訓練システムおよび訓練方法
【課題】熟練者に対してもヒューマンエラーの防止を効果的に訓練できるようにする。
【解決手段】訓練対象となる事象を擬似的に再現する訓練システム1であって、訓練シナリオ2を記憶する記憶装置3と、訓練シナリオ2を展開するシミュレーション手段4を備え、訓練シナリオ2には訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップ5が設けられており、シミュレーション手段4は、ヒューマンエラーの発生を検知してもそれを告知せずに訓練シナリオ2の展開を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するものである。
【解決手段】訓練対象となる事象を擬似的に再現する訓練システム1であって、訓練シナリオ2を記憶する記憶装置3と、訓練シナリオ2を展開するシミュレーション手段4を備え、訓練シナリオ2には訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップ5が設けられており、シミュレーション手段4は、ヒューマンエラーの発生を検知してもそれを告知せずに訓練シナリオ2の展開を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、訓練対象となる事象を擬似的に再現しながら、訓練中にヒューマンエラーを誘発させる訓練システムおよび訓練方法に関する。なお、訓練は、実際の現場作業、事故、災害、エラー等への対処等を体験または学習するものに限らず、例えばコンピュータゲーム等の訓練(ゲーム内容そのもの又はゲーム操作技術等)自体を楽しむことを目的としたものも含まれる。さらに、学校や学習塾あるいは専門学校など教育を目的とする機関で用いるシステムも含まれる。
【背景技術】
【0002】
近年、バーチャルリアリティ(VR)などコンピュータ・グラフィックス(CG)技術を利用してプラントの運転や災害の発生等を擬似的に体験しながら訓練を行う訓練システムが知られている。この種の訓練システムでは、現実に起きた事故や考えられる事故等を想定して構築したシナリオを複数準備しておき、その中から一のシナリオを選択して訓練を行ったり、あるいは特定の事故等を想定した一のシナリオを準備しておき、このシナリオに基づいて訓練を行っていた。
【0003】
【特許文献1】特開平10−293525号
【特許文献2】特開2002−366021号
【特許文献3】特開2002−108196号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の訓練システムでは、現実の事故や考えられる事故等を想定するとともに、既存の緊急時対応計画や作業マニュアルに基づいてシナリオを構築しているため、過去の経験や知識あるいは上記の対応計画やマニュアルにはない想定外の状況等については有効な訓練を行うことが困難であった。この結果、実際の現場において発生した異常事態が訓練シナリオ通りの事態であれば訓練の効果を期待できるが、それ以外の事態、特にヒューマンエラーが発生したような場合には、訓練の効果を期待することができなかった。
【0005】
また、ヒューマンエラーについての訓練を行うにしても、ヒューマンエラーが発生した時点でその発生を告知したのでは、作業を正しい手順で行う為の訓練であれば効果が期待できるものの、作業手順を熟知した熟練者に関わる又は起こりがちな「思いこみ」、「うっかりミス」、「操作ミス」等のヒューマンエラーを防止する為の訓練には効果があまり期待できなかった。
【0006】
本発明は、熟練者に対してもヒューマンエラーの防止を効果的に訓練することができる訓練システムおよび訓練方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の発明は、訓練対象となる事象を擬似的に再現する訓練システムであって、訓練シナリオを記憶する記憶装置と、訓練シナリオを展開するシミュレーション手段を備え、訓練シナリオには訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップが設けられており、シミュレーション手段は、ヒューマンエラーの発生を検知してもそれを告知せずに訓練シナリオの展開を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するものである。
【0008】
したがって、訓練は記憶装置に記憶されている訓練シナリオに即して行われる。訓練シナリオにはヒューマンエラーを誘発するトラップが設けられているので、訓練者が正しい操作を常に意識していなければ、又はたとえ意識していたとしても一時的な注意力の低下、認知エラーや思いこみ等によりトラップに引っ掛かりやすく、実際に起こり得るヒューマンエラーを体験することが可能である。このため、ヒューマンエラーを考慮した訓練を行うことができる。また、ヒューマンエラーの発生をすぐに告知したのでは、単に正しい作業手順を確認する訓練になってしまうが、本発明の訓練システムはヒューマンエラーの発生をすぐには告知しないので、訓練者は作業がさらに進んでからヒューマンエラーに気付くことになる。このため、単なる作業手順の確認訓練にとどまらず、実際の作業に即した訓練を行うことができる。
【0009】
また、請求項2記載の訓練システムは、シミュレーション手段が、ヒューマンエラーの発生を告知した後、ヒューマンエラーをリセットして訓練シナリオの続きを展開するものである。したがって、ヒューマンエラーが発生した場合であっても、訓練シナリオが最後まで展開される。
【0010】
また、請求項3記載の訓練システムは、トラップを、視覚的トラップと聴覚的トラップと触覚的トラップと嗅覚的トラップのうち、少なくともいずれか1つとしている。したがって、種々のヒューマンエラーを考慮した実際の作業に即した訓練を行うことができる。
【0011】
また、請求項4記載の訓練システムは、記憶装置が複数の訓練シナリオを記憶しており、展開する訓練シナリオを選択できるものである。したがって、複数の業務についての訓練を行うことができる。
【0012】
さらに、請求項5記載の発明は、記憶装置に記憶させた訓練シナリオをシミュレーション手段によって展開することで訓練対象となる事象を擬似的に再現しながら訓練を行う訓練方法であって、訓練シナリオに訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップを設けておくと共に、ヒューマンエラーが発生してもそれをすぐに告知せずに訓練を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するものである。
【0013】
したがって、訓練は記憶装置に記憶されている訓練シナリオに即して行われる。訓練シナリオにはヒューマンエラーを誘発するトラップが設けられているので、訓練者が正しい操作を常に意識していなければ、又はたとえ意識していたとしても一時的な注意力の低下、認知エラーや思いこみ等によりトラップに引っ掛かりやすく、実際に起こり得るヒューマンエラーを体験することが可能である。このため、ヒューマンエラーを考慮した訓練を行うことができる。また、ヒューマンエラーの発生をすぐに告知したのでは、単に正しい作業手順を確認する訓練になってしまうが、本発明の訓練方法は、ヒューマンエラーの発生をすぐには告知しないので、訓練者は作業がさらに進んでからヒューマンエラーに気付くことになる。このため、単なる作業手順の確認訓練にとどまらず、実際の作業に即した訓練を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
しかして、請求項1記載の訓練システムでは、訓練シナリオを記憶する記憶装置と、訓練シナリオを展開するシミュレーション手段を備え、訓練シナリオには訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップが設けられており、シミュレーション手段は、ヒューマンエラーの発生を検知してもそれを告知せずに訓練シナリオの展開を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するので、単なる作業手順の確認訓練にとどまらず、作業手順を熟知した者に対しても実際に起こり得るヒューマンエラーを考慮した訓練を行うことができる。また、訓練シナリオに設定するトラップの呈示方法をランダムに行うことで、訓練慣れを防ぐことができる。このため、訓練をより効果的なものにすることができ、訓練に要する時間とコストを削減することができる。さらに、ヒューマンエラーを考慮した訓練を行うことができるので、実際の作業現場におけるヒューマンエラーの発生を効果的に抑制することができ、現場作業を効率的なものにして現場作業に要するコストも削減することができる。
【0015】
また、請求項2記載の訓練システムでは、シミュレーション手段は、ヒューマンエラーの発生を告知した後、ヒューマンエラーをリセットして訓練シナリオの続きを展開するので、訓練者がヒューマンエラーを発生させた場合であっても、最後まで訓練を続けることができる。
【0016】
また、請求項3記載の訓練システムでは、トラップは、視覚的トラップと聴覚的トラップと触覚的トラップと嗅覚的トラップのうち、少なくともいずれか1つであるので、種々のヒューマンエラーを考慮した実際の作業に即した訓練を行うことができる。このため、より効果的な訓練を行うことができる。
【0017】
また、請求項4記載の訓練システムでは、記憶装置は複数の訓練シナリオを記憶しており、展開する訓練シナリオを選択できるので、複数の業務について訓練を行うことができる。
【0018】
さらに、請求項5記載の訓練方法では、訓練シナリオに訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップを設けておくと共に、ヒューマンエラーが発生してもそれをすぐに告知せずに訓練を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するようにしているので、単なる作業手順の確認訓練にとどまらず、作業手順を熟知した者に対しても実際に起こり得るヒューマンエラーを考慮した訓練を行うことができる。また、訓練シナリオに設定するトラップの呈示方法をランダムに行うことで訓練慣れを防ぐことができる。このため、訓練をより効果的なものにすることができ、訓練に要する時間とコストを削減することができる。さらに、ヒューマンエラーを体験させながら訓練を行うことができるので、実際の作業現場におけるヒューマンエラーの発生を効果的に抑制することができ、現場作業を効率的なものにして現場作業に要するコストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2に、本発明の訓練システムの実施形態の一例を示す。この訓練システム1は、訓練対象となる事象を擬似的に再現するものであって、訓練シナリオ2を記憶する記憶装置3と、訓練シナリオ2を展開するシミュレーション手段4を備え、訓練シナリオ2には訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップ5が設けられており、シミュレーション手段4は、ヒューマンエラーの発生を検知してもそれを告知せずに訓練シナリオ2の展開を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するものである。本実施形態では、シミュレーション手段4は、ヒューマンエラーの発生の告知後、ヒューマンエラーをリセットして訓練シナリオ2の続きを展開する。
【0020】
訓練システム1は、例えば2台のコンピュータ6をネットワーク接続したものである。2台のコンピュータ6を使用して2名の訓練者の協調訓練を実現することができる。ただし、3台以上のコンピュータ6を接続しても良く、この場合には3名以上の訓練者の協調訓練を実現することができる。また、1台のコンピュータ6を単独で使用しても良い。
【0021】
コンピュータ6はキーボードやマウス等の入力装置7と、コンピュータ6が作成したCGを表示するモニタ等の出力装置8を備えている。また、コンピュータ6は、少なくとも1つのCPUやMPUなどの中央演算装置と、データの入出力を行うインターフェースと、プログラムやデータを記憶する記憶装置3を備えており、コンピュータ6と所定の制御ないし演算プログラムによって、シミュレーション手段4や後述する選択手段9を実現している。即ち、中央演算装置は、メモリに記憶されたOS等の制御プログラム、三次元画像を表示しながら訓練を行う手順などを規定したプログラム、三次元画像に関するデータやその他の所要データ等により、シミュレーション手段4、後述する選択手段9を実現している。また、コンピュータ6はネットワークインターフェイス17を備えており、2台のコンピュータ6のネットワークインターフェイス17同士をケーブル18で接続している。
【0022】
訓練を実施する際には、各コンピュータ6毎に入力装置7から起動コマンドを入力し、記憶装置3に収納された訓練プログラムおよび3次元オブジェクトデータを、演算装置にそれぞれ読み込んで、訓練プログラムを起動する。訓練中の操作は、入力装置7により行う。
【0023】
本実施形態では、訓練対象となる事象を、例えば放射性物質の海上輸送における港湾での荷役業務とその検査業務としている。ただし、港湾での荷役業務とその検査業務に限るものではなく、海上輸送中の他の業務や輸送船の点検業務などでも良い。また、放射性物質輸送の海上輸送業務に限るものではなく、トラックやトレーラーあるいは鉄道車両による陸上輸送、航空機による航空輸送等でも良い。また、放射性物質輸送に限るものではなく、一般の産業界や官公庁における現場の業務、教育用システムに適用してもよい。
【0024】
本実施形態では、2台のコンピュータ6を使用して2名の訓練者の協調訓練を行う。2名の訓練者のうち、1名が作業者としての訓練を、もう1名がその監督者としての訓練を行う。即ち、実際の作業現場では、1名の作業者が実際に作業を行い、もう1名の監督者が作業者の作業を監督するが、訓練システム1では、作業者と監督者についての協調訓練を行うことができる。そして、それぞれの役割の訓練者毎に訓練データが記憶装置3に逐次記憶され、訓練者毎に訓練結果のレビューが可能である。
【0025】
訓練シナリオ2の概念を図3に示す。この訓練シナリオ2では、「準備作業」→「船倉内作業」→「クレーン作業」→「車両上の作業」→「隊列輸送」の順序でシナリオが展開される。「準備作業」では、吊り具の設定と放射線計測器の取得を行う。「船倉内作業」の「一般作業」では、輸送容器を船倉に固定している複数のボルトの解縛作業と、複数の吊り具アイボルトを輸送容器のトラニオンに設置する作業を行い、「船倉内作業」の「放射線計測作業」では、取得した放射線計測器を用いて輸送容器まわりの表面線量を計測する。「クレーン作業」は自動パスで実施される。「車両上の作業」の「一般作業」では、吊り具の取り外し作業と車両の荷台へのボルト固縛作業を行い、「車両上の作業」の「放射線計測作業」では、放射線計測器を用いて輸送容器まわりの表面線量を計測する。「隊列輸送」は自動パスで実施される。「準備作業」、「船倉内作業」、「クレーン作業」、「車両上の作業」、「隊列輸送」はそれぞれ1つのシーンを構成する。また、「準備作業」の「吊り具の設定」と「放射線計測器の取得」、「船倉内作業」の「一般作業」と「放射線計測作業」、「車両上の作業」の「一般作業」と「放射線計測作業」は、図3に示すように、それぞれ場面切換無しに連続して再現される一連の作業を行う。
【0026】
訓練シナリオ2に設けるトラップ5としては、例えば、以下のトラップがある。これらは、出力装置8としてのモニタに例えばCG画像やCG映像として表示される視覚的トラップである。視覚的トラップはCG画像やCG映像で表示される他、実際に撮影した画像や映像で表示したり、文字情報で表示しても良い。
【0027】
(1)状態を変えるトラップ5
「準備作業」の「吊り具の設定」に設けられたトラップ5(トラップA)では、吊り具の設定位置を変えるトラップである。例えば、図4に示すように、輸送容器の種類に対応して吊り具の設定位置が複数(例えば3タイプ)ある場合、その初期表示される位置を毎回ランダムに変えておく。作業者は輸送容器に応じて吊り具の設定位置を適切な位置に調節する必要があるが、吊り具の設定位置が違っていることに気付かない場合や気付いたとしても間違った位置に調節した場合(ヒューマンエラーの発生)には、後の「船倉内作業」の「一般作業」において、吊り具合アイボルトを輸送容器のトラニオンに設置することができない。吊り具アイボルトを輸送容器のトラニオンに設置しようとした時点において、吊り具の設定位置が間違っていることを告知する。告知後、シミュレーション手段4は吊り具の設定位置を正しい位置に修正し、訓練を続行する。なお、告知は、例えばモニタ8にテキスト表示することで行われる。後述する告知も同様である。
【0028】
「船倉内作業」の「放射線計測作業」に仕掛けられたトラップ5(トラップB)は、放射線計測器の計測レンジを変えておくトラップである。例えば、図5に示すように、3種類の計測レンジが有る場合、その初期表示されるレンジをランダムに変えておく。作業者は適切な計測レンジを選択する必要があるが、レンジが不適切であることに気付かない場合や気付いたとしても間違ったレンジに調整した場合(ヒューマンエラーの発生)には、「放射線計測作業」が終了して次の「クレーン作業」に進もうとする時点で、レンジが不適切であることを告知する。告知後、シミュレーション手段4は訓練を続行する。計測レンジの初期状態を変えることで、訓練を繰り返し行ううちに慣れてしまう(訓練慣れ)のを防止することができ、訓練者がたとえ熟練者であっても効果的に訓練を行うことができる。計測レンジの初期状態は、コンピュータ6がランダムに変化させても良く、また訓練の管理者が任意に設定しても良い。このトラップは「車両上の作業」の「放射線計測作業」にも仕掛けられている。
【0029】
(2)選択させるトラップ5
「準備作業」の「放射線計測器の取得」に仕掛けられたトラップ5(トラップC)は、余分に準備した放射線計測器の中から適切なものを選択するトラップである。例えば、図6に示すように、γ線計測器と中性子線計測器を準備しておく。なお、図6では、放射線検出器の種類名をテキスト表示しているが、訓練中にはこのようなテキスト表示は行わない。訓練者は表示されている放射線計測器の外観を見てその種類を判断する。作業者はブリーフィング時に指示された放射線計測を行うことができる放射線計測器を取得する必要があるが、間違った放射線計測器を取得した場合(ヒューマンエラーの発生)には、後の「船倉内作業」の「放射線計測作業」において、放射線計測を行うことができない。放射線計測を行おうとした時点において、取得した放射線計測器が間違っている旨を告知する。告知後、シミュレーション手段4は取得した放射線計測器を正しいものに修正し、訓練を続行する。なお、この種のトラップ5として、例えば似たような機器・バルブなどを複数個表示してこれらの中から適切なものを選択させるようにするトラップも考えられる。
【0030】
トラップ5は、訓練の対象となる業務を詳細に分析して決定される。つまり、ヒューマンエラーが発生しやすい作業や条件、発生原因等を調査し、この調査結果に基づいてどのようなトラップ5を何処にどれくらい仕掛けることが訓練をより実際の業務に即したものにして効果的なものになるかを検討し、計画的にトラップ5を設ける。
【0031】
この訓練システム1では、先ずブリーフィング10が行われ、訓練を行う上での必要な情報が提示される。次に、実際の訓練が「準備作業」11→「船倉内作業」12→「クレーン作業」13→「車両上の作業」14→「隊列輸送」15の順序で行われる。そして、「隊列輸送」15が終了すると、デブリーフィング16が行われ、訓練結果等のレビューが行われる。
【0032】
「準備作業」11にはトラップAとトラップCが仕掛けられており、これらに引っ掛かりヒューマンエラーが発生すると、その旨が次の「船倉内作業」12で告知される。つまり、ヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点で告知される。
【0033】
また、「船倉内作業」12にはトラップBが仕掛けられており、これに引っ掛かりヒューマンエラーが発生すると、その旨が「船倉内作業」12を終了して次の「クレーン作業」13に進む時点で告知される。つまり、ヒューマンエラーが発生した一連の作業(船倉内作業)が終了した時点で告知される。
【0034】
同様に、「車両上の作業」14にもトラップBが仕掛けられており、これに引っ掛かりヒューマンエラーが発生すると、その旨が「車両上の作業」14を終了して次の「隊列輸送」15に進む時点で告知される。つまり、ヒューマンエラーが発生した一連の作業(車両上の作業)が終了した時点で告知される。
【0035】
このように、本発明の訓練方法は、記憶装置3に記憶させた訓練シナリオ2をシミュレーション手段4によって展開することで訓練対象となる事象を擬似的に再現しながら訓練を行うものであって、訓練シナリオ2に訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップ5を設けておくと共に、ヒューマンエラーが発生してもそれをすぐに告知せずに訓練を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するものである。
【0036】
本発明では、ヒューマンエラーの発生をすぐには告知しない。作業の正しい順序を会得するための訓練ではヒューマンエラーの発生をすぐに告知することが効果的であるが、これでは作業順序を熟知した熟練者を対象にした訓練には不向きである。本発明では、ヒューマンエラーの発生をすぐには告知しないので、訓練者はヒューマンエラーをいつ発生させてしまうか、あるいは既に発生させてしまったかを分からないまま訓練を続けることになり、作業に不慣れな新人は勿論、作業を熟知した熟練者でも意識を集中させた訓練を行うことができる。
【0037】
また、訓練中に犯したヒューマンエラーを訓練終了後のデブリーフィング時に初めて告知することも考えられるが、この場合には、ヒューマンエラーの発生から長時間が経過しているので、作業者に適切な作業動作を促し印象づける効果が薄くなってしまう。また、発生したヒューマンエラーの内容によっては、以降の作業の継続が不可能になる等、訓練を最後まで遂行できない場合もある。本発明では、一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するので、訓練者に意識を集中させながら訓練を行うことができると共に、適切なタイミングでヒューマンエラーの発生を告知することができることからヒューマンエラーの発生を印象づけて反省を効果的に促すこともできる。なお、本実施形態では、訓練後のデブリーフィング16においてもヒューマンエラーの発生を再度告知する。即ち、訓練の途中で個々のヒューマンエラーの発生を個別的に告知すると共に、訓練後のデブリーフィング16において、訓練中に発生した全てのヒューマンエラーをまとめて告知する。
【0038】
また、本発明では、ヒューマンエラーの発生を告知した後、ヒューマンエラーをリセットして、訓練シナリオ2の続きを展開するので、訓練を最後まで行うことができる。
【0039】
さらに、各業界におけるヒヤリハット事例(事故には発展しなかったものの、作業者がヒヤリと感じた事例やハッとした事例)を訓練シナリオ化し、これにトラップ5を設けることで、新人訓練は勿論のこと、熟練者訓練にも効果的な訓練システム1を構築することができる。
【0040】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の説明では、シミュレーション手段4はヒューマンエラーの発生を告知した後、ヒューマンエラーをリセットして訓練シナリオ2の続きを展開するようにしていたが、これに限るものではなく、ヒューマンエラーの発生を告知した後、訓練を終了するようにしても良い。
【0041】
また、トラップ5としては、上述の(1)状態を変えるトラップと(2)選択させるトラップに限るものではない。本実施形態では訓練対象となる事象が港湾における輸送容器の荷役と検査業務であったため、一連の業務に潜在すると判断されたヒューマンエラーやうっかりミスの分析の結果、上記(1)と(2)のトラップ5を選定したものである。したがって、訓練対象となる事象が港湾における輸送容器の荷役と検査業務以外の業務の場合には、上記(1)と(2)以外のトラップ5を仕掛けても良い。例えば、以下のトラップ5が考えられる。
【0042】
(3)内容を変更するトラップ5
ブリーフィング時に「Aを実施せよ」という情報を与え、訓練中に突然「Bを実施せよ」と訂正・変更するトラップ5である。与える情報は、ブリーフィング時と訓練中の画面内にテキスト表示しても良いし、ブリーフィング時と訓練中ともに音声で指示しても良いし、片方を音声としてもう片方を画面でテキスト表示しても良い。これにより、訓練者に予断を与えると同時に、意識レベルが低下している場合には、新たな変更への対応に失敗する可能性も出てくる。また、現実の業務で起こり得るような突然の指示変更の体験もできる。例えば、ブリーフィング時にγ線計測を指示しておき、訓練中にn線(中性子線)計測に変更する、等である。
【0043】
(4)順番を変更するトラップ5
表示トラップ5の一種であるといえる。例えば、通常#1ボルト(一番手前)からはじめるところを、#4(反対側の奥の角)など、別の位置から始めやすいように初期表示画面を変えておくトラップ5である。この場合、初期表示画面をランダムに変えるようにすることが好ましい。訓練に対する訓練者の慣れ(熟練)を防ぐことができると同時に、予測に反して通常の作業順序を逸脱することから、訓練者の心理的混乱が生じることにより、複数箇所あるボルト作業を忘れることも想定される。
【0044】
(5)正しい情報を目立たなくするトラップ5
画面内で、本来実施するべきオブジェクト(3次元の物体)をわざと周囲より暗く表示したり、逆に周囲をより目立つようにしたり、スモークなどの見えにくい処理を付加することで目立たなくするトラップ5である。これにより、間違ったオブジェクトに注意が集中することも想定される。
【0045】
(6)複数の指示を与えるトラップ5
一度に複数の指示を与え、訓練者を混乱させるトラップ5である。例えば、サブウィンドウに複数の指示を呈示する(「AとBとCをやって下さい」)等である。
【0046】
(7)間違った情報を提示するトラップ5
当該業務にある程度慣れた訓練者に対しては、ブリーフィング時に意図的に間違った手順・内容・絵や写真などの情報を提示することにより、訓練者自身が理解している正しい手順・内容を思い起こして、指示に反して正しく実行する体験をすることができる。こうした訓練を経ることで、受動的な業務態度を間違った指示もあり得るという自立した主体的な態度に変換させることにもつながる。
【0047】
(8)まったく業務に関係ないことを思い出させるトラップ5、過去の失敗を思い出させるトラップ5(注意をそらすトラップ5)
訓練中に、「昨日の夕飯は何を食べましたか、サブウィンドウに入力してください」、「最近不愉快に思った時のことを思い出してください」など、業務に関係ないことを意図的に思い浮かべさせたり、過去の失敗を意図的に思い起こさせたりといった、本来の業務への集中がおろそかになった状態の時に、エラーを起こしがちであることを体験させるためのトラップ5である。本トラップは、雑音や騒音を用いても良い。
【0048】
(9)同一作業を数多く繰り返させるトラップ5
後述するVREEDSで実装した8カ所の放射線計測、6カ所のボルト固縛・解縛作業、4カ所の吊り具の装着と取り外しなどのように、同一の作業を数多く繰り返させることにより、作業者の認知が「Rasmussenの認知レベルによる行動モデル」で提唱されるルールレベルやスキルレベルに達するよう誘導し、作業の飛ばしや作業間違いなどヒューマンエラーの発生を誘発するトラップ5である。
【0049】
また、VREEDSでは、3次元のVRシーンとしている(自分が仮想的な存在となってウォークスルーして動き回る必要がある)こと、ならびにボルトや放射線計測ポイントを複数箇所に設定していることにより、反対側が見えない状態になっている。このため、例えば6カ所とか8カ所とかの多めの複数箇所での作業を与えられると、ボルトや放射線計測ポイントに作業者が接近し、モニタの画面内では手元周辺しか表示されないため、うっかりミスにより「作業の飛ばし」「作業ミス」が発生しやすい。この場合も、その時点では告知しないで、一連の作業の終了後およびデブリーフィング時に告知するので、特に熟練者の訓練に有効である。
【0050】
(10)訓練時間の制限を設けるトラップ5
ブリーフィング時に制限時間を設ける旨宣言する、あるいは表示画面内に経過時間を表示する、経過時間・残り時間をコンピュータ6がアナウンスするなど、訓練者に時間に追われていることを意識させることにより、平常な心理状態の時に比べて、操作ミス、判断ミスが発生しやすくなることを体験させるトラップ5である。
【0051】
また、図1のトラップ5は出力装置8としてのモニタ等に表示される視覚的トラップであったが、これに限るものではない。例えば、出力装置8としてのスピーカ等から音声や音信号として出力される聴覚的トラップ5、出力装置8としてのフォースフィードバックデバイス等から訓練内容に応じた反力として出力される触覚的トラップ5、出力装置8としての香りを発生させる装置等から香りとして出力される嗅覚的トラップ5でも良い。
【0052】
なお、聴覚的トラップ5としては、騒音や不快音を発生させること、情報を音声で伝えること等が考えられる。触覚的トラップ5としては、行っている訓練場面と矛盾する反力を訓練者に与えること等が考えられる。嗅覚的トラップ5としては、行っている訓練場面と矛盾する香りや臭いを出力すること、例えば火災でないにもかかわらず煙の臭いを出力すること等が考えられる。
【0053】
また、訓練に使用するトラップ5は、視覚的トラップ5と聴覚的トラップ5と触覚的トラップ5と嗅覚的トラップ5のうちいずれか1つでも良く、あるいは、これらのいずれか2つ又は3つを組み合わせて使用しても良く、更には4つ全てを組み合わせて使用しても良い。組み合わせることにより、視覚的トラップ5だけの場合に比べて、より臨場感のある訓練を体感することができる。
【0054】
また、1つのトラップ5を1回だけ使用しても良いが、1つのトラップ5を繰り返し使用しても良い。
【0055】
また、互いに矛盾した複数の情報を与えるトラップ5では、ブリーフィング時に提供した情報と矛盾する情報を訓練中に提供するようにしても良いし、訓練中において複数の矛盾する情報を提供するようにしても良い。
【0056】
また、上述の説明では、シミュレーション手段4はCGの訓練画像・映像をモニタ8に表示するようにしていたが、CGの画像・映像に代えて、実際に撮影した画像・映像等をモニタ8に表示するようにしても良い。
【0057】
また、図1に二点鎖線で示すように、記憶装置3に複数の訓練シナリオ2を記憶しておき、展開する訓練シナリオ2を選択できるようにしても良い。即ち、複数の訓練シナリオ2のうち、実際に訓練を行う一つを入力装置7の操作によって選択し、シミュレーション手段4が入力装置7からの入力データによって選択されたシナリオを展開するようにしても良い。この場合には、訓練システム1の管理者又は訓練者は入力装置7を操作して訓練を行うシナリオを直接選択することができる。
【0058】
また、図1に二点鎖線で示すように、複数の訓練シナリオ2の中から一つのシナリオを無作為に選択する選択手段9を設け、シミュレーション手段4は選択手段9が選択したシナリオを展開するようにしても良い。この場合には、選択手段9が訓練を行うシナリオを選択するので、管理者や訓練者の恣意を排除して訓練を行うシナリオを自動的に選択することができる。選択手段9は、例えば乱数を発生させる機能や、四則演算を行う機能等を有している。
【0059】
また、入力装置7の操作によって、再生方法(各作業をシーケンシャルで訓練するか、個別的に訓練するか、等)と訓練内容(各作業を個別的に訓練する場合にどの作業を選択するか、トラップ5として視覚的トラップ,聴覚的トラップ,触覚的トラップ,嗅覚的トラップの内どれを単独で使用するか、あるいはどれを組み合わせて使用するか、等)を設定・変更することができるようにしても良い。例えば、メニュー形式の設定画面を表示し、メニュー操作によって選択することで設定・変更を容易に行うことができる。
【0060】
また、本発明の訓練システム1を事故以外の事象、例えばプラントの運転や交通機関の運転などの訓練に適用しても良く、その他の訓練に適用しても良い。さらに、実際の訓練を直接の目的としたものではないが、運転技術、操縦技術、操作技術、制御技術などを競う運転ゲーム、シューティングゲームなどのシミュレーションゲーム、アクションゲーム等に適用しても良い。
【実施例1】
【0061】
放射性物質の海上輸送に関わる港湾での通常業務、すなわち荷役業務と検査業務を訓練するためのシステム(以下、VREEDSという)を試作した。
【0062】
(機器構成)
試作の訓練システム1は、主として以下の機器で構成される。すなわち、計算機:複数または単独のPentum4クラスCPU搭載パソコン(コンピュータ6)、RAM:1GBまたは2GB、グラフィックボード:NVIDIA製Quadro4 500GoGLまたは900XGL、VR(バーチャルリアリティ)開発実行ツール:World Tool Kit-NT版、表示装置:液晶モニター、入力装置7:マウスである。複数のパソコンにより協調訓練する場合は、LAN接続する。
【0063】
[訓練シナリオ2の作成]
(対象とする業務)
VREEDSにおいて今回対象とする通常業務は、港湾における輸送容器の荷役業務と検査業務である。今回設定した作業の流れを示すと図3のようになる。
【0064】
(準備作業)
まず、準備作業では、クレーン作業を行うための吊り具の設定と、放射線計測器の取得を行う。クレーン作業では、後述するように、輸送容器の種類に応じて3カ所設けられたピンの設定位置を適切に選択・確認する必要がある(トラップ5)。これを間違えた場合(ヒューマンエラーの発生)には、吊り具のアイボルトが、輸送容器のトラニオン(円筒形の金属製吊り上げ装置)に対してずれた位置に降りてくるため、当該輸送容器を吊り上げることができない。図7に吊り具と作業者についての表示画像を示す。
【0065】
一方、準備作業における放射線計測器の取得では、中性子線とガンマ線2種類の放射線計測器のうちから、作業開始前に指示された適切な計測器を選定・取得する必要がある(トラップ5)。間違えた場合(ヒューマンエラーの発生)には、指示された放射線計測を実施することができない。図8に放射線計測器の取得状況についての表示画像を示す。
【0066】
(船倉内作業)
船倉内作業は、一般作業と放射線計測作業に大別され、VREEDSでは個別に実施することとした。前者の一般作業では、輸送容器を船倉に固定している複数のボルトを解縛する(取りはずす)作業、ならびに複数の吊り具アイボルトを輸送容器のトラニオンに設置する作業を行う。これらを適切に実施しないと、クレーンによる吊り上げ時に事故を起こす可能性がある。後者の放射線計測作業では、準備作業において取得した放射線計測器を用いて、輸送容器まわりの表面線量を計測する。なお、法令では、表面線量の他に1m離れた点における線量も計測することとなっているが、今回は訓練時間短縮のため省略した。実作業において計測器の取得間違いや、うっかりミスによる計測忘れがあると、以後の輸送が許可されないので、作業のやり直しとなる。また、放射線計測器の計測レンジの設定を間違えるトラップ5も仕掛けられている。なお、図9にボルトの解縛と固縛についての表示画像を示す。図10には、放射線計測の作業状況(A)と計測ポイント(B)についての表示画像を示す。図11には、吊り具をトラニオンに装着したあとの吊り上げの状況についての表示画像を示す。なお、図11は作業者の視点であるため監督者が表示されている。
【0067】
(クレーン作業)
船倉内作業が完了すると、監督者の指示により、輸送容器を船倉内から吊り上げる作業、輸送容器を吊ったまま船倉の上方から埠頭の輸送車両の上方まで横行する作業、輸送車両荷台への吊り下ろし作業を行う。VREEDSでは、これらを自動パスで実施することとしたので、監督者および作業者が実施すべき作業は無い。図12には、クレーンによる横行作業についての表示画像を示す。
【0068】
(車両上の作業)
輸送容器を輸送車両の荷台に吊り下ろした後、船倉内作業とは逆の吊り具の取り外し作業とボルトの固縛(締め付ける)作業ならびに放射線計測作業を行う。実作業においてこれらの作業を適切に実施しないと、吊り上げ事故あるいは輸送中の輸送容器落下事故等につながる。図13には、監督者による吊り具取り外しの点検の様子についての表示画像を示す。また、車両に固定した輸送容器まわりの表面線量を計測する。船倉内作業と同様に、放射線計測器の計測レンジの設定を間違えるトラップ5が仕掛けられている。
【0069】
(隊列輸送)
実作業では、複数の輸送容器と輸送車両が、警備車両とともに隊列を構成して目的地へ移動する。VREEDSでは、このうちのスタート場面を自動パスで再現したので、監督者および作業者は実施するべき作業はない。図14に隊列輸送の状況についての表示画像を示す。
【0070】
(協調訓練のためのVR空間共有)
VR空間(またはサイバースペース)の構成要素は、今回の適用事例で言えば、(a)船倉内などの空間、(b)輸送容器などのオブジェクト、(c)作業者など人物モデル(アバター)、そして(d)シナリオや各種の制限などのマネージャである。2台(または複数)のパソコンでVR空間を共有するためには、上記各要素に関するデータや、行動パスあるいはアクションなどのインタラクション等のデータを、ネットワークを介して、各パソコン間でエラーや遅れも無くやりとりする必要がある。また、ネットワーク上のパソコン間でデータを効率的にやりとりする接続方法としては、サーバ/クライアント型、ピア・ツー・ピア型、分散サーバ型などがある。今回のVREEDSでは、電気事業の現場業務を役割分担した2台のパソコンでの協調訓練として実現することが主眼であるので、ピア・ツー・ピア型でLANケーブルによる直結としたが、もとより数台以上のパソコンによるチーム単位の協調訓練を実現させる場合には、異なる接続方法を採用することもある。
【0071】
(訓練プログラムの全体構成)
同一VR空間を有する作業者訓練用のプログラムと監督者訓練用のプログラムが、ネットワーク接続した2台のパソコン上で同時起動するとともに、作業者と監督者の視点・位置・行動パス・アクション等のデータをリアルタイムで交換する。また、訓練シナリオ2の中では、輸送容器の荷役と検査を行うための業務を、(1)準備作業、(2)船倉内と車両上での輸送容器周りの放射線測定、(3)船倉内でのボルトの解縛と車両上でのボルトの固縛作業および吊り具の脱着作業からなる一般作業、(4)クレーン荷役作業、(5)隊列輸送作業に大別して、前述の訓練内容・条件設定プログラムで割り当てられた監督者と訓練者に定められたアクションを実行する。VR訓練シーンを終了すると、デブリーフィングプロプラムが起動され、監督者と作業者の各訓練者は、それぞれの訓練結果の評価一覧を閲覧して不備な点を確認することができる。
【0072】
(ブリーフィングプログラム)
ブリーフィングプログラムでは、VR空間におけるマウス操作の練習プログラムによってマウス操作とVR空間内での移動量の対応を習得可能とするとともに、VREEDSプログラム内での操作練習プログラム、ならびに訓練の流れと当該VR訓練シーンでのねらいの解説を用意した。これにより、初めて本プログラムを体験する人あるいはVRプログラムそのものを初めて体験する人であっても、円滑にVREEDSによる訓練を行うことができる。
【0073】
(VR訓練プログラム本体部分)
作業者用と監督者用の2つのプログラムが、ネットワーク接続の上、同時に起動する。従って、3台以上のパソコンで運用する際は、台数分言い換えれば役割分担した訓練者の人数分のVR訓練プログラムが起動することとなる。
【0074】
VR訓練プログラム本体では、(1)放射性物質輸送容器を吊り上げるための吊り具の点検と設定を行う「準備作業」、(2)船倉内で各種作業を実施するのに先立ち行う輸送容器周りの「放射線計測作業」、(3)船倉内で輸送容器とこれを支える架台を船倉の床面から水切り(具体的には固定ボルトの解縛)するための「船倉内一般作業」、(4)埠頭の150tクレーンにより輸送容器と架台を船倉内から吊り上げ、岸壁の輸送車両の荷台へ吊り下ろすための「クレーン作業」、(5)埠頭上の輸送車両荷台に設置された輸送容器まわりの「放射線計測作業」、(6)同じく輸送車両荷台と輸送容器と架台の固定作業(具体的にはボルトの固縛)を行う「車両上一般作業」、および(7)輸送容器を積載した複数の輸送車両による「隊列輸送」の各シーンにより構成されている。
【0075】
これら各シーンは、図3に示すように、準備作業と船倉内解縛+輸送車両上固縛および船倉内放射線計測作業+車両上放射線計測作業にグループ分けされており、個々の作業を単独に実施して訓練することも、あるいは全て又は一部の作業をシーケンシャルに実施して訓練することも可能である。このうち、クレーン作業と隊列輸送のシーンについては、訓練者が行うべきアクション等は無く、自動パスとしてシーンが進行(クレーンが動く、車両が動く)する。
【0076】
(デブリーフィングプログラム)
VRシーン内での訓練終了後、デブリーフィングプログラムが起動され、訓練者ごと(監督と作業者ごと)の各シーン内における結果の一覧が表示される。この中では、例えばボルト作業6カ所の作業有無、放射線計測8カ所の作業有無と入力数値の正解判定、放射線計測の種類の判定、吊り具位置の設定の判定などが表示される。各訓練者(監督と作業者)は、これら一覧表を確認することにより、各自の行動の適切さ・正確さを確認することができ、表示トラップ5の設定箇所で犯したヒューマンエラーを再確認することができるようになっている。
【0077】
(今回設定した視覚的トラップ5と想定するエラー)
今回VREEDSの各シーンで設定した視覚的トラップ5ならびに、想定しかつ許容したエラーを一覧表にまとめると、表1のようになる。ここでは、前述のブリーフィングプログラム実行時に、訓練者の役割、訓練の種類、輸送容器の種類などが、作業者および監督者に呈示されていることが前提となっている。表1では、作業段階として、準備作業における「吊り具の点検」と「放射線計測器の取得」、船倉内作業における「放射線計測」と「ボルトの解縛」および「吊り具の設置」、車両上における「吊り具の取り外し」と「ボルトの固縛」および「放射線計測」に分類しており、役割分担した「作業者」ならびに「監督者」について、視覚的トラップ(表示トラップ)5、期待される行為、作業者に想定されるエラー、監督者に想定されるエラーの観点から整理してある。
【0078】
【表1】
【0079】
[VRシーンにおけるトラップ5の実例]
(準備作業に関連する表示トラップ5とヒューマンエラー)
準備作業、すなわち、吊り具の点検シーンおよび放射線計測器の取得シーンにおいて、ヒューマンエラーを誘発する視覚的トラップ5を設置した。図4に示すように、実際の業務では、吊り具の設定位置が輸送容器の種類ごとに定められている。今回はそのうち3種類の容器の設定位置から、ブリーフィング時の指示に従って適切な位置を選択することとした。ただし、3カ所の最初の表示位置はランダムに選ばれるので、作業者が設定の間違いを起こすヒューマンエラーを想定している。また、監督者が作業者の間違いを見落とすヒューマンエラーも併せて想定している。なお、監督者が作業者の間違いの点検や確認を行うポイントを多く設定しており、これによって監督者に見落としのヒューマンエラーを発生させるとも考えることができるので、監督者の点検や確認ポイントを多く設定することは監督者に対するトラップ5であるとも言うことができる。表1にこれらの位置づけを示した。
【0080】
次に、放射線計測器の取得においても、図6に示すように中性子線サーベイメータとガンマ線サーベイメータが並んでおり、作業者の選択ミスを想定している(トラップ5)。なお、間違えた放射線測定器を選択(ヒューマンエラーの発生)しても、訓練は次の船倉内シーンに進むことができる。
【0081】
(一般作業に関連するヒューマンエラー)
前述のように、一般作業は吊り具の点検とボルトの解縛作業に分かれる。図15に示したように、船倉内における吊り具の装着、あるいは輸送車両の荷台上における取り外し作業においては、作業者がウォークスルーしながら4本の吊り具アイボルトをクリックすることで、装着あるいは取り外しが行われる(吊り具オブジェクトが切り替わる)。図16にボルトの設置箇所(図16(A))と吊り具の設置箇所(図16(B))を示す。監督者も、作業者と同様にウォークスルーしながら4本の吊り具アイボルトをクリックし、作業者の行った作業の点検や確認を行う。なお、監督者の点検や確認ポイントを多く設定しており、これによって監督者に見落としのヒューマンエラーを発生させるとも考えることができるので、監督者の点検や確認ポイントを多く設定することは監督者に対するトラップ5であるとも言うことができる。作業者、監督者ともに、表1に示すような作業忘れあるいは確認忘れのヒューマンエラーが想定される。
【0082】
次に、船倉内におけるボルトの解縛作業と、輸送車両上におけるボルトの固縛作業(図9および図16参照)について述べる。作業者は、輸送容器の周りをウォークスルーしながら、合計6カ所でボルトの解縛あるいは固縛作業を行う。これらの作業は、ボルトあるいはボルト穴のオブジェクトをクリックするように設定されている。監督者も、同様にウォークスルーしながら、確認を行う。なお、監督者の確認ポイントを多く設定しており、これによって監督者に見落としのヒューマンエラーを発生させるとも考えることができるので、監督者の確認ポイントを多く設定することは監督者に対するトラップ5であるとも言うことができる。作業者、監督者ともに、表1に示すような作業忘れあるいは確認忘れのヒューマンエラーが想定される。
【0083】
(放射線計測に関連する視覚的トラップ5とヒューマンエラー)
放射線計測作業は、船倉内と輸送車両上で実施される。準備作業において計測器を間違えた場合(ヒューマンエラーの発生)には、船倉内シーンの冒頭に警告が出され、その旨が告知される。そして、放射線計測器の間違いはリセットされ、以後の画面には正しい放射線計測器が表示される。
【0084】
放射線計測作業では、図17に示すように、輸送容器のまわりで合計8カ所のポイントを計測する必要がある。前述のボルトの固縛・解縛作業と同様に、作業者ならびに監督者は、それぞれウォークスルーしながら計測作業と確認作業を行うので、計測忘れ・確認忘れが想定される。
【0085】
訓練者が、定められた計測ポイントに放射線計測器をあてがうと、図5に示すような計測画面が現れる。異なる計測レンジに初期設定された画像がランダムに表示される(図5(A))ようになっている(トラップ5)。訓練者は、キーボードの左右矢印キーを操作して計測器の表示レンジを切り替え、適切と思われる位置に修正する必要がある。ここでは、ヒューマンエラーとして、上記の計測忘れに加えて、読み取り間違い(図5(B))を想定している。さらに、訓練者は読み取った計測値を入力用のサブウィンドウでテンキーにより入力する(図5(C))ことになっているため、入力間違いのヒューマンエラーを想定している。
【0086】
(結果の表示)
デブリーフィング16では、作業者ならびに監督者について、ヒューマンエラーを含む一般作業ならびに放射線計測作業の訓練結果(合計4種類)を表示することができる。この一覧表を利用することにより、自分がどのような順番で一般作業や計測作業を行ったか確認するとともに、自分が間違いを犯したポイントとその内容を認識することができる。図18には、結果の一覧表の例についての表示画像を示す。同図は、船倉内一般作業における作業者の結果を表示したものである。計測忘れのヒューマンエラーを起こしたポイントは×で表示されている。監督者の点検・確認結果についても同様な一覧表が表示される。作業者の放射線計測作業の結果ならびに監督者の放射線計測の点検結果については、図17と同様な一覧表と計測位置のマップが表示される。なお、この訓練は訓練者と監督者の2名の協調訓練であり、訓練者と監督者について、それぞれ一般作業および放射線計測作業があるので、図18に示す結果一覧表は4枚作成される。ただし、1名による単独訓練では2枚作成される。
【0087】
(トラップ5など導入の効果)
本訓練システム1のように、トラップ5などの意図的にヒューマンエラーを誘発させる機能を実装した場合に期待される効果は、次のようなものが考えられる。
【0088】
(1) ヒューマンエラーの発生低減
新人の教育では、正しい手順や内容を学ぶことを主目的とするが、ベテランになると、正しい手順や内容はすでに熟知しているか、あるいはそう思いこんでいる。従って、VRを含む従来のシミュレータでは、シナリオが固定されていたり、複数回の繰り返し体験により、内容に対する慣れの問題が発生し、ベテランの再教育には問題があるとされていた。しかるに、本訓練システム1のように、各種のトラップ機能を用いて意図的にヒューマンエラーを発生させると共に、その告知を適切なタイミングで行う機能が実装されていれば、ベテランの再教育にも活用できるものと考えられる。これらの効果により、実際の業務において、新人ならびにベテランも含めた対象グループ全体のヒューマンエラーの発生低減が期待できる。
【0089】
(2) 業務の適切かつ円滑な実施
本訓練システム1を実行することで実際の通常業務を実行する際に、訓練者がヒューマンエラーを起こしがちなポイントをあらかじめ認識していることから、不適切な手順の実行による作業の停滞やトータル作業時間の遅延がおきにくくなるものと想定される。
【0090】
(3) 緊急時の適切かつ円滑な対応
上記の通常業務だけでなく、緊急時の対応に際しても、同様に適切かつ円滑な対応ができるようになるものと想定される。
【0091】
(4) 訓練費用・時間の節減
より効率的な訓練を行うことにより、多くの関係者と機材を導入する実地の防災訓練などに比べて、訓練費用や時間の低減を図ることができる。
【0092】
(まとめ)
このように、本訓練システム1の設計・開発と評価を通じて、VRなどによる可視化訓練システム1にヒューマンエラーを意図的に誘発させると共に、その告知を適切なタイミングで行う機能を実装することが、極めて有効であることが明らかになった。
【0093】
訓練システム1では、対象業務の中に潜在するヒューマンエラーを起こしやすいポイントに着目して、意図的にヒューマンエラーを発生させるので、訓練者は業務になれているかどうかに関わりなく、ヒューマンエラーの発生しやすいポイントを認識することが可能となり、新人だけでなくベテランの再教育にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の訓練システムの実施形態の一例を示し、その訓練の流れを示す図である。
【図2】本発明の訓練システムの実施形態の一例を概念的に示すブロック図である。
【図3】訓練シナリオを示す流れ図である。
【図4】吊り具設定ピンの位置を選択する様子を示す表示画像である。
【図5】放射線計測に関する表示画像で、(A)は最大の計測レンジが選択されている状態の放射線計測器のメータ部分を示す表示画像、(B)は最小の計測レンジが選択されている状態の放射線計測器のメータ部分を示す表示画像、(C)は数値の入力ウィンドウを示す表示画像である。
【図6】2種類の放射線計測器から1つを選択する場面を示す表示画像である。
【図7】準備作業で取り扱う吊り具と作業者を示す表示画像である。
【図8】準備作業で実施する放射線計測器の取得の様子を示す表示画像である。
【図9】ボルトの解縛と固縛の状況を示す表示画像で、(A)はボルトのオブジェクトが有る場合の表示画像、(B)はボルトのオブジェクトが無い場合の表示画像である。
【図10】船倉内における放射線計測に関する表示画像で、(A)は放射線計測の作業状況を示す表示画像、(B)は計測ポイントを示す表示画像である。
【図11】輸送容器の吊り上げ状況を示す表示画像である。
【図12】クレーンによる荷役状況を示す表示画像である。
【図13】監督者が車両上における吊り具の取り外しを確認している状況を示す表示画像である。
【図14】複数車両による隊列輸送を示す表示画像である。
【図15】吊り具を輸送容器に装着する状況を示す表示画像である。
【図16】ボルトと吊り具の設置箇所を示し、(A)はボルトの設置箇所を平面的に示す表示画像、(B)は吊り具の設置箇所を平面的に示す表示画像である。
【図17】計測ポイントごとの入力数値の判定を示す表示画像である。
【図18】訓練結果の一例を示す表示画像である。
【符号の説明】
【0095】
1 訓練システム
2 訓練シナリオ
3 記憶装置
4 シミュレーション手段
5 トラップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、訓練対象となる事象を擬似的に再現しながら、訓練中にヒューマンエラーを誘発させる訓練システムおよび訓練方法に関する。なお、訓練は、実際の現場作業、事故、災害、エラー等への対処等を体験または学習するものに限らず、例えばコンピュータゲーム等の訓練(ゲーム内容そのもの又はゲーム操作技術等)自体を楽しむことを目的としたものも含まれる。さらに、学校や学習塾あるいは専門学校など教育を目的とする機関で用いるシステムも含まれる。
【背景技術】
【0002】
近年、バーチャルリアリティ(VR)などコンピュータ・グラフィックス(CG)技術を利用してプラントの運転や災害の発生等を擬似的に体験しながら訓練を行う訓練システムが知られている。この種の訓練システムでは、現実に起きた事故や考えられる事故等を想定して構築したシナリオを複数準備しておき、その中から一のシナリオを選択して訓練を行ったり、あるいは特定の事故等を想定した一のシナリオを準備しておき、このシナリオに基づいて訓練を行っていた。
【0003】
【特許文献1】特開平10−293525号
【特許文献2】特開2002−366021号
【特許文献3】特開2002−108196号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の訓練システムでは、現実の事故や考えられる事故等を想定するとともに、既存の緊急時対応計画や作業マニュアルに基づいてシナリオを構築しているため、過去の経験や知識あるいは上記の対応計画やマニュアルにはない想定外の状況等については有効な訓練を行うことが困難であった。この結果、実際の現場において発生した異常事態が訓練シナリオ通りの事態であれば訓練の効果を期待できるが、それ以外の事態、特にヒューマンエラーが発生したような場合には、訓練の効果を期待することができなかった。
【0005】
また、ヒューマンエラーについての訓練を行うにしても、ヒューマンエラーが発生した時点でその発生を告知したのでは、作業を正しい手順で行う為の訓練であれば効果が期待できるものの、作業手順を熟知した熟練者に関わる又は起こりがちな「思いこみ」、「うっかりミス」、「操作ミス」等のヒューマンエラーを防止する為の訓練には効果があまり期待できなかった。
【0006】
本発明は、熟練者に対してもヒューマンエラーの防止を効果的に訓練することができる訓練システムおよび訓練方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の発明は、訓練対象となる事象を擬似的に再現する訓練システムであって、訓練シナリオを記憶する記憶装置と、訓練シナリオを展開するシミュレーション手段を備え、訓練シナリオには訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップが設けられており、シミュレーション手段は、ヒューマンエラーの発生を検知してもそれを告知せずに訓練シナリオの展開を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するものである。
【0008】
したがって、訓練は記憶装置に記憶されている訓練シナリオに即して行われる。訓練シナリオにはヒューマンエラーを誘発するトラップが設けられているので、訓練者が正しい操作を常に意識していなければ、又はたとえ意識していたとしても一時的な注意力の低下、認知エラーや思いこみ等によりトラップに引っ掛かりやすく、実際に起こり得るヒューマンエラーを体験することが可能である。このため、ヒューマンエラーを考慮した訓練を行うことができる。また、ヒューマンエラーの発生をすぐに告知したのでは、単に正しい作業手順を確認する訓練になってしまうが、本発明の訓練システムはヒューマンエラーの発生をすぐには告知しないので、訓練者は作業がさらに進んでからヒューマンエラーに気付くことになる。このため、単なる作業手順の確認訓練にとどまらず、実際の作業に即した訓練を行うことができる。
【0009】
また、請求項2記載の訓練システムは、シミュレーション手段が、ヒューマンエラーの発生を告知した後、ヒューマンエラーをリセットして訓練シナリオの続きを展開するものである。したがって、ヒューマンエラーが発生した場合であっても、訓練シナリオが最後まで展開される。
【0010】
また、請求項3記載の訓練システムは、トラップを、視覚的トラップと聴覚的トラップと触覚的トラップと嗅覚的トラップのうち、少なくともいずれか1つとしている。したがって、種々のヒューマンエラーを考慮した実際の作業に即した訓練を行うことができる。
【0011】
また、請求項4記載の訓練システムは、記憶装置が複数の訓練シナリオを記憶しており、展開する訓練シナリオを選択できるものである。したがって、複数の業務についての訓練を行うことができる。
【0012】
さらに、請求項5記載の発明は、記憶装置に記憶させた訓練シナリオをシミュレーション手段によって展開することで訓練対象となる事象を擬似的に再現しながら訓練を行う訓練方法であって、訓練シナリオに訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップを設けておくと共に、ヒューマンエラーが発生してもそれをすぐに告知せずに訓練を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するものである。
【0013】
したがって、訓練は記憶装置に記憶されている訓練シナリオに即して行われる。訓練シナリオにはヒューマンエラーを誘発するトラップが設けられているので、訓練者が正しい操作を常に意識していなければ、又はたとえ意識していたとしても一時的な注意力の低下、認知エラーや思いこみ等によりトラップに引っ掛かりやすく、実際に起こり得るヒューマンエラーを体験することが可能である。このため、ヒューマンエラーを考慮した訓練を行うことができる。また、ヒューマンエラーの発生をすぐに告知したのでは、単に正しい作業手順を確認する訓練になってしまうが、本発明の訓練方法は、ヒューマンエラーの発生をすぐには告知しないので、訓練者は作業がさらに進んでからヒューマンエラーに気付くことになる。このため、単なる作業手順の確認訓練にとどまらず、実際の作業に即した訓練を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
しかして、請求項1記載の訓練システムでは、訓練シナリオを記憶する記憶装置と、訓練シナリオを展開するシミュレーション手段を備え、訓練シナリオには訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップが設けられており、シミュレーション手段は、ヒューマンエラーの発生を検知してもそれを告知せずに訓練シナリオの展開を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するので、単なる作業手順の確認訓練にとどまらず、作業手順を熟知した者に対しても実際に起こり得るヒューマンエラーを考慮した訓練を行うことができる。また、訓練シナリオに設定するトラップの呈示方法をランダムに行うことで、訓練慣れを防ぐことができる。このため、訓練をより効果的なものにすることができ、訓練に要する時間とコストを削減することができる。さらに、ヒューマンエラーを考慮した訓練を行うことができるので、実際の作業現場におけるヒューマンエラーの発生を効果的に抑制することができ、現場作業を効率的なものにして現場作業に要するコストも削減することができる。
【0015】
また、請求項2記載の訓練システムでは、シミュレーション手段は、ヒューマンエラーの発生を告知した後、ヒューマンエラーをリセットして訓練シナリオの続きを展開するので、訓練者がヒューマンエラーを発生させた場合であっても、最後まで訓練を続けることができる。
【0016】
また、請求項3記載の訓練システムでは、トラップは、視覚的トラップと聴覚的トラップと触覚的トラップと嗅覚的トラップのうち、少なくともいずれか1つであるので、種々のヒューマンエラーを考慮した実際の作業に即した訓練を行うことができる。このため、より効果的な訓練を行うことができる。
【0017】
また、請求項4記載の訓練システムでは、記憶装置は複数の訓練シナリオを記憶しており、展開する訓練シナリオを選択できるので、複数の業務について訓練を行うことができる。
【0018】
さらに、請求項5記載の訓練方法では、訓練シナリオに訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップを設けておくと共に、ヒューマンエラーが発生してもそれをすぐに告知せずに訓練を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するようにしているので、単なる作業手順の確認訓練にとどまらず、作業手順を熟知した者に対しても実際に起こり得るヒューマンエラーを考慮した訓練を行うことができる。また、訓練シナリオに設定するトラップの呈示方法をランダムに行うことで訓練慣れを防ぐことができる。このため、訓練をより効果的なものにすることができ、訓練に要する時間とコストを削減することができる。さらに、ヒューマンエラーを体験させながら訓練を行うことができるので、実際の作業現場におけるヒューマンエラーの発生を効果的に抑制することができ、現場作業を効率的なものにして現場作業に要するコストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2に、本発明の訓練システムの実施形態の一例を示す。この訓練システム1は、訓練対象となる事象を擬似的に再現するものであって、訓練シナリオ2を記憶する記憶装置3と、訓練シナリオ2を展開するシミュレーション手段4を備え、訓練シナリオ2には訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップ5が設けられており、シミュレーション手段4は、ヒューマンエラーの発生を検知してもそれを告知せずに訓練シナリオ2の展開を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するものである。本実施形態では、シミュレーション手段4は、ヒューマンエラーの発生の告知後、ヒューマンエラーをリセットして訓練シナリオ2の続きを展開する。
【0020】
訓練システム1は、例えば2台のコンピュータ6をネットワーク接続したものである。2台のコンピュータ6を使用して2名の訓練者の協調訓練を実現することができる。ただし、3台以上のコンピュータ6を接続しても良く、この場合には3名以上の訓練者の協調訓練を実現することができる。また、1台のコンピュータ6を単独で使用しても良い。
【0021】
コンピュータ6はキーボードやマウス等の入力装置7と、コンピュータ6が作成したCGを表示するモニタ等の出力装置8を備えている。また、コンピュータ6は、少なくとも1つのCPUやMPUなどの中央演算装置と、データの入出力を行うインターフェースと、プログラムやデータを記憶する記憶装置3を備えており、コンピュータ6と所定の制御ないし演算プログラムによって、シミュレーション手段4や後述する選択手段9を実現している。即ち、中央演算装置は、メモリに記憶されたOS等の制御プログラム、三次元画像を表示しながら訓練を行う手順などを規定したプログラム、三次元画像に関するデータやその他の所要データ等により、シミュレーション手段4、後述する選択手段9を実現している。また、コンピュータ6はネットワークインターフェイス17を備えており、2台のコンピュータ6のネットワークインターフェイス17同士をケーブル18で接続している。
【0022】
訓練を実施する際には、各コンピュータ6毎に入力装置7から起動コマンドを入力し、記憶装置3に収納された訓練プログラムおよび3次元オブジェクトデータを、演算装置にそれぞれ読み込んで、訓練プログラムを起動する。訓練中の操作は、入力装置7により行う。
【0023】
本実施形態では、訓練対象となる事象を、例えば放射性物質の海上輸送における港湾での荷役業務とその検査業務としている。ただし、港湾での荷役業務とその検査業務に限るものではなく、海上輸送中の他の業務や輸送船の点検業務などでも良い。また、放射性物質輸送の海上輸送業務に限るものではなく、トラックやトレーラーあるいは鉄道車両による陸上輸送、航空機による航空輸送等でも良い。また、放射性物質輸送に限るものではなく、一般の産業界や官公庁における現場の業務、教育用システムに適用してもよい。
【0024】
本実施形態では、2台のコンピュータ6を使用して2名の訓練者の協調訓練を行う。2名の訓練者のうち、1名が作業者としての訓練を、もう1名がその監督者としての訓練を行う。即ち、実際の作業現場では、1名の作業者が実際に作業を行い、もう1名の監督者が作業者の作業を監督するが、訓練システム1では、作業者と監督者についての協調訓練を行うことができる。そして、それぞれの役割の訓練者毎に訓練データが記憶装置3に逐次記憶され、訓練者毎に訓練結果のレビューが可能である。
【0025】
訓練シナリオ2の概念を図3に示す。この訓練シナリオ2では、「準備作業」→「船倉内作業」→「クレーン作業」→「車両上の作業」→「隊列輸送」の順序でシナリオが展開される。「準備作業」では、吊り具の設定と放射線計測器の取得を行う。「船倉内作業」の「一般作業」では、輸送容器を船倉に固定している複数のボルトの解縛作業と、複数の吊り具アイボルトを輸送容器のトラニオンに設置する作業を行い、「船倉内作業」の「放射線計測作業」では、取得した放射線計測器を用いて輸送容器まわりの表面線量を計測する。「クレーン作業」は自動パスで実施される。「車両上の作業」の「一般作業」では、吊り具の取り外し作業と車両の荷台へのボルト固縛作業を行い、「車両上の作業」の「放射線計測作業」では、放射線計測器を用いて輸送容器まわりの表面線量を計測する。「隊列輸送」は自動パスで実施される。「準備作業」、「船倉内作業」、「クレーン作業」、「車両上の作業」、「隊列輸送」はそれぞれ1つのシーンを構成する。また、「準備作業」の「吊り具の設定」と「放射線計測器の取得」、「船倉内作業」の「一般作業」と「放射線計測作業」、「車両上の作業」の「一般作業」と「放射線計測作業」は、図3に示すように、それぞれ場面切換無しに連続して再現される一連の作業を行う。
【0026】
訓練シナリオ2に設けるトラップ5としては、例えば、以下のトラップがある。これらは、出力装置8としてのモニタに例えばCG画像やCG映像として表示される視覚的トラップである。視覚的トラップはCG画像やCG映像で表示される他、実際に撮影した画像や映像で表示したり、文字情報で表示しても良い。
【0027】
(1)状態を変えるトラップ5
「準備作業」の「吊り具の設定」に設けられたトラップ5(トラップA)では、吊り具の設定位置を変えるトラップである。例えば、図4に示すように、輸送容器の種類に対応して吊り具の設定位置が複数(例えば3タイプ)ある場合、その初期表示される位置を毎回ランダムに変えておく。作業者は輸送容器に応じて吊り具の設定位置を適切な位置に調節する必要があるが、吊り具の設定位置が違っていることに気付かない場合や気付いたとしても間違った位置に調節した場合(ヒューマンエラーの発生)には、後の「船倉内作業」の「一般作業」において、吊り具合アイボルトを輸送容器のトラニオンに設置することができない。吊り具アイボルトを輸送容器のトラニオンに設置しようとした時点において、吊り具の設定位置が間違っていることを告知する。告知後、シミュレーション手段4は吊り具の設定位置を正しい位置に修正し、訓練を続行する。なお、告知は、例えばモニタ8にテキスト表示することで行われる。後述する告知も同様である。
【0028】
「船倉内作業」の「放射線計測作業」に仕掛けられたトラップ5(トラップB)は、放射線計測器の計測レンジを変えておくトラップである。例えば、図5に示すように、3種類の計測レンジが有る場合、その初期表示されるレンジをランダムに変えておく。作業者は適切な計測レンジを選択する必要があるが、レンジが不適切であることに気付かない場合や気付いたとしても間違ったレンジに調整した場合(ヒューマンエラーの発生)には、「放射線計測作業」が終了して次の「クレーン作業」に進もうとする時点で、レンジが不適切であることを告知する。告知後、シミュレーション手段4は訓練を続行する。計測レンジの初期状態を変えることで、訓練を繰り返し行ううちに慣れてしまう(訓練慣れ)のを防止することができ、訓練者がたとえ熟練者であっても効果的に訓練を行うことができる。計測レンジの初期状態は、コンピュータ6がランダムに変化させても良く、また訓練の管理者が任意に設定しても良い。このトラップは「車両上の作業」の「放射線計測作業」にも仕掛けられている。
【0029】
(2)選択させるトラップ5
「準備作業」の「放射線計測器の取得」に仕掛けられたトラップ5(トラップC)は、余分に準備した放射線計測器の中から適切なものを選択するトラップである。例えば、図6に示すように、γ線計測器と中性子線計測器を準備しておく。なお、図6では、放射線検出器の種類名をテキスト表示しているが、訓練中にはこのようなテキスト表示は行わない。訓練者は表示されている放射線計測器の外観を見てその種類を判断する。作業者はブリーフィング時に指示された放射線計測を行うことができる放射線計測器を取得する必要があるが、間違った放射線計測器を取得した場合(ヒューマンエラーの発生)には、後の「船倉内作業」の「放射線計測作業」において、放射線計測を行うことができない。放射線計測を行おうとした時点において、取得した放射線計測器が間違っている旨を告知する。告知後、シミュレーション手段4は取得した放射線計測器を正しいものに修正し、訓練を続行する。なお、この種のトラップ5として、例えば似たような機器・バルブなどを複数個表示してこれらの中から適切なものを選択させるようにするトラップも考えられる。
【0030】
トラップ5は、訓練の対象となる業務を詳細に分析して決定される。つまり、ヒューマンエラーが発生しやすい作業や条件、発生原因等を調査し、この調査結果に基づいてどのようなトラップ5を何処にどれくらい仕掛けることが訓練をより実際の業務に即したものにして効果的なものになるかを検討し、計画的にトラップ5を設ける。
【0031】
この訓練システム1では、先ずブリーフィング10が行われ、訓練を行う上での必要な情報が提示される。次に、実際の訓練が「準備作業」11→「船倉内作業」12→「クレーン作業」13→「車両上の作業」14→「隊列輸送」15の順序で行われる。そして、「隊列輸送」15が終了すると、デブリーフィング16が行われ、訓練結果等のレビューが行われる。
【0032】
「準備作業」11にはトラップAとトラップCが仕掛けられており、これらに引っ掛かりヒューマンエラーが発生すると、その旨が次の「船倉内作業」12で告知される。つまり、ヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点で告知される。
【0033】
また、「船倉内作業」12にはトラップBが仕掛けられており、これに引っ掛かりヒューマンエラーが発生すると、その旨が「船倉内作業」12を終了して次の「クレーン作業」13に進む時点で告知される。つまり、ヒューマンエラーが発生した一連の作業(船倉内作業)が終了した時点で告知される。
【0034】
同様に、「車両上の作業」14にもトラップBが仕掛けられており、これに引っ掛かりヒューマンエラーが発生すると、その旨が「車両上の作業」14を終了して次の「隊列輸送」15に進む時点で告知される。つまり、ヒューマンエラーが発生した一連の作業(車両上の作業)が終了した時点で告知される。
【0035】
このように、本発明の訓練方法は、記憶装置3に記憶させた訓練シナリオ2をシミュレーション手段4によって展開することで訓練対象となる事象を擬似的に再現しながら訓練を行うものであって、訓練シナリオ2に訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップ5を設けておくと共に、ヒューマンエラーが発生してもそれをすぐに告知せずに訓練を継続し、ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するものである。
【0036】
本発明では、ヒューマンエラーの発生をすぐには告知しない。作業の正しい順序を会得するための訓練ではヒューマンエラーの発生をすぐに告知することが効果的であるが、これでは作業順序を熟知した熟練者を対象にした訓練には不向きである。本発明では、ヒューマンエラーの発生をすぐには告知しないので、訓練者はヒューマンエラーをいつ発生させてしまうか、あるいは既に発生させてしまったかを分からないまま訓練を続けることになり、作業に不慣れな新人は勿論、作業を熟知した熟練者でも意識を集中させた訓練を行うことができる。
【0037】
また、訓練中に犯したヒューマンエラーを訓練終了後のデブリーフィング時に初めて告知することも考えられるが、この場合には、ヒューマンエラーの発生から長時間が経過しているので、作業者に適切な作業動作を促し印象づける効果が薄くなってしまう。また、発生したヒューマンエラーの内容によっては、以降の作業の継続が不可能になる等、訓練を最後まで遂行できない場合もある。本発明では、一連の作業が終了した時点又はヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点でヒューマンエラーの発生を告知するので、訓練者に意識を集中させながら訓練を行うことができると共に、適切なタイミングでヒューマンエラーの発生を告知することができることからヒューマンエラーの発生を印象づけて反省を効果的に促すこともできる。なお、本実施形態では、訓練後のデブリーフィング16においてもヒューマンエラーの発生を再度告知する。即ち、訓練の途中で個々のヒューマンエラーの発生を個別的に告知すると共に、訓練後のデブリーフィング16において、訓練中に発生した全てのヒューマンエラーをまとめて告知する。
【0038】
また、本発明では、ヒューマンエラーの発生を告知した後、ヒューマンエラーをリセットして、訓練シナリオ2の続きを展開するので、訓練を最後まで行うことができる。
【0039】
さらに、各業界におけるヒヤリハット事例(事故には発展しなかったものの、作業者がヒヤリと感じた事例やハッとした事例)を訓練シナリオ化し、これにトラップ5を設けることで、新人訓練は勿論のこと、熟練者訓練にも効果的な訓練システム1を構築することができる。
【0040】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の説明では、シミュレーション手段4はヒューマンエラーの発生を告知した後、ヒューマンエラーをリセットして訓練シナリオ2の続きを展開するようにしていたが、これに限るものではなく、ヒューマンエラーの発生を告知した後、訓練を終了するようにしても良い。
【0041】
また、トラップ5としては、上述の(1)状態を変えるトラップと(2)選択させるトラップに限るものではない。本実施形態では訓練対象となる事象が港湾における輸送容器の荷役と検査業務であったため、一連の業務に潜在すると判断されたヒューマンエラーやうっかりミスの分析の結果、上記(1)と(2)のトラップ5を選定したものである。したがって、訓練対象となる事象が港湾における輸送容器の荷役と検査業務以外の業務の場合には、上記(1)と(2)以外のトラップ5を仕掛けても良い。例えば、以下のトラップ5が考えられる。
【0042】
(3)内容を変更するトラップ5
ブリーフィング時に「Aを実施せよ」という情報を与え、訓練中に突然「Bを実施せよ」と訂正・変更するトラップ5である。与える情報は、ブリーフィング時と訓練中の画面内にテキスト表示しても良いし、ブリーフィング時と訓練中ともに音声で指示しても良いし、片方を音声としてもう片方を画面でテキスト表示しても良い。これにより、訓練者に予断を与えると同時に、意識レベルが低下している場合には、新たな変更への対応に失敗する可能性も出てくる。また、現実の業務で起こり得るような突然の指示変更の体験もできる。例えば、ブリーフィング時にγ線計測を指示しておき、訓練中にn線(中性子線)計測に変更する、等である。
【0043】
(4)順番を変更するトラップ5
表示トラップ5の一種であるといえる。例えば、通常#1ボルト(一番手前)からはじめるところを、#4(反対側の奥の角)など、別の位置から始めやすいように初期表示画面を変えておくトラップ5である。この場合、初期表示画面をランダムに変えるようにすることが好ましい。訓練に対する訓練者の慣れ(熟練)を防ぐことができると同時に、予測に反して通常の作業順序を逸脱することから、訓練者の心理的混乱が生じることにより、複数箇所あるボルト作業を忘れることも想定される。
【0044】
(5)正しい情報を目立たなくするトラップ5
画面内で、本来実施するべきオブジェクト(3次元の物体)をわざと周囲より暗く表示したり、逆に周囲をより目立つようにしたり、スモークなどの見えにくい処理を付加することで目立たなくするトラップ5である。これにより、間違ったオブジェクトに注意が集中することも想定される。
【0045】
(6)複数の指示を与えるトラップ5
一度に複数の指示を与え、訓練者を混乱させるトラップ5である。例えば、サブウィンドウに複数の指示を呈示する(「AとBとCをやって下さい」)等である。
【0046】
(7)間違った情報を提示するトラップ5
当該業務にある程度慣れた訓練者に対しては、ブリーフィング時に意図的に間違った手順・内容・絵や写真などの情報を提示することにより、訓練者自身が理解している正しい手順・内容を思い起こして、指示に反して正しく実行する体験をすることができる。こうした訓練を経ることで、受動的な業務態度を間違った指示もあり得るという自立した主体的な態度に変換させることにもつながる。
【0047】
(8)まったく業務に関係ないことを思い出させるトラップ5、過去の失敗を思い出させるトラップ5(注意をそらすトラップ5)
訓練中に、「昨日の夕飯は何を食べましたか、サブウィンドウに入力してください」、「最近不愉快に思った時のことを思い出してください」など、業務に関係ないことを意図的に思い浮かべさせたり、過去の失敗を意図的に思い起こさせたりといった、本来の業務への集中がおろそかになった状態の時に、エラーを起こしがちであることを体験させるためのトラップ5である。本トラップは、雑音や騒音を用いても良い。
【0048】
(9)同一作業を数多く繰り返させるトラップ5
後述するVREEDSで実装した8カ所の放射線計測、6カ所のボルト固縛・解縛作業、4カ所の吊り具の装着と取り外しなどのように、同一の作業を数多く繰り返させることにより、作業者の認知が「Rasmussenの認知レベルによる行動モデル」で提唱されるルールレベルやスキルレベルに達するよう誘導し、作業の飛ばしや作業間違いなどヒューマンエラーの発生を誘発するトラップ5である。
【0049】
また、VREEDSでは、3次元のVRシーンとしている(自分が仮想的な存在となってウォークスルーして動き回る必要がある)こと、ならびにボルトや放射線計測ポイントを複数箇所に設定していることにより、反対側が見えない状態になっている。このため、例えば6カ所とか8カ所とかの多めの複数箇所での作業を与えられると、ボルトや放射線計測ポイントに作業者が接近し、モニタの画面内では手元周辺しか表示されないため、うっかりミスにより「作業の飛ばし」「作業ミス」が発生しやすい。この場合も、その時点では告知しないで、一連の作業の終了後およびデブリーフィング時に告知するので、特に熟練者の訓練に有効である。
【0050】
(10)訓練時間の制限を設けるトラップ5
ブリーフィング時に制限時間を設ける旨宣言する、あるいは表示画面内に経過時間を表示する、経過時間・残り時間をコンピュータ6がアナウンスするなど、訓練者に時間に追われていることを意識させることにより、平常な心理状態の時に比べて、操作ミス、判断ミスが発生しやすくなることを体験させるトラップ5である。
【0051】
また、図1のトラップ5は出力装置8としてのモニタ等に表示される視覚的トラップであったが、これに限るものではない。例えば、出力装置8としてのスピーカ等から音声や音信号として出力される聴覚的トラップ5、出力装置8としてのフォースフィードバックデバイス等から訓練内容に応じた反力として出力される触覚的トラップ5、出力装置8としての香りを発生させる装置等から香りとして出力される嗅覚的トラップ5でも良い。
【0052】
なお、聴覚的トラップ5としては、騒音や不快音を発生させること、情報を音声で伝えること等が考えられる。触覚的トラップ5としては、行っている訓練場面と矛盾する反力を訓練者に与えること等が考えられる。嗅覚的トラップ5としては、行っている訓練場面と矛盾する香りや臭いを出力すること、例えば火災でないにもかかわらず煙の臭いを出力すること等が考えられる。
【0053】
また、訓練に使用するトラップ5は、視覚的トラップ5と聴覚的トラップ5と触覚的トラップ5と嗅覚的トラップ5のうちいずれか1つでも良く、あるいは、これらのいずれか2つ又は3つを組み合わせて使用しても良く、更には4つ全てを組み合わせて使用しても良い。組み合わせることにより、視覚的トラップ5だけの場合に比べて、より臨場感のある訓練を体感することができる。
【0054】
また、1つのトラップ5を1回だけ使用しても良いが、1つのトラップ5を繰り返し使用しても良い。
【0055】
また、互いに矛盾した複数の情報を与えるトラップ5では、ブリーフィング時に提供した情報と矛盾する情報を訓練中に提供するようにしても良いし、訓練中において複数の矛盾する情報を提供するようにしても良い。
【0056】
また、上述の説明では、シミュレーション手段4はCGの訓練画像・映像をモニタ8に表示するようにしていたが、CGの画像・映像に代えて、実際に撮影した画像・映像等をモニタ8に表示するようにしても良い。
【0057】
また、図1に二点鎖線で示すように、記憶装置3に複数の訓練シナリオ2を記憶しておき、展開する訓練シナリオ2を選択できるようにしても良い。即ち、複数の訓練シナリオ2のうち、実際に訓練を行う一つを入力装置7の操作によって選択し、シミュレーション手段4が入力装置7からの入力データによって選択されたシナリオを展開するようにしても良い。この場合には、訓練システム1の管理者又は訓練者は入力装置7を操作して訓練を行うシナリオを直接選択することができる。
【0058】
また、図1に二点鎖線で示すように、複数の訓練シナリオ2の中から一つのシナリオを無作為に選択する選択手段9を設け、シミュレーション手段4は選択手段9が選択したシナリオを展開するようにしても良い。この場合には、選択手段9が訓練を行うシナリオを選択するので、管理者や訓練者の恣意を排除して訓練を行うシナリオを自動的に選択することができる。選択手段9は、例えば乱数を発生させる機能や、四則演算を行う機能等を有している。
【0059】
また、入力装置7の操作によって、再生方法(各作業をシーケンシャルで訓練するか、個別的に訓練するか、等)と訓練内容(各作業を個別的に訓練する場合にどの作業を選択するか、トラップ5として視覚的トラップ,聴覚的トラップ,触覚的トラップ,嗅覚的トラップの内どれを単独で使用するか、あるいはどれを組み合わせて使用するか、等)を設定・変更することができるようにしても良い。例えば、メニュー形式の設定画面を表示し、メニュー操作によって選択することで設定・変更を容易に行うことができる。
【0060】
また、本発明の訓練システム1を事故以外の事象、例えばプラントの運転や交通機関の運転などの訓練に適用しても良く、その他の訓練に適用しても良い。さらに、実際の訓練を直接の目的としたものではないが、運転技術、操縦技術、操作技術、制御技術などを競う運転ゲーム、シューティングゲームなどのシミュレーションゲーム、アクションゲーム等に適用しても良い。
【実施例1】
【0061】
放射性物質の海上輸送に関わる港湾での通常業務、すなわち荷役業務と検査業務を訓練するためのシステム(以下、VREEDSという)を試作した。
【0062】
(機器構成)
試作の訓練システム1は、主として以下の機器で構成される。すなわち、計算機:複数または単独のPentum4クラスCPU搭載パソコン(コンピュータ6)、RAM:1GBまたは2GB、グラフィックボード:NVIDIA製Quadro4 500GoGLまたは900XGL、VR(バーチャルリアリティ)開発実行ツール:World Tool Kit-NT版、表示装置:液晶モニター、入力装置7:マウスである。複数のパソコンにより協調訓練する場合は、LAN接続する。
【0063】
[訓練シナリオ2の作成]
(対象とする業務)
VREEDSにおいて今回対象とする通常業務は、港湾における輸送容器の荷役業務と検査業務である。今回設定した作業の流れを示すと図3のようになる。
【0064】
(準備作業)
まず、準備作業では、クレーン作業を行うための吊り具の設定と、放射線計測器の取得を行う。クレーン作業では、後述するように、輸送容器の種類に応じて3カ所設けられたピンの設定位置を適切に選択・確認する必要がある(トラップ5)。これを間違えた場合(ヒューマンエラーの発生)には、吊り具のアイボルトが、輸送容器のトラニオン(円筒形の金属製吊り上げ装置)に対してずれた位置に降りてくるため、当該輸送容器を吊り上げることができない。図7に吊り具と作業者についての表示画像を示す。
【0065】
一方、準備作業における放射線計測器の取得では、中性子線とガンマ線2種類の放射線計測器のうちから、作業開始前に指示された適切な計測器を選定・取得する必要がある(トラップ5)。間違えた場合(ヒューマンエラーの発生)には、指示された放射線計測を実施することができない。図8に放射線計測器の取得状況についての表示画像を示す。
【0066】
(船倉内作業)
船倉内作業は、一般作業と放射線計測作業に大別され、VREEDSでは個別に実施することとした。前者の一般作業では、輸送容器を船倉に固定している複数のボルトを解縛する(取りはずす)作業、ならびに複数の吊り具アイボルトを輸送容器のトラニオンに設置する作業を行う。これらを適切に実施しないと、クレーンによる吊り上げ時に事故を起こす可能性がある。後者の放射線計測作業では、準備作業において取得した放射線計測器を用いて、輸送容器まわりの表面線量を計測する。なお、法令では、表面線量の他に1m離れた点における線量も計測することとなっているが、今回は訓練時間短縮のため省略した。実作業において計測器の取得間違いや、うっかりミスによる計測忘れがあると、以後の輸送が許可されないので、作業のやり直しとなる。また、放射線計測器の計測レンジの設定を間違えるトラップ5も仕掛けられている。なお、図9にボルトの解縛と固縛についての表示画像を示す。図10には、放射線計測の作業状況(A)と計測ポイント(B)についての表示画像を示す。図11には、吊り具をトラニオンに装着したあとの吊り上げの状況についての表示画像を示す。なお、図11は作業者の視点であるため監督者が表示されている。
【0067】
(クレーン作業)
船倉内作業が完了すると、監督者の指示により、輸送容器を船倉内から吊り上げる作業、輸送容器を吊ったまま船倉の上方から埠頭の輸送車両の上方まで横行する作業、輸送車両荷台への吊り下ろし作業を行う。VREEDSでは、これらを自動パスで実施することとしたので、監督者および作業者が実施すべき作業は無い。図12には、クレーンによる横行作業についての表示画像を示す。
【0068】
(車両上の作業)
輸送容器を輸送車両の荷台に吊り下ろした後、船倉内作業とは逆の吊り具の取り外し作業とボルトの固縛(締め付ける)作業ならびに放射線計測作業を行う。実作業においてこれらの作業を適切に実施しないと、吊り上げ事故あるいは輸送中の輸送容器落下事故等につながる。図13には、監督者による吊り具取り外しの点検の様子についての表示画像を示す。また、車両に固定した輸送容器まわりの表面線量を計測する。船倉内作業と同様に、放射線計測器の計測レンジの設定を間違えるトラップ5が仕掛けられている。
【0069】
(隊列輸送)
実作業では、複数の輸送容器と輸送車両が、警備車両とともに隊列を構成して目的地へ移動する。VREEDSでは、このうちのスタート場面を自動パスで再現したので、監督者および作業者は実施するべき作業はない。図14に隊列輸送の状況についての表示画像を示す。
【0070】
(協調訓練のためのVR空間共有)
VR空間(またはサイバースペース)の構成要素は、今回の適用事例で言えば、(a)船倉内などの空間、(b)輸送容器などのオブジェクト、(c)作業者など人物モデル(アバター)、そして(d)シナリオや各種の制限などのマネージャである。2台(または複数)のパソコンでVR空間を共有するためには、上記各要素に関するデータや、行動パスあるいはアクションなどのインタラクション等のデータを、ネットワークを介して、各パソコン間でエラーや遅れも無くやりとりする必要がある。また、ネットワーク上のパソコン間でデータを効率的にやりとりする接続方法としては、サーバ/クライアント型、ピア・ツー・ピア型、分散サーバ型などがある。今回のVREEDSでは、電気事業の現場業務を役割分担した2台のパソコンでの協調訓練として実現することが主眼であるので、ピア・ツー・ピア型でLANケーブルによる直結としたが、もとより数台以上のパソコンによるチーム単位の協調訓練を実現させる場合には、異なる接続方法を採用することもある。
【0071】
(訓練プログラムの全体構成)
同一VR空間を有する作業者訓練用のプログラムと監督者訓練用のプログラムが、ネットワーク接続した2台のパソコン上で同時起動するとともに、作業者と監督者の視点・位置・行動パス・アクション等のデータをリアルタイムで交換する。また、訓練シナリオ2の中では、輸送容器の荷役と検査を行うための業務を、(1)準備作業、(2)船倉内と車両上での輸送容器周りの放射線測定、(3)船倉内でのボルトの解縛と車両上でのボルトの固縛作業および吊り具の脱着作業からなる一般作業、(4)クレーン荷役作業、(5)隊列輸送作業に大別して、前述の訓練内容・条件設定プログラムで割り当てられた監督者と訓練者に定められたアクションを実行する。VR訓練シーンを終了すると、デブリーフィングプロプラムが起動され、監督者と作業者の各訓練者は、それぞれの訓練結果の評価一覧を閲覧して不備な点を確認することができる。
【0072】
(ブリーフィングプログラム)
ブリーフィングプログラムでは、VR空間におけるマウス操作の練習プログラムによってマウス操作とVR空間内での移動量の対応を習得可能とするとともに、VREEDSプログラム内での操作練習プログラム、ならびに訓練の流れと当該VR訓練シーンでのねらいの解説を用意した。これにより、初めて本プログラムを体験する人あるいはVRプログラムそのものを初めて体験する人であっても、円滑にVREEDSによる訓練を行うことができる。
【0073】
(VR訓練プログラム本体部分)
作業者用と監督者用の2つのプログラムが、ネットワーク接続の上、同時に起動する。従って、3台以上のパソコンで運用する際は、台数分言い換えれば役割分担した訓練者の人数分のVR訓練プログラムが起動することとなる。
【0074】
VR訓練プログラム本体では、(1)放射性物質輸送容器を吊り上げるための吊り具の点検と設定を行う「準備作業」、(2)船倉内で各種作業を実施するのに先立ち行う輸送容器周りの「放射線計測作業」、(3)船倉内で輸送容器とこれを支える架台を船倉の床面から水切り(具体的には固定ボルトの解縛)するための「船倉内一般作業」、(4)埠頭の150tクレーンにより輸送容器と架台を船倉内から吊り上げ、岸壁の輸送車両の荷台へ吊り下ろすための「クレーン作業」、(5)埠頭上の輸送車両荷台に設置された輸送容器まわりの「放射線計測作業」、(6)同じく輸送車両荷台と輸送容器と架台の固定作業(具体的にはボルトの固縛)を行う「車両上一般作業」、および(7)輸送容器を積載した複数の輸送車両による「隊列輸送」の各シーンにより構成されている。
【0075】
これら各シーンは、図3に示すように、準備作業と船倉内解縛+輸送車両上固縛および船倉内放射線計測作業+車両上放射線計測作業にグループ分けされており、個々の作業を単独に実施して訓練することも、あるいは全て又は一部の作業をシーケンシャルに実施して訓練することも可能である。このうち、クレーン作業と隊列輸送のシーンについては、訓練者が行うべきアクション等は無く、自動パスとしてシーンが進行(クレーンが動く、車両が動く)する。
【0076】
(デブリーフィングプログラム)
VRシーン内での訓練終了後、デブリーフィングプログラムが起動され、訓練者ごと(監督と作業者ごと)の各シーン内における結果の一覧が表示される。この中では、例えばボルト作業6カ所の作業有無、放射線計測8カ所の作業有無と入力数値の正解判定、放射線計測の種類の判定、吊り具位置の設定の判定などが表示される。各訓練者(監督と作業者)は、これら一覧表を確認することにより、各自の行動の適切さ・正確さを確認することができ、表示トラップ5の設定箇所で犯したヒューマンエラーを再確認することができるようになっている。
【0077】
(今回設定した視覚的トラップ5と想定するエラー)
今回VREEDSの各シーンで設定した視覚的トラップ5ならびに、想定しかつ許容したエラーを一覧表にまとめると、表1のようになる。ここでは、前述のブリーフィングプログラム実行時に、訓練者の役割、訓練の種類、輸送容器の種類などが、作業者および監督者に呈示されていることが前提となっている。表1では、作業段階として、準備作業における「吊り具の点検」と「放射線計測器の取得」、船倉内作業における「放射線計測」と「ボルトの解縛」および「吊り具の設置」、車両上における「吊り具の取り外し」と「ボルトの固縛」および「放射線計測」に分類しており、役割分担した「作業者」ならびに「監督者」について、視覚的トラップ(表示トラップ)5、期待される行為、作業者に想定されるエラー、監督者に想定されるエラーの観点から整理してある。
【0078】
【表1】
【0079】
[VRシーンにおけるトラップ5の実例]
(準備作業に関連する表示トラップ5とヒューマンエラー)
準備作業、すなわち、吊り具の点検シーンおよび放射線計測器の取得シーンにおいて、ヒューマンエラーを誘発する視覚的トラップ5を設置した。図4に示すように、実際の業務では、吊り具の設定位置が輸送容器の種類ごとに定められている。今回はそのうち3種類の容器の設定位置から、ブリーフィング時の指示に従って適切な位置を選択することとした。ただし、3カ所の最初の表示位置はランダムに選ばれるので、作業者が設定の間違いを起こすヒューマンエラーを想定している。また、監督者が作業者の間違いを見落とすヒューマンエラーも併せて想定している。なお、監督者が作業者の間違いの点検や確認を行うポイントを多く設定しており、これによって監督者に見落としのヒューマンエラーを発生させるとも考えることができるので、監督者の点検や確認ポイントを多く設定することは監督者に対するトラップ5であるとも言うことができる。表1にこれらの位置づけを示した。
【0080】
次に、放射線計測器の取得においても、図6に示すように中性子線サーベイメータとガンマ線サーベイメータが並んでおり、作業者の選択ミスを想定している(トラップ5)。なお、間違えた放射線測定器を選択(ヒューマンエラーの発生)しても、訓練は次の船倉内シーンに進むことができる。
【0081】
(一般作業に関連するヒューマンエラー)
前述のように、一般作業は吊り具の点検とボルトの解縛作業に分かれる。図15に示したように、船倉内における吊り具の装着、あるいは輸送車両の荷台上における取り外し作業においては、作業者がウォークスルーしながら4本の吊り具アイボルトをクリックすることで、装着あるいは取り外しが行われる(吊り具オブジェクトが切り替わる)。図16にボルトの設置箇所(図16(A))と吊り具の設置箇所(図16(B))を示す。監督者も、作業者と同様にウォークスルーしながら4本の吊り具アイボルトをクリックし、作業者の行った作業の点検や確認を行う。なお、監督者の点検や確認ポイントを多く設定しており、これによって監督者に見落としのヒューマンエラーを発生させるとも考えることができるので、監督者の点検や確認ポイントを多く設定することは監督者に対するトラップ5であるとも言うことができる。作業者、監督者ともに、表1に示すような作業忘れあるいは確認忘れのヒューマンエラーが想定される。
【0082】
次に、船倉内におけるボルトの解縛作業と、輸送車両上におけるボルトの固縛作業(図9および図16参照)について述べる。作業者は、輸送容器の周りをウォークスルーしながら、合計6カ所でボルトの解縛あるいは固縛作業を行う。これらの作業は、ボルトあるいはボルト穴のオブジェクトをクリックするように設定されている。監督者も、同様にウォークスルーしながら、確認を行う。なお、監督者の確認ポイントを多く設定しており、これによって監督者に見落としのヒューマンエラーを発生させるとも考えることができるので、監督者の確認ポイントを多く設定することは監督者に対するトラップ5であるとも言うことができる。作業者、監督者ともに、表1に示すような作業忘れあるいは確認忘れのヒューマンエラーが想定される。
【0083】
(放射線計測に関連する視覚的トラップ5とヒューマンエラー)
放射線計測作業は、船倉内と輸送車両上で実施される。準備作業において計測器を間違えた場合(ヒューマンエラーの発生)には、船倉内シーンの冒頭に警告が出され、その旨が告知される。そして、放射線計測器の間違いはリセットされ、以後の画面には正しい放射線計測器が表示される。
【0084】
放射線計測作業では、図17に示すように、輸送容器のまわりで合計8カ所のポイントを計測する必要がある。前述のボルトの固縛・解縛作業と同様に、作業者ならびに監督者は、それぞれウォークスルーしながら計測作業と確認作業を行うので、計測忘れ・確認忘れが想定される。
【0085】
訓練者が、定められた計測ポイントに放射線計測器をあてがうと、図5に示すような計測画面が現れる。異なる計測レンジに初期設定された画像がランダムに表示される(図5(A))ようになっている(トラップ5)。訓練者は、キーボードの左右矢印キーを操作して計測器の表示レンジを切り替え、適切と思われる位置に修正する必要がある。ここでは、ヒューマンエラーとして、上記の計測忘れに加えて、読み取り間違い(図5(B))を想定している。さらに、訓練者は読み取った計測値を入力用のサブウィンドウでテンキーにより入力する(図5(C))ことになっているため、入力間違いのヒューマンエラーを想定している。
【0086】
(結果の表示)
デブリーフィング16では、作業者ならびに監督者について、ヒューマンエラーを含む一般作業ならびに放射線計測作業の訓練結果(合計4種類)を表示することができる。この一覧表を利用することにより、自分がどのような順番で一般作業や計測作業を行ったか確認するとともに、自分が間違いを犯したポイントとその内容を認識することができる。図18には、結果の一覧表の例についての表示画像を示す。同図は、船倉内一般作業における作業者の結果を表示したものである。計測忘れのヒューマンエラーを起こしたポイントは×で表示されている。監督者の点検・確認結果についても同様な一覧表が表示される。作業者の放射線計測作業の結果ならびに監督者の放射線計測の点検結果については、図17と同様な一覧表と計測位置のマップが表示される。なお、この訓練は訓練者と監督者の2名の協調訓練であり、訓練者と監督者について、それぞれ一般作業および放射線計測作業があるので、図18に示す結果一覧表は4枚作成される。ただし、1名による単独訓練では2枚作成される。
【0087】
(トラップ5など導入の効果)
本訓練システム1のように、トラップ5などの意図的にヒューマンエラーを誘発させる機能を実装した場合に期待される効果は、次のようなものが考えられる。
【0088】
(1) ヒューマンエラーの発生低減
新人の教育では、正しい手順や内容を学ぶことを主目的とするが、ベテランになると、正しい手順や内容はすでに熟知しているか、あるいはそう思いこんでいる。従って、VRを含む従来のシミュレータでは、シナリオが固定されていたり、複数回の繰り返し体験により、内容に対する慣れの問題が発生し、ベテランの再教育には問題があるとされていた。しかるに、本訓練システム1のように、各種のトラップ機能を用いて意図的にヒューマンエラーを発生させると共に、その告知を適切なタイミングで行う機能が実装されていれば、ベテランの再教育にも活用できるものと考えられる。これらの効果により、実際の業務において、新人ならびにベテランも含めた対象グループ全体のヒューマンエラーの発生低減が期待できる。
【0089】
(2) 業務の適切かつ円滑な実施
本訓練システム1を実行することで実際の通常業務を実行する際に、訓練者がヒューマンエラーを起こしがちなポイントをあらかじめ認識していることから、不適切な手順の実行による作業の停滞やトータル作業時間の遅延がおきにくくなるものと想定される。
【0090】
(3) 緊急時の適切かつ円滑な対応
上記の通常業務だけでなく、緊急時の対応に際しても、同様に適切かつ円滑な対応ができるようになるものと想定される。
【0091】
(4) 訓練費用・時間の節減
より効率的な訓練を行うことにより、多くの関係者と機材を導入する実地の防災訓練などに比べて、訓練費用や時間の低減を図ることができる。
【0092】
(まとめ)
このように、本訓練システム1の設計・開発と評価を通じて、VRなどによる可視化訓練システム1にヒューマンエラーを意図的に誘発させると共に、その告知を適切なタイミングで行う機能を実装することが、極めて有効であることが明らかになった。
【0093】
訓練システム1では、対象業務の中に潜在するヒューマンエラーを起こしやすいポイントに着目して、意図的にヒューマンエラーを発生させるので、訓練者は業務になれているかどうかに関わりなく、ヒューマンエラーの発生しやすいポイントを認識することが可能となり、新人だけでなくベテランの再教育にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の訓練システムの実施形態の一例を示し、その訓練の流れを示す図である。
【図2】本発明の訓練システムの実施形態の一例を概念的に示すブロック図である。
【図3】訓練シナリオを示す流れ図である。
【図4】吊り具設定ピンの位置を選択する様子を示す表示画像である。
【図5】放射線計測に関する表示画像で、(A)は最大の計測レンジが選択されている状態の放射線計測器のメータ部分を示す表示画像、(B)は最小の計測レンジが選択されている状態の放射線計測器のメータ部分を示す表示画像、(C)は数値の入力ウィンドウを示す表示画像である。
【図6】2種類の放射線計測器から1つを選択する場面を示す表示画像である。
【図7】準備作業で取り扱う吊り具と作業者を示す表示画像である。
【図8】準備作業で実施する放射線計測器の取得の様子を示す表示画像である。
【図9】ボルトの解縛と固縛の状況を示す表示画像で、(A)はボルトのオブジェクトが有る場合の表示画像、(B)はボルトのオブジェクトが無い場合の表示画像である。
【図10】船倉内における放射線計測に関する表示画像で、(A)は放射線計測の作業状況を示す表示画像、(B)は計測ポイントを示す表示画像である。
【図11】輸送容器の吊り上げ状況を示す表示画像である。
【図12】クレーンによる荷役状況を示す表示画像である。
【図13】監督者が車両上における吊り具の取り外しを確認している状況を示す表示画像である。
【図14】複数車両による隊列輸送を示す表示画像である。
【図15】吊り具を輸送容器に装着する状況を示す表示画像である。
【図16】ボルトと吊り具の設置箇所を示し、(A)はボルトの設置箇所を平面的に示す表示画像、(B)は吊り具の設置箇所を平面的に示す表示画像である。
【図17】計測ポイントごとの入力数値の判定を示す表示画像である。
【図18】訓練結果の一例を示す表示画像である。
【符号の説明】
【0095】
1 訓練システム
2 訓練シナリオ
3 記憶装置
4 シミュレーション手段
5 トラップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
訓練対象となる事象を擬似的に再現する訓練システムであって、訓練シナリオを記憶する記憶装置と、前記訓練シナリオを展開するシミュレーション手段を備え、前記訓練シナリオには訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップが設けられており、前記シミュレーション手段は、前記ヒューマンエラーの発生を検知してもそれを告知せずに前記訓練シナリオの展開を継続し、前記ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又は前記ヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点で前記ヒューマンエラーの発生を告知することを特徴とする訓練システム。
【請求項2】
前記シミュレーション手段は、前記ヒューマンエラーの発生を告知した後、前記ヒューマンエラーをリセットして前記訓練シナリオの続きを展開することを特徴とする請求項1記載の訓練システム。
【請求項3】
前記トラップは、視覚的トラップと聴覚的トラップと触覚的トラップと嗅覚的トラップのうち、少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項1又は2記載の訓練システム。
【請求項4】
前記記憶装置は複数の訓練シナリオを記憶しており、展開する訓練シナリオを選択できることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の訓練システム。
【請求項5】
記憶装置に記憶させた訓練シナリオをシミュレーション手段によって展開することで訓練対象となる事象を擬似的に再現しながら訓練を行う訓練方法であって、前記訓練シナリオに訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップを設けておくと共に、前記ヒューマンエラーが発生してもそれをすぐに告知せずに訓練を継続し、前記ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又は前記ヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点で前記ヒューマンエラーの発生を告知することを特徴とする訓練方法。
【請求項1】
訓練対象となる事象を擬似的に再現する訓練システムであって、訓練シナリオを記憶する記憶装置と、前記訓練シナリオを展開するシミュレーション手段を備え、前記訓練シナリオには訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップが設けられており、前記シミュレーション手段は、前記ヒューマンエラーの発生を検知してもそれを告知せずに前記訓練シナリオの展開を継続し、前記ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又は前記ヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点で前記ヒューマンエラーの発生を告知することを特徴とする訓練システム。
【請求項2】
前記シミュレーション手段は、前記ヒューマンエラーの発生を告知した後、前記ヒューマンエラーをリセットして前記訓練シナリオの続きを展開することを特徴とする請求項1記載の訓練システム。
【請求項3】
前記トラップは、視覚的トラップと聴覚的トラップと触覚的トラップと嗅覚的トラップのうち、少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項1又は2記載の訓練システム。
【請求項4】
前記記憶装置は複数の訓練シナリオを記憶しており、展開する訓練シナリオを選択できることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の訓練システム。
【請求項5】
記憶装置に記憶させた訓練シナリオをシミュレーション手段によって展開することで訓練対象となる事象を擬似的に再現しながら訓練を行う訓練方法であって、前記訓練シナリオに訓練者のヒューマンエラーを誘発するトラップを設けておくと共に、前記ヒューマンエラーが発生してもそれをすぐに告知せずに訓練を継続し、前記ヒューマンエラーが発生した一連の作業が終了した時点又は前記ヒューマンエラーによって作業が継続できなくなる時点で前記ヒューマンエラーの発生を告知することを特徴とする訓練方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−72193(P2006−72193A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258191(P2004−258191)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
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