説明

超長波長の蛍光色を含むマルチカラー蛍光タンパク質

【課題】 超長波長の蛍光(赤色蛍光)を含む複数の蛍光を発することができ、励起波長と蛍光波長の差が大きく、さらに、比較的長波長の光によっても励起されることのできる蛍光タンパク質を提供する。
【解決手段】 軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))に由来する天然型または遺伝子組換えを施して得られる蛍光タンパク質であって、励起波長に応じて可視域において識別可能な複数の蛍光色を示すことを特徴とするマルチカラー蛍光タンパク質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光タンパク質に関し、特に、超長波長の蛍光を含む複数の蛍光を発することのできる新規な蛍光タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光タンパク質は、細胞や他のタンパク質などを標識するマーカーとして、生化学、生物学、医学などの研究分野において重要な役割を果たしている。
現在、広く使われているGFP(Green Fluorescent Protein)をはじめとする蛍光タンパク質の多くは、励起光の波長と近い波長の蛍光を発する。励起波長と蛍光波長の差(ストークスシフト)が大きければ、励起波長によるバックグランドの影響の少ない鮮明な画像を得ることができる。赤色蛍光は長波長の蛍光であり、励起波長との差を大きくするので好ましいが、赤色蛍光を発することのできる蛍光タンパク質は少ない。また、励起波長については、短波長の光による励起は、生細胞などを損傷する可能性がある。さらに、単一の蛍光タンパク質が色の異なる複数の蛍光を発することができれば、同時に複数の反応を多蛍光色で解析できるなどの利点があるが、この目的に適う蛍光タンパク質も少ない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は超長波長の蛍光、すなわち、赤色蛍光を含む複数の蛍光を発することができ、励起波長と蛍光波長の差が大きく、さらに、比較的長波長の光によっても励起されることのできる新しい蛍光タンパク質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、海洋生物である軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))に蛍光タンパク質が存在することを見出し、その分離精製を行ない、電気泳動法およびLC/MS/MS法により部分アミノ酸配列を決定した。その情報を基に遺伝子組換えにより新規な蛍光タンパク質の発現に成功し、本発明を導き出したものである。
【0005】
従って、本発明に従えば、以下の蛍光タンパク質及びDNA等が提供される。
1.励起波長に応じて可視域において識別可能な複数の蛍光色を発することを特徴とするマルチカラー蛍光タンパク質。
2.赤色蛍光に加えて、橙色蛍光、緑色蛍光、青色蛍光および/または紫色蛍光を発する前記1に記載の蛍光タンパク質。
3.前記蛍光タンパク質が軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))に由来する天然型蛍光タンパク質または遺伝子組換えを施して得られる蛍光タンパク質である前記1または2に記載の蛍光タンパク質。
4.励起波長と蛍光波長の差をあらわす、ストークスシフトが少なくとも45nmである前記1〜3のいずれかに記載の蛍光タンパク質。
5.励起波長298nmで励起したときに400〜680nmの範囲内の最大蛍光波長の蛍光を発する前記1〜4のいずれかに記載の蛍光タンパク質。
6.励起波長436nmで励起したときに400〜680nmの範囲内の最大蛍光波長の蛍光を発する前記1〜4のいずれかに記載の蛍光タンパク質。
7.励起波長564nmで励起したときに400〜680nmの範囲内の最大蛍光波長の蛍光を発する前記1〜4のいずれかに記載の蛍光タンパク質。
8.(a)配列番号1,2,3、4、5、6または7で表されるアミノ酸配列、または(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1個〜25個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、からなり少なくとも赤色蛍光を発することを特徴とする蛍光タンパク質。
9.(a)配列番号1,2,3、4、5、6または7で表されるアミノ酸配列、または(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1個〜25個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、からなり少なくとも赤色蛍光を発する蛍光タンパク質をコードすることを特徴とするDNA。
10.配列番号1,2,3, 4,5,6または7のいずれかを含むアミノ酸配列からなる分子量が17〜28kDaのタンパク質であって、励起波長298nmで励起すると、少なくとも400〜680nmの範囲内の複数の蛍光色を発することを特徴とするマルチカラー蛍光性タンパク質。
【発明の効果】
【0006】
(1)本発明の蛍光タンパク質は、波長600〜700nmの範囲の赤色蛍光を発し、ストークスシフト(最大蛍光波長と最大励起波長の差)は、一般に、少なくとも約50nmであり、ストークスシフトが約370nmに達するものもある。かくして、本発明の蛍光タンパク質は蛍光マーカーとして使用されたとき、蛍光スペクトルと励起スペクトルの重なりのない鮮明なイメージング画像を得ることができる。
【0007】
(2)本発明の蛍光タンパク質は、従来の蛍光タンパク質において用いられていた紫外域またはその近傍域よりも長波長、例えば、最大励起波長436nmおよび564nmで励起することもできる。このように長波長の励起光を使用することができるため、生細胞などの被標識試料への影響が少ないという利点がある。
【0008】
(3)本発明の蛍光タンパク質は、赤色蛍光に加えて橙色蛍光、緑色蛍光、青色蛍光、や紫色蛍光など、複数の色の蛍光を発することができる。したがって、本発明の蛍光タンパク質をマーカーとして用いれば、1励起波長を与えることで、同時に複数の反応をマルチカラー蛍光色でセンシングするマルチカラー解析や、マルチカラーイメージング画像などが可能となる。
【0009】
(4)本発明に係わる蛍光タンパク質は、1種の励起波長で励起することで、マルチカラーの蛍光波長を発することができるので、マルチカラー蛍光生物素子としての応用が可能である。
【0010】
(5)本発明にかかわる遺伝子akane, akane1, akane2, akane3 (配列番号4、5、6及び7)などをもちいて、目的タンパク質との融合タンパク質を作製することにより、FRET(Fluorescence resonance energy transfer:蛍光共鳴エネルギー移動法)に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の蛍光タンパク質は、軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))から天然型の蛍光タンパク質及びこれを分離精製して部分アミノ酸配列を求め、その情報に基づき遺伝子組換えにより組換えタンパク質として得られるものである。なお、以下の説明において、本発明の蛍光タンパク質の総称として、また、その天然型及び遺伝子組換え体の特定の配列についてakane(茜)という名称を用い、特に区別する必要がある場合(例えば、変異体)にはakane1、akane2、akane3等の数字を付加する。
【0012】
このような蛍光タンパク質には、励起波長に応じて可視域において識別可能な複数の蛍光色を示す蛍光タンパク質が含まれるが、より具体的には、例えば、298nmで励起したときに400〜680nmの範囲内、より特定すれば620〜680nmの範囲内(例えば、664nm)にピークを有する蛍光、436nmまたは564nmで励起したときに400〜680nmの範囲内(例えば、励起波長436nmで励起すると475nm 、及び506nmに蛍光を発することが認められた。また、564nmで励起すると612nmまたは628nm)に1または複数の蛍光波長を有する蛍光を示す蛍光タンパク質が含まれる。
【0013】
具体的には、(a)配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1個〜25個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、からなり少なくとも赤色蛍光を発することを特徴とする蛍光タンパク質が挙げられる。配列番号4で表されるアミノ酸配列に類似の配列としては例えば、配列番号5、6及び7が含まれ、より限定すれば、配列番号4、5、6及び7で表される配列またはこれらの配列において1個〜数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が含まれる。ここで、数個とは10個以下、より特定すれば6個以下、さらに特定すれば4個以下を言う。
また、本発明によれば、ストークスシフトが45nm以上の蛍光タンパク質が提供される。ストークスシフト上限は特に限定されないが、典型的には50nm〜450nmの範囲であり、100〜400nmの範囲のストークスシフトが実現できる。
【0014】
さらに、本発明の蛍光タンパク質は、配列番号1,2,3, 4,5,6または7のいずれかを含むアミノ酸配列からなる分子量が17〜28kDaのタンパク質であって、励起波長298nmで励起すると、少なくとも400〜680nmの範囲内の複数の蛍光色を発することを特徴とするマルチカラー蛍光性タンパク質を含む。
【0015】
また、本発明は、配列番号1,2,3, 4,5,6または7のいずれかを含むアミノ酸配列からなる分子量が17〜28kDaのタンパク質であって、軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))に由来し、主としてヒトにおける喘息性アレルギーのアレルゲンとして作用することを特徴とするタンパク質を含む。
【0016】
天然型タンパク質の解析
(第1の形態)
軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))由来の天然型蛍光タンパク質を特定する解析を行った過程及び結果について説明する。
まず、ホモジナイズ処理から粗抗原への試料の抽出精製として、軟サンゴを10mM-PBS溶液中でホモジナイズし、抽出液を遠心分離したものについて80%飽和硫安沈殿を行い、その沈殿タンパク質を透析膜により透析したのち、溶液を凍結乾燥したものを粗抽出試料とした。
【0017】
この段階での試料を15%ポリアクリルアミドゲルでSDS-PAGEで電気泳動後に、CBB染色した分子量約21kDaのタンパク質バンドの切り出しを行い、この試料について、ゲルの脱色、システイン残基の還元アルキル化、ゲルの洗浄、トリプシン消化、ペプチド断片の抽出、減圧乾燥、サンプル溶解液への溶解、LC/MS/MSにより質量分析をおこなったところ、Gln-Ser-Phe-Pro-Glu-Gly-Phe-Ser-Trp-Glu-Arg(配列番号1)というアミノ酸配列が得られた。
【0018】
(第2の形態)
前記第1の形態同様、軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))由来の天然型蛍光タンパク質を特定する解析を行った過程及び結果について説明する。
まず、ホモジナイズ処理から粗抗原への試料の抽出精製として、軟サンゴを10mM-PBS溶液中でホモジナイズし、抽出液を遠心分離したものについて80%飽和硫安沈殿を行い、その沈殿タンパク質を透析膜により透析したのち、溶液を凍結乾燥したものを粗抽出試料とした。
【0019】
この粗抽出試料を蒸留水に溶かした溶液をゲル濾過カラム(Sephadex-75)にかけ、その中のタンパク質量の多い数本の試料を濃縮し、さらに陰イオンカラム(Q-Sepharose High Performance)にかけ、10mM−Tris HCl buffer (pH8.5)の(0.1〜0.5N)−NaClで溶出させて、分画した試料を、SDS-PAGEで電気泳動後に、CBB染色した分子量約27kDaのタンパク質バンドの切り出しを行い、この試料について、ゲルの脱色、システイン残基の還元アルキル化、ゲルの洗浄、トリプシン消化、ペプチド断片の抽出、減圧乾燥、サンプル溶解液への溶解、LC/MS/MS により質量分析をおこなったところ、Tyr-Pro-Ala-Asp-Ile-Pro-Asp-Tyr-Phe-Lys(配列番号2)というアミノ酸配列が得られた。
【0020】
(第3の形態)
前記第2の形態同様、軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))由来の天然型蛍光タンパク質について、これを特定する解析を行った過程及び結果について説明する。
軟サンゴを10mM-PBS 溶液中でホモジナイズし、抽出液を遠心分離したものについて80%飽和硫安沈殿を行い、その沈殿タンパク質を透析膜により透析したのち、溶液を凍結乾燥したものを粗抽出試料とした。
【0021】
この粗抽出試料を蒸留水に溶かした溶液を、ゲルろ過カラム(Sephadex-75)にかけて、10mM-PBS(pH-7.5)で流し、すべてのフラクションのタンパク質量を、分光光度計の波長280nmで測定した。その吸光度が高いフラクションを集めて、濃縮し次に陰イオンカラム(Q Sepharose High Performance)にかけて、10mM-Tris HCl buffer(pH-8.5)の(0.1N−0.5N)−NaClで溶出させ、分離精製したのちの溶出画分を濃縮した。その分画試料を、15%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動後に、CBB染色したタンパク質バンドの中で、約18kDaタンパク質について、LC/MS/MS法で分析を行った。
約18kDaタンパク質においては、アミノ酸配列として、Thr−Met−Thr−Tyr−Glu−Asp−Lys−Gly−Ile−Cys−Thr−Ile−Arg(配列番号3)が得られた。
次に、以上のデータに基づいて行った組換えタンパク質の生成について説明する。
【0022】
遺伝子組換え体タンパク質の生成
(1)RNAの調製は RNA isolation kit (Gentra)を用いて行った。100mgの軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))を1.2mlのcell lysis solutionに入れ、ホモジナイズした。これに、400ulのProtein-DNA precipitation solutionを加え10回、転倒混和した。15000 rpm、5分間遠心して得られた上清に、1.2mlのイソプロパノールを加え、50回混和した。これを15000rpmで5分間遠心して、RNAを沈殿させた。その後、70%エタノールにより沈殿を洗浄した後、乾燥させた。得られたtotal RNA 100ugより、mRNA purification kitを用いて70ngのpoly(A)+ RNAを得た。cDNAはSMART RACE cDNA amplification kitを用いて行った。
【0023】
(2)質量分析により決定されたアミノ酸配列のうち、ADLPDYFKを元にして、遺伝子特異的プライマーDnippoFP5(GCNGAYYTNCCNGAYTAYTTYAA)を作成した。このプライマーおよびキットに付属のUniversal primer mixをプライマーとし、Advantage 2 polymerasse(クロンテック)を酵素として用い、3’RACEを行った。PCRサイクルは94℃、1'−57℃、30''−72℃、2'を35回行った。増幅された700bpのバンドは、QIAEX II DNA
extraction kit(キアゲン)を用いて精製した後、pCR4-topoベクターに連結後、コンピテントセルTOP10に形質転換した。これをDYEnamic ET sequencing kit(アマシャムバイオサイエンス)を用いてシークエンシングを行った。
【0024】
(3)決定された塩基配列よりプライマーFP5−RACE(GCTTTTCCCTTGAGCCTCTACCT)を作成したのち、5'RACEを、3'RACEと同様の条件で行った。両方のRACEにより得られた塩基配列を連結して蛍光タンパク質のcDNAとした。
【0025】
(4)決定された塩基配列をもとにプライマーAgFP5Ex(CACCATGAATCCGATTAAAGAAGA)、AgFP3Ex(CTACCTGGCCTGACTGGGCACCAA)を作成した。プラスミドに連結した5'RACE産物を鋳型として、Advantage 2 polymeraseを用いて翻訳配列を増幅した。PCRサイクルは94℃、1'-60℃、30''-72℃、2'を20回で行った。得られた配列をpET100/D-TOPOベクターに挿入した。組み換えタンパク質は、N末端にヒスチジンタグが付加されて発現される。これを大腸菌BL21(DE3)に形質転換した。タンパク質の発現は、100µg/mlアンピシリンTB培地を用いて25℃で培養し、1mMイソプロピルチオガラクトシド存在下でタンパク質発現を誘導して行った。
【0026】
(5)遠心して大腸菌を集菌した後、50mM Tris-HCl, pH 8.0、0.5M-NaClに懸濁し、超音波破砕後、遠心することにより粗抽出液を得た。その後、HiTrap Desalting(アマシャムバイオサイエンス)により、50mM Tris-HCl、pH8.5にバッファー交換を行った。得られたタンパク質画分を、Resource Q(アマシャムバイオサイエンス)を用いて、NaClの濃度勾配により溶出した。
【0027】
(6)以上のようにして決定された本発明の遺伝子組換え体蛍光タンパク質〔Akane(茜)と名づける〕の全アミノ酸配列(配列番号4)を図1に示す。プロテオーム解析から得られた3種類のアミノ酸配列(配列番号1〜3)の存在が認められる。また、クロモフォアを形成する配列の存在も確認された。
【0028】
以下に、本発明の蛍光タンパク質の特徴をさらに具体的に明らかにするため、軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))由来の天然型蛍光タンパク質と組換え蛍光タンパク質とを比較して行った蛍光測定の結果を実施例として示す。用いた装置は、蛍光分光光度計(RF-5300島津製作所製)である。
なお、よく知られているように蛍光測定における励起波長および蛍光波長の大きさは、実験条件や用いる機器の違いによる相違が認められている。したがって、本願の特許請求の範囲、明細書および図面に表示されている励起波長および蛍光波長の大きさは、一般的には±5nm程度の誤差を含み得るものとして理解すべきである。なお、本測定においては、バンド幅の設定値をEX:5.0nm、EM:5.0nmに設定している。
【実施例1】
【0029】
<天然型の蛍光タンパク質>
天然型の蛍光タンパク質の試料は、既述の場合と同様、次のようにして調製した:
軟サンゴを試料量の3倍量の10mM-PBS溶液中でホモジナイズし、抽出液を4℃、10000rpm、30分間遠心分離したものについて80%飽和硫安沈殿を行い、その沈殿タンパク質を透析膜(10,000
cut off)により透析した。透析した溶液を2晩凍結乾燥したものを粗抽出試料とした。この粗抽出試料を、ゲルろ過カラム(Sephadex-75)、次に陰イオンカラム(Q Sepharose High Performance)にかけて、10mM Tris-HCl buffer (pH8.5)で流し、次に塩濃度を順次変えて溶出し、(0.1M〜0.5M-NaCl)、分光光度計の波長280nmでタンパク質量を測定した。タンパク質の吸光度の高い画分を、さらに分離精製したのちの溶出画分をウルトラフィルターで濃縮した。15%ポリアクリルアミドゲルでSDS-PAGE電気泳動後に染色を行うと、本天然型の試料(2-10)及びrecombnant-type試料において、いずれも27kDaおよび21kDaの分子量のタンパク質バンドが得られた。
【0030】
<遺伝子組換え体蛍光タンパク質>
遺伝子組換え体蛍光タンパク質の試料は、既述のように精製した遺伝子組換え体タンパク質について、HiPrep Desalting 26/10 (Amersham Bioscience), 50mM Tris-HCl, pH8.5に置換して、バッファー交換を行い、次に陰イオン交換カラム、Resource Q(アマシャムバイオサイエンス)を用いて、50mM Tris-HCl, pH8.5にて、0−1M
NaClの濃度勾配により溶出することにより調製した。流速は、1ml/minで溶出させ、各分画はAbs. 280nmでモニターした。
【0031】
<蛍光測定>
蛍光測定の結果を図2に示す。遺伝子組換え体蛍光タンパク質(図2中では、recombinant-typeと記載している)では、図2に示すように(最大)励起波長298nmで励起すると、(最大)蛍光波長664nmの超長波長の蛍光スペクトルが得られている。
天然の軟サンゴから分離、精製して得られた試料(図2ではnative-typeと記載している)として、Fr(2-10)、Fr(2-12)は陰イオンカラムで、バッファーは、10mM-Tris 0.1N-NaCl溶出で得られた画分であるが、同様に、励起波長298nmで励起すると、蛍光波長668〜669nmが得られた。
このように、軟サンゴから得られた本発明の蛍光タンパク質は、超長波長の蛍光スペクトルを発するとともに、(最大)励起波長と(最大)蛍光波長の差が370nm近くもあり、蛍光マーカーとしてきわめて優れていることが理解される。
なお、全ての蛍光スペクトルに、励起波長である298nmと、この励起波長の2倍の波長(596nm:2次励起波長)に強いピークが現れているが、通常、1次励起波長と2次励起波長において発生するものであり、これらは測定対象とする蛍光スペクトルのピークではない。
【実施例2】
【0032】
実施例1で用いた天然型(native-type)の試料(Fr.2-10)について励起波長564nmで励起した。蛍光測定の結果を図3に示す。図3に示すように、628nmに最大蛍光波長をもつ蛍光スペクトルが得られた。
次に、628nmを蛍光波長として、励起スペクトルを測定すると、571nmに最大励起波長をもつ、励起スペクトルを得た。最大蛍光スペクトルと、励起スペクトルとが非常に対称性の良いスペクトルが観測できた。蛍光波長が628nmと長波長のRed Fluoresent Protein(RFP)が得られた。さらに、このRFPを含む、天然型蛍光タンパク質を(Akane(茜))と名づけるが、このAkane(茜)のストークスシフト(最大蛍光波長と、最大励起波長の差)が57nmと従来のRFP蛍光タンパク質にはない、大きなストークスシフトを示しており、このことは、遺伝子へこの(Akane(茜))を組み込んで細胞の発現をおこなうときに、励起波長による、バックグラウンドの影響が少なく、非常に見やすい蛍光画像を提供できることがメリットである。さらに、励起波長を564nmとすることにより、生細胞に本蛍光タンパク質を組み込んだ時に、生細胞への影響が少なくなる。
【0033】
Recombinant-type(遺伝子組換え体蛍光タンパク質)〔同様にAkane(茜)と名づける〕試料についても、脱塩を行い、さらに、陰イオン交換カラムにかけ、励起波長564nmで励起すると612nmに最大蛍光波長をもつ蛍光スペクトルが得られ(図4)、ストークスシフトの大きい(48nm)蛍光特性が確認された。なお、図4には示されていないが、564nmで励起した場合には、576nmの橙色の蛍光も発していることが認められている。
Recombinant試料において、精製後、すぐに得られた溶液を純水で120倍希釈後、蛍光スペクトルを測定した。励起波長は564nmで最大蛍光波長612nmをもつ蛍光スペクトルが得られた(図4実線)。更に18日間経過後に同上の条件で蛍光スペクトルを測定した(図4点線)ところ、最大蛍光波長は612nmで、蛍光強度は47/52と約93%であり、蛍光スペクトルパターンも変化がなく、このRecombinant試料は安定して継続的な赤色蛍光タンパク質を供することを示している。
【実施例3】
【0034】
天然型タイプの試料(Fr 2-10)について励起波長436nmで励起した場合、475nm(cyan)および506nm(green)に蛍光を発することが認められた。ここでもストークスシフトが(39nm)および(70nm)と大きい値が得られた。
【実施例4】
【0035】
天然型タイプの試料(Fr 2-10)について、472nmで励起したところ、508nm、558nmおよび624nmの波長に同時に3波長の強い蛍光を発することが認められた。
【実施例5】
【0036】
別の個体の軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))から実施例1と同様の操作により天然型の蛍光タンパク質を得た。天然型の蛍光タンパク質は ゲルろ過カラムで精製したあと、陰イオンカラムで分離したフラクション3−6、3−5、3−7、3−8、3−9(図中、それぞれa、b、c、d、eで示す。)について、それぞれを励起波長298nmで励起した。結果を図5に示す。蛍光波長として、同時に 660nm(赤色蛍光)、628nm(赤色蛍光)、570nm(橙色蛍光)、505nm(緑色蛍光)、480nm(青色蛍光)、さらに430nm(紫色蛍光)もショルダーとして見出すことができる。
【実施例6】
【0037】
天然型タイプの試料(Fr 2-10)について、472nmで励起したところ、508nm、558nmおよび624nmの波長に同時に3波長の強い蛍光を発することが認められた。
【実施例7】
【0038】
akaneの遺伝子組換え体を、励起波長564 nm で励起したときの蛍光スペクトルを図6に示す。577nm、612nm、673nmに複数のカラーの蛍光波長の蛍光を発している。さらに、419nmにショルダーのわずかな強度ではあるが蛍光が見られる。
【実施例8】
【0039】
PCR プライマーは、先に決定したakaneのcDNA 配列から塩基配列を元に、プライマー1(CCTTCTGGAGAGAAGACGTGAATACAGC)およびプライマー2(TGAGCCTCTACCTGGCCTGACTGG)を作製した。
蛍光タンパク質遺伝子の増幅は、作製したcDNA を元にして、Advantage 2 polymerase (BD)を用いて行った。増幅されたPCR 産物はプラスミド pCR4 に連結した後、コンピテントセルDH5αに形質転換した。コロニーよりプラスミドを調製した後、 BigDye terminater DNA sequencing kit (アプライドバイオシステムズ)を用いて塩基配列を決定した。
PCR
により増幅されたPCR 産物は850 bpの単一バンドであった。これをプラスミドに連結後形質転換して得られた 75 クローンについて塩基配列の決定を行ったところ、約半分のクローンが akane であったが、残りのクローンより別の配列が見出された。それら(配列番号5〜7)を、akane 1、akane2、 akane 3 と名付けた。これらの配列はakaneの配列と非常に類似しており、クロモフォアがひとつ含まれていた。これらの配列を図7図8に対比して示す。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の蛍光タンパク質(akane)の全アミノ酸配列(配列番号4)を示す。
【図2】本発明の遺伝子組換え体の蛍光タンパク質および天然型(軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))体色薄茶色)の蛍光タンパク質をそれぞれ、励起波長298nmで励起した場合の蛍光スペクトル特性図である。
【図3】本発明に従う軟サンゴ由来の天然型蛍光タンパク質を564nmで励起した場合の蛍光スペクトル特性図である。
【図4】本発明の遺伝子組換え体蛍光タンパク質を564nmで励起した場合の蛍光スペクトル特性図、および同じ遺伝子組換え体蛍光タンパク質を18日間経過後に564nmで励起した蛍光スペクトル特性図である。
【図5】本発明の天然型(akane)の蛍光タンパク質を励起波長298nmで励起した場合の蛍光スペクトル特性図である。(軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))体色紫色)
【図6】本発明の遺伝子組換え体 (akane)の蛍光タンパク質を励起波長564nmで励起した場合の蛍光スペクトル特性図である。
【図7】実施例8におけるakane、akane1、akane2及びakane3のアミノ酸配列を対比して示した図(各ブロックとも上からakane、akane1、akane2及びakane3の順であり、akaneの配列と異なるアミノ酸は四角で囲った)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起波長に応じて可視域において識別可能な複数の蛍光色を発することを特徴とするマルチカラー蛍光タンパク質。
【請求項2】
赤色蛍光に加えて、橙色蛍光、緑色蛍光、青色蛍光および/または紫色蛍光を発する請求項1に記載の蛍光タンパク質。
【請求項3】
前記蛍光タンパク質が軟サンゴ(Scleronephthya gracillima (Kuekenthal))に由来する天然型蛍光タンパク質または遺伝子組換えを施して得られる蛍光タンパク質である請求項1または2に記載の蛍光タンパク質。
【請求項4】
励起波長と蛍光波長の差をあらわす、ストークスシフトが少なくとも45nmである請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光タンパク質。
【請求項5】
励起波長298nmで励起したときに400〜680nmの範囲内の最大蛍光波長の蛍光を発する請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光タンパク質。
【請求項6】
励起波長436nmで励起したときに400〜680nmの範囲内の最大蛍光波長の蛍光を発する請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光タンパク質。
【請求項7】
励起波長564nmで励起したときに400〜680nmの範囲内の最大蛍光波長の蛍光を発する請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光タンパク質。
【請求項8】
(a)配列番号1,2,3、4、5、6または7で表されるアミノ酸配列、または(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1個〜25個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、からなり少なくとも赤色蛍光を発することを特徴とする蛍光タンパク質。
【請求項9】
(a)配列番号1,2,3、4、5、6または7で表されるアミノ酸配列、または(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1個〜25個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、からなり少なくとも赤色蛍光を発する蛍光タンパク質をコードすることを特徴とするDNA。
【請求項10】
配列番号1,2,3, 4,5,6または7のいずれかを含むアミノ酸配列からなる分子量が17〜28kDaのタンパク質であって、励起波長298nmで励起すると、少なくとも400〜680nmの範囲内の複数の蛍光色を発することを特徴とするマルチカラー蛍光性タンパク質。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−104461(P2008−104461A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258158(P2007−258158)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(506331044)
【出願人】(598041566)学校法人北里学園 (180)
【Fターム(参考)】