説明

認知機能予測システム

【課題】個々の認知症発症者の将来の認知機能を予測するシステムを提供する。
【解決手段】本発明の認知機能予測システム1は、通信回線50を介して接続された検査サーバ10と検査端末30とを含み、検査サーバ10が、多数の被検者についての過去の認知機能検査における検査得点と発症から検査日までの検査時間とを用いた非線型回帰分析により、個々の対象被検者の将来の検査得点を予測するための予測演算式を推定し、検査端末30が、得られた予測演算式に対象被検者の過去の検査結果と現在の検査結果を代入することによって予測演算式を実行し、対象被検者の将来の検査得点を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個々の認知症発症者の将来の認知機能を予測する認知機能予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
平均寿命が延びて高齢者が増加するにつれ、高齢者の介護、特に、いまや200万人を超えるとも言われている、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症等の認知症を発症した高齢者の介護の問題が社会的に重要になってきた。
【0003】
認知症は、基本的に治癒することがないと考えられているものの、ドネペジル塩酸塩(商品名アリセプト(登録商標)、エーザイ株式会社製)などのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤やその他の医薬の適切な使用により、或いは適切なリハビリテーションやトレーニングにより、認知症の進行を遅らせ、認知症発症者が自分らしさを発揮することができる時間、認知症発症者が家族と共に在る時間を長期化させることが可能である。従って、認知症が疑われる場合には、できるだけ早期に適切な認知機能評価を受けることが重要である。
【0004】
ところで、認知症を発症しているか、発症している認知症のレベルはどの程度であるか、或いは、認知症がどの程度進行しているか、などの知見を得るために、以下の表1に示すようなさまざまな認知機能検査が提案され、医師、臨床心理士、言語聴覚士等の医療従事者により従来から実施されてきた。
【表1】

【0005】
例えば、非特許文献1に示されているAlzheimer´s Disease Assessment Scale 日本版(以下、「ADAS−Jcog」と表す)は、特にアルツハイマー型認知症発症者の認知機能の経過観察を行うことを目的とした認知機能検査である。
【0006】
また、認知症発症者或いは認知症の発症が疑われる者に対してコンピュータを使用して認知機能検査を行う認知機能検査システムも提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、入力操作に応じて複数の知能検査項目のいずれかを指定する検査項目指定手段と、この検査項目指定手段が指定する知能検査項目に対応する知能検査問題及びその解答を発生する問題発生手段と、上記知能検査問題に対する回答操作に応じて上記解答を参照して採点すると共に、得点集計して評価結果を生成する得点評価手段とを具備する検査装置が開示されており、適用しうる知能検査として、「長谷川式簡易知能評価スケール」、「国立精研式痴呆スクリーニングテスト」のような質問形式の老人用痴呆尺度やアンケート形式の行動評価尺度及び精神症状評価尺度が例示されている。この検査装置により、簡便に痴呆傾向を判定することができる。この文献にはさらに、集計した得点を時系列に記憶する得点記憶手段を備え、この得点記憶手段から読み出した過去の得点と現在の得点とを比較して相対評価することも記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、同時に複数種類の判断を求め判断の正誤が客観的に判定される形式での回答を求める痴呆度検定チャートに対する被検者の回答を取得する回答取得部と、上記回答取得部で得られた回答に基づいて被検者の痴呆度を検定する痴呆度検定部とを備えた痴呆検査装置が開示されている。上記痴呆度検定チャートは、老人性痴呆の原因となっている前頭葉機能の低下を判断するためのものである。複数の被検者の検査結果は、通信回線を介してデータ蓄積用のサーバに送信され、送信された検査結果は、その被検者の経過観察や、多数の被検者に関する統計処理(実施形態では各年代別の平均値と分散を求める処理)のために利用されている。
【0009】
特許文献2にはさらに、同時に複数種類の判断を求め判断の正誤が客観的に判定される形式での回答を求める痴呆度検定チャートと、感性に関わる複数の質問と各質問ごとに用意された択一的に選択される複数の回答との組合せからなる痴呆要因度検定チャートとの双方に対する被検者の回答を取得する回答取得部と、上記回答取得部で得られた回答に基づいて被検者の現在の痴呆の程度を表わす痴呆度の検定と該被検者の将来の痴呆度の推移予測とを行なう痴呆度検定部とを備えた痴呆検査装置が記載されている。痴呆要因度検定チャートは、高齢になるにつれて右脳の活動が支配的になることに着目し、感性を司る右脳を日常的にどのように使っているか(使っていないか)を検定するためのものであり、「既婚男性」、「専業主婦」等に分類したグループ毎に、「日常生活と職場」、「日常生活と家事」等において脳をどれだけ活性化させているかが評価される。実施形態では、横軸を痴呆度検定チャートを用いた前頭葉機能テストの得点、縦軸を痴呆要因度検定チャートを用いた右脳活性度テストの得点とし、各年代(20代、30代、……、100代)の過去の多数の被検者の得点分布の最小二乗近似直線を表したグラフにおいて、ある被検者の検査結果をこの被検者が属する年代における最小二乗近似直線の上に表記することにより、被検者の現在の痴呆度の検定を行い、さらに、10年後、20年後にも右脳活性度テストの得点が変化しないと仮定し、10年後、20年後の年代の最小二乗近似直線において現在の右脳活性度テストの得点に対応する前頭葉機能テストの得点を読み取ることにより、この被検者の将来の痴呆度の推移予測を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−16072号公報
【特許文献2】特開2002−143096号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】老年精神医学雑誌,3(6),647−655,(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1及び特許文献2に示されているような、ある被検者の認知機能検査における過去の得点と現在の得点とを比較できる装置を使用すると、得点の比較から現在に至るまでの症状の減退や回復の度合いを判定することができ、例えば、現在までに服用した薬剤の有効性の判定などに利用することができる。しかしながら、この被検者の過去の得点と現在の得点とを比較しても、将来の認知機能を予測することはできない。一方、被検者の将来の認知機能を予測することができれば、この被検者の将来の状態変化に応じた医療、ケア、生活設計など様々な領域での有効な対応を検討することができる上に、被検者本人や介護をする家族の心の準備を促すことができるため、認知症発症者が自分らしさを発揮することができる時間、認知症発症者が家族と共に在る時間をより豊かにすることができる。さらに、投薬等の加療の有無による将来の認知機能の相違を予測することができれば、加療の予測される有効性を知ることもでき、より効果的な加療につなげることもできる。
【0013】
特許文献2には被検者の将来の痴呆度の推移予測を行なう装置が示されているものの、将来の認知機能の予測を右脳活性度テストの得点が将来にわたって変化しないことを前提としており、認知症発症者における認知症発症からの時間経過に伴う認知機能の推移が考慮されていない。また、右脳活性度テストの得点が将来にわたって変化しないという前提の妥当性が疑われる。さらに、この装置では、被検者の現在までの認知機能の減退或いは認知症発症から加療までの経過時間等の被検者に固有の情報が活用された将来の予測を行うことは困難である。
【0014】
そこで、本発明の目的は、個々の認知症発症者についての将来の認知機能をより的確に予測することができ、その被検者に固有の情報を活用した将来の認知機能の予測を行うこともできる認知機能予測システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成する本発明の認知機能予測システムは、通信回線を介して接続された検査サーバと検査端末とを含み、上記検査端末が、認知症を発症している被検者についての認知症発症時期と認知機能検査における検査日及び検査得点とを取得する検査結果取得部と、該検査結果取得部で取得された被検者の認知症発症時期と認知機能検査における検査日及び検査得点とを上記検査サーバに送信する検査結果送信部と、を備え、上記検査サーバが、上記検査端末から送信された被検者の認知症発症時期と認知機能検査における検査日及び検査得点とを受信する検査結果受信部と、多数の被検者についての認知症発症時期と認知機能検査における検査日及び検査得点とを被検者毎に記憶している検査結果記憶部と、を備えている、上記検査端末の検査結果取得部により現在の検査得点を取得された対象被検者の将来の検査得点を予測するための認知機能予測システムであって、上記検査サーバが、上記検査結果記憶部に記憶されている多数の被検者についての過去の認知機能検査における検査得点と発症から検査日までの経過時間とを用いた非線型回帰分析により、上記対象被検者の将来の検査得点を予測するための予測演算式を推定する予測演算式推定部と、該予測演算式推定部で推定された予測演算式を記憶する予測演算式記憶部と、該予測演算式記憶部に記憶された予測演算式を上記検査端末に送信する予測データ送信部と、をさらに備えており、上記検査端末が、上記検査サーバから送信された予測演算式を受信する予測データ受信部と、該予測データ受信部が受信した予測演算式に上記対象被検者の現在の検査得点を当てはめて上記対象被検者の将来の検査得点を生成する予測結果生成部と、該予測結果生成部で生成された上記対象被検者の将来の検査得点を表示する予測結果表示部と、をさらに備えていることを特徴とする。
【0016】
「対象被検者」とは、将来の認知機能を予測する対象となる個々の被検者を意味し、本発明の認知機能予測システムでは、対象被検者についての現在の認知機能検査が終了した直後に、対象被検者の将来の認知機能が予測される。そして、対象被検者の将来の認知機能は、多数の被検者の認知機能検査の検査得点と発症から検査日までの経過時間とから予測される。非線型回帰分析のためのデータを提供する被検者の数、すなわち、「多数」の意味は、非線型回帰分析のために十分な数であれば良いが、多いほど予測誤差が小さく精度の良い予測演算式が推定されるため好ましい。本発明のシステムは、いわゆるサーバ・クライアント方式のシステムであるため、検査サーバと多数の検査端末とを通信回線を介して接続することにより、多数の被検者のデータを迅速に収集することができ、したがって対象被検者の将来の認知機能の予測の精度を迅速に向上させることができる。そして、本発明のシステムでは、認知症発症者における認知機能の推移を参照して将来の認知機能を予測するため、特許文献2の装置と比較して、より的確な将来の認知機能の予測が可能となる。
【0017】
予測演算式の推定のための非線型回帰分析は、検査サーバの検査結果記憶部に記憶されている被検者全員のデータを対象として行っても良いが、一部の被検者のデータを対象として行うこともできる。特に、多数の被検者についての認知機能の推移を解析した結果、例えば、所定期間における検査得点の変化率が脳血管障害既往のある被検者とない被検者で大きな違いが認められた場合には、対象被検者と同じ脳血管障害既往を有する被検者のデータを対象として非線型回帰分析を行うと、対象被検者の将来の認知機能の予測をより的確に行うことができる。
【0018】
したがって、本発明の認知機能予測システムにおける好適な形態では、上記検査端末における検査結果取得部が、認知機能検査の検査日における被検者の年齢、性別、教育歴、介護者、認知症発症時年齢、認知症発症から抗認知症薬服用までの経過時間、服用している抗認知症薬の種類と量、及び既往歴からなる群から選択された少なくとも1つを認知機能に影響を与えうる影響因子として取得し、上記検査端末における検査結果送信部が上記検査結果取得部により取得された影響因子を含めて送信し、上記検査サーバにおける検査結果受信部が上記影響因子を含めて受信し、上記検査サーバにおける検査結果記憶部が、被検者毎に、上記影響因子を含めて記憶し、上記予測演算式推定部が、記憶された上記影響因子の少なくとも1つが上記対象被検者と同じである被検者を選択し、該被検者についての過去の認知機能検査における検査得点と発症から検査日までの経過時間とを用いた非線型回帰分析により、上記対象被検者の将来の検査得点を予測するための予測演算式を推定する。この形態のシステムにより、対象被検者に固有の情報を活用した将来の認知機能の予測を行うことが可能となる。
【0019】
本発明の認知機能予測システムにおける予測演算式の推定のための非線型回帰分析手法には厳密な限定はないが、上記検査サーバの予測演算式推定部が、上記検査結果記憶部に記憶されている多数の被検者についての過去の認知機能検査における検査得点と発症から検査日までの経過時間とを用いたスプライン非線型回帰分析により、上記対象被検者の将来の検査得点を予測するための予測演算式を推定し、上記検査サーバの予測データ送信部が、上記検査結果記憶部に記憶された上記対象被検者についての過去の認知機能検査日における検査得点を含めて送信し、上記検査端末の予測データ受信部が、上記対象被検者についての過去の認知機能検査日における検査得点を含めて受信し、上記検査端末の予測結果生成部が、上記予測演算式に上記対象被検者についての過去の認知機能検査日における検査得点と現在の検査得点とを当てはめて上記予測演算式を実行することにより、上記対象被検者の将来の検査得点を生成するのが好ましい。この非線型回帰分析手法により、対象被検者における現在までの認知機能推移を利用した予測が可能となる。
【0020】
認知症は、「一旦正常に発達した知的機能が、後天的な脳の病気により、持続的に低下し、日常生活(社会生活)に支障を生じた状態」と定義されるが、本発明の認知機能予測システムでは対象被検者の将来の認知機能の予測を将来の検査得点の予測という形態で検査端末に表示するため、将来の対象被検者の状態が検査端末の使用者である医療従事者、被検者或いは介護者に十分に理解されないことがある。そこで、本発明の認知機能予測システムにおける好適な形態では、上記検査端末における検査結果取得部が被検者の日常生活機能を評価するための複数の質問に対する介護者からの択一的な回答をさらに取得し、上記検査端末における検査結果送信部が上記検査結果取得部により取得された回答を含めて送信し、上記検査サーバにおける検査結果受信部が上記回答を含めて受信し、上記検査サーバにおける検査結果記憶部が上記回答を含めて記憶し、上記検査サーバが、上記検査結果記憶部に記憶された検査得点と前記回答とを用いて検査得点と日常生活機能との相関関係を求める相関関係分析部と、該相関関係分析部により求められた検査得点と日常生活機能との相関関係と上記質問に対応する日常生活機能が低下した被検者に対するコメントとを記憶する相関関係記憶部とをさらに備えており、上記検査サーバにおける予測データ送信部が上記相関関係記憶部に記憶された上記相関関係と上記コメントとを含めて送信し、上記検査端末における予測データ受信部が上記相関関係と上記コメントとを含めて受信し、上記検査端末における予測結果生成部が上記相関関係と上記コメントとを参照して上記対象被検者の将来の検査得点と相関する日常生活機能に対応するコメントを抽出し、上記検査端末における予測結果表示部が上記予測結果生成部により抽出されたコメントを将来予測される日常生活機能低下に対するコメントとして表示する。
【0021】
被検者の日常生活機能を評価するための複数の質問は、例えば、「大きな買い物や請求書の支払いを一人ですることができますか」、「新しい場所に一人で行くことができますか」のような形式で被検者の介護者に示され、このような質問に対する介護者の回答が「できる」、「できない」のいずれかにより取得される。
【0022】
そして、検査サーバの相関関係分析部が、認知機能検査の検査得点とこの検査得点取得時の回答とを参照し、例えば、検査得点がa1点になったら「大きな買い物や請求書の支払いを一人ですることができなくなる」という相関を見出したら、検査端末における予測結果表示部が、対象被検者の将来の検査得点がa1になれば、将来予測される日常生活機能低下に対するコメントとして、「大きな買い物や請求書の支払いを一人ですることが難しくなりますので注意してください」と表示する。このコメントは、低下した日常機能の状態を示すコメントの他、注意事項、日常生活機能維持のためのトレーニング方法、日常生活機能維持のために推奨される生活リズム等のアドバイスを含んでいても良い。
【0023】
この表示により、被検者本人や介護をする家族の心の準備を促すことができ、また医療従事者も日常生活機能の状態に応じたアドバイスを行うことができる。また、認知症の発症時期の特定は、被検者又は介護者にとって難しい場合があるが、認知症の発症初期に日常生活機能の低下が認められる評価項目が相関関係分析部により特定されれば、その項目に対応する質問を介護者に行うことにより発症時期が特定されやすくなる。さらに、被検者又は介護者へのインタビューにより発症時期が既に特定されている場合にも、発症初期に日常生活機能の低下が認められる評価項目に対応する質問を再度介護者に対して行い、得られた回答が当初のインタビューにおけるものと異なる場合には、上記検査サーバの検査結果記憶部に記憶された発症時期のデータを新たに得られたものに修正することにより、発症時期の特定のばらつきを抑制することができるため、結果的に対象被検者の将来の検査得点の予測の精度を向上させることができる。
【0024】
本発明の認知機能予測システムでは、個々の被検者の将来の検査得点が予測されるが、個々の被検者の将来の認知機能の予測ばかりでなく、多くの認知症発症者における認知機能低下の傾向がわかると、認知症発症からの時間経過に伴う認知機能の推移が客観的に把握されるデータが提供されることになり、この客観的に把握されるデータにより、被検者本人や介護をする家族の心の準備を促すことができ、医療従事者も適切なアドバイスを行うことが可能になるため好ましい。
【0025】
したがって、本発明の認知機能予測システムにおける好適な形態では、上記検査サーバが、上記検査結果記憶部に記憶された多数の被検者についての検査得点と発症から検査日までの経過時間との非線型回帰分析により発症からの経過時間と検査得点との関係を算出する認知機能推移分析部と、該認知機能推移分析部により算出された発症からの経過時間と検査得点との関係を上記検査端末に送信する分析結果送信部とをさらに備えており、上記検査端末が、上記検査サーバから送信された発症からの経過時間と検査得点との関係を受信する分析結果受信部と、該分析結果受信部が受信した発症からの経過時間と検査得点との関係を表示する分析結果表示部とをさらに備えている。認知機能推移分析部における非線型回帰分析は、検査サーバの検査結果記憶部に記憶されている被検者全員のデータを対象としても良く、一部の被検者のデータを対象としても良い。認知機能推移分析部における非線型回帰分析手法にも厳密な限定はなく、予測演算式推定部における非線型回帰分析手法と同一であっても異なっていても良い。この形態の認知機能予測システムにより、認知機能の推移を客観的に知るデータが視覚的に提供される。また、例えば、検査サーバの認知機能推移分析部が投薬等の加療を行っている被検者の群と加療を行っていない被検者の群とに分けて発症からの経過時間と検査得点との関係を算出すれば、加療の有効性を視覚的に確認することができ、検査サーバの認知機能推移分析部が発症時年齢の異なる被検者の群毎に発症からの経過時間と検査得点との関係を算出すれば、発症時年齢の認知機能推移に対する影響を視覚的に確認することができる。
【0026】
本発明の認知機能予測システムにおいて用いられる認知機能検査には、表1に示した認知機能検査など、認知機能を評価可能な検査であれば特に限定はなく、また、本発明のシステムはサーバ・クライアント方式のシステムであるため、新規な認知機能検査或いは新規なテスト項目の追加などのバージョンアップも容易であるが、認知機能の推移を予測するシステムであるため、ADAS−Jcog等の認知症経過観察のために特に設計された検査を用いるのが好ましい。
【0027】
本発明の認知機能予測システムにおいて、検査端末の検査結果取得部で取得される各被検者の認知機能検査の検査得点等のデータは、例えば、検査端末の使用者により検査結果取得部に直接入力されても良いが、検査端末を用いて認知機能検査を行うようにすると、多数の被検者に対する認知機能検査とデータの取得を簡便且つ迅速に行うことができるため好ましい。
【0028】
したがって、本発明の認知機能予測システムにおける好適な形態では、上記検査サーバが、上記認知機能検査における被検者の応答の評価方法を含む検査情報と上記認知機能検査における被検者の応答を点数に変換するための点数データとを記憶する検査内容記憶部と、該検査内容記憶部に記憶された検査情報と点数データとを上記検査端末に送信する検査内容送信部とをさらに備えており、上記検査端末が、上記検査サーバから送信された検査情報と点数データとを受信する検査内容受信部と、該検査内容受信部が受信した検査情報を表示する検査内容表示部とをさらに備えており、上記検査端末における検査結果取得部が、上記検査内容表示部に表示された検査情報に従ってなされた認知機能検査における被検者の応答結果を上記検査内容受信部が受信した点数データに基づいて採点し、得られた採点結果を検査得点として取得する。上述した被検者の日常生活機能を評価するための複数の質問も、検査内容記憶部に記憶しておき、検査内容送信部、検査内容受信部、検査内容表示部を介して介護者に質問事項を提供し、検査結果取得部がこの質問に対する介護者の択一的な回答を取得するようにしても良い。
【0029】
認知機能検査は、医師、臨床心理士、言語聴覚士等の医療従事者により精確に行われるべきであるが、認知機能検査に熟練した医療従事者は驚くほど少なく、同じ検査であっても医療従事者の習熟度に依存して評価結果が大きくばらつくという問題がある。この問題を解決すべく、出願人は、本出願時には未公開である特願2009−113223号明細書において、医療従事者が使用する医療従事者端末と、この端末と通信回線を介して接続された検査支援サーバとを含む、医療従事者による認知症検査を支援するシステムを提案している。このシステムでは、実施される認知症検査に含まれるテスト項目毎に、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、及びテストにおける被検者の応答の評価方法を含む検査情報が検査支援サーバから医療従事者端末に示され、医療従事者が示された検査情報に従って認知症検査を実施するだけで、被検者に対する認知症検査の結果を得ることができる。そのため、実施される認知症検査について十分な知識を有していない医療従事者であっても、或いは、初めて認知症検査を行う医療従事者であっても、示された検査情報を基にして簡単に精確な検査を実施することができ、誰が検査を行っても均一な検査結果を得ることができ、医療従事者の習熟度に依存して検査結果がばらつくことがない。
【0030】
本発明の認知機能予測システムにおいても、上記検査サーバの検査内容記憶部に記憶された検査情報が、上記認知機能検査に含まれるテスト項目毎の、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、及びテストにおける被検者の応答の評価方法を含み、上記検査端末における検査結果取得部が、上記検査内容表示部に表示された検査情報に従って医療従事者により評価された上記認知機能検査に含まれるテスト項目毎の被検者の応答結果を上記検査内容受信部が受信した点数データに基づいて採点し、得られた採点結果を検査得点として取得すると、実施される認知機能検査について十分な知識を有していない医療従事者であっても、或いは、初めて上記認知機能検査を行う医療従事者であっても、示された検査情報を基にして簡単に精確な検査を実施することができ、誰が検査を行っても均一な検査結果を得ることができ、医療従事者の習熟度に依存して検査結果がばらつくことがないため、個々の被検者に対してばらつきのない検査得点が得られ、結果的に対象被検者の将来の検査得点の予測の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の認知機能予測システムでは、多数の被検者についての認知機能検査の検査得点の推移を利用することによって対象被検者の将来の検査得点が予測されるため、個々の認知症発症者についての将来の認知機能を的確に予測することができ、対象被検者に固有の情報を活用した将来の認知機能の予測を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態の認知機能予測システムの構成の概略を示す図である。
【図2】図1に示す認知機能予測システムの機能ブロック図である。
【図3】各被検者についての認知機能検査と日常生活機能評価とを行うプロセスを示すフローチャートである。
【図4】初めて認知機能検査を受検する被検者の基本情報を取得するための表示である。
【図5】各被検者の基本情報を追加・更新するための表示である。
【図6】「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」のテストに対する事前知識を提供する表示である。
【図7】「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」のテストに対する注意事項を提供する表示である。
【図8】「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」のテストにおいて医療従事者がなすべき質問及び被検者の応答の評価方法を指定した表示である。
【図9】被検者の日常生活機能評価のための質問と介護者による回答とを示す図である。
【図10】各被検者の検査結果を記憶するデータテーブルを概念的に示す図である。
【図11】多数の被検者における検査得点と発症からの経過時間との関係を得るプロセスを示すフローチャートである。
【図12】検査得点と発症からの経過時間との関係を示す表示である。
【図13】対象被検者の認知機能及び日常生活機能の予測を行うプロセスを示すフローチャートである。
【図14】被検者の日常生活機能を評価するための質問に対応するコメント及び質問に対応する日常生活機能と相関する検査得点を記憶するデータテーブルを概念的に示す図である。
【図15】対象被検者についての将来の認知機能の予測を示す表示である。
【図16】将来予測される日常生活機能低下に対するコメントを認知機能の予測と共に示す表示である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の認知機能予測システムは、被検者の認知機能検査のための検査端末と、この検査端末と通信回線を介して接続され、個々の被検者の将来の認知機能を予測するためのさまざまな情報を検査端末に提供する検査サーバとを含む。以下、検査端末を医療従事者が使用し、認知機能検査としてADAS−Jcogを用い、日常生活機能を同時に評価する場合を例として本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変更が可能である。
【0034】
まず、ADAS−cogの日本版に該当するADAS−Jcogについて説明する。基礎となるADAS−cogは、アルツハイマー型認知症(AD)発症者を対象としたコリン作動薬による認知機能の変化を評価することを目的として提案された認知機能検査尺度であり、「口語言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」、「単語再生」、「口頭命令に従う」、「手指及び物品呼称」、「構成行為」、「観念運動」、「見当識」、「単語再認」、「テスト教示の再生能力」の11個のテスト項目を含んでいる。ADAS−Jcogは、ADAS−cogとほぼ等価であるが、「単語再生」、「単語再認」、「(手指及び)物品呼称」における単語として日本の高齢者の口頭言語に用いられる使用頻度の高い単語を採用することにより日本人の評価をより適正に行うことができるように改善された検査尺度である。
【0035】
「口頭言語能力」テストとは、言葉の明瞭さ、自分の言うことを他人にわからせるなど、被検者の発語の質的側面を評価するテストであり、全体の会話における不明瞭な発語或いは意味不明な発語の割合を評価する。「言語の聴覚的理解」テストとは、医療従事者から話された言葉を被検者が理解する能力を評価するテストであり、了解障害の頻度を評価する。「自発話における喚語困難」テストとは、被検者の自発話において言うべき言葉がでてくるかを評価するテストであり、喚語障害の頻度を評価する。
【0036】
「単語再生」テストとは、医療従事者が被検者に対してカードに書かれた単語10個を1個ずつ提示して読ませた後、被検者に読んだ単語の中で覚えているものを回答させるテストであり、3回同じテストを繰り返し、平均不正解数を評価する。「口頭命令に従う」テストとは、医療従事者が「こぶしを握ってください」、「天井を指差し、次に床を指差してください」、「目を閉じたまま2本の指で両方の肩を二度ずつたたいてください」、「鉛筆を白い紙の上に置き、次に元に戻してください」、「時計を鉛筆の反対側に置き、白い紙を裏返してください」という5段階の動作を順に口頭で被検者に指示し、被検者がそれを実行する能力を通じて口頭言語の聴覚的理解力を評価するテストであり、被検者が実行できなかった命令数を評価する。
【0037】
「手指及び物品呼称」テストとは、被検者の利き手の5指の名前及びランダムに被検者に示される12個の物品の名前を被検者にたずね、不正解数を評価するテストである。12個の物品は、日常生活における出現頻度に応じて、4個の高頻度物品(イス、自転車、はさみ、カナヅチ)、4個の中頻度物品(つめきり、くし、そろばん、筆)、及び4個の低頻度物品(ハンカチ、手帳、指輪、扇子)で構成されている。「構成行為」テストとは、円、2つの重なった長方形、ひし形、立方体からなる図形を被検者が模写する能力を評価するテストであり、模写できなかった図形数を評価する。「観念運動」テストとは、被検者に便箋、封筒、及び切手を与え、手紙を出すことを想定して、便箋を折りたたみ、便箋を封筒に入れ、封筒に封をし、封筒にあて名を書き、封筒に切手を貼る動作ができるかを評価するテストであり、できなかった動作数を評価する。
【0038】
「見当識」テストとは、年、月、日、曜日、時間、季節、場所、人物の8項目について被検者にたずね、不正解の項目数を評価するテストである。「単語再認」テストとは、具体的な単語が1語ずつ書かれた12枚のカードを医療従事者が被検者に提示して声を出して読ませ、次に、被検者が見ていない新たな単語の書かれたカード12枚を混ぜた計24枚のカードを被検者に1枚ずつランダムに提示し、最初に提示した単語か否かを被検者に識別させ、不正解数を評価するテストであり、3回同じテストを繰り返し、平均不正解数を評価する。「テスト教示の再生能力」とは、単語再認テストにおける医療従事者の被検者に対する教示を被検者が覚えているかどうかを評価するテストであり、教示を忘れた回数を評価する。
【0039】
ADAS−Jcogの得点は、年齢及び教育年数を反映せず、これらに関係なくADの重症度を評価することができ、さらに、検査を繰り返した際のADAS−Jcogの得点の推移によって、ADの進行の度合い並びに加療の効果を確認することができるため、大変有用な検査である。
【0040】
被検者の日常生活機能を評価するための複数の質問は、ICF(International Classification of Functioning,Disability and Health(国際生活機能分類))の中から、認知機能低下との相関が予想される項目を抽出して作成することができ、また、現存する日常生活動作評価スケール、例えば、Instrumental Activities of Daily Living Scale(IADL)、Disability Assessment for Dementia(DAD)、Alzheimer´s Disease Cooperative Study ADL Scale(ADCS−ADL)、Physical Self−Maintenanse Scale(PSMS)、N式老年者用日常生活動作能力評価尺度(N−ADL)の中から、認知機能との相関が予想される項目を抽出して作成することができる。日常生活機能評価のための質問の例としては、「大きな買い物や請求書の支払いを一人ですることができますか」、「新しい場所に一人で行くことができますか」、「人との約束事はきちんとできていますか」、「日常的な買い物を一人ですることはできますか」、「クーラーのリモコンを使うことができますか」、「テレビのリモコンを操作することができますか」、「簡単な献立を作ることができますか」、「介助なしで食事をとることができますか」、「トイレに間に合わないことがありますか」、「自分で服を選んで着替えられますか」、「自分で日常のお金の管理をすることができますか」、「自由に会話をすることができますか」などが挙げられる。
【0041】
図1は、本実施の形態の認知機能予測システムの構成の概略を示している。本発明の認知機能予測システム1は、検査サーバ10と、タッチパネル式ディスプレーを備えた多くの検査端末30とを含み、検査サーバ10と検査端末30とはインターネット等の通信回線50により接続されている。検査端末30は、病院等に配置されており、医療従事者がこの端末30を見ながら認知機能検査を行う。また、本実施形態はサーバ・クライアント方式のシステムであり、検査サーバ10から検査端末30に提供されるアプリケーションソフトにより、検査端末30が以下の機能を有する端末として動作するようになる。
【0042】
図2は、図1に示す検査サーバ10、検査端末30、通信回線50から構成される認知機能予測システム1の機能ブロック図である。理解の容易のため、検査端末30は1台のみを示している。
【0043】
認知機能予測システム1を構成する検査サーバ10は、検査内容記憶部11、検査内容送信部12、検査結果受信部13、検査結果記憶部14、認知機能推移分析部15、分析結果送信部16、予測演算式推定部17、予測演算式記憶部18、相関関係分析部19、相関関係記憶部20、及び予測データ送信部21から構成されている。
【0044】
検査内容記憶部11は、上述したADAS−Jcogに含まれる11個のテスト項目について、テスト毎に、テストを実施するための事前知識、すなわち、このテストにおいて被検者のなにを評価すべきであり何を評価すべきでないかなどの具体的内容;テストの実施における注意事項、すなわち、誤ったテストの実施を防止するための具体的な指示内容;テストの実施において医療従事者がなすべき言動、すなわち、テストにおいて被検者に何を質問すべきか、被検者に何を指示すべきか、被検者に何を見せるべきかなどの医療従事者の言動に対する具体的な指定内容;及びテストにおける被検者の応答の評価方法、すなわち、医療従事者からの質問に対する回答が正解であれば「〇」を、不正解であれば「×」を評価結果として入力するなどの具体的な指定内容;を検査情報として記憶し、さらに、ADAS−Jcogにおける被検者の応答を点数に変換するための点数データと、上述した被検者の日常生活機能を評価するための複数の質問を記憶するものである。
【0045】
検査内容送信部12は、検査内容記憶部11に検査情報として記憶されている、ADAS−Jcogに含まれる11個のテスト項目のそれぞれのテストに関する、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、及びテストにおける被検者の応答の評価方法から成る検査情報と、ADAS−Jcogにおける被検者の応答を点数に変換するための点数データとを、上述した被検者の日常生活機能を評価するための複数の質問と共に、検査端末30に対して送信するものである。
【0046】
検査結果受信部13は、医療従事者が上記検査情報に従ってADAS−Jcogを実施した過程で得られた医療従事者による被検者の応答に対する評価緒果を点数データに従って採点した検査得点(ADAS−Jcogの総得点)と、この検査得点が得られた日(検査日)と、上述した被検者の日常生活機能を評価するための複数の質問に対する介護者の回答とを、検査端末30から受信するものである。検査結果受信部13はさらに、個々の被検者に固有の基本情報として、被検者を特定するための識別番号、氏名、年齢、性別、教育歴、介護者の有無、存在する場合には介護者、認知症発症時期、投薬の有無、投薬が認められる場合には服用している抗認知症薬の種類と量、認知症発症から抗認知症薬服用までの経過時間、既往歴の有無、脳血管障害の有無、及び精神疾患の有無を検査端末30から受信するものである。検査結果記憶部14は、被検者毎に、検査結果受信部13により受信された、その被検者の基本情報と、認知機能検査日における検査得点及び日常生活機能を評価するための複数の質問に対する回答とを、検査日に対応させて記憶するものである。
【0047】
認知機能推移分析部15は、認知症発症者の母集団における認知機能の推移、すなわち、発症からの経過時間と検査得点の関係を分析するものであり、検査結果記憶部14に記憶された多数の被検者についてのデータのうち、被検者の認知症発症時期、認知機能検査日の検査得点、及び、基本情報に含まれる認知機能への影響因子(例:発症時年齢、発症から加療までの経過時間)を読み出し、発症からの経過時間(=検査日−発症時期)を算出し、発症からの経過時間と検査得点の関係をスプライン回帰により推定し、これを記憶するものである。分析結果送信部16は、認知機能推移分析部15により推定された、多くの被検者における発症からの経過時間と検査得点との関係を読み出して、これを検査端末30に送信するものである。
【0048】
予測演算式推定部17は、検査結果記憶部14に記憶された多数の被検者についてのデータのうち、認知症発症時期、過去の認知機能検査日の検査得点、及び、基本情報に含まれる認知機能への影響因子を読み出し、発症からの経過時間(=検査日−発症時期)を算出し、スプライン回帰モデルによる非線型回帰分析を実施して、予測演算式を推定するものである。予測演算式記憶部18は、予測演算式推定部17により推定された予測演算式を記憶するものである。
【0049】
相関関係分析部19は、検査結果記憶部14に記憶された多数の被検者についてのデータのうち、検査得点と、その検査得点が得られた検査日における日常生活機能を評価するための複数の質問に対する回答とを読み出し、検査得点と日常生活機能との相関関係を求めるものである。相関関係記憶部20は、相関関係分析部19により求められた検査得点と日常生活機能との相関関係を、上記質問に対応する日常生活機能が低下した被検者に対するコメントとともに記憶するものである。予測データ送信部21は、検査結果記憶部14に記憶された多数の被検者についてのデータのうち、将来の認知機能を予測する対象被検者についての過去の認知機能検査日の検査得点を読み出し、読み出したデータを、予測演算式記憶部18から読み出した予測演算式、及び相関関係記憶部20から読み出した検査得点と日常生活機能との相関関係及び上記コメントと共に検査端末30に送信するものである。
【0050】
検査端末30は、検査内容受信部31、検査内容表示部32、検査結果取得部33、検査結果送信部34、分析結果受信部35、分析結果表示部36、予測データ受信部37、予測結果生成部38、及び、予測結果表示部39から構成されている。
【0051】
検査内容受信部31は、検査サーバ10の検査内容送信部12から送信された、被検者の日常生活機能を評価するための複数の質問と、ADAS−Jcogに含まれる11個のテスト項目のそれぞれのテストに関する、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、及び、テストにおける被検者の応答の評価方法から成る検査情報とを、ADAS−Jcogにおける被検者の応答を点数に変換するための点数データと共に受信するものである。
【0052】
検査内容表示部32は、検査内容受信部32で受信した、ADAS−Jcogに含まれる11個のテスト項目のそれぞれのテストに関する、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、及び、テストにおける被検者の応答の評価方法から成る検査情報を、検査の進行に従って順次表示すると共に、被検者の日常生活機能を評価するための複数の質問を表示するものである。
【0053】
検査結果取得部33は、個々の被検者に固有の基本情報として、被検者を特定するための識別番号、氏名、年齢、性別、教育歴、介護者の有無、介護者が存在する場合にはその介護者、AD発症時期、投薬の有無、投薬が認められる場合には服用している抗認知症薬の種類と量、AD発症から抗認知症薬服用までの経過時間、既往歴の有無、脳血管障害の有無、及び精神疾患の有無を取得し、また、医療従事者が上記検査情報に従って検査を実施した過程で得られた医療従事者による被検者の応答に対する評価結果を受け付け、検査内容受信部31が受信した被検者の応答を点数に変換するための点数データに従って採点し、採点結果(ADAS−Jcogの総得点)を検査得点として検査日と共に取得し、さらに、被検者の日常生活機能を評価するための複数の質問に対する介護者の「できる」、「できない」の選択肢から択一的に選択した回答を取得するものである。検査結果送信部34は、検査結果取得部33が取得した、被検者の基本情報、検査日と検査得点、及び、日常生活機能を評価するための複数の質問に対する回答を、検査サーバ10に送信するものである。
【0054】
分析結果受信部35は、検査サーバ10の認知機能推移分析部15により分析された発症からの経過時間と検査得点の関係を検査サーバ10から受信するものであり、分析結果表示部36は、受信した発症からの経過時間と検査得点の関係を表示するものである。予測データ受信部37は、予測演算式推定部17により推定された予測演算式と、将来の認知機能を予測する対象被検者についての過去の認知機能検査日の検査得点と、相関関係分析部19により求められた検査得点と日常生活機能との相関関係及び日常生活機能が低下した被検者に対するコメントを、検査サーバ30から受信するものである。
【0055】
予測結果生成部38は、予測データ受信部37が受信した予測演算式に、予測データ受信部37が受信した対象被検者についての過去の認知機能検査日における検査得点と、検査結果取得部33が取得した対象被検者の現在の検査得点及び影響因子と、を当てはめて将来の対象被検者の検査得点の予測と誤差範囲とを生成すると共に、予測データ受信部37が受信した検査得点と日常生活機能との相関関係及び日常生活機能が低下した被検者に対するコメントを参照し、対象被検者の将来の検査得点と相関する日常生活機能に対応するコメントを、将来予測される日常生活機能低下に対するコメントとして抽出するものである。予測結果表示部39は、予測結果生成部38により生成された、対象被検者についての将来の検査得点の予測と誤差範囲を、同様に予測結果生成部38により抽出された将来予測される日常生活機能低下に対するコメントと共に表示するものである。
【0056】
次に、本実施の形態の認知機能予測システム1における具体的な処理について説明する。
【0057】
(1)基本情報、認知機能検査の検査結果、及び、日常生活機能の評価結果の取得
図3は、各被検者についての基本情報と、検査日における認知機能検査の検査得点と日常生活機能の評価結果と、を取得するプロセスを示したフローチャートである。
【0058】
ADAS−Jcogの実施を予定している医療従事者が、認知機能予測システム1の検査端末30を起動させ、通信回線50を介して検査サーバ10にアクセスする(S1)と、検査サーバ10の検査内容記憶部11に記憶されている、被検者の日常生活機能の低下を評価するための複数の質問、及び、ADAS−Jcogの11個のテスト項目の各テストに関する、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、及びテストにおける被検者の応答の評価方法からなる検査情報が、ADAS−Jcogにおける被検者の応答を点数に変換するための点数データと共に、検査サーバ10の検査内容送信部12から送信され(S2)、検査端未30の検査内容受信部31に受信される(S3)。
【0059】
本実施の形態の認知機能予測システム1では、まず、被検者の基本情報が、検査結果取得部33として機能するタッチパネル式ディスプレーを介して取得される。図4は、初めてADAS−Jcogの検査を受検する被検者の基本情報を取得するための、タッチパネル式ディスプレーの画面表示を示している。基本情報として、被検者を特定するための識別番号、氏名、年齢、性別、教育歴、介護者の有無、介護者が存在する場合にはその介護者、AD発症時期、投薬の有無、投薬が認められる場合には投薬開始日と服用している抗認知症薬の種類と量、既往歴の有無、脳血管障害の有無、及び精神疾患の有無が取得される。年齢及び教育年数は自動的に算出される。基本情報のうち、性別、年齢、AD発症時期、教育歴、介護者、投薬開始日、抗認知症薬の種類と量、既往歴の有無、脳血管障害の有無、精神疾患の有無に関する情報は、認知機能に対して影響を与えうる影響因子として取得される。カルテ番号は、この被検者に対する識別番号として扱われる。AD発症時期が不確定の場合には、「夏頃」、「冬頃」のような形態でデータが入力される。脳血管障害、精神疾患に関しては、代表的な疾患例が明示され、疾患の有無を的確に入力できるようになっている。図5は、過去にADAS−Jcogを受検したことのある被検者の基本情報を追加・更新するための画面を示している。図4に示す基本情報のうち、時間の経過と共に変化しうる基本情報のみが入力されるようになっている。図4、図5における左右の枠内の記載は、各項目において選択しうる選択肢を便宜的に示したものである。医療従事者は、画面を見ながら被検者又は介護者から基本情報を聞き取り、該当部分に聞き取り結果を入力する。
【0060】
本実施の形態の認知機能予測システム1では、ADAS−Jcogを用いた認知機能検査が、日常生活機能評価に先立って実施され、検査内容受信部31に受信された検査情報が、検査内容表示部32としても機能するタッチパネル式ディスプレーに、検査の進行に従って順次表示される。
【0061】
ADAS−Jcogでは、まず、「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」の3項目のテストが同時に実施されるが、これら3つのテストは、医療従事者と被検者との自由会話を通して評価される。これらのテストにおける自由会話のために、「体調」、「気分」、「視聴覚」、「利き手」、「趣味」、「生活歴」、「現在の生活」、「検査当日」に関する質問が、合計で18個用意されており、18個の質問の中の5〜8個の質問により、被検者の「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」が評価される。
【0062】
図6〜図8は、「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」のテストを実施するための、検査端末30の検査内容表示部32及び検査結果取得部33として機能するタッチパネル式ディスプレーの画面表示を示している。図6の上部が事前知識の表示(S5)であり、図7の上部が注意事項の表示(S6)であり、図8の上部がこれらのテストにおいて医療従事者が被検者に対して質問すべき質問の表示(S7)であり、下部が評価方法の表示(S8)と医療従事者による評価結果の入力部とを兼ねた表示である。
【0063】
図8の画面表示例の上部には、「体調はいかがですか?」という質問と、「どこか痛いところはないですか?」という質問が示されており、「体調はいかがですか?」の表示の前に「2008/10/21」の日付が示されている。この表示は2008年10月21日に同じ被検者に対して行った過去の検査において、「体調はいかがですか?」という質問をしたことを示している。「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」のテストでは、同一の被検者に対する繰り返しの検査で原則として同じ質問をすべきであるため、予め質問が選択されて表示されている。この選択は、図4、図5の基本情報取得画面に入力された被検者の識別番号と、検査サーバ10の検査結果記憶部14に記憶された過去の検査結果とを参照して行われる。
【0064】
医療従事者は、このタッチパネル式ディスプレーの画面表示を見ながら、「口頭言語能力」、「言語の聴覚的理解」、「自発話における喚語困難」のテストのための事前知識を得、注意事項を確認し、ディスプレーに示された質問を行うことによりテストを実施する。例えば医療従事者が質問しても被検者が無言であれば、医療従事者がタッチパネル式ディスプレーの「無言」の表示部分(図8下部参照)に触れることにより、「無言」の評価結果が検査結果取得部33に受け付けられる(S9)。次いで、「単語再生」、「口頭命令に従う」、「手指及び物品呼称」、「構成行為」、「観念運動」、「見当識」、「単語再認」、「テスト教示の再生能力」の各テストが同様に実施され、一連のテストが終了した後(S10)、各テストにおける評価結果が、検査内容受信部31に受信された点数データを参照して採点され、各テストの点数を合計した総得点が検査得点として取得される(S11)
【0065】
本実施の形態の認知機能予測システム1では、ADAS−Jcogによる認知機能検査の後、被検者の日常生活機能の評価が行われる。図9は、被検者の日常生活機能を評価するための、検査端末30の検査内容表示部32及び検査結果取得部33として機能するタッチパネル式ディスプレーの画面表示を示している。医療従事者は、画面を見ながら、「日常的な買い物を一人ですることができますか」、「クーラーのリモコンを操作することができますか」などの画面に表示された質問を介護者に行い、これらの質問に対する「できる」、「できない」から選択された回答を該当部分に入力する(S12)。
【0066】
上述の工程において得られた被検者のADAS−Jcogの検査得点及び日常生活機能を評価するための質問に対する回答は、検査端末30の検査結果送信部34から送信され(S13)、検査サーバ10の検査結果受信部13に受信され(S14)、検査結果記憶部14に被検者毎に記憶される(S15)。図10は、検査結果記憶部14に記憶されている被検者毎のデータテーブルを示している。被検者毎に、時間の経過に依存しない基本情報としての識別番号、氏名、性別、生年月日、AD発症時期、及び教育歴に加えて、時間の経過に依存して変化しうる基本情報としての投薬開始/変更の有無、使用薬剤の種類と量、介護者、既往歴の有無、脳血管障害の有無、精神疾患の有無と、ADAS−Jcogの検査得点と、日常生活機能を評価するための各質問に対する回答とが、検査日に対応させて記憶されている。なお、AD発症時期が不確定で「夏頃」、「冬頃」のような形態でデータが取得された場合には、各季節における中間月がデータテーブルに記憶される。
【0067】
(2)認知機能推移分析
図11は、多くの被検者における検査得点と発症からの経過時間との関係を得るプロセスを示すフローチャートである。以下、検査得点と発症からの経過時間との関係に対する認知症発症から抗認知症薬服用までの経過時間の影響を調査することを例として説明するが、非線型回帰分析の対象とするデータを提供する被検者の群を、年齢別、性別、脳血管障害既往のある被検者とない被検者等、様々に変更することにより、検査得点と発症からの経過時間との関係に対する様々な因子の影響を調査することができる。
【0068】
検査サーバ10の認知機能推移分析部15は、検査結果記憶部14に記憶されている多くの被検者のデータから、AD発症時期及び投薬開始時期に関するデータを読み出し(S101)、AD発症から抗認知症薬服用までの経過時間(=投薬開始時期−発症時期)を算出し、多くの被検者を、発症から3年後に投薬を開始した被検者の群、発症から5年後に投薬を開始した被検者の群、及び、発症から10年後に投薬を開始した被検者の群に分別する。認知機能推移分析部15はさらに、各群に属する被検者についての過去の認知機能検査における検査日と検査得点を読み出し(S101)、発症から検査日までの経過時間(=検査日−発症時期)を計算し(102)、非線型回帰分析を実施して、発症からの経過時間と検査得点の関係を分析し(S103)、得られた結果を記憶する(S104)。
【0069】
本実施の形態の認知機能推移システム1では、認知機能推移分析部15による非線型回帰分析は、スプライン回帰により行われる。
【0070】
本実施の形態の認知機能推移システム1では、発症からの経過時間(x)と検査得点(y)について得られた観測の組(x,y)(i=1,・・・・,n)に対し、非線型回帰モデル
【数1】

をあてはめる場合、f(x)として以下の式で表される2次スプライン関数を仮定する。
【数2】

ここで、Zは、予め定められた影響因子(説明変数)を含むベクトルであり、βは、未知の回帰係数である。s,・・・・,sはスプラインの節点であり、(x−sは、x>sならばx−s、x≦sならば0を返す関数である。そして、f(x)は、以下の損失関数を最小にするような回帰係数δ,δ,δ,a,・・,a,βを既存の最適化ルーチンを用いて探索することにより得られる。
【数3】

ここで、λは平滑化パラメータである。誤差範囲は、既存の手法を用いてf(x)+βZの95%信頼区間を計算することにより得られる。
【0071】
認知機能推移分析部15による非線型回帰分析の結果得られた認知機能推移曲線は、分析結果送信部16に送られ、分析結果送信部16から検査端末30に向けて送信され(S105)、検査端末30の分析結果受信部35によって受信され(S106)、受信された認知機能推移曲線が分析結果表示部36としても機能するタッチパネル式ディスプレーの画面に表示される(S107)。図12は、得られた認知機能推移曲線を表示しているタッチパネル式ディスプレーの画面表示であり、発症から3年後に投薬を開始した被検者の群、発症から5年後に投薬を開始した被検者の群、及び、発症から10年後に投薬を開始した被検者の群のそれぞれに対して得られた認知機能推移曲線が示されている。
【0072】
(3)将来の認知機能と日常生活機能の予測
図13は、対象被検者の認知機能及び日常生活機能の予測を行うプロセスを示すフローチャートである。このプロセスは、対象被検者の現在の認知機能検査が行われた直後に実施される。
【0073】
検査サーバ10の予測演算式推定部17は、検査結果記憶部14に格納されている多くの被検者のデータから、AD発症時期、影響因子、及び過去の認知機能検査日における検査得点からなるデータを読み出し(S201)、発症から検査日までの経過時間(=検査日−発症時期)を計算し(S202)、各被検者の影響因子を含むスプライン回帰分析を実施して、予測演算式を推定する(S203)。
【0074】
本実施の形態の認知機能予測システム1における予測演算式を推定するためのスプライン回帰では、予測演算式g(X,・・・,X,t,Z)は、以下の線形式で表される。
【数4】

ここで、Yは対象被検者の将来の検査得点であり、X,・・・,Xは今回及び過去K−1回の検査日(発症時期から(検査日−発症時期)だけ経過した時点)の検査得点であり、tは発症からの経過時間とする。Zは、予め定められた影響因子(説明変数)を含むベクトルである。βは、被検者の過去の認知機能検査日の検査得点と影響因子とから推定される未知の回帰係数である。f(x)(k=1,・・・,K+1)は、被検者の過去の認知機能検査日の検査得点と影響因子とから推定される未知の関数である。
(x)としては以下に示す2次スプライン関数が用いられる。
【数5】

ここで、κk0,・・・・,κkLは合計L+1箇所のスプライン関数の節点である。αko,・・・,αkLは、被検者についての過去の認知機能検査日の検査得点と影響因子から推定される未知の回帰係数である。(x−κklは、x>κklならばx−κkl、x≦κklならば0を返す関数である。
【0075】
スプライン回帰では、予測演算式は、被検者の過去の認知機能検査日の検査得点と影響因子から、以下の方法で推定される。Yijを、対象者iの時点j(発症からの経過時点j)の認知検査の得点とし、Xij1,・・・,XijKを、対象者iの時点jの過去K回の認知検査の得点とする。tijを、対象者iの時点jの発症からの経過時間とする。Zijを、対象者iの時点jの影響因子を含むベクトルとする。予測演算式は、以下の損失関数を最小にするようなαk0,・・・,αkL,βを既存の最適化ルーチンを用いて探索することにより得られる。
【数6】

ここで、λは平滑化パラメータである。誤差範囲は、既存の手法を用いてg(X,・・・,X,t,Z)の95%信頼区間又は95%予測区間を計算することにより得られる。
【0076】
予測演算式推定部17により推定された予測演算式は、予測演算式記憶部18に記憶される(S204)。
【0077】
一方、検査サーバ10の相関関係分析部19は、検査結果記憶部14に格納されている多くの被検者のデータから、過去の認知機能検査日における検査得点と日常生活機能を評価するための質問に対する回答を読み出し、検査得点と日常生活機能との相関関係を求める(S205)。具体的には、ある検査得点が得られたときに各質問に対して「できない」と回答した回答数を算出する。そして、例えば、図9に示された質問1の「大きな買い物や請求書の支払いを一人ですることができますか」という質問に対し、検査得点がa1点を境に「できない」という回答の数が急激に増加した場合には、検査得点a1と質問1に対応する日常生活機能とを対応づけ、質問2の「新しい場所に一人で行くことができますか」という質問に対し、検査得点がa2点を境に「できない」という回答の数が急激に増加した場合には、検査得点a2と質問2に対応する日常生活機能とを対応づける。
【0078】
相関関係分析部19により求められた日常生活機能と検査得点との相関関係は、それぞれの質問に対応するコメントが予め記憶されたデータテーブルを有する相関関係記憶部20に記憶される(S206)。図14は、図9に示された質問の番号と、各質問に対応するコメントと、各質問に対応する日常生活機能に対応づけられた検査得点と、を記憶したデータテーブルを概念的に示す図である。
【0079】
予測演算式記憶部18に記憶された予測演算式と、相関関係記憶部20に記憶された検査得点と日常生活機能との相関関係及び上記コメントは、予測データ送信部21から検査端末30に向けて、検査結果記憶部14から読み出した対象被検者の過去の認知機能検査日の検査得点と共に送信され(S207)、検査端末30の予測データ受信部37によってこれらのデータが受信される(S208)。
【0080】
検査端末30の予測結果生成部38は、予測データ受信部37が受信したデータに基づき、まず対象被検者の将来予測される検査点数と誤差範囲とを生成する(S209)。具体的には、予測演算式
【数7】

に、受信した対象被検者の過去の認知機能検査日における検査得点と、検査結果取得部33により取得された現在の検査得点及び影響因子を含むベクトルとを当てはめ、予測結果を生成する。
【0081】
予測結果生成部38はまた、予測データ受信部37が受信したデータに基づいて、予測された検査得点と相関する日常生活機能に対応するコメントを抽出する(S209)。例えば、対象被検者における現在の検査得点がaであり、a<a9<a10<a11(ADAS−Jcogでは得点が増加するほど認知機能が低下)であれば、検査得点a9に対して「日常的なお金の管理が難しくなるので注意してください」とのコメントを抽出し、検査得点a10に対して「トイレに間に合わない頻度が増えてくるので留意してください」とのコメントを抽出し、検査得点a11に対して「会話が苦手になってくるので工夫が必要です」とのコメントを抽出する(図14参照)。
【0082】
予測結果生成部38における生成結果は、予測結果表示部39としても機能するタッチパネル式ディスプレーの画面に表示される(S210)。図15は、対象被検者の将来の認知機能検査における検査得点の予測と誤差範囲とを、服薬の有無を影響因子として算出した結果を表示した表示画面をしており、図16は、将来予測される日常生活機能低下に対するコメントを含めて表示した表示画面を示している。
【0083】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明の認知機能予測システムは、ADAS−Jcogばかりでなく、表1に示した認知機能検査を用いても良く、認知機能検査の総得点を検査得点とするだけでなく、それぞれの認知機能検査に含まれるテスト項目毎の点数を検査得点としても良い。また、非線型回帰分析手法も上述の実施形態のものに限定されない。例えば、図12に例示したような発症からの経過時間と検査得点との関係を表わす認知機能推移曲線(予測演算式)を得、この認知機能推移曲線に対象被検者における現在の検査得点を当てはめ、認知機能の低下につれて検査得点が大きくなる認知機能検査を使用した場合には、現在の検査得点がaであれば、認知機能推移曲線のうちの検査得点がaより大きくなる領域の部分を対象被検者の将来の認知機能の予測として表示することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の認知機能予測システムは、個々の認知症発症者についての将来の認知機能を予測するために好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 認知機能予測システム
10 検査サーバ
11 検査内容記憶部
12 検査内容送信部
13 検査結果受信部
14 検査結果記憶部
15 認知機能推移分析部
16 分析結果送信部
17 予測演算式推定部
18 予測演算式記憶部
19 相関関係分析部
20 相関関係記憶部
21 予測データ送信部
30 検査端末
31 検査内容受信部
32 検査内容表示部
33 検査結果取得都
34 検査結果送信部
35 分析結果受信部
36 分析結果表示部
37 予測データ受信部
38 予測結果生成部
39 予測結果表示部
50 通信回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信回線を介して接続された検査サーバと検査端末とを含み、
前記検査端末が、認知症を発症している被検者についての認知症発症時期と認知機能検査における検査日及び検査得点とを取得する検査結果取得部と、該検査結果取得部で取得された被検者の認知症発症時期と認知機能検査における検査日及び検査得点とを前記検査サーバに送信する検査結果送信部と、を備え、
前記検査サーバが、前記検査端末から送信された被検者の認知症発症時期と認知機能検査における検査日及び検査得点とを受信する検査結果受信部と、多数の被検者についての認知症発症時期と認知機能検査における検査日及び検査得点とを被検者毎に記憶している検査結果記憶部と、を備えている、
前記検査端末の検査結果取得部により現在の検査得点を取得された対象被検者の将来の検査得点を予測するための認知機能予測システムであって、
前記検査サーバが、
前記検査結果記憶部に記憶されている多数の被検者についての過去の認知機能検査における検査得点と発症から検査日までの経過時間とを用いた非線型回帰分析により、前記対象被検者の将来の検査得点を予測するための予測演算式を推定する予測演算式推定部と、
該予測演算式推定部で推定された予測演算式を記憶する予測演算式記憶部と、
該予測演算式記憶部に記憶された予測演算式を前記検査端末に送信する予測データ送信部と、
をさらに備えており、
前記検査端末が、
前記検査サーバから送信された予測演算式を受信する予測データ受信部と、
該予測データ受信部が受信した予測演算式に前記対象被検者の現在の検査得点を当てはめて前記対象被検者の将来の検査得点を生成する予測結果生成部と、
該予測結果生成部で生成された前記対象被検者の将来の検査得点を表示する予測結果表示部と、
をさらに備えている、
ことを特徴とする認知機能予測システム。
【請求項2】
前記検査端末における検査結果取得部が、認知機能検査の検査日における被検者の年齢、性別、教育歴、介護者、認知症発症時年齢、認知症発症から抗認知症薬服用までの経過時間、服用している抗認知症薬の種類と量、及び脳血管障害又は精神疾患の既往歴からなる群から選択された少なくとも1つを、認知機能に影響を与えうる影響因子として取得し、
前記検査端末における検査結果送信部が、前記検査結果取得部により取得された影響因子を含めて送信し、
前記検査サーバにおける検査結果受信部が、前記影響因子を含めて受信し、
前記検査サーバにおける検査結果記憶部が、被検者毎に、前記影響因子を含めて記憶し、
前記予測演算式推定部が、記憶された前記影響因子の少なくとも1つが前記対象被検者と同じである被検者を選択し、選択された被検者についての過去の認知機能検査における検査得点と発症から検査日までの経過時間とを用いた非線型回帰分析により、前記対象被検者の将来の検査得点を予測するための予測演算式を推定する、請求項1に記載の認知機能予測システム。
【請求項3】
前記検査サーバの予測演算式推定部が、前記検査結果記憶部に記憶されている多数の被検者についての過去の認知機能検査における検査得点と発症から検査日までの経過時間とを用いたスプライン非線型回帰分析により、前記対象被検者の将来の検査得点を予測するための予測演算式を推定し、
前記検査サーバの予測データ送信部が、前記検査結果記憶部に記憶された前記対象被検者についての過去の認知機能検査日における検査得点を含めて送信し、
前記検査端末の予測データ受信部が、前記対象被検者についての過去の認知機能検査日における検査得点を含めて受信し、
前記検査端末の予測結果生成部が、前記予測演算式に前記対象被検者についての過去の認知機能検査日における検査得点と現在の検査得点とを当てはめて前記予測演算式を実行することにより、前記対象被検者の将来の検査得点を生成する、請求項1又は2に記載の認知機能予測システム。
【請求項4】
前記検査端末における検査結果取得部が、被検者の日常生活機能を評価するための複数の質問に対する介護者からの択一的な回答をさらに取得し、
前記検査端末における検査結果送信部が、前記検査結果取得部により取得された回答を含めて送信し、
前記検査サーバにおける検査結果受信部が、前記回答を含めて受信し、
前記検査サーバにおける検査結果記憶部が、前記回答を含めて記憶し、
前記検査サーバが、
前記検査結果記憶部に記憶された検査得点と前記回答とを用いて検査得点と日常生活機能との相関関係を求める相関関係分析部と、
該相関関係分析部により求められた検査得点と日常生活機能との相関関係と、前記質問に対応する日常生活機能が低下した被検者に対するコメントと、を記憶する相関関係記憶部と、
をさらに備えており、
前記検査サーバにおける予測データ送信部が、前記相関関係記憶部に記憶された前記相関関係と前記コメントとを含めて送信し、
前記検査端末における予測データ受信部が、前記相関関係と前記コメントとを含めて受信し、
前記検査端末における予測結果生成部が、前記相関関係と前記コメントとを参照し、前記対象被検者の将来の検査得点と相関する日常生活機能に対応するコメントを抽出し、
前記検査端末における予測結果表示部が、前記予測結果生成部により抽出されたコメントを将来予測される日常生活機能低下に対するコメントとして表示する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の認知機能予測システム。
【請求項5】
前記検査サーバが、
前記検査結果記憶部に記憶された多数の被検者についての検査得点と発症から検査日までの経過時間との非線型回帰分析により、発症からの経過時間と検査得点との関係を算出する認知機能推移分析部と、
該認知機能推移分析部により算出された発症からの経過時間と検査得点との関係を前記検査端末に送信する分析結果送信部と、
をさらに備えており、
前記検査端末が、
前記検査サーバから送信された発症からの経過時間と検査得点との関係を受信する分析結果受信部と、
該分析結果受信部が受信した発症からの経過時間と検査得点との関係を表示する分析結果表示部と、
をさらに備えている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の認知機能予測システム。
【請求項6】
前記認知機能検査がADAS−Jcogである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の認知機能予測システム。
【請求項7】
前記検査サーバが、
前記認知機能検査における被検者の応答の評価方法を含む検査情報と、前記認知機能検査における被検者の応答を点数に変換するための点数データと、を記憶する検査内容記憶部と、
該検査内容記憶部に記憶された検査情報と点数データとを前記検査端末に送信する検査内容送信部と、
をさらに備えており、
前記検査端末が、
前記検査サーバから送信された検査情報と点数データとを受信する検査内容受信部と、
該検査内容受信部が受信した検査情報を表示する検査内容表示部と、
をさらに備えており、
前記検査端末における検査結果取得部が、前記検査内容表示部に表示された検査情報に従ってなされた認知機能検査における被検者の応答結果を、前記検査内容受信部が受信した点数データに基づいて採点し、得られた採点結果を検査得点として取得する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の認知機能予測システム。
【請求項8】
前記検査サーバの検査内容記憶部に記憶された検査情報が、前記認知機能検査に含まれるテスト項目毎の、テストを実施するための事前知識、テストの実施における注意事項、テストの実施において医療従事者がなすべき言動、及びテストにおける被検者の応答の評価方法を含み、
前記検査端末における検査結果取得部が、前記検査内容表示部に表示された検査情報に従って医療従事者により評価された前記認知機能検査に含まれるテスト項目毎の被検者の応答結果を、前記検査内容受信部が受信した点数データに基づいて採点し、得られた採点結果を検査得点として取得する、請求項7に記載の認知機能予測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−105795(P2012−105795A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256471(P2010−256471)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【特許番号】特許第4662509号(P4662509)
【特許公報発行日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(505023261)日本テクト株式会社 (5)