説明

豚肉の肉汁損失を減少させるための組成物

25−ヒドロキシビタミンD3は、豚枝肉中の肉汁損失を低下させることが分かった。約25〜75μg/kgの25−ヒドロキシビタミンD3を含有する飼料は、豚肉をはじめとする肉の保水容量を改善する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の簡単な説明]
本発明は、豚に25−ヒドロキシビタミンD3を投与するステップを含んでなる、豚肉の肉汁損失を減少させる方法に関する。本発明はまた、肉汁損失を減少させるのに効果的であり、25−ヒドロキシビタミンD3を含有する、豚用飼料およびプレミクスにも関する。
【0002】
[背景技術]
保水容量(WHC)および色は、豚肉の鮮度の主要な品質特性である。それらは新鮮な肉の外観、ひいては消費者の購入時の認知に影響する。さらにWHCは、新鮮な肉の技術的価値と、調理済みまたは加工製品の多汁性との双方に影響する。
【0003】
過去には、肉質に関与するものとして多数の要素が調査されている。いくつかの遺伝子が、許容できない枝肉品質の一因となるとして同定されている。例えばハロタン遺伝子の存在が、豚枝肉にPSE(色調が淡く、軟質、滲出性)を高い頻度でもたらした。しかし繁殖戦略の成功によって、今や多かれ少なかれヨーロッパの豚個体群からハロタンキャリアが排除されており、引き続いて極端なPSE症例が排除されている。しかしWHCの違いおよび淡い肉色は依然として存在するので、この遺伝子の排除は問題を完全に解決していない。
【0004】
USAおよびいくつかのヨーロッパの国々では、重要な経済的損失には、RSE(色調は赤く、軟質、滲出性)肉のような典型的なPSE肉とは異なる品質欠陥が関わっていることが分かっている。いずれにしても肉のWHCが乏しいことが、双方の欠陥の基本的側面である。
【0005】
豚の肉質に対するストレスおよび栄養の影響が、大規模に研究されている。いくつかの要因が、豚肉のWHCに影響を与えると見なされている。栄養因子中、ビタミンおよび微量元素もまた検討されるべきである。したがって生育−肥育豚の飼料に影響を与えることで、豚肉中の肉汁損失を低下できることが望ましいであろう。25−ヒドロキシビタミンD3が、従来、ブタの飼料に添加されている。例えば国際公開第03/059358号パンフレット、国際公開第05/664018号パンフレット、および欧州特許第1516540号明細書を参照されたい。しかしこれらの出願のいずれも肉汁損失量を低下させる25−ヒドロキシビタミンD3の能力を教示していない。
【0006】
飼料手段を通じて、新鮮な肉中の肉汁損失量を管理できることが望ましいであろう。
【0007】
[発明の詳細な説明]
25−ヒドロキシビタミンD3を添加した動物飼料を給餌することで、得られる肉の保水容量(WHC)を増大し得て、ひいては枝肉の肉汁損失を低下し得ることが分かった。したがって本発明の一態様は、得られる肉のWHCを改善するのに十分な量の25−ヒドロキシビタミンD3を添加した動物飼料を給餌することである。
【0008】
特に本発明に従って、飼料中で25−ヒドロキシコレカルシフェロール(25−ヒドロキシビタミンD3;25−OH D3とも称される)を与えられた生育−肥育豚の枝肉は、肉汁損失量が低下することが分かった。したがって本発明の一態様は、生育/肥育豚に25−ヒドロキシビタミンD3を投与することにより豚肉中の肉汁損失を減少させる方法である。
【0009】
本発明の別の態様は、肉中の肉汁損失を低下させるための25−ヒドロキシビタミンD3を含んでなる豚用飼料である。本発明のさらに別の態様は、25−OH D3を含有する豚用プレミクスである。
【0010】
25−OHビタミンD3飼料を給餌する方法を使用して、滲出性肉を示す可能性のあるあらゆる動物において肉汁損失を防止し得る。好ましくは、動物は豚または仔ウシである。
【0011】
[投与量]
効果的な投与量は、もちろん飼育される動物種に左右される。豚用では約40〜60μg/kgの25−ヒドロキシビタミンD3、好ましくは50μg/kgの25−ヒドロキシビタミンD3が効果的である。この投与量が、好ましくは肥育豚の生育−肥育期(すなわち約60日目以降)を通して与えられる。いくつかの実施態様では、この投与量は生育−肥育期全体を通して一定である。
【0012】
25−OH D3は、好ましくは容易に混合されて上の投与量を提供し得る、都合よい濃度のビタミンプレミクスの一部である。本発明の別の態様は、完成飼料中の25−OHビタミンD3の量が、約25〜75μg/kg、好ましくは約40〜60μg/kgの25−ヒドロキシビタミンD3、なおもより好ましくは約50μg/kgの25−ヒドロキシビタミンD3になる、飼料と混合し得る濃縮ビタミンプレミクスである。約25〜75μg/kg、好ましくは約40〜60μg/kgの25−ヒドロキシビタミンD3、好ましくは約50μg/kgの25−ヒドロキシビタミンD3を含有する完成飼料もまた、本発明の別の態様を成す。
【0013】
以下、非限定的な実施例を提示して、本発明をさらに例証する。
【0014】
[実施例]
[実施例1]
[生育−肥育豚の枝肉収率、赤味/脂肪比率、および肉汁損失に対する25−ヒドロキシコレカルシフェロールによる長期飼料補給効果の評価]
50匹の28日齢Large−White×Landrace種の離乳したばかりの幼豚、初期体重7.9±0.74kgを使用した。動物を同数の2群(AおよびB)に分けて、環境制御された室内で下位群のケージ(8匹の2ケージ、および9匹の1ケージ)に入れた。各ケージはプラスチック被覆溶接金網床を有し、2個の給水ニップルと2個のステンレス鋼給餌器が装着されていた。室温は最初27℃であり、毎週約2℃ずつ21〜22℃まで低下させた。実験全体を通じて環境湿度百分率は50%であった。実験は、Centre de Recherche en Nutrition Animale(CRNA),DSM Nutritional Products France,BP 170,68305 Saint−Louis cedex,Franceにおいて実施した。これらは生きた動物を用いた実験に関するフランスの法的規制に従って実施された。
【0015】
各動物群には、2000IU/kgのビタミンDを添加した基礎食(A群)、またはビタミンDなしで50μg/kgの25−ヒドロキシコレカルシフェロール(DSM Nutritional Productsから市販されるRovimix(登録商標)Hy・D(登録商標))を添加した基礎食(B群)のどちらかを与えた。
【0016】
どちらの飼料もマッシュ形態で不断給餌した。基礎食は、Henryら(1989年)およびNRC(1998年)に記載の動物の所要量を満たすように調合された。基礎食の組成、および栄養補助栄養飼料中のビタミンDと25−OH D3の濃度を表1に示す。
【0017】
【表1】



【0018】
離乳後期の終わりに、各群の最も重い20匹を生育−肥育期のために使用した。それらの初期体重は、A群では19.4±1.36kg、B群では21.5±1.46kgであった。動物は環境制御された室内で、各4匹の下位群で床置き囲いケージ内で飼育した。各囲いはプラスチック被覆溶接金網床を有し、2個の給水ニップルと4個の個別のステンレス鋼給餌器が装着されていた。室温は21〜22℃であり、湿度百分率は50%であった。
【0019】
豚に、2000IU/kgのビタミンD(A群、離乳後期中に2000U/kgを摂取した動物)または50μg/kgの25−ヒドロキシコレカルシフェロール(B群、離乳後期中に50μg/kgを摂取した動物)のどちらかを補給した飼料を87日間にわたり与えた。基礎食(表2)は、L’alimentation des animaux domestiques − porc,lapin,volailles(INRA編),第2版,INRA,Paris,49〜76頁よりHenryら,1989年;およびNRC,1998年,Nutrient requirements of swine,改訂第10版,National Academic Press.Washington DC,U.S.A.に記載の動物の所要量を満たすように調合された。
【0020】
【表2】



【0021】
動物の健康状態は毎日管理し、肢または足の問題を検出するため動物の秤量中に(起立および歩行姿勢の)特定の観察を行った。
【0022】
実験の終わりに、全ての動物を無作為に4つの異なるロットに分けて、84日目、85日目、86日目、および87日目の屠殺(slaughter campaign)に振り分けた。各ロットの動物を12時間絶食させ、鎮静および失神処置後の屠殺の直前に秤量した。枝肉は脊柱管に沿って長手方向に切り分け、+4℃で24時間の保存後に秤量して枝肉の冷却収率を推定した。
【0023】
中央枝肉の1つで、腸骨脊柱筋肉(背最長筋(longissimus dorsi))全体を切開した。各筋肉を即座に秤量してpHを測定し、そして+4℃で24時間の保存後にも秤量してpHを測定した。保存中の水分回収のために、膨張させたビニル袋内で筋肉を個別に熟成させた。筋肉からの肉汁損失百分率を重量の差および水分回収によって推定した。
【0024】
第2の中央枝肉では、ノギスを用いて異なる3箇所で赤身および脂肪を測定した。第4胸椎の高さでの腸骨脊柱筋肉(背最長筋(longissimus dorsi))の切開後に、筋肉深度を測定した。皮下背脂肪沈着を第4胸椎および腰椎の高さで測定した。これらの測定値を使用して枝肉の赤味/脂肪比を推定した。
【0025】
[統計学的分析]
結果の統計学的処理は、平均値および平均値の標準偏差の計算、ならびに95%信頼水準での二因子階層分散分析を伴った。数理モデルは次のとおりであった。
Yijk=μ+Ai+Bij+Zijk
式中、μは平均値、Aiは飼料効果、Bijは飼料と動物または囲いとの複合効果、およびZijkは残差項である。Bij効果なしで顕著なAi効果が観察された場合、分散分析に続いてスチューデント検定を実施した(SnedecorおよびCochran,1989年 Statistical methods,第8版,Iowa University Press,Ames)。これらの計算は、StatGraphics Plus 5.1(Manugistics,Rockville,U.S.A.2001年)を使用して実施した。全てのパラメーターは、実験単位として各個体を使用して分析した。
【0026】
[結果]
使用した栄養補助飼料中で観察されたビタミンDおよび25−ヒドロキシカルシフェロール濃度は、計画包含レベルと良好に合致した(表1および2)。動物はいかなる実験段階でも疾患症状を呈さず、肢または足の問題も検知されなかった。食餌性25−OH D3補給は、下の表3および4に示されるように冷却収率および枝肉の赤味/脂肪比に対して好ましい効果を与えなかった。
【0027】
【表3】



【0028】
【表4】



【0029】
屠殺直後および24時間保存後にpH値を測定した。腸骨脊柱筋肉セグメントは、25−OH D3を摂取した動物において対照群動物からの値と同様であった(表5)。
【0030】
【表5】



【0031】
筋細胞の細胞内酸性化は、アクチン・ミオシン複合体の立体構造(死後硬直)およびタンパク質変性と共に、筋細線維体積を変える主な3要因の1つである(Monin,2003年 INRA.Prod.Anim.16(4),251)。屠殺後、細胞内pHは7から約5.4〜5.7に低下して筋細線維の収縮を誘発し、筋肉細胞内の水分保持のための利用可能空間を減少させる。
【0032】
本研究で測定された肉汁損失およびpH値は、屠殺中に最適作業条件に置かれた動物との比較で、異なるストレス要因を被った豚の枝肉において、Alarcon Rojoら,2006年、Alarcon Rojo A.D.ら,2006年、Tec Pecu Mex.44(1):53で観察したpH値低下および肉汁損失増大に一致する。
【0033】
迅速なCa2+誘発性内膜開口分泌は膜再封過程の重要な段階であり、1,25−ジヒドロキシコレカルシフェロールは、骨芽細胞中のCa2+チャネル活性化の結果、細胞内カルシウムの上昇を刺激することが報告されている。
【0034】
理論による拘束は望まないが、25−OH D3の食餌補給は、死後の過程の結果としての細胞膜破壊に応えて、間接的に筋肉細胞の修復能力を利用可能にすると思われる。ひとたび水が細胞外空間に達すると、それは筋肉繊維を通過して筋肉端で脱落し得る。本実験では、25−OH D3を与えた豚の筋肉セグメントからは明らかにより少ない体積の水が回収され、質量損失はより少なかった(表5)。
【0035】
[実施例2]
25−ヒドロキシビタミンD3を含有する豚飼料を次のように調製し得る。
【0036】
【表6】



【0037】
[実施例3]
25−ヒドロキシビタミンD3を含有する豚飼料用プレミクスを次のように調製し得る。
【0038】
【表7】



【0039】
全成分を注意深く混ぜ合わせて、このプレミクスを0.5%、最終豚飼料に添加する(5kg/1000kgの飼料)。このようなプレミクスの添加により、調製された飼料中の25−ヒドロキシビタミンD3濃度は50μg/kgになる。
【0040】
代案としては、25−ヒドロキシビタミンD3はまた、適切な担体を含有する1%希釈プレミクスに添加し得る。このような担体は、小麦粉、小麦ミドリング粉、トウモロコシ穂軸、もみ殻、アーモンド殻または炭酸カルシウムを単独で、またはこれらの担体のいくつかの不定混合物であり得る。典型的な配合は次のとおりである。
【0041】
【表8】



【0042】
全ての成分を注意深く混ぜ合わせ、このプレミクスを0.05%、完成豚飼料に添加する(0.5kg/1000kgの飼料)。このようなプレミクスの添加により、調製された飼料中の25−ヒドロキシビタミンD3濃度は50μg/kgになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物から得られる肉の保水容量(WHC)を増大させるのに十分な量の25−ヒドロキシビタミンD3を添加した動物飼料。
【請求項2】
豚または仔ウシ飼料である、請求項1に記載の動物飼料。
【請求項3】
得られる肉のWHCを改善するのに十分な量の25−ヒドロキシビタミンD3を添加した動物飼料を給餌するステップを含んでなる、動物から得られる肉のWHCを改善する方法。
【請求項4】
前記動物が豚または仔ウシである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
生育/肥育中の豚に25−ヒドロキシビタミンD3を投与することにより、豚肉の肉汁損失を減少させる方法。
【請求項6】
25−ヒドロキシビタミンD3を含んでなる、前記肉中の肉汁損失を低下させる豚用飼料。
【請求項7】
約25〜75μg/kg、好ましくは約40〜60μg/kgの25−ヒドロキシビタミンD3、より好ましくは約50μg/kgの25−ヒドロキシビタミンD3を含んでなる、請求項5に記載の飼料。
【請求項8】
完成飼料中の25−OHビタミンD3の量が、約25〜75μg/kg、好ましくは約40〜60μg/kgの25−ヒドロキシビタミンD3であり、より好ましくは50μg/kgの25−ヒドロキシビタミンD3である、飼料と混合し得る25−OHビタミンD3を含んでなるビタミンプレミクス。

【公表番号】特表2011−524177(P2011−524177A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513988(P2011−513988)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057069
【国際公開番号】WO2009/153188
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】