説明

試料採取容器および容器抽出・分析方法

【課題】
汚染の可能性が低く、簡単な操作でキャリア流体中から目的物質を吸着させることができる方法およびその方法で使用してもよい試料採取容器を提供すること。
【解決手段】
キャリア流体中に含まれる目的物質を吸着素子に吸着させ、吸着素子から目的物質を脱着させ、脱着した目的物質を分析する目的物質の抽出・分析方法であって、1.前記目的物質を吸着する吸着素子を試料採取容器の内面にコーティングすること、2.前記目的物質を含むキャリア流体を前記試料採取容器の内部に導入し、前記目的物質を含むキャリア流体を試料採取容器の内面に接触させ、前記目的物質を試料採取容器の吸着素子に吸着させること、および3.前記吸着素子に吸着した前記目的物質を試料採取容器内で脱着させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料採取容器、その容器を使用して液体または気体等の試料(以下、キャリア流体という。)中に含まれる目的物質を抽出・分析する方法に関する。とくに、有機成分の試料採取容器、その容器を使用してキャリア流体中に含まれる有機成分を抽出・分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、キャリア流体中に微量に含まれる各種化学物質を分析する方法として、それらキャリア流体中の各種化学物質を濃縮し、機器分析する方法が行われている。例えば、前記キャリア流体中に含まれる化学物質を選択的に溶解することができる有機溶媒を前記キャリア流体と接触させ、化学物質を濃縮する方法が行われているが、この方法は有機溶媒を揮散させるという点や作業性、効率性が良くないことなど幾つかの問題点が指摘されている。
【0003】
その点、有機溶媒の代わりに吸着剤を用いる技術の報告がある。例えば、ターゲットである目的物質を吸着剤に吸着させ、加熱により目的物質を気化させて吸着剤から脱着させ、その気化した成分を機器分析する技術の研究報告や、ターゲットである目的物質を吸着剤に吸着させ、ついで目的物質を含む分析用試料を調製後、当該分析用試料を機器分析する技術の研究報告がある。具体的には、ポリジメチルシロキサン等の高分子物質(高分子化合物あるいは高分子構造体ともいう。)からなる吸着剤は、脂溶性の化学物質と親和性が高いため、目的物質を含む水溶液等のキャリア流体中から、例えば、脂溶性の化学物質等の極性の低い化学物質を吸着させ、加熱により目的物質を気化させて吸着剤から脱着させ、機器分析する技術の報告がある(例えば、非特許文献1)。また、特許文献1では、試料採取容器に攪拌子と化学的に結合した前記吸着剤とキャリア流体を入れ、これを磁気攪拌器で攪拌することによって、キャリア流体中に含まれる目的物質をキャリア流体から吸着(抽出)し、ついで当該目的物質を吸着したエレメントを試料採取容器から取り出し、固相抽出装置内に供給し、加熱により吸着剤から目的物質を脱着させ、ガスクロマトグラフで分析することが示されている。さらに、特許文献2では、試料採取容器に金属片と化学的に結合した吸着剤とキャリア流体をいれ、接触させることにより、目的物質をキャリア流体から吸着(抽出)し、ついで当該目的物質を吸着したエレメントを試料採取容器から取り出し、加熱により吸着剤から目的物質を脱着させ、ガスクロマトグラフで測定することが示されている。また、特許文献3や4では、板状、柱状、中空の柱状、繊維状、多孔質状に成形した吸着剤をキャリア流体に接触させることにより、目的物質をキャリア流体から吸着(抽出)し、ついで、有機溶媒を添加し、吸着剤から目的物質を脱着させ、目的物質を含む分析用試料を調製後、当該分析用試料を機器分析する方法が示されている。特許文献5では、試料採取容器の蓋に吸着剤が被覆された小瓶を固定し、吸着剤をキャリア流体に接触させることにより、目的物質をキャリア流体から吸着(抽出)し、次いで固定された小瓶を試料採取容器の蓋から外し、小瓶用キャップで密閉する技術が示されている。
【0004】
上記特許文献1〜4の技術では、キャリア流体に吸着剤または吸着素子を接触させ、ターゲットである目的物質を吸着剤または吸着素子に吸着させる工程と、吸着された目的物質を吸着剤または吸着素子から脱着させる工程が必要であって、前記二つの工程はそれぞれ異なる装置内で行わなければならない。また、ピンセットなどを用いて、吸着剤がコーティングされたエレメントを試料採取容器から出し入れする必要がある。これらの点は、操作が煩雑であり、さらに、外部環境から分析対象物質が混入する危険性が増加すると考えられるので、汚染の原因になりやすいなどの問題点に繋がるのであり、更なる技術の改善が求められている。
また、特許文献5の技術は、あらかじめ吸着剤が被覆された小瓶を蓋に固定化する必要や、目的物質を吸着剤に吸着させた後、小瓶を蓋から取り外す操作等が必要であり、操作が煩雑であるだけでなく、これらの操作は自動化が困難であった。また、小瓶の外面は、キャリア流体に直接ふれてしまうため、外部環境から分析対象物質が混入する危険性が増加する可能性が高まることや、有害な化学物質を測定する場合、分析従事者が小瓶の外面に付着した有害な化学物質に暴露される危険性や、血液や尿といった生体試料の測定において、小瓶の外面に付着した生体試料によって、分析従事者に対するバイオハザードの危険性を高めることが問題であり、更なる技術の改善が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−298121号公報
【特許文献2】特開2003−254954号公報
【特許文献3】特開2007−268341号公報
【特許文献4】特開2007−271293号公報
【特許文献5】米国特許第7,087,437B2号明細書
【非特許文献1】Adsorption versus Absorption of Polychlorinated Biphenyls onto Solid-Phase Microextraction Coatings, Anal. Chem. 70, 1866-1869, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、かかる問題点や不都合を解消して、汚染の可能性が低く、簡単な操作でキャリア流体中から目的物質を吸着させることができる方法およびその方法で使用してもよい試料採取容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、下記のような手段を採用することにより解決することができる。すなわち、
(1)キャリア流体中に含まれる目的物質を吸着素子に吸着させ、吸着素子から目的物質を脱着させ、脱着した目的物質を分析する目的物質の抽出・分析方法であって、1.前記目的物質を吸着する吸着素子を試料採取容器の内面にコーティングすること、2.前記目的物質を含むキャリア流体を前記試料採取容器の内部に導入し、前記目的物質を含むキャリア流体を試料採取容器の内面に接触させ、前記目的物質を試料採取容器の吸着素子に吸着させること、および3.前記吸着素子に吸着した前記目的物質を試料採取容器内で脱着させることを特徴とする目的物質の抽出・分析方法、
(2)上記(1)のキャリア流体を導入する試料採取容器が蓋で密閉されている試料採取容器であって、蓋の開閉をすることなくキャリア流体を導入できる試料採取容器であることを特徴とする上記(1)記載の目的物質の抽出・分析方法、
(3)さらに、目的物質に応じた材質及び体積の吸着素子を選択することを特徴とする上記(1)または(2)記載の目的物質の抽出・分析方法、
【0008】
(4)内面の一部あるいは全部に吸着素子が被覆されたことを特徴とする試料採取容器、
(5)内面の一部あるいは全部に吸着素子が被覆されたことを特徴とする機器分析用試料採取容器、
(6)上記(4)または(5)のいずれかに記載の試料採取容器であって、二つ以上の試料採取容器が、相互に結合した試料採取容器、
(7)プレート状物に二つ以上の凹部を形成し、前記凹部の内面の一部あるいは全部に吸着素子が被覆され、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の目的物質の抽出・分析方法で使用することを特徴とする試料採取容器、
(8)吸着素子の材質が、高分子物質および/または無機物であることを特徴とする上記(4)〜(7)のいずれかに記載の試料採取容器、
(9)吸着素子の材質が、活性炭および/またはモノリス型シリカであることを特徴とする上記(4)〜(7)のいずれかに記載の試料採取容器、
(10)吸着素子に、抗体、アプタマー、酵素を含んだタンパク質、核酸から選ばれる少なくとも1種又は2種以上が含まれていることを特徴とする(4)〜(7)のいずれかに記載の試料採取容器、
(11)上記(4)〜(7)のいずれかに記載の試料採取容器であって、セプタムキャップ、キャップマット、および蓋としての機能を有する熱粘着シート(熱粘着シート製蓋ということもある)から選ばれる一つを備え付けていることを特徴とする試料採取容器、
(12)キャリア流体中に含まれる目的物質の抽出・分析方法において、上記(4)〜(7)のいずれかに記載の試料採取容器を使用することを特徴とする目的物質の抽出・分析方法、
(13)なお、上記(4)〜(6)のいずれかに記載の試料採取容器は、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の目的物質の抽出・分析方法で使用することを特徴とする試料採取容器でもある。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でのキャリア流体中に含まれる目的物質を抽出・分析する方法において、前記目的物質は特に制限されない。それら目的物質は通常他の化学物質と混合され、混合物として存在している場合が殆どである。それら目的物質の中では、好ましくは有機化合物であり、身近に存在する製品中に存在する有機化合物である。さらには、脂溶性の有機化合物が好ましい。これら有機化合物は複数の化合物が共存していてもよい。例えば、河川水中の農薬・環境ホルモン・ダイオキシン・PCBなど、血液や尿などの生体試料中のステロイドホルモン、代謝物、薬物などが挙げられるが、これらに何ら限定されない。
【0010】
前記吸着素子を構成する材料はターゲットである目的物質を吸着することができるのであれば、特に制限されないのであり、ターゲットである目的物質により変化させることが好ましい。また、ターゲットである目的物質と共存する物質に影響されない材料であることが好ましい。
前記吸着素子を構成する材料としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリアクリレート、ポリジビニルベンゼン、ポリジアルキルシロキサン、ポリアクリルアミドなどの有機樹脂、ポリジアルキルロキサンに他の官能基を導入したものを含めた有機シリコン系ポリマーなどで、その繰返し単位が20を超える高分子物質、ポリエチレングリコール、ポリアクリレート、ポリジビニルベンゼンなどで、その繰返し単位が5以上20以下のオリゴマー、モノリス型シリカ、ポリウレタン、二酸化珪素、ゼオライト、シリカゲル、酸化アルミニウムなどの無機組成物質あるいは活性炭などの単独またはこれらの混合物を例示できる。
本発明の吸着素子には、ターゲットである目的物質によっては、抗体、アプタマー、酵素などのバイオアフィニティー媒体であるタンパク質や核酸等を含ませておいてもよい。例えば、キャリア流体中に特定の抗原が含まれている場合、本発明の吸着素子に抗体を含ませておき、抗原―抗体反応を応用して前記キャリア流体中の抗原を吸着素子に吸着させることができる。アプタマー、酵素などのバイオアフィニティー媒体であるタンパク質や核酸等も同様であって、キャリア流体中に含まれている特定の化学物質と反応するアプタマー、酵素などのバイオアフィニティー媒体であるタンパク質や核酸等を選び出し、吸着素子中に含ませておくことにより、前記キャリア流体中に含まれている特定の化学物質を分析することが可能となる。吸着素子に上記抗体、アプタマー、酵素などのバイオアフィニティー媒体であるタンパク質や核酸等を含ませる手段・方法は特に制限されないのであり、最適な方法を適宜選択すればよい。
なお、吸着素子の体積が多いと吸着できる目的物質の絶対量が増加するし、吸着素子の表面積が広いと短時間で効率的に目的物質を吸着することができるので、必要に応じて吸着素子の体積や表面積を変動させればよい。
【0011】
これら吸着素子を本発明の試料採取容器の内面に被覆する方法は、吸着素子被膜が容器の内面に強固に付着または結合し、後の各種操作に耐えることができる程度に付着できる方法であれば特に制限されない。例えば、吸着素子を構成する素材を含む溶液あるいは分散液を調製し、次いで当該溶液あるいは分散液を試料採取容器の内面に塗布し、加熱乾燥して、吸着素子が容器の内面に被覆した試料採取容器を得ることができる。
【0012】
本発明での一つの特徴が、キャリア流体中に含まれる目的物質を吸着(抽出)するときに用いる試料採取容器にある。すなわち、試料採取容器の内面に前記目的物質の吸着(抽出)に適した材質及び形状の吸着素子をコーティングしておき、キャリア流体を試料採取容器の内部に取り込み、キャリア流体中に含まれる目的物質を前記吸着素子に吸着(抽出)させ、前記吸着素子から前記目的物質を脱着させることを一つの試料採取容器にて行うことができる。さらに、必要に応じて、分析装置への導入が可能な分析用試料を前記試料採取容器にて行うことができる。ここで、前記試料採取容器を試料調製容器ということができる。さらに、前記試料採取容器の蓋の部分を工夫することにより、蓋の開閉をすることなくキャリア流体の導入・排出、脱着溶媒の導入、さらに、分析用試料の分析装置への導入を可能とすることができる。例えば、前記蓋をセプタムキャップまたはキャップマットまたは熱粘着性シートにすることで、シリンジのみでキャリア流体の導入・排出、脱着溶媒の導入等を可能とすることができる。
さらに、大量のキャリア流体を用いることが必要な場合は、前記試料採取容器の容量や形状等を様々に変更すればよい。また、試料採取容器を結合させ、複数の試料採取容器を用いてもよい。複数の試料採取容器を作製する手段は特に制限されないのであるが、例えば試料採取容器を適当な接着剤で結合することが可能である。
これらの工夫により、キャリア流体の導入・排出、脱着溶媒の導入等の工程を全て自動的に行うことが可能である。さらに、前記工程に加えて、分析用試料の分析装置への導入工程を含めた工程を全て自動的に行うことが可能である。
本発明の試料採取容器は、キャリア流体の採取容器ということができるが、分析用試料調製容器ということもできるし、機器分析用試料調製容器ということもできる。
【0013】
前記試料採取容器の形状は、本発明の機能を果たす限り特に制限されない。具体的には、フラスコ状、円柱状などがあるが、これらに制限されない。前記容器の側面や底面も特に制限されない。前記試料採取容器の大きさも、測定するキャリア流体の量に応じて最適な大きさとすればよいのであって、特に制限されない、例えば、底面の半径が数mm〜数十cm程度で高さが1cm〜50cmの円柱状の容器を用いることができる。また、少量のキャリア流体から目的物質を吸着する場合は、インサートバイアルを用いることができる。このバイアルの容量は、例えば数百μl程度と非常に小さい。このインサートバイアルを用いるときは、インサートの内面に吸着素子を被覆して用いればよい。
前記試料採取容器は一つであってもよいが、複数の前記試料採取容器が相互に結合して平板状の多数の試料採取容器とすることもできる。
また、一枚のプレートに複数個の凹部を形成させ、試料採取容器が多数設けられたプレートとしてもよい。具体的には、縦8 cm程度、横 12.5 cm程度、高さ 1.5 cm程度のガラス製あるいはポリプロピレンやアクリル系重合体等のプラスチック製のプレートに2個以上、好ましくは96個の凹部(直径7 mm程度、高さ1.2 cm程度)を形成させ、その内面に吸着素子が被覆された試料採取容器を例示することができる。
【0014】
本発明の試料採取容器には蓋で密閉することが望ましい。蓋の形状、材質、容器への取り付け法、密閉する方法などは特に制限されない。例えば、スクリューキャップ、スナップキャップやセプタムキャップを使用することが好ましい。その中でもとくにセプタムキャップが好ましい。また、プレート状の試料採取容器の蓋には、キャップマットや熱粘着シートを用いることができる。これらキャップマットや熱粘着シートは市販されているので容易に入手できる。なお、前記蓋の内面の一部またはすべてにわたって、上記吸着素子で被覆されていてもよい。
【0015】
以下、本発明の目的物質の抽出・分析方法について説明する。
本発明の試料採取容器は目的物質の抽出・分析方法において使用される。前記抽出・分析方法は特に制限されないのであって、本発明の効果が保たれる限りどのような抽出・分析方法でも適用可能である。
【0016】
本発明の試料採取容器に導入されるキャリア流体は、目的物質を含む水溶液等の液体または気体である。前記液体や気体は特に制限されないが、好ましくは、水、河川水、下水、血清、血漿、尿等の液体、室内空気等の気体が挙げられる。
【0017】
前記キャリア流体を本発明の試料採取容器に導入する方法は特に制限されないが、外部環境から分析対象物質が混入しないように、前記キャリア流体を本発明の試料採取容器に導入する方法を選択することが好ましい。外部環境から分析対象物質が混入しないように導入する方法は特に制限されないが、例えば、試料採取容器の蓋の開閉を行わないで前記キャリア流体を本発明の試料採取容器に導入する方法が好ましい。より具体的には、試料採取容器の蓋としてセプタムキャップ、キャップマット、および熱粘着シート製蓋から選ばれる一つを使用した場合、シリンジを用いることで蓋の開閉を行わないで、キャリア流体を導入することができる。
キャリア流体が試料採取容器に導入された後、キャリア流体中の目的物質を吸着素子に吸着させるための条件は、吸着させる目的物質の物性、キャリア流体等により最適条件が異なるので一概に規定することができない。例えば、キャリア流体を本発明の試料採取容器に導入後、キャリア流体が吸着素子と接触し、キャリア流体中の目的物質が吸着素子に吸着されるよう、キャリア流体を撹拌することが好ましい。より具体的には試料採取容器を所定時間振とうすることが好ましい。試料採取容器を振とうする装置または器具としては、市販の振とう装置やボルテックスミキサーを用いればよく、試料採取容器の振とうを自動で行えるので、簡便である。また、当該容器を超音波処理してもよいし、それら超音波処理と撹拌操作を併用してもよい。
【0018】
キャリア流体中の目的物質を吸着素子に吸着処理した後、吸着素子から目的物質を脱着させる。前記目的物質の脱着手段・方法は特に制限されない。特に、液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィーなどの機器分析に用いられる分析用試料を得ることができるように、前記試料採取容器内部に有機溶媒を導入し、当該有機溶媒を吸着素子と接触させることが好ましい。また、加熱脱着装置を用いて、吸着素子から目的物質を気化させて、脱着させることもできる。ここで、有機溶媒を試料採取容器内部に導入する際、外部環境から分析対象物質が混入しないように、前記有機溶媒を本発明の試料採取容器(試料調製容器)に導入する方法を選択することが好ましい。外部環境から分析対象物質が混入しないように導入する方法は特に制限されないが、例えば、試料採取容器(試料調製容器)の蓋の開閉を行わないで前記有機溶媒を本発明の試料採取容器(試料調製容器)に導入する方法が好ましい。より具体的には、試料採取容器(試料調製容器)の蓋としてセプタムキャップまたはキャップマットまたは熱粘着性シートを使用した場合、シリンジを用いることで蓋の開閉を行わないで、有機溶媒を導入することができる。
なお、吸着素子から目的物質の脱着効率を高めるために、導入された有機溶媒を撹拌することが好ましい。より具体的には試料採取容器(試料調製容器)を所定時間振とうすることが好ましい。試料採取容器(試料調製容器)を振とうする装置または器具としては、上記と同様である。また、当該容器を超音波処理してもよいし、それら超音波処理と撹拌操作を併用してもよい。
前記有機溶媒としては、例えば、メタノールやアセトニトリルが好ましい。
上記吸着素子から目的物質を脱着する操作を試料採取容器内で行うことが本発明の一つの大きな特徴である。
なお、吸着素子から目的物質を脱着させる操作を行う前に、キャリア流体中の目的物質を吸着素子に吸着処理した試料採取容器から、当該キャリア流体を排除することが好ましい。ここで前記キャリア流体を排除する際には、外部環境から分析対象物質が混入しないように、前記キャリア流体を試料採取容器から排除する方法を選択することが好ましい。具体的な方法は、上記有機溶媒を試料採取容器内部に導入する方法とほぼ同様である。
【0019】
次いで、試料採取容器(試料調製容器)内にて調製された目的物質を含む分析用試料を分析する。目的物質を含む分析用試料を分析する手段は特に制限されない。本発明の効果が保たれる限りどのような抽出・分析方法でも適用可能である。より具体的には、メタノール、アセトニトリル等の有機溶媒を用いて目的物質を脱着させた後、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等の各種機器分析で測定する手法、目的物質を気化させ、気体に移行させた後、その気体をシリンジ等で回収し、ガスクロマトグラフィーで測定する加熱脱着法を例示することができる。
試料採取容器(試料調製容器)内にて調製された目的物質を含む分析用試料を、外部環境から分析対象物質が混入しないように分析することが本発明の一つの大きな特徴である。外部環境から分析対象物質が混入しないように分析する手段は特に制限されないが、例えば、試料採取容器(試料調製容器)の蓋の開閉を行わないで前記目的物質を含む分析用試料を、機器分析装置に直接供給し、分析処理することが好ましい。より具体的には、試料採取容器(試料調製容器)の蓋としてセプタムキャップ、キャップマット、および熱粘着シート製蓋から選ばれる一つを使用した場合、シリンジを用いることで蓋の開閉を行わないで、前記目的物質を含む分析用試料を、機器分析装置に直接供給し、分析処理することができる。
本発明で用いる機器分析法としては特に制限されないが、例えば、液体クロマトグラフィー法またはガスクロマトグラフィー法が好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、吸着装置の材質および体積の一方または両方を目的に応じて選択できるので、キャリア流体に含まれる目的物質の種類や量に応じた適切な分析法選択することができるし、後工程の分析における感度と精度を向上させることができる。また、本発明の試料採取容器により、キャリア流体の導入、目的物質の吸着、吸着された目的物質の脱着をひとつの容器内で操作することができる。しかも、本発明の目的物質の抽出・分析方法は煩雑ではなく、作業工程が少なく、汚染の危険性が回避できるという有利さがあり、極めて実用的である。とくに、密閉されている試料採取容器であって、蓋の開閉をすることなくキャリア流体を導入できる試料採取容器は、前記キャリア流体の排出、さらには有機溶媒の導入や排出も外部環境から分析対象物質が混入しないように操作することができ、しかもその操作も簡単であるので、非常に有利であり、実用的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明を説明する。図1は、本発明に係る試料採取容器の第一の形状を示す模式図である。また、図2は、第一の試料採取容器にキャリア流体を加えたときの模式図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の試料採取容器1は、ガラス製の試料採取容器2と前記容器2の内面の一部を被覆する吸着素子3とセプタムキャップ4とからなる。吸着素子3は、ポリメチルシリコン等の有機シリコン系ポリマーにより形成され、試料採取容器2の内面に被覆されている。
【0023】
図2に示すように、本実施形態の試料採取容器1にキャリア流体5を加える。キャリア流体5はシリンジ(図示していない)を用い、セプタムキャップ4から導入できる。
【0024】
また、吸着素子が被覆された試料採取容器の例を図3に示す。図3は本発明に係る吸着装置の他の形状を示す外観図であり、容器の形状は図1の容器とほぼ同じであるが、内面の吸着素子の形状が異なる例である。それぞれの製法は次のとおりである。
容器6及び9は、吸着素子を構成する材料の溶液を塗布し、加熱乾燥させて得た、吸着素子が被覆された試料採取容器の例である。容器7及び8は、吸着素子を構成する材料の溶液を塗布し、図に示されるような形状となるような鋳型を押し当て加熱乾燥させて得た、吸着素子が被覆された試料採取容器の例である。容器10及び11は、試料容器自体の底部のガラスが特殊な形状に成型してある試料採取容器に吸着素子を構成する材料の溶液を塗布し、加熱乾燥させて得た、吸着素子が被覆された試料採取容器の例である。
【0025】
図4の左図は、プレート状物に多数の凹部を形成した試料採取容器の外観図であり、図4の右図は、前記凹部の内面の一部あるいは全部に吸着素子が被覆された試料採取容器の外観図である。
【0026】
図4で示された試料採取容器は、次の製法により製造できる。
ガラス製の96穴プレート(市販)のそれぞれの穴に液状ポリジメチルシロキサン(東レダウコーニング社製 品番:SILPOT 184 W/C)を加え、60oC、2時間乾燥させ固定化させ、試料採取容器を得た。
【0027】
本発明による吸着装置の具体的な吸着手順について、目的物質の性質とその量が予め知られている試験液を用いる場合を例として説明する。なお、目的物質はプロゲステロンとした。
(1)吸着素子の材質の決定
目的物質に合わせて吸着素子の材質を決定する。ここでは、目的物質であるプロゲステロンの疎水性が比較的高いので、材質がポリジメチルシロキサンである吸着素子を選択した。
【0028】
(2)試料容器の内面へ吸着素子の被覆
試料採取容器の内面に吸着素子を被覆する。ここでは、前記容器として、高さ3.2 cm 、直径 1.1 cm、底面はほぼ平面であるガラス製円柱状容器を用いた。この容器の底面に液状ポリジメチルシロキサン(東レダウコーニング社製 品番:SILPOT 184 W/C)を塗布し、60oC、2時間加熱・乾燥し、ポリジメチルシロキサンを200μ1含む被膜を形成させた。
【0029】
(3)目的物質の吸着
キャリア流体を前記試料採取容器に加え、目的物質を吸着させる。ここでは、キャリア流体として、目的物質1.5μgを含んだ試験液1.5 mlをマイクロシリンジを用いて試料採取容器に導入し、10分間振とうした。
【0030】
(4)目的物質の分析およびその分析結果
上記の工程により吸着・濃縮させた目的物質を分析した結果について説明する。
(A)目的物質を吸着させた試料採取容器から、マイクロシリンジを用いてキャリア流体を取り除き、マイクロシリンジを用いてアセトニトリル50μ1を加えた。10分間振とうし、吸着素子から目的物質をアセトニトリル中に移行させた。
(B)次いで、前記試料採取容器からマイクロシリンジを用いてアセトニトリルを取り出し、当該アセトニトリルを下記高速液体クロマトグラフ装置に導入(注入)し、アセトニトリル中の目的物質を下記条件で分析した。
使用機器: 島津社製HPLC Prominence
使用カラム:野村化学製 Develosil C30 (2.1 mm × 25 cm)
各種条件: 移動相(水/アセトニトリル=50/50)、流速 0.2 ml/min、注入量 5 μl、カラムオーブン 40 oC、検出波長 UV 254 nm
未処理の前記試験液と容器抽出・分析方法を行った場合の測定結果を図5に示す。
【0031】
本発明の目的物質の容器抽出・分析方法を行った場合、約16倍の感度上昇が確認された。
以上説明したように、本発明は、煩雑ではなく簡単な工程により目的物質の容器抽出・分析方法が可能となったので、本発明により、汚染の可能性が低い分析の実施と、分析感度を向上させることができる。
【0032】
本発明を次のように記載することができる。
(1)キャリア流体中に含まれる目的物質の抽出・分析方法において、下記の工程1〜3を有することを特徴とする目的物質の抽出・分析方法、
1.前記目的物質を吸着する吸着素子を試料採取容器の内面にコーティングする工程
2.前記目的物質を含むキャリア流体を前記試料採取容器の内部に導入し、前記目的物質を含むキャリア流体を試料採取容器の内面に接触させ、前記目的物質を試料採取容器の吸着素子に吸着させる工程、
3.前記吸着素子に吸着した前記目的物質を試料採取容器内で脱着させる工程、
(2)キャリア流体を導入する試料採取容器が蓋で密閉されている試料採取容器であって、蓋の開閉をすることなくキャリア流体を導入できる試料採取容器であることを特徴とする上記(1)記載の目的物質の抽出・分析方法。
(3)さらに、目的物質に応じた材質及び体積の吸着素子を選択する工程を含むことを特徴とする上記(1)記載の目的物質の抽出・分析方法、
(4)吸着素子が内面の一部あるいは全部に被覆され、上記(1)〜(3)のいずれかに記載された目的物質の抽出・分析方法で使用することを特徴とする試料採取容器。
(5)二つ以上の上記(4)記載の試料採取容器が、相互に結合したことを特徴とする試料採取容器、
(6)プレート状物に二つ以上の凹部を形成し、前記凹部の内面の一部あるいは全部に吸着素子が被覆され、上記(1)〜(3)のいずれかに記載された目的物質の抽出・分析方法で使用することを特徴とする試料採取容器、
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態の試料採取容器の構成を示す模式図
【図2】図1の試料採取容器にキャリア流体を加えたときの模式図
【図3】本発明に係る試料採取容器の他の形状を示す模式面図
【図4】本発明に係るプレート状試料採取容器の構成を示す概略全体図(左)と、前記試料採取容器を構成する凹部の模式図(右)
【図5】図1の試料採取容器により調製された分析用試料の分析例を示すクロマトグラム及び未処理のクロマトグラム
【符号の説明】
【0034】
1 吸着素子を被覆した試料採取容器
2 試料採取容器
3 吸着素子
4 セプタムキャップ
5 キャリア流体
6 底面及び側面の一部が吸着素子で被覆された試料採取容器
7 円柱の空洞を有する吸着素子で被覆された試料採取容器
8 円錐の空洞を有する吸着素子で被覆された試料採取容器
9 底面が吸着素子で被覆された試料採取容器
10 底面が吸着素子で被覆された円柱の空洞を有する試料採取容器
11 底面が吸着素子で被覆された円錐の空洞を有する試料採取容器
12 プレート状の試料採取容器
13 プレート状の凹部
14 プロゲステロンのピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア流体中に含まれる目的物質を吸着素子に吸着させ、吸着素子から目的物質を脱着させ、脱着した目的物質を分析する目的物質の抽出・分析方法であって、1.前記目的物質を吸着する吸着素子を試料採取容器の内面にコーティングすること、2.前記目的物質を含むキャリア流体を前記試料採取容器の内部に導入し、前記目的物質を含むキャリア流体を試料採取容器の内面に接触させ、前記目的物質を試料採取容器の吸着素子に吸着させること、および3.前記吸着素子に吸着した前記目的物質を試料採取容器内で脱着させることを特徴とする目的物質の抽出・分析方法。
【請求項2】
請求項1のキャリア流体を導入する試料採取容器が蓋で密閉されている試料採取容器であって、蓋の開閉をすることなくキャリア流体を導入できる試料採取容器であることを特徴とする請求項1記載の目的物質の抽出・分析方法。
【請求項3】
さらに、目的物質に応じた材質及び体積の吸着素子を選択することを特徴とする請求項1または2記載の目的物質の抽出・分析方法。
【請求項4】
内面の一部あるいは全部に吸着素子が被覆されたことを特徴とする試料採取容器。
【請求項5】
内面の一部あるいは全部に吸着素子が被覆されたことを特徴とする機器分析用試料採取容器。
【請求項6】
請求項4または5のいずれかに記載の試料採取容器であって、二つ以上の試料採取容器が、相互に結合した試料採取容器。
【請求項7】
プレート状物に二つ以上の凹部を形成し、前記凹部の内面の一部あるいは全部に吸着素子が被覆され、目的物質の抽出・分析方法で使用することを特徴とする試料採取容器。
【請求項8】
吸着素子の材質が、高分子物質および/または無機物であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の試料採取容器。
【請求項9】
吸着素子の材質が、活性炭および/またはモノリス型シリカであることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の試料採取容器。
【請求項10】
吸着素子に、抗体、アプタマー、酵素を含んだタンパク質、核酸から選ばれる少なくとも1種又は2種以上が含まれていることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の試料採取容器。
【請求項11】
請求項4〜7のいずれかに記載の試料採取容器であって、セプタムキャップ、キャップマット、および熱粘着シート製蓋から選ばれる一つを備え付けていることを特徴とする試料採取容器。
【請求項12】
キャリア流体中に含まれる目的物質の抽出・分析方法において、請求項4〜7のいずれかに記載の試料採取容器を使用することを特徴とする目的物質の抽出・分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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