説明

調律方法、ハーモニカおよび鍵盤ハーモニカ

【課題】リードの耐久性が劣化する調律方法を提供する。
【解決手段】リード22,24は、一体成形された固着部22a,24aと、リード本体22b,24bとを有している。リード22,24は、固着部22a,24aの中心点を、リード保持プレートの貫通孔の近傍に、スポット溶接などにより固着されて、片持ち梁状に設けられる。リード22,24は、表面に、レーザー光線を照射して、照射部たる溶融・蒸発部30c、30dを形成して所定の音程となるように調律する。リード22,24で音程の調律を行う場合、音程を高くする際には、溶融・蒸発部30cをリード22,24の先端側に設け、リード22,24の音程を低くする際には、溶融・蒸発部30dをリード22,24の固着部22a,24aに設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、調律方法、ハーモニカおよび鍵盤ハーモニカに関し、特に、レーザー光線を利用してリードを調律加工する方法であって、かつ、このような調律加工方法により所定の音程に調律されたリードを用いるハーモニカおよび鍵盤ハーモニカに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハーモニカの基本構造は、例えば、特許文献1に開示されているように、複数の音孔が並列状態に設けられたハーモニカ本体と、前記ハーモニカ本体の上下面に配置され、前記音孔に個別に連通する貫通孔を有する一対のリード保持プレートと、先端側を自由端として基端側を固定端とするようにして、前記リード保持プレートの前記貫通孔に対し、振動に適した位置に配置される複数のリードと、前記リード保持プレートの上方に配置される一対のカバーとを備えた構造が知られている。
【0003】
複数の音孔に配置されたリードは、吸音と吹き音のいずれかで振動して、所定の音階の音が発生するようになっている。各リードは、所定の音階の音が発生するように、調律される。
【0004】
この調律方法は、従来から、手作業によりリードの一部をヤスリやキサゲにより削り取ることで行われていた。
【0005】
図11は、ハーモニカ用のリード1において、従来の手作業での調律例を示している。リード1は、固着部1aと、固着部1aの一端に一体に形成されたリード本体1bとを有している。固着部1aは、ほぼ正方形に形成され、その中心に、図示省略の保持プレートにスポット溶接される固着点1cが形成される。リード本体1bは、固着部1aよりも幅が狭い長方形状に形成されている。このような構造のリード1において、所定の音程に調律する際には、音程を高くする場合には、リード本体1bの先端側の一部1dを削り取り、音程を低くするには基端側の一部1eを削り取ることで行う。
【0006】
しかしながら、このように従来の調律方法には、以下に説明する技術的な課題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2000−66662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
すなわち、従来の調律方法で、基端側の一部1eの位置に傷をつけると、リード1の耐久性が劣化し、長時間大きな音で発音させると、金属疲労により、リード1の基端側の削った部分から破断し易くなるという問題があった。
また、手作業による調律では、リード1をヘラなどにより起こした状態で固定する必要があり、熟練を要するとともに、時間がかかる作業であった。
さらに、ヤスリなどによる削り取り作業では、リード1の周囲にバリが発生することがあり、それをそのまま放置すると、これが支持プレートに接触して音が鳴らなかったり,音質が変化するので、バリの除去が必要になるという課題があった。
【0009】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、レーザー光線を用いた、ハーモニカおよび鍵盤ハーモニカのリードの耐久性を劣化させない調律方法であって、かつ、このような調律方法で音程が調律されたリードを備えたハーモニカおよび鍵盤ハーモニカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、リード本体部と、前記リード本体部の一端に一体に形成され、保持プレートへの固着部とを備え、所定の音階の音が発生するように調律されたリードを有するハーモニカや鍵盤ハーモニカの調律方法において、前記固着部の表面にレーザー光線を照射して、前記固着部の表面に溶融・蒸発部を形成することで音程を下げ、所定の音程となるように調律するようにした。
【0011】
前記固着部は、前記リードを前記保持プレートに固定する固着点と、前記固着点の外周囲に設けられ、前記リード本体部よりも幅が広い幅広部とを有し、前記溶融・蒸発部を前記幅広部に形成することができる。
【0012】
また、本発明は、リード本体部と前記リード本体部の一端に一体に形成され、保持プレートへの固着部とを備え、所定の音階の音が発生するように調律されたリードを有するハーモニカや鍵盤ハーモニカにおいて、前記固着部の表面にレーザー光線を照射して、前記固着部の表面に溶融・蒸発部を形成することで音程を下げ、所定の音程となるように調律するようにした。
【0013】
前記固着部は、前記リードを前記保持プレートに固定する固着点と、前記固着点の外周囲に設けられ、前記リード本体部よりも幅が広い拡幅部とを有し、前記溶融・蒸発部を前記幅広部に形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に係わる調律方法によれば、リードの耐久性を損なわずに定量的な切削(溶融・蒸発部の形成)が可能であり、例えば、1セント単位での調律が可能となる。さらに、手作業での調律のようにリードをヘラで固定する必要はなく、リードの周囲にバリが発生することもない。
【0015】
本発明の請求項3に係わるハーモニカおよび鍵盤ハーモニカによれば、リードの耐久性を損なわずに定量的な切削(溶融・蒸発部の形成)が可能であり、耐久性に優れた、高精度の音程を持つ、ハーモニカおよび鍵盤ハーモニカが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1〜図7は、本発明に係る調律方法を、10穴ハーモニカと呼ばれるハーモニカのリードに適用した場合の実施例を示している。
【0017】
これらの図に示したハーモニカ10は、概略長方体形状のハーモニカ本体12と、平板状の一対の上,下リード保持プレート14,16と、概略平板状の一対の上,下カバー18、20とを備えている。
【0018】
ハーモニカ本体12は、複数の音孔12aが並列状態に設けられ、各音孔12aは、切り板12bにより個別に画成されている。
【0019】
上リード保持プレート14は、ハーモニカ本体12と幅および長さがほぼ同じ形状の1枚の板であって、ハーモニカ本体12の上面側に配置されて、複数のねじにより本体12に固定される。
【0020】
また、上リード保持プレート14には、音孔12aに個別に連通する貫通孔14aが穿設されている。貫通孔14aには、上リード22が配置されている。上リード22は、先端側を自由端として基端側を固定端とするようにして、上リード保持プレート14の貫通孔14aに対し、振動に適した位置に配置されている。
【0021】
下リード保持プレート16は、ハーモニカ本体12と幅および長さがほぼ同じ形状の1枚の板であって、ハーモニカ本体12の下面側に配置されて、複数のねじにより本体12に固定される。
【0022】
また、下リード保持プレート16には、音孔12aに個別に連通する貫通孔16aが穿設されている。貫通孔16aには、下リード24が配置されている。下リード24は、先端側を自由端として基端側を固定端とするようにして、下リード保持プレート16の貫通孔16aに対し、振動に適した位置に配置されている。
【0023】
上カバー18は、上リード保持プレート14の上方に装着配置され、下カバー20は、下リード保持プレート16の下方に装着配置される。
【0024】
このように構成されたハーモニカ10では、図2〜図5に示すようなメカニズムにより音が発生する。まず、ハーモニカ10は、図3に示すように、リード22側からリード保持プレート14側に向けて空気が流れると発音し、これとは逆に、リード保持プレート14側からリード22側に流れると発音しないという基本構造になっている。
【0025】
つまり、ハーモニカ10の音孔12aに息を吹き込んだ場合には、図4に示すように、上リード22が発音し、音孔12aから息を吸い込むと、図5に示すように、下リード24が発音することになる。
【0026】
図6は、本実施例のハーモニカ10に使用されているリード22,24の形状を例示している。これらの図に示したリード22,24は、いずれも、例えば、りん青銅ないしは真鍮などの銅合金を構成材料とした平板を、所定の厚みを有する形状に切削加工した形態になっている。
【0027】
本実施例のリード22,24は、一体成形された固着部22a,24aと、リード本体部22b,24bとを有している。固着部22a,24aは、ほぼ正方形状に形成されており、その中心に保持プレート14,16への固着点22c,24cが形成される。リード本体部22b,24bは、固着部22a,24aよりも幅が狭く、かつ、厚みの薄い長方形状に形成されている。このようなリード22,24は、固着部22a,24aの中心点を、リード保持プレート14,16の貫通孔14a,16aの近傍に、スポット溶接やリベッド,かしめにより固着されて、片持ち梁状に設けられる。
【0028】
図7は、レーザー光線を使用する本実施例の調律方法の具体的な例を示している。各リード22,24は、その表面には、レーザー光線を照射して、照射部たる溶融・蒸発部30c、30dを形成して所定の音程となるように調律したものとなっている。
【0029】
各リード22,24で音程の調律を行う場合、音程を高くする際には、溶融・蒸発部30cをリード本体部22b,24bの先端側に設け、リード22,24の音程を低くする際には、溶融・蒸発部30dをリード22,24の固着部22a,24aに設ける。図7に示した溶融・蒸発部30dは、固着部22a,24aのリード本体22b,24b側にあって、ほぼ同じ幅の長方形状になっている。
【0030】
溶融・蒸発部30dの形状は、任意に設定することができ、例えば、その変形例を図10(A)、(B)に例示する。図10(A)は、溶融・蒸発部30dを固着点22c,24cの外周を半分囲むように形成した例である。図10(B)は、溶融・蒸発部30dを固着点22c,24cの全周を囲むように形成した例である。
【0031】
図8には、リード22,24を調律加工する際の加工状態の一例が示されている。同図に示した調律加工方法では、図示しないリード保持プレート14,16を適当な治具に保持させて、調律しようとするリード22,24の表面にレーザー光線を照射する。
【0032】
そして、レーザー光線を照射することで、リード22,24の表面に溶融・蒸発部30c、30dを形成することで所定の音程となるように調律する。溶融・蒸発部30c、30dを形成した調律が行われたリード22,24は、図8に示すように、図示しない送風機などの手段により振動させて音を発生させ、これをマイクで集音して、電気信号に変換した後に、FFTアナライザにかけることで解析して、所定の音程になっていることを確認する。なお、調律の確認手段としては、この実施例で示したものに限る必要は無く、他の構成の音程測定装置や周波数測定装置であってもよい。
【0033】
レーザー光線の波長は、リードの構成材料に対して、適するものを使用する。例えば、リードの構成材料が、りん青銅または真鍮などの銅合金の場合、波長が600nm以下のレーザー光線、特に、グリーンレーザーと呼ばれている市販レーザーの波長が532nmのレーザー光線は、りん青銅や真鍮などの銅合金に対する吸収特性に優れているので、加工に最適である。
【0034】
一方、リードの構成材料がりん青銅または真鍮などの銅合金の場合、YAGレーザー(波長1064nm)を用いると、反射率が大きく吸収性が悪いので、リードの表面の反射状態により、溶融・蒸発量が左右されて、定量的な調律が困難になるという問題や、また、同レーザーの場合には、波長が長いためリードの発熱量が多くなり、物性が変化して、耐久性が劣化するという問題が発生するので好ましくない。
【0035】
さらに、レーザー光線を使用すれば、手作業での調律のようにリードをヘラで固定する必要はなく、リードの周囲にバリが発生することもない。
【0036】
本実施例の調律方法では、図9の(A)で示したように、リード22を保持プレート14に固着させた状態で行われる。この状態では、リード22は、表面が外部に露出しているので、レーザー光線の照射が可能になっていて、溶融・蒸発部30をリード22に形成して、調律を行なうことができる。
【0037】
本実施例の調律加工方法以外に、図9(B)に示す形態での調律加工が可能である。同図の(B)に示した状態は、リード22,24を上,下リード保持プレート14,16に固着させ、これをハーモニカ本体12の上下面に組み付けた状態であり、別言すれば、ハーモニカ10の組み付け完成状態からカバー18,22を取り外した状態である。
【0038】
この状態では、図2を参照すると良く理解できるように、下リード24は、外部に露出しているのでレーザー光線の照射が可能であり、また、上リード22は、上リード保持プレート14の背面側に配置されているものの、貫通孔14aを介して、大部分が上方に露出しているので、この方向からレーザー光線の照射が可能な状態にある。
【0039】
従って、保持プレート14,16をハーモニカ本体12に組付けた状態でも、レーザー光線を照射して、リード24に溶融・蒸発部30c,30dを形成して、調律加工を行なうことができる。
【0040】
以上のような調律方法によれば、調律したリード22,24を有するリード保持プレート14,16をハーモニカ本体12に組み付けると、音程が変化する場合があって、これが規格から外れると、手作業の調律では、再度分解して調律することになるが、レーザー光線を用いる場合には、組み付けた状態での調律が可能になるので、調律に要する時間が大幅に短縮できる。
【0041】
なお、上記実施例では、本発明をハーモニカ10のリード22,24の加工に適用した場合を例示したが、本発明の実施は、これに限定されることはなく、例えば、鍵盤ハーモニカなどのように、枠の中で薄片が自由に振動するフリーリード楽器のリードの調律加工に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明にかかるリード加工方法、ハーモニカおよび鍵盤ハーモニカによれば、従来の手作業による調律と比べで、リード22、24の耐久性を劣化させず、熟練を必要とせず、調律の高速化と安定化を同時に達成できるので、この種の分野において、大いに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明にかかる加工方法を適用したハーモニカの分解斜視図である。
【図2】図1に示したハーモニカの組み立て状態の断面図である。
【図3】図1に示したハーモニカの発音状態の説明図である。
【図4】図1に示したハーモニカで息を吹き付けた際の発音の説明図である。
【図5】図1に示したハーモニカで息を吸引した際の発音の説明図である。
【図6】リードの説明図である。
【図7】本発明にかかるリード加工方法の一実施例を示す説明図である。
【図8】本実施例の調律方法を示す説明図と、他の調律方法を示す説明図である。
【図9】(A)は、本実施例の調律方法を示す説明図である。(B)は、本発明にかかる調律方法の他の実施例を示す説明図である。
【図10】本発明にかかるリード加工方法の他の例を示す説明図である。
【図11】従来の手作業での調律例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0044】
10 ハーモニカ
12 ハーモニカ本体
14 上リード保持プレート
16 下リード保持プレート
18 上カバー
20 下カバー
22 上リード
24 下リード
22b,24b リード本体部
22a,24a 固着部
30c、30d レーザー調律での溶融・蒸発部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
リード本体部と、前記リード本体部の一端に一体に形成され、保持プレートへの固着部とを備え、所定の音階の音が発生するように調律されたリードを有するハーモニカや鍵盤ハーモニカの調律方法において、
前記固着部の表面にレーザー光線を照射して、前記固着部の表面に溶融・蒸発部を形成することで音程を下げ、所定の音程となるように調律することを特徴とする調律方法。
【請求項2】
前記固着部は、前記リードを前記保持プレートに固定する固着点と、前記固着点の外周囲に設けられ、前記リード本体部よりも幅が広い幅広部とを有し、前記溶融・蒸発部を前記幅広部に形成することを特徴とする請求項1記載の調律方法。
【請求項3】
リード本体部と前記リード本体部の一端に一体に形成され、保持プレートへの固着部とを備え、所定の音階の音が発生するように調律されたリードを有するハーモニカや鍵盤ハーモニカにおいて、
前記固着部の表面にレーザー光線を照射して、前記固着部の表面に溶融・蒸発部を形成することで音程を下げ、所定の音程となるように調律することを特徴とするハーモニカおよび鍵盤ハーモニカ。
【請求項4】
前記固着部は、前記リードを前記保持プレートに固定する固着点と、前記固着点の外周囲に設けられ、前記リード本体部よりも幅が広い拡幅部とを有し、前記溶融・蒸発部を前記幅広部に形成することを特徴とする請求項3記載のハーモニカおよび鍵盤ハーモニカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−92562(P2013−92562A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232949(P2011−232949)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000155975)株式会社鈴木楽器製作所 (7)