誘電率を求めることができる。
【0010】
さらに、本発明の複素誘電率測定用治具では、前記支持体の長手方向の長さが前記誘電体の長手方向の長さに対して、等しい又は小さいことを特徴とする。このような複素誘電率測定用治具では、平行導体に挟まれた空間の共振電磁界の対称性の乱れが少なくでき、精度良く誘電率を求めることができる。
【0011】
さらに、本発明の複素誘電率測定用治具では、支持体と、該誘電体の長手方向の両端とが接触しないことを特徴とする。このような複素誘電率測定用治具では、共振電界の電界強度が弱い領域に支持体を備える事により、支持体が持つ誘電率による共振波長の短縮効果を最小とする事ができ、より精度良く誘電率を求めることができる。
【0012】
さらに、本発明の複素誘電率測定用治具では、前記支持体に前記誘電体を差し込むための挿通孔が設けられていることを特徴とする。このような測定治具では、支持体に挿通孔が設けられているため、誘電体の位置合わせが容易にできる。特に誘電体の平行度を保ったまま載置できるよう挿通孔を設けることが好ましい。さらに、平行導体間の共振電磁界が上下対称となるように予め支持体に挿通孔を設けることで、より精度良く誘電率を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例としての複素誘電率測定用治具の構成を示す図。
【図2】(a)誘電体と下部導体板との距離Hと上部導体板と誘電体との距離 Dを示す図。(b)距離Hごとの上部導体板の変位量Δd(Δd=D−H)とQu 値の関係を示す図。
【図3】(a)支持体の高さHと上部導体板と誘電体との距離 Dを示す図。(b)距離Hごとの上部導体板の変位量Δd(Δd=D−H)とQu 値の関係を示す図。
【図4】(a)誘電体がφ7.5mm、φ11.25mmの場合の、支持体高さHとQu値の関係を示す図。(b)誘電体がφ15.0mmの場合の、支持体高さHとQu値の関係を示す図。
【図5】(a) 平行度Δp を説明する図。(b)平行度Δpとfo,Quの関係を示す図。
【図6】φ7.5mm、φ11.25mm、φ15.0mmにおけるTM01δモード誘電体共振器の実測波形。
【図7】支持体高さを(a) H=2mm、(b)H=4mm、(c)H=6mmとして図1の複素誘電率測定用冶具を用いてεr≒80、φ7.5mm の誘電体を測定した周波数特性を示した図。
【図8】支持体高さを(a) H=2mm、(b)H=4mm、(c)H=6mmとして図1の複素誘電率測定用冶具を用いてεr≒80、φ11.25mm の誘電体を測定した周波数特性を示した図。
【図9】支持体高さを(a) H=2mm、(b)H=4mm、(c)H=6mmとして図1の複素誘電率測定用冶具を用いてεr≒80、φ15.0mm の誘電体を測定した周波数特性を示した図。
【図10】本発明の第2実施例としての複素誘電率測定用治具の構成を示す図
【図11】本発明の第3実施例としての複素誘電率測定用治具の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1(a)〜(c)は、電気的物性値測定に用いる本発明の複素誘電率測定用治具の構造を示すもので、図1では測定試料が円柱形状の誘電体1である。
【0015】
この実施の形態の複素誘電率測定用治具1は、略平行に配設された一対の平行導体3と、一対の平行導体3に接しないように測定試料である誘電体2を載置する支持体4とを備えている。図1ではTM 01δ モードを励振させるために、ループアンテナ5をx軸方向に設置している。図1(a)は複素誘電率測定用治具をy軸方向から見た図、図1(b)は複素誘電率測定用治具をx軸方向から見た図、図1(c)は上部導体板3(31)を外した状態で複素誘電率測定用治具をz軸方向から見た図である。
【0016】
(誘電体)
円柱形状の誘電体2は、その長手方向が平行導体3に沿うように、かつ、平行導体3に接しないように支持体4を介して配置されている。誘電体はセラミックス材料などからなり、平面形状は円形状、矩形状、三角形状等どのような形状であっても良い。
【0017】
(平行導体)
一対の平行導体3を構成する上部導体板31と下部導体板32は、無酸素銅製からなる。平行導体3としては導電率が高い材料であれば良く、銀、金属に銀メッキまたは銅メッキしたものも用いられる。平行導体3の面の形状は四角形などの多角形、円形等どのような形状であっても良い。平行導体の面の大きさは、z軸方向から見た時に、誘電体の占める割合や支持体の占める割合よりも十分に大きければ良い。なお、詳細は後述するが、平行導体3自体が傾いていると、共振電磁界の対称性が崩れ、電磁界の閉じ込めが弱くなり、f 0 ,Qu 値へ影響を与える。
【0018】
なお、一対の平行導体に加え、全体を取り囲む側面導体板で測定試料(誘電体)および支持体を取り囲む構成としても良い。このような構成の場合、共振電磁界の放射を抑制する事ができ好ましい。
【0019】
(支持体)
この実施の形態では、支持体4は、発泡スチロール(εr≒1.03)からなる。支持体4は、低誘電率である有機材料やセラミックスなどの誘電体材料が用いられ、特に限りなく空気に近い誘電率が好ましい。支持体に対し、誘電体は接合固定はされてなく、載置されている。ここで、支持体に対し接着剤等で誘電体を固定すると、接着剤の影響(誘電特性や形状)を正確に把握する事が難しく、電磁界シミュレータで解析を行うことが困難である。さらに、測定毎に測定試料を接合固定する形態では、工業製品として出荷する前の評価工程への適用ができない。また、誘電体を支持体に載置した際の転がりを防止するために、支持体に溝を設けても良い。
【0020】
なお、詳細は後述するが、この実施の形態では、誘電体2と平行導体3との間に支持体4が載置されているため一対の平行導体間間隔が長くなる。平行導体間間隔が長くなると、平行導体3の面が有限であるため電磁界の閉じ込めが弱くなり、放射が生じる事により Qu 値が低下してしまうことを考慮して支持体高さを決めるのが好ましい。
【0021】
図1ではTM 01δ モードを励振させるために、ループアンテナ5をx軸方向に設置しているが、TM 01δ モードを励振させることができればループアンテナに限らない。例えば、モノポールアンテナをy軸方向に設置しても良いし、モノポールアンテナとループアンテナを併用しても良い。
【実施例】
【0022】
(第1実施例)
本発明の測定治具1を用いたTM 01δ モード誘電体共振器の励振・検波は、先端に小さなループを構成した直径2.2mm の同軸励振線により磁界結合でx 軸方向より行った。ループアンテナ5はマイクロメータを用いて x,y,z 軸の調整が可能である。一対の平行導体のうち下部導体板はマイクロメータを用いて z 軸方向の調整が可能となっている。一対の平行導体3のうち上部導体板31は両端を z 軸方向に変位でき、平行導体の平行度が調整可能となっている。
【0023】
本実施例では、誘電体はεr≒80、支持体はεr=1.03であり、誘電体の長手方向の長さ<支持体の長手方向の長さを満たしている。
【0024】
この共振器の TM 01δ モードの共振周波数 f 0、無負荷 Q,Qu はネットワークアナライザ(8510C アジレント社)によって測定した。Qu および負荷 QLは次式で与えられる。 ここで、I.L は挿入損失、f 0 ,f h ,f lは共振周波数、fh−flは半値幅である。
【数1】
【数2】
【0025】
測定された f 0 ,Qu及びTM 01δ モード誘電体共振器の寸法から、有限要素法による電磁界シミュレータ HFSS(High-Frequency
Structure Simulator Release 12 ,Ansys 社製)を用いて複素誘電率(比誘電率εr)を次式を用い求めた。
εr∝(φ,L,H,D,f0)
ただし、φ:誘電体の直径、L:誘電体試料の長さ、H:支持体高さ、D:誘電体と平行導体との間隔
【0026】
(誘電体の位置のf0,Qu値への影響)
誘電体の位置により共振電磁界が乱れ、f0,Qu値への影響が予想される。εr ≒80、φ7.5mm の円柱形状の測定試料を用いて、上部導体板と測定試料との距離 D を変化させた検討を電磁界シミュレーションにて行った。図2(a)は誘電体と下部導体板との距離Hと上部導体板と誘電体との距離 Dを示す図である。誘電体と下部導体板の距離HをH=2mm、4mm、5mm、6mmとしたときに、それぞれ上部導体板と測定試料との距離 D を変化させ、上部導体板の変位量Δd(Δd=D−H)とQu 値の関係を図2(b)に示した。図2(b)よりどの H に対しても、Qu 値はΔd=0 の時に最大となることがわかる。Δd<0 の領域では誘電体と上部導体板の距離が近接するため、上部導体板での損失が増加し Qu 値が低下する。Δd>0 の領域では誘電体と上部導体板の距離が離れるため上部導体板での損失は減少するが、Δd≦0 の時と比較すると共振電磁界が平行導体間距離の増加により広がる。その場合、平行導体が有限の長さであるため放射により Qu 値が低下する。 このことから、測定試料(誘電体)位置は、損失・放射による誤差を抑制するため、電磁界分布が上下対称となる導体板間に設置することが好ましい。
【0027】
(支持体のQu値への影響)
上述したように支持体がなければQu値が最大となるΔd の値がΔd=0である。しかしながら、本実施例の支持体には発泡スチロールを用いるため、僅かな誘電率による共振電磁界の対称性の乱れが予想される。εr≒80、φ7.5mm の円柱形状の測定試料を用いて、電磁界シミュレーションにより図2(b)の電磁界シミュレーションと同様の検討を行った。支持体に用いた発泡スチロールのεrは以下の式で計算される。
発泡体の誘電率ε r =(1×(X-1)+ε r_m ×1)/X
ここで、X は発泡後の体積倍率(50)、ε r_m は材料の誘電率(ポリスチレンε r =2.3)
【0028】
図3(a)は支持体の高さHと上部導体板と誘電体との距離 Dを示す図である。下部導体板と測定試料(誘電体)との距離Hは支持体の高さにより決定される。支持体の高さHをH=2mm、4mm、6mmとしたときに、それぞれ上部導体板と測定試料との距離 D を変化させ、上部導体板の変位量Δd(Δd=D−H)とQu 値の関係を図3(b)に示した。Δd のシフト量は、支持体高さHに対し、線形的に変化する事がわかる。支持体高さHが大きくなるのに伴い、Qu 値が最大となるΔd の値がΔd=0よりもプラス方向へシフトする傾向がみられた。発泡スチロールの誘電率εr は 1.03 と空気より僅かに大きい値であるが、波長短縮効果がこの誘電率εrにおいても生じていると考えられる。支持体(発泡スチロール)中の電磁気的な距離は、空気中と比較し短縮される。そのため、測定試料(誘電体)の中央位置(上下の電磁界分布が上下に対象となる位置)は、空気よりも大きい誘電率ε r を持つ支持体(発泡スチロール)側へシフトする。このために、Qu 値はΔd がΔd>0 において最大値を取る。
【0029】
(平行導体間隔により生じる放射のQu値への影響)
図4(a)(b)は放射が生じない発泡スチロールの支持体高さHとQu値について、電磁界シミュレーション HFSS を用いた検討結果である。円柱形状の測定試料(誘電体)の直径φ7.5mm、φ11.25mm、φ15.0mm に対して支持体高さHを 2〜7mm と変更し、電磁界シミュレーションにより求めた Qu 値の変化を評価した。この時、上部導体板と誘電体との距離Dは、支持体高さHに等しい。図4(a)(b)の横軸は高さHを、縦軸は Qu 値を示しており、φ7.5mm、φ11.25mm の試料は H=7mm においてQu 値の低下はみられず、放射は生じていないと考えられる。φ15.0mmにおいては、図4(b)より H=6mm 以上で Qu 値が低下し、放射が生じていると考えられ、この 高さH が測定限界となる。この結果より、本測定では発泡スチロールの支持体高さを H≦6mm にて用いている。このように、一対の平行導体間隔の上限値は、Qu値の低下が見られない範囲で適宜設定すれば良い。
【0030】
(上部導体板の傾きΔpのf0、Qu値への影響)
図5(a)では一対の平行導体のうち上部導体板は両端が z 軸方向に変位可能で、平行導体の平行度が調整可能となっている。平行度Δp を以下に示す。
Δp=Δh÷k×100
ここで、Δh は下部導体板に対する上部導体板の端部高さと該端部に対向する端部高さとの差、kは下部導体板のy軸方向の長さを表し、k=200mmである。平行導体の平行度Δp が Q 値に与える影響について検討した結果を図5(b)に示す。f 0、Qu は平行導体の平行度に大きく影響されることがわかる。特に Qu 値はΔp=0.1%にて Δp=0%と比較して10%程度低下するため、平行導体の平行度が測定に重要である。この測定では平行導体を固定するステージ高さの平行度Δp を 0.05%以下に調整した。
【0031】
(アンテナの変位とf 0 、Qu 値の関係)
挿入損失(I.L)はアンテナと誘電体の x 軸方向の距離に依存している。測定試料近傍にアンテナが存在すると、挿入損失(I.L)は小さくなるが、共振電磁界にアンテナである金属が近接するため、f0 ,Qu が影響を受ける。挿入損失(I.L)が 35dB 以上では、f0、Qu 共に一定値に近づきアンテナの影響が減少していると考えられる。40dB 以上になると測定装置のバックグラウンドの影響を受け、f0,Qu 値共に正確な測定が難しくなるため、本測定では挿入損失(I.L)は 35dB 近辺にて行った。
【0032】
TM 01δ モードの共振磁界は測定試料を中心として円を描いているため、アンテナは測定試料のz軸方向(高さ方向)の中央とすることが望ましい。
【0033】
TM 01δ モードの共振電磁界より、アンテナは測定試料の長手の中央とすることが望ましい。先端部へ向かうほど電界強度が強くなり、f0,Qu 値に大きく影響を与える。本測定では、Qu 値が最大となる測定試料の長さ方向のアンテナ位置を測定毎に調整した。
【0034】
(測定結果)
支持体高さ、平行導体の平行度、上述のアンテナ位置を用い、εr ≒80、直径がそれぞれφ7.5mm、φ11.25mm、φ15.0mm、長手方向の長さが30mmの円柱形状の測定試料について実際に測定を行った。
【0035】
(実測による周波数応答)
発泡スチロールの支持体高さ H=4mm にて、直径の異なる各測定試料(φ7.5mm、φ11.25mm、φ15.0mm)の 2〜5GHz までの周波数応答を図6に示す。φ7.5mm の測定試料では共振ピークは1つであるが、直径がφ11.25mm、15.0mm の測定試料では複数の共振ピークがみられた。φ15.0mmは図中の「A」、φ11.25mmは図中の「B」が測定ピークである。
【0036】
(電磁界シミュレーションによる周波数応答)
図6において、TM モード以外も励振されている可能性があるため、各モードの電磁界分布を電磁界シミュレーションにて確認した。なお、周波数応答を得るためにループアンテナもモデル化して確認した。電磁界分布の解析結果よりφ11.25mm では高周波側の共振ピークが目的の
TM モードで、低周波側は TE モードであった。φ15.0mm では低周波側が目的の TM モードで、高周波側は TE モードであった。電磁界シミュレーションを用いることにより、複数の共振ピークが存在しても、所望の共振モードを探すことが可能である。
【0037】
(TMモード誘電体共振器法の測定結果)
これまでの検討結果より得られた測定条件に基づいて、εr≒80、直径がそれぞれφ7.5mm、φ11.25mm、φ15.0mm、長さが H=30mm の測定試料について、複素誘電率の評価に必要な f0 ,Qu の測定を行った。 各測定試料寸法に対し、支持体 Hを2mm,4mm,6mmとし、Δd を変えてf0、Qu 値の測定した結果を図7〜9に示す。図の横軸はΔd を示し、縦軸は f0、Qu 値を示している。
図よりどの測定試料においてもQ値の最大値は、支持体の波長短縮効果によりΔd=0.002〜0.70にて得られ、電磁界シミュレーションより得られた結果と一致した。
【0038】
従来のTM010モードの誘電特性を評価する方法として知られている摂動法は、高εr 低損失材料(εr>20、tanδ<10 -4 )の測定では、測定試料寸法はφ3mm 程度と小さく、生産品形状での評価には対応できなかった。しかし、本発明の複素誘電率測定用治具ではφ7.5mm、φ11.25mm、φ15.0mmと工業製品に対応した寸法にて誘電率の測定が可能である。
【0039】
さらに、金属キャビティの上下蓋の間に誘電体円柱を挟んで構成される誘電体共振器法も従来からTM010モードの誘電特性を評価する方法として知られている。この方法ではTM モードを用いるため、電気力線が共振器から導体板に垂直に入射し、導体板と共振器間の空隙の影響を強く受ける。この影響を取り除くため共振器の両端に電極を形成し、キャビティとハンダ付けを行う必要がある。対して、本発明の複素誘電率測定用治具では、支持体に長円柱状の測定試料の長手方向が沿うように載置するのみで誘電率の測定が可能であり、より簡便に工業製品に対応した寸法にて誘電率の測定が可能である。
【0040】
よって、本発明の複素誘電率測定用治具によれば、工業製品の誘電体共振器形状に対しても誘電率を求めることができる。
【0041】
(第2実施例)
図10は、第2実施例における測定治具200の構成を示している。支持体41と、誘電体2の長手方向の両端とが接触しない点において、第1実施例の測定治具100と異なり、他の構成は測定治具100と同じである。
【0042】
以上の構成を有する第2実施例の複素誘電率測定用治具では、共振電界の電界強度が弱い領域に支持体を備える事により、支持体が持つ誘電率による共振波長の短縮効果を最小とする事ができ、精度良く誘電率を求めることができる。第2実施例の複素誘電率測定用治具では、連続する支持体41の長手方向の長さが誘電体2の長手方向の長さに対して小さくすることで、支持体41と、誘電体2の長手方向の両端とが接触しない構成としている。他の具体的手段としては、支持体と、誘電体の長手方向の両端とが接触しない構成とするために、誘電体の長手方向に対して不連続である支持体を用いることもできる。
【0043】
(第3実施例)
図11は、第3実施例における測定治具300の構成を示している。支持体42に誘電体2を差し込むための挿通孔6が設けられている点において、第1実施例の測定治具100と異なり他の構成は測定治具100と同じである。
【0044】
以上の構成を有する第3実施例の複素誘電率測定用治具300では、支持体42に挿通孔6が設けられているため、誘電体2の位置合わせが容易にできる。特に誘電体2の平行度を保ったまま載置できるよう挿通孔6を設けることが好ましい。さらに、平行導体間の共振電磁界が上下対称となるように予め支持体42に挿通孔6を設けることで、より精度良く誘電率を求めることができる。なお、挿通孔6と誘電体2とは隙間無く接触していることが好ましい。挿通孔6と誘電体2との間に隙間があると電磁界シミュレーションを行う際に新たに隙間もモデル化する必要が生じる。
【0045】
第3実施例では、一対の平行導体間の間隔と、支持体全体の高さが等しい。これにより一対の平行導体位置を支持体高さにより決めることができ、平行導体の位置決めも容易となる。
【0046】
第3実施例においても、支持体42の両端と誘電体2の長手方向の両端とが接触しない構成とするのが更に好ましい。
【0047】
この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
100,200,300…複素誘電率測定用治具
2…誘電体
3…平行導体
4,41,42…支持体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平行に配設された一対の平行導体と、一対の平行導体に接しないように測定試料である誘電体を載置する支持体とを備えることを特徴とする複素誘電率測定用治具。
【請求項2】
前記支持体の長手方向の長さが前記誘電体の長手方向の長さに対して、等しい又は小さいことを特徴とする請求項1に記載の複素誘電率測定用治具。
【請求項3】
前記支持体と、前記誘電体の長手方向の両端とが接触しないことを特徴とする請求項1または2に記載の複素誘電率測定用治具。
【請求項4】
前記支持体に前記誘電体を差し込むための挿通孔が設けられていることを特徴とする請求項1ないし3記載の複素誘電率測定用治具。
【請求項1】
略平行に配設された一対の平行導体と、一対の平行導体に接しないように測定試料である誘電体を載置する支持体とを備えることを特徴とする複素誘電率測定用治具。
【請求項2】
前記支持体の長手方向の長さが前記誘電体の長手方向の長さに対して、等しい又は小さいことを特徴とする請求項1に記載の複素誘電率測定用治具。
【請求項3】
前記支持体と、前記誘電体の長手方向の両端とが接触しないことを特徴とする請求項1または2に記載の複素誘電率測定用治具。
【請求項4】
前記支持体に前記誘電体を差し込むための挿通孔が設けられていることを特徴とする請求項1ないし3記載の複素誘電率測定用治具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−54012(P2013−54012A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194330(P2011−194330)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
[ Back to top ]