説明

走行体の車輪操向装置

【課題】レール走行時の偏磨耗の発生を防止する。
【解決手段】左右のレール上を左右の前後車輪を介して走行する走行体の車輪操向装置であって、ガイド車輪3R,3LによりレールRRに従って転舵角θ1,θ2分転舵される右の前後輪2FR,2BRから入力平行リンク5,6を介して前後のT形レバー7,8を回動させ、T形レバー7,8の車幅出力部7b,8bから車長変位伝達部13,14を介して前後の出力レバー11,12をそれぞれ回動させ、左の前後輪2FL,2BLを転舵角θ3,θ4分転舵する。この時、内外輪差補正部15で、T形レバー7,8の車幅出力部7b,8bから取り出された前後の車幅方向の変位量の差の1/2の補正変位量だけ、出力レバー11,12の補正支持ピン11b,12bを車幅方向に移動させて左の前後輪2FL,2BLを転舵角θ3,θ4を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール上を走行する走行台車などの走行体の車輪操向装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、左右の軌道に車輪が案内されて走行する走行台車などでは、軌道の側面などを転動する複数のガイド車輪を設けて、車輪をステアリングするように構成されている。たとえば図6(a)に示す特許文献1に示すケース1では、左右一方の前後輪HR,HRにそれぞれガイド車輪GRが設けられた場合、左右の前後輪HR,HLの支持軸SR,SLにタイロッドアームTAを介してタイロッドTTを連結し、左右の前輪HR,HLおよび後輪HR,HLをそれぞれ連動させるものがある。また図6(b)に示すケース2のように、ガイド車輪GRのない左の前後輪HLの支持軸SL,SLをそれぞれ走行方向の前方に位置ずれさせたキャスター式車輪CH,CHとしたものがある。さらに図6(c)に示すように、左右の前後輪HR,HLにそれぞれガイド車輪GRを設けたケース3の場合には、左右一方のたとえば左の前後輪HLに、支持軸SLを車幅方向にシフト自在なシフト機構SUがそれぞれ設けられる。
【特許文献1】特開平1−268405号公報(第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ケース1では、内外輪差が十分に吸収できないので、車輪HR,HLに滑りが生じて偏磨耗が発生しやすいという問題がある。またケース2では、キャスター式車輪CH,CHは前進のみに追従されるため、後進するためには、キャスター式車輪CH,CHを180°反転させる必要がある。さらにケース3では、走行台車の荷重が大きいと、左の前後輪HLの支持軸SLがスムーズにシフトせず、シフト機構SUが正常に作動しないで走行に支障を来す恐れがあった。
【0004】
本発明は上記問題点を解決して、軌道を走行する際に車輪の滑りを少なくして偏磨耗の発生を未然に防止できる走行体の車輪操向装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、左右のレール上を左右の前後輪を介して走行する走行体の車輪操向装置であって、左右一方の入力側前後輪(2FR,2BR)をそれぞれ前記レールに従って転舵する前後の転向部材(3F,3R)と、前記入力側前後輪(2FR,2BR)によりそれぞれ入力伝達部材(5,6)を介して同一転舵角だけ傾動される前後の変位伝達部材(7,8)と、左右他方の出力側前後輪(2FL,2BL)にそれぞれ出力端が連結されて転舵する前後の出力レバー(11,12)と、前記各変位伝達部材(7,8)の車長出力部(7c,8c)から取出された車長方向の変位を前記出力レバー(11,12)の入力端にそれぞれ伝達して回動させ出力側前後輪(2FL,2BL)を転舵する前後の車長変位伝達部材(13,14)と、前記各変位伝達部材(7,8)の車幅出力部(7b,8b)からそれぞれ取出された車幅方向の変位により前記各出力レバー(11,12)の支点(11b,12b)をそれぞれ車幅方向に変位させて前記出力側前後輪(2FL,2BL)の転舵角を補正する内外輪差補正部(15)とを具備し、前記内外輪差補正部(15)は、前後の変位伝達部材(7,8)の車幅出力部(7b,8b)からそれぞれ取出された車幅方向の変位量の差の1/2を、前記出力レバー(11,12)の支点(11b,12b)の補正変位量とするように構成されたものである。
【0006】
請求項2記載の発明は、内外輪差補正部(15)は、前後の変位伝達部材(7,8)から等距離離れた中間位置に車幅方向に移動自在に配置された車幅出力体(25)と、前記車幅出力体(25)に回動自在に設けられた補正入力レバー(26)と、前記各変位伝達部材(7,8)の車幅出力部(7b,8b)により車幅方向に移動され、かつ前記補正入力レバー(26)の両端部に連結される前後の車幅入力体(22b,23b)と、前記車幅出力体(25)に従って出力レバー(11,12)の支点(11b,12b)を車幅方向に変位させる補正出力部材(27)とを具備し、前記補正入力レバー(26)の変位と回動とにより、各変位伝達部材(7,8)の車幅出力部(7b,8b)の車幅方向の変位量差の1/2の補正変位量分、前記補正出力部材(27)を介して出力レバー(11,12)の支点(11b,12b)を変位させるものである。
【0007】
請求項3記載の発明は、入力伝達部材を入力平行リンク(5,6)により構成し、変位伝達部材を、レバー支持ピン(7d,8d)を介して回動自在に支持されたT形レバー(7,8)とし、前記T形レバー(7,8)は、前記入力平行リンクが連結された入力部(7a,8a)と、前記レバー支持ピン(7d,8d)に対して互いに90°隔てて設けられた車幅出力部(7b,8b)および車長出力部(7c,8c)を有するものである。
【0008】
なお、上記のかっこ付き符号は、実施の形態に対応するものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の構成によれば、前後の入力側前後輪の転舵角をそれぞれ変位伝達部材に伝達し、変位伝達部材から車長方向の変位と車幅方向の変位とを取り出し、前記車長方向の変位により出力レバーを回動させて出力側前後輪を転舵し、さらに内外輪差補正部により、前後の変位伝達部材の車幅方向の変位量差の1/2を補正変位量として、車幅方向に変位させて内外輪差による補正を行うことにより、入力側前後輪の転舵角にずれが生じても、左右の前後輪の瞬間旋回中心を一致させることで、出力側前後輪の内外輪差を精度良く補正することができる。これにより、直線経路から曲線経路に移行する湾曲レールへの出入口や、湾曲レールの曲率が変化する変位点付近などで、出力側前後輪が滑って偏磨耗するのを効果的に防止することができる。
【0010】
また請求項2記載の発明によれば、内外輪差補正部では、変位伝達部材から等距離離れた中間位置に、車幅出力体を車幅方向に移動自在に配置し、この車幅出力体を、両端部が前後の変位伝達部材の車幅出力部に連結された補正入力レバーを設けたので、簡単な構成で補正変位量の1/2分を取出して出力レバーの支点を精度良く移動させることができる。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、変位伝達部材をT形レバーとすることにより、車幅出力部から車幅方向の変位と、車長出力部から車長方向の変位とを同時にそれぞれ取出すことができ、操向装置の構造を簡易化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[実施の形態1]
まず、車輪操向装置の基本原理を図3を参照して説明する。
【0013】
図3(a)に示すように、走行体1の四隅に、左右の走行レールRR,LR上を走行する左右前輪2FR,2FLと左右後輪2BR,2BLがそれぞれ転舵軸4FR,4FL,4BR,4BLを中心に転舵自在に設けられており、右の前後輪2FR,2BRは、右レールRRに当接するそれぞれガイド車輪(転向部材)3F,3Bが設けられて入力側車輪に構成され、右走行レールRRに従って転舵角θ1,θ2が付与される。左の前後輪2FL,2BLは、この車輪操向装置により入力側車輪の転舵角θ1,θ2に基いて所定の転舵角θ3,θ4が付与される。同一湾曲半径に形成された操向レールRR,LR上では、転舵角θ1=−θ3,θ2=−θ4であり絶対転舵角が同一となる。
【0014】
ここで直線レールと湾曲レールへの出入口や湾曲レールの湾曲半径の転位部分などのように、前後輪で転舵角が異なる場合について、図3(b)を参照して説明する。右の前輪2FRの転舵角:θ1、右の後輪2BRの転舵角:θ2、前後の車輪間距離:L、左右の車輪間距離:α・L(αは距離比)とすると、右の前後輪2FR,2BRの(瞬間)旋回転中心Pが一致するとすると、
三角形の定理より、
tanθ1=(L/2+Y)/X …(1)式
tanθ2=−(L/2−Y)/X …(2)式
(1)式と(2)式から
X=(L/2+Y)/tanθ1=−(L/2−Y)/tanθ2
(L/2+Y)/tanθ1+(L/2−Y)/tanθ2=0
L/2(tanθ1+tanθ2)−Y(tanθ1−tanθ2)=0
∴Y=L/2×(tanθ1+tanθ2)/(tanθ1−tanθ2)…(3)式
(3)式を(1)式に代入すると、
X=[(L/2+L/2×(tanθ1+tanθ2)/(tanθ1−tanθ2)]×1/tanθ1
=L/2[2tanθ1/(tanθ1−tanθ2)]×1/tanθ1
∴X=L/(tanθ1−tanθ2) …(4)式
ここで左の前輪2FLの転舵角:θ3、左の後輪2BLの転舵角:θ4を求める。左の前後輪2FL,2BLの瞬間旋回中心Pと、右の前後輪2FR,2BRの旋回中心Pと一致すると仮定すると、
tanθ3=(L/2+Y)/(X−α・L) …(5)式
tanθ4=−(L/2−Y)/(X−α・L) …(6)式
前記(5)式および(6)式に、(3)式、(4)式をそれぞれ代入すると、
【数1】

【0015】
【数2】

【0016】
となる。
次に上記(7)式および(8)式を適用した走行装置の基本構造を図1および図2を参照して説明する。なお、ここでは説明をわかりやすくするために、各車輪の位置や向き、リンクの長さなどについて任意に図示されている。
【0017】
すなわち、ガイド車輪3F,3Bにより転舵される右の前後輪2FR,2BRにそれぞれ連結された前後の入力平行リンク(入力伝達部材)5,6と、前記入力平行リンク5,6により右の前後輪2FR,2BRの転舵角がそれぞれ入力されて回動される前後のT形レバー(変位伝達部材)7,8と、T形レバー7,8の回動を車長(前後)方向の変位として取出す前後の車長変位伝達部13,14と、車長変位伝達部13,14により入力端11a,12aを介して回動される出力レバー11,12と、前記出力レバー11,12の回動を出力端から左の前後輪2FL,2BLに伝達して転舵する前後の出力リンク部9,10と、前記T形レバー7,8から車幅方向の変位を取出して前後の前記出力レバー11,12の補正支持ピン(回動中心)11b,12bをそれぞれ変位させ内外輪差を補正する内外輪差補正部15とが具備されている。
【0018】
前記T形レバー7,8はレバー支持ピン7d,8dを介して回動自在に支持され、レバー支持ピン7d,8dを挟んで直線上に配置される入力部7a,8aおよび車幅出力部7b,8bと、レバー支持ピン7d,8dから入力部7a,8aおよび車幅出力部7b,8bに対して90°隔てて突設された車長出力部7c,8cとで構成されている。
【0019】
上記構成において、右の前後輪2FR,2BRの転舵角θ1,θ2を入力平行リンク5,6を介してT形レバー7,8に取出し、T形レバー7,8の回動角θ1,θ2における車長方向の変位量(Ef,Fb)を車長出力部7c,8cから車長変位伝達部13,14に取出し出力レバー11,12に伝達する。また内外輪差を補正するために、T形レバー7,8の車幅出力部7b,8bから内外輪差補正部15に車幅方向の変位(補正変位量T)を取出し、内外輪差補正部15により出力リンク部9,10の支点である補正支持ピン11b,12bを変位している。
【0020】
さらに詳細に説明する。
前記T形レバー7,8は、車幅出力部7b,8bと車長出力部7c,8cに、それぞれ長さ方向(レバー支持ピン7d,8dを中心とする半径方向)の長穴が形成されている。
【0021】
前後の入力平行リンク5,6は、前後輪2FR,2BRの転舵軸4FR,4BRに車軸方向に固定された入力レバー5a,6aと、前後のT形レバー7,8の入力部7a,8aとが互いに平行で同一長さCに形成され、入力レバー5a,6aと入力部7a,8aの端部間に連結ロッド5b,6bが連結ピンを介して回動自在に連結されている。したがって、ガイド車輪3F,3Bにより右の前後輪2FR,2BRが転舵角θ1,θ2だけ転舵されると、T形レバー7,8が同一角θ1,θ2回動される。
【0022】
前後の前記出力レバー11,12は、中間部に形成された長さ方向の長穴に補正支持ピン11b,12bを介して回動自在でかつ長さ方向に所定範囲でスライド自在に支持されている。
【0023】
前後の前記車長変位伝達部13,14は、車長方向の車長ガイド軸21と、前記車長ガイド軸21にスライド自在に配置されT形レバー7,8の車長出力部7c,8cの長穴にピンを介して連結された車長入力体13a,14aと、前記車長ガイド軸21にスライド自在に配置され連結ピンを介して出力レバー11,12の入力端11a,12aにそれぞれ連結された車長出力体13b,14bと、前記車長入力体13a,14aと車長出力体13b,14bとを連結する連動ロッド13c,14cとを具備している。これによりT形レバー7,8の車長出力部7c,8cの車長方向の変位量Ef,Ebを出力レバー11,12の入力端11a,12aに伝達し、それぞれの変位量Ef’,Eb’に対応して出力レバー11,12が回動される。
【0024】
前後の前記出力リンク部9,10は、左の前後輪2FL,2BLの転舵軸4FL,4BLに転舵用平行リンク9a,10aを介して同期回動される転舵ブロック9b,10bに、出力レバー11,12の変位角のみを取出す出力取出部9c,10cを介して出力レバー11,12が連結されている。ここで出力取出部9c,10cは、出力レバー11,12の出力側に長さ方向に形成された長穴に、転舵ブロック9b,10bに立設された2本のピンがスライド自在に嵌合されて構成されている。もちろん、転舵軸4FL,4BLに転舵ブロック9b,10bを直接連結してもよい。
【0025】
内外輪差補正部15は、T形レバー7,8の車幅出力部7b,8bにそれぞれ対応して車幅方向に配置された前後の車幅入力ガイド軸22a,23aに、車幅入力体22b,23bがスライド自在に配置され、車幅入力体22b,23bに突設された入力ピン22c,23cが車幅出力部7b,8bの長穴にスライド自在に嵌合されている。前後の前記車幅ガイド軸22a,23aから等距離S離れた中間位置に、車幅出力ガイド軸24が車幅方向に配置され、この車幅出力ガイド軸24に車幅出力体25がスライド自在に設けられている。そして、この車幅出力体25に突設された補正ピン25aに補正入力レバー26が中心位置で回動自在に支持され、さらに補正入力レバー26の両端部に長さ方向に形成された長穴に、車幅入力体22b,23bの入力ピン22c,23cがそれぞれスライド自在に嵌合されて連結されている。これにより、前後のT形レバー7,8の車幅出力部7b,8bの車幅方向の変位差の1/2を取出して車幅出力体25を変位させることができる。
【0026】
また車幅出力体25には、補正出力ロッド(補正出力部材)27が車長方向に固定され、補正出力ロッド27の両端部に前記補正支持ピン11b,12bがそれぞれ固定され、これら補正支持ピン11b,12bに出力レバー11,12が回転自在に支持されている。
【0027】
ここで、図2に示すように、右の前輪2FRの転舵角:θ1、右の後輪2BRの転舵角:θ2であり、車長ガイド軸21とレバー支持ピン7d,8dの間の車幅方向の距離:U=A/2、レバー支持ピン7d,8dと車幅入力ガイド軸22a,23aの間の車長方向の距離:α・A、車幅入力ガイド軸22a,23aと補正支持ピン11b,12bの間の車長方向の間隔:Bとし、さらに車長入力体13a,14aと車長出力体13b,14bの間隔:α・A+Bとする。さらにまた左の前輪2FLの転舵角:θ3と右の後輪2BLの転舵角:θ4とする。
【0028】
T形レバー7,8の車長出力部7c,8cにより変位される車長変位伝達部13,14の車長入力体13a,14aの変位量Ef,Ebは、車長出力体13b,14bの変位量Ff’,Fb’とそれぞれ等しく、
Ef=Ef’=A/2×tanθ1…(9)式、
Eb=Eb’=A/2×tanθ2…(10)式である。
【0029】
内外輪差を補正する内外輪差補正部15では、車幅入力ガイド軸22a,23aの間で車長方向の等距離S,S離れて中間位置に車幅出力ガイド軸24を配置することにより、T形レバー7,8の車幅出力部7b,8bから取出された前後2つの車幅方向の変位に対して、補正入力レバー26を介して車幅出力体25を中間位置に変位させ、さらに補正出力ロッド27を介して補正支持ピン11b,12bを車幅出力体25と同期して変位させる。
【0030】
基準線SL(前後のレバー支持ピン7d,8d間を結ぶ直線)と補正支持ピン11b,12bの車幅方向の距離、すなわち補正変位量:T=(−Tf+Tb)/2である。
ここで直角三角形efg(e:レバー支持ピン7d、f:入力ピン22c)において、Tf=α・A×tanθ1となる。また直角三角形hij(h:レバー支持ピン8d、i:入力ピン23c)において、Tb=α・A×tanθ2である。
【0031】
したがって、補正変位量:T=−(α・A×tanθ1−α・A×tanθ2)/2となる。
ここで、直角三角形klm(k:車長出力体13bのピン、l:補正支持ピン11b)において、tanθ3=Ef’/(U+T)、Ef’=A/2×tanθ1…(9)式、また(U+T)=A/2−(α・A×tanθ1−α・A×tanθ2)/2である。したがって、
【数3】

【0032】
となり、(7)式と一致する。
ここで、直角三角形nqr(n:車長出力体14bのピン、q:補正支持ピン12b)において、tanθ4=Ef’/(U+T)、Ef’=A/2×tanθ2…(10)式、また(U+T)=A/2−(α・A×tanθ1−α・A×tanθ2)/2である。したがって、
【数4】

【0033】
となり、(8)式と一致する。
上記構成において、車幅出力部7b,8bにより、右の前後輪の操舵角θ1およびθ2による車幅方向の変位を前後に振分け、入力側車輪である右の前後輪2FR,2BRの転舵角θ1,θ2に基いて、出力側車輪である左の前後輪2FL,2BLを補正して内外輪差が制御された転舵角θ3,θ4を出力することができる。
【0034】
この図1,図2では、便宜上、右の前後輪2FR,2BRの転舵角θ1,θ2を左右反対方向に転舵させて説明し、瞬間旋回中心Pが一致することを前提としている。しかし通常の走行においては、右の前後輪2FR,2BRが直進状態の時に、転舵角:θ1,θ2=0であり、また通常の旋回中心Pが一致する湾曲レールでは、旋回中心Pが前後輪2FR,2BRの二等分線、車幅出力ガイド軸24の軸心上にある場合、θ1=−θ2であり、tanθ3=tanθ1/(1−2αtanθ1)、tanθ4=tanθ2/(1+2αtanθ2)となる。
【0035】
さらに上記構成において、右レールRRの直線レールから湾曲レールに乗り移る出入口では、右の前輪2FRの転舵角:θ<0またはθ>0、右の後輪2BRが直進状態で転舵角θ=0の状態となり、さらに前輪2FRの移動に従って走行体1が変向されて、後輪2BRも転舵される。この時に、左右の前後輪2FR,2FL、2BR,2BLの瞬間旋回中心Pが一致すると仮定することで、レールの曲りに応じた前後輪2FR,2FL、2BR,2BLの転舵角θ1〜θ4をほぼ正確に制御することができ、左の前後輪2FL、2BLの滑りを効果的に防止することができる。
【0036】
[実施例]
図4,図5は、上記構成を具体化したものである。先の説明と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0037】
ここで、車長ガイド軸21は、前後に分離されている。また前後の主力レバー11,12は、左の前後輪2FL,2BLの位置に対応して、補正支持ピン11b,12bの近傍で対称形状に折り曲げられている。
【0038】
さらに左の前後輪2FR,2BRの出力リンク部9,10では、出力レバー11,12の出力部に形成された長穴31が、補正支持ピン11b,12b位置を略中心とする円弧状に形成され、転舵ブロック9b,10bに立設された2本のピン32がスライド自在に嵌合されている。
【0039】
なお、前記構成において、長さ方向の変位を許容するために長穴とピンとで構成した連結機構は、ガイド部に案内されるスライド体に連結ピンを突設し、ピンに回動自在に連結したものでもよい。
【0040】
左右一対で前後の車輪を1組として車輪操向装置を搭載したが、移動体が長い場合には、前後に複数組を配置することができる。
また上記実施の形態では、右の前後輪2FR,2BRを入力側としたが、左の前後輪2FL,2BLを入力側としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る走行体の車輪操向装置の実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】同車輪操向装置の説明図である。
【図3】(a),(b)はそれぞれ同走行車輪の内外輪差を説明する模式図である。
【図4】同走行体の車輪操向装置の実施例を示し、直線レールの走行状態の平面図である。
【図5】同走行体の車輪操向装置の実施例を示し、湾曲レールの走行状態の平面図である。
【図6】(a)〜(c)はそれぞれ従来の車輪操向装置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
RR,LR 走行レール
1 走行体
2FR,2FL 前輪
2BR,2BL 後輪
3F,3B ガイド車輪
5,6 入力平行リンク
7,8 T形レバー
7a,8a 入力部
7b,8b 車幅出力部
7c,8c 車長出力部
7d,8d レバー支持ピン
9,10 出力リンク部
11,12 出力レバー
11a,12a 入力端
11b,12b 補正支持ピン
13,14 車長変位伝達部
13a,14a 車長入力体
13b,14b 車長出力体
13c,14c 連動ロッド
15 内外輪差補正部
21 車長ガイド軸
22a,23a 車幅入力ガイド軸
22b,23b 車幅入力ガイド体
22c,23c 入力ピン
24 車幅出力ガイド軸
25 車幅出力体
25a 補正ピン
26 補正入力レバー
27 補正出力ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のレール上を左右の前後輪を介して走行する走行体の車輪操向装置であって、
左右一方の入力側前後輪をそれぞれ前記レールに従って転舵する転向部材と、
前記入力側前後輪によりそれぞれ入力伝達部材を介して同一転舵角だけ傾動される前後の変位伝達部材と、
左右他方の出力側前後輪にそれぞれ出力端が連結されて転舵する前後の出力レバーと、
前記各変位伝達部材の車長出力部からそれぞれ取出された車長方向の変位を前記出力レバーの入力端にそれぞれ伝達して回動させ出力側前後輪を転舵する前後の車長変位伝達部材と、
前記各変位伝達部材の車幅出力部からそれぞれ取出された車幅方向の変位により前記各出力レバーの支点をそれぞれ車幅方向に変位させて前記出力側前後輪の転舵角を補正する内外輪差補正部とを具備し、
前記内外輪差補正部は、前後の変位伝達部材の車幅出力部からそれぞれ取出された車幅方向の変位量の差の1/2を、前記出力レバーの支点の補正変位量とするように構成された
走行体の車輪操向装置。
【請求項2】
内外輪差補正部は、
前後の変位伝達部材から等距離離れた中間位置に車幅方向に移動自在に配置された車幅出力体と、
前記車幅出力体に回動自在に設けられた補正入力レバーと、
前記各変位伝達部材の車幅出力部により車幅方向に移動され、かつ前記補正入力レバーの両端部に連結される前後の車幅入力体と、
前記車幅出力体に従って出力レバーの支点を車幅方向に変位させる補正出力部材とを具備し、
前記補正入力レバーの変位と回動とにより、前後の変位伝達部材の車幅出力部の車幅方向の変位量差の1/2の補正変位量分、前記補正出力部を介して出力レバーの支点を変位させるように構成された
ことを特徴とする請求項1記載の走行体の車輪操向装置。
【請求項3】
入力伝達部材を入力平行リンクにより構成し、
変位伝達部材をレバー支持ピンを介して回動自在に支持されたT形レバーとし、
前記T形レバーは、前記入力平行リンクが連結された入力部と、前記レバー支持ピンに対して互いに90°隔てて設けられた車幅出力部と車長出力部とを有する
請求項1または2記載の走行体の車輪操向装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−55515(P2007−55515A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245104(P2005−245104)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000003643)株式会社ダイフク (1,209)