説明

記録媒体

【課題】インクの定着能が良好で高い色濃度を実現でき、印刷物の耐オゾン性に優れ、高温高湿環境下でのインクの熱湿滲みを抑制できる記録媒体を提供すること。
【解決手段】基材の少なくとも片面にインク受容層を設けた記録媒体であって、該インク受容層が、少なくとも(a)無機顔料、(b)元素周期表の第2族および第3族から選ばれる元素を含む化合物とシランカップリング剤とから形成された複合化合物、ならびに(c)バインダーを含み、かつ、該複合化合物が、該無機顔料に付着していることを特徴とする記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体などの印字に用いる記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インク受容層を有する記録媒体には、インクの定着性、画像の鮮明性、耐オゾン性等を良好にすることが求められている。特許文献1〜3には、アミノ基含有シランカップリング剤とジルコニウム化合物とから形成された重合体、あるいはこの重合体を無機顔料の周囲に一部結合した複合微粒子をインク受容材に用いたインクジェット記録媒体が開示されている。また、これらの記録媒体はインクの定着性が良好で、高温高湿下でも画像の鮮明度が良好であり、かつ耐オゾン性が良好であることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−254430号公報
【特許文献2】特開2008−254432号公報
【特許文献3】特開2008−254433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、これら従来技術について検討したところ、特許文献1〜3に記載されている、分子内にアミノ基とZr−O−Si結合とを含む重合体を用いることで耐オゾン性は向上するが、その効果が不十分な場合があり、更に改善の余地があることが分かった。これら特許文献では、高温高湿環境下における熱湿にじみや耐オゾン性が良好である要因を、無機顔料と前記重合体との複合化でインク定着能が高まることとしている。しかし、ジルコニウム化合物自体の耐オゾン性効果が乏しいため、これを用いたインクジェット記録媒体の耐オゾン性効果も低い場合がある。
【0005】
本発明は、上記の開示されている技術の課題解決のために開発されたものである。すなわち、本発明の目的は、インクの定着能が良好で高い色濃度を実現でき、印字物の耐オゾン性に優れ、高温高湿環境下でのインク熱湿滲みを抑えた記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
基材の少なくとも片面にインク受容層を設けた記録媒体であって、該インク受容層が、少なくとも(a)無機顔料、(b)元素周期表の第2族および第3族から選ばれる元素を含む化合物とシランカップリング剤とから形成された複合化合物、ならびに(c)バインダーを含み、かつ、該複合化合物が、該無機顔料に付着していることを特徴とする記録媒体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の記録媒体は、インクの定着能が良好で高い色濃度を実現でき、印刷物の耐オゾン性に優れ、高温高湿環境下でのインクの熱湿滲みを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るインクジェット記録媒体の一例を示す断面図である。
【図2】アンモニアを用いた昇温脱離試験(TPD)におけるアンモニアに由来する質量スペクトル(m/z(質量/電荷)=16)の測定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<<記録媒体>>
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。本発明の記録媒体は、通常の印字に用いられる記録媒体、例えばインクジェット記録媒体として使用することができ、鮮明で高品位な記録画像を得ることができる。
【0010】
図1は、本発明に係る記録媒体の一例を示す模式断面図であり、基材(100)の片面にインク受容層(101)を設けた構成のインクジェット記録媒体(102)である。なお、インク受容層は、基材の両面に設けることもできる。インク受容層(101)は、少なくとも(a)無機顔料、(b)元素周期表の第2族および第3族から選ばれる元素を含む化合物とシランカップリング剤とから形成された複合化合物、ならびに(c)バインダーを含む。さらに、前記複合化合物が、前記無機顔料に付着している。
本発明の記録媒体の効果のメカニズムについて説明する。
元素周期表の第2族および第3族から選ばれる元素を含む化合物(第2・3族元素化合物と称することもある)とシランカップリング剤とから形成された複合化合物が、無機顔料に付着していると耐オゾン性が向上する。これは、無機顔料表面の酸点に依存する固体酸強度を、塩基性である第2・3族元素化合物とシランカップリング剤とを用いて形成した複合化合物の付着によって、弱めることができるためと考えられる。
【0011】
なお、元素周期表の第2族および第3族から選ばれる元素(第2・3族元素)とは、周期律表の第2・3族元素として列挙されている元素である。その中でも、第2・3族元素としては、Mg、Ca、Sr、Y、LaおよびCeから選ばれる少なくとも1種の元素を用いることが好ましい。第2・3族元素化合物とは、第2・3族元素と有機酸イオンまたは無機酸イオンとの塩、ならびにこれらの塩の水和物、および第2・3族元素の酸化物、を意味する。有機酸イオンの具体例としては、酢酸イオン、シュウ酸イオンなどを挙げることができ、無機酸イオンの具体例としては、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、ハロゲンイオン、水酸化イオンなどを挙げることができる。さらに、第2・3族元素化合物の具体例としては、酢酸マグネシウム4水和物、酢酸カルシウム1水和物、酢酸ストロンチウム0.5水和物、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム6水和物、クエン酸マグネシウム9水和物、硝酸ストロンチウム、酢酸イットリウムn水和物、塩化イットリウム6水和物、硝酸イットリウム6水和物、硝酸ランタン6水和物、塩化ランタン7水和物、酢酸ランタン1.5水和物、安息香酸ランタン、塩化セリウム7水和物、硫酸セリウム4水和物、オクチル酸セリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム等が挙げられる。
また、インク受容層中に第2・3族元素化合物が存在すると、高温高湿環境下でのインクの熱湿滲みが発生し易いが、本発明の記録媒体はこれを抑制できる。具体的に説明すると、一般的に、インク受容材として好適なアルミナ水和物やシリカなどの無機顔料は、インク受容層形成過程において酸性水溶液に分散させることが求められる。しかし、酸性水溶液では、第2・3族元素化合物が溶解して、溶出した金属イオンは、分散液に含まれるアニオンと塩を形成してインク受容層に含まれる。この塩が高温高湿環境下で潮解してインクが滲み易くなる。従って、第2・3族元素化合物をインク受容層に加える場合には、添加量を制限するか、溶出した金属イオンを除去して、分散液中の金属イオン濃度を下げることが求められる。しかし、本発明においては、第2・3族元素化合物を、第2・3族元素化合物とシランカップリング剤とから形成された複合化合物としてインク受容層に含有する。このため、酸性水溶液中での第2・3族元素化合物からの金属イオンの溶出を抑制でき、高温高湿環境下でのインクの熱湿滲みを抑制できる。以下に、本発明に係る記録媒体の各構成材料などについて更に詳細に説明する。
【0012】
<インク受容層>
(無機顔料)
本発明に用いる無機顔料は、インク受容層形成において多孔質構造が得られるものが好ましく、この構造によりインクの吸収性能がより向上する。無機顔料としては、例えば、アルミナ水和物、アルミナ、シリカ、コロイダルシリカ、二酸化チタン、ゼオライト、カオリン、タルク、ハイドロタルサイト、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、等が挙げられる。これらの中でも良好な多孔質構造を形成し、インクの吸収性が良好なアルミナ水和物、またはシリカを無機顔料として用いるのが好ましい。また、これら無機顔料の複数種類を併用して用いても構わない。すなわち、無機顔料として、アルミナ水和物およびシリカの少なくとも一方を用いることが好ましい。
また、これら無機顔料の平均一次粒径は1nm以上であることが好ましい。また、1μm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。特に、インクの吸収性が良好な多孔質構造を形成するためには、平均一次粒径が20nm以下のシリカ微粒子、またはアルミナ水和物微粒子を用いるのが好ましい。無機顔料の平均一次粒径は、無機顔料を電子顕微鏡によって観察したときの一次粒子の投影面積と等しい面積を有する円の直径の、数平均粒子径を示すものである。なお、インク受容層中の無機顔料の含有割合は、固形分換算で70質量%以上95質量%以下が好ましい。70質量%以上であると適度なインク吸収性を容易に得ることができ、インクジェットプリンターで印刷した時に、ビーディング(ベタ印刷時のインク凝集によるマダラ模様が発生すること)を起こしやすくなることを容易に防ぐ。また、95質量%以下であると適度なインク受容層の強度を容易に得ることができ、クラックの発生を特に抑制することができる。
【0013】
なお、本発明において好適なアルミナ水和物は、例えば、下記一般式(1)により表されるものである。
【0014】
Al23-n(OH)2n・mH2O (1)
上記式中、nは0、1、2または3を表し、mは0以上10以下、好ましくは0以上5以下の数を表す。ただし、mとnは同時に0にはならない。mH2Oは、多くの場合、結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相を表すものであるため、mは整数または整数でない値をとることができる。また、この種の材料(アルミナ水和物)を加熱するとmは0になることがあり得る。
アルミナ水和物は、公知の方法で製造することができる。一般的な例として、アルミニウムアルコキシドの加水分解やアルミン酸ナトリウムの加水分解を行う方法が挙げられる(米国特許4,242,271号明細書、米国特許4,202,870号明細書)。また、他の例として、アルミン酸ナトリウムの水溶液に硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等の水溶液を加えて中和を行う方法が挙げられる(特公昭57−447605号公報)。
本発明において好適なアルミナ水和物は、X線回折法による分析でアルミナ水和物構造または非晶質を示すものが好ましい。
また、アルミナ水和物は、製造過程において細孔物性の調整がなされる。例えば、アルミナ水和物をインク受容材として用いるためには、細孔容積が0.3ml/g以上1.0ml/g以下であるアルミナ水和物を用いることが好ましく、より好ましくは0.35ml/g以上0.9ml/g以下のアルミナ水和物である。また、BET法で求められるBET比表面積が50m2/g以上350m2/g以下であるアルミナ水和物を用いることが好ましく、より好ましくは100m2/g以上250m2/g以下のアルミナ水和物である。前記BET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料のもつ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧、または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ比表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積をかけて、比表面積が得られる。BET法では、窒素吸着脱離法の測定において、ある相対圧力における吸着量の関係を数点測定し、最小二乗法によりそのプロットの傾き、切片を求めることで比表面積を導き出す。このため、測定の精度を上げるためには、相対圧力と吸着量の関係は少なくとも5点測定しておくことが好ましく、より好ましくは10点以上であるのが良い。
【0015】
また、本発明に用いる無機顔料に好適なシリカは、通常その製造法により湿式法と乾式法(気相法)に大別される。上記湿式法では、ケイ酸塩の酸分解により活性シリカを生成し、これを適度に重合させ凝集沈降させて含水シリカを得る方法が主流である。一方、乾式法は、ハロゲン化珪素の高温気相加水分解による方法(火炎加水分解法)、ケイ砂とコークスとを電気炉中でアークによって加熱還元気化し、これを空気で酸化する方法(アーク法)によって無水シリカを得る方法が主流である。
気相法シリカは、比表面積が特に大きいので、インクの吸収性、保持の効率が特に高く、また、屈折率が低いので、適切な粒子径まで分散をおこなえば受容層に透明性を容易に付与でき、高い色濃度と良好な発色性が容易に得られるという特徴がある。
気相法シリカのBET法による比表面積が90m2/g以上400m2/g以下のものが好ましい。
【0016】
(複合化合物)
本発明に用いる複合化合物は、水またはアルコール水溶液と、第2・3族元素化合物とを含む溶液、あるいは分散液中で、シランカップリング剤を加水分解、および縮合反応して作製した複合化合物であることが好ましい。シランカップリング剤は、加水分解によって、シラノ−ル(Si−OH)を生成した後、シラノ−ル同士が徐々に縮合してシロキサン結合(Si−O−Si)となり、シランオリゴマーを形成する。また、本発明に用いる複合化合物は、シランカップリング剤を水またはアルコール水溶液に加えて、加水分解、および縮合させた後に、それを第2・3族元素化合物に直接スプレー噴霧等で添加する方法でも得ることができる。本発明に用いる複合化合物は、第2・3族元素化合物を含むシランカップリング剤の加水分解物を必要に応じて加熱して脱水縮合させたもの、すなわち第2・3族元素化合物を含むシランオリゴマーであることができる。複合化合物の具体例としては、塩化マグネシウムを含む3−アミノプロピルトリエトキシシランの加水分解物、酢酸カルシウムを含むN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの加水分解物、酸化ランタンを含む3−メルカプトプロピルトリメトキシシランの加水分解物、酸化イットリウムを含む3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物、等を必要に応じて加熱して脱水縮合させたものが挙げられる。本発明においては、シランオリゴマーの構造中に第2・3族元素化合物を取りこんだ状態の複合化合物である。シロキサンは疎水性であるために、シランオリゴマーの構造中に第2・3族元素化合物を存在させることで、第2・3族元素化合物の水溶液中への溶出を抑制することができる。また、ある記録媒体を入手した際に、インク受容層中に複合化合物が含有しているか否かは、透過電子顕微鏡(TEM)での元素マッピングにより判定することができる。本発明の記録媒体においては、インク受容層に含まれる無機顔料粒子の表面の少なくとも一部に、構造中に第2・3族元素化合物とSiとを含む複合化合物の粒子が付着している。
【0017】
また、本発明においては、複合化合物およびインク受容層中に、第2・3族元素化合物を複数種含んでいても良い。
本発明に用いる第2・3族元素化合物は、酸点を有さない複合化合物を形成する化合物である。第2・3族元素化合物に含まれる第2・3族元素の中でも、無色、または白色の複合化合物を形成する元素が好ましく、具体的には、Mg、Ca、Sr、Y、LaおよびCeから選ばれる少なくとも1種の元素が好ましい。またインク受容層中の前記無機顔料を構成する金属元素(A)に対する元素周期表の第2族および第3族から選ばれる元素(B)の原子数比率(B/A)は0.001以上0.03以下であることが好ましく、0.02以下であることがより好ましい。原子数比率(B/A)が0.001以上であると、十分な耐オゾン性を容易に得ることができる。また、原子数比率(B/A)が0.03以下であると、高温高湿環境下でのインクの熱湿滲みが劣化し易くなることを容易に防ぐことができる。なお、インク受容層中の原子数比率(B/A)は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により測定(算出)することができる。インク受容層中に、無機顔料および第2・3族元素が複数種類存在する場合は、これらの合計量を用いて原子数比率の算出を行う。
【0018】
また、シランカップリング剤は、以下の一般式で表される。
【0019】
一般式 RpSiX4-p
(Rは置換基を有していても良い炭化水素基を表し、Xは加水分解基を表し、pは1以上3以下の整数を表す。ただしpが2または3の場合は、Rは互いに同一でも異なっていても良い。)
前記炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基およびアリール基等を挙げることができる。
R中の炭化水素基の置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキニル基、アラルキル基、アミノ基、ジアミノ基、エポキシ基、メルカプト基、グリシドキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、クロル基、シアノ基、イソシアネート基、ビニル基等が挙げられる。Rが含む炭素数は2以上10以下が好ましい。炭素数が2以上であると疎水性を十分に付与することが容易である。また炭素数が10以下であると、疎水性の増大に起因する複合化合物の水への分散性の低下を容易に防ぎ、無機顔料への付着を容易に行うことができる。Xとしては、例えば、アルコキシル基、アルコキシアルコキシル基、ハロゲンおよびアシルオキシ基から選択される加水分解可能な置換基、例えばメトキシ基、エトキシ基、クロル基等が挙げられる。
【0020】
さらにシランカップリング剤の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジクロロシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライドなどのジアルコキシシラン化合物、ジアシルオキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物、トリアシルオキシシラン化合物、トリフェノキシシラン化合物ならびにその加水分解物が挙げられる。
これらのシランカップリング剤は単独であるいは2種以上混合して使用しても良い。
【0021】
シランカップリング剤の添加量(使用量)は、無機顔料の諸物性とシランカップリング剤の種類によって種々異なるものであり適宜調整することができる。しかし、シランカップリング剤の添加量は、概して無機顔料(100質量%とする)に対して0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。0.1質量%以上であると、十分なインクの熱湿滲みを容易に得ることができる。また、10質量%以下であると、インク受容層が疎水的になることを容易に防ぎ、適度なインクの吸収性を容易に得ることができる。
本発明に用いる複合化合物の作製方法は湿式法が好ましく、この湿式法の具体例を説明する。まず、第2・3族元素化合物を、アルコール(メタノール、エタノールおよびブタノールなど)と水との混合物(アルコール水溶液)、または水に加え、ホモミキサー、アジテーター、ボールミル、超音波分散機等で攪拌しながら、シランカップリング剤を添加する。その後、さらに攪拌して、シランカップリング剤を加水分解、縮合反応させて、シランオリゴマーを形成させる。このシランオリゴマー形成時に、第2・3族元素化合物が取り込まれて、複合化合物を含む懸濁液が作製される。また、必要に応じて、有機酸等を添加してpHを調整し、シランカップリング剤の加水分解や縮合反応の進行をコントロールすることができる。また、シランカップリング剤の沸点および分解点を下回る温度で加温してもよい。この温度はシランカップリング剤の種類によって異なるが、一般に20℃以上100℃以下の温度が好ましい。
次に、この懸濁液を、無機顔料を水等の溶剤に分散させた分散液に加えて、混合した後に、この混合液をオーブン等で加熱乾燥、またはスプレードライヤーで噴霧乾燥して、複合化合物を無機顔料に付着させる。加熱温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは80以上である。また、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは150℃以下である。なお、後述のバインダーおよび必要に応じて各種添加剤を上記混合液に加えて塗工液を調製し、その塗工液を基材上に塗布および乾燥することで、複合化合物を無機顔料に付着させるとともに、インク受容層を形成することができる。
【0022】
第2・3族元素化合物とシランカップリング剤とから形成された複合化合物が、無機顔料に付着しているかどうかは、昇温脱離試験(TPD測定)等のガス吸着法により調べることができる。アンモニアを用いた昇温脱離試験(TPD)の測定結果の一例を図2に示す。図2はアンモニアに由来する質量スペクトル(m/z=16)の測定データである。図中のaは、アルミナ水和物のチャートであり、bは酢酸マグネシウム4水和物とシランカップリング剤とから形成された複合化合物が付着したアルミナ水和物のチャートである。図2において、t=約200℃弱でaとbに違いが見られる。t=約200℃弱のピークは、アルミナ水和物に物理吸着したアンモニアを示すものと考えられる。本発明のbはアルミナ水和物に物理吸着したアンモニアが確認できないことから、アンモニア分子の物理吸着の元になるアルミナ水和物表面の酸点が潰れて、固体酸強度が低下していると思われ、上記付着が起こっていると考えられる。アルミナ水和物以外の無機顔料、および酢酸マグネシウム4水和物以外の複合化合物についても同様な方法で、複合化合物の無機顔料への付着を調べることができる。第2・3族元素化合物とシランカップリング剤とを用いて形成した複合化合物が、無機顔料に付着していることは、以下のように確認することができる。すなわち、記録媒体からインク受容層を取り出してTPD測定し、無機顔料に物理吸着したアンモニアのピークが、複合化合物が付着していない無機顔料に対して低下していることにより確認することができる。また、付着状態は、透過電子顕微鏡(TEM)での元素マッピングでも観察することが出来る。
【0023】
(バインダー)
本発明に用いるバインダーは水溶性樹脂が好ましい。バインダーとして、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)及びその変性物、澱粉及びその変性物、ゼラチン及びそれらの変性物、カゼイン、プルラン、アラビアゴム、カラヤゴム、アルブミン等の天然高分子樹脂又はこれらの誘導体、カチオン変性、SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のラテックス類、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等のビニルポリマー、ポリエチレンイミン、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸又はその共重合体等を挙げることができ、1種もしくは2種以上を組みあわせて用いてもよい。
これらの中で、本発明に用いるバインダーは、PVA及びその変性物が好ましい。変性されたPVAとしては、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール等のポリビニルアルコール誘導体等が挙げられる。
【0024】
また、本発明においては、前記無機顔料に対するバインダーの質量比率(無機顔料/バインダー)を5以上30以下とすることが好ましい。質量比率を前記範囲とすることにより、ヘイズを特に抑え、高い画像濃度及び光沢感が容易に得られ、かつ、塗布膜に適度な強度を容易に持たせることが可能である。
【0025】
(その他の材料)
無機顔料を水等の溶媒に容易に均一に分散させるために、分散剤を分散液、即ちインク受容層形成用塗工液に添加することができ、その塗工液を用いて、分散剤を含有するインク受容層を形成することができる。例えば、インク受容材(無機顔料)としてアルミナ水和物を用いた場合は、分散(解膠)剤として、酸を用いることで容易に解膠され、均一な分散体とすることができる。解膠剤となる酸としては、一般に知られている酸の中で、酢酸、蟻酸、シュウ酸などの有機酸;硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸が挙げられる。
また、インク受容層形成用塗工液にはさらに、必要に応じてカチオン性ポリマーを添加することができる。特に、シリカをインク受容材に用いた場合には、耐水性向上のためにカチオン性ポリマーを添加することが好ましい。好ましいカチオン性ポリマーとしては、例えば、以下のものが挙げられる。4級アンモニウム塩、ポリアミン、アルキルアミン、ハロゲン化第4級アンモニウム塩。カチオン性ウレタン樹脂、アミン・エピクロルヒドリン重付加体、ジハライド・ジアミン重付加体、ポリアミジン、ビニル(共)重合体。ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリメタクリロイルオキシエチル−β−ヒドロキシエチルジメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン及びその誘導体。ポリアミド−ポリアミン樹脂、カチオン化でんぷん、ジシアンジアミドホルマリン縮合物、ジメチル−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム塩重合物、ポリアミジン、ポリビニルアミン、ジシアン系カオチン樹脂、ポリアミン系カオチン樹脂。エピクロルヒドリン−ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリンアンモニウムクロリド−SO2共重合物、ジアリルアミン塩−SO2共重合物。第4級アンモニウム塩基置換アルキル基をエステル部分に有する(メタ)アクリレート含有ポリマー・第4級アンモニウム塩基置換アルキル基を有するスチリル型ポリマー。ポリアミド系樹脂、ポリアミドエピクロロヒドリン系樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン系樹脂。
【0026】
また、本発明の記録媒体のインク受容層には、架橋剤としてホウ酸化合物を1種以上含有させることが好ましい。このようにすることは、インク受容層の形成上極めて有効である。ホウ酸化合物としては、オルトホウ酸(H3BO3)、メタホウ酸、次ホウ酸、及びホウ酸塩等が使用できる。ホウ酸塩としては、上記ホウ酸の水溶性の塩であることが好ましい。具体的には、例えば、ホウ酸のナトリウム塩(Na247・10H2O、NaBO2・4H2O等)、カリウム塩(K247・5H2O、KBO2等)等のアルカリ金属塩;ホウ酸のアンモニウム塩(NH449・3H2O、NH4BO2等)等を挙げることができる。塗工液の経時安定性と、クラック発生の抑制効果の点から、オルトホウ酸を用いることが好ましい。クラック抑制の観点から、ホウ酸化合物の配合量は、製造条件等に応じて適宜調整できるが、バインダー(100質量%とする)に対して、ホウ酸化合物を1.0質量%以上、15.0質量%以下とすることが好ましい。また、15.0質量%以下であれば、塗工液の経時安定性を容易に維持することができる。一般的に、記録媒体の生産時には塗工液を長時間に渡って使用する。しかし、ホウ酸化合物の添加量が、15.0質量%以下であれば、ホウ酸化合物の含有量が多いことによる生産時の塗工液の粘度の上昇やゲル化物の発生を容易に防ぐことができる。これにより、塗工液の交換やコーターヘッドの清掃等の回数をより減少させることができ、生産性を更に向上させることができる。
【0027】
また、本発明では、インク受容層に更に、以下の添加剤を加えても良い。例えば、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、流動性変性剤、界面活性剤、消泡剤、耐水化剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤である。
【0028】
<基材>
本発明の記録媒体の基材としては、例えば適度のサイジングを施した紙、無サイズ紙、ポリエチレンなどを用いたレジンコート紙などの紙類、熱可塑性フィルムのようなシート状物質及び布帛が挙げられる。熱可塑性フィルムの場合はポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリカーボネートなどの透明フィルムを用いることができる。また、無機粒子の充填または微細な発泡による不透明化したシートを用いることもできる。
【0029】
本発明の記録媒体の基材としては、繊維状物質で形成された紙が最も好ましい。この繊維状物質としては、例えばセルロースパルプを用いることができる。セルロースパルプとしては、以下のような具体例を挙げることができる。広葉樹材および針葉樹材から得られるサルファイトパルプ(SP)、アルカリパルプ(AP)、クラフトパルプ(KP)などの化学(ケミカル)パルプ。セミケミカルパルプ、セミメカニカルパルプ、機械(メカニカル)パルプ。更には、脱墨された二次繊維である古紙パルプ。これらは単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0030】
また、パルプは、未漂白パルプと漂白パルプとの区別なく使用して良いし、叩解と未叩解との区別なく使用して良い。叩解されたセルロースパルプとしては、例えば、非木材パルプである草、葉、靱皮、種毛などの繊維、藁、竹、麻、バガス、エスパルト、ケナフ、楮、三椏、コットンリンターなどのパルプが挙げられる。
【0031】
本発明に用いる基材には、上記セルロースパルプに、嵩高性セルロース繊維、マーセル化されたセルロース、フラッフ化セルロース及びサーモメカニカルパルプなどの機械パルプなどからなる群から選択される少なくとも1種を添加したものを用いることができる。これらのパルプの添加によって、得られる記録媒体のインク吸収速度、インク吸収量をさらに向上させることができる。
【0032】
上記のセルロースパルプと共に軽叩解セルロースパルプを用いることもできる。本発明において、軽叩解セルロースパルプとは、木材などのチップから作った化学パルプに叩解処理をあまり行っていないパルプのことである。この軽叩解セルロースパルプは、叩解処理によって生じるフィブリルがあまり発生していないため、吸収性および嵩高性に優れている。軽叩解セルロースパルプとしては例えば、特開平10−77595号公報に記載されているものを用いることができる。また、軽叩解セルロースパルプとしては、カナダ標準濾水度550ml以上のパルプが好ましい。
【0033】
更に、本発明の記録媒体の基材には、上記したセルロースパルプに以下のようなパルプを添加してもよい。例えば、微細フィブリル化セルロース、結晶化セルロース、広葉樹または針葉樹を原料とする硫酸塩パルプ、亜硫酸塩パルプ、ソーダパルプ、ヘミセルラーゼ処理パルプ及び酵素処理化学パルプなどである。これらのパルプの添加によって、得られる記録媒体表面の平滑性向上や、地合いが良くなるといった効果がある。
【0034】
本発明では、基材を構成する繊維状物質に、必要に応じて填料を加えることができる。填料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムなどの白色顔料、シリカまたはシリケート、珪酸化合物などのシリカ系材料が挙げられる。
【0035】
填料の形状は、球状、塊形、針形など各種形状のものを用いることができる。繊維との相互作用を特に小さくするために多孔質填料を用いることもできる。好ましい填料の比表面積は50m2/g以上である。填料の添加量は灰分換算で基材全体の5質量%以上、20質量%以下が好ましい。5質量%以上では繊維の変形を抑制する効果が特に高く、20質量%以下では、紙粉の発生量の増加を容易に防ぐことができる。灰分の測定はJIS P8128に従って行うことができる。また、本発明では、記録媒体のインク吸収速度を特に速くするために、填料を添加しなくてもよい。
【0036】
本発明の記録媒体に含まれる基材は、基材材料と、必要に応じて添加した上記多孔質填料とを混合して抄紙することにより製造することができる。本発明に用いる基材の坪量は、坪量が少ないことにより記録媒体が極端に薄くならない範囲で適宜選択することができる。この中でも、坪量は10g/m2以上であることが好ましく、20g/m2以上であることがより好ましい。10g/m2以上であれば適度な記録媒体の風合い、折り曲げの強度、引っ張り強度を容易に得ることができる。また、坪量は、200g/m2以下であることが特に好ましい。200g/m2以下であれば、適度な柔軟性を容易に得ることができ、プリンターの搬送時にジャムなどがより発生しにくくなる。
【0037】
<記録媒体の製造方法>
本発明の記録媒体は、以下の工程を有する製造方法により作製することができる。
(1)第2・3族元素化合物、およびシランカップリング剤を用意する工程。
(2)前記第2・3族元素化合物およびシランカップリング剤を用いて複合化合物を作製する工程。
(3)前記複合化合物、無機顔料およびバインダーを含む塗工液を調製する工程。
(4)基剤上に前記塗工液を用いてインク受容層を形成する工程。
【0038】
以下に本発明の記録媒体の製造方法について詳しく説明する。
【0039】
(基材の製造方法)
本発明の記録媒体に用いる基材の製造方法には、一般的に用いられている紙の製造方法を適用することができる。抄紙装置としては、例えば長網抄紙機、丸網抄紙機、円胴、ツインワイヤーなどが挙げられる。
【0040】
本発明の記録媒体では、通常の紙の製造方法で行われるサイズプレス工程を用いて基材上に、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、アルミナ、シリカ、シリケート、等の多孔質材料を塗工してもよい。この塗工には一般的な塗工方法を選択して用いることができる。例えばゲートロールコーター、サイズプレス、バーコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、スプレー装置などによる塗工技術を用いることができる。
【0041】
本発明で形成された基材はカレンダー処理、熱カレンダー処理やスーパーカレンダー処理を行って表面を平滑にすることができる。
【0042】
(インク受容層の形成方法)
本発明の記録媒体において、基材上にインク受容層を設ける方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。即ち、まず、Mg、Ca、Sr、Y、LaおよびCeなどの元素周期表の第2族および第3族から選ばれる元素を含む化合物と、シランカップリング剤とから形成された化合物(複合化合物)を作製する。続いて、その複合化合物、無機顔料、バインダー、および必要に応じてその他の添加剤などの原料を混合して、これらの原料からなる水分散液(塗工液)を作り、その水分散液を塗工機で基材上に塗布、乾燥する方法を用いることができる。この際に用いる塗工方法としては、例えば以下のような方法が挙げられる。即ち、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーターブラッシュコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、スプレー装置。
前記水分散液の塗布量は、乾燥固形分換算で、5g/m2以上45g/m2以下が好ましい。5g/m2以上とすることで、インク吸収性を容易に良好なものとすることができる。また、45g/m2以下とすることで、コックリングの発生を特に抑制できる。また、インク受容層の形成後に、カレンダーロールなどを用いてインク受容層の表面平滑性を良くしてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
イオン交換水30gに、第2・3族元素化合物として、酢酸マグネシウム・4水和物1.07gを加え、ホモミキサー(プライミクス社製、T.K.ロボミックス)で攪拌して酢酸マグネシウム水溶液を調製した。更に、この水溶液に、シランカップリング剤として、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−903)0.44gを徐々に添加した。その後、5時間攪拌して、酢酸マグネシウム・4水和物と3−アミノプロピルトリエトキシシランとから形成された複合化合物を含む懸濁液を作製した。
次に、イオン交換水220gに、氷酢酸1.2gと、無機顔料としてアルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)60gとを加え、ホモミキサーで攪拌しながら、その分散液に、前記複合化合物を含む懸濁液を添加した。更に、イオン交換水と氷酢酸とを加えて、pH4.5、固形分濃度16質量%に調整した顔料分散体を作製した。
次いで、別途、バインダーとして、ポリビニルアルコールPVA235(商品名、クラレ(株)製、重合度:3500、ケン化度:88%)をイオン交換水中に溶解させて、固形分濃度8.0質量%のPVA水溶液を得た。
そして、前記顔料分散体に、前記PVA溶液を、アルミナ水和物の固形分(100質量%とする)に対してPVA固形分換算で10質量%となるように混合した。さらに、3.0質量%ホウ酸水溶液を、アルミナ水和物の固形分(100質量%とする)に対してホウ酸固形分換算で1.5質量%となるように混合して塗工液を作製した。得られた塗工液を、基材である厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人デュポン社製、メリネックス705(商品名))の片面に塗工後、110℃で乾燥した。そして、酢酸マグネシウム・4水和物と3−アミノプロピルトリエトキシシランとから形成された複合化合物が付着したアルミナ水和物をインク受容層に含むインクジェット記録媒体を作製した。尚、インク受容層の乾燥塗工量は35g/m2とした。また、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により、インク受容層のAlに対するMgの原子数比率(Mg/Al)は0.005であることが確認できた。また、複合化合物がアルミナ水和物に付着していることは、アンモニアガスを用いた昇温脱離試験(TPD測定)で、複合化合物が付着していないアルミナ水和物に比べて、アンモニアの物理吸着量が減少したことより確認した。
なお、表1中の第2・3族の金属化合物とは、第2・3族元素化合物を意味する。
【0045】
(実施例2)
イオン交換水30gに、第2・3族元素化合物として、酢酸カルシウム・1水和物0.44gを加え、ホモミキサー(プライミクス社製、T.K.ロボミックス)で攪拌して酢酸カルシウム水溶液を調製した。更に、この水溶液に、シランカップリング剤として、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−903)0.22gを徐々に添加した。その後に5時間攪拌して、酢酸カルシウム・1水和物と3−アミノプロピルトリエトキシシランとから形成された複合化合物を含む懸濁液を作製した。
【0046】
次に、別途、イオン交換水250gに、以下の材料を混合して、遊星型ボールミル(P−6、商品名、フリチュ社製)と粒子径5mmのジルコニアビーズを用いて200rpmで5分間処理して、シリカ微粒子分散体を作製した。
無機顔料として、気相法シリカ(商品名:アエロジル380、日本アエロジル株式会社製)30g。
カチオン性ポリマーとして、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(商品名:シャロールDC902P、第一工業製薬株式会社製)1.2g。
このシリカ微粒子分散体に、前記酢酸カルシウム・1水和物と3−アミノプロピルトリエトキシシランから形成された複合化合物を含む懸濁液を添加し、更にイオン交換水を固形分濃度10質量%になるように添加した。そして、遊星型ボールミル(P−6、商品名、フリチュ社製)と粒子径5mmのジルコニアビーズを用いて200rpmで5分間処理して顔料分散体を作製した。
【0047】
次いで、別途、ポリビニルアルコールPVA235(商品名、クラレ(株)製、重合度:3500、ケン化度:88%)をイオン交換水中に溶解させて、固形分濃度8.0質量%のPVA水溶液を得た。そして、上記で調製した顔料分散体に前記PVA溶液を、気相法シリカの固形分に対してPVA固形分換算で20質量%となるように混合した。さらに、3.0質量%ホウ酸水溶液を、気相法シリカの固形分に対してホウ酸固形分換算で4.0質量%となるように混合して、塗工液を作製した。得られた塗工液を基材である厚さ100μmのPETフィルム(帝人デュポン社製、メリネックス705(商品名))の片面に塗工後、110℃で乾燥した。そして、酢酸カルシウム・1水和物と3−アミノプロピルトリエトキシシランとから形成された複合化合物が付着したシリカをインク受容層に含むインクジェット記録媒体を作製した。尚、インク受容層の乾燥塗工量は35g/m2とした。また、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により、インク受容層のSiに対するCaの原子数比率(Ca/Si)は0.005であることが確認できた。また、複合化合物がシリカに付着していることは、アンモニアガスを用いた昇温脱離試験(TPD測定)で、複合化合物が付着していないシリカに比べて、アンモニアの物理吸着量が減少したことより確認した。
【0048】
(実施例3〜4)
酢酸マグネシウム・4水和物1.07gを、酢酸ストロンチウム・0.5水和物1.07g、および酢酸ランタン・1.5水和物1.72gにそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして実施例3および4のインクジェット記録媒体を作製した。なお、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により、インクジェット記録媒体のインク受容層のAlに対するSrおよびLaのそれぞれの原子数比率(Sr/Al、およびLa/Al)は共に0.005であることが確認できた。
【0049】
(実施例5)
第2・3族元素化合物を含むゾルとして、酸化イットリウムゾル11.3gをホモミキサー(プライミクス社製、T.K.ロボミックス(商品名))で攪拌しながら、シランカップリング剤として、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBM−803)0.39gを徐々に添加した。その後、5時間攪拌して、複合化合物として、酸化イットリウムと3−メルカプトプロピルトリメトキシシランとから形成された複合化合物を含む懸濁液を作製した。なお、酸化イットリウムゾルは、イオン交換水に濃度が10質量%になるように酸化イットリウムを分散させたゾルであり、用いた酸化イットリウムの平均粒子径は100nmであった。
次に、別途、イオン交換水500gに、無機顔料として、アルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)60gを加えた。これをホモミキサーで攪拌しながら、前記酸化イットリウムと3−メルカプトプロピルトリメトキシシランとから形成された複合化合物を含む懸濁液を添加し、スプレードライ法で乾燥して、前記複合化合物が付着したアルミナ水和物を作製した。なお、乾燥温度(気相温度)は170℃とした。
次に、イオン交換水に、氷酢酸と、前記スプレードライ法で乾燥した複合化合物が付着したアルミナ水和物とを、pH4.5、固形分濃度が20質量%になるように加えて、ホモミキサーで攪拌して、顔料分散体を作製した。
次いで、別途、バインダーとして、ポリビニルアルコールPVA235(商品名、クラレ(株)製、重合度:3500、ケン化度:88%)をイオン交換水中に溶解させて、固形分濃度8.0質量%のPVA水溶液を得た。
そして、前記顔料分散体に、前記PVA溶液を、アルミナ水和物の固形分に対してPVA固形分換算で10質量%となるように混合した。さらに、3.0質量%ホウ酸水溶液を、アルミナ水和物の固形分に対してホウ酸固形分換算で1.5質量%となるように混合して塗工液を作製した。得られた塗工液を厚さ100μmのPETフィルム(帝人デュポン社製、メリネックス705(商品名))の片面に塗工後、110℃で乾燥して、乾燥塗工量35g/m2のインク受容層を有するインクジェット記録媒体を作製した。なお、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により、インク受容層のAlに対するYの原子数比率(Y/Al)は0.01であることが確認できた。
【0050】
(実施例6)
実施例5の酸化イットリウムゾル11.3gと3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン0.39gを、酸化セリウムゾル17.25gと3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBM−403)0.84gに変更した。なお、実施例6に用いた酸化セリウムゾルは、イオン交換水に酸化セリウムを分散させた濃度15質量%のゾルであり、用いた酸化セリウムの平均粒子径は8nmであった。それ以外は実施例5と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。なお、誘導結合プラズマ発光分析(ICP−OES)により、インク受容層のAlに対するCeの原子数比率(Ce/Al)は0.015であることが確認できた。
【0051】
(比較例1)
イオン交換水244.8gに、氷酢酸1.2gと、無機顔料としてアルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)60gとを加え、ホモミキサーで攪拌して、pH4.5、固形分濃度20質量%に調整した顔料分散体を作製した。この顔料分散体を実施例1の顔料分散体の代わりに用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0052】
(比較例2)
イオン交換水280.8gに、以下の材料を混合して、遊星型ボールミル(P−6、商品名、フリチュ社製)と粒子径5mmのジルコニアビーズを用いて200rpmで5分間処理して、顔料分散体を作製した。
気相法シリカ(商品名:アエロジル380、日本アエロジル株式会社製)30g。
ジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(商品名:シャロールDC902P、第一工業製薬株式会社製)1.2g。
この顔料分散体を実施例2の顔料分散体の代わりに用いた以外は、実施例2と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0053】
(比較例3)
イオン交換水249gに、氷酢酸1.2g、アルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)60g、及び酢酸マグネシウム・4水和物1.07gを加え、ホモミキサーで攪拌した。この分散液に、更に、イオン交換水と氷酢酸とを加えて、pH4.5、固形分濃度20質量%に調整した顔料分散体を作製した。この顔料分散体を実施例1の顔料分散体の代わりに用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0054】
(比較例4)
イオン交換水288.7gに、以下の材料を混合して、遊星型ボールミル(P−6、製品名、フリチュ社製)と粒子径5mmのジルコニアビーズを用いて200rpmで5分間処理して、顔料分散体を作製した。
気相法シリカ(商品名:アエロジル380、日本アエロジル株式会社製)30g。
ジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(商品名:シャロールDC902P、第一工業製薬株式会社製)1.2g。
酢酸カルシウム・1水和物0.44g。
この顔料分散体を実施例2の顔料分散体の代わりに用いた以外は、実施例2と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0055】
(比較例5〜6)
酢酸マグネシウム・4水和物1.07gを、酢酸ストロンチウム・0.5水和物1.07gおよび酢酸ランタン・1.5水和物1.72gにそれぞれ変更した以外は比較例3と同様にして比較例5および6の各インクジェット記録媒体を作製した。
【0056】
(比較例7)
イオン交換水200gに、氷酢酸1.2g、アルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)60g、及び酸化イットリウムゾル11.3gを加え、ホモミキサーで攪拌した。それに更に、イオン交換水と氷酢酸とを加えて、pH4.5、固形分濃度20質量%に調整した顔料分散体を作製した。なお、比較例7に用いた酸化イットリウムゾルは、イオン交換水に酸化イットリウムを分散させた濃度10質量%のゾルであり、用いた酸化イットリウムの平均粒子径は100nmであった。この顔料分散体を実施例1の顔料分散体の代わりに用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0057】
(比較例8)
酸化イットリウムゾル11.3gを、酸化セリウムゾル(イオン交換水に酸化セリウムを分散させた濃度15質量%のゾル、酸化セリウムの平均粒子径は8nm)17.25gに変更した以外は比較例7と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0058】
(比較例9)
イオン交換水246gに、氷酢酸1.2g、アルミナ水和物(Sasol社製、商品名:Disperal HP14)60g、及び3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBE−903)0.44gを加えた。そしてホモミキサーで攪拌し、更に、イオン交換水と氷酢酸とを加えて、pH4.5、固形分濃度20質量%に調整した顔料分散体を作製した。この顔料分散体を実施例1の顔料分散体の代わりに用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録媒体を作製した。
【0059】
(比較例10〜11)
比較例9の3−アミノプロピルトリエトキシシラン0.44gを、それぞれ以下のものに変更した。即ち、比較例10では、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBM−803)0.39g。比較例11では、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名:KBM−403)0.56g。それ以外は比較例9と同様にして比較例10および11のインクジェット記録媒体をそれぞれ作製した。
【0060】
〔インクジェット記録媒体の評価〕
上記実施例1〜6、及び比較例1〜11で作製したインクジェット記録媒体を用い、
1)記録物の光学濃度、2)耐オゾン性、3)高温高湿環境下での熱湿滲み、の3項目を評価した。得られた評価結果を表1にまとめた。
【0061】
1)光学濃度
上記実施例1〜6、及び比較例1〜11で作製した各インクジェット記録媒体の記録面(インク受容層を有する面)に、ブラックのベタ画像の印字を行った。その際、インクジェット方式を用いたフォト用プリンタ(商品名:PIXUS iP4600、インク:BCI−321、キヤノン製)を用いた。この後、ブラック印字部の反射濃度をX−Rite社製310TR(商品名)で測定した。
【0062】
2)耐オゾン性
(耐オゾン性評価のための記録物の作製)
上記実施例1〜6、及び比較例1〜11で作製した各インクジェット記録媒体の記録面に、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー各色の単色パッチを、印字濃度(OD)がそれぞれほぼ1.0になるように印字して、記録物を作製した。なお、印字は、インクジェット方式を用いたフォト用プリンタ(商品名:PIXUS iP4600、インク:BCI−321、キヤノン製)を用いた。
(耐オゾン性試験)
上記の記録物に対して、オゾンウエザオメーター(型式:OMS−HS、スガ試験機社製)を用いて、オゾン暴露試験を行った。
・試験条件
暴露ガス組成:オゾン2.5体積ppm、
試験時間:64時間、
試験槽内温湿度条件:23℃、50%RH(相対湿度)。
(耐オゾン性の評価方法)
上記の記録物の試験前後の画像濃度を分光光度計(商品名:スペクトリノ、グレタグマ
クベス社製)を用いて測定し、次の式より濃度残存率を求め、以下に記述する判定基準に
基づき判定した。
濃度残存率(%)=(試験後の画像濃度/試験前の画像濃度)×100。
[判定基準]
A シアン濃度残存率95%以上。
B シアン濃度残存率90%以上95%未満。
C シアン濃度残存率90%未満。
【0063】
3)高温高湿環境下での熱湿滲み
(熱湿滲み評価)
上記実施例1〜6及び比較例1〜11で作製した各インクジェット記録媒体の記録面に、インク打ち込み量200%の黒色パッチを印字した印画物を、気温30℃、相対湿度80%の環境に1週間保管し、黒色パッチ周囲のマイグレーションの状態を目視で観察した。なお、印字は、インクジェット方式を用いたフォト用プリンタ(商品名:PIXUS iP4600、インク:BCI−321、キヤノン製)を用いた。
[判定基準]
A にじみがほぼ視認できない。
B にじみは視認できるが、僅かである。
C にじみが大きい。
【0064】
【表1】

【0065】
表1の結果より、実施例1〜6のインクジェット記録媒体は、高温高湿環境下での熱湿滲みも良好であり、第2および3族の金属化合物およびシランカップリング剤を使用しなかった比較例1、2に比べて耐オゾン性が良好である。なお、実施例1〜6は、インク受容層に、無機顔料と、Mg、Ca、Sr、La、Y、またはCeを含む化合物およびシランカップリング剤から形成された複合化合物と、バインダーとを含む。また、これらの記録媒体では、Mg、Ca、Sr、Y、La、またはCeを含む複合化合物とシランカップリング剤とから形成された化合物が無機顔料に付着していた。一方、シランカップリング剤を含まず、第2および3族の金属化合物を含むインクジェット記録媒体(比較例3〜8)は、耐オゾン性は良いが、熱湿滲みが低下した。また、第2および3族の金属化合物を含まず、シランカップリング剤を含むインクジェット記録媒体(比較例9〜11)は十分な耐オゾン性が得られなかった。
【符号の説明】
【0066】
100 基材
101 インク受容層
102 インクジェット記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面にインク受容層を設けた記録媒体であって、
該インク受容層が、少なくとも(a)無機顔料、(b)元素周期表の第2族および第3族から選ばれる元素を含む化合物とシランカップリング剤とから形成された複合化合物、ならびに(c)バインダーを含み、かつ、該複合化合物が、該無機顔料に付着していることを特徴とする記録媒体。
【請求項2】
前記複合化合物が、水またはアルコール水溶液と、前記元素周期表の第2族および第3族から選ばれる元素を含む化合物とを含む溶液あるいは分散液中で、シランカップリング剤を加水分解、および縮合反応して作製した複合化合物である請求項1に記載の記録媒体。
【請求項3】
前記元素周期表の第2族および第3族から選ばれる元素が、Mg、Ca、Sr、Y、La、およびCeから選ばれる少なくとも1種の元素である請求項1または2に記載の記録媒体。
【請求項4】
前記無機顔料が、アルミナ水和物、およびシリカの少なくとも一方であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−218580(P2011−218580A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87004(P2010−87004)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】