説明

誘導加熱式タンディッシュ及びその補修方法

【課題】中空耐火物の溶鋼接触面に付着する付着物を従来よりも低減し、しかも付着物の除去が容易であり、長期間に渡って安定した鋳造を可能にする誘導加熱式タンディッシュ及びその補修方法を提供する。
【解決手段】溶鋼流路11を形成する中空耐火物12が底部13に設けられ誘導加熱手段を備える堰14により、注湯される溶鋼15を受ける受鋼部16と、溶鋼流路11で加熱された溶鋼17を鋳型18へ流す溶鋼排出部19を形成した誘導加熱式タンディッシュ10において、中空耐火物12の溶鋼接触面22側にCaO成分含有耐火材23、24を有し、このCaO成分と溶鋼15中のAl23成分で低融点化合物を形成し、溶鋼接触面22への付着物の付着を抑制する。この補修方法は、溶鋼流路11に溶鋼15を流して鋳造を行った後、耐火材23、24に水をかけて溶鋼接触面22の付着物を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼の連続鋳造に使用する誘導加熱式タンディッシュ及びその補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図4に示すように、取鍋80内の溶鋼をタンディッシュ81へ供給した後、この溶鋼を連続的に鋳型82へ排出しながら凝固させ、鋳片83を製造している。
このタンディッシュ81は、溶鋼流路84を形成する円筒状の中空耐火物85が設けられ誘導加熱手段を備える堰86により、取鍋80から注湯される溶鋼を受けるための受鋼部87と、受鋼部87から溶鋼流路84を介して誘導加熱されながら流れ込む溶鋼を鋳型82へ流すための溶鋼排出部88が形成されている。
このような堰86を設けることで、受鋼部87内で発生する湯面変動を溶鋼排出部88へ伝えることなく、溶鋼流路84を流れる溶鋼を効率的に加熱でき、溶鋼の必要な温度を確保しながら、溶鋼排出部88内に形成される上昇流により溶鋼中の介在物を上昇除去する効果を促進できる。
【0003】
しかし、タンディッシュ81の中空耐火物85の溶鋼接触面89には、例えば、Al23系介在物又は地金のような付着物(閉塞物ともいう)90が付着又は堆積し易く、溶鋼流路84が狭くなって溶鋼の流れが悪くなり、安定した鋳造を実施できなくなる恐れがある。
そこで、例えば、特許文献1には、中空耐火物の溶鋼接触面に付着した閉塞物を、高温燃焼フレームで溶融除去した後、中空耐火物を交換することなく再使用する補修方法が開示されている。
また、特許文献2には、中空耐火物内の溶鋼流のレイノルズ数(Re)が、2×105以上になるように、中空耐火物の内径を設定すると共に、中空耐火物の溶鋼入口外周部より不活性ガスを吹き込む方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−300112号公報
【特許文献2】特開平8−1289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法は、閉塞物を除去するために高温燃焼フレームを用いることから、閉塞物を十分に溶削することができず、閉塞物の溶融時に中空耐火物も酸化して溶損し、例えば、中空耐火物の寿命の低下又は溶鋼漏れのトラブルを招く原因となる問題がある。
また、特許文献2の方法では、不活性ガスの吹込みを溶鋼入口外周部のみから行うため、溶鋼流路の閉塞発生領域の閉塞を抑制、更には防止することができず、例えば、溶鋼流路の閉塞により鋳造が中止されたり、又はピンチ力の発生により溶鋼を加熱できなくなる。このように、溶鋼を加熱できなくなることで、溶鋼の温度低下が生じるだけでなく、溶鋼の熱対流が弱くなり、介在物の浮上効果が損なわれるため、清浄度の向上効果が得られず、製品品質の悪化を招く問題がある。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、中空耐火物の溶鋼接触面に付着する付着物を従来よりも低減し、しかも付着物の除去が容易であり、長期間に渡って安定した鋳造を可能にする誘導加熱式タンディッシュ及びその補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第1の発明に係る誘導加熱式タンディッシュは、溶鋼流路を形成する中空耐火物が底部に設けられ誘導加熱手段を備える堰を有し、該堰により、取鍋から注湯される溶鋼を受けるための受鋼部と、該受鋼部から前記溶鋼流路を介して誘導加熱されながら流れ込む溶鋼を鋳型へ流すための溶鋼排出部が形成された誘導加熱式タンディッシュにおいて、
前記中空耐火物の溶鋼接触面側の一部又は全部には、CaO成分を含有する耐火材を有し、使用にあっては、前記耐火材中のCaO成分と前記溶鋼流路を流れる溶鋼中のAl23成分とで低融点化合物を形成させ、前記中空耐火物の溶鋼接触面への付着物の付着を抑制する。
【0008】
第1の発明に係る誘導加熱式タンディッシュにおいて、前記耐火材は、前記中空耐火物の溶鋼接触面の少なくとも前記受鋼部側と前記溶鋼排出部側に設けられていることが好ましい。
【0009】
第1の発明に係る誘導加熱式タンディッシュにおいて、前記耐火材は、以下に示す関係式を満足する範囲に設けられていることが好ましい。
L1/L≧0.1
L2/L≧0.1
(L1+L2)/L≧0.4
ここで、Lは中空耐火物の全長、L1は中空耐火物の受鋼部側に設けられた耐火材の長さ、L2は中空耐火物の溶鋼排出部側に設けられた耐火材の長さである。
【0010】
第1の発明に係る誘導加熱式タンディッシュにおいて、前記耐火材中の前記CaO成分量は10質量%以上であることが好ましい。
【0011】
前記目的に沿う第2の発明に係る誘導加熱式タンディッシュの補修方法は、溶鋼流路を形成する中空耐火物が底部に設けられ誘導加熱手段を備える堰を有し、該堰により、取鍋から注湯される溶鋼を受けるための受鋼部と、該受鋼部から前記溶鋼流路を介して誘導加熱されながら流れ込む溶鋼を鋳型へ流すための溶鋼排出部が形成された誘導加熱式タンディッシュの補修方法において、
前記中空耐火物の溶鋼接触面側にCaO成分を含有する耐火材を設け、前記受鋼部から前記溶鋼排出部へ前記溶鋼流路を介して溶鋼を流し、前記耐火材中のCaO成分と溶鋼中のAl23成分とで低融点化合物を形成させ、前記中空耐火物の溶鋼接触面への付着物の付着を抑制しながら鋳造を行った後に、前記耐火材に水をかけ、前記中空耐火物から前記耐火材を除去して該中空耐火物の溶鋼接触面に付着した付着物を除去する。
【0012】
第2の発明に係る誘導加熱式タンディッシュの補修方法において、前記耐火材に水をかける前に、前記耐火材を予め火炎であぶることが好ましい。
【0013】
第2の発明に係る誘導加熱式タンディッシュの補修方法において、前記中空耐火物から前記耐火材を除去した後、該中空耐火物の溶鋼接触面側に前記耐火材と同一成分で構成される未使用の耐火材を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
請求項1〜4記載の誘導加熱式タンディッシュ、及び請求項5〜7記載の誘導加熱式タンディッシュの補修方法は、中空耐火物の溶鋼接触面側にCaO成分を含有する耐火材を設け、溶鋼接触面にCaO−Al23系の低融点化合物を形成するので、中空耐火物の溶鋼接触面側に低融点の液相が形成され、Al23系介在物又は地金のような付着物の付着又は堆積を、従来よりも低減できる。これにより、溶鋼流路の閉塞を抑制、更には防止できるため、溶鋼流路が細くなりピンチ力によって溶鋼が加熱できなくなることを回避でき、従来よりも長時間の鋳造を可能にし、しかも安定に溶鋼の加熱を行って、鋳造に必要な溶鋼温度を確保すると共に、溶鋼の清浄化効果も得られ、良好な品質の製品を製造できる。
【0015】
特に、請求項2、3記載の誘導加熱式タンディッシュは、付着物の付着又は堆積が生じ易い中空耐火物の溶鋼接触面の少なくとも受鋼部側と溶鋼排出部側に、CaO成分を含有する耐火材を設けるので、溶鋼流路の閉塞を更に抑制できる。
請求項4記載の誘導加熱式タンディッシュは、耐火材中のCaO成分量を規定するので、付着物の付着又は堆積を抑制するために適した耐火材を中空耐火物の溶鋼接触面側に配置できる。
【0016】
請求項5〜7記載の誘導加熱式タンディッシュの補修方法は、誘導加熱式タンディッシュの補修時に耐火材に水をかけることにより、耐火材のCaO成分を消化させて耐火材を崩壊し易くし、付着物である介在物又は地金を容易に除去することが可能になり、例えば、補修作業の負荷軽減、又は補修コストの削減が可能になる。このため、従来使用してきた高温燃焼フレームによる溶削の負荷を軽減して、中空耐火物の損傷を軽減し、例えば、中空耐火物の寿命向上、又は損傷起因によるトラブルの防止が図れる。
特に、請求項6記載の誘導加熱式タンディッシュの補修方法は、中空耐火物の溶鋼接触面に介在物又は地金のような付着物が堆積しても、耐火材を火炎であぶることによって、CaO−FeO系の低融点化合物を生成でき、付着物を除去し易くできる。
請求項7記載の誘導加熱式タンディッシュの補修方法は、耐火材のみを交換することにより、中空耐火物を部分的に補修し、中空耐火物全体を交換することなくタンディッシュを再使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る誘導加熱式タンディッシュの部分側断面図、図2は同誘導加熱式タンディッシュの中空耐火物の側断面図、図3は中空耐火物へのCaO成分含有耐火材の配置領域と付着物の付着量との関係を示す説明図である。
【0018】
図1、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る誘導加熱式タンディッシュ(以下、単にタンディッシュともいう)10は、溶鋼流路11を内側に形成する円筒状の中空耐火物12を底部13に設け、図示しない誘導加熱手段を備える堰14を有し、この堰14により、取鍋(図示しない)から注湯される溶鋼15を受けるための受鋼部16と、受鋼部16から溶鋼流路11を介して誘導加熱されながら流れ込む溶鋼17を鋳型18へ流すための溶鋼排出部19が形成されている。なお、鋳型18への溶鋼17の排出量は、溶鋼排出部19に設けられたストッパー20により調整され、排出される溶鋼17を鋳型18で冷却することにより、鋳片21を製造できる。以下、詳しく説明する。
【0019】
本実施の形態において、中空耐火物12は、堰14の底部13に2箇所設けられている。なお、中空耐火物12の数はこれに限定されるものではなく、例えば、1箇所でもよく、また3箇所以上の複数箇所設けてもよい。
この中空耐火物12は、例えば、従来から使用されているアルミナで構成されているが、例えば、アルミナ黒鉛質耐火物(AG)、マグネシア、又はマグネシア黒鉛質耐火物(MG)を使用して作製することもできる。なお、中空耐火物12は、例えば、長さLが0.5m以上1.5m以下(ここでは1m)程度、内径Dが50mm以上200mm以下(ここでは180mm)程度、最大厚みT1が20mm以上50mm以下(ここでは40mm)程度である。
中空耐火物12の溶鋼接触面22となる内周面側には、例えば、ドロマイト(CaO−MgO系:例えばCaOが50質量%)、又はZCG(ZrO2−CaO−Graphite:例えばCaOが22質量%)のように、CaO成分を含有する耐火材23、24が設けられている。なお、耐火材23、24の厚みT2は、中空耐火物12の最大厚みT1より小さく、例えば、10mm以上25mm以下程度である。
【0020】
この耐火材23、24中のCaO成分量は10質量%以上である。
耐火材中のCaO成分量が10質量%未満の場合、CaO−Al23系低融点化合物を形成するためのCaO供給量が不足し、中空耐火物の溶鋼接触面にAl23系介在物又は地金が付着し易くなる。また、補修時には、耐火材をフレーム(火炎)で加熱しても、CaO−FeO系の低融点化合物を生成し難くなり、更には、水をかけても耐火材が崩壊し難くなる。
一方、CaO成分量の増加に伴って上記した効果が顕著になるため、上限値については規定していないが、55質量%を超える場合、耐火材と、その他の部分の熱膨張率差に起因する亀裂が発生して、中空耐火物の寿命が低下する。これは、CaO含有量の増加に伴い膨張率が上がるためで、また、CaOを含む耐火材が、他の成分で構成される耐火材と比較して、一般に熱膨張率が高い傾向にあるためである。
以上のことから、耐火材中のCaO成分量の下限値を10質量%としたが、好ましくは15質量%、更に好ましくは20質量%とし、一方、上限値を55質量%、好ましくは50質量%にする。
【0021】
なお、図2に示すように、耐火材23、24は、付着物が付着し易い溶鋼接触面22の少なくとも受鋼部側25と溶鋼排出部側26に設けているが、中空耐火物12の全内周面に渡って設けてもよい。
ここで、耐火材23、24を設ける範囲について、図3を参照しながら説明する。図3は、中空耐火物の溶鋼接触面にCaO成分を含有する耐火材を設けた領域と、そのとき除去できなかった付着物量との関係を示している。なお、Lは中空耐火物の全長、L1は中空耐火物の受鋼部側に設けた耐火材の受鋼部側端面からの長さ、L2は中空耐火物の溶鋼排出部側に設けた耐火材の溶鋼排出部側端面からの長さである(図2参照)。また、付着物の除去は、溶鋼接触面への付着物をバーナを用いて火炎であぶった後、更に水をかけることで行った。このとき、残存した付着物量は、中空耐火物を長手方向に複数輪切りにし、残存する付着物量の和を算出して求めている。これを基に、耐火材を設けなかった中空耐火物の溶鋼接触面に残存した付着物量を「1」として、耐火材を設けた中空耐火物に残存する付着物量を、付着量指数として求めた。
【0022】
図3から明らかなように、CaO成分を含有する耐火材の配置領域の増加に伴って付着量指数が低下し、特に(L1+L2)/L=0.4を境にして、付着量指数の急激な低下が生じていることが分かる。ここで、L1とL2は略同じ値である。
なお、(L1+L2)/Lが0.4以上の場合、L1/L及びL2/Lが共に0.1以上であれば、図3と同様の結果が得られた。
以上のことから、耐火材23、24を以下に示す関係式を満足する範囲に設ける。
L1/L≧0.1、L2/L≧0.1、かつ(L1+L2)/L≧0.4
【0023】
なお、耐火材を中空耐火物に設けるに際しては、中空耐火物の耐火材を設ける位置を予め機械加工しておき、この部分に、例えば、予めリング状に成形した耐火材を嵌め込む方法、又は不定形の耐火材料を使用して耐火材を設ける方法を用いることができる。
ここで、耐火材を予め成形する場合は、電気抵抗を用いた電熱ヒータによって粉末材料を加熱し硬化させてリング状に成形した後、機械加工した部分に装着して設ける。
また、不定形の耐火材料を使用する場合は、中空耐火物の機械加工した部分に、電熱ヒータで構成された型枠を隙間を介して配置し、この形成された隙間に、耐火材料を装入し充填して設けたり、また不定形の耐火材料を作業者がこてを用いて塗り込む。
【0024】
この耐火材料には、例えば、非水系の低温熱硬化性樹脂と高温熱硬化性バインダーとを含むものを用いることができる。この非水系の低温熱硬化性樹脂とは、例えば、フェノール樹脂粉末、又はアクリル粉末であり、高温熱硬化性バインダーとは、例えば、ガラス屑、又は珪酸ソーダ(SiO2・nNa2O)である。
なお、中空耐火物と耐火材をそれぞれ構成する耐火材料の反応を抑制、更には防止するため、中空耐火物の接触面、即ち中空耐火物の機械加工した加工面に、予めジルコニア系のモルタルを配置した後、耐火材を配置することが好ましい。
【0025】
続いて、本発明の一実施の形態に係る誘導加熱式タンディッシュの補修方法について、前記した誘導加熱式タンディッシュ10を参照しながら説明する。
図1に示すように、鋳片21の製造の際には、取鍋(図示しない)から受鋼部16へ溶鋼を注湯し、この受鋼部16内の溶鋼15を溶鋼流路11を介して誘導加熱しながら溶鋼排出部19へ流し、この溶鋼排出部19内の溶鋼17を鋳型18へ流す。
この鋳造に際しては、耐火材23、24の溶鋼接触面22、即ち稼働面に、耐火材23、24中のCaO成分と溶鋼中のAl23成分によりCaO−Al23系の低融点化合物を形成でき、表面に低融点の液相を生成して、Al23系介在物又は地金の付着又は堆積を抑制しながら鋳造できる。
【0026】
なお、鋳片21の製造が終了した後、必要に応じて誘導加熱式タンディッシュ10の中空耐火物12の補修を行う。なお、中空耐火物12の補修作業は、中空耐火物12を堰14に取付けたままの状態で行う。
この補修は、溶鋼の鋳造終了後に、まず、耐火材23、24をバーナを用いて火炎であぶる。これにより、中空耐火物12の溶鋼接触面22に付着物が堆積しても、耐火材23、24が付着物の溶削によってCaO−FeO系の低融点化合物を生成し、付着物を除去し易くできる。
【0027】
このように、耐火材23、24を火炎であぶった後、更に水をかける。
耐火材23、24に水をかけることによって、耐火材23、24の内部材質であるCaO成分が消化(吸湿)して崩壊し、中空耐火物12から耐火材23、24を容易に除去し、付着物を除去することが可能になり、例えば、補修作業の負荷軽減又は補修コストの削減が可能になる。
なお、前記したように、中空耐火物に火炎による処理を行った後、水をかける処理を行うことで、付着物の除去作業を作業性よく実施できるが、例えば、付着物の付着量が少ない場合のように、付着状況に応じて、耐火材に水をかける処理だけを行ってもよい。
このように、中空耐火物12から耐火材23、24を除去した後、CaO成分を含有したリング状又は不定形の耐火材料を用いて、中空耐火物12の溶鋼接触面22側に、耐火材23、24と同一成分で構成される未使用の耐火材を設ける。これにより、耐火材のみを交換することで、中空耐火物全体を交換することなく再使用できる。
【0028】
中空耐火物12の補修が終了した後は、例えば、中空耐火物12の予熱を800℃以上1200℃以下の範囲で行い、吸着した湿気分の除去と、消化反応による水和物の分解を行うと共に、溶鋼の注湯による熱衝撃を抑制し、剥落を無くして、溶鋼接触面22部分での凹凸形成を最小限にし、亀裂の発生も防止する。
そして、図1に示すように、取鍋(図示しない)から受鋼部16へ溶鋼を注湯し、鋳片21の製造を行う。
これにより、鋳造中の中空耐火物12の溶鋼接触面22への付着物の付着量を低減、更には防止でき、例えば、従来よりも長時間の鋳造、安定した加熱、又は対流による介在物除去が可能になる。このため、清浄化効果も得られ、製品成績が向上する。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、中空耐火物を用いた誘導加熱式タンディッシュを使用して、アルミキルド鋼の鋳造を行い、鋳造終了後の中空耐火物を補修して、残存する付着物量及び中空耐火物の寿命について調査した結果を表1に示す。なお、表1では、アルミナ製の中空耐火物を補修しない場合を基準(付着量指数:1.0、寿命:1.0)とし、CaO成分を含有する耐火材を設けていない中空耐火物の付着物をバーナを用いて溶削した従来例、耐火材を設けた中空耐火物を補修しない実施例1、水冷による補修のみを行った実施例2、及びバーナと水冷の双方による補修を行った実施例3のそれぞれについて、操業指標である付着量指数と寿命を比較した。ここで、付着量指数とは、前記した方法と同様、使用した中空耐火物を複数輪切りにし、残存した付着物量の合計を算出して得られたものであり、また寿命とは、中空耐火物全体を繰り返し使用できなくなるまでの期間を意味する。また、実施例1〜3に使用したCaO成分を含有する耐火材はZCG(C:17.6質量%、CaO:22.0質量%、ZrO2:59.0質量%、SiO2:1.4質量%)で構成され、その耐火材の配置領域は、(L1+L2)/L=0.4である。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、中空耐火物にZCGで構成される耐火材を設けることにより、補修作業を行わない実施例1でも、基準と比較して、付着量指数及び寿命の改善の程度を向上できることを確認できた。
また、実施例2のように、この耐火材に水冷による補修のみを行うことで、フレーム溶削を行った従来例と比較して、付着量指数を更に低減させ、寿命を更に延ばすことができた。なお、実施例3のように、溶削を行った後に水冷による補修を行うことで、付着量指数を大幅に低減でき、しかも中空耐火物の寿命も、基準と比較して1.6倍まで延ばすことができた。
以上のことから、本発明の誘導加熱式タンディッシュの中空耐火物を使用することで、中空耐火物の溶鋼接触面に付着する付着物を従来よりも低減し、しかも付着した付着物の除去が容易であり、長期間に渡って安定した鋳造が可能になる。
【0032】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の誘導加熱式タンディッシュ及びその補修方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施の形態に係る誘導加熱式タンディッシュの部分側断面図である。
【図2】同誘導加熱式タンディッシュの中空耐火物の側断面図である。
【図3】中空耐火物へのCaO成分含有耐火材の配置領域と付着物の付着量との関係を示す説明図である。
【図4】従来例に係る誘導加熱式タンディッシュの説明図である。
【符号の説明】
【0034】
10:誘導加熱式タンディッシュ、11:溶鋼流路、12:中空耐火物、13:底部、14:堰、15:溶鋼、16:受鋼部、17:溶鋼、18:鋳型、19:溶鋼排出部、20:ストッパー、21:鋳片、22:溶鋼接触面、23、24:耐火材、25:受鋼部側、26:溶鋼排出部側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼流路を形成する中空耐火物が底部に設けられ誘導加熱手段を備える堰を有し、該堰により、取鍋から注湯される溶鋼を受けるための受鋼部と、該受鋼部から前記溶鋼流路を介して誘導加熱されながら流れ込む溶鋼を鋳型へ流すための溶鋼排出部が形成された誘導加熱式タンディッシュにおいて、
前記中空耐火物の溶鋼接触面側の一部又は全部には、CaO成分を含有する耐火材を有し、使用にあっては、前記耐火材中のCaO成分と前記溶鋼流路を流れる溶鋼中のAl23成分とで低融点化合物を形成させ、前記中空耐火物の溶鋼接触面への付着物の付着を抑制することを特徴とする誘導加熱式タンディッシュ。
【請求項2】
請求項1記載の誘導加熱式タンディッシュにおいて、前記耐火材は、前記中空耐火物の溶鋼接触面の少なくとも前記受鋼部側と前記溶鋼排出部側に設けられていることを特徴とする誘導加熱式タンディッシュ。
【請求項3】
請求項2記載の誘導加熱式タンディッシュにおいて、前記耐火材は、以下に示す関係式を満足する範囲に設けられていることを特徴とする誘導加熱式タンディッシュ。
L1/L≧0.1
L2/L≧0.1
(L1+L2)/L≧0.4
ここで、Lは中空耐火物の全長、L1は中空耐火物の受鋼部側に設けられた耐火材の長さ、L2は中空耐火物の溶鋼排出部側に設けられた耐火材の長さである。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の誘導加熱式タンディッシュにおいて、前記耐火材中の前記CaO成分量は10質量%以上であることを特徴とする誘導加熱式タンディッシュ。
【請求項5】
溶鋼流路を形成する中空耐火物が底部に設けられ誘導加熱手段を備える堰を有し、該堰により、取鍋から注湯される溶鋼を受けるための受鋼部と、該受鋼部から前記溶鋼流路を介して誘導加熱されながら流れ込む溶鋼を鋳型へ流すための溶鋼排出部が形成された誘導加熱式タンディッシュの補修方法において、
前記中空耐火物の溶鋼接触面側にCaO成分を含有する耐火材を設け、前記受鋼部から前記溶鋼排出部へ前記溶鋼流路を介して溶鋼を流し、前記耐火材中のCaO成分と溶鋼中のAl23成分とで低融点化合物を形成させ、前記中空耐火物の溶鋼接触面への付着物の付着を抑制しながら鋳造を行った後に、前記耐火材に水をかけ、前記中空耐火物から前記耐火材を除去して該中空耐火物の溶鋼接触面に付着した付着物を除去することを特徴とする誘導加熱式タンディッシュの補修方法。
【請求項6】
請求項5記載の誘導加熱式タンディッシュの補修方法において、前記耐火材に水をかける前に、前記耐火材を予め火炎であぶることを特徴とする誘導加熱式タンディッシュの補修方法。
【請求項7】
請求項5及び6のいずれか1項に記載の誘導加熱式タンディッシュの補修方法において、前記中空耐火物から前記耐火材を除去した後、該中空耐火物の溶鋼接触面側に前記耐火材と同一成分で構成される未使用の耐火材を設けることを特徴とする誘導加熱式タンディッシュの補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−111744(P2007−111744A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306077(P2005−306077)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)