説明

視力改善訓練装置および視力改善訓練制御プログラム

【課題】訓練者に標的となる図形が移動していることを認識させることができ、さらに効果的な訓練を行うことが可能な視力改善訓練装置および視力改善訓練制御プログラムを提供する。
【解決手段】視力改善訓練装置10は、表示部20が近点から遠点へ移動する際に、マーク20aが訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影されるように表示部20を制御しながら視力改善訓練を行う装置であって、出力制御部48は、訓練者とマーク20aが表示される表示部20との光学距離に応じて、訓練者に対して距離感を認識させる刺激としての音の高さを変えるようにスピーカー17を制御している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目の結像調節機能の訓練によって、近視や遠視(老視)等で低下した視力の改善を図る視力改善訓練装置および視力改善訓練制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、目の調整筋(毛様体筋)の調節緊張や衰弱による目の結像調節機能の低下に起因して低下した視力の改善を図るために、視力改善訓練装置が用いられている。
このような視力改善訓練装置では、訓練者が視力改善訓練用画像にのみ意識を集中させることで、訓練効果を高めることが特に重要である。
【0003】
例えば、特許文献1では、訓練者の目の位置と表示部の位置との光学距離に応じて、筐体内部に設置された表示部に表示される視力改善訓練用画像(標的)の表示の大きさを変更する視力改善訓練装置(視力改善装置)について開示されている。具体的には、標的の移動中に訓練者の網膜上に一定の大きさの像が形成されるように、標的の移動に伴って、遠点寄りにある時には標的の図形を大きく表示し、近点寄りにある時には標的の図形を小さく表示する。これにより、標的と接眼部との光学距離に比例して標的の図形の大きさが変化するために、訓練者が移動する標的の図形に焦点を合わせやすくなり、より効果的な訓練を実施することができる。
【特許文献1】特許第3766681号公報(平成18年2月3日登録)
【特許文献2】再公表特許WO2006/006563号公報(平成18年1月19日国際公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の視力改善訓練装置では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示された視力改善訓練装置では、標的の移動中に訓練者の網膜上に一定の大きさの像が形成されるように標的の図形を表示しているために、近点から遠点へ標的を移動させても、訓練者がその移動を認識することができない。一方、脳は、標的の図形が移動していることを認知することによって、標的の図形にピントを合わせようとする。このため、視力改善訓練は、訓練者の脳に標的となる図形が移動していることを認識させることによって、より大きな効果を上げることができる。
【0005】
本発明の課題は、訓練者に標的となる図形が移動していることを認識させることができ、さらに効果的な訓練を行うことが可能な視力改善訓練装置および視力改善訓練制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る視力改善訓練装置は、目の結像調節機能の訓練を行う視力改善訓練装置であって、表示部と、移動部と、提供部と、第1制御部と、第2制御部と、を備えている。表示部は、視力改善訓練用の画像である視標を表示する。移動部は、表示部を、訓練者に対して遠点と近点との間で移動させる。提供部は、訓練者に対して距離感を認識させる刺激を提供する。第1制御部は、表示部が移動する際に、視標が訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影されるように表示部を制御する。第2制御部は、訓練者と表示部との光学距離に基づいて、訓練者に提供する刺激の程度を変えるように提供部を制御する。
【0007】
ここでは、例えば、訓練者が筐体内を覗き込んだ状態で、筐体等の内部に設置された視標が表示される表示部を遠ざけたり近づけたりすることで、目の結像調節訓練を行う視力改善訓練装置において、表示部が移動しても視標が訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影されるように表示部を制御している。そして、訓練者と視標が表示される表示部との光学距離に応じて、訓練者に提供する刺激の程度を変えるように提供部を制御している。
【0008】
なお、ここでいう「訓練者に対して距離感を認識させる刺激」とは、訓練者の五感に感じる刺激を意味し、例えば、音や振動等がこれに該当する。
【0009】
ここで、上記視力改善訓練用の画像には、円や三角形、四角形、リング形状等の図形やアルファベット、ひらがな、カタカナ、写真、アニメーション等が含まれる。このような画像を表示する表示部としては、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、CRTディスプレイ等の電子的な表示手段を用いることができる。また、上記画像が往復移動する範囲において最も遠い地点となる遠点とは、毛様体筋(輪状筋)の弛緩、収縮によって厚さの調整を行う目のレンズの厚み調整が全くなされていない状態で網膜の中心窩に結像する外界の点、または、上記視力改善訓練装置において表示部が訓練者から最も遠くなる点をいう。一方、上記画像が往復移動する範囲において最も近い地点となる近点とは、目のレンズの厚み調節を最も大きくした状態で網膜の中心窩に結像する外界の点、または、上記視力改善訓練装置において表示部が訓練者から最も近くなる点をいう。なお、近点と遠点とは、訓練者と画像(表示部)の光学距離が短い所定の位置にある1点と、その1点よりも光学距離が長い所定の位置にある1点とで、それぞれ設定してもよい。さらに、表示部に表示される画像を遠点と近点との間において往復移動させる移動部としては、例えば、プーリやベルト等を含む搬送手段やスクリューを回転させて表示部を所望の方向において往復移動させる搬送手段、あるいは視覚的に遠点と近点との間において画像が往復移動しているように画像表現等による表示を行う表示手段等が含まれる。
【0010】
従来の視力改善訓練装置、すなわち、表示部が移動する際に、視標が訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影されるように表示部が制御されている視力改善訓練装置においては、訓練者は、一般的にその視標の移動を認識することができないという問題がある。一方、脳は、視標が移動していることを認知することによって、視標にピントを合わせようとするので、脳に視標が移動していることを認識させながら視力改善訓練を行うことでより大きな効果を上げることができることが知られている。
【0011】
本発明の視力改善訓練装置では、第1制御部が、表示部が移動する際に、視標が訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影されるように表示部を制御している。これにより、訓練者が移動する視標に焦点を合わせやすくなり、より効果的な訓練を実施することができる。さらに、本発明の視力改善訓練装置では、第1制御部が上記制御をすることによって訓練者が視標の移動を認識することができなくなるという問題の解消をするために、第2制御部が、訓練者と表示部との光学距離に基づいて、訓練者に提供する刺激の程度を変えるように提供部を制御している。これにより、訓練者は、訓練者と視標を表示する表示部との光学距離に応じて変化する刺激を意識するようになり、視標が近点から遠点に向かって移動していることを認識できるようになる。すなわち、訓練者は、視標が遠ざかっていくことを認識しながら、訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影される視標に対してピントを合わせる訓練を行うことが可能となる。
【0012】
この結果、訓練者に対して、標的となる図形である視標が移動していることを認識させることができ、さらに効果的な訓練を行うことが可能となる。
なお、本発明の視力改善訓練装置は、近点から遠点に移動する視標を注視させて視力の改善を図る、いわゆる近視用の視力改善訓練や、遠点から近点に移動する視標を注視させて視力の改善を図る、いわゆる遠視(老視)用の視力改善訓練に用いることが可能である。
【0013】
第2の発明に係る視力改善訓練装置は、第1の発明に係る視力改善訓練装置であって、第2制御部は、訓練者と表示部との光学距離が長くなるに従って、訓練者に提供する刺激の程度が規則的な変化をするように、提供部を制御する。
【0014】
ここでは、訓練者と表示部との光学距離と、訓練者に提供する刺激の程度との関係が規則的な変化をすることを示している。なお、規則的な変化としては、直線的な線形変化、2次曲線的または多項式で表される曲線的な変化、対数線形変化等が挙げられる。
【0015】
これにより、訓練者が、訓練者と表示部との光学距離に応じて上記刺激が変化していることをはっきりと認識することが可能となる。
【0016】
第3の発明に係る視力改善訓練装置は、第2の発明に係る視力改善訓練装置であって、規則的な変化は、訓練者と表示部との光学距離が長くなるに従って、訓練者に提供する刺激の程度が小さくなるような変化である。
【0017】
これにより、訓練者が、訓練者と表示部との光学距離をはっきりと認識することが可能となる。
【0018】
第4の発明に係る視力改善訓練装置は、第1から第3の発明のいずれか1つに係る視力改善訓練装置であって、提供部は、訓練者に対して音を提供する。
【0019】
ここでは、訓練者に提供する刺激の一つとして、音を提供している。
これにより、視標を表示する表示部の動きに合わせて音を出すことによって、訓練者に対して、表示部が移動していることを認識させることが可能となる。
【0020】
第5の発明に係る視力改善訓練装置は、第4の発明に係る視力改善訓練装置であって、第2制御部は、表示部の位置が近点に近いほど高い音を提供するように提供部を制御する。
【0021】
ここでは、表示部が遠点側から近点側に移動するとき、提供部が提供する音の高さは、低い音から高い音に徐々に変化する。一方、表示部が近点側から遠点側に移動するとき、提供部が提供する音の高さは、高い音から低い音に徐々に変化する。
【0022】
これにより、訓練者は、音の変化を認識するようになり、視標が遠点側から近点側に移動していること、あるいは、近点側から遠点側に移動していることを認識することが可能となる。
【0023】
第6の発明に係る視力改善訓練装置は、第5の発明に係る視力改善訓練装置であって、第2制御部は、表示部の位置が近点に近いほど大きな音を提供するように提供部を制御する。
【0024】
ここでは、表示部が遠点側から近点側に移動するとき、提供部が提供する音の大きさは、小さな音から大きな音に徐々に変化する。一方、表示部が近点側から遠点側に移動するとき、提供部が提供する音の大きさは、大きな音から小さな音に徐々に変化する。
【0025】
これにより、訓練者は、音の変化を認識するようになり、視標が遠点側から近点側に移動していること、あるいは、近点側から遠点側に移動していることを認識することが可能となる。この結果、さらに効果的な訓練を行うことが可能となる。
【0026】
第7の発明に係る視力改善訓練装置は、第1から第3の発明のいずれか1つに係る視力改善訓練装置であって、提供部は、訓練者に対して振動を提供する。
ここでは、訓練者に提供する刺激の一つとして、振動を提供している。
【0027】
なお、訓練者に対する振動の提供は、訓練者が触れている任意の部分を介して行うことができる。
これにより、視標を表示する表示部の動きに合わせて振動を与えることによって、訓練者に対して、表示部が移動していることを認識させることが可能となる。
【0028】
第8の発明に係る視力改善訓練装置は、第7の発明に係る視力改善訓練装置であって、第2制御部は、表示部の位置が近点に近いほど強い振動を提供するように提供部を制御する。
【0029】
ここでは、表示部が遠点側から近点側に移動するとき、提供部が提供する振動の強さは、弱い振動から強い振動に徐々に変化する。一方、表示部が近点側から遠点側に移動するとき、提供部が提供する振動は、強い振動から弱い振動に徐々に変化する。
【0030】
これにより、訓練者は、振動の変化を認識するようになり、視標が遠点側から近点側に移動していること、あるいは、近点側から遠点側に移動していることを認識することが可能となる。
【0031】
第9の発明に係る視力改善訓練装置は、第8の発明に係る視力改善訓練装置であって、第2制御部は、表示部の位置が近点に近いほど高い周波数の振動を提供するように提供部を制御する。
【0032】
ここでは、表示部が遠点側から近点側に移動するとき、提供部が提供する振動の周期は、低い周波数から高い周波数に徐々に変化する。一方、表示部が近点側から遠点側に移動するとき、提供部が提供する振動の周期は、高い周波数から低い周波数に徐々に変化する。
【0033】
これにより、訓練者は、振動の変化を認識するようになり、視標が遠点側から近点側に移動していること、あるいは、近点側から遠点側に移動していることを認識することが可能となる。
【0034】
第10の発明に係る視力改善訓練装置は、第1から第9の発明のいずれか1つに係る視力改善訓練装置であって、提供部は、表示部の移動方向に沿って複数配置されている。
ここでは、提供部の配置方法について具体的に示している。
【0035】
これにより、視標の移動に合わせて刺激を提供する提供部を切り換える等の制御が可能となり、訓練者に対して、視標に対する距離感をより強く認識させることが可能となる。
【0036】
第11の発明に係る視力改善訓練制御プログラムは、目の結像調節機能の訓練を行う視力改善訓練制御方法をコンピュータに実行させる視力改善訓練制御プログラムであって、表示ステップと、移動ステップと、提供ステップと、第1制御ステップと、第2制御ステップとを備えている。表示ステップは、視力改善訓練用の画像である視標を表示する。移動ステップは、視標を、訓練者に対して遠点と近点との間で移動させる。提供ステップは、訓練者に対して距離感を認識させる刺激を提供する。第1制御ステップは、視標が移動する際に、視標が訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影されるように視標を制御する。第2制御ステップは、訓練者と視標との光学距離に基づいて、提供ステップにおいて訓練者に提供する刺激の程度を制御する。
【0037】
ここでは、例えば、訓練者が筐体内を覗き込んだ状態で、筐体等の内部に設置された視標が表示される表示部を遠ざけたり近づけたりすることで、目の結像調節訓練を行う視力改善訓練装置に本プログラムを適用した場合において、表示部が移動しても視標が訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影されるように表示部を制御している。そして、訓練者と視標が表示される表示部との光学距離に応じて、訓練者に提供する刺激の程度を変えるように提供部を制御している。
【0038】
なお、ここでいう訓練者に対する刺激とは、訓練者の五感に感じる刺激を意味し、例えば、音や振動等がこれに該当する。
【0039】
ここで、上記視力改善訓練用の画像には、円や三角形、四角形、リング形状等の図形やアルファベット、ひらがな、カタカナ、写真、アニメーション等が含まれる。このような画像を表示する表示部としては、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、CRTディスプレイ等の電子的な表示手段を用いることができる。また、上記画像が往復移動する範囲において最も遠い地点となる遠点とは、毛様体筋(輪状筋)の弛緩、収縮によって厚さの調整を行う目のレンズの厚み調整が全くなされていない状態で網膜の中心窩に結像する外界の点、または、上記視力改善訓練装置において表示部が訓練者から最も遠くなる点をいう。一方、上記画像が往復移動する範囲において最も近い地点となる近点とは、目のレンズの厚み調節を最も大きくした状態で網膜の中心窩に結像する外界の点、または、上記視力改善訓練装置において表示部が訓練者から最も近くなる点をいう。なお、近点と遠点とは、訓練者と画像(表示部)の光学距離が短い所定の位置にある1点と、その1点よりも光学距離が長い所定の位置にある1点とで、それぞれ設定してもよい。さらに、表示部に表示される画像を遠点と近点との間において往復移動させる移動部としては、例えば、プーリやベルト等を含む搬送手段やスクリューを回転させて表示部を所望の方向において往復移動させる搬送手段、あるいは視覚的に遠点と近点との間において画像が往復移動しているように画像表現等による表示を行う表示手段等が含まれる。
【0040】
本発明の視力改善訓練制御プログラムでは、第1制御ステップが、訓練者と視標との光学距離にかかわらず、視標が訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影されるように制御している。これにより、訓練者が移動する視標に焦点を合わせやすくなり、より効果的な訓練を実施することができる。さらに、本発明の視力改善訓練制御プログラムでは、第1制御ステップが上記制御をすることによって訓練者が視標の移動を認識することができなくなるという問題の解消をするために、第2制御ステップにおいて、訓練者と視標との光学距離に基づいて、訓練者に提供する刺激の程度を変えるように提供ステップを制御している。これにより、訓練者は、訓練者と視標との光学距離に応じて変化する刺激を意識するようになり、視標が近点から遠点に向かって移動していることを認識できるようになる。すなわち、訓練者は、視標が遠ざかっていくことを認識しながら、訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影される視標に対してピントを合わせる訓練を行うことが可能となる。
【0041】
この結果、訓練者に対して、標的となる図形である視標が移動していることを認識させることができ、さらに効果的な訓練を行うことが可能となる。
なお、本発明の視力改善訓練制御プログラムは、近点から遠点に移動する視標を注視させて視力の改善を図る、いわゆる近視用の視力改善訓練や、遠点から近点に移動する視標を注視させて視力の改善を図る、いわゆる遠視(老視)用の視力改善訓練に用いることが可能である。
【発明の効果】
【0042】
本発明に係る視力改善訓練装置によれば、訓練者に視標が移動していることを認識させることができ、さらに効果的な訓練を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の一実施形態に係る視力改善訓練装置10について、図1〜図7を用いて説明すれば以下の通りである。
[視力改善訓練装置10全体の構成]
本実施形態に係る視力改善訓練装置10は、図1および図2に示すように、所定の方向において往復移動する筐体部11内の表示部20に表示されるマーク(視標)20a(図4参照)を注視させることにより、近視あるいは遠視(老視)によって低下した視力の改善を図る装置である。具体的には、訓練者ごとに設定される近点と遠点との間において表示部20を往復移動させ、マーク20aが近点から遠点に移動する際、あるいは、遠点から近点に移動する際に、訓練者が移動中のマーク20aを注視して訓練を行う。
【0044】
なお、この遠点とは、目のレンズの厚さの調節を全くしていないときに、網膜の中心窩に結像する外界の点、または、上記視力改善訓練装置において表示部が訓練者から最も遠くなる点をいい、近点とは、レンズの厚さの調節を極度にしたときに網膜の中心窩に結像する外界の点、または、上記視力改善訓練装置において表示部が訓練者から最も近くなる点をいう。なお、近点と遠点とは、訓練者と画像(表示部20)の光学距離が短い所定の位置にある1点と、その1点よりも光学距離が長い所定の位置にある1点とで、それぞれ設定してもよい。
【0045】
また、本実施形態では、視力改善訓練用のマーク20aとして、図4等に示すように、略円形のリング状の図形を用いているが、訓練者が訓練中に焦点を合わせやすいものであれば形状や色等は問わない。
【0046】
視力改善訓練装置10は、図1および図2に示すように、略直方体の筐体部11と、筐体部11の壁面に設けられた接眼部12と、筐体部11内に設けられた移動部13と、床面14と、開口15と、照明部16と、スピーカー(提供部)17と、表示部20と、制御部40とを備えている。
【0047】
接眼部12は、視力改善訓練を実施する訓練者が目を当てた状態で、筐体部11内において移動する表示部20を見るための覗き穴である。そして、接眼部12は、本実施形態では2つ設けられているが、少なくとも1つ設けられていればよい。また、接眼部12には、図示しないシャッター等が設置されており、シャッター等によって接眼部12の片方を閉じておくことで、片目ずつ交互に視力改善訓練を実施することができる。また、シャッター等を使用しない場合は、両目での視力改善訓練を実施することができる。
【0048】
移動部13は、筐体部11内における床面14下の空間に設置されており、モータ30と支持部21、台座部22、スクリュー23を含んでいる。また、移動部13は、制御部40によってモータ30の駆動を制御され、表示部20を所定の方向に往復移動させる。
【0049】
床面14には、表示部20を支持する支持部21が移動するための開口15が形成されている。開口15は、近点と遠点とを結ぶ方向に沿って形成されている。
照明部16は、訓練者が接眼部12から表示部20に表示されるマーク20aを見やすくするために、接眼部12が設けられた側の壁面に設置された照明装置である。照明部16は、表示部20におけるマーク20aの種類や表示状態、表示色等に応じて適切な明るさに設定できることが好ましい。
【0050】
スピーカー17は、訓練者が接眼部12から覗き込んで見る方向に1つ配置されている。そして、スピーカー17は、後述する出力制御部48に接続されており、出力制御部48に制御されて音(距離感を認識させる刺激)を出力する。
【0051】
表示部20は、訓練者が接眼部12を介して目視できる範囲内に配置されており、後述するマーク20aを表示する。また、表示部20は、棒状の支持部21によって台座部22から支持されており、モータ30によってスクリュー23を所定の方向へ回転させることで、スクリュー23に嵌合した台座部22ごと、予め設定された近点と遠点との間を往復移動する。なお、表示部20としては、液晶ディスプレイが用いられており、制御部40によってマーク20aの大きさや形状の制御や着色等が可能である。
【0052】
制御部40は、図2および図3に示すように、表示部20、モータ30および入力部31に接続されており、表示部20におけるマーク20aの表示制御、スピーカー17における音出力、音の高さ、音の大きさ等の制御、移動部13による表示部の移動速度、移動方向等の制御を行う。なお、この制御部40の構成については、後段にて詳述する。
【0053】
(制御部40)
制御部40は、図3に示すように、入力制御部41、表示制御部(第1制御部)42、記憶部43、駆動制御部44、移動方向制御部45、位置制御部46、速度制御部47および出力制御部(第2制御部)48を有している。
【0054】
入力部31は、入力スイッチ等であって、表示部20において表示されるマーク20a(視力改善訓練用の画像(図形))に関する制御情報や後述する近点および遠点に関する位置情報が、視力改善訓練の開始前に予め入力される。
【0055】
なお、近点および遠点に関する位置情報は、接眼部12から表示部20までの光学距離として示されるものであるが、訓練者によって個人差があるため訓練者ごとに調整する必要がある。具体的には、近点は接眼部12から100〜300mmの範囲で、遠点は接眼部12から500〜3000mmの範囲で、それぞれ訓練者ごとに適切な数値が入力される。
【0056】
入力制御部41は、表示制御部42と駆動制御部44とにそれぞれ接続されており、入力部31に対して入力された表示部20におけるマーク20a(表示図形)等の制御情報やモータ30に関する制御情報等がそれぞれ送信される。入力制御部41は、さらに、出力制御部48にも接続されている。そして、音の周波数変化(高低)や音の大きさ変化(大小)について、あらかじめ設定された制御情報を出力制御部48に送信する。これにより、スピーカー17は、あらかじめ設定された制御情報に従って、訓練者に音を提供する。また、医者や訓練師等の操作者または訓練者は、訓練者と表示部20との光学距離に応じてスピーカー17から出力される音について、音の高さ(音の高い,低い)を変えるのか、音の大きさを変えるのかを設定することもできる。具体的には、医者や訓練師等の操作者または訓練者が、入力部31において音の高さや音の大きさに関する情報を入力することによって、上記制御情報を変更することができる。なお、音の高さや音の大きさは、それぞれ個別に設定が行われてもよい。
【0057】
表示制御部42は、入力制御部41から受信した制御情報に基づいて、適切な大きさのマーク20aを表示するように表示部20を制御する。また、表示制御部42は、位置制御部46において取得した接眼部12と表示部20との間の光学距離に関する情報についても表示するように表示部20を制御する。表示制御部42は、入力された制御情報に基づいて、予め記憶部43に格納された図形データの中からマーク20aとして使用する所定の図形を選び出し、選んだ図形とその大きさに関する情報を表示部20に表示させる。このように、接眼部12から表示部20までの光学距離とマーク20a等の図形の大きさ等の情報を表示することにより、視力改善訓練の結果として、どの図形がどの程度の光学距離までよく見えるようになったかを医者や訓練師等の操作者または訓練者に認識させることができる。よって、訓練者に視力改善訓練による効果を認識させ、次回の視力改善訓練を行う動機付けとすることができる。
【0058】
また、表示制御部42では、接眼部12と表示部20との間の光学距離に比例して、表示部20に表示されるマーク20aの大きさを変化させるように表示部20を制御する。具体的には、表示制御部42は、図5(a)〜図5(c)に示すように、近点付近ではマーク20aを小さく表示し、表示部20が中間地点付近から遠点付近に向かって接眼部12から離れていくにつれて、徐々にマーク20aを大きく表示するように表示部20を制御する。逆に、表示部20を遠点から近点へ移動させる際には、表示制御部42は、遠点付近ではマーク20aを大きく表示し、近点に近づくにつれてマーク20aを小さく表示するように、表示部20を制御する。これにより、視力改善訓練を行う訓練者の網膜上には、接眼部12と表示部20との間の光学距離に関わらず、常時ほぼ同じ大きさのマーク20aが表示される。このように、目の網膜上に形成される像の大きさをほぼ一定に保つと、脳に入る視覚情報の量が減るため、訓練者はマーク20aに目の焦点を合わせやすくなる。このため、視力改善訓練を行う訓練者は、マーク20aを見易くなって、マーク20aに集中した状態で視力改善訓練を実施することができる。なお、上述のように、表示部20に表示されるマーク20aの大きさを制御した場合でも、訓練者は図形に目の焦点を合わせるために結像調節機能を稼働させることができる。よって、視力改善訓練中にマーク20aの大きさを変化させたとしても、視力改善の効果を損なうことはない。
【0059】
さらに、表示制御部42は、表示部20に表示されるマーク20aおよびその背景20bの色についても制御する。マーク20aおよびその背景20bの色に関するデータは、予め記憶部43に格納されている。表示制御部42は、入力部31から入力された制御情報に基づいて、マーク20aの色に関するデータを取得する。
【0060】
なお、マーク20aや背景20bの色の設定については特に限定されるものではないが、表示制御部42が、マーク20aの色として赤、緑または青のいずれか1つ、背景20bの色として黒を選択した場合には、より効果的に訓練者がマーク20aに集中しやすくなる。これは、人の目の網膜内の光受容器が赤、緑、青の3種類の色のそれぞれの波長の光に対する吸収特性を有する錐体と明暗を識別する杆体からなっており、この光受容器の特性から赤、緑または青の図形が見やすいからである。また、背景20bを黒色とすることにより、マーク20aの識別をさらに容易として、視力改善訓練を行う訓練者がマーク20aにさらに集中しやすくすることができる。さらに、背景色を黒に設定した場合には、目に対して最も刺激が少ないため、訓練者はよりリラックスした状態で訓練を行うことができる。
【0061】
記憶部43は、表示部20において表示されるマーク20aとして、複数の形状の図形や文字、記号、画像等の情報や、図形や背景の色情報等を格納している。また、記憶部43は、視力改善訓練を行う訓練者ごとに設定される近点や遠点の光学距離に関する情報を格納しており、訓練者は視力改善訓練を開始する際に以前設定した近点、遠点の光学距離に関する情報を記憶部43から読み出して使用することができる。
【0062】
駆動制御部44は、移動方向制御部45、位置制御部46、速度制御部47によって、表示部20を駆動するモータ30の制御を行う。具体的には、移動方向制御部45は、表示部20が遠点から近点に向かう方向、あるいは、近点から遠点に向かう方向のいずれの方向に移動するかを制御する。また、位置制御部46は、表示部20の位置や、入力部31から設定入力された遠点、近点の位置を制御する。速度制御部47は、モータ30の回転数を制御することで、スクリュー23の回転に伴って移動する表示部20の移動速度を制御する。
【0063】
移動方向制御部45は、入力部31から視力改善訓練装置10の起動信号が入力されると、表示部20の遠点と近点との間における移動方向を制御する。なお、近視用の視力改善訓練を行うか、遠視用の視力改善訓練を行うかによって、表示部20の訓練開始時の初期位置が変化する。このため、視力改善訓練の内容に応じて、表示部20の最初の移動方向を設定すればよい。例えば、近視用の視力改善訓練を実施する際には、表示部20の初期位置は近点となるため、起動信号が入力された時に表示部20がどの位置に停止していたとしても、表示部20が近点に向かって移動するようにモータ30を制御する。
【0064】
位置制御部46は、接眼部12から表示部20までの光学距離を、例えば、モータ30の回転数等に基づいて適宜制御する。なお、接眼部12から表示部20のマーク20aまでの光学距離は、表示制御部42に入力され、表示部20の画面上にマーク20aとともに表示される。
【0065】
速度制御部47は、近点と遠点との間において往復移動する表示部20の移動速度を、連続的あるいは段階的に変化させることができる。移動速度を段階的に変化させる場合には、例えば、10mm/秒、40mm/秒、80mm/秒、160mm/秒、250mm/秒、500mm/秒のいずれかの移動速度から訓練者自身、あるいは医師等の操作者が自分に最適な移動速度を選択可能となっている。また、移動速度を連続的に変化させる場合には、訓練者あるいは操作者が最適な移動速度の微妙な調整を行うことができる。このような表示部20の移動速度は、訓練者あるいは操作者が入力部31から直接入力すればよい。
【0066】
移動方向制御部45、位置制御部46および速度制御部47の各制御出力は、駆動手段であるモータ30に入力され、所定の制御が行われる。なお、移動方向制御部45、位置制御部46、速度制御部47の各制御を組み合わせて、表示部20の移動時に小刻みに前後方向に振動させると、訓練者が表示部20に表示されたマーク20aに自分の目の焦点を合わせやすくなるとともに、焦点が合っているか否かを判断しやすくすることができる。
【0067】
出力制御部48は、訓練者と表示部20との光学距離に基づいて、訓練者に提供する音の高さ、あるいは、音の大きさを変えるようにスピーカーを制御する。
ここで、音の高さを変えるように制御した場合について説明すると、出力制御部48は、訓練者と表示部20との光学距離が近いほど、高い音、すなわち、周波数の高い音を出力するようにスピーカー17を制御している。これにより、表示部20が近点から遠点に向かって移動する場合、訓練者には、スピーカー17から出力される音が段々と低くなっていくように聞こえる。一方、表示部20が遠点から近点に向かって移動する場合、訓練者には、スピーカー17から出力される音が段々と高くなっていくように聞こえる。
【0068】
また、音の大きさを変えるように制御した場合について説明すると、出力制御部48は、訓練者と表示部20との光学距離が近いほど、大きな音を出力するようにスピーカー17を制御している。これにより、表示部20が近点から遠点に向かって移動する場合、訓練者には、スピーカー17から出力される音が段々と小さくなっていくように聞こえる。一方、表示部20が遠点から近点に向かって移動する場合、訓練者には、スピーカー17から出力される音が段々と大きくなっていくように聞こえる。
【0069】
以上に示したように、訓練者と表示部20との光学距離に基づいて、訓練者に提供する音の高さ、あるいは、音の大きさを変えるようにスピーカーを制御することによって、訓練者は、訓練者と表示部20との光学距離に応じて変化する刺激、すなわち、音の高さ、音の大きさを意識することができるようになる。このため、訓練者は、表示部20に表示されたマーク20aが遠ざかっていくことを認識しながら、訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影されるマーク20aに対してピントを合わせる訓練を行うことが可能となる。
【0070】
なお、表示部20と訓練者との光学距離に基づいて、スピーカー17から出力される音の高さを制御するのか、あるいは、音の大きさを制御するのか、またはどちらも制御するのかは、医師や訓練師等の操作者または訓練者自身が選択することが可能であり、入力部31から選択することができる。これにより、訓練者は、自身にとってマーク20aが移動していることを最もよく認識できる刺激を選択することができ、さらに効果的な訓練をすることが可能となる。
【0071】
ここで、視力改善訓練装置10では、接眼部12から遠点までの光学距離を筐体部11内に確保する必要があるため、通常は奥行きが550〜1050mm程度となって装置が大型化する。そこで、接眼部12から表示部20までの光路間に凸レンズやミラー等の光学装置を設けることで光学距離は同じでも、奥行きを小さくして装置の小型化を図ることもできる。
【0072】
<視力改善訓練の概要>
訓練者は、接眼部12に目を当てた状態で、表示部20に表示されたマーク20aを両眼または片眼で見る。この時、訓練者は、マーク20aに集中してはっきり見えるよう努力し、目の焦点を合わせる。このように、訓練者が目の焦点をマーク20aに合わせた状態で、近点と遠点との間を繰り返し往復移動させることで、訓練中の訓練者の目の毛様体筋や瞳孔、輻輳・開散等の目の結像調節機能を稼働させて、目の結像調節機能を向上させることができる。
【0073】
これにより、近視の場合の遠方の対象物および遠視の場合の近傍の対象物のような、それまではっきり見ることが困難であった対象物をはっきり見ることができる。このように、毛様体筋等のレンズの曲率制御組織を運動させ、瞳孔径の調節や輻輳・開散を行うことにより、網膜を含む眼球全体の運動を行わせて、目の機能を活性化することができる。
【0074】
なお、上述した近点と遠点との間のマーク20aの移動は、例えば、10往復を1セットとし、休みを入れながら2から3セットを1日1回程度行うのが好ましい。これにより、長時間の訓練によってドライアイとなることを防止することができる。
【0075】
また、パソコンのディスプレイを長時間見続けたり、本などを長時間読んだりした後などにも、本装置による毛様体筋の運動、瞳孔調節、輻輳・開散を行うことにより目の機能を改善させることができる。
【0076】
<近視用の視力改善訓練の制御>
本実施形態の視力改善訓練装置10では、近視用の視力改善訓練を実施する際、図4に示すように、表示部20におけるマーク20aの表示を制御しつつ、図6に示すような制御フローチャートに従って処理を行う。なお、ここでは、表示部20と訓練者との光学距離に基づいて、スピーカー17から出力される音の高さを制御することを、訓練者が選択した例について説明する。
【0077】
具体的には、ステップS1では、まず、訓練者が、近視用の視力改善訓練を行うために、視力改善訓練開始ボタンを押下する。
ステップS2では、表示制御部42が、記憶部43から読み出したマーク20aを表示するように、表示部20を制御する。
【0078】
ステップS3では、駆動制御部44に含まれる移動方向制御部45、位置制御部46によって、近視用の視力改善訓練の初期位置となる近点付近に表示部20を移動させる。なお、視力改善訓練開始ボタンが押下された際に、表示部20が近点付近にある場合にはそのまま待機すればよい。また、ステップS2およびステップS3の処理については、同時に並行して行われてもよい。
【0079】
ステップS4では、訓練を開始する合図として、例えば、スピーカー17からホイッスルの音を出して、訓練者に視力改善訓練の開始を認識させ、マーク20aを表示させた表示部20の近点から遠点に向かう移動を開始する。
【0080】
ステップS5では、表示制御部42が、マーク20aについては、表示部20に表示される大きさが変化するように移動中の表示部20を制御する。
ステップS6では、ステップS4において移動を開始した表示部20と訓練者との光学距離に基づいて、出力制御部48が、スピーカー17から出力される音の高さを制御する。具体的には、表示部20の位置が近点に近くなるほど音の高さ、すなわち、音の周波数が高くなるように、表示部20の位置が遠点に近くなるほど音の周波数が低くなるように、スピーカー17を制御している。これにより、訓練者は、表示部20が近点から遠点に向かって移動するにつれて、スピーカー17から出力される音が徐々に低くなっていくように聞こえる。
【0081】
なお、ステップS5,ステップS6の処理については、移動中の表示部20の移動位置に応じて制御を行い、両ステップは同時に並行して行われてもよい。
ステップS7では、移動中の表示部20を遠点で停止させる。
【0082】
ステップS8では、遠点に停止している表示部20を遠点から近点まで移動させる。
ステップS9では、所定回数(例えば、10回)だけ表示部20が往復移動を行ったか否かを確認する。そして、このような表示部20の往復移動(ステップS4〜ステップS8)を所定回数に達するまで繰り返した後、訓練を終了する。
【0083】
本実施形態の視力改善訓練装置10では、以上に示したように、表示制御部42が、表示部20が移動する際、マーク20aが訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影されるように表示部20を制御している。また、出力制御部48が、訓練者とマーク20aが表示される表示部20との光学距離に応じて、訓練者に提供する音の高さを変えるようにスピーカー17を制御している。具体的には、出力制御部48は、図7に示すように、遠点付近ではスピーカー17から出力される周波数を低くするように、近点付近ではスピーカー17から出力される音の周波数を高くするように制御する。さらに詳しく説明すると、訓練者と表示部20との光学距離と周波数(訓練者に対する刺激の程度)との関係が、図7に示すような2次曲線となるように、スピーカー17から出力される音の周波数を制御する。これにより、訓練者は、音の高さの変化をよりはっきりと認識することが可能となる。
【0084】
これにより、訓練者は、表示部20の移動に伴って変化する音の高さを認識するようになり、マーク20aが近点から遠点に向かって移動していることを認識できるようになる。
【0085】
ここで、脳は、マーク20aが移動していることを認知することによって、マーク20aの図形にピントを合わせようとする。このため、視力改善訓練は、訓練者の脳にマーク20aとなる図形が移動していることを認識させることによって、より大きな効果を上げることができる。本実施形態の視力改善訓練装置10では、従来の視力改善訓練装置とは異なり、訓練者がその移動を認識することができるようになるので、さらに効果的な訓練を行うことが可能となる。なお、ここでは、近点から遠点への移動中の音の制御について説明したが、反対に、遠点から近点への移動時にも音を低音から高音へと変化させてもよい。
【0086】
[本視力改善訓練装置10の特徴]
(1)
本実施形態の視力改善訓練装置10は、表示部20が近点から遠点へ移動する際に、マーク20aが訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影されるように表示部20を制御しながら視力改善訓練を行う装置であって、出力制御部48は、図7に示すように、訓練者とマーク20aが表示される表示部20との光学距離に応じて、訓練者に対して距離感を認識させる刺激としての音の高さ(周波数)を変えるようにスピーカー17を制御している。
【0087】
これにより、訓練者は、訓練者とマーク20aを表示する表示部20との光学距離に応じて変化する音の高さを意識することによって、マーク20aが近点から遠点に向かって移動していることを認識できるようになる。この結果、訓練者の網膜に対してマーク20aを一定のサイズで投影しながら表示部20が移動しても、訓練者に対して、マーク20aが遠ざかっていくことを認識しながら視力改善訓練を行わせることができ、さらに効果的な訓練を行わせることが可能となる。
【0088】
(2)
本実施形態の視力改善訓練装置10では、出力制御部48は、訓練者と表示部20との光学距離が長くなるに従って訓練者に提供する音の高さ(周波数)が規則的に変化するように、スピーカー17を制御する。
【0089】
これにより、訓練者に対して、訓練者と表示部20との光学距離が長くなるに従って訓練者に提供する音の高さ(周波数)を直線的に変化するよりも、訓練者と表示部20との光学距離に応じて音の高さ(周波数)が変化していることをはっきりと認識させることを可能としている。
【0090】
(3)
本実施形態の視力改善訓練装置10では、図7に示すように、出力制御部48は、表示部20の位置が近点に近いほど高い音を出力するようにスピーカー17を制御している。
【0091】
これにより、訓練者は、表示部20が遠点側から近点側に移動するにつれて、スピーカー17が出力する音の高さが、低い音から高い音に徐々に変化するように聞こえる。この結果、訓練者は、音の変化を認識するようになり、マーク20aが近点側から遠点側に移動していることを認識することが可能となる。
【0092】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0093】
(A)
上記実施形態では、視力改善訓練装置10に対して本発明を適用した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0094】
例えば、PC(Personal Computer)の液晶画面等に画像が往復移動しているような画像等を表示させて視覚的に遠点と近点との間における画像の移動を実現させ、上述した制御(図6参照)および下段にて説明する制御(図8参照)に従って実行される視力改善訓練制御方法をコンピュータに実行させる視力改善訓練制御プログラムとして本発明を実施してもよい。
【0095】
この視力改善訓練制御プログラムによっても、訓練者に標的となる視標が移動していることを認識させることができ、さらに効果的な訓練を行うことができるという、上記視力改善訓練装置10によって得られる効果と同様の効果を得ることができる。
【0096】
(B)
上記実施形態では、表示部20を近点から遠点に移動させて訓練を行う、いわゆる近視用訓練を行う場合の制御を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0097】
訓練者が遠視(老視)の場合には、図6に示すフローチャートの「近点」と「遠点」とを互いに反対にした図8に示すフローチャート(ステップS11〜ステップS19)に従って制御してもよい。
【0098】
具体的には、遠視用の視力改善訓練において、遠点から近点へ表示部20を移動させる際に、表示部20の移動位置に応じて低音から高音へと音の高さ(周波数)を変化させればよい。反対に、近点から遠点へ表示部20を移動させる際に、表示部20の移動位置に応じて高音から低音へと音の高さ(周波数)を変化させてもよい。
【0099】
この場合であっても、ステップS16において、表示部20が遠点から近点に移動する際、出力制御部48がスピーカー17に対して上記と同様の制御をすることによって、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0100】
(C)
上記実施形態では、出力制御部48が、訓練者と表示部20との光学距離に基づいて、音の高さを変えるようにスピーカー17を制御する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0101】
例えば、出力制御部は、訓練者と表示部との光学距離に基づいて、音の大きさを変えるようにスピーカーを制御してもよい。また、音の大きさについては、近点に近いほど大きな音を出力するように、遠点に近いほど小さな音を出力するように、スピーカーを制御してもよい。この場合であっても、上記視力改善訓練装置10によって得られる効果と同様の効果を得ることができる。
【0102】
(D)
上記実施形態では、出力制御部48が、訓練者と表示部20との光学距離に基づいて、訓練者に提供する音の高さ、あるいは、音の大きさの一方を変えるようにスピーカー17を制御する例を挙げて説明した。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。
【0103】
例えば、出力制御部は、訓練者と表示部との光学距離に基づいて、訓練者に提供する音の高さ(周波数)と音の大きさ(大小)との両方を変化させるようにスピーカーを制御してもよい。
【0104】
(E)
上記実施形態では、スピーカー17が1つだけ設置されている例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0105】
提供部となるスピーカーは、移動部の移動方向、すなわち、表示部の移動方向に沿って、複数配置されていてもよい。例えば、図9〜図11に示すように、3つのスピーカー(提供部)217a,217b,217cが、表示部20の移動方向に沿って配置されていてもよい。この場合には、スピーカー217a,217b,217cは、前述した出力制御部48に接続されて、出力制御部48に制御されて音(距離感を認識させる刺激)を出力する。なお、他の構成部に関する機能については、上記実施形態の視力改善訓練装置10と同様であるので、ここではその説明は省略する。
【0106】
複数の217a,217b,217cを設置することにより、訓練者に対して臨場感のある刺激を提供することが可能となるので、より効果的に距離感を認識させることができる。
【0107】
なお、出力制御部48は、3つのスピーカー217a,217b,217cから出力される音の状態が同じとなるように制御してもよいし、以下のように制御してもよい。すなわち、出力制御部48は、表示部20の移動に合わせて、音を出力するスピーカー217a,217b,217cを変える等の制御を行ってもよい。具体的には、表示部20が近点側から遠点側に移動する場合、出力制御部48は、近点側に配置されたスピーカー217c、中間地点に配置されたスピーカー217b、遠点側に配置されたスピーカー217aと、音を出力するスピーカーを順番に切り換えるようにしてもよい。この場合にも、マーク20aへの距離感をより強く認識させることが可能となる。
【0108】
また、提供部としてのスピーカーは、表示部の移動する方向に沿って2つ配置してもよいし、4つ以上配置してもよい。
【0109】
(F)
上記実施形態では、訓練者に対して距離感を認識させる刺激として音を採用し、その音を提供するためにスピーカー17を配置した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0110】
例えば、訓練者に対して距離感を認識させる刺激として振動を採用し、その振動を提供するためにバイブレータ317を配置してもよい。具体的には、図12に示すように、訓練者が筐体部11に触れる位置にバイブレータ317を配置する。そして、出力制御部348は、訓練者と表示部20との光学距離に基づいて、振動の強さ、あるいは、振動の周波数を変えるようにバイブレータ317を制御する。この時、出力制御部348は、訓練者と表示部20との光学距離が長くなるに従って訓練者に提供する振動の強さが弱くなるように、あるいは、振動の周波数が低くなるようにバイブレータ317を制御する。これにより、上記の実施形態と同様に、訓練者は、訓練者とマーク20aを表示する表示部20との光学距離に応じて変化する振動の強さ、あるいは、振動の周波数を意識することによって、マーク20aが近点から遠点に向かって移動していることを認識できるようになる。
【0111】
また、訓練者に対して距離感を認識させる刺激として、音と振動とを組み合わせてもよい。
【0112】
(G)
上記実施形態では、出力制御部48が、訓練者と表示部20との光学距離が長くなるに従って訓練者に提供する音の高さ(周波数)が2次曲線的に変化するように、スピーカー17を制御する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0113】
例えば、図13に示すように、訓練者と表示部20との光学距離が長くなるに従って訓練者に提供する音の高さ(周波数)が直線的に変化するように、スピーカー17を制御してもよい。さらに、訓練者と表示部20との光学距離が長くなるに従って訓練者に提供する音の高さ(周波数)が多項曲線的な変化となるように、スピーカー17を制御してもよい。
【0114】
(H)
上記実施形態では、筐体部11内に設置された表示部20を前後方向に移動させて、視力改善訓練用のマーク20aを訓練者が直接的に注視する構成を例として挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0115】
例えば、図14に示すように、筐体部111内に視力改善訓練用の視標を表示する表示部120を固定配置し、平面鏡等の反射部150を前後方向において移動させることで、遠点と近点との間において視標および枠を視覚的に移動させる反射型の視力改善訓練装置110を用いることもできる。
【0116】
このような反射型の視力改善訓練装置110では、制御部140が、床面114上において反射部150を支持する支持部151と台座部152とを移動部113によって移動させ、表示部120に対する反射部150の距離を変化させる。移動部113は、モータ130、プーリ131およびベルト132を含んでいる。筐体部111には、接眼部112と照明部116とが取り付けられている。
【0117】
これにより、訓練者は反射部150を介して間接的に視標を注視することになるため、筐体部111内における訓練者の目(接眼部112)から視標および枠までの距離を短くすることができる。よって、上記実施形態の視力改善訓練装置10と比較して、表示部の移動方向における装置の大きさを小さくして、よりコンパクトな装置を構成することができる。
【0118】
(I)
上記実施形態では、訓練中の訓練者の網膜上に常に同じ大きさのマーク20aが映るように、表示部20の位置に応じてマーク20aの大きさを変化させるように制御を行う例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0119】
例えば、マーク(視力回復訓練用の画像)の大きさを変化させることなく常時同じ大きさで表示し、遠点と近点との間を往復移動させるような光学装置(例えば、凸レンズ)を利用した制御を実施してもよい。
【0120】
これにより、訓練者は光学装置を介して間接的に視標を注視することになるため、筐体内における訓練者の目から表示部20までの距離を短くすることができる。よって、上記実施形態の視力回復訓練装置10と比較して、表示部の移動方向における装置の大きさを小さくして、よりコンパクトな装置を構成することができる。
【0121】
(J)
上記実施形態では、視力改善訓練用の視標として、略円形のリング状のマーク20aを用いた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0122】
例えば、図15(a)に示すように、リング状のマーク20aの代わりに、アルファベット(例えば、「G」)等の文字や図形等を視標420aとして表示してもよい。
あるいは、図15(b)に示すように、動物の絵等を視標420bとして表示して、視力改善訓練を実施してもよい。
【0123】
なお、このような視標の種類については、視力改善訓練を実施する訓練者の年齢や好みに応じて適宜選択可能であることが望ましい。
【0124】
(K)
上記実施形態では、近視用の視力改善訓練および遠視用の視力改善訓練の双方を実施可能な視力改善訓練装置10を例として挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0125】
例えば、近視用の視力改善訓練、あるいは遠視用の視力改善訓練のいずれか一方だけを実施可能な視力改善訓練装置であってもよい。
【0126】
(L)
上記実施形態では、視力改善訓練用の画像を表示する表示部20として、液晶表示パネルを用いた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0127】
例えば、液晶表示パネル以外にも、有機EL(Electro-Luminescence)パネルやCRT(Cathode Ray Tube)等の他の電子的表示手段を用いることもできる。
【0128】
(M)
上記実施形態では、筐体部11の中に表示部20等が格納された視力改善訓練装置10を例として挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0129】
例えば、PCや携帯電話等の表示画面に画像表現による表示を行って訓練者が距離感を感じられるような構成であれば、表示画面を見ながら視力改善訓練を実施することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の視力改善訓練装置では、視標が移動していることを認識しながら視標にピントを合わせるという効果的な訓練を行うことができるという効果を奏することから、各種の視力改善訓練装置に対して広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明の一実施形態に係る視力改善訓練装置の構成を示す全体斜視図。
【図2】図1の視力改善訓練装置の内部構成を示す断面図。
【図3】図1の視力改善訓練装置内に形成される制御ブロック図。
【図4】図1の表示部に表示される内容を示した斜視図。
【図5】(a)〜(c)は、訓練者の網膜上に常時同じ大きさの視標が表示されるように表示部において表示される表示の大きさを変化させることを示す説明図。
【図6】近視用の視力改善訓練を行う際の制御を示すフローチャート。
【図7】図1の表示部の位置と音の高さとの関係を示したグラフ。
【図8】遠視用の視力改善訓練を行う際の制御を示すフローチャート。
【図9】本発明の他の実施形態に係る視力改善訓練装置の構成を示す全体斜視図。
【図10】図9の視力改善訓練装置の内部構成を示す断面図。
【図11】図9の視力改善訓練装置内に形成される制御ブロック図。
【図12】本発明の他の実施形態に係る反射型の視力改善訓練装置を示す断面図。
【図13】本発明の他の実施形態に係る表示部の位置と音の高さとの関係を示したグラフ。
【図14】本発明の他の実施形態に係る反射型の視力改善訓練装置の内部構成を示す断面図。
【図15】(a),(b)は、表示部において表示される視標の種類を示す正面図。
【符号の説明】
【0132】
10 視力改善訓練装置
11 筐体部
12 接眼部
13 移動部
14 床面
15 開口
16 照明部
17 スピーカー(提供部)
20 表示部
20a マーク(視標)
20b 背景
21 支持部
22 台座部
23 スクリュー
30 モータ
31 入力部
40 制御部
41 入力制御部
42 表示制御部(第1制御部)
43 記憶部
44 駆動制御部
45 移動方向制御部
46 位置制御部
47 速度制御部
48 出力制御部(第2制御部)
110 視力改善訓練装置
111 筐体部
112 接眼部
113 移動部
114 床面
116 照明部
120 表示部
130 モータ
131 プーリ
132 ベルト
140 制御部
150 反射部
151 支持部
152 台座部
217a,217b,217c スピーカー(提供部)
317 バイブレータ(提供部)
348 出力制御部(第2制御部)
420a,420b 視標
S ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目の結像調節機能の訓練を行う視力改善訓練装置であって、
視力改善訓練用の画像である視標を表示する表示部と、
前記表示部を、訓練者に対して遠点と近点との間で移動させる移動部と、
前記訓練者に対して前記視標との距離感を認識させる刺激を提供する提供部と、
前記表示部が移動する際に、前記視標が前記訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影されるように前記表示部を制御する第1制御部と、
前記訓練者と前記表示部との光学距離に基づいて、前記訓練者に提供する刺激の程度を変えるように前記提供部を制御する第2制御部と、
を備えている、視力改善訓練装置。
【請求項2】
前記第2制御部は、前記訓練者と前記表示部との光学距離が長くなるに従って、前記訓練者に提供する刺激の程度が規則的な変化をするように、前記提供部を制御する、
請求項1に記載の視力改善訓練装置。
【請求項3】
前記規則的な変化は、前記訓練者と前記表示部との光学距離が長くなるに従って、
前記訓練者に提供する前記刺激の程度が小さくなるような変化である、
請求項2に記載の視力改善訓練制御装置。
【請求項4】
前記提供部は、前記訓練者に対して音を提供する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の視力改善訓練装置。
【請求項5】
前記第2制御部は、前記表示部の位置が前記近点に近いほど高い音を提供するように前記提供部を制御する、
請求項4に記載の視力改善訓練装置。
【請求項6】
前記第2制御部は、前記表示部の位置が前記近点に近いほど大きな音を提供するように前記提供部を制御する、
請求項5に記載の視力改善訓練装置。
【請求項7】
前記提供部は、前記訓練者に対して振動を提供する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の視力改善訓練装置。
【請求項8】
前記第2制御部は、前記表示部の位置が前記近点に近いほど強い前記振動を提供するように前記提供部を制御する、
請求項7に記載の視力改善訓練装置。
【請求項9】
前記第2制御部は、前記表示部の位置が前記近点に近いほど高い周波数の前記振動を提供するように前記提供部を制御する、
請求項8に記載の視力改善訓練装置。
【請求項10】
前記提供部は、前記表示部の移動方向に沿って複数配置されている、
請求項1から9のいずれか1項に記載の視力改善訓練装置。
【請求項11】
目の結像調節機能の訓練を行う視力改善訓練制御プログラムであって、
視力改善訓練用の画像である視標を表示する表示ステップと、
前記視標を、訓練者に対して遠点と近点との間で移動させる移動ステップと、
前記訓練者に対して距離感を認識させる刺激を提供する提供ステップと、
前記視標が移動する際に、前記視標が前記訓練者の網膜に対して一定のサイズで投影されるように前記視標を制御する第1制御ステップと、
前記訓練者と前記視標との光学距離に基づいて、前記ステップにおいて前記訓練者に提供する刺激の程度を制御する第2制御ステップと、
を備えている、視力改善訓練制御方法をコンピュータに実行させる視力改善訓練制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−148738(P2010−148738A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331457(P2008−331457)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(505044462)株式会社テクノマスター (22)