診断用造影剤
【課題】本発明の課題は、複数のGdイオンが安定的に導入され、良好な可溶性を有し、毒性が無く、癌種を特異的に検出可能であり、かつ適切な血中滞留性を示す、ことを特徴とする診断用造影剤を提供することである。
【解決手段】
ラクトースを修飾した多糖をバックボーンとする錯体化合物を含む診断用造影剤が、上記課題を解決できることを見出して、本発明の造影剤を完成した。
【解決手段】
ラクトースを修飾した多糖をバックボーンとする錯体化合物を含む診断用造影剤が、上記課題を解決できることを見出して、本発明の造影剤を完成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断用造影剤、特に肝機能診断用造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の画像診断として、X線CT、核磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging,以下、「MRI」と略する場合がある)、超音波画像などが知られている。その中で、MRIは、X線の被爆がなく非侵襲性であることから医療分野において非常に利用されている。特に、オープンMRIは、通常のMRIと比較して、患者への負担も少なく、CTのように放射線を使用しないといった利点がある。
また、MRIの診断精度を上昇させる目的で、様々なMRI造影剤が報告されている。
【0003】
Gd-DTPAは、1分子のジエチレントリアミンペンタ酢酸が1イオンのガドリニウム(Gd)と配位している化合物であり、核磁気共鳴診断用造影剤として最もよく知られている。
しかしながら、画像表示尺度を示す緩和度は、Gd-DTPAの構造上錯化されているがために、Gdそのもの自体よりも低値(約1/2)となってしまう。従って、この低下した緩和度を投与量の増加により補うことが必要である。また、Gd−DTPAは低分子であるために血管から組織への浸透が速いので、速やかに尿中へ排泄される。そのため、造影剤が生体に注入された後すぐにMRI造影を開始しなければならない。加えて、Gd−DTPAそれ自体は固形癌などに選択性があるわけではない。さらに、5nm以下のGd-DTPAは、血管外に漏出するという問題があった。
【0004】
上記Gd-DTPAを用いた造影剤の欠点を克服するために、下記のような糖を利用した造影剤が報告されている。
アミノオリゴ糖に二官能性配位子を化学結合させ、この二官能性配位子を介して金属イオンを配位結合させた画像診断用造影剤(特許文献1)。
D−グルコースが複数連結し、そのうち少なくとも1つの構成単糖が酸化開裂されたジアルデヒド化糖に少なくとも1つの二官能性配位子を化学的に結合させ、この二官能性配位子を介し金属イオンを配位結合させた画像診断用造影剤(特許文献2)。
しかし、これらの化合物の重要な構成成分である糖原料は、糖鎖の還元末端が未処理の場合、長時間の放置あるいは長時間反応させると、水溶液中で分子内あるいは分子間結合が起こり、酸化剤により過酸化を受けることが報告されている(特許文献3)。
【0005】
加えて、HSA(ヒト血清アルブミン)、デキストラン、ポリリジン等の高分子材料を担体として使用した常磁性金属錯体化合物が報告されている。
しかし、これらは何れも分子量が数万以上の高分子化合物であるが故に、血中滞留性が10数時間〜数日と不必要に長く、また体内残留性、抗原性などの点で問題がある。
【0006】
その他、以下のような造影剤が報告されている。
ポリイオン複合体を形成し得る、ポリアニオン性ガドリニウム(Gd)系造影剤とカチオン性高分子との複合体またはポリカチオン性Gd系造影剤とアニオン性高分子との複合体、を含有し、中性pHにおいて、高分子電解質の存在下でのみMRI造影能を発現するMRI用造影剤(特許文献4)。該MRI用造影剤は、本発明の診断用造影剤とは明らかに構造が異なる。
【0007】
親水性ポリマー鎖セグメントと、アミノ基を含む側鎖を複数有するセグメントであって該複数のアミノ基の一部又は全部にガドリニウムキレート化剤残基が直接又はリンカー構造を介して結合されており、かつ、該ガドリニウムキレート化剤残基の一部又は全部にガドリニウムイオンがキレートされているガドリニウム含有セグメントとを含むブロックコポリマーと、該ガドリニウム含有セグメントが、高分子ミセル形成時に正の電荷を有する場合にはポリアニオン、負の電荷を有する場合にはポリカチオンとから水系媒体中で形成された高分子ミセルを有効成分とする核磁気共鳴画像造影剤(特許文献5)。該核磁気共鳴画像造影剤は、本発明の診断用造影剤とは明らかに構造が異なる。
【0008】
上記のような報告があるにもかかわらず、より高機能な診断用造影剤の開発が期待されている。より詳しくは、1)腫瘍等を高感度で検出し、2)毒性が無く、3)良好な可溶性、かつ4)適度の時間を経過した後に体内から排泄されうる診断用造影剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−97712号公報
【特許文献2】特開平5−25059号公報
【特許文献3】特開平8−208525号公報
【特許文献4】特開2000−86538号公報
【特許文献5】特開2008−222804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記要望にこたえるべく、複数の金属イオンが安定的に導入され、良好な可溶性を有し、毒性が無く、癌種を特異的に検出可能であり、かつ適切な血中滞留性を示す、ことを特徴とする診断用造影剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々研究を重ねた結果、ラクトースを修飾した多糖をバックボーンとする錯体化合物が、上記要望を充足することを見出し、本発明を完成した。
【0012】
つまり、本発明は、以下の通りである。
「1.下記式(I)の化合物及び/又は下記式(II)の化合物を含む診断用造影剤であって、
【化1】
【化2】
ここで、上記多糖を構成する単糖中のXは水素原子、二官能性配位子、アセチル基又はラクトース残基であり、該二官能性配位子のいずれか1以上にGd、Dy、Tb、Ho、Er又はFeが配位しており、m又はnは20〜70の整数であり、
並びに、全Xに対する二官能性配位子の割合は5〜40%であり、全Xに対するラクトース残基の割合は5〜80%であり、全Xに対する水素原子の割合は5〜50%であり、かつ全Xに対するアセチル基の割合は5〜30%である、ことを特徴とする診断用造影剤。
2.前記二官能性配位子が、以下のいずれか1から選択される前項1に記載の診断用造影剤。
(1)ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DPTA)
(2)DPTAの誘導体
(3)1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸(DOTA)
(4)DOTAの誘導体
3.前記多糖が、キトサン又はキチン由来の多糖であることを特徴とする前項1又は2に記載の診断用造影剤。
4.前記キトサン又はキチン由来の多糖の平均分子量が、4,000〜12,000であることを特徴とする前項3に記載の診断用造影剤。
5.前記多糖の脱アセチル化度が、70〜100%であることを特徴とする請求1〜4のいずれか1に記載の診断用造影剤。
6.前記診断用造影剤が、肝機能診断用造影剤であることを特徴とする前項1〜5のいずれか1に記載の診断用造影剤。
7.前記肝機能診断用造影剤が、肝癌診断用造影剤であることを特徴とする前項6に記載の診断用造影剤。
8.前記肝機能診断用造影剤が、以下のいずれか1以上から選択する前項6に記載の診断用造影剤。
(1)肝硬変診断用造影剤
(2)肝炎診断用造影剤
(3)脂肪肝診断用造影剤
(4)閉塞性黄疸診断用造影剤」
【発明の効果】
【0013】
本発明の診断用造影剤は、腫瘍特に肝細胞癌を高感度で検出し、毒性が無く、良好な可溶性を示し、かつ適度の時間を経過した後に体内から排泄されうる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の診断用造影剤(キトサン−ラクトース−DTPA−Gd)の毒性試験結果
【図2】本発明の診断用造影剤が投与されたラットのMRIの画像
【図3】コントロールの造影剤(ラクトース−DTPA−Gd)が投与されたラットのMRIの画像
【図4】本発明の診断用造影剤の肝細胞特異的認識の定量的測定の結果
【図5】本発明の診断用造影剤の正常肝細胞認識に対する評価の画像
【図6】本発明の診断用造影剤の肝癌細胞認識に対する評価の画像
【図7】抗体又はラクトースが添加された本発明の診断用造影剤の正常肝細胞認識に対する評価の画像
【図8】ASGP-R(アシアロ糖タンパクレセプター)阻害剤による本発明の診断用造影剤の肝細胞特異的認識の定量測定結果
【図9】本発明の診断用造影剤を使用した癌転移巣の造影画像
【図10】本発明の診断用造影剤及び既存の肝特異的MRI造影剤での造影画像
【図11】ラクトース-DOTA-Gdの構造
【図12】ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤(コントロール2の造影剤)が投与された正常ラット又は肝硬変ラットのMRI画像
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
(本発明の診断用造影剤の構成)
本発明の診断用造影剤は、少なくとも以下の一般式(I)の化合物及び/又は(II)の化合物を含む。
【0017】
【化3】
【0018】
【化4】
【0019】
上記多糖を構成する単糖中のXは水素原子、二官能性配位子、アセチル基又はラクトース残基である。
また、Gd、Dy、Tb、Ho、Er又はFeのいずれか1以上が上記二官能性配位子に配位している。なお、Gdが二官能性配位子に配位していることが好ましい。加えて、好ましくは、1分子のGdが二官能性配位子1分子に対して配位している。
なお、全Xに対する二官能性配位子の割合は5〜40%であり、全Xに対するラクトース残基の割合は5〜80%であり、全Xに対する水素原子の割合は5〜50%であり、かつ全Xに対するアセチル基の割合は5〜30%である。
好ましい全Xに対する二官能性配位子の割合は5〜20%であり、全Xに対するラクトース残基の割合は40〜60%であり、全Xに対する水素原子の割合は20〜40%であり、かつ全Xに対するアセチル基の割合は5〜20%である。
より好ましい全Xに対する二官能性配位子の割合は5〜15%であり、全Xに対するラクトース残基の割合は45〜55%であり、全Xに対する水素原子の割合は25〜35%であり、かつ全Xに対するアセチル基の割合は5〜15%である。
【0020】
上記二官能性配位子は、以下のいずれか1以上から選択される。
ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DPTA)またはその誘導体(DTPA誘導体)。なお、DTPA誘導体としては、1−(p−イソチオシアネートベンジル)−DTPA、無水DTPAが例示される。
1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸(DOTA)またはその誘導体(DOTA誘導体)。なお、DOTA誘導体として、2−(p−イソチオシアネートベンジル)−DOTAが例示される。
【0021】
m及びnは、10〜80のいずれか1の整数であり、好ましくは20〜70、より好ましくは30〜60、最も好ましくは35〜55である。
【0022】
上記Xの各割合は、診断用造影剤の仕込み段階の比率である。
なお、全Xに対するラクトース残基の割合は、多糖に修飾されなかったラクトース(未反応ラクトース)を高速液体クロマトグラフィーによって回収・定量することにより、確認又は算出することができる。
また、全Xに対する二官能性配位子の割合は、診断用造影剤に固定化されたGd量をICP-MS法により定量することにより、確認又は算出することができる。
【0023】
(本発明の多糖)
本発明の多糖は、キチン、キトサン由来の多糖を使用する。キトサンは、キチンの脱アセチル化物と定義され、一般的には、脱アセチル化度70〜100%であり、キチンでは溶解しない希酸溶液に溶解する特徴を持っている。
本発明で使用する部分脱アセチル化キチン(2位の一部のアセチル基が脱アセチル化しているキチン)又はキトサンは、カニ、エビなど甲殻類の外骨格等に含まれるアミノ多糖類の一種であるキチン由来であり、化学構造がグルコサミンと少量のN−アセチルグルコサミンとの繰り返構造である天然物由来の高分子である。一般には、甲殻類の外骨格等を苛性ソーダなどのアルカリで脱タンパクし、塩酸などの酸溶液で脱カルシウム処理して得られるキチンを、さらに苛性ソーダなどの高濃度アルカリ水溶液で部分脱アセチル化して得られる。
この際、使用するアルカリ濃度、温度、処理時間を適宜変えることにより、脱アセチル化度(DAC度ともいう)は調整することが可能である。一般的にはDAC度は60%以上のものである。本発明で使用する部分脱アセチル化キチンの脱アセチル化度は20%以上で使用可能であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
【0024】
なお、本発明で使用する部分脱アセチル化キチン又はキトサンの製造方法を以下で例示するが、特に限定されない。
ベニズワイガニの殻を数センチ角程度に粗砕し、5〜7%水酸化ナトリウム水溶液で80〜90℃、3〜15時間程度処理することで脱タンパクし、さらに反応液を除去した。そして、洗液が中性になる程度まで水洗の後、5〜7%程度の塩酸水溶液で室温、3〜8時間程度脱カルシウム処理し、反応液を除去、洗液が中性になる程度まで水洗の後、脱水、乾燥して、キチンを得る。
前記キチンを約48%水酸化ナトリウム溶液で80〜90℃、6〜15時間程度脱アセチル化し、反応液を除去、洗液が中性になる程度まで水洗の後、脱水、乾燥しキトサンとする。
さらに、前記キトサンを約5%程度となるように塩酸水溶液に溶解し、キトサナーゼを加え数十時間程度酵素分解により低分子化する。酵素反応後、加熱により酵素失活(80℃以上、15分程度)した後、ろ過し、凍結乾燥もしくは噴霧乾燥により粉末化する。
【0025】
本発明の診断用造影剤で使用する部分脱アセチル化キチン又はキトサンの分子量は、一般的には、重量平均分子量(標準品にプルランを用いGPC分子量測定により算出)が4,000〜12,000程度のものが使用され、好ましくは5,000〜10,000、より好ましくは6,000〜9,000、最も好ましくは6,500〜8,000である。
脱アセチル化率は、一般的には、20〜100%程度のものが使用され、好ましくは25〜95%程度、より好ましくは約30〜85%である。粘度は、20℃において0.5%W/W溶液粘度が5〜300mPa・s、より好ましくは10〜250mPa・sである。
なお、脱アセチル化度は、分脱アセチル化キチン又はキトサンを0.5%(w/w) 酢酸溶液に0.5%(w/w)になるように溶解し、指示薬としてトルイジンブルー溶液を用い、ポリビニル硫酸カリウム水溶液でコロイド滴定して乾物当たりの脱アセチル化割合を算出したものである。
【0026】
本発明の診断用造影剤で使用する多糖は、好ましくは、甲陽ケミカル社製の「キトサンFL-80」をキトサナーゼによる酵素処理して得られたキトサン{重量平均分子量(Mw)=4000〜7000}を使用する。なお、キトサナーゼによる酵素処理時間を適宜調整することにより、多糖の平均分子量を調製することができる。
【0027】
なお、部分脱アセチル化キチン又はキトサンは、構成単糖の2位の位置に反応性の高いアミノ基を有した反応性分子であることから、ラクトースとの結合において繁雑な誘導体化が不要であり、その結果、ラクトースとの反応を1段階で完了することも可能である。
【0028】
(診断用造影剤)
本発明の診断用造影剤は、常法により医薬上許容される任意の添加成分と混合し、任意の形態の診断用造影剤とすることができるが、好ましくは生理学的に許容できる水性溶剤に溶解させ、溶液形態の診断用造影剤とする。
本発明の診断用造影剤は、通常注射用蒸留水、生理食塩水やリンゲル液等の溶媒に懸濁、または溶解等の状態で用いられ、さらに必要に応じて、薬理学的に許容されうる担体、賦形剤等の添加剤を含めることができる。
なお、本発明の診断用造影剤は、血管(静脈、動脈)内投与、経口投与、直腸内投与、膣内投与、リンパ管内投与、関節内投与等によって生体内に投与することができる。
加えて、本発明の診断用造影剤に含められる添加剤としては、その投与形態、投与経路等によっても異なるが具体的には、注射剤の場合には、緩衝剤(PBS溶液)、抗菌剤、安定化剤、溶解補助剤や賦形剤等が単独または組み合わせて用いられる。経口投与剤(具体的には水剤、シロップ剤、乳剤または懸濁液等)の場合には、着色剤、保存剤、安定化剤、懸濁化剤、乳化剤、粘稠剤、甘味剤、芳香剤等が単独または組み合わせて用いられる。各種添加剤は通常当分野で用いられるものが使用される。
【0029】
(診断用造影剤の使用方法)
本発明の診断用造影剤として使用する場合、その使用量は画像診断の用途に応じて選択する。たとえば、MRI診断用造影剤として使用するためには、金属イオン量(Gd)として一般に0.0001〜10ミリモル/kg、好ましくは0.005〜0.5ミリモル/kgの量で投与する。
また、X線診断用造影剤として使用するためには、金属イオン量(Gd)として0.01〜20ミリモル/kg、好ましくは0.1〜10ミリモル/kgの量で投与する。
本発明の診断用造影剤は、従来のMRI用造影剤に準じて投与、造影することができる。具体的な投与方法としては静脈内投与や経口投与などが挙げられる。
また、本発明の診断用造影剤は、ヒト以外にも各種動物用の診断用造影剤としても好適に用いることができ、その投与形態、投与経路、投与量等は対象となる動物の体重や状態によって適宜選択する。
【0030】
本発明の診断用造影剤は、肝機能診断用造影剤、特に下記実施例から明らかなように肝癌診断用造影剤として使用することができる。
また、本発明の診断用造影剤は、下記実施例から明らかなように、アシアロ糖タンパクレセプター(ASGP-R)を特異的に認識することができる。
なお、アシアロ糖タンパクレセプターは、肝細胞表面に存在し血中の非シアル酸糖タンパク質の取り込みや分解に関与している。また、アシアロ糖タンパクレセプターは、肝硬変、肝癌及び再生肝などの肝臓病態に応じその発現が減少することが報告されている。よって、本発明の診断用造影剤は、該レセプターが消失する肝硬変等の肝機能診断に使用することができる。
さらに、アシアロ糖タンパクレセプターは、急性肝炎、慢性特にアルコール性慢性肝炎、脂肪肝、閉塞性黄疸等の肝臓病態に応じその発現が変化することが臨床的に明らかになっている。よって、本発明の診断用造影剤は、肝炎、脂肪肝、閉塞性黄疸の肝機能診断にも使用することができる。
【0031】
(診断用造影剤の特性)
本発明の診断用造影剤は、良好な水溶性を有し、室温において少なくとも、100mM、好ましくは300mM、より好ましくは500mMの濃度まで水溶液に溶解できる。
さらに、本発明の診断用造影剤は、生体内に投与されてから、約1〜12時間、好ましくは約4〜10時間、より好ましくは約6〜8時間を経過した後に体内から排泄されうる。
【0032】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって何等の制約をも受けるものでないことはいうまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも更には上記した発明の実施の形態における記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱し得ない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが理解されるべきである。
【実施例1】
【0033】
(診断用造影剤の合成)
本発明の診断用造影剤を以下のように合成した。
【0034】
(ラクトースをキトサンに修飾する工程)
キトサン(重量平均分子量7,000)5gを1Mの炭酸アンモニウム緩衝液(pH 8.5)100mlに溶かした。さらに、氷冷下において反応触媒1-Ethyl-3-(dimethylaminopropyl)carbodiimide, hydrochloride) (WSC)を9g加え、あらかじめ1Mの炭酸アンモニウム緩衝液(pH 8.5)25mlに溶解したラクトビオン酸5.6gをゆっくり滴下した。添加後、室温で一昼夜撹拌した後、得られた褐色の液体を透析チューブ(PIRCE SnakeSkin登録商標 3500 MWCO)に入れ、純水に対して3日間透析した。透析終了後、凍結乾燥し、褐色の固体(以後、「キトサン−ラクトース」と称する場合がある)を得た。
【0035】
(DTPAをキトサン−ラクトースに修飾する工程)
上記キトサン−ラクトース1gを20mlの1Mの炭酸アンモニウム緩衝液(pH 9.0)に溶かした。これに、あらかじめ5mlのDMSOに溶解した無水DTPA 532.5 mg(1.49 mmol)を室温でゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液のpHを確認し、そのまま室温で5時間攪拌した。得られた褐色の液体を透析チューブ(PIRCE SnakeSkin登録商標 3500 MWCO)に入れ、純水に対して3日間、透析を行った。透析終了後、凍結乾燥し、褐色の固体(以後、「キトサン−ラクトース−DTPA」と称する場合がある)を得た。
【0036】
(Gdをキトサン−ラクトース−DTPAに配位する工程)
上記キトサン−ラクトース-DTPA 260mgを 0.5M 酢酸アンモニウム(pH 5.0)に溶かした。0.027mM塩化ガドリニウム水溶液〔0.5M 酢酸アンモニウム(pH 5.0)〕5mlを加え、室温で1時間攪拌した。反応終了後、溶液を透析チューブに入れ、純水に対して3日間透析した。透析終了後、凍結乾燥し、褐色の固体(以後、「キトサン−ラクトース−DTPA−Gd」と称する場合がある)を得た。結合誘導プラズマ-質量分析法(ICP-MS)により、キトサン−ラクトース−DTPAがGdと錯化していることを確認した。
【0037】
上記キトサン−ラクトース−DTPA−Gdにおいて、各構成糖の2位の残基がラクトース残基である割合は2位の残基全部の内50%であり、各構成糖の2位の残基がGdである割合は2位の残基全部の内10%であることを確認した。
【0038】
上記キトサン−ラクトース−DTPA−GdをPBS溶液に溶解した。そして、キトサン−ラクトース−DTPA−Gdを含むPBS溶液を、以下の実施例での診断用造影剤として使用した。
【0039】
以下の実施例で使用したコントロールの造影剤は、キトサン−DTPA−Gdを使用した。該造影剤の合成方法は、以下の通りである。
【0040】
(DTPAをキトサンに修飾する工程)
キトサン3gを20mlの1Mの炭酸アンモニウム緩衝液(pH 9.0)に溶かした。これに、あらかじめ5mlのDMSOに溶解した無水DTPA 2.2gを室温でゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液のpHを確認し、そのまま室温で5時間攪拌した。得られた褐色の液体を透析チューブ(PIRCE SnakeSkin登録商標 3500 MWCO)に入れ、純水に対して3日間、透析を行った。透析終了後、凍結乾燥し、褐色の固体(以後、「キトサン−DTPA」と称する場合がある)を得た。
【0041】
(Gdをキトサン-DTPAに配位する工程)
キトサン−DTPA 300mgを 0.5M 酢酸アンモニウム(pH 5.0)に溶かした。0.027mM塩化ガドリニウム水溶液〔0.5M 酢酸アンモニウム(pH 5.0)〕5mlを溶かした溶液に加え、室温で1時間攪拌した。攪拌終了後、溶液を透析チューブに入れ、純水に対して3日間透析した。透析終了後、凍結乾燥し、褐色の固体(以後、「キトサン−DTPA−Gd」と称する場合がある)を得た。
なお、結合誘導プラズマ-質量分析法(ICP-MS)により、キトサン−DTPAがGdと錯化していることを確認した。
【0042】
上記キトサン−DTPA−GdをPBS溶液に溶解した。そして、キトサン−DTPA−Gdを含むPBS溶液を、以下の実施例でのコントロールの造影剤として使用した。
【実施例2】
【0043】
(診断用造影剤の毒性確認)
本発明の診断用造影剤の毒性を確認した。詳細は、以下の通りである。
【0044】
(診断用造影剤の毒性試験方法)
ラットの正常肝細胞RLN-8の細胞懸濁液を1000cells/wellとなるように96穴プレートに播種し、CO2インキュベーターで12時間培養を行った。
培養12時間後、終濃度を0、0.2、2、4、10、20、30mg/mlとなるように本発明の診断用造影剤、コントロールの造影剤をそれぞれの穴に添加した(全量100μl)。そして、添加後、CO2インキュベーターで5時間培養した。
Cell Titer-Glo Luminecent Cell Viability Assayの薬剤(Celltiter-Glo Regament)100μlを各穴に添加し、生細胞に由来するATPを発光量として定量することにより、造影剤の毒性を評価した。
【0045】
(診断用造影剤の毒性試験結果)
上記毒性試験結果を図1に示す。本造影剤は、実際に使用する濃度領域(<10mg/ml)では、細胞毒性を示さなかった。
これにより、本発明の診断用造影剤は、生体内の使用が可能である。
【実施例3】
【0046】
(診断用造影剤によるラットでの効果の確認)
本発明の診断用造影剤を生体内(ラット体内)に投与して、該ラット体内での診断用造影剤の挙動を確認した。詳細は、以下の通りである。
【0047】
(診断用造影剤のラット体内への投与方法)
雄性ラットをネンブタールの腹腔投与によって麻酔した。そして、1×10-4 mol-Gd/Kg-ラットの本発明の診断用造影剤(Gd基準で100mM)を該ラットの陰茎静脈より投与した。ラットは投与前から経時的に以下の条件でMRI撮影を行い、ラット生体内での診断用造影剤の集積性を観察した。なお、コントロールの造影剤でも同様に観察した。
MRI撮影条件
装置:MRI装置日立airis2000,0.3T
T1強調撮像、FOV 120、TR 200msec、TE1 17msec
【0048】
(診断用造影剤のラット体内への投与結果)
上記投与結果を図2(本発明の診断用造影剤)及び図3(コントロールの造影剤)に示す。
図2から明らかにように、本発明の診断用造影剤は、ラット生体内から代謝されることなく、肝臓への特異的な集積が認められた。
一方、図3から明らかなように、コントロールの造影剤は、ラット生体内から代謝されて、肝臓への特異的な集積が認められなかった。
【実施例4】
【0049】
(診断用造影剤の肝細胞での挙動の確認)
本発明の診断用造影剤が、肝細胞に特異的に結合することを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0050】
(造影剤の肝細胞特異的結合の定量的評価)
FITCによって蛍光ラベル化した造影剤を用いて、造影剤の肝細胞特異的結合をin vitroにて定量的に評価した。
【0051】
(造影剤の肝細胞特異的結合の定量測定方法)
ラットの正常肝細胞RLN-8、ラットの癌細胞dRLh-84の細胞懸濁液を0.5×105cells/wellとなるように48穴のプレートに播種し、CO2インキュベーター内で培養を行った。培養8時間後、本発明の蛍光ラベル化した造影剤及びコントロールの造影剤をそれぞれ終濃度0、0.02、0.1、0.2、1、3、5、8、10、15、20mg/mlとなるように該プレートの穴に添加した。
更に8時間後、培地をPBSで2回洗浄し、PBSに培地を交換しプレートリーダーで蛍光量を測定した。
次に、Cell Titer-Glo Luminecent Cell Viability Assayの薬剤(Celltiter-Glo Regament)を培地と等量加え、発光量を測定した。
なお、細胞数と発光量の検量線をあらかじめ作成しておき、発光量から細胞数を算定した。先に求めた蛍光量を細胞数で除することで、細胞に結合した造影剤量を規格化した。
【0052】
(造影剤の肝細胞特異的結合の定量測定結果)
上記発光量の測定結果を図4に示す。
本発明の造影剤は、ラット正常肝細胞(RLN-8)に対して極めて高い親和性を示した。本発明の造影剤と肝細胞との結合に基づく蛍光強度は、造影剤の濃度に依存して上昇し、8mg/mlでプラトーに達し、その後緩やかに減少した。
一方、本発明の造影剤は、ラット肝癌細胞(dRLh-84)に対しては親和性を示さなかった。また、コントロールの造影剤は、ラット正常肝細胞(RLN-8)及びラット肝癌細胞(dRLh-84)に全く結合しなかった。
【0053】
(造影剤の肝細胞特異的結合の観察)
本発明の診断用造影剤が、細胞のアシアロ糖タンパクレセプター(ASGP-R)に結合するかどうかを共焦点レーザー顕微鏡を用いて確認した。詳細は、以下の通りである。
【0054】
ラット正常肝細胞RLN-8及びラット肝癌細胞dRLh-84の細胞懸濁液を1×104cells/wellとなるようにコラーゲンコートしたガラスボトムディッシュ(35nm)に播種した。
播種8時間後、本発明のFITCによって蛍光ラベル化した造影剤及びコントロールの造影剤を終濃度10mg/mlとなるようにそれぞれに添加し、CO2インキュベーター内で培養した。 培養8時間、培地をPBSで2回洗浄し、Opti-MEM培地に交換して共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
さらに、ラット正常肝細胞RLN-8に対して、本発明の造影剤を加える2時間前にASGP-R阻害剤であるラクトースを終濃度5mM、抗ASGP-R抗体を終濃度10μg/mlとなるように培地へ添加して同様の観察を行なった。
なお画像の取得に際しては、感度や倍率を全て同条件で行った。
【0055】
(造影剤の肝細胞特異性の観察結果)
上記観察結果を図5〜7に示す。
ラット正常肝細胞(RLN-8)は、本発明の造影剤の添加では蛍光が観察された(図5の上図)。しかし、コントロールの造影剤の添加では蛍光が観察されなかった(図5の下図)。
一方、ラット肝癌細胞(dRLh-84)は、本発明の造影剤及びコントロールの造影剤を添加しても、蛍光は観察されなかった(図6)。
さらに、ラット正常肝細胞(RLN-8)に、造影剤を添加する前に、ラクトース及び抗ASGP-R抗体を投与した場合には、蛍光が観察されなかった(図7)。
【実施例5】
【0056】
(ASGP-R阻害剤による造影剤の肝細胞特異的結合消失の確認)
本発明の造影剤が、ASGP-R阻害剤により、肝細胞特異的結合の消失が起こることを定量的に確認を行った。詳細は、以下の通りである。
【0057】
(造影剤の肝細胞特異的結合消失の定量測定方法)
ラットの正常肝細胞RLN-8の細胞懸濁液を0.5×105cells/wellとなるように48穴のプレートに播種した。そして、播種8時間後、拮抗阻害剤として機能するラクトースを終濃度5mM又は抗ASGP-R抗体{ASGPR1 (N-18): sc-13467(santa cruz biotechnology社製)}を10μg/ml、さらにラクトースと同じ二糖類で糖鎖が異なるマルトースを終濃度5mMとなるようにそれぞれの穴に添加した。
添加2時間後、FITCによって蛍光ラベル化した本発明の造影剤を終濃度10mg/mlとなるように穴に添加し、CO2インキュベーター内で培養を続けた。
培養8時間後、培地をPBSで2回洗浄し、PBSに培地を交換しプレートリーダーで蛍光量を測定した。
次に、Cell Titer-Glo Luminecent Cell Viability Assayの薬剤(Celltiter-Glo Regament)を培地と等量加え、ATP由来の発光量から細胞数を算定した。先に求めた蛍光量を細胞数で除することで、細胞に結合した造影剤量を規格化した。
【0058】
(ASGP-R阻害剤による造影剤の肝細胞特異的結合消失の定量測定結果)
上記定量測定結果を図8に示す。
ASGP-R阻害剤であるラクトース及び抗ASGP-R抗体が添加されている画分において、本発明の診断用造影剤の正常肝細胞への結合量は顕著に減少した。一方、マルトースが添加されている画分において、本発明の診断用造影剤の正常肝細胞への結合量はわずかに減少した。
【実施例6】
【0059】
(本発明の診断用造影剤を用いての肝癌診断)
本発明の診断用造影剤を、肝臓に癌転移巣を有する生体内(ラット体内)に投与して、該ラット体内での癌転移巣を確認した。詳細は、以下の通りである。
【0060】
(診断用造影剤のラット体内への投与方法)
雄性ラットをネンブタールの腹腔投与によって麻酔した。そして、0.2Mの300μlの本発明の診断用造影剤を該ラットの陰茎静脈より投与した。該投与から5分後に、以下の条件でMRI撮影を行い、ラット体内での癌転移巣を造影した。
MRI撮影条件
装置:MRI装置日立airis2000,0.3T
T1強調撮像、FOV 120、TR 200msec、TE1 17msec
【0061】
(診断用造影剤のラット体内への投与結果)
上記投与結果を図9に示す。
図9の画像から明らかにように、癌転移巣(肝癌細胞)の位置では黒く抜けて造影されており、一方、正常肝細胞では白く造影されていた。
以上により、本発明の診断用造影剤は、肝癌細胞を特異的に検出できるので肝癌診断用造影剤として使用することができる。
【実施例7】
【0062】
(本発明の診断用造影剤と既存の肝特異的MRI造影剤との比較結果)
本発明の診断用造影剤の造影効果及びコントラス比を、既存の肝特異的MRI造影剤であるガドキセト酸ナトリウム(製品名:EOBプリモビスト登録商標)の造影効果及びコントラス比と比較した。詳細は、以下の通りである。
【0063】
(各サンプルの調製)
140cm2のディッシュでRLN-8(ラット正常肝細胞)又はdRLh-84(ラット肝癌細胞)をコンフルーエントの状態まで培養した。次に、本発明の診断用造影剤、コントロール造影剤(キトサン−DTPA−Gd)、又はガドキセト酸ナトリウムを、終濃度2.5mMとなるように、培養した各細胞に添加した。添加した後、8時間培養した。さらに、細胞を生理食塩水で3回洗浄した。次に、スクレーパーを使って細胞を200μlのチューブに集め、0.3TのMRIで撮影した。さらに、撮影した画像からimage Jを使用して、各サンプルの単位面積当たりの輝度を測定した。
【0064】
(各サンプルでの造影結果)
上記画像を図10、上記輝度測定結果を下記表1に示す。
本発明の診断用造影剤は、正常肝細胞に対して最も造影効果が高かった。本発明の診断用造影剤の輝度は、コントロール造影剤の5.3倍、ガドキセト酸ナトリウムの2.1倍に達した。正常肝細胞と肝癌細胞とのコントラスト比(RLN-8/dRLh-84)において、コントロール造影剤が1.1倍、ガドキセト酸ナトリウムが2.6倍だったのに対し、本発明の診断用造影剤では4.3倍であった。
以上により、本発明の診断用造影剤は、従来の肝特異的MRI造影剤あるガドキセト酸ナトリウム(EOBプリモビスト登録商標)と比較して、優れた造影効果及びコントラス比を示すことがわかった。
【0065】
【表1】
【比較例1】
【0066】
(ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤での効果)
ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤(コントロール2の造影剤と称する場合がある:図11)を実施例3と同様な方法により正常ラット及び肝硬変ラットに投与して、該ラット体内での造影剤の挙動を確認した。詳細は、以下の通りである。
【0067】
(ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤の合成)
1.DOTAをラクトースに修飾する工程
p-NH2-Bn-DOTA 58.25mg(1×10-4mol)を純水に溶かし、8M 水酸化ナトリウム水溶液でpH5に調整した。50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0)4mlに溶解したラクトース1水和物432mg(12×10-4mol)を前記水溶液に加え、さらにシアノ水素化ホウ素ナトリウム6.28mg(1×10-4mol)を添加した。溶液を水浴上で40度に加熱攪拌し、その後12時間毎にシアノ水素化ホウ素ナトリウム6.28mg(1×10-4mol)を添加した。反応終了後、生成物をHPLCで分離精製した。さらに、元素分析、質量分析により目的物ラクトース-DOTAが合成されていることを確認した。
2.Gdをラクトース-DOTAに配位する工程
上記ラクトース-DOTA 50mg(6×10-5mol)を 0.5M 酢酸アンモニウム(pH 5.0)5mlに溶かした。60mM酢酸ガドリニウム水溶液〔0.5M 酢酸アンモニウム(pH 5.0)〕1mlを加え、室温で0.5時間攪拌した。反応終了後、溶液を凍結乾燥した。
さらに、上記乾燥したラクトース-DOTA−GdをPBS溶液に溶解した。そして、ラクトース−DOTA−Gdを含むPBS溶液を、造影剤として使用した。
【0068】
(ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤のラット体内への投与方法)
上記ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤を実施例3の方法と同様に正常ラット及び肝硬変ラットに投与して、該ラット体内での造影剤の集積性を観察した。
【0069】
(ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤のラット体内への投与結果)
上記投与結果を図12に示す。
図12から明らかなように、コントロールであるラクトース−DOTA−Gdを含む造影剤は、肝硬変の有無に関わらず、速やかに腎臓へ集積し、代謝されされることが認められた。
【0070】
(総論)
以上により、上記実施例3〜7及び比較例1から、本発明の診断用造影剤は、コントロールの造影剤とは異なり、正常肝細胞に特異的に結合するが、肝癌細胞には結合しないことがわかった。
加えて、実施例1と同様に合成して得られた「重量平均分子量4,000のキトサンを使用した造影剤」でも、正常肝細胞に特異的に結合するが、肝癌細胞には結合しないことを確認している。
さらに、本発明の診断用造影剤は、従来の診断用造影剤あるEOBプリモビスト登録商標と比較して、優れた造影剤であることがわかった。
したがって、本発明の診断用造影剤を使用したMRI画像では、正常肝細胞が白く造影されて、肝癌細胞は黒く抜けて造影されるので、肝細胞癌を特異的に検出することができる。
さらに、本発明の診断用造影剤は、アシアロ糖タンパクレセプター(ASGP-R)の発現が変化特に消失することが報告されている肝硬変、肝炎、脂肪肝、閉塞性黄疸等の診断に使用することができる。
これにより、本発明の造影剤は、従来の糖を利用した造影剤と比較して、構造が明らかに異なり、さらに肝細胞癌を特異的に検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の診断用造影剤は、腫瘍特に肝細胞癌を高感度で検出し、毒性が無く、かつ適度の時間を経過した後に体内から排泄されうる特性を有するので、非常に有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断用造影剤、特に肝機能診断用造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の画像診断として、X線CT、核磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging,以下、「MRI」と略する場合がある)、超音波画像などが知られている。その中で、MRIは、X線の被爆がなく非侵襲性であることから医療分野において非常に利用されている。特に、オープンMRIは、通常のMRIと比較して、患者への負担も少なく、CTのように放射線を使用しないといった利点がある。
また、MRIの診断精度を上昇させる目的で、様々なMRI造影剤が報告されている。
【0003】
Gd-DTPAは、1分子のジエチレントリアミンペンタ酢酸が1イオンのガドリニウム(Gd)と配位している化合物であり、核磁気共鳴診断用造影剤として最もよく知られている。
しかしながら、画像表示尺度を示す緩和度は、Gd-DTPAの構造上錯化されているがために、Gdそのもの自体よりも低値(約1/2)となってしまう。従って、この低下した緩和度を投与量の増加により補うことが必要である。また、Gd−DTPAは低分子であるために血管から組織への浸透が速いので、速やかに尿中へ排泄される。そのため、造影剤が生体に注入された後すぐにMRI造影を開始しなければならない。加えて、Gd−DTPAそれ自体は固形癌などに選択性があるわけではない。さらに、5nm以下のGd-DTPAは、血管外に漏出するという問題があった。
【0004】
上記Gd-DTPAを用いた造影剤の欠点を克服するために、下記のような糖を利用した造影剤が報告されている。
アミノオリゴ糖に二官能性配位子を化学結合させ、この二官能性配位子を介して金属イオンを配位結合させた画像診断用造影剤(特許文献1)。
D−グルコースが複数連結し、そのうち少なくとも1つの構成単糖が酸化開裂されたジアルデヒド化糖に少なくとも1つの二官能性配位子を化学的に結合させ、この二官能性配位子を介し金属イオンを配位結合させた画像診断用造影剤(特許文献2)。
しかし、これらの化合物の重要な構成成分である糖原料は、糖鎖の還元末端が未処理の場合、長時間の放置あるいは長時間反応させると、水溶液中で分子内あるいは分子間結合が起こり、酸化剤により過酸化を受けることが報告されている(特許文献3)。
【0005】
加えて、HSA(ヒト血清アルブミン)、デキストラン、ポリリジン等の高分子材料を担体として使用した常磁性金属錯体化合物が報告されている。
しかし、これらは何れも分子量が数万以上の高分子化合物であるが故に、血中滞留性が10数時間〜数日と不必要に長く、また体内残留性、抗原性などの点で問題がある。
【0006】
その他、以下のような造影剤が報告されている。
ポリイオン複合体を形成し得る、ポリアニオン性ガドリニウム(Gd)系造影剤とカチオン性高分子との複合体またはポリカチオン性Gd系造影剤とアニオン性高分子との複合体、を含有し、中性pHにおいて、高分子電解質の存在下でのみMRI造影能を発現するMRI用造影剤(特許文献4)。該MRI用造影剤は、本発明の診断用造影剤とは明らかに構造が異なる。
【0007】
親水性ポリマー鎖セグメントと、アミノ基を含む側鎖を複数有するセグメントであって該複数のアミノ基の一部又は全部にガドリニウムキレート化剤残基が直接又はリンカー構造を介して結合されており、かつ、該ガドリニウムキレート化剤残基の一部又は全部にガドリニウムイオンがキレートされているガドリニウム含有セグメントとを含むブロックコポリマーと、該ガドリニウム含有セグメントが、高分子ミセル形成時に正の電荷を有する場合にはポリアニオン、負の電荷を有する場合にはポリカチオンとから水系媒体中で形成された高分子ミセルを有効成分とする核磁気共鳴画像造影剤(特許文献5)。該核磁気共鳴画像造影剤は、本発明の診断用造影剤とは明らかに構造が異なる。
【0008】
上記のような報告があるにもかかわらず、より高機能な診断用造影剤の開発が期待されている。より詳しくは、1)腫瘍等を高感度で検出し、2)毒性が無く、3)良好な可溶性、かつ4)適度の時間を経過した後に体内から排泄されうる診断用造影剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−97712号公報
【特許文献2】特開平5−25059号公報
【特許文献3】特開平8−208525号公報
【特許文献4】特開2000−86538号公報
【特許文献5】特開2008−222804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記要望にこたえるべく、複数の金属イオンが安定的に導入され、良好な可溶性を有し、毒性が無く、癌種を特異的に検出可能であり、かつ適切な血中滞留性を示す、ことを特徴とする診断用造影剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々研究を重ねた結果、ラクトースを修飾した多糖をバックボーンとする錯体化合物が、上記要望を充足することを見出し、本発明を完成した。
【0012】
つまり、本発明は、以下の通りである。
「1.下記式(I)の化合物及び/又は下記式(II)の化合物を含む診断用造影剤であって、
【化1】
【化2】
ここで、上記多糖を構成する単糖中のXは水素原子、二官能性配位子、アセチル基又はラクトース残基であり、該二官能性配位子のいずれか1以上にGd、Dy、Tb、Ho、Er又はFeが配位しており、m又はnは20〜70の整数であり、
並びに、全Xに対する二官能性配位子の割合は5〜40%であり、全Xに対するラクトース残基の割合は5〜80%であり、全Xに対する水素原子の割合は5〜50%であり、かつ全Xに対するアセチル基の割合は5〜30%である、ことを特徴とする診断用造影剤。
2.前記二官能性配位子が、以下のいずれか1から選択される前項1に記載の診断用造影剤。
(1)ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DPTA)
(2)DPTAの誘導体
(3)1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸(DOTA)
(4)DOTAの誘導体
3.前記多糖が、キトサン又はキチン由来の多糖であることを特徴とする前項1又は2に記載の診断用造影剤。
4.前記キトサン又はキチン由来の多糖の平均分子量が、4,000〜12,000であることを特徴とする前項3に記載の診断用造影剤。
5.前記多糖の脱アセチル化度が、70〜100%であることを特徴とする請求1〜4のいずれか1に記載の診断用造影剤。
6.前記診断用造影剤が、肝機能診断用造影剤であることを特徴とする前項1〜5のいずれか1に記載の診断用造影剤。
7.前記肝機能診断用造影剤が、肝癌診断用造影剤であることを特徴とする前項6に記載の診断用造影剤。
8.前記肝機能診断用造影剤が、以下のいずれか1以上から選択する前項6に記載の診断用造影剤。
(1)肝硬変診断用造影剤
(2)肝炎診断用造影剤
(3)脂肪肝診断用造影剤
(4)閉塞性黄疸診断用造影剤」
【発明の効果】
【0013】
本発明の診断用造影剤は、腫瘍特に肝細胞癌を高感度で検出し、毒性が無く、良好な可溶性を示し、かつ適度の時間を経過した後に体内から排泄されうる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の診断用造影剤(キトサン−ラクトース−DTPA−Gd)の毒性試験結果
【図2】本発明の診断用造影剤が投与されたラットのMRIの画像
【図3】コントロールの造影剤(ラクトース−DTPA−Gd)が投与されたラットのMRIの画像
【図4】本発明の診断用造影剤の肝細胞特異的認識の定量的測定の結果
【図5】本発明の診断用造影剤の正常肝細胞認識に対する評価の画像
【図6】本発明の診断用造影剤の肝癌細胞認識に対する評価の画像
【図7】抗体又はラクトースが添加された本発明の診断用造影剤の正常肝細胞認識に対する評価の画像
【図8】ASGP-R(アシアロ糖タンパクレセプター)阻害剤による本発明の診断用造影剤の肝細胞特異的認識の定量測定結果
【図9】本発明の診断用造影剤を使用した癌転移巣の造影画像
【図10】本発明の診断用造影剤及び既存の肝特異的MRI造影剤での造影画像
【図11】ラクトース-DOTA-Gdの構造
【図12】ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤(コントロール2の造影剤)が投与された正常ラット又は肝硬変ラットのMRI画像
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
(本発明の診断用造影剤の構成)
本発明の診断用造影剤は、少なくとも以下の一般式(I)の化合物及び/又は(II)の化合物を含む。
【0017】
【化3】
【0018】
【化4】
【0019】
上記多糖を構成する単糖中のXは水素原子、二官能性配位子、アセチル基又はラクトース残基である。
また、Gd、Dy、Tb、Ho、Er又はFeのいずれか1以上が上記二官能性配位子に配位している。なお、Gdが二官能性配位子に配位していることが好ましい。加えて、好ましくは、1分子のGdが二官能性配位子1分子に対して配位している。
なお、全Xに対する二官能性配位子の割合は5〜40%であり、全Xに対するラクトース残基の割合は5〜80%であり、全Xに対する水素原子の割合は5〜50%であり、かつ全Xに対するアセチル基の割合は5〜30%である。
好ましい全Xに対する二官能性配位子の割合は5〜20%であり、全Xに対するラクトース残基の割合は40〜60%であり、全Xに対する水素原子の割合は20〜40%であり、かつ全Xに対するアセチル基の割合は5〜20%である。
より好ましい全Xに対する二官能性配位子の割合は5〜15%であり、全Xに対するラクトース残基の割合は45〜55%であり、全Xに対する水素原子の割合は25〜35%であり、かつ全Xに対するアセチル基の割合は5〜15%である。
【0020】
上記二官能性配位子は、以下のいずれか1以上から選択される。
ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DPTA)またはその誘導体(DTPA誘導体)。なお、DTPA誘導体としては、1−(p−イソチオシアネートベンジル)−DTPA、無水DTPAが例示される。
1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸(DOTA)またはその誘導体(DOTA誘導体)。なお、DOTA誘導体として、2−(p−イソチオシアネートベンジル)−DOTAが例示される。
【0021】
m及びnは、10〜80のいずれか1の整数であり、好ましくは20〜70、より好ましくは30〜60、最も好ましくは35〜55である。
【0022】
上記Xの各割合は、診断用造影剤の仕込み段階の比率である。
なお、全Xに対するラクトース残基の割合は、多糖に修飾されなかったラクトース(未反応ラクトース)を高速液体クロマトグラフィーによって回収・定量することにより、確認又は算出することができる。
また、全Xに対する二官能性配位子の割合は、診断用造影剤に固定化されたGd量をICP-MS法により定量することにより、確認又は算出することができる。
【0023】
(本発明の多糖)
本発明の多糖は、キチン、キトサン由来の多糖を使用する。キトサンは、キチンの脱アセチル化物と定義され、一般的には、脱アセチル化度70〜100%であり、キチンでは溶解しない希酸溶液に溶解する特徴を持っている。
本発明で使用する部分脱アセチル化キチン(2位の一部のアセチル基が脱アセチル化しているキチン)又はキトサンは、カニ、エビなど甲殻類の外骨格等に含まれるアミノ多糖類の一種であるキチン由来であり、化学構造がグルコサミンと少量のN−アセチルグルコサミンとの繰り返構造である天然物由来の高分子である。一般には、甲殻類の外骨格等を苛性ソーダなどのアルカリで脱タンパクし、塩酸などの酸溶液で脱カルシウム処理して得られるキチンを、さらに苛性ソーダなどの高濃度アルカリ水溶液で部分脱アセチル化して得られる。
この際、使用するアルカリ濃度、温度、処理時間を適宜変えることにより、脱アセチル化度(DAC度ともいう)は調整することが可能である。一般的にはDAC度は60%以上のものである。本発明で使用する部分脱アセチル化キチンの脱アセチル化度は20%以上で使用可能であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
【0024】
なお、本発明で使用する部分脱アセチル化キチン又はキトサンの製造方法を以下で例示するが、特に限定されない。
ベニズワイガニの殻を数センチ角程度に粗砕し、5〜7%水酸化ナトリウム水溶液で80〜90℃、3〜15時間程度処理することで脱タンパクし、さらに反応液を除去した。そして、洗液が中性になる程度まで水洗の後、5〜7%程度の塩酸水溶液で室温、3〜8時間程度脱カルシウム処理し、反応液を除去、洗液が中性になる程度まで水洗の後、脱水、乾燥して、キチンを得る。
前記キチンを約48%水酸化ナトリウム溶液で80〜90℃、6〜15時間程度脱アセチル化し、反応液を除去、洗液が中性になる程度まで水洗の後、脱水、乾燥しキトサンとする。
さらに、前記キトサンを約5%程度となるように塩酸水溶液に溶解し、キトサナーゼを加え数十時間程度酵素分解により低分子化する。酵素反応後、加熱により酵素失活(80℃以上、15分程度)した後、ろ過し、凍結乾燥もしくは噴霧乾燥により粉末化する。
【0025】
本発明の診断用造影剤で使用する部分脱アセチル化キチン又はキトサンの分子量は、一般的には、重量平均分子量(標準品にプルランを用いGPC分子量測定により算出)が4,000〜12,000程度のものが使用され、好ましくは5,000〜10,000、より好ましくは6,000〜9,000、最も好ましくは6,500〜8,000である。
脱アセチル化率は、一般的には、20〜100%程度のものが使用され、好ましくは25〜95%程度、より好ましくは約30〜85%である。粘度は、20℃において0.5%W/W溶液粘度が5〜300mPa・s、より好ましくは10〜250mPa・sである。
なお、脱アセチル化度は、分脱アセチル化キチン又はキトサンを0.5%(w/w) 酢酸溶液に0.5%(w/w)になるように溶解し、指示薬としてトルイジンブルー溶液を用い、ポリビニル硫酸カリウム水溶液でコロイド滴定して乾物当たりの脱アセチル化割合を算出したものである。
【0026】
本発明の診断用造影剤で使用する多糖は、好ましくは、甲陽ケミカル社製の「キトサンFL-80」をキトサナーゼによる酵素処理して得られたキトサン{重量平均分子量(Mw)=4000〜7000}を使用する。なお、キトサナーゼによる酵素処理時間を適宜調整することにより、多糖の平均分子量を調製することができる。
【0027】
なお、部分脱アセチル化キチン又はキトサンは、構成単糖の2位の位置に反応性の高いアミノ基を有した反応性分子であることから、ラクトースとの結合において繁雑な誘導体化が不要であり、その結果、ラクトースとの反応を1段階で完了することも可能である。
【0028】
(診断用造影剤)
本発明の診断用造影剤は、常法により医薬上許容される任意の添加成分と混合し、任意の形態の診断用造影剤とすることができるが、好ましくは生理学的に許容できる水性溶剤に溶解させ、溶液形態の診断用造影剤とする。
本発明の診断用造影剤は、通常注射用蒸留水、生理食塩水やリンゲル液等の溶媒に懸濁、または溶解等の状態で用いられ、さらに必要に応じて、薬理学的に許容されうる担体、賦形剤等の添加剤を含めることができる。
なお、本発明の診断用造影剤は、血管(静脈、動脈)内投与、経口投与、直腸内投与、膣内投与、リンパ管内投与、関節内投与等によって生体内に投与することができる。
加えて、本発明の診断用造影剤に含められる添加剤としては、その投与形態、投与経路等によっても異なるが具体的には、注射剤の場合には、緩衝剤(PBS溶液)、抗菌剤、安定化剤、溶解補助剤や賦形剤等が単独または組み合わせて用いられる。経口投与剤(具体的には水剤、シロップ剤、乳剤または懸濁液等)の場合には、着色剤、保存剤、安定化剤、懸濁化剤、乳化剤、粘稠剤、甘味剤、芳香剤等が単独または組み合わせて用いられる。各種添加剤は通常当分野で用いられるものが使用される。
【0029】
(診断用造影剤の使用方法)
本発明の診断用造影剤として使用する場合、その使用量は画像診断の用途に応じて選択する。たとえば、MRI診断用造影剤として使用するためには、金属イオン量(Gd)として一般に0.0001〜10ミリモル/kg、好ましくは0.005〜0.5ミリモル/kgの量で投与する。
また、X線診断用造影剤として使用するためには、金属イオン量(Gd)として0.01〜20ミリモル/kg、好ましくは0.1〜10ミリモル/kgの量で投与する。
本発明の診断用造影剤は、従来のMRI用造影剤に準じて投与、造影することができる。具体的な投与方法としては静脈内投与や経口投与などが挙げられる。
また、本発明の診断用造影剤は、ヒト以外にも各種動物用の診断用造影剤としても好適に用いることができ、その投与形態、投与経路、投与量等は対象となる動物の体重や状態によって適宜選択する。
【0030】
本発明の診断用造影剤は、肝機能診断用造影剤、特に下記実施例から明らかなように肝癌診断用造影剤として使用することができる。
また、本発明の診断用造影剤は、下記実施例から明らかなように、アシアロ糖タンパクレセプター(ASGP-R)を特異的に認識することができる。
なお、アシアロ糖タンパクレセプターは、肝細胞表面に存在し血中の非シアル酸糖タンパク質の取り込みや分解に関与している。また、アシアロ糖タンパクレセプターは、肝硬変、肝癌及び再生肝などの肝臓病態に応じその発現が減少することが報告されている。よって、本発明の診断用造影剤は、該レセプターが消失する肝硬変等の肝機能診断に使用することができる。
さらに、アシアロ糖タンパクレセプターは、急性肝炎、慢性特にアルコール性慢性肝炎、脂肪肝、閉塞性黄疸等の肝臓病態に応じその発現が変化することが臨床的に明らかになっている。よって、本発明の診断用造影剤は、肝炎、脂肪肝、閉塞性黄疸の肝機能診断にも使用することができる。
【0031】
(診断用造影剤の特性)
本発明の診断用造影剤は、良好な水溶性を有し、室温において少なくとも、100mM、好ましくは300mM、より好ましくは500mMの濃度まで水溶液に溶解できる。
さらに、本発明の診断用造影剤は、生体内に投与されてから、約1〜12時間、好ましくは約4〜10時間、より好ましくは約6〜8時間を経過した後に体内から排泄されうる。
【0032】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって何等の制約をも受けるものでないことはいうまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも更には上記した発明の実施の形態における記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱し得ない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが理解されるべきである。
【実施例1】
【0033】
(診断用造影剤の合成)
本発明の診断用造影剤を以下のように合成した。
【0034】
(ラクトースをキトサンに修飾する工程)
キトサン(重量平均分子量7,000)5gを1Mの炭酸アンモニウム緩衝液(pH 8.5)100mlに溶かした。さらに、氷冷下において反応触媒1-Ethyl-3-(dimethylaminopropyl)carbodiimide, hydrochloride) (WSC)を9g加え、あらかじめ1Mの炭酸アンモニウム緩衝液(pH 8.5)25mlに溶解したラクトビオン酸5.6gをゆっくり滴下した。添加後、室温で一昼夜撹拌した後、得られた褐色の液体を透析チューブ(PIRCE SnakeSkin登録商標 3500 MWCO)に入れ、純水に対して3日間透析した。透析終了後、凍結乾燥し、褐色の固体(以後、「キトサン−ラクトース」と称する場合がある)を得た。
【0035】
(DTPAをキトサン−ラクトースに修飾する工程)
上記キトサン−ラクトース1gを20mlの1Mの炭酸アンモニウム緩衝液(pH 9.0)に溶かした。これに、あらかじめ5mlのDMSOに溶解した無水DTPA 532.5 mg(1.49 mmol)を室温でゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液のpHを確認し、そのまま室温で5時間攪拌した。得られた褐色の液体を透析チューブ(PIRCE SnakeSkin登録商標 3500 MWCO)に入れ、純水に対して3日間、透析を行った。透析終了後、凍結乾燥し、褐色の固体(以後、「キトサン−ラクトース−DTPA」と称する場合がある)を得た。
【0036】
(Gdをキトサン−ラクトース−DTPAに配位する工程)
上記キトサン−ラクトース-DTPA 260mgを 0.5M 酢酸アンモニウム(pH 5.0)に溶かした。0.027mM塩化ガドリニウム水溶液〔0.5M 酢酸アンモニウム(pH 5.0)〕5mlを加え、室温で1時間攪拌した。反応終了後、溶液を透析チューブに入れ、純水に対して3日間透析した。透析終了後、凍結乾燥し、褐色の固体(以後、「キトサン−ラクトース−DTPA−Gd」と称する場合がある)を得た。結合誘導プラズマ-質量分析法(ICP-MS)により、キトサン−ラクトース−DTPAがGdと錯化していることを確認した。
【0037】
上記キトサン−ラクトース−DTPA−Gdにおいて、各構成糖の2位の残基がラクトース残基である割合は2位の残基全部の内50%であり、各構成糖の2位の残基がGdである割合は2位の残基全部の内10%であることを確認した。
【0038】
上記キトサン−ラクトース−DTPA−GdをPBS溶液に溶解した。そして、キトサン−ラクトース−DTPA−Gdを含むPBS溶液を、以下の実施例での診断用造影剤として使用した。
【0039】
以下の実施例で使用したコントロールの造影剤は、キトサン−DTPA−Gdを使用した。該造影剤の合成方法は、以下の通りである。
【0040】
(DTPAをキトサンに修飾する工程)
キトサン3gを20mlの1Mの炭酸アンモニウム緩衝液(pH 9.0)に溶かした。これに、あらかじめ5mlのDMSOに溶解した無水DTPA 2.2gを室温でゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液のpHを確認し、そのまま室温で5時間攪拌した。得られた褐色の液体を透析チューブ(PIRCE SnakeSkin登録商標 3500 MWCO)に入れ、純水に対して3日間、透析を行った。透析終了後、凍結乾燥し、褐色の固体(以後、「キトサン−DTPA」と称する場合がある)を得た。
【0041】
(Gdをキトサン-DTPAに配位する工程)
キトサン−DTPA 300mgを 0.5M 酢酸アンモニウム(pH 5.0)に溶かした。0.027mM塩化ガドリニウム水溶液〔0.5M 酢酸アンモニウム(pH 5.0)〕5mlを溶かした溶液に加え、室温で1時間攪拌した。攪拌終了後、溶液を透析チューブに入れ、純水に対して3日間透析した。透析終了後、凍結乾燥し、褐色の固体(以後、「キトサン−DTPA−Gd」と称する場合がある)を得た。
なお、結合誘導プラズマ-質量分析法(ICP-MS)により、キトサン−DTPAがGdと錯化していることを確認した。
【0042】
上記キトサン−DTPA−GdをPBS溶液に溶解した。そして、キトサン−DTPA−Gdを含むPBS溶液を、以下の実施例でのコントロールの造影剤として使用した。
【実施例2】
【0043】
(診断用造影剤の毒性確認)
本発明の診断用造影剤の毒性を確認した。詳細は、以下の通りである。
【0044】
(診断用造影剤の毒性試験方法)
ラットの正常肝細胞RLN-8の細胞懸濁液を1000cells/wellとなるように96穴プレートに播種し、CO2インキュベーターで12時間培養を行った。
培養12時間後、終濃度を0、0.2、2、4、10、20、30mg/mlとなるように本発明の診断用造影剤、コントロールの造影剤をそれぞれの穴に添加した(全量100μl)。そして、添加後、CO2インキュベーターで5時間培養した。
Cell Titer-Glo Luminecent Cell Viability Assayの薬剤(Celltiter-Glo Regament)100μlを各穴に添加し、生細胞に由来するATPを発光量として定量することにより、造影剤の毒性を評価した。
【0045】
(診断用造影剤の毒性試験結果)
上記毒性試験結果を図1に示す。本造影剤は、実際に使用する濃度領域(<10mg/ml)では、細胞毒性を示さなかった。
これにより、本発明の診断用造影剤は、生体内の使用が可能である。
【実施例3】
【0046】
(診断用造影剤によるラットでの効果の確認)
本発明の診断用造影剤を生体内(ラット体内)に投与して、該ラット体内での診断用造影剤の挙動を確認した。詳細は、以下の通りである。
【0047】
(診断用造影剤のラット体内への投与方法)
雄性ラットをネンブタールの腹腔投与によって麻酔した。そして、1×10-4 mol-Gd/Kg-ラットの本発明の診断用造影剤(Gd基準で100mM)を該ラットの陰茎静脈より投与した。ラットは投与前から経時的に以下の条件でMRI撮影を行い、ラット生体内での診断用造影剤の集積性を観察した。なお、コントロールの造影剤でも同様に観察した。
MRI撮影条件
装置:MRI装置日立airis2000,0.3T
T1強調撮像、FOV 120、TR 200msec、TE1 17msec
【0048】
(診断用造影剤のラット体内への投与結果)
上記投与結果を図2(本発明の診断用造影剤)及び図3(コントロールの造影剤)に示す。
図2から明らかにように、本発明の診断用造影剤は、ラット生体内から代謝されることなく、肝臓への特異的な集積が認められた。
一方、図3から明らかなように、コントロールの造影剤は、ラット生体内から代謝されて、肝臓への特異的な集積が認められなかった。
【実施例4】
【0049】
(診断用造影剤の肝細胞での挙動の確認)
本発明の診断用造影剤が、肝細胞に特異的に結合することを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0050】
(造影剤の肝細胞特異的結合の定量的評価)
FITCによって蛍光ラベル化した造影剤を用いて、造影剤の肝細胞特異的結合をin vitroにて定量的に評価した。
【0051】
(造影剤の肝細胞特異的結合の定量測定方法)
ラットの正常肝細胞RLN-8、ラットの癌細胞dRLh-84の細胞懸濁液を0.5×105cells/wellとなるように48穴のプレートに播種し、CO2インキュベーター内で培養を行った。培養8時間後、本発明の蛍光ラベル化した造影剤及びコントロールの造影剤をそれぞれ終濃度0、0.02、0.1、0.2、1、3、5、8、10、15、20mg/mlとなるように該プレートの穴に添加した。
更に8時間後、培地をPBSで2回洗浄し、PBSに培地を交換しプレートリーダーで蛍光量を測定した。
次に、Cell Titer-Glo Luminecent Cell Viability Assayの薬剤(Celltiter-Glo Regament)を培地と等量加え、発光量を測定した。
なお、細胞数と発光量の検量線をあらかじめ作成しておき、発光量から細胞数を算定した。先に求めた蛍光量を細胞数で除することで、細胞に結合した造影剤量を規格化した。
【0052】
(造影剤の肝細胞特異的結合の定量測定結果)
上記発光量の測定結果を図4に示す。
本発明の造影剤は、ラット正常肝細胞(RLN-8)に対して極めて高い親和性を示した。本発明の造影剤と肝細胞との結合に基づく蛍光強度は、造影剤の濃度に依存して上昇し、8mg/mlでプラトーに達し、その後緩やかに減少した。
一方、本発明の造影剤は、ラット肝癌細胞(dRLh-84)に対しては親和性を示さなかった。また、コントロールの造影剤は、ラット正常肝細胞(RLN-8)及びラット肝癌細胞(dRLh-84)に全く結合しなかった。
【0053】
(造影剤の肝細胞特異的結合の観察)
本発明の診断用造影剤が、細胞のアシアロ糖タンパクレセプター(ASGP-R)に結合するかどうかを共焦点レーザー顕微鏡を用いて確認した。詳細は、以下の通りである。
【0054】
ラット正常肝細胞RLN-8及びラット肝癌細胞dRLh-84の細胞懸濁液を1×104cells/wellとなるようにコラーゲンコートしたガラスボトムディッシュ(35nm)に播種した。
播種8時間後、本発明のFITCによって蛍光ラベル化した造影剤及びコントロールの造影剤を終濃度10mg/mlとなるようにそれぞれに添加し、CO2インキュベーター内で培養した。 培養8時間、培地をPBSで2回洗浄し、Opti-MEM培地に交換して共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
さらに、ラット正常肝細胞RLN-8に対して、本発明の造影剤を加える2時間前にASGP-R阻害剤であるラクトースを終濃度5mM、抗ASGP-R抗体を終濃度10μg/mlとなるように培地へ添加して同様の観察を行なった。
なお画像の取得に際しては、感度や倍率を全て同条件で行った。
【0055】
(造影剤の肝細胞特異性の観察結果)
上記観察結果を図5〜7に示す。
ラット正常肝細胞(RLN-8)は、本発明の造影剤の添加では蛍光が観察された(図5の上図)。しかし、コントロールの造影剤の添加では蛍光が観察されなかった(図5の下図)。
一方、ラット肝癌細胞(dRLh-84)は、本発明の造影剤及びコントロールの造影剤を添加しても、蛍光は観察されなかった(図6)。
さらに、ラット正常肝細胞(RLN-8)に、造影剤を添加する前に、ラクトース及び抗ASGP-R抗体を投与した場合には、蛍光が観察されなかった(図7)。
【実施例5】
【0056】
(ASGP-R阻害剤による造影剤の肝細胞特異的結合消失の確認)
本発明の造影剤が、ASGP-R阻害剤により、肝細胞特異的結合の消失が起こることを定量的に確認を行った。詳細は、以下の通りである。
【0057】
(造影剤の肝細胞特異的結合消失の定量測定方法)
ラットの正常肝細胞RLN-8の細胞懸濁液を0.5×105cells/wellとなるように48穴のプレートに播種した。そして、播種8時間後、拮抗阻害剤として機能するラクトースを終濃度5mM又は抗ASGP-R抗体{ASGPR1 (N-18): sc-13467(santa cruz biotechnology社製)}を10μg/ml、さらにラクトースと同じ二糖類で糖鎖が異なるマルトースを終濃度5mMとなるようにそれぞれの穴に添加した。
添加2時間後、FITCによって蛍光ラベル化した本発明の造影剤を終濃度10mg/mlとなるように穴に添加し、CO2インキュベーター内で培養を続けた。
培養8時間後、培地をPBSで2回洗浄し、PBSに培地を交換しプレートリーダーで蛍光量を測定した。
次に、Cell Titer-Glo Luminecent Cell Viability Assayの薬剤(Celltiter-Glo Regament)を培地と等量加え、ATP由来の発光量から細胞数を算定した。先に求めた蛍光量を細胞数で除することで、細胞に結合した造影剤量を規格化した。
【0058】
(ASGP-R阻害剤による造影剤の肝細胞特異的結合消失の定量測定結果)
上記定量測定結果を図8に示す。
ASGP-R阻害剤であるラクトース及び抗ASGP-R抗体が添加されている画分において、本発明の診断用造影剤の正常肝細胞への結合量は顕著に減少した。一方、マルトースが添加されている画分において、本発明の診断用造影剤の正常肝細胞への結合量はわずかに減少した。
【実施例6】
【0059】
(本発明の診断用造影剤を用いての肝癌診断)
本発明の診断用造影剤を、肝臓に癌転移巣を有する生体内(ラット体内)に投与して、該ラット体内での癌転移巣を確認した。詳細は、以下の通りである。
【0060】
(診断用造影剤のラット体内への投与方法)
雄性ラットをネンブタールの腹腔投与によって麻酔した。そして、0.2Mの300μlの本発明の診断用造影剤を該ラットの陰茎静脈より投与した。該投与から5分後に、以下の条件でMRI撮影を行い、ラット体内での癌転移巣を造影した。
MRI撮影条件
装置:MRI装置日立airis2000,0.3T
T1強調撮像、FOV 120、TR 200msec、TE1 17msec
【0061】
(診断用造影剤のラット体内への投与結果)
上記投与結果を図9に示す。
図9の画像から明らかにように、癌転移巣(肝癌細胞)の位置では黒く抜けて造影されており、一方、正常肝細胞では白く造影されていた。
以上により、本発明の診断用造影剤は、肝癌細胞を特異的に検出できるので肝癌診断用造影剤として使用することができる。
【実施例7】
【0062】
(本発明の診断用造影剤と既存の肝特異的MRI造影剤との比較結果)
本発明の診断用造影剤の造影効果及びコントラス比を、既存の肝特異的MRI造影剤であるガドキセト酸ナトリウム(製品名:EOBプリモビスト登録商標)の造影効果及びコントラス比と比較した。詳細は、以下の通りである。
【0063】
(各サンプルの調製)
140cm2のディッシュでRLN-8(ラット正常肝細胞)又はdRLh-84(ラット肝癌細胞)をコンフルーエントの状態まで培養した。次に、本発明の診断用造影剤、コントロール造影剤(キトサン−DTPA−Gd)、又はガドキセト酸ナトリウムを、終濃度2.5mMとなるように、培養した各細胞に添加した。添加した後、8時間培養した。さらに、細胞を生理食塩水で3回洗浄した。次に、スクレーパーを使って細胞を200μlのチューブに集め、0.3TのMRIで撮影した。さらに、撮影した画像からimage Jを使用して、各サンプルの単位面積当たりの輝度を測定した。
【0064】
(各サンプルでの造影結果)
上記画像を図10、上記輝度測定結果を下記表1に示す。
本発明の診断用造影剤は、正常肝細胞に対して最も造影効果が高かった。本発明の診断用造影剤の輝度は、コントロール造影剤の5.3倍、ガドキセト酸ナトリウムの2.1倍に達した。正常肝細胞と肝癌細胞とのコントラスト比(RLN-8/dRLh-84)において、コントロール造影剤が1.1倍、ガドキセト酸ナトリウムが2.6倍だったのに対し、本発明の診断用造影剤では4.3倍であった。
以上により、本発明の診断用造影剤は、従来の肝特異的MRI造影剤あるガドキセト酸ナトリウム(EOBプリモビスト登録商標)と比較して、優れた造影効果及びコントラス比を示すことがわかった。
【0065】
【表1】
【比較例1】
【0066】
(ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤での効果)
ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤(コントロール2の造影剤と称する場合がある:図11)を実施例3と同様な方法により正常ラット及び肝硬変ラットに投与して、該ラット体内での造影剤の挙動を確認した。詳細は、以下の通りである。
【0067】
(ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤の合成)
1.DOTAをラクトースに修飾する工程
p-NH2-Bn-DOTA 58.25mg(1×10-4mol)を純水に溶かし、8M 水酸化ナトリウム水溶液でpH5に調整した。50mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0)4mlに溶解したラクトース1水和物432mg(12×10-4mol)を前記水溶液に加え、さらにシアノ水素化ホウ素ナトリウム6.28mg(1×10-4mol)を添加した。溶液を水浴上で40度に加熱攪拌し、その後12時間毎にシアノ水素化ホウ素ナトリウム6.28mg(1×10-4mol)を添加した。反応終了後、生成物をHPLCで分離精製した。さらに、元素分析、質量分析により目的物ラクトース-DOTAが合成されていることを確認した。
2.Gdをラクトース-DOTAに配位する工程
上記ラクトース-DOTA 50mg(6×10-5mol)を 0.5M 酢酸アンモニウム(pH 5.0)5mlに溶かした。60mM酢酸ガドリニウム水溶液〔0.5M 酢酸アンモニウム(pH 5.0)〕1mlを加え、室温で0.5時間攪拌した。反応終了後、溶液を凍結乾燥した。
さらに、上記乾燥したラクトース-DOTA−GdをPBS溶液に溶解した。そして、ラクトース−DOTA−Gdを含むPBS溶液を、造影剤として使用した。
【0068】
(ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤のラット体内への投与方法)
上記ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤を実施例3の方法と同様に正常ラット及び肝硬変ラットに投与して、該ラット体内での造影剤の集積性を観察した。
【0069】
(ラクトース-DOTA-Gdを含む造影剤のラット体内への投与結果)
上記投与結果を図12に示す。
図12から明らかなように、コントロールであるラクトース−DOTA−Gdを含む造影剤は、肝硬変の有無に関わらず、速やかに腎臓へ集積し、代謝されされることが認められた。
【0070】
(総論)
以上により、上記実施例3〜7及び比較例1から、本発明の診断用造影剤は、コントロールの造影剤とは異なり、正常肝細胞に特異的に結合するが、肝癌細胞には結合しないことがわかった。
加えて、実施例1と同様に合成して得られた「重量平均分子量4,000のキトサンを使用した造影剤」でも、正常肝細胞に特異的に結合するが、肝癌細胞には結合しないことを確認している。
さらに、本発明の診断用造影剤は、従来の診断用造影剤あるEOBプリモビスト登録商標と比較して、優れた造影剤であることがわかった。
したがって、本発明の診断用造影剤を使用したMRI画像では、正常肝細胞が白く造影されて、肝癌細胞は黒く抜けて造影されるので、肝細胞癌を特異的に検出することができる。
さらに、本発明の診断用造影剤は、アシアロ糖タンパクレセプター(ASGP-R)の発現が変化特に消失することが報告されている肝硬変、肝炎、脂肪肝、閉塞性黄疸等の診断に使用することができる。
これにより、本発明の造影剤は、従来の糖を利用した造影剤と比較して、構造が明らかに異なり、さらに肝細胞癌を特異的に検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の診断用造影剤は、腫瘍特に肝細胞癌を高感度で検出し、毒性が無く、かつ適度の時間を経過した後に体内から排泄されうる特性を有するので、非常に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)の化合物及び/又は下記式(II)の化合物を含む診断用造影剤であって、
【化1】
【化2】
ここで、上記多糖を構成する単糖中のXは水素原子、二官能性配位子、アセチル基又はラクトース残基であり、該二官能性配位子のいずれか1以上にGd、Dy、Tb、Ho、Er又はFeが配位しており、m又はnは20〜70の整数であり、
並びに、全Xに対する二官能性配位子の割合は5〜40%であり、全Xに対するラクトース残基の割合は5〜80%であり、全Xに対する水素原子の割合は5〜50%であり、かつ全Xに対するアセチル基の割合は5〜30%である、ことを特徴とする診断用造影剤。
【請求項2】
前記二官能性配位子が、以下のいずれか1から選択される請求項1に記載の診断用造影剤。
(1)ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DPTA)
(2)DPTAの誘導体
(3)1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸(DOTA)
(4)DOTAの誘導体
【請求項3】
前記多糖が、キトサン又はキチン由来の多糖であることを特徴とする請求項1又は2に記載の診断用造影剤。
【請求項4】
前記キトサン又はキチン由来の多糖の平均分子量が、4,000〜12,000であることを特徴とする請求項3に記載の診断用造影剤。
【請求項5】
前記多糖の脱アセチル化度が、70〜100%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の診断用造影剤。
【請求項6】
前記診断用造影剤が、肝機能診断用造影剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の診断用造影剤。
【請求項7】
前記肝機能診断用造影剤が、肝癌診断用造影剤であることを特徴とする請求項6に記載の診断用造影剤。
【請求項8】
前記肝機能診断用造影剤が、以下のいずれか1以上から選択する請求項6に記載の診断用造影剤。
(1)肝硬変診断用造影剤
(2)肝炎診断用造影剤
(3)脂肪肝診断用造影剤
(4)閉塞性黄疸診断用造影剤
【請求項1】
下記式(I)の化合物及び/又は下記式(II)の化合物を含む診断用造影剤であって、
【化1】
【化2】
ここで、上記多糖を構成する単糖中のXは水素原子、二官能性配位子、アセチル基又はラクトース残基であり、該二官能性配位子のいずれか1以上にGd、Dy、Tb、Ho、Er又はFeが配位しており、m又はnは20〜70の整数であり、
並びに、全Xに対する二官能性配位子の割合は5〜40%であり、全Xに対するラクトース残基の割合は5〜80%であり、全Xに対する水素原子の割合は5〜50%であり、かつ全Xに対するアセチル基の割合は5〜30%である、ことを特徴とする診断用造影剤。
【請求項2】
前記二官能性配位子が、以下のいずれか1から選択される請求項1に記載の診断用造影剤。
(1)ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DPTA)
(2)DPTAの誘導体
(3)1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸(DOTA)
(4)DOTAの誘導体
【請求項3】
前記多糖が、キトサン又はキチン由来の多糖であることを特徴とする請求項1又は2に記載の診断用造影剤。
【請求項4】
前記キトサン又はキチン由来の多糖の平均分子量が、4,000〜12,000であることを特徴とする請求項3に記載の診断用造影剤。
【請求項5】
前記多糖の脱アセチル化度が、70〜100%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の診断用造影剤。
【請求項6】
前記診断用造影剤が、肝機能診断用造影剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の診断用造影剤。
【請求項7】
前記肝機能診断用造影剤が、肝癌診断用造影剤であることを特徴とする請求項6に記載の診断用造影剤。
【請求項8】
前記肝機能診断用造影剤が、以下のいずれか1以上から選択する請求項6に記載の診断用造影剤。
(1)肝硬変診断用造影剤
(2)肝炎診断用造影剤
(3)脂肪肝診断用造影剤
(4)閉塞性黄疸診断用造影剤
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−63572(P2011−63572A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218180(P2009−218180)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(391003130)甲陽ケミカル株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(391003130)甲陽ケミカル株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]