説明

超硬ブローチ

【課題】ブローチに適用する超硬合金とその固着方法を最適化することによって、高精度を有し、しかもブローチの使用中に緩み等から精度に影響しない超硬ブローチを提供する。
【解決手段】少なくとも切れ刃部に超硬合金のシェルを用い、固着部材により、ブローチ本体に着脱自在に取り付けた組立タイプの超硬ブローチにおいて、該ブローチ本体と該固着部材とは、該固着部材の円周上に等分割された4箇所以上より、該ブローチ本体の軸線に向う6角穴付き止めネジにより該ブローチ本体に固着され、該6角穴付き止めネジの先端部にテーパ部を有し、該ブローチ本体には、該テーパに嵌合するテーパ状の溝部を有することを特徴とする超硬ブローチである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、被加工物を所要の断面形状に切削加工するための超硬ブローチに関する。
【背景技術】
【0002】
ブローチは、多数の被加工物を所要の断面形状に仕上げるための切削工具であり、工具寿命、加工精度に対する要望が高く、切れ刃部に超硬合金を用いたものや硬質皮膜を被覆したものがある。特許文献1、2記載の被覆超硬ブローチは、高硬度材加工用として、母材に超硬合金を用い、硬質皮膜を被覆し、切れ刃のすくい角を規定している。
【0003】
【特許文献1】特開平7−195228号公報
【特許文献2】特開2005−40871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜3は、超硬合金が脆性材料であることから、ブローチでは未だ不十分であり、取付の不備により、チッピングや欠損を生じ易く、被削材側の塑性変形域が大きくなり、加工面を荒らすと共に、極端に切削抵抗が大きくなり、寿命や加工精度に影響を及ぼしていた。
本願発明は、かかる従来の事情に鑑み、ブローチに適用する超硬合金とその固着方法を最適化することによって、高精度を有し、しかもブローチの使用中に緩み等から精度に影響しない超硬ブローチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本願発明は、少なくとも切れ刃部に超硬合金のシェルを用い、固着部材により、ブローチ本体に着脱自在に取り付けた組立タイプの超硬ブローチにおいて、該ブローチ本体と該固着部材とは、該固着部材の円周上に等分割された4箇所以上より、該ブローチ本体の軸線に向う6角穴付き止めネジにより該ブローチ本体に固着され、該6角穴付き止めネジの先端部にテーパ部を有し、該ブローチ本体には、該テーパに嵌合するテーパ状の溝部を有することを特徴とする超硬ブローチである。
【発明の効果】
【0006】
本願発明を適用することにより、組み物としての超硬ブローチの固着強度を上げ、使用中に精度が狂わず、耐久性に優れた超硬ブローチが得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
超硬合金製の切れ刃部を一般にシェル状と呼ばれる中空円筒状とし、鋼製のブローチの本体に着脱自在に取り付けられた組み立てタイプとすることにより、例えば、インターナルブローチにおいて、最大径で200mm程度のブローチまで本願発明が適用可能となり、シェル状の切れ刃部を複数個使用し、組み立てることで長尺ブローチでも適用可能となり、形状用途が拡がる。
次に、シェル状の切れ刃部に皮膜を被覆した後で組み立てることが可能であり、被覆処理自体の段取りや処理時間等が軽減できると共に、皮膜の厚み等が制御し易く、安定した皮膜が得られ、切削性能の安定化が図れる。
超硬合金製のシェル状の切れ刃部は、少なくとも仕上げ刃部だけでも良く、ブローチ本体は、高速度工具鋼製、特に、粉末高速度工具鋼製とし、荒刃部又は中仕上げ刃部を一体的に備えたものとしても良く、形状又は用途によって高速度工具鋼製の切れ刃と超硬合金製の切れ刃とを組み合わすことも可能である。
【0008】
本願発明の少なくとも切れ刃部に超硬合金のシェルは、WCの平均粒径を1.5μm以下とし、ロックウェルAスケールで測定した超硬合金の硬さ(以下、HRAと記す。)をHRA88以上HRA92未満とした。WCの平均粒径を1.5μm以下としたのは、切れ刃の稜線品位を良好にするためであり、WCの平均粒径が1.5μmを超えると、研削加工による切れ刃成形時において、WCの脱落により、稜線品位が保てなくなり、加工面を荒らすと共に、チッピングを誘発するからである。好ましくは、WCの平均粒径を1.0μm以下が望ましい。
超硬合金の硬さは、HRA88以上HRA92未満としたのは、超硬合金自体の靱性が向上し、チッピングを抑制することができる。HRA88未満では、超硬合金を用いるメリットが小さく、HRA92以上では、チッピングを生じ易くなることから、HRA88以上HRA92未満の範囲とした。
超硬合金の保磁力を12kA/m以上20kA/m未満とし、超硬合金の飽和磁化値をRとし、202×Co重量%/100の値をSとした時、飽和磁化比R/Sを0.65≦R/S≦0.95としたので、より一層、切れ刃のチッピングを抑制して、優れた耐摩耗性を有するブローチを得ることができた。超硬合金の保磁力は、Co相の厚さに相当し、Co量が少ないほど、WC粒径が小さいほど高くなるが、これらのバランスを考え、保磁力を12kA/m以上20kA/m未満とした。保磁力が12kA/m未満ではCo量が多く、WCの粒径も大きくなるため、耐摩耗性が低下する。保磁力が20kA/m以上だと、Co量が少なくなるためチッピングし易くなり、耐欠損性が低下する。R/Sが上記範囲にあるときに、さらに、耐摩耗性にすぐれ、チッピングしにくいブローチを得ることができる。ここで、202はCoの飽和磁化値である。数値限定の理由は、R/Sが0.65未満では有害なη相が析出し、強度が大幅に低下するからであり、R/Sが0.95を超えると、結合相中のW固溶量が低下し、合金の強度が低下し、刃先強度が低下するからである。
【0009】
固着部材は、ブローチ本体の前つかみ部との間に、超硬合金製のシェルを固着し、先ず、固着部材は、その外周上に均等分割された4箇所以上より、該ブローチ本体の軸線に向う6角穴付き止めネジにより該ブローチ本体に固着する。6角穴付き止めネジは、その先端部に略90度のテーパ部を有し、ブローチ本体に設けた溝部と嵌合することにより、位置決めし、軸方向の取付精度を高める。テーパ部を略90度としたのは、取付時の精度を高め、且つ、使用中の緩み等による精度の狂いが少なくするためである。
次に、前記6角穴付き止めネジの先端部のテーパ部の長さを2mm以上設けた理由は、2mm未満では、接触する長さが短く、切削時の負荷による抵抗より、その精度を保つことができないため、2mm以上の長さとした。
更に、該固着部材の円周上に等分割された4箇所以上としたのは、ブローチ本体の軸線に向い止めるため、90度毎、60度毎、45度毎、30度毎、15度毎等に等分割し、ブローチ本体の径を考慮し、小径では4〜6箇所、中径・大径では8〜24箇所、固着することにより、精度と強度を維持することができる。
【0010】
更に、超硬合金製シェルに硬質皮膜を被覆することにより、靱性面を考慮した超硬合金のデメリットである耐摩耗性を補うと共に、チッピングを抑制し、良好な切削性を長時間維持できる。
被覆は、金属成分として少なくともTiAlを含有する窒化物、酸化物、硼化物、硫化物、炭化物のいずれか1種以上又は固溶体又は混合物から構成することが超硬ブローチの性能を向上する上で重要であり、本願発明の切れ刃をさらに強化し、チッピングを抑制すると共に、耐摩耗効果と潤滑効果を発揮する。その主な理由としては、上記切れ刃の逃げ面において、Alと被加工物が潤滑層を形成し易く、その潤滑層が極めて緻密で剥離し難いため、結果として切削の断続性に耐え、耐摩耗効果がさらに改善される。硬質皮膜の好ましい成分系は、TiAlN、TiAlCN、TiAlNO、TiAlBNがあり、最適なAl含有量としては、金属元素のみの原子%で、45原子%以上、70原子%未満である。TiAl以外の金属成分としては、Si、Cr、Nb、Mo、Wが上げられ、金属元素のみの原子%で、10原子%以下添加した皮膜が耐摩耗性耐熱性の観点から好ましい。
皮膜の超硬合金との密着強度を改善するために、Ti、Al、Cr、Nb、Bから選択される少なくとも1種以上の窒化物を中間層として用い、2層以上の多層で皮膜を構成することが本願発明を達成する上で好ましい被覆形態である。
被覆後に、硬質皮膜表面を機械的処理により平滑にして、異常摩耗を抑制することができ、より好ましい。切れ刃のすくい面と逃げ面の最大高さ面粗さRzを1.0μm以下としても良く、溶着を抑制し、切れ刃の損傷を抑制できる。数値限定の理由は、すくい面と逃げ面の面粗さが1.0μmを超えると、切れ刃に溶着を生じ易く、加工精度や寿命に影響を及ぼすからである。面粗さを良好にすることは切削抵抗低減の点からも望ましい。
上記硬質皮膜はアークイオンプレーティング、スパッタリングから選択される1種又はそれらの複合処理により被覆することができ好適である。
【0011】
切れ刃にねじれを設けても良く、切削時の断続性が緩和されると共に、切れ刃に対する切り屑の厚み、即ち、切れ刃直角方向の切り屑の厚みが減少し、脆性材料である超硬合金の欠点をカバーし、一層耐チッピング性が向上する。ねじれについて、サーフェースブローチの場合は送り直角方向に対して斜めに切れ刃を設けることにより、インターナルブローチの場合は螺旋状に切れ刃を設けることにより、切れ刃にねじれを付与することができる。好ましいねじれ角は、1°〜20°であり、1°未満であるとねじれの効果が少なく、20°を超えると、切り屑がねじれに沿って排出されるため、特にインターナルブローチの場合は、切り屑の噛み込みや切り屑詰まりを生じることがあり、寿命や加工精度に影響を及ぼす場合があるからである。好ましくは、3°〜10°が望ましい。
【0012】
本願発明は、特に、剪断形の切り屑が生成され易い加工において顕著に現れ、HRC45〜65の高硬度材の加工や切削速度15m/min以下の低速の切削速度の加工において、優れた切削性能を示し、しかもブローチの長寿命化を計ることができる。1刃の切り込み量が大きくなっても、切り屑の形状が剪断形になり易く、1刃の切り込みが0.03mmを超え0.08mm以下であっても、優れた切削性能を示すことから、ブローチの仕上げ刃はもちろんのこと、中仕上げ刃、荒刃に至るまで、各々について本願発明を適用することができ、良好な切削性能を示す。
以下、本願発明を実施例に基づき、詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
(実施例1)
市販の平均粒径0.8μm〜1.6μmのWC粉末、1.2μmのCo粉末、1.2μmのCr粉末、1.5μmのVC粉末、1.2μmのTaC粉末を用いて、表1に示す各組成に配合し、成形バインダーを含んだアルコール中アトライターで12時間混合し、スプレードライヤーで造粒乾燥した後、得られた造粒粉末を押出し成形して圧粉体とした。これらの圧粉体を10Paの真空雰囲気中において1400〜1450℃で焼結し、その後HIP処理し、本発明例1〜9、比較例10〜16の超硬合金にて、シェル状のインボリュートスプラインブローチを製作した。
上記シェルは、切れ刃のすくい角が6°、ブローチ軸方向に切れ刃を10刃並べて設け、1刃の切り込みは、ブローチの第1刃から数えて、第5刃目までが0.04mm、第6刃が0.02mm、第7刃が0.01mmで、第7刃〜第10刃を仕上げ刃とした。各ブローチを脱脂洗浄を十分に実施し、AIP装置の容器内の冶具に配置し、切れ刃部にTiAlN皮膜を1.0μmの厚さで形成した。
ブローチ本体は、前つかみ部、それに続くシェル、固着部材からなり、シェル、固着部材部分のブローチ本体は、シェルの刃径の半分程度の径とし、固着部材の内径側のブローチ本体には、溝部を2箇所設けている。溝部は、幅8mm、90度で設け、溝の長さは、5mmとした。
被覆したシェルを、ブローチ本体の前つかみ部と固着部材との間に嵌合し、固着部材で固定し、その精度を測定した。精度は、シェルの仕上げ刃、第10刃で測定した。
その結果、第10刃での繰返し精度は、−2.6、−4.1、−3、8、−1.2、−3.2μmであった。
【0014】
次に、各超硬ブローチを用いて、被加工物を定数個加工時の最大逃げ面摩耗幅を調査した。被加工物には、1個当たりの切削長が26mmで、荒加工後、HRC50に浸炭焼入れしたSCM435材を用い、切削条件は、切削速度5m/min、不水溶性切削液を用いた湿式切削で行った。表1にテスト結果を示す。
【0015】
【表1】

【0016】
表1より、本発明例1、2は、加工数1000個まで加工できたが、本発明例1が微小チッピング先行型の摩耗、本発明例2が通常摩耗であり、いずれも、最大逃げ面摩耗幅が0.15mm達したことにより寿命と判断した。
本発明例3〜9の、保磁力が12kA/m以上20kA/m未満の範囲、飽和磁化比が0.65以上0.95以下の範囲の各例は、加工数1500個まで加工でき、摩耗状態も良好な通常摩耗であり、一層工具寿命が向上した。特にWCの平均粒径が1.0μm以下の本発明例3〜7、本発明例9は摩耗幅も小さく、まだ加工可能な状態であり、より一層工具寿命が向上した。寿命後の精度を前記同様に測定した結果、−2.1、−3.5、−3.0、−0.8、−2.5μmであり、固着に関しては緩み等はなかった。
硬さが本発明範囲よりも小さい比較例10〜14は加工数500個の時点で、既に最大逃げ面摩耗幅が0.2mmを超える非常に大きな摩耗幅であった。その中でも、比較例10は切れ刃にチッピングを生じており、飽和磁化比が低い為であり、比較例14は、切れ刃稜線の品位が影響し、いびつな摩耗状態であった。硬さ、保磁力が本発明範囲より高い比較例15〜16は加工数1個目で、第1刃が欠けを起こし、寿命となった。これらの結果より、本発明範囲の特性を持つ超硬合金、保磁力が12kA/m以上20kA/m未満、飽和磁化比が0.65以上0.95以下の範囲の特性を持つ超硬合金を素材とした被覆超硬ブローチは耐チッピング性、耐摩耗性ともに非常に優れていることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも切れ刃部に超硬合金のシェルを用い、固着部材により、ブローチ本体に着脱自在に取り付けた組立タイプの超硬ブローチにおいて、該ブローチ本体と該固着部材とは、該固着部材の円周上に等分割された4箇所以上より、該ブローチ本体の軸線に向う6角穴付き止めネジにより該ブローチ本体に固着され、該6角穴付き止めネジの先端部にテーパ部を有し、該ブローチ本体には、該テーパに嵌合するテーパ状の溝部を有することを特徴とする超硬ブローチ。
【請求項2】
請求項1記載の超硬ブローチにおいて、該6角穴付き止めネジの先端部のテーパ部を略90度としたことを特徴とする超硬ブローチ。
【請求項3】
請求項2記載の超硬ブローチにおいて、該テーパ部の長さを2mm以上としたことを特徴とする超硬ブローチ。
【請求項4】
請求項1又は2記載の超硬ブローチにおいて、該固着部材の円周上に等分割された4箇所以上行う箇所を、複数設けたことを特徴とする超硬ブローチ。
【請求項5】
請求項1乃至3何れかに記載の超硬ブローチにおいて、該固着部材の円周上に等分割された箇所が8箇所であることを特徴とする超硬ブローチ。

【公開番号】特開2007−69285(P2007−69285A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257187(P2005−257187)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【Fターム(参考)】