説明

記録ヘッドの制御方法およびドットインパクトプリンター

【課題】発熱によるヘッドコイルの焼損を防止しつつ、印刷スループットの低下を抑制する記録ヘッドの制御方法を提供する。
【解決手段】複数の記録ワイヤー9を有する記録ヘッド18が搭載されたキャリッジ19を走査しながら、前記記録ワイヤー9を駆動して、記録媒体Sに情報を印刷するドットインパクトプリンター100における記録ヘッド18の制御方法であって、各々の前記記録ワイヤー9は、キャリッジ19の走査方向における1ドットラインLの印刷を担当しており、前記ドットラインLの印刷において、印刷実行前に、印刷対象の前記ドットラインLに、予め設定した特定のドットパターンP1,P2が、2以上の基準数N以上含まれているか否かを判定し、その判定結果に基づいて、前記ドットラインLの印刷動作間の休止時間Hを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ワイヤーを駆動して記録紙にドットを形成することにより情報を記録する記録ヘッドの制御方法、およびその記録ヘッドを備えるドットインパクトプリンターに関する。
【背景技術】
【0002】
高信頼性や複写用紙への重ね印刷を主な目的に様々な分野で、ドットインパクトプリンターが使用されている。ドットインパクトプリンターは、複数の記録ワイヤー(ワイヤーピン)を有する記録ヘッドを備えている。記録ヘッドは、記録ワイヤーごとに記録ワイヤーを駆動する電磁石コイル(以下、ヘッドコイルという)を有し、ヘッドコイルを選択的に駆動することにより記録ワイヤーを選択的に突出する。ドットインパクトプリンターは、記録ヘッドをキャリッジに搭載し、キャリッジを記録用紙の紙幅方向に走査させながら、記録ヘッドの記録ワイヤーを、インクリボンを介して選択的に記録用紙に打ち付け、記録用紙にドットを形成し情報を記録する。
【0003】
ドットインパクトプリンターは、記録ワイヤーが連続もしくは高頻度で駆動されると、この記録ワイヤーを駆動しているヘッドコイルの温度が急激に上昇する。そして、著しい場合は焼損する場合がある。そこで、ヘッドコイルの焼損等の不具合を防止するために、サーミスター等の温度検出器によって記録ヘッドの温度を検出して、焼損の虞がある温度に至ったときにはヘッドコイルの発熱量を減少させる制御を行っている。記録ヘッドの温度が予め設定したスピードダウン設定温度に至ったときには、ヘッドコイルの駆動周波数を減少させて印刷速度を減速させたり、記録ヘッドの温度が予め設定した停止設定温度に至ったときには、その時点で記録ヘッドによる印刷動作を停止させ、ヘッドコイルが焼損限界温度に到達しないように制御するドットインパクトプリンターが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−127441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘッドコイルの温度が急激に上昇する場合には、ヘッドコイルが予め設定された温度に到達したことを温度検出器によって検出して減速や停止などの処理を実行する前に、ヘッドコイルが焼損限界温度を越えてしまい、焼損を防止できないことがある。そのため、上述のドットインパクトプリンターは、このような事態を防止するために、予め、急激な温度上昇を引き起こすことが予測される特定のドットパターン(特定記録パターン)を設定している。そして、この特定記録パターンを印刷データ中に検出した場合は、スピードダウン設定温度や停止設定温度を通常よりも低く設定して印刷動作を行う。その結果、ヘッドコイルの温度が急激に上昇する場合においても、ヘッドコイルが焼損限界温度に到達する前に印刷動作の減速や停止を行うことができる。
【0006】
上述のドットインパクトプリンターは、特定記録パターンを1箇所でも検出した場合に、スピードダウン設定温度や停止設定温度を低い温度に変更している。そのため、例えば、記録ヘッドの温度が十分低い状態で特定記録パターンの印刷が行われ、特定記録パターンを印刷しても焼損限界温度に到達しない場合であっても、印刷速度が減速されたり、印刷動作の停止が行われてしまうことがある。すなわち、上述のドットインパクトプリンターは、減速や停止が必要でない場合にまで減速や停止が行われる可能性があり、印刷スループットが低下してしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
(適用例1)複数の記録ワイヤーを有する記録ヘッドが搭載されたキャリッジを走査しながら、前記記録ワイヤーを駆動して、記録媒体に情報を印刷するドットインパクトプリンターにおける記録ヘッドの制御方法であって、各々の前記記録ワイヤーは、キャリッジの走査方向における1ドットラインの印刷を担当しており、前記ドットラインの印刷において、印刷実行前に、印刷対象の前記ドットラインに、予め設定した特定のドットパターンが、2以上の基準数以上含まれているか否かを判定し、その判定結果に基づいて、前記ドットラインの印刷動作間の休止時間を決定することを特徴とする記録ヘッドの制御方法。
【0009】
この方法によれば、特定のドットパターンとして、記録ヘッドの急激な温度上昇を引き起こす可能性のあるものを設定することができる。そして、印刷対象のドットラインに特定のドットパターンが基準数以上含まれているか否かを判定し、ドットラインの印刷動作間の休止時間を決定することができる。すなわち、記録ヘッドの急激な温度上昇がドットライン中において基準数以上発生する可能性があるか否かを判定して、記録ヘッドの温度が、印刷動作においてヘッドコイルの焼損限界温度を越える虞があるか否かを判定することができる。そのため、ヘッドコイルの焼損限界温度を越える虞があると判定した場合は、焼損を引き起こさないように設定した休止時間だけ印刷動作を休止して印刷を実行することができる。一方、ヘッドコイルの焼損限界温度を越える虞がないと判定した場合は、休止時間を設けず印刷を実行することができる。その結果、ヘッドコイルの焼損を確実に防止しつつ、必要以上の印刷スループットの低下を抑制できる。
【0010】
(適用例2)前記ドットラインの最大ライン長の領域内に、所定幅のパターン検出領域を予め複数設定しておき、前記ドットラインの印刷において、印刷実行前に、印刷対象の前記ドットラインにおける前記パターン検出領域が、前記特定のドットパターンを含む特定領域であるか否かを判定し、前記ドットラインにおける前記特定領域の数が前記基準数以上であるか否かを判定し、それらの判定結果に基づいて、前記ドットラインの印刷動作間の前記休止時間を決定することを特徴とする上記の記録ヘッドの制御方法。
【0011】
この方法によれば、所定幅のパターン検出領域に特定のドットパターンが含まれているか否かを判定し、含まれている特定領域の数を判定すればよい。そのため、ドットラインのデータ全体を特定のドットパターンと対比する場合と比較して、処理負荷を軽減することができる。
【0012】
(適用例3)前記記録ヘッドの前記ドットラインの印刷動作間の前記休止時間を予め複数設定しておくとともに、各前記休止時間と前記記録ヘッドの温度とを対応付けておき、各前記休止時間に対応付けられている前記記録ヘッドの温度は、第1温度と、前記第1温度よりも低い第2温度の少なくとも2つの温度を含み、前記ドットラインの印刷において、印刷実行前に、前記記録ヘッドの温度を検出し、印刷対象の前記ドットラインにおける前記特定領域の数が前記基準数以上であった場合には、前記第2温度を用いて、検出した前記記録ヘッドの温度に対応する前記休止時間を選択し、印刷対象の前記ドットラインにおける前記特定領域の数が前記基準数未満であった場合には、前記第1温度を用いて、検出した前記記録ヘッドの温度に対応する前記休止時間を選択し、選択した前記休止時間により、前記ドットラインの印刷動作間において印刷を休止することを特徴とする上記の記録ヘッドの制御方法。
【0013】
この方法によれば、複数の休止時間に対応付けられている記録ヘッドの温度を複数設定することができる。そのため、特定のドットパターンを含むパターン検出領域の数に基づいて2種類以上の温度を使い分け、休止時間を選択することができる。その結果、ヘッドコイルの焼損を確実に防止しつつ、必要以上の印刷スループットの低下を抑制できる。
【0014】
(適用例4)印刷実行前に検出した前記記録ヘッドの温度が予め設定した基準温度以下であった場合には、前記パターン検出領域が前記特定領域であるか否かの判定結果を用いずに前記記録ヘッドの前記休止時間を決定することを特徴とする上記の記録ヘッドの制御方法。
【0015】
この方法によれば、複数のパターン検出領域で特定のドットパターンが印刷されるにも関わらず、ヘッドコイルの焼損限界温度を超えない可能性があることを知ることができ、印刷スループットの低下を抑制することができる。
【0016】
(適用例5)印刷データの印刷品位と、前記記録ヘッドの前記休止時間とを対応付けておき、前記ドットラインの印刷において、印刷対象の前記ドットラインを含む前記印刷データの印刷品位に対応付けられている前記休止時間の中から決定した前記休止時間により、前記ドットラインの印刷動作間において印刷を休止することを特徴とする上記の記録ヘッドの制御方法。
【0017】
ドットインパクトプリンターは、印刷品位の設定に応じて記録ヘッドの駆動制御が異なる。そのため、印刷品位によって温度上昇の度合いが異なる。この方法によれば、印刷品位に対応づけて駆動モードを設定することができる。そのため、ヘッドコイルの焼損防止と印刷スループットの低下抑制の両立を実現することができる。
【0018】
(適用例6)情報が印刷される記録媒体の送り方向と略直交する方向に走査されるキャリッジと、前記キャリッジに搭載され、ドットライン中に印刷ドット列を形成する複数の記録ワイヤーを有する記録ヘッドと、前記記録ヘッドを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、上記の記録ヘッドの制御方法により、前記記録ヘッドの休止時間を決定して、前記ドットラインの印刷動作間において印刷を休止することを特徴とするドットインパクトプリンター。
【0019】
この構成によれば、ドットインパクトプリンターは、特定のドットパターンとして、記録ヘッドの急激な温度上昇を引き起こす可能性のあるものを設定することができる。そして、印刷対象のドットラインに特定のドットパターンが基準数以上含まれているか否かを判定し、ドットラインの印刷動作間の休止時間を決定することができる。すなわち、記録ヘッドの急激な温度上昇が、ドットライン中において基準数以上発生するか否かを判定して、記録ヘッドの温度が、ドットラインの印刷においてヘッドコイルの焼損限界温度を越える虞があるか否かを判定することができる。
【0020】
そのため、ヘッドコイルの焼損限界温度を越える虞があると判定した場合は、焼損を引き起こさないように設定した休止時間だけ印刷動作を休止して印刷を実行することができる。一方、ヘッドコイルの焼損限界温度を越える虞がないと判定した場合は、休止時間を設けず印刷を実行することができる。その結果、ヘッドコイルの焼損を確実に防止しつつ、必要以上の印刷スループットの低下を抑制できるドットインパクトプリンターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ドットインパクトプリンターのプリンター本体を示す斜視図。
【図2】ドットインパクトプリンターのプリンター本体の側断面図。
【図3】記録ヘッドの断面図。
【図4】記録ヘッドの分解斜視図。
【図5】ドットインパクトプリンターにおける印刷の制御系を示すブロック図。
【図6】キャリッジの走行区間およびドットラインにおけるパターン検出領域の配置図。
【図7】駆動モードの決定に用いる特殊ビットイメージ(特定のドットパターン)の説明図。
【図8】休止時間決定用の制御テーブル。
【図9】制御テーブルを用いた印刷処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で参照する図面では、説明および図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺を実際のものとは異なるように表す場合がある。
【0023】
(ドットインパクトプリンターの構成について)
本実施形態にかかる記録ヘッドが適用されるドットインパクトプリンターについて、図1および図2を参照して説明する。図1は、ドットインパクトプリンターのプリンター本体を示す斜視図であり、図2は、ドットインパクトプリンターのプリンター本体の側断面図である。なお、図1および図2に示すX方向は、印刷される記録用紙の幅方向、すなわちキャリッジの移動方向を示し、Y方向は、キャリッジに搭載された記録ヘッドの記録ワイヤーの突出方向を示し、Z方向は、X方向およびY方向と直交する方向を示す。
【0024】
ドットインパクトプリンターは、物流や商流等の分野に用いられ、プラテンに沿って走行するキャリッジに記録ヘッドを搭載し、この記録ヘッドをプラテンの軸方向に走行させる間に、記録ヘッドに備えられた複数の記録ワイヤーをインクリボンを介して、上記プラテンの前方周面に位置する記録用紙に打ち付ける。このようにすることにより、記録用紙に文字や画像等の情報を記録する。記録用紙は、普通紙や複写用紙からなる単票用紙や連続用紙の他に、通帳や封筒などを含む。
【0025】
図1および2に示すように、ドットインパクトプリンター100は、少なくとも、フレーム部20、印刷機構部30、および紙搬送機構部40を有するプリンター本体部50と、制御装置80と、これらを覆う図示しない外装ケースとを有して構成される。
フレーム部20は、少なくとも、本体フレームとしてのベースフレーム21と、紙案内フレーム22と、左サイドフレーム23および右サイドフレーム24とを有する。印刷機構部30は、少なくとも、記録ヘッド18と、記録ヘッド18を搭載したキャリッジ19と、キャリッジ移動機構部60(図5参照)とを有する。紙搬送機構部40は、プラテン41と、紙案内42と、ピンチローラー43と、プッシュトラクターユニット44と、排出ユニット45と、紙供給ガイド46と、を有する。
【0026】
図1に示すように、フレーム部20の左サイドフレーム23および右サイドフレーム24は、図中X方向両側に各々立設して設けられ、左サイドフレーム23と右サイドフレーム24との間には、ベースフレーム21および紙案内フレーム22(図2参照)が配置されている。また、左サイドフレーム23と右サイドフレーム24間に、キャリッジガイド軸32およびプラテン41が回動自在に架け渡されている。紙案内42は、左サイドフレーム23と右サイドフレーム24との間に配設されて、紙案内フレーム22に嵌合し固定されている。さらには、左サイドフレーム23および右サイドフレーム24のY方向後方部には、プッシュトラクターユニット44および排出ユニット45を装着可能な図示しないトラクターユニット装着部、排出ユニット装着部が設けられている。
【0027】
プッシュトラクターユニット44は、記録用紙Sとしての連続紙を紙搬送機構部40へ送り出す。紙供給ガイド46(図2参照)は、記録用紙Sとしての単票紙を1枚ずつ(または1綴りずつ)紙搬送機構部40へ供給する。また、排出ユニット45は、連続紙または単票紙等の記録用紙Sを紙搬送機構部40からドットインパクトプリンター100外へ排出する。図2に示すように、連続紙は、プッシュトラクターユニット44のトラクターベルト37の回転により、このトラクターベルト37のピン47の作用で、紙搬送機構部40の紙案内42に案内される。そして、連続紙は、この紙案内42とプラテン41との間に形成される紙搬送経路48を経て、プラテン41のY方向前方へ向かい、図中矢印α方向に送給される。
【0028】
このプッシュトラクターユニット44の非動作時に、紙供給ガイド46から単票紙が1枚ずつ(または1綴りずつ)、紙搬送経路48を経てプラテン41の前方へ供給可能とされる。また、排出ユニット45の排出ローラー49の回転により、後述のごとく、記録ヘッド18により文字等が記録された連続紙または単票紙は、紙搬送機構部40のプラテン41から図中矢印β方向に引き出される。これにより、連続紙または単票紙は、キャリッジ19のX方向(主走査方向)に直交するY方向(副走査方向)に搬送される。
【0029】
図1に示すキャリッジ19は、キャリッジガイド軸32に摺動自在に挿通されるとともに、記録ヘッド18を搭載する。キャリッジガイド軸32がプラテン41と平行に配置されることから、キャリッジ19は、これらのプラテン41およびキャリッジガイド軸32の軸方向と一致するX方向に移動(走行)可能となる。図示しないキャリッジ駆動モーターの正転または逆転により、キャリッジ19は、タイミングベルト35(図2参照)を介しキャリッジガイド軸32に案内されて、X方向に沿って往復走行する。
【0030】
記録ヘッド18は、複数の記録ワイヤー9(図3参照)を備え、これらの記録ワイヤー9の突出方向(Y方向)前方にインクリボン36(図2参照)が位置する。記録ヘッド18は、キャリッジ19のX方向への移動区間のうちの所定の印刷可能区間で、記録ワイヤー9を突出動作させる。そして、記録ワイヤー9をインクリボン36に打ち当て、インクリボン36に含浸されるインクを、プラテン41とインクリボン36との間に搬送される記録用紙S(連続紙または単票紙等)に付着させて、この記録用紙Sにドットを形成する。
【0031】
キャリッジ19がX方向左向きまたは右向きに走行する間に、記録ヘッド18の複数の記録ワイヤー9により一行分の記録がなされる。この一行分の記録がなされる度に、記録用紙Sが連続紙の場合には、図2に示す紙搬送機構部40のプラテン41、プッシュトラクターユニット44および排出ユニット45が、記録用紙Sを所定量(通常行間分)搬送させる。また、記録用紙Sが単票紙の場合には、紙搬送機構部40のプラテン41、ピンチローラー43および排出ユニット45が記録用紙Sを所定量(通常行間分)搬送させる。この記録用紙Sの搬送は、一般にキャリッジ19がX方向への移動区間のうちの所定の印刷可能区間以外の待機区間に位置するときに行われる。記録ヘッド18による記録動作は、これらの動作が繰り返されることにより実施される。
【0032】
なお、ドットインパクトプリンター100は、ベースフレーム21と紙案内フレーム22との間に開口して形成されて、図2中Z方向下方から紙搬送機構部40内へ記録用紙Sを供給するためのボトム紙供給口39をも有する。
【0033】
なお、上記の作業を行う紙搬送機構部40、キャリッジ移動機構部60、印刷機構部30の駆動制御は、制御装置80の制御によって実施される。この制御装置80は基板等に実装され、例えばプリンター本体部50のY方向後方における紙案内フレーム22のZ方向下方に配置される。なお、制御装置80の詳細については後述する。
【0034】
(記録ヘッドについて)
ここで、記録ヘッドについて、図3および図4を参照して説明する。図3は、記録ヘッドの断面図であり、図4は、記録ヘッドの分解斜視図である。なお、図3および図4に示すX方向、Y方向、およびZ方向は、図1および図2に示すX方向、Y方向、およびZ方向と同一方向を示す。
【0035】
図3および図4に示すように、記録ヘッド18は、シリアルドットヘッドと称されるものであり、複数本の記録ワイヤー9と、複数のヘッドコイル(電磁石コイル)10と、これらを収容するヘッド本体52と、ノーズ部53と、放熱器54と、温度検出器(サーミスター)14とを有する。記録ヘッド18は、ヘッド本体52にノーズ部53が図3中Y方向に連設され、ヘッド本体52の外周側に放熱器54が配置されて構成される。記録ワイヤー9は、断面視円形のワイヤーピンで形成され、1つの記録ワイヤー9の端面で1つのドットを形成する。そのため、その記録ヘッド18が記録するドット構成(ドット密度)に従い、例えば9ピン、16ピン、24ピン等複数本設けられる。また、一般に1つの記録ワイヤー9に対応して1つのヘッドコイル10が配置される。
【0036】
図3に示すように、ヘッド本体52は、複数の記録ワイヤー9およびヘッドコイル10を収容すべく、フレーム56と、ワイヤーレバー57と、復帰ばね59とを有して構成される。フレーム56は、外周円形に形成され、ヘッドコイル10が巻き付けられるコア55を周方向に所定間隔を隔てて複数個配置する。ワイヤーレバー57は、ワイヤーレバー57の一方の先端に記録ワイヤー9が連結されており、ヘッドコイル10への通電動作によってコア55に吸着され駆動される。また、復帰ばね59は、ワイヤーレバー57をピン58を支点にコア55から離れる方向に付勢している。このような構成により、ワイヤーレバー57がコア55に吸着されたとき、記録ワイヤー9はノーズ部53からY方向(外方向)に突出動作をする。このヘッド本体52は、記録ワイヤー9の進退方向であるY方向に2段積み重ねられて、ヘッド本体結合体として配置される。ただし、図3では、一方のヘッド本体52のみを示している。
【0037】
ノーズ部53は、記録ワイヤー9の突出動作を含む進退動作を案内するものであり、内部に配置された複数個の中間ガイド62と、先端部に配置された1つの先端ガイド63を備える。複数本の記録ワイヤー9は、これら中間ガイド62および先端ガイド63を貫通して進退動作が案内される。なお、複数本の記録ワイヤー9は、ノーズ部53の先端ガイド63にZ方向に沿って列状もしくは千鳥状に配列される。なお、図3では、中間ガイド62および先端ガイド63に1本の記録ワイヤー9が貫通する場合を示し、他の記録ワイヤー9については省略している。
【0038】
図3および図4に示すように、放熱器54は、アルミ等の熱伝導性のよい材料で略筒形状に構成され、外側に複数枚のフィン64が一体に設けられている。この放熱器54は、前述のヘッド本体結合体における各ヘッド本体52の外周部に配置されて、各ヘッド本体52を覆う。ヘッド本体52のヘッドコイル10は、印刷動作、すなわち通電されることよって発熱体となって発熱する。この放熱器54は、ヘッドコイル10の発熱によるヘッド本体52の熱を、フィン64を用いて放熱させてヘッド本体52を冷却する機能を有する。
【0039】
図4に示すように、ヘッド本体結合体の一方のヘッド本体52におけるフレーム56の外周部に、このヘッド本体52のフレーム56の温度を検出する温度検出器(サーミスター)14が設置される。この温度検出器14は、ヘッド本体結合体のヘッド本体52に放熱器54が設置された状態で、この放熱器54の内周面65に形成された溝66内に収容される。温度検出器14は、ヘッド本体52のフレーム56の温度を検出して制御装置80に出力する。なお、記録ヘッド18は、上述の構造を有するため、ヘッドコイル10そのものの温度はフレーム56の温度より高温になる。そのため、事前にヘッドコイル10の温度とフレーム56の温度との相関をとり、ヘッドコイル10の温度、すなわち発熱量をコントロールしている。
【0040】
(ドットインパクトプリンターの制御について)
次に、ドットインパクトプリンターの制御系について、図5を参照して説明する。図5は、ドットインパクトプリンターの主要構成を示すブロック図である。図5に示すように、ドットインパクトプリンター100は、記録ヘッド18を有する印刷機構部30、キャリッジモーター69を有するキャリッジ移動機構部60、紙搬送機構部40と、温度検出器(サーミスター)14を含む検出部68とを有するプリンター本体部50と、これらを統括制御する制御装置80とを備えている。
【0041】
制御装置80は、制御系の主要部となる制御部33と、記録ヘッド18を駆動制御するヘッドドライバー82と、紙搬送機構部40およびキャリッジ移動機構部60を駆動するモータードライバー84と、インターフェイス部85とを備えている。制御部33は、CPU(Central Processing Unit)86と、情報処理部87と、記憶部88とを備えている。CPU86は、図示しない操作系や検出系からの入力信号処理、印刷処理等の各種処理を実行する。情報処理部87は各種情報を処理する。
【0042】
記憶部88は、図示しないRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を含んだ構成を有している。RAMは、ホストコンピューター89からインターフェイス部85を介して入力される印刷データ等の各種データを一時的に格納したり、CPU86によって実行される印刷処理等のプログラムを一時的に展開したりする。ここで、印刷データは、記録ヘッド18で記録用紙Sに印刷すべきパターンを指示するものである。
【0043】
ヘッドドライバー82は、CPU86からの指令に基づいて、記録ヘッド18の記録ワイヤー9を個別またはグループ別に制御する。モータードライバー84は、CPU86からの指令に基づいて、紙搬送機構部40およびキャリッジ移動機構部60のそれぞれのモーターを個別に制御する。インターフェイス部85は、ホストコンピューター89から受け取った印刷データ等を制御部33に出力したり、制御部33から受け取った各種情報をホストコンピューター89に出力したりする。
【0044】
(記録ヘッドの制御方法)
ここで、記録ヘッド18の制御方法について説明する。記録ヘッド18は、図5に示す制御部33によって制御される。制御部33は、印刷データや制御コマンド等に基づいて、所定の駆動モードを選択して記録ヘッド18の各ヘッドコイル10にヘッドドライバー82を介して制御信号を出力し、各ヘッドコイル10の通電状態を制御する。駆動モードは、制御部33の記憶部88に記憶され、例えば、ヘッドコイル駆動周波数f、ヘッドコイル通電時間Pw等を指定する。なお、ここで、ヘッドコイル駆動周波数fは、記録ヘッド18のヘッドコイル10へ印加されるパルス電圧の周波数のことであり、記録ワイヤー9における単位時間当たりの最大突出動作回数を意味する。
【0045】
また、駆動モードは、例えば、印刷モードと文字品位の2つのパラメーターの組合せによって指定されている。印刷モードとしては、通常の印刷作業である「ノーマル」と複写印刷作業である「コピー」のいずれかのモードである。ただし、コピーモードは、2枚複写、4枚複写等の複写枚数により複数設定される場合がある。文字品位としては、「Draft」と、「LQ(Letter Quality)」のいずれかである。Draftモードは、予め設定した基準解像度よりも低い解像度の印刷であり、LQモードは、基準解像度以上の解像度の印刷である。
【0046】
(キャリッジの走行制御について)
次いで、記録ヘッドを搭載したキャリッジの走行制御について、図5〜8を参照して説明する。本実施例は、記録ヘッドの過度な温度上昇をキャリッジの走行、すなわちキャリッジの走行における休止時間で低減させようとするものである。図6は、キャリッジの走行区間および各ドットラインにおけるパターン検出領域の配置図である。図7は、休止時間の決定に用いる特定のドットパターンの例示としての特殊ビットイメージの説明図であり、図7(a)は同一の記録ワイヤーにより連続して50ドットが形成される第1ドットパターン、図7(b)は同一の記録ワイヤーにより連続した50ドット分の長さにおいて1ドットおきに25個のドットが形成される第2ドットパターンである。図8は、休止時間決定用の制御テーブルである。
【0047】
キャリッジ19の走行は、図5に示す制御部33によって制御される。制御部33は、モータードライバー84を介してキャリッジ移動機構部60のキャリッジモーター69に制御信号を出力してキャリッジ19の走行を制御する。上述のように、キャリッジ19は、キャリッジモーター69の正転または逆転により、タイミングベルト35(図2参照)を介しキャリッジガイド軸32に案内されて、図1中X方向に沿って往復走行する。以降、キャリッジ19のX方向の走行可能な区間を走行区間Mと称する。
【0048】
図6に示すように、キャリッジ19の走行区間Mは、印刷可能区間Lと待機区間Qとに区分される。印刷可能区間Lにおいて、記録ヘッド18の複数の記録ワイヤー9により複数のドットラインLによって構成される一行分の記録がなされる。なお、ここでは、印刷可能区間Lの区間全域にドットラインが形成されるため同一な符号Lを用いる。本実施例においては、印刷可能区間Lは、1ドットラインLを例えば最大136桁(1桁は、1文字分の幅)で構成しており、この1ドットラインLの最大桁の領域内に、5箇所のパターン検出領域15を設定している。すなわち、136桁の左端と右端にそれぞれパターン検出領域15を設け、その中間に残り3箇所のパターン検出領域15が均等に配置されるように、各パターン検出領域15を配置している。各パターン検出領域の幅を8桁とした場合には、隣接するパターン検出領域15の間の非検出領域16の幅は24桁となる。なお、図6に示す1ドットラインLは、記録ヘッド18の1つの記録ワイヤー9が受け持つ。
【0049】
図6に示すように、待機区間Qは、印刷可能区間Lの両側に位置している。待機区間Qでは、記録ヘッド18の印刷動作は行われず、キャリッジ19走行の減速、方向転換、必要に応じて休止(停止)、加速が行われる。また、一般に記録用紙Sの搬送は、キャリッジ19が待機区間Q内に位置するときに行われる。
【0050】
また、図5に示す制御部33は、上述のように記録ヘッド18の各ヘッドコイル10に制御信号を出力し、各ヘッドコイル10の通電状態を制御する。制御部33には、図3および図4に示す記録ヘッド18のフレーム56に設けられた温度検出器14の検出信号が入力される。制御部33は、印刷を行うときには、温度検出器14の検出信号に基づいて記録ヘッド18が予め設定した基準温度を越えたか否かを判定する。そして、この判定結果に基づいて、キャリッジ19の走行制御、すなわち、キャリッジ19の走行休止時間に係る設定を決定する。制御部33の記憶部88は、このような休止時間の決定、および、休止時間における制御に用いられるデータを記憶する。
【0051】
図7(a),(b)に示すように、特殊ビットイメージとしての第1ドットパターンP1は、同一の記録ワイヤー9により連続して例えば50ドットが形成され、第2ドットパターンP2は、同一の記録ワイヤー9により連続した50ドット分の長さにおいて例えば1ドットおきに25個のドットが形成される。制御部33は、各ドットラインLの印刷を行う前に、予め、印刷対象のドットラインLにおける上記の5箇所のパターン検出領域15に、これらの第1ドットパターンP1、もしくは第2ドットパターンP2が含まれるか否かの判定を行う。そして、印刷対象のドットラインLにおいて、第1ドットパターンP1、もしくは第2ドットパターンP2が含まれるパターン検出領域15(特定領域)の数がいくつあるかをカウントして、このカウント数が、予め設定した基準数N以上か、基準数N未満かを判定する。そして、この判定結果に基づいて、このドットラインLを印刷するときのキャリッジ19(記録ヘッド18)の休止時間を決定している。なお、本実施例では、基準数Nとして、2、3、4、5のいずれかの数を設定することができる。
【0052】
次いで、図8に示す休止時間決定用の制御テーブルを説明する。本実施例では、キャリッジ19の休止時間を決定するためのパラメーターとして、特定領域の数と、印刷対象のドットラインLを含む印刷データに対して指定される印刷品位の設定とを用いる。印刷品位は、「ノーマル」と「コピー」との2つ印刷モードと「Draft」と「LQ(Letter Quality)」との2つの文字品位の2つのパラメーターの組合せによって指定されている。
【0053】
上述したように、本実施例では、温度検出器14の検出信号に基づいて記録ヘッド18が予め設定した基準温度Tを越えたか否かを判定し、この判定結果に基づいて、各ドットラインLの印刷時のキャリッジ19(記録ヘッド18)の休止時間を決定している。この基準温度Tとして、例えば3種類の基準温度Tを用いている。図8の制御テーブルにおいて、「特殊ビットイメージ」と表示している欄は、特定領域の数が基準数N以上の場合、「特殊ビットイメージ以外」と表示している欄は、特定領域の数が基準数N未満の場合を示す。制御テーブルは、上記の2種類の印刷モードと文字品位の組合せからなる4種類の印刷品位のそれぞれについて、特定領域の数が基準数N以上の場合(特殊ビットイメージ)と、特定領域の数が基準数N未満の場合(特殊ビットイメージ以外)の2つに場合分けして、これらの合計8パターンについて、3種類の基準温度Tの設定値を予め設定している。
【0054】
制御テーブルにおいては、設定した基準温度Tと共に、各基準温度Tに対応する温度検出器14の出力値R、すなわち、例えばサーミスターの出力値を表示している。図8に示すように、3種類の基準温度Tの設定値は、特定領域の数が基準数N以上の場合(特殊ビットイメージ)の設定値(第2温度)と、特定領域の数が基準数N未満の場合(特殊ビットイメージ以外)の設定値(第1温度)の2種類となっている。
【0055】
3種類の基準温度Tの中で最も低い基準温度Tは、ケースC1であり、この基準温度Tに対応する温度検出器14の出力値RをR1としている。制御部33は、温度検出器14の出力値RとR1との比較判定により、休止時間Hを決定する。ここで、本実施例では、休止時間Hの各温度の設定を、印刷品位の設定によって異ならせている。図8の制御テーブルに示す値は、基準休止時間Hstに対して乗ずる割合K(%)を示している。なお、基準休止時間Hstは、最大1秒ほどが好ましい。また、基準休止時間Hstに対して乗ずる割合Kとして、例えば、割合K1と割合K2との2種類を設定している。これは、印刷データや駆動モードによって使い分けてもよい。また、温度を細分化して種類を増やしてもよい。
【0056】
次に低い基準温度Tは、ケースC2であり、この基準温度Tに対応する温度検出器14の出力値RをR2としている。制御部33は、温度検出器14の出力値RとR2との比較判定により、休止時間Hを決定する。そして、最も高い基準温度Tは、ケースC3であり、この基準温度Tに対応する温度検出器14の出力R値をR3としている。
【0057】
(印刷処理の流れについて)
次いで、ドットラインの印刷処理の流れについて図8および図9を参照して説明する。図9は、制御テーブルを用いた各ドットラインの印刷処理の流れを示すフローチャートである。なお、以下の説明では、印刷モードがノーマルであって文字品位がDraftモードの場合について説明する。
【0058】
図9に示すステップS1において、制御部33は、温度検出器14の出力値Rを検出し、予め設定した基準温度Tに対応する出力値Rとの比較判定を行う。ここで用いる基準温度Tは、上述した3種類の基準温度Tの中の最も低い温度であるケースC1よりも更に低い値であり、例えば、17℃(対応する温度検出器14の出力値R0は71.51KΩ)に設定されているとする。記録ヘッド18の温度が基準温度T以下の場合、すなわち、R≧71.51KΩの場合には(ステップS1:Yes)、記録ヘッド18の温度が十分低いと判断してステップS2に進む。
【0059】
ステップS2において、上記条件における休止時間Hを設定する。制御部33では、図8に示す制御テーブルよりケースC0を選択する。ケースC0において、基準休止時間Hstに乗ずる割合Kは0%であるため、休止時間Hは0、すなわち待機区間Qでは、休止時間Hを設定せずキャリッジ19の減速、方向転換、加速を行うことが決定する。そして、ステップS3に進む。
ステップS3において、予め設定された駆動モードで印刷対象のドットラインLの印刷を実行する。そして、処理を終了する。
【0060】
図9に示すステップS1において、記録ヘッド18の温度tが基準温度Tよりも高い場合(ステップS1:No)には、ステップS4に進む。
ステップS4では、特殊ビットイメージの検出判定を行う。図6に示す5箇所のパターン検出領域15における特殊ビットイメージ(第1ドットパターンP1もしくは第2ドットパターンP2)の検出処理と、その検出箇所数と基準数Nとの比較判定を行う。特殊ビットイメージを検出したパターン検出領域15(特定領域)の数がN以上であった場合には(ステップS4:Yes)、ステップS5に進む。
【0061】
ステップS5では、制御部33は、図8の制御テーブルを参照して、3種類の基準温度Tとして、今回の印刷データに対して指定されている印刷品位における「特殊ビットイメージ」の欄の温度を選択する。そして、選択した基準温度Tに対応する出力値R1、R2、R3を、休止時間Hを決定するための判定値として設定する。
一方、ステップS4において、特殊ビットイメージを検出したパターン検出領域15の数がN未満であった場合には(ステップS4:No)、ステップS6に進む。
ステップS6では、図8の制御テーブルを参照して、3種類の基準温度Tとして、今回の印刷データに対して指定されている印刷品位における「特殊ビットイメージ以外」の欄の温度を選択する。そして、選択した基準温度Tに対応する温度検出器14の出力値R1、R2、R3を、休止時間Hを決定するための判定値として設定する。
【0062】
図9に示すステップS4の判定でステップS5に進んだ場合には、続くステップS7〜S12において、温度検出器14の出力値RとR1、R2、R3との比較判定を行い、判定結果に基づいて休止時間Hを設定する。ステップS5において、この場合の3種類の基準温度T(第2温度)は、それぞれ、65℃、75℃、107℃となっている。
【0063】
まず、ステップS7において、最も低い基準温度TであるケースC1(65℃)に対応する出力値R1との比較判定を行う。ここで、R>R1(記録ヘッド18の温度t<65℃)の場合には(ステップS7:No)、ステップS8に進んで、上記条件における休止時間Hを設定する。制御部33では、図8に示す制御テーブルより基準休止時間Hstに乗ずる割合Kは40%であるため、休止時間Hは0.4×Hst、すなわち待機区間Qでは、休止時間Hとして0.4×Hstを設定することが決定する。そして、ステップS3に進む。
ステップS3において、予め設定された駆動モードで印刷対象のドットラインLの印刷を実行する。そして、処理を終了する。
【0064】
一方、ステップS7において、R≦R1(記録ヘッド18の温度t≧65℃)であった場合には(ステップS7:Yes)、ステップS9に進んで、ケースC2(75℃)に対応する出力値R2との比較判定を行う。そして、R>R2(記録ヘッド18の温度t<75℃)の場合には(ステップS9:No)、ステップS10に進んで、上記条件における休止時間Hを設定する。制御部33では、図8に示す制御テーブルより基準休止時間Hstに乗ずる割合Kは50%であるため、休止時間Hは0.5×Hst、すなわち待機区間Qでは、休止時間Hとして0.5×Hstを設定することが決定する。そして、ステップS3に進む。
ステップS3において、予め設定された駆動モードで印刷対象のドットラインLの印刷を実行する。そして、処理を終了する。
【0065】
次に、ステップS9において、R≦R2(記録ヘッド18の温度t≧75℃)であった場合には(ステップS9:Yes)、ステップS11に進んで、印刷停止条件としてのケースC3(107℃)に対応する出力値R3との比較判定を行う。そして、R>R3(記録ヘッド18の温度t<107℃)の場合には(ステップS11:No)、ステップS12に進んで、上記条件における休止時間Hを設定する。制御部33では、図8に示す制御テーブルより基準休止時間Hstに乗ずる割合Kは50%であるため、休止時間Hは0.5×Hst、すなわち待機区間Qでは、休止時間Hとして0.5×Hstを設定するとともにキャリッジの往復移動のうち片側移動のみ印字ことを決定する。そして、ステップS3に進む。
ステップS3において、予め設定された駆動モードで印刷対象のドットラインLの印刷を実行する。そして、処理を終了する。
【0066】
一方、ステップS11においてR≦R3(記録ヘッド18の温度t≧107℃)であった場合には(ステップS11:Yes)、ステップS13に進み、予め設定した遅延時間(記録ヘッド18の放熱を行うための時間)の間は印刷を停止する。その後、ステップS1に戻って処理を再開する。
【0067】
図9に示すステップS4の判定でステップS6に進んだ場合には、続くステップS14〜S19において、記録ヘッド18の温度tに対応する温度検出器14の出力値Rと基準温度Tに対応する温度検出器14の出力値R1,R2,R3との比較判定を行い、判定結果に基づいて休止時間Hを設定する。ステップS6において、この場合の基準温度T(第1温度)は、それぞれ、102℃,107℃,110℃となっている。ステップS14〜S19は、3種類の基準温度TがステップS7〜S12の処理を行う場合よりも高く設定されている点を除いては、ステップS7〜S12と同様の作業が行われる。
【0068】
ここで、ステップS8,S10,S12における休止時間Hの設定内容は、ステップS15,S17,S19における各設定内容とそれぞれ一致している。つまり、本実施例では、図8および図9に示すように、ステップS8,S10,S12の各設定内容に休止時間Hを変更するための記録ヘッド18の基準温度Tが、「特殊ビットイメージ」の場合には「特殊ビットイメージ以外」の場合よりも低くなっており、「特殊ビットイメージ」の場合には、記録ヘッド18の温度が同一であっても、より放熱効果を期待する休止時間Hに設定される。
【0069】
なお、上記は、印刷モードがノーマルであって文字品位がDraftモードの場合について説明したが、他のモード例えば印刷モードがコピーであったり文字品位がLQモードであったりしても図8の制御テーブルに基づいて同様の処理を行う。
【0070】
以下、本実施例の効果を記載する。
(1)上述の記録ヘッド18の制御方法によると、記録ヘッド18のヘッドコイル10の過度な温度上昇を、記録ヘッド18の印刷可能区間L以外の待機区間Qで記録ヘッド18を休止させることによって防止することができる。また、その休止時間Hは、印刷対象のドットラインL中にヘッドコイル10の急激な温度上昇を引き起こす可能性がある特殊ビットイメージとしての第1ドットパターンP1もしくは第2ドットパターンP2が基準数N以上含まれているか否かを判定し、記録ヘッド18の印刷動作間の休止時間Hを決定することができる。そのため、ヘッドコイル10の通電等を制御する場合と比較して簡単な方法でヘッドコイル10の急激な温度上昇を防止することができる。
【0071】
(2)上述の記録ヘッド18の制御方法によると、記録ヘッド18の駆動モードを同じくしてヘッドコイル10の急激な温度上昇を防止することができる。そのため、ドットインパクトプリンター100の制御が複雑になることを防止することができる。
【0072】
(3)上述の記録ヘッド18の制御方法によると、印刷対象のドットラインLにおけるパターン検出領域15と特殊ビットイメージとを照合して、特殊ビットイメージを含むパターン検出領域15の数が基準数N以上の場合には、休止時間Hを設定するための記録ヘッド18の温度の基準値を、低い温度(第2温度)に設定している。一方、基準数N未満の場合には、休止時間Hを設定するための記録ヘッド18の温度の基準値を、第2温度よりも高い温度(第1温度)に設定している。このため、特殊ビットイメージを含むパターン検出領域15の数が1以下で、記録ヘッド18の温度がヘッドコイル10の焼損限界温度を越えないことが想定される場合は、休止時間Hを少ない時間に設定することができる。そのため、ヘッドコイル10の焼損を防止しつつ、必要以上の印刷スループットの低下を抑制できる。
【0073】
以上、本発明の実施例について説明したが、上記実施例に対しては、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができる。例えば上記実施例以外の変形例は、以下の通りである。
【0074】
(第1変形例)
上記実施例では、特殊ビットイメージとして、同一の記録ワイヤー9により連続して50ドットを形成する第1ドットパターンP1と、同一の記録ワイヤー9により連続した50ドット分の長さにおいて1ドットおきに25個のドットを形成する第2ドットパターンP2の2種類を示したが、これ以外のドットパターンを特殊ビットイメージとすることもできる。例えば、特殊ビットイメージを連続ドットとする場合の連続ドットの形成数(すなわち、対応するヘッドコイル10の連続駆動回数)を、各パターン検出領域15の幅、隣接するパターン検出領域15の間隔、ドットラインLの最大ライン長(最大桁)などに対応させて設定することができる。また、各パターン検出領域15の幅に対応するドット数のうち、所定の比率以上ドットが形成されるドットパターンを特殊ビットイメージとすることもできる。あるいは、記録ヘッド18に搭載される複数の記録ワイヤー9のうち、所定数以上が同時に第1ドットパターンP1もしくは第2ドットパターンP2を形成するものを、特殊ビットイメージとすることもできる。
【0075】
(第2変形例)
上記実施例では、ドットラインLの範囲にパターン検出領域15を複数設定して、特殊ビットイメージの検出をパターン検出領域15においてのみ行っていたが、パターン検出領域15を設定せず、1ドットラインLの最大桁の全範囲で特殊ビットイメージが何箇所検出されるかを判定して、この検出箇所数に基づいて駆動モードを決定することもできる。あるいは、パターン検出領域15の数を増やし、隣接するパターン検出領域15の間の非検出領域の幅をより短くすることもできる。
【0076】
(第3変形例)
上記実施例では、検出される特殊ビットイメージの内容(第1ドットパターンP1と第2ドットパターンP2のどちらが検出されるか)によって処理を異ならせていないが、検出される特殊ビットイメージの内容に応じて、駆動モードの設定を異ならせても良い。また、特殊ビットイメージを含む複数のパターン検出領域15の間隔や、特殊ビットイメージの近傍の領域におけるドット密度、あるいは、印刷対象のドットラインLの印刷前に行った印刷内容(印刷履歴)などを、駆動モードを設定するためのパラメーターとして用いても良い。
【0077】
(第4変形例)
上記実施例で説明した制御テーブルは例示でありこれに限定されない。様々な応用変形を行うことができる。上記実施例では、記録ヘッド18の駆動モードを同一として休止時間Hを設定する場合について説明したが、駆動モードの変更、設定と組み合わせて行うこともできる。
【符号の説明】
【0078】
9…記録ワイヤー、10…ヘッドコイル、14…温度検出器、15…パターン検出領域、16…非検出領域、18…記録ヘッド、19…キャリッジ、30…印刷機構部、33…制御部、40…紙搬送機構部、50…プリンター本体部、52…ヘッド本体、54…放熱器、60…キャリッジ移動機構部、68…検出部、69…キャリッジモーター、80…制御装置、82…ヘッドドライバー、84モータードライバー、88…記憶部、100…ドットインパクトプリンター、H…休止時間、M…走行区間、L…ドットライン,印刷可能区間、P1…特定のドットパターンとしての第1ドットパターン、P2…特定のドットパターンとしての第2ドットパターン、Q…待機区間、R…温度検出器の出力値、T…基準温度、t…記録ヘッドの温度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録ワイヤーを有する記録ヘッドが搭載されたキャリッジを走査しながら、前記記録ワイヤーを駆動して、記録媒体に情報を印刷するドットインパクトプリンターにおける記録ヘッドの制御方法であって、
各々の前記記録ワイヤーは、キャリッジの走査方向における1ドットラインの印刷を担当しており、
前記ドットラインの印刷において、
印刷実行前に、印刷対象の前記ドットラインに、予め設定した特定のドットパターンが、2以上の基準数以上含まれているか否かを判定し、
その判定結果に基づいて、前記ドットラインの印刷動作間の休止時間を決定することを特徴とする記録ヘッドの制御方法。
【請求項2】
前記ドットラインの最大ライン長の領域内に、所定幅のパターン検出領域を予め複数設定しておき、
前記ドットラインの印刷において、
印刷実行前に、印刷対象の前記ドットラインにおける前記パターン検出領域が、前記特定のドットパターンを含む特定領域であるか否かを判定し、
前記ドットラインにおける前記特定領域の数が前記基準数以上であるか否かを判定し、
それらの判定結果に基づいて、前記ドットラインの印刷動作間の前記休止時間を決定することを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッドの制御方法。
【請求項3】
前記記録ヘッドの前記ドットラインの印刷動作間の前記休止時間を予め複数設定しておくとともに、各前記休止時間と前記記録ヘッドの温度とを対応付けておき、
各前記休止時間に対応付けられている前記記録ヘッドの温度は、第1温度と、前記第1温度よりも低い第2温度の少なくとも2つの温度を含み、
前記ドットラインの印刷において、
印刷実行前に、前記記録ヘッドの温度を検出し、
印刷対象の前記ドットラインにおける前記特定領域の数が前記基準数以上であった場合には、前記第2温度を用いて、検出した前記記録ヘッドの温度に対応する前記休止時間を選択し、
印刷対象の前記ドットラインにおける前記特定領域の数が前記基準数未満であった場合には、前記第1温度を用いて、検出した前記記録ヘッドの温度に対応する前記休止時間を選択し、
選択した前記休止時間により、前記ドットラインの印刷動作間において印刷を休止することを特徴とする請求項1または2に記載の記録ヘッドの制御方法。
【請求項4】
印刷実行前に検出した前記記録ヘッドの温度が予め設定した基準温度以下であった場合には、
前記パターン検出領域が前記特定領域であるか否かの判定結果を用いずに前記記録ヘッドの前記休止時間を決定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の記録ヘッドの制御方法。
【請求項5】
印刷データの印刷品位と、前記記録ヘッドの前記休止時間とを対応付けておき、
前記ドットラインの印刷において、
印刷対象の前記ドットラインを含む前記印刷データの印刷品位に対応付けられている前記休止時間の中から決定した前記休止時間により、前記ドットラインの印刷動作間において印刷を休止することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の記録ヘッドの制御方法。
【請求項6】
情報が印刷される記録媒体の送り方向と略直交する方向に走査されるキャリッジと、
前記キャリッジに搭載され、ドットライン中に印刷ドット列を形成する複数の記録ワイヤーを有する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の記録ヘッドの制御方法により、前記記録ヘッドの休止時間を決定して、前記ドットラインの印刷動作間において印刷を休止することを特徴とするドットインパクトプリンター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−255633(P2011−255633A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133687(P2010−133687)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】