親水性層を有する基材
【課題】本発明は、プラスチックを含む支持体の表面に、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖(EG鎖)を含む親水性層が導入された基材、及び該基材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】表面にプラスチックを含む支持体上にポリシロキサンを含むプライマー層を配置し、該プライマー層上に、EG鎖をポリシロキサンの側鎖と共有結合により連結させることにより、プラスチックを含む支持体の表面にEG鎖を含む親水性層を形成することができる。
【解決手段】表面にプラスチックを含む支持体上にポリシロキサンを含むプライマー層を配置し、該プライマー層上に、EG鎖をポリシロキサンの側鎖と共有結合により連結させることにより、プラスチックを含む支持体の表面にEG鎖を含む親水性層を形成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試験器具等を構成する材料として有用な、表面に親水性層を有する基材に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫測定法の一種である酵素結合免疫吸着アッセイ(Enzyme−Linked Immunosorbent Assay、以下ELISA)は、創薬、診断、環境計測、食品を含む幅広い分野で利用されている。典型的なELISAは、(1)抗体または抗原の固定化(固相化)、(2)標的物質の結合、(3)酵素標識抗体の結合、(4)酵素反応、(5)光学的検出(吸収、蛍光、発光)、の5つの工程からなる。標識用酵素としては西洋わさびペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼなどが用いられる。ELISAは数ある免疫測定法のなかでも特に感度が高い。しかし、実際には固相担体への生体分子の非特異吸着が原因で期待する感度が得られないことも多い。特に酵素標識抗体のような複合体は固相担体に吸着しやすく、これがELISAにおけるノイズの主な原因となっている。このような非特異吸着を防ぐためにウシ血清アルブミン(BSA)によるブロッキング処理が試みられるが、その効果は限定的と言わざるを得ない。そこで、生体分子の非特異吸着を効果的に防ぐポリエチレングリコール(以下PEG)に注目が集まっている。すなわち、抗体または抗原の固定化を、PEGリンカーを介して行うことによって、固相担体への生体分子の非特異吸着を防ぐ試みがなされている。
【0003】
特許文献1には、PEGリンカーを介して抗体を金表面に固定化する方法が開示されている。具体的には、金表面に非イオン性官能基を導入し、ここにヘテロ二官能性PEGの片末端を共有結合させ、別の末端に抗体を結合させる、というものである。この方法によって表面プラズモン共鳴法におけるノイズが有意に低減されることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、PEGリンカーを介して核酸やタンパク質をガラス表面に固定化する方法が開示されている。具体的には、PEGリンカーを有するシラン化合物を合成し、これをガラス表面に適用した後、PEGリンカーの末端に核酸やタンパク質を結合させる、というものである。この方法によってバイオチップのS/N比(感度)が改善されることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、PEGリンカーを介して核酸をガラス表面に固定化する方法が開示されている。具体的には、シランカップリング剤をガラス表面に適用してアミノ基を導入し、ここにホモ二官能性PEGの片末端を共有結合させ、別の末端に核酸を結合させる、というものである。この方法によってバイオセンサの感度が改善されることが記載されている。
【0006】
一方、免疫アッセイ等の各種生化学試験では、プラスチック製の実験器具が利用されることが多い。ただしプラスチックは疎水性であるため、親水性が求められる用途に用いるために、プラスチック基材の表面を親水性に改質する処理が行われる場合がある。そのような処理としてはコロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理、電子線照射、レーザー処理等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−164348号公報
【特許文献2】特開2006−143715号公報
【特許文献3】特開2006−509201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、プラスチックは成型し易く、輸送上、廃棄上の問題が小さいという利点がある。このためELISA等の免疫アッセイ用担体等の生化学試験用器具の材料としてプラスチックは好ましい。しかしながら、免疫アッセイにおける被固定化物質を連結するためのPEGリンカーや、器具表面に親水性を付与するためのエチレングリコール(以下「EG」という)又はPEGを含む親水性層を、プラスチックを含む支持体表面に導入することは従来困難であった。例えばPEGリンカーを有する従来の免疫アッセイ用担体は、支持体としてガラス、金等の無機材料を支持体とせざるを得なかった。その理由として、プラスチックを含む表面に、PEG鎖を連結するための起点となる官能基を高密度に導入することが困難であること、大部分のプラスチックは化学薬品に対する耐性が低いことが挙げられる。
【0009】
そこで本発明は、プラスチックを含む支持体の表面に、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖(以下「EG鎖」という)を含む親水性層が導入された基材、及び該基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、表面にプラスチックを含む支持体上にポリシロキサンを含むプライマー層を配置し、該プライマー層上に、PEG又はEGをポリシロキサンの側鎖と共有結合により連結させてEG鎖を含む親水性層を形成する方法により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の発明群を包含する。
(1)表面にプラスチックを含む支持体と、
前記表面上に配置された、ポリシロキサンを含むプライマー層と、
前記プライマー層上に配置された、前記プライマー層のポリシロキサンの側鎖と共有結合を介して連結された、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖を含む親水性層と
を少なくとも含む基材。
(2)前記プライマー層が前記支持体の表面に物理吸着により結合している、(1)の基材。
(3)前記プラスチックがポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、アクリル樹脂、及びポリエチレンテレフタラートからなる群から選択される少なくとも1種である、(2)の基材。
(4)前記エチレングリコール鎖の一端が前記プライマー層のポリシロキサンの側鎖と共有結合を介して連結されており、前記エチレングリコール鎖の他端が、他の物質と共有結合を形成可能な官能基と連結されている、
(1)〜(3)のいずれかの基材。
(5)前記官能基が、n個の窒素原子を含有する官能基を含み、
前記親水性層中の窒素濃度が、前記親水性層中のC−O結合に由来する炭素濃度を1としたとき、0.010以上、0.050×n以下ある、
(4)の基材。
(6)前記エチレングリコール鎖の一端が前記プライマー層のポリシロキサンの側鎖と共有結合を介して連結されており、前記エチレングリコール鎖の他端がヒドロキシル基で封鎖されている、(1)〜(3)のいずれかの基材。
(7)(1)〜(6)のいずれかの基材の製造方法であって、
前記支持体の表面上において、ケイ素原子に直結した炭素原子を含み且つ官能基を有する有機基を有するシラノール化合物を重合させ、ポリシロキサンを含むプライマー層を形成する、プライマー層形成工程と、
前記プライマー層とエチレングリコール又はポリエチレングリコールとを、エチレングリコール又はポリエチレングリコールのヒドロキシル基と、前記シラノール化合物の前記官能基である、或いは前記シラノール化合物の前記官能基から誘導された、前記ポリシロキサンの側鎖上の官能基との反応により、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖が前記側鎖に共有結合を介して連結されるように反応させる、親水性層形成工程と、を含む方法。
(8)前記プライマー層形成工程が、
加水分解により前記シラノール化合物を生成するケイ素化合物を加水分解し、前記シラノール化合物を生成する工程と、
前記シラノール化合物と塩基とがアルコール中に溶解された溶液を前記支持体の表面上に接触させる工程と
を含む、(7)の方法。
(9)前記ケイ素化合物が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン又は3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランである、(8)の方法。
(10)前記親水性層形成工程よりも後に、前記エチレングリコール鎖の、ポリシロキサンと連結していない側の末端に、他の物質と共有結合を形成可能な官能基を連結する、官能基連結工程を更に含み、
前記官能基連結工程は、前記エチレングリコール鎖のヒドロキシル基との反応により前記官能基を付与する前駆体化合物が、実質的に無水の、アセトニトリルもしくはジメチルスルホキシド又はこれらの溶媒の混合溶媒中に溶解した溶液と、前記親水性層とを、4〜25℃にて接触させる工程を含む、
(7)〜(9)のいずれかの方法。
(11)前記官能基が(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基であり、かつ、前記前駆体化合物が1,1’−カルボニルジイミダゾールである、或いは、前記官能基がスクシンイミジルオキシカルボニル基であり、かつ、前記前駆体化合物が炭酸ジ(N−スクシンイミジル)である、(10)の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プラスチックを含む支持体の表面にEG鎖を含む親水性層を導入することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、物質固定化用担体に関する本発明の一実施形態を示す。
【図2】図2は、物質固定化用担体の製造方法に関する本発明の一実施形態を示す。
【図3】図3は、本発明の物質固定化担体を用いたELISA(間接法)の一実施形態を示す。
【図4】図4は、本発明の物質固定化担体を用いたELISA(間接法)の検量線を示す。
【図5】図5は、本発明の物質固定化担体を用いたELISA(サンドイッチ法)の一実施形態を示す。
【図6】図6は、本発明の物質固定化担体を用いたELISA(サンドイッチ法)の検量線を示す。
【図7】図7は、本発明の基材の一実施形態を示す。
【図8】図8は、本発明の基材の一実施形態を示す。
【図9】図9は、プライマー層の形成方法の一実施形態の手順を示す。
【図10】図10は、本発明の基材の形成方法の一実施形態の手順を示す。
【図11】図11は、実施例6における試験結果を示す。
【図12】図12は、実施例7における試験結果を示す。
【図13】図13は、実施例7における試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本発明の基材)
はじめに、本発明の基材の全体構成の概要を、図7及び8を参照して説明する。
【0014】
基材10,10’は、表面Sにプラスチックを含む支持体11と、表面S上に配置された、ポリシロキサンを含むプライマー層12と、プライマー層12上に配置された、エチレングリコール鎖(EG鎖)を含む親水性層13,13’とを備える。
【0015】
親水性層13のEG鎖 −(CH2−CH2−O)m− (式中、mは1以上の整数である)はプライマー層12を構成するポリシロキサンの側鎖Aと共有結合を介して連結されている。ここで側鎖Aは、後述する式1のシラノール化合物が有する、R1に由来する基であり、R1上の官能基又は該官能基から誘導された官能基がEG鎖の末端のヒドロキシル基と共有結合を形成して形成された二価の基を指す。ケイ素原子に結合する基Xは式1のシラノール化合物のR1(p=2の場合)、R2(p+q=3の場合)、又はヒドロキシル基(q=3の場合)に由来する基である。プライマー層12中のポリシロキサンは直鎖状であってもよいし、分岐鎖状又は網目状の構造を有していてもよいが、好ましくは分岐鎖状又は網目状の構造を有する。ポリシロキサンが分岐鎖状又は網目状の構造を有するとき、Xは、他の繰り返し単位(図示していない)のケイ素原子と結合する架橋基である。架橋基としてのXとしては、式1のシラノール化合物のヒドロキシル基に由来するエーテル基(−O−)が挙げられる。ポリシロキサンが直鎖状の構造を有するとき、Xは、式1に定義するR1又はR2、未反応のヒドロキシル基、加水分解されずに残存した式2に定義する基Y等の一価の基である。EG鎖の両端のうち、ポリシロキサンと連結されていない側の端部には、他の物質と共有結合を形成可能な官能基R3が、直接的に、或いは必要に応じてリンカーを介して間接的に連結されていてもよいし、図8に示すように、ポリシロキサンと連結されていない側の端部がヒドロキシル基により封鎖されていてもよい。図7においてQは結合、又はリンカーを示す。
【0016】
EG鎖の末端に官能基R3が導入された基材10は、免疫アッセイ用固相担体などの、所望の物質を固定化するための物質固定化担体として用いることができる。EG鎖の末端がヒドロキシル基である基材10’は表面が親水化された基材として種々の用途に用いることができる。基材10’は、例えば、細胞を接着させずに培養するための細胞培養基材や、各種ホモジニアスアッセイ(例えば蛍光偏光法や蛍光共鳴エネルギー移動法など)のための基材として用いることができる。
【0017】
支持体11は、少なくとも表面Sにプラスチックを含む。ポリシロキサンを含むプライマー層12は支持体11の表面Sに物理吸着により結合することができる。物理吸着はファンデルワールス力または疎水性相互作用により生じると考えられる。プライマー層12と支持体11の表面Sとの間には共有結合等の化学結合が形成される必要はないため、表面Sがポリスチレン等の、反応性官能基を含まないプラスチックからなる場合であっても、プライマー層12を結合させることができる。
【0018】
プライマー層12中におけるポリシロキサンの状態は必ずしも明らかではないが、図2に示すように複数のポリシロキサン分子の主鎖部分同士が会合し、側鎖である有機基が支持体表面及び親水性層の側に面した二層構造を形成している可能性がある。このような二重構造が形成される機構は以下のように推定される。まず、シラノールのポリマー化によってファンデルワールス力が増大したポリシロキサンがプラスチック表面に物理吸着する。このとき、プラスチック表面とシラノール化合物の有機基との間に働く疎水性相互作用によりシラノール化合物の有機基はプラスチック側に配向する。ポリシロキサンの一層目が形成された後、溶媒側に配向したシラノール基(Si−OH)に別のポリシロキサンが結合する。このとき、シラノール基同士の水素結合によりシラノール化合物の有機基は溶媒側に配向する。その結果、ポリシロキサンは図2に示すような二層構造となると考えられる。溶媒側に配向した有機基は親水性層との共有結合を形成することができる。
【0019】
本発明の基材は、免疫アッセイ用固相担体、アフィニティー担体、μTAS(Micro−Total Analysis Systems)用担体、バイオチップ用担体、バイオセンサー用担体、細胞培養基材、各種ホモジニアスアッセイ等の種々の用途において、物質固定化用担体や、表面が親水化処理された基材として利用することができる。
【0020】
(支持体)
本発明における支持体の材料及び形状は特に限定されない。
支持体は、少なくともプライマー層が形成される表面にプラスチックを含み、より好ましくは、全体がプラスチックからなる。プラスチックの具体例としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタラートなどが挙げられる。予め支持体表面にプラズマ処理やコロナ処理などの物理的な処理が施されていてもよい。支持体は、プライマー層が形成可能な表面を有している支持体であればよく、全体の形状は特に限定されない。例えばマイクロウェルプレート(複数の凹部が形成された板状体)、粒子、スライド、チューブ、キャピラリー、マイクロ流路などの形態の支持体を用いることができる。特にマイクロウェルプレート、とりわけポリスチレン製のマイクロウェルプレートの形態の支持体は、免疫アッセイ用担体や細胞培養基材等の生化学試験の用途において有用である。
【0021】
(プライマー層)
プライマー層は、少なくともポリシロキサンを含む層により形成することができる。ここで、ポリシロキサンとはシロキサン結合(Si−O−Si)の繰り返し単位からなるポリマーであり、シラノール化合物の縮合重合によって得ることができる。シラノール化合物の縮合はシラノール化合物の分子間で起こる反応である。支持体表面のプラスチック分子が反応性の官能基を有してない場合には、シラノール化合物と支持体表面のプラスチック分子との間では反応は起こらない。すなわち、シラノール化合物及び形成されたポリシロキサンは支持体表面のプラスチック分子とは化学的に反応せずに、単に物理的に吸着しているだけである。この点は、ガラスを支持体とする場合とは大きく異なる。このようなシラノール化合物のプラスチック表面への物理吸着力は、モノマーでは極めて弱いが、ある程度縮合が進み、ポリマー(ポリシロキサン)となれば強くなる。シラノール化合物を適度に縮合することによって、プラスチック表面にポリシロキサンを含むプライマー層が形成される。
図9には、支持体表面にプライマー層を形成する手順の概要を示す。
【0022】
(シラノール化合物)
本発明で用いられるシラノール化合物は、シラノール基(Si−OH)に加えて、ケイ素原子に直結した炭素原子を含み且つ官能基を有する有機基を有する。この有機基はポリシロキサンの側鎖となる。シラノール化合物は典型的には式1で表される構造を有する:
(R1)p(R2)4−p−qSi(OH)q ・・・・(式1)
(pは1又は2であり、qは2又は3であり、p+qは3又は4であり、R1は、独立に、ケイ素原子に直結した炭素原子を含み且つ官能基を有する有機基であり、R2はケイ素原子に直結した炭素原子を含む有機基である)。p=1かつq=2又は3であることが好ましく、p=1かつq=3であることがより好ましい。p+q=4である場合、R2は存在しない。
【0023】
R1は、好ましくは、水素原子が1つ以上(好ましくは1つ)の官能基により、必要に応じて適当なリンカー構造を介して、置換されている、炭素数が1〜20、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜6の炭化水素基である(ただし、前記炭化水素基の全部又は一部がビニル基である場合のように、前記炭化水素基自体が官能基である場合は官能基により置換されている必要はない)。前記炭化水素基は、直鎖又は分岐鎖或いは環構造を有する、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基(アルキル基、炭素数2以上のアルケニル基、又は炭素数2以上のアルキニル基)であってもよいし、単環又は多環の炭素数6以上の芳香族炭化水素基であってもよいし、1つ以上の前記脂肪族炭化水素基によって置換された前記芳香族炭化水素基であってもよいし、1つ以上の前記芳香族炭化水素基によって置換され前記脂肪族炭化水素基であってもよい。前記炭化水素基では、炭素−炭素結合が、1又は2個の、酸素、窒素及び硫黄から選択される同一又は異なる原子により中断されていてもよい。炭化水素基の例としては好ましくはプロピル基、エチル基が挙げられる。
【0024】
R1における、前記炭化水素基の1つ以上の水素を、必要に応じて適当なリンカー構造を介して、置換する官能基としては、EG又はPEGのヒドロキシル基と反応して共有結合を形成することができる官能基、或いは、EG又はPEGのヒドロキシル基と反応して共有結合を形成することができる官能基に変換可能な官能基であれば特に限定されないが、典型的には、(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基、スクシンイミジルオキシカルボニル基、グリシジル基、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、アジド基、シアノ基、活性エステル基(1H−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシカルボニル基、ペンタフルオロフェニルオキシカルボニル基、パラニトロフェニルオキシカルボニル基等)、ハロゲン化カルボニル基、イソシアネート基、マレイミド基等が挙げられ、なかでも、グリシジル基又はエポキシ基が好ましい。グリシジル基又はエポキシ基は、それ自体がEG又はPEGのヒドロキシル基と反応して共有結合を形成可能であるが、特開2009−156864号公報に記載されている方法に従って、グリシジル基又はエポキシ基をアルデヒド基に変換し、形成されたアルデヒド基と、EG又はPEGが有するヒドロキシル基とを反応させてもよい。これらの官能基は、前記炭化水素基の水素原子を直接置換してもよいし、適切なリンカー構造を介して置換してもよい。リンカー構造としては、例えば炭素の数が0〜3個、窒素、酸素及び硫黄から選択される同一又は異なるヘテロ原子の数が0〜3個である二価の基が挙げられ、例えば、炭化水素基が左側に、官能基が右側にそれぞれ結合するとしたとき、−O−、−S−、−NH−、−(C=O)O−、−O(C=O)−、−NH(C=O)−、−(C=O)NH−、−(C=O)S−、−S(C=O)−、−NH(C=S)−、−(C=S)NH−、−(N=C=N)−、−CH=N−、−N=CH−、−O−O−、−S−S−、−(O=S=O)−で表される構造が挙げられる。
【0025】
R1の特に好ましい態様としては3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基が挙げられる。
【0026】
R2は、好ましくは、置換基により置換されていないという点を除いてR1について上述したものと同様の(ただしR1とは独立して選択される)炭化水素基であり、なかでも、炭素数が1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基が特に好ましい。
【0027】
(加水分解によりシラノール化合物を生成するケイ素化合物)
前記シラノール化合物は、加水分解によりシラノール基(Si-OH)を生成可能な基を有するケイ素化合物を、加水分解することにより生成することができる。このようなケイ素化合物は式2で表される構造を有する:
(R1)p(R2)4−p−qSi(Y)q ・・・・(式2)
(Yは、独立に、加水分解によりシラノール基を生成可能な基であり、p、q、R1、R2はそれぞれシラノール化合物に関して定義したとおりである)。
【0028】
Yとしては、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリールオキシ基、アルコキシ基又はアリールオキシ基により置換されたアルコキシ基、アルコキシ基又はアリールオキシ基により置換されたアリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基等が好ましい。Yとしては特に、炭素数1〜6のアルコキシ基(特にメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基)、炭素数1〜6の、アルコキシ基により置換されたアルコキシ基(例えばメトキシエトキシ基)、炭素数1〜6のアルキルカルボニルオキシ基(例えばアセトキシ基)、塩素原子が好ましい。
【0029】
式2のケイ素化合物としては、シランカップリング剤として市販されている化合物を好適に使用することができ、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン又は3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0030】
(プライマー層の形成方法)
プライマー層を形成する際、式2のケイ素化合物を以下のように加水分解し、式1のシラノール化合物を生成することができる(S901)。加水分解の条件は特に限定されないが、例えば次の方法が可能である。まず、式2のケイ素化合物に希塩酸を添加し、基Yを加水分解する。希塩酸のpHは2.0〜3.0に調整するのが望ましい。ケイ素化合物に対する水分子のモル比は2〜4とする。この操作によって基Yはシラノール基へ変換され、式1のシラノール化合物が生成する。
【0031】
次いでシラノール化合物を支持体表面に適用し(S902)、縮合重合によりポリシロキサンを形成する(S903)。式1のシラノール化合物は、塩基とともにアルコールに溶解する。シラノール化合物の終濃度は0.1〜10%(v/v)の範囲で調整することが望ましい。塩基はトリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンなどを用いることができるが、これらに限定されない。塩基の終濃度は0.1〜10%(v/v)の範囲で調整することが望ましい。アルコールはエタノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール等を用いることができるが、これらに限定されない。このシラノール化合物溶液を支持体のプラスチック表面に接触させ、10分〜24時間放置する。反応温度は4〜80℃の範囲で設定できるが、特に室温(20〜25℃)が好ましい。以上の操作によって、プラスチック表面にポリシロキサンを含むプライマー層が物理吸着によって形成される。プライマー層の被覆密度は、シラノールや塩基の濃度、あるいはシラノール溶液をプラスチック表面に接触させる時間によって制御可能である。プライマー層の被覆密度が高ければ高いほど、次の工程で共有結合させるEG鎖の結合密度も高くなる。
【0032】
形成されたポリシロキサンの側鎖上のシラノール化合物からの官能基を誘導体化して他の官能基に変換する場合には、プライマー層形成後に引き続き、ポリシロキサンの側鎖上のシラノール化合物からの官能基を、EG又はPEGのヒドロキシル基と反応して共有結合を形成することができる官能基に変換する誘導体化工程(S904)を行う。
【0033】
(親水性層)
プライマー層上に配置される親水性層は、1つ以上のエチレングリコール単位(CH2−CH2−O)からなるエチレングリコール鎖(EG鎖)を少なくとも含む。「エチレングリコール鎖(又はEG鎖)」は次式:
−(CH2−CH2−O)m−
(mは重合度を示す整数である)
で表される構造を指す。本明細書では重合度mが2以上であるEG鎖を「ポリエチレングリコール鎖(又はPEG鎖)」と称することがある。
【0034】
EG鎖の分子量は特に限定されず、基材の用途に応じて適宜設定することができる。本発明の基材を免疫アッセイのための物質固定化用担体として場合には、EG鎖の数平均分子量は44以上(mが1以上)であり、176以上(mが4以上)であることが好ましい。EG鎖の数平均分子量の上限は特に限定されないが、数平均分子量が大きくなるほど粘度が増すため取扱いが難しいこと、及び、EG鎖の高密度での配置が難しいことから、EG鎖の数平均分子量は25000以下であることが好ましく、10000以下であることがより好ましい。
【0035】
EG鎖は、次式:
HO−(CH2−CH2−O)m−H
(mは重合度を示す整数である)
で表されるエチレングリコール(EG,m=1)又はポリエチレングリコール(PEG,mは2以上)を用いて形成することができる。
【0036】
EG鎖の数平均分子量は、原料として用いられるEG又はPEG、或いは、担体から解離させたEG又はPEGの数平均分子量からH2Oの分子量(18.015)を控除することにより求めることができる。EG又はPEGの数平均分子量は蒸気圧浸透圧法または膜浸透圧法によって求められる。蒸気圧浸透圧法はEG又はPEGの数平均分子量が100,000未満のときに使用することができる。膜浸透圧法はPEGの数平均分子量が10,000〜1,000,000のときに使用することができる。
【0037】
EG又はPEGの一端のヒドロキシル基と、前記ポリシロキサンの側鎖上の官能基又は該官能基から誘導された官能基との反応により形成された共有結合を介して、EG鎖がプライマー層に結合される。
【0038】
EG鎖の他端は、ヒドロキシル基が図8に示すように誘導体化されておらずヒドロキシル基で封鎖された状態であってもよいし、図7に示すように、他の物質と共有結合を形成することが可能な、少なくとも1つの官能基R3が直接的(Q=結合)又は間接的(Q=リンカー)に連結された状態であってもよい。
【0039】
EG鎖の他端に導入される官能基R3としては、他の物質と共有結合を形成することが可能な官能基であれば特に限定されないが、代表的には、(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基、スクシンイミジルオキシカルボニル基、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、アジド基、シアノ基、活性エステル基(1H−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシカルボニル基、ペンタフルオロフェニルオキシカルボニル基、パラニトロフェニルオキシカルボニル基等)、ハロゲン化カルボニル基(塩化カルボニル基、フッ化カルボニル基、臭化カルボニル基、ヨウ化カルボニル基)等が挙げられる。これらの官能基は、EG鎖の末端のヒドロキシル基の水素を置換する置換基として、EG鎖に直接的に連結されていてもよいし、EG鎖の末端に結合したリンカー構造に結合した官能基として、EG鎖に間接的に連結されていてもよい。他の物質との反応性と、保存安定性のバランスを考慮すると、(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基及びスクシンイミジルオキシカルボニル基が好ましい。これらの官能基は他の物質が有するアミノ基等の官能基と反応して共有結合を形成することができる。リンカー構造としては、炭素の数が0〜3個、窒素、酸素及び硫黄から選択される同一又は異なるヘテロ原子の数が0〜3個である二価の基が挙げられる。
【0040】
本発明によれば、プライマー層の被覆密度を制御することにより、EG鎖の結合密度を制御することができる。そして、EG鎖の結合密度も免疫アッセイの検出感度に影響する。EG鎖の結合密度はX線光電子分光法(XPS)を用いてある程度推定することができる。エチレングリコール単位(CH2−CH2−O)は(XPS)においてC(1s)シグナルのC−O成分を与え、(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基、スクシンイミジルオキシカルボニル基等の窒素原子含有官能基はXPSにおいてN(1s)シグナルを与える。元素濃度比N(1s)/C−OはEG鎖の結合密度と明確な相関がある。免疫アッセイでの高い検出感度を実現するためには、官能基がn個の窒素原子を含有する場合、元素濃度比N(1s)/C−Oが0.010以上、0.050×n以下であることが好ましい。「0.010以上、0.050×n以下」とは、例えば、n=1の場合は「0.010以上、0.050以下」を意味し、n=2の場合は「0.010以上、0.100以下」を意味し、n=3の場合は「0.010以上、0.150以下」を意味し、n=4の場合は「0.010以上、0.200以下」を意味する。本発明におけるXPSは、アルバック・ファイ社製のX線分光分析装置「ESCA5600」を用い、光電子取り込み角度を45°に設定して測定される。n個の窒素原子を含有する官能基としては、(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基(n=2)及びスクシンイミジルオキシカルボニル基(n=1)以外にイソシアネート基(n=1)、アジドカルボニル基(n=3)、カルボジイミド基(n=2)、マレイミジル基(n=1)、アジリジン−2−イル基(n=1)、1H−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシカルボニル基(n=3)、1H−7−アザベンゾトリアゾール−1−イルオキシカルボニル基(n=4)が挙げられる。これらの官能基についても、XPSにより求められる、親水性層中のC−O結合に由来する炭素濃度を1としたときの窒素濃度(N(1s)/C−O)が上記と同様の数値範囲であることが好ましい。
親水性層には他の親水性化合物が更に含まれていてもよい。
【0041】
(親水性層の形成方法)
本発明の基材は、図10に概略を示すとおりプライマー層を形成する工程S1001と、プライマー層のポリシロキサンにEG鎖を連結させる工程S1002とを少なくとも含む方法により製造することができる。図7に示すようにEG鎖末端に官能基を導入する場合は、EG鎖末端へ官能基を連結する工程S1003を更に含む。
【0042】
親水性層は、プライマー層のポリシロキサンの側鎖上の官能基(シラノール化合物の官能基に対応する官能基、或いは、該官能基から誘導された官能基)とEG又はPEGのヒドロキシル基とを反応させることにより形成することができる。このとき触媒量の濃硫酸を含むEG又はPEGをプライマー層と接触させる。ここで、数平均分子量が1000を超えるPEGはあらかじめ加熱融解しておく。必要に応じて、EG又はPEGをtert−ブチルアルコールなどで希釈して用いてもよい。このEG溶液又はPEG溶液をプラスチック表面に接触させ、加熱する。加熱温度は60〜100℃の範囲で設定できるが、プラスチックの耐熱性を加味すると80℃前後(75℃〜85℃)が好ましい。加熱時間は10分〜24時間の範囲で設定できるが、加熱温度が80℃前後の場合は10分〜60分間が好ましい。以上の操作によって、プライマー層にEG鎖が共有結合する。このとき、EG鎖の結合密度はプライマー層の被覆密度に依存する。
【0043】
必要に応じて、EG鎖の一端に、他の物質との共有結合を形成することが可能な、少なくとも1つの官能基を直接的又は間接的に連結させる。官能基の導入方法は特に限定されない。(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基及びスクシンイミジルオキシカルボニル基を、EG鎖の末端のヒドロキシル基の水素を置換する置換基として導入する方法の好ましい実施形態は次の通りである。一端がプライマー層、シランカップリング剤等を介して支持体表面に固定されたEG鎖の他端に、1,1’−カルボニルジイミダゾール(以下CDI)または炭酸ジ(N−スクシンイミジル)(以下DSC)を以下のように反応させる。
【0044】
【化1】
【0045】
上記の反応は、水分をほとんど含まない実質的に無水の有機溶媒中で実施される必要がある。一般にプラスチックは有機溶剤に対する耐性が低いため、支持体がプラスチックを含む場合には、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、又はこれらの有機溶媒を適当な割合で混合した混合溶媒を利用することが好ましい。これらの有機溶剤の水分含有率は0.1重量%以下であることが望ましい。CDIまたはDSCの終濃度は0.01〜1Mの範囲で設定できるが、室温以下で反応させる場合は0.1M以上であることが望ましい。支持体表面のプラスチックへのダメージを避けるために反応温度を4〜25℃の範囲で設定することが望ましい。反応時間は10分間〜24時間の範囲で設定することが好ましく、CDI濃度が0.5M前後(0.4〜0.6M)のときは10分〜60分間が好ましい。以上の操作によって、官能基が共有結合されたEG鎖を含む親水性層が形成される。
【0046】
(他の物質)
本発明の基材は、一実施形態において、EG鎖末端に導入された官能基を利用して「他の物質」をEG鎖末端に固定化することができる。すなわちこの実施形態において、本発明の基材は物質固定化用担体として機能し、「他の物質」は被固定化物質に相当する。以下、「他の物質」を「被固定化物質」と呼ぶことがある。
【0047】
被固定化物質は、EG鎖末端に導入された官能基と共有結合を形成可能な官能基を有する物質であれば特に限定されない。このような官能基としては代表的にはアミノ基が挙げられるが、チオール基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アジド基、シアノ基であってもよい。また、被固定化物質としては更に、アルコキシド、2級アミン、3級アミン、グリニャール試薬、有機リチウム化合物、カルバニオン等も包含される。被固定化物質は生体関連物質が好ましい。生体関連物質としては、DNA、RNA、ペプチド、ホルモン、酵素、抗原、抗体、サイトカイン、糖鎖、脂質、補酵素、酵素阻害剤、細胞、その他の機能を有するタンパク質が含まれる。更に、このような生体関連物質と親和性を有する低分子化合物、及び高分子化合物も生体関連物質の範囲に含まれる。なお、固定化しようとする生体関連物質に、アミノ基等の、EG鎖末端に導入された官能基との反応で共有結合を形成可能な官能基が存在しない場合であっても、これらの物質にアミノ基等を人為的に導入することにより、固定化に供することができる。
【0048】
本発明の基材を免疫アッセイ用固相担体として用いる場合には、目的とする免疫アッセイの態様に応じて、標的物質と結合する抗原又は抗体や、標的物質が固定化される。「標的物質と結合する抗原又は抗体」が被固定化物質である実施形態(サンドイッチ法又は直接競合法)において、被固定化物質と標的物質との組合せは、抗原抗体反応に基づく特異的な結合が可能な組合せであれば特に限定されない。例えば、標的物質が抗原(ハプテンを含む)である場合には、被固定化物質は抗体(抗体断片を含む)であることができ、標的物質が抗体(抗体断片を含む)である場合には、被固定化物質は抗原(ハプテンを含む)であることができる。「標的物質」が被固定化物質である実施形態(間接競合法)では、標的物質は抗原(ハプテンを含む)又は抗体(抗体断片を含む)である。
【0049】
被固定化物質及び/又は標的物質としての抗原は、抗体との特異的な抗原抗体反応性を示す物質であれば特に限定されない。代表的な抗原として、タンパク質、ペプチド、糖類、核酸(DNA、RNA)、脂質、補酵素、細胞、ウイルス、細菌、これらの複合体等の天然抗原や、天然抗原の誘導体や、人為的に合成されたハプテン、人工抗原等が挙げられる。
【0050】
被固定化物質及び/又は標的物質としての抗体は、ある抗原に対して特異的な抗原抗体反応性を示す免疫グロブリン及びその断片を指し、必要に応じて化学修飾等が施されていてもよい。
【0051】
本発明の基材のEG鎖末端に、標的物質と結合する抗原又は抗体や標的物質が被固定化物質として固定化された物質固定化担体を用いて標的物質を測定することにより、免疫アッセイを実施することができる。本発明の基材を用いた免疫アッセイは公知の方法で実施することができ、サンドイッチ方式、直接競合方式、間接競合方式等の任意の態様とすることができる。
【0052】
本発明の基材を用いた免疫アッセイにおいて抗原又は抗体を検出する手段は特に限定されず、任意の標識物質により直接的又は間接的に標識された抗原又は抗体を用いることができる。標識物質としては、酵素(ELISA法)、核酸(イムノPCR)、電気化学発光物質(電気化学発光法)、蛍光物質、化学発光物質、放射性物質等の、増幅された検出シグナルを生成することができる標識物質が挙げられる。免疫アッセイは、安全性及び簡便性を考慮すると、標識物質として酵素を用いる、酵素活性に基づいて検出を行う酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)であることが好ましい。
【0053】
以下、図面と具体的な実施例を用いて本発明を説明する。
【0054】
[実施例1]
図1は本発明の基材(物質固定化用担体)の一実施形態を表す。ポリスチレンからなる支持体表面にポリシロキサンを含むプライマー層が形成されている。プライマー層にはEG鎖の片末端が共有結合している。EG鎖の別の片末端には(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニルが存在する。
【0055】
[実施例2]
図2に示した方法で物質固定化用担体を製造した。具体的な手順を以下に記す。
1.65mlの3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)に0.35mlの希塩酸(pH2.4)を添加してシラノールを調製した。これを100mlの2−プロパノール(純正化学)に添加した。ここに、さらに4mlのトリエチルアミン(和光純薬)を添加した。このシラノール溶液を96穴マイクロプレート(BD FalconTM)の各ウェルに100μlずつ分注した。そのまま室温で75分間放置した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によってマイクロプレートのウェル内にポリシロキサンとエポキシ基を含むプライマー層が形成された。次に、触媒量の濃硫酸を含んだPEG4000(数平均分子量2700〜3400、関東化学)を各ウェルに100μlずつ分注した。そのまま90℃で30分間加熱した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によってプライマー層上にPEGを含む親水性層が形成された。次に、脱水アセトニトリル(関東化学)と脱水ジメチルスルホキシド(関東化学)の等重量混合溶媒を用いて終濃度0.5MのCDI(東京化成)溶液を調製し、これを各ウェルに10μlずつ分注した。そのまま室温で20分間放置した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によって親水性層に含まれるPEGの末端に(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基が導入されたPEG誘導体が形成された。
【0056】
[実施例3]
実施例2の物質固定化用担体(96穴マイクロプレート)を用いて図3に示すELISA(間接法、抗原-抗体-抗体サンドイッチ法)を実施した。具体的な手順を以下に記す。
【0057】
以下、0.025%Triton(登録商標) X−100(和光純薬)を含む炭酸−重炭酸緩衝液(pH9.6)を固相化バッファー、0.1%Triton(登録商標) X−100および0.5MのNaClを含むリン酸緩衝液(PBS)を洗浄バッファー、1%BSAを含むPBSを希釈バッファーとする。まず、リゾチーム(和光純薬)を固相化バッファーに溶解し、終濃度50μg/mlのリゾチーム溶液を調製した。この溶液を実施例2の96穴マイクロプレートの各ウェルに5μlずつ分注した。37℃で10分間放置して乾燥濃縮させた後、ウェル内を洗浄バッファーで2回洗浄した。次に、希釈バッファーを用いて0〜500ng/mlの抗リゾチーム抗体(Nordic Immunological Laboratories)を調製し、各ウェルに50μlずつ分注した。室温で30分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで1回洗浄した。希釈バッファーを用いてHRP標識2次抗体(Rockland)を4000倍希釈し(終濃度0.5μg/ml)、これを各ウェルに50μlずつ分注した。室温で30分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで3回洗浄した。各ウェルに化学発光基質であるイムノスターLD(和光純薬)を30μl添加し、LAS4000mini(GEヘルスケア)を用いて化学発光画像を取得した。最後に、専用のソフトウェアを用いて化学発光強度を算出し、図4(本発明)のような検量線を作成した。感度は0.03ng/mlであった。
【0058】
(比較例1)
未処理の96穴マイクロプレート(BD FalconTM)および従来品の96穴マイクロプレート(酸素プラズマ処理によって親水化されたポリスチレン性96穴マイクロプレート)を用いて図3に示すELISA(間接法)を実施した。具体的な手順を以下に記す。
【0059】
以下、炭酸−重炭酸緩衝液(pH9.6)を固相化バッファー、0.05%Tween(登録商標) 20を含むPBSを洗浄バッファー、1%BSAを含むPBSをブロッキングバッファーおよび希釈バッファーとする。まず、リゾチーム(和光純薬)を固相化バッファーに溶解し、終濃度5μg/mlのリゾチーム溶液を調製した。この溶液を96穴マイクロプレートの各ウェルに100μlずつ分注した。室温で2時間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで2回洗浄した。次に、ブロッキングバッファーを各ウェルに200μlずつ分注した。室温で60分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで2回洗浄した。希釈バッファーを用いて0〜500ng/mlの抗リゾチーム抗体(Nordic Immunological Laboratories)を調製し、各ウェルに100μlずつ分注した。室温で60分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで1回洗浄した。希釈バッファーを用いてHRP標識2次抗体(Rockland)を4000倍希釈し(終濃度0.5μg/ml)、これを各ウェルに100μlずつ分注した。室温で30分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで3回洗浄した。各ウェルに化学発光基質であるイムノスターLD(和光純薬)を30μl添加し、LAS4000mini(GEヘルスケア)を用いて化学発光画像を取得した。最後に、専用のソフトウェアを用いて化学発光強度を算出し、図4(未処理、従来品)のような検量線を作成した。未処理品と従来品の感度はいずれも3.9ng/mlであった。
【0060】
[実施例4]
実施例2で得られた96穴マイクロプレートを用いて図5に示すELISA(抗体-抗原-抗体サンドイッチ法)を実施した。具体的な手順を以下に記す。
【0061】
5%トレハロース(和光純薬)及び0.025%Triton(登録商標) X−100(和光純薬)を含む炭酸−重炭酸緩衝液(pH9.6)を固相化バッファーとする。抗IL−1β抗体(Biolegend)を固相化バッファーに溶解し、終濃度50μg/mlの抗体溶液を調製した。この溶液を実施例2で得られた96穴マイクロプレートの各ウェルに5μlずつ分注した。37℃で2時間放置して乾燥濃縮させた後、ウェル内を洗浄バッファーで2回洗浄した。次に、希釈バッファーを用いて0〜2500pg/mlのIL−1β(和光純薬)を調製し、各ウェルに50μlずつ分注した。室温で60分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで1回洗浄した。希釈バッファーを用いてビオチン標識2次抗体(Biolegend)を500倍希釈し、これを各ウェルに50μlずつ分注した。室温で30分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで1回洗浄した。次に、希釈バッファーを用いてHRP標識ストレプトアビジン(Prozyme)を4000倍希釈し(終濃度0.25μg/ml)、これを各ウェルに50μlずつ分注した。室温で10分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで3回洗浄した。化学発光基質であるイムノスターLD(和光純薬)を30μl添加し、LAS4000mini(GEヘルスケア)を用いて化学発光画像を取得した。最後に、専用のソフトウェアを用いて化学発光強度を算出、図6(本発明)のような検量線を作成した。感度は0.15pg/mlであった。
【0062】
(比較例2)
未処理の96穴マイクロプレート(BD FalconTM)および従来品の96穴マイクロプレート(酸素プラズマ処理によって親水化されたポリスチレン性96穴マイクロプレート)を用いて図5に示すELISA(抗体-抗原-抗体サンドイッチ法)を実施した。具体的な手順を以下に記す。
【0063】
比較例1と同様の各種バッファーを用いた。抗IL−1β抗体(Biolegend)を固相化バッファーに溶解し、終濃度5μg/mlの抗体溶液を調製した。この溶液を96穴マイクロプレートの各ウェルに50μlずつ分注した。室温で2時間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで2回洗浄した。次に、ブロッキングバッファーを各ウェルに100μlずつ分注した。室温で60分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで2回洗浄した。希釈バッファーを用いて0〜2500pg/mlのIL−1β(和光純薬)を調製し、各ウェルに50μlずつ分注した。室温で60分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで1回洗浄した。希釈バッファーを用いてビオチン標識2次抗体(Biolegend)を500倍希釈し、これを各ウェルに50μlずつ分注した。室温で30分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで1回洗浄した。次に、希釈バッファーを用いてHRP標識ストレプトアビジン(Prozyme)を4000倍希釈し(終濃度0.25μg/ml)、これを各ウェルに50μlずつ分注した。室温で30分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで3回洗浄した。化学発光基質であるイムノスターLD(和光純薬)を30μl添加し、LAS4000mini(GEヘルスケア)を用いて化学発光画像を取得した。最後に、専用のソフトウェアを用いて化学発光強度を算出、図6(未処理、従来品)のような検量線を作成した。未処理品と従来品の感度はそれぞれ9.8pg/mlと2.4pg/mlであった。
【0064】
【表1】
【0065】
[実施例5]
シラノール処理時間およびEG鎖の数平均分子量がELISA(間接法)の感度に及ぼす影響を調べた。具体的な手順を以下に記す。
【0066】
1.65mlの3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)に0.35mlの希塩酸(pH2.4)を添加してシラノールを調製した。これを100mlの2−プロパノール(純正化学)に添加した。ここに、さらに0.5mlのトリエチルアミン(和光純薬)を添加した。このシラノール溶液を96穴マイクロプレート(BD FalconTM)の各ウェルに100μlずつ分注した。そのまま室温で60〜135分間放置した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によってマイクロプレートのウェル内にポリシロキサンとエポキシ基を含むプライマー層が形成された。次に、触媒量の濃硫酸を含んだEG又はPEG(13種)を各ウェルに100μlずつ分注した。そのまま80℃で45分間加熱した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によってプライマー層上にEG鎖を含む親水性層が形成された。次に、脱水アセトニトリル(関東化学)と脱水ジメチルスルホキシド(関東化学)の等重量混合溶媒を用いて終濃度0.5MのCDI(東京化成)溶液を調製し、これを各ウェルに20μlずつ分注した。そのまま室温で30分間放置した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によって親水性層に含まれるEG鎖の末端に(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基が導入されたEG又はPEG誘導体が形成された。以上の操作により、EG鎖の結合密度やEG鎖の数平均分子量の異なる物質固定化用担体が得られた。これらの物質固定化用担体を用いて実施例3に記載の方法でELISAの感度を測定した。その結果、表2に示すようにEG鎖の数平均分子量が176以上で従来よりも顕著に高い感度が得られることがわかった。また、EG鎖の分子量が大きい場合は比較的低密度であっても高い感度が実現できることがわかった。
【0067】
【表2】
【0068】
表2に示す各原料の数平均分子量は以下の通りである。
【0069】
【表3】
【0070】
[実施例6]
EG又はPEGの数平均分子量がタンパク質吸着量に及ぼす影響を調べた。
まず、EG又はPEGからなる親水性層を有する96穴マイクロプレート(活性化していない)を以下の手順で製造した。
【0071】
まず、1.65mlの3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)に0.35mlの希塩酸(pH2.4)を添加してシラノールを調製した。これを100mlの2−プロパノール(純正化学)に添加した。ここに、さらに0.5mlのトリエチルアミン(和光純薬)を添加した。このシラノール溶液を96穴マイクロプレート(BD FalconTM)の各ウェルに100μlずつ分注した。そのまま室温で135分間放置した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によってマイクロプレートのウェル内にポリシロキサンとエポキシ基を含むプライマー層が形成された。次に、触媒量の濃硫酸を含んだEG又はPEG(10種)を各ウェルに100μlずつ分注した。そのまま80℃で45分間加熱した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によってプライマー層上にEG又はPEGからなる親水性層が形成された。
【0072】
次に、親水性層を有する96穴マイクロプレートへのタンパク質(HRP標識抗IgG抗体)吸着量を以下の手順で測定した。
【0073】
まず、PBSを用いて1μg/mlのHRP標識2次抗体を調製した。これを各ウェルに100μlずつ分注し、4℃で24時間静置した。その後、0.05%のTween(登録商標) 20を含むPBSで各ウェルを3回洗浄した。次に、PBSを用いて5mM SAT−3(同仁化学)および0.5mM過酸化水素(関東化学)を含む発色反応溶液を調整した。これを各ウェルに100μlずつ分注し、室温で15分間静置した。その後、1規定の硫酸を各ウェルに100μlずつ加え、発色反応を停止させた。最後に、SpectraMax M2e(モレキュラーデバイス)を用いて474nmの吸光度を測定した(図11)。ここで、未処理の96穴マイクロプレート(BD FalconTM)の値を100%とした。その結果、本発明はPEGの数平均分子量にほとんど依存せずに高い吸着抑制効果を示すこと、EGを使用しても吸着抑制効果は奏されることがわかった。
【0074】
(比較例3)
タンパク質吸着量を従来技術(市販品3種)と比較した。従来技術(1)および従来技術(2)はMPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマー層を有するポリスチレン製96穴マイクロレート、従来技術(3)はPEG層を有するがプライマー層をもたないポリスチレン製96穴マイクロレートである。具体的な手順は実施例6と同一とした。その結果、本発明は従来技術よりも高い吸着抑制効果を示すことがわかった(図11)。これは、EG又はPEGからなる親水性層がMPCポリマー層よりも高い吸着抑制効果をもち、なおかつプライマー層がEG又はPEGの結合密度を高めたためと考えられる。
【0075】
[実施例7]
実施例6のPEG層を有する96穴マイクロプレートへの細胞非接着性を以下の手順で調べた。なお、PEGは数平均分子量が2700〜3400のものを用いた。
【0076】
まず、マウス線維芽細胞CCL163を、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地に懸濁し、各ウェルに1×104個ずつ播種した。インキュベータ(37℃、5%CO2)内で8日間培養後、位相差顕微鏡を用いて細胞の様子を観察した。その結果、PEG層を有する基材表面への細胞の接着や伸展は認められず、完全に浮遊した状態で凝集塊を形成していた(図12左)。同条件で培養を行った未処理品では、細胞の接着や伸展、増殖が明らかに認められた(図12右)。
【0077】
次に、細胞非接着性を定量的に評価するため、MTSアッセイを以下の手順で実施した。まず、同細胞を同条件で培養した後、培地を吸引して未接着の細胞を除去した。同培地で各ウェルを1回洗浄した後、同培地を各ウェルに100μlずつ分注した。その後、MTS試薬Cell Titer96R AQueousOne(Promega)を各ウェルに20μlずつ加えた。プレートを前後左右にゆすって攪拌した後、インキュベータ(37℃、5%CO2)内で2時間放置し、呈色させた。最後に、SpectraMax M2e(モレキュラーデバイス)を用いて各ウェルの吸光度を測定した。未処理品の吸光度を100%にしたとき、PEG層を有する基材の値は約1.3%であった(図13)。以上より、本発明による基材は細胞の接着・伸展・増殖を顕著に抑制することがわかった。
【技術分野】
【0001】
本発明は試験器具等を構成する材料として有用な、表面に親水性層を有する基材に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫測定法の一種である酵素結合免疫吸着アッセイ(Enzyme−Linked Immunosorbent Assay、以下ELISA)は、創薬、診断、環境計測、食品を含む幅広い分野で利用されている。典型的なELISAは、(1)抗体または抗原の固定化(固相化)、(2)標的物質の結合、(3)酵素標識抗体の結合、(4)酵素反応、(5)光学的検出(吸収、蛍光、発光)、の5つの工程からなる。標識用酵素としては西洋わさびペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼなどが用いられる。ELISAは数ある免疫測定法のなかでも特に感度が高い。しかし、実際には固相担体への生体分子の非特異吸着が原因で期待する感度が得られないことも多い。特に酵素標識抗体のような複合体は固相担体に吸着しやすく、これがELISAにおけるノイズの主な原因となっている。このような非特異吸着を防ぐためにウシ血清アルブミン(BSA)によるブロッキング処理が試みられるが、その効果は限定的と言わざるを得ない。そこで、生体分子の非特異吸着を効果的に防ぐポリエチレングリコール(以下PEG)に注目が集まっている。すなわち、抗体または抗原の固定化を、PEGリンカーを介して行うことによって、固相担体への生体分子の非特異吸着を防ぐ試みがなされている。
【0003】
特許文献1には、PEGリンカーを介して抗体を金表面に固定化する方法が開示されている。具体的には、金表面に非イオン性官能基を導入し、ここにヘテロ二官能性PEGの片末端を共有結合させ、別の末端に抗体を結合させる、というものである。この方法によって表面プラズモン共鳴法におけるノイズが有意に低減されることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、PEGリンカーを介して核酸やタンパク質をガラス表面に固定化する方法が開示されている。具体的には、PEGリンカーを有するシラン化合物を合成し、これをガラス表面に適用した後、PEGリンカーの末端に核酸やタンパク質を結合させる、というものである。この方法によってバイオチップのS/N比(感度)が改善されることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、PEGリンカーを介して核酸をガラス表面に固定化する方法が開示されている。具体的には、シランカップリング剤をガラス表面に適用してアミノ基を導入し、ここにホモ二官能性PEGの片末端を共有結合させ、別の末端に核酸を結合させる、というものである。この方法によってバイオセンサの感度が改善されることが記載されている。
【0006】
一方、免疫アッセイ等の各種生化学試験では、プラスチック製の実験器具が利用されることが多い。ただしプラスチックは疎水性であるため、親水性が求められる用途に用いるために、プラスチック基材の表面を親水性に改質する処理が行われる場合がある。そのような処理としてはコロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理、電子線照射、レーザー処理等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−164348号公報
【特許文献2】特開2006−143715号公報
【特許文献3】特開2006−509201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、プラスチックは成型し易く、輸送上、廃棄上の問題が小さいという利点がある。このためELISA等の免疫アッセイ用担体等の生化学試験用器具の材料としてプラスチックは好ましい。しかしながら、免疫アッセイにおける被固定化物質を連結するためのPEGリンカーや、器具表面に親水性を付与するためのエチレングリコール(以下「EG」という)又はPEGを含む親水性層を、プラスチックを含む支持体表面に導入することは従来困難であった。例えばPEGリンカーを有する従来の免疫アッセイ用担体は、支持体としてガラス、金等の無機材料を支持体とせざるを得なかった。その理由として、プラスチックを含む表面に、PEG鎖を連結するための起点となる官能基を高密度に導入することが困難であること、大部分のプラスチックは化学薬品に対する耐性が低いことが挙げられる。
【0009】
そこで本発明は、プラスチックを含む支持体の表面に、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖(以下「EG鎖」という)を含む親水性層が導入された基材、及び該基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、表面にプラスチックを含む支持体上にポリシロキサンを含むプライマー層を配置し、該プライマー層上に、PEG又はEGをポリシロキサンの側鎖と共有結合により連結させてEG鎖を含む親水性層を形成する方法により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の発明群を包含する。
(1)表面にプラスチックを含む支持体と、
前記表面上に配置された、ポリシロキサンを含むプライマー層と、
前記プライマー層上に配置された、前記プライマー層のポリシロキサンの側鎖と共有結合を介して連結された、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖を含む親水性層と
を少なくとも含む基材。
(2)前記プライマー層が前記支持体の表面に物理吸着により結合している、(1)の基材。
(3)前記プラスチックがポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、アクリル樹脂、及びポリエチレンテレフタラートからなる群から選択される少なくとも1種である、(2)の基材。
(4)前記エチレングリコール鎖の一端が前記プライマー層のポリシロキサンの側鎖と共有結合を介して連結されており、前記エチレングリコール鎖の他端が、他の物質と共有結合を形成可能な官能基と連結されている、
(1)〜(3)のいずれかの基材。
(5)前記官能基が、n個の窒素原子を含有する官能基を含み、
前記親水性層中の窒素濃度が、前記親水性層中のC−O結合に由来する炭素濃度を1としたとき、0.010以上、0.050×n以下ある、
(4)の基材。
(6)前記エチレングリコール鎖の一端が前記プライマー層のポリシロキサンの側鎖と共有結合を介して連結されており、前記エチレングリコール鎖の他端がヒドロキシル基で封鎖されている、(1)〜(3)のいずれかの基材。
(7)(1)〜(6)のいずれかの基材の製造方法であって、
前記支持体の表面上において、ケイ素原子に直結した炭素原子を含み且つ官能基を有する有機基を有するシラノール化合物を重合させ、ポリシロキサンを含むプライマー層を形成する、プライマー層形成工程と、
前記プライマー層とエチレングリコール又はポリエチレングリコールとを、エチレングリコール又はポリエチレングリコールのヒドロキシル基と、前記シラノール化合物の前記官能基である、或いは前記シラノール化合物の前記官能基から誘導された、前記ポリシロキサンの側鎖上の官能基との反応により、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖が前記側鎖に共有結合を介して連結されるように反応させる、親水性層形成工程と、を含む方法。
(8)前記プライマー層形成工程が、
加水分解により前記シラノール化合物を生成するケイ素化合物を加水分解し、前記シラノール化合物を生成する工程と、
前記シラノール化合物と塩基とがアルコール中に溶解された溶液を前記支持体の表面上に接触させる工程と
を含む、(7)の方法。
(9)前記ケイ素化合物が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン又は3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランである、(8)の方法。
(10)前記親水性層形成工程よりも後に、前記エチレングリコール鎖の、ポリシロキサンと連結していない側の末端に、他の物質と共有結合を形成可能な官能基を連結する、官能基連結工程を更に含み、
前記官能基連結工程は、前記エチレングリコール鎖のヒドロキシル基との反応により前記官能基を付与する前駆体化合物が、実質的に無水の、アセトニトリルもしくはジメチルスルホキシド又はこれらの溶媒の混合溶媒中に溶解した溶液と、前記親水性層とを、4〜25℃にて接触させる工程を含む、
(7)〜(9)のいずれかの方法。
(11)前記官能基が(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基であり、かつ、前記前駆体化合物が1,1’−カルボニルジイミダゾールである、或いは、前記官能基がスクシンイミジルオキシカルボニル基であり、かつ、前記前駆体化合物が炭酸ジ(N−スクシンイミジル)である、(10)の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プラスチックを含む支持体の表面にEG鎖を含む親水性層を導入することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、物質固定化用担体に関する本発明の一実施形態を示す。
【図2】図2は、物質固定化用担体の製造方法に関する本発明の一実施形態を示す。
【図3】図3は、本発明の物質固定化担体を用いたELISA(間接法)の一実施形態を示す。
【図4】図4は、本発明の物質固定化担体を用いたELISA(間接法)の検量線を示す。
【図5】図5は、本発明の物質固定化担体を用いたELISA(サンドイッチ法)の一実施形態を示す。
【図6】図6は、本発明の物質固定化担体を用いたELISA(サンドイッチ法)の検量線を示す。
【図7】図7は、本発明の基材の一実施形態を示す。
【図8】図8は、本発明の基材の一実施形態を示す。
【図9】図9は、プライマー層の形成方法の一実施形態の手順を示す。
【図10】図10は、本発明の基材の形成方法の一実施形態の手順を示す。
【図11】図11は、実施例6における試験結果を示す。
【図12】図12は、実施例7における試験結果を示す。
【図13】図13は、実施例7における試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本発明の基材)
はじめに、本発明の基材の全体構成の概要を、図7及び8を参照して説明する。
【0014】
基材10,10’は、表面Sにプラスチックを含む支持体11と、表面S上に配置された、ポリシロキサンを含むプライマー層12と、プライマー層12上に配置された、エチレングリコール鎖(EG鎖)を含む親水性層13,13’とを備える。
【0015】
親水性層13のEG鎖 −(CH2−CH2−O)m− (式中、mは1以上の整数である)はプライマー層12を構成するポリシロキサンの側鎖Aと共有結合を介して連結されている。ここで側鎖Aは、後述する式1のシラノール化合物が有する、R1に由来する基であり、R1上の官能基又は該官能基から誘導された官能基がEG鎖の末端のヒドロキシル基と共有結合を形成して形成された二価の基を指す。ケイ素原子に結合する基Xは式1のシラノール化合物のR1(p=2の場合)、R2(p+q=3の場合)、又はヒドロキシル基(q=3の場合)に由来する基である。プライマー層12中のポリシロキサンは直鎖状であってもよいし、分岐鎖状又は網目状の構造を有していてもよいが、好ましくは分岐鎖状又は網目状の構造を有する。ポリシロキサンが分岐鎖状又は網目状の構造を有するとき、Xは、他の繰り返し単位(図示していない)のケイ素原子と結合する架橋基である。架橋基としてのXとしては、式1のシラノール化合物のヒドロキシル基に由来するエーテル基(−O−)が挙げられる。ポリシロキサンが直鎖状の構造を有するとき、Xは、式1に定義するR1又はR2、未反応のヒドロキシル基、加水分解されずに残存した式2に定義する基Y等の一価の基である。EG鎖の両端のうち、ポリシロキサンと連結されていない側の端部には、他の物質と共有結合を形成可能な官能基R3が、直接的に、或いは必要に応じてリンカーを介して間接的に連結されていてもよいし、図8に示すように、ポリシロキサンと連結されていない側の端部がヒドロキシル基により封鎖されていてもよい。図7においてQは結合、又はリンカーを示す。
【0016】
EG鎖の末端に官能基R3が導入された基材10は、免疫アッセイ用固相担体などの、所望の物質を固定化するための物質固定化担体として用いることができる。EG鎖の末端がヒドロキシル基である基材10’は表面が親水化された基材として種々の用途に用いることができる。基材10’は、例えば、細胞を接着させずに培養するための細胞培養基材や、各種ホモジニアスアッセイ(例えば蛍光偏光法や蛍光共鳴エネルギー移動法など)のための基材として用いることができる。
【0017】
支持体11は、少なくとも表面Sにプラスチックを含む。ポリシロキサンを含むプライマー層12は支持体11の表面Sに物理吸着により結合することができる。物理吸着はファンデルワールス力または疎水性相互作用により生じると考えられる。プライマー層12と支持体11の表面Sとの間には共有結合等の化学結合が形成される必要はないため、表面Sがポリスチレン等の、反応性官能基を含まないプラスチックからなる場合であっても、プライマー層12を結合させることができる。
【0018】
プライマー層12中におけるポリシロキサンの状態は必ずしも明らかではないが、図2に示すように複数のポリシロキサン分子の主鎖部分同士が会合し、側鎖である有機基が支持体表面及び親水性層の側に面した二層構造を形成している可能性がある。このような二重構造が形成される機構は以下のように推定される。まず、シラノールのポリマー化によってファンデルワールス力が増大したポリシロキサンがプラスチック表面に物理吸着する。このとき、プラスチック表面とシラノール化合物の有機基との間に働く疎水性相互作用によりシラノール化合物の有機基はプラスチック側に配向する。ポリシロキサンの一層目が形成された後、溶媒側に配向したシラノール基(Si−OH)に別のポリシロキサンが結合する。このとき、シラノール基同士の水素結合によりシラノール化合物の有機基は溶媒側に配向する。その結果、ポリシロキサンは図2に示すような二層構造となると考えられる。溶媒側に配向した有機基は親水性層との共有結合を形成することができる。
【0019】
本発明の基材は、免疫アッセイ用固相担体、アフィニティー担体、μTAS(Micro−Total Analysis Systems)用担体、バイオチップ用担体、バイオセンサー用担体、細胞培養基材、各種ホモジニアスアッセイ等の種々の用途において、物質固定化用担体や、表面が親水化処理された基材として利用することができる。
【0020】
(支持体)
本発明における支持体の材料及び形状は特に限定されない。
支持体は、少なくともプライマー層が形成される表面にプラスチックを含み、より好ましくは、全体がプラスチックからなる。プラスチックの具体例としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタラートなどが挙げられる。予め支持体表面にプラズマ処理やコロナ処理などの物理的な処理が施されていてもよい。支持体は、プライマー層が形成可能な表面を有している支持体であればよく、全体の形状は特に限定されない。例えばマイクロウェルプレート(複数の凹部が形成された板状体)、粒子、スライド、チューブ、キャピラリー、マイクロ流路などの形態の支持体を用いることができる。特にマイクロウェルプレート、とりわけポリスチレン製のマイクロウェルプレートの形態の支持体は、免疫アッセイ用担体や細胞培養基材等の生化学試験の用途において有用である。
【0021】
(プライマー層)
プライマー層は、少なくともポリシロキサンを含む層により形成することができる。ここで、ポリシロキサンとはシロキサン結合(Si−O−Si)の繰り返し単位からなるポリマーであり、シラノール化合物の縮合重合によって得ることができる。シラノール化合物の縮合はシラノール化合物の分子間で起こる反応である。支持体表面のプラスチック分子が反応性の官能基を有してない場合には、シラノール化合物と支持体表面のプラスチック分子との間では反応は起こらない。すなわち、シラノール化合物及び形成されたポリシロキサンは支持体表面のプラスチック分子とは化学的に反応せずに、単に物理的に吸着しているだけである。この点は、ガラスを支持体とする場合とは大きく異なる。このようなシラノール化合物のプラスチック表面への物理吸着力は、モノマーでは極めて弱いが、ある程度縮合が進み、ポリマー(ポリシロキサン)となれば強くなる。シラノール化合物を適度に縮合することによって、プラスチック表面にポリシロキサンを含むプライマー層が形成される。
図9には、支持体表面にプライマー層を形成する手順の概要を示す。
【0022】
(シラノール化合物)
本発明で用いられるシラノール化合物は、シラノール基(Si−OH)に加えて、ケイ素原子に直結した炭素原子を含み且つ官能基を有する有機基を有する。この有機基はポリシロキサンの側鎖となる。シラノール化合物は典型的には式1で表される構造を有する:
(R1)p(R2)4−p−qSi(OH)q ・・・・(式1)
(pは1又は2であり、qは2又は3であり、p+qは3又は4であり、R1は、独立に、ケイ素原子に直結した炭素原子を含み且つ官能基を有する有機基であり、R2はケイ素原子に直結した炭素原子を含む有機基である)。p=1かつq=2又は3であることが好ましく、p=1かつq=3であることがより好ましい。p+q=4である場合、R2は存在しない。
【0023】
R1は、好ましくは、水素原子が1つ以上(好ましくは1つ)の官能基により、必要に応じて適当なリンカー構造を介して、置換されている、炭素数が1〜20、好ましくは1〜15、より好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜6の炭化水素基である(ただし、前記炭化水素基の全部又は一部がビニル基である場合のように、前記炭化水素基自体が官能基である場合は官能基により置換されている必要はない)。前記炭化水素基は、直鎖又は分岐鎖或いは環構造を有する、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基(アルキル基、炭素数2以上のアルケニル基、又は炭素数2以上のアルキニル基)であってもよいし、単環又は多環の炭素数6以上の芳香族炭化水素基であってもよいし、1つ以上の前記脂肪族炭化水素基によって置換された前記芳香族炭化水素基であってもよいし、1つ以上の前記芳香族炭化水素基によって置換され前記脂肪族炭化水素基であってもよい。前記炭化水素基では、炭素−炭素結合が、1又は2個の、酸素、窒素及び硫黄から選択される同一又は異なる原子により中断されていてもよい。炭化水素基の例としては好ましくはプロピル基、エチル基が挙げられる。
【0024】
R1における、前記炭化水素基の1つ以上の水素を、必要に応じて適当なリンカー構造を介して、置換する官能基としては、EG又はPEGのヒドロキシル基と反応して共有結合を形成することができる官能基、或いは、EG又はPEGのヒドロキシル基と反応して共有結合を形成することができる官能基に変換可能な官能基であれば特に限定されないが、典型的には、(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基、スクシンイミジルオキシカルボニル基、グリシジル基、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、アジド基、シアノ基、活性エステル基(1H−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシカルボニル基、ペンタフルオロフェニルオキシカルボニル基、パラニトロフェニルオキシカルボニル基等)、ハロゲン化カルボニル基、イソシアネート基、マレイミド基等が挙げられ、なかでも、グリシジル基又はエポキシ基が好ましい。グリシジル基又はエポキシ基は、それ自体がEG又はPEGのヒドロキシル基と反応して共有結合を形成可能であるが、特開2009−156864号公報に記載されている方法に従って、グリシジル基又はエポキシ基をアルデヒド基に変換し、形成されたアルデヒド基と、EG又はPEGが有するヒドロキシル基とを反応させてもよい。これらの官能基は、前記炭化水素基の水素原子を直接置換してもよいし、適切なリンカー構造を介して置換してもよい。リンカー構造としては、例えば炭素の数が0〜3個、窒素、酸素及び硫黄から選択される同一又は異なるヘテロ原子の数が0〜3個である二価の基が挙げられ、例えば、炭化水素基が左側に、官能基が右側にそれぞれ結合するとしたとき、−O−、−S−、−NH−、−(C=O)O−、−O(C=O)−、−NH(C=O)−、−(C=O)NH−、−(C=O)S−、−S(C=O)−、−NH(C=S)−、−(C=S)NH−、−(N=C=N)−、−CH=N−、−N=CH−、−O−O−、−S−S−、−(O=S=O)−で表される構造が挙げられる。
【0025】
R1の特に好ましい態様としては3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基が挙げられる。
【0026】
R2は、好ましくは、置換基により置換されていないという点を除いてR1について上述したものと同様の(ただしR1とは独立して選択される)炭化水素基であり、なかでも、炭素数が1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基が特に好ましい。
【0027】
(加水分解によりシラノール化合物を生成するケイ素化合物)
前記シラノール化合物は、加水分解によりシラノール基(Si-OH)を生成可能な基を有するケイ素化合物を、加水分解することにより生成することができる。このようなケイ素化合物は式2で表される構造を有する:
(R1)p(R2)4−p−qSi(Y)q ・・・・(式2)
(Yは、独立に、加水分解によりシラノール基を生成可能な基であり、p、q、R1、R2はそれぞれシラノール化合物に関して定義したとおりである)。
【0028】
Yとしては、アルコキシ基、ハロゲン原子、アリールオキシ基、アルコキシ基又はアリールオキシ基により置換されたアルコキシ基、アルコキシ基又はアリールオキシ基により置換されたアリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基等が好ましい。Yとしては特に、炭素数1〜6のアルコキシ基(特にメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基)、炭素数1〜6の、アルコキシ基により置換されたアルコキシ基(例えばメトキシエトキシ基)、炭素数1〜6のアルキルカルボニルオキシ基(例えばアセトキシ基)、塩素原子が好ましい。
【0029】
式2のケイ素化合物としては、シランカップリング剤として市販されている化合物を好適に使用することができ、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン又は3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0030】
(プライマー層の形成方法)
プライマー層を形成する際、式2のケイ素化合物を以下のように加水分解し、式1のシラノール化合物を生成することができる(S901)。加水分解の条件は特に限定されないが、例えば次の方法が可能である。まず、式2のケイ素化合物に希塩酸を添加し、基Yを加水分解する。希塩酸のpHは2.0〜3.0に調整するのが望ましい。ケイ素化合物に対する水分子のモル比は2〜4とする。この操作によって基Yはシラノール基へ変換され、式1のシラノール化合物が生成する。
【0031】
次いでシラノール化合物を支持体表面に適用し(S902)、縮合重合によりポリシロキサンを形成する(S903)。式1のシラノール化合物は、塩基とともにアルコールに溶解する。シラノール化合物の終濃度は0.1〜10%(v/v)の範囲で調整することが望ましい。塩基はトリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンなどを用いることができるが、これらに限定されない。塩基の終濃度は0.1〜10%(v/v)の範囲で調整することが望ましい。アルコールはエタノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール等を用いることができるが、これらに限定されない。このシラノール化合物溶液を支持体のプラスチック表面に接触させ、10分〜24時間放置する。反応温度は4〜80℃の範囲で設定できるが、特に室温(20〜25℃)が好ましい。以上の操作によって、プラスチック表面にポリシロキサンを含むプライマー層が物理吸着によって形成される。プライマー層の被覆密度は、シラノールや塩基の濃度、あるいはシラノール溶液をプラスチック表面に接触させる時間によって制御可能である。プライマー層の被覆密度が高ければ高いほど、次の工程で共有結合させるEG鎖の結合密度も高くなる。
【0032】
形成されたポリシロキサンの側鎖上のシラノール化合物からの官能基を誘導体化して他の官能基に変換する場合には、プライマー層形成後に引き続き、ポリシロキサンの側鎖上のシラノール化合物からの官能基を、EG又はPEGのヒドロキシル基と反応して共有結合を形成することができる官能基に変換する誘導体化工程(S904)を行う。
【0033】
(親水性層)
プライマー層上に配置される親水性層は、1つ以上のエチレングリコール単位(CH2−CH2−O)からなるエチレングリコール鎖(EG鎖)を少なくとも含む。「エチレングリコール鎖(又はEG鎖)」は次式:
−(CH2−CH2−O)m−
(mは重合度を示す整数である)
で表される構造を指す。本明細書では重合度mが2以上であるEG鎖を「ポリエチレングリコール鎖(又はPEG鎖)」と称することがある。
【0034】
EG鎖の分子量は特に限定されず、基材の用途に応じて適宜設定することができる。本発明の基材を免疫アッセイのための物質固定化用担体として場合には、EG鎖の数平均分子量は44以上(mが1以上)であり、176以上(mが4以上)であることが好ましい。EG鎖の数平均分子量の上限は特に限定されないが、数平均分子量が大きくなるほど粘度が増すため取扱いが難しいこと、及び、EG鎖の高密度での配置が難しいことから、EG鎖の数平均分子量は25000以下であることが好ましく、10000以下であることがより好ましい。
【0035】
EG鎖は、次式:
HO−(CH2−CH2−O)m−H
(mは重合度を示す整数である)
で表されるエチレングリコール(EG,m=1)又はポリエチレングリコール(PEG,mは2以上)を用いて形成することができる。
【0036】
EG鎖の数平均分子量は、原料として用いられるEG又はPEG、或いは、担体から解離させたEG又はPEGの数平均分子量からH2Oの分子量(18.015)を控除することにより求めることができる。EG又はPEGの数平均分子量は蒸気圧浸透圧法または膜浸透圧法によって求められる。蒸気圧浸透圧法はEG又はPEGの数平均分子量が100,000未満のときに使用することができる。膜浸透圧法はPEGの数平均分子量が10,000〜1,000,000のときに使用することができる。
【0037】
EG又はPEGの一端のヒドロキシル基と、前記ポリシロキサンの側鎖上の官能基又は該官能基から誘導された官能基との反応により形成された共有結合を介して、EG鎖がプライマー層に結合される。
【0038】
EG鎖の他端は、ヒドロキシル基が図8に示すように誘導体化されておらずヒドロキシル基で封鎖された状態であってもよいし、図7に示すように、他の物質と共有結合を形成することが可能な、少なくとも1つの官能基R3が直接的(Q=結合)又は間接的(Q=リンカー)に連結された状態であってもよい。
【0039】
EG鎖の他端に導入される官能基R3としては、他の物質と共有結合を形成することが可能な官能基であれば特に限定されないが、代表的には、(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基、スクシンイミジルオキシカルボニル基、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、アジド基、シアノ基、活性エステル基(1H−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシカルボニル基、ペンタフルオロフェニルオキシカルボニル基、パラニトロフェニルオキシカルボニル基等)、ハロゲン化カルボニル基(塩化カルボニル基、フッ化カルボニル基、臭化カルボニル基、ヨウ化カルボニル基)等が挙げられる。これらの官能基は、EG鎖の末端のヒドロキシル基の水素を置換する置換基として、EG鎖に直接的に連結されていてもよいし、EG鎖の末端に結合したリンカー構造に結合した官能基として、EG鎖に間接的に連結されていてもよい。他の物質との反応性と、保存安定性のバランスを考慮すると、(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基及びスクシンイミジルオキシカルボニル基が好ましい。これらの官能基は他の物質が有するアミノ基等の官能基と反応して共有結合を形成することができる。リンカー構造としては、炭素の数が0〜3個、窒素、酸素及び硫黄から選択される同一又は異なるヘテロ原子の数が0〜3個である二価の基が挙げられる。
【0040】
本発明によれば、プライマー層の被覆密度を制御することにより、EG鎖の結合密度を制御することができる。そして、EG鎖の結合密度も免疫アッセイの検出感度に影響する。EG鎖の結合密度はX線光電子分光法(XPS)を用いてある程度推定することができる。エチレングリコール単位(CH2−CH2−O)は(XPS)においてC(1s)シグナルのC−O成分を与え、(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基、スクシンイミジルオキシカルボニル基等の窒素原子含有官能基はXPSにおいてN(1s)シグナルを与える。元素濃度比N(1s)/C−OはEG鎖の結合密度と明確な相関がある。免疫アッセイでの高い検出感度を実現するためには、官能基がn個の窒素原子を含有する場合、元素濃度比N(1s)/C−Oが0.010以上、0.050×n以下であることが好ましい。「0.010以上、0.050×n以下」とは、例えば、n=1の場合は「0.010以上、0.050以下」を意味し、n=2の場合は「0.010以上、0.100以下」を意味し、n=3の場合は「0.010以上、0.150以下」を意味し、n=4の場合は「0.010以上、0.200以下」を意味する。本発明におけるXPSは、アルバック・ファイ社製のX線分光分析装置「ESCA5600」を用い、光電子取り込み角度を45°に設定して測定される。n個の窒素原子を含有する官能基としては、(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基(n=2)及びスクシンイミジルオキシカルボニル基(n=1)以外にイソシアネート基(n=1)、アジドカルボニル基(n=3)、カルボジイミド基(n=2)、マレイミジル基(n=1)、アジリジン−2−イル基(n=1)、1H−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシカルボニル基(n=3)、1H−7−アザベンゾトリアゾール−1−イルオキシカルボニル基(n=4)が挙げられる。これらの官能基についても、XPSにより求められる、親水性層中のC−O結合に由来する炭素濃度を1としたときの窒素濃度(N(1s)/C−O)が上記と同様の数値範囲であることが好ましい。
親水性層には他の親水性化合物が更に含まれていてもよい。
【0041】
(親水性層の形成方法)
本発明の基材は、図10に概略を示すとおりプライマー層を形成する工程S1001と、プライマー層のポリシロキサンにEG鎖を連結させる工程S1002とを少なくとも含む方法により製造することができる。図7に示すようにEG鎖末端に官能基を導入する場合は、EG鎖末端へ官能基を連結する工程S1003を更に含む。
【0042】
親水性層は、プライマー層のポリシロキサンの側鎖上の官能基(シラノール化合物の官能基に対応する官能基、或いは、該官能基から誘導された官能基)とEG又はPEGのヒドロキシル基とを反応させることにより形成することができる。このとき触媒量の濃硫酸を含むEG又はPEGをプライマー層と接触させる。ここで、数平均分子量が1000を超えるPEGはあらかじめ加熱融解しておく。必要に応じて、EG又はPEGをtert−ブチルアルコールなどで希釈して用いてもよい。このEG溶液又はPEG溶液をプラスチック表面に接触させ、加熱する。加熱温度は60〜100℃の範囲で設定できるが、プラスチックの耐熱性を加味すると80℃前後(75℃〜85℃)が好ましい。加熱時間は10分〜24時間の範囲で設定できるが、加熱温度が80℃前後の場合は10分〜60分間が好ましい。以上の操作によって、プライマー層にEG鎖が共有結合する。このとき、EG鎖の結合密度はプライマー層の被覆密度に依存する。
【0043】
必要に応じて、EG鎖の一端に、他の物質との共有結合を形成することが可能な、少なくとも1つの官能基を直接的又は間接的に連結させる。官能基の導入方法は特に限定されない。(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基及びスクシンイミジルオキシカルボニル基を、EG鎖の末端のヒドロキシル基の水素を置換する置換基として導入する方法の好ましい実施形態は次の通りである。一端がプライマー層、シランカップリング剤等を介して支持体表面に固定されたEG鎖の他端に、1,1’−カルボニルジイミダゾール(以下CDI)または炭酸ジ(N−スクシンイミジル)(以下DSC)を以下のように反応させる。
【0044】
【化1】
【0045】
上記の反応は、水分をほとんど含まない実質的に無水の有機溶媒中で実施される必要がある。一般にプラスチックは有機溶剤に対する耐性が低いため、支持体がプラスチックを含む場合には、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、又はこれらの有機溶媒を適当な割合で混合した混合溶媒を利用することが好ましい。これらの有機溶剤の水分含有率は0.1重量%以下であることが望ましい。CDIまたはDSCの終濃度は0.01〜1Mの範囲で設定できるが、室温以下で反応させる場合は0.1M以上であることが望ましい。支持体表面のプラスチックへのダメージを避けるために反応温度を4〜25℃の範囲で設定することが望ましい。反応時間は10分間〜24時間の範囲で設定することが好ましく、CDI濃度が0.5M前後(0.4〜0.6M)のときは10分〜60分間が好ましい。以上の操作によって、官能基が共有結合されたEG鎖を含む親水性層が形成される。
【0046】
(他の物質)
本発明の基材は、一実施形態において、EG鎖末端に導入された官能基を利用して「他の物質」をEG鎖末端に固定化することができる。すなわちこの実施形態において、本発明の基材は物質固定化用担体として機能し、「他の物質」は被固定化物質に相当する。以下、「他の物質」を「被固定化物質」と呼ぶことがある。
【0047】
被固定化物質は、EG鎖末端に導入された官能基と共有結合を形成可能な官能基を有する物質であれば特に限定されない。このような官能基としては代表的にはアミノ基が挙げられるが、チオール基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アジド基、シアノ基であってもよい。また、被固定化物質としては更に、アルコキシド、2級アミン、3級アミン、グリニャール試薬、有機リチウム化合物、カルバニオン等も包含される。被固定化物質は生体関連物質が好ましい。生体関連物質としては、DNA、RNA、ペプチド、ホルモン、酵素、抗原、抗体、サイトカイン、糖鎖、脂質、補酵素、酵素阻害剤、細胞、その他の機能を有するタンパク質が含まれる。更に、このような生体関連物質と親和性を有する低分子化合物、及び高分子化合物も生体関連物質の範囲に含まれる。なお、固定化しようとする生体関連物質に、アミノ基等の、EG鎖末端に導入された官能基との反応で共有結合を形成可能な官能基が存在しない場合であっても、これらの物質にアミノ基等を人為的に導入することにより、固定化に供することができる。
【0048】
本発明の基材を免疫アッセイ用固相担体として用いる場合には、目的とする免疫アッセイの態様に応じて、標的物質と結合する抗原又は抗体や、標的物質が固定化される。「標的物質と結合する抗原又は抗体」が被固定化物質である実施形態(サンドイッチ法又は直接競合法)において、被固定化物質と標的物質との組合せは、抗原抗体反応に基づく特異的な結合が可能な組合せであれば特に限定されない。例えば、標的物質が抗原(ハプテンを含む)である場合には、被固定化物質は抗体(抗体断片を含む)であることができ、標的物質が抗体(抗体断片を含む)である場合には、被固定化物質は抗原(ハプテンを含む)であることができる。「標的物質」が被固定化物質である実施形態(間接競合法)では、標的物質は抗原(ハプテンを含む)又は抗体(抗体断片を含む)である。
【0049】
被固定化物質及び/又は標的物質としての抗原は、抗体との特異的な抗原抗体反応性を示す物質であれば特に限定されない。代表的な抗原として、タンパク質、ペプチド、糖類、核酸(DNA、RNA)、脂質、補酵素、細胞、ウイルス、細菌、これらの複合体等の天然抗原や、天然抗原の誘導体や、人為的に合成されたハプテン、人工抗原等が挙げられる。
【0050】
被固定化物質及び/又は標的物質としての抗体は、ある抗原に対して特異的な抗原抗体反応性を示す免疫グロブリン及びその断片を指し、必要に応じて化学修飾等が施されていてもよい。
【0051】
本発明の基材のEG鎖末端に、標的物質と結合する抗原又は抗体や標的物質が被固定化物質として固定化された物質固定化担体を用いて標的物質を測定することにより、免疫アッセイを実施することができる。本発明の基材を用いた免疫アッセイは公知の方法で実施することができ、サンドイッチ方式、直接競合方式、間接競合方式等の任意の態様とすることができる。
【0052】
本発明の基材を用いた免疫アッセイにおいて抗原又は抗体を検出する手段は特に限定されず、任意の標識物質により直接的又は間接的に標識された抗原又は抗体を用いることができる。標識物質としては、酵素(ELISA法)、核酸(イムノPCR)、電気化学発光物質(電気化学発光法)、蛍光物質、化学発光物質、放射性物質等の、増幅された検出シグナルを生成することができる標識物質が挙げられる。免疫アッセイは、安全性及び簡便性を考慮すると、標識物質として酵素を用いる、酵素活性に基づいて検出を行う酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)であることが好ましい。
【0053】
以下、図面と具体的な実施例を用いて本発明を説明する。
【0054】
[実施例1]
図1は本発明の基材(物質固定化用担体)の一実施形態を表す。ポリスチレンからなる支持体表面にポリシロキサンを含むプライマー層が形成されている。プライマー層にはEG鎖の片末端が共有結合している。EG鎖の別の片末端には(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニルが存在する。
【0055】
[実施例2]
図2に示した方法で物質固定化用担体を製造した。具体的な手順を以下に記す。
1.65mlの3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)に0.35mlの希塩酸(pH2.4)を添加してシラノールを調製した。これを100mlの2−プロパノール(純正化学)に添加した。ここに、さらに4mlのトリエチルアミン(和光純薬)を添加した。このシラノール溶液を96穴マイクロプレート(BD FalconTM)の各ウェルに100μlずつ分注した。そのまま室温で75分間放置した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によってマイクロプレートのウェル内にポリシロキサンとエポキシ基を含むプライマー層が形成された。次に、触媒量の濃硫酸を含んだPEG4000(数平均分子量2700〜3400、関東化学)を各ウェルに100μlずつ分注した。そのまま90℃で30分間加熱した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によってプライマー層上にPEGを含む親水性層が形成された。次に、脱水アセトニトリル(関東化学)と脱水ジメチルスルホキシド(関東化学)の等重量混合溶媒を用いて終濃度0.5MのCDI(東京化成)溶液を調製し、これを各ウェルに10μlずつ分注した。そのまま室温で20分間放置した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によって親水性層に含まれるPEGの末端に(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基が導入されたPEG誘導体が形成された。
【0056】
[実施例3]
実施例2の物質固定化用担体(96穴マイクロプレート)を用いて図3に示すELISA(間接法、抗原-抗体-抗体サンドイッチ法)を実施した。具体的な手順を以下に記す。
【0057】
以下、0.025%Triton(登録商標) X−100(和光純薬)を含む炭酸−重炭酸緩衝液(pH9.6)を固相化バッファー、0.1%Triton(登録商標) X−100および0.5MのNaClを含むリン酸緩衝液(PBS)を洗浄バッファー、1%BSAを含むPBSを希釈バッファーとする。まず、リゾチーム(和光純薬)を固相化バッファーに溶解し、終濃度50μg/mlのリゾチーム溶液を調製した。この溶液を実施例2の96穴マイクロプレートの各ウェルに5μlずつ分注した。37℃で10分間放置して乾燥濃縮させた後、ウェル内を洗浄バッファーで2回洗浄した。次に、希釈バッファーを用いて0〜500ng/mlの抗リゾチーム抗体(Nordic Immunological Laboratories)を調製し、各ウェルに50μlずつ分注した。室温で30分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで1回洗浄した。希釈バッファーを用いてHRP標識2次抗体(Rockland)を4000倍希釈し(終濃度0.5μg/ml)、これを各ウェルに50μlずつ分注した。室温で30分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで3回洗浄した。各ウェルに化学発光基質であるイムノスターLD(和光純薬)を30μl添加し、LAS4000mini(GEヘルスケア)を用いて化学発光画像を取得した。最後に、専用のソフトウェアを用いて化学発光強度を算出し、図4(本発明)のような検量線を作成した。感度は0.03ng/mlであった。
【0058】
(比較例1)
未処理の96穴マイクロプレート(BD FalconTM)および従来品の96穴マイクロプレート(酸素プラズマ処理によって親水化されたポリスチレン性96穴マイクロプレート)を用いて図3に示すELISA(間接法)を実施した。具体的な手順を以下に記す。
【0059】
以下、炭酸−重炭酸緩衝液(pH9.6)を固相化バッファー、0.05%Tween(登録商標) 20を含むPBSを洗浄バッファー、1%BSAを含むPBSをブロッキングバッファーおよび希釈バッファーとする。まず、リゾチーム(和光純薬)を固相化バッファーに溶解し、終濃度5μg/mlのリゾチーム溶液を調製した。この溶液を96穴マイクロプレートの各ウェルに100μlずつ分注した。室温で2時間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで2回洗浄した。次に、ブロッキングバッファーを各ウェルに200μlずつ分注した。室温で60分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで2回洗浄した。希釈バッファーを用いて0〜500ng/mlの抗リゾチーム抗体(Nordic Immunological Laboratories)を調製し、各ウェルに100μlずつ分注した。室温で60分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで1回洗浄した。希釈バッファーを用いてHRP標識2次抗体(Rockland)を4000倍希釈し(終濃度0.5μg/ml)、これを各ウェルに100μlずつ分注した。室温で30分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで3回洗浄した。各ウェルに化学発光基質であるイムノスターLD(和光純薬)を30μl添加し、LAS4000mini(GEヘルスケア)を用いて化学発光画像を取得した。最後に、専用のソフトウェアを用いて化学発光強度を算出し、図4(未処理、従来品)のような検量線を作成した。未処理品と従来品の感度はいずれも3.9ng/mlであった。
【0060】
[実施例4]
実施例2で得られた96穴マイクロプレートを用いて図5に示すELISA(抗体-抗原-抗体サンドイッチ法)を実施した。具体的な手順を以下に記す。
【0061】
5%トレハロース(和光純薬)及び0.025%Triton(登録商標) X−100(和光純薬)を含む炭酸−重炭酸緩衝液(pH9.6)を固相化バッファーとする。抗IL−1β抗体(Biolegend)を固相化バッファーに溶解し、終濃度50μg/mlの抗体溶液を調製した。この溶液を実施例2で得られた96穴マイクロプレートの各ウェルに5μlずつ分注した。37℃で2時間放置して乾燥濃縮させた後、ウェル内を洗浄バッファーで2回洗浄した。次に、希釈バッファーを用いて0〜2500pg/mlのIL−1β(和光純薬)を調製し、各ウェルに50μlずつ分注した。室温で60分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで1回洗浄した。希釈バッファーを用いてビオチン標識2次抗体(Biolegend)を500倍希釈し、これを各ウェルに50μlずつ分注した。室温で30分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで1回洗浄した。次に、希釈バッファーを用いてHRP標識ストレプトアビジン(Prozyme)を4000倍希釈し(終濃度0.25μg/ml)、これを各ウェルに50μlずつ分注した。室温で10分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで3回洗浄した。化学発光基質であるイムノスターLD(和光純薬)を30μl添加し、LAS4000mini(GEヘルスケア)を用いて化学発光画像を取得した。最後に、専用のソフトウェアを用いて化学発光強度を算出、図6(本発明)のような検量線を作成した。感度は0.15pg/mlであった。
【0062】
(比較例2)
未処理の96穴マイクロプレート(BD FalconTM)および従来品の96穴マイクロプレート(酸素プラズマ処理によって親水化されたポリスチレン性96穴マイクロプレート)を用いて図5に示すELISA(抗体-抗原-抗体サンドイッチ法)を実施した。具体的な手順を以下に記す。
【0063】
比較例1と同様の各種バッファーを用いた。抗IL−1β抗体(Biolegend)を固相化バッファーに溶解し、終濃度5μg/mlの抗体溶液を調製した。この溶液を96穴マイクロプレートの各ウェルに50μlずつ分注した。室温で2時間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで2回洗浄した。次に、ブロッキングバッファーを各ウェルに100μlずつ分注した。室温で60分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで2回洗浄した。希釈バッファーを用いて0〜2500pg/mlのIL−1β(和光純薬)を調製し、各ウェルに50μlずつ分注した。室温で60分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで1回洗浄した。希釈バッファーを用いてビオチン標識2次抗体(Biolegend)を500倍希釈し、これを各ウェルに50μlずつ分注した。室温で30分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで1回洗浄した。次に、希釈バッファーを用いてHRP標識ストレプトアビジン(Prozyme)を4000倍希釈し(終濃度0.25μg/ml)、これを各ウェルに50μlずつ分注した。室温で30分間放置した後、ウェル内を洗浄バッファーで3回洗浄した。化学発光基質であるイムノスターLD(和光純薬)を30μl添加し、LAS4000mini(GEヘルスケア)を用いて化学発光画像を取得した。最後に、専用のソフトウェアを用いて化学発光強度を算出、図6(未処理、従来品)のような検量線を作成した。未処理品と従来品の感度はそれぞれ9.8pg/mlと2.4pg/mlであった。
【0064】
【表1】
【0065】
[実施例5]
シラノール処理時間およびEG鎖の数平均分子量がELISA(間接法)の感度に及ぼす影響を調べた。具体的な手順を以下に記す。
【0066】
1.65mlの3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)に0.35mlの希塩酸(pH2.4)を添加してシラノールを調製した。これを100mlの2−プロパノール(純正化学)に添加した。ここに、さらに0.5mlのトリエチルアミン(和光純薬)を添加した。このシラノール溶液を96穴マイクロプレート(BD FalconTM)の各ウェルに100μlずつ分注した。そのまま室温で60〜135分間放置した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によってマイクロプレートのウェル内にポリシロキサンとエポキシ基を含むプライマー層が形成された。次に、触媒量の濃硫酸を含んだEG又はPEG(13種)を各ウェルに100μlずつ分注した。そのまま80℃で45分間加熱した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によってプライマー層上にEG鎖を含む親水性層が形成された。次に、脱水アセトニトリル(関東化学)と脱水ジメチルスルホキシド(関東化学)の等重量混合溶媒を用いて終濃度0.5MのCDI(東京化成)溶液を調製し、これを各ウェルに20μlずつ分注した。そのまま室温で30分間放置した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によって親水性層に含まれるEG鎖の末端に(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基が導入されたEG又はPEG誘導体が形成された。以上の操作により、EG鎖の結合密度やEG鎖の数平均分子量の異なる物質固定化用担体が得られた。これらの物質固定化用担体を用いて実施例3に記載の方法でELISAの感度を測定した。その結果、表2に示すようにEG鎖の数平均分子量が176以上で従来よりも顕著に高い感度が得られることがわかった。また、EG鎖の分子量が大きい場合は比較的低密度であっても高い感度が実現できることがわかった。
【0067】
【表2】
【0068】
表2に示す各原料の数平均分子量は以下の通りである。
【0069】
【表3】
【0070】
[実施例6]
EG又はPEGの数平均分子量がタンパク質吸着量に及ぼす影響を調べた。
まず、EG又はPEGからなる親水性層を有する96穴マイクロプレート(活性化していない)を以下の手順で製造した。
【0071】
まず、1.65mlの3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)に0.35mlの希塩酸(pH2.4)を添加してシラノールを調製した。これを100mlの2−プロパノール(純正化学)に添加した。ここに、さらに0.5mlのトリエチルアミン(和光純薬)を添加した。このシラノール溶液を96穴マイクロプレート(BD FalconTM)の各ウェルに100μlずつ分注した。そのまま室温で135分間放置した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によってマイクロプレートのウェル内にポリシロキサンとエポキシ基を含むプライマー層が形成された。次に、触媒量の濃硫酸を含んだEG又はPEG(10種)を各ウェルに100μlずつ分注した。そのまま80℃で45分間加熱した。その後、ウェル内を純水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。この操作によってプライマー層上にEG又はPEGからなる親水性層が形成された。
【0072】
次に、親水性層を有する96穴マイクロプレートへのタンパク質(HRP標識抗IgG抗体)吸着量を以下の手順で測定した。
【0073】
まず、PBSを用いて1μg/mlのHRP標識2次抗体を調製した。これを各ウェルに100μlずつ分注し、4℃で24時間静置した。その後、0.05%のTween(登録商標) 20を含むPBSで各ウェルを3回洗浄した。次に、PBSを用いて5mM SAT−3(同仁化学)および0.5mM過酸化水素(関東化学)を含む発色反応溶液を調整した。これを各ウェルに100μlずつ分注し、室温で15分間静置した。その後、1規定の硫酸を各ウェルに100μlずつ加え、発色反応を停止させた。最後に、SpectraMax M2e(モレキュラーデバイス)を用いて474nmの吸光度を測定した(図11)。ここで、未処理の96穴マイクロプレート(BD FalconTM)の値を100%とした。その結果、本発明はPEGの数平均分子量にほとんど依存せずに高い吸着抑制効果を示すこと、EGを使用しても吸着抑制効果は奏されることがわかった。
【0074】
(比較例3)
タンパク質吸着量を従来技術(市販品3種)と比較した。従来技術(1)および従来技術(2)はMPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマー層を有するポリスチレン製96穴マイクロレート、従来技術(3)はPEG層を有するがプライマー層をもたないポリスチレン製96穴マイクロレートである。具体的な手順は実施例6と同一とした。その結果、本発明は従来技術よりも高い吸着抑制効果を示すことがわかった(図11)。これは、EG又はPEGからなる親水性層がMPCポリマー層よりも高い吸着抑制効果をもち、なおかつプライマー層がEG又はPEGの結合密度を高めたためと考えられる。
【0075】
[実施例7]
実施例6のPEG層を有する96穴マイクロプレートへの細胞非接着性を以下の手順で調べた。なお、PEGは数平均分子量が2700〜3400のものを用いた。
【0076】
まず、マウス線維芽細胞CCL163を、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地に懸濁し、各ウェルに1×104個ずつ播種した。インキュベータ(37℃、5%CO2)内で8日間培養後、位相差顕微鏡を用いて細胞の様子を観察した。その結果、PEG層を有する基材表面への細胞の接着や伸展は認められず、完全に浮遊した状態で凝集塊を形成していた(図12左)。同条件で培養を行った未処理品では、細胞の接着や伸展、増殖が明らかに認められた(図12右)。
【0077】
次に、細胞非接着性を定量的に評価するため、MTSアッセイを以下の手順で実施した。まず、同細胞を同条件で培養した後、培地を吸引して未接着の細胞を除去した。同培地で各ウェルを1回洗浄した後、同培地を各ウェルに100μlずつ分注した。その後、MTS試薬Cell Titer96R AQueousOne(Promega)を各ウェルに20μlずつ加えた。プレートを前後左右にゆすって攪拌した後、インキュベータ(37℃、5%CO2)内で2時間放置し、呈色させた。最後に、SpectraMax M2e(モレキュラーデバイス)を用いて各ウェルの吸光度を測定した。未処理品の吸光度を100%にしたとき、PEG層を有する基材の値は約1.3%であった(図13)。以上より、本発明による基材は細胞の接着・伸展・増殖を顕著に抑制することがわかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にプラスチックを含む支持体と、
前記表面上に配置された、ポリシロキサンを含むプライマー層と、
前記プライマー層上に配置された、前記プライマー層のポリシロキサンの側鎖と共有結合を介して連結された、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖を含む親水性層と
を少なくとも含む基材。
【請求項2】
前記プライマー層が前記支持体の表面に物理吸着により結合している、請求項1の基材。
【請求項3】
前記プラスチックがポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、アクリル樹脂、及びポリエチレンテレフタラートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2の基材。
【請求項4】
前記エチレングリコール鎖の一端が前記プライマー層のポリシロキサンの側鎖と共有結合を介して連結されており、前記エチレングリコール鎖の他端が、他の物質と共有結合を形成可能な官能基と連結されている、
請求項1〜3のいずれか1項の基材。
【請求項5】
前記官能基が、n個の窒素原子を含有する官能基を含み、
前記親水性層中の窒素濃度が、前記親水性層中のC−O結合に由来する炭素濃度を1としたとき、0.010以上、0.050×n以下ある、
請求項4の基材。
【請求項6】
前記エチレングリコール鎖の一端が前記プライマー層のポリシロキサンの側鎖と共有結合を介して連結されており、前記エチレングリコール鎖の他端がヒドロキシル基で封鎖されている、請求項1〜3のいずれか1項の基材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項の基材の製造方法であって、
前記支持体の表面上において、ケイ素原子に直結した炭素原子を含み且つ官能基を有する有機基を有するシラノール化合物を重合させ、ポリシロキサンを含むプライマー層を形成する、プライマー層形成工程と、
前記プライマー層とエチレングリコール又はポリエチレングリコールとを、エチレングリコール又はポリエチレングリコールのヒドロキシル基と、前記シラノール化合物の前記官能基である、或いは前記シラノール化合物の前記官能基から誘導された、前記ポリシロキサンの側鎖上の官能基との反応により、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖が前記側鎖に共有結合を介して連結されるように反応させる、親水性層形成工程と、を含む方法。
【請求項8】
前記プライマー層形成工程が、
加水分解により前記シラノール化合物を生成するケイ素化合物を加水分解し、前記シラノール化合物を生成する工程と、
前記シラノール化合物と塩基とがアルコール中に溶解された溶液を前記支持体の表面上に接触させる工程と
を含む、請求項7の方法。
【請求項9】
前記ケイ素化合物が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン又は3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランである、請求項8の方法。
【請求項10】
前記親水性層形成工程よりも後に、前記エチレングリコール鎖の、ポリシロキサンと連結していない側の末端に、他の物質と共有結合を形成可能な官能基を連結する、官能基連結工程を更に含み、
前記官能基連結工程は、前記エチレングリコール鎖のヒドロキシル基との反応により前記官能基を付与する前駆体化合物が、実質的に無水の、アセトニトリルもしくはジメチルスルホキシド又はこれらの溶媒の混合溶媒中に溶解した溶液と、前記親水性層とを、4〜25℃にて接触させる工程を含む、
請求項7〜9のいずれか1項の方法。
【請求項11】
前記官能基が(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基であり、かつ、前記前駆体化合物が1,1’−カルボニルジイミダゾールである、或いは、前記官能基がスクシンイミジルオキシカルボニル基であり、かつ、前記前駆体化合物が炭酸ジ(N−スクシンイミジル)である、請求項10の方法。
【請求項1】
表面にプラスチックを含む支持体と、
前記表面上に配置された、ポリシロキサンを含むプライマー層と、
前記プライマー層上に配置された、前記プライマー層のポリシロキサンの側鎖と共有結合を介して連結された、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖を含む親水性層と
を少なくとも含む基材。
【請求項2】
前記プライマー層が前記支持体の表面に物理吸着により結合している、請求項1の基材。
【請求項3】
前記プラスチックがポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、アクリル樹脂、及びポリエチレンテレフタラートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2の基材。
【請求項4】
前記エチレングリコール鎖の一端が前記プライマー層のポリシロキサンの側鎖と共有結合を介して連結されており、前記エチレングリコール鎖の他端が、他の物質と共有結合を形成可能な官能基と連結されている、
請求項1〜3のいずれか1項の基材。
【請求項5】
前記官能基が、n個の窒素原子を含有する官能基を含み、
前記親水性層中の窒素濃度が、前記親水性層中のC−O結合に由来する炭素濃度を1としたとき、0.010以上、0.050×n以下ある、
請求項4の基材。
【請求項6】
前記エチレングリコール鎖の一端が前記プライマー層のポリシロキサンの側鎖と共有結合を介して連結されており、前記エチレングリコール鎖の他端がヒドロキシル基で封鎖されている、請求項1〜3のいずれか1項の基材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項の基材の製造方法であって、
前記支持体の表面上において、ケイ素原子に直結した炭素原子を含み且つ官能基を有する有機基を有するシラノール化合物を重合させ、ポリシロキサンを含むプライマー層を形成する、プライマー層形成工程と、
前記プライマー層とエチレングリコール又はポリエチレングリコールとを、エチレングリコール又はポリエチレングリコールのヒドロキシル基と、前記シラノール化合物の前記官能基である、或いは前記シラノール化合物の前記官能基から誘導された、前記ポリシロキサンの側鎖上の官能基との反応により、1つ以上のエチレングリコール単位からなるエチレングリコール鎖が前記側鎖に共有結合を介して連結されるように反応させる、親水性層形成工程と、を含む方法。
【請求項8】
前記プライマー層形成工程が、
加水分解により前記シラノール化合物を生成するケイ素化合物を加水分解し、前記シラノール化合物を生成する工程と、
前記シラノール化合物と塩基とがアルコール中に溶解された溶液を前記支持体の表面上に接触させる工程と
を含む、請求項7の方法。
【請求項9】
前記ケイ素化合物が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン又は3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランである、請求項8の方法。
【請求項10】
前記親水性層形成工程よりも後に、前記エチレングリコール鎖の、ポリシロキサンと連結していない側の末端に、他の物質と共有結合を形成可能な官能基を連結する、官能基連結工程を更に含み、
前記官能基連結工程は、前記エチレングリコール鎖のヒドロキシル基との反応により前記官能基を付与する前駆体化合物が、実質的に無水の、アセトニトリルもしくはジメチルスルホキシド又はこれらの溶媒の混合溶媒中に溶解した溶液と、前記親水性層とを、4〜25℃にて接触させる工程を含む、
請求項7〜9のいずれか1項の方法。
【請求項11】
前記官能基が(1H−イミダゾール−1−イル)カルボニル基であり、かつ、前記前駆体化合物が1,1’−カルボニルジイミダゾールである、或いは、前記官能基がスクシンイミジルオキシカルボニル基であり、かつ、前記前駆体化合物が炭酸ジ(N−スクシンイミジル)である、請求項10の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−11480(P2013−11480A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143259(P2011−143259)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
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