説明

見返しリング及びその製造方法

【課題】 デザインバリエーションの拡大が図れる時計用表示板の見返しリング及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 時計用の表示板の外縁に上方から当接する見返しリングにおいて、該見返しリングの基体の見返し面に設ける下地層と、該下地層の表面側に設ける装飾層とを備え、該装飾層にレーザ光をパターン状に照射して該装飾層の被照射部分を蒸散させることにより、前記下地層にパターン状の露出部を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用の表示板の外縁に上方から当接する見返しリング及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の時計外装の夜光構造として、時計用の表示板の外縁に設ける見返しリングの見返し面に夜光塗料を塗布した例が開示されている。(例えば、特許文献1参照。)。図10は、従来技術における時計外装の夜光構造を示す断面図である。図10に示すように、従来の時計ケース11はガラス12、表示板15、見返しリング16を備えており、見返しリング16の表面には夜光塗料13が全面に塗布されている。この夜光塗料13は発光基体として酸化アルミニウムストロンチウムを用い、ポリメチルメタアクリレイトをバインダー材として混合し組成されている蓄光性夜光塗料であり、残光時間が8時間以上あり、ほぼ一晩中光り続ける。これによって、表示板15に表示された文字やマークを夜間でも視認することが出来るようになっている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−191154号公報(第2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来技術においては見返し面が斜面で構成されているため、この見返し面に微細な文字や複雑なマーク、模様等を夜光インクを用いて印刷することは困難であった。このためディスペンサー等を用いて簡単なマーク、例えば図11に示すような、丸17a、四角17b、三角17c等のような単純な形状しか形成出来ず、デザインが限定されるという問題があった。また、斜面で形成されている見返し面に金属質感を持った文字を表現する方法として、メタレター貼り付け方法が知られているが、貼り付け位置ずれの問題があり、実用化されていないのが現状である。このように、従来技術においては、見返しリングの見返し面に形成できる文字、マーク、模様等が制限され、デザインバリエーションの拡大を図ることができないという問題があった。
【0005】
(目的)
本発明は、上記問題点を解決し、見返しリングの見返し面に夜光性能を有する微細な文字や複雑なマーク、模様等を形成すると共に、金属質感や立体感を持たせた文字、マーク、模様等を形成することによってデザインバリエーションの拡大が図れる時計用表示板の見返しリング及びその製造方法を提供することを目的とする。また、複数のカラー、夜光性能、金属質感等を組み合わせた文字、マーク、模様等を形成し、立体感を有する複雑な模様を形成することによってデザインバリエーションの拡大が図れる時計用表示板の見返しリング及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明の見返しリングは、時計用の表示板の外縁に上方から当接する見返しリングにおいて、該見返しリングの基体の見返し面に設ける下地層と、該下地層の表面側に設ける装飾層とを備え、該装飾層にレーザ光をパターン状に照射して装飾層の被照射部分を蒸散させることにより、前記下地層にパターン状の露出部を形成したことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の見返しリングは、下地層の露出部の一部または全領域にレーザ光を照射して下地層の露出部の被照射部分を蒸散させることにより、見返しリングの基体の見返し面にパターン状の露出部を形成したことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の見返しリングは、下地層のパターン状の露出部は、模様、数字、文宇、マークの中の少なくとも一つからなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の見返しリングは、下地層は、蓄光性夜光層、金属層、塗膜層の中の少なくとも一層からなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の見返しリングは、下地層は、カラー化されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の見返しリングは、下地層は複数の層からなり、上層の下地層にレーザ光をパターン状に照射して、上位層の下地層の被照射部分を蒸散させることにより、下位層の下地層にパターン状の露出部を形成したことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の見返しリングの製造方法は、時計用の表示板の外縁に上方から当接する見返しリングの製造方法において、該見返しリングの基体の見返し面に下地層を形成し、該下地層の表面側に装飾層を形成する工程と、該装飾層にレーザ光をパターン状に照射して装飾層の被照射部分を蒸散させることにより前記下地層にパターン状の露出部を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の見返しリングの製造方法は、下地層の露出部の一部または全領域にレーザ光を照射して下地層の露出部の被照射部分を蒸散させることにより、見返しリングの基体の見返し面にパターン状の露出部を形成する工程を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の見返しリングの製造方法は、下地層として複数層の下地層を形成する工程と、該複数の下地層の上位層の露出部にレーザ光をパターン状に照射して被照射部分を蒸散させることにより前記下地層の下位層にパターン状の露出部を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明のレーザ光はエキシマレーザ光であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の時計用の見返しリング及びその製造方法によれば、見返しリングの見返し面に微細な文字、マーク、模様等を形成することができ、より繊細な表現が可能となる。
また、見返し面に形成する文字、マーク、模様等をカラー化したり、夜光性能、金属質感を持たせたりすることができる。
さらに下地層を多層構造とすることにより、複数のカラー、夜光性能、金属質感等を組み合わせた文字、マーク、模様等が得られ立体感や複雑な模様を表現することができる。
これによって、時計用表示板の見返しリングの外観品質が向上され、且つ、デザインバリエ一ションの拡大を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を用いた好適な実施の形態について図1から図9に基づいて説明する。図1、図2は本発明における見返しリング及びその製造方法の実施例1を示す図、図3、図4は実施例2を示す図、図5、図6は実施例3を示す図である。また、図7から図9は、他の例を示す図である。本実施形態における見返しリング及びその製造方法は、見返し面に蓄光性夜光層、金属層、塗膜層等からなる下地層と、該下地層の表面側に装飾層とを形成し、該装飾層にエキシマレーザ光をパターン状に照射して装飾層の被照射部分を蒸散させることにより、下地層に模様、数字、文宇、マーク等のパターン状の露出部を形成する。これによって、見返しリングの見返し面に微細な文字、マーク、模様等を形成すると共に、カラー化したり、夜光性能、金属質感を持たせたりすることができる。さらに下地層を多層構造とすることにより、複数のカラー、夜光性能、金属質感等を組み合わせた文字、マーク、模様等が得られ立体感や複雑な模様を表現することができため、見返しリングの外観品質が向上され、且つ、デザインバリエ一ションの拡大を図ることができる。以下、具体的実施例について図に基づいて詳述する。
【実施例1】
【0018】
実施例1における見返しリング及びその製造方法について図1、図2に基づいて説明する。図1は実施例1における時計用の表示板の外縁に上方から当接する見返しリングを示し、図1(a)は平面図、図1(b)は図1(a)におけるA−A断面図、図1(c)は図1(b)におけるA部の部分拡大断面図である。また、図2は見返しリングの製造工程を示す図である。図1に示すように本実施例における見返しリング24は、時計用の表示板25の外縁に上方から当接するように配置されており、樹脂材料(ABS樹脂)からなる基体26の内周に沿って斜面状に形成される見返し面26aが形成されている。この見返し面26aを含む見返しリングの基体26の表面に下地層として蓄光性夜光層28が形成されており、この蓄光性夜光層28の表面側に装飾層としてカラー塗料層27が積層されている。
【0019】
このカラー塗料層27には、エキシマレーザ光をパターン状に照射し被照射部分を蒸散させることによりカラー塗料層27の開口部27aが形成されており、この開口部27aは、数字の形状をした開口部で、この開口部27aに対応する位置に下地層である蓄光性夜光層28の露出部28aが露出されている。この数字の形状をした露出部28aは、時計の時刻を表示するための時字に相当し、1から12までの数字が1時から12時までの所定の位置に形成されている。これによって見返しリング24の見返し面26aに蓄光性夜光層28の露出部28aによって1から12までの数字が表現される。
【0020】
次に、本実施例における見返しリングの製造方法について図2に基づいて説明する。まず、射出成型加工により、ABS樹脂材料からなるリング状の見返しリングの基体26を形成する。この基体26には内周に沿って斜面状に形成される見返し面26aが形成されている。次に、図2(a)に示すように、この基体26の見返し面26aを含む基体26の表面上に蓄光性夜光塗料を塗装するか、または、蓄光性夜光インキを手塗りで塗布することにより下地層として蓄光性夜光層28を形成する。蓄光性夜光塗料、蓄光性夜光インキは、硫化カルシュウムストロンチウム等を含む従来と同様のものを用いる。また、蓄光性夜光層28の厚さは、特に制限されるものではないが20〜50μmが好ましい。
【0021】
次に図2(b)に示すように、蓄光性夜光層28の表面にカラー塗料層27を形成する。カラー塗料層27は、エポキシ系、アクリル系など樹脂を主体とした塗料に着色材(顔料や染料)を含むものを使用し、刷毛塗装、噴霧塗装等で形成し、厚さについては特に限定されるものではないが、10〜20μmが好ましい。また、カラー塗料層27に用いる塗料の色については、各種の色が使用可能であるが本実施例においては図1に示した表示板25と同系色の塗料を用い白色とした。
【0022】
次に、図2(c)に示すように、カラー塗料層27にエキシマレーザ光21をパターン状に照射し被照射部分を蒸散させることによりカラー塗料層27の開口部27aを形成する。この開口部27aは数字の形状をなし、この開口部27aによって下地層である蓄光性夜光層28の露出部28aが露出される。エキシマレーザ光21の照射は、レーザマーキング装置を用い見返しリングの基体26の見返し面26aに略垂直に照射し、あらかじめ記憶させておいたパターンに基づいて制御して形成する。また、見返しリングの基体26はインデックス機能をもつ所定の治具(図示せず)に固定され、この治具によって回転され、1時から12時までの所定の位置に数字の形状をしたカラー塗料層27の開口部27aが形成され、これに対応する位置に蓄光性夜光層28の露出部28aが形成される。これによって、図1に示すような見返し面26aに蓄光性夜光性能を有する数字が形成された見返しリング24を実現することができる。
【0023】
尚、本実施例においては、下地層として蓄光性夜光層28を用いた例で説明したが、下地層として、金、銀、ニッケル等の金属材料を湿式メッキ、または蒸着、スパッタ等の乾式メッキによって形成しても良く、これによって、金属質感を有する数字が形成された見返しリングを実現することができる。また、下地層として、装飾層と異なる色のカラー塗料を用いた塗料層を形成しても良く、これによって、装飾層の外観と下地層の外観との差異に対応したコントラストの高い数字が形成された見返しリングを実現することができる。また、図7に示すように数字形状の露出部28a内側の内周に沿って時刻を分単位で表示するための切分として細線状の露出部28bを同時に形成しても良い。
【0024】
以上のように本実施例によれば、この蓄光性・夜光性能によって夜間に時刻を読み取ることが可能となり暗闇での視認性が向上すると共に、繊細な文字を表現できるため、時計用表示板の見返しリングの外観品質が向上され、且つ、デザインバリエ一ションの拡大を図ることができる。
【実施例2】
【0025】
実施例2における見返しリング及びその製造方法について図3、図4に基づいて説明する。図3は実施例2における時計用の表示板の外縁に上方から当接する見返しリングを示し、図3(a)は平面図、図3(b)は図3(a)におけるB−B断面図、図3(c)は図3(b)におけるB部の部分拡大断面図である。また、図4は見返しリングの製造工程を示す図である。本実施例における見返しリングは、下地層が下位層である第1の下地層と上位層である第2の下地層とで構成されている点が実施例1と異なっており、その他、基本的な構成は実施例1と類似している。以下、図に基づいて説明する。
【0026】
図3に示すように本実施例における見返しリング34は、時計用の表示板25の外縁に上方から当接するように配置されており、金属材料(黄銅)からなる基体36の内周に沿って斜面状に形成される見返し面36aが形成されている。この見返し面36aを含む見返しリングの基体36の表面に第1の下地層として金色の金属層39が形成されており、この金属層39の表面側に第2の下地層として蓄光性夜光層38が形成されており、この蓄光性夜光層38の表面側に装飾層としてカラー塗料層37が積層されている。
【0027】
このカラー塗料層37には、エキシマレーザ光をパターン状に照射し被照射部分を蒸散させることによりカラー塗料層37の開口部37aが形成されており、この開口部37aは矩形の形状をした開口部で、この開口部37aに対応する位置に第2の下地層である蓄光性夜光層38の露出部38aが露出されている。この矩形形状の蓄光性夜光層38の露出部38aは、時計の時刻を表示する1時から12時までの所定の位置に形成されている。さらに、蓄光性夜光層38の露出部38aには、エキシマレーザ光をパターン状に照射し被照射部分を蒸散させることにより蓄光性夜光層38の露出部38aに開口部38bが形成されており、この開口部38bは数字の形状をした開口部で、この開口部38bに対応する位置に第1の下地層である金属層39の露出部39aが露出されている。この数字の形状をした金属層39の露出部39aは、時計の時刻を表示するための時字に相当し、1から12までの数字が1時から12時までの所定の位置に形成されている。これによって見返しリング34の基体36の見返し面36aに時計の時刻を表示する1時から12時までの所定の位置に蓄光性夜光層38の矩形状の露出部38aが形成され、さらに矩形状の露出部38aに1から12までの数字が表現される。
【0028】
次に、本実施例における見返しリングの製造方法について図4に基づいて説明する。まず、切削加工により金属材である黄銅材料からなるリング状の見返しリングの基体36を形成する。この基体36には内周に沿って斜面状に形成される見返し面36aが形成されている。次に、図4(a)に示すように、この基体36の見返し面36aを含む基体36の表面上に金メッキ(湿式)処理を施し、第1の下地層として金メッキ層からなる金属層39を形成する。金属層39の厚さは、特に制限されるものではないが0.3〜1.0μmが好ましい。
【0029】
次に金属層39の表面側に蓄光性夜光塗料を塗装するか、または、蓄光性夜光インキを手塗りで塗布することにより第2の下地層として蓄光性夜光層38を形成する。蓄光性夜光層38の厚さは、特に制限されるものではないが20〜50μmが好ましい。
次に蓄光性夜光層38の表面にカラー塗料層37を形成する。カラー塗料層37は、エポキシ系、アクリル系など樹脂を主体とした塗料に着色材(顔料や染料)を含むものを使用し、刷毛塗装、噴霧塗装等で形成し、厚さについては特に限定されるものではないが、10〜20μmが好ましい。また、カラー塗料層37に用いる塗料の色は実施例1と同様に白色とした。
【0030】
次に、図4(b)に示すように、カラー塗料層37にエキシマレーザ光21をパターン状に照射し被照射部分を蒸散させることによりカラー塗料層37の開口部37aを形成する。この開口部37aは矩形形状をなし、この開口部37aによって第2の下地層である蓄光性夜光層38の露出部38aが露出される。エキシマレーザ光21の照射は実施例1と同様に、見返しリングの基体36が所定の治具に固定されて回転され、これにともなって1時から12時までの所定の位置でエキシマレーザ光21が順次照射され矩形形状をしたカラー塗料層37の開口部37aを形成される。これによって、カラー塗料層37の開口部37aに対応する位置に蓄光性夜光層38の矩形形状の露出部38aが形成される。
【0031】
次に、図4(c)に示すように、蓄光性夜光層38の矩形形状の露出部38aにエキシマレーザ光21をパターン状に照射し被照射部分を蒸散させることにより蓄光性夜光層38の矩形形状の露出部38aに開口部38bを形成する。この開口部38bは数字の形状をなし、この開口部38bによって第1の下地層である金属層39の露出部39aが露出される。この状態を図4(d)に示す。エキシマレーザ光21の照射は前工程と同様で、1時から12時までの所定の位置でエキシマレーザ光21が順次照射され、矩形形状をした蓄光性夜光層38の露出部38aに数字形状の開口部38bが形成され、これに対応する位置に1から12までの形状をした金属層39の露出部39aが形成される。これによって、図3に示すような見返し面36aに蓄光性夜光層38の矩形状の露出部38aと、この露出部38aに金色の金属質感を有する数字が形成された見返しリング34を実現することができる。
【0032】
尚、本実施例においては、第2の下地層として蓄光性夜光層38を用いた例で説明したが、第2の下地層として、装飾層と異なる色のカラー塗料を用いた塗料層を形成しても良い。また、第1の下地層として金メッキによる金属層39を用いた例で説明したが、同様に、装飾層と異なる色のカラー塗料を用いた塗料層を形成しても良い。
【0033】
以上のように本実施例によれば、下地層を多層構造とすることにより、複数のカラー、夜光性能、金属質感等を組み合わせた文字、マーク、模様等が得られ複雑な模様を表現することができる。これによって、時計用表示板の見返しリングの外観品質が向上され、且つ、デザインバリエ一ションの拡大を図ることができる。
【実施例3】
【0034】
実施例3における見返しリング及びその製造方法について図5、図6に基づいて説明する。図5は実施例3における時計用の表示板の外縁に上方から当接する見返しリングを示し、図5(a)は平面図、図5(b)は図5(a)におけるC−C断面図、図5(c)は図5(b)におけるC部の部分拡大断面図である。また、図6は見返しリングの製造工程を示す図である。本実施例における見返しリングは、下地層が下位層である第1の下地層と上位層である第2の下地層とで構成されている点は実施例2と同様であり、装飾層の開口部の形状と第2の下地層における開口部の形状とが、ほぼ同形状に形成されている点が実施例2と異なる点である。以下、図に基づいて説明する。
【0035】
図5に示すように本実施例における見返しリング44は、時計用の表示板25の外縁に上方から当接するように配置されており、金属材料(黄銅)からなる基体46の内周に沿って斜面状に形成される見返し面46aが形成されている。この見返し面46aを含む見返しリングの基体46の表面に第1の下地層として銀の蒸着層からなる金属層49が形成されており、この金属層49の表面側に第2の下地層として黒色の塗膜層48が形成されており、この黒色の塗膜層48の表面側に装飾層としてカラー塗料層47が積層されている。
【0036】
このカラー塗料層47と第2の下地層として黒色の塗膜層48には、エキシマレーザ光をパターン状に照射し被照射部分を蒸散させることによりカラー塗料層47の開口部47aと塗膜層48の開口部48bとが形成されており、この開口部47a、48bは数字の形状をした開口部で、この開口部47a、48bに対応する位置に第1の下地層である金属層49の露出部49aが露出されている。この数字の形状をした金属層49の露出部49aは、時計の時刻を表示するための時字に相当し、1から12までの数字が1時から12時までの所定の位置に形成されている。これによって見返しリング44の見返し面46aに時計の時刻を表示する1時から12時までの所定の位置に1から12までの数字が表現される。
【0037】
次に、本実施例における見返しリングの製造方法について図6に基づいて説明する。まず、切削加工により金属材である黄銅材料からなるリング状の見返しリングの基体46を形成する。この基体46には内周に沿って斜面状に形成される見返し面46aが形成されている。次に、図6(a)に示すように、この基体46の見返し面46aを含む基体46の表面上に銀を真空蒸着し、第1の下地層として銀蒸着層からなる金属層49を形成する。金属層49の厚さは、特に制限されるものではないが0.03〜0.2μmが好ましい。
【0038】
次に金属層49の表面側に第2の下地層として黒色の塗膜層48を形成する。この塗膜層48はエポキシ系、アクリル系など樹脂を主体とした塗料に黒色の顔料を含むものを使用し、刷毛塗装、噴霧塗装等で形成し、厚さについては特に限定されるものではないが、10〜20μmが好ましい。
【0039】
次に黒色の塗膜層48の表面にカラー塗料層47を形成する。カラー塗料層47は、エポキシ系、アクリル系など樹脂を主体とした塗料に着色材(顔料や染料)を含むものを使用し、刷毛塗装、噴霧塗装等で形成し、厚さについては特に限定されるものではないが、10〜20μmが好ましい。また、カラー塗料層47に用いる塗料の色については、実施例1と同様に白色とした。
【0040】
次に、図6(b)に示すように、カラー塗料層47にエキシマレーザ光21パターン状に照射し被照射部分を蒸散させカラー塗料層47の開口部47aを形成する。この開口部47aによって第2の下地層である黒色の塗膜層48の露出部48aが露出される。続いて図6(c)に示すように、第2の下地層である黒色の塗膜層48の露出部48aにエキシマレーザ光21を開口部47aと同パターン状に照射し被照射部分を蒸散させ、黒色の塗膜層48の開口部48bを形成する。この開口部47a、48bの形状は、数字の形状をなし、この開口部47a、48bよって、金属層49の露出部49aが露出される、この状態を図6(d)に示す。
【0041】
エキシマレーザ光21の照射は実施例1と同様に、見返しリングの基体46が所定の治具に固定されて回転され、これにともなって1時から12時までの所定の位置でエキシマレーザ光21が順次照射され数字形状をしたカラー塗料層47の開口部47aと黒色の塗膜層48の開口部48bとが形成される。この開口部47a、48bに対応する位置に1から12までの形状をした金属層49の露出部49aが形成される。これによって、図5に示すような見返し面46aに銀色の金属質感を有する数字が形成された見返しリング44を実現することができる。
【0042】
尚、本実施例においては、第1の下地層として銀蒸着による金属層49を用いた例で説明したが、第1の下地層として蓄光性蛍光層を用いても良い。また、塗膜層48は黒色を例として説明したが、これに限定されるものではなく、状況に応じて各種の色を用いることができる。
【0043】
また、本実施例においては、1時から12時までの全ての位置において第1の下地層である金属層49の露出部49aを形成した例で説明したが、図8、図9(a)に示すように12時の位置のみに金属層49の露出部49aを形成し、図8、図9(b)に示すように、その他の位置においては、第2の下地層である黒色の塗膜層48の露出部48aを形成しても良い。図9(a)は図8におけるD−D断面図、図9(b)は図8におけるE−E断面図である。
【0044】
以上のように本実施例によれば、下地層を多層構造とし、形成する開口部の深さを大きくすることにより立体感のある文字、マーク、模様等が得られる。また、実施例2と同様に複数のカラー、夜光性能、金属質感等を組み合わせた文字、マーク、模様等が得られ複雑な模様を表現することができる。これによって、時計用表示板の見返しリングの外観品質が向上され、且つ、デザインバリエ一ションの拡大を図ることができる。
【0045】
尚、各実施例においては、基体材料として樹脂材料としてABS樹脂を用いる場合を例とし、また金属材料として黄銅を用いる場合を例として説明したが、これに限定される物ではなく、この他に、ポリカーボネイト、ポリアミド、アクリル等の各種樹脂材料、ステンレス、洋白、アルミニウム、チタン等の金属や合金からなる各種の金属材料、セラミックス、石、貝等を用いても良い。
【0046】
また、各実施例においては、見返しリングの基体表面に形成した下地層に露出部を形成した例で説明したが、基体材料として、石、貝等を用い、基体表面に、その露出部を形成しても良い。
【0047】
また、下地層としての金属層に、金、銀の他に、ロジウム、銅、ニッケル、クロム、アルミニウム等の各種金属材料からなる湿式メッキ層、または蒸着、スパッタ等の乾式メッキ層を用いることができる。
【0048】
また、各実施例においては、レーザ光としてエキシマレーザ光を例として説明したが、この他にヤグレーザ光、炭酸ガスレーザ光も用いることができる。但し、エキシマレーザ光は波長が短く、樹脂の分子結合を光子エネルギーで解除させ樹脂をベーパ化させるため照射部が高温にならず加工精度も高い。したがって、本発明におけるレーザマーキングに用いるレーザ光としてはエキシマレーザ光が好ましい。
【0049】
また、実施例においては下地層の下位層、上位層として第1、第2の下地層の2層構造を例として説明したが、これに限定されるものではなく、3層、4層構造等の複数層構造とすることができる。
【0050】
また、実施例においては、エキシマレーザ光の照射が見返し面に略垂直に照射する例で説明したが、これに限定されるものではなく、見返し面に45度程度の角度で照射しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施例1における見返しリングを示し、図1(a)は平面図、図1(b)は図1(a)におけるA−A断面図、図1(c)は図1(b)におけるA部の部分拡大断面図である。
【図2】本発明の実施例1における見返しリングの製造工程を示す図である。
【図3】本発明の実施例2における見返しリングを示し、図3(a)は平面図、図3(b)は図3(a)におけるB−B断面図、図3(c)は図3(b)におけるB部の部分拡大断面図である。
【図4】本発明の実施例2における見返しリングの製造工程を示す図である。
【図5】本発明の実施例3における見返しリングを示し、図5(a)は平面図、図5(b)は図5(a)におけるC−C断面図、図5(c)は図5(b)におけるC部の部分拡大断面図である。
【図6】本発明の実施例3における見返しリングの製造工程を示す図である。
【図7】実施例1における見返しリングの他の例を示す平面図である。
【図8】実施例3における見返しリングの他の例を示す平面図である。
【図9】図8における見返しリングの断面図を示し、図9(a)は図8におけるD−D断面図、図9(b)は図8におけるE−E断面図である。
【図10】従来技術における時計外装の夜光構造を示す断面図である。
【図11】図10における見返しリングを示す平面図である。
【符号の説明】
【0052】
11 時計ケース
12 ガラス
13 夜光塗料
15、25 表示板
16、24、34、44 見返しリング
17a 丸
17b 四角
17c 三角
21 エキシマレーザ光
26、36、46 見返しリングの基体
26a、36a、46a 見返し面
27、37、47 カラー塗料層
27a、37a、47a カラー塗料層の開口部
28、38 蓄光性夜光層
28a、38a 蓄光性夜光層の露出部
28b 蓄光性夜光層の露出部(切分)
38b 蓄光性夜光層の開口部
39、49 金属層
39a、49a 金属層の露出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計用の表示板の外縁に上方から当接する見返しリングにおいて、該見返しリングの基体の見返し面に設ける下地層と、該下地層の表面側に設ける装飾層とを備え、該装飾層にレーザ光をパターン状に照射して該装飾層の被照射部分を蒸散させることにより、前記下地層にパターン状の露出部を形成したことを特徴とする見返しリング。
【請求項2】
前記下地層の露出部の一部または全領域にレーザ光を照射して前記下地層の露出部の被照射部分を蒸散させることにより、前記見返しリングの基体の見返し面にパターン状の露出部を形成したことを特徴とする見返しリング。
【請求項3】
前記下地層のパターン状の露出部は、模様、数字、文宇、マークの中の少なくとも一つからなることを特徴とする請求項lまたは請求項2に記載の見返しリング。
【請求項4】
前記下地層は、蓄光性夜光層、金属層、塗膜層の中の少なくとも一層からなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の見返しリング。
【請求項5】
前記下地層は、カラー化されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の見返しリング。
【請求項6】
前記下地層は複数の層からなり、上位層の下地層にレーザ光をパターン状に照射して、上位層の下地層の被照射部分を蒸散させることにより、下位層の下地層にパターン状の露出部を形成したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の見返しリング。
【請求項7】
前記レーザ光がエキシマレーザ光であることを特徴とする請求項1、2、6のいずれか1項に記載の見返しリング。
【請求項8】
時計用の表示板の外縁に上方から当接する見返しリングの製造方法において、該見返しリングの基体の見返し面に下地層を形成し、該下地層の表面側に装飾層を形成する工程と、該装飾層にレーザ光をパターン状に照射して装飾層の被照射部分を蒸散させることにより前記下地層にパターン状の露出部を形成する工程とを有することを特徴とする見返しリングの製造方法。
【請求項9】
前記下地層の露出部の一部または全領域にレーザ光を照射して前記下地層の露出部の被照射部分を蒸散させることにより、前記見返しリングの基体の見返し面にパターン状の露出部を形成する工程を有することを特徴とする請求項8に記載の見返しリングの製造方法。
【請求項10】
前記下地層として複数層の下地層を形成する工程と、該複数の下地層の上位層の露出部にレーザ光をパターン状に照射して被照射部分を蒸散させることにより前記下地層の下位層にパターン状の露出部を形成する工程とを有することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の見返しリングの製造方法。
【請求項11】
前記レーザ光がエキシマレーザ光であることを特徴とする請求項8、9、10のいずれか1項に記載の見返しリングの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−250731(P2006−250731A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68174(P2005−68174)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000124362)シチズンセイミツ株式会社 (120)
【出願人】(000001960)シチズン時計株式会社 (1,939)