記録装置および記録方法
【課題】 搬送ローラから排紙ローラへの受け渡し時のローラの回転位相が所定の回転位相となるように回転位相を調整する制御と、回転位相の調整を省略する制御とが、選択可能な記録装置および記録方法を提供する。
【解決手段】 記録ヘッドよりも搬送方向の上流側に配置された第1の搬送手段と前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の下流側に配置された第2の搬送手段とにより記録媒体を搬送する第1の搬送動作から、前記第1の搬送手段では前記記録媒体を搬送せずに前記第2の搬送手段により前記記録媒体を搬送する第2の搬送動作へ切り替わるときの前記第1、第2の搬送手段の回転位相が所定の回転位相となるように回転位相の調整を行う制御と、回転位相の調整を行わない制御のいずれかが選択される。
【解決手段】 記録ヘッドよりも搬送方向の上流側に配置された第1の搬送手段と前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の下流側に配置された第2の搬送手段とにより記録媒体を搬送する第1の搬送動作から、前記第1の搬送手段では前記記録媒体を搬送せずに前記第2の搬送手段により前記記録媒体を搬送する第2の搬送動作へ切り替わるときの前記第1、第2の搬送手段の回転位相が所定の回転位相となるように回転位相の調整を行う制御と、回転位相の調整を行わない制御のいずれかが選択される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置および記録方法に関し、特にインクジェット記録装置で用いる記録媒体の搬送量誤差を補正する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェットプリンタにおいては、金属シャフトに砥石をコーティングした高精度ローラがメインの搬送ローラとして用いられ、その軸上に設けた位置検知手段(コードホイールとエンコーダセンサ)でDCモータを制御している。これにより、インクジェットプリンタでは、高精度な記録媒体(用紙)の搬送が可能となり、記録画像の高画質化が実現される。しかしながら、用紙の搬送精度を搬送ローラの加工精度に頼るのは限界にきており、その対策として、最近ではローラの偏心補正などが実施されている。
【0003】
ここで、偏心補正について簡単に説明すると、搬送ローラの断面形状が真円であり、かつその中心軸と回転軸とが一致している場合には、用紙搬送のためのローラ回転角度が一様であるとすると、ローラを回転させたときの周方向の長さ(弧の長さ)は一定である。従って、ローラに接して搬送される記録媒体の搬送量は常に一定である。しかし、搬送ローラの断面形状が楕円となっている場合、同じ角度だけローラを回転させても、ローラの回転位置(回転位相)により搬送量が異なってしまう。すなわち、ローラの回転位相に応じて、搬送量が所定量よりも多い領域と逆に搬送量が所定量よりも少ない領域とが生じ、搬送量の誤差に変動が生じる。そこで、偏心補正では、ローラの回転位相ごとに搬送量補正値を取得し、回転位相に応じて変動する搬送量誤差を補正するのである。なお、以下の説明において、ローラを一定角度だけ回転させたときの搬送量のことを、単位搬送量とも記載する。
【0004】
一方、搬送ローラの下流側に配置される排紙ローラに関しては、インクが打ち込まれた後の用紙を搬送するため、先端の尖った星上の拍車と呼ばれる従動ローラが用いられている。排紙ローラは、拍車の先端にダメージを与えない弾性体であるゴムローラが用いられており、偏心補正を行っても搬送ローラほどの用紙搬送精度を維持できていないのが現状である。
【0005】
また、特に用紙搬送精度に関して問題となるのは、搬送ローラから排紙ローラへ用紙を受け渡すときの搬送量である。つまり、搬送ローラと排紙ローラとによって用紙搬送が行われている状態(第1の搬送動作)から、排紙ローラのみによる用紙搬送状態(第2の搬送動作)へと切り替わる際の用紙搬送精度が問題となる。このときの搬送動作では、ローラの精度ずれ要因以外にもローラシャフトの撓みや搬送ローラから用紙が抜ける時の挙動の不安定さなどの種々の要因により、一般的に前述の第1の搬送動作の状態より搬送精度が落ちることが知られている。そこで、この搬送ローラから排紙ローラへの受け渡し時における搬送精度の低下を軽減するために、このときの搬送量補正値をテストパターンにより求め、受け渡し時の搬送量を補正する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−7817号公報
【特許文献2】特開平11−188898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したとおり、ローラの偏心の影響により、ローラの回転位相に応じて搬送量の誤差に変動が生じてしまう。この現象は、上述の受け渡し時の搬送動作においても発生するものであり、受け渡し時の搬送ローラの回転位相と排紙ローラの回転位相に応じて、受け渡し時の搬送量の誤差も変動する。
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法では、搬送ローラから排紙ローラへの受け渡し時の搬送量の補正値は固定の値となっており、受け渡し時の搬送動作においては、常に固定の補正値を用いて搬送量の補正制御を実施していた。そのため、上述の受け渡し時の搬送動作では搬送動作ごとにローラの回転位相が異なり、回転位相に応じて受け渡し時の搬送量の誤差が変動しても、その誤差を正確に補正することはできなかった。
【0009】
そこで本発明は、搬送ローラから排紙ローラへの受け渡し時のローラの回転位相が所定の回転位相となるように回転位相を調整する制御と、印刷時間の短縮のために回転位相の調整を省略する制御とが選択可能な記録装置および記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、記録ヘッドを用いて搬送方向に搬送される記録媒体に画像を記録する記録装置であって、前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の上流側に配置され、前記記録媒体を搬送するための第1の搬送手段と、前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の下流側に配置され、前記記録媒体を搬送するための第2の搬送手段と、を有し、前記第1の搬送手段と前記第2の搬送手段とにより前記記録媒体を搬送する第1の搬送動作から、前記第1の搬送手段では前記記録媒体を搬送せずに前記第2の搬送手段により前記記録媒体を搬送する第2の搬送動作へ切り替わるときの前記第1、第2の搬送手段の回転位相が所定の回転位相となるように回転位相の調整を行う制御と、回転位相の調整を行わない制御のいずれかが選択されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、搬送ローラから排紙ローラへの受け渡し時のローラの回転位相が所定の回転位相となるように回転位相を調整する制御と、印刷時間の短縮のために回転位相の調整を省略する制御とが、選択可能な記録装置および記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に適用可能な記録装置の機構部の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の記録装置における送紙部を含む搬送機構を詳細に説明するための断面図である。
【図3】本実施形態の記録装置における送紙部を含む搬送機構を詳細に説明するための斜視図である。
【図4】本発明の実施形態の搬送ローラにおける原点を検出する機構を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態の搬送ローラにおける原点を検出する機構を説明するための図である。
【図6】本実施形態の記録装置におけるキャリッジを裏側から観察した状態を示す図である。
【図7】(A)〜(C)は、図4〜図6で説明した機構によってロック機能が作用する工程を具体的に説明するための断面図である。
【図8】本実施形態の記録装置における電気ブロック図である。
【図9】本実施形態における搬送負荷と搬送量との関係を説明するための図である。
【図10】本実施形態の排紙部のその他の構成例を説明する図である。
【図11】本実施形態における受け渡し時の搬送量について説明するための図である。
【図12】本実施形態における搬送ローラおよび排紙ローラの回転位相ごとの搬送量誤差を説明する図である。
【図13】図12の(A)〜(C)の回転位相で受け渡しが行われたときの、A区間およびC区間の搬送量誤差を示す図。
【図14】図13(A)〜(C)の状態における排紙ローラの変動を示す図である。
【図15】本実施形態における回転位相区間ごとの補正値を格納した補正テーブルを説明する図である。
【図16】本実施形態における受け渡し時の搬送動作におけるローラの回転位相の取得方法を説明する図である。
【図17】第1の搬送量制御における記録動作時の受け渡しの搬送量補正の制御フローである。
【図18】本実施形態における搬送ローラと排紙ローラの回転位相間隔毎の補正値を取得するテストパターンの図である。
【図19】用紙先端が検知されてから用紙先端が搬送ローラのニップに噛み込まれるまでの用紙の搬送状態を説明する図である。
【図20】用紙後端が最適な回転位相φjustにより搬送ローラのニップを抜けるときの状態を示す図である。
【図21】第2の搬送量制御における記録動作時の受け渡しの搬送量補正の制御フローである。
【図22】搬送ローラおよび排紙ローラの回転位相間隔毎の補正値を格納した補正値のテーブルを説明する図である。
【図23】第1の実施形態における記録モードと搬送量制御との関係を説明する図である。
【図24】第1の実施形態における搬送量制御の選択フローである。
【図25】第2の実施形態における間引き処理の実行有無と搬送量制御の関係を説明する図である。
【図26】第2の実施形態における搬送量制御の選択フローである。
【図27】第3の実施形態における搬送量制御の選択フローである。
【図28】第4、第5の実施形態に適用可能な記録装置の機構部の斜視図である。
【図29】図29の記録装置においてトレイ記録を行うときの状態を示す模式的斜視図である。
【図30】図29の記録装置においてトレイ記録を行うときの状態を示す断面図である。
【図31】第4の実施形態における記録用紙の種別および記録品位と、記録パス数および搬送量制御の選択との関係を説明する図である。
【図32】第4の実施形態における搬送量制御の選択フローである。
【図33】第5の実施形態における搬送量制御の選択フローである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
本発明を実施する為の最良の形態について、以下に図面を参照して説明する。図1は本実施形態における記録装置の機構部の斜視図である。
【0014】
(A)給紙部
給紙部は記録媒体を積載する圧板21、記録用紙Pを1枚ずつ給紙する給紙ローラ28、記録用紙Pを分離する不図示の分離ローラ、記録媒体を積載位置に戻す為の不図示の戻しレバー、等が給紙部ベース20に取り付けられた構成となっている。圧板21には可動サイドガイド23が移動可能に設けられて、記録媒体の積載位置を規制している。圧板21は給紙部ベース20に結合された回転軸を中心に回転可能で、不図示の圧板バネにより給紙ローラ28の方向に付勢されている。給紙ローラ28は断面円弧の棒状をしており、記録媒体の表面に接触しながら回転することによってこれを装置内部へと給送する。記録媒体は給紙ローラ28と分離ローラから構成されるニップ部に突き当たり、このニップ部で分離され、最上位の記録媒体のみが更に内部へと搬送される。給紙ローラ28の回転力は、給紙駆動手段となる給紙モータ99の駆動力が駆動伝達ギアや遊星ギア等を介して得られている。給紙モータ99の駆動力は後述するクリーニング部にも伝達されている。
【0015】
(B)送紙部
送紙部の主な機構は、曲げ起こした板金シャーシ11およびモールド成型のシャーシ97、98に取り付けられている。送紙部に送られて来た記録媒体は、送紙部の入口に配設されたペーパガイドとピンチローラホルダ30に案内されて、搬送ローラ36とピンチローラ37から成るローラ対に挟持される。搬送ローラ36は金属軸の表面にセラミックの微小粒をコーティングした構成になっており、その両軸の金属部分はシャーシ11に取り付けられた軸受け部に支持されている。ピンチローラホルダ30には、ピンチローラばね31によって搬送ローラ36の表面に付勢されている複数のピンチローラ37が保持されており、ピンチローラ37は搬送ローラ36の表面に当接しこれに従動する。
【0016】
図2および図3は、本実施形態の記録装置における送紙部を含む搬送機構を詳細に説明するための断面図および斜視図である。搬送ローラ36の回転力は、DCモータからなる搬送モータ35の駆動力がタイミングベルト39を介して搬送ローラ36の軸上に設けられたプーリギア361に伝達されることによって得られている。搬送ローラ36の同軸上には150〜360lpiのピッチでスリットを形成したコードホイール362が直結されている。そして、搬送ローラエンコーダセンサ363は、コードホイール362上のスリットが通過する回数やタイミングを読み取るようにシャーシ11の図の位置に固定されている。
【0017】
プーリギア361は、プーリ部とギア部からなり、このギア部からの駆動がアイドラギア45を介して排紙ローラギア404に伝達されることによって、排紙ローラ40が駆動される。また、排紙ローラ40の軸上には、排紙ローラ40による搬送量を検出する為の位置検出手段である排紙ローラエンコーダ403が設置された排紙コードホイール402が設置されている。
【0018】
本実施形態では、搬送ローラ36、排紙ローラ40の回転比は1:1で構成されている。加えて、搬送ローラ36と排紙ローラ40への駆動伝達手段である搬送ローラギア361、アイドラギア45、排紙ローラギア404も回転比が1:1で構成されている。この構成により、搬送ローラ36の回転周期と排紙ローラ40の回転周期及び伝達ギアの回転周期が等しくなり、ローラの編心に起因する搬送量誤差もローラ回転と同じ周期で発現することになる。
【0019】
再び図1を参照するに、搬送モータ35によって搬送ローラ36およびピンチローラ37からなるローラ対が回転すると、これらローラ対に挟持された記録媒体が装置内を搬送される仕組みになっている。ピンチローラホルダ30には記録媒体の先端や後端を検出したり、位置決めしたりするためのエッジセンサが設けられており、当該エッジセンサの検出によって、記録媒体はシャーシ11に取り付けられ記録部に位置するプラテン34上に位置決めされる。
【0020】
(C)キャリッジ部
搬送ローラ36の下流側でプラテン34に下方から支持された記録媒体は、その上部を通過するキャリッジ50に搭載された記録ヘッド7によって、記録画像情報に基づいた画像が記録される。
【0021】
キャリッジ50は、記録ヘッド7とこれにインクを供給するためのインクタンク71を搭載し、図のXで示す、搬送方向と交差する方向である走査方向へ移動可能になっている。本実施形態の記録ヘッド7は、個々の吐出口に対応した位置に備えられたヒータに電圧パルスを印加し、発生した膜沸騰における気泡の成長または収縮によって生じる圧力変化を利用して、個々の吐出口からインクを吐出する仕組みになっている。但し、このような吐出方法は、本発明を限定するものではない。
【0022】
キャリッジ50は、記録媒体の搬送方向に対して直交方向に延在するキャリッジレール52とアッパーガイドレール111によって支持され、その移動方向が案内されている。キャリッジレール52はシャーシ11に取り付けられており、アッパーガイドレール111はシャーシ11に一体に形成されている。さらに、アッパーガイドレール111はキャリッジ50の端を保持し、記録ヘッド7の吐出口面と記録媒体との隙間を維持する役割も果たしている。
【0023】
キャリッジ50の移動力は、シャーシ11に取り付けられたキャリッジモータ54の駆動力がアイドルプーリ542、およびアイドルプーリ542に張設、支持されているタイミングベルト541を介して供給される。150〜300lpiのピッチでマーキングを形成したコードストリップ561が、タイミングベルト541と平行な方向に張設されており、キャリッジ50に搭載された不図示のエンコーダセンサが、キャリッジ50移動中に上記マーキングを検知する。これにより、キャリッジ50の現在位置が検出できる仕組みになっている。フレキシブルケーブル57は、キャリッジ50の往復移動に追従しながら上記エンコーダセンサなどが設けられたキャリッジ50上のキャリッジ基板と装置内に固定されている電気基板91とを電気的に接続している。記録ヘッド7が記録を行うための記録信号は、電気基板91からフレキシブルケーブル34およびキャリッジ基板を介して送信され、この記録信号に従って移動中の記録ヘッド7の個々のヒータが駆動され、プラテン34上の記録媒体にドットが記録される。
【0024】
(D)排紙部
排紙ローラ40の回転力は、搬送ローラ36の回転力が搬送ローラ36直結されたプーリギア361のギア部からアイドラギア45を介し、排紙ローラ40に直結された排紙ローラギア404に伝達することによって得られている。再度図2を参照するに、排紙ローラ40の軸上には排紙コードホイール402が設置され、排紙ローラエンコーダ403によって排紙ローラ40の回転量が検出されている。
【0025】
拍車ホルダ43には複数の拍車が取り付けられており、これら拍車はコイルバネを棒状に設けた拍車バネによって排紙ローラ40の方へ押圧されている。記録ヘッド7によって画像が形成された記録媒体は、排紙ローラ40とこれら複数の拍車のニップに挟まれ、搬送されて排紙される。
【0026】
なお、排紙部に関しては、2本のローラから構成されていてもよく、この構成によれば、記録媒体の搬送精度を向上させることが可能となる。
【0027】
図9は、排紙ローラ40へのバネの押圧力により、搬送負荷(以下、バックテンションともいう)と搬送量の関係が変動することを説明するための図である。同図に示す2つの直線は、それぞれ異なる押圧力でのバックテンションと搬送量の関係を示す。
【0028】
この2本の直線を比較すると、部品公差や記録媒体の剛性ばらつき等により同量のバックテンションの変動が発生した場合、バックテンションの絶対値が小さい場合の方が、バックテンションが大きい場合に比べて、搬送量の変動が小さいことが分かる。
【0029】
図10は、上述の搬送量変動を極力抑えるために、排紙ローラ(第2の搬送手段)に加えて排紙アシストローラ(第3の搬送手段)を設けた排紙部の構成を説明するための図である。排紙アシストローラ41は、排紙ローラ40が受けるバックテンションをキャンセルする役目を有し、排紙ローラ40の搬送方向上流側の位置に設けられている。排紙アシストローラ41は、排紙ローラ40が受けるバックテンションをキャンセルするために、下流の排紙ローラ40に比べてローラ周速が高く設定されている。つまり、排紙ローラ40と排紙アシストローラ41とが同じ回転比であれば排紙ローラ40に対して排紙アシストローラ41の直径を大きくすることで、排紙アシストローラ41を増速系としてある。これにより、排紙ローラ40が受けるバックテンションが低減され、拍車のバネ圧やバックテンションの影響を受けにくいローラ構成となる。
【0030】
また、排紙アシストローラ41の搬送力による排紙ローラ40の外乱を低減するために、排紙ローラ40はその材料がゴムであるのに対して、排紙アシストローラ41は摩擦係数の小さなプラスチックローラを採用している。さらに、排紙アシストローラ41は、記録ヘッド部での記録媒体の浮き上がり等を抑制する役割も有している。
【0031】
以後、説明の簡略化のために排紙アシストローラ41は省略し、1本の排紙ローラ40から成る排紙部の構成により説明を行う。
【0032】
(E)クリ−ニング部
図1に戻り、クリーニング部60は、記録ヘッド7のクリーニングを行うポンプと記録ヘッド7の乾燥を抑えるためのキャップ、記録ヘッド7の吐出口面をクリーニングするブレード等から構成されている。クリーニング部の主な駆動力は、既に説明した給紙モータ99から伝達されることによって得られている。クリーニング部60は、キャップを記録ヘッド7に密着させた状態でポンプを作用させて記録ヘッド7から不要なインク等を吸引する吸引動作や、ブレードの移動により記録ヘッド7のフェース面をクリーニングするブレード動作などを実行する。
【0033】
図4および図5は、本実施形態の搬送ローラ(第1の搬送手段)における原点を検出する機構を説明するための図であり、図4は搬送ローラ36上のプーリギア361の表面から、図5は裏面からそれぞれ観察した場合を示している。ロックリング4001はプーリギア361に取り付けられており、円周部4001aと凹部4001bを有し、搬送ローラ36と一体に回転する。ロックレバー4002は、回転中心4002aを中心に回転することにより、ロック部4002bをロックリング4001の凹部4001bに突き当ててロックリング4001をロックすることが出来る。ロックリンクレバー4003はロックレバー4002の押圧や引き上げを行うレバーであり、ロックリンクレバー4003およびロックレバー4002間の押圧や引き上げ力はロックレバースプリング4004によって生成される。ロックリンクレバー4003を回動させる力Ftgは、キャリッジ50がホームポジションとは反対側の記録時の走査領域外にあるロックポジション(図1の左端部)に移動することによって発生する。
【0034】
図6は、本実施形態の記録装置におけるキャリッジ50を図1とは反対の裏側から観察した状態を示す図である。キャリッジ50の背面には突起部50aが取り付けられており、キャリッジ50がロックポジションまで移動すると、突起部50aがロックリンクレバー4002の斜面4003aに当接するようになっている。このような当接によって所定の力Fcrがロックリンクレバー4002の斜面4003aに加わると、再度図4あるいは図5を参照するに、ロックリンクレバー4003を図の矢印の方向に回動させる方向のFtgが発生する。
【0035】
図7(A)〜(C)は、図4〜図6で説明した機構によってロック機能が作用する工程を具体的に説明するための断面図である。
【0036】
図7(A)は、キャリッジ50がロックポジションにない状態を示す図である。この時、ロックリンクレバー4003は押圧されていないので、ロックリング4001とロックリングレバー4002は離間している。記録動作中であれば、記録媒体を搬送するため、搬送ローラ36およびロックリング4001は図のCW方向に間欠的に回転している。
【0037】
図7(B)は、キャリッジ50がロックポジションに移動し、ロックリンクレバー4003が突起部50によって押圧され、メカ的なトリガがかかった状態を示している。Ftgの発生により、ロックリンクレバー4003が回動し、ロックレバースプリング4004の押圧力でロックレバー4002がロックリング4001の円周部4001aに当接する。このとき、ロックレバー4002がロックリングの円周部4001aから圧力を受けても、ロックレバー4002はロックリンクレバー4003内にストロークできるようになっている。よって、キャリッジ50の突起部50aとロックリンクレバー4003の間で衝突によるダメージは発生しない。また、このように、ロックレバー4002とロックリンクレバー4003を別部品で構成しておくことにより、ロックレバー4003のストローク量とロックリンクレバー4003のスウィング量をそれぞれ独立に設定することが出来る。
【0038】
図7(C)は、同図(B)の状態から更に搬送ローラ36を回転させて、当該回転がロックリング4001によってロックされた状態を示した図である。ロックレバー4002がロックリング4001の円周部4001aに当接した状態で、ロックリング4001が更にCW方向に回転すると、ロックレバー4002のロック部がロックリング4001の凹部4001bに入り込む。そして、その後のロックリング4001のCW方向の回転を阻害する。すなわち、ロックリング4001および搬送ローラ36は回転がロックされる。なお、このとき、ロックリング4001は、搬送モータ35からの動力を伝達するプーリギア361に固定されているので、搬送ローラ36とプーリギア361との間には、回転力が発生しない。
【0039】
このようなロック状態が発生するのは、搬送ローラ36が一回転する中の決められた1つの位置のみである。よって、このように搬送ローラがロックされた位置を搬送ローラの位相の原点とすることが出来る。
【0040】
なお、コードホイールに印刷された1周期/1回転のエッジをセンサで検知する構成、ローラ類に取り付けられた1周期/1回転のエッジをセンサで検知する構成等、従来の方法により搬送ローラ36の位相の原点を検出するようにしても構わない。
【0041】
図8は、本実施形態の記録装置の制御の構成を説明するためのブロック図である。CPU501は、ROM504に記憶された各種プログラムに従って、コントローラ502を介して装置内の各機構の制御を行う。その際、RAM503は各種データを一次的に保存したり、処理を実行したりする際のワークエリアとして使用される。外部に接続されたホスト装置から受信した画像データに対し、CPU501は記録装置が記録できるような記録信号に変換するための画像処理を行う。そして、モータドライバ507を介して各種モータ506を駆動したり、記録ヘッドドライバ509を介して記録ヘッド7を駆動したりして、記録媒体に画像を形成する。図において、モータ506やモータドライバ507は、先術した搬送モータ35、キャリッジモータ54、給紙モータ99およびそれぞれのドライバを、一括して示している。
【0042】
電気的に書き込み可能なEEPROM508には、工場での設定値や更新されるデータが格納されており、このデータはコントローラ502及びCPU501によって制御パラメータとして用いられる。センサ505は、装置内の各所に設置された温度センサやエンコーダセンサを一括して示したものであり、先述した搬送ローラエンコーダセンサ363も、その1つとなっている。CPU501は、搬送ローラエンコーダセンサ363がスリットを検知したカウント情報を、随時RAM503のリングバッファにインクリメントする。そして、原点が検出された場合には、その原点情報をRAM503の別領域あるいはEEPROMに記憶する。
【0043】
以下、本実施形態の特徴構成について詳細に説明を行う。
【0044】
まず、搬送ローラ36から排紙ローラ40への受け渡し時に搬送量誤差が変動する現象について説明する。図11は、搬送ローラ36から排紙ローラ40への受け渡し時の搬送量について説明するための図である。
【0045】
受け渡し時の搬送動作において、図11(a)に示す搬送ローラ36とピンチローラ37とのニップ近傍は、用紙を停止させるのに不安定な区間となるため、この区間に停止しない様に搬送制御を行う必要がある。すなわち、用紙が搬送ローラ36のニップを通過するときには、図11(b)に示すニップの上流から搬送を開始し、図11(c)に示すニップの下流で停止するように搬送を行う。このときの搬送動作における搬送位置は、搬送ローラ36と排紙ローラ40の双方で搬送しているA区間と、ニップ部を通過する地点であるB部と、排紙ローラ40のみで搬送しているC区間とに分けられる。
【0046】
また、搬送ローラおよび排紙ローラにはローラの偏心が存在するために、それぞれ、同じ角度だけローラを回転させても、ローラの回転位相に応じて搬送量の大きい領域と搬送量の少ない領域とが生じる。上述の搬送量の大きい領域では、一定角度だけ回転させたときの搬送量が所定量よりも大きいために、用紙の搬送速度も所定速度よりも増加することになる。一方で、搬送量の小さい領域では、その搬送速度は小さくなる。以上のようにして、搬送ローラおよび排紙ローラそれぞれで、ローラの偏心に依存した搬送速度の変動があるため、搬送ローラと排紙ローラとの間で搬送速度差が生じるのである。
【0047】
上述したとおり、搬送ローラと排紙ローラとの間で搬送速度差が生じるために、受け渡し時の搬送動作におけるA区間からC区間に切り替わる際に、搬送ローラと排紙ローラの搬送速度差に起因して搬送量変動が発生する。これについて説明すると、搬送ローラおよび排紙ローラの双方で用紙を搬送している状態では、搬送ローラ36と排紙ローラ40との間には、2つのローラの速度差により用紙を介した引っ張り力もしくは反発力が発生している。しかし、用紙後端がB点を通過する際に、この力による排紙ローラ40の撓みが解放される。これにより、搬送ローラと排紙ローラとの搬送速度差に起因する、特異的要因による搬送量が発生するのである。
【0048】
また、もちろん、A区間およびC区間では、ローラの偏心に伴う搬送量の誤差が生じる。A区間では、搬送ローラ36による搬送量制御が支配的であるため、搬送ローラ36の偏心による搬送量誤差が発生し、C区間では、排紙ローラ40の偏心による搬送量誤差が発生する。したがって、A区間での単位搬送量の誤差(の積分値)およびC区間での単位搬送量の誤差(の積分値)もまた、搬送量を補正する上では考慮する必要がある。
【0049】
以上のようにして、受け渡し時の搬送動作における搬送ローラおよび排紙ローラの回転位相に応じて、搬送ローラ36から排紙ローラ40への受け渡し時に搬送量誤差が変動する。したがって、搬送ローラから排紙ローラへの受け渡し時の搬送量を補正するにあたっては、A区間およびC区間の偏心による搬送量誤差に加えて、A区間とC区間の単位搬送量(搬送速度)が出来るだけ等しくなるように、搬送量を補正することが重要となる。なお、搬送ローラ36と排紙ローラ40の双方で搬送している状態(A区間)では、搬送ローラ36による搬送量制御が支配的であるため、この状態については、単に搬送ローラ36の搬送状態として考えることができる。
【0050】
次に、図12〜14を用いて、受け渡し時における搬送ローラと排紙ローラの搬送速度差に起因する記録媒体(用紙)Pの搬送量誤差について説明する。
【0051】
図12において、縦軸は搬送量誤差、横軸はローラの回転位相である。同図において、搬送ローラ36と排紙ローラ40の双方で記録媒体Pを搬送している状態(A区間)でのローラの回転位相に応じた搬送量変動を実線、排紙ローラ40のみで記録媒体Pを搬送する状態(C区間)のローラの回転位相に応じた搬送変動を破線で示す。同図において、縦軸の中心0より上側は、ローラの搬送速度が所定速度よりも速い状態にあって、記録媒体が所定の搬送量よりも多く送られてしまう、搬送量誤差がプラスの状態を示している。また、逆に、縦軸の中心0より下側は、ローラの搬送速度が所定速度よりも遅い状態にあって、記録媒体が所定の搬送量よりも少なく送られてしまう、搬送量誤差がマイナスの状態を示している。
【0052】
図13(A)〜(C)は、図12中の(A)〜(C)の回転位相で、搬送ローラから排紙ローラへの用紙の受け渡しが行われたときの、A区間およびC区間の搬送量誤差を示している。また、図14(A)〜(C)は、図13(A)〜(C)に対応し、排紙ローラ40の変動を図示するものである。
【0053】
図12の(A)の回転位相で用紙の受け渡しが行われたときの、A区間およびC区間の搬送量誤差を図13(A)に示す。この位相では、搬送ローラ36の搬送量誤差<排紙ローラ40の搬送量誤差、すなわち搬送ローラ36の搬送速度<排紙ローラ40の搬送速度となるため、搬送ローラ36に比べて排紙ローラ40は増速系となる。したがって、図14(A)に示すように、排紙ローラ40と記録媒体Pとの間のトラクション力(摩擦力)で上流側に撓んでいた排紙ローラ40の撓みが、記録媒体Pの後端が搬送ローラ36のニップを通過した瞬間に開放されて、排紙ローラ40は下流側に移動する。そのため、この排紙ローラ40の移動に応じて、受け渡し時の用紙搬送量が増加する。この搬送量の増加分に加えて、図13(A)に示すA区間での搬送量誤差の積分値とC区間での搬送量誤差の積分値とを加算した値が、受け渡し時の搬送量誤差に相当することになる。
【0054】
図12の(B)の回転位相で用紙の受け渡しが行われたときの、A区間およびC区間の搬送量誤差を図13(B)に示す。この位相では、搬送ローラ36の搬送量誤差=排紙ローラ40の搬送量誤差、すなわち搬送ローラ36の搬送速度=排紙ローラ40の搬送速度となるため、排紙ローラ40は等速系となる。また、図14(B)に示すように、排紙ローラ40と搬送ローラ36との速度差により記録媒体を介して生じる力が発生しないため、記録媒体Pが搬送ローラ36のニップを通過しても、排紙ローラ40の撓み解放による排紙ローラの移動は発生し得ない。そのため、排紙ローラの移動によって記録媒体Pの搬送量が変化することはない。したがって、図13(B)の区間Aでの搬送量誤差の積分値と区間Cでの搬送量誤差の積分値とを加算した値が、およそ受け渡し時の搬送量誤差に相当する。
【0055】
図12の(C)の位相で用紙の受け渡しが行われたときの、A区間およびC区間の搬送量誤差を図13(C)に示す。この位相では、搬送ローラ36の搬送量誤差>排紙ローラ40の搬送量誤差、すなわち搬送ローラ36の搬送速度>排紙ローラ40の搬送速度となるため、搬送ローラ36に比べて排紙ローラ40は減速系となる。したがって、図14(C)に示すように、排紙ローラ40と記録媒体Pとの間のトラクション力(摩擦力)で下流側に撓んでいた排紙ローラ40の撓みが、記録媒体Pの後端が搬送ローラ36のニップを通過した瞬間に開放されて、排紙ローラ40は上流側に移動する。そのため、この排紙ローラ40の移動に応じて、受け渡しのときの記録媒体Pの搬送量が減少する。この搬送量の減少分に加えて、図13(C)に示す区間Aでの搬送量誤差の積分値と区間Cでの搬送量誤差の積分値とを加算した値が、受け渡し時の搬送量誤差に相当する。
【0056】
本実施形態は、上述した受け渡し時の搬送量誤差を補正する搬送量制御として、第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを実行可能である。以下に、この第1、第2の搬送量制御について説明する。
【0057】
[第1の搬送量制御]
まず、受け渡し時の搬送動作における搬送量の補正制御方法の1つである第1の搬送量制御について述べる。受け渡し時の搬送動作における搬送量の補正制御方法の基本的な手順は、まず、ローラの回転位相を管理した状態で用紙搬送を行い、A区間およびC区間それぞれで、回転位相間隔ごとに用紙搬送量を実測する。次に、実測結果より、A区間(搬送ローラ)およびC区間(排紙ローラ)の回転位相間隔ごとの搬送量補正値を算出する。そして、実際の記録動作において、受け渡し時の回転位相に応じて、搬送ローラおよび排紙ローラの回転位相間隔ごとの搬送量補正値から受け渡し時の搬送動作における搬送量を補正するための補正値を算出して、受け渡し時の搬送動作の搬送量を補正する。
【0058】
ここで、図22は、ローラ外周を8分割して形成される8つの回転位相間隔S1〜S8の概念図と、回転位相間隔毎に設定される搬送量の補正値を格納した補正値のテーブルとを示したものである。同図において、ポジションps1〜ps8は、1回の搬送動作において、用紙搬送が開始されるローラの回転位相の位置を示すものである。なお、ここでは、搬送ローラ36と排紙ローラ40ともにローラ外周を8分割して、8つの回転位相間隔S1〜S8ごとに搬送量補正の制御を行う。また、搬送ローラ36と排紙ローラ40の回転位相比が1:1と等しいため、双方のローラ回転位相は同一角度で管理している。
【0059】
図18は搬送ローラ36と排紙ローラ40の回転位相間隔毎の搬送量補正値を取得するために、記録されるテストパターンの一例を示したものである。
【0060】
まずは、図22、18を用いて、搬送ローラおよび排紙ローラの回転位相間隔ごとの搬送量補正値の取得方法について説明する。
【0061】
第1に、前述したローラの回転位相の原点検出処理を行うことによりローラ位相の原点を確定させ、ローラの回転位相を管理可能な状態にする。そして、ローラの回転位相を管理可能な状態で、図18に示すようなテストパターンの記録を行う。
【0062】
このテストパターン記録にあたっては、まず給紙部より用紙の給紙動作を実行し、搬送ローラ36の回転位相がポジションps1に到達するまで用紙搬送を行う。搬送ローラの回転位相がポジションps1に到達した後、1回目のテストパターン2201を記録する。パターン記録終了後、ポジションps1より用紙の搬送を開始し、ローラの回転位相がポジションps2に到達するまで用紙搬送を行い、2回目のテストパターン2202を記録する。これにより、1回目のテストパターン2201と2回目のテストパターン2202との間のパターン間隔は、ポジションps1からps2までの回転位相間隔s1での単位搬送量に相当する。同様にして、2回目のパターン記録終了後、ポジションps2より用紙の搬送を開始し、ローラの回転位相がポジションps3に到達するまで用紙搬送を行い、3回目のテストパターン2203を記録する。
【0063】
以上の動作を、搬送ローラ36の回転位相が再びポジションps1に戻ってくるまで繰り返し行う。このような動作を繰り返し行うことにより、9本のテストパターン2201〜2209が記録される。
【0064】
引き続き、排紙ローラ40のみの搬送状態でのテストパターン記録を行うために、用紙後端が搬送ローラ36のニップ部を通過し、排紙ローラ40の回転位相がポジションps1に到達するまで用紙搬送を行う。排紙ローラの回転位相がポジションps1に到達した後、1回目のテストパターン2211を記録する。次に、ポジションps1より用紙の搬送を開始し、回転位相がポジションps2に到達するまで用紙搬送を行い、2回目のテストパターン2212を記録する。以上の動作を、排紙ローラ40の回転位相が再びポジションps1に戻ってくるまで繰り返し行う。これにより、9本のテストパターン2211〜2219が記録される。
【0065】
テストパターンの記録終了後、テストパターン2201〜2209および2211〜2219のパターン間隔を、例えばキャリッジ50に備えら付けられたスキャナ(光学センサ)等によって測定する。
【0066】
ここで、テストパターン2201〜2209までのパターン間隔は搬送ローラ36の回転位相間隔S1〜S8それぞれの搬送量に対応し、テストパターン2211〜2219のパターン間隔は排紙ローラ40の回転位相間隔S1〜S8それぞれの搬送量に対応する。そのため、テストパターン2201〜2209のパターン間隔を測定することにより、搬送ローラ36の回転位相間隔S1〜S8それぞれの搬送量誤差を取得することができる。同様に、テストパターン2211〜2219のパターン間隔を測定することにより、排紙ローラの回転位相間隔S1〜S8それぞれの搬送量誤差を取得することができる。
【0067】
次に、各ローラの回転位相間隔ごとに用意された補正値格納場所に、搬送量補正値の格納を行う。具体的には、理想的なローラの搬送量から測定値を引いたものを補正値として、図22の補正値テーブルのSLF1〜SLF8、SEJ1〜SEJ8に格納する。
【0068】
以上の一連の動作により、搬送ローラ36と排紙ローラ40それぞれの回転位相間隔毎の搬送量補正値を取得することができる。
【0069】
次に、各ローラの回転位相間隔毎の補正値を用いて、ローラの受け渡し時の搬送量補正値の算出方法について述べる。前述のように、搬送ローラ36と排紙ローラ40の受け渡し時の搬送量は、A区間およびC区間での搬送量誤差の他に、ローラの搬送速度差による撓みの影響も考慮する必要がある。そこで、あらかじめ実験で求めたもの、あるいはローラの機械的物性値により算出される補正係数A,Bを用いて、受け渡し時の補正値を以下の式より算出する。
(式1)
Sk=A・SLF+B・SEJ
Sk:受け渡し時の搬送動作における搬送量補正値
SLF:搬送ローラ36の搬送量補正値(第1の補正値)
SEJ:排紙ローラ40の搬送量補正値(第2の補正値)
【0070】
すなわち、上式では、A区間(搬送ローラ)およびC区間(排紙ローラ)での搬送量誤差に加えて、ローラの搬送速度差による特異的な搬送量誤差を考慮した受け渡し時の補正値Sk1〜Sk8を算出することが可能になる。この算出した受け渡し時の補正値Sk1〜Sk8は、図15に示される補正テーブルに、回転位相区間ごとに格納される。
【0071】
なお、搬送ローラと排紙ローラそれぞれで8つの回転位相間隔ごとに補正値を取得しているため、受け渡し時の搬送量補正値は最大で64値が算出される。しかし、本制御では、搬送ローラ36と排紙ローラとの回転比を1:1としているので、搬送ローラと排紙ローラそれぞれの8値の補正値は1:1で対応し、受け渡し時の補正値はSk1〜Sk8の8値となる。
【0072】
次に、図16、17を用いて、実際の記録動作時において受け渡し時の搬送量補正制御について説明する。図16は、受け渡し時の搬送動作におけるローラの回転位相の取得方法を説明する図である。図16(A)は、記録へッド7よりも搬送方向上流側に設けられたレバー321が用紙後端を検出した時点の状態を表しており、そのときのローラの回転位相はφEnd_snsである。また、図16(B)は、用紙後端が搬送ローラのニップ部を抜け出る瞬間の状態を表しており、そのときのローラの回転位相はφEndである。
【0073】
図17は、実際の記録動作時における受け渡し時の搬送量補正の制御フローである。
まず、図17を参照するに、実際の記録動作が開始されると、ステップS1701において用紙の後端位置を検出し、この時点のローラ回転位相φEnd_snsを求める。図16に示すように、この時点では、受け渡し(A区間からC区間への切り替わり)までにLend分の距離が残っている。また、この距離Lendに相当するローラの回転角度量は、ΔφEndである。
【0074】
なお、ステップS1701では、従来から知られている、用紙の後端検知方法を採用すればよい。すなわち、検知レバー321(図16)が、搬送される用紙の先端と当接すると待機位置から離れ、用紙の後端が通過すると元の位置に戻るように構成し、検知レバー321が待機位置に戻ったことを検出することで、用紙後端を検知する方法等である。
【0075】
次に、ステップ1702により、用紙後端を検知した時点の回転位相φEnd_snsと距離Lendとに基づいて、受け渡し地点の回転位相φEndを算出する。
【0076】
ステップS1703では、先のステップS1702で算出した受け渡し地点の回転位相φEndが、どの回転位相区間に存在するかを求める。ここでは、受け渡し地点の回転位相φEndが、回転位相区間S2に存在するものとして、以降の説明を行う。
【0077】
次に、ステップS1704では、ステップS1703で求めたローラ受け渡し時の位相区間に格納された搬送量補正値を取得する。本例では、回転位相区間S2に対応した搬送量補正値Sk2を取得する。実際の画像記録動作中におけるローラ受け渡し時の搬送動作においては、この補正値を所定の搬送量に対して適用する(ステップS1705)。
【0078】
以上の説明では、用紙後端の検知時点の回転位相φEndを基準にして、受け渡し時の回転位相区間を算出したが、常に位相原点φOrignを起点に計算するようにしてもよい。また、用紙後端位置の検知情報を用いず、記録媒体の長さ情報と印字開始位置情報とから、受け渡し時の回転位相を推定して補正値を割り当てることも可能である。
【0079】
また、以上の説明では、搬送ローラと排紙ローラの回転位相間隔ごとの搬送量補正値から予め受け渡し時の搬送量補正値を計算しておき、実際の記録動作時には、計算された補正値が格納された補正値テーブルから適当な補正値を選択するようにしていた。しかし、搬送ローラと排紙ローラの回転位相間隔ごとの搬送量補正値まで取得しておき、実際の記録時にその場で、受け渡し時の回転位相に応じて、補正値を算出してもかまわない。
【0080】
搬送ローラから排紙ローラへの用紙の受け渡し時の搬送量は、A区間およびC区間の偏心による搬送量誤差と、ローラの搬送速度差に起因する搬送誤差とにより変化する。すなわち、上記2つの搬送量誤差は、ともにA区間(搬送ローラ)およびC区間(排紙ローラ)の単位搬送量(搬送速度)に大きく影響を受けるものである。したがって、受け渡し時の搬送量を補正するにあたっては、A区間(搬送ローラ)およびC区間(排紙ローラ)の単位搬送量(搬送速度)の相対的な関係に基づいて、搬送量を補正することが必要である。
【0081】
第1の搬送量制御によれば、搬送ローラおよび排紙ローラの単位搬送量(搬送速度)の差に基づいて、受け渡し時の搬送量を回転位相ごとに補正するため、従来の固有の補正値を適用するケースより高精度な用紙搬送を実現することができる。
【0082】
[第2の搬送量制御]
第1の搬送量制御では、受け渡し時の搬送量補正値をローラの回転位相間隔ごとに予め求めておくことで、実際の記録動作時に、受け渡しの搬送動作がどの回転位相間隔で行われても、搬送量誤差の少ない高精度の搬送制御を実現するものである。これに対し、第2の搬送量制御では、受け渡し時の搬送量補正値をローラの回転位相間隔ごとに求めた上で、受け渡し時の搬送動作に最も適する回転位相間隔を決定する。そして、実際の記録動作時には、この最適な回転位相区間で受け渡し時の搬送動作が行われるように、用紙搬送制御を実行することを特徴としている。
【0083】
そこで、第2の搬送量制御では、用紙後端が搬送ローラ36のニップ部を通過する時に搬送ローラと排紙ローラとの搬送速度が同じ(もしくは最も近くなる)回転位相間隔で、受け渡し時の搬送動作が行われるように制御する。つまり、用紙の幅方向の中心に対してローラの軸受け部が左右対称に構成されている記録装置では、用紙の中心とローラの中心が一致するため、搬送ローラ36と排紙ローラ40の搬送量(搬送速度)を等しくすることが最適であるからである。
【0084】
まず、所望の回転位相で受け渡し時の搬送動作を実行するための制御方法について述べる。
【0085】
用紙が給紙ユニットから給送されて、その先端が搬送ローラにより挟持されると、その後は用紙と搬送ローラ36とがほぼスリップしない状態で搬送動作が行われる。したがって、用紙先端を搬送ローラで挟持した後は、用紙位置と搬送ローラの回転位相は一義的に管理でき、受け渡しの回転位相は容易に推定することができる。つまり、用紙の長さを考慮して、給紙後の用紙先端が搬送ローラ36のニップで挟持されるローラの回転位相を調整することで、受け渡し(B点)における回転位相を制御することができる。
【0086】
次に、図19、20、21を用いて、第2の搬送量制御における受け渡し時の搬送制御について説明する。図19は、用紙先端が検知されてから用紙先端が搬送ローラのニップに噛み込まれるまでの用紙の搬送状態を説明する図である。図19(A)はレバー321が用紙先端を検出した時点の状態を表しており、図19(B)は用紙先端が搬送ローラのニップに噛み込まれた時点の状態を表している。また、図20は、用紙後端が最適な回転位相φjustにより搬送ローラのニップを抜けるときの状態を示している。
【0087】
図21は、本搬送量制御における受け渡し時の搬送制御フローである。
図21を参照すると、ステップS2101において、用紙の長さ情報Lpをプリンタドライバや入力デバイスから取得する。なお、記録装置内のセンサを用いて用紙の長さ情報を取得するようにしても良い。
【0088】
次に、ステップS2102では、取得した用紙の長さ情報Lpを基に、搬送ローラ36の回転が開始される初期位相(待機停止位相)を算出する。
【0089】
次に、搬送ローラ36を待機停止位相で停止させておき(ステップS2103)、その後、給紙ローラ28を回転動作させて用紙の給紙を開始する(ステップS2104)。続いて、ステップS2105では、給紙された用紙がレバー321に当接してレバー321を回動させ、用紙先端検知センサが用紙先端位置Ptopを検知する。この時点から給紙ローラ28があとPtopの距離を搬送したときに、搬送ローラ36のニップまで到達する。この時点を起点にして、搬送ローラ36が回転し始め(S2106)、用紙Pが搬送ローラ36のニップに到達するまでは、給紙ローラ28の搬送速度で搬送ローラ36を回転駆動制御し、搬送ローラ36のニップ部で用紙Pを噛み込む(S2107)。第2の搬送量制御では、この時点で受け渡し時の回転位相が確定する。したがって、以上の制御により、受け渡し時のローラの回転位相を最適位相φjustに設定することが出来る。
【0090】
ここで、以上の最適位相φjustにより受け渡し時の搬送動作を実現するための、初期位相(待機停止位相)の算出方法について図19を参照して説明する。
【0091】
用紙Pの先端検知時点から搬送ローラ36のニップ噛み込み時点までの給紙ローラ28の搬送量がPtopであるのに対し、搬送ローラ36の搬送量はPtopより少ないLtopとなっている。これは、既に動作中の給紙ローラ28に対して、搬送ローラ36が停止状態から始動するためである。ここで、Ltopは、給紙ローラ28の回転速度と搬送ローラ36の回転速度が記録モードにより決定されると、一義に算出することが可能である。つまり、搬送ローラ36は、用紙Pをニップで噛み込むローラの回転位相に対し、Ltop搬送量分手前の回転位相で停止しておけばよい。
【0092】
搬送ローラ36で噛み込んだ用紙Pは、さらに用紙の長さLp分だけ搬送ローラ36を回転させたところで、搬送ローラ36から排紙ローラ40への受け渡しが行われる(図20)。このときの搬送ローラ36の回転位相が、最適な回転位相となるように、事前に搬送ローラ36の位相を制御すればよい。
【0093】
そのため、受け渡し時の搬送ローラの最適位相をφjustとすると、搬送ローラの回転位相φjustで受け渡しを行うためには、φjustを基準として(Lp)/(πDr)の位相差分だけ手前の位相で用紙Pを噛みこめばよい。なお、Drは搬送ローラの搬送実行直径である。更には、最適位相φjustを基準として(Lp+Ltop)/(πDr)の位相差分だけ手前の位相を搬送ローラ36の待機停止位相として設定すればよい。なお、ローラのスリップ分も考慮して搬送ローラ36の待機停止位相を設定すれば、より厳密は搬送制御が可能になる。
【0094】
以上により、最適位相φjustで受け渡しの搬送動作が行うことができ、安定的に高精度な用紙搬送を実現することができる。記録装置本体の製造バラツキや、経時変化、用紙種類の違いにより、突発的な搬送誤差が発生して最適位相φjustで受け渡しの搬送動作が行えない場合もあるが、その確率を非常に低く抑えることができる。また、最適位相φjustで受け渡しの搬送動作が行えない場合には、第1の搬送制御で説明したように、受け渡し時の回転位相に応じた補正値を適用することで、そのときの搬送量誤差を軽減できる。
【0095】
なお、最適位相φjustは、ローラの軸長やローラのセッティング等により異なる。前述したとおり、用紙中心に対してローラの両端軸受け中心が一致している場合には、用紙後端が搬送ローラ36のニップ部を通過する時に搬送ローラと排紙ローラとの搬送速度が同じ(もしくは最も近くなる)回転位相が、最適位相φjustとなる。
【0096】
一方、排紙ローラ40に対して増速設定された排紙アシストローラ41が構成され、用紙中心に対してローラの両端軸受け中心が一致しない場合には、搬送ローラ36と排紙ローラ40の搬送速度差を等しくしても、搬送量は安定しない。これは、用紙がニップ通過直後に、排紙ローラの撓みによって、ローラ軸方向の左右差の影響を受けて下流側に移動してしまうためである。このような現象は、排紙アシストローラ41が排紙ローラ40に対して増速設定されている構成において、特に顕著となる。このような場合、搬送ローラ36と排紙ローラ40の単位搬送量の関係において、搬送ローラ36に対して排紙ローラ40の搬送量が減速系となる位相を選択し、事前に排紙ローラ40を下流側に撓ませておく。このようにして、前述の撓み解放分の影響を相殺させることが効果的である。
【0097】
以上のとおり、第2の搬送量制御では、記録装置本体の構成に合わせて、ローラ受け渡し時の最適位相φjustを設定することにより、より高精度な受け渡し時の搬送動作が可能となる。
【0098】
[本実施形態の特徴部分]
ここで、第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを対比すると、第1の搬送量制御では、受け渡し時の搬送動作がどの回転位相区間で行われるか不明であるため、ローラの回転位相区間によっては突発的な搬送誤差が生じることもある。一方、第2の搬送量制御では、受け渡し時の搬送動作に最も適する回転位相間隔を求めて、この最適な回転位相区間で受け渡し時の搬送動作が行われるように、用紙搬送制御を実行する。したがって、第2の搬送制御の方が、突発的な搬送誤差を抑えて、安定して高精度な搬送制御が可能になる。
【0099】
しかしながら、第2の搬送制御では、最適な回転位相区間で受け渡し時の搬送動作が行われるようにするために、搬送ローラの初期位相(待機停止位相)を算出した上で、搬送ローラを回転させ待機停止位相で停止させておく必要がある。したがって、第2の搬送量制御を採用して記録動作を行う場合、第1の搬送量制御を用いる場合よりも、画像記録に要する時間が多くかかってしまう。
【0100】
そこで、本実施形態では、画像記録を行うときに設定される記録品位に応じて、上述の第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを切り替えるようにしている。以下、図23を参照して、本実施形態における記録モードと搬送量制御との関係について説明する。
【0101】
まず、本実施形態の記録装置においては、普通紙に記録を行う場合、「はやい」、「標準」、「きれい」の3つの記録品位が設定可能な構成となっている。この3つの記録品位では、記録媒体上の所定領域(バンドともいう)を複数回走査させて記録する記録方式、所謂マルチパス記録における記録パス数が異なっている。つまり、「はやい」では、記録パス数が1パスとなっており高速に記録可能であるものの、その記録品位は最も低い。「きれい」では、記録パス数が4パスとなっており、最も高い記録品位の画像を得ることができるが、パス数が多いために多くの記録時間を要する。「標準」は記録パス数が2パスとなっていて、標準的な記録品位、記録速度が得られるような設定となっている。以上の記録品位の選択は、記録装置に備えられた操作部や記録装置に接続されたホストでの操作によって、ユーザが任意に設定することができる。
【0102】
本実施形態では、記録品位よりも記録速度が優先される「はやい」モードでは、搬送ローラを待機停止位相で停止させる処理の必要が無い第1の搬送量制御を採用する。一方、「標準」および「きれい」では、第2の搬送量制御を用いて記録を行うことにより、安定した高精度な搬送制御を可能とし、記録品位の高い画像記録を実現する。以上の構成によって、記録速度を優先した画像記録と高精度な搬送制御による記録品位の高い画像記録とを両立することが可能となる。
【0103】
図24は、本実施形態の第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを選択するフローである。
【0104】
まずStep1にて記録データを受信し、Step2にて記録データに付与されるコマンド部を解析する。このstep2におけるコマンド部の解析によって、記録が行われる用紙の種別、ならびに指定されている記録品位の情報が取得される。
【0105】
次に、Step3にて指定されている記録品位の記録パス数が所定のパス数以上か否かを判断する。ここでは、用紙の種別が普通紙であるため2パス以上であるか否かを判断することにより、第1の搬送量制御を選択する記録品位「はやい」であるか、第2の搬送量制御を選択する記録品位「標準」または「きれい」であるかを判断する。つまり、記録パス数が2パスの「標準」および4パスの「きれい」の場合には、step4へと進み第2の搬送量制御が選択される。一方、記録パス数が1パスの「はやい」の場合には、step5へと進み第1の搬送量制御が選択される。
【0106】
続いて、step6では、step4、5において選択された第1の搬送量制御または第2の搬送量制御のいずれかの搬送制御により、記録が実行される。
【0107】
以上のとおり、本実施形態によれば、指定された記録品位に応じて第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを切り替えることにより、記録速度を優先した画像記録と高精度な搬送制御による記録品位の高い画像記録とを両立することが可能となる。
【0108】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、バンド境界部の間引き処理を行うか否かに応じて、第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを切り替えることを特徴とするものである。
【0109】
以下に、バンド間引き処理の詳細について説明する。
【0110】
例えば、普通紙を用いた記録等において、記録速度を向上させる上で効率的な1パス記録では、黒スジが発生して、記録画像の悪化を招く問題が知られている。これは、特に記録デューティーが高い領域において、隣接するバンドの境界部(単につなぎともいう)またはその近傍において、一方のバンドから他方のバンドへインクが流れ込むことに起因する。つまり、バンドの境界部で濃度が高くなり、黒スジが発生し易くなるために、上述の画像劣化の現象が発生するのである。
【0111】
この問題に対して、特許文献2においては、所定色のインクの吐出量と他色のインクの吐出量との合計に応じて、所定色のインクの吐出量を低減させるよう記録データの間引きを行う方法が開示されている。この方法では、所定色のインク吐出量と多色のインク吐出量とから、つなぎ部の色相を判定した上で、その色相に応じて間引き処理の内容を異ならせることで、黒スジの発生による画像弊害を軽減するというものである。
【0112】
このような間引き処理は、所定エリアのドットカウント、色相判定、間引き量計算など複数のタスクを並行して行う必要があるため、記録装置本体の制御を司るASIC等の制御系に大きな処理負荷がかかる。ここに、搬送量制御に関わるタスクが加わると処理負荷という観点では、記録速度の低下に直結する場合も起こり得る。
【0113】
上述の第1の搬送量制御と第2の搬送量制御であれば、受け渡し時の搬送動作に最も適する回転位相間隔を求めて、搬送ローラを初期位相で待機させる、第2の搬送量盛業の方が、その処理負荷は大きい。
【0114】
そこで、本実施形態では、バンド境界部の間引き処理を行う場合には第1の搬送量制御を採用することにより処理負荷を低減して、記録速度の低下の可能性を軽減させるものである。
【0115】
以下、図25を用いて、本実施形態における、間引き処理の実行有無と、第1の搬送量制御と第2の搬送量制御の切り替えとの関係について説明する。図25は、普通紙に記録を行うときの、記録品位ごとのパス数、間引き処理の実行有無、搬送量制御の関係を示す図である。
【0116】
図25を参照すると、記録品位が「はやい」、「標準」の場合には、ともに1パスで記録を行うが、「標準」ではバンド境界部の間引き処理が適用される。また「きれい」は4パスであって、バンド境界部の間引き処理を適用としていない。これは、記録パス数が多くなると1回の走査に伴うインク打ち込み量が減るため、つなぎ部へのインクの流れ込みが少なく、黒スジが発生しにくいためである。
【0117】
以上のように、本実施形態では、バンド間引き処理が行われるのは、3つの記録品位のうち「標準」が指定された場合のみであるため、「標準」では第1の搬送量制御を選択し、「はやい」「きれい」では第2の搬送量制御を選択するようにしている。
【0118】
なお、つなぎ部に発生する黒スジは、ノズル解像度が600dpi〜1200dpiの場合で複数ノズルに相当する領域であり、ローラの偏心による搬送量の誤差分よりも大きい。つまり、ローラの偏心による搬送誤差に伴う画像の悪化と、バンド間のつなぎ部における黒スジによる画像の悪化とを比較した場合、後者の方が画像への影響は大きい。そこで、本実施形態では、1パス記録を行う「はやい」および「標準」のうち、「標準」の記録品位が指定されたときに、バンド間引き処理を行うようになっている。
【0119】
図26は、本実施形態における搬送量制御を選択するシーケンスを示している。
【0120】
まずStep1にて、記録データを受信し、Step2にて記録データに付与されるコマンド部を解析する。このstep2におけるコマンド部の解析によって、記録が行われる用紙の種別、ならびに指定されている記録品位の情報が取得される。
【0121】
次に、Step3にて、記録が行われる用紙の種別がバンド間引き処理を行う用紙であるかの判定を行う。先にも述べたとおり、バンドのつなぎ部に黒スジが発生する問題は、インクの滲みが生じやすい普通紙に記録するときに、特に顕著に生じる問題である。一方、インクの滲みが生じ難い用紙、例えば光沢紙のような用紙では、つなぎ部に黒スジが発生することは殆どない。そのため、このような種類の用紙では、バンド間引き処理が必要ないこともある。したがって、Step3では、バンド間引き処理の必要な記録媒体の種類であると判定された場合にはStep4に進むが、バンド間引き処理が必要ないと判定されれば、Step6において第2の搬送量制御が選択される。
【0122】
Step4では、指定された記録品位がバンド間引き処理を行うべき記録品位であるかの判定を行う。本実施形態では、図25を用いて説明したように、指定された記録品位が「標準」の場合にはStep5へと進み、第1の搬送量制御が選択される。一方、記録品位が「はやい」または「きれい」の場合には、Step6において第2の搬送量制御が選択される。
【0123】
続いて、step7では、step5、6において選択された第1の搬送量制御または第2の搬送量制御のいずれかの搬送制御により、記録が実行される。
【0124】
なお、本実施形態では、バンド間の間引き処理を例にとって説明を行ったが、その他の画像処理についても同様に、画像処理の実行有無に応じて第1、第2の搬送量制御を切り替えるようにしてもよい。
【0125】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、記録開始前に記録用紙の所定領域に画像データが存在するか否か、すなわち、受け渡し時の搬送動作の前後で記録が実行されるか否かを判定し、記録すべきデータがなければ第1の搬送量制御により記録を行うというものである。つまり、本実施形態では、遷移領域(受け渡し時の搬送動作の前後で記録される領域)に記録すべき記録データが存在しないのであれば、第1の搬送量制御を選択する。これにより、搬送ローラを待機停止位相で停止させる処理等を省略し、高速記録を実現するものである。
【0126】
本実施形態では、記録開始前に記録用紙の所定領域に画像データが存在しなければ、上述の実施形態のように記録品位(記録パス数)や画像処理の実行有無から、記録開始前に記録用紙の所定領域に画像データが存在しなければ、第1の搬送量制御を選択する。
【0127】
以下、図27に本実施形態における搬送量制御の選択フローを示す。
【0128】
まずStep1にて記録データを受信し、Step2にて記録データに付与されるコマンド部を解析する。このstep2におけるコマンド部の解析によって、記録が行われる用紙の種別、指定されている記録品位の情報が取得される。次に、Step3にて、第2の搬送量制御が選択されるべき用紙の種別や記録品位(記録パス数)であるかを判定する。このStep3において、第2の搬送量制御が選択されるべき条件にあると判定されると、Step4へと進み、記録データ中の記録データ部を解析する。
【0129】
Step5では、記録データ部の解析結果から、所定領域(遷移領域)に記録データが存在するか否かを判定する。このStep5において、遷移領域に記録データが存在すると判定されれば、Step6へと進み、第2の搬送量制御が選択される。
【0130】
一方、Step3において第2の搬送量制御が選択されるべき条件に無いと判定されるか、Step5において遷移領域に記録データが存在しないと判定されれば、Step7において、第1の搬送量制御が選択される。
【0131】
続いて、step8では、step6、7において選択された第1の搬送量制御または第2の搬送量制御のいずれかの搬送制御により、記録が実行される。
【0132】
(第4の実施形態)
第4の実施形態は、記録用紙および、表面に記録可能なCD−RやDVD−R(プリンタブルディスク)に対しても記録が行える記録装置において、記録媒体の種類に応じて、第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを切り替えるものである。
【0133】
図28は、本実施形態を適用可能な記録装置の構成を示す外観斜視図である。
【0134】
本実施形態における記録装置100は、マルチファンクションプリンタの形態をとっており、読み取り装置101であるスキャナが一体に構成されている。102はスキャナで読み取った画像を表示するための表示手段であるビューワであり、一般的に用いられている液晶モニターである。103はユーザが各種設定可能な設定キーであり上下、左右のキーを操作することでビューワ上の画像を任意に移動することや拡大、縮小、トリミングすることが可能となっている。104は原稿等の印刷物や写真等の画像であり、105は出遠視情報記録メディアであるCD−RやDVD−Rのような媒体で、表面に記録できる仕様のものである。以降、表面に記録できる仕様のCD−RやDVD−Rの媒体をプリンタブルディスクとも記載する。
【0135】
106はトレイであり、記録装置内の不図示の光学センサで記録前に前記電子情報記録メディアであるCD−RやDVD−Rの位置情報を精度良く読み込むことができるように工夫してある。トレイ106には位置情報を示す反射板を設けたり、色を替えたり、穴をあけたりして読み取り精度の向上を図っている。
【0136】
図29、図30は、記録装置の搬送機構においてトレイを用いるトレイ記録を行うときの状態を示す模式的斜視図、及び断面図であり、該トレイに搭載されたCD−R等の記録メディアに記録するトレイ記録について説明する。トレイ226を使用するトレイ記録を行う場合は、排紙トレイ24を、図3に示す通常記録位置からトレイ226を搬送可能なトレイ記録位置へ、不図示の移動機構によって移動させる。この排紙トレイ224は、もちろん、通常記録により排出される記録用紙を保持するためにも使用されるものである。
【0137】
このとき、拍車ホルダ232は、排紙トレイ224のトレイ記録位置への移動に連動して、拍車223がトレイ上の記録メディアの印刷面と接触しない位置まで、下流側及び上流側の排紙ローラ222a、222bから離間する方向へ移動させられる。次いで、トレイ226の凹部に印刷面を上にしてCD−R等の記録メディアをセットする。
【0138】
次に、トレイ226を排紙トレイ224上の搬送開始位置にセットする。先ず、排紙トレイ224に一体的に形成された左右一対のコの字型のトレイガイド225に、トレイ226の左右両側端縁に形成されたレール部229を係合させながら、該トレイ226を排紙トレイ224の上面に沿って記録装置100の内部へ挿入する。
【0139】
トレイ226の挿入に伴い、排紙トレイ224に設けられた第1の付勢部材としての押さえコロ230が該226のレール部229の上面に乗り上げる。さらに挿入すると、該トレイ226は下流側排紙ローラ222aに乗り上げる。ここで、下流側排紙ローラ222aの頂点は排紙トレイ224の上面より高く設定してある。また、前記第1の付勢部材としての押さえコロ230は、押さえコロホルダ35に回転可能に支持されると共に、押さえコロばね236によって排紙トレイ224の上面に向けて付勢されている。よって、トレイ226は、下流側排紙ローラ222aに圧接されると共に、その先端は水平より若干上方に進行方向を変えている。こうして、前記トレイ226を排紙ローラ222aに向けて付勢するための前記第1の付勢部材としての押さえコロ230を、排紙ローラ222aの下流に配置する構成が採られている。
【0140】
さらに挿入を続けると、トレイ226の先端部分は、拍車ホルダ232と一体に形成されて該トレイ226の進行経路に上方から下向きに突出している第2の付勢部材としての押さえリブ231に当接する。このトレイ226の先端部分と押さえリブ231との当接位置は、記録装置100の奥行き方向においては上流側排紙ローラ222bの近傍に選定される。また、幅方向においては、通常記録の際の記録シート外側に位置する該トレイ226のレール部229の位置に選定されている。こうして、トレイ226を排紙ローラ222aに向けて付勢する押さえリブ231を、搬送ローラ208と排紙ローラ222aとの間で、給紙機構202に収納可能な最大幅の定型紙の側端縁よりも外側に配置する構成が採られている。
【0141】
また、本実施形態においては、第2の付勢部材としての押さえリブ231は、排紙ローラに接して回転する従動回転体としての拍車223を支持する従動回転体支持部材としての拍車ホルダ232に一体的に設けられている。
【0142】
ここで、上記従動回転体支持部材としての拍車ホルダ32は、不図示のばねにより下流側排紙ローラ222a及び上流側排紙ローラ222bの方向に付勢されている。そのため、トレイ226を更に挿入すると、押さえリブ231が該トレイ226の先端を若干下方に湾曲させながらレール部229に乗り上げることで、該トレイ26は下流側排紙ローラ222aに対する更なる圧接力を受ける。そして、トレイ226の先端が搬送ローラ8とピンチローラ212のニップ部と上流側排紙ローラ222bの略中間の位置に到達したところで、該トレイ226の挿入を止める。トレイ226は位置までは手動によって挿入され、このトレイ226の位置を搬送開始位置とする。
【0143】
そして、上記搬送開始位置からは、トレイ226は下流側排紙ローラ22aの逆転により通常記録の上流方向へ搬送され、同じく逆転している搬送ローラ208とピンチローラ212のニップ部に噛み込ませる。その後、搬送ローラ208によって記録位置へ搬送され、CD−Rトレイ等のトレイ226上の記録メディアに対する記録が行われる。最後に、記録が終了した記録メディアを搭載したトレイ226は、下流側排紙ローラ222aの正転によって排紙トレイ224上に排出される。
【0144】
なお、図28〜30では説明を省略したが、送紙部、排紙部等の記録用紙への記録動作を実現する基本構成は、図1に示す記録装置の構成と共通である。
【0145】
図31は、本実施形態における記録用紙の種別および記録品位に対応した、記録パス数と搬送量制御の選択を示す図である。
図31(a)は、記録用紙が写真用紙(光沢)の場合であり、何れの記録品位においても第2の搬送量制御が選択される設定となっている。
図31(b)は、記録用紙がプリンタブルディスクの場合であり、何れの記録品位においても第1の搬送量制御が選択される設定となっている。
【0146】
上述したように、本実施形態の記録装置でプリンタブルディスクに記録を行う場合、記録媒体(ディスク)をトレイに載せ保持した状態で、そのトレイ自身をローラにて搬送する機構を採用している。そのため、プリンタブルディスクを記録している領域では、常に複数ローラでトレイが搬送されるため、受け渡し時の搬送動作の問題は生じ得ない。したがって、図31(b)に示されるように、プリンタブルディスクを記録する場合には、搬送ローラの初期位相の調整を必要としない第1の搬送量制御を行う設定としている。
【0147】
一方、記録用紙に対して記録を行う場合には、受け渡し時の搬送動作が存在し、その搬送動作前後において記録が実行される。そこで、本実施形態では、記録媒体が用紙であれば、受け渡し時の搬送動作における搬送量誤差を安定的に補正可能な第2の搬送量制御を選択する。
【0148】
図32は、本実施形態における搬送量制御を選択するシーケンスを示している。
まずStep1にて記録データを受信し、Step2にて記録データに付与されるコマンド部を解析し、この解析結果に基づいて、Step3にて第2の搬送量制御を選択すべき記録媒体かを判断する。つまり、記録媒体がプリンタブルディスクであれば、Step4に進み、第1の搬送量制御が選択され、記録媒体が用紙であれば、Step5に進み、第2の搬送量制御が選択される。
【0149】
Step6では、Step4、5において選択された第1の搬送量制御または第2の搬送量制御のいずれかの搬送制御により、記録が実行される。
【0150】
(第5の実施形態)
第5の実施形態は、マルチファンクションプリンタの機能の1つであるコピー機能を利用した例について説明する。そのため、本実施形態も、図28〜30に説明される記録装置のようにコピー機能が搭載された構成が前提となる。
【0151】
先に説明した第3の実施形態では、遷移領域に画像データが存在するか否かを記録データより判定し、記録すべきデータがなければ第1の搬送量制御により記録を行うというものであった。これに対して、本実施形態は、コピー対象となる原稿をスキャンし、そのスキャンした画像データをプリントータに変換する前に、スキャン結果から遷移領域に画像データが存在するか否かを判別することを特徴としている。
【0152】
図33は、本実施形態におけるコピー機能における搬送量制御の選択フローである。
【0153】
ユーザーがスキャンする原稿をセットし、記録用紙、記録品位等の設定を行い、コピーボタンを押すとコピーがスタートされる。Step1にて、ユーザの設定情報のデータのコマンドを解析し、Step2、3にて第2の搬送量制御が必要な記録用紙、記録品位(記録パス数)か否かを判定する。S同時に、Step5にて原稿のスキャンを開始し、Step6にて読み取ったデータから画像位置判別を行い、Step7にて所定位置(遷移領域)に画像データがあるかどうかを判定する。
【0154】
Step2、3にて第2の搬送量制御が必要であると判定され、且つStep7にて所定位置に画像データが存在すると判定された場合には、Step4で画像位置判定が終了が確認された後、Step8にて第2の搬送量制御が選択される。一方、いずれかのStepにおいて第2の搬送量制御が必要でないと判定された場合には、Step9、10へと進み、第1の搬送量制御が選択される。
【0155】
続いて、step11では、step8、9、10において選択された第1の搬送量制御または第2の搬送量制御のいずれかの搬送制御により、記録が実行される。
【符号の説明】
【0156】
7 記録ヘッド
36 搬送ローラ
40 排紙ローラ
50 キャリッジ
100 記録装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置および記録方法に関し、特にインクジェット記録装置で用いる記録媒体の搬送量誤差を補正する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェットプリンタにおいては、金属シャフトに砥石をコーティングした高精度ローラがメインの搬送ローラとして用いられ、その軸上に設けた位置検知手段(コードホイールとエンコーダセンサ)でDCモータを制御している。これにより、インクジェットプリンタでは、高精度な記録媒体(用紙)の搬送が可能となり、記録画像の高画質化が実現される。しかしながら、用紙の搬送精度を搬送ローラの加工精度に頼るのは限界にきており、その対策として、最近ではローラの偏心補正などが実施されている。
【0003】
ここで、偏心補正について簡単に説明すると、搬送ローラの断面形状が真円であり、かつその中心軸と回転軸とが一致している場合には、用紙搬送のためのローラ回転角度が一様であるとすると、ローラを回転させたときの周方向の長さ(弧の長さ)は一定である。従って、ローラに接して搬送される記録媒体の搬送量は常に一定である。しかし、搬送ローラの断面形状が楕円となっている場合、同じ角度だけローラを回転させても、ローラの回転位置(回転位相)により搬送量が異なってしまう。すなわち、ローラの回転位相に応じて、搬送量が所定量よりも多い領域と逆に搬送量が所定量よりも少ない領域とが生じ、搬送量の誤差に変動が生じる。そこで、偏心補正では、ローラの回転位相ごとに搬送量補正値を取得し、回転位相に応じて変動する搬送量誤差を補正するのである。なお、以下の説明において、ローラを一定角度だけ回転させたときの搬送量のことを、単位搬送量とも記載する。
【0004】
一方、搬送ローラの下流側に配置される排紙ローラに関しては、インクが打ち込まれた後の用紙を搬送するため、先端の尖った星上の拍車と呼ばれる従動ローラが用いられている。排紙ローラは、拍車の先端にダメージを与えない弾性体であるゴムローラが用いられており、偏心補正を行っても搬送ローラほどの用紙搬送精度を維持できていないのが現状である。
【0005】
また、特に用紙搬送精度に関して問題となるのは、搬送ローラから排紙ローラへ用紙を受け渡すときの搬送量である。つまり、搬送ローラと排紙ローラとによって用紙搬送が行われている状態(第1の搬送動作)から、排紙ローラのみによる用紙搬送状態(第2の搬送動作)へと切り替わる際の用紙搬送精度が問題となる。このときの搬送動作では、ローラの精度ずれ要因以外にもローラシャフトの撓みや搬送ローラから用紙が抜ける時の挙動の不安定さなどの種々の要因により、一般的に前述の第1の搬送動作の状態より搬送精度が落ちることが知られている。そこで、この搬送ローラから排紙ローラへの受け渡し時における搬送精度の低下を軽減するために、このときの搬送量補正値をテストパターンにより求め、受け渡し時の搬送量を補正する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−7817号公報
【特許文献2】特開平11−188898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したとおり、ローラの偏心の影響により、ローラの回転位相に応じて搬送量の誤差に変動が生じてしまう。この現象は、上述の受け渡し時の搬送動作においても発生するものであり、受け渡し時の搬送ローラの回転位相と排紙ローラの回転位相に応じて、受け渡し時の搬送量の誤差も変動する。
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法では、搬送ローラから排紙ローラへの受け渡し時の搬送量の補正値は固定の値となっており、受け渡し時の搬送動作においては、常に固定の補正値を用いて搬送量の補正制御を実施していた。そのため、上述の受け渡し時の搬送動作では搬送動作ごとにローラの回転位相が異なり、回転位相に応じて受け渡し時の搬送量の誤差が変動しても、その誤差を正確に補正することはできなかった。
【0009】
そこで本発明は、搬送ローラから排紙ローラへの受け渡し時のローラの回転位相が所定の回転位相となるように回転位相を調整する制御と、印刷時間の短縮のために回転位相の調整を省略する制御とが選択可能な記録装置および記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、記録ヘッドを用いて搬送方向に搬送される記録媒体に画像を記録する記録装置であって、前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の上流側に配置され、前記記録媒体を搬送するための第1の搬送手段と、前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の下流側に配置され、前記記録媒体を搬送するための第2の搬送手段と、を有し、前記第1の搬送手段と前記第2の搬送手段とにより前記記録媒体を搬送する第1の搬送動作から、前記第1の搬送手段では前記記録媒体を搬送せずに前記第2の搬送手段により前記記録媒体を搬送する第2の搬送動作へ切り替わるときの前記第1、第2の搬送手段の回転位相が所定の回転位相となるように回転位相の調整を行う制御と、回転位相の調整を行わない制御のいずれかが選択されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、搬送ローラから排紙ローラへの受け渡し時のローラの回転位相が所定の回転位相となるように回転位相を調整する制御と、印刷時間の短縮のために回転位相の調整を省略する制御とが、選択可能な記録装置および記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に適用可能な記録装置の機構部の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の記録装置における送紙部を含む搬送機構を詳細に説明するための断面図である。
【図3】本実施形態の記録装置における送紙部を含む搬送機構を詳細に説明するための斜視図である。
【図4】本発明の実施形態の搬送ローラにおける原点を検出する機構を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態の搬送ローラにおける原点を検出する機構を説明するための図である。
【図6】本実施形態の記録装置におけるキャリッジを裏側から観察した状態を示す図である。
【図7】(A)〜(C)は、図4〜図6で説明した機構によってロック機能が作用する工程を具体的に説明するための断面図である。
【図8】本実施形態の記録装置における電気ブロック図である。
【図9】本実施形態における搬送負荷と搬送量との関係を説明するための図である。
【図10】本実施形態の排紙部のその他の構成例を説明する図である。
【図11】本実施形態における受け渡し時の搬送量について説明するための図である。
【図12】本実施形態における搬送ローラおよび排紙ローラの回転位相ごとの搬送量誤差を説明する図である。
【図13】図12の(A)〜(C)の回転位相で受け渡しが行われたときの、A区間およびC区間の搬送量誤差を示す図。
【図14】図13(A)〜(C)の状態における排紙ローラの変動を示す図である。
【図15】本実施形態における回転位相区間ごとの補正値を格納した補正テーブルを説明する図である。
【図16】本実施形態における受け渡し時の搬送動作におけるローラの回転位相の取得方法を説明する図である。
【図17】第1の搬送量制御における記録動作時の受け渡しの搬送量補正の制御フローである。
【図18】本実施形態における搬送ローラと排紙ローラの回転位相間隔毎の補正値を取得するテストパターンの図である。
【図19】用紙先端が検知されてから用紙先端が搬送ローラのニップに噛み込まれるまでの用紙の搬送状態を説明する図である。
【図20】用紙後端が最適な回転位相φjustにより搬送ローラのニップを抜けるときの状態を示す図である。
【図21】第2の搬送量制御における記録動作時の受け渡しの搬送量補正の制御フローである。
【図22】搬送ローラおよび排紙ローラの回転位相間隔毎の補正値を格納した補正値のテーブルを説明する図である。
【図23】第1の実施形態における記録モードと搬送量制御との関係を説明する図である。
【図24】第1の実施形態における搬送量制御の選択フローである。
【図25】第2の実施形態における間引き処理の実行有無と搬送量制御の関係を説明する図である。
【図26】第2の実施形態における搬送量制御の選択フローである。
【図27】第3の実施形態における搬送量制御の選択フローである。
【図28】第4、第5の実施形態に適用可能な記録装置の機構部の斜視図である。
【図29】図29の記録装置においてトレイ記録を行うときの状態を示す模式的斜視図である。
【図30】図29の記録装置においてトレイ記録を行うときの状態を示す断面図である。
【図31】第4の実施形態における記録用紙の種別および記録品位と、記録パス数および搬送量制御の選択との関係を説明する図である。
【図32】第4の実施形態における搬送量制御の選択フローである。
【図33】第5の実施形態における搬送量制御の選択フローである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
本発明を実施する為の最良の形態について、以下に図面を参照して説明する。図1は本実施形態における記録装置の機構部の斜視図である。
【0014】
(A)給紙部
給紙部は記録媒体を積載する圧板21、記録用紙Pを1枚ずつ給紙する給紙ローラ28、記録用紙Pを分離する不図示の分離ローラ、記録媒体を積載位置に戻す為の不図示の戻しレバー、等が給紙部ベース20に取り付けられた構成となっている。圧板21には可動サイドガイド23が移動可能に設けられて、記録媒体の積載位置を規制している。圧板21は給紙部ベース20に結合された回転軸を中心に回転可能で、不図示の圧板バネにより給紙ローラ28の方向に付勢されている。給紙ローラ28は断面円弧の棒状をしており、記録媒体の表面に接触しながら回転することによってこれを装置内部へと給送する。記録媒体は給紙ローラ28と分離ローラから構成されるニップ部に突き当たり、このニップ部で分離され、最上位の記録媒体のみが更に内部へと搬送される。給紙ローラ28の回転力は、給紙駆動手段となる給紙モータ99の駆動力が駆動伝達ギアや遊星ギア等を介して得られている。給紙モータ99の駆動力は後述するクリーニング部にも伝達されている。
【0015】
(B)送紙部
送紙部の主な機構は、曲げ起こした板金シャーシ11およびモールド成型のシャーシ97、98に取り付けられている。送紙部に送られて来た記録媒体は、送紙部の入口に配設されたペーパガイドとピンチローラホルダ30に案内されて、搬送ローラ36とピンチローラ37から成るローラ対に挟持される。搬送ローラ36は金属軸の表面にセラミックの微小粒をコーティングした構成になっており、その両軸の金属部分はシャーシ11に取り付けられた軸受け部に支持されている。ピンチローラホルダ30には、ピンチローラばね31によって搬送ローラ36の表面に付勢されている複数のピンチローラ37が保持されており、ピンチローラ37は搬送ローラ36の表面に当接しこれに従動する。
【0016】
図2および図3は、本実施形態の記録装置における送紙部を含む搬送機構を詳細に説明するための断面図および斜視図である。搬送ローラ36の回転力は、DCモータからなる搬送モータ35の駆動力がタイミングベルト39を介して搬送ローラ36の軸上に設けられたプーリギア361に伝達されることによって得られている。搬送ローラ36の同軸上には150〜360lpiのピッチでスリットを形成したコードホイール362が直結されている。そして、搬送ローラエンコーダセンサ363は、コードホイール362上のスリットが通過する回数やタイミングを読み取るようにシャーシ11の図の位置に固定されている。
【0017】
プーリギア361は、プーリ部とギア部からなり、このギア部からの駆動がアイドラギア45を介して排紙ローラギア404に伝達されることによって、排紙ローラ40が駆動される。また、排紙ローラ40の軸上には、排紙ローラ40による搬送量を検出する為の位置検出手段である排紙ローラエンコーダ403が設置された排紙コードホイール402が設置されている。
【0018】
本実施形態では、搬送ローラ36、排紙ローラ40の回転比は1:1で構成されている。加えて、搬送ローラ36と排紙ローラ40への駆動伝達手段である搬送ローラギア361、アイドラギア45、排紙ローラギア404も回転比が1:1で構成されている。この構成により、搬送ローラ36の回転周期と排紙ローラ40の回転周期及び伝達ギアの回転周期が等しくなり、ローラの編心に起因する搬送量誤差もローラ回転と同じ周期で発現することになる。
【0019】
再び図1を参照するに、搬送モータ35によって搬送ローラ36およびピンチローラ37からなるローラ対が回転すると、これらローラ対に挟持された記録媒体が装置内を搬送される仕組みになっている。ピンチローラホルダ30には記録媒体の先端や後端を検出したり、位置決めしたりするためのエッジセンサが設けられており、当該エッジセンサの検出によって、記録媒体はシャーシ11に取り付けられ記録部に位置するプラテン34上に位置決めされる。
【0020】
(C)キャリッジ部
搬送ローラ36の下流側でプラテン34に下方から支持された記録媒体は、その上部を通過するキャリッジ50に搭載された記録ヘッド7によって、記録画像情報に基づいた画像が記録される。
【0021】
キャリッジ50は、記録ヘッド7とこれにインクを供給するためのインクタンク71を搭載し、図のXで示す、搬送方向と交差する方向である走査方向へ移動可能になっている。本実施形態の記録ヘッド7は、個々の吐出口に対応した位置に備えられたヒータに電圧パルスを印加し、発生した膜沸騰における気泡の成長または収縮によって生じる圧力変化を利用して、個々の吐出口からインクを吐出する仕組みになっている。但し、このような吐出方法は、本発明を限定するものではない。
【0022】
キャリッジ50は、記録媒体の搬送方向に対して直交方向に延在するキャリッジレール52とアッパーガイドレール111によって支持され、その移動方向が案内されている。キャリッジレール52はシャーシ11に取り付けられており、アッパーガイドレール111はシャーシ11に一体に形成されている。さらに、アッパーガイドレール111はキャリッジ50の端を保持し、記録ヘッド7の吐出口面と記録媒体との隙間を維持する役割も果たしている。
【0023】
キャリッジ50の移動力は、シャーシ11に取り付けられたキャリッジモータ54の駆動力がアイドルプーリ542、およびアイドルプーリ542に張設、支持されているタイミングベルト541を介して供給される。150〜300lpiのピッチでマーキングを形成したコードストリップ561が、タイミングベルト541と平行な方向に張設されており、キャリッジ50に搭載された不図示のエンコーダセンサが、キャリッジ50移動中に上記マーキングを検知する。これにより、キャリッジ50の現在位置が検出できる仕組みになっている。フレキシブルケーブル57は、キャリッジ50の往復移動に追従しながら上記エンコーダセンサなどが設けられたキャリッジ50上のキャリッジ基板と装置内に固定されている電気基板91とを電気的に接続している。記録ヘッド7が記録を行うための記録信号は、電気基板91からフレキシブルケーブル34およびキャリッジ基板を介して送信され、この記録信号に従って移動中の記録ヘッド7の個々のヒータが駆動され、プラテン34上の記録媒体にドットが記録される。
【0024】
(D)排紙部
排紙ローラ40の回転力は、搬送ローラ36の回転力が搬送ローラ36直結されたプーリギア361のギア部からアイドラギア45を介し、排紙ローラ40に直結された排紙ローラギア404に伝達することによって得られている。再度図2を参照するに、排紙ローラ40の軸上には排紙コードホイール402が設置され、排紙ローラエンコーダ403によって排紙ローラ40の回転量が検出されている。
【0025】
拍車ホルダ43には複数の拍車が取り付けられており、これら拍車はコイルバネを棒状に設けた拍車バネによって排紙ローラ40の方へ押圧されている。記録ヘッド7によって画像が形成された記録媒体は、排紙ローラ40とこれら複数の拍車のニップに挟まれ、搬送されて排紙される。
【0026】
なお、排紙部に関しては、2本のローラから構成されていてもよく、この構成によれば、記録媒体の搬送精度を向上させることが可能となる。
【0027】
図9は、排紙ローラ40へのバネの押圧力により、搬送負荷(以下、バックテンションともいう)と搬送量の関係が変動することを説明するための図である。同図に示す2つの直線は、それぞれ異なる押圧力でのバックテンションと搬送量の関係を示す。
【0028】
この2本の直線を比較すると、部品公差や記録媒体の剛性ばらつき等により同量のバックテンションの変動が発生した場合、バックテンションの絶対値が小さい場合の方が、バックテンションが大きい場合に比べて、搬送量の変動が小さいことが分かる。
【0029】
図10は、上述の搬送量変動を極力抑えるために、排紙ローラ(第2の搬送手段)に加えて排紙アシストローラ(第3の搬送手段)を設けた排紙部の構成を説明するための図である。排紙アシストローラ41は、排紙ローラ40が受けるバックテンションをキャンセルする役目を有し、排紙ローラ40の搬送方向上流側の位置に設けられている。排紙アシストローラ41は、排紙ローラ40が受けるバックテンションをキャンセルするために、下流の排紙ローラ40に比べてローラ周速が高く設定されている。つまり、排紙ローラ40と排紙アシストローラ41とが同じ回転比であれば排紙ローラ40に対して排紙アシストローラ41の直径を大きくすることで、排紙アシストローラ41を増速系としてある。これにより、排紙ローラ40が受けるバックテンションが低減され、拍車のバネ圧やバックテンションの影響を受けにくいローラ構成となる。
【0030】
また、排紙アシストローラ41の搬送力による排紙ローラ40の外乱を低減するために、排紙ローラ40はその材料がゴムであるのに対して、排紙アシストローラ41は摩擦係数の小さなプラスチックローラを採用している。さらに、排紙アシストローラ41は、記録ヘッド部での記録媒体の浮き上がり等を抑制する役割も有している。
【0031】
以後、説明の簡略化のために排紙アシストローラ41は省略し、1本の排紙ローラ40から成る排紙部の構成により説明を行う。
【0032】
(E)クリ−ニング部
図1に戻り、クリーニング部60は、記録ヘッド7のクリーニングを行うポンプと記録ヘッド7の乾燥を抑えるためのキャップ、記録ヘッド7の吐出口面をクリーニングするブレード等から構成されている。クリーニング部の主な駆動力は、既に説明した給紙モータ99から伝達されることによって得られている。クリーニング部60は、キャップを記録ヘッド7に密着させた状態でポンプを作用させて記録ヘッド7から不要なインク等を吸引する吸引動作や、ブレードの移動により記録ヘッド7のフェース面をクリーニングするブレード動作などを実行する。
【0033】
図4および図5は、本実施形態の搬送ローラ(第1の搬送手段)における原点を検出する機構を説明するための図であり、図4は搬送ローラ36上のプーリギア361の表面から、図5は裏面からそれぞれ観察した場合を示している。ロックリング4001はプーリギア361に取り付けられており、円周部4001aと凹部4001bを有し、搬送ローラ36と一体に回転する。ロックレバー4002は、回転中心4002aを中心に回転することにより、ロック部4002bをロックリング4001の凹部4001bに突き当ててロックリング4001をロックすることが出来る。ロックリンクレバー4003はロックレバー4002の押圧や引き上げを行うレバーであり、ロックリンクレバー4003およびロックレバー4002間の押圧や引き上げ力はロックレバースプリング4004によって生成される。ロックリンクレバー4003を回動させる力Ftgは、キャリッジ50がホームポジションとは反対側の記録時の走査領域外にあるロックポジション(図1の左端部)に移動することによって発生する。
【0034】
図6は、本実施形態の記録装置におけるキャリッジ50を図1とは反対の裏側から観察した状態を示す図である。キャリッジ50の背面には突起部50aが取り付けられており、キャリッジ50がロックポジションまで移動すると、突起部50aがロックリンクレバー4002の斜面4003aに当接するようになっている。このような当接によって所定の力Fcrがロックリンクレバー4002の斜面4003aに加わると、再度図4あるいは図5を参照するに、ロックリンクレバー4003を図の矢印の方向に回動させる方向のFtgが発生する。
【0035】
図7(A)〜(C)は、図4〜図6で説明した機構によってロック機能が作用する工程を具体的に説明するための断面図である。
【0036】
図7(A)は、キャリッジ50がロックポジションにない状態を示す図である。この時、ロックリンクレバー4003は押圧されていないので、ロックリング4001とロックリングレバー4002は離間している。記録動作中であれば、記録媒体を搬送するため、搬送ローラ36およびロックリング4001は図のCW方向に間欠的に回転している。
【0037】
図7(B)は、キャリッジ50がロックポジションに移動し、ロックリンクレバー4003が突起部50によって押圧され、メカ的なトリガがかかった状態を示している。Ftgの発生により、ロックリンクレバー4003が回動し、ロックレバースプリング4004の押圧力でロックレバー4002がロックリング4001の円周部4001aに当接する。このとき、ロックレバー4002がロックリングの円周部4001aから圧力を受けても、ロックレバー4002はロックリンクレバー4003内にストロークできるようになっている。よって、キャリッジ50の突起部50aとロックリンクレバー4003の間で衝突によるダメージは発生しない。また、このように、ロックレバー4002とロックリンクレバー4003を別部品で構成しておくことにより、ロックレバー4003のストローク量とロックリンクレバー4003のスウィング量をそれぞれ独立に設定することが出来る。
【0038】
図7(C)は、同図(B)の状態から更に搬送ローラ36を回転させて、当該回転がロックリング4001によってロックされた状態を示した図である。ロックレバー4002がロックリング4001の円周部4001aに当接した状態で、ロックリング4001が更にCW方向に回転すると、ロックレバー4002のロック部がロックリング4001の凹部4001bに入り込む。そして、その後のロックリング4001のCW方向の回転を阻害する。すなわち、ロックリング4001および搬送ローラ36は回転がロックされる。なお、このとき、ロックリング4001は、搬送モータ35からの動力を伝達するプーリギア361に固定されているので、搬送ローラ36とプーリギア361との間には、回転力が発生しない。
【0039】
このようなロック状態が発生するのは、搬送ローラ36が一回転する中の決められた1つの位置のみである。よって、このように搬送ローラがロックされた位置を搬送ローラの位相の原点とすることが出来る。
【0040】
なお、コードホイールに印刷された1周期/1回転のエッジをセンサで検知する構成、ローラ類に取り付けられた1周期/1回転のエッジをセンサで検知する構成等、従来の方法により搬送ローラ36の位相の原点を検出するようにしても構わない。
【0041】
図8は、本実施形態の記録装置の制御の構成を説明するためのブロック図である。CPU501は、ROM504に記憶された各種プログラムに従って、コントローラ502を介して装置内の各機構の制御を行う。その際、RAM503は各種データを一次的に保存したり、処理を実行したりする際のワークエリアとして使用される。外部に接続されたホスト装置から受信した画像データに対し、CPU501は記録装置が記録できるような記録信号に変換するための画像処理を行う。そして、モータドライバ507を介して各種モータ506を駆動したり、記録ヘッドドライバ509を介して記録ヘッド7を駆動したりして、記録媒体に画像を形成する。図において、モータ506やモータドライバ507は、先術した搬送モータ35、キャリッジモータ54、給紙モータ99およびそれぞれのドライバを、一括して示している。
【0042】
電気的に書き込み可能なEEPROM508には、工場での設定値や更新されるデータが格納されており、このデータはコントローラ502及びCPU501によって制御パラメータとして用いられる。センサ505は、装置内の各所に設置された温度センサやエンコーダセンサを一括して示したものであり、先述した搬送ローラエンコーダセンサ363も、その1つとなっている。CPU501は、搬送ローラエンコーダセンサ363がスリットを検知したカウント情報を、随時RAM503のリングバッファにインクリメントする。そして、原点が検出された場合には、その原点情報をRAM503の別領域あるいはEEPROMに記憶する。
【0043】
以下、本実施形態の特徴構成について詳細に説明を行う。
【0044】
まず、搬送ローラ36から排紙ローラ40への受け渡し時に搬送量誤差が変動する現象について説明する。図11は、搬送ローラ36から排紙ローラ40への受け渡し時の搬送量について説明するための図である。
【0045】
受け渡し時の搬送動作において、図11(a)に示す搬送ローラ36とピンチローラ37とのニップ近傍は、用紙を停止させるのに不安定な区間となるため、この区間に停止しない様に搬送制御を行う必要がある。すなわち、用紙が搬送ローラ36のニップを通過するときには、図11(b)に示すニップの上流から搬送を開始し、図11(c)に示すニップの下流で停止するように搬送を行う。このときの搬送動作における搬送位置は、搬送ローラ36と排紙ローラ40の双方で搬送しているA区間と、ニップ部を通過する地点であるB部と、排紙ローラ40のみで搬送しているC区間とに分けられる。
【0046】
また、搬送ローラおよび排紙ローラにはローラの偏心が存在するために、それぞれ、同じ角度だけローラを回転させても、ローラの回転位相に応じて搬送量の大きい領域と搬送量の少ない領域とが生じる。上述の搬送量の大きい領域では、一定角度だけ回転させたときの搬送量が所定量よりも大きいために、用紙の搬送速度も所定速度よりも増加することになる。一方で、搬送量の小さい領域では、その搬送速度は小さくなる。以上のようにして、搬送ローラおよび排紙ローラそれぞれで、ローラの偏心に依存した搬送速度の変動があるため、搬送ローラと排紙ローラとの間で搬送速度差が生じるのである。
【0047】
上述したとおり、搬送ローラと排紙ローラとの間で搬送速度差が生じるために、受け渡し時の搬送動作におけるA区間からC区間に切り替わる際に、搬送ローラと排紙ローラの搬送速度差に起因して搬送量変動が発生する。これについて説明すると、搬送ローラおよび排紙ローラの双方で用紙を搬送している状態では、搬送ローラ36と排紙ローラ40との間には、2つのローラの速度差により用紙を介した引っ張り力もしくは反発力が発生している。しかし、用紙後端がB点を通過する際に、この力による排紙ローラ40の撓みが解放される。これにより、搬送ローラと排紙ローラとの搬送速度差に起因する、特異的要因による搬送量が発生するのである。
【0048】
また、もちろん、A区間およびC区間では、ローラの偏心に伴う搬送量の誤差が生じる。A区間では、搬送ローラ36による搬送量制御が支配的であるため、搬送ローラ36の偏心による搬送量誤差が発生し、C区間では、排紙ローラ40の偏心による搬送量誤差が発生する。したがって、A区間での単位搬送量の誤差(の積分値)およびC区間での単位搬送量の誤差(の積分値)もまた、搬送量を補正する上では考慮する必要がある。
【0049】
以上のようにして、受け渡し時の搬送動作における搬送ローラおよび排紙ローラの回転位相に応じて、搬送ローラ36から排紙ローラ40への受け渡し時に搬送量誤差が変動する。したがって、搬送ローラから排紙ローラへの受け渡し時の搬送量を補正するにあたっては、A区間およびC区間の偏心による搬送量誤差に加えて、A区間とC区間の単位搬送量(搬送速度)が出来るだけ等しくなるように、搬送量を補正することが重要となる。なお、搬送ローラ36と排紙ローラ40の双方で搬送している状態(A区間)では、搬送ローラ36による搬送量制御が支配的であるため、この状態については、単に搬送ローラ36の搬送状態として考えることができる。
【0050】
次に、図12〜14を用いて、受け渡し時における搬送ローラと排紙ローラの搬送速度差に起因する記録媒体(用紙)Pの搬送量誤差について説明する。
【0051】
図12において、縦軸は搬送量誤差、横軸はローラの回転位相である。同図において、搬送ローラ36と排紙ローラ40の双方で記録媒体Pを搬送している状態(A区間)でのローラの回転位相に応じた搬送量変動を実線、排紙ローラ40のみで記録媒体Pを搬送する状態(C区間)のローラの回転位相に応じた搬送変動を破線で示す。同図において、縦軸の中心0より上側は、ローラの搬送速度が所定速度よりも速い状態にあって、記録媒体が所定の搬送量よりも多く送られてしまう、搬送量誤差がプラスの状態を示している。また、逆に、縦軸の中心0より下側は、ローラの搬送速度が所定速度よりも遅い状態にあって、記録媒体が所定の搬送量よりも少なく送られてしまう、搬送量誤差がマイナスの状態を示している。
【0052】
図13(A)〜(C)は、図12中の(A)〜(C)の回転位相で、搬送ローラから排紙ローラへの用紙の受け渡しが行われたときの、A区間およびC区間の搬送量誤差を示している。また、図14(A)〜(C)は、図13(A)〜(C)に対応し、排紙ローラ40の変動を図示するものである。
【0053】
図12の(A)の回転位相で用紙の受け渡しが行われたときの、A区間およびC区間の搬送量誤差を図13(A)に示す。この位相では、搬送ローラ36の搬送量誤差<排紙ローラ40の搬送量誤差、すなわち搬送ローラ36の搬送速度<排紙ローラ40の搬送速度となるため、搬送ローラ36に比べて排紙ローラ40は増速系となる。したがって、図14(A)に示すように、排紙ローラ40と記録媒体Pとの間のトラクション力(摩擦力)で上流側に撓んでいた排紙ローラ40の撓みが、記録媒体Pの後端が搬送ローラ36のニップを通過した瞬間に開放されて、排紙ローラ40は下流側に移動する。そのため、この排紙ローラ40の移動に応じて、受け渡し時の用紙搬送量が増加する。この搬送量の増加分に加えて、図13(A)に示すA区間での搬送量誤差の積分値とC区間での搬送量誤差の積分値とを加算した値が、受け渡し時の搬送量誤差に相当することになる。
【0054】
図12の(B)の回転位相で用紙の受け渡しが行われたときの、A区間およびC区間の搬送量誤差を図13(B)に示す。この位相では、搬送ローラ36の搬送量誤差=排紙ローラ40の搬送量誤差、すなわち搬送ローラ36の搬送速度=排紙ローラ40の搬送速度となるため、排紙ローラ40は等速系となる。また、図14(B)に示すように、排紙ローラ40と搬送ローラ36との速度差により記録媒体を介して生じる力が発生しないため、記録媒体Pが搬送ローラ36のニップを通過しても、排紙ローラ40の撓み解放による排紙ローラの移動は発生し得ない。そのため、排紙ローラの移動によって記録媒体Pの搬送量が変化することはない。したがって、図13(B)の区間Aでの搬送量誤差の積分値と区間Cでの搬送量誤差の積分値とを加算した値が、およそ受け渡し時の搬送量誤差に相当する。
【0055】
図12の(C)の位相で用紙の受け渡しが行われたときの、A区間およびC区間の搬送量誤差を図13(C)に示す。この位相では、搬送ローラ36の搬送量誤差>排紙ローラ40の搬送量誤差、すなわち搬送ローラ36の搬送速度>排紙ローラ40の搬送速度となるため、搬送ローラ36に比べて排紙ローラ40は減速系となる。したがって、図14(C)に示すように、排紙ローラ40と記録媒体Pとの間のトラクション力(摩擦力)で下流側に撓んでいた排紙ローラ40の撓みが、記録媒体Pの後端が搬送ローラ36のニップを通過した瞬間に開放されて、排紙ローラ40は上流側に移動する。そのため、この排紙ローラ40の移動に応じて、受け渡しのときの記録媒体Pの搬送量が減少する。この搬送量の減少分に加えて、図13(C)に示す区間Aでの搬送量誤差の積分値と区間Cでの搬送量誤差の積分値とを加算した値が、受け渡し時の搬送量誤差に相当する。
【0056】
本実施形態は、上述した受け渡し時の搬送量誤差を補正する搬送量制御として、第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを実行可能である。以下に、この第1、第2の搬送量制御について説明する。
【0057】
[第1の搬送量制御]
まず、受け渡し時の搬送動作における搬送量の補正制御方法の1つである第1の搬送量制御について述べる。受け渡し時の搬送動作における搬送量の補正制御方法の基本的な手順は、まず、ローラの回転位相を管理した状態で用紙搬送を行い、A区間およびC区間それぞれで、回転位相間隔ごとに用紙搬送量を実測する。次に、実測結果より、A区間(搬送ローラ)およびC区間(排紙ローラ)の回転位相間隔ごとの搬送量補正値を算出する。そして、実際の記録動作において、受け渡し時の回転位相に応じて、搬送ローラおよび排紙ローラの回転位相間隔ごとの搬送量補正値から受け渡し時の搬送動作における搬送量を補正するための補正値を算出して、受け渡し時の搬送動作の搬送量を補正する。
【0058】
ここで、図22は、ローラ外周を8分割して形成される8つの回転位相間隔S1〜S8の概念図と、回転位相間隔毎に設定される搬送量の補正値を格納した補正値のテーブルとを示したものである。同図において、ポジションps1〜ps8は、1回の搬送動作において、用紙搬送が開始されるローラの回転位相の位置を示すものである。なお、ここでは、搬送ローラ36と排紙ローラ40ともにローラ外周を8分割して、8つの回転位相間隔S1〜S8ごとに搬送量補正の制御を行う。また、搬送ローラ36と排紙ローラ40の回転位相比が1:1と等しいため、双方のローラ回転位相は同一角度で管理している。
【0059】
図18は搬送ローラ36と排紙ローラ40の回転位相間隔毎の搬送量補正値を取得するために、記録されるテストパターンの一例を示したものである。
【0060】
まずは、図22、18を用いて、搬送ローラおよび排紙ローラの回転位相間隔ごとの搬送量補正値の取得方法について説明する。
【0061】
第1に、前述したローラの回転位相の原点検出処理を行うことによりローラ位相の原点を確定させ、ローラの回転位相を管理可能な状態にする。そして、ローラの回転位相を管理可能な状態で、図18に示すようなテストパターンの記録を行う。
【0062】
このテストパターン記録にあたっては、まず給紙部より用紙の給紙動作を実行し、搬送ローラ36の回転位相がポジションps1に到達するまで用紙搬送を行う。搬送ローラの回転位相がポジションps1に到達した後、1回目のテストパターン2201を記録する。パターン記録終了後、ポジションps1より用紙の搬送を開始し、ローラの回転位相がポジションps2に到達するまで用紙搬送を行い、2回目のテストパターン2202を記録する。これにより、1回目のテストパターン2201と2回目のテストパターン2202との間のパターン間隔は、ポジションps1からps2までの回転位相間隔s1での単位搬送量に相当する。同様にして、2回目のパターン記録終了後、ポジションps2より用紙の搬送を開始し、ローラの回転位相がポジションps3に到達するまで用紙搬送を行い、3回目のテストパターン2203を記録する。
【0063】
以上の動作を、搬送ローラ36の回転位相が再びポジションps1に戻ってくるまで繰り返し行う。このような動作を繰り返し行うことにより、9本のテストパターン2201〜2209が記録される。
【0064】
引き続き、排紙ローラ40のみの搬送状態でのテストパターン記録を行うために、用紙後端が搬送ローラ36のニップ部を通過し、排紙ローラ40の回転位相がポジションps1に到達するまで用紙搬送を行う。排紙ローラの回転位相がポジションps1に到達した後、1回目のテストパターン2211を記録する。次に、ポジションps1より用紙の搬送を開始し、回転位相がポジションps2に到達するまで用紙搬送を行い、2回目のテストパターン2212を記録する。以上の動作を、排紙ローラ40の回転位相が再びポジションps1に戻ってくるまで繰り返し行う。これにより、9本のテストパターン2211〜2219が記録される。
【0065】
テストパターンの記録終了後、テストパターン2201〜2209および2211〜2219のパターン間隔を、例えばキャリッジ50に備えら付けられたスキャナ(光学センサ)等によって測定する。
【0066】
ここで、テストパターン2201〜2209までのパターン間隔は搬送ローラ36の回転位相間隔S1〜S8それぞれの搬送量に対応し、テストパターン2211〜2219のパターン間隔は排紙ローラ40の回転位相間隔S1〜S8それぞれの搬送量に対応する。そのため、テストパターン2201〜2209のパターン間隔を測定することにより、搬送ローラ36の回転位相間隔S1〜S8それぞれの搬送量誤差を取得することができる。同様に、テストパターン2211〜2219のパターン間隔を測定することにより、排紙ローラの回転位相間隔S1〜S8それぞれの搬送量誤差を取得することができる。
【0067】
次に、各ローラの回転位相間隔ごとに用意された補正値格納場所に、搬送量補正値の格納を行う。具体的には、理想的なローラの搬送量から測定値を引いたものを補正値として、図22の補正値テーブルのSLF1〜SLF8、SEJ1〜SEJ8に格納する。
【0068】
以上の一連の動作により、搬送ローラ36と排紙ローラ40それぞれの回転位相間隔毎の搬送量補正値を取得することができる。
【0069】
次に、各ローラの回転位相間隔毎の補正値を用いて、ローラの受け渡し時の搬送量補正値の算出方法について述べる。前述のように、搬送ローラ36と排紙ローラ40の受け渡し時の搬送量は、A区間およびC区間での搬送量誤差の他に、ローラの搬送速度差による撓みの影響も考慮する必要がある。そこで、あらかじめ実験で求めたもの、あるいはローラの機械的物性値により算出される補正係数A,Bを用いて、受け渡し時の補正値を以下の式より算出する。
(式1)
Sk=A・SLF+B・SEJ
Sk:受け渡し時の搬送動作における搬送量補正値
SLF:搬送ローラ36の搬送量補正値(第1の補正値)
SEJ:排紙ローラ40の搬送量補正値(第2の補正値)
【0070】
すなわち、上式では、A区間(搬送ローラ)およびC区間(排紙ローラ)での搬送量誤差に加えて、ローラの搬送速度差による特異的な搬送量誤差を考慮した受け渡し時の補正値Sk1〜Sk8を算出することが可能になる。この算出した受け渡し時の補正値Sk1〜Sk8は、図15に示される補正テーブルに、回転位相区間ごとに格納される。
【0071】
なお、搬送ローラと排紙ローラそれぞれで8つの回転位相間隔ごとに補正値を取得しているため、受け渡し時の搬送量補正値は最大で64値が算出される。しかし、本制御では、搬送ローラ36と排紙ローラとの回転比を1:1としているので、搬送ローラと排紙ローラそれぞれの8値の補正値は1:1で対応し、受け渡し時の補正値はSk1〜Sk8の8値となる。
【0072】
次に、図16、17を用いて、実際の記録動作時において受け渡し時の搬送量補正制御について説明する。図16は、受け渡し時の搬送動作におけるローラの回転位相の取得方法を説明する図である。図16(A)は、記録へッド7よりも搬送方向上流側に設けられたレバー321が用紙後端を検出した時点の状態を表しており、そのときのローラの回転位相はφEnd_snsである。また、図16(B)は、用紙後端が搬送ローラのニップ部を抜け出る瞬間の状態を表しており、そのときのローラの回転位相はφEndである。
【0073】
図17は、実際の記録動作時における受け渡し時の搬送量補正の制御フローである。
まず、図17を参照するに、実際の記録動作が開始されると、ステップS1701において用紙の後端位置を検出し、この時点のローラ回転位相φEnd_snsを求める。図16に示すように、この時点では、受け渡し(A区間からC区間への切り替わり)までにLend分の距離が残っている。また、この距離Lendに相当するローラの回転角度量は、ΔφEndである。
【0074】
なお、ステップS1701では、従来から知られている、用紙の後端検知方法を採用すればよい。すなわち、検知レバー321(図16)が、搬送される用紙の先端と当接すると待機位置から離れ、用紙の後端が通過すると元の位置に戻るように構成し、検知レバー321が待機位置に戻ったことを検出することで、用紙後端を検知する方法等である。
【0075】
次に、ステップ1702により、用紙後端を検知した時点の回転位相φEnd_snsと距離Lendとに基づいて、受け渡し地点の回転位相φEndを算出する。
【0076】
ステップS1703では、先のステップS1702で算出した受け渡し地点の回転位相φEndが、どの回転位相区間に存在するかを求める。ここでは、受け渡し地点の回転位相φEndが、回転位相区間S2に存在するものとして、以降の説明を行う。
【0077】
次に、ステップS1704では、ステップS1703で求めたローラ受け渡し時の位相区間に格納された搬送量補正値を取得する。本例では、回転位相区間S2に対応した搬送量補正値Sk2を取得する。実際の画像記録動作中におけるローラ受け渡し時の搬送動作においては、この補正値を所定の搬送量に対して適用する(ステップS1705)。
【0078】
以上の説明では、用紙後端の検知時点の回転位相φEndを基準にして、受け渡し時の回転位相区間を算出したが、常に位相原点φOrignを起点に計算するようにしてもよい。また、用紙後端位置の検知情報を用いず、記録媒体の長さ情報と印字開始位置情報とから、受け渡し時の回転位相を推定して補正値を割り当てることも可能である。
【0079】
また、以上の説明では、搬送ローラと排紙ローラの回転位相間隔ごとの搬送量補正値から予め受け渡し時の搬送量補正値を計算しておき、実際の記録動作時には、計算された補正値が格納された補正値テーブルから適当な補正値を選択するようにしていた。しかし、搬送ローラと排紙ローラの回転位相間隔ごとの搬送量補正値まで取得しておき、実際の記録時にその場で、受け渡し時の回転位相に応じて、補正値を算出してもかまわない。
【0080】
搬送ローラから排紙ローラへの用紙の受け渡し時の搬送量は、A区間およびC区間の偏心による搬送量誤差と、ローラの搬送速度差に起因する搬送誤差とにより変化する。すなわち、上記2つの搬送量誤差は、ともにA区間(搬送ローラ)およびC区間(排紙ローラ)の単位搬送量(搬送速度)に大きく影響を受けるものである。したがって、受け渡し時の搬送量を補正するにあたっては、A区間(搬送ローラ)およびC区間(排紙ローラ)の単位搬送量(搬送速度)の相対的な関係に基づいて、搬送量を補正することが必要である。
【0081】
第1の搬送量制御によれば、搬送ローラおよび排紙ローラの単位搬送量(搬送速度)の差に基づいて、受け渡し時の搬送量を回転位相ごとに補正するため、従来の固有の補正値を適用するケースより高精度な用紙搬送を実現することができる。
【0082】
[第2の搬送量制御]
第1の搬送量制御では、受け渡し時の搬送量補正値をローラの回転位相間隔ごとに予め求めておくことで、実際の記録動作時に、受け渡しの搬送動作がどの回転位相間隔で行われても、搬送量誤差の少ない高精度の搬送制御を実現するものである。これに対し、第2の搬送量制御では、受け渡し時の搬送量補正値をローラの回転位相間隔ごとに求めた上で、受け渡し時の搬送動作に最も適する回転位相間隔を決定する。そして、実際の記録動作時には、この最適な回転位相区間で受け渡し時の搬送動作が行われるように、用紙搬送制御を実行することを特徴としている。
【0083】
そこで、第2の搬送量制御では、用紙後端が搬送ローラ36のニップ部を通過する時に搬送ローラと排紙ローラとの搬送速度が同じ(もしくは最も近くなる)回転位相間隔で、受け渡し時の搬送動作が行われるように制御する。つまり、用紙の幅方向の中心に対してローラの軸受け部が左右対称に構成されている記録装置では、用紙の中心とローラの中心が一致するため、搬送ローラ36と排紙ローラ40の搬送量(搬送速度)を等しくすることが最適であるからである。
【0084】
まず、所望の回転位相で受け渡し時の搬送動作を実行するための制御方法について述べる。
【0085】
用紙が給紙ユニットから給送されて、その先端が搬送ローラにより挟持されると、その後は用紙と搬送ローラ36とがほぼスリップしない状態で搬送動作が行われる。したがって、用紙先端を搬送ローラで挟持した後は、用紙位置と搬送ローラの回転位相は一義的に管理でき、受け渡しの回転位相は容易に推定することができる。つまり、用紙の長さを考慮して、給紙後の用紙先端が搬送ローラ36のニップで挟持されるローラの回転位相を調整することで、受け渡し(B点)における回転位相を制御することができる。
【0086】
次に、図19、20、21を用いて、第2の搬送量制御における受け渡し時の搬送制御について説明する。図19は、用紙先端が検知されてから用紙先端が搬送ローラのニップに噛み込まれるまでの用紙の搬送状態を説明する図である。図19(A)はレバー321が用紙先端を検出した時点の状態を表しており、図19(B)は用紙先端が搬送ローラのニップに噛み込まれた時点の状態を表している。また、図20は、用紙後端が最適な回転位相φjustにより搬送ローラのニップを抜けるときの状態を示している。
【0087】
図21は、本搬送量制御における受け渡し時の搬送制御フローである。
図21を参照すると、ステップS2101において、用紙の長さ情報Lpをプリンタドライバや入力デバイスから取得する。なお、記録装置内のセンサを用いて用紙の長さ情報を取得するようにしても良い。
【0088】
次に、ステップS2102では、取得した用紙の長さ情報Lpを基に、搬送ローラ36の回転が開始される初期位相(待機停止位相)を算出する。
【0089】
次に、搬送ローラ36を待機停止位相で停止させておき(ステップS2103)、その後、給紙ローラ28を回転動作させて用紙の給紙を開始する(ステップS2104)。続いて、ステップS2105では、給紙された用紙がレバー321に当接してレバー321を回動させ、用紙先端検知センサが用紙先端位置Ptopを検知する。この時点から給紙ローラ28があとPtopの距離を搬送したときに、搬送ローラ36のニップまで到達する。この時点を起点にして、搬送ローラ36が回転し始め(S2106)、用紙Pが搬送ローラ36のニップに到達するまでは、給紙ローラ28の搬送速度で搬送ローラ36を回転駆動制御し、搬送ローラ36のニップ部で用紙Pを噛み込む(S2107)。第2の搬送量制御では、この時点で受け渡し時の回転位相が確定する。したがって、以上の制御により、受け渡し時のローラの回転位相を最適位相φjustに設定することが出来る。
【0090】
ここで、以上の最適位相φjustにより受け渡し時の搬送動作を実現するための、初期位相(待機停止位相)の算出方法について図19を参照して説明する。
【0091】
用紙Pの先端検知時点から搬送ローラ36のニップ噛み込み時点までの給紙ローラ28の搬送量がPtopであるのに対し、搬送ローラ36の搬送量はPtopより少ないLtopとなっている。これは、既に動作中の給紙ローラ28に対して、搬送ローラ36が停止状態から始動するためである。ここで、Ltopは、給紙ローラ28の回転速度と搬送ローラ36の回転速度が記録モードにより決定されると、一義に算出することが可能である。つまり、搬送ローラ36は、用紙Pをニップで噛み込むローラの回転位相に対し、Ltop搬送量分手前の回転位相で停止しておけばよい。
【0092】
搬送ローラ36で噛み込んだ用紙Pは、さらに用紙の長さLp分だけ搬送ローラ36を回転させたところで、搬送ローラ36から排紙ローラ40への受け渡しが行われる(図20)。このときの搬送ローラ36の回転位相が、最適な回転位相となるように、事前に搬送ローラ36の位相を制御すればよい。
【0093】
そのため、受け渡し時の搬送ローラの最適位相をφjustとすると、搬送ローラの回転位相φjustで受け渡しを行うためには、φjustを基準として(Lp)/(πDr)の位相差分だけ手前の位相で用紙Pを噛みこめばよい。なお、Drは搬送ローラの搬送実行直径である。更には、最適位相φjustを基準として(Lp+Ltop)/(πDr)の位相差分だけ手前の位相を搬送ローラ36の待機停止位相として設定すればよい。なお、ローラのスリップ分も考慮して搬送ローラ36の待機停止位相を設定すれば、より厳密は搬送制御が可能になる。
【0094】
以上により、最適位相φjustで受け渡しの搬送動作が行うことができ、安定的に高精度な用紙搬送を実現することができる。記録装置本体の製造バラツキや、経時変化、用紙種類の違いにより、突発的な搬送誤差が発生して最適位相φjustで受け渡しの搬送動作が行えない場合もあるが、その確率を非常に低く抑えることができる。また、最適位相φjustで受け渡しの搬送動作が行えない場合には、第1の搬送制御で説明したように、受け渡し時の回転位相に応じた補正値を適用することで、そのときの搬送量誤差を軽減できる。
【0095】
なお、最適位相φjustは、ローラの軸長やローラのセッティング等により異なる。前述したとおり、用紙中心に対してローラの両端軸受け中心が一致している場合には、用紙後端が搬送ローラ36のニップ部を通過する時に搬送ローラと排紙ローラとの搬送速度が同じ(もしくは最も近くなる)回転位相が、最適位相φjustとなる。
【0096】
一方、排紙ローラ40に対して増速設定された排紙アシストローラ41が構成され、用紙中心に対してローラの両端軸受け中心が一致しない場合には、搬送ローラ36と排紙ローラ40の搬送速度差を等しくしても、搬送量は安定しない。これは、用紙がニップ通過直後に、排紙ローラの撓みによって、ローラ軸方向の左右差の影響を受けて下流側に移動してしまうためである。このような現象は、排紙アシストローラ41が排紙ローラ40に対して増速設定されている構成において、特に顕著となる。このような場合、搬送ローラ36と排紙ローラ40の単位搬送量の関係において、搬送ローラ36に対して排紙ローラ40の搬送量が減速系となる位相を選択し、事前に排紙ローラ40を下流側に撓ませておく。このようにして、前述の撓み解放分の影響を相殺させることが効果的である。
【0097】
以上のとおり、第2の搬送量制御では、記録装置本体の構成に合わせて、ローラ受け渡し時の最適位相φjustを設定することにより、より高精度な受け渡し時の搬送動作が可能となる。
【0098】
[本実施形態の特徴部分]
ここで、第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを対比すると、第1の搬送量制御では、受け渡し時の搬送動作がどの回転位相区間で行われるか不明であるため、ローラの回転位相区間によっては突発的な搬送誤差が生じることもある。一方、第2の搬送量制御では、受け渡し時の搬送動作に最も適する回転位相間隔を求めて、この最適な回転位相区間で受け渡し時の搬送動作が行われるように、用紙搬送制御を実行する。したがって、第2の搬送制御の方が、突発的な搬送誤差を抑えて、安定して高精度な搬送制御が可能になる。
【0099】
しかしながら、第2の搬送制御では、最適な回転位相区間で受け渡し時の搬送動作が行われるようにするために、搬送ローラの初期位相(待機停止位相)を算出した上で、搬送ローラを回転させ待機停止位相で停止させておく必要がある。したがって、第2の搬送量制御を採用して記録動作を行う場合、第1の搬送量制御を用いる場合よりも、画像記録に要する時間が多くかかってしまう。
【0100】
そこで、本実施形態では、画像記録を行うときに設定される記録品位に応じて、上述の第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを切り替えるようにしている。以下、図23を参照して、本実施形態における記録モードと搬送量制御との関係について説明する。
【0101】
まず、本実施形態の記録装置においては、普通紙に記録を行う場合、「はやい」、「標準」、「きれい」の3つの記録品位が設定可能な構成となっている。この3つの記録品位では、記録媒体上の所定領域(バンドともいう)を複数回走査させて記録する記録方式、所謂マルチパス記録における記録パス数が異なっている。つまり、「はやい」では、記録パス数が1パスとなっており高速に記録可能であるものの、その記録品位は最も低い。「きれい」では、記録パス数が4パスとなっており、最も高い記録品位の画像を得ることができるが、パス数が多いために多くの記録時間を要する。「標準」は記録パス数が2パスとなっていて、標準的な記録品位、記録速度が得られるような設定となっている。以上の記録品位の選択は、記録装置に備えられた操作部や記録装置に接続されたホストでの操作によって、ユーザが任意に設定することができる。
【0102】
本実施形態では、記録品位よりも記録速度が優先される「はやい」モードでは、搬送ローラを待機停止位相で停止させる処理の必要が無い第1の搬送量制御を採用する。一方、「標準」および「きれい」では、第2の搬送量制御を用いて記録を行うことにより、安定した高精度な搬送制御を可能とし、記録品位の高い画像記録を実現する。以上の構成によって、記録速度を優先した画像記録と高精度な搬送制御による記録品位の高い画像記録とを両立することが可能となる。
【0103】
図24は、本実施形態の第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを選択するフローである。
【0104】
まずStep1にて記録データを受信し、Step2にて記録データに付与されるコマンド部を解析する。このstep2におけるコマンド部の解析によって、記録が行われる用紙の種別、ならびに指定されている記録品位の情報が取得される。
【0105】
次に、Step3にて指定されている記録品位の記録パス数が所定のパス数以上か否かを判断する。ここでは、用紙の種別が普通紙であるため2パス以上であるか否かを判断することにより、第1の搬送量制御を選択する記録品位「はやい」であるか、第2の搬送量制御を選択する記録品位「標準」または「きれい」であるかを判断する。つまり、記録パス数が2パスの「標準」および4パスの「きれい」の場合には、step4へと進み第2の搬送量制御が選択される。一方、記録パス数が1パスの「はやい」の場合には、step5へと進み第1の搬送量制御が選択される。
【0106】
続いて、step6では、step4、5において選択された第1の搬送量制御または第2の搬送量制御のいずれかの搬送制御により、記録が実行される。
【0107】
以上のとおり、本実施形態によれば、指定された記録品位に応じて第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを切り替えることにより、記録速度を優先した画像記録と高精度な搬送制御による記録品位の高い画像記録とを両立することが可能となる。
【0108】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、バンド境界部の間引き処理を行うか否かに応じて、第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを切り替えることを特徴とするものである。
【0109】
以下に、バンド間引き処理の詳細について説明する。
【0110】
例えば、普通紙を用いた記録等において、記録速度を向上させる上で効率的な1パス記録では、黒スジが発生して、記録画像の悪化を招く問題が知られている。これは、特に記録デューティーが高い領域において、隣接するバンドの境界部(単につなぎともいう)またはその近傍において、一方のバンドから他方のバンドへインクが流れ込むことに起因する。つまり、バンドの境界部で濃度が高くなり、黒スジが発生し易くなるために、上述の画像劣化の現象が発生するのである。
【0111】
この問題に対して、特許文献2においては、所定色のインクの吐出量と他色のインクの吐出量との合計に応じて、所定色のインクの吐出量を低減させるよう記録データの間引きを行う方法が開示されている。この方法では、所定色のインク吐出量と多色のインク吐出量とから、つなぎ部の色相を判定した上で、その色相に応じて間引き処理の内容を異ならせることで、黒スジの発生による画像弊害を軽減するというものである。
【0112】
このような間引き処理は、所定エリアのドットカウント、色相判定、間引き量計算など複数のタスクを並行して行う必要があるため、記録装置本体の制御を司るASIC等の制御系に大きな処理負荷がかかる。ここに、搬送量制御に関わるタスクが加わると処理負荷という観点では、記録速度の低下に直結する場合も起こり得る。
【0113】
上述の第1の搬送量制御と第2の搬送量制御であれば、受け渡し時の搬送動作に最も適する回転位相間隔を求めて、搬送ローラを初期位相で待機させる、第2の搬送量盛業の方が、その処理負荷は大きい。
【0114】
そこで、本実施形態では、バンド境界部の間引き処理を行う場合には第1の搬送量制御を採用することにより処理負荷を低減して、記録速度の低下の可能性を軽減させるものである。
【0115】
以下、図25を用いて、本実施形態における、間引き処理の実行有無と、第1の搬送量制御と第2の搬送量制御の切り替えとの関係について説明する。図25は、普通紙に記録を行うときの、記録品位ごとのパス数、間引き処理の実行有無、搬送量制御の関係を示す図である。
【0116】
図25を参照すると、記録品位が「はやい」、「標準」の場合には、ともに1パスで記録を行うが、「標準」ではバンド境界部の間引き処理が適用される。また「きれい」は4パスであって、バンド境界部の間引き処理を適用としていない。これは、記録パス数が多くなると1回の走査に伴うインク打ち込み量が減るため、つなぎ部へのインクの流れ込みが少なく、黒スジが発生しにくいためである。
【0117】
以上のように、本実施形態では、バンド間引き処理が行われるのは、3つの記録品位のうち「標準」が指定された場合のみであるため、「標準」では第1の搬送量制御を選択し、「はやい」「きれい」では第2の搬送量制御を選択するようにしている。
【0118】
なお、つなぎ部に発生する黒スジは、ノズル解像度が600dpi〜1200dpiの場合で複数ノズルに相当する領域であり、ローラの偏心による搬送量の誤差分よりも大きい。つまり、ローラの偏心による搬送誤差に伴う画像の悪化と、バンド間のつなぎ部における黒スジによる画像の悪化とを比較した場合、後者の方が画像への影響は大きい。そこで、本実施形態では、1パス記録を行う「はやい」および「標準」のうち、「標準」の記録品位が指定されたときに、バンド間引き処理を行うようになっている。
【0119】
図26は、本実施形態における搬送量制御を選択するシーケンスを示している。
【0120】
まずStep1にて、記録データを受信し、Step2にて記録データに付与されるコマンド部を解析する。このstep2におけるコマンド部の解析によって、記録が行われる用紙の種別、ならびに指定されている記録品位の情報が取得される。
【0121】
次に、Step3にて、記録が行われる用紙の種別がバンド間引き処理を行う用紙であるかの判定を行う。先にも述べたとおり、バンドのつなぎ部に黒スジが発生する問題は、インクの滲みが生じやすい普通紙に記録するときに、特に顕著に生じる問題である。一方、インクの滲みが生じ難い用紙、例えば光沢紙のような用紙では、つなぎ部に黒スジが発生することは殆どない。そのため、このような種類の用紙では、バンド間引き処理が必要ないこともある。したがって、Step3では、バンド間引き処理の必要な記録媒体の種類であると判定された場合にはStep4に進むが、バンド間引き処理が必要ないと判定されれば、Step6において第2の搬送量制御が選択される。
【0122】
Step4では、指定された記録品位がバンド間引き処理を行うべき記録品位であるかの判定を行う。本実施形態では、図25を用いて説明したように、指定された記録品位が「標準」の場合にはStep5へと進み、第1の搬送量制御が選択される。一方、記録品位が「はやい」または「きれい」の場合には、Step6において第2の搬送量制御が選択される。
【0123】
続いて、step7では、step5、6において選択された第1の搬送量制御または第2の搬送量制御のいずれかの搬送制御により、記録が実行される。
【0124】
なお、本実施形態では、バンド間の間引き処理を例にとって説明を行ったが、その他の画像処理についても同様に、画像処理の実行有無に応じて第1、第2の搬送量制御を切り替えるようにしてもよい。
【0125】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、記録開始前に記録用紙の所定領域に画像データが存在するか否か、すなわち、受け渡し時の搬送動作の前後で記録が実行されるか否かを判定し、記録すべきデータがなければ第1の搬送量制御により記録を行うというものである。つまり、本実施形態では、遷移領域(受け渡し時の搬送動作の前後で記録される領域)に記録すべき記録データが存在しないのであれば、第1の搬送量制御を選択する。これにより、搬送ローラを待機停止位相で停止させる処理等を省略し、高速記録を実現するものである。
【0126】
本実施形態では、記録開始前に記録用紙の所定領域に画像データが存在しなければ、上述の実施形態のように記録品位(記録パス数)や画像処理の実行有無から、記録開始前に記録用紙の所定領域に画像データが存在しなければ、第1の搬送量制御を選択する。
【0127】
以下、図27に本実施形態における搬送量制御の選択フローを示す。
【0128】
まずStep1にて記録データを受信し、Step2にて記録データに付与されるコマンド部を解析する。このstep2におけるコマンド部の解析によって、記録が行われる用紙の種別、指定されている記録品位の情報が取得される。次に、Step3にて、第2の搬送量制御が選択されるべき用紙の種別や記録品位(記録パス数)であるかを判定する。このStep3において、第2の搬送量制御が選択されるべき条件にあると判定されると、Step4へと進み、記録データ中の記録データ部を解析する。
【0129】
Step5では、記録データ部の解析結果から、所定領域(遷移領域)に記録データが存在するか否かを判定する。このStep5において、遷移領域に記録データが存在すると判定されれば、Step6へと進み、第2の搬送量制御が選択される。
【0130】
一方、Step3において第2の搬送量制御が選択されるべき条件に無いと判定されるか、Step5において遷移領域に記録データが存在しないと判定されれば、Step7において、第1の搬送量制御が選択される。
【0131】
続いて、step8では、step6、7において選択された第1の搬送量制御または第2の搬送量制御のいずれかの搬送制御により、記録が実行される。
【0132】
(第4の実施形態)
第4の実施形態は、記録用紙および、表面に記録可能なCD−RやDVD−R(プリンタブルディスク)に対しても記録が行える記録装置において、記録媒体の種類に応じて、第1の搬送量制御と第2の搬送量制御とを切り替えるものである。
【0133】
図28は、本実施形態を適用可能な記録装置の構成を示す外観斜視図である。
【0134】
本実施形態における記録装置100は、マルチファンクションプリンタの形態をとっており、読み取り装置101であるスキャナが一体に構成されている。102はスキャナで読み取った画像を表示するための表示手段であるビューワであり、一般的に用いられている液晶モニターである。103はユーザが各種設定可能な設定キーであり上下、左右のキーを操作することでビューワ上の画像を任意に移動することや拡大、縮小、トリミングすることが可能となっている。104は原稿等の印刷物や写真等の画像であり、105は出遠視情報記録メディアであるCD−RやDVD−Rのような媒体で、表面に記録できる仕様のものである。以降、表面に記録できる仕様のCD−RやDVD−Rの媒体をプリンタブルディスクとも記載する。
【0135】
106はトレイであり、記録装置内の不図示の光学センサで記録前に前記電子情報記録メディアであるCD−RやDVD−Rの位置情報を精度良く読み込むことができるように工夫してある。トレイ106には位置情報を示す反射板を設けたり、色を替えたり、穴をあけたりして読み取り精度の向上を図っている。
【0136】
図29、図30は、記録装置の搬送機構においてトレイを用いるトレイ記録を行うときの状態を示す模式的斜視図、及び断面図であり、該トレイに搭載されたCD−R等の記録メディアに記録するトレイ記録について説明する。トレイ226を使用するトレイ記録を行う場合は、排紙トレイ24を、図3に示す通常記録位置からトレイ226を搬送可能なトレイ記録位置へ、不図示の移動機構によって移動させる。この排紙トレイ224は、もちろん、通常記録により排出される記録用紙を保持するためにも使用されるものである。
【0137】
このとき、拍車ホルダ232は、排紙トレイ224のトレイ記録位置への移動に連動して、拍車223がトレイ上の記録メディアの印刷面と接触しない位置まで、下流側及び上流側の排紙ローラ222a、222bから離間する方向へ移動させられる。次いで、トレイ226の凹部に印刷面を上にしてCD−R等の記録メディアをセットする。
【0138】
次に、トレイ226を排紙トレイ224上の搬送開始位置にセットする。先ず、排紙トレイ224に一体的に形成された左右一対のコの字型のトレイガイド225に、トレイ226の左右両側端縁に形成されたレール部229を係合させながら、該トレイ226を排紙トレイ224の上面に沿って記録装置100の内部へ挿入する。
【0139】
トレイ226の挿入に伴い、排紙トレイ224に設けられた第1の付勢部材としての押さえコロ230が該226のレール部229の上面に乗り上げる。さらに挿入すると、該トレイ226は下流側排紙ローラ222aに乗り上げる。ここで、下流側排紙ローラ222aの頂点は排紙トレイ224の上面より高く設定してある。また、前記第1の付勢部材としての押さえコロ230は、押さえコロホルダ35に回転可能に支持されると共に、押さえコロばね236によって排紙トレイ224の上面に向けて付勢されている。よって、トレイ226は、下流側排紙ローラ222aに圧接されると共に、その先端は水平より若干上方に進行方向を変えている。こうして、前記トレイ226を排紙ローラ222aに向けて付勢するための前記第1の付勢部材としての押さえコロ230を、排紙ローラ222aの下流に配置する構成が採られている。
【0140】
さらに挿入を続けると、トレイ226の先端部分は、拍車ホルダ232と一体に形成されて該トレイ226の進行経路に上方から下向きに突出している第2の付勢部材としての押さえリブ231に当接する。このトレイ226の先端部分と押さえリブ231との当接位置は、記録装置100の奥行き方向においては上流側排紙ローラ222bの近傍に選定される。また、幅方向においては、通常記録の際の記録シート外側に位置する該トレイ226のレール部229の位置に選定されている。こうして、トレイ226を排紙ローラ222aに向けて付勢する押さえリブ231を、搬送ローラ208と排紙ローラ222aとの間で、給紙機構202に収納可能な最大幅の定型紙の側端縁よりも外側に配置する構成が採られている。
【0141】
また、本実施形態においては、第2の付勢部材としての押さえリブ231は、排紙ローラに接して回転する従動回転体としての拍車223を支持する従動回転体支持部材としての拍車ホルダ232に一体的に設けられている。
【0142】
ここで、上記従動回転体支持部材としての拍車ホルダ32は、不図示のばねにより下流側排紙ローラ222a及び上流側排紙ローラ222bの方向に付勢されている。そのため、トレイ226を更に挿入すると、押さえリブ231が該トレイ226の先端を若干下方に湾曲させながらレール部229に乗り上げることで、該トレイ26は下流側排紙ローラ222aに対する更なる圧接力を受ける。そして、トレイ226の先端が搬送ローラ8とピンチローラ212のニップ部と上流側排紙ローラ222bの略中間の位置に到達したところで、該トレイ226の挿入を止める。トレイ226は位置までは手動によって挿入され、このトレイ226の位置を搬送開始位置とする。
【0143】
そして、上記搬送開始位置からは、トレイ226は下流側排紙ローラ22aの逆転により通常記録の上流方向へ搬送され、同じく逆転している搬送ローラ208とピンチローラ212のニップ部に噛み込ませる。その後、搬送ローラ208によって記録位置へ搬送され、CD−Rトレイ等のトレイ226上の記録メディアに対する記録が行われる。最後に、記録が終了した記録メディアを搭載したトレイ226は、下流側排紙ローラ222aの正転によって排紙トレイ224上に排出される。
【0144】
なお、図28〜30では説明を省略したが、送紙部、排紙部等の記録用紙への記録動作を実現する基本構成は、図1に示す記録装置の構成と共通である。
【0145】
図31は、本実施形態における記録用紙の種別および記録品位に対応した、記録パス数と搬送量制御の選択を示す図である。
図31(a)は、記録用紙が写真用紙(光沢)の場合であり、何れの記録品位においても第2の搬送量制御が選択される設定となっている。
図31(b)は、記録用紙がプリンタブルディスクの場合であり、何れの記録品位においても第1の搬送量制御が選択される設定となっている。
【0146】
上述したように、本実施形態の記録装置でプリンタブルディスクに記録を行う場合、記録媒体(ディスク)をトレイに載せ保持した状態で、そのトレイ自身をローラにて搬送する機構を採用している。そのため、プリンタブルディスクを記録している領域では、常に複数ローラでトレイが搬送されるため、受け渡し時の搬送動作の問題は生じ得ない。したがって、図31(b)に示されるように、プリンタブルディスクを記録する場合には、搬送ローラの初期位相の調整を必要としない第1の搬送量制御を行う設定としている。
【0147】
一方、記録用紙に対して記録を行う場合には、受け渡し時の搬送動作が存在し、その搬送動作前後において記録が実行される。そこで、本実施形態では、記録媒体が用紙であれば、受け渡し時の搬送動作における搬送量誤差を安定的に補正可能な第2の搬送量制御を選択する。
【0148】
図32は、本実施形態における搬送量制御を選択するシーケンスを示している。
まずStep1にて記録データを受信し、Step2にて記録データに付与されるコマンド部を解析し、この解析結果に基づいて、Step3にて第2の搬送量制御を選択すべき記録媒体かを判断する。つまり、記録媒体がプリンタブルディスクであれば、Step4に進み、第1の搬送量制御が選択され、記録媒体が用紙であれば、Step5に進み、第2の搬送量制御が選択される。
【0149】
Step6では、Step4、5において選択された第1の搬送量制御または第2の搬送量制御のいずれかの搬送制御により、記録が実行される。
【0150】
(第5の実施形態)
第5の実施形態は、マルチファンクションプリンタの機能の1つであるコピー機能を利用した例について説明する。そのため、本実施形態も、図28〜30に説明される記録装置のようにコピー機能が搭載された構成が前提となる。
【0151】
先に説明した第3の実施形態では、遷移領域に画像データが存在するか否かを記録データより判定し、記録すべきデータがなければ第1の搬送量制御により記録を行うというものであった。これに対して、本実施形態は、コピー対象となる原稿をスキャンし、そのスキャンした画像データをプリントータに変換する前に、スキャン結果から遷移領域に画像データが存在するか否かを判別することを特徴としている。
【0152】
図33は、本実施形態におけるコピー機能における搬送量制御の選択フローである。
【0153】
ユーザーがスキャンする原稿をセットし、記録用紙、記録品位等の設定を行い、コピーボタンを押すとコピーがスタートされる。Step1にて、ユーザの設定情報のデータのコマンドを解析し、Step2、3にて第2の搬送量制御が必要な記録用紙、記録品位(記録パス数)か否かを判定する。S同時に、Step5にて原稿のスキャンを開始し、Step6にて読み取ったデータから画像位置判別を行い、Step7にて所定位置(遷移領域)に画像データがあるかどうかを判定する。
【0154】
Step2、3にて第2の搬送量制御が必要であると判定され、且つStep7にて所定位置に画像データが存在すると判定された場合には、Step4で画像位置判定が終了が確認された後、Step8にて第2の搬送量制御が選択される。一方、いずれかのStepにおいて第2の搬送量制御が必要でないと判定された場合には、Step9、10へと進み、第1の搬送量制御が選択される。
【0155】
続いて、step11では、step8、9、10において選択された第1の搬送量制御または第2の搬送量制御のいずれかの搬送制御により、記録が実行される。
【符号の説明】
【0156】
7 記録ヘッド
36 搬送ローラ
40 排紙ローラ
50 キャリッジ
100 記録装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドを用いて搬送方向に搬送される記録媒体に画像を記録する記録装置であって、
前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の上流側に配置され、前記記録媒体を搬送するための第1の搬送手段と、
前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の下流側に配置され、前記記録媒体を搬送するための第2の搬送手段と、を有し、
前記第1の搬送手段と前記第2の搬送手段とにより前記記録媒体を搬送する第1の搬送動作から、前記第1の搬送手段では前記記録媒体を搬送せずに前記第2の搬送手段により前記記録媒体を搬送する第2の搬送動作へ切り替わるときの前記第1、第2の搬送手段の回転位相が所定の回転位相となるように回転位相の調整を行う制御と、回転位相の調整を行わない制御のいずれかが選択されることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記回転位相の調整は、所定の位相のときに前記第1の搬送手段による記録媒体の搬送が開始されるように、前記第1の搬送手段による記録媒体の搬送が開始される前に行われる請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記所定の位相は、記録媒体の搬送方向の長さに基づいて算出される請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
回転位相の調整を行う制御と、回転位相の調整を行わない制御の選択は、記録の条件に応じて行われる請求項1に記載の記録装置。
【請求項5】
前記記録の条件は、前記記録媒体の種別であることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記記録の条件は、前記記録媒体に対する記録品位であることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項7】
前記記録の条件は、マルチパス記録における記録パス数であることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項8】
前記記録の条件は、前記第2の搬送動作に切り替わるときの搬送動作の前後で記録すべきデータがあるか否かの条件あることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項9】
前記切り替わるときの搬送動作の前後で記録すべきデータがあるか否かの条件は、スキャンされたデータにより判断されることを特徴とする請求項8に記載の記録装置。
【請求項10】
記録ヘッドを用いて搬送方向に搬送される記録媒体に画像を記録する記録方法あって、
前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の上流側に配置された第1の搬送手段と、前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の下流側に配置された第2の搬送手段の双方によって記録媒体を搬送する第1の搬送動作を行い、
記録媒体が前記第1の搬送手段を通過した後は前記第1の搬送手段を用いることなく前記第2の搬送手段によって記録媒体を搬送する第2の搬送操作を行い、
前記第1の搬送動作から前記第2の搬送動作に切り換わるときの前記第1、第2の搬送手段の回転位相が所定の回転位相となるように回転位相の調整を行う制御と、回転位相の調整を行わない制御のいずれかを選択することを特徴とする記録方法。
【請求項1】
記録ヘッドを用いて搬送方向に搬送される記録媒体に画像を記録する記録装置であって、
前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の上流側に配置され、前記記録媒体を搬送するための第1の搬送手段と、
前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の下流側に配置され、前記記録媒体を搬送するための第2の搬送手段と、を有し、
前記第1の搬送手段と前記第2の搬送手段とにより前記記録媒体を搬送する第1の搬送動作から、前記第1の搬送手段では前記記録媒体を搬送せずに前記第2の搬送手段により前記記録媒体を搬送する第2の搬送動作へ切り替わるときの前記第1、第2の搬送手段の回転位相が所定の回転位相となるように回転位相の調整を行う制御と、回転位相の調整を行わない制御のいずれかが選択されることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記回転位相の調整は、所定の位相のときに前記第1の搬送手段による記録媒体の搬送が開始されるように、前記第1の搬送手段による記録媒体の搬送が開始される前に行われる請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記所定の位相は、記録媒体の搬送方向の長さに基づいて算出される請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
回転位相の調整を行う制御と、回転位相の調整を行わない制御の選択は、記録の条件に応じて行われる請求項1に記載の記録装置。
【請求項5】
前記記録の条件は、前記記録媒体の種別であることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記記録の条件は、前記記録媒体に対する記録品位であることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項7】
前記記録の条件は、マルチパス記録における記録パス数であることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項8】
前記記録の条件は、前記第2の搬送動作に切り替わるときの搬送動作の前後で記録すべきデータがあるか否かの条件あることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項9】
前記切り替わるときの搬送動作の前後で記録すべきデータがあるか否かの条件は、スキャンされたデータにより判断されることを特徴とする請求項8に記載の記録装置。
【請求項10】
記録ヘッドを用いて搬送方向に搬送される記録媒体に画像を記録する記録方法あって、
前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の上流側に配置された第1の搬送手段と、前記記録ヘッドよりも前記搬送方向の下流側に配置された第2の搬送手段の双方によって記録媒体を搬送する第1の搬送動作を行い、
記録媒体が前記第1の搬送手段を通過した後は前記第1の搬送手段を用いることなく前記第2の搬送手段によって記録媒体を搬送する第2の搬送操作を行い、
前記第1の搬送動作から前記第2の搬送動作に切り換わるときの前記第1、第2の搬送手段の回転位相が所定の回転位相となるように回転位相の調整を行う制御と、回転位相の調整を行わない制御のいずれかを選択することを特徴とする記録方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【公開番号】特開2013−63669(P2013−63669A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−5578(P2013−5578)
【出願日】平成25年1月16日(2013.1.16)
【分割の表示】特願2008−215699(P2008−215699)の分割
【原出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成25年1月16日(2013.1.16)
【分割の表示】特願2008−215699(P2008−215699)の分割
【原出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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