説明

赤外線グリッド偏光子の製造方法

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、赤外用グリッド偏光子に関する。グリッド偏光子は適当な偏光材料がない赤外線波長域等でよく用いられている。
(従来の技術)
グリッド偏光子は、第2図に示すように、導体細線を対象光の波長以下のピッチでグリッド状に平行に配列させたもので、導体グリッドと平行な方向に振動している光の電界成分はこのグリッド偏光子で反射され、導体グリッドと垂直な方向に振動している光の電界成分は、グリッド偏光子を透過する性質を有する。グリッド偏光子は、導体グリッドのピッチ間隔dと幅aがその偏光特性に影響する。ピッチ間隔dが小さい程偏光特性が良くなり、a/dは0.5〜0.7が良いとされている。従って、偏光波長が短くなればなる程、導体グリッドのピッチを短くしなければならないが、短くすれば導体グリッド単独で、導体間の隙間を中空状態にしておくことが難しくなり、透明基板上に、導体グリッドを形成している。
しかし、従来のグリッド偏光子は、第3図に示すように、適当な基板の上にホトレジスト層を積層し、ホログラフィック露光法で表面に正弦波状のレジストパターンを作成し、その斜面に導体を蒸着させるか(ア)、又は、ブレーズドグレーティングのレプリカを作成し、斜方向からその斜面に導体を蒸着させて製作している(イ)。しかし、斜面に導体を蒸着させた場合、蒸着パターン形状が不均一となり、偏光特性を一定にすることが難しいと云う問題があった。また、斜面に導体パターンを形成した時に、偏光特性が良くない原因として、斜面の導体で反射された光が、反対側の斜面から基板内に入射する可能性が考えられる。また、基板にレプリカを用いる場合、レプリカの材質は通常樹脂が用いられる。しかし、樹脂は熱に弱くまた赤外域の波長に対する透過率は低いので、赤外域における偏光子としての性能は良くないと云う問題がある。
(発明が解決しようとする課題)
本発明は、赤外域の光に対して透過率及び偏光特性の良い赤外用グリッド偏光子の製造方法を提供することを目的とする。
(課題を解決するための手段)
本発明は、赤外光に対して吸収の少い耐熱性基板の両面を光学研磨し、同基板の両面に反射防止膜を積層した後、入射側の反射防止膜の上面にAu、ホトレジストをコートし、このホトレジストにホログラフィック露光法で断面正弦半波状のレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとしてArイオンビームエッチングを行い、その後残存レジストを灰化除去することにより矩形断面の高密度平行線条よりなるAuの格子パターンを形成させることを特徴とする。
(作用)
グリッド偏光子は、細い線状の導体を平行に並べたものであるが、導体細条は基板上に保持されているので、強度上全く問題がなく、基板は測定光を透過させるために、導体を保持する基板に透過率の高い材質を用いているから、透過率は良好である。
本発明は、基板上に導体(Au)の高密度の平行線パターンをArイオンビームエッチングにより形成させたもので、このことにより導体パターンが基板上に基板面と平行に形成され、導体パターンにおける反射光が反対側の斜面からグリッド偏光子基板に再入射することがなくなり、偏光特性が向上した。また、基板上に形成される導体の平行線パターンが鮮明にしかも高密度で形成することが可能になり、この点からも偏光特性が向上した。
特に、赤外領域では、Siのように吸収が少ないものであっても、表面反射率の大なる材料があり、基板面を反射防止膜でコートすることで、基板の対象光の透過率が向上し、狭い波長範囲なら100%の透過率を得ることも可能となり、更に偏光特性が向上した。
(実施例)
第1図に本発明の一実施例の工程図を示す。第1図において、A図は導体グリッド5の加工前のグリッド基板の構成層を示したもので、このグリッド基板は、まず、両面研磨したSi基板1(厚み260μm,外径50mmφ)の両面に真空蒸着法により誘電体多層膜ZnS,MgF2を蒸着し、反射防止膜2,3を形成した。次に入射側の反射防止膜2の上面に、導体グリッド5との付着力を良くするために、導体付着膜4としてNi−Cr膜(厚み20Å)を真空蒸着させた。付着膜4の上面に導体グリッド5となるAu膜(700Å)を真空蒸着させた。更に、導体グリッド5の上面に、フォトレジスト6としてOFPR5000を2500Å厚さにスピンコートし、90℃で30分フレッシュエアオーブンによる焼成を行って製作したものである。
次に、上記によって製作したグリッド基板のフォトレジスト6に、ホログラフィック露光法による2光束干渉縞を焼き付けた。光源にはHe−Cdレーザー(λ=4416Å)を用い、スペシャルフィルターと軸外放物面鏡により平行光束を作る。焼き付ける干渉縞は、ピッチ間隔が使用波長の1/10程度になるように、2000本/mmとした。次に現像を行い、B図に示すように、レジスト6の断面形状が正弦半波状即ち、a/dが0.5となるようにした。この断面形状の調整は、露光時間と現像時間の調整によって行うことができる。
次に、上記フォトレジストパターン6をマスクとしてArイオンビームエッチングを行い、C図に示すように、導体グリッド5と導体付着膜4にフォトレジストパターン6のパターンニングを行い、平行なグリッドパターンを形成させた。上記エッチングを、加速電圧500eV,ガス圧1.6×10-4Torrで行った。このときのレジスト6と導体グリッド5のエッチングレートは約1:4である。
最後に、上記でエッチングマスクとして用いていたフォトレジスト6を、バレルタイププラズマエッチング装置により、O2プラズマで灰化除去し、最後に洗浄を行い、D図に示すような、グリッド偏光子Gを製作した。
また、上記実施例ではSi基板2の両面に反射防止膜2,3をコーティングして、測定波長域での透過率を向上させているが、基板2に透過率の良い材質のものを使用すれば、上記反射防止膜2,3をコーティングする必要はなくなる。
(発明の効果)
本発明によれば、Arイオンビームエッチングにより基板上にAuの平行線パターンを製作しているので、従来の蒸着法などと比し、高密度で鮮明な平行線パターンが製作でき、偏光特性の一段と向上した赤外用グリッド偏光子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施例の工程図、第2図はグリッド偏光子の作用説明図、第3図は従来例の斜視図である。
1……Si基板、2,3……反射防止膜、4……導体付着膜、5……導体グリッド、6……フォトレジスト、G……グリッド偏光子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】赤外光に対して吸収の少い耐熱性基板の両面を光学研磨し、同基板の両面に反射防止膜を積層した後、入射側の反射防止膜の上面にAu、ホトレジストをコートし、このホトレジストにホログラフィック露光法で断面正弦半波状のレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとしてArイオンビームエッチングを行い、その後残存レジストを灰化除去することにより矩形断面の高密度平行線条よりなるAuの格子パターンを形成させることを特徴とする赤外用グリッド偏光子の製造方法。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【特許番号】第2566003号
【登録日】平成8年(1996)10月3日
【発行日】平成8年(1996)12月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−49162
【出願日】平成1年(1989)2月28日
【公開番号】特開平2−228608
【公開日】平成2年(1990)9月11日
【審判番号】平5−5733
【出願人】(999999999)株式会社島津製作所
【合議体】
【参考文献】
【文献】特開 昭60−66203(JP,A)
【文献】特開 昭62−15518(JP,A)
【文献】特開 昭61−262705(JP,A)