説明

誘雨剤、その製造方法及び用途

【課題】簡易な構成で、有効に降雨を導くことができる誘雨剤、そのような誘雨剤を容易に製造することができる誘雨剤の製造方法及び誘雨剤を用いる用途を提供する。
【解決手段】誘雨剤16は、ドライアイスの微粒子15が液体窒素11中に分散されて構成されている。誘雨剤16を製造する場合には、液化炭酸ガス14を噴出してドライアイスの微粒子15を生成させ、その微粒子15を液体窒素11の表面に衝突させ、ドライアイスの微粒子15を液体窒素11中に取り込み、液体窒素11の気化によって生成した泡によりドライアイスの微粒子15を液体窒素11中に分散させる。誘雨ロケットは、ロケット本体の前部に誘雨剤16が収容された断熱容器を備え、該断熱容器の先端部には誘雨剤16を噴霧可能な噴霧ノズルが開口されて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨不足のときなどに人工的に雨を降らせるための誘雨剤、その製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の誘雨剤を用いた誘雨方法としては、小型ロケットから雨雲中にヨウ化銀の微粒子を散布する方法と、液化炭酸ガスボンベによりドライアイスの微粒子を散布する方法とが知られている。前者の方法で用いられるヨウ化銀は毒性があるため、環境への配慮から誘雨剤として使用されなくなってきている。
【0003】
一方、後者の方法でドライアイスの微粒子を散布するためには高圧ボンベから液化炭酸ガスを噴霧する必要があるが、液化炭酸ガスのボンベは鉄製の高圧容器で重いことから小型ロケットに搭載することはできず、飛行機に搭載して散布する必要があった。そのような作業は煩雑である上に、雨雲の発生に合わせてタイミングよく飛行機を飛ばし、雨雲中を飛行して散布しなければならず、費用が嵩み、実用的ではないという問題があった。
【0004】
この種の方法として、二酸化炭素又は不活性ガスの一方のガス分子を水分子の作るカゴの中に収めた結晶構造のガスハイドレートを使用する方法が提案されている(特許文献1を参照)。この方法では、上記ガスハイドレートを大気中に噴霧して氷晶群を発生させ、該氷晶群を上昇気流にのせて大気中の水蒸気を吸収させて成長させながら雲の上部まで上昇させ、成長した氷晶群を上昇気流の弱い領域から落下させ、雨滴を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−224151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載されている方法で用いられるガスハイドレートは、例えば冷却水と加圧窒素ガスとを接触させ、ガス分子を水分子のカゴに収めた結晶構造とし、さらに脱水して所定条件下で粉体状としたものである。そして、このガスハイドレートは雲の低部に噴霧されたとき水分子とガス分子とに分離され、水分子が雲中の水滴により氷晶となって氷晶群が形成され、太陽熱と氷晶発生時の熱により上昇気流を生じさせる。
【0007】
しかしながら、ガスハイドレートを所定の粉体状に保持するためには一定の限られた条件を維持する必要があり、さらにガスハイドレートが雲に噴霧された後氷晶を形成し、上昇気流を得るためには雲の条件や熱の発生条件が整うことが必要である。このため、雨量が予想外に少量であったり、降雨が局地的であったりして降雨にばらつきが生じ、効果的な方法ではなかった。しかも、ガスハイドレートを雲の低部を目指して噴霧しなければならず、限られた領域に噴霧することは難しいという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明の目的とするところは、簡易な構成で、有効に降雨を導くことができる誘雨剤、そのような誘雨剤を容易に製造することができる誘雨剤の製造方法及び誘雨剤を用いる用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、第1の発明の誘雨剤は、ドライアイスの微粒子が液体窒素中に分散されて構成されていることを特徴とする。
第2の発明の誘雨剤の製造方法では、第1の発明の誘雨剤の製造方法であって、液体窒素に向けて液化炭酸ガスを噴出し、ドライアイスの微粒子を生成させて該微粒子を液体窒素中に分散させることを特徴とする。
【0010】
第3の発明の誘雨剤の製造方法では、第2の発明において、前記ドライアイスの微粒子を液体窒素の表面に衝突させ、ドライアイスの微粒子を液体窒素中に取り込み、液体窒素の気化によって生成した泡によりドライアイスの微粒子を液体窒素中に分散させることを特徴とする。
【0011】
第4の発明の誘雨ロケットでは、ロケット本体の前部には第1の発明の誘雨剤が収容された断熱容器を備え、該断熱容器の先端部には誘雨剤を噴霧可能な噴霧ノズルが開口されていることを特徴とする。
【0012】
第5の発明の誘雨剤の使用方法では、第4の発明の誘雨ロケットを打ち上げ、該誘雨ロケットが上昇体勢から下降体勢に移行すると共に、液体窒素が気化して生成した窒素ガスにより噴霧ノズルから誘雨剤を噴霧し、噴霧された誘雨剤を核とする水滴により雨雲を形成し、降雨に導くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の誘雨剤はドライアイスの微粒子が液体窒素中に分散されて構成されている。このため、誘雨剤を液体窒素中に分散させることにより、ドライアイスの微粒子をその状態で長時間保持することができると共に、誘雨剤を大気中の水分のある領域に向けて噴霧することによってドライアイスの微粒子を核とする水滴を形成することができる。
【0014】
従って、本発明の誘雨剤は、簡易な構成で、人工的に有効に降雨を導くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態における誘雨剤の製造方法を示す概略説明図。
【図2】(a)は誘雨剤を誘雨ロケットに装填する状態を模式的に示す概略説明図及び(b)は誘雨剤を誘雨ロケットに装填した後の状態を模式的に示す概略説明図。
【図3】誘雨ロケットに装填された誘雨剤の使用方法を模式的に示す概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の誘雨剤は、ドライアイスの微粒子が液体窒素中に分散されて構成されている。ドライアイスは二酸化炭素(CO、昇華温度−78.5℃)を昇華温度以下に冷却して得られる固体であり、その微粒子が用いられる。ドライアイスの微粒子を用いることにより、その微粒子の周囲に空気中の水蒸気が凝結して微細な氷晶を形成することができる。この氷晶は、周囲に存在する過冷却状態の微小水滴から水蒸気を奪って成長し、所定の大きさの氷の粒になると落下して雨となる。ドライアイスの微粒子は常温では容易に昇華してしまい保存できないが、液体窒素中に分散させることにより、大気圧の断熱容器中で長時間保存することができる。
【0017】
ドライアイスの微粒子の大きさは、0.1〜200μmであることが好ましく、1〜50μmであることがさらに好ましい。ドライアイスの微粒子の大きさが0.1μmより小さい場合には、ドライアイスの微粒子が短時間で昇華してしまい、冷却効果が不足する傾向を示す。その一方、ドライアイスの微粒子の大きさが200μmより大きい場合には、ドライアイスの微粒子の粒子数が減少し、誘雨剤としての効果が低下する。
【0018】
液体窒素は、窒素(N、融点−209.9℃、沸点−195.8℃)の気体を沸点以下に冷却して液化したものである。窒素は空気中に多量に存在するものであり、環境に影響を及ぼすおそれはない。液体窒素中におけるドライアイス微粒子の含有量は、10〜60質量%であることが望ましく、30〜50質量%であることがより望ましい。この含有量が10質量%を下回ると、誘雨剤を噴霧したときにドライアイス微粒子の量が減少し、誘雨効果が低下する。一方、60質量%を上回ると、誘雨剤の流動性が悪くなるため、ノズルから微細粒子として噴霧することが難しくなり、ドライアイスが二次粒子化して誘雨効果が悪化する。
【0019】
続いて、この誘雨剤の製造方法について説明する。
図1に示すように、誘雨剤を製造する場合には、液体窒素11が収容された収容容器10の周壁10aの上部内面に向けて、液化炭酸ガスのボンベ12に接続された接続管13から液化炭酸ガス14を所定の圧力及び流量で噴出する。このとき、液化炭酸ガス14が断熱膨張し、ドライアイスの微粒子15が生成する。そのドライアイスの微粒子15を含む高速気流が下向きの旋回流を形成し、液体窒素11の液面に衝突してドライアイスの微粒子15が液体窒素11中に取り込まれる。液体窒素11中では、液体窒素11の気化による泡が発生していることから、液体窒素11中に取り込まれたドライアイスの微粒子15は液体窒素11の中で十分に分散される。このようにして、液体窒素11中にドライアイスの微粒子15が分散された誘雨剤16が製造される。
【0020】
次に、誘雨ロケットについて説明する。
図2(b)に示すように、誘雨ロケット17は、ロケット本体18の前部に前記誘雨剤16が収容された断熱容器19を備え、該断熱容器19の先端部には蓋体20が着脱可能に設けられ、該蓋体20には誘雨剤16を噴霧可能な噴霧ノズル21が複数個開口されて構成されている。断熱容器19の容積が数リットルである場合、噴霧ノズル21の口径が好ましくは2〜3mm、噴霧ノズル21の個数が好ましくは3〜6個に設定される。この場合、誘雨剤16を噴霧するとき、液体窒素11が急速に蒸発する際にドライアイスの微粒子15は液滴表面から分離し、互いに結合することなく、微粒子状態のまま良好に噴霧される。
【0021】
図2(a)に示すように、誘雨ロケット17に誘雨剤16を収容する場合には、蓋体20を開けた状態で前述の収容容器10に収容された誘雨剤16を断熱容器19内に注入する。断熱容器19内に所定量の誘雨剤16を注入した後、蓋体20を閉じることにより誘雨ロケット17がその機能を発揮できる状態となる。
【0022】
次いで、誘雨剤16の使用方法について説明する。
図3に示すように、断熱容器19内に誘雨剤16が収容された誘雨ロケット17を雲、霧などの多量の水分がある領域を目指して所定角度で打ち上げる。この場合、誘雨ロケット17が到達する地点で氷晶が融解する融解温度(0℃)以上であることが好ましい。この融解温度は、一般に夏季では高度4000m以上、冬季では高度1000m以上である。
【0023】
打ち上げられた誘雨ロケット17は、上昇体勢から下降体勢に移行し、そのとき液体窒素11が気化して窒素ガスが生成し、生成した窒素ガスの圧力により噴霧ノズル21から誘雨剤16が噴霧される。誘雨ロケット17の落下速度は遅いことから、100〜500m程度の落下経路に沿って数秒〜数十秒の時間をかけて噴霧される。噴霧終了時の誘雨ロケット17の高度は、融解温度以上を示す高度であることが望ましい。噴霧された誘雨剤16により、ドライアイスの微粒子15を核として水滴が形成され、水滴によって雨雲22が形成され、やがて降雨に導かれる。
【0024】
以上の実施形態により発揮される効果を以下にまとめて記載する。
(1) 本実施形態の誘雨剤16はドライアイスの微粒子15が液体窒素11中に分散されて構成されている。このため、ドライアイスの微粒子15を断熱容器19中の液体窒素11に分散させることにより、ドライアイスの微粒子15をその状態で長時間保持することができると共に、誘雨剤16を大気中の水分が多い領域に向けて噴霧することによってドライアイスの微粒子15を核とする水滴を形成することができる。
【0025】
従って、本実施形態の誘雨剤16は、簡易な構成で、人工的に有効に降雨を導くことができる。
(2) 誘雨剤16は、液体窒素11に向けて液化炭酸ガス14を噴出し、ドライアイスの微粒子15を生成させて該微粒子15を液体窒素11中に分散させることにより製造することができる。このため、液化炭酸ガス14のボンベ12、液体窒素11を収容する収容容器10等の装置があれば、誘雨剤16を簡単かつ速やかに製造することができる。さらに具体的には、ドライアイスの微粒子15を液体窒素11の表面に衝突させ、ドライアイスの微粒子15を液体窒素11中に取り込み、液体窒素11の気化によって生成した泡によりドライアイスの微粒子15を液体窒素11中に分散させることにより、誘雨剤16を容易に製造することができる。
【0026】
(3) 誘雨ロケット17は、ロケット本体18の前部に誘雨剤16が収容された断熱容器19を備え、該断熱容器19の先端部には誘雨剤16を噴霧可能な噴霧ノズル21が開口されて構成される。このため、従来のように重い炭酸ガスボンベではなく、軽量な断熱容器19から誘雨剤16を噴霧することができ、航空機を使用しなくても小型のロケットで誘雨剤16を噴霧することができる。
【0027】
(4) 誘雨剤16の使用方法として、誘雨ロケット17を打ち上げ、該誘雨ロケット17が上昇体勢から下降体勢に移行すると共に、液体窒素11が気化して生成した窒素ガスにより噴霧ノズル21から誘雨剤16を噴霧し、噴霧された誘雨剤16を核とする水滴により雨雲を形成し、容易に降雨に導くことができる。従って、従来のようにバルブ、タイマー等の噴霧機器を使用することなく、誘雨ロケット17を打ち上げることにより所定の高度で誘雨剤16を噴霧することができ、コスト低減を図ることができる。
【0028】
なお、本発明は前記実施形態を次のように変更して実施することもできる。
・ 誘雨ロケット17を所定の高度に打ち上げるために、到達高度に合わせて大きさの異なる複数の誘雨ロケット17を用意することができる。その場合、例えば夏季用の誘雨ロケット17(到達高度5000m)、春秋用の誘雨ロケット17(到達高度3500m)及び冬季用の誘雨ロケット17(到達高度1500m)を用意することができる。
【0029】
・ 誘雨ロケット17の高度を微調整するために、誘雨ロケット17先端のノーズコーンの角度を増大させたり、ノーズコーンの先端部を平坦にカットしたりして、空気抵抗を増加させ到達高度を下げるように構成することができる。
【符号の説明】
【0030】
11…液体窒素、14…液化炭酸ガス、15…ドライアイスの微粒子、16…誘雨剤、17…誘雨ロケット、18…ロケット本体、19…断熱容器、21…噴霧ノズル、22…雨雲。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライアイスの微粒子が液体窒素中に分散されて構成されていることを特徴とする誘雨剤。
【請求項2】
請求項1に記載の誘雨剤の製造方法であって、
液体窒素に向けて液化炭酸ガスを噴出し、ドライアイスの微粒子を生成させて該微粒子を液体窒素中に分散させることを特徴とする誘雨剤の製造方法。
【請求項3】
前記ドライアイスの微粒子を液体窒素の表面に衝突させ、ドライアイスの微粒子を液体窒素中に取り込み、液体窒素の気化によって生成した泡によりドライアイスの微粒子を液体窒素中に分散させることを特徴とする請求項2に記載の誘雨剤の製造方法。
【請求項4】
ロケット本体の前部には請求項1に記載の誘雨剤が収容された断熱容器を備え、該断熱容器の先端部には誘雨剤を噴霧可能な噴霧ノズルが開口されていることを特徴とする誘雨ロケット。
【請求項5】
請求項4に記載の誘雨ロケットを打ち上げ、該誘雨ロケットが上昇体勢から下降体勢に移行すると共に、液体窒素が気化して生成した窒素ガスにより噴霧ノズルから誘雨剤を噴霧し、噴霧された誘雨剤を核とする水滴により雨雲を形成し、降雨に導くことを特徴とする誘雨剤の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−160751(P2011−160751A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28874(P2010−28874)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)