説明

親和性捕捉中の変性剤の使用

標的分子の親和性捕捉方法であって、標的分子を含む試料を得るステップと、変性剤の存在下で、担体に固定された、標的分子に特異的に結合する単鎖親和性分子又はその抗原結合部分で標的分子を親和性捕捉するステップとを含む方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本特許出願は、2006年7月7日に出願された米国特許仮出願60/818,957号明細書の利益を主張するものであり、該明細書は参照により組み込まれる。
【発明の背景】
【0002】
親和性捕捉プロトコル、例えば、固体担体に結合された(coupled又はbound)抗体又は抗体様分子による標的タンパク質の捕捉は、当技術分野では周知である。これらのプロトコルには、単一の認識捕捉(例えば、免疫沈降)又は複数の認識捕捉(例えば、サンドイッチアッセイ)を含めることができる。非特異的結合(例えば、タンパク質が接触するビーズ若しくはプラスチックなどの材料との試料中の標的タンパク質を含むタンパク質の非特異的結合、又は非標的タンパク質と標的タンパク質との間の相互作用)は、結果に悪影響を与え得るため、これらのプロトコルは、例えば、(担体に結合された)抗体又は抗体様分子によるタンパク質の捕捉、及びこれに続く、非特異的結合物質を除去するための洗浄緩衝液での弱い界面活性剤又は塩類による(捕捉したタンパク質を有する)担体の洗浄により、非特異的結合を減少させようとするものである。界面活性剤又は塩類は、標的タンパク質構造を変性又は著しく変化させることはないが、その結果タンパク質を喪失させる。しかし、大規模な洗浄は、一般に標的タンパク質のある程度の喪失をもたらす。
【0003】
本発明は、従来技術の少なくとも幾つかの短所を改善する。本発明のこれら及び他の長所は、以下に示す説明から明らかとなろう。
【発明の簡単な概要】
【0004】
本発明の実施形態は、標的分子の親和性捕捉方法であって、少なくとも1つの変性剤の存在下で、担体に固定化された単鎖親和性分子又はその抗原結合部分で標的物質を親和性捕捉するステップを含む方法を提供する。本発明の好ましい実施形態は、少なくとも1つの変性剤の存在下で、固定化されたラクダ抗体又はその抗原結合部分で標的タンパク質を親和性捕捉するステップを含む。
【0005】
本発明の別の実施形態は、担体と、担体に固定化された単鎖親和性分子又はその抗原部分と、少なくとも1つの緩衝液と、固定化された親和性分子又はその抗原結合部分を含有するのに適切なデバイスとを含む、標的分子の親和性捕捉用キットを提供する。典型的には、デバイスは、スピンデバイス、マルチプルウェルプレート(マルチプルウェルプレートは、スピンデバイスを含み得る)及び/又はクロマトグラフィーカラムを含む。好ましくは、キットは、キットを使用するための書面での説明書を含む挿入物を含む。
【0006】
一実施形態では、キットは、担体に固定化された単鎖親和性分子を含むバイオチップを含む。
【発明の詳細な説明】
【0007】
本発明の実施形態によれば、標的分子の親和性捕捉方法は、標的分子を含む試料を得るステップと、変性剤の存在下で、担体に固定化された、標的分子に特異的に結合する単鎖親和性分子又はその抗原結合部分で標的分子を親和性捕捉するステップとを含む。
【0008】
本発明の別の実施形態では、標的分子の親和性捕捉用キットは、担体と、担体に固定化された単鎖親和性分子又はその抗原結合部分と、少なくとも1つの緩衝液と、固定化された親和性分子又はその抗原結合部分を含有するのに適切なデバイスとを含む。
【0009】
好ましい実施形態では、単鎖親和性分子は、ラクダ抗体又はその抗原結合部分である。
【0010】
任意の特定の機構に限定されるものではないが、変性剤は、試料中の標的分子及び他の分子の高次構造(例えば、3D構造)を変化させ、故に標的分子と非標的分子との間の結合を妨げる又は最小限にし、並びに担体及び親和性分子との非標的分子の結合を妨げる又は最小限にすると考えられる。しかし、変性剤が標的分子の高次構造を変化させると考えられる一方で、親和性分子は、試料中に存在する標的分子に特異的に結合する能力を維持する。
【0011】
また、やはり任意の特定の機構に限定されるものではないが、非特異的結合は、これが生じた後で破壊されるというよりも、妨げられると考えられる。
【0012】
有利には、本発明の実施形態は、非特異的結合物質、例えば、非特異的結合タンパク質を除去するための大規模な洗浄を必要としない、非特異的結合を減少させる方法、キット、及びシステムを提供する。
【0013】
本発明の各構成要素は、これより、以下により詳細に記載される。
【0014】
ジスルフィド結合で相互に結合した2つの重鎖(H)及び2つの軽鎖(L)である、4つのポリペプチド鎖を含む自然発生抗体(例えば、IgG)とは対照的に、本発明の好ましい実施形態による親和性分子は、単鎖抗体、より好ましくは、重鎖抗体、さらにより好ましくは、ラクダ抗体の全部又は一部を含む。
【0015】
別の実施形態では、親和性分子は、単鎖Fv(scFv)(Hustonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85、5879〜5883頁(1988年))として知られる、単一タンパク質鎖を含むことができる。
【0016】
ラクダ抗体(例えば、ラクダ、ヒトコブラクダ、又はラマ由来の)は軽鎖がなく、重鎖が、単一のドメインである、VHHと呼ばれる免疫グロブリン重鎖の可変領域で抗原に結合する。VHHは、VHIIIファミリーの重鎖の可変ドメインと相同性を示す(Dumoulinら、Protein Science、11:500〜515頁(2002年))。
【0017】
適切なラクダ抗体(例えば、所望の結合特異性を有する)及びこのフラグメント(すなわち、抗原結合部分を有す)は、当技術分野で周知の通り作製することができ、担体に固定化することができる(例えば、ten Haaftら、「Separation in Protenomics:Use of Camelid Antibody Fragments in the Depletion and Enrichment of Human Plasma Proteins for Proteomics Applications」、Separation Methods in Proteomics、Smejkal及びLazarev(編)CRC Press、29〜40頁(2005年))。適切なラクダ抗体は市販もされている(例えば、商標名CAPTURESELECT(登録商標)、BAC B.V.社製(ナールデン、オランダ))。
【0018】
抗体又はこのフラグメントは、標的分子抗原に特異的に結合又は特異的に免疫応答する。「特異的に結合する」とは、抗体結合がランダムではなく、抗体が、無関係の生物学的部分と比べて標的分子に差次的に(又は優先的に)結合することを意味する。抗体又はこのフラグメントは、抗原に対する何らかの親和性又は結合活性レベルを有することができる。
【0019】
親和性分子は、種々の担体に固定化することができる。適切な担体には、例えば、ビーズ又は不規則形状粒子(例えば、直径約0.1mm以上のサイズ、典型的には直径5ミクロンから約500ミクロンの範囲のサイズ)が挙げられる。ビーズ又は粒子は、クロマトグラフィーカラムに充填するのに使用できるクロマトグラフィー媒体を形成することができる。或いは、担体は、繊維(中空又はその他)、膜、又は例えば、ミクロンから数ミリメートルのサイズの孔で充満したスポンジ様材料の形態であってよい。
【0020】
さらに別の実施形態では、担体は、「バイオチップ」又はマイクロアレイフォーマットが使用された場合、固体基質を含み、基質は、親和性分子又はその抗原結合部分が結合する、概して平坦な表面上に存在している。特定の実施形態では、固体担体は透明であってよい。バイオチップは、質量分析計プローブであってよい。この場面で好ましい固体担体には、金属、金属酸化物、シリコン、ガラス、ポリマー(例えば、プラスチックなどの有機ポリマー)、及び複合材料が挙げられる。これらの担体表面は、当技術分野で周知の通り、親和性分子又は結合タンパク質を結合するために修飾することができる。適切な金属には、例えば、金、アルミニウム、鉄、チタン、クロム、白金、銅及びこれらそれぞれの合金が挙げられる。このような金属は、結合反応基を提供するのに、例えば、二酸化シリコンで表面を誘導体化することができる。金属表面を誘導体化する1つの方法は、酸化シリコンなどの金属酸化物を金属表面にスパッタリングすることである。
【0021】
本発明の実施形態によれば、担体は、有機材料を含んでよい。例示的な有機材料は、セルロース、デンプン、寒天、アガロース、及びデキストランなどの多糖類である。置換又は非置換のポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニル親水性ポリマー、ポリスチレン、ポリスルホン、並びにコポリマー又はスチレン及びジビニルベンゼンを含む、親水性合成ポリマーが意図される。或いは、無機材料が固体担体材料として使用されてよい。このような無機材料には、シリカなどの多孔質無機材料;ヒドロゲル含有シリカ、ジルコニア、チタニア、アルミナ;及び他のセラミック材料が挙げられるが、これらに限定されない。米国特許第5,268,097号明細書、第5,234,991号明細書、及び第5,075,371号明細書に開示されたもののような、例えば、2つの材料のコポリマー化により又は相互侵入網目により形成された、これらの材料の混合物、又は複合材料を使用することもできる。
【0022】
担体、特に膜を含む担体として使用するための他の適切なポリマーには、多環芳香族、ポリスルホン(ポリエーテルスルホン、ビスフェノールAポリスルホン、及びポリフェニルスルホンなどの芳香族ポリスルホンを含む)、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカルボネート、酢酸セルロース及び硝酸セルロース、フルオロポリマーなどのセルロースポリマー、並びにPEEKが挙げられる。
【0023】
本発明の実施形態によれば、種々の変性剤は、個別に、連続して、又は併用して使用することができる。
【0024】
変性剤は、例えば、1つ又は複数のカオトロピック剤、離液剤(lyotropic agent)、有機変性剤、及び/又は界面活性剤を含んでよい。好ましくは、変性剤が界面活性剤を含むような実施形態では、変性剤は、1つ又は複数のカオトロピック剤、離液剤、及び/又は有機変性剤も含む(例えば、変性剤は、カオトロピック剤、離液剤及び/又は有機変性剤に加えて、界面活性剤をさらに含む。)
【0025】
カオトロピック剤には、種々の異なる化合物、例えば、尿素、CNS、及びCClCOO、グアニジンHCl、NO、及びClOなどを挙げることができる。
【0026】
離液剤には、例えば、SO2−、HPO2−、及び酢酸(CHCOO)、例えば、酢酸ナトリウム(NaOAc)を挙げることができる
【0027】
有機変性剤には、例えば、アセトニトリル(ACN)を挙げることができる。
【0028】
界面活性剤には、アニオン性、カチオン性、非イオン性、又は両イオン性界面活性剤を挙げることができる。
【0029】
アニオン性界面活性剤には、例えば、デオキシコール酸、コール酸、及び望ましさは劣るが、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を挙げることができ、カチオン性界面活性剤には、例えば、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)を挙げることができる。非イオン性界面活性剤には、例えば、ジギトニン、トリトン、トウィーン及びノニデット40(NP40)を挙げることができ、両イオン性界面活性剤には、例えば、CHAPS、CHAPSO、BigCHAP、CHAPS、ZWITTERGENT3−08、ZWITTERGENT3−10、ZWITTERGENT3−12、ZWITTERGENT3−14、及びZWITTERGENT3−16を挙げることができる。
【0030】
好ましくは、変性剤は、例えば、少なくとも1つの変性剤を含む変性剤液を提供するため、緩衝剤と共に利用される。種々の緩衝液、例えば、両イオン性、リン酸、酢酸、及び炭酸緩衝液が適切である。両イオン性緩衝液には、例えば、トリス緩衝液を挙げることができる。リン酸緩衝液、例えば、リン酸緩衝溶液には、例えば、リン酸ナトリウム及びリン酸カリウム緩衝液を挙げることができる。
【0031】
一実施形態では、変性剤は、尿素、CHAPS、グアニジンHCl、CTAB、酢酸、及びアセトニトリルから成る群から選択される。
【0032】
少なくとも1つの変性剤が尿素である幾つかの実施形態では、尿素は、試料及び/又は親和性分子と接触させる場合、少なくとも約.8M、又は少なくとも約1Mの濃度を有する。例えば、尿素は、試料及び/又は親和性分子と接触させる場合、約1Mから約9Mの範囲、又は、約1Mから約6Mの範囲の濃度を有してよい。
【0033】
少なくとも1つの変性剤がCHAPSである幾つかの実施形態では、CHAPSは、試料及び/又は親和性分子と接触させる場合、少なくとも約0.1%、又は少なくとも約0.25%の濃度を有する。例えば、CHAPSは、試料及び/又は親和性分子と接触させる場合、約0.25%から約2%の範囲の濃度を有してよい。
【0034】
少なくとも1つの変性剤がグアニジンHClである幾つかの実施形態では、グアニジンHClは、試料及び/又は親和性分子と接触させる場合、少なくとも約0.03M、又は少なくとも約0.05Mの濃度を有する。例えば、グアニジンHClは、試料及び/又は親和性分子と接触させる場合、約0.05Mから約2Mの範囲の濃度を有してよい。
【0035】
少なくとも1つの変性剤がアセトニトリルである幾つかの実施形態では、アセトニトリルは、試料及び/又は親和性分子と接触させる場合、少なくとも約8%、又は少なくとも約10%の濃度を有する。例えば、アセトニトリルは、試料及び/又は親和性分子と接触させる場合、約10%から約40%の範囲の濃度を有してよい。
【0036】
少なくとも1つの変性剤が酢酸である幾つかの実施形態では、酢酸は、試料及び/又は親和性分子と接触させる場合、少なくとも約30mM、又は少なくとも約50mMの濃度を有する。例えば、酢酸は、試料及び/又は親和性分子と接触させる場合、約50mMから約200mMの範囲の濃度を有してよい。
【0037】
上述の通り、変性剤は、個別に、連続して、又は併用して(例えば、2つ以上の薬剤を連続して、又は併用して、幾つかの実施形態では、3つ以上の薬剤を連続して、又は併用して)使用することができる。例えば、少なくとも2つの薬剤を利用する一実施形態では、カオトロピック剤(例えば、尿素)が、緩衝液で界面活性剤(例えば、CHAPS)と併用して利用される。
【0038】
標的分子と接触させる変性剤の濃度は、場合により、標的分子の変性及び/又は非特異的結合の減少を最適化するように調節することができる。
【0039】
例えば、初期の高濃度の変性剤を、試料を含有する標的分子と混合することができ、変性剤の濃度は、この後の希釈で低下させることができる。例示的な例として、ヒト血清試料を、5Mの尿素濃度及び1.1%のCHAPS濃度が得られるように、9M尿素及び2%CHAPSを含有する変性剤と混合することができる。処理された血清は、次いで、2.25M尿素及び0.5%CHAPSの変性剤濃度が得られるように、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈することができる。初期の高濃度の変性剤は、有利には、試料中に存在する変性耐性標的分子を変性することができる。
【0040】
親和性捕捉媒体への標的分子含有試料の適用は、恐らく、変性剤濃度も低下させる可能性がある。例えば、例えば緩衝溶液を含み得る親和性捕捉媒体への試料の適用は、変性剤濃度を低下させる可能性がある。しかし、このような低下は、標的分子の変性を著しく損ねることはないであろう。例示的な例として、親和性捕捉ビーズ及び緩衝溶液のスラリーは、スピンデバイス(例えば、NANOSEP(登録商標)デバイス)で遠心分離することができ、ビーズ間及び/又はビーズ内に液体をほとんど残さない又は液体を残さない液体を提供する。ビーズ内及び/又はビーズ間に残った何らかの液体が、変性剤濃度をわずかに低下させる可能性はあるが、試料中の標的分子の変性を著しく損ねる可能性はない。
【0041】
親和性捕捉媒体は、場合により、親和性捕捉媒体が、媒体に適用されるべき試料で見出される濃度と同じ又は類似の変性剤濃度を有するよう、媒体に試料を適用する前に平衡化することもできる。カラムの平衡化は、変性剤を媒体に適用した後、変性剤濃度を維持することで標的分子の変性を実質的に維持することができる。例示的な例として、抗ヒト血清アルブミン(HSA)樹脂を含むクロマトグラフィーカラムは、PBS中2.25M尿素を含む血清試料の適用前に、PBS中2.25M尿素溶液で洗浄することができる。カラムの平衡化は、親和性捕捉媒体中の液体が、標的分子の変性を損ねるように変性剤濃度を変えない場合には、必要としなくてよい。
【0042】
一実施形態では、試料を、少なくとも1つの変性剤と接触させる。例えば、標的分子含有試料液を、変性剤含有液と結合させ、標的分子及び変性剤含有液を、この後、固定化された親和性分子と接触させる。
【0043】
別の実施形態では、少なくとも1つの変性剤を試料及び固定化された親和性分子と接触させる前に、試料を、固定化された親和性分子と接触させる。例えば、少なくとも1つの変性剤を含有する液体を、1つ又は複数の標的分子及び1つ又は複数の固定化された親和性分子を含むスラリーに添加する。
【0044】
さらに別の実施形態では、試料を少なくとも1つの変性剤と接触させる前に、少なくとも1つの変性剤を、固定化された親和性分子と接触させる。例えば、標的分子含有試料液体を、少なくとも1つの変性剤及び1つ又は複数の固定化された親和性分子を含むスラリーに添加する。
【0045】
さらに別の実施形態では、標的分子含有試料液、少なくとも1つの変性剤、及び1つ又は複数の固定化された親和性分子を、同時に、又は本質的には同時に、互いに接触させる。
【0046】
本発明の実施形態は、酵素免疫定量法(ELISA)、ELISPOTアッセイ、免疫沈降アッセイ、フローサイトメトリー、凝集反応、免疫拡散アッセイ、免疫電気泳動アッセイ、ラジオイムノアッセイ、ウェスタンブロット、免疫蛍光アッセイ、及び免疫電子顕微鏡法を含むが、これらに限定されない、任意の親和性捕捉プロトコルによる使用に適しており、並びに試料の調製、臨床診断アッセイ、及び被検物、例えば、医薬研究における薬剤のスクリーニングに適しているが、これらに限定されない。
【0047】
本発明の実施形態は、固定層、流動層、及びバッチクロマトグラフィーを使用する調製方法を含む、種々の方法において使用するのに適応し得る。或いは、実施形態は、スピンカラム又はマルチプルウェルプレート形式などのデバイスを利用する分離法、好ましくはハイスループット分離法の場面で実施することができる。所望であれば、このようなデバイスは、デバイス容積が測定可能な程度に小さい、例えば、数ナノリットルであり得る小型デバイスであってよい。
【0048】
本発明は、病院及び実験室を含むがこれらに限定されない、任意の適切な状況で使用することができる。
【0049】
本発明の実施形態は、例えば、液体試料中に存在する1つ又は複数の所望の標的分子を精製及び/若しくは濃縮する(例えば、親和性結合された(複数の)標的分子は、この後溶出及び回収される)ため、並びに/又は、例えば、これに限定されないが、プロテオミクス適用で使用するために、1つ又は複数の標的分子を除去した液体試料を提供するため、種々の試料及び/又は標的分子と共に使用するのに適している。本発明の実施形態は、2つ以上の異なる所望の標的分子を精製及び/若しくは濃縮するステップ、並びに/又は2つ以上の異なる標的分子を除去した液体試料を提供するステップを含む。
【0050】
本発明の実施形態は、種々の標的分子、例えば、タンパク質、ペプチド、ウイルス、核酸、炭水化物、及び脂質を含む生物学的物質を親和性捕捉するのに適用できる。好ましくは、標的分子は、タンパク質又はペプチドである。より好ましくは、タンパク質は、免疫グロブリン、アルブミン、ホルモン、凝固因子、サイトカイン、又は酵素である。1つのより好ましいタンパク質は、免疫グロブリン、例えば、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を含む全免疫グロブリンの他、このFab、F(ab’)、Fc及びFvフラグメントである。
【0051】
生物学的物質は、典型的には、唾液、体液、尿、リンパ液、前立腺液、精液、乳汁、乳清、器官抽出物、植物抽出物、細胞抽出物、細胞培養培地、上清、発酵ブロス、腹水、溶解物、トランスジェニック植物及び動物抽出物、並びに緩衝液などの液体試料を含むが、これらに限定されない供給源に由来する、又は含有される。
【0052】
本発明の実施形態は、生物医薬品産業で使用される液体(例えば、タンパク質性物質、例えば、抗体(例えば、モノクローナル抗体)、増殖因子などの組換えタンパク質、又は所望のペプチドなどの所望の物質を含む生物療法用液体(biotherapeutic fluid))などのプロセス液体の処理に適し得る。親和性捕捉された所望の物質は、この後回収することができる。或いは、例示的な実施形態は、標的分子の体液を除去するため体液を処理するのに適し得る。例示的には、ヒト血清アルブミン及び/又はヒトIgGは、血清及び/又は血漿試料から除去され得る。ヒト血清アルブミン及び/又はヒトIgGは、血液循環中に他のタンパク質に結合し得る(並びにこれらのタンパク質−タンパク質相互作用は、血液採取、プロセシング、及び凍結融解サイクルの間維持されるほど十分に強力であり得る)ため、本発明の実施形態による体液からのいずれか一方のタンパク質又は両タンパク質の除去は、本来アルブミン及び/又はIgGに結合する可能性のある他のタンパク質の喪失を減少させる又は最小限にする。
【0053】
体液には、生体、特に血液(全血、温血又は冷血、及び保存血又は新鮮血;生理食塩水、栄養物、及び/又は抗凝固溶液を含むがこれらに限定されない、少なくとも1つの生理溶液で希釈された血液などの処理された血液;濃厚血小板(PC)、多血小板血漿(PRP)、乏血小板血漿(PPP)、無血小板血漿、血漿、新鮮凍結血漿(FFP)、血漿から得られた成分、濃厚赤血球(PRC)、移行領域(transition zone)物質又はバフィーコート(BC)などの血液成分;血液若しくは血液成分由来又は骨髄由来の血液産物;幹細胞;血漿から分離され、生理液又は凍結保護液に再懸濁された赤血球;及び血漿から分離され、生理液又は凍結保護液に再懸濁された血小板を含む)と関連した、任意の処理又は非処理液が挙げられる。体液は、本発明による処理前に、白血球の幾つかを除去するのに処理されていてよい。本明細書では、血液産物又は体液とは、上述の成分、並びに他の手段で得られた及び類似の特性を有する類似の血液産物又は体液を指す。
【0054】
標的分子含有液が、ヒト血清又は血漿を含み、及び1回を超えて使用される幾つかの実施形態では、タンパク質の望ましくない変化及び/又は沈殿物増加の原因となり得る、複数の凍結融解サイクルを避けるため、液体は容器に分割することができる。
【0055】
所望であれば、1つ又は複数の標的分子を含有する液体(例えば、ヒト血清又は血漿)は、変性剤と接触させる前に著しい沈殿物の存在について目視検査する。著しい沈殿物が存在する場合、標的分子含有液は、液体が希釈される(例えば、標的分子含有液は、液体試料を提供するため緩衝液と混合される)前後に濾過及び/又は遠心分離することができる。
【0056】
1つ又は複数の標的分子を含有する液体試料は、固定化された親和性分子への少なくとも1つの標的分子の結合を可能にするのに十分な時間、少なくとも1つの変性剤の存在下で、固定化された単鎖親和性分子と接触される。典型的には、接触時間は、約30秒から約12時間の間である。
【0057】
標的分子除去液は、好ましくは、固定化された親和性分子を含有するデバイスから除去液を通過させて、(標的分子が特異的に結合している)固定化された親和性分子から分離される。例えば、標的分子除去液は、(親和性分子が固定化されたビーズ又は粒子を充填された)クロマトグラフィーカラムから、又は(例えば、ウェル中に多孔質媒体を有し、親和性分子が多孔質媒体に固定化された)マルチプルウェルプレートから通過され得る。或いは、例えば、標的分子除去液は、ピペットで取り除くこともでき、親和性分子が固定化されたビーズ又は粒子を保持し、標的分子除去液の通過を可能にするスピンカラム又は(スピンデバイスも含み得る)マルチプルウェルプレートから通過させることもできる。
【0058】
所望であれば、(複数の)標的分子を親和性分子から溶出し回収して、例えば、標的分子を精製及び/又は濃縮することができる。
【0059】
種々のスピンデバイス、好ましくは分離媒体(例えば、ビーズ又は粒子に固定化された親和性分子がこの中を通過するのを防ぐのに十分な孔径を有する、膜又はフリットを含む)を含むスピンデバイスが、本発明の実施形態により使用され得る。適切な市販のスピンデバイスには、例えば、マイクロフュージ管の他、NANOSEP(登録商標)Centrifugal Device及びMICROSEP(商標)Centrifugal DeviceとしてPall Corporation社(イーストヒルズ、NY)から入手可能な遠心分離デバイスなどのスピンカラムが挙げられる。或いは、適切な市販のスピンデバイスには、例えば、マルチプルウェル遠心分離デバイス又はマルチプルウェルプレート(例えば、商標名ACROWELL(商標)及びACROPREP(商標)のPall Corporation社製マルチプルウェルフィルタープレート)及び/又は、例えば、国際公開第2002/096563号パンフレットに記載されたものが挙げられる。
【0060】
種々の分離媒体は、本発明の実施形態によるスピンデバイス及び/又はマルチプルウェルプレートでの使用に適している。好ましい媒体は膜であり、幾つかの実施形態では、低タンパク質結合膜である。膜は、何らかの適切な多孔性を有することができる。幾つかの実施形態では、膜は微多孔膜である。幾つかの他の例示的な実施形態では、膜は、例えば、10,000分子量カットオフ(mwco)以上、好ましくは、30,000mwco以上、例えば、50,000mwco、又は100,000mwco、又はこれを超える限外濾過膜である。
【0061】
しかし、本発明の他の実施形態は、スピンデバイスの使用を必要としない。例えば、上述の通り、クロマトグラフィーカラム(例えば、親和性分子又は抗原結合部分が固定化されたビーズ又は粒子を充填された)又はマルチプルウェルプレート(例えば、各ウェルが、親和性分子又は抗原結合部分が固定化された少なくとも1つの多孔質媒体(微多孔膜など)を含む)を利用することができる。また上述の通り、マルチプルウェルプレートを、スピンデバイス又は非スピンデバイスとして利用することができる。
【0062】
本発明の実施形態によれば、担体;担体に固定化された単鎖親和性分子又はその抗原結合部分;少なくとも1つの緩衝液;及び、固定化された親和性分子又はその抗原結合部分を含有するのに適切なデバイスを含む、標的分子の親和性捕捉用キットが提供される。
【0063】
好ましい実施形態では、単鎖親和性分子は、ラクダ抗体又はその抗原結合部分である。
【0064】
幾つかの実施形態では、キットは、2つ以上の単鎖親和性分子又はその抗原結合部分を含み、該分子又はその抗原結合部分は、異なる結合特異性を有する。例えば、キットは、1つのペプチド又はタンパク質、例えば、(例えば、1つの担体又は担体セット(例えば、ビーズ)に結合された)HSAに特異的な第1の単鎖親和性分子又はその抗原結合部分、及び別のペプチド又はタンパク質、例えば、(例えば、別の担体又は担体セット(例えば、ビーズ)に結合された)IgGに特異的な第2の単鎖親和性分子又はその抗原結合部分を含むことができる。
【0065】
キットの実施形態は、1つ又は複数の以下のものをさらに含むことができる:キットを使用するための印刷された説明書、1つ又は複数の変性剤、1つ又は複数の容器、例えば、1つ又は複数の緩衝液、担体に結合された親和性分子の各々を含有するための個別容器、及び/又は1つ又は複数の変性剤の各々を含有するための個別容器。
【0066】
キットの幾つかの実施形態では、担体は、ビーズ若しくは粒子、又は膜、繊維、又はバイオチップを含む。或いは、又はさらに、キットの幾つかの実施形態では、固定化された親和性分子を含有するのに適切なデバイスは、スピンデバイス及び/又はマルチプルウェルプレートを含む。
【0067】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するものであるが、当然のことながら、本発明の範囲をどんな形であれ限定すると解釈されてはならない。
【0068】
以下の実施例では、変性剤の「低」、「中」、及び「高」濃度とは、種々の変性剤に言及する場合に、言及しやすさのため使用されているにすぎない。例えば、中濃度とは、ある例では3つの濃度が言及されており、及び中濃度は、この例で使用される別の濃度よりも低く、この例で使用されるさらに別の濃度よりも高いことを意味するにすぎない。
【実施例】
【0069】
実施例1
この実施例は、異なる濃度の変性剤の存在下で、ヒト血清試料からのHSAの除去を実証する。
【0070】
この実施例の第1項では、HSAを、中濃度の変性剤の存在下で血清から除去する。
【0071】
ヒト血清試料を調製する。除去の小さな低下(変性剤の存在による標的タンパク質に対するリガンドの親和性の小さな低下に相当)でさえもより容易に気付くようにリガンドを飽和させるため、ヒト血清を、別のHSA(35mg/mL)でスパイクし、リガンドの飽和レベル、すなわち、50mg/mLに近いHSA濃度を得る。
【0072】
変性剤バッチを調製する。高純度水を使用して、トリス緩衝液で調製した9M尿素+2%CHAPS、pH9.0の変性剤を得る。
【0073】
スパイクしたヒト血清試料を変性剤で処理する。50μLの上記のスパイクしたヒト血清試料を、尿素及びCHAPSの最終濃度が、それぞれ5M及び1.11%となるように、トリス緩衝液で調製した64μLの9M尿素+2%CHAPS、(に結合する。処理した血清試料を室温で30分間インキュベートする。
【0074】
変性剤を含む試料をさらに希釈する。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液(136μL)を、処理した血清試料に添加し、処理した血清試料を下記のスラリーに添加する前に、2.25M尿素及び0.5%CHAPSを有する容積250μLを得る。
【0075】
抗HSAスラリーを調製する。HSAに特異的なラクダ抗体を、商標名CAPTURESELECT(登録商標)(BAC B.V.社、ナールデン、オランダ)で得る。抗体を、グリオキシル反応によりアガロースビーズに結合する。結合ビーズを、保存緩衝液(0.02%アジドを含むPBS緩衝液)に結合して50%スラリーを得る。
【0076】
スラリー(400μL)を、孔径サイズ0.45μmを有するGHP親水性ポリプロピレン膜を含むNANOSEP(登録商標)MF Centrifugal Device(Pall Corporation社、イーストヒルズ、NY)に移し、2分間3,000rpmで遠心分離する。保存緩衝液を捨てる。
【0077】
スラリーを、400μLのPBS緩衝液(pH7.4)で1回洗浄し、ボルテックスにかける。ボルテックスにかけたスラリーを、2分間3,000rpmで遠心分離する。流出洗浄液を捨てる。
【0078】
上記の通りに変性させ希釈したヒト血清試料250μLを、調製したスラリーを含むNANOSEP(登録商標)デバイスに入れる。血清試料をボルテックスにかけて十分に混合し、室温で15分間回転させる。混合した血清試料を1.5分間3,000rpmで遠心分離する。流出液を回収し、除去試料を得る。
【0079】
最初の試料中のHSA量、及び最初の血清試料から除去したHSA量を、酵素免疫定量法(ELISA)で測定する。ELISAは、ヒトアルブミンELISA Quantitation Kit(Bethyl Laboratories,Inc.社、モンゴメリー、TX)を用いて、メーカーの指示に従い行う。
【0080】
スパイクした試料から除去したHSA量は、90%を超える。
【0081】
低濃度の変性剤の存在下でヒト血清試料からHSAを除去するには、1.5M尿素及び0.33%CHAPSを含むヒト血清試料(50μLのスパイクした試料を、42μLの9M尿素+2%CHAPSに結合し、PBSを添加して容積250μLを得る)を、調製したスラリーに適用する以外は、一般に上記の手順に従う。低濃度の変性剤の存在下で血清から除去したHSA量を、上記の通りELISAで測定し、該量は90%を超える。
【0082】
高濃度の変性剤の存在下でヒト血清試料からHSAを除去するには、3M尿素及び0.67%CHAPSを含むヒト血清試料(50μLのスパイクした試料を、83μLの9M尿素+2%CHAPSに結合し、PBSを添加して容積250μLを得る)を、調製したスラリーに適用する以外は、一般に上記の手順に従う。低濃度の変性剤の存在下で血清から除去したHSA量を、上記の通りELISAで測定し、該量は90%を超える。
【0083】
低、中、及び高濃度各々の変性剤の存在下でヒト血漿試料からHSAを除去するには、ヒト血清をヒト血漿に置き換えて上記の手順に従う。血漿から除去したHSA量を、上記の通りELISAで測定する。該量は、低、中及び高濃度各々の変性剤の存在下で90%を超える。
【0084】
実施例2
この実施例では、(対照)HSAを、変性剤の非存在下でヒト血清から除去する。実施例1の変性剤存在下でのHSA除去から得られた結果と比較した場合、この実施例は、変性剤存在下におけるヒト血清からのHSAの除去が、HSAに対するラクダ抗体の親和性を著しく低下させることはないことを実証する。
【0085】
実施例1に記載の手順に従う。ここで、200μLのPBSを50μLの血清試料に添加し、変性剤は血清に添加しない。250μLの血清及びPBSを、実施例1に記載の通り調製したスラリーを含有するNANOSEP(登録商標)デバイスに添加する。
【0086】
血清から除去したHSA量を、実施例1に記載の通りELISAで測定し、90%を超えることが分かる。
【0087】
変性剤存在下におけるヒト血漿からのHSAの除去が、HSAに対するラクダ抗体の親和性を著しく低下させることはないことを実証するには、ヒト血清をヒト血漿に置き換えてこの実施例に記載の手順に従う。血漿から除去したHSA量を、実施例1に記載の通りELISAで測定し、該量は90%を超える。
【0088】
実施例3
この例は、異なる濃度の変性剤の存在下で、ヒト血清からのIgGの除去を実証する。
【0089】
この実施例の第1項では、IgGを、中濃度の変性剤の存在下で血清から除去する。
【0090】
ヒト血清試料を調製する。ヒト血清を、別のIgG(7mg/mL)でスパイクして14.7mg/mLのIgG濃度を得る。
【0091】
抗IgGスラリーを調製する。IgGに特異的なラクダ抗体(CAPTURESELECT(登録商標))を、アガロースビーズに結合し、実施例1に記載の通り緩衝液に結合して抗IgGスラリーを得る。
【0092】
スパイクしたヒト血清を、実施例1に記載の通り変性させ、除去する。
【0093】
最初に存在したIgG量、及び血清試料から除去したIgG量をELISAで測定する。ELISAは、ヒトIgG ELISA Quantitation Kit(Bethyl Laboratories,Inc.社)を用いて、メーカーの指示に従い行う。スパイクした血清から除去したIgG量は、95%を超える。
【0094】
低濃度の変性剤の存在下でヒト血清試料からIgGを除去するには、1.5M尿素及び0.33%CHAPSを含むヒト血清試料を、調製したスラリーに適用する以外は、一般に上記の手順に従う。血清から除去したIgG量を、上記の通りELISAで測定し、該量は95%を超える。
【0095】
高濃度の変性剤の存在下でヒト血清試料からIgGを除去するには、3M尿素及び0.67%CHAPSを含むヒト血清試料を、調製したスラリーに適用する以外は、一般に上記の手順に従う。血清から除去したIgG量を、上記の通りELISAで測定し、該量は95%を超える。
【0096】
低、中、及び高濃度各々の変性剤の存在下でヒト血漿試料からIgGを除去するには、ヒト血清をヒト血漿に置き換えてこの実施例に記載の手順に従う。ヒト血漿を、7mg/mLの別のIgGでスパイクしてIgG濃度16.1mg/mLに達する。血漿から除去したIgG量を、上記の通りELISAで測定し、該量は95%を超える。
【0097】
実施例4
この実施例では(対照)IgGを、変性剤の非存在下でヒト血清から除去する。実施例3の変性剤存在下でのIgG除去から得られた結果と比較した場合、この実施例は、変性剤存在下におけるヒト血清からのIgGの除去が、IgGに対するラクダ抗体の親和性を著しく低下させることはないことを実証する。
【0098】
実施例3に記載の手順に従う。ここで、200μLのPBSを50μLの血清試料に添加し、変性剤は血清に添加しない。250μLの血清及びPBSを、実施例3に記載の通り抗IgGスラリーを含有するNANOSEP(登録商標)デバイスに添加する。
【0099】
血清から除去したIgG量を、実施例3に記載の通りELISAで測定し、該量は95%を超える。
【0100】
変性剤存在下におけるヒト血漿からのIgGの除去が、IgGに対するラクダ抗体の親和性を著しく低下させることはないことを実証するには、ヒト血清をヒト血漿に置き換えてこの実施例に記載の手順に従う。血漿から除去したIgG量を、実施例3に記載の通りELISAで測定し、該量は95%を超える。
【0101】
実施例5
この例は、変性剤存在下で、同じヒト血清試料からのIgG及びHSAタンパク質両方の除去を実証する。
【0102】
ヒト血清試料を調製する。ヒト血清を、別のHSA(35mg/mL)及び別のIgG(7mg/mL)でスパイクして50mg/mLのHSA濃度及び14.73mg/mLのIgG濃度を得る。
【0103】
スパイクした血清試料を、実施例1に記載の通り中濃度変性剤で処理し、PBS緩衝液で希釈して2.25M尿素及び0.5%CHAPSを有する容積250μLを得る。
【0104】
抗HSAスラリーを実施例1に記載の通り調製し、抗IgGスラリーを実施例3に記載の通り調製する。
【0105】
抗HSAスラリー(400μL)を、実施例1に記載の通りNANOSEP(登録商標)デバイスに移し、遠心分離する。保存緩衝液を捨てる。抗IgGスラリー(400μL)を、実施例1に記載の通り抗HSAスラリーを含有するNANOSEP(登録商標)デバイスに移し、遠心分離する。保存緩衝液を再び捨てる。
【0106】
スラリーを、実施例1に記載の通りPBS緩衝液で洗浄し、ボルテックスにかけ、遠心分離する。流出洗浄液を捨てる。
【0107】
上記の通りに変性させ希釈したヒト血清試料250μLを、調製した抗HSA/抗IgGスラリーを含むNANOSEP(登録商標)デバイスに入れる。血清試料を、実施例1に記載の通り混合し、回転させ、遠心分離する。流出液を回収し、除去試料を得る。
【0108】
最初に存在したHSA及びIgGの量、並びに最初の血清試料から除去したHSA及びIgGの量を、それぞれ実施例1及び3に記載の通りELISAで測定する。上記の通りスパイクした血清から除去したHSA量は、90%を超える。上記の通りスパイクした血清から除去したIgG量は、95%を超える。
【0109】
低濃度の変性剤の存在下でヒト血清試料からHSA及びIgGを除去するには、1.5M尿素及び0.33%CHAPSを含むヒト血清試料を、調製したスラリーに適用する以外は、一般にこの実施例の手順に従う。血清から除去したHSA量を、上記の通りELISAで測定し、該量は90%を超える。血清から除去したIgG量を、上記の通りELISAで測定し、該量は95%を超える。
【0110】
高濃度の変性剤の存在下でヒト血清試料からHSA及びIgGを除去するには、3M尿素及び0.67%CHAPSを含むヒト血清試料を、調製したスラリーに適用する以外は、一般に上記の手順に従う。血清から除去したHSA量を、上記の通りELISAで測定し、該量は90%を超える。血清から除去したIgG量を、上記の通りELISAで測定し、該量は95%を超える。
【0111】
低、中、及び高濃度各々の変性剤の存在下でヒト血漿試料から、組み合わせたHSA及びIgGの両方を除去するには、ヒト血清をヒト血漿に置き換えてこの実施例の手順に従う。血漿から除去したHSA量を、上記の通りELISAで測定し、該量は、低、中、及び高濃度各々の変性剤の存在下で90%を超える。血漿から除去したIgG量を、上記の通りELISAで測定し、該量は、低、中、及び高濃度各々の変性剤の存在下で95%を超える。
【0112】
実施例6
この実施例では、(対照)HSA及びIgGの両方を、変性剤の非存在下でヒト血清から除去する。実施例5の変性剤存在下でのHSA及びIgG両方の除去から得られた結果と比較した場合、この実施例は、変性剤存在下におけるヒト血清からのHSA及びIgG両方の除去が、HSA又はIgGに対するラクダ抗体の親和性を著しく低下させることはないことを実証する。
【0113】
実施例5に記載の手順に従う。ここで、200μLのPBSを50μLの血清試料に添加し、変性剤は血清に添加しない。250μLの血清及びPBSを、実施例5に記載の通り抗HSA/抗IgGスラリーを含有するNANOSEP(登録商標)デバイスに添加する。
【0114】
血清から除去したHSA量を、上記の通りELISAで測定し、90%を超えることが分かる。血清から除去したIgG量を、上記の通りELISAで測定し、該量は95%を超える。
【0115】
変性剤存在下におけるヒト血漿から、組み合わせたHSA及びIgGの両方を除去することが、HSAに対するラクダ抗体の親和性を著しく低下させることはないことを実証するには、ヒト血清をヒト血漿に置き換えてこの実施例に記載の手順に従う。血漿から除去したHSA量を、上記の通りELISAで測定し、90%を超えることが分かる。血漿から除去したIgG量を、上記の通りELISAで測定し、該量は95%を超える。
【0116】
実施例7の実施では、結合したタンパク質量を以下の通り決定する。余分な純HSAを、抗HSAスラリー(アガロースビーズに結合したラクダ抗体)に添加する。結合しないHSA量を決定し、結合量の算出(添加量−デバイスから流出する量+抗HSAスラリー)に使用する。種々の変性剤の非存在下又は存在下における結合したHSA量の比較は、各条件の効果(陽性、中間、又は陰性)を示す。
【0117】
さらに、非特異的結合を測定するため、BSAを用いて同じプロトコルを実施する。
【0118】
実施例7は、室温で以下の通り実施する。
【0119】
特異的結合を判定するための調製では、タンパク質溶液(40mg/ml HSA)を、1.5ml微小遠心管で1.0mlの1×PBSに40mg HSAを溶解して調製する。溶液を30分間回転させる。
【0120】
非特異的結合を判定するための調製では、40mg/ml BSAを同様の方法で調製する。
【0121】
5つの異なる緩衝変性剤を、以下の「手順」の項に記載の通り調製する。結合は、以下の手順に記載の通り実施する。
手順
【0122】
(a)200μLの抗HSA樹脂(実施例1に記載の通り、50%スラリー)を、1.5ml微小遠心管にピペッティングする。
【0123】
(b)スラリーを1.5分間900gで遠心分離して保存緩衝液(0.02%アジドを含むPBS緩衝液)を除去し、100μLの充填樹脂を得る。
【0124】
(c)スラリーを400μLのPBS(洗浄緩衝液)に再懸濁し、管を5分間回転させてビーズを洗浄する。
【0125】
(d)管を1.5分間900gで遠心分離して緩衝液を除去する。
【0126】
(e)2回洗浄するためステップ(a)〜(d)を繰り返す。
【0127】
(f)ビーズを400μLのテストする緩衝変性剤に再懸濁し、管を5分間回転させてビーズを平衡化する。
【0128】
(g)管を1.5分間900gで遠心分離して緩衝変性剤を除去する。
【0129】
(h)50μLのタンパク質溶液及び200μLの緩衝変性剤を、回転させながら15分間インキュベートする。さらに、天然の結合を判定するため、別の管で、50μLのタンパク質溶液及び変性剤なしのいずれかの200μLの緩衝液(CTAB、グアニジンHCl、尿素/CHAPS、又はアセトニトリルなしのPBS)を、回転させながら15分間インキュベートする。
【0130】
(i)希釈した試料を抗HSA樹脂に添加し、試料を、1時間管を回転させてビーズと共にインキュベートする。
【0131】
(j)試料を1.5分間900gで遠心分離し、流出液を回収する。
【0132】
(k)ビーズを、10分間回転させながら400μLのPBS(洗浄緩衝液)で洗浄し、1.5分間900gで遠心分離して洗浄緩衝液を除去及び回収する。
【0133】
各テスト用の流出液及び洗浄緩衝液をプールする。該流出液及び洗浄緩衝液は、非結合HSAを含有する。同様に、各テスト用の流出液及び洗浄緩衝液をプールする。該流出液及び洗浄緩衝液は、非結合BSAを含有する。
【0134】
非結合HSA量を、BCAタンパク質アッセイ(Pierce BCA(商標)Proteinアッセイキット #23227)を用いてメーカーの指示に従い、プールした試料のタンパク質濃度を測定して判定する。
【0135】
非結合HSAの合計量=[HSA]×プールした試料の容積
【0136】
BSAの非特異的結合=[BSA]×プールした試料の容積
【0137】
HSA容量=[添加したHSA量]−[非結合HSA量]−[添加したBSA量]−[非結合BSA量]。非特異的結合を、テストした各変性剤及び天然の結合条件について判定する。
【0138】
実施例7
この例は、5つの異なる緩衝変性剤、すなわち、CTAB(1.6%)、グアニジンHCl(0.4M及び0.8M)、アセトニトリル(ACN)(8%及び16%)、8.1M尿素+1.6%CHAPS、及び80mM(0.08M)酢酸ナトリウム(NaOAc)pH4.5の存在下における精製HSAの結合、並びに比較として、非変性緩衝液(PBS)の存在下における精製HSAの結合を実証する。
【0139】
2%CTABを、100mL PBSに2gのCTABを溶解して調製する。
【0140】
0.5MグアニジンHClを、最終容積100mLに対しPBS(pH7.2)に4.78gグアニジンHClを溶解して調製する。
【0141】
1.0MグアニジンHClを、最終容積100mLに対しPBS(pH7.2)に9.56gグアニジンHClを溶解して調製する。
【0142】
10%アセトニトリルを、最終容積100mLに対し10mLのアセトニトリルにPBS(pH7.2)を添加して調製する。
【0143】
20%アセトニトリルを、最終容積100mLに対し20mLのアセトニトリルにPBS(pH7.2)を添加して調製する。
【0144】
9M尿素/2%CHAPSを、最終容積100mLに対しPBS(pH7.2)に5.48gの尿素及び2gのCHAPSを添加して調製する。
【0145】
100mM(0.1M)酢酸ナトリウムを、800mL dHOに13.61gの酢酸ナトリウムを添加して調製し、pHをNaOHで4.5に調節し、dHOを1Lになるまで添加する。
【0146】
緩衝変性剤を、溶液中でアルブミンと混合し、結合ステップ時の最終変性剤濃度の20%の低下(すなわち、試料の5倍の希釈)をもたらす。
【0147】
結合は、上記「手順」の項に記載の通り実施する。
【0148】
以下に示す通り、非変性条件下(すなわち、PBS中の結合)でのHAS結合能は8.0mg/mLである。16%アセトニトリル(7.5mg/ml)、0.08M NaOAC pH4.5(8.9mg/ml)、及び8.1M尿素/1.6%CHAPS(8.4mg/ml)の存在下におけるHSA結合能は、天然の結合能に類似し、変性剤の有意な効果を示すものではない。
【0149】
以下に示す通り、8%アセトニトリル(6.3mg/ml)、0.4MグアニジンHCl(5.4mg/ml)、0.8グアニジンHCl(4.8mg/ml)及び1.6%CTAB(5.7mg/ml)の存在下におけるHSA結合容量は、天然の結合能より幾分低いものの、依然として有意な結合を示し、故に、標的タンパク質及びラクダ抗体の相互作用の破壊は限定的である。
【表1】

【0150】
本明細書で引用された出版物、特許出願、及び特許を含む全ての参照は、各参照が、参照により組み込まれることが個別及び具体的に示され、並びに本明細書に各参照全体が記載される場合と同程度に、参照によりここに組み込まれる。
【0151】
本発明を記載する文脈における(特に以下の特許請求の範囲の文脈における)用語「ある(a)」及び「ある(an)」及び「この(the)」及び同様の指示対象は、本明細書に特に指示がない限り、又は文脈による明らかな矛盾がない限り、単数及び複数のいずれをも網羅すると解釈される。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「including(含む)」、及び「含有する(containing)」は、特に断りのない限り非限定的用語(open−ended term)(すなわち、「含むが、これに限定されない」の意)として解釈される。本明細書での値の範囲の記載は、本明細書に特に指示のない限り、範囲内のそれぞれ別個の値を個々に指す簡略な方法となることが意図されるにすぎず、それぞれ別個の値は、これが本明細書で個々に記載されるかのごとく本明細書に組み込まれる。本明細書に記載された全ての方法は、本明細書に特に指示がない限り、又は特に文脈による明らかな矛盾がない限り、任意の適切な順序で行うことができる。本明細書に提供された任意の及び全ての例、又は例示的用語(例えば、「など(such as)」)の使用は、本発明の理解をより容易にすることが意図されるにすぎず、特に請求のない限り本発明の範囲を制限するものではない。本明細書における用語は、本発明の実施に不可欠な何らかの請求されない構成要素を示すと解釈されるべきではない。
【0152】
本発明を実施するため本発明者らに既知の最良の様式を含む、本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載される。これらの好ましい実施形態の変形形態は、上述の説明を読んだ後に当業者には明らかとなり得る。本発明者らは、当業者が必要に応じてそのような変形形態を用いることを予想し、本発明者らは、本発明が本明細書に具体的に記載された以外に実施されることを意図する。したがって、本発明は、全ての改変形態、及び適用法により認められた添付の特許請求の範囲に記載された主題の均等物を含む。さらに、全ての可能性のある変形形態における上記構成要素の任意の組み合わせは、本明細書に特に指示がない限り、又は特に文脈による明らかな矛盾がない限り、本発明により包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子の親和性捕捉方法であって、
標的分子を含む試料を得るステップと、
変性剤の存在下で、
担体に固定化された、標的分子に特異的に結合する単鎖親和性分子又はその抗原結合部分で標的分子を親和性捕捉するステップと
を含む方法。
【請求項2】
変性剤が界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
担体がビーズを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ビーズがクロマトグラフィーカラムに配置されている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ビーズがスピンデバイスに配置されている、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
ビーズがマルチプルウェルプレートに配置されている、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
担体が膜を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
膜がマルチプルウェルデバイスに配置されている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
膜がスピンデバイスに配置されている、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
試料及び変性剤を親和性分子と接触させる前に、試料を変性剤と混合するステップを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
変性剤を試料及び親和性分子と接触させる前に、試料を親和性分子と接触させるステップを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
試料を親和性分子及び変性剤と接触させる前に、変性剤を親和性分子と接触させるステップを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
親和性分子から標的分子を溶出するステップと、溶出された標的分子を回収するステップとをさらに含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
標的分子除去液を得るステップをさらに含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
親和性分子が、ラクダ抗体又はこのフラグメントである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
標的分子がタンパク質である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
標的分子がペプチドである、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
変性剤が、尿素、CHAPS、CTAB、グアニジンHCL、アセトニトリル、及び酢酸から成る群から選択される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
担体と、
担体に固定化された、単鎖親和性分子又はその抗原結合部分と、
少なくとも1つの緩衝液と、
固定化された親和性分子又はその抗原結合部分を含有するのに適切なデバイスと
を含むキット。
【請求項20】
少なくとも第1及び第2の単鎖親和性分子又はその抗原結合部分を含み、第1の単鎖親和性分子が、第2の単鎖親和性分子と異なる結合特異性を有する、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
第1及び第2の単鎖親和性分子又はその抗原結合部分が、別々の担体に固定化されている、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
キットを使用するための印刷された説明書をさらに含む、請求項19〜21のいずれか一項に記載のキット。
【請求項23】
担体に固定化された、少なくとも1つの単鎖親和性分子又はその抗原結合部分を含むバイオチップを含む、請求項19〜22のいずれか一項に記載のキット。
【請求項24】
担体に固定化された単鎖親和性分子又はその抗原結合部分を含有する容器をさらに含む、請求項19〜23のいずれか一項に記載のキット。
【請求項25】
担体に固定化された第1の単鎖親和性分子又はその抗原結合部分を含有する第1の容器、及び担体に固定化された第2の単鎖親和性分子又はその抗原結合部分を含有する第2の容器を含む、請求項19〜24のいずれか一項に記載のキット。
【請求項26】
変性剤をさらに含む、請求項19〜25のいずれか一項に記載のキット。
【請求項27】
スピンデバイスをさらに含む、請求項19〜26のいずれか一項に記載のキット。
【請求項28】
標的分子がアルブミンである、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
標的分子がIgGである、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
試料が2つ以上の異なる標的分子を含み、少なくとも2つの異なる標的分子を親和性捕捉するステップを含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−543099(P2009−543099A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519598(P2009−519598)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/072837
【国際公開番号】WO2008/006017
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(596064112)ポール・コーポレーション (70)
【氏名又は名称原語表記】Pall Corporation