説明

超音波細胞除去方法

本発明により、多層細胞培養容器を含む、細胞培養容器に超音波エネルギー処理を施して細胞培養容器の表面に増殖している細胞を分離する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、ここに引用することにより本明細書に組み込まれたものとする、米国仮出願第61/130,521号(名称、超音波細胞除去方法、2008年5月30日出願)及び米国仮出願第61/116,928号(名称、超音波細胞除去方法、2008年11月21日出願)の優先権を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は細胞培養容器に超音波エネルギー処理を施して表面から細胞を分離することにより、酵素を使用せずに細胞を除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
細胞の対外培養により、薬理学、生理学、及び毒物学の分野における研究に必要な材料が得られる。最近の薬剤スクリーニング技術の進歩により、製薬会社は治療標的に対し抱えている膨大な化合物を迅速に選別することができる。このような大規模スクリーニング技術には体外で増殖、維持されている大量の細胞が必要である。このような大量の細胞を維持するためには、大量の細胞増殖培地及び試薬、並びに大量且つ多種類の実験用細胞培養容器及び実験装置が必要である。また、このような活動は労働集約的でもある。
【0004】
細胞は、ローラーボトル、細胞培養皿及び細胞培養プレート、マルチウェルプレート、マイクロタイタープレート、共通(単層)フラスコと多層細胞培養フラスコ及び多層細胞培養容器を含む、特定の細胞培養容器内で増殖される。培養中の細胞は適切な支持媒体中に浸漬されたフラスコの底面に付着して成長する。
【0005】
細胞ベースの高スループットアプリケーションの出現により、必要なガス交換を確保しつつ細胞増殖のための大表面積を有する細胞培養容器が開発されている。また、このようなシステムは、共通フラスコ、ローラーボトル、細胞培養皿、多層フラスコ及び多層細胞培養皿を含む多層細胞増殖容器、生物反応器、細胞培養バッグ等を含む従来の細胞培養容器も採用しており、これらの容器の中には増殖密度及び分化因子を含む細胞培養パラメータの向上に特化した表面を備えているものもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、細胞ベースの高スループット・アプリケーションは自動化が進んでいる。自動化により、操作者による手動操作と同じように細胞培養容器を操作することができる。更に多層細胞増殖面を有するフラスコは、1つの底面壁において細胞増殖が可能な一般的に知られているフラスコより高い接着細胞収率を上げることができる。このような多層容器により大量の細胞を増殖できる一方、日々の使用において特別な課題を抱えている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の幾つかの実施の形態により、多層細胞培養容器に超音波エネルギー処理を施すことにより多層細胞培養装置の細胞増殖面から接着細胞を分離する方法が提供される。
【0008】
本発明の方法の幾つかの実施の形態により、超音波エネルギー処理を施すことにより多層細胞培養容器から細胞を除去する超音波処理方法が提供される。幾つかの実施の形態において、前記方法は、多層細胞培養容器であってよい、細胞培養容器内で細胞を増殖させる工程と、前記細胞培養容器に超音波エネルギー処理を施す工程と、分離した細胞を前記細胞培養容器から除去する工程とを有して成ることを特徴とするものである。前記処理を施す間、前記多層細胞培養容器は開放していても閉じていてもよく、培地又は緩衝剤である液体を含んでいてもいなくてもよい。必要があれば、前記細胞培養容器を元の位置に戻して処理を繰り返すことができる。
【0009】
また、本発明の幾つかの実施の形態によれば、超音波トランスジューサ、ホーン、多層細胞培養容器、及び基板から成る、多層細胞培養容器に超音波エネルギーを供給する装置であって、前記ホーンを通して、前記超音波トランスジューサにより、前記基板によって前記ホーンに対向支持された前記多層細胞培養容器に超音波エネルギーが供給されることを特徴とする装置が提供される。前記装置は更に音響カプラを備えることにより前記多層細胞培養容器の形状に適合させ装置の音響結合を強化することができる。前記超音波エネルギーは1〜100kHzのエネルギーであって1秒〜300秒間供給される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
添付図面に照らして以下の詳細な説明を読むことにより、本発明をより良く理解できる。
【図1】多層細胞培養容器の実施の形態を示す図。
【図2】本発明の方法の実施の形態を示すフローチャート。
【図3】本発明の超音波エネルギー供給システムの実施の形態を示す図。
【図4】音響結合装置によって音響発生器に結合された多層フラスコの実施の形態を示す図。
【図5】細胞増殖面に細胞が残留付着していることを示す本発明の方法の実施の形態によって処理した後の染色多層フラスコの最初の5つの小フラスコを示す図。
【図6】細胞増殖面に細胞が残留付着していることを示す本発明の方法の実施の形態によって処理した後の染色多層フラスコの2番目の5つの小フラスコを示す図。
【図7】本発明の方法の実施の形態によって処理する前の多層フラスコのガス透過性ポリスチレン膜層から分離したCHOK1細胞の顕微鏡写真。
【図8】本発明の方法の実施の形態によって処理した後の多層フラスコのガス透過性ポリスチレン膜層において増殖したCHOK1細胞の接着単層の顕微鏡写真。
【図9】本発明の実施の形態によって処理された細胞の生存能力を示す、超音波によって多層フラスコから切り離され、標準のT−175フラスコに再播種された細胞の画像。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態は超音波エネルギーを用いて細胞培養面から細胞を分離する方法に関連したものである。本発明の実施の形態において、超音波エネルギーを用いて統合多層細胞装置内に細胞増殖チャンバーの多数の層を有する多層細胞培養容器の細胞培養面から細胞を分離することができる。以下の詳細な説明において、限定を意図したものではなく、説明を目的とし、本発明に対する理解を深めるために、詳細な情報を開示した実施の形態例について説明する。しかし、本発明はここに開示する詳細な情報から外れた別の実施の形態において実施可能であることは当業者にとって明白である。また、本発明の説明が不明瞭になるのを避けるため、周知の装置及び方法については、その詳細な説明は省略してある。
【0012】
細胞培養、特に接着細胞培養においては、例えば、米国出願番号第2007/0026516号明細書に記載されているように、培養器のスペースを小さくし、細胞培養増殖面を大きくした、積層型、省スペース高密度容器の使用が進んでいる。細胞培養容器の効率化が進み内部のスペースが制限されるにつれ、少量の液体を出し入れする必要が生じ実際の使用において複雑度が増している。
【0013】
接着細胞培養における継続的課題は、細胞増殖面から細胞を分離する方法である。当技術分野において、トリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ等の酵素に細胞を晒す方法がある。しかし、このような酵素の使用には限界がある。
【0014】
このような酵素には動物由来のものもある。動物由来の酵素は、例えば、酵素と一緒に動物から分離されたウイルスによる汚染の危険がある。治療薬の製造における動物由来成分の使用に対する法的規制が益々厳しくなっており、動物由来酵素を薬剤開発関連用途に使用することが不適切となってきている。様々な組み換えプロテアーゼが使用可能である。
【0015】
このような酵素により細胞同士及び基板からの細胞の分離が可能であるが、細胞表面の蛋白質を剥ぎ取り細胞を損傷する可能性がある。特に、生細胞が治療薬の場合には、細胞は無傷である必要がある。プロテアーゼに対し非常に敏感であり、酵素処理後急速に生存能力を失う細胞もある。酵素は制御が難しく、細胞を損傷する恐れがあり、培養細胞における細胞株及び幹細胞の不安定化や細胞核型異常につながる恐れがある。
【0016】
更に、複雑な3次元構造を有する細胞培養面の出現により、酵素処理では十分に細胞を除去できなくなっている。従って、酵素又は他の化学処理を必要とせずに細胞培養面から細胞を分離する方法が必要である。
【0017】
非酵素溶液である、エチレンジアミン四酢酸を含む生理リン酸緩衝液(PBS−EDTA)のようなキレート剤溶液も細胞の分離に利用できる。しかし、単層培養においてこれ等の溶液は何れも細胞同士を分離することができない。基板から細胞を切り離すことはできるが、細胞は互いに接着したままであり塊として切り離される。細胞塊に対しては一般に、個々の細胞の集団になるまで、ピペット操作を繰り返すような機械的又は化学的(酵素を含む)操作が更に必要となる。
【0018】
このような化学的及び酵素的方法を使用した場合には、細胞から溶液を洗浄除去する必要があると共に、遠心分離又はろ過のような別の方法によって細胞を収集する必要がある。最終的に、これ等の工程により細胞の化学的分離のための時間と費用が嵩むことになる。
【0019】
細胞スクレーパーによって基板表面から細胞を物理的に掻き落とすことにより除去することもできる。この方法は細胞スクレーパーが届かない細胞培養容器が多いことからあまり使用されていない。細胞スクレーパー操作によって細胞が容易に損傷を受け、損傷した細胞からプロテアーゼが放出されることにより更に損傷する。このような損傷を軽減するために、掻き落し操作において、プロテアーゼ阻害剤を使用することができる。このような試薬は高価である。従って、細胞を掻き落す方法は、細胞培養面から接着細胞を除去するための時間と費用が嵩む多工程の方法である。
【0020】
超音波の振動や摩擦熱とそれに伴う溶融を利用して似たような材料の組立て及び接続が行われている。また、超音波は医療及び生物学的用途にも利用されている。更に、超音波は体外培養細胞の応答分析及び細胞の遠隔操作にも利用されている。超音波の他の生物学的用途には、微小流路における細胞移動制御、全血からのプラズマ分離、ターゲット薬物送達、基板に対する細胞の接着力測定、超音波遺伝子導入、細胞分化促進等がある。
【0021】
超音波水槽におけるキャビテーション気泡の生成より供給物を浄化できる一方、微生物の生産性向上、バクテリア細胞増殖の増加、培養装置からの細胞除去にも利用できる。しかし、キャビテーション気泡の生成は細胞にとって有害であり、一般的には細胞を破壊する方法として利用されている。従って、キャビテーション気泡を利用する場合には、超音波周波数の選定に注意を払い細胞の損傷を最小限に抑える必要がある。
【0022】
超音波水槽に容器を浸漬することにより、細胞培養面から接着細胞を分離することができる。しかし、この方法にも問題がある。例えば、細胞培養容器を水槽に浸漬することにより汚染の危険性が著しく増大する。
【0023】
本発明の実施の形態において、超音波衝撃を受けることにより接着基板内に生じた共鳴波により基板から細胞を分離する方法が提供される。この方法を実施するための装置も提供される。実施の形態の方法を用いることにより、酵素やキレート剤のような成分を培地に追加する必要がない。本発明の実施の形態において、多層細胞培養フラスコであってよい、細胞培養容器内で増殖している細胞から細胞培地が除去される。幾つかの実施の形態において、細胞が接着基板に接着している間に、PBSのような緩衝液によって残留培地成分を細胞から洗浄除去できる。別の実施の形態において、培地又は緩衝剤である液体が存在することができる。幾つかの実施の形態において、多層細胞培養フラスコであってよい、細胞培養容器が固定治具に載置され、そこで短時間超音波周波数に晒される。この超音波周波数に晒された細胞は細胞培養容器の細胞培養層から切り離される。追加の洗浄又は濃縮工程を必要とせずに、容器から注ぐことにより細胞を収集できる。別の実施の形態において、多層細胞培養フラスコであってよい、細胞培養容器を更に洗浄することにより、完全に細胞を除去している。
【0024】
本発明の実施の形態において、多層フラスコが提供される。図1は本発明の多層フラスコ100の実施の形態を示す部分切取り斜視図である。多層フラスコ100は、上部板110で画成される外側容器本体101、底部トレイ(図示せず)、側壁112、及び端壁114を有している。フラスコ100の内部に配置されているのは、個々の細胞増殖チャンバー111であり、図1の切取り部分においてはっきりと見える。細胞増殖チャンバー111の各々は底面113と上面115とによって画成されている。表面113及び115は側壁112及び端壁114に沿ってフラスコ本体101に取り付けられている。各々のチャンバー111の少なくとも1つの底面113が、細胞117の増殖面となり得るガス透過、液体不透過材料から成ることが好ましい。ガス透過、液体不透過材料は細胞を接着する表面、細胞増殖チャンバーの床面、対向面、又は細胞増殖チャンバーの天井となり得る。底面113又は細胞培養面113は可撓性であってよい。上面115は細胞成長チャンバー111を支持する剛性且つ一般的にガス不透過材料から成っていてよい。この多層フラスコの表面は透明、不透明、有色、又は無色であってよい。本発明の実施の形態において、各々の細胞増殖チャンバー111間に気管空間118が設けられている。チャンバー111の対向する上面115によって、細胞増殖チャンバー111の上部壁及び気管チャンバー118の底部が画成される。従って、気管チャンバー118は第1細胞増殖チャンバーのガス透過、液体不透過面113を含むと同時に、第2増殖チャンバー111の対向面115も含んでいる。単一のフラスコ101の内部に増殖チャンバー111と気管空域とを交互に形成する際、表面113及び115を一体的に組み込むための構造的支持をする支持体119を備えることもできる。従って、各々の細胞増殖チャンバー111は、縦方向において、気管チャンバーと交互に配置される。
【0025】
本発明の1つの実施の形態において、多数の細胞増殖チャンバー111が多層フラスコ100の本体101と一体となり、細胞増殖のための培養液で完全に満たされることにより、個々の細胞増殖チャンバー111がガス透過膜113上において細胞を増殖することができる。多層フラスコ100の一連の気管空域118によって、多層フラスコ内部の個々の細胞増殖チャンバー111内の培地127内のガス透過面113上で増殖している細胞117と外部環境との間でガス交換が行われる。気管空間118によって、ガス透過面113を通して、細胞増殖チャンバー111内の培地に酸素を供給することができる。また、気管空間118は任意の空隙又は空域形状を成すことができると共に液体の進入を防止する。その結果、気管空間118と交互に配された多数の増殖チャンバー111を有する剛性細胞培養多層フラスコ100は、大量の細胞117に均等にガスを供給できるよう協調形成されていることになる。
【0026】
接着又は溶剤結合、ヒートシール又は溶接、圧縮、超音波溶接、レーザー溶接、及び/又は部品同士の封止に一般的に使用されるその他の方法を含みこれに限定されない様々な方法によって、ガス透過膜113を支持体119及び側壁112に固定することができる。膜が支持体119の表面と同一平面で重複融合し多層フラスコ内表面の一部を構成するよう膜113の縁部をレーザー溶接により気密封止することが好ましい。ガス透過膜113を側壁及び端壁に取り付けた後、上部板110及び底部トレイ120を取り付けることができる。底部トレイ120及び上部板110は射出成形することができる。様々な大きさ及び形状の支持体119を用いることにより、細胞培養容器100内において細胞117を培養するための膜質層113の位置調整を容易にすることができる。
【0027】
ガス透過、液体不透過膜113(図1)は当技術分野で周知の1つ以上の膜から成っていてよい。膜は、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、エチレン、酢酸ビニル、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又は相溶性フッ素重合、シリコーンゴム又は共重合体、ポリ(スチレン−ブタジエン−スチレン)及びこれらの組み合わせを含む適切な材料から成っている。製造及び細胞増殖に対する親和性の観点から様々な高分子材料が用いられている。ポリスチレンは特性が優れていることが知られており、(様々な厚さのものが細胞増殖に使用可能であるが、厚さ約0.003インチ(0.00762cm)の)膜の材料として好ましい。このように、膜の厚さは任意であるが、約25〜250μmが好ましく、約25〜125μmが理想的である。
【0028】
本発明の実施の形態において、ガス透過、液体不透過膜113は、十分薄く柔軟性に富み多層フラスコに超音波周波数が印加されるとそれに応じて振動する。この振動が多層フラスコの細胞培養面に伝わり、接着細胞が細胞培養面から切り離される。
【0029】
本発明の多層フラスコ100は当業者周知の任意の方法によって作製できる。製造方法の1つの実施の形態において、多層フラスコ100が個別に射出成形された部品から組み立てられる。成形に適し一般に実験器具の製造に使用される任意のポリマー(例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル)を使用できるが、ポリスチレンが好ましい。必須ではないが、光学的透明性を確保するため、厚さは2mm未満であることが好ましい。個別の部品は、接着又は溶剤結合、ヒートシール又は溶接、圧縮、超音波溶接、レーザー溶接、及び/又は多層フラスコの内表面の一部を構成するよう部品同士の封止に一般的に使用されるその他の方法を含みこれに限定されない様々な方法によって組み立てることができる。上部板110及び底部トレイの位置を合わせて、例えば、レーザー溶接によって接続することができる。
【0030】
1つの実施の形態において、個々の部品が一緒に保持され、継ぎ目に沿った接着結合、超音波溶接、レーザー溶接、熱盤による結合、又は他の任意の方法により結合される。部分又は完全自動化された組立システムにおいて、レーザー溶接装置を用いることが好ましい。接続部の外縁部に沿ってレーザー溶接する間に前記上部板とトレイとが適切に位置合せされる。
【0031】
膜層を含む多層フラスコ100の内表面に細胞増殖を可能とする処理を施すことにより、細胞の接着及び増殖を促進することが好ましい。この処理は、コーティング、プラズマ放電、コロナ放電、ガスプラズマ放電、イオン衝撃、イオン化放射、高強度UV光を含む、当技術分野で周知の様々な方法によって施すことができる。
【0032】
別の実施の形態において、液体を通さないよう側壁112に取り付けられたガス透過膜110の層に個々の細胞増殖チャンバーの一方の側を固定し、他方の側を硬質層である上部面に固定することにより、個々の細胞増殖チャンバー111及び多層フラスコ全体に剛性要素を加えることができる。例えば、上部側が硬質層115によって固定され、端部が側壁によって固定され、底部側がガス透過膜によって固定された個々の細胞増殖チャンバー111が可能である。このような細胞増殖チャンバー111を積層することにより、1つの個別細胞増殖チャンバー111の硬質層115の上面によって、隣接する個別細胞増殖チャンバーのガス透過膜113の下部に気管空間を画成する支持構造体が形成される。1つの実施の形態において、個別細胞増殖チャンバーを大型多層細胞培養容器に組み立てることができる。これ等の個別の層はスナップ止め又は当技術分野で周知の任意の方法によって相互接続できる。
【0033】
図1はフラスコ100の内部を構成する交互配置された気管空域118及び個別細胞増殖チャンバー111の層を示している。個別細胞増殖チャンバー111は、液体を通さないよう細胞培養容器の側壁及び端壁に取り付けられた、液体不透過、ガス透過膜113によって画成される。膜113と膜113との間に細胞培地127が含まれ、膜113の液接触面において細胞が増殖する。本実施の形態において、液体を通さないよう側壁112に取り付けられたガス透過膜の2つの層によって個々の細胞増殖チャンバー111を形成することができる。気管空域118がガス透過膜とガス透過膜との間の層を成しエアポケットを形成することにより、ガス透過膜113によって細胞培地127に空気を送ることができる。本実施の形態おいては、気管空域118は個別の細胞増殖チャンバー111を成すガス透過膜113の層を分離支持する支持体119によって支持されている。好ましい実施の形態において、多層フラスコの製造、取り扱い、及び操作において更に耐久性のある膜113を備えている。多層フラスコについて説明したが、本発明の実施の形態は単層細胞培養容器に適用可能であることは勿論である。
【0034】
図2は本発明の方法の実施の形態のフローチャートである。図2の工程1において、細胞培養容器内で細胞を増殖させ、工程2において、細胞培養容器に超音波エネルギー処理を施すことにより、細胞培養容器の増殖面から細胞を切り離し、工程3において、細胞培養容器から細胞を除去する。別の実施の形態において、工程2の前に、細胞培養容器から細胞培地液又は緩衝液を除去することができる。これは細胞培養容器から液体を抜き取ることによって行われる。これにより、容器内に一部の液体が残留するが、結果に悪影響を及ぼすことはない。別の実施の形態において、工程2の処理を施す間、細胞培養容器を培地又は緩衝剤で完全又は部分的に満たすことができる。工程2の処理を施す間、容器に蓋をするか、蓋を取るか、あるいは軽く蓋をすることができる。これ等の実施の形態において、細胞培養容器は単層又は多層細胞培養容器であってよい。
【0035】
図3は本発明の超音波処理装置の実施の形態を示す図である。図3は接続アーム315によって下降して処理予定の細胞培養装置300に結合するホーン320に接続された超音波トランスジューサ310を示す図である。ホーンは多層細胞培養容器に適切に嵌合するよう構成配置することができる。ホーンを多層細胞培養装置に適切に嵌合するよう構成配置することにより、超音波エネルギーを効率良く多層細胞培養装置に加えることができる。図3には多層細胞培養容器が示してあるが、任意の細胞培養容器であってよい。細胞培養容器は、図3に示すように、横臥位又は装置内部の任意方向に配置することができる。
【0036】
多層細胞培養容器は多くの層を有しているため、すべての層が処理されるよう多層細胞培養容器と超音波発生器との接続を考慮する必要がある。たとえば、多層細胞培養容器を図3に示すような横臥位にして処理することが効率的である。横臥位において、超音波発生器は多数の細胞培養層の各層に超音波エネルギーを供給することができる。別の実施の形態において、首及び/又は蓋を含む側及び首及び/又は蓋を含む側に対向する側を含む細胞培養装置の側面に超音波エネルギーを供給できる。例えば、多層細胞培養装置が通常細胞を培養する際の向きにあるとき超音波エネルギーを供給できると共に、多層細胞培養装置の片側又は両側から超音波発生器を近づけることができる。別の実施の形態において、超音波発生器と多層細胞培養装置との結合を強化する音響カプラを採用し、超音波発生器又はトランスジューサと多層細胞培養装置との間において最大の超音波エネルギーが伝達されるようにすることにより、超音波処理の効率を向上させることができる。
【0037】
細胞培養容器は、超音波処理時に有っても無くてもよい蓋335を備えることができる。 また、超音波処理時において、蓋335を堅く又は緩く閉じてもよい。超音波伝達において、細胞培養容器を所定の場所に保持する固定治具340を用意することができる。固定治具340は音響結合装置又は音響カプラを備えることができる。固定治具340はベースプレート350に対して細胞培養容器を保持することができる。コンピュータ370と通信することにより操作者が超音波処理のパラメータをモニターできる測定装置360にベースプレートを固定できる。
【0038】
細胞培養容器を超音波処理する際、ホーン320を処理対象の細胞培養容器300に接触するまで下降させることにより、超音波トランスジューサ310を処理対象の細胞培養容器300に結合する。超音波トランスジューサ310によって細胞培養容器300に一定期間超音波エネルギーが供給され細胞が切り離される。超音波処理終了後、ホーン320を引き上げることにより、細胞培養容器300が装置から除去され更に別の処理が行われる。例えば、細胞培養容器表面から切り離された細胞が細胞培養容器から除去される。切り離された細胞は細胞培養容器内部の培地又は緩衝液内を自由に浮遊している細胞であり、容器の細胞増殖面に固着してはいない。
【0039】
図4は音響結合装置425によって固定治具又はベースプレート450に保持された多層フラスコ400を示す図である。幾つかの実施の形態において、音響結合装置はベースプレートと細胞培養容器との間又はホーンと細胞培養容器(図示ぜず)との間にゴムパッドを有している。この音響結合装置は、超音波発生器と細胞培養容器との間又はベースプレートと細胞培養容器との間の音響結合を向上させるよう構成配置されている。ここではゴムパッドを開示しているが、超音波発生器と細胞培養容器との間、又はベースプレートあるいは他の固定面と細胞培養容器との間の音響結合を向上させるものであればどのような構造体を音響結合装置425としてもよい。
【0040】
図5及び6は、本発明の実施の形態により多層細胞培養容器(組立体)を超音波処理した後に、多層培養容器を分解したときの小フラスコを示す図である。これ等の小フラスコは染色されており、容器から細胞が除去されていることを示している。これ等の小フラスコは1から10の番号の連続した細胞培養チャンバー111であり、10層から成る細胞培養容器組立体の小フラスコを示している。例えば、番号5の小フラスコは多層細胞培養容器の中央に位置し、番号1及び番号10の小フラスコはそれぞれ最上部と最下部に位置している。例えば、個々の細胞増殖チャンバー111は上部側を硬質層115に固定され、下部側をガス透過膜113に固定される。細胞はガス透過膜113において増殖する。個々の増殖チャンバー111のガス透過膜113に残留付着している細胞が標準のクリスタルバイオレット染色法によって染色されているため図5及び6では黒く見える。
【0041】
図5は、超音波処理後において、細胞増殖面に細胞が残留付着している(又は細胞増殖面に細胞が付着していない)最初の5つの小フラスコを示している。図6は染色され細胞増殖面に細胞が残留付着している2番目の5つの小フラスコを示している。図5及び6に示すフラスコは、標準ホーンを用いて、フラスコ接触表面領域及び超音波衝撃波を加える間フラスコを保持する固定治具に適合するように構成された超音波溶接発生器から20kHz、振幅15%又は20%の超音波を30秒間加えたものである。固定治具はホーンの一部であっても超音波発生器をホーン又は多層細胞培養装置に接続する別の装置であってもよい。本発明の幾つかの実施の形態において、1〜40kHz、10〜40kHz、15〜40kHz、あるいは15〜30kHzの超音波エネルギーによって適切な超音波処理が行われる。超音波エネルギーは10〜30秒間加えられ、これを2回以上繰り返すことができる。例えば、処理対象品の一方の側に超音波エネルギーを加え、次に装置内においてその処理対象品を移動、反転、あるいは再調整し、再度処理を行うことができる。別の実施の形態においては、両面から同時に超音波エネルギーを加えることにより、処理対象品を反転又は再調整して再度処理するステップを省略している。幾つかの実施の形態において、適切な振幅範囲は10〜20%である。一部の実施の形態において、ゴムパッド(図4の符号425参照)をホーンに適用することにより、超音波発生器から細胞培養容器へのホーンを介した超音波エネルギー伝達の向上を図っている。このゴムパッドは超音波発生器と多層細胞培養装置との間又はベースプレートと細胞培養容器との間の音響結合を強化するよう構成配置された音響結合装置である。ここではゴムパッドを開示しているが、超音波発生器と細胞培養容器との間、又はベースプレートあるいは他の固定面と細胞培養容器との間の音響結合を向上させるものであればどのような構造体を音響結合装置としてもよい。
【0042】
図5及び6のフラスコは、超音波処理の間、培地を含まず、蓋が固く取り付けられている。ここでは、超音波処理の間、培地を含まず蓋が固く閉じたフラスコを開示しているが、超音波処理の間、培地を含むフラスコに蓋をした場合、蓋をしない場合、あるいはこれらを組み合せた場合について実験したが、何れも結果は良好であった(結果は示さず)。本発明の方法の実施の形態は、培地が存在している場合、培地が存在していない場合、蓋を固く閉じた場合、蓋を緩く閉じた場合、及び蓋がない場合の何れにおいても有効であった。本発明の幾つかの実施の形態において、超音波処理後、フラスコが実験室の作業台に軽く又は強く当てられる。図5及び8のフラスコは、洗浄分解する前に、実験室の作業台に2回軽く当てたものである(2衝撃を加えたものである)。次いで、フラスコから細胞が除去され、生体染色法により細胞生存率が示される。超音波処理によりこのフラスコから除去された細胞の生存率は92.2%であった。図5及び6が示すように、本発明の方法の実施の形態による処理の後、多層細胞培養装置の各小フラスコからほぼ完全に細胞が除去されている。
図7は本発明の方法の実施の形態によって処理する前の多層フラスコのガス透過性ポリスチレン膜において増殖したCHOK1細胞の接着単層の顕微鏡写真である。また、図8は本発明の方法の実施の形態によって処理した後の多層フラスコのガス透過性ポリスチレン膜において増殖したCHOK1細胞の接着単層の顕微鏡写真である。本発明の方法による処理を行う前に細胞増殖面に接着していたほとんどの細胞は、その処理後、もはや細胞増殖面に接着していないことを図7及び8は示している。図8は処理後細胞培養面に残留付着している一部の丸い細胞を示しているが、ほとんどの細胞は培養面から切り離され小フラスコ内の残留液に浮遊している。
【0043】
図9は本発明の実施の形態によって処理された、即ち、多層細胞増殖容器から除去され別の容器において再生された細胞の生存能力を示す、超音波によって多層フラスコから解放され、標準のT−175フラスコに再播種されコンフルエンス(コンフルエンス以上)に増殖した細胞を示す画像であって、処理された細胞の生存能力を立証している。
【実施例】
【0044】
細胞培養
多層フラスコ内の10%のウシ胎仔血清を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM培地)において、37℃にて単層が形成されるまでCHOK1接着細胞を培養した。
【0045】
本発明の実施の形態により多層フラスコから除去した細胞を標準のT−175フラスコに再播種し、10%のウシ胎仔血清を含むDMEM培地において、コンフルエンス(コンフルエンス以上)に増殖させることにより図9の画像を得た。
【0046】
超音波処理
培地を除去しPBSによって洗浄した後、多層フラスコを横臥位にして超音波ホーンの真下の治具上に載置した。超音波周波数を20kHzとし振幅を20%とした。ブランソン200超音波溶接機によって、多層フラスコの一方の側に30秒間パルスを発生させ、その後反転させもう一方の側に30秒間パルスを発生させた。超音波パルスを付与する前後の細胞を光学顕微鏡によって視覚化することにより、接着面から細胞が切り離されたか否かを判定した。容器から細胞を排出し生存率を測定したところ98%であった。
【0047】
フラスコの染色
超音波処理を施した後、多層フラスコを個々の小フラスコ、即ち、個々の細胞培養チャンバーに分解した。切り離された細胞を容器から除去した後、クリスタルバイオレットによって残留接着細胞を染色した。容器にクリスタルバイオレットを加え、容器を揺動することにより細胞培養面にコーティングを施した。所定の場所に染料を5分間放置し、その後容器を水洗いした。容器を乾燥させてから層を引き離して個々の層が見えるようにした。超音波処理によって、多層フラスコの可撓ガス透過膜(細胞培養面)からは細胞が除去された一方、小フラスコの対向する硬質プラスチック側に増殖した細胞は除去できなかった(データ表示せず)。
【0048】
小フラスコの接着基板をクリスタルバイオレットによって染色することにより、基板に残留している細胞を検出した。容器にクリスタルバイオレットを加え、容器を揺動することにより細胞培養面にコーティングを施した。
【0049】
本発明について説明したが、本発明の開示によって恩恵を受ける当業者にとって、説明した内容を様々に変形できることは明白である。かかる変形は本発明の精神及び範囲から逸脱すると見なされるものではく、当業者にとって自明の改良は以下の特許請求の範囲及びその法的な均等物の範囲に含まれると解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0050】
100 多層フラスコ
111 細胞増殖チャンバー
113 底面/ガス透過膜
115 上面
117 細胞
118 気管空域
119 支持体
127 培地
300 細胞培養装置
310 トランスジューサ
315 接続アーム
320 ホーン
335 蓋
340 固定治具
350 ベースプレート
360 測定装置
370 コンピュータ
400 多層フラスコ
425 音響結合装置
450 ベースプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層細胞培養容器から細胞を除去する超音波処理方法であって、該多層細胞培養容器に超音波エネルギー処理を施す工程を有して成ることを特徴とする方法。
【請求項2】
超音波エネルギー処理を施す間、前記多層細胞培養容器が液体を含んでいることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
超音波エネルギー処理を施す前に、前記多層細胞培養容器から液体を除去することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記多層細胞培養容器が閉じた多層細胞培養容器であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記多層細胞培養容器が開放した多層細胞培養容器であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記多層細胞培養容器に超音波エネルギー処理を施す工程が、超音波発生器又は超音波発生器のホーンに対して該多層細胞培養容器を保持するように構成配置された音響カプラを介して、該多層細胞培養容器に超音波エネルギー処理を施す工程であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記音響カプラが前記超音波発生器と前記多層細胞培養容器との間にゴムパッドを有して成ることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記超音波エネルギーが10〜30kHzであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記超音波エネルギーを15%〜30%の振幅にて10秒〜90秒間加えることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
多層細胞培養容器から細胞を除去する超音波処理方法であって、
(a)多層細胞培養容器内で細胞を増殖させる工程と、
(b)前記多層細胞培養容器に超音波エネルギー処理を施す工程と、
(c)分離した細胞を前記多層細胞培養容器から除去する工程と
を有して成ることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−521640(P2011−521640A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511609(P2011−511609)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/003092
【国際公開番号】WO2009/145875
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】