説明

記憶方法および記憶装置

【課題】符号形式や記憶媒体によって制限されることの少ない記憶方法および記憶装置を提供する。
【解決手段】記憶装置は、外部から情報を含む刺激901が与えられたときに、刺激901に含まれる複数の情報である複数の刺激側面301,302を検知し、刺激側面301,302の各々に対応する概念である反応401,402を生成する刺激側面検知・反応生成部201,202,203と、刺激901から刺激側面301,302の関係を抽出し、この抽出した関係を反応401,402の各々の間に投影して反応401,402を相互に関係付ける関係抽出・関係付与部500と、反応401,402の関係を保持する保持部701と、情報の再生時に概念を符号等で表現された情報に変換する変換部800とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶方法および記憶装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の記憶方法および記憶装置は、半導体メモリなどの記憶媒体に、符号等で表現された情報を書き込むものが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−003932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の記憶方法および記憶装置は、記憶内容の保持が、符号が記憶媒体上の特定の領域を占めることによって成立するため、記憶することのできる内容の大きさが、記憶媒体の容量で制限される。また、符号と意味との対応原理が、符号それ自体とは別に、必要になる。
【0005】
翻って、人も、ものごとを覚えたり思い出したりする、すなわち記憶することができる。人は記憶のプロセスを知覚することはできないが、記憶内容が人の中に保持されていることは確かであるから、記憶を担っている何らかの実体あるいはメカニズムが存在する。
人は、新しい記憶内容を、既存の記憶内容と干渉することなく取り込むことができる。一方、特定の既存の記憶内容を、明示的に消去する手段はない。記憶する主体の、物体としての総量は限られているにもかかわらず、記憶の容量には明確な限界が見られない。
【0006】
また、人の記憶は、具体性を持っている。その具体性は、本来、定量化することも、符号化することもできないものである。逆に、符号として保持されているとすれば、人の記憶の豊かさを説明できない。
符号は、人の記憶を、記憶する主体から離れて存在することができるようにするための手段とみなせる。人の記憶を、表現したり、外部と共有したりすることは、何らかのプロセスによって符号等の形に変換して初めて可能になる。
【0007】
人の記憶内容の、符号化されていない情報からなる個々の断片を、概念と呼ぶこととすれば、人の記憶の全体像は、ある種の連続性を持った、相互に連関した概念の集合体のようであり、各々の概念は、他の概念と何らかの結び付きを持っている。したがって、ひとつの概念が、背景としての他の概念が何もないところに、単独で存在することはあり得ない。
人が新たな記憶内容を取り込むことは、記憶する主体に内在している既存の概念を関連付けることによって、新たな意味の側面を形成することに他ならない。すなわち、それが、新たな概念となる。
【0008】
符号による信号等はもとより、あらゆる形式を含めた、記憶する主体に対する広い意味での入力を、刺激と呼ぶこととする。また、刺激を受けたことによって、記憶する主体に生じる、広い意味での種々の事象を、反応と呼ぶこととする。反応には、記憶する主体の中に概念が呼び起こされることも含まれる。また、記憶する主体の中に、反応として呼び起された概念は、記憶する主体に対して、再帰的に、新たな刺激にもなり得る。
【0009】
記憶する主体に内在する概念の関連付けは、刺激が、ある関係をもった複数の側面を含んでいて、それらの刺激側面に対する反応として複数の概念が呼び起されるとき、複数の刺激側面の間の関係が、複数の概念の間に投影される形で、複数の概念の連関が形成されることによって実現される。
しかるのちに、それら複数の刺激側面のうちの一つが記憶する主体に与えられた場合、その反応として、ある連関をもった複数の概念が、新たな概念として記憶する主体の中に呼び起こされる。
人の記憶は、以上のような原理に基づいていると考えられ、記憶媒体上に符号で書き込まれるような形態では実現されていない。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、符号形式や記憶媒体によって制限されることの少ない記憶方法および記憶装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の記憶方法は、外部から情報を含む第1の刺激が与えられたときに、この第1の刺激に含まれる複数の情報である複数の刺激側面を検知する第1の刺激側面検知手順と、前記複数の刺激側面の各々に対応する概念である反応を刺激側面毎に生成する第1の反応生成手順と、前記第1の刺激から前記複数の刺激側面の関係を抽出する関係抽出手順と、この抽出した関係を前記第1の反応生成手順で生成した複数の反応の各々の間に投影して前記反応の各々を相互に関係付ける関係付与手順と、前記複数の反応の関係を保持する保持手順とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の記憶方法の1構成例は、さらに、外部から前記第1の刺激と共通の刺激側面を一部含む第2の刺激が与えられたときに、この第2の刺激に含まれる情報である刺激側面を検知する第2の刺激側面検知手順と、この第2の刺激側面検知手順で検知した刺激側面に対応する概念である反応を刺激側面毎に生成する第2の反応生成手順と、この第2の反応生成手順で生成した反応と関係を有する他の反応を、前記保持手順で保持した関係に基づいて生成する関連反応生成手順と、前記第2の反応生成手順で生成した反応から情報を生成すると同時に、前記関連反応生成手順で生成した反応から情報を生成し、これらの生成した情報を前記保持手順で保持した関係で結んだ情報を再生する変換手順とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の記憶装置は、外部から情報を含む第1の刺激が与えられたときに、この第1の刺激に含まれる複数の情報である複数の刺激側面を検知する刺激側面検知手段と、前記複数の刺激側面の各々に対応する概念である反応を刺激側面毎に生成する反応生成手段と、前記第1の刺激から前記複数の刺激側面の関係を抽出する関係抽出手段と、この抽出された関係を前記反応生成手段が生成した複数の反応の各々の間に投影して前記反応の各々を相互に関係付ける関係付与手段と、前記複数の反応の関係を保持する保持手段とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の記憶装置の1構成例において、前記刺激側面検知手段は、外部から前記第1の刺激と共通の刺激側面を一部含む第2の刺激が与えられたときに、この第2の刺激に含まれる情報である刺激側面を検知し、前記反応生成手段は、前記第2の刺激が与えられたときに検知された刺激側面に対応する概念である反応を刺激側面毎に生成するものであり、さらに、前記第2の刺激が与えられたときに生成された反応と関係を有する他の反応を、前記保持手段で保持された関係に基づいて生成する関連反応生成手段と、前記第2の刺激が与えられたときに生成された反応から情報を生成すると同時に、前記関連反応生成手段によって生成された反応から情報を生成し、これらの生成された情報を前記保持手段で保持された関係で結んだ情報を再生する変換手段とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、外部から情報を含む第1の刺激が与えられたときに、第1の刺激に含まれる複数の情報である複数の刺激側面を検知する第1の刺激側面検知手順と、複数の刺激側面の各々に対応する概念である反応を刺激側面毎に生成する第1の反応生成手順と、第1の刺激から複数の刺激側面の関係を抽出する関係抽出手順と、抽出した関係を第1の反応生成手順で生成した複数の反応の各々の間に投影して反応の各々を相互に関係付ける関係付与手順と、複数の反応の関係を保持する保持手順とを備え、記憶内容を、符号を用いることなく意味そのものとして保持することにより、従来と比較して符号形式や記憶媒体による制限を少なくすることができる。また、本発明では、従来の、記憶媒体に符号等で表現された情報を書き込む記憶方法や記憶装置に比べ、より豊かな内容を記憶することができる。
【0014】
また、本発明では、外部から第1の刺激と共通の刺激側面を一部含む第2の刺激が与えられたときに、第2の刺激に含まれる情報である刺激側面を検知する第2の刺激側面検知手順と、第2の刺激側面検知手順で検知した刺激側面に対応する概念である反応を刺激側面毎に生成する第2の反応生成手順と、第2の反応生成手順で生成した反応と関係を有する他の反応を、保持手順で保持した関係に基づいて生成する関連反応生成手順と、第2の反応生成手順で生成した反応から情報を生成すると同時に、関連反応生成手順で生成した反応から情報を生成し、これらの生成した情報を保持手順で保持した関係で結んだ情報を再生する変換手順とを備えることにより、情報を再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る記憶装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る記憶装置が情報を記憶する様子を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る記憶装置が情報を再生する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図1乃至図3を用いて説明する。図1は本発明の実施の形態に係る記憶装置の構成例を示すブロック図である。
記憶装置100は、与えられた刺激に対し、この刺激の刺激側面を検知して反応を生成する刺激側面検知・反応生成部201,202,203と、刺激側面の関係を抽出して反応を関係付ける関係抽出・関係付与部500と、反応の関係を保持する保持部701と、概念を符号等で表現された情報に変換する変換部800とから構成されている。
【0017】
刺激側面検知・反応生成部201,202,203は、それぞれ刺激側面301,302,303を検知し、刺激側面301,302,303に対する反応である概念401,402,403を生成する。また、刺激側面検知・反応生成部201,202,203は、それぞれ刺激側面301,302,303を検知し概念401,402,403を生成する際に、その概念401,402,403を生成する経路上に、反応を関連付ける手段である仮想的節点601,602,603を生成する。
【0018】
図2は本実施の形態の記憶装置100が情報を記憶する様子を示す図である。最初に、外部から情報を含んだ刺激901が与えられる。刺激901は、「A」で表される情報である刺激側面と、「B」で表される情報である刺激側面が、「→」で表される関係で結ばれているという情報を含んでいるものとする。この刺激901は、例えば符号等で表現されている。
【0019】
刺激側面検知・反応生成部201は、刺激901によって賦活され、「A」で表わされる情報である刺激側面301を検知し、この刺激側面301から「ア」で表わされる反応である概念401を生成する。また、刺激側面検知・反応生成部201は、概念401を生成する経路上に仮想的節点601を生成する。
【0020】
一方、刺激側面検知・反応生成部202は、刺激901によって賦活され、「B」で表わされる情報である刺激側面302を検知し、この刺激側面302から「イ」で表わされる反応である概念402を生成する。また、刺激側面検知・反応生成部202は、概念402を生成する経路上に仮想的節点602を生成する。このとき、同一の刺激901によって賦活された刺激側面検知・反応生成部201と202との間には、仮想的節点601,602を介した関係付けの経路が存在することになる。
【0021】
関係抽出・関係付与部500は、情報を含んだ刺激901から、刺激側面301と刺激側面302との関係「→」を抽出する。そして、関係抽出・関係付与部500は、刺激側面301と刺激側面302との関係「→」を、仮想的節点601,602を介した概念401と概念402との関係として保持部701に保持させる。
【0022】
図3は本実施の形態の記憶装置100が情報を再生する様子を示す図である。記憶装置100には、刺激901を与えられた際に変化した状態が保持されている。ここで、先の刺激901と共通の刺激側面を一部含む刺激902が新たに与えられたものとする。この刺激902には、「A」で表される情報である刺激側面が含まれている。
【0023】
刺激側面検知・反応生成部201は、刺激902によって賦活され、「A」で表される情報である刺激側面301を検知し、この刺激側面301から「ア」で表わされる反応である概念401を生成する。また、刺激側面検知・反応生成部201は、概念401を生成する経路上に仮想的節点601を生成する。さらに、関連反応生成手段となる刺激側面検知・反応生成部201は、保持部701に保持されている、仮想的節点601,602を介した概念401と概念402との関係「→」を基に、「イ」で表される反応である概念402と仮想的節点602とを生成する。
【0024】
変換部800は、刺激側面検知・反応生成部201によって生成された、「ア」で表される反応である概念401と、同じく刺激側面検知・反応生成部201によって生成された、「イ」で表される反応である概念402と、保持部701に保持されている関係「→」とを基に、概念401から「A」で表わされる情報を生成すると同時に、概念402から「B」で表わされる情報を生成し、この「A」で表わされる情報と「B」で表される情報とを関係「→」で結んだ情報903を再生する。変換部800は、この情報903を例えば符号等で表現して出力する。こうして、刺激901に含まれていた情報が再生される。
【0025】
なお、本発明は、限られた例に基づいて説明されているが、各請求項に記載された内容を逸脱しない範囲内で、種々の形態が可能であることは言うまでもない。
本実施の形態で説明した記憶装置は、例えばCPU、メモリおよびインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、メモリに格納されたプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、情報の記憶装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
100…記憶装置、201,202,203…刺激側面検知・反応生成部、301,302,303…刺激側面、401,402,403…概念、500…関係抽出・関係付与部、601,602,603…仮想的節点、701…保持部、800…変換部、901,902…情報を含んだ刺激、903…再生された情報。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から情報を含む第1の刺激が与えられたときに、この第1の刺激に含まれる複数の情報である複数の刺激側面を検知する第1の刺激側面検知手順と、
前記複数の刺激側面の各々に対応する概念である反応を刺激側面毎に生成する第1の反応生成手順と、
前記第1の刺激から前記複数の刺激側面の関係を抽出する関係抽出手順と、
この抽出した関係を前記第1の反応生成手順で生成した複数の反応の各々の間に投影して前記反応の各々を相互に関係付ける関係付与手順と、
前記複数の反応の関係を保持する保持手順とを備えることを特徴とする記憶方法。
【請求項2】
請求項1記載の記憶方法において、
さらに、外部から前記第1の刺激と共通の刺激側面を一部含む第2の刺激が与えられたときに、この第2の刺激に含まれる情報である刺激側面を検知する第2の刺激側面検知手順と、
この第2の刺激側面検知手順で検知した刺激側面に対応する概念である反応を刺激側面毎に生成する第2の反応生成手順と、
この第2の反応生成手順で生成した反応と関係を有する他の反応を、前記保持手順で保持した関係に基づいて生成する関連反応生成手順と、
前記第2の反応生成手順で生成した反応から情報を生成すると同時に、前記関連反応生成手順で生成した反応から情報を生成し、これらの生成した情報を前記保持手順で保持した関係で結んだ情報を再生する変換手順とを備えることを特徴とする記憶方法。
【請求項3】
外部から情報を含む第1の刺激が与えられたときに、この第1の刺激に含まれる複数の情報である複数の刺激側面を検知する刺激側面検知手段と、
前記複数の刺激側面の各々に対応する概念である反応を刺激側面毎に生成する反応生成手段と、
前記第1の刺激から前記複数の刺激側面の関係を抽出する関係抽出手段と、
この抽出された関係を前記反応生成手段が生成した複数の反応の各々の間に投影して前記反応の各々を相互に関係付ける関係付与手段と、
前記複数の反応の関係を保持する保持手段とを備えることを特徴とする記憶装置。
【請求項4】
請求項3記載の記憶装置において、
前記刺激側面検知手段は、外部から前記第1の刺激と共通の刺激側面を一部含む第2の刺激が与えられたときに、この第2の刺激に含まれる情報である刺激側面を検知し、
前記反応生成手段は、前記第2の刺激が与えられたときに検知された刺激側面に対応する概念である反応を刺激側面毎に生成するものであり、
さらに、前記第2の刺激が与えられたときに生成された反応と関係を有する他の反応を、前記保持手段で保持された関係に基づいて生成する関連反応生成手段と、
前記第2の刺激が与えられたときに生成された反応から情報を生成すると同時に、前記関連反応生成手段によって生成された反応から情報を生成し、これらの生成された情報を前記保持手段で保持された関係で結んだ情報を再生する変換手段とを備えることを特徴とする記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−180882(P2011−180882A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45266(P2010−45266)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)