説明

調湿材

【課題】 調湿材単体で使用しても接水による損傷を受けることがなく、したがって透湿防水シートなどでカバーする手段を採ることなく、調湿材に一時的に接水する可能性がある場所で好適に使用することができる調湿材を提供する。
【解決手段】 エチレン・プロピレン共重合体100質量部と、吸水ポリマー30〜300質量部と、可塑剤とを含有し、可塑剤の配合量が吸水ポリマーの配合量の20〜80質量%である調湿材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムに吸水ポリマーを配合した調湿材に関し、さらに詳述すると、調湿材に一時的に水が接触する可能性がある場所での使用に特に好適な調湿材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空間内に配置して上記空間内の湿度を調整するための調湿材として、シリカゲル、塩化カルシウム等の薬剤を用いて吸湿のみを行う除湿剤、ゴムに吸水ポリマーを配合したゴム成形体(特許文献1参照)がある。また、吸湿剤とは異なるが、ゴムを用いた土木・建築用の止水材として、水と接触すると自己体積が膨張して止水効果を発揮する水膨張弾性シール材(旭電化工業株式会社製アデカウルトラシール(商品名))がある。
【0003】
上述した除湿材、ゴム成形体、止水材を耐水性の面から見ると、これらには下記のような問題点がある。すなわち、シリカゲルは耐水性は高いが、吸湿した後、強制的に熱などを加えて吸収した水分を放出しないと再使用ができない。塩化カルシウムは吸収した水分に溶けてしまうので、耐水性はない。ゴムに吸水ポリマーを配合したゴム成形体は、ゴム成形体の表面に水が接触(接水)すると、短時間(数十秒程度)で吸水ポリマーが析出してくるので、調湿材に一時的に接水する環境では、ゴム成形体単体では使用することができない。ゴムを用いた水膨張弾性シール材は、水に濡れて体積が膨張することで止水効果を発揮するので、接水しても組成物内の成分が析出することはないが、吸湿面では効果がない。
【0004】
調湿材に一時的に接水する可能性があり、かつ調湿を要求される具体的な用途とそれらに対する問題点としては、以下のようなものがある。屋外電気設備に関しては、具体的な設備の一例として電力配電キャビネットがある。この電力配電キャビネットは、内部で地下幹線電力ケーブルを分岐し、マンション等の任意物件へ電力を配電するもので、地下幹線電力ケーブルをキャビネットへ導くためのハンドホールという作業ホールがキャビネットの直下に設置されている。しかし、上記ハンドホールには、雨などにより水が溜まる可能性があるため、キャビネットの調湿には接水を考慮した調湿材が必要になる。現在の技術では、調湿材を透湿防水シートなどでカバーして接水による調湿材の損傷を軽減しているが、そのため調湿材の製品コストが高くなってしまう。また、その他の屋外電気設備も、屋外に設置されている関係上、調湿材の接水の可能性は避けられない。
【0005】
食品の輸送に関しては、生鮮食品など、輸送中に乾燥してしまうと商品価値が損なわれるものがある。このような食品の輸送には、調湿材を使用して常に高湿度を保つ技術があり、上記調湿材の原料には、例えば吸放湿性能を有する吸水ポリマーなどが使用される。しかし、ひとつの輸送が終わり次の輸送のために食品容器を洗浄する際、食品容器に調湿材を付けたまま水道水などで洗浄ができないと、輸送コストが高くなってしまう。この場合、調湿材を透湿防水シートなどでカバーして接水による調湿材の損傷を軽減する技術があるが、これによって調湿材の製品コストが高くなってしまう。
【0006】
靴に関しては、発汗と洗浄によって靴の中敷きが吸水するため、靴の内部では調湿材に一時的に接水する可能性がある。建材に関しては、建物の内壁と外壁との間などに調湿材を配置することで防カビなどの効果を狙うことがあるが、雨や結露によって調湿材に一時的に接水する可能性がある。コンテナ輸送に関しては、コンテ内部に配置した調湿材に一時的に接水する可能性がある。したがって、上述した靴の内部、建物の内部、輸送コンテナの内部に配置した調湿材の接水による損傷を軽減するためには、調湿材を透湿防水シートなどでカバーする必要があるが、このようにすると調湿材の製品コストが高くなってしまう。また、透湿防水シートで調湿材をカバーしてしまうと、透湿防水シートの通気抵抗による吸湿速度の低下が起こる場合がある。さらには、透湿防水シートでカバーするために、調湿材のサイズに制約が生じる場合がある。
【0007】
【特許文献1】特開2004−315557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、調湿材単体で使用しても接水による損傷を受けることがなく、したがって透湿防水シートなどでカバーする手段を採ることなく、調湿材に一時的に接水する可能性がある場所で好適に使用することができる調湿材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、エチレン・プロピレン共重合体に、吸水性に優れた吸水ポリマーと可塑剤とを所定の割合で配合した調湿材は、一時的に接水しても吸水ポリマーが析出せず、したがって調湿材に一時的に接水する可能性がある場所において、接水による損傷を受けることなく効果的に調湿を行うことができることを見出した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、エチレン・プロピレン共重合体100質量部と、吸水ポリマー30〜300質量部と、可塑剤とを含有し、前記可塑剤の配合量が前記吸水ポリマーの配合量の20〜80質量%であることを特徴とする調湿材を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の調湿材は、調湿材単体で使用しても接水による損傷を受けることがなく、したがって調湿材に一時的に接水する可能性がある場所において調湿材単体で使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。本発明において、エチレン・プロピレン共重合体としては、EPM(エチレン・プロピレン・ゴム、EPRと同義)またはEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム、EPTと同義)あるいはこれらの混合物を好適に使用することができる。EPMはエチレンとプロピレンとの共重合体であり、EPDMはさらに少量の第3成分を含む三元重合体である。本発明では、エチレン・プロピレン共重合体として、中でもEPMが好ましい。
【0013】
本発明において、吸水ポリマーとしては、設置場所の相対湿度が高くなると吸湿して相対湿度を低下させ、また、相対湿度が低くなると逆に放湿して相対湿度を上昇させるという性能を持つものが適当である。一般に、吸水ポリマーは、粉末状や粒状のものであり、自重の数倍から数百倍の水分を吸水して膨張する。上記の性能を持つ吸水ポリマーとしては、アクリル酸塩・アクリルアミド共重合体、ポリビニルアルコール・無水マレイン酸反応物、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体ケン化物、ポリアクリロニトリル共重合体等が挙げられる。これらの中では、吸水性能や価格などの点からアクリル酸塩系架橋物が特に好ましい。
【0014】
吸水ポリマーの配合量は、エチレン・プロピレン共重合体100質量部に対し、30〜300質量部である。吸水ポリマーの配合量が上記範囲より少ないと吸湿剤の吸湿能力が小さく、上記範囲より多いと成形が困難となる。吸水ポリマーの配合量のより好ましい範囲は、エチレン・プロピレン共重合体100質量部に対し30〜50質量部である。
【0015】
本発明において、可塑剤としては、フタル酸エステル系、アジピン酸エステル系、セバシン酸エステル系、アゼライン酸エステル系、リン酸エステル系、トリメリット酸エステル系、クエン酸エステル系、エポキシ系、ポリエステル系などの可塑剤を使用することができるが、取り扱い易さ、価格、入手の容易さなどから、フタル酸エステル系の可塑剤が良い。
【0016】
可塑剤の配合量は、吸水ポリマーの20〜80質量%、より好ましくは20〜66.7質量%とする。吸水ポリマーに対する可塑剤の量を所定の割合とすることにより、調湿材が一時的に接水した場合に、吸水ポリマーが短時間で析出することを確実に防止することができる。
【0017】
本発明の調湿材には、充填剤をさらに配合することができ、これにより調湿材の物性を改良するなどの効果を得ることができる。充填材としては、重質炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、軽質または軽微性炭酸カルシウム、半膠質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、クレー、硼酸亜鉛、シリカ、フライアッシュ、胡粉、チョーク等を使用することができるが、価格、入手の容易さなどから、重質炭酸カルシウムが良い。充填剤の配合量は、エチレン・プロピレン共重合体100質量部に対し20〜40質量部とすることが適当である。なお、本発明において、上記充填剤は補強剤や強化剤を含む概念である。
【0018】
なお、本発明の調湿材には、例えば滑剤、顔料、着色剤、加工助剤、忌避剤、殺虫剤、抗菌剤などの任意成分を適宜配合することができる。
【0019】
本発明の調湿材は、調湿材に一時的に接水する可能性がある場所に好適に使用することができる。このような場所としては、例えば、屋外電気設備の内部、食品輸送設備の内部、靴の内部、衣類収納設備の内部、建物の内部、輸送コンテナの内部などが挙げられる。この場合、本発明の調湿材の形状は、上述した用途に応じて適宜形状に形成することができるが、特に好ましいのは湿度調整効果の点でシート状に形成することである。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
エチレン・プロピレン共重合体としてEPDM(JSR株式会社製EP21(商品名))を100質量部と、吸水ポリマーとしてアクリル酸塩系架橋物(三洋化成工業株式会社製サンフレッシュST500MPS(商品名)、中心粒径20〜50ミクロン、吸水性能:自重の400倍)を50質量部と、可塑剤としてフタル酸エステル(株式会社ジェイ・プラス製DINP(商品名))を20質量部と、充填材として重質炭酸カルシウム(備北粉化工業株式会社製ソフトン1500(商品名))を20質量部とを配合して、混練機であるバンバリーミキサーにて混練し、押出機やプレス成形機にてシート状に成形して調湿材を製造した。
【0022】
(実施例2)
エチレン・プロピレン共重合体としてEPM(JSR株式会社製EP07P(商品名))を100質量部と、吸水ポリマーとしてアクリル酸塩系架橋物(同前)を50質量部と、可塑剤としてフタル酸エステル(同前)を20質量部と、充填材として重質炭酸カルシウム(同前)30質量部と、着色剤としてカーボンブラック(旭カーボン株式会社製旭♯70(商品名))を1質量部とを配合して、混練機であるバンバリーミキサーにて混練し、押出機やプレス成形機にてシート状に成形して調湿材を製造した。
【0023】
(実施例3)
実施例2において、可塑剤の配合量を10質量部、充填剤の配合量を20質量部とし、着色剤を無配合としたこと以外は、実施例2と同様にして調湿材を製造した。
【0024】
(実施例4)
実施例2において、可塑剤の配合量を10質量部、充填剤の配合量を20質量部としたこと以外は、実施例2と同様にして調湿材を製造した。
【0025】
(実施例5)
実施例2において、吸水ポリマーの配合量を30質量部、充填剤の配合量を20質量部とし、着色剤を無配合としたこと以外は、実施例2と同様にして調湿材を製造した。
【0026】
(実施例6)
実施例5において、充填剤の配合量を30質量部としたこと以外は、実施例5と同様にして調湿材を製造した。
【0027】
(実施例7)
実施例2において、吸水ポリマーの配合量を30質量部、充填剤の配合量を40質量部としたこと以外は、実施例2と同様にして調湿材を製造した。
【0028】
(比較例1)
アクリルゴム(株式会社トウペ製トアアクロンPS250(商品名))を100質量部と、吸水ポリマーとしてアクリル酸塩系架橋物(同前)を300質量部と、可塑剤(旭電化工業株式会社製アデカサイザーRS700(商品名))を50質量部と、加工助剤として粉末ステアリン酸(旭電化工業株式会社製)を2質量部と、充填材として酸化チタン(古河機械金属株式会社製)を20質量部と、着色剤としてカーボンブラック(同前)を0.5質量部とを配合して、混練機であるバンバリーミキサーにて混練し、押出機やプレス成形機にてシート状に成形して調湿材を製造した。この調湿材は、前記特許文献1の実施例に記載されたゴム成形体に該当するものである。
【0029】
(比較例2)
エチレン・プロピレン共重合体としてEPDM(同前)を100質量部と、吸水ポリマーとしてアクリル酸塩系架橋物(同前)を100質量部とを配合して、混練機であるバンバリーミキサーにて混練し、押出機やプレス成形機にてシート状に成形して調湿材を製造した。
【0030】
(比較例3)
エチレン・プロピレン共重合体としてEPDM(同前)を100質量部と、吸水ポリマーとしてアクリル酸塩系架橋物(三洋化成工業株式会社製サンフレッシュST500*(商品名)、中心粒径370ミクロン、吸水性能:自重の400倍)を100質量部とを配合して、混練機であるバンバリーミキサーにて混練し、押出機やプレス成形機にてシート状に成形して調湿材を製造した。
【0031】
(比較例4)
アクリルゴム(株式会社トウペ製トアアクロンPS250(商品名))を100質量部と、吸水ポリマーとしてアクリル酸塩系架橋物(三洋化成工業株式会社製サンフレッシュST500MPS(商品名))を50質量部と、可塑剤としてフタル酸エステル(株式会社ジェイ・プラス製DINP(商品名))を10質量部と、充填材として重質炭酸カルシウム(同前)を20質量部と、着色剤としてカーボンブラック(同前)を1質量部とを配合して、混練機であるバンバリーミキサーにて混練し、押出機やプレス成形機にてシート状に成形して調湿材を製造した。
【0032】
次に、実施例および比較例の調湿材の評価を行った。評価は下記項目について行った。評価結果を表1、表2に示す。なお、調湿材の原料の商品名を表3に示す。
【0033】
[耐水性]
大きさを名刺程度、厚みを2mm程度に成形した調湿材のシート状サンプルを用意した。このサンプルの表面に水滴を垂らして放置し、各時間毎に吸水ポリマーの析出の程度を目視により観察し、下記基準により評価した。試験環境はJISに規定された常温室とした。
○:吸水ポリマーが析出していない様子
△:吸水ポリマーが若干析出している様子
×:吸水ポリマーが析出している様子
[吸湿性]
温度条件を40℃、相対湿度条件を98%RHとした恒温高湿槽内に耐水性試験で用いたのと同じサンプルを投入し、適宜時間毎に吸湿剤の質量変化を計測して下記式により吸湿率を算出した。
吸湿率(%)=(A−B)/A×100
A:吸湿前の調湿材の重量(g)
B:吸湿後の調湿材の重量(g)
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

耐水性試験の結果より、比較例の調湿材では1分以内に吸湿ポリマーが顕著に析出するのに対して、実施例の調湿材では1分以上吸湿ポリマーの顕著な析出が見られず、したがって本発明の調湿材は一時的に接水する環境での使用が可能であることがわかる。また、吸湿性試験の結果より、実施例の調湿材は時間を経る毎に20〜80%以上吸湿する性能を有していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・プロピレン共重合体100質量部と、吸水ポリマー30〜300質量部と、可塑剤とを含有し、前記可塑剤の配合量が前記吸水ポリマーの配合量の20〜80質量%であることを特徴とする調湿材。
【請求項2】
充填剤20〜40質量部をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の調湿材。
【請求項3】
前記エチレン・プロピレン共重合体がEPMであることを特徴とする請求項1または2に記載の調湿材。

【公開番号】特開2007−77194(P2007−77194A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263905(P2005−263905)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(591086843)古河電工産業電線株式会社 (40)
【Fターム(参考)】