説明

超電導マグネット用の励磁電源

【課題】超電導コイルを流れる電流値を所望の電流値に調整する作業を容易にすることができるようにする。
【解決手段】電圧制御回路25は、トランジスタ22の出力電圧値が基準電圧値設定器28が設定する+3Vになるようにトランジスタ22を制御している。ダイオード列24は、トランジスタ22の出力電圧値である+3Vを6V降下させる。これにより、励磁電源5の出力電圧値は、−3V以上+3V以下の範囲内の値に制限されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導マグネットを構成する超電導コイルに電流を供給する励磁電源に関する。
【背景技術】
【0002】
NMRマグネットやMRIマグネットでは、超電導マグネット内に設けられた永久電流スイッチ(特許文献1参照)を経由して電流が循環する。この電流循環ループにおいては、わずかに電流(磁場)が減少するものの、電流はほとんどロスを生じることなくほぼ永久に流れ続ける。そして、通常であれば1年以上経過したのち、わずかに減少した電流値を元に戻す作業を行う。
【0003】
この作業においては、外部から持ってきた励磁電源からの電流供給に一旦切り替える。具体的には、まず、図1に示すように、永久電流スイッチ3の両端にそれぞれ接続されたパワーケーブル4a,4bによって励磁電源5を電流循環ループAに接続する。次に、電流循環ループAを流れている電流に相当する電流を励磁電源5から超電導コイル2に供給する。ここで、電流循環ループAを流れる電流値を直接計測することはできないので、オペレータは電流循環ループAを流れる電流値を推測して、励磁電源5から超電導コイル2に供給する電流値を決定することとなる。励磁電源5から供給された電流は、励磁電源5、パワーケーブル4a、永久電流スイッチ3、および、パワーケーブル4bを含むループBをこの順番で流れる。このループBにおいて永久電流スイッチ3を流れる電流の方向は、電流循環ループAにおいて永久電流スイッチ3を流れる電流の方向とは逆向きである。そのため、永久電流スイッチ3を流れる電流は徐々に減少していく。そして、永久電流スイッチ3を流れる電流がほぼゼロになったとオペレータが判断したタイミングで、永久電流スイッチ3により電流循環ループAを開く。すると、励磁電源5から供給された電流は、励磁電源5、パワーケーブル4a、超電導コイル2、および、パワーケーブル4bを含むループCをこの順番で流れる。
【0004】
ここで、電流循環ループAを開いた際に、電流循環ループAを流れていた電流値とループBを流れていた電流値とが一致していた場合、超電導コイル2の両端に電圧は発生しない。この場合、励磁電源5を用いて、ループCを流れる電流値を所望の電流値に調整する。調整が終わると永久電流スイッチ3で電流循環ループAを閉じる。この時点では永久電流スイッチ3には電流がほとんど流れていないが、励磁電源5から供給される電流を下げていくと下げた分だけ永久電流スイッチ3に電流が流れ込み、励磁電源5から供給される電流がゼロになった時点で、超電導コイル2を流れる電流はすべて永久電流スイッチ3を経由して電流循環ループAを循環する。この時点で励磁電源5を超電導マグネット1から切り離して作業を完了する。
【0005】
一方、電流循環ループAを開いた際に、電流循環ループAを流れていた電流値とループBを流れていた電流値とが一致していなかった場合、超電導コイル2の両端に電圧が発生する。ループBを流れていた電流値(励磁電源5の出力電流値)が電流循環ループAを流れていた電流値(超電導コイル2を流れる電流値)よりも大きいと、電圧計9の針はプラスに振れ、励磁電源5の出力電流値が超電導コイル2を流れる電流値よりも小さいと、電圧計9の針はマイナスに振れる。超電導コイル2の両端に電圧が発生すると、超電導コイル2付近の磁界が変化し、超電導状態が失われる虞がある。そこで、オペレータは、電圧計9を見ながら針が振れそうになると永久電流スイッチ3で電流循環ループAを再度閉じて、電圧の上昇或いは降下を避ける。電流循環ループAが閉じられたことにより、励磁電源5から供給された電流はループBを循環し、超電導コイル2を流れる電流は電流循環ループAを循環する。その後、オペレータは、励磁電源5の出力電流値を微調整して、再び永久電流スイッチ3で電流循環ループAを開く。そして、超電導コイル2の両端に電圧が発生しなくなるまでこの動作を繰り返す。
【0006】
また、特許文献2には、永久電流スイッチに相当するスイッチ回路を励磁電源が備えた超伝導磁石装置が開示されている。この特許文献2においては、停電発生時にスイッチ回路をオンとして電流制御部の出力側(超伝導コイルの入力側)を短絡させるとともに、復電時にスイッチ回路をオフとして電流制御部の出力側(超伝導コイルの入力側)の短絡を解除して、復電時の電流制御部における出力電流を、復電時に超伝導コイルに流れていた電流値に一致させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−69911号公報
【特許文献2】特許第4414636号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、外部から持ってきた励磁電源を用いて超電導コイルを流れる電流値を所望の電流値に調整する作業には、オペレータの熟練が必要である。上述したように、電流循環ループを流れる電流値を直接計測することができないので、超電導コイルと永久電流スイッチとが簡易な施工でジョイントされているとか、何らかの不具合があって、電流循環ループを流れる電流値の減衰が激しい場合には、電流循環ループを流れる電流値を予測しにくく、この作業は一層難しくなる。このような場合には、予め、磁場を測定して超電導コイルを流れる電流値を割り出しておくことが有効であるが、その分手間がかかる。
【0009】
本発明の目的は、超電導コイルを流れる電流値を所望の電流値に調整する作業を容易にすることが可能な超電導マグネット用の励磁電源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明における超電導マグネット用の励磁電源は、超電導マグネットを構成する超電導コイルの電流循環ループの一部に設けられたスイッチ手段の両端に接続して当該超電導コイルへ外部から電流を供給するための励磁電源であって、前記超電導コイルへの出力電圧値を所定範囲内の値に制限する電圧制限手段を有していることを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、励磁電源から超電導コイルへの出力電圧値が所定範囲内の値に制限されている。そのため、励磁電源から超電導コイルに電流を供給しながら電流循環ループを開いたときに、超電導コイルの両端に発生する電圧値は所定範囲内の値になる。そして、所定範囲内の値が超電導状態に影響を及ぼさないレベルの値であれば、超電導コイルの両端に電圧が発生したとしても、オペレータはあわてて電流循環ループを閉じる必要がない。これにより、電流循環ループを開く際に超電導コイルを流れる電流値と励磁電源の出力電流値とを一致させる作業に伴う負担を軽減させることができる。よって、超電導コイルを流れる電流値を所望の電流値に調整する作業を容易にすることがことができる。
【0012】
また、本発明における超電導マグネット用の励磁電源においては、前記超電導コイルへの出力電流値が設定値になるように制御する電流制御手段を更に有していてよい。上記の構成によれば、励磁電源から超電導コイルへの出力電流値が設定値になるように制御されている。そのため、電流循環ループを開けば、超電導コイルを流れる電流値は、最終的に設定値に落ち着く。これにより、設定値を所望の電流値に設定しておけば、電流循環ループを開いた後に超電導コイルを流れる電流値を所望の電流値に調整しなくても、超電導コイルを流れる電流値は所望の電流値になる。よって、超電導コイルを流れる電流値を所望の電流値に調整する作業をさらに容易にすることがことができる。
【0013】
また、本発明における超電導マグネット用の励磁電源において、前記電圧制限手段は、前記超電導コイルの両端に発生した電圧値が正の値である第1の閾値よりも大きい場合に、前記超電導コイルへの出力電圧値を前記第1の閾値にクランプするとともに、前記超電導コイルの両端に発生した電圧値が負の値である第2の閾値よりも小さい場合に、前記超電導コイルへの出力電圧値を前記第2の閾値にクランプすることで、前記超電導コイルへの出力電圧値を、前記第1の閾値を上限値とし前記第2の閾値を下限値とする前記所定範囲内の値に制限していてよい。上記の構成によれば、超電導コイルの両端に発生した電圧値が正の値である第1の閾値よりも大きい場合に、超電導コイルへの出力電圧値が第1の閾値にクランプされる。また、超電導コイルの両端に発生した電圧値が負の値である第2の閾値よりも小さい場合に、超電導コイルへの出力電圧値が第2の閾値にクランプされる。これにより、励磁電源から超電導コイルへの出力電圧値が、第1の閾値を上限値とし第2の閾値を下限値とする所定範囲内の値に制限されている。よって、第1の閾値および第2の閾値の少なくとも一方の値を変化させることにより、励磁電源から超電導コイルへの出力電圧値が制限される範囲を容易に変更することができる。
【0014】
また、本発明における超電導マグネット用の励磁電源においては、前記電流循環ループを開く前後の一定期間において前記電圧制限手段による制限を有効にし、前記一定期間以外のときに前記電圧制限手段による制限を無効にする電圧制限限定手段を更に有していてよい。上記の構成によれば、励磁電源から超電導コイルへの出力電圧値を所定範囲内の値に制限している間は、超電導コイルに生じたクエンチによる電圧の発生を検出することができない。そこで、励磁電源から超電導コイルへの出力電圧値を制限する期間を、電流循環ループを開く前後の一定期間に限定する。これにより、励磁電源から超電導コイルへの出力電圧値を制限していない間は、超電導コイルのクエンチを検出することができる。
【0015】
また、本発明における超電導マグネット用の励磁電源において、前記スイッチ手段が、前記超電導マグネットの内部に設けられて超電導材料を含む永久電流スイッチであってよい。上記の構成によれば、永久電流スイッチが超電導コイルとともに超電導状態になっていると、永久電流スイッチを流れる電流値を直接測定することができない。そのため、電流循環ループを開く際に超電導コイルを流れる電流値と励磁電源の出力電流値とを一致させる作業が一層困難になっていた。しかし、励磁電源から超電導コイルへの出力電圧値が所定範囲内の値に制限されているので、電流循環ループを開いたときに、超電導コイルの両端に発生する電圧値は所定範囲内の値になる。よって、電流循環ループを開く際に超電導コイルを流れる電流値と励磁電源の出力電流値とを一致させる作業に伴う負担を一層軽減させることができる。
【0016】
また、本発明における超電導マグネット用の励磁電源において、前記スイッチ手段が、前記超電導マグネットの外部に設けられた機械式リレーまたは半導体スイッチであってよい。上記の構成によれば、励磁電源から超電導コイルに電流を供給している最中に、励磁電源自体のトラブルにより電流が急激に変化したり、超電導コイルがクエンチしたりするなど、励磁電源および超電導マグネットのうちのいずれかで異常が生じた場合には、機械式リレーまたは半導体スイッチを閉じることで、励磁電源の出力両端を短絡させる。これにより、機械式リレーまたは半導体スイッチを電流が流れ、励磁電源と超電導コイルとが実質的に切り離されるので、励磁電源や超電導マグネットの破損を防止することができる。ここで、機械式リレーまたは半導体スイッチをB接点にして、停電時に機械式リレーまたは半導体スイッチが自動的に閉じるようにすれば、励磁電源や超電導マグネットの破損をより確実に防止することができる。
【0017】
また、本発明における超電導マグネット用の励磁電源において、前記スイッチ手段は、前記超電導マグネットの内部に設けられて超電導材料を含む永久電流スイッチと、前記超電導マグネットの外部に設けられて前記永久電流スイッチに並列に接続された機械式リレーまたは半導体スイッチと、を有し、前記電流循環ループにおいて電流を循環させる際には、前記永久電流スイッチで前記電流循環ループを閉じる一方、前記励磁電源から前記超電導コイルに電流を供給する際には、前記永久電流スイッチを開いて前記機械式リレーまたは前記半導体スイッチで前記電流循環ループを開閉してよい。上記の構成によれば、電流循環ループにおいて電流を循環させる際には、永久電流スイッチで電流循環ループを閉じることで、電流はほとんどロスを生じることなくほぼ永久に流れ続ける。一方、励磁電源から超電導コイルに電流を供給する際には、永久電流スイッチを開いて機械式リレーまたは半導体スイッチで電流循環ループを開閉するようにする。そして、励磁電源から超電導コイルに電流を供給している最中に、励磁電源および超電導マグネットのうちのいずれかで異常が生じた場合には、機械式リレーまたは半導体スイッチを閉じることで、励磁電源の出力両端を短絡させる。これにより、機械式リレーまたは半導体スイッチを電流が流れ、励磁電源と超電導コイルとが実質的に切り離されるので、励磁電源や超電導マグネットの破損を防止することができる。ここで、機械式リレーまたは半導体スイッチをB接点にして、停電時に機械式リレーまたは半導体スイッチが自動的に閉じるようにすれば、励磁電源や超電導マグネットの破損をより確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の超電導マグネット用の励磁電源によると、励磁電源から超電導コイルへの出力電圧値が所定範囲内の値に制限されているので、励磁電源から超電導コイルに電流を供給しながら電流循環ループを開いたときに、超電導コイルの両端に発生する電圧値は所定範囲内の値になる。これにより、電流循環ループを開く際に超電導コイルを流れる電流値と励磁電源の出力電流値とを一致させる作業に伴う負担を軽減させることができるから、超電導コイルを流れる電流値を所望の電流値に調整する作業を容易にすることがことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】超電導マグネットと励磁電源とを示す模式図である。
【図2】励磁電源の電気的構成を示す図である。
【図3】励磁電源の出力特性を示す図である。
【図4】励磁電源の電気的構成を示す図である。
【図5】超電導マグネットと励磁電源とを示す模式図である。
【図6】励磁電源の電気的構成を示す図である。
【図7】電流電圧制御回路の構成を示す図である。
【図8】励磁電源の出力特性を示す図である。
【図9】超電導マグネットと励磁電源とを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
[第1実施形態]
(超電導マグネットの構成)
本実施形態による超電導マグネット用の励磁電源(励磁電源)5は、図1に示すように、超電導マグネット1に用いられる。超電導マグネット1は、図1に示すように、超電導コイル2と、永久電流スイッチ3と、を有している。
【0022】
超電導コイル2は、超電導線材が巻回されてなるものである。超電導状態の超電導マグネット1においては、超電導コイル2と永久電流スイッチ3とを含む電流循環ループAにおいて循環電流ILが循環している。
【0023】
永久電流スイッチ3は、超電導マグネット1の内部において、電流循環ループAの一部に設けられている。そのため、電流循環ループAにおいては、永久電流スイッチ3を経由して循環電流ILが循環する。永久電流スイッチ3は、超電導材料である超電導線3aと、ヒータ3bとを有している。超電導線3aは、ヒータ3bで加熱されて臨界温度(Tc)を超えると、常電導化して抵抗として機能する。一方、超電導線3aは、ヒータ3bに通電されていないときには抵抗がほぼゼロである。したがって、超電導線3aの抵抗がほぼゼロの状態を閉状態、超電導線3aが抵抗として機能する状態を開状態とすれば、永久電流スイッチ3は、ヒータ3bに通電されていないときに閉じることで電流循環ループAを閉じ、ヒータ3bに通電されているときに開くことで電流循環ループAを開くこととなる。
【0024】
なお、永久電流スイッチ3は、超電導線3aとコイルとを有し、超電導線3aがコイルで励磁されて臨界磁場(H2c)を超えると、常電導化して抵抗として機能するように構成されていてもよい。
【0025】
電流循環ループA内において循環電流ILが循環する超電導状態においては、永久電流スイッチ3と超電導コイル2とのジョイント部分2a,2bが超電導ジョイントになる。そのため、循環電流ILはほとんどロスなく電流循環ループAを循環する。
【0026】
(励磁電源の構成)
励磁電源5は、超電導コイル2へ外部から電流を供給するための電源であり、永久電流スイッチ3の両端にそれぞれ接続されたパワーケーブル4a,4bによって永久電流スイッチ3の両端に接続される。
【0027】
励磁電源5は、図1に示すように、ヒータ回路6と、電圧計9とを有している。
【0028】
ヒータ回路6は、導線8によりヒータ3bに接続されており、ボタン6aが押されるとヒータ3bに電流を流す。ヒータ3bに通電されると、ヒータ3bで加熱された超電導線3aが抵抗として機能するようになるので、永久電流スイッチ3が電流循環ループAを開くこととなる。一方、ヒータ3bに通電されないと、超電導線3aの抵抗がゼロになるので、永久電流スイッチ3が電流循環ループAを閉じることとなる。
【0029】
電圧計9は、超電導コイル2の両端に発生する電圧値を計測する。
【0030】
また、励磁電源5は、図2に示すように、電源21と、トランジスタ22と、トランジスタ23と、ダイオード列24と、電圧制御回路25と、電流制御回路26と、シャント抵抗(電流検出器)27と、基準電圧値設定器28と、を有している。
【0031】
電源21はスイッチングレギュレータであり、交流電源31に接続されている。電源21は、交流電源31から出力された交流電力を所定の直流電力に変換する。なお、電源21は、交流電源31からの電圧を所定の電圧値まで降圧する変圧器や、変圧器の交流電力を整流し平滑した直流電流を超電導コイル2に供給するトランジスタ回路などにより構成されていてもよい。
【0032】
2個のトランジスタ22,23は、電源21に直列に接続されている。トランジスタ22,23は、通常、複数のトランジスタからなる。なお、トランジスタ22,23には、一般的なバイポーラトランジスタを用いているが、電界効果トランジスタ(FET)や、IGBTや、MOSFETなどの各パワー素子を用いてもよい。
【0033】
電圧制御回路25は、トランジスタ22に接続されている。電圧制御回路25には、基準電圧値設定器28からの基準電圧値が入力されるとともに、トランジスタ22の出力電圧値が入力される。本実施形態において、基準電圧値設定器28の基準電圧値は+3Vであるが、これに限定されない。電圧制御回路25は、トランジスタ22の出力電圧値が基準電圧値(+3V)になるように、トランジスタ22を制御する。その結果、トランジスタ22の出力電圧値は+3Vになっている。電圧制御回路25の具体的な構成は公知であるため、その説明を省略する。
【0034】
ダイオード列24は、直接に接続された複数のダイオードからなる。ダイオード列24は、トランジスタ23に並列に設けられている。各ダイオードの順方向の電圧は0.6V程度である。本実施形態において、ダイオード列24は、直接に接続された10個のダイオードからなる。そのため、ダイオード列24を流れる電流には6Vの電圧降下が生じる。よって、ダイオード列24を電流が流れた場合の励磁電源5の出力電圧値は、トランジスタ22の出力電圧値(+3V)から6V降下した電圧値である−3Vになる。
【0035】
シャント抵抗(電流検出器)27は、超電導コイル2を流れる電流値(正確には、励磁電源5の出力電流値)を検出する。なお、電流検出器としては、シャント抵抗ではなく、電流により発生する磁場をホール素子により検出する非接触型の電流検出器を用いてもよい。
【0036】
電流制御回路26は、トランジスタ23に接続されており、シャント抵抗27で検出された電流値が検出値として入力されるとともに、図示しない電流値設定器の電流値が設定値として入力される。本実施形態において、設定値は100Aであるが、これに限定されない。電流制御回路26は、シャント抵抗27で検出された検出値に基づいて、励磁電源5の出力電流値が設定値(100A)になるようにトランジスタ23を制御する。つまり、電流制御回路26は、励磁電源5から超電導コイル2への出力電流値が設定値(100A)になるように制御している。電流制御回路26の具体的な構成は公知であるため、その説明を省略する。
【0037】
上記の構成において、シャント抵抗27で検出された電流値が設定値(100A)よりも小さいときに、電流制御回路26は、電流値を上げるために、スイッチとしてのトランジスタ23をONにする。これにより、トランジスタ23の抵抗値がほぼゼロになり、トランジスタ23を電流が流れる。すると、励磁電源5の出力電圧値は、トランジスタ22の出力電圧値である+3Vになる。そして、トランジスタ22の出力電圧値が基準電圧値(+3V)になるように電圧制御回路25がトランジスタ22を制御しているので、トランジスタ23を電流が流れるときの励磁電源5の出力電圧値は+3Vよりも大きくなることはない。よって、励磁電源5の出力電流値が設定値(100A)よりも小さいときに、励磁電源5の出力電圧値は+3Vになる。このように、トランジスタ22、基準電圧値設定器28、および、電圧制御回路25は、励磁電源5から超電導コイル2への出力電圧値が+3Vよりも大きくならないように制限している。
【0038】
また、シャント抵抗27で検出された電流値が設定値(100A)よりも大きいときに、電流制御回路26は、電流値を下げるために、スイッチとしてのトランジスタ23をOFFにする。これにより、トランジスタ23の抵抗値がダイオード列24の抵抗値よりも大きくなり、ダイオード列24を電流が流れる。すると、励磁電源5の出力電圧値は、トランジスタ22の出力電圧値である+3Vがダイオード列24により6V降下された−3Vになる。そして、トランジスタ22の出力電圧値が基準電圧値(+3V)になるように電圧制御回路25がトランジスタ22を制御しているので、ダイオード列24を電流が流れるときの励磁電源5の出力電圧値は−3Vよりも小さくなることはない。よって、励磁電源5の出力電流値が設定値(100A)よりも大きいときに、励磁電源5の出力電圧値は−3Vになる。このように、トランジスタ22、基準電圧値設定器28、電圧制御回路25、および、ダイオード列24は、励磁電源5から超電導コイル2への出力電圧値が−3Vよりも小さくならないように制限している。
【0039】
また、シャント抵抗27で検出された電流値が設定値(100A)のときに、電流制御回路26は、電流値を設定値に維持するために、スイッチとしてのトランジスタ23をONとOFFとの間の状態にする。これにより、トランジスタ23の抵抗値が変化し、トランジスタ23を電流が流れる。このとき、トランジスタ23の抵抗値が取りうる値はゼロ以上でダイオード列24の抵抗値以下なので、励磁電源5の出力電圧値は、+3Vよりも大きくならず、且つ、−3Vよりも小さくならない。よって、励磁電源5の出力電流値が設定値(100A)のときに、励磁電源5の出力電圧値は−3V以上+3V以下の範囲内の値になる。このように、トランジスタ22、基準電圧値設定器28、電圧制御回路25、および、ダイオード列24は、励磁電源5から超電導コイル2への出力電圧値を−3V以上+3V以下の範囲内の値に制限している。
【0040】
以上の構成により、励磁電源5の出力特性は図3に示すようになる。具体的には、励磁電源5の出力電流値が100Aよりも小さいときに、励磁電源5の出力電圧値は+3Vで一定となり、励磁電源5の出力電流値が100Aよりも大きいときに、励磁電源5の出力電圧値は−3Vで一定となる。このように、励磁電源5は定電圧特性を有している。また、励磁電源5の出力電圧値が−3V以上+3V以下の範囲内の値のときに、励磁電源5の出力電流値は100Aで一定となる。このように、励磁電源5は定電流特性を有している。つまり、励磁電源5は定電圧定電流電源である。
【0041】
(励磁電源の動作)
次に、励磁電源5の動作について説明する。
【0042】
超電導マグネット1においては、図1に示すように、永久電流スイッチ3が閉じられることで、超電導コイル2と永久電流スイッチ3とを含む電流循環ループAを循環電流ILが循環している。長期(数年)の使用で、電流循環ループAを循環する循環電流ILが継続使用に問題になる程度まで減衰した場合や、超電導マグネット1の移設などで消磁する場合には、外部から持ってきた励磁電源5からの電流供給に一旦切り替える。
【0043】
まず、図1に示すように、パワーケーブル4a,4bで励磁電源5を永久電流スイッチ3の両端に接続する。そして、励磁電源5から超電導コイル2に電流を供給する。励磁電源5から供給された電流は、励磁電源5、パワーケーブル4a、永久電流スイッチ3、および、パワーケーブル4bを含むループBをこの順番で流れる。
【0044】
その後、ボタン6aを押して、ヒータ回路6から電流を流す。ヒータ3bで加熱された超電導線3aが常電導化することにより、永久電流スイッチ3が電流循環ループAを開く。すると、励磁電源5から供給された電流は、励磁電源5、パワーケーブル4a、超電導コイル2、および、パワーケーブル4bを含むループCをこの順番で流れる。
【0045】
ここで、循環電流ILが100Aから90Aに低下しており、循環電流ILを100Aに調整する場合を考える。なお、循環電流ILを直接測定することはできない。励磁電源5における出力電流の設定値は100Aである。
【0046】
電流循環ループAを開くと、超電導コイル2の両端に電圧が発生する。このとき、励磁電源5の定電圧特性によって、超電導コイル2の両端に過渡的に発生する電圧値、および、励磁電源5の出力電圧値はそれぞれ+3Vになる。また、超電導コイル2の定電流特性によって、超電導コイル2を流れる電流値、および、励磁電源5の出力電流値はそれぞれ90Aになる。これにより、図3に示すように、励磁電源5の出力は、電圧値が+3Vで電流値が90Aのa点でバランスする。
【0047】
その後、超電導コイル2のインダクタンスをL、電流をI、時間をtとしたときに、超電導コイル2の両端の電圧が+3Vであるので、dI/dt=3/Lの関係から、この傾きで超電導コイル2を流れる電流値が増加していき、100Aに達する。図3においては、その変化を矢印cで示している。
【0048】
その後、超電導コイル2の両端の電圧が減少していき、最終的に0Vに落ち着く。これに合わせて、励磁電源5の定電流特性によって、励磁電源5の出力電流値が設定値(100A)で一定のまま、励磁電源5の出力電圧値が降下していく。図3においては、その変化を矢印dで示している。ここで、パワーケーブル4a,4bの抵抗値を考慮に入れると、超電導コイル2の抵抗値は0Ωであり、パワーケーブル4a,4bの抵抗値は0.01Ω程度なので、励磁電源5の出力は、最終的に、電圧値が+1V程度で電流値が100Aのb点でバランスする。
【0049】
以上のようにして、超電導コイル2を流れる電流値が設定値に落ち着く。その後、図1に示すように、永久電流スイッチ3を導通させることで、電流循環ループAを閉じる。この時点では永久電流スイッチ3には電流がほとんど流れていないが、励磁電源5から供給される電流を下げていくと下げた分だけ永久電流スイッチ3に電流が流れ込み、励磁電源5から供給される電流がゼロになった時点で、超電導コイル2を流れる電流はすべて永久電流スイッチ3を経由して電流循環ループAを循環する。この時点で励磁電源5を超電導マグネット1から切り離して作業を完了する。
【0050】
次に、循環電流ILが110Aである場合を考える。励磁電源5における電流の設定値は100Aである。
【0051】
電流循環ループAを開くと、超電導コイル2の両端に電圧が発生する。このとき、励磁電源5の定電圧特性によって、超電導コイル2の両端に過渡的に発生する電圧値、および、励磁電源5の出力電圧値はそれぞれ−3Vになる。また、超電導コイル2の定電流特性によって、超電導コイル2を流れる電流値、および、励磁電源5の出力電流値はそれぞれ110Aになる。これにより、図3に示すように、励磁電源5の出力は、電圧値が−3Vで電流値が110Aのa’点でバランスする。
【0052】
その後、dI/dt=−3/Lの傾きで超電導コイル2を流れる電流値が減少していき、100Aに達する。図3においては、その変化を矢印c’で示している。
【0053】
その後、超電導コイル2の両端の電圧が減少していき、最終的に0Vに落ち着く。これに合わせて、励磁電源5の定電流特性によって、励磁電源5の出力電流値が設定値(100A)で一定のまま、励磁電源5の出力電圧値が上昇していく。図3においては、その変化を矢印d’で示している。ここで、パワーケーブル4a,4bの抵抗値を考慮に入れると、超電導コイル2の抵抗値は0Ωであり、パワーケーブル4a,4bの抵抗値は0.01Ω程度なので、励磁電源5の出力は、最終的に、電圧値が+1V程度で電流値が100Aのb点でバランスする。
【0054】
以上のようにして、超電導コイル2を流れる電流値が設定値に落ち着く。その後、図1に示すように、永久電流スイッチ3を導通させることで、電流循環ループAを閉じる。そして、超電導コイル2を流れる電流がすべて永久電流スイッチ3を経由して電流循環ループAを循環するようになった時点で励磁電源5を超電導マグネット1から切り離して作業を完了する。
【0055】
このように、励磁電源5から超電導コイル2への出力電圧値が−3V以上+3V以下の範囲内の値に制限されている。そのため、励磁電源5から超電導コイル2に電流を供給しながら電流循環ループAを開いたときに、超電導コイル2の両端に発生する電圧値は−3V以上+3V以下の範囲内の値になる。そして、−3V以上+3V以下の範囲内の値が超電導状態に影響を及ぼさないレベルの値であれば、超電導コイル2の両端に電圧が発生したとしても、オペレータはあわてて電流循環ループAを閉じる必要がない。これにより、電流循環ループAを開く際に超電導コイル2を流れる電流値と励磁電源5の出力電流値とを一致させる作業に伴う負担を軽減させることができる。よって、超電導コイル2を流れる電流値を所望の電流値に調整する作業を容易にすることがことができる。
【0056】
また、励磁電源5から超電導コイル2への出力電流値が設定値(100A)になるように制御されている。そのため、電流循環ループAを開けば、超電導コイル2を流れる電流値は、最終的に設定値に落ち着く。これにより、設定値を所望の電流値に設定しておけば、電流循環ループAを開いた後に超電導コイル2を流れる電流値を所望の電流値に調整しなくても、超電導コイル2を流れる電流値は所望の電流値になる。よって、超電導コイル2を流れる電流値を所望の電流値に調整する作業をさらに容易にすることがことができる。
【0057】
また、永久電流スイッチ3が超電導コイル2とともに超電導状態になっていると、永久電流スイッチ3を流れる電流値を直接測定することができない。そのため、電流循環ループAを開く際に超電導コイル2を流れる電流値と励磁電源5の出力電流値とを一致させる作業が一層困難になっていた。しかし、励磁電源5から超電導コイル2への出力電圧値が−3V以上+3V以下の範囲内の値に制限されているので、電流循環ループAを開いたときに、超電導コイル2の両端に発生する電圧値は−3V以上+3V以下の範囲内の値になる。よって、電流循環ループAを開く際に超電導コイル2を流れる電流値と励磁電源5の出力電流値とを一致させる作業に伴う負担を一層軽減させることができる。
【0058】
(励磁電源の変形例)
なお、励磁電源5は、以下のように構成されていてもよい。即ち、励磁電源5は、図4に示すように、電源21と、トランジスタ23と、トランジスタ29と、電圧制御回路30と、電流制御回路26と、シャント抵抗(電流検出器)27と、基準電圧値設定器28と、を有している。
【0059】
電源21は、電圧制御端子21aを備えたスイッチングレギュレータであり、交流電源31と接続されている。電圧制御端子21aには、基準電圧値設定器28からの基準電圧値(+3V)が入力される。これにより、電源21の出力電圧値は+3Vになっている。
【0060】
2個のトランジスタ23,29は、電源21に並列に接続されている。トランジスタ23,29は、通常、複数のトランジスタからなる。なお、トランジスタ23,29には、一般的なバイポーラトランジスタを用いているが、電界効果トランジスタ(FET)や、IGBTや、MOSFETなどの各パワー素子を用いてもよい。
【0061】
電圧制御回路30は、トランジスタ29に接続されている。電圧制御回路30には、基準電圧値設定器28からの基準電圧値(+3V)が入力されるとともに、励磁電源5の出力電圧値が入力される。電圧制御回路30は、トランジスタ29を流れる電流に6Vの電圧降下が生じるようにトランジスタ29を制御する。よって、トランジスタ29を電流が流れた場合の励磁電源5の出力電圧値は、電源21の出力電圧値(+3V)から6V降下した電圧値である−3Vになる。電圧制御回路30の具体的な構成は公知であるため、その説明を省略する。
【0062】
シャント抵抗(電流検出器)27は、超電導コイル2を流れる電流値(正確には、励磁電源5の出力電流値)を検出する。なお、電流検出器としては、シャント抵抗ではなく、電流により発生する磁場をホール素子により検出する非接触型の電流検出器を用いてもよい。
【0063】
電流制御回路26は、トランジスタ23に接続されており、シャント抵抗27で検出された電流値が検出値として入力されるとともに、図示しない電流値設定器の電流値(100A)が設定値として入力される。電流制御回路26は、シャント抵抗27で検出された検出値に基づいて、励磁電源5の出力電流値が設定値(100A)になるようにトランジスタ23を制御する。つまり、電流制御回路26は、励磁電源5から超電導コイル2への出力電流値が設定値(100A)になるように制御している。
【0064】
上記の構成において、シャント抵抗27で検出された電流値が設定値(100A)よりも小さいときに、電流制御回路26は、電流値を上げるために、スイッチとしてのトランジスタ23をONにする。これにより、トランジスタ23の抵抗値がほぼゼロになり、トランジスタ23を電流が流れる。すると、励磁電源5の出力電圧値は、電源21の出力電圧値である+3Vになる。そして、電源21の出力電圧値が基準電圧値(+3V)になっているので、トランジスタ23を電流が流れるときの励磁電源5の出力電圧値は+3Vよりも大きくなることはない。よって、励磁電源5の出力電流値が設定値(100A)よりも小さいときに、励磁電源5の出力電圧値は+3Vになる。このように、電源21、および、基準電圧値設定器28は、励磁電源5から超電導コイル2への出力電圧値が+3Vよりも大きくならないように制限している。
【0065】
また、シャント抵抗27で検出された電流値が設定値(100A)よりも大きいときに、電流制御回路26は、電流値を下げるために、スイッチとしてのトランジスタ23をOFFにする。これにより、トランジスタ23の抵抗値がトランジスタ29の抵抗値よりも大きくなり、トランジスタ29を電流が流れる。すると、励磁電源5の出力電圧値は、電源21の出力電圧値である+3Vがトランジスタ29により6V降下された−3Vになる。そして、電源21の出力電圧値が基準電圧値(+3V)になっており、トランジスタ29を流れる電流に6Vの電圧降下が生じるように電圧制御回路30がトランジスタ29を制御しているので、トランジスタ29を電流が流れるときの励磁電源5の出力電圧値は−3Vよりも小さくなることはない。よって、励磁電源5の出力電流値が設定値(100A)よりも大きいときに、励磁電源5の出力電圧値は−3Vになる。このように、電源21、基準電圧値設定器28、トランジスタ29、および、電圧制御回路30は、励磁電源5から超電導コイル2への出力電圧値が−3Vよりも小さくならないように制限している。
【0066】
また、シャント抵抗27で検出された電流値が設定値(100A)のときに、電流制御回路26は、電流値を設定値に維持するために、スイッチとしてのトランジスタ23をONとOFFとの間の状態にする。これにより、トランジスタ23の抵抗値が変化し、トランジスタ23を電流が流れる。このとき、トランジスタ23の抵抗値が取りうる値はゼロ以上でトランジスタ29の抵抗値以下なので、励磁電源5の出力電圧値は、+3Vよりも大きくならず、且つ、−3Vよりも小さくならない。よって、励磁電源5の出力電流値が設定値(100A)のときに、励磁電源5の出力電圧値は−3V以上+3V以下の範囲内の値になる。このように、電源21、基準電圧値設定器28、トランジスタ29、および、電圧制御回路30は、励磁電源5から超電導コイル2への出力電圧値を−3V以上+3V以下の範囲内の値に制限している。
【0067】
以上の構成により、励磁電源5の出力特性は図3に示すようになる。つまり、励磁電源5は定電圧定電流電源である。
【0068】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態に係る超電導マグネット用の励磁電源5によると、励磁電源5から超電導コイル2への出力電圧値が−3V以上+3V以下の範囲内の値に制限されている。そのため、励磁電源5から超電導コイル2に電流を供給しながら電流循環ループAを開いたときに、超電導コイル2の両端に発生する電圧値は−3V以上+3V以下の範囲内の値になる。そして、−3V以上+3V以下の範囲内の値が超電導状態に影響を及ぼさないレベルの値であれば、超電導コイル2の両端に電圧が発生したとしても、オペレータはあわてて電流循環ループAを閉じる必要がない。これにより、電流循環ループAを開く際に超電導コイル2を流れる電流値と励磁電源5の出力電流値とを一致させる作業に伴う負担を軽減させることができる。よって、超電導コイル2を流れる電流値を所望の電流値に調整する作業を容易にすることがことができる。
【0069】
また、励磁電源5から超電導コイル2への出力電流値が設定値(100A)になるように制御されている。そのため、電流循環ループAを開けば、超電導コイル2を流れる電流値は、最終的に設定値に落ち着く。これにより、設定値を所望の電流値に設定しておけば、電流循環ループAを開いた後に超電導コイル2を流れる電流値を所望の電流値に調整しなくても、超電導コイル2を流れる電流値は所望の電流値になる。よって、超電導コイル2を流れる電流値を所望の電流値に調整する作業をさらに容易にすることがことができる。
【0070】
また、永久電流スイッチ3が超電導コイル2とともに超電導状態になっていると、永久電流スイッチ3を流れる電流値を直接測定することができない。そのため、電流循環ループAを開く際に超電導コイル2を流れる電流値と励磁電源5の出力電流値とを一致させる作業が一層困難になっていた。しかし、励磁電源5から超電導コイル2への出力電圧値が−3V以上+3V以下の範囲内の値に制限されているので、電流循環ループAを開いたときに、超電導コイル2の両端に発生する電圧値は−3V以上+3V以下の範囲内の値になる。よって、電流循環ループAを開く際に超電導コイル2を流れる電流値と励磁電源5の出力電流値とを一致させる作業に伴う負担を一層軽減させることができる。
【0071】
[第2実施形態]
(超電導マグネットの構成)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態による超電導マグネット用の励磁電源(励磁電源)105は、図5に示すように、超電導マグネット101に用いられる。超電導マグネット101は、超電導マグネット101の外部に設けられて永久電流スイッチ3に並列に接続された機械式リレー10を有する点で第1実施形態の超電導マグネット1と異なっている。なお、機械式リレー10の代わりに半導体スイッチを有していてもよい。
【0072】
機械式リレー10は、コイル10aにより開閉される。機械式リレー10が閉じられると、励磁電源105の出力の両端が短絡される。また、永久電流スイッチ3が開かれ、機械式リレー10が閉じられると、電流循環ループAを循環していた循環電流ILは、電流循環ループA’を循環するようになる。機械式リレー10はA接点で構成されてもよいし、B接点で構成されてもよい。機械式リレー10をA接点で構成した場合、コイル10aに通電すると機械式リレー10が閉じ、コイル10aに通電しないと機械式リレー10が開く。機械式リレー10をB接点で構成した場合、コイル10aに通電しないと機械式リレー10が閉じ、コイル10aに通電すると機械式リレー10が開く。停電時を考慮すると、機械式リレー10はB接点で構成されることが好ましい。
【0073】
(励磁電源の構成)
励磁電源105は、励磁回路11を有する点で第1実施形態の励磁電源5と異なっている。
【0074】
励磁回路11は、導線12によりコイル10aに接続されており、コイル10aに通電することでコイル10aを励磁する。コイル10aが励磁/消磁されることで、機械式リレー10が開閉される。
【0075】
また、励磁電源105は、バイポーラ電源である点で、ユニポーラ電源である第1実施形態の励磁電源5と異なっている。励磁電源105は、図6に示すように、スイッチングレギュレータ(電源)41と、第1フルブリッジ回路42と、第2フルブリッジ回路43と、スイッチング制御手段44と、第1ドライバ部45と、第2ドライバ部46と、第1リアクトル51と、第2リアクトル52と、平滑コンデンサ55と、第1リアクトル53と、第2リアクトル54と、平滑コンデンサ56と、回生回路48とを有している。
【0076】
スイッチングレギュレータ41は、交流電源31に接続されており、交流電源31から出力された交流電力を所定の直流電力に変換する。なお、以後の説明では、永久電流スイッチ3と超電導コイル2とのジョイント部分2aからジョイント部分2bに電流が流れる方向を正方向とし、ジョイント部分2bからジョイント部分2aに電流が流れる方向を逆方向とする。
【0077】
第1フルブリッジ回路42および第2フルブリッジ回路43は、スイッチングレギュレータ41に接続された4つのスイッチング素子をそれぞれ備えている。
【0078】
第1リアクトル51は、第1フルブリッジ回路42とジョイント部分2aとの間に接続されている。第2リアクトル52は、第1フルブリッジ回路42とジョイント部分2bとの間に接続されている。第1リアクトル53は、第2フルブリッジ回路43とジョイント部分2aとの間に接続されている。第2リアクトル54は、第2フルブリッジ回路43とジョイント部分2bとの間に接続されている。
【0079】
平滑コンデンサ55は、第1リアクトル51とジョイント部分2aとの間を一端とし、第2リアクトル52とジョイント部分2bとの間を他端として接続されている。同様に、平滑コンデンサ56は、第1リアクトル53とジョイント部分2aとの間を一端とし、第2リアクトル54とジョイント部分2bとの間を他端として接続されている。
【0080】
スイッチング制御手段44は、第1フルブリッジ回路42および第2フルブリッジ回路43に対してスイッチング素子をオン・オフするPWM信号を出力する。具体的には、スイッチング制御手段44は、電流検出器61と、目標電流値設定器62と、電流電圧制御回路63と、基本パルス生成器64と、第1PWM信号変換器65と、第2PWM信号変換器66とを有している。
【0081】
電流検出器61は、超電導コイル2のジョイント部分2b側に接続して超電導コイル2を流れる電流値を検出し、検出した電流値をライン116により電流電圧制御回路63に出力する。また、目標電流値設定器62は、目標とする電流値(設定値)を予め設定して、設定した電流値に移行するように指令する電流指令値を電流電圧制御回路63の入力端子111a,111bに出力する。本実施形態において、設定値は+100Aまたは−100Aである。
【0082】
また、電流電圧制御回路63は、電流検出器61が検出した電流値と目標電流値設定器62が出力した電流指令値との差分の値を電流誤差信号として第1PWM信号変換器65および第2PWM信号変換器66に出力する。電流電圧制御回路63の詳細については後述する。
【0083】
基本パルス生成器64は、第1PWM信号変換器65および第2PWM信号変換器66に対して、所定の周波数で位相差を持ったパルス信号を出力する。具体的には、第1PWM信号変換器65に出力するパルス信号に対して、第2PWM信号変換器66に出力するパルス信号は180°の位相差を持っている。
【0084】
第1PWM信号変換器65は、電流電圧制御回路63が出力した電流誤差信号を正方向信号(プラス側)と逆方向信号(マイナス側)とに分離する。そして、第1PWM信号変換器65は、分離した正方向信号と基本パルス生成器64から出力されたパルス信号とから正方向のPWM信号(スイッチング信号)を生成するとともに、分離した逆方向信号と基本パルス生成器64から出力されたパルス信号とから逆方向のPWM信号(スイッチング信号)を生成する。第2PWM信号変換器66も同様にして正方向のPWM信号(スイッチング信号)と逆方向のPWM信号(スイッチング信号)とを生成する。
【0085】
第1ドライバ部45は、スイッチング制御手段44と第1フルブリッジ回路42との間に接続されている。第2ドライバ部46は、スイッチング制御手段44と第2フルブリッジ回路43との間に接続されている。
【0086】
第1PWM信号変換器65から出力された正方向のPWM信号は、第1ドライバ部45を経て第1フルブリッジ回路42の2つのスイッチング素子のON・OFFを制御する。この系統がONであるときは超電導コイル2のジョイント部分2aからジョイント部分2bに電流が流れる。また、第1PWM信号変換器65から出力された逆方向のPWM信号は、第1ドライバ部45を経て第1フルブリッジ回路42の他の2つのスイッチング素子のON・OFFを制御する。この系統がONであるときは超電導コイル2のジョイント部分2bからジョイント部分2aに電流が流れる。第2PWM信号変換器66についても同様である。
【0087】
回生回路48は、スイッチングレギュレータ41のプラス側とマイナス側との間に接続されている。回生回路48は、超電導コイル2の消磁時に、スイッチングレギュレータ41の電圧上昇を抑制するものである。
【0088】
(電流制御回路)
次に、電流電圧制御回路63の構成について説明する。電流電圧制御回路63は、図7に示すように、電流制御回路131と、電圧制限回路132と、トランジスタ127と、アナログスイッチ128とを有している。
【0089】
電流制御回路131は、4つのオペアンプ111〜114と、シャント抵抗115とを有している。シャント抵抗115は、ライン116に接続されており、電流検出器61が検出した超電導コイル2を流れる電流値(正確には、励磁電源105の出力電流値)を電圧値に変換する。オペアンプ114は、この電圧を反転増幅する。
【0090】
加算器であるオペアンプ111の入力端子111a,111bには、目標電流値設定器62からの電流指令値が入力される。オペアンプ111は、電流指令値にオペアンプ114で増幅された電圧を加算する(実際には減算)。オペアンプ111は、電流指令値とオペアンプ114で増幅された電圧との差を電流誤差信号として出力する。
【0091】
オペアンプ112は増幅器として機能する。オペアンプ113はバッファーとして機能する。オペアンプ113から出力される電流誤差信号は、第1PWM信号変換器65及び第2PWM信号変換器66(図6参照)に入力される。これにより、電流制御回路131は、励磁電源105の出力電流値が設定値(+100Aまたは−100A)になるように第1フルブリッジ回路42および第2フルブリッジ回路43(図6参照)を制御することとなる。つまり、電流制御回路131は、励磁電源105から超電導コイル2への出力電流値が設定値(+100Aまたは−100A)になるように制御している。
【0092】
電圧制限回路132は、4つのオペアンプ121〜124と、2つのダイオード125,126とを有している。電圧制限回路132は、アナログスイッチ128を介して、電流制御回路131におけるオペアンプ112とオペアンプ113との間のD点に接続されている。
【0093】
オペアンプ121の入力端子121a,121bには、ライン129(図6参照)を通じて、超電導コイル2の両端に発生した電圧(正確には、超電導コイル2の両端に発生した電圧にパワーケーブル4a,4bで発生した電圧を加えた電圧)が印加電圧として入力される。この印加電圧は、パワーケーブル4a,4b間に生じる電圧に相当する(図5参照)。
【0094】
オペアンプ122の入力端子122a,122bには、図示しない制限電圧値設定器から制限電圧が入力される。本実施形態において、制限電圧の値は+3Vであるが、これに限定されない。オペアンプ122では、制限電圧のプラスとマイナスとを反転している。
【0095】
オペアンプ123には、オペアンプ121の出力と制限電圧とが入力される。オペアンプ123は、オペアンプ121の出力(印加電圧)と制限電圧とを比較する。印加電圧が制限電圧の値である+3V(第1の閾値)よりも大きい場合、オペアンプ123の出力は負になる。オペアンプ123の出力が負であれば、ダイオード125を電流が流れる。一方、オペアンプ123の出力が正であれば、ダイオード125を電流が流れない。
【0096】
オペアンプ124には、オペアンプ121の出力とオペアンプ122の出力とが入力される。オペアンプ124は、オペアンプ121の出力(印加電圧)とオペアンプ122の出力(制限電圧)とを比較する。なお、オペアンプ124では、制限電圧と印加電圧とが反転されている。印加電圧が−3V(第2の閾値)よりも小さい場合、オペアンプ124の出力が正になる。オペアンプ124の出力が正であれば、ダイオード126を電流が流れる。一方、オペアンプ124の出力が負であれば、ダイオード126を電流が流れない。
【0097】
以上の構成において、印加電圧が制限電圧の値である+3V(第1の閾値)よりも大きい場合、ダイオード125を電流が流れる。ダイオード125を電流が流れると、オペアンプ113が加算器として機能し、D点における電流誤差信号が引き下げられる。これにより、励磁電源105の出力電流値が設定値(+100Aまたは−100A)よりも小さくなり、その結果、励磁電源105の出力電圧値が+3Vまで降下される。よって、励磁電源105の出力電流値が設定値(+100Aまたは−100A)よりも小さいときに、励磁電源105の出力電圧値は+3Vで一定になる。このように、電圧制限回路132は、超電導コイル2の両端に発生した電圧値が第1の閾値(+3V)よりも大きい場合に、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値を第1の閾値(+3V)にクランプすることで、励磁電源105の出力電圧値が第1の閾値(+3V)よりも大きくならないように制限している。
【0098】
一方、印加電圧が−3V(第2の閾値)よりも小さい場合、ダイオード126を電流が流れる。ダイオード126を電流が流れると、オペアンプ113が加算器として機能し、D点における電流誤差信号が引き上げられる。これにより、励磁電源105の出力電流値が設定値(+100Aまたは−100A)よりも大きくなり、その結果、励磁電源105の出力電圧値が−3Vまで上昇される。よって、励磁電源105の出力電流値が設定値(+100Aまたは−100A)よりも大きいときに、励磁電源105の出力電圧値は−3Vで一定になる。このように、電圧制限回路132は、超電導コイル2の両端に発生した電圧値が第2の閾値(−3V)よりも小さい場合に、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値を第2の閾値(−3V)にクランプすることで、励磁電源105の出力電圧値が第2の閾値(−3V)よりも小さくならないように制限している。
【0099】
また、印加電圧が−3V以上+3V以下の範囲内の値の場合、ダイオード125およびダイオード126を電流が流れない。これにより、D点における電流誤差信号が変化しないので、電流制御回路131によって、励磁電源105の出力電流値が設定値(+100Aまたは−100A)になるように制御される。その結果、励磁電源105の出力電流値が設定値(+100Aまたは−100A)になる。このとき、励磁電源105の出力電圧値は、ダイオード125およびダイオード126を電流が流れないような値をとる。即ち、励磁電源105の出力電圧値は、+3Vよりも大きくならず、且つ、−3Vよりも小さくならない。よって、励磁電源105の出力電流値が設定値(+100Aまたは−100A)のときに、励磁電源5の出力電圧値は、第1の閾値(+3V)を上限値とし第2の閾値(−3V)を下限値とする−3V以上+3V以下の範囲内の値になる。このように、電圧制限回路132は、印加電圧が−3V以上+3V以下の範囲内の値の場合に、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値をクランプしないことで、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値を、第1の閾値(+3V)を上限値とし第2の閾値(−3V)を下限値とする−3V以上+3V以下の範囲内の値に制限している。
【0100】
ここで、クランプとは、ある電圧値が所定の電圧値を超えた場合に、その電圧値のうち所定の電圧値を超えた部分をカットすることで、ある電圧値が所定の電圧値を超えないようにすることを意味する。別な言い方をすれば、クランプとは、ある電圧値が所定の電圧値を超えた場合に、その電圧値を所定の電圧値まで押し下げる(または押し上げる)ことで、ある電圧値が所定の電圧値を超えないようにすることを意味する。
【0101】
トランジスタ127は、入力端子127a,127bに電圧制限有効信号が入力されるとONになり、入力端子127a,127bに電圧制限有効信号が入力されないとOFFになる。ここで、トランジスタ127は、電流循環ループA’(図5参照)を開く前後の一定期間においてONにされる。例えば、トランジスタ127は、機械式リレー10を開く2秒前にONにされ、機械式リレー10を開いてから1分後にOFFにされる。しかし、トランジスタ127は、超電導コイル2の両端に発生した電圧が一定値以下になってからOFFにされたり、オペレータの判断によりOFFにされる構成であってもよい。
【0102】
アナログスイッチ128は、オペアンプ112とオペアンプ113との間のD点と、2つのダイオード125,126との間に設けられている。アナログスイッチ128は、トランジスタ127がONとなって制御端子128cに通電されると、端子128aと端子128bとを導通させる一方、トランジスタ127がOFFとなって制御端子128cに通電されないと、端子128aと端子128bとを遮断するように構成されている。
【0103】
これにより、アナログスイッチ128の端子128aと端子128bとが導通している間(電圧制限有効信号がトランジスタ127に入力されている間)は、電圧制限回路132の機能が有効になり、アナログスイッチ128の端子128aと端子128bとが導通していない間(電圧制限有効信号がトランジスタ127に入力されていない間)は、電圧制限回路132の機能が無効になる。このように、トランジスタ127およびアナログスイッチ128は、電流循環ループA’を開く前後の一定期間において電圧制限回路132による制限を有効にし、一定期間以外のときに電圧制限回路132による制限を無効にしている。
【0104】
以上の構成により、電圧制限回路132の機能が有効になっているときの励磁電源105の出力特性は、図3または図8に示すようになる。本実施形態の励磁電源105はバイポーラ電源であるので、設定電流値がプラスの場合とマイナスの場合とがある。設定電流値がプラスのときの励磁電源105の出力特性は、図3に示すように、第1実施形態の励磁電源5と同じである。
【0105】
一方、設定電流値がマイナスのときの励磁電源105の出力特性を図8に示す。励磁電源105の出力電流値が−100Aよりも小さいときに、励磁電源105の出力電圧値は+3Vで一定となり、励磁電源105の出力電流値が−100Aよりも大きいときに、励磁電源105の出力電圧値は−3Vで一定となる。このように、励磁電源105は定電圧特性を有している。また、励磁電源105の出力電圧値が−3V以上+3V以下の範囲内の値のときに、励磁電源105の出力電流値は−100Aで一定となる。このように、励磁電源105は定電流特性を有している。つまり、励磁電源105は定電圧定電流電源である。
【0106】
なお、制限電圧の値は、通常、超電導マグネット101の定格励磁速度で超電導コイル2の両端に発生する電圧にパワーケーブル4a,4bで発生する電圧を加えた電圧値以下に設定するのが望ましい。また、オペレータが制限電圧の値を直接設定する構成であってもよい。
【0107】
(励磁電源の動作)
次に、励磁電源105の動作について説明する。設定電流値がプラスのときの励磁電源105の動作は、第1実施形態の励磁電源5の動作と基本的に同じであるので、その説明を省略する。一方、設定電流値がマイナスのときの励磁電源105の動作として、循環電流ILが−100Aから−90Aに上昇している場合を考える。励磁電源105における電流の設定値は−100Aである。
【0108】
超電導マグネット101においては、図5に示すように、永久電流スイッチ3が閉じられることで、超電導コイル2と永久電流スイッチ3とを含む電流循環ループAを循環電流ILが循環している。このように、電流循環ループAにおいて循環電流ILを循環させる際には、永久電流スイッチ3で電流循環ループAを閉じることで、電流はほとんどロスを生じることなくほぼ永久に流れ続ける。
【0109】
一方、励磁電源105から超電導コイル2に電流を供給する際には、初めに、永久電流スイッチ3を開いて機械式リレー10を閉じる。これにより、超電導コイル2と機械式リレー10とを含む電流循環ループA’を循環電流ILが循環するようになる。このように、励磁電源105から超電導コイル2に電流を供給する際には、永久電流スイッチ3を開いて機械式リレー10で電流循環ループA’を開閉するようにする。
【0110】
なお、永久電流スイッチ3、および、機械式リレー10がそれぞれ閉じられていると、励磁電源105および超電導マグネット101のうちのいずれかで異常が生じた場合に、異常時の初期段階において、超電導状態で抵抗がゼロの永久電流スイッチ3をほとんどの電流が流れる。しかし、超電導コイル2がクエンチした場合には、少し遅れて永久電流スイッチ3もクエンチする場合が多く、その場合には機械式リレー10を電流が流れる。また、永久電流スイッチ3、および、機械式リレー10がそれぞれ閉じられているときに、永久電流スイッチ3に異常が生じて電圧が発生した場合にも、機械式リレー10を電流が流れる。
【0111】
次に、パワーケーブル4a,4bで励磁電源105を機械式リレー10の両端に接続して、−100Aの電流を励磁電源105から超電導コイル2に供給する。励磁電源105から供給された電流は、励磁電源105、パワーケーブル4a、機械式リレー10、および、パワーケーブル4bを含むループBをこの順番で流れる。
【0112】
その後、励磁回路11でコイル10aを励磁して、機械式リレー10を開くことで電流循環ループA’を開く。すると、励磁電源105から供給された電流は、励磁電源105、パワーケーブル4a、超電導コイル2、および、パワーケーブル4bを含むループCをこの順番で流れる。
【0113】
ここで、図7に示すように、電流循環ループA’を開く前後の一定期間において、電圧制限有効信号がトランジスタ127に入力される。これにより、電圧制限回路132の機能が有効になっている。そのため、励磁電源105の定電圧特性によって、超電導コイル2の両端に過渡的に発生する電圧値、および、励磁電源105の出力電圧値はそれぞれ−3Vになる。また、超電導コイル2の定電流特性によって、超電導コイル2を流れる電流値、および、励磁電源105の出力電流値はそれぞれ−90Aになる。これにより、図8に示すように、励磁電源105の出力は、電圧値が−3Vで電流値が−90Aのa’’点でバランスする。
【0114】
その後、超電導コイル2のインダクタンスをL、電流をI、時間をtとしたときに、超電導コイル2の電圧が−3Vであるので、dI/dt=−3/Lの関係から、この傾きで超電導コイル2を流れる電流値が減少していき、−100Aに達する。図8においては、その変化を矢印c’’で示している。
【0115】
その後、超電導コイル2の両端の電圧が増加していき、最終的に0Vに落ち着く。これに合わせて、励磁電源105の定電流特性によって、励磁電源105の出力電流値が設定値(−100A)で一定のまま、励磁電源105の出力電圧値が上昇していく。図8においては、その変化を矢印d’’で示している。ここで、パワーケーブル4a,4bの抵抗値を考慮に入れると、超電導コイル2の抵抗値は0Ωであり、パワーケーブル4a,4bの抵抗値は0.01Ω程度なので、励磁電源105の出力は、最終的に、電圧値が−1V程度で電流値が−100Aのb’点でバランスする。
【0116】
なお、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値を−3V以上+3V以下の範囲内の値に制限している間は、超電導コイル2に生じたクエンチによる電圧の発生を検出することができない。そこで、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値を制限する期間を、電流循環ループA’を開く前後の一定期間に限定している。これにより、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値を制限していない間は、超電導コイル2のクエンチを検出することができる。
【0117】
また、励磁電源105から超電導コイル2に電流を供給している最中に、励磁電源105自体のトラブルにより電流が急激に変化したり、超電導コイル2がクエンチしたりするなど、励磁電源105および超電導マグネット101のうちのいずれかで異常が生じた場合には、機械式リレー10を閉じることで、励磁電源105の出力両端を短絡させる。これにより、機械式リレー10を電流が流れ、励磁電源105と超電導コイル2とが実質的に切り離されるので、励磁電源105や超電導マグネット101の破損を防止することができる。ここで、機械式リレー10をB接点にして、停電時に機械式リレー10が自動的に閉じるようにすれば、励磁電源105や超電導マグネット101の破損をより確実に防止することができる。なお、励磁電源105内に停電を検出する停電検出回路を設けて、機械式リレー10を制御するようにしてもよい。
【0118】
以上のようにして、超電導コイル2を流れる電流値が設定値に落ち着く。その後、図5に示すように、永久電流スイッチ3を導通させることで、電流循環ループAを閉じる。そして、超電導コイル2を流れる電流がすべて永久電流スイッチ3を経由して電流循環ループAを循環するようになった時点で励磁電源105を超電導マグネット101から切り離して作業を完了する。
【0119】
このように、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値が−3V以上+3V以下の範囲内の値に制限されている。そのため、励磁電源105から超電導コイル2に電流を供給しながら電流循環ループA’を開いたときに、超電導コイル2の両端に発生する電圧値は−3V以上+3V以下の範囲内の値になる。そして、−3V以上+3V以下の範囲内の値が超電導状態に影響を及ぼさないレベルの値であれば、超電導コイル2の両端に電圧が発生したとしても、オペレータはあわてて電流循環ループA’を閉じる必要がない。これにより、電流循環ループA’を開く際に超電導コイル2を流れる電流値と励磁電源105の出力電流値とを一致させる作業に伴う負担を軽減させることができる。よって、超電導コイル2を流れる電流値を所望の電流値に調整する作業を容易にすることがことができる。
【0120】
また、励磁電源105から超電導コイル2への出力電流値が設定値(+100Aまたは−100A)になるように制御されている。そのため、電流循環ループA’を開けば、超電導コイル2を流れる電流値は、最終的に設定値に落ち着く。これにより、設定値を所望の電流値に設定しておけば、電流循環ループA’を開いた後に超電導コイル2を流れる電流値を所望の電流値に調整しなくても、超電導コイル2を流れる電流値は所望の電流値になる。よって、超電導コイル2を流れる電流値を所望の電流値に調整する作業をさらに容易にすることがことができる。
【0121】
また、超電導コイル2の両端に発生した電圧値が正の値である第1の閾値(+3V)よりも大きい場合に、超電導コイル2への出力電圧値が第1の閾値(+3V)にクランプされる。また、超電導コイル2の両端に発生した電圧値が負の値である第2の閾値(−3V)よりも小さい場合に、超電導コイル2への出力電圧値が第2の閾値(−3V)にクランプされる。これにより、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値が、第1の閾値(+3V)を上限値とし第2の閾値(−3V)を下限値とする−3V以上+3V以下の範囲内の値に制限されている。よって、第1の閾値および第2の閾値の少なくとも一方の値を変化させることにより、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値が制限される範囲を容易に変更することができる。
【0122】
(超電導マグネットの変形例)
なお、超電導マグネット101は、以下のように構成されていてもよい。即ち、図9に示すように、超電導マグネット101は、永久電流スイッチ3を備えておらず、機械式リレー10で電流循環ループA’を開閉するように構成されている。なお、機械式リレー10の代わりに半導体スイッチを用いてもよい。
【0123】
そして、励磁電源105から超電導コイル2に電流を供給している最中に、励磁電源105自体のトラブルにより電流が急激に変化したり、超電導コイル2がクエンチしたりするなど、励磁電源105および超電導マグネット101のうちのいずれかで異常が生じた場合には、機械式リレー10を閉じることで、励磁電源105の出力両端を短絡させる。これにより、機械式リレー10を電流が流れ、励磁電源105と超電導コイル2とが実質的に切り離されるので、励磁電源105や超電導マグネット101の破損を防止することができる。
【0124】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態に係る超電導マグネット用の励磁電源105によると、超電導コイル2の両端に発生した電圧値が正の値である第1の閾値(+3V)よりも大きい場合に、超電導コイル2への出力電圧値が第1の閾値(+3V)にクランプされる。また、超電導コイル2の両端に発生した電圧値が負の値である第2の閾値(−3V)よりも小さい場合に、超電導コイル2への出力電圧値が第2の閾値(−3V)にクランプされる。これにより、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値が、第1の閾値(+3V)を上限値とし第2の閾値(−3V)を下限値とする−3V以上+3V以下の範囲内の値に制限されている。よって、第1の閾値および第2の閾値の少なくとも一方の値を変化させることにより、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値が制限される範囲を容易に変更することができる。
【0125】
また、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値を−3V以上+3V以下の範囲内の値に制限している間は、超電導コイル2に生じたクエンチによる電圧の発生を検出することができない。そこで、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値を制限する期間を、電流循環ループA’を開く前後の一定期間に限定する。これにより、励磁電源105から超電導コイル2への出力電圧値を制限していない間は、超電導コイル2のクエンチを検出することができる。
【0126】
また、電流循環ループAにおいて電流を循環させる際には、永久電流スイッチ3で電流循環ループAを閉じることで、電流はほとんどロスを生じることなくほぼ永久に流れ続ける。一方、励磁電源105から超電導コイル2に電流を供給する際には、永久電流スイッチ3を開いて機械式リレー10で電流循環ループA’を開閉するようにする。そして、励磁電源105から超電導コイル2に電流を供給している最中に、励磁電源105および超電導マグネット101のうちのいずれかで異常が生じた場合には、機械式リレー10を閉じることで、励磁電源105の出力両端を短絡させる。これにより、機械式リレー10を電流が流れ、励磁電源105と超電導コイル2とが実質的に切り離されるので、励磁電源105や超電導マグネット101の破損を防止することができる。
【0127】
(本実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0128】
例えば、第1実施形態の励磁電源5(図2,4参照)を第2実施形態の超電導マグネット101(図5,9参照)に接続する構成であってもよい。また、第2実施形態の励磁電源105(図6参照)を第1実施形態の超電導マグネット1(図1参照)に接続する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0129】
1,101 超電導マグネット
2 超電導コイル
3 永久電流スイッチ
3a 超電導線
3b ヒータ
5,105 励磁電源
10 機械式リレー
21 電源
22,23,29 トランジスタ
24 ダイオード列
25,30 電圧制御回路
26 電流制御回路
27 シャント抵抗
28 基準電圧値設定器
31 交流電源
41 スイッチングレギュレータ
42 第1フルブリッジ回路
43 第2フルブリッジ回路
44 スイッチング制御手段
45 第1ドライバ部
46 第2ドライバ部
51,53 第1リアクトル
52,54 第2リアクトル
55,56 平滑コンデンサ
61 電流検出器
62 目標電流値設定器
63 電流電圧制御回路
64 基本パルス生成器
65 第1PWM信号変換器
66 第2PWM信号変換器
111〜114 オペアンプ
115 シャント抵抗
121〜124 オペアンプ
125,126 ダイオード
127 トランジスタ
128 アナログスイッチ
131 電流制御回路
132 電圧制限回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導マグネットを構成する超電導コイルの電流循環ループの一部に設けられたスイッチ手段の両端に接続して当該超電導コイルへ外部から電流を供給するための励磁電源であって、
前記超電導コイルへの出力電圧値を所定範囲内の値に制限する電圧制限手段を有していることを特徴とする超電導マグネット用の励磁電源。
【請求項2】
前記超電導コイルへの出力電流値が設定値になるように制御する電流制御手段を更に有していることを特徴とする請求項1に記載の超電導マグネット用の励磁電源。
【請求項3】
前記電圧制限手段は、前記超電導コイルの両端に発生した電圧値が正の値である第1の閾値よりも大きい場合に、前記超電導コイルへの出力電圧値を前記第1の閾値にクランプするとともに、前記超電導コイルの両端に発生した電圧値が負の値である第2の閾値よりも小さい場合に、前記超電導コイルへの出力電圧値を前記第2の閾値にクランプすることで、前記超電導コイルへの出力電圧値を、前記第1の閾値を上限値とし前記第2の閾値を下限値とする前記所定範囲内の値に制限していることを特徴とする請求項1又は2に記載の超電導マグネット用の励磁電源。
【請求項4】
前記電流循環ループを開く前後の一定期間において前記電圧制限手段による制限を有効にし、前記一定期間以外のときに前記電圧制限手段による制限を無効にする電圧制限限定手段を更に有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超電導マグネット用の励磁電源。
【請求項5】
前記スイッチ手段が、前記超電導マグネットの内部に設けられて超電導材料を含む永久電流スイッチであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超電導マグネット用の励磁電源。
【請求項6】
前記スイッチ手段が、前記超電導マグネットの外部に設けられた機械式リレーまたは半導体スイッチであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超電導マグネット用の励磁電源。
【請求項7】
前記スイッチ手段は、
前記超電導マグネットの内部に設けられて超電導材料を含む永久電流スイッチと、
前記超電導マグネットの外部に設けられて前記永久電流スイッチに並列に接続された機械式リレーまたは半導体スイッチと、
を有し、
前記電流循環ループにおいて電流を循環させる際には、前記永久電流スイッチで前記電流循環ループを閉じる一方、前記励磁電源から前記超電導コイルに電流を供給する際には、前記永久電流スイッチを開いて前記機械式リレーまたは前記半導体スイッチで前記電流循環ループを開閉することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超電導マグネット用の励磁電源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−231086(P2012−231086A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99824(P2011−99824)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(502147465)ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社 (56)