説明

誘導電動機の制御装置

【課題】 インバータのデッドタイムによる影響を受けずに励磁インダクタンスMの変動およびモータの温度変化等による二次抵抗r2の変動を同定し、常に精度良く所望の出力トルクを得る。
【解決手段】 トルク指令値T*が所定値Trf以下の場合に、トルク電流指令i1q*とトルク電流i1qとに基づき算出されるトルク電圧指令GqΔi1qに基づいて励磁インダクタンスMを同定し、励磁電流指令i1d*と励磁電流i1dに基づき算出される励磁電圧指令GdΔi1dに基づいてデッドタイム補正値を同定する。またGqΔi1qに基づき、二次抵抗値r2を同定する。これらの同定された励磁インダクタンスM、二次抵抗値r2とを用いて誘導電動機のベクトル制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は工作機械の主軸駆動などに利用され、誘導電動機の出力トルクを任意に制御する誘導電動機の制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】工作機械の主軸駆動などの用途には、すべり周波数型ベクトル制御によって駆動される誘導電動機が多く用いられている。このすべり周波数型ベクトル制御において、出力トルクを任意に制御するためには、モータの二次抵抗r2、励磁インダクタンスMおよびトルク電流i1qに応じて正確なすべり周波数をモータに与える必要がある。しかしながら、二次抵抗r2は、モータの温度変化等によって2倍程度に大きく変動する。また、励磁インダクタンスMは、鉄心の磁気飽和の影響やモータの製造上の寸法精度によって大きく変動する。しかしながら制御装置内においては、これら二次抵抗r2、励磁インダクタンスMの値は変動が考慮されていない。その結果、モータに与えられるすべり周波数が不正確となり、出力トルクを正確に制御することができない。この問題を解決するべく、本出願人等は既に特願平7−92165号において、誘導電動機の励磁インダクタンスMおよび二次抵抗r2の値が正確に把握できない場合や、これらの値が変動する場合においても常に出力トルクを精度良く制御できる誘導電動機の制御装置を提案している。
【0003】図4に特願平7−92165号による誘導電動機の制御装置のシステム構成の一例を示す。この制御装置に対して外部からの入力指令として、トルク指令T*および磁束密度指令φ*が入力される。変換器1は、磁束密度指令φ*に応じて必要な励磁電流指令値i1d*を発生する励磁電流指令発生器であり、磁束密度と励磁電流の関係は後述するように励磁インダクタンスMをパラメータとしている。従って、この変換器1では、Mの逆数を乗算することによって励磁電流指令値i1d*が出力される。なお、図中においてi1d*はid*と略記されている。
【0004】除算器2は、入力されたトルク指令T*を入力された磁束密度指令φ*で除算するものであり、誘導電動機の出力トルクは磁束密度とトルク電流値との積に比例することから、除算器2の出力がトルク電流指令値i1q*として出力される。なお、図中においてi1q*はiq*と略記されている。
【0005】この特願平7−92165号による誘導電動機の制御装置の動作を図6の誘導電動機の等価回路をもとに説明する。モータの一次電流I1,励磁電流Io,一次電圧E1は磁束の回転周波数ωに同期して回転するdq軸座標上の電流i1d,i1q,iod,ioq、電圧e1d,e1qを用いて次のように表される。
【0006】
【数1】
I1=i1dsinωt+i1qcosωt ・・・(1)
【数2】
Io=iodsinωt+ioqcosωt ・・・(2)
【数3】
E1=e1dsinωt+e1qcosωt ・・・(3)
このとき誘導電動機の一次回路について電圧方程式は次のように表される。
【数4】
e1d=(r1+pLσ)i1d−ωLσi1q +pMiod−ωMioq ・・・(4)
【数5】
e1q=ωLσi1d+(r1+pLσ)i1q +ωMiod+pMioq ・・・(5)
ここでpは微分演算子d/dt、r1は一次巻線抵抗、Lσは漏れインダクタンス、Mは励磁インダクタンスである。次に二次回路についても同様に電圧方程式は次のように表される。
【数6】
−r2i1d+(r2+pM)iod−ωsioq=0 ・・・(6)
【数7】
−r2i1q+ωsiod+(r2+pM)ioq=0 ・・・(7)
ここでr2は二次巻線抵抗、ωsはすべり周波数である。このωsはモータの回転角周波数ωmを用いて次のように表される。
【数8】
ωs=ω−ωm ・・・(8)
磁束方向がd軸に一致していると仮定すると、モータ内部の励磁電流ioは次のように表される。
【数9】
io=φ/M=iod,ioq=0 ・・・(9)
(9)式と(6)式よりioとi1dとの関係を求めると次式を得る。
【数10】
io/i1d=1/(1+pM/r2) ・・・(10)
すなわち、励磁電流ioはi1dに対して一次遅れで応答し、その時定数はM/r2である。この時定数は一般的な誘導電動機において数100msであり、ioの変化は十分に緩慢であると近似できる。一方、(9)式と(7)式より、次式を得る。
【数11】
ωs=r2i1q/(Mio) ・・・(11)
これがいわゆるベクトル制御条件と呼ばれるもので、この式を満たすωsをモータに与えるとき、磁束方向がd軸に一致する。このときi1qが磁束に直交することからモータの発生トルクTは、以下のようになる。
【数12】
T=φi1q=Mioi1q ・・・(12)
従って、i1qを制御することによって任意にトルクを制御することができる。前記のようにioの変化は十分に緩慢であると近似するとき、(4),(5)式は次のように書き直すことができる。
【数13】
e1d=(r1+pLσ)i1d−ωLσi1q ・・・(13)
【数14】
e1q=ωLσi1d+(r1+pLσ)i1q+ωMio ・・・(14)
これらの式より、i1d,i1qを任意に制御しようとするとき、モータに印加する電圧を次のように制御すればよい。
【数15】
e1d*=GdΔi1d−ωLσi1q* ・・・(15)
【数16】
e1q*=ωLσi1d*+GqΔi1q+ωMcio* ・・・(16)
ここで添え字*は指令値であることを意味しており、またΔi1d,Δi1qは次式で表される電流誤差である。
【数17】
Δi1d=i1d*−i1d,Δi1q=i1q*−i1q ・・・(17)
Mcはコントローラ内で想定した励磁インダクタンスであり、実際の励磁インダクタンスMとは異なるものである。また、Gd,Gqは十分に大きなゲインであり、pi演算増幅器などを用いて実現する。この(15),(16)式は図4のdq軸電圧指令算出部4で演算されており、その内部ブロック図は図5に表される。また、(11)式を満たすように除算器7、乗算器から成る変換器8を通ってωsが出力される。(12)式で表される出力トルクTを正確に制御しようとするとき、実際の励磁インダクタンスMがコントローラ内のMcと等しいこと、および(11)式のベクトル制御条件が成立し、磁束位置がd軸に一致していることが必要である。しかしながら先に述べたように、励磁インダクタンスおよび(11)式中の二次抵抗r2を正確に把握することは困難であり、その結果、出力トルク精度が悪化する。そこで特願平7−92165号においては、まず励磁インダクタンスについて次式に基づいて同定を行なっている。
【数18】
GqΔi1q=ω(M−Mc)io= ωΔMio ・・・(18)
ここでΔMはコントロ−ラ側で想定した励磁インダクタンスMcと実際のモ−タ内部の真値Mとの間の設定誤差である。なお、(18)式は次のように導出されている。モ−タが無負荷でi1q=i1q*=0であるとすると、(14),(16)式は次のように変形できる。
【数19】
e1q=ωLσi1d+ωMio ・・・(19)
【数20】
e1q*=ωLσi1d*+GqΔi1q+ωMcio* ・・・(20)
電流制御系の働きにより、i1d*=i1d,io*=io,e1q=e1q*として(19),(20)式の差より、(18)式が導出される。上記のように、i1q=i1q*=0の状態において励磁インダクタンスの同定がおこなわれる。すなわち、i1q=i1q*=0の状態のとき図4のコンパレータ22によってトルク指令T*が小さいことが検出され、無負荷状態の時のみ、スイッチ23が閉となり増幅器21によってGqΔi1qが増幅されて同定が行なわれる。この増幅器21の出力は、磁束密度指令φ*の値をアドレスとするデータテーブル24に各磁束密度ごとに積分して保持される。この積分値は励磁インダクタンスMの設定誤差ΔMであり、トルク指令が0でない場合においても、磁束密度指令φ*に応じて保持されている設定誤差ΔMを取り出して、変換器1の係数1/Mを補償しているので、常に励磁インダクタンスMの真値を用いて制御することが可能である。次に二次抵抗r2については次式に基づいて同定が行なわれる。
【数21】
GqΔi1q=Δr2(ω/ωs)i1q ・・・(21)
ここでΔr2はコントロ−ラ側で想定した値r2cと実際の値r2との間の設定誤差である。この(21)式は以下のように導出される。まず(11)式を変形して(22)式を得る。
【数22】
ωMio=(ω/ωs)r2i1q ・・・(22)
この(22)式を(14)式に代入することによって、実際にモ−タに発生するq軸電圧は次のように表すことができる。
【数23】
e1q=ωLσi1d+(r1+pLσ)i1q+(ω/ωs)r2i1q ・・・(23)
一方、コントローラの出力する電圧e1q*は、(22),(16)式から次のように表すことができる。
【数24】
e1q*=GqΔi1q+ωLσi1d*+r1i1q*+(ω/ωs)r2ci1q* ・・・(24)
電流制御系の働きにより、i1d*=i1d,i1q*=i1q,e1q=e1q*として(23),(24)式の差を求めると、次式を得る。
【数25】
e1q−e1q*=pLσi1q−GqΔi1q +(ω/ωs)(r2−r2c)i1q=0 ・・・(25)
【0007】第1項は他の項に比べて比較的小さいので無視すると(21)式が、導き出される。すなわち(21)式よりGqΔi1qは二次抵抗r2の設定誤差Δr2を表しており、この誤差はGqΔi1qを用いて補正することが可能である。そこで、図4において、増幅器25の出力すなわちGqΔi1qに同定ゲインGrを乗算した出力に応じて変換器8の係数r2を補償している。
【0008】以上のように、特願平7−92165号の発明では、制御に用いられるパラメータの励磁インダクタンスM、二次抵抗r2について、実際のモータにおける真値を同定し、自動的に制御パラメータを適性に追従させているので、鉄心の磁気飽和の影響やモータの製造上の寸法精度などによる励磁インダクタンスMの変動およびモータの温度変化等による二次抵抗r2の変動の影響を受けず、精度良く所望の出力トルクを得ることができる。
【0009】特願平7−92165号の発明における他の構成要素の動作を以下に簡単に説明する。dq軸電圧指令算出部4は(15),(16)式の演算を行なっており、その内部構成を図5に示す。図中の減算器11が励磁電流指令値i1d*から励磁電流検出値i1dを減算して励磁電流誤差Δi1dが出力され、増幅器12はΔi1dを増幅してGdΔi1dが出力される。変換器13、乗算器14ではトルク電流指令値i1q*と回転周波数ω、漏れインダクタンスLσから(15)式の第2項が算出され、これがGdΔi1dと加算されて、d軸電圧指令e1d*が出力される。
【0010】同様に減算器15はトルク電流指令値i1q*からトルク電流検出値i1qを減算して、トルク電流誤差Δi1qが求められ、これが増幅器16で増幅されて(16)式の第2項GqΔi1qが得られている。変換器18は励磁電流指令i1d*に漏れインダクタンスLσを乗算し、さらに乗算器19で回転周波数ωが乗算されることによって(16)式の第1項ωLσi1d*が得られている。(16)式の第3項ωMcio*は、図5の図中においてはem*=Mcio*と置き換えて乗算器19によって出力されており、前記の第1項、第2項と加算されて、q軸電圧指令e1q*が出力される。なお、em*は図4R>4の変換器17によって磁束密度指令φ*に誘起電圧係数Kemを乗算することによって求められている。dq軸電圧指令算出部4の出力したe1d*,e1q*は、図4の2相3相変換器3によって3相の交流電圧指令eu*,ev*,ew*に変換され、インバータ26に入力される。インバータ26は直流電源27をエネルギー源として、この3相の交流電圧指令eu*,ev*,ew*に応じた電圧をモータ28に印加することによって3相交流電流iu,iv,iwが流れる。この3相交流電流iu,iv,iwは電流検出器6a,6b,6cによって検出され、3相2相変換器9によって励磁電流検出値i1dおよびトルク電流検出値i1qに変換される。なお、2相3相変換器3と3相2相変換器9とが座標変換に使用する信号sinωt,cosωtは、回転周波数ωを基に2相正弦波発生器10によって出力される。このωは、位置検出器29によって検出されたモータ28の回転位置を微分器30で微分することによって得た回転速度ωmに、すべり周波数ωsを加算することによって得られている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記特願平7−92165号において、励磁インダクタンスおよび二次抵抗の同定に使用するq軸電流誤差アンプの出力GqΔi1qには、実際にはインバータのデッドタイムに起因する電圧誤差成分が含まれており、その結果、励磁インダクタンスおよび二次抵抗を正確に同定することができないという課題がある。ここで電流誤差アンプの出力にデッドタイムに起因する電圧誤差が発生する原理を以下に説明する。
【0012】図7は一般的なインバータの入力電圧指令と出力電圧の関係を示すグラフである。このようにインバータの出力電圧は出力電流の極性に応じて、誤差Δeを生じている。このΔeは出力電流の極性および大きさによって変化する性質を持っている。次に図8は一般的なインバータにおける前記Δeと出力電流との関係を示すものである。
【0013】図9はモータの端子電圧と線電流波形、およびインバータ26に入力される電圧指令の波形を代表例としてU相について示すものである。上記のようにインバータの出力電圧にはデッドタイムによる誤差成分が存在するが、電流制御系の働きによって、この誤差成分を補うような電圧指令eu*が自動的に発生し、図9中(c)のような波形となるので、モータ線電流iuは図9中(b)のように歪みのない正弦波となり、インバータの出力電圧、すなわちモータ端子電圧(図9の(a))も正弦波となる。このとき、d軸、q軸の電流誤差アンプ出力はそれぞれ(e)(f)のような波形を出力しており、GqΔi1qにも誤差成分が発生する。この結果、励磁インダクタンスおよび二次抵抗を正確に同定することができなくなり、精度良く所望の出力トルクを得ることができないという課題が発生する。
【0014】
【課題を解決するための手段】上述した課題を解決するために本発明にかかる誘導電動機の制御装置は、インバータによって出力された三相交流電圧によって駆動される誘導電動機の制御装置であって、トルク指令と磁束密度指令を入力とし、当該二相指令を前記電動機の1次電流を制御するための三相電圧指令に変換し、前記誘導電動機の実際の三相の1次電流をトルク電流検出値と励磁電流検出値の二相の検出値に変換してフィードバック制御を行う誘導電動機の制御装置において、前記三相電圧指令とデッドタイム補正値を入力とし、前記インバータに対して三相補正電圧指令を出力するデッドタイム補償手段と、前記磁束密度指令と、励磁インダクタンス補正値とによって補正された励磁インダクタンスとに基づき励磁電流指令値を算出する励磁電流指令発生手段と、前記励磁電流指令と前記励磁電流検出値に基づき励磁電流誤差を算出し、当該励磁電流誤差に基づき、励磁電流と同相の励磁電圧指令を算出する励磁電圧指令算出手段と、前記トルク指令と前記磁束密度指令に基づきトルク電流指令を算出するトルク電流指令発生手段と、前記トルク電流指令と前記トルク電流検出値に基づきトルク電流誤差を算出し、当該トルク電流誤差に基づき、トルク電流と同相のトルク電圧指令を算出するトルク電圧指令算出手段と、前記トルク電圧指令に基づきモータの二次抵抗の補正値を算出する二次抵抗補正値算出手段と、前記トルク電流指令および前記磁束密度指令と、前記二次抵抗補正値によって補正された二次抵抗値とに基づきすべり角周波数を算出するすべり角周波数算出手段と、前記すべり角周波数と実際のモータの角周波数に基づき角周波数指令を算出する角周波数指令算出手段と、前記トルク指令が、予め定められたしきい値以下である場合にオンとなる第1および第2のスイッチと、前記第1のスイッチがオンの場合には前記トルク電圧指令に基づいて前記励磁インダクタンス補正値を算出し、また前記第1のスイッチがオフの場合には前記励磁インダクタンス補正値を保持する励磁インダクタンス補正値算出手段と、前記第2のスイッチがオンの場合には前記励磁電圧指令に基づいて前記デッドタイム補正値を算出し、また前記第2のスイッチがオフの場合には前記デッドタイム補正値を保持するデッドタイム補正値算出手段と、前記励磁電圧指令および前記トルク電圧指令と、前記角周波数指令とに基づいてモータに印加する前記三相電圧指令を算出する三相電圧指令発生手段とを有することを特徴とする。
【0015】
【作用】本発明による誘導電動機の制御装置によれば、インバータのデッドタイムに起因する出力電圧誤差を出力トルクの小さい状態(無負荷状態)において同定しており、これをインバータに対する電圧指令の補正値として補償している。さらに出力トルクの大きな状態においては、この補正値を保持して使用することによって、q軸電流誤差アンプの出力GqΔi1qには常にデッドタイムの誤差成分を含まない電圧を出力することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】図1は本発明に係る誘導電動機の制御装置の一実施形態のブロック図である。図4に示す従来の誘導電動機の制御装置と同じ構成要素は同一符号で示してあり、その説明は重複するので省略する。
【0017】図1中のデッドタイム補償部31は、2相3相変換器3の出力した3相交流電圧指令eu*,ev*,ew*およびデッドタイム補正値ecを入力として三相補正電圧指令eu'*,ev'*,ew'*を出力する。その内部構成の一実施形態を図2に示す。図中の増幅器34は各相の電流値を増幅しており、その出力をリミッタ35によって波形整形することによって、リミッタ35の出力は図8に示したように電流に対して非線形な信号となる。このリミッタ35の出力をさらに乗算器36でデッドタイム補正値ecと乗算することによって、各相の電圧指令値eu*,ev*,ew*に対して補正するべき3相の補正値が得られるので、これらを加算器37において加算し、3相補正電圧指令eu'*,ev'*,ew'*を得ている。
【0018】次に上記のデッドタイム補正値ecを算出する方法を説明する。図1においてコンパレータ22はトルク指令値が所定のしきい値Trfよりも小さい時に信号を出力し、スイッチ23a、23bをオンさせる。スイッチ23aについては図4の従来例において説明したとおり、無負荷時に励磁インダクタンスMを同定している。スイッチ23bは無負荷時において、増幅器32の出力を積分器33に接続しているが、増幅器32の出力信号について図3を用いて説明する。
【0019】図3はモータ端子電圧と線電流波形、およびインバータに入力される電圧指令の無負荷時の波形を示すものである。無負荷時においては(b)の線電流iuは全てが励磁電流であり、すなわちd軸位相に等しい。またデッドタイムによる誤差電圧(d)は線電流iu、つまりd軸位相と同位相であるので、デッドタイムによって電流誤差アンプに発生した誤差電圧成分は、d軸成分については直流量として発生し、q軸成分には平均値では0となり、発生しない。ここでd軸電流誤差アンプに発生した誤差電圧GdΔidの大きさは、デッドタイムによる誤差電圧に対して直接的に等しくなっているので、この値をそのままデッドタイム補正値ecとして使用することができる。なお、増幅器32に設定する増幅率は積分器33の積分時定数を調整するために可変して設定し、通常は数100ms程度の時定数になるよう設定する。また有負荷状態においてスイッチ23aがオフした場合は積分器33は無負荷状態において同定したデッドタイム補正値ecをそのまま保持して出力する。
【0020】このようにして得られたデッドタイム補正値ecを用いて、図1のデッドタイム補償部31において電圧指令値eu*,ev*,ew*に対して補正を行うと、補正後の3相補正電圧指令eu'*,ev'*,ew'*は、図9R>9および図3の(c)の波形と等しくなる。このとき、電流誤差アンプの出力GqΔi1q、GdΔidにはもはや誤差電圧は含まれておらず、(18)式(21)式を用いて正確に励磁インダクタンスMと二次抵抗r2の同定が可能である。
【0021】
【発明の効果】以上、説明したように本発明においてモータ内部の励磁電流およびトルク電流は、それぞれ独立にフィードバック制御されており、その制御に用いられる励磁インダクタンスM、二次抵抗r2はq軸電流誤差アンプの出力に基づいて正確な値を同定して制御に用いることができる。さらにインバータのデッドタイムに起因する電圧誤差成分をd軸電流誤差アンプの出力に基づいて同定し、補償しているので、q軸電流誤差アンプの出力にはデッドタイムによる誤差成分を含まず、常に正確に上記パラメータを同定することができる。その結果、鉄心の磁気飽和の影響やモータの製造上の寸法精度などによる励磁インダクタンスMの変動およびモータの温度変化等による二次抵抗r2の変動の影響を受けず、常に精度良く所望の出力トルクを得ることができる。このため、従来は適用するモータにあわせて制御パラメータの調整が必要であったが、この調整を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による誘導電動機の制御装置の一実施形態のブロック図である。
【図2】 デッドタイム補償部の内部構成の一実施形態のブロック図である。
【図3】 モータの端子電圧と線電流波形、およびインバータに入力される電圧指令の無負荷時の波形を示すものである。
【図4】 従来の誘導電動機の制御装置のブロック図の一例である。
【図5】 図4に示したdq軸電圧指令算出部の内部ブロック図の一例である。
【図6】 誘導電動機の等価回路である。
【図7】 インバータの入力電圧指令と出力電圧の関係を示すグラフである。
【図8】 インバータにおけるデッドタイム誤差電圧Δeと出力電流との関係を示すグラフである。
【図9】 モータの端子電圧と線電流波形、およびインバータに入力される電圧指令の波形を示すものである。
【符号の説明】
1 変換器、2 除算器、3 2相3相変換器、4 dq軸電圧指令算出部、5 一次進み補償回路、6 電流検出器、7 除算器、8 変換器、9 3相2相変換器、10 2相正弦波発生器、11 減算器、12 増幅器、13 変換器、14 乗算器、15 減算器、16 増幅器、17 変換器、18 変換器、19 乗算器、20 変換器、21 増幅器、22 コンパレータ、23 スイッチ、24 データテーブル、25 増幅器、26 インバータ、27 直流電源、28 モータ、29 位置検出器、30 微分器、31 デッドタイム補償部、32 増幅器、33 積分器、34 増幅器、35 リミッタ、36 乗算器、37 加算器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】インバータによって出力された三相交流電圧によって駆動される誘導電動機の制御装置であって、トルク指令と磁束密度指令を入力とし、当該二相指令を前記電動機の1次電流を制御するための三相電圧指令に変換し、前記誘導電動機の実際の三相の1次電流をトルク電流検出値と励磁電流検出値の二相の検出値に変換してフィードバック制御を行う誘導電動機の制御装置において、前記三相電圧指令とデッドタイム補正値を入力とし、前記インバータに対して三相補正電圧指令を出力するデッドタイム補償手段と、前記磁束密度指令と、励磁インダクタンス補正値とによって補正された励磁インダクタンスとに基づき励磁電流指令値を算出する励磁電流指令発生手段と、前記励磁電流指令と前記励磁電流検出値に基づき励磁電流誤差を算出し、当該励磁電流誤差に基づき、励磁電流と同相の励磁電圧指令を算出する励磁電圧指令算出手段と、前記トルク指令と前記磁束密度指令に基づきトルク電流指令を算出するトルク電流指令発生手段と、前記トルク電流指令と前記トルク電流検出値に基づきトルク電流誤差を算出し、当該トルク電流誤差に基づき、トルク電流と同相のトルク電圧指令を算出するトルク電圧指令算出手段と、前記トルク電圧指令に基づきモータの二次抵抗の補正値を算出する二次抵抗補正値算出手段と、前記トルク電流指令および前記磁束密度指令と、前記二次抵抗補正値によって補正された二次抵抗値とに基づきすべり角周波数を算出するすべり角周波数算出手段と、前記すべり角周波数と実際のモータの角周波数に基づき角周波数指令を算出する角周波数指令算出手段と、前記トルク指令が、予め定められたしきい値以下である場合にオンとなる第1および第2のスイッチと、前記第1のスイッチがオンの場合には前記トルク電圧指令に基づいて前記励磁インダクタンス補正値を算出し、また前記第1のスイッチがオフの場合には前記励磁インダクタンス補正値を保持する励磁インダクタンス補正値算出手段と、前記第2のスイッチがオンの場合には前記励磁電圧指令に基づいて前記デッドタイム補正値を算出し、また前記第2のスイッチがオフの場合には前記デッドタイム補正値を保持するデッドタイム補正値算出手段と、前記励磁電圧指令および前記トルク電圧指令と、前記角周波数指令とに基づいてモータに印加する前記三相電圧指令を算出する三相電圧指令発生手段と、を有することを特徴とする誘導電動機の制御装置。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図9】
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【公開番号】特開2000−50698(P2000−50698A)
【公開日】平成12年2月18日(2000.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−215910
【出願日】平成10年7月30日(1998.7.30)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】