説明

貯槽用足場部材

【課題】 貯槽の側板壁面に直接取付ける仮設のブラケット構造の足場において、安全性及び利便性を向上し、新たな法規制にも適応した貯槽用足場部材を提供するものである。
【解決手段】 側板の壁面に直接固着して取り付ける仮設のブラケット構造の足場であって、該足場のブラケット6の先端上部に突出する棒状ロッドに支柱9を立設し、この支柱9の上端近傍、中間近傍、下端近傍の各適所に足場の手摺り15、中さん16、幅木17などの各水平部材から垂直下方に延出する垂直部材を挿入するアダプターとなるソケット状の受け部材12,13,14を取付けた貯槽用足場部材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は貯槽の新規建設、補修工事などに使用する仮設のブラケット構造の足場について、安全性及び利便性を向上させた貯槽用足場部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貯槽の新規建設、補修などの工事を施工する際に、側板の近傍などに仮設の作業足場を設置している。この仮設の作業足場は、一般にはパイプ材や板材などを用いて組立てる枠組足場が使用されているが、貯槽の内部や外部の一部には側板の壁面に直接取り付ける受け部材、つまりブラケットを用いた仮設のブラケット構造の足場を使用している。
【0003】
図6乃至図8は、仮設のブラケット構造の足場5を平底円筒形直立の貯槽1の側板3の内壁面に直接取付けた事例を示す。
原油その他の揮発性・可燃性液体を貯蔵する大型の貯槽1は、円形平板の底板2と、円筒体形状の側板3と、屋根4とから形成されている。
この貯槽1の新規建設、補修工事などを施工する場合に、側板3の壁面に仮設のブラケット構造の足場5を直接取付けている。
6は棚受け状のブラケット、7はブラケット6を側板3に取付けるために側板3へ溶着して固定する取付部材である。側板3に沿って水平方向に隔離して固定したブラケット6、6・・・の上部に、足場板8を載置して固定している。9はブラケット6の先端上部に垂直に立設するスタンションつまり支柱で、10は支柱9の上端近傍に掛け渡す水平の手摺り、11は中間手摺りとなる中さんである。
【0004】
従来の特許文献1の特開2003−147954号公報「枠組足場の先行手摺」の発明は、枠組足場の最上段に設ける先行手摺に関し、手摺柱と昇降ガイドは互いに相手に沿って上下に移動可能とし、それぞれに枠組足場の建枠に固定可能としたフックを設け、さらに手摺柱の固定フックより上方の間に渡り常時連結されその伸縮が自在な伸縮手摺を設けたものである。
【0005】
また、従来の特許文献2の特開2009−191506号公報「手摺及び枠組足場」の発明は、外径の異なる支柱及び外径の同じ支柱の間を締結できる手摺並びにこれを手摺として組み込んでなる枠組足場であって、1対の楔孔とこの1対の楔孔の両方に挿入できる楔を有していて締結すべき支柱を抱き込むことができる取付部材を長尺の手摺本体の両端に設けてなる手摺である。また、この手摺は伸縮自在としたものである。
【0006】
さらに、本出願人に関わる特許文献3の特願2009−199374号「貯槽用足場部材」の発明は、貯槽の側板壁面にブラケットを固着して使用する仮設のブラケット構造の足場の安全性を向上し法規制にも適応するように、ブラケット上に取付受具を固定しこの取付受具に足場両側面の隙間を覆い遮断する構造の幅木を取付けたものである。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−147954号公報
【特許文献2】特開2009−191506号公報
【特許文献3】特願2009−199374号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来例の図7及び図8に示すように、貯槽1の側板3の壁面に直接取付ける仮設の作業足場として使用されている従来の仮設のブラケット構造の足場5は、足場5の支柱9に取付けた手摺り10の先端10aが足場上の通路や作業場所にはみ出して邪魔となり、突き出て危なくなることがあった。
【0009】
殊に、貯槽側板の壁面が曲面になっているため、ブラケット6、6間は連続延長した一直線になっていない。また、工事現場等で仮設の作業足場として使用されるため、ブラケット6、6の間隔・距離を一定長さに確保することが難しく、手摺り10及びその下方の中さん11の方向や間隔が不規則で調整が出来ず、設置がやり難くかった。
【0010】
また、中さん11として簡便なロープなどの部材を支柱間に張り渡して使用するため、強度が弱く確りと固定されない場合があり、張力の維持が難しく、緩くなってたわむ心配があった。
【0011】
さらに、足場板のつま先板となる幅木が設けられていない場合があり、作業員が足を踏み外したり足場板側面の隙間から物体を落下させたりする恐れがあった。
【0012】
なお、労働安全衛生規則が改正され(2009年6月1日施行)現場で使用するブラケット構造の足場について、手摺り及び中さんの構造を確りとするとともに、足場の支柱近傍に幅木等を設けることが必須となった。
【0013】
従来の特許文献1の特開2003−147954号公報「枠組足場の先行手摺」の発明は、枠組足場の最上段に設ける先行手摺に関し、手摺柱を上下に移動可能とした際の、手摺柱の固定フックより上方の間に渡って伸縮が自在な伸縮手摺を設けたものであって、この伸縮手摺は枠組足場を組立・分解するときに、作業者の転落防止のため枠組足場の最上段に設ける先行手摺であるが、貯槽の壁面に直接固着する仮設のブラケット構造の足場におけるその支柱間に掛け渡して取り付ける手摺には適用することができない。
【0014】
また、従来の特許文献2の特開2009−191506号公報「手摺及び枠組足場」の発明は、外径の異なる支柱及び外径の同じ支柱の間を締結できる取付部材を設け伸縮自在とした枠組足場に適用できる手摺であるが、手摺本体及び取付部材の構造が複雑であり、かつ仮設のブラケット構造の足場の支柱に固定状態に設置するには適していない構造であった。
【0015】
さらに、本出願人に関わる特許文献3の特願2009−199374号「貯槽用足場部材」の発明は、貯槽の側板壁面にブラケットを固着して使用する仮設のブラケット構造の足場の安全性を向上し法規制にも適応するように、ブラケット上に取付受具を固定しこの取付受具に足場両側面の隙間を覆う構造斜幅木を取付けたものであるが、ブラケットに立設した支柱に取付ける手摺り及び中さんについては記載されていない。
【0016】
上記特許文献1乃至3に示される足場部材には、水平面が円弧と弦で形成される貯槽の側板等の壁面に直接取付けたブラケットにおいて、このブラケットに立設された支柱間に掛け渡す簡便な構造の手摺り及び中さん等については開示されていない。
【0017】
この発明の目的は、上述のような従来技術の足場が有する問題点に鑑みてなされたもので、貯槽の側板壁面に直接取付ける仮設のブラケット構造足場において、安全性及び利便性を向上し、新たな法規制にも適応した貯槽用足場部材を提供するものである。

【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1記載の貯槽用足場部材は、側板の壁面に直接固着して取り付ける仮設のブラケット構造の足場であって、該足場のブラケットの先端上部に突出する棒状ロッドに支柱を立設し、この支柱の上端近傍、中間近傍、下端近傍の各適所に足場の手摺り、中さんなどの水平部材から垂直下方に延出する垂直部材を挿入するアダプターとなるソケット状の受け部材を取付けたものである。
【0019】
請求項2記載の貯槽用足場部材は、上記ソケット状の受け部材は、水平部材から垂直下方に延出する垂直部材の外径寸法に対応する短管材で形成したものである。
【0020】
請求項3記載の貯槽用足場部材は、上記足場の水平部材は、パイプ材、棒状材、平板材などを用いて伸縮連結構造に形成したものである。

【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の貯槽用足場部材は、側板の壁面に直接固着して取り付ける仮設のブラケット構造の足場であって、該足場のブラケットの先端上部に突出する棒状ロッドに支柱を立設し、この支柱の上端近傍、中間近傍、下端近傍の各適所に足場の手摺り、中さん、幅木の水平部材から垂直下方に延出する垂直部材を挿入するアダプターとなるソケット状の受け部材を取付けたので、側板と足場間の距離が一定でない円弧状の側壁を有する貯槽の側板に直接取付ける足場部材を伸縮させ長さ調整し、さらに方向調整する着脱の取扱いが繁雑となることなく取付けることができ、手摺りと中さんと幅木とからなる水平部材を確りと取付けた足場の安全性を確保することができる。
【0022】
請求項2記載の貯槽用足場部材は、上記ソケット状の受け部材は、水平部材から垂直下方に延出する垂直部材の外径寸法に対応する短管材で形成したので、簡単な取付受具の構成部材により着脱自在で作業性良く設置し、方向調整が自在で足場部材の機能性を向上することができる。
【0023】
請求項3記載の貯槽用足場部材は、上記足場の水平部材は、パイプ材、棒状材、平板材などを用いて伸縮連結構造に形成したので、ブラケット上に立設した支柱間に長さ調整して簡単に設置することができる。

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明に係る貯槽用足場部材の事例を示す斜視説明図である。
【図2】図1の一部を省略した平面説明図である。
【図3】この発明に係る貯槽用足場部材のうち、手摺りの構造事例を示す説明図である。
【図4】この発明に係る貯槽用足場部材のうち、中さんの構造事例を示す説明図である。
【図5】この発明に係る貯槽用足場部材のうち、幅木の構造事例を示す説明図である。
【図6】従来例のブラケット構造の足場を円筒直立の貯槽側板の内壁面に設けた状況を示す側面説明図である。
【図7】図6のブラケット構造の足場の一部を拡大して示す斜視説明図である。
【図8】図7の手摺のはみ出し状況を示す平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明に係る貯槽用足場部材の実施形態を、図1乃至図5に基づいて説明する。
この実施形態例は、図6に例示した円筒直立の貯槽の側板壁面に直接設置する仮設のブラケット構造の足場5の改善事例を示すもので、図1乃至図5にわたって同一の用語には同一の符号を使用し、各符号の説明は一部省略している。
なお、図示事例では貯槽1の内側壁面に設ける仮設の足場5について説明するが、貯槽1の外側壁面に設ける仮設のブラケット構造の足場にも適用することができることは言うまでもない。
【0026】
図1は、この発明に係る貯槽用足場部材を、仮設のブラケット構造の足場に設置した状況を示す一部を省略した斜視説明図、図2は、図1の平面説明図である。
側板3の壁面にネコピースと称されている取付部材7を溶接で固着し、この取付部材7にブラケット6のフック7aを上方から引っ掛けて固定している。このブラケット6は、側面水平の水平ロッドと側面垂直の垂直ロッドと側面傾斜した傾斜ロッドとで略三角形状に形成されている。
上記ブラケット6を水平方向に沿って複数隔離して側板3に取付け、各隣接するブラケット6の水平ロッドの上に掛け渡して足場板8を設置する。またブラケット6の水平ロッドの先端6dを垂直上方に延出させ、この先端にパイプ構造の支柱9の下端を挿入して立ち上げる。この支柱9の上端縁近傍に手摺り15(10)を水平に掛け渡して設置し、また中央近傍に中間手摺り構造の中さん16(11)を水平に掛け渡して設置し、さらに下部近傍に幅木17を水平に掛け渡して設置する。
【0027】
図1に示すように、支柱9の上端部近傍位置、中間部近傍位置、および下端部近傍位置に、短い中空の管材でアダプターとなるソケット状の受け部材12a,b、13a,b、14a,bをそれぞれ設け、受け部材12a,bに手摺り15(10)を差し込んで取付け、受け部材13a,bに中さん16(11)を差し込んで取付け、受け部材14a,bに幅木17を差し込んで取付ける。
【0028】
このように、支柱9の各受け部材12a,b、13a,b、14a,bに、差し込んで取り付ける着脱自在構造の手摺り15(10)、中さん16(11)、幅木17を取付けたので、作業性良く支柱9に設置し、側板壁面が曲面で一直線でなくても支柱取付位置での方向調整が自在で、足場部材の機能性、安全性を向上することができる。
【0029】
図1及び図2に示すように、手摺り15(10)は通路や作業場となる足場板8の上に突き出ることがなく、中さん16(11)は支柱間に確りと固定され、幅木17は足場板8のつま先板となり足場板側面の隙間も埋めるため、足場板8上は安全で作業性の良い通路及び作業場所となる。
【0030】
図3は、この発明に係る貯槽用足場部材のうち、手摺り15(10)の構造事例の説明図である。
手摺り15は、細いパイプ15Aと、太いパイプ15Bとからなる頑丈な部材で形成し、これらの水平部先端は管材や棒材よりなる差込み構造の連結部15cで伸縮自在に形成する。
さらに、細いパイプ15Aの水平から垂直下方に延出する垂直部材15a、太いパイプ15Bの水平から垂直下方に延出する垂直部材15bを、前記支柱の各受け部材に差し込んで着脱自在に固定する。なお、この手摺部材は、軽量化して中さんとして使用することもできる。
【0031】
図4は、この発明に係る貯槽用足場部材のうち、中さん16(11)の構造事例の説明図である。
中さん16は、細パイプ16Aと、細パイプ16Bとからなる軽量な部材で形成し、これらの水平部先端は管材と棒材よりなる差込み構造の連結部16cで伸縮自在に形成する。
さらに、細パイプ16Aの水平から垂直下方に延出する垂直部材16a、細パイプ16Bの水平から垂直下方に延出する垂直部材16bを、前記支柱の各受け部材に差し込んで着脱自在に固定する。なお、この中さん部材は、径を太く頑丈にして手摺りとして使用することもできる。
【0032】
図5は、この発明に係る貯槽用足場部材のうち、幅木17の構造事例を示す。
幅木17は、断面L字形状の幅木17Aと17Bで形成し、これらの片側端縁近傍は重ね合わせて長さ調整用の長穴18とボルト・ナット等の固定部材19によって伸縮連結構造に形成する。この断面L字形状の幅木17は、垂直板部を高さ約10センチメートル以上にして足場板のつま先板とし、また水平板部を足場板側面の隙間を覆う板とする。
幅木17Aと17Bの他方片側の端縁には垂直下方に延出するフック状の垂直部材17a,17bを設け、この垂直部材17a,17bを前記支柱の各受け部材に差し込んで着脱自在に固定する。
【0033】
このように、貯槽用足場部材を構成する上記各受け部材12,13,14、及び手摺り15、中さん16、幅木17の各部材は、着脱自在で長さ調整及び方向調整して作業性良く取付け取外しができる構造となる。
【0034】
また、手摺り15、中さん16、幅木17の各部材を伸縮連結構造に形成したので、間隔が一定でないブラケット間であっても簡単に長さ調整して設置することができる。
【0035】
そして、安全な足場板の上で引っ掛かることなく作業性良く工事施工をすることができ、作業者が足を踏み外すことなく、物体が足場板上を転がって落下することもなく安全性が確保される。
この発明に係る仮設用の足場部材は、大掛かりな仮設の枠組足場が要らないため、工事施工のコスト低減、工期短縮を図ることが可能となる。

【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明に係る貯槽用足場部材は、直立円筒形貯槽、球形貯槽など、種々の貯槽等の建築物について、内外の壁面に直接取り付ける仮設のブラケット構造の足場に広範囲に適用することができる。

【符号の説明】
【0037】
1 貯槽
2 底板
3 側板
4 屋根
5 足場
6 ブラケット
7 取付部材
8 足場板
9 支柱
10 手摺り
11 中さん
12 受け部材
13 受け部材
14 受け部材
15 手摺り
16 中さん
17 幅木
18 長穴
19 固定部材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
側板の壁面に直接固着して取り付ける仮設のブラケット構造の足場であって、該足場のブラケットの先端上部に突出する棒状ロッドに支柱を立設し、この支柱の上端近傍、中間近傍、下端近傍の各適所に足場の手摺り、中さん、幅木などの各水平部材から垂直下方に延出する垂直部材を挿入する受け部材を取付けたことを特徴とする貯槽用足場部材。
【請求項2】
上記受け部材は、水平部材から垂直下方に延出する垂直部材の外径寸法に対応する短管材で形成したことを特徴とする請求項1記載の貯槽用足場部材。
【請求項3】
上記足場の水平部材は、パイプ材、棒状材、平板材などを用いて伸縮連結構造に形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の貯槽用足場部材。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−74659(P2011−74659A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227258(P2009−227258)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000147729)株式会社石井鐵工所 (67)