説明

超微粒子膜

【構成】ブラウン管11の表面に塗布浴槽12を取付け、塗布浴槽12内に反射防止機能を有するSiO2超微粒子と帯電防止機能を有するSnO2超微粒子を混合した塗布溶液13を充たし、その後、一定速度で塗布溶液13を上昇あるいは下降させる。
【効果】超微粒子と基板を密着させるバインダの膜厚を粒子径の半分以下にすることにより、優れた反射防止効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、画面表示面板及び陰極線管,液晶表示装置、その他のディスプレイ装置等に用いられるガラス及びプラスチック表面の反射及び帯電防止膜に関する。
【0002】
【従来の技術】反射防止膜は古くから研究されており、CRT表面の反射光を低減するための反射防止フィルタ等に用いられている。反射防止膜にはいろんなものが考えられているが、主として多層膜と不均質膜が利用されている。
【0003】多層膜は透明性板表面に低屈折率物質と高屈折率物質とを少なくとも3層積層した構造であり、その反射防止効果は多層間での光学的干渉作用の総合効果である。多層膜はフィジックス・オブ・シン・フィルムの2号(1964年)243項〜284項に論じられている)。
【0004】また、膜厚方向に屈折率分布を持つ不均質膜は、膜の平均屈折率が基板ガラスよりも低い場合に反射防止膜となる。不均質膜は透明性板表面を多孔質化したものが一般的である。
【0005】ガラス表面に島状の金属蒸着膜を形成後、スパッタエッチングにより微細な凹凸を形成して不均質膜を作り、反射率を低減する方法がアプライド・フィジックス・レター36号(1980年)の727項〜730項において論じられている。
【0006】またソーダガラスをSiO2 過飽和のH2SiF6溶液に浸漬し、表面を多孔質化して反射率を低減する方法がソーラ・エネルギー,6号(1980年)の28項〜34項において論じられている。
【0007】一方、陰極線管ではガラス表面の帯電防止のために導電性膜を形成し反射防止の工夫も要求されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】従来技術では膜形成法がスパッタリング,真空蒸着法に限られ、かつ膜厚の高精度制御が必要であるため、コストが高く大面積の基板への適用が困難であるという問題があった。特に従来技術は、導電性膜と反射防止膜をそれぞれ形成する2層構造であり、生産性,価格の点で問題があった。
【0009】また、超微粒子を利用した反射防止膜の場合は、超微粒子が高密度に規則正しく基板上に配列し、かつ、超微粒子と基板を密着させるバインダの膜厚が粒子径の半分以下の場合に最も小さな反射率が得られる。
【0010】図1は超微粒子が整然と規則正しく透明性基板上に配列された場合の断面模式図を示す。1は超微粒子、2はバインダ層、3は基板である。この場合、n0 は空気の屈折率、n1は空気側の超微粒子da層の屈折率、n2はda層の超微粒子側の屈折率、nsは超微粒子とバインダとで形成される層の屈折率、ngは透明性板の屈折率とするとda層の反射率Raは数1で、db層の屈折率Rbは数2にそれぞれ示す。
【0011】
Ra=1−(4n0n1n2ns)/{(n1ns+n0n2)2−(n12n02)(ns2-n22)sin2(δa/2)} …(数1)
ただし、δa=(2π/λ)(n1+n2)da Rb=1−(4n2ns2ng)/{n22(n2+ng)2−(ng2−ns2)(ns2−n22)sin2b/2)} …(数2)
ただし、δb=(2π/λ)(2ns)dbまた、超微粒子の存在しない部分の反射率をRc としたとき、合計の反射率Rは超微粒子の存在しない部分の面積比をαとして数3で示すことができる。
【0012】
R=(1−α)(Ra+Rb)+αRc …(数3)
通常、ガラス体と同様のバインダを用いた場合にはRcは4.2%である。
【0013】Ra は、n0=1.0,n1=1.10,n2=1.38,ns=1.47と仮定すると、λ=550nmで約0.19%となる。またRbは透明性板をガラスとすると、ng =1.53、他の屈折率はRaの場合と同一と仮定すると、λ=550nmで約0.04%となる。
【0014】従って、(Ra+Rb)≪Rc であり、αが小さいほど反射率は小さくなることがわかる。言い替えると超微粒子を規則正しく緻密に塗布し、バインダの膜厚が粒子径の半分以下のときに最も反射率が小さくなる。
【0015】本発明の目的は、低コストでかつ大面積に適用できる帯電,反射防止膜とこれを適用した画像表示板を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】上記目的は、超微粒子が均一に分散された塗布溶液を、前処理を施した基板表面側に設置された浴槽内に充たした後、一定速度で引き抜くかあるいは一定速度で浴槽内に充たしていくことにより達成される。
【0017】本発明の超微粒子膜は、反射防止機能を有する超微粒子と帯電防止機能を有する超微粒子を混合した塗布液を前記浴槽内に導入し、一定速度で基板表面を上昇あるいは下降させて基板表面に超微粒子膜を形成することを特徴とする。
【0018】前記前処理は、基板を酸,アルカリ,中性洗剤等で洗浄し、表面の水分を除去し表面を乾燥する。
【0019】本発明の超微粒子膜は、超微粒子が単層配列した膜においてバインダが粒子を完全に覆っている場合、粒子上部のバインダをエッチングし粒子の表面凹凸を増大させることを特徴とする。
【0020】
【作用】超微粒子膜をブラウン管ガラス表面に塗布する際、図2に示すように超微粒子と基板を密着させるバインダが粒子の表面を覆ってしまった場合、表面の凹凸を減少させてしまい光学特性に悪影響を与える。これに対して、図3に示すようにバインダが粒子の下部のみの場合は表面凹凸が増大し良好な光学特性が得られる。
【0021】図4の(1)は、バインダの膜厚が粒子径の半分よりも厚い場合の正反射率曲線である。このときの波長550nmにおける正反射率は3.9% と大きい値を示す。これに対して図4の(2)は、バインダの膜厚が半分以下の場合の正反射率曲線である。このときの波長550nmにおける正反射率は0.08% と非常に小さい値となる。
【0022】このように、本発明の超微粒子膜は粒子表面の凹凸が十分あるために正反射率が小さくなる。
【0023】
【実施例】以下、本発明の実施例につき図面に基づいて説明する。
【0024】超微粒子の機能は透明性,透光性に支障の無いかぎり特に限定はされないが、平均粒径は100nm程度のものがよい。代表的な機能は帯電防止,反射防止である。
【0025】帯電防止超微粒子は、SnO2(酸化スズ),SnO2+Sb23(酸化アンチモン),In23(酸化インジウム),In23+Sb23の群から選ばれる。反射防止超微粒子はSiO2(二酸化ケイ素),Mg22(フッ化マグネシウム)の群から選ばれる。反射防止機能を有する超微粒子の平均粒径は100〜150nmが望ましい。SiO2 の場合100nmより小さな粒径では形成された膜の表面が平坦になり過ぎて十分な反射防止効果が得られない恐れがあり、一方150nmより大きな粒径では反射防止効果は得られるが、拡散反射が大きくなり、その結果、白濁すると同時に解像度が低下する恐れがあるからである。従って反射防止用超微粒子の粒径は100〜150nmが望ましい。
【0026】帯電防止用超微粒子の平均粒径は10nm以下が望ましい。また、帯電防止用超微粒子は2種以上併用してもよい。反射防止用超微粒子と併用する場合の帯電防止用超微粒子の粒径は、反射防止用超微粒子の粒径に対して1/10以下が望ましい。すなわち、粒径の異なる2種類の超微粒子を混合した溶液を塗布した場合、粒径比が1/10以内では比較的良く分散されるが、1/10以上では分散されずに粒径の小さな超微粒子は網目状に分散するからである。
【0027】このことから帯電防止用超微粒子の粒径が反射防止用超微粒子粒径の1/10以内では、導電性がなくなる程度まで良く分散されてしまい、その結果、帯電防止機能を発揮しない。一方、その粒径比が1/10以上では網目状に凝集するので導電性膜となり、帯電防止機能を発揮する。本発明の場合、反射防止用超微粒子の適正粒径は100〜150nmであるので、このことから帯電防止用超微粒子の適正粒径は10nm以下が望ましい。
【0028】また、反射防止用超微粒子と帯電防止用超微粒子との構成割合は、帯電防止用超微粒子が全超微粒子量の10%以上であることが望ましい。尚、この量が50%以上になると反射防止機能の低下をきたす恐れがあり、50%以下に調整する必要がある。また、同様の理由により反射防止用超微粒子の粒径に対して2〜3倍の粒径をもつ超微粒子を少なくとも全超微粒子量の20重量%以下混合させることが望ましい。
【0029】膜の形成には、ディップコーティング法を用いる。ブラウン管表面を容器の側面部にあけた穴から露出させ、ブラウン管表面に超微粒子を混入した塗布液を充たし、容器内部の液を上昇あるいは下降させる。この方法は、表面形状が複雑なものにも適している。
【0030】塗布後の加熱処理は、炉中150℃〜400℃で焼成するのが実用的である。
【0031】本発明の超微粒子膜の形成には、所定の超微粒子にバインダを加えた塗布溶液を用いる。
【0032】基板がガラスのときは、バインダとしてSi(OR)4(Rはアルキル基)を使用する。Si(OR)4が分解するために水及び触媒として硝酸などを加えて塗布溶液を調整する。
【0033】さらに、帯電防止効果を付与するために周期律表第II族、第III 族金属の塩を添加しても良い。代表的な例はアルミニウムの塩酸塩や硝酸塩,硫酸塩及びカルボン酸塩が挙げられる。
【0034】塗布溶液の混合方法は、まず、エチルシリケート(Si(OC25)4)をエタノールに溶解し、さらに加水分解のためのH2Oと、触媒としてのHNO3とを添加した溶液を作り、この溶液に粒径120nmのほぼ球形のSiO2 超微粒子を重量%で10%と、粒径6nmのSnO2 超微粒子を重量%で約10%添加する。このとき十分分散するように溶液のPHを調整する。
【0035】この溶液をディップコーティング法により、塗布液の上昇あるいは下降速度10mm/s以下で塗布を行った。その後、150℃で30分間空気中で焼成し、エチルシリケート(Si(OC25)4)を分解した。溶液に添加したSiO2超微粒子は、分解してできたSiO2 がバインダの役目を果たすので、お互いに強固に接着され、基板表面とも強固に接着固定される。この方法により基板表面に超微粒子による均一な連続した凹凸を形成することができる。
【0036】一方、バインダが超微粒子を完全に覆ってしまった場合、粒子上部のバインダをエッチングしバインダから粒子を露出させる。このエッチングにより表面凹凸を増大させ良好な反射特性を得ることができる。
【0037】この膜を形成したブラウン管の表面に入射角5度で光を入射させ、反射率を測定した結果、波長550nmにおいて0.08% の低反射率が得られた。
【0038】このような帯電,反射防止膜を形成するプロセスでは、完成したブラウン管に、直接、膜を形成することができ、また既存のSi(OR)4 アルコール溶液にSiO2 超微粒子とSnO2 とを混合して塗布,焼成するだけでよく、弗酸などの有害な薬品の使用は一切なく、品質一定で、しかも、低コストで製造することができる。
【0039】以下、本発明をブラウン管の全面パネル表面に適用した例を示す。
【0040】図1は本発明の装置例を示す。図1において、11はブラウン管、12は塗布浴槽、13は塗布溶液、14は加圧調整用バルブ、15はオーバーフロー用バルブ、16は溶液タンク、17は溶液供給加圧バルブ、18はリーク用バルブである。
【0041】この構成で、ブラウン管11に塗布浴槽12を取り付けた。塗布浴槽12の取付け面には、塗布過程で塗布液及び加圧ガスが漏れないようにOリングが施されており、かつ作業性を考慮してブラウン管を挿入するだけでシールできるようになっている。
【0042】次に超微粒子が混合された塗布溶液を塗布浴槽12とブラウン管表面との間に形成された空間に導入した。この塗布液の導入は、まずオーバーフロー用バルブ15及び溶液供給用バルブ17を開いた。
【0043】この操作により溶液タンク16に充填されている塗布溶液13を加圧してブラウン管上に満たした後に、オーバーフロー用バルブ15及び溶液供給用バルブ17を閉じた後、加圧調整用バルブ14とリーク用バルブ18を開くとブラウン管表面に満たされている塗布溶液13は溶液タンク16に戻される。この場合、加圧調整用バルブ14に加えるガス圧力とリーク用バルブ18の開閉度によって、塗布溶液13がブラウン管表面上を一定速度で下降する速度を調整することができる。
【0044】次に、この塗布溶液の混合方法について述べる。
【0045】まず、エチルシリケート(Si(OC25)4)をエタノールに溶解し、さらに加水分解のためのH2Oと、触媒としてのHNO3とを添加した溶液を作り、この溶液に粒径120nmのほぼ球形のSiO2 超微粒子を重量%で10%と、粒径6nmのSnO2 超微粒子を重量%で2%添加する。このとき十分分散するように溶液のPHを調整する。
【0046】次にこの溶液を上記方法によりブラウン管表面に満たし、10mm/s以下の速度で塗布液を降下して塗布を行った。その後、150℃で30分間空気中で焼成し、エチルシリケート(Si(OC25)4)を分解した。溶液に添加したSiO2超微粒子は、分解してできたSiO2 がバインダの役目を果たすので、お互いに強固に接着されると同時に、ブラウン管表面に強固に接着,固定される。この方法により、ブラウン管表面には超微粒子による均一な連続した凹凸を形成することができた。
【0047】
【発明の効果】本発明によれば、超微粒子による微小凹凸を簡単な塗布方法で形成できるため帯電,反射防止膜を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】超微粒子が単層配列した場合の断面図。
【図2】バインダが粒子の表面を覆ってしまった場合の断面図。
【図3】バインダが粒子の下部のみに存在する場合の断面図。
【図4】本発明の超微粒子膜を反射防止膜に適用した場合の反射率特性図。
【図5】本発明の一実施例にかかわる装置の系統図。
【符号の説明】
11…ブラウン管、12…塗布浴槽、13…塗布溶液、14…加圧調整用バルブ、15…オーバーフロー用バルブ、16…溶液タンク、17…溶液供給加圧バルブ、18…リーク用バルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】超微粒子膜において、超微粒子が単層配列し、基板に前記超微粒子を密着させるバインダの膜厚が超微粒子径の半分以下であることを特徴とする超微粒子膜。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平5−288903
【公開日】平成5年(1993)11月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−88579
【出願日】平成4年(1992)4月9日
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)