説明

記録用シート及びその製造方法

【課題】インク吸収層に含有される水溶性アルミニウム化合物の濃度分布が支持体側に所定の濃度分布を有して偏在しているので、インクの発色性、高湿にじみ、耐水性、及びインク吸収性が顕著に改善されている。
【解決手段】支持体12上に、無機微粒子と水溶性樹脂と水溶性アルミニウム化合物とを含むインク吸収層3が設けられると共に、水溶性アルミニウム化合物の濃度分布が支持体12側に偏在して成る記録用シートにおいて、インク吸収層3の表面側から層厚み30%までの表面側層内における水溶性アルミニウム化合物の含有量が、インク吸収層3の支持体側から層厚み30%までの支持体側層内における水溶性アルミニウム化合物含有量の60%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録用シート及びその製造方法に係り、特に、支持体上に、無機微粒子と水溶性樹脂と水溶性アルミニウム化合物とを含むインク吸収層が設けられると共に、水溶性アルミニウム化合物の濃度分布が支持体側に偏在して成る記録用シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、低騒音性にすぐれ、ランニングコストが安く、多種多様の記録用シートに対して高品位な画像を記録できることから幅広く利用されている。
【0003】
インクジェット記録装置の記録用シート(記録用紙)としては、シリカ等の無機微粒子とポリビニルアルコール等の親水性バインダーを含有する多孔質のインク吸収層を支持体上に備えたものが好ましく使用されている。かかる記録用シートでは、記録用シートの品質改良を目的として水溶性アルミニウム化合物をインク吸収層に含有させることが知られている。
【0004】
インク吸収層に水溶性アルミニウム化合物を含有させた記録用シートとしては、特許文献1がある。特許文献1では、支持体上に微粒子シリカを主体に含有するインク吸収層を少なくとも2層形成し、支持体から離れたインク吸収層に水溶性ジルコニウムを含有させ、且つインク吸収層全体における水溶性アルミニウム化合物の濃度分布が支持体に近い部分により多く偏在するようにしている。これにより、製造された記録用シートの発色性、高湿にじみ、耐水性、及びインク吸収性において品質改善を行うことができるとされている。
【0005】
また、特許文献1では、水溶性アルミニウム化合物の濃度分布を支持体側に偏在させるため、インク吸収層を乾燥させる前に10℃で20秒間冷却した後、30〜55℃の低温の加熱空気を吹き付けて乾燥している。即ち、特許文献1ではインク吸収層を冷却して増粘した状態のまま、低温の状態を維持したまま乾燥することで、水溶性アルミニウム化合物の拡散を抑制し、支持体側に偏在させているものと考察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−110771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示されている、インク吸収層を30〜55℃の低温で緩速乾燥する方法でも、インク吸収層内で水溶性アルミニウム化合物の拡散は十分には抑制できず、水溶性アルミニウム化合物を支持体側に効果的に偏在させることができないという欠点がある。この結果、製造された記録用シートの上記した品質改善を十分に達成できない。
【0008】
また、特許文献1は、インク吸収層を一旦冷却してから加熱して乾燥しなくてはならず、さらに長時間かけて乾燥することになるため、大きなエネルギーを必要とするという欠点がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、インク吸収層に含有される水溶性アルミニウム化合物の濃度分布が支持体側に所定の濃度分布を有して偏在しているので、インクの発色性、高湿にじみ、耐水性、及びインク吸収性に優れ、且つ製造の際の乾燥エネルギーを削減できる記録シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、支持体上に、無機微粒子と水溶性樹脂と水溶性アルミニウム化合物とを含むインク吸収層が設けられると共に、該インク吸収層での前記水溶性アルミニウム化合物の濃度分布が前記支持体側に偏在して成る記録用シートにおいて、前記インク吸収層の表面側から層厚み30%までの表面側層内における水溶性アルミニウム化合物の含有量が、前記インク吸収層の支持体側から層厚み30%までの支持体側層内における水溶性アルミニウム化合物含有量の60%以下であることを特徴とする記録用シートを提供する。
【0011】
本発明の請求項1の記録用シートによれば、インク吸収層の表面側から層厚み30%までの表面側層内における水溶性アルミニウム化合物の含有量が、前記インク吸収層の支持体側から層厚み30%までの支持体側層内における水溶性アルミニウム化合物含有量の60%以下になるようにしたので、インクの発色性、高湿にじみ、及びインク吸収性を従来よりも顕著に改善できる。
【0012】
本発明において、インク吸収層の表面側から層厚み30%までの表面側層内における水溶性アルミニウム化合物の含有量が、前記インク吸収層の支持体側から層厚み30%までの支持体側層内における水溶性アルミニウム化合物含有量の50%以下とすると、印画濃度がさらに向上してより好ましい。
【0013】
本発明の請求項2は前記目的を達成するために、支持体上に、無機微粒子と水溶性樹脂と水溶性アルミニウム化合物とを含むインク吸収層が設けられると共に、該インク吸収層での前記水溶性アルミニウム化合物の濃度分布が前記支持体側に偏在して成る記録用シートの製造方法において、連続走行する帯状の前記支持体上にインク吸収層用塗布液を塗布する第1の塗布工程と、前記支持体上に塗布形成されたインク吸収層の含水分率が18〜30質量%の範囲に乾燥されるまで該インク吸収層を平均乾燥速度1〜3g/m・秒で急速乾燥させる乾燥工程と、前記急速乾燥後10秒以内に、前記生乾き状態のインク吸収層の上に該インク吸収層を硬膜化するための硬膜化塗布液を塗布する第2の塗布工程と、を備えたことを特徴とする記録用シートの製造方法を提供する。
【0014】
本発明の請求項2によれば、支持体上に塗布形成したインク吸収層の含水分率が18〜30質量%の範囲に乾燥されるまで該インク吸収層を平均乾燥速度1〜3g/m・秒で急速乾燥させるようにした。この急速乾燥により、インク吸収層内の水溶性アルミニウム化合物の濃度分布を支持体側に効果的に偏在させることができる。そして、急速乾燥後10秒以内に、生乾き状態のインク吸収層の上に該インク吸収層を硬膜化するための硬膜化塗布液を塗布するようにした。
【0015】
これにより、インク吸収層の水溶性アルミニウム化合物が偏在状態にあるうちにインク吸収層が硬化するので、偏在状態を固定化することができる。この結果、インク吸収層において水溶性アルミニウム化合物の濃度分布を支持体側に好ましく偏在させた請求項1の記録用シートを製造することができる。
【0016】
また、水溶性アルミニウム化合物を支持体側に偏在させるために、従来技術のようにインク吸収層を一旦冷却してから加熱して乾燥する必要がなく、比較的短時間で乾燥が可能なため、乾燥エネルギーを削減できる。
【0017】
本発明の製造方法において、インク吸収層における水溶性アルミニウム化合物の好ましい偏在状態は、前記インク吸収層の表面側から層厚み30%までの層内における水溶性アルミニウム化合物の含有量が、前記インク吸収層の支持体側から層厚み30%までの層内における水溶性アルミニウム化合物含有量の60%以下であることが好ましい。
【0018】
これにより、記録用シートの発色性、高湿にじみ、及びインク吸収性を一層改善できるからである。
【0019】
本発明の製造方法において、前記乾燥工程は、熱風平均温度が50〜120℃の熱風を前記インク吸収層に吹き付ける熱風乾燥方法であることが好ましい。
【0020】
インク吸収層を平均乾燥速度1〜3g /m・秒で乾燥できる乾燥方法であればどのような方法でもよいが、通常の乾燥方法である高温熱風乾燥を行っても、インク吸収層内の水溶性アルミニウム化合物の濃度分布を好ましい状態に偏在させることができる。したがって、既存の熱風乾燥装置の条件を変えるだけで本発明を実施することができるので、特別な乾燥装置を設けたり、乾燥装置の改造を行ったりする必要がない。
【0021】
本発明の製造方法は、インク吸収層が複数層で形成されている場合にも適用できる。例えば、インク吸収層が2層で形成されている場合には、本発明を適用することにより、支持体に近い下層に水溶性アルミニウム化合物の濃度分布を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の記録用シート及びその製造方法によれば、インク吸収層に含有される水溶性アルミニウム化合物の濃度分布が支持体側に所定の濃度分布を有して偏在しているので、インクの発色性、高湿にじみ、耐水性、及びインク吸収性に優れている。また、記録用シートの製造の際のエネルギーを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の記録用シートのインク吸収層における水溶性アルミニウム化合物の好ましい偏在状態を説明する断面図
【図2】本発明の記録用シートの製造方法を実施するための製造装置の全体構成を示す概念図
【図3】本発明における乾燥装置の一例を説明する概念図
【図4】本発明の実施例を説明する表図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面により本発明の記録用シート及びその製造方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0025】
本発明の記録用シート1は、支持体12上に、無機微粒子と水溶性樹脂と水溶性アルミニウム化合物とを含むインク吸収層3が設けられると共に、該インク吸収層3での水溶性アルミニウム化合物の濃度分布が支持体12側に偏在している。
【0026】
図1のインク吸収層3の断面図に示すように、水溶性アルミニウム化合物の偏在状態は次のようになることが重要である。
【0027】
即ち、インク吸収層3の層厚をAとしたときに、インク吸収層3の表面側3A(支持体反対側)から層厚み30%までの表面側層B内における水溶性アルミニウム化合物の含有量が、インク吸収層3の支持体12側から層厚み30%までの支持体側層C内における水溶性アルミニウム化合物含有量の60%以下である。
【0028】
ここで、インク吸収層における水溶性アルミニウム化合物の平均含有量は、微粒子シリカに対して0.5〜15質量%の範囲が好ましく、1〜10質量%の範囲がより好ましい。
【0029】
かかる水溶性アルミニウム化合物の濃度分布を有するインク吸収層3を備えた記録用シートは、インクの発色性、高湿にじみ、及びインク吸収性を顕著に改善できる。
【0030】
水溶性アルミニウム化合物のインク吸収層3における濃度分布は、例えば、ミクロトームなどにより作製したインク吸収層3の断面試料について、EMPA(ElectronProbe Micro Analyser)などにより、インク吸収層の厚さ方向にアルミニウム元素の測定を行うことで評価することができる。
【0031】
以下に上記の如く特徴を有する本発明の記録用シートの製造方法について説明する。
【0032】
図2は、本発明の記録用シートの製造方法を実施する製造装置の全体構成を示す概念図である。
【0033】
[色材受容層用塗布液の塗布]
図2に示すように、送出し装置10から送り出された支持体12は、先ずインク吸収層用塗布装置14により、無機微粒子と水溶性樹脂と水溶性アルミニウム化合物とを含むインク吸収層用塗布液が塗布される。
【0034】
図2は、インク吸収層用塗布装置14としてスライド塗布装置を使用した場合であり、塗布液はスライド塗布装置の塗布ヘッド16内に形成されたマニホールド18に供給されて支持体12の幅方向に拡流された後、スリット20を通ってスライド面22に押し出され、スライド面22を流下する。スライド面22を流下した塗布液は、スライド面先端部と、コーティングロール24に係合支持された支持体12との隙間部分に塗布液ビードを形成し、この塗布液ビードを介して支持体12上に塗布される。これにより、支持体12上に、塗布量が例えば100〜300g/m2 程度のインク吸収層3が塗布形成される。
【0035】
尚、図1ではインク吸収層用塗布装置14としてスライド塗布装置を使用したが、エクストルージョン塗布装置、カーテン塗布装置、バー塗布装置等の各種の塗布装置を使用することもできる。
【0036】
また、本発明で使用される無機微粒子の例としては、シリカ微粒子、コロイダルシリカ、珪酸カルシウム、ゼオライト、カオリナイト、ハロイサイト、白雲母、タルク、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ベーマイト、擬ベーマイト等を挙げることができる。透明性を低下させない観点から、屈折率が1.40〜1.60の範囲にあることが好ましい。これらの中で、シリカ微粒子が特に好ましい。また、無機微粒子の平均一次粒子径は、20nm以下、好ましくは10nm以下、特に好ましくは3nm以下が良く、また、屈折率は1.45付近であることが好ましい。
【0037】
また、本発明で使用される水溶性樹脂の例としては、親水性構造単位として、ヒドロキシル基を有する樹脂である、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース系樹脂〔メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等〕、キチン類、及びデンプン;エーテル結合を有する樹脂である、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、及びポリビニツエーテル(PVE);そしてアミド基又はアミド結合を有する樹脂である、ポリアクリルアミド(PAAM)、及びポリビニルピロリドン(PVP)を挙げることができる。また、解離性基として、カルボキシル基を有する、ポリアクリル酸塩、マレイン酸塩、アルギン酸塩及びゼラチン類;スルホン酸基を有する、ポリスチレンスルホン酸塩、アミノ基、イミノ基、第3アミン及び第4級アンモニウム塩を有するポリアリルアミン(PAA)、ポリエチレンイミン(PEI)、エポキシ化ポリアミド(EPA)、ポリビニルピリジン及びゼラチン類を挙げることができる。
【0038】
また、本発明で使用される支持体12としては、WP紙やPET等の樹脂フィルムを好適に使用することができるが、これ以外の上質紙等でもよい。支持体の幅は500mm〜2000mmのものを好適に使用できる。
【0039】
[インク吸収層の急速乾燥]
次に、インク吸収層3が形成された支持体12は、乾燥装置26によって、インク吸収層3の含水率が18〜30質量%の範囲に乾燥されるまで該インク吸収層3が平均乾燥速度1〜3g/m・秒で急速乾燥される。
【0040】
この乾燥により、インク吸収層3内の水溶性アルミニウム化合物の濃度分布を支持体12側に効果的に偏在させることができる。この場合、平均乾燥速度が1g/m・秒未満では、インク吸収層3内の水溶性アルミニウム化合物が支持体12側に偏在しにくくなる。また、平均乾燥速度3g/m・秒を超えて水溶性アルミニウム化合物が支持体12側に集中的に偏在すると、インク吸収層3の塗膜強度が低下して塗膜表面が割れたり、剥がれたりして面状故障となる。また、インク吸収層3表面にバインダー皮膜が形成され、インク吸収能力が低下する場合がある。
【0041】
乾燥装置26としては、平均乾燥速度1〜3g/ m・秒で乾燥できる装置であればどのようなものでもよいが、例えば図3の概念図に示す熱風式の乾燥装置26を使用することができる。
【0042】
図3の熱風式の乾燥装置26は、乾燥ゾーン26Aの入口26B側から出口26C側に向けて支持体12が走行し、支持体12の走行方向で且つインク吸収層3の面側に、熱風の吹出口26Dと排気口26Eとが交互に多段設置される。なお、吹出口26Dに熱風を供給する供給ライン及び排気口26Eから排気される熱風の排気ラインについては省略してある。
【0043】
図3のような乾燥装置26であれば、熱風温度50〜120℃、乾燥風速4〜20m/秒の範囲で乾燥条件を調節することにより、平均乾燥速度1〜3g/m・秒を容易に実現できる。この場合、塗布液に流動性がある乾燥初期には、乾燥温度、風速とも高めに設定し、乾燥後半ほど、低めに設定するのが良い。更には、支持体裏面からの熱風吹き出し、ヒートロールなどの裏面加熱方式も合わせて用いることにより、バインダー皮膜の形成を抑制することができ、より早く乾燥させることが可能である。
【0044】
[硬膜化塗布液の塗布]
次に、図2に示すように、乾燥装置26の後段に設けられた硬膜化塗布液の塗布装置28によって、急速乾燥後10秒以内に、生乾き状態のインク吸収層3の上に塗布装置28よって該インク吸収層3を硬膜化するための硬膜化塗布液が塗布される。
【0045】
ここでいう生乾き状態とは、インク吸収層を塗布した後、熱風乾燥装置などである程度乾燥を進めた状態であり、塗布膜の流動性が未だ残っている状態をいう。
【0046】
そして、ここでいう硬膜化とは、生乾き状態の塗布液に増粘、凝集、硬膜などの現象を発生させて、塗布膜の流動性を止めることをいう。
【0047】
また急速乾燥された後10秒以内との技術的な意味は、インク吸収層3が塗られた支持体12に硬膜化塗布液が塗布される前に一旦乾燥装置を出て、乾燥速度が0.2g/m・秒以下になってから10秒以内ということである。換言すると、実質的に乾燥が停止してからの時間(乾燥停止時間)10秒以内で硬膜化塗布液を塗布するという意味である。
【0048】
上記の乾燥停止時間が短いほど、乾燥中に形成された水溶性アルミニウム化合物の分布が維持されるため、より偏在割合を大きくできるので、急速乾燥された後5秒以内がさらに好ましい。
【0049】
インク吸収層3を硬膜化するための硬膜化塗布液は、インク吸収層の成分と反応して硬膜する成分が含まれている塗布液だけではなく、たとえばインク吸収層のpHを変えることにより、インク吸収層の硬膜を開始させる機能を持った塗布液も含まれる。
【0050】
本発明で用いられる硬膜化塗布液の代表的なものは、アンモニアを含有した塗布液である。シリカ微粒子、ポリビニルアルコールを主体としたインク吸収層塗布液は酸性を示すため、硬膜化剤である硼酸を含有していても硬膜は進行しない。インク吸収層が生乾きの状態で、アンモニアを含有した硬膜化塗布液をインク吸収層上に塗布すると、インク吸収層は中性となり、硬膜が急速に進行する。もちろん硬膜化剤は硬膜化塗布液内に含まれていても良い。
【0051】
インク吸収層塗布液、あるいは硬膜化塗布液に含有される硬膜化剤の例としては、硼酸、硼酸塩〔例えば、オルト硼酸塩、InBO3 、ScBO3 、YBO3 、LaBO3 、Mg3 (BO32 、Co3 (BO32 〕、二硼酸塩〔例えば、Mg225 、Co225 〕、メタ硼酸塩〔例えば、LiBO2 、Ca(BO22 、NaBO2 、KBO2 〕、四硼酸塩〔例えば、Na247 ・10H2 O〕、五硼酸塩〔例えば、KB58 ・4H2 O、Ca2611・7H2 O、CsB55 〕、グリオキザール、ミラミン・ホルムアルデヒド〔例えば、メチロールメラミン、アルキル化メチロールメラミン、〕、メチロール尿素、レゾール樹脂、ポリイソシアネート等を挙げることができる。これらの中で、硼酸或いは硼酸塩が特に好ましい。
【0052】
ここで硬膜塗布液の塗布方法については、インク吸収層3に装置が触れることなく塗布できる方法が適切である。例えば、エクストルージョン型塗布装置、カーテン塗布装置などが好適に利用できる。また、バーコーター、ロールコーターであっても、インク吸収層との間に液膜を生成し、実質的に無接触とすることができれば用いることが可能である。
【0053】
これにより、インク吸収層3内の水溶性アルミニウム化合物が支持体側に偏在状態にあるうちにインク吸収層3が硬化するので、偏在状態のまま固定化することができる。最終的にインク吸収層3の上に塗布される硬膜化塗布液の必要塗布量は5〜50cc/m2 の範囲であることが好ましい。
【0054】
この場合、インク吸収層3の乾燥後から硬膜化塗布液を塗布するまでの時間が10秒を超えると、インク吸収層3は生乾き状態で未だ層内での流動性があるため、水溶性アルミニウム化合物が拡散してしまい、支持体12側への偏在が不十分になる。
【0055】
[スムージング・メタリング処理]
図2に示すように、硬膜化塗布液をインク吸収層3上に過剰に塗布した後、30秒以内にスムージング・メタリング処理を行って塗布量を調整することが好ましい。
【0056】
ここでスムージング・メタリング処理について詳しく説明する。
【0057】
図2に示すように、硬膜化塗布液の塗布直後に、スムージング・メタリング装置30(図1はバー方式で示してある)によりスムージング・メタリング処理を行う。この場合、硬膜化塗布液の塗布直後、好ましくは30秒以内にバー30Aによりスムージング・メタリング処理することが好ましい。
【0058】
インク吸収層塗布液の硬膜反応は一般的には早く進むため、十分硬膜が進んだ後は塗布された硬膜化塗布液は不要となる。不要な塗布液はその後の乾燥装置33での乾燥負荷を増大させるため、乾燥前にスムージング・メタリング処理によって、除去することが好ましい。
【0059】
スムージング・メタリング処理を行うためのスムージング・メタリング装置としては、バー方式、エアーナイフ方式のものがある。
【0060】
バー方式とは、丸状棒のバーの軸方向を走行する支持体12の幅方向に配置して、該支持体12に塗布形成された塗布面に接触させる方式で、バーの径は2〜200mm、好ましくは5〜50mmの丸棒状のものが良い。また、バーを、支持体12が走行する速度と同速±50%以内の周速で、支持体12と同方向又は逆方向に回転させる。このときの支持体12のバーへのラップ角度(θ)は0〜30度以内が適当である。また、必要な塗布量に合わせてワイヤーなどを巻いて巻回したワイヤー同士の間に溝を形成したり、バー自体に溝を刻設したりして、バーと塗布面が接触した際に余剰の塗布液が溝に取り込まれることによりメタリングされる。
【0061】
エアーナイフ方式とは、ナイフ状のエアーを吹き出すスロット状のエアノズルの長尺方向を、走行する支持体12の幅方向に配置して、該エアノズルからのナイフ状のエアーを塗布面に当てることにより、塗布面を均しながら塗布表層部を掻き取る方式である。エアノズルから吹き出されるエアー風速は10〜150m/秒の範囲、エアー圧力は0.01〜10kg/cm2 、特に好ましくは0.5〜5kg/cm2 の範囲がよい。また、エアノズル先端から最上層の塗布面までの距離は1〜30mmの範囲、エアノズルと塗布面とのなす角度は1〜50度の範囲に設定することが好ましい。
【0062】
但し、バー方式、エアーナイフ方式における上記条件は、a)必要な塗布量、b)インク吸収層(下層)の硬膜化塗布液層(上層)による硬化具合、c)インク吸収層塗布液や硬膜化塗布液の組成や物性、d)硬膜化塗布液を塗布形成してからスムージング・メタリング処理までの時間等に応じて、上記条件の範囲内で調整すると更によい。
【0063】
[スムージング・メタリング処理後の乾燥及び巻き取り]
次に、スムージング・メタリング処理されたインク吸収層(硬膜化塗布液が塗布後のインク吸収層)は乾燥装置33により100°C程度の風で熱風乾燥され、記録用シートの製品水分まで乾燥される。そして、乾燥装置33で乾燥された支持体12は巻取り装置34に巻き取られる。これにより、記録用シートが製造される。尚、符号36は、支持体12の走行経路を形成するガイドローラである。
【0064】
以上説明したように、本発明の記録用シートの製造方法によれば、支持体12上に塗布形成したインク吸収層3の含水分率が18〜30質量%の範囲に乾燥されるまで該インク吸収層3を平均乾燥速度1〜3g/m・秒で急速乾燥させ、乾燥後10秒以内に、生乾き状態のインク吸収層3の上に該インク吸収層3を硬膜化するための硬膜化塗布液を塗布するようにした。
【0065】
これにより、インク吸収層3の表面側から層厚み30%までの層内における水溶性アルミニウム化合物の含有量が、インク吸収層3の支持体側から層厚み30%までの層内における水溶性アルミニウム化合物含有量の60%以下である条件を満足する記録用シートを製造することができる。
【0066】
なお、本実施の形態では、インク吸収層が1層の例で説明したが、インク吸収層を複数の層で形成することもできる。例えば、インク吸収層を2層で構成し、支持体側に近い下層に水溶性アルミニウム化合物の濃度分布が大きくなるようにする場合にも、本発明の製造方法を適用できる。また、本実施の形態では、スムージング・メタリング処理後の乾燥及び巻き取りを行ったが、スムージング・メタリング処理を省略することもできる。
【実施例】
【0067】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0068】
[支持体の作製]
LBKP100部からなる木材パルプをダブルディスクリファイナーによりカナディアンフリーネス300mlまで叩解し、エポキシ化ベヘン酸アミド0.5部、アニオンポリアクリルアミド1.0部、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン0.1部、カチオンポリアクリルアミド0.5部を、いずれもパルプに対する絶乾質量比で添加し、長網抄紙機により秤量して170g/mの原紙を抄造した。
【0069】
上記原紙の表面サイズを調整するため、ポリビニルアルコール4%水溶液に蛍光増白剤(住友化学工業(株)製の「WhitexBB」)を0.04%添加し、これを絶乾重量換算で0.5g/mとなるように上記原紙に含浸させ、乾燥した後、更にキャレンダー処理を施して密度1.05に調整した基紙を得た。得られた基紙のワイヤー面(裏面)側にコロナ放電処理を行った後、溶融押出機を用いて高密度ポリエチレンを厚さ19μmとなるようにコーティングし、マット面からなる樹脂層を形成した(以下、この樹脂層面を「ウラ面」と称する。このウラ面側の樹脂層に更にコロナ放電処理を施した後、帯電防止剤として酸化アルミニウム(日産化学工業(株)製の「アルミナゾル100」)と二酸化ケイ素(日産化学工業(株)製の「スノーテックスO」)を質量比1:2で水に分散した分散液を、乾燥重量が0.2g/mになるように塗布した。
【0070】
更に、樹脂層の設けられていない側のフェルト面(表面)側にコロナ放電処理を施した後、アナターゼ型二酸化チタン10%、微量の群青、及び蛍光増白剤0.01%(対ポリエチレン)を含有する、MFR(メルトフローレート)3.8の低密度ポリエチレンを、溶融押出機を用いて、厚み29μmとなるように溶融押出し、高光沢の熱可塑性樹脂層を基紙の表面側に形成し(以下、この高光沢面を「オモテ面」と称する)、本実施例に用いる支持体とした。
【0071】
[インク吸収層用塗布液の調製]
下記「シリカ分散液A」の組成に従って、シリカ微粒子とイオン交換水とジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体(第一工業製薬(株)製、シャロールDC902P)と酢酸ジルコニルとを混合し、液液衝突型分散機(スギノマシン社製、アルティマイザー)で分散した後、分散液を45℃に加熱し、20時間保持してシリカ分散液Aを作製した。
【0072】
次いでシリカ分散液Aに下記組成からなるポリビニルアルコール(水溶性樹脂)溶解液A31部とホウ酸0.4部とカチオン変性ポリウレタン(第一工業製薬(株)製、スーパーフレックス650(25%液))2.2部とSC−505(ハイモ(株)製)0.23部とを30℃にて添加し、インク吸収層用塗布液を調製した。
【0073】
「シリカ分散液A」
(1)シリカ微粒子 8.9部
(日本アエロジル(株)製、AEROSIL300SF75、一次粒径7nm)
(2)イオン交換水 50部
(3)「シャロールDC−902P」(51.5%溶液) 0.78部
(第一工業製薬(株)製)
(4)酢酸ジルコニル(50%溶液) 0.48部
(第一稀元素化学工業(株)製、ジルコゾールZA−30)
「ポリビニルアルコール(水溶性樹脂)溶解液A」
(1)ポリビニルアルコール 2.2部
((株)クラレ製、「PVA235」、鹸化度88mol%、重合度3500)
(2)イオン交換水 28部
(3)ジエチレングリコールモノブチルエーテル 0.7部
(協和発酵ケミカル(株)製、ブチセノール20P)
(4)ポリオキシエチレンラウリルエーテル 0.1部
(花王(株)製、エマルゲン109P)
[記録用シートの作製]
上記から得たインク吸収層用塗布液200g/mに対して、下記の水溶性アルミニウム化合物を含有するインライン液を12g/mの速度でインライン混合した塗布液を、支持体12の表面にインク吸収層用塗布装置14を用いて塗布した。そして、乾燥装置26により、図4の表に示す実施例1〜3及び比較例1〜4の平均乾燥速度になる乾燥条件で塗布層(インク吸収層)の含水分率が24質量%になるまで乾燥した。乾燥直後に図4の表に示す実施例1〜3及び比較例1〜4の乾燥停止時間内に上層用塗布装置28で下記の硬膜化塗布液を50g/m塗布し、その後40g/m掻き落とし、更に乾燥装置33で乾燥させて記録用シートを作製した。
【0074】
なお、図4の表における「乾燥停止時間」とは、インク吸収層を乾燥した後、硬膜化塗布液を塗布するまでの時間をいう。また、図4の表の「乾燥温度」におけるA欄はインク吸収層を乾燥する乾燥温度を示し、B欄はインク吸収層に硬膜化塗布液を塗布した塗布層の乾燥温度を示す。
【0075】
「インライン液の組成」
(1)ポリ塩化アルミニウム水溶液 2.0部
(大明化学工業(株)製、アルファイン83)
(2)イオン交換水 7.8部
(3)SC−505(ハイモ(株)製) 0.2部
「硬膜化塗布液の組成」
(1)ホウ酸 1.3部
(2)炭酸アンモニウム(関東化学(株)1級) 5.0部
(3)炭酸ジルコニウムアンモニウム(28%水溶液) 2.5部
(第一稀元素化学工業(株)製、ジルコソールAC−7)
(4)イオン交換水 90.6部
(5)ポリオキシエチレンラウリルエーテル 0.6部
(花王(株)製、エマルゲン109P)
[インク吸収層の乾燥条件]
・実施例1は、インク吸収層を平均乾燥速度1.7g/ m・秒で含水分率24質量%の生乾き状態まで乾燥し、乾燥後5.9秒で硬膜化塗布液を塗布するようにした。
【0076】
・実施例2は、インク吸収層を平均乾燥速度1.3g/ m・秒で含水分率24質量%の生乾き状態まで乾燥し、乾燥後7.7秒で硬膜化塗布液を塗布するようにした。
【0077】
・実施例3は、インク吸収層を平均乾燥速度1.0g/ m・秒で含水分率24質量%の生乾き状態まで乾燥し、乾燥後10秒で硬膜化塗布液を塗布するようにした。
【0078】
・実施例4は、インク吸収層を平均乾燥速度3.0g/ m・秒で含水分率24質量%の生乾き状態まで乾燥し、乾燥後10秒で硬膜化塗布液を塗布するようにした。
【0079】
・比較例1は、インク吸収層を平均乾燥速度1.0g/ m・秒で含水分率24質量%の生乾き状態まで乾燥し、乾燥後15秒で硬膜化塗布液を塗布するようにした。
【0080】
・比較例2は、インク吸収層を平均乾燥速度0.5g/ m・秒で含水分率24質量%の生乾き状態まで乾燥し、乾燥後10秒で硬膜化塗布液を塗布するようにした。
【0081】
・比較例3は、インク吸収層を平均乾燥速度1.7g/ m・秒で含水分率24質量%の生乾き状態まで乾燥し、乾燥後30秒で硬膜化塗布液を塗布するようにした。
【0082】
・比較例4は、インク吸収層を平均乾燥速度2.1g/ m・秒で含水分率24質量%の生乾き状態まで乾燥し、乾燥後30秒で硬膜化塗布液を塗布するようにした。
【0083】
[作製した記録用シートの評価方法]
上記実施例1〜4及び比較例1〜4の条件で作製した記録用シートについて、水溶性アルミニウム化合物の分布状態、高湿滲み、インク吸収性、黒Dmを評価した。
【0084】
評価結果を図4の表に示す。
【0085】
評価項目の「Al分布」は、塗布層の表面側から層厚み30%までのシリカに対する水溶性アルミニウム化合物の重量比)/(塗布層の支持体側から層厚み30%までのシリカに対する水溶性アルミニウム化合物の重量比)で示した。
【0086】
評価項目の「高湿滲み」は、PM- A700で画像をプリントした後、密閉した状態で温度23℃、湿度90%の環境下で14日処理後に目視で評価した。滲みが全くない場合を○、滲みが少しある場合を△、滲みが多い場合を×とし、○以上を合格とした。
【0087】
評価項目の「インク吸収性」はEPSON社製PX-5500で温度23℃、湿度80%の環境下で黒をプリントし、インクの吸収性を評価した。インク吸収性が良い場合を○、インク吸収性が劣る場合を△、インク吸収性がかなり劣る場合を×とし、○以上を合格とした。
【0088】
評価項目の「黒Dm」はEPSON社製 PM- A700で黒をプリントして濃度測定した。そして、2.20未満を×、2.20〜2.29を△、2.3以上を○とし、△以上を合格とした。
【0089】
[評価結果]
図4の表から分かるように、本発明の記録用シートの製造方法を実施した実施例1〜4の記録用シートは、高湿滲み、及びインク吸収性が全て○であり、「黒Dm」は△以上であった。
【0090】
また、実施例1〜4の製造方法で製造した記録用シートは、水溶性アルミニウム化合物の濃度分布が支持体側に偏在していた。即ち、「Al分布」が47〜59%であり、60%以下であった。このことは、本発明の記録用シートの製造方法を実施することにより、「Al分布」が60%以下の記録用シートを製造でき、この記録用シートは「高湿滲み」、「インク吸収性」、「黒Dm」が従来の記録用シートよりも優れていることが分かる。
【0091】
これに対して、本発明の必須要件である「インク吸収層の平均乾燥速度1〜2g/m・秒」と、「インク吸収層乾燥後10秒以内に硬膜化塗布液を塗布」との2つの要件のうち、少なくとも1つを満足しない比較例1〜4は、高湿滲み、及びインク吸収性が△〜×であると共に、「黒Dm」が全て×であり、総合評価が悪い評価かった。
【0092】
また、比較例1〜4の製造方法で製造された記録用シートの「Al分布」は65〜78%と全て60%を超えていた。
【符号の説明】
【0093】
10…送出し装置、12…支持体、14…インク吸収層用塗布装置、24…コーティングロール、26…乾燥装置、28…上層用塗布装置、30…バー方式のスムージング・メタリング装置、33…乾燥装置、34…巻取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、無機微粒子と水溶性樹脂と水溶性アルミニウム化合物とを含むインク吸収層が設けられると共に、該インク吸収層での前記水溶性アルミニウム化合物の濃度分布が前記支持体側に偏在して成る記録用シートにおいて、
前記インク吸収層の表面側から層厚み30%までの表面側層内における水溶性アルミニウム化合物の含有量が、前記インク吸収層の支持体側から層厚み30%までの支持体側層内における水溶性アルミニウム化合物含有量の60%以下であることを特徴とする記録用シート。
【請求項2】
支持体上に、無機微粒子と水溶性樹脂と水溶性アルミニウム化合物とを含むインク吸収層が設けられると共に、該インク吸収層での前記水溶性アルミニウム化合物の濃度分布が前記支持体側に偏在して成る記録用シートの製造方法において、
連続走行する帯状の前記支持体上にインク吸収層用塗布液を塗布する第1の塗布工程と、
前記支持体上に塗布形成されたインク吸収層の含水分率が18〜30質量%の範囲に乾燥されるまで該インク吸収層を平均乾燥速度1〜3g/m・秒で急速乾燥させる急速乾燥工程と、
前記急速乾燥後10秒以内に、前記生乾き状態のインク吸収層の上に該インク吸収層を硬膜化するための硬膜化塗布液を塗布する第2の塗布工程と、を備えたことを特徴とする記録用シートの製造方法。
【請求項3】
前記インク吸収層の表面側から層厚み30%までの層内における水溶性アルミニウム化合物の含有量が、前記インク吸収層の支持体側から層厚み30%までの層内における水溶性アルミニウム化合物含有量の60%以下であることを特徴とする請求項2の記録用シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−240955(P2010−240955A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91279(P2009−91279)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】