説明

貝殻入りコンクリート及びその製造方法

【課題】貝殻のリサイクル率とコストと品質のバランスがよい貝殻入りコンクリート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】この貝殻入りコンクリートは、ホタテやカキなどの貝殻を破砕した貝殻チップがコンクリートの粗骨材として混合されており、貝殻チップの混合量がコンクリート配合における粗骨材に対し容積比で20乃至60%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝殻を骨材として利用したコンクリート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホタテやカキなどの貝殻は、生産地域においては水産物加工により発生する産業廃棄物であり、その処理は環境保全等の要求から重要であり、そのリサイクルが問題となっている。かかるリサイクルの一環として、貝殻をコンクリートに混入するという提案がこれまで種々なされているが、その多くは、例えば、特許文献1の漁場施設用コンクリート成形体及びその成形方法や特許文献2の漁礁用ブロック、漁礁用ブロックの製造方法及び漁礁用ブロックの使用方法のように、水質浄化や生物付着性の向上を目的としてホタテガラやカキガラをコンクリートにそのまま混入してポーラス状態としたり、あるいは、コンクリート表面に貝殻を突出させて凹凸をつけたブロックやその製造方法等であった。
【0003】
また、貝殻を骨材としてコンクリートに利用する技術も提案されており、例えば、特許文献3のセメントコンクリートや特許文献4の貝殻コンクリート及びその製造方法のように、貝殻を細骨材や粗骨材の規格粒径に適合するように粉砕して細骨材あるいは粗骨材と置き換えたコンクリートの配合について開示されている。
【特許文献1】特開2003−61504号公報
【特許文献2】特開2000−41525号公報
【特許文献3】特開平06−271348号公報
【特許文献4】特開2004−51407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
貝殻をコンクリートに混合しようとする試みは、水産廃棄物である貝殻のリサイクルである有効利用を主目的としている。上記従来技術の特許文献1,2は、貝殻をそのまま手を加えずにコンクリートに混入するので、単位量当たりのリサイクル率および製造コストの両面で有利ではあるが、コンクリート本来の性能や品質、すなわち、強度を期待することはできず、むしろコンクリートとしては不良品といえる。したがって、漁礁の生物付着床として利用する場合などに用途が限定されてしまう。
【0005】
特許文献3,4は、貝殻を骨材として利用するため、できあがったコンクリートは普通コンクリートとして多岐多量に利用可能である。しかし、細骨材として利用するには貝殻を微粉砕する手間が発生し、技術的には問題ないがコストが嵩んでしまう。一方、粗骨材として利用するには細骨材と同様に粉砕する必要はあるが、粗粉砕で済むためコストが低い。ただし、貝殻、例えば、ホタテ貝は、図1(a)に示すように扁平な形状をしており、この貝殻を粗粉砕しても、図1(b)のように粗骨材としては、まだ扁平形状で指向性もあることから、実績率も悪い。また、貝殻の表面は細孔構造を有しており吸水性が高い。このため、粗粉砕した貝殻をコンクリートの粗骨材として利用すると、所定のワーカビリティーを得ることができず、また、固化後のコンクリート強度にもばらつきが生じ易い。
【0006】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、貝殻のリサイクル率とコストと品質のバランスがよい貝殻入りコンクリート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、本発明者等による鋭意検討・研究の結果、ホタテやカキなどの貝殻は扁平した材料であり、貝殻入りコンクリートにおいて粗骨材をすべて貝殻に置き換えるのではなく、砕石と貝殻を混合したものを粗骨材として利用することが好ましく、貝殻の混合割合は容積比で最大60%とすると最も効率がよく、更に、貝殻は粗骨材の標準粒径を逸脱するが、貝殻の粒径を20mm以下とし、5mm以下の細粒分を30〜50%程度含有させ、75μm以下の微粒分については5%以下になるように混合すると、コンクリートの練混ぜ時に良好なワーカビリティーを得ることができ、所定の強度も満足するいう知見を得て本発明に至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明による貝殻入りコンクリートは、ホタテやカキなどの貝殻を破砕した貝殻チップがコンクリートの粗骨材として混合されており、前記貝殻チップの混合量がコンクリート配合における粗骨材に対し容積比で20乃至60%であることを特徴とする。
【0009】
この貝殻入りコンクリートによれば、貝殻チップがコンクリートの粗骨材としてコンクリート配合における粗骨材に対し容積比で20乃至60%の比率で混合されていることで、貝殻のリサイクル率とコストと品質のバランスがよい貝殻入りコンクリートを実現できる。
【0010】
上記貝殻入りコンクリートにおいて前記貝殻チップの粒径範囲が20mm以下であることが好ましい。また、前記貝殻チップの粒度分布において粒径5mm以下の含有率が30乃至50%であることが好ましい。また、前記貝殻チップの粒度分布において微粒分(0.075mm以下)の含有率が5%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明による貝殻入りコンクリートの製造方法は、ホタテやカキなどの貝殻を破砕した貝殻チップをコンクリートに粗骨材として混合し、前記貝殻チップの混合量をコンクリート配合における粗骨材に対し容積比で20乃至60%としたことを特徴とする。
【0012】
この貝殻入りコンクリートの製造方法によれば、貝殻チップをコンクリートの粗骨材としてコンクリート配合における粗骨材に対し容積比で20乃至60%の比率で混合することで、貝殻のリサイクル率とコストと品質のバランスがよい貝殻入りコンクリートを製造できる。
【0013】
上記コンクリートの製造方法において前記貝殻チップの粒径範囲を20mm以下とすることが好ましい。また、前記貝殻チップの粒度分布において粒径5mm以下の含有率を30乃至50%とすることが好ましい。また、前記貝殻チップの粒度分布において微粒分(0.075mm以下)の含有率を5%以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の貝殻入りコンクリート及びその製造方法によれば、貝殻のリサイクル率とコストと品質のバランスがよい貝殻入りコンクリートを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。本実施の形態による貝殻入りコンクリートは、図1(a)のようなホタテの貝殻を破砕機で粒径が20mm以下となるように破砕した図1(b)のような貝殻チップをコンクリートの粗骨材として混合し、この貝殻チップの混合量を一般的なコンクリート配合における粗骨材に対し容積比で20乃至60%としたものである。
【0016】
また、ホタテ以外としてはカキの貝殻を使用でき、ホタテとカキの貝殻は、水産加工における産業廃棄物として量が比較的多いので、産業廃棄物のリサイクルを効果的に達成できる。
【0017】
コンクリートは、セメント、砕石等の粗骨材、砂等の細骨材および水等を所定の比率で混合したものであるが、このようなコンクリート配合における粗骨材に対し上述のように貝殻チップを混合する際の混合率(容積比)を変えたときの強度低下について図2を参照して説明する。
【0018】
なお、上述のコンクリート配合とは、一般的な構造物に用いられるコンクリートであって、設計基準強度が18乃至30N/mm2であり、スランプが8乃至18cmであるようなコンクリートを製造するための配合をいい、このようなコンクリート配合において粗骨材の一部を所定の容積比の範囲で貝殻チップに置き換えたものが本実施の形態による貝殻入りコンクリートである。
【0019】
図2は、本実施の形態におけるホタテの貝殻及びカキの貝殻からそれぞれ得た貝殻チップを粗骨材として混合させて得たコンクリートの強度低下率を示すグラフである。
【0020】
図2では、ホタテの貝殻及びカキの貝殻を粒径が20mm以下となるようにそれぞれ破砕した貝殻チップを粗骨材として各容積比で混合させた貝殻入りコンクリートと、粗骨材に貝殻チップを含まない普通コンクリートと、を貝殻チップの混合の有無以外は同じ条件で得て、貝殻入りコンクリートの圧縮強度を粗骨材に貝殻チップを含まない普通コンクリートの圧縮強度に対する百分率で示している。
【0021】
図2からわかるように、貝殻チップを粗骨材として混合した貝殻入りコンクリートは、ホタテとカキともに貝殻チップの混合率が増えると、強度が低下する傾向にあるが、貝殻チップの通常の粗骨材に対する混合率が容積比で60%であれば、必要充分な強度を得ることができることがわかる。
【0022】
また、貝殻チップの通常の粗骨材に対する混合率が容積比で20%であれば、ホタテやカキなどの貝殻を相当程度の量で使用することになり、産業廃棄物であるホタテやカキなどの貝殻を効率的にリサイクルでき、貝殻のリサイクル率が大きくなる。
【0023】
また、ホタテやカキの貝殻を粒径が20mm以下になるように粗く破砕すれば使用でき、細かく破砕する必要がないので、コストが嵩むことはない。
【0024】
以上のように、本実施の形態の貝殻入りコンクリートによれば、設計基準強度が18乃至30N/mm2であり、スランプが8乃至18cmであるようなコンクリートを製造するためのコンクリート配合において、その粗骨材の一部を貝殻チップで60%(容積比)程度まで置き換えてもコンクリートの品質上問題がない。このように、廃棄物である貝殻のリサイクル率をかなりの程度に維持しつつ必要充分な品質(強度)を得ることができ、しかもコストが嵩まない。したがって、貝殻のリサイクル率とコストと品質のバランスがよい貝殻入りコンクリートを実現できる。
【0025】
また、本実施の形態による貝殻入りコンクリートにおいて、貝殻チップの粒径範囲が20mm以下であり、更に貝殻チップの粒度分布において粒径5mm以下の含有率を30〜50%とすることで、良好なスランプを得ることができ、良好なワーカビリティーを得ることができるとともに所定の強度も満足することができる。また、貝殻チップの粒度分布において微粒分(0.075mm以下)の含有率を5%以下とすることで、一層良好なスランプを得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明について実施例により更に具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1乃至4におけるコンクリート配合表を次の表1に示し、表1のように実施例1乃至4に使用したホタテ1,2,3の粒径加積曲線を図3に示す。表1におけるホタテ1,2,3は、粒度分布が異なり、それらの粒径加積曲線が図3のように相違する。
【0028】
なお、図3の粒径加積曲線とは、粒子のふるい分け試験による粒度分析で得た結果(粒度分布状態)をある粒径より小さい粒子の割合の百分率と粒径(対数)で表した曲線であり、地盤工学会基準の「土の粒度試験方法」(JGS 0131-2000)により得た。
【0029】
【表1】

【0030】
図3のように、ホタテ1〜3は、いずれも最大粒径が20mmであるが、粒径5mm以下の含有量がホタテ1では31%、ホタテ2では43%、ホタテ3では46%である。
【0031】
また、粒径0.075mm以下の微粒分の含有量は、ホタテ1では1.4%、ホタテ2では0.65%、ホタテ3では2.43%であった。
【0032】
ホタテ1,2,3は、いずれも図3の破線で示すJSCE標準粒径よりも細粒分が多い粒径加積曲線となっている。
【0033】
上述のホタテ1,2,3を表1のように粗骨材として配合して得られた実施例1〜4及び比較例の各コンクリートについてのスランプ試験、空気量および圧縮強度試験の各結果を次の表2に示す。なお、スランプ試験はJIS A 1101−1998、圧縮強度試験はJIS A 1108−1999、空気量試験はJIS A 1128に基づいて行った。
【0034】
【表2】

【0035】
混合率60%の実施例1,3,4の結果を比較例の普通コンクリートと比較すると、圧縮強度についてはホタテを混合したので低下したが、必要充分な強度が得られていることがわかる。また、ホタテ1,2,3の違いによる強度の有意差はない。
【0036】
一方、スランプについては、実施例3,4,1の順で大きく、実施例3が最も普通コンクリートに近い値となっている。また、粒径5mm以下の含有量が大きい方が所定のスランプを得やすいが、0.075mm以下の微粒分が多すぎると、スランプは小さくなる傾向にある。
【0037】
次に、ホタテ1の混合率60%の実施例1と、40%の実施例2を比較すると、混合率40%の実施例2の方が強度低下の割合が小さいが、スランプは普通コンクリートよりも大きくなっている。
【0038】
以上のように、本実施例によれば、貝殻チップを粗骨材としてコンクリートに混合すると、混合割合に応じて強度は低下するが、容積比で60%程度までであれば必要充分な強度が得られる。
【0039】
また、混合する貝殻の粒径は最大20mmとし、粒径5mm以下の含有量を30〜50%とすることで良好なスランプを得るこができる。更に、上記条件に加え、粒径0.075mm以下の微粒分の含有量を5%以下に抑えることで一層良好なスランプを得ることができる。
【0040】
以上のように本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、本実施の形態では、コンクリートの粗骨材として混合可能な貝殻としてホタテとカキを挙げたが、本発明はホタテとカキに限定されるものではなく、他の貝殻であってもよく、また他の貝殻をホタテやカキの貝殻に混合してもよい。
【0041】
また、本実施の形態及び実施例では、コンクリートに粗骨材として混合する貝殻チップは図3のような粒径加積曲線を有し、粒径範囲が20mm以下であるが、粒径が20mm以上のものを全く含まないものではなく、例えば、図3において通過百分率が100%であるときの粒径(ふるい目の開き)が20mmを超えてもよく、本発明による効果を得られる範囲で多少含まれていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施の形態に利用可能なホタテの貝殻の外観写真を示す図(a)及び粒径20mm以下に粉砕したホタテの貝殻チップの外観写真を示す図(b)である。
【図2】本実施の形態におけるホタテの貝殻及びカキの貝殻からそれぞれ得た貝殻チップを粗骨材として混合させて得たコンクリートの強度低下率を示すグラフである。
【図3】実施例1乃至4に使用したホタテ1,2,3の各粒径加積曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタテやカキなどの貝殻を破砕した貝殻チップがコンクリートの粗骨材として混合されており、前記貝殻チップの混合量がコンクリート配合における粗骨材に対し容積比で20乃至60%であることを特徴とする貝殻入りコンクリート。
【請求項2】
前記貝殻チップの粒径が20mm以下である請求項1に記載の貝殻入りコンクリート。
【請求項3】
前記貝殻チップの粒度分布において粒径5mm以下の含有率が30乃至50%である請求項1または2に記載の貝殻入りコンクリート。
【請求項4】
前記貝殻チップの粒度分布において微粒分(0.075mm以下)の含有率が5%以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の貝殻入りコンクリート。
【請求項5】
ホタテやカキなどの貝殻を破砕した貝殻チップをコンクリートに粗骨材として混合し、
前記貝殻チップの混合量をコンクリート配合における粗骨材に対し容積比で20乃至60%としたことを特徴とする貝殻入りコンクリートの製造方法。
【請求項6】
前記貝殻チップの粒径を20mm以下とした請求項5に記載の貝殻入りコンクリートの製造方法。
【請求項7】
前記貝殻チップの粒度分布において粒径5mm以下の含有率を30乃至50%とした請求項5または6に記載の貝殻入りコンクリートの製造方法。
【請求項8】
前記貝殻チップの粒度分布において微粒分(0.075mm以下)の含有率を5%以下とした請求項5乃至7のいずれか1項に記載の貝殻入りコンクリートの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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