説明

触媒担体用ビニルピリジン樹脂及びその製造方法

【課題】 粉化及び熱分解しにくく、熱分解によるメタノールのカルボニル化触媒活性の劣化が抑制されるような小さいサイズの細孔を多く含み、かつ十分な触媒活性が得られる細孔容積及び比表面積を有するビニルピリジン樹脂及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 3〜5nmの細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4%以上60%以下、全細孔容積が0.15cc/g以上0.35cc/g以下、比表面積が20m/g以上100m/g以下であるようなビニルピリジン樹脂、及びポーラス剤として貧溶媒と良溶媒とを、良溶媒の量がポーラス剤の全重量に対して50wt%以上90wt%未満となるように組み合わせて用いることによるビニルピリジン樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールのカルボニル化反応による酢酸製造の際に触媒担体として用いられるビニルピリジン樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸はポリ酢酸ビニル、アセチルセルロース及び酢酸エステル類の原料、並びにテレフタル酸製造プラントの溶媒等、幅広い用途を持つ基礎化学品である。
【0003】
化学工業上利用される酢酸の製造方法としては、メタノールのカルボニル化、アセトアルデヒドの部分酸化、並びにブタン及びプロパン等の酸化などによる方法が公知であるが、現在、その大部分はメタノールのカルボニル化によってなされている。
【0004】
メタノールのカルボニル化による酢酸の製造方法としては、ロジウム化合物とヨウ化メチルとを均一に溶解した水含有酢酸溶媒中でメタノールと一酸化炭素とを反応させる「モンサント法」(特許文献1)がよく知られている。また、近年ではモンサント法を改良した方法として、多孔質のビニルピリジン樹脂担体にロジウムを担持させた触媒を用いる不均一系で反応を進行させるという技術(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)が提案され、実用化も図られている。
【0005】
これらの改良した方法では、メタノールから酢酸を高収率で製造し得るというモンサント法の利点に加えて、反応生成液の水分濃度を低くしてヨウ化メチルの加水分解によるヨウ化水素酸の生成量を減少することにより装置系の腐食や製品酢酸の分離精製工程の負荷を抑えることができ、ロジウム錯体を固定化して触媒の高濃度化を達成することにより反応速度が高まり、触媒を反応器内に封じ込めて触媒の析出を減少することにより分離回収に必要なコストと負荷を抑えることができる、といった利点をさらに有する。
【0006】
これらの技術に用いることのできる多孔質のビニルピリジン樹脂として、特許文献6には、ビニルピリジンモノマーに架橋剤としてのジビニルベンゼン、ポーラス剤としてのイソオクタン、及び重合開始剤としての過酸化ベンゾイルを加えた油相と、密度調整及びビニルピリジンの水相への溶解防止のために加えられる塩化ナトリウム、水相に溶解したビニルピリジンモノマーの重合を防止するために加えられる亜硝酸ナトリウム、並びにセルロース系懸濁安定剤を含有する水相と、を重合反応器内で混合し、油相を分散させて80℃で2時間重合させた後、95℃で5時間熱処理することにより製造したビニルピリジン樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭47−3334号
【特許文献2】特開昭63−253047号
【特許文献3】特開平5−306253号
【特許文献4】特開平5−306254号
【特許文献5】特開平6−315637号
【特許文献6】特公昭61−25731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献6等に記載されている従来の方法で得られるビニルピリジン樹脂では、樹脂が粉化や熱分解等しやすく、また、粉化や熱分解によって生じる離脱物によって細孔が閉塞されることにより触媒活性の劣化が早まるという問題があった。
【0009】
上記の課題に鑑み、本発明は、粉化及び熱分解しにくく、並びに熱分解による触媒活性の劣化が抑制され、かつ十分な触媒活性を有するビニルピリジン樹脂及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究の結果、3〜5nmの細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4%以上60%以下、全細孔容積が0.15cc/g以上0.35cc/g以下、比表面積が20m/g以上100m/g以下であるようなビニルピリジン樹脂によって上記の課題が解決されることを見出した。
【0011】
また、ポーラス剤として貧溶媒と良溶媒とを、良溶媒の量がポーラス剤の全重量に対して50wt%以上90wt%未満となるように組み合わせて用いることで、本発明に係るビニルピリジン樹脂を製造できることを見出し、もって本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0012】
本発明のビニルピリジン樹脂にロジウム錯体を担持させた触媒は、メタノールのカルボニル化反応に対して十分な触媒活性を有し、かつ粉化や熱分解しにくく、さらにはより高い熱分解率まで失活しない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例によって得られた樹脂の代表的な細孔径分布を示す図。
【図2】樹脂の全細孔容積に対する3〜5nmの細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合と粉化速度との関係を示す図。
【図3】樹脂の全細孔容積とカルボニル化反応触媒活性との関係を示す図。
【図4】本発明の実施例1及び比較例1における熱分解時間と触媒分解率との関係を示す図。
【図5】本発明の実施例1及び比較例1における触媒分解率とカルボニル化反応触媒活性との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るビニルピリジン樹脂は粒子状に製造されており、その粒子径が50μm以上1500μm以下、好ましくは200μm以上1000μm以下であることを特徴とする。また、本発明に係るビニルピリジン樹脂は、3〜5nmの細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合(以下、3〜5nm細孔容積比という)が4%以上60%以下、好ましくは4%以上50%以下であることを特徴とする。さらに、本発明に係るビニルピリジン樹脂は、全細孔容積が0.15cc/g以上0.35cc/g以下、好ましくは0.15cc/g以上0.25cc/g以下であり、比表面積が20m/g以上100m/g以下、好ましくは30m/g以上80m/g以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明者らの研究によれば、3〜5nm細孔容積比を4%以上とすることで、触媒の粉化速度や熱分解速度が従来のビニルピリジン樹脂よりも顕著に低くなるという利点を有する。
【0016】
触媒に使用されるビニルピリジン樹脂粒子は、0.10〜100μmのサイズを有しネットワーク状に架橋している数多くのマイクロジェルから構成されている。ここで、3〜5nmという小さい細孔径を有する細孔の割合を増やすためには、樹脂を構成するマイクロジェルのサイズを小さくし、かつ、マイクロジェル同士の融合を適度に制御する必要がある。そのため、3〜5nmの細孔径を有する細孔の容積比が4%以上である本発明のビニルピリジン樹脂では、樹脂を構成するマイクロジェル同士が均一かつ緻密に結合することになり、粉化や熱分解によるマイクロジェルの離脱が生じにくくなる。さらには、マイクロジェルのサイズが小さいため、離脱したマイクロジェルによる細孔の閉塞が生じにくく、細孔の閉塞による触媒活性の低下が抑制される。
【0017】
一方で3〜5nm細孔容積比が60%を超えると反応物質の拡散が律速となり、触媒活性が低下する。
【0018】
また、全細孔容積が0.15cc/g未満であったり比表面積が20m/g未満であると十分な触媒活性が得られず、逆に全細孔容積が0.35cc/gを超えたり比表面積が100m/g以上であると、樹脂の構造に弱い部分が生じ、粉化や熱分解しやすくなる。
【0019】
本発明のビニルピリジン樹脂を製造する方法は特に限定されないが、例えばビニルピリジンモノマー、架橋剤、ポーラス剤及び重合開始剤を含む油性媒体と水性媒体とを混合して、ビニルピリジンモノマーを懸濁重合する方法によって製造することができる。
【0020】
また、このとき水性媒体には必要に応じて適量の分散剤(懸濁安定剤)、界面活性剤、消ラジカル剤、比重調整剤及びpH調整剤等を含んでいてもよい。これらの油性媒体と水性媒体とを重合反応器内で混合し、緩やかに昇温して50℃〜80℃でポリマーを重合させ、さらに昇温して85℃〜95℃で熱処理を加えることにより、本発明のビニルピリジン樹脂を製造することができる。
【0021】
本発明におけるポーラス剤とは、モノマーを溶解するがモノマーが重合してできるポリマーを溶解しにくい溶媒をいい、例えば架橋共重合体を膨潤する性質を有する有機溶媒や、非膨潤性の有機溶媒などを用いることができる。
【0022】
ビニルピリジン樹脂粒子が懸濁重合法で合成される際には、モノマーと一緒に仕込んだポーラス剤とが相分離することによって、数多くの0.10〜100μmのサイズを有するネットワーク状に架橋しているマイクロジェルが生成される。マイクロジェルのサイズ、マイクロジェル同士の融合、又はマイクロジェルの隙間における有機溶媒の分布はマイクロジェルとポーラス剤との相溶性により顕著に影響される。
【0023】
ここで、本発明に係るビニルピリジン樹脂の製造方法は、ポーラス剤としてビニルピリジンポリマーに対する貧溶媒と良溶媒とを組み合わせて用いることによってビニルピリジンポリマーと溶媒との相溶性を調整し、マイクロジェルの析出及び析出したマイクロジェル同士の溶媒中のモノマーを介した融合を調節することを特徴とする。
【0024】
ポリマーとポーラス剤として用いられる溶媒との相溶性は両者の極性に左右され、極性が近いほど相溶性が高い。溶解性の尺度として、分子間結合力を表す凝集エネルギー密度の平方根で示される溶解パラメータ(SP)が使われている。本発明においては、ビニルピリジンポリマーのSPとの差の絶対値が2より小さいSPを有する溶媒を良溶媒と、2より大きいSPを有するものを貧溶媒と定義する。
【0025】
このような良溶媒としては例えば、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン、2−エチルヘキサノール等を用いることができる。また、このような貧溶媒としては例えば、ジオクチルフタレート、オクタン、ノナン等を用いることができる。
【0026】
また、本発明において「組み合わせる」とは、ポーラス剤について使用されるときは2以上のポーラス剤を、重合開始剤について使用されるときは2種類以上の重合開始剤を、それぞれ混合して懸濁重合に用いることをいう。この2種類以上のポーラス剤又は重合開始剤は、あらかじめ混合して調製したものを用いてもよいし、反応容器内で撹拌等により混合してもよい。
【0027】
本発明者らの検討によれば、本発明の方法では、以下の作用により所望の特性を有するビニルピリジン樹脂が得られると考えられる。
貧溶媒のみをポーラス剤として用いると、モノマーが重合することにより生成したポリマーはすぐに溶媒と相分離するため、比較的小さいマイクロジェルがはじめに析出する。この析出したマイクロジェルは高い相溶性を示す未反応のモノマーを取り込んで互いに融合し、比較的大きいサイズのマイクロジェルに成長する。このとき、取り込まれたモノマーによりマイクロジェル間の隙間が閉塞されるため、最終的な樹脂では大きいマイクロジェル同士の間隙に由来する大きいサイズの細孔が発達することになる。こうしてできた樹脂では、発達した大きいサイズの細孔によりマイクロジェル同士の接合面が小さくなり、粉化や熱分解等によりマイクロジェルが離脱しやすい。また、離脱するマイクロジェルにより細孔が閉塞しやすく、触媒活性が低下しやすい。
【0028】
一方で良溶媒のみをポーラス剤として用いると、ポリマーと溶媒とは相分離しにくく、マイクロジェルは一定の大きさに成長してから析出しはじめることになる。このとき、溶媒中に残存するモノマーは少なくなっている。さらに、モノマーが良溶媒とマイクロジェルとの間に均等に分配されるため、析出したマイクロジェル同士のモノマーを介した融合はほとんどなされず、結果としてマイクロジェル同士の隙間に均一に分散される良溶媒に由来する微小な細孔のみが形成される。そのため、最終的に得られる樹脂は細孔径が小さく、十分な触媒活性が得られない。
【0029】
これに対し、本発明に係るビニルピリジン樹脂の製造方法は、貧溶媒と良溶媒とを組み合わせて用いることにより、ポリマーと溶媒との相分離を調整することを特徴とする。そのため、析出するマイクロジェルのサイズ及び析出した後のマイクロジェル同士の溶媒中のモノマーを介した融合が調節され、貧溶媒のみを用いたときのような大きいサイズのマイクロジェルは発達せず、比較的小さいマイクロジェルが緻密に接合された樹脂を得ることができる。このとき、良溶媒はマイクロジェルと相溶性が高く、その一部はマイクロジェル内部で骨格を溶媒和する。残りの良溶媒と貧溶媒との混合物はマイクロジェル同士の隙間に均一に分散される。そのため、マイクロジェル同士の間隙がモノマーによって完全に閉塞されることはなく、樹脂が形成された後に良溶媒と貧溶媒とを除去することにより、3〜5nmの細孔径を有する細孔が樹脂全体に均一に形成されることになる。
【0030】
このようにして、マイクロジェル同士を緻密に接合しつつ、その隙間に由来する適当な大きさの細孔を残したマクロポーラス型の樹脂を得ることができる。この樹脂では、比較的に小さいサイズのマイクロジェル同士が緻密に接合しているため、マイクロジェルの離脱による樹脂の粉化や熱分解を抑えることができる。また、ビニルピリジン樹脂を構成しているマイクロジェルが小さいため、粉化や熱分解により離脱したマイクロジェルにより細孔が閉塞されにくく、触媒活性が低下しにくい。
【0031】
本発明に用いるポーラス剤の組成は、用いる良溶媒及び貧溶媒の性質により異なるが、良溶媒がポーラス剤全重量に対して50wt%以上90wt%未満、好ましくは60wt%以上85wt%以下であることが好ましい。
【0032】
良溶媒の割合が50wt%より少ないと、析出したマイクロジェルは溶媒中のモノマーを取り込みつつ成長して最終的に大きなマイクロジェルとなり、その隙間に由来する細孔も大きくなる。また、必要な数の3〜5nmの細孔径を有する細孔が形成されない。
【0033】
なお、良溶媒としては、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン等のベンゼン環を持つものが好ましい。良溶媒のベンゼン環とビニルピリジン及びジビニルベンゼンからなるコポリマーの芳香族環との間の高い相溶性により良溶媒がマイクロジェル内の骨格やマイクロジェル同士の隙間に均一に分布するため、3〜5nmの細孔径を有する細孔をより多くかつ均一に分布させることができ、さらには樹脂の構造のむらもなくして粉化や熱分解を生じにくくすることができるからである。
【0034】
ビニルピリジンモノマーとしては、限定されないが、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、ピリジン環にメチル基やエチル基等の低級アルキル基を有する4−ビニルピリジン誘導体又は2−ビニルピリジン誘導体等を使用することができる。
【0035】
2−メチル−5−ビニルピリジン、2−エチル−5−ビニルピリジン、3−メチル−5−ビニルピリジン、2、3−ジメチル−5−ビニルピリジン、2−メチル−3−エチル−5−ビニルピリジン等を使用することができる。これらのモノマーは単独で使用してもよく、また二種類又はそれ以上のモノマーを組み合わせてもよい。
【0036】
架橋剤としては、2個又はそれ以上のビニル基を有する化合物を使用することができる。ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、若しくはトリビニルベンゼン等の芳香族ポリビニル化合物、ブタジエン、フタル酸ジアリル、ジアクリル酸エチレングリコール、若しくはジメタアクリル酸エチレングリコール等の脂肪族ポリビニル化合物、又はジビニルピリジン、トリビニルピリジン、ジビニルキノリン、若しくはジビニルイソキノリン等のポリビニル含窒素複素環式化合物等を用いることができる。また、架橋剤はモノマーに対して20〜60wt%、好ましくは25〜35wt%の割合で使用することが好ましい。
【0037】
本発明で用いる重合開始剤は特に限定されることはなく、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、及びアゾビスイソブチロニトリルなどの、ビニル化合物の反応を開始させるために従来使用されているいかなるものをも使用することができる。好ましい重合開始剤の使用量はモノマー混合物に対して0.5〜5.0wt%、好ましくは0.7〜2.0wt%である。
【0038】
さらに本発明においては、上記重合開始剤を主重合開始剤として用い、これに主重合開始剤よりも低い半減温度を有する補助重合開始剤を組み合わせて使用することが好ましい。
【0039】
モノマーを重合させる際に発生する反応熱により反応温度が100℃に近づくと、水相が沸騰して分散された油滴が合一してしまう。主重合開始剤のみを用いる場合、この反応熱を除去して反応温度を100℃以下に制御するために油相/水相比を小さくする必要があり、1バッチあたり得られる樹脂の量が少ないという問題があった。
【0040】
これに対し、主重合開始剤と補助重合開始剤とを組み合わせて使用することにより、重合速度を維持したまま重合温度を低下させることができる。これにより重合反応熱の除去が容易になり、油相/水相比を大きくすることができるため、1バッチ当たりの製造量を多くすることができる。
【0041】
このような補助重合開始剤としては、例えば2,2'-Azobis(2,4-dimethylvaleronitrile)、2,2'-Azobis(2-methylbutyronitrile)等を用いることができる。重合開始剤と補助重合開始剤との比率は、用いる重合開始剤及び補助重合開始剤の種類にもよるが、例えば1:0.2〜1.0、好ましくは1:0.3〜0.5とすることが好ましい。
【0042】
本発明で用いる分散剤も特に限定されることはなく、従来使用されているポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、澱粉、ゼラチン、スチレン/無水マレイン酸共重合体のアンモニウム塩等の水溶性高分子、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ベントナイト、ケイ酸マグネシウム等の無機塩を使用することができる。
【0043】
本発明で用いる界面活性剤、消ラジカル剤、比重調整剤、pH調整剤としても特に限定されることはなく、従来使用されているいかなるものをも使用することができる。例えば、界面活性剤としてはドデシルベンゼンスルホン酸等を、消ラジカル剤としては亜硝酸ナトリウム等を、比重調整剤としては塩化ナトリウム等を、pH調整剤としては水酸化ナトリウム等を使用することができる。
【0044】
本発明のビニルピリジン樹脂は、ロジウム錯体を担持させて、不均一系による酢酸の製造に好適に用いることができる。
【実施例】
【0045】
1.ビニルピリジン樹脂の調製
[実施例1]
水相として、10wt%のNaCl(比重調整剤)、0.3wt%のNaNO2(消ラジカル剤)、0.064wt%のゼラチン(分散剤)及び0.009wt%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(界面活性剤)をイオン交換水に溶解させた液を6250g調製した。
【0046】
油相として、36.4wt%の4−ビニルピリジン(ビニルピリジンモノマー)、43.6wt%のジビニルベンゼン(純度:55wt%)(架橋剤)、15wt%の1,2,4-トリメチルベンゼン(良溶媒)、5wt%のジオクチルフタレート(貧溶媒)を混合した液を3750g調製した。
【0047】
さらに、油相に0.84wt%の過酸化ベンゾイル(重合剤)及び、0.34wt%の2,2'-Azobis(2,4-dimethylvaleronitrile)(補助重合開始剤)を溶解して、ジャケット付き10L懸濁重合反応器に入れた。そこに反応器下部から調製した水相を供給し、緩やかに撹拌を行った。
【0048】
油滴が均一に分散するまで撹拌した後に、反応器のジャケットに65℃の温水を流すことにより反応器内液を昇温し、反応器内でモノマーを重合させた。反応器内液の温度は60℃まで上昇した後、上昇速度が増加し、80℃まで上昇した後、徐々に低下した。反応器内液が60℃まで下降したことを確認した後、さらに反応器内液を90℃まで昇温し、そのまま4時間保持した。その後、反応器内液を常温まで冷却し、ろ過により固液分離を行い、樹脂を回収した。回収した樹脂はさらに抽出洗浄によりポーラス剤である1,2,4-トリメチルベンゼン及びジオクチルフタレートを除去し、篩により分級を行い、最終的な触媒用4−ビニルピリジン樹脂を得た。
【0049】
[実施例2]
貧溶媒として5wt%のオクタン、良溶媒として15wt%のトルエンを使用した他は実施例1と同様にして、触媒用4−ビニルピリジン樹脂を得た。
【0050】
[実施例3]
貧溶媒として6wt%のオクタン、良溶媒として14wt%のトルエンを使用した他は実施例1と同様にして、触媒用4−ビニルピリジン樹脂を得た。
【0051】
[実施例4]
ジャケット付き3m懸濁重合反応器(水相:1650kg、油相:990kg)を使用した他は実施例1と同様にして、触媒用4−ビニルピリジン樹脂を得た。
【0052】
[比較例1]
溶媒として20wt%のイソオクタンのみを使用した他は実施例1と同様にして、触媒用4−ビニルピリジン樹脂を得た。
【0053】
[比較例2]
貧溶媒として10wt%のオクタン、良溶媒として10wt%のトルエンを使用した他は実施例1と同様にして、触媒用4−ビニルピリジン樹脂を得た。
【0054】
[比較例3]
重合開始剤として0.91wt%の過酸化ベンゾイル、補助重合開始剤として0.27wt%の2,2'-Azobis(2,4-dimethylvaleronitrile) 使用した他は実施例1と同様にして、触媒用4−ビニルピリジン樹脂を得た。
【0055】
[比較例4]
ジャケットに流す温水の温度を10℃/hrで65℃まで昇温した他は実施例1と同様にして、触媒用4−ビニルピリジン樹脂を得た。
【0056】
2.物性の測定
得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂の物性を以下の方法により測定した。
【0057】
(1)樹脂比表面積、細孔容積、平均細孔径の測定
得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂の比表面積、細孔容積(全細孔容積、3-5 nm細孔容積)、平均細孔径は窒素吸着法(ユアサアイオニクス(株)AUTOSORB-1)で測定した。
【0058】
(2)粉化率の測定
得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂を17g(dry)分取し、ヨウ化メチル17wt%メタノール溶液を100g加え、18時間振とうを行い、ピリジン基の4級化を行った。
【0059】
4級化した触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂を300ml筒型セパラブルフラスコ(バッフル4枚付)に入れ、40mmデスクタービン攪拌翼、1000rpmで18、72、144時間攪拌を行った。
【0060】
攪拌終了後、目開き90μmの篩で固液分離を行い、通過液を重量既知300mlビーカーに受け、90℃で蒸発乾固して重量を測定し粉化物とした。粉化率は得られた粉化物重量と仕込み触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂重量との比で求めた。また、72時間と144時間後の粉化率(%)と攪拌時間とから粉化速度を求め、その平均値をそれぞれの実施例及び比較例における粉化速度とした。
【0061】
(3)触媒活性測定
(i)触媒化
得られた触媒担体用4-ビニルピリジン樹脂8.5g (dry基準)と反応液79.7g(メタノール31.3wt%、ヨウ化メチル21.6wt%、酢酸47.1wt%)及び所定量の酢酸ロジウムを200mlジルコニウム製オートクレーブに仕込み、反応温度180℃、CO圧力5.0MPaGで1hr反応させ、触媒化した。
【0062】
(ii)反応試験
上記触媒全量と反応液80g(メタノール25wt%、酢酸62.5wt%、ヨウ化メチル12.5wt%)を200mlジルコニウム製オートクレーブに仕込み、反応温度180℃、CO圧力5.0MPaGで1hr反応させ、CO消費量及び酢酸の生成量からカルボニル化反応速度を求めた。
【0063】
得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂の物性を表1に、代表的な細孔径分布を図1に示す。
【0064】
【表1】

*カルボニル化活性の一番低い比較例3の活性を1とした。
【0065】
全細孔容積に対する細孔径3〜5nmの細孔が占める容積比と粉化速度との関係を図2に示す。細孔径3〜5nmの細孔が占める容積比が増加するに伴い粉化速度が低下することが分かる。
【0066】
細孔容積とカルボニル化反応触媒活性との関係を図3に示す。細孔容積0.15cc/g以上ではカルボニル化反応触媒活性が一定となることが分かる。
【0067】
(4)熱分解率及び分解率と触媒活性の関係の測定
実施例1及び比較例1で得られた4-ビニルピリジン樹脂を触媒化し、下記の方法で熱分解速度及び分解率とカルボニル化反応触媒活性の関係を調べた。
【0068】
(i)熱分解加速試験
得られた触媒担体用4−ビニルピリジン樹脂を前記方法で触媒化し、酢酸100mlと共に200mlジルコニウム製オートクレーブに仕込み、攪拌しながら220℃に加熱した。その後、24時間毎に液を採取して窒素濃度を測定し、離脱したピリジン基量を求めた。さらに、別途4−ビニルピリジン樹脂中の窒素濃度を測定し、離脱ピリジン基との比から分解率を求めた。
【0069】
熱分解時間と触媒分解率の関係を図4に示す。比較例1(4)に比べて実施例1(2)の熱分解速度が小さいことがわかる。
【0070】
次に触媒分解率とカルボニル化反応触媒活性との関係を図5に示す。なお、図5においては、未処理触媒の活性を1として触媒活性比を表している。比較例1(4)では未処理触媒の活性を下回るのは分解率20%付近であるのに対し、実施例1(2)では分解率30%付近まで未処理触媒以上の活性を維持していた。
【0071】
なお、実施例1、比較例1のいずれも低分解率のときに初期活性を上回っていたが、これは熱によりマイクロジェル又はその融合体の間の距離が離れ、反応物質の拡散速度が向上したためと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3〜5nmの細孔径を有する細孔が全細孔に占める容積の割合が4%以上60%以下、全細孔容積が0.15cc/g以上0.35cc/g以下、比表面積が20m/g以上100m/g以下であることを特徴とする、触媒担体用ビニルピリジン樹脂。
【請求項2】
ビニルピリジンモノマー、架橋剤、ポーラス剤及び重合開始剤を含む油性媒体と水性媒体とを混合して、油性媒体を懸濁重合することによる触媒担体用ビニルピリジン樹脂の製造方法であって、
ポーラス剤は良溶媒と貧溶媒とを組み合わせたものであり、
良溶媒の使用量は、ポーラス剤の全重量に対して50wt%以上90wt%未満であることを特徴とする、触媒担体用ビニルピリジン樹脂の製造方法。
【請求項3】
良溶媒はベンゼン環を有することを特徴とする、請求項2に記載の触媒担体用ビニルピリジン樹脂の製造方法。
【請求項4】
重合開始剤は、主重合開始剤に、主重合開始剤よりも半減温度の低い補助重合開始剤を組み合わせたものであることを特徴とする、請求項2又は3に記載の触媒担体用ビニルピリジン樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−81440(P2012−81440A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231321(P2010−231321)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】