説明

観察装置

【課題】良好な観察を行う。
【解決手段】試料に照明光を照射する照明光学系32と、その試料からの光を集光する観察光学系33とを有しており、試料が収納される培養容器の種類に応じて、照明光学系32および観察光学系33が調整される。また、絞り42Aの光軸方向の位置を調整することで、周辺から試料に集光する照明光の光束の光軸の、照明光の中心の光束の光軸に対する角度を変更することができ、培養容器がウェルプレートであるときには狭角度となるように調整され、培養容器がディッシュであるときには広角度となるように調整される。本発明は、例えば、インキュベータを有する培養観察装置に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察装置に関し、特に、良好な観察ができるようにした観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、体外受精(IVF:In-vitro Fertilization)や、顕微授精(ICSI:Intracytoplasmic Sperm Injection)などにおいて、受精卵を培養して観察が行われる。受精卵の観察には、培地ドロップ観察方法とウェルプレートを使用した観察方法とがある。
【0003】
培地ドロップ観察方法では、採取した受精卵を、培養容器(例えば、35mmDish)上に作られた20μl程度の培地ドロップに1個ずつ入れる。培地ドロップの表面はミネラルオイルでコートされ、その状態で培養容器ごと、インキュベータと呼ばれる恒温恒湿度環境を持つ培養装置へ収容されて、培養が行われる。
【0004】
ところで、培地ドロップ観察方法では、培養容器の培養ドロップ内に存在する受精卵を観察しようとする際に、培地ドロップの縁に受精卵が移動していたとき、培地ドロップの縁に現れる影に隠れてしまって、その受精卵を検出することができないことがある。
【0005】
図5を参照して、培地ドロップの縁に現れる影について説明する。図5には、培養容器内の平面図と断面図が示されている。
【0006】
培養容器1は、いわゆるディッシュからなり、その内径は約35mmである。培養容器1の底面には、20μl程度の培地ドロップDが複数個(図10の例では8個)、培養容器1の円周に沿って均等に並べられて形成されている。
【0007】
個々の培地ドロップDの表面および間隔は、乾燥を防ぐために無色透明のミネラルオイルOで満たされており、個々の培地ドロップDの中には、共通の母体から共通の時期に採取された受精卵aが1個ずつ入っている。個々の培地ドロップDの直径は、約7mmであり、個々の受精卵aの直径は、約100μmである。また、培地ドロップDは、培養容器1の底面に付着しているが、受精卵aは、培地ドロップDの内部を浮遊する可能性がある。
【0008】
このように培地ドロップD内にある受精卵aを観察する際、上側から照明光が照射され、下側に配置されている対物レンズを介して画像が撮像される。
【0009】
このとき、培地ドロップDとミネラルオイルOとの屈折率の違いにより、メニスカス効果が発生する。例えば、培地ドロップDの屈折率が1.3程度であり、ミネラルオイルOの屈折率が1.4〜1.6程度であるとき、ミネラルオイルOと培地ドロップDとの境界面で、光学的に強い凹レンズ(f=−14前後)と同じ効果が発生する。そのため、培地ドロップDの縁近辺に入射した照明光が培地ドロップDの外側に屈折される。これにより、培地ドロップDの縁近辺に入射した照明光が対物レンズに入射し難くなるため、培地ドロップDの縁の全周に影が現れる。
【0010】
一方、培養容器1の内壁面におけるミネラルオイルOの表面張力によっても、ミネラルオイルOと液面との境界面で、メニスカス効果である凹レンズと同じ効果が発生してしまう。これにより、培養容器1の縁近辺に入射した照明光が対物レンズに入射し難くなるため、培地ドロップDの培養容器1内壁面側に三日月のような形状の影(培養容器1に対する培地ドロップDの内側と外側とで非対称な影)が現れる。
【0011】
また、ウェルプレートを使用した観察方法では、例えば、4〜96ウェルプレート内の穴に培地を入れ、その培地の中に受精卵を入れて培養が行われる。このとき、ウェルプレートの穴の内壁面における培地の表面張力により、ウェルプレートの穴の縁においてもメニスカス効果が発生するため、受精卵を観察する際に、この影に受精卵が隠れてしまって、観察が困難になる。
【0012】
そこで、本願出願人は、液面やミネラルオイルOと培地ドロップの境界面によるメニスカス効果による影響を打ち消すように位相差リングを移動させることができる位相差顕微鏡を提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−122356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、培養容器の種類によってメニスカス効果の影響が異なっており、ある種類の培養容器において良好な観察を行えるように光学系を設定しても、他の種類の培養容器では良好な観察を行うことができないことがあった。従って、培養容器の種類に依らず、良好な観察を行うことができるような観察装置が求められていた。
【0015】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、良好な観察ができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の観察装置は、液体中に存在している試料を観察する観察装置において、前記試料にある角度範囲にわたって照明光を照射し、その試料からの光を集光する光学系と、前記試料が収納される培養容器の種類を取得する取得手段と、前記培養容器の種類に応じて、前記光学系を調整する調整手段とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の観察装置においては、液体中に存在している試料が前記液体と共に収納される培養容器の種類が取得され、培養容器の種類に応じて光学系が調整される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の観察装置によれば、良好な観察ができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用した培養観察装置が備える観察ユニットの一実施の形態の構成例を示す図である。
【図2】観察条件ごとの照明光学系および観察光学系について説明する図である。
【図3】コントロール部の処理を説明するフローチャートである。
【図4】観察処理を説明するフローチャートである。
【図5】培地ドロップの縁に現れる影について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明を適用した培養観察装置が備える観察ユニットの一実施の形態の構成例を示す図である。
【0022】
図1において、観察ユニット11は、ユニット本体12の上側にアーム部13およびステージ14が配設されて構成されており、アーム部13およびステージ14が、受精卵の培養に適した環境に保持される培養観察装置のインキュベータの内部に配置される。そして、インキュベータの内部では複数の培養容器(ディッシュまたはウェルプレート)において受精卵が培養されており、例えば、観察スケジュールに従って観察対象となった培養容器15がロボットアームなどによりステージ14に載置され、培養容器15内で培養されている受精卵の観察が行われる。
【0023】
アーム部13は、ステージ14の側方から上方に延びてステージ14の上側に張り出した形状をしており、LED(Light Emitting Diode)光源31および照明光学系32を収納している。LED光源31から出力される照明光は、照明光学系32を介して培養容器15に照射される。
【0024】
ユニット本体12は、観察光学系33、撮像部34、および画像処理部35を収納している。観察光学系33は、照明光学系32から培養容器15に照射される照明光の光軸上に配置され、観察光学系33を介して観察光が撮像部34に入射し、撮像部34は培養容器15内の受精卵を撮像する。
【0025】
そして、撮像部34により撮像された画像は、画像処理部35において画像処理が施される。例えば、観察ユニット11では、低倍率にて観察範囲の全領域(ディッシュ内の培地ドロップ全体、または、ウェルプレートの穴の全体)を観察する処理が行われ、撮像部34により撮像された画像を画像処理して受精卵が探索される。その後、それぞれの受精卵を高倍率で観察する処理が行われ、受精卵の状態が詳細に観察される。
【0026】
さらに、観察ユニット11では、培養容器15の種類に応じて、例えば、培養容器15がディッシュおよびウェルプレートのいずれであるかに応じて、照明光学系32と観察光学系33とを調整することができる。即ち、観察ユニット11は、培養容器15の種類を検出する検出部21、照明光学系32を調整する照明光学系調整部22、観察光学系33を調整する観察光学系調整部23、および、検出部21の検出結果に従って照明光学系調整部22および観察光学系調整部23を制御するコントロール部24を備えている。
【0027】
照明光学系32は、LED光源31の各点からの光束を集光するコレクタレンズ41と、照明光学系32の光軸方向に移動可能でかつ開口部の径が可変な絞り42A(図2)と、絞り42が照明光学系32の光路から退避したときに、開口絞りとなる開口絞り43(図2)と、絞り42又は開口絞り43の開口部を通過した光束を集光するコンデンサレンズ44と、高倍観察時に照明光学系32の光路上に配置される高倍観察用コンデンサレンズ45とからなる。
【0028】
コレクタレンズ41はLED光源31の各点からの光束を平行にする。絞り42又は開口絞り42を経た平行な光束はコンデンサレンズ44又は高倍観察用コンデンサレンズ45により集光している。この照明光学系32は説明を簡単にするために、クリティカル照明を例示している。しかしながら、本発明は完全に光源と試料とが共役関係を有する照明光学系に限られず、光源と試料とが共役な関係となる必要は無い。
【0029】
検出部21は、例えば、培養容器15に貼付されているラベルなどを読み取るセンサである。培養容器15のラベルには、例えば、培養容器15の種類(ディッシュまたはウェルプレート)、培養している受精卵に関する情報などが記述されており、検出部21は、ラベルを読み取って培養容器15の種類を取得し、コントロール部24に供給する。
【0030】
照明光学系調整部22は、図2を参照して後述するように、照明光学系32の光軸からコンデンサレンズを構成するレンズ要素の一つを光軸上から抜き差しできるようにコンデンサレンズ駆動手段22aを具備し、また、他にも光軸上のコレクタレンズの焦点位置に配置される絞りを切り替えたり、光軸方向に絞りを移動させたりして、照明光学系32の調整を行う。また、観察光学系調整部23は、図2を参照して後述するように、光軸上に配置される対物レンズを切り替えたり、位相リングまたはホフマンモジュレーション絞りなどを光軸上に挿脱したりして、観察光学系33の調整を行う。
【0031】
コントロール部24は、低倍率および高倍率のどちらで観察を行うか、並びに、培養容器15がディッシュおよびウェルプレートのいずれであるかに基づいて、照明光学系調整部22および観察光学系調整部23に対する制御を行い、良好な観察が行えるように照明光学系32および観察光学系33を調整させる。
【0032】
図2を参照して、良好な観察が行えるように調整された照明光学系32および観察光学系33について説明する。
【0033】
照明光学系32は、コレクタレンズ41、絞り42A、リング絞り42B、ホフマンモジュレーション絞りであるMC絞り42C、開口絞り43、コンデンサレンズ44、および高倍観察用コンデンサレンズ45を有している。照明光学系32では、照明光学系調整部22により、絞り42A、リング絞り42B、またはMC絞り42Cのうちの、光軸上に挿入されるものが切り替え可能とされるとともに、それぞれが光軸方向に沿って移動可能とされている。
【0034】
観察光学系33は、対物レンズ51A乃至51Dが図示されていないレボルバー機構により光軸に対して挿脱可能に具備されている。そして、対物レンズ51Cと対物レンズ51Dはそれぞれ、光軸を中心に位相膜がリング状に形成された位相板52、または、ホフマンモジュレーションコントラス観察法用のモジュレータ53を同一鏡筒内に具備している。また、レボルバー機構には、回転位置検出機構を有しており、レボルバーの回転位置に応じて、観察光学系33の光路中にどの対物レンズが配置されているかを検出することができる。この回転位置検出機構はコントロール部24と接続されており、回転位置検出機構の出力がコントロール部24に供給される。
【0035】
更に観察光学系33は、図1に図示した第二対物レンズ54を有しており、対物レンズ51A、51B,51C,51Dのいずれかで集光した光束を、第二対物レンズ54により集光することにより、試料の像を形成している。
【0036】
また、対物レンズ51Aは、2倍または5倍程度の低倍率かつ高NA(Numerical Aperture:開口数)であり、対物レンズ51Bは、2倍または5倍程度の低倍率かつ通常NA(例えば、NA=0.5〜1.0程度)であり、対物レンズ51Cは、高倍率かつ位相差観察用であり、対物レンズ51Dは、高倍率かつホフマンモジュレーションコントラスト観察用である。また、他にも高倍率な明視野観察または暗視野観察が行える対物レンズを別途用意してもよい。観察光学系33では、観察光学系調整部23により、対物レンズ51A、対物レンズ51B、および対物レンズ51Cのうちの、光軸上に挿入されるものが切り替え可能とされるとともに、位相板52およびモジュレータ53が光軸上に挿脱可能とされている。
【0037】
図2Aには、観察倍率が低倍率で、かつ、培養容器15がウェルプレート(96ウェル)である観察条件での照明光学系32および観察光学系33が示されている。照明光学系32は、LED光源31と、LED光源31の位置に焦点位置となるコレクタレンズ41と、コレクタレンズ41で集光された光束の一部を遮る絞り42Aと、絞り42Aを通過した光束を集光するコンデンサレンズ44を有している。このとき、例えば、観察範囲の直径は約6.4mmである。また、ウェルプレートの孔の深さは10mm程度であり、かつウェルプレート中の培養液の液面までの深さは2.5mmである。従って、ウェルプレートの孔の入口から液面まではおよそ7.5mmとなる。
【0038】
ところで、照明光学系の光軸に対してウェルプレートの側壁が平行であると仮定した場合、照野の各位置における照明光束の主光線の角度は、ウェルプレートの開口からウェルプレート中の培養液の液面までの間で、ウェルプレートの側壁となる部分によって蹴られないような角度で設定する必要がある。
【0039】
このような観察条件において、絞り42Aの位置をコンデンサレンズ44の光源側の焦点位置よりも、コレクタレンズ41に近い領域内に配置する。これにより、ウェルプレートの入口に入射する各光束の主光線は、照明光学系32の光軸に向かって収斂する方向で伝播する。そして、ウェルプレート中の培養液の液面で生ずるメニスカス効果により、その主光線は、発散する方向に屈折する。それゆえ、ウェルプレートの底では、全域にわたって照明することができる。これによりウェルプレートの側壁によって照明光束の主光線が遮られなくなる。一方、図2Aに示すように、ウェルプレートの底を照らした各光束の主光線は、発散する方向に伝播しながら対物レンズの方に到達する。対物レンズ51Aでは、これらの光束を十分集光できるように低倍率かつ高NA(例えば、NA=0.25程度)の対物レンズ51Aが光軸上に配置される。このように照野での一様性を確保するために、絞り42Aの位置が光軸方向に調整される。
【0040】
一方、光軸から離れた位置でウェルプレート中の液面に到達する各光束のマージナルな光線もウェルプレートの側壁に遮られないようにする必要がある。マージナルな光線の角度範囲は、絞り42Aの開口部の大きさで調整することができる。また、対物レンズ51Aで外周領域を照明した照明光束の全てを集光できるようにするために、照明光学系の照明NAは対物レンズ51AのNAよりも小さくする。
【0041】
このような構成の照明光学系32により、絞り42Aの光軸上の位置と絞り42Aの開口部の大きさを調整することにより、ウェルプレートのような細胞等の試料を載置する容器の内径に比べて液面が深い位置にあるような観察試料においても、均一な照明ができる。さらに、観察光学系33でNAの大きい対物レンズに換装することにより、培養容器15であるウェルプレートの各凹部の培地の表面において外側に向かって屈折する光を観察光学系33に導入することができる。
【0042】
即ち、ウェルプレートの側壁によって生ずる液面の凹面化によるメニスカス効果により、ウェルプレートの凹部の外周部に到達する照明光が更にウェルプレートの中心から放射状に屈折されても、ウェルプレートを透過した光束を受けるのに十分な開口数を持った観察光学系の対物レンズ51Aを採用することにより、ウェルプレートの底面である培養領域全面を同時に観察可能とする光学系となり、ウェルプレートの穴の壁面付近に影が発生することが回避される。これにより、観察対象の受精卵が影に隠れることもなく、より良好な観察を行うことができる。また、このような観察においては、培養容器15の全領域をムラなく照明するために、コヒーレント性のある低NAの照明を行うことが好ましい。
【0043】
図2Bには、観察倍率が低倍率で、かつ、培養容器15がディッシュであり、観察試料が培地ドロップである観察条件での照明光学系32および観察光学系33が示されている。このとき、例えば、観察範囲の直径は約6mmである。
【0044】
このような観察条件において、側方から照明光束が入射しても、ウェルプレートのように側壁によって蹴られるということが無い。そのため、培地ドロップの外周側を照明する照明光束は、コンデンサレンズ44によって光軸に対して外側から光軸に向かうように大きく偏向して培地ドロップに入射するようにしている。そのため、低倍率かつ通常NAの対物レンズ51Bが使用可能となる。
【0045】
このようなことを同じ照明光学系で達成するために、絞り42Aの位置が、図2Aの観察条件(観察倍率が低倍率で、かつ、培養容器15がウェルプレートである観察条件)のときよりも光軸方向に沿ってコレクタレンズ41側に移動されている。
【0046】
このような構成の照明光学系32および観察光学系33により、培養容器15であるディッシュ内の培地ドロップの表面において外側から照明光束を入射することで、観察光学系33に照明光束を導入することができる。即ち、培地ドロップとオイルの界面による凸面メニスカスをキャンセルするような光学系となり、培地ドロップの縁の近傍に影が発生することが回避される。このように培地ドロップの中心部と末端部とにおいて光量に差が生じないため、観察対象の受精卵が影に隠れることもなく、より良好な観察を行うことができる。
【0047】
ここで、図2Aと図2Bとを比較すると、絞り42Aを光軸方向に沿って移動させることで、周辺から試料に集光する照明光の光束の光軸(破線で示されている光軸)の、照明光の中心の光束の光軸(一点鎖線で示されている光軸)に対する角度が変更されている。即ち、培養容器15がウェルプレートである場合(図2A)、この角度は狭くなり、培養容器15がディッシュである場合(図2B)、この角度は広くなるように調整される。
【0048】
図2Cは、図2A及び図2Bに比べ、観察倍率が高倍率で、かつ、培養容器15がウェルプレート(96ウェル)である場合の照明状態を図示している。また、位相差観察を行う観察条件での照明光学系32および観察光学系33が示されている。
【0049】
このような観察条件において、位相差観察を行うので、通常の絞り42Aに換えて、位相差観察用のリング絞り42Bに換装する。また、高倍率(例えば、10倍以上)観察であるので、観察する視野は限られた視野となる。その視野に照明するだけの照野を確保すればよい。そこで、その限られた照野において、大きい照明NAで照明すると良い。そこで、この図2Cは、より大きな照明NAを達成するために、正の屈折力を持つ高倍観察用コンデンサレンズ45を更に追加している。一方、ウェルプレートの側壁に照明光束が遮られないようにするために、図2Aで説明したように、リング絞り42Bをコレクタレンズ41の試料側の焦点位置よりもコレクタレンズ41側に近い位置に設定している。
【0050】
このようにすることで、高倍率で対物レンズ51CのNAに見合った照明NAでウェルプレート15内の液中にある試料を観察することができる。
【0051】
図2Dは、図2A、図2Bの場合に比べ、観察倍率が高倍率で、かつ、培養容器15がディッシュである場合の照明状態を図示している。また、ホフマンモジュレーション観察を行う観察条件での照明光学系32および観察光学系33が示されている。
【0052】
このような観察条件においても、位相差観察と同様にホフマンモジュレーション用のMC絞り42Cをコレクタレンズ41の試料側の焦点位置よりコレクタレンズ41に近い位置に配置する。しかし、ホフマンモジュレーションコントラスト観察法の場合、位相物体の表面の角度に応じてコントラストがつくようにした観察手法であるため、培地ドロップの界面もコントラストが付く。そこで、この培地ドロップにより試料以外の形状でコントラストが付かないような照明光束の培地ドロップへの入射角度となるように、MC絞り42の光軸上の位置を設定する。
【0053】
具体的には対物レンズ51Dの視野を照明する光束が培地ドロップの界面で垂直入射となるような角度に設定する。このようにすることで、培地ドロップによってコントラストが付くことを防げる。また、モジュレータ53も試料によって屈折せず直進した光束については、遮光するように遮光部(透過率:0%)を設ける。遮光部以外の部分は、場所ごとに違う透過率を有するようにモジュレータ53を形成している。例えば、モジュレータ53は、MC絞り42Cの開口部を通過した光束が集光する箇所で8%の透過率とし、8%の透過率の箇所および遮光部以外の部分は100%の透過率として形成されている。
【0054】
上述のように、試料が配置された容器の種類、又は試料が配置されている環境に応じて、照明光学系又は観察光学系をセットアップする一方、観察手法によってもこのセットアップを適当なものにすることができる。
【0055】
そのために、本発明の実施の形態では、コントロール部24が検出部21で培養容器15に付けられたラベルから培養容器の種類、その培養容器がディッシュである場合に、培地ドロップがあるのか否かの情報を取得し、一方、ユーザが選んだ対物レンズの情報を回転位置検出機構から取得する。そして、コントロール部24は、入手したこれらの情報から最適な照明状態となるように可変絞りを移動し、高倍観察用コンデンサレンズ45を光路中に挿入するように照明光学系調整部22を制御している。
【0056】
これにより、培養容器の種類が変わっても培養されている領域のほぼ全てが観察できる照明条件を設定することができる。
【0057】
次に、図3は、コントロール部24の処理を説明するフローチャートである。
【0058】
ステージ14に培養容器が配置されると、ステップS1において、検出部21は培養容器に付されているラベルを読み取る。そのラベルの情報から、培養容器の種類が特定される。また、培養容器がディッシュの場合、培地ドロップを観察するのか、ディッシュの中に単に培養溶液で満たされているだけなのかもラベルに記録されているので、その情報も検出部21で読み取る。
【0059】
次に、ステップS2において、観察光学系33の光路中に配置されている対物レンズを検出するために、回転位置検出機構の位置を検出する。なお、予めコントロール部24にレボルバー機構の回転位置情報とその位置に配置された対物レンズの倍率および種類を登録しておく。コントロール部24は、回転位置検出機構からの出力により、選ばれた対物レンズを認識する。
【0060】
次に、ステップS3において、培養容器、培養状態、ならびに観察光学系33に配置された対物レンズに応じて、最適な照明状態となるように絞り42Aの位置を変更するか、絞り42Aからリング絞り42Bに交換するか、または絞り42Aに替えて、MC絞り42Cに交換する。その判定基準は、図2に示した通りである。図2に則して、位相差観察用またはホフマンモジュレーションコントラスト観察用のいずれかが選択されたか、それとも通常の観察手法かに応じて、絞り42Aをリング絞り42BまたはMC絞り42Cに交換するか否かを判定する。
【0061】
次に、通常の観察手法の場合、選ばれた対物レンズが高倍か低倍かに応じて、絞り42Aの位置を決める。
【0062】
なお、上述の説明では、ユーザが対物レンズを選択する例を例示したが、培養容器によって、対物レンズをコントロール部24が自動的に選択することでもよい。その処理例を図4に示す。図4は、図1の観察ユニット11が培養容器15内の受精卵を観察する観察処理を説明するフローチャートである。
【0063】
例えば、予め設定された観察スケジュールに従って、ステージ14に培養容器15が載置されると処理が開始され、ステップS11において、検出部21は、培養容器15の種類を取得してコントロール部24に供給し、コントロール部24は、培養容器15が、ディッシュおよびウェルプレートのいずれであるか判定する。
【0064】
ステップS11において、コントロール部24が、培養容器15はディッシュであると判定した場合、処理はステップS12に進む。
【0065】
ステップS12において、コントロール部24は、観察倍率が低倍率で、かつ、培養容器15がディッシュである観察条件に応じた構成となるように、照明光学系調整部22および観察光学系調整部23に対する制御を行う。これにより、例えば、図2Bに示したように、照明光学系調整部22が照明光学系32に対する調整を行い、観察光学系調整部23が観察光学系33に対する調整を行う。即ち、培地ドロップによる凸面メニスカスをキャンセルするような光学系に調整される。
【0066】
ステップS12の処理後、処理はステップS13に進み、観察ユニット11では、低倍率での観察が行われ、培地ドロップ内の受精卵が探索される。このとき、メニスカス効果によって影が発生することが回避されるので、受精卵を容易に探索することができる。そして、培地ドロップ内における受精卵の位置を把握すると、処理はステップS14に進む。
【0067】
ステップS14において、コントロール部24は、観察倍率が高倍率で、かつ、培養容器15がディッシュである観察条件に応じた構成となるように、照明光学系調整部22および観察光学系調整部23に対する制御を行う。これにより、例えば、図2Dに示したように、照明光学系調整部22が照明光学系32に対する調整を行い、観察光学系調整部23が観察光学系33に対する調整を行う。即ち、MC絞り42C、高倍観察用コンデンサレンズ45、およびモジュレータ53が追加された光学系に調整される。
【0068】
ステップS14の処理後、処理はステップS15に進み、観察ユニット11では、高倍率での観察が行われ、受精卵の詳細な観察が行われる。ステップS15の処理後、処理は終了される。
【0069】
一方、ステップS11において、コントロール部24が、培養容器15はウェルプレートであると判定した場合、処理はステップS16に進む。
【0070】
ステップS16において、コントロール部24は、観察倍率が低倍率で、かつ、培養容器15がウェルプレートである観察条件に応じた構成となるように、照明光学系調整部22および観察光学系調整部23に対する制御を行う。これにより、例えば、図2Aに示したように、照明光学系調整部22が照明光学系32に対する調整を行い、観察光学系調整部23が観察光学系33に対する調整を行う。即ち、ウェルプレートの穴による凹面メニスカスをキャンセルするような光学系に調整される。
【0071】
ステップS16の処理後、処理はステップS17に進み、観察ユニット11では、低倍率での観察が行われ、培地ドロップ内の受精卵が探索される。このとき、メニスカス効果によって影が発生することが回避されるので、受精卵を容易に探索することができる。また、ウェルプレートごとにメニスカスのR面形状が変わることによって像質劣化の影響が異なるため、絞り42Aの位置を調整することにより、像質劣化の影響が低減されるように調整する。そして、培地ドロップ内における受精卵の位置を把握すると、処理はステップS18に進む。
【0072】
ステップS18において、コントロール部24は、観察倍率が高倍率で、かつ、培養容器15がウェルプレートである観察条件に応じた構成となるように、照明光学系調整部22および観察光学系調整部23に対する制御を行う。これにより、例えば、図2Cに示したように、照明光学系調整部22が照明光学系32に対する調整を行い、観察光学系調整部23が観察光学系33に対する調整を行う。即ち、リング絞り42B、高倍観察用コンデンサレンズ45、および位相板52が追加された光学系に調整される。
【0073】
ステップS18の処理後、処理はステップS19に進み、観察ユニット11では、高倍率での観察が行われ、受精卵の詳細な観察が行われる。ステップS19の処理後、処理は終了される。
【0074】
以上のように、観察ユニット11では、培養容器15がディッシュおよびウェルプレートのいずれであるかに従って、それぞれの培養容器15に適した光学系となるように照明光学系32および観察光学系33が調整されるので、培養容器15の種類に依らず良好な観察を行うことができる。即ち、観察領域の全領域で受精卵の認識が可能であり、かつ、コントラストの高い像質を確保することができる。
【0075】
また、例えば、絞り42Aを光軸方向に沿って移動可能とすることで、液面の曲率が諸条件によって変動しても、その変動に対応した照明を行うことができる。
【0076】
また、例えば、位相差観察を行う際に、観察位置が培地ドロップの端末であるとき、リング絞り42Bを光軸に対して直交する方向へ移動させることで、メニスカス効果によるリング絞り42Bと位相板52との位置関係を補正することが可能である。なお、このような補正に関しては、本願出願人が出願済みの特開2009−122356号公報で詳細に説明されている。
【0077】
また、コントロール部24が、培地ドロップの中心座標を記憶しておき、リング絞り42Bを光軸に対して直交する方向へ移動させる際に、培地ドロップの末端部分を観察するときに、位置の差分に対応した移動量で、リング絞り42Bが自動的に移動するように構成することができる。また、培養容器15の種類によってメニスカス形状に微妙な差異が発生するが、そのような差異に対して、リング絞り42Bの位置を光軸方向に調整することによって対応することができる。
【0078】
なお、本実施の形態においては、受精卵を観察するための光学系について説明したが、本発明は、通常の細胞観察にも適用することができる。また、例えば、微分干渉観察法、暗視野観察法、偏光観察法などが適用されてもよい。
【0079】
また、検出部21としては、培養容器15のラベルを読み取るような構成のほか、例えば、ユーザが入力した培養容器15の種類を取得するような構成にしてもよい。
【0080】
なお、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0081】
11 観察ユニット, 12 ユニット本体, 13 アーム部, 14 ステージ, 15 培養容器, 21 検出部, 22 照明光学系調整部, 23 観察光学系調整部, 24 コントロール部, 31 LED光源, 32 照明光学系, 33 観察光学系, 34 撮像部, 35 画像処理部, 41 コレクタレンズ, 42A 絞り, 42B リング絞り, 42C MC絞り, 43 開口絞り, 44 コンデンサレンズ, 45 高倍観察用コンデンサレンズ, 51A乃至51D 対物レンズ, 52 位相板, 53 モジュレータ, 54 第二対物レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器中に液体と共に収容された試料に照明光を照射し、その試料からの光を集光する光学系と、
前記試料が収納される培養容器の種類を取得する取得手段と、
前記培養容器の種類に応じて、前記光学系による前記試料への照明状態を調整する調整手段と
を備えることを特徴とする観察装置。
【請求項2】
前記光学系は、前記試料に照明光を照射するための照明光学系を含み、
前記照明光学系は、前記照明光学系の光軸から離れた位置から前記試料に到達する照明光の光束の主光線の、前記照明光学系の光軸に対する角度を変更する変更手段を有しており、
前記調整手段は、前記培養容器に応じて、前記変更手段を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記変更手段は、前記照明光学系に配置された絞り部材を前記照明光学系の光軸方向に移動させる絞り部材駆動手段
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の観察装置。
【請求項4】
前記光学系は、更に前記照明光学系で照明された前記試料の像を結像する観察光学系を有し、
前記観察光学系は、複数の対物レンズを保持可能とする対物レンズ交換機構に保持されたいずれか一つの対物レンズを含み、
前記調整手段は、前記培養容器に応じて、前記対物レンズ交換機構に保持された複数の対物レンズのうち一つを選択して、前記選択された対物レンズが前記観察光学系の光軸上に配置されるように前記対物レンズ交換機構を制御する
ことを特徴とする請求項3に記載の観察装置。
【請求項5】
前記調整手段は、更に前記対物レンズに応じて、前記変更手段を制御する
ことを特徴とする請求項4に記載の観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−147739(P2012−147739A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9984(P2011−9984)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】