説明

記録装置

【課題】 ディスクトレイを使用した光ディスクのラベル面への記録を実行可能な記録装置において、搬送装置の部品摩耗により生ずる搬送誤差に起因した記録精度の低下を低減させる。
【解決手段】 搬送駆動ローラ51によるディスクトレイ81の搬送量及び記録紙Pの搬送量を光ディスクDiのラベル面に記録を実行するか否かにかかわらずインクジェットプリンタ50の製造後から通算した通算搬送量に相当する情報を記憶する。例えば、光ディスクDiのラベル面への記録、記録紙Pへの記録又はディスクトレイ81の出し入れが実行される度に、光ディスクDiのラベル面への記録実行回数a、記録紙Pへの記録実行回数b及びディスクトレイ81の出し入れ回数cを通算して合算したカウント値Nを更新して記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録材の記録面に記録を実行する記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ等の記録装置は、記録紙等の被記録材を搬送するための搬送装置を備えているのが一般的である。例えばシリアルヘッド方式のインクジェットプリンタにおいては、被記録材に対して記録ヘッドを主走査方向へ往復動させながら記録面にインクを噴射してドットを形成する動作と、副走査方向(主走査方向と交差する方向)へ所定の搬送量で被記録材を搬送する動作とを交互に繰り返すことによって、被記録材の記録面に記録が実行される。またラインヘッド方式のインクジェットプリンタにおいては、記録ヘッドと交差する方向へ被記録材を搬送しながら被記録材の記録面にインクを噴射してドットを形成することによって、被記録材の記録面に記録が実行される。つまり、インクジェットプリンタ等の記録装置においては、搬送装置による被記録材の搬送精度は記録精度に大きく影響し、搬送装置における被記録材の搬送誤差は記録精度の低下に直結することとなる。
【0003】
ここで搬送装置における被記録材の搬送誤差は、様々な要因で生ずるが、その一つとして、搬送装置を構成する部品の摩耗によるものが挙げられる。例えば、高摩擦抵抗の被膜が施された搬送駆動ローラの外周面に被記録材を押圧し、その搬送駆動ローラを回転させることで被記録材を搬送する構成の搬送装置においては、被記録材を搬送する度に搬送駆動ローラの外周面が摩耗して摩擦力が徐々に低下していくため、送り量が不足する方向の搬送誤差が徐々に増大していくことになる。
【0004】
このような搬送装置において生ずる被記録材の搬送誤差を補正して記録精度を向上させることを目的とした従来技術の一例としては、いわゆるテストパターン記録による搬送誤差補正が公知である(例えば、特許文献1を参照)。被記録材に記録したテストパターンの内容から単位搬送量当たりに生ずる搬送誤差を特定し、その特定した搬送誤差に相当する搬送量を搬送制御量に加算又は減算する補正を行うことによって、高精度な被記録材の搬送を実現することができ、記録精度を向上させることが可能になる。
【特許文献1】特開2005−313587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インクジェットプリンタ等の記録装置においては、CD(compact disc)やDVD(digital versatile disc)等の光ディスクを装着した専用トレイ等(以下、単に「ディスクトレイ」と言う。)を被搬送体として搬送装置で搬送して光ディスクのラベル面に記録を実行する機能を備えたものが一般的に知られている。被搬送体としてのディスクトレイは、例えばプラスチック等で形成された薄板状の部材が多く採用され、通常は記録紙等の被記録材よりも硬い材料で形成されている。そのため、ディスクトレイの搬送時に生ずる搬送装置の部品(搬送駆動ローラ等)の摩耗は、記録紙等の被記録材の搬送時よりも大幅に大きくなるのが通常である。さらに、ディスクトレイは繰り返し使用されるため、搬送装置で搬送する際にディスクトレイ側に生ずる摩耗も搬送誤差の要因となり得る。
【0006】
また、従来のディスクトレイは、プリンタの付属品として添付されており、ユーザが手差しで手動給送するタイプのものが多かったが、近年はディスクトレイがプリンタに内蔵され、ボタン操作だけでディスクトレイの自動出し入れが可能な構造のプリンタも登場している。このようなプリンタにおいては、前記の搬送装置を利用してディスクトレイの出し入れも行うようにすれば、コスト的なメリットは大きい。しかしその反面、光ディスクのラベル面への記録を実行するか否かにかかわらず、ディスクトレイの出し入れを行うだけで搬送装置の部品の摩耗が生じてしまうことになる。そのため、このようなプリンタにおいては、ユーザの使用態様によっては、搬送装置の部品やディスクトレイの摩耗が急速に進行してしまう虞があり、搬送誤差に起因する記録精度の低下が従来よりも生じやすくなる虞がある。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、ディスクトレイ等の被搬送体を使用した光ディスクのラベル面への記録を実行可能な記録装置において、搬送装置の部品摩耗により生ずる搬送誤差に起因した記録精度の低下を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様は、被記録材の記録面に記録を実行する記録装置において、被記録材を装着した被搬送体又は被記録材を搬送するための搬送装置と、前記搬送装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記搬送装置による前記被搬送体の搬送量を被記録材に記録を実行するか否かにかかわらず当該記録装置の製造後から通算した通算搬送量又はそれに相当する情報を記憶し、前記通算搬送量又はそれに相当する情報に基づいて前記搬送装置における搬送誤差を補正する、ことを特徴とした記録装置である。
【0009】
このような特徴によれば、搬送装置で被搬送体を搬送することにより生じた搬送装置の部品摩耗の程度を通算搬送量から特定することができるので、その搬送装置の部品摩耗の程度に応じた搬送誤差補正を行うことが可能になる。特に、被搬送体に装着された被記録材に記録を実行するか否かにかかわらず、搬送装置で被搬送体を搬送したときの搬送量を全て通算することによって、被搬送体を搬送することにより生じた搬送装置の部品摩耗の程度を極めて正確に特定することが可能になる。したがって、搬送装置の部品摩耗に起因して生ずる搬送誤差をその部品摩耗の程度に応じて的確に補正することが可能になる。
【0010】
これにより、本発明の第1の態様に記載の記録装置によれば、ディスクトレイ等の被搬送体を使用した光ディスクのラベル面への記録を実行可能な記録装置において、搬送装置の部品摩耗により生ずる搬送誤差に起因した記録精度の低下を低減させることができるという作用効果が得られる。
【0011】
本発明の第2の態様は、前述した第1の態様に記載の記録装置において、前記制御装置は、前記搬送装置による前記被搬送体の搬送量及び被記録材の搬送量を被記録材に記録を実行するか否かにかかわらず当該記録装置の製造後から通算した通算搬送量又はそれに相当する情報を記憶する、ことを特徴とした記録装置である。
【0012】
このような特徴によれば、搬送装置で被搬送体又は被記録材を搬送することにより生じた搬送装置の部品摩耗の程度を通算搬送量から特定することができるので、その搬送装置の部品摩耗の程度に応じた搬送誤差補正をより正確に行うことが可能になる。特に、被記録材に記録を実行するか否かにかかわらず、搬送装置で被搬送体を搬送したときの搬送量及び被記録材を搬送したときの搬送量を全て通算することによって、被搬送体又は被記録材を搬送することにより生じた搬送装置の部品摩耗の程度を極めて正確に特定することが可能になる。したがって、搬送装置の部品摩耗に起因して生ずる搬送誤差をその部品摩耗の程度に応じてさらに的確に補正することが可能になる。
【0013】
本発明の第3の態様は、前述した第2の態様に記載の記録装置において、前記制御装置は、前記被搬送体の搬送量は所定の重み付けをして通算する、ことを特徴とした記録装置である。
【0014】
前記のように、ディスクトレイ等の被搬送体は、通常は記録紙等の被記録材よりも硬い材料で形成されている。そのため、搬送時に生ずる搬送装置の部品の摩耗は、被記録材の搬送時よりも大幅に大きくなる場合が多いと考えられる。したがって、被記録材を搬送した場合とディスクトレイ等の被搬送体を搬送した場合とでは、同じ搬送量であっても搬送装置の部品摩耗の程度は異なってくる。そのため、例えばディスクトレイ等の被搬送体を使用した光ディスクのラベル面への記録実行頻度が高いユーザと、被記録材への記録実行頻度が高いユーザとでは、通算搬送量は同じでも搬送装置の部品摩耗の程度が異なる可能性がある。
【0015】
このようなことから本発明においては、被搬送体の搬送量は所定の重み付けをして通算するのが好ましい。それによって、被搬送体の搬送頻度にかかわらず、搬送装置の部品摩耗の程度と通算搬送量との相関関係を常に略一定にすることが可能になるので、搬送装置の部品摩耗の程度を通算搬送量からより正確に特定することが可能になる。
【0016】
本発明の第4の態様は、前述した第2の態様又は第3の態様に記載の記録装置において、前記制御装置は、被記録材の搬送量は被記録材の種類に応じた重み付けをして通算する、ことを特徴とした記録装置である。
【0017】
記録装置において一般的に使用される被記録材としては、例えば写真専用紙やマット紙、普通紙等、様々な種類の被記録材が流通しているが、その表面の摩擦係数は被記録材の種類によって様々である。したがって、被記録材の種類が異なれば、同じ搬送量であっても搬送装置の部品摩耗の程度は異なってくる。そのため、ユーザが使用する被記録材の種類によっては、通算搬送量は同じでも搬送装置の部品摩耗の程度が異なってくる可能性がある。
【0018】
このようなことから本発明においては、被記録材の搬送量は被記録材の種類に応じた重み付けをして通算するのが好ましい。それによって、使用する被記録材の種類にかかわらず、搬送装置の部品摩耗の程度と通算搬送量との相関関係を常に略一定にすることが可能になるので、搬送装置の部品摩耗の程度を通算搬送量からより正確に特定することが可能になる。
【0019】
本発明の第5の態様は、前述した第1〜第4の態様のいずれかに記載の記録装置において、前記制御装置は、前記通算搬送量が一定の搬送量を超えた後は前記搬送装置における搬送誤差を一定の補正値で補正する、ことを特徴とした記録装置である。
【0020】
搬送装置の部品摩耗による搬送力は、必ずしも通算搬送量に比例して低下するとは限らず、通算搬送量が一定の搬送量に到達した後は、比較的緩やかに低下していくか、ほとんど低下しないことが多い。このようなことから本発明においては、通算搬送量が一定の搬送量を超えた後は、搬送装置における搬送誤差を一定の補正値で補正するのが好ましい。それによって、通算搬送量が一定の搬送量を超えた後の搬送量の管理や搬送誤差の補正値の調整等が不要になるので、搬送装置の搬送制御を簡略化することができ、制御装置の制御負荷を小さくすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
<インクジェットプリンタの概略構成>
まず、本発明に係る「記録装置」としてのインクジェットプリンタ50の概略構成について、図1〜図3を参照しながら説明する。
図1は、インクジェットプリンタ50の概略構成を図示した要部平面図であり、図2は、その要部側面図である。図3は、インクジェットプリンタ50の概略のブロック図である。
【0023】
本発明に係る「記録装置」としてのインクジェットプリンタ50は、「被記録材」としての記録紙Pをインクジェットプリンタ50の内部へ給送するための自動給送装置70を備えている。また、インクジェットプリンタ50は、「搬送装置」としての搬送駆動ローラ51及び搬送従動ローラ52を備えている。さらに、インクジェットプリンタ50は、プラテン53に支持されている記録紙Pの記録面にインクを噴射して記録を実行する手段として記録ヘッド62を備えている。さらに、インクジェットプリンタ50は、記録実行後の記録紙Pを搬送方向YFへ搬送し排出する手段として、排出駆動ローラ54及び排出従動ローラ55を備えている。
【0024】
自動給送装置70は、給送用カセット71、給送用ローラ72、案内斜面73、給送案内面74、75及び中間給送用ローラ対7a〜7cを備えている。給送用カセット71は、複数の記録紙Pが積重された状態で載置されて収容される。給送用ローラ72は、PFモータ57の回転駆動力で回転する。給送案内面74及び75は、図示の如く湾曲した給送経路を構成する。案内斜面73は、給送案内面74と給送案内面75との間に記録紙Pの先端を案内するための斜面である。中間給送用ローラ対7a〜7cは、PFモータ57の回転駆動力で回転する駆動ローラと回転自在に軸支された従動ローラとからなるローラ対である。
【0025】
給送用カセット71に積重された記録紙Pは、最上位にある記録紙Pが給送用ローラ72の外周面に当接し、その給送用ローラ72の回転により、案内斜面73に沿って給送案内面74と給送案内面75との間に送出される。案内斜面73に沿って給送案内面74と給送案内面75との間に送出された記録紙Pは、中間給送用ローラ対7a〜7cにより給送経路に沿って進行し、搬送駆動ローラ51と搬送従動ローラ52との当接部分に先端が到達する位置まで給送される。
【0026】
搬送駆動ローラ51は、表面に高摩擦被膜が施されており、PFモータ57の回転駆動力が伝達されて回転する。搬送従動ローラ52は、従動回転可能に軸支され、図示していないばね等の付勢手段によって、搬送駆動ローラ51の外周面に当接した状態で付勢されている。自動給送装置70により給送された記録紙Pは、搬送駆動ローラ51と搬送従動ローラ52とで挟持され、搬送駆動ローラ51の駆動回転によりプラテン53上を搬送方向YFへ搬送される。
【0027】
記録ヘッド62は、キャリッジ61の底部に配設されている。記録ヘッド62のヘッド面には、インクを噴射するための多数の噴射ノズル(図示せず)が配設されている。キャリッジ61は、記録ヘッド62のヘッド面とプラテン53上の記録紙Pの記録面とが略平行となる状態を維持しつつ幅方向X(搬送方向YFと交差する方向)へ往復動可能に、キャリッジガイド軸56に支持されている。キャリッジ61は、CRモータ63の回転軸に配設された駆動プーリ(図示せず)と従動プーリ(図示せず)との間に掛架された無端ベルト(図示せず)が連結されており、CRモータ63の回転駆動力が無端ベルトを介して伝達されて幅方向Xへ往復動する。
【0028】
プラテン53は、記録紙Pの搬送方向YFに沿って形成された多数のプラテンリブを有している。プラテン53上を搬送される記録紙Pは、このプラテンリブの頂面で裏面側から支持される。記録紙Pは、このプラテン53に支持された領域において、記録ヘッド62のヘッド面からのインク噴射により記録面にドットが形成されて記録が実行される。記録ヘッド62のヘッド面と記録紙Pの記録面との間隔は、プラテンリブの頂面によって適正な間隔に規定される。
【0029】
プラテン53上を搬送される記録紙Pは、キャリッジ61が幅方向Xへ往復動しながら記録ヘッド62のヘッド面から記録紙Pの記録面にインクを噴射してドットを形成する動作と、搬送駆動ローラ51の駆動回転により所定の搬送量で搬送方向YFへ搬送する動作とが交互に繰り返されることによって、記録面への記録が実行される。インク噴射後の記録紙Pは、排出駆動ローラ54と排出従動ローラ55とで挟持され、排出駆動ローラ54の駆動回転により搬送方向YFへ搬送されて排出される。これらの一連の記録制御は、マイコン制御回路を有する「制御装置」としての記録制御部100により実行される。
【0030】
記録制御部100は、ROM101、RAM102、ASIC(特定用途向け集積回路)103、CPU(中央処理装置)104、不揮発性メモリ105、PFモータドライバ106、CRモータドライバ107及びヘッドドライバ108を備えている。
【0031】
ROM101は、CPU104によるインクジェットプリンタ50の制御に必要な記録制御プログラム(ファームウェア)等が格納される。RAM102は、CPU104の作業領域や画像データ等の格納領域として用いられる。CPU104は、記録制御プログラムを実行して、インクジェットプリンタ50の記録制御を実行する為の演算処理やその他必要な演算処理を行う。不揮発性メモリ105は、記録制御プログラムによる演算処理に必要な各種データ等が記憶されている。ASIC103は、PFモータ57及びCRモータ63の速度制御を行うための各種演算を行い、その演算結果に基づくモータ制御信号をPFモータドライバ106及びCRモータドライバ107へ送出する。また、ASIC103は、記録ヘッド62の制御信号を演算生成してヘッドドライバ108へ送出し、記録ヘッド62のインク噴射を制御する。さらに、ASIC103は、パーソナルコンピュータ301とのインタフェース機能も有している。
【0032】
搬送駆動ローラ51の回転量を検出するためのロータリエンコーダ31は、ロータリスケール311とロータリスケールセンサ312とで構成される。ロータリスケール311は、外周に沿って多数のスリットが同心円上に等間隔に形成されており、搬送駆動ローラ51の回転に連動して回転する。ロータリスケールセンサ312は、ロータリスケール311のスリットを検出するためのセンサである。搬送駆動ローラ51の回転に伴い変化するロータリスケールセンサ312の出力信号は、ASIC103を介してCPU104へ出力される。
【0033】
キャリッジ61の移動量を検出するためのリニアエンコーダ32は、リニアスケール321とリニアスケールセンサ322とで構成される。リニアスケール321は、キャリッジ61の近傍に幅方向Xと略平行に配設されており、多数のスリットが等間隔に形成されている。リニアスケールセンサ322は、リニアスケール321のスリットを検出するためのセンサであり、キャリッジ61に搭載されている。キャリッジ61の幅方向Xの移動量に応じたパルスの周期が移動速度に伴い変化するリニアスケールセンサ322の出力信号は、ASIC103を介してCPU104へ出力される。
【0034】
記録紙Pを検出するためのPWセンサ33は、非接触の光学式センサであり、キャリッジ61の底部に配設されている。トレイ操作ボタン34は、後述するディスクトレイ支持装置80をユーザが操作するためのボタンである。PWセンサ33の検出信号及びトレイ操作ボタン34の操作信号は、ASIC103を介してCPU104へ出力される。
【0035】
さらにインクジェットプリンタ50は、ディスクトレイ支持装置80を備えている。ディスクトレイ支持装置80は、ディスクトレイ81、左支持アーム82及び右支持アーム83を備えている。「被搬送体」としてのディスクトレイ81は、左支持アーム82及び右支持アーム83により搬送方向YFへ移動可能に支持されており、光ディスクを装着するための装着部811を有している。装着部811には、光ディスクの中央に設けられた孔部が嵌合する凸部812が形成されている。以下、ディスクトレイ支持装置80の構成について、図4を参照しながら詳細に説明する。
【0036】
<ディスクトレイ支持装置80>
図4は、ディスクトレイ支持装置80の構成を図示した要部平面図である。
左支持アーム82は、一端側に形成された凸部821がディスクトレイ81に枢結されており、他端側に形成された凸部822が左ガイド溝8Lに係合している。左ガイド溝8Lは、給送案内面75(図2)を構成する部材の裏面側に設けられている。右支持アーム83は、一端側に形成された凸部831がディスクトレイ81に枢結されており、他端側に形成された凸部832が右ガイド溝8Rに係合している。右ガイド溝8Rは、ディスクトレイ81を底面側から支持するトレイ支持板(図示せず)に設けられている。
【0037】
このような構成のディスクトレイ支持装置80は、ディスクトレイ81が最も逆送方向YR側にある状態では、左支持アーム82及び右支持アーム83が折り畳まれた状態(幅方向Xと略平行な姿勢となる状態)となる。そして、その状態からディスクトレイ81が搬送方向YFへ移動するに従って、左ガイド溝8Lに沿って左支持アーム82が回動変位していくとともに、右ガイド溝8Rに沿って右支持アーム83が回動変位していく。このようの支持構造であることによって、ディスクトレイ支持装置80は、ディスクトレイ81の搬送方向YFの長さより大幅に長い移動幅で搬送方向YF及び逆送方向YRへ移動可能にディスクトレイ81を支持することができる。それによって、インクジェットプリンタ50の後方側に内蔵したディスクトレイ81を前方側の排出口から大きく突出する位置まで移動させることが可能になる。また、ディスクトレイ81を必要最小限の大きさに小型化することができるので、ディスクトレイ81を内蔵することによってインクジェットプリンタ50が大型化してしまうことを回避することができる。
【0038】
<ディスクトレイ81の搬送制御>
つづいて、記録制御部100によるディスクトレイ81の搬送制御について、図5〜図8を参照しながら説明する。
【0039】
図5〜図8は、インクジェットプリンタ50の要部平面図である。
インクジェットプリンタ50は、回転歯車84を備えている。回転歯車84は、記録制御部100により回転制御される専用モータ(図示せず)の回転駆動力で双方向に回転する。回転歯車84の歯部は、ディスクトレイ81の側部に設けられた歯部(図示省略)と噛合している。
【0040】
ディスクトレイ81が待機位置にある状態(図5)からトレイ操作ボタン34が押下されると、記録制御部100は、まず回転歯車84を符号Aで示した回転方向へ回転させる。それによってディスクトレイ81は、搬送駆動ローラ51と搬送従動ローラ52との当接部分に搬送方向YFの先端が突き当たる位置まで移動し、搬送駆動ローラ51と搬送従動ローラ52とで先端近傍が挟持された状態となる(図6)。この状態から記録制御部100は、ディスクトレイ81が搬送方向YFへ搬送される回転方向(以下、「正回転方向」と言う。)へ搬送駆動ローラ51を回転させる。それによってディスクトレイ81は、搬送駆動ローラ51の回転により搬送方向YFは搬送され、インクジェットプリンタ50の前方側の排出口から突出した状態となる(図7)。この状態においてインクジェットプリンタ50は、ユーザがディスクトレイ81の装着部811に「被記録材」としての光ディスクDiを装着することが可能な状態となる。
【0041】
この状態からトレイ操作ボタン34が再度押下されると、記録制御部100は、ディスクトレイ81が逆送方向YRへ搬送される回転方向(以下、「逆回転方向」と言う。)へ搬送駆動ローラ51を回転させる。それによってディスクトレイ81は、搬送駆動ローラ51の回転により逆送方向YRへ搬送される。そして記録制御部100は、所定位置までディスクトレイ81が逆送された時点で搬送駆動ローラ51の回転を停止させる。それによって、光ディスクDiのラベル面が所定の記録開始位置となる位置にディスクトレイ81が停止した状態となり、前記の記録紙Pへの記録実行手順と同様の手順で光ディスクDiのラベル面への記録を実行することが可能な状態となる(図8)。
【0042】
この状態から記録制御部100は、光ディスクDiの有無及び装着位置をPWセンサ33で検出し、光ディスクDiが装着部811に正しく装着されている場合には、光ディスクDiのラベル面への記録制御を開始する。他方、光ディスクDiを検出できない場合には、ディスクトレイ81を待機位置(図5)まで逆送し、光ディスクDiの装着状態が正常でない場合には、エラー表示等を行う。
【0043】
光ディスクDiのラベル面への記録が終了した後、記録制御部100は、インクジェットプリンタ50の前方側の排出口から突出した状態となる位置までディスクトレイ81を搬送方向YFへ搬送する(図7)。この状態においてインクジェットプリンタ50は、ユーザがディスクトレイ81の装着部811から記録実行済みの光ディスクDiを取り外すことが可能な状態となる。そしてトレイ操作ボタン34が再度押下されると、記録制御部100はディスクトレイ81を待機位置(図5)まで逆送する。
【0044】
<搬送誤差の補正制御>
つづいて、記録制御部100による搬送誤差の補正制御について、図9及び図10を参照しながら説明する。
【0045】
図9は、インクジェットプリンタ50における搬送カウンタの増加に伴う搬送誤差の変化の一例を模式的に図示したグラフである。図10は、搬送カウンタの値に対応する搬送補正値のデータテーブルの一例を図示したものである。
記録制御部100は、搬送駆動ローラ51によるディスクトレイ81の搬送量及び記録紙Pの搬送量を光ディスクDiのラベル面に記録を実行するか否かにかかわらずインクジェットプリンタ50の製造後から通算した通算搬送量(以下、単に「通算搬送量」と言う。)に相当する情報を記憶する。より具体的には、記録制御部100は、光ディスクDiのラベル面への記録実行回数a、記録紙Pへの記録実行回数b及びディスクトレイ81の出し入れ回数cを通算して合算した回数を記憶する搬送カウンタを有している。この搬送カウンタのカウント値Nは、例えば不揮発性メモリ105に記憶されて保持される。記録制御部100は、光ディスクDiのラベル面への記録、記録紙Pへの記録又はディスクトレイ81の出し入れが実行される度に搬送カウンタのカウント値Nを更新する。
【0046】
搬送カウンタのカウント値Nは以下の式(1)により算出される。

N=a+mb+nc …(1)

m、nは、既定値であり、光ディスクDiのラベル面への記録実行時と、記録紙Pへの記録実行時と、ディスクトレイ81の出し入れ時とで、搬送駆動ローラ51の摩耗の程度がそれぞれ異なることに対応して重み付けをするための定数である。本発明は、このような重み付けを行うのが好ましい。それによって、ディスクトレイ81の搬送頻度にかかわらず、搬送駆動ローラ51の摩耗の程度と搬送カウンタのカウント値Nとの相関関係を常に略一定にすることが可能になるので、搬送駆動ローラ51の摩耗の程度を搬送カウンタのカウント値Nからより正確に特定することが可能になる。
【0047】
例えば、光ディスクDiのラベル面への記録実行時より記録紙Pへの記録実行時の方が搬送駆動ローラ51の摩耗が小さい場合には、定数mの値は1未満の適切な値に設定すれば良い。また例えば、光ディスクDiのラベル面への記録実行時よりディスクトレイ81の出し入れ時の方が搬送駆動ローラ51の摩耗が大きい場合には、定数nの値は1を超える適切な値に設定すれば良い。これらの定数は、光ディスクDiのラベル面への記録実行時、記録紙Pへの記録実行時、ディスクトレイ81の出し入れ時のそれぞれについて、ディスクトレイ81又は記録紙Pの1回当たりの搬送量やそのときの単位搬送量当たりに生ずる搬送駆動ローラ51の摩耗の差を予め実験等により特定し、それらに基づいて決定することができる。
【0048】
そして記録制御部100は、搬送駆動ローラ51によるディスクトレイ81又は記録紙Pの搬送誤差を搬送カウンタのカウント値Nに基づいて補正する。この搬送カウンタのカウント値Nは、前記の通算搬送量に相当する情報であり、例えば一定の搬送量を乗算することで前記の通算搬送量を得ることができる情報である。この一定の搬送量は、例えば、光ディスクDiのラベル面への記録実行時、記録紙Pへの記録実行時及びディスクトレイ81の出し入れ時のそれぞれにおけるディスクトレイ81又は記録紙Pの搬送量の平均値等から導出することができる。
【0049】
記録制御部100は、光ディスクDiのラベル面への記録実行時及び記録紙Pへの記録実行時には搬送補正値テーブル(図10)を参照し、搬送カウンタのカウント値Nに基づいて搬送補正値を決定する。搬送補正値テーブルは、予め不揮発性メモリ105に記憶したデータテーブルである。この搬送補正値テーブルは、光ディスクDiのラベル面への記録実行時のための搬送補正値テーブルと、記録紙Pへの記録実行時のための搬送補正値テーブルとを別個に設けても良い。
【0050】
ここで搬送補正値テーブルにおける搬送カウンタのカウント値N1〜N11は、所定のカウント値であり、補正値A〜Kは、カウント値N1〜N11のそれぞれに対応する搬送補正値である。これらは、例えば図9に図示したような搬送駆動ローラ51で搬送する際に生ずる1インチ当たりの搬送誤差と搬送カウンタのカウント値Nとの相関関係を実験等により予め特定し、その相関関係から適宜決定することができる。実験等は、例えば同一構造の製造後未使用のインクジェットプリンタ50においてディスクトレイ81の搬送や記録紙Pの搬送を1000回程度繰り返し、その過程で所定回数ごとに搬送誤差を測定等すれば良い。
【0051】
そして、前記の通算搬送量に相当する情報である搬送カウンタのカウント値Nからは、搬送駆動ローラ51でディスクトレイ81又は記録紙Pを搬送することにより生じた搬送駆動ローラ51の摩耗の程度を特定することができる。すなわち、搬送カウンタのカウント値Nに基づいて搬送補正値を決定することによって、搬送駆動ローラ51の摩耗の程度に応じた搬送誤差補正を行うことが可能になる。特に、ディスクトレイ81に装着された光ディスクDiのラベル面に記録を実行するか否かにかかわらず、搬送駆動ローラ51でディスクトレイ81を搬送したときの搬送量を全て通算することによって、搬送駆動ローラ51の摩耗の程度を極めて正確に特定することが可能になる。したがって、搬送駆動ローラ51の摩耗に起因して生ずる搬送誤差をその摩耗の程度に応じて的確に補正することが可能になる。
【0052】
このようにして本発明によれば、ディスクトレイ81を使用した光ディスクDiのラベル面への記録を実行可能なインクジェットプリンタ50等の記録装置において、搬送駆動ローラ51等の搬送装置の部品摩耗により生ずる搬送誤差に起因した記録精度の低下を低減させることができる。
【0053】
また本発明においては、記録紙Pについても記録面に記録を実行する否かにかかわらず搬送量を通算するのが好ましい。すなわち本発明においては、光ディスクDiのラベル面や記録紙Pに記録を実行するか否かにかかわらず、ディスクトレイ81及び記録紙Pを搬送駆動ローラ51で搬送したときの搬送量を全て通算するのが好ましい。それによって、搬送駆動ローラ51の摩耗の程度を極めて正確に特定することが可能になるので、搬送駆動ローラ51の摩耗に起因して生ずる搬送誤差を、その摩耗の程度に応じてさらに的確に補正することが可能になる。
【0054】
さらに、図9に図示したグラフからも理解されるように、搬送駆動ローラ51の摩耗による搬送力は、必ずしも搬送カウンタのカウント値N(通算搬送量)に比例して低下するとは限らず、搬送カウンタのカウント値Nが一定のカウント値に到達した後は、比較的緩やかに低下していくか、ほとんど低下しないことが多い。このようなことから、搬送カウンタのカウント値Nが一定のカウント値(例えば1000回程度)を超えた後は、搬送駆動ローラ51における搬送誤差を一定の搬送補正値で補正するようにしても良い。それによって、搬送カウンタのカウント値Nが一定のカウント値を超えた後の搬送量の管理や搬送補正値の調整等が不要になるので、搬送駆動ローラ51の搬送制御を簡略化することができ、記録制御部100の制御負荷を小さくすることが可能になる。
【0055】
さらに本発明においては、記録紙Pの種類に応じてさらに細分化した重み付けをして記録紙Pの搬送量を通算するのが好ましい。それによって、使用する記録紙Pの種類にかかわらず、搬送駆動ローラ51の摩耗の程度と通算搬送量との相関関係を常に略一定にすることが可能になるので、搬送駆動ローラ51の摩耗の程度を通算搬送量からより正確に特定することが可能になる。より具体的には、記録紙Pの定数mを記録紙Pの種類に応じて細分化し、例えば、写真専用紙の定数m1、普通紙の定数をm2、マット紙の定数をm3といったように設定してカウント値Nを算出するようにすれば良い。この記録紙Pの種類は、例えばプリンタドライバやインクジェットプリンタ50の操作パネル(図示せず)等でユーザが設定した記録紙Pの種類に関する情報等から特定することができる。さらに記録紙Pの大きさに応じて定数mをさらに細分化して設定しても良い。
【0056】
尚、通算搬送量そのものを搬送カウンタで累積して記憶するようにしても本発明の実施は可能であることは、説明するまでもないことである。そして本発明は、上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】インクジェットプリンタの概略構成を図示した要部平面図。
【図2】インクジェットプリンタの概略構成を図示した要部側面図。
【図3】インクジェットプリンタの概略のブロック図。
【図4】ディスクトレイ支持装置の構成を図示した要部平面図。
【図5】インクジェットプリンタの要部平面図。
【図6】インクジェットプリンタの要部平面図。
【図7】インクジェットプリンタの要部平面図。
【図8】インクジェットプリンタの要部平面図。
【図9】搬送カウンタの増加に伴う搬送誤差の変化の一例を図示したグラフ。
【図10】搬送カウンタの値に対応する搬送補正値のデータテーブル。
【符号の説明】
【0058】
50 インクジェットプリンタ、51 搬送駆動ローラ、52 搬送従動ローラ、53 プラテン、54 排出駆動ローラ、55 排出従動ローラ、56 キャリッジガイド軸、70 自動給送装置、80 ディスクトレイ支持装置、81 ディスクトレイ、82 左支持アーム、83 右支持アーム、Di 光ディスク、P 記録紙、X 幅方向、YF 搬送方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録材の記録面に記録を実行する記録装置において、
被記録材を装着した被搬送体又は被記録材を搬送するための搬送装置と、
前記搬送装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記搬送装置による前記被搬送体の搬送量を被記録材に記録を実行するか否かにかかわらず当該記録装置の製造後から通算した通算搬送量又はそれに相当する情報を記憶し、
前記通算搬送量又はそれに相当する情報に基づいて前記搬送装置における搬送誤差を補正する、ことを特徴とした記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の記録装置において、前記制御装置は、前記搬送装置による前記被搬送体の搬送量及び被記録材の搬送量を被記録材に記録を実行するか否かにかかわらず当該記録装置の製造後から通算した通算搬送量又はそれに相当する情報を記憶する、ことを特徴とした記録装置。
【請求項3】
請求項2に記載の記録装置において、前記制御装置は、前記被搬送体の搬送量は所定の重み付けをして通算する、ことを特徴とした記録装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の記録装置において、前記制御装置は、被記録材の搬送量は被記録材の種類に応じた重み付けをして通算する、ことを特徴とした記録装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の記録装置において、前記制御装置は、前記通算搬送量が一定の搬送量を超えた後は前記搬送装置における搬送誤差を一定の補正値で補正する、ことを特徴とした記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−44819(P2010−44819A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207270(P2008−207270)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】