説明

超電導コイル及び超電導コイルの製造方法

【課題】テープ状の超電導線材を用いた超電導コイルにおいて、製造に必要な設備を簡素化し、製造を容易化しつつ、十分な絶縁性を確保して臨界電流値の低減を防止する。
【解決手段】超電導線材10には、巻線の際に、半硬化状態の熱硬化性樹脂が含浸されたガラステープ6が巻線張力をかけながら隙間なく巻き付けられており、巻線の後に、熱硬化性樹脂が硬化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープ状の構造を有する超電導線材を用いて構成された超電導コイル及び超電導コイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルは、通電したときに生ずる電磁力により破壊される可能性がある。そのため、超電導コイルの製造においては、十分な強度を確保するため、超電導線材を巻線した後、超電導線材の間にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させ、熱硬化性樹脂を加熱して硬化させることにより、コイル全体を固着させている。
【0003】
熱硬化性樹脂をコイルに含浸させる方法としては、熱硬化性樹脂を減圧下で含浸させ、さらに、常圧、または、加圧状態として、樹脂を含浸させる方法が用いられている。この製造方法においては、熱硬化性樹脂を収納する容器、超電導コイルの含浸層及び真空引きを行うための特殊な設備が必要となり、煩雑である。
【0004】
特許文献1には、熱硬化性樹脂をコイルに含浸させる工程を省略できる製造方法として、熱硬化性樹脂を半硬化状態で含浸させたガラステープを、巻線張力をかけながらテープ状の超電導線材に重ね合わせ、超電導線材とともに巻線する製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4187293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載された製造方法により製造された超電導コイルは、ガラステープが超電導線材同士の間に介在しているため、超電導線材同士は十分に固着されているが、コイルの上端面及び下端面にはガラステープも熱硬化性樹脂も存在せず、絶縁が不十分となるという問題がある。
【0007】
また、この超電導コイルにおいて、超電導線材に重ね合わせるガラステープの厚さが薄い場合には、超電導線材同士の間の絶縁も不十分となり、通電した際の臨界電流値が低減することが実験により確認されている。
【0008】
そこで、本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであって、テープ状の超電導線材を用いた超電導コイルにおいて、製造に必要な設備を簡素化し、製造を容易化することができ、また、十分な絶縁性が確保されて臨界電流値の低減を防止することができる超電導コイル及び超電導コイルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決し、前記目的を達成するため、本発明に係る超電導コイル及び超電導コイルの製造方法は、以下の構成を有するものである。
【0010】
〔構成1〕
本発明に係る超電導コイルは、テープ状の超電導線材を巻枠に巻線して構成された超電導コイルであって、超電導線材は、基板及び超電導層及び安定化保護層を含む超電導線材本体と、超電導線材本体に隙間なく巻かれたガラステープとを備え、ガラステープは、熱硬化性樹脂が含浸されたものである。
【0011】
〔構成2〕
構成1を有する超電導コイルにおいて、超電導線材本体は、イットリウム系酸化物の超電導材料からなるものである。
【0012】
〔構成3〕
構成1、または、構成2を有する超電導コイルにおいて、超電導線材本体の厚さをt1、ガラステープの厚さをt2としたとき、ガラステープの厚さt2は、超電導線材本体の厚さt1以下であることを特徴とするものである。
【0013】
〔構成4〕
構成1乃至構成3のいずれか一にを有する超電導コイルにおいて、ガラステープの幅をd、ガラステープ同士が重なる幅をwとしたとき、以下の条件が成立していることを特徴とするものである。
0≦w≦d
【0014】
〔構成5〕
本発明に係る超電導コイルの製造方法は、テープ状の超電導線材を巻枠に巻線して超電導コイルを構成する超電導コイルの製造方法であって、半硬化状態の熱硬化性樹脂を含浸させたガラステープを巻線張力をかけながら超電導線材本体に隙間なく巻き付けて超電導線材とし、超電導線材を巻線し、超電導線材の巻線の後に熱硬化性樹脂を硬化させることを特徴とするものである。
【0015】
〔構成6〕
構成5を有する超電導コイルの製造方法において、超電導線材本体として、イットリウム系酸化物の超電導材料からなる超電導線材本体を用いることを特徴とするものである。
【0016】
〔構成7〕
構成5、または、構成6を有する超電導コイルの製造方法において、超電導線材本体の厚さをt1、ガラステープの厚さをt2としたとき、ガラステープの厚さt2は、超電導線材の厚さt1以下であることを特徴とするものである。
【0017】
〔構成8〕
構成5乃至構成7のいずれか一にを有する超電導コイルの製造方法において、ガラステープの幅をd、ガラステープ同士が重なる幅をwとしたとき、以下の条件が成立していることを特徴とするものである。
0≦w≦d
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る超電導コイル及び超電導コイルの製造方法においては、超電導線材本体には、巻線の際に、半硬化状態の熱硬化性樹脂が含浸されたガラステープが巻線張力をかけながら隙間なく巻き付けられて超電導線材とされ、この超電導線材の巻線の後に、熱硬化性樹脂が硬化されるので、超電導線材本体の表面及び裏面のみならず、側面にも、熱硬化性樹脂及びガラステープの層が十分な厚さを有して形成され、複数の超電導コイルを多段に重ねて接続して一体化する場合においても、各超電導コイルの間の絶縁(層間絶縁)を行う必要がない。また、超電導線材を巻線するときには、熱硬化性樹脂及びガラステープの層同士が接することにより、超電導線材同士の固着力の向上が図られる。
【0019】
すなわち、本発明は、テープ状の超電導線材を用いた超電導コイルにおいて、製造に必要な設備を簡素化し、製造を容易化することができ、また、十分な絶縁性が確保されて臨界電流値の低減を防止することができる超電導コイル及び超電導コイルの製造方法を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る超電導コイルを構成する超電導線材の構造を示す側面図である。
【図2】図1に示した超電導線材を用いた本発明の実施の形態に係る超電導コイルの構造を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る超電導コイルの製造方法を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係る超電導コイルを構成する超電導線材の構造を示す側面図である。
【0023】
本発明に係る超電導コイルを構成する超電導線材10は、図1に示すように、基板1及び安定化保護層2により、超電導層3を挟んだテープ状の超電導線材本体20を有する。また、基板1及び超電導層3の間には、超電導層3とともに、中間層4が挟まれているようにしてもよい。この場合には、この超電導線材本体は、基板1、中間層4、超電導層3及び安定化保護層2が順次積層された構造を有している。
【0024】
ここに、超電導層3は、例えば、イットリウム系(Y系)の超電導材料により形成されている。また、基板1は、機械的強度の良好なニッケル(Ni)基合金などの金属材料からなり、中間層4はセリウム(Ce)などの金属酸化物材料からなる。安定化保護層2は、超電導層の保護及び過電流での傷損防止のためのものであり、例えば、銀(Ag)などの金属材料からなり、さらに銅(Cu)などの金属材料が複合されていてもよい。
【0025】
この超電導線材本体20には、半硬化状態の熱硬化性樹脂、例えば、エポキシ樹脂が含浸されたガラステープ6が、超電導線材本体上に隙間なく巻き付けられている。隙間なく巻き付けるには、超電導線材本体の回りに、ガラステープを螺旋状に巻き付けるいわゆるラップ巻きを行うとよい。したがって、この超電導線材10においては、超電導線材本体20の表面及び裏面のみならず、側面にも、エポキシ樹脂及びガラステープ6の層が形成されている。
【0026】
図2は、前記超電導線材10を用いた、本発明の実施の形態に係る超電導コイル30の構造を示す断面図である。
【0027】
図2に示すように、本発明の実施の形態に係る超電導コイル30は、軸線oを有する巻枠7の周囲に、図1に示した構造を有する超電導線材10を多重に巻いたものである。したがって、この超電導コイル30においては、各超電導線材本体20の上端面3a、下端面3b、側面3c、及び、超電導線材本体20同士の間3dに、エポキシ樹脂及びガラステープ6からなる絶縁層が十分な厚さを有して形成されている。
【0028】
したがって、この超電導コイルにおいては、超電導コイルの上端面3a及び下端面3bに絶縁層が形成されることにより、複数の超電導コイルを多段に重ねて接続して一体化する場合においても、各超電導コイルの間の絶縁(層間絶縁)を行う必要がない。
【0029】
また、超電導線材10を巻線するときには、エポキシ樹脂及びガラステープ6の層同士が接することにより、超電導線材10同士の固着力の向上が図られる。
【0030】
図3は、本発明の実施の形態に係る超電導コイルの製造方法を説明する側面図である。
【0031】
半硬化状態のエポキシ樹脂を含浸させたガラステープ6を超電導線材にラップ巻きするには、例えば、図3に示すように、超電導線材本体20の送出し巻枠8と、巻取り巻枠7との間に、超電導線材本体20にガラステープ6をラップ巻きする装置を配置するとよい。この場合には、巻取り巻枠7として、超電導コイル用巻枠7を用いることにより、超電導線材本体20にガラステープ6がラップ巻きされた超電導線材10を有する超電導コイル30を製造することができる。
【0032】
このように、ガラステープ6の超電導線材本体20に対するラップ巻きを、超電導線材本体20の送出し巻枠8からの送出しと巻取り巻枠7への巻取りとの間において行うことにより、ガラステープ6が有する粘着性によって超電導線材本体20の送出しがしにくくなることがない。
【0033】
また、超電導線材本体20にガラステープ6をラップ巻きするときには、超電導線材本体20にも、適度の張力をかけることが望ましい。巻かれた状態から送り出された超電導線材本体20は、曲げ癖が残って反っていることがあるため、この反りを張力をかけることにより矯正した状態で、ガラステープ6をラップ巻きすることが望ましい。
【0034】
このように、ガラステープ6を超電導線材本体20に巻付けるにあたっては、図1に示すように、ガラステープ6の幅をd、ガラステープ同士が重なる幅(ラップ幅)をwとしたとき、〔0≦w≦d〕が成立するように巻付けることにより、超電導線材本体20上にガラステープ6が隙間なく巻付けられ、超電導線材本体20上に少なくとも1枚以上のガラステープ6が存在することとなり、コイルの固着性、絶縁性の向上を図ることができる。
【0035】
また、超電導線材本体20にラップ巻きされるガラステープ6は、超電導線材本体20に対して密着して巻付ける必要がある。そのため、超電導線材本体20の厚さをt1、ガラステープ6の厚さをt2としたとき、ガラステープ6の厚さt2は、超電導線材本体20の厚さt1以下であること(t2≦t1)が望ましい。ガラステープ6の厚さt2が超電導線材本体20の厚さt1よりも厚い(t2>t1)と、ガラステープ6の可撓性が低下し、ガラステープ6を超電導線材本体20に密着させて巻付けることが困難となる。
【0036】
例えば、超電導線材本体20の厚さが0.21mmであるとき、ガラステープ6の厚さが0.25mmでは、密着してラップ巻きすることが困難であり、ガラステープ6の厚さが0.15mm程度であれば、密着してラップ巻きすることができる。
【0037】
前述したように、半硬化状態のエポキシ樹脂が含浸されたガラステープ6は、超電導線材10同士の固着のみならず、超電導線材本体20同士の絶縁を確保する効果がある。ガラステープ6を超電導線材本体20に隙間なく巻付けることにより、超電導線材本体20同士間の絶縁性を向上させることができる。
【0038】
なお、このガラステープ6は、適度の巻線張力をかけながら超電導線材本体20に巻き付けるので、超電導線材本体20としては、基板1を含む積層構造を有するイットリウム系(Y系)酸化物の超電導線材本体が好適である。
【0039】
また、このガラステープ6は、ガラスクロス中にポリエステル系合成繊維(「テトロンクロス」(商標名))が混紡され、伸縮性が付加されたものでもよい。
【実施例】
【0040】
本発明の実施例として、超電導線材本体20として、幅5mm、厚さ0.21mmのイットリウム系酸化物超電導線材本体を用いて、超電導コイルを作製した。超電導線材本体20は、基板1上に、中間層4、超電導層3及び安定化保護層2からなる積層構造を有して構成されている。基板1は、厚さ0.1mmのニッケル(Ni)基合金、安定化保護層2は銀(Ag)からなり、厚さ0.1mmの銅(Cu)が複合されている。半硬化状態のエポキシ樹脂を含浸させた幅5mm、厚さ0.15mmのガラステープ6を、超電導線材本体20に隙間なくラップ巻きして、超電導線材10とした(図3)。次に、この超電導線材10を巻枠7に巻線して、超電導コイルを作製した。超電導線材10の巻線は、超電導線材10に所定の張力をかけながら、直径65mm、高さ10mmのGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)製の巻枠7に巻線することによって行った。巻枠7への巻線を行った後、所定の条件で加熱することにより、エポキシ樹脂を硬化させ、超電導線材10を固着させて、超電導コイル30とした。
【0041】
表1は、本発明の各実施例を示している。比較例では、ガラステープ6をラップ巻きせずに、超電導線材本体20に重ね合わせて巻線を行い、エポキシ樹脂の硬化を行った。実施例1乃至実施例4では、ガラステープ6を超電導線材本体20にラップ巻きし、巻線を行い、エポキシ樹脂の硬化を行った。
【0042】
実施例1及び実施例3では、ガラステープ6同士の重なりを0とし、実施例1では、1枚のガラステープ6が超電導線材上に存在することとし、実施例3では、2枚のガラステープ6が超電導線材上に存在することとした。
【0043】
実施例2及び実施例4では、ガラステープ6同士の重なりを、ガラステープ6の幅dの1/2とし、実施例2では、ガラステープ6同士の重なりのない箇所で、1枚のガラステープ6が超電導線材上に存在することとし、実施例4では、ガラステープ6同士の重なりのない箇所で、2枚のガラステープ6が超電導線材上に存在することとした。
【0044】
【表1】

半硬化状態のエポキシ樹脂を含浸させたガラステープ6が超電導線材本体20上に隙間なくラップ巻きされている各実施例においては、所定時間の通電を行った後において、超電導線材本体20同士の絶縁性が十分に確保されており、臨界電流値の低減が防止されていた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、テープ状の構造を有する超電導線材を用いて構成された超電導コイル及び超電導コイルの製造方法に適用される。
【符号の説明】
【0046】
1 基板
2 安定化保護層
3 超電導層
4 中間層
6 ガラステープ
7 巻枠
10 超電導線材
20 超電導線材本体
30 超電導コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の超電導線材を巻枠に巻線して構成された超電導コイルであって、
前記超電導線材は、基板及び超電導層及び安定化保護層を含む超電導線材本体と、前記超電導線材本体に隙間なく巻かれたガラステープとを備え、
前記ガラステープは熱硬化性樹脂が含浸されたものである
超電導コイル。
【請求項2】
前記超電導線材本体は、イットリウム系酸化物の超電導材料からなる
請求項1記載の超電導コイル。
【請求項3】
前記超電導線材本体の厚さをt1、前記ガラステープの厚さをt2としたとき、ガラステープの厚さt2は、超電導線材の厚さt1以下である
ことを特徴とする請求項1、または、請求項2記載の超電導コイル。
【請求項4】
前記ガラステープの幅をd、前記ガラステープ同士が重なる幅をwとしたとき、以下の条件が成立している
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の超電導コイル。
0≦w≦d
【請求項5】
テープ状の超電導線材を巻枠に巻線して超電導コイルを構成する超電導コイルの製造方法であって、
半硬化状態の熱硬化性樹脂を含浸させたガラステープを巻線張力をかけながら超電導線材本体に隙間なく巻き付けて、前記超電導線材とし、
前記超電導線材を巻線し、
前記超電導線材の巻線の後に、前記熱硬化性樹脂を硬化させる
ことを特徴とする超電導コイルの製造方法。
【請求項6】
前記超電導線材本体として、イットリウム系酸化物の超電導材料からなる超電導線材本体を用いる
ことを特徴とする請求項5記載の超電導コイルの製造方法。
【請求項7】
前記超電導線材本体の厚さをt1、前記ガラステープの厚さをt2としたとき、ガラステープの厚さt2は、超電導線材の厚さt1以下である
ことを特徴とする請求項5、または、請求項6記載の超電導コイルの製造方法。
【請求項8】
前記ガラステープの幅をd、前記ガラステープ同士が重なる幅をwとしたとき、以下の条件が成立している
ことを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか一に記載の超電導コイルの製造方法。
0≦w≦d

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−48125(P2013−48125A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267376(P2009−267376)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)